「機動戦士ガンダムSEED」突発SS
「ケバブの正しい食べ方」

 


 

 

 ――プシュウ……
「失礼します」
 入口で一礼し、アスランはレセップスのブリッジを訪れた。
 「砂漠の虎」ことアンドリュー・バルトフェルド――アンディへと昼間の偵察飛行の報告をするためである。
 が――
「あんたもわからん人だな!」
「それはこっちのセリフだ!」
 当の砂漠の虎殿は、ブリッジの真ん中でひとりの少女と言い争っている。
「……カガリ……?」
「アスランか。
 黙っていろ。これは私とアンディの問題だ!」
 思わず声をかけるアスランだったが、少女――カガリは取り付くシマもない。あっさりと彼の干渉をはね退ける。
 尋ねても説明は期待できないと判断し、アスランは視線を横に向けていき――そこにいたニコルに説明を求めた。
「……で、何がどうなってるんだ?」
「実はですね……」
 そう答えると、ニコルはそこで一拍間を置き――
「……ケバブです」
「………………はぁ?」
 ニコルの結論に――アスランは思わず間の抜けた声を上げていた。

「事の発端は、本当に些細なことだったんですよ」
 そう切り出し、ニコルはしきりに「?」マークを浮かべるアスランに説明を始めた。
「実は、今日、カガリさんとアンディさん、偶然同じ時間に昼食を取ったんですけど、その時、二人ともケバブを注文したんです。
 それで――」
「あー、もういい。
 そこから先の展開はリアルすぎるくらいに想像できるから」
 ニコルの説明をさえぎり、アスランは思わず頭を抱えた。
 二人は二人ともケバブが好物。それだけなら、むしろ友好のきっかけになりそうなものだ。だが――その食べ方については致命的に意見が分かれているのだ。
 カガリがチリソース派なのに対してアンディはヨーグルトソース派。しかもそのことに関しては互いに一歩も譲らないからなお始末が悪い。
「あー、何で二人ともこう意見が分かれるんだ……」
「食べ物の恨みは恐ろしいって言いますしね」
「意味、違うと思うが……」
 となりでのんびりと二人の口論を眺めるニコルの言葉にアスランがうめくと、
「何だなんだ? 何の騒ぎだ?」
 そこへ、騒ぎを聞きつけたのかイザークがディアッカを連れてやってきた。
「あ、イザーク。
 実はですね……」
 先ほどアスランにしたのと同じようにニコルはイザークに説明し――次の瞬間、イザークの目の色が変わった。
「アンディ! いくら上官だろうが、やっていいことと悪いことがある!
 ケバブにヨーグルトソースだと!? ケバブにはチリソースが相場に決まってるだろう!」
 そのままアンディとカガリの論争に乱入し、イザークは拳を握りしめて力説し――

「……なぁ、ニコル。
 イザークって確かケバブはヨーグルトソース派だったよな?
 オレ、頼まれてテーブル備え付けのヤツ渡したことあるぞ」
「宗旨替えしたんじゃないですか? カガリさんに釣られて」

 裏でコソコソと話しているのはディアッカとニコル。
 それはともかく、心強い味方を得て勢いづくのはカガリである。
「ほーら、やはりケバブにはチリソースが相場だろうが」
「ぐっ……!
 だ、だが、こちらとて味方はいる!」
 言うなり、アンディはディアッカの襟首をむんずと捕まえ、
「ディアッカ。お前確か、この前ケバブをヨーグルトソースで食べていたな?」
「え? あぁ……」
「イザーク! 貴様裏切るのか!」
「裏切ったのお前だろ、元ヨーグルトソース派……」
 怒りの声を上げるイザークに対し、さすがのディアッカもあきれてうめく。
「くっ、これで二対二か……
 ニコル、お前はどうなんだ!?」
「え? ボクですか?」
 さらに仲間を探すカガリに話を振られ、ニコルは少し考え、
「……ボクはケバブは食べたことないんでどちらとも言えませんね。
 今の時間じゃ食堂は閉まってますから試すこともできませんし、ボクはこの論争にはノーコメントということで」
 実に妥当な答えで中立を宣言する。
 と、いうワケで――
『待て』
 カガリとアンディによって、騒ぎに紛れてブリッジを脱出しようとしていたアスランが捕獲された。
「アスラン、お前はどうなんだ?
 お前もチリソースだよな?」
「アスランくん。当然キミもヨーグルトソース派だよね?」
「え、いや、その……」
「アンディ! 黙っていろ!
 アスランはチリソース派に決まっている!」
「キミこそ黙っていたまえ!
 きっとアスランくんもヨーグルトソース派のはずさ!」
「えーっと……」
「ケバブにチリソースなど邪道中の邪道! ケバブにはヨーグルトソースが正統派なのさ!」
「チリソースが王道に決まっている! ヨーグルトソースこそ邪道だ!」
「だから……」
『ぐぬぬぬぬ……!』
 アスランを巻き込んでおきながら、カガリとアンディは彼を無視してにらみ合い――
「いいかげんにしてください!」
 張り上げられたアスランの声に、二人は思わずビクッと身を震わせて沈黙した。
「黙って聞いていればチリソースだヨーグルトソースだと、あなた達にはそれしかないんですか!
 いいですか、ケバブに限らず、料理というものはまず何も付け加えずに食し、そこから自分の好みに応じて手を加えていく物であって、決して誰かの主張に合わせて好みを変えるものではないんですよ! だいたいカガリ! いつもいつも辛いチリソースばかりで身体にいいワケがないだろう! アンディ! 貴方はいつもいつもコーヒーだのケバブだの食べ物・飲み物のことばかりで――」

 そして――

 すべてが終わった時、そこには言いたいことを言い終えてスッキリしたアスランと――真っ白に燃え尽きたその他一同の姿があったという――

――End

 

 

 

おまけ

「ところでアスラン、あなたはケバブは何派なんですか?」
「バーベキューソース派だ(断言)」
「はぁ……」


あとがき
 ……なんて物書いてるんだオレは(爆)。
 19話を見た直後から(モリビトの地元は1週遅れ)その場の勢いだけで書きました。
 ちなみにモリビトはケバブ食ったことないんでニコル同様ノーコメント。アスランの「バーベキューソース派」はレシピから想像して合いそうだったので台頭させました(更爆)。

(初版:2003/02/16)