小さい頃のあたしは、本当に、弱くて、泣き虫で――
悲しいこととか、辛いことにいつもうずくまって、ただ、泣くことしか出来なくて――
新暦71年4月29日。
ミッドチルダ臨海第8空港――
「く………………っ!」
炎に包まれた空港の中――そこにはひとつでも多くの命を救うため、炎と戦う男達の姿があった。
自身の放水装備で懸命の消火活動を行うが――ダメだ。ますます燃えさかる炎を前に、これ以上前進することができない。
「ダメだダメだ、こっちはダメだ!」
「この先に子供が取り残されてるんだ!
なんとかならないのか!」
しかし、その先には救うべき命がある。自分達のやるべきこと、できることをひとつでもこなそうと彼らは意見を戦わせ――そんな中、別のひとりが彼らに告げた。
「さっき本局の魔導師が突入した!
救助は“彼女”がしてくれる!」
「本局の!?」
炎の中、少女はひとり取り残されていた。
「お父さん……!
お姉ちゃん……!
お兄ちゃん……!」
大切な家族の姿を探し、燃えさかる炎の中を歩き回るが――すでにその場に人の姿はない。
と――すぐそばで置かれていた機材が爆発を起こした。巻き起こった爆風が、小柄な少女をホールの中央まで吹き飛ばす。
「痛いよぉ……熱いよぉ……
こんなの、ヤだよぉ……! 帰りたいよぉ……!」
叩きつけられた衝撃で痛む身体を起こし、少女は涙ながらにつぶやくが――危険は彼女のすぐそばに迫っていた。
「助けて……!
誰か、助けて……!」
つぶやく少女の背後で、モニュメントの女神像の台座に亀裂が走っている。
亀裂はみるみる内に大きくなり――砕けた。足場を失った女神像が、彼女に向けて倒れ込む!
「――――――っ!」
少女が気づいた時には、女神像はすでに目の前まで倒れてきていた。どうすることもできず、少女はただ恐怖で目をつむるしかなくて――女神像が止まった。
見ると、自分の方に倒れ込んできていた女神像は、桃色の光の輪によってからめ取られ、空中でその動きを止めていた。
そして――
「……よかった……間に合った……!
キミ、大丈夫!?」
その上空には、息を切らせて空中に佇む、自分よりも年上の少女の姿があった。
それが……あたしと、“あの人”の出会い。
炎の中から助け出してもらって……連れ出してもらった、広い夜空。
冷たい風が優しくて、抱きしめてくれる腕が、温かくて――
助けてくれたあの人は、強くて、優しくて……かっこよくて――
泣いてばかりで、何もできない自分が、情けなくて――
あたしはあの時、生まれて初めて、心から思ったんだ。
泣いてるだけなのも、何もできないのも、もうイヤだ、って……
“あの人”や、お兄ちゃん――“師匠”みたいに、強くなるんだ、って……
――だけど……あたしはわかっていなかった。
あたしや、“あの人”や――みんなを巻き込んだ運命の渦は――
この時もう――
ううん、違う――
――もっと前から……少しずつ動き始めていたんだってことを……
第1話
夢への道
〜疾走!ウィングロード〜
新暦75年3月。
ミッドチルダ臨海第8空港近隣、廃棄都市街――
「ふんっ! たぁっ!」
“本番”はもうすぐ始まる――スバル・ナカジマは拳を、蹴りを繰り出し、自分の身体のコンディションを確かめながら身体を慣らしていく。
いつもの準備運動だが――今日は特別だ。気合も十分でいつも以上に力が入る。
と――
「スバル」
そんな彼女に、相棒が声をかけてきた。
「あんまり暴れてると、試験中にそのオンボロローラーが逝っちゃうわよ」
「あぅ〜〜、ティア、ヤなこと言わないでよぉ。
ちゃんと油だってさしてきたんだし……」
相棒、ティアナ・ランスターの言葉に、スバルは思わず気弱な声を上げ――不安になったのか、軽くつま先を蹴り、ローラーブーツの状態を確かめる。
実際に組んだのが自分だったから、見た目は粗末だが――
「…………うん、大丈夫♪
組んだのはあたしでも、設計してくれたのも使ってる素材を選んでくれたのも全部“師匠”だもん。壊したら怒られちゃうよ」
「また“師匠”?
あんたはホント、“あの人”と“師匠”の話ばっかりね」
「えへへ〜♪」
自分の言葉に照れるスバルの姿に苦笑し、ティアナは自分のデバイスであるアンカーガンを点検。カートリッジを装填する。
と、その時、演習場全体にサイレンが鳴り響き――
〈おはようございまぁす♪〉
二人の前に通信ウィンドウが展開された。画面の向こうに佇む銀髪の少女が、元気にスバル達にあいさつする。
見ると、その背後にはひとりのトランスフォーマーが控えている。少女と比べると一般的な人類とトランスフォーマー以上のサイズ差があるようだが――体格など人それぞれだと納得しておく。
〈さて、魔導師試験の受験者さん2名、そろってますかー?〉
『はい!』
スバル達が元気にうなずくと、少女は手元の書類に視線を落とし、
〈確認しますね。
時空管理局、陸士386部隊に所属の、スバル・ナカジマ二等陸士と――〉
「はい!」
〈ティアナ・ランスター二等陸士〉
「はい!」
〈所有している魔導師ランクは陸戦Cランク。
本日受験するのは、陸戦魔導師Bランクへの昇格試験で、間違いないですね?〉
「はい!」
「間違いありません!」
尋ねる少女に、スバルとティアナはそれぞれハキハキと答えていく。
〈はい。じゃあ、確認完了です。
本日試験官を務めますは、私、リインフォースU空曹長と――〉
〈シグナルランサー陸曹だ。
よろしく頼む〉
『よろしくお願いします!』
リインフォースU――リインとシグナルランサーの言葉にスバル達が敬礼して答えるのを、上空から彼女達はヘリに乗って見下ろしていた。
「お、さっそく始まってるなー。
リインもちゃんと試験官してる♪」
側面のドアを全開にして眼下の地上を見下ろす――時空管理局・二等陸佐、八神はやて。
「はやて、ドア全開だと危ないよ。
モニタでも見られるんだから」
そんな彼女に対し、シートに座りながらたしなめる――時空管理局・本局所属嘱託魔導師、フェイト・T・高町。
「はーい♪」
フェイトの言葉に答え、はやてはドアから離れ、
「スプラング」
「あぁ。閉めさせていただきますよ、と♪」
告げるフェイトに答える声はコクピット――のコンソールから。
時空管理局・輸送隊所属、ヘリコプターにトランスフォームするトランスフォーマー、スプラングだ。
スプラングの操作でドアが閉められると、シートに座るはやてとフェイトの前に多数のウィンドウが展開。地上の様子が映し出された。
「あれが、アリシアの見つけてきた子達?」
「せや。
二人とも伸びしろのある、えぇ素材や♪」
「今日の試験の様子を見て、いけそうなら、正式に引き抜き?」
尋ねるフェイトだが――その問いに、はやては肩をすくめ、
「うーん……スターコンボイさんがなんて言うか、やね。
トランスフォーマー側の筆頭後見人やし、意見は無視できへんよ――そのために、今回の試験だってセイバートロン星にリアルタイムでモニターしてるんやし。
それに……」
言って、はやては息をつき、
「最終的な判断は、なのはちゃんにお任せしてるしな。
部隊に入ったら、なのはちゃんの直接の部下で、教え子になるワケやからな」
「そうだね」
はやての言葉にフェイトがうなずくと――そんな彼女の元に通信が入った。
〈はいはーい♪ こちら地上班、ジャックプライム♪〉
「こっちもモニタリング準備完了♪
ボクもビッグコンボイもスタンバイ完了。何かあってもすぐに動けるよ」
そう答え、時空管理局・本局所属嘱託トランスフォーマー、ジャックプライムは試験スタッフの地上の詰め所を見渡した。
演習場全体を使って行われるこの試験を完全に掌握、不測の事態が起きた時でも受験者の安全を確実に守る――それが地上スタッフの任務だ。その責務を果たすべく、詰め所は戦闘指揮車両を中心に各種の観測装置を完備。試験のすべてをもらさず記録できる体制をスタンバイしている。
〈そっか。
ありがと、ジャックプライム〉
〈ビッグもお願いな。
まぁ、何もないとは思うんやけど〉
「常に『何かあること』を予測し、対策を立てる――それは当然のことだ」
通信ウィンドウの中、フェイトのとなりで告げるはやてに答えるのは彼女のパートナー、時空管理局・二等陸佐、ビッグコンボイだ。
「一応釘は刺しておく。
オレ達の装備はあくまで戦闘を前提としたものだ。何かあった時、オレ達はあくまでフォロー役に過ぎないことを忘れるな」
〈わかっとるよ。
じゃあ……お願いな〉
ビッグコンボイの言葉にうなずき、はやては通信を切り――
「ま、そりゃそうだよね。
ボクはキングフォースがあるからまだいいけど、ビッグコンボイは完全に戦闘用だもんね」
「あぁ……」
告げるジャックプライムに答えるビッグコンボイだが――その表情はいつになく緊張している。
「…………どしたの? 心配事?」
「あぁ」
尋ねるジャックプライムに答え、ビッグコンボイは思考をめぐらせる。
(どうも、今朝から嫌な予感が消えない……
この予感……杞憂で終わってくれればいいが……)
〈There is no vital spark in examination area.〉
《危険物も一切なし♪
コースチェック完了! オールグリーンだよ♪》
「ありがと、レイジングハート、プリムラ」
今回の試験のコース、その全体を見渡せる廃ビルの一室で、彼女は自らの相棒達にそう答えた。
「観察用のサーチャーと、障害用のオートスフィアも設置完了。
仮想的の二人も配置済み……」
そのまま、彼女は試験の段取りを確認していき――と、そんな彼女の元に通信が入った。
〈準備は順調か?〉
「はい。
もういつでも始められますよ、スターコンボイさん」
〈そうか……〉
彼女の言葉に、展開されたウィンドウに映るセイバートロン星現リーダー、スターコンボイは静かにうなずき、
〈なら、後は新人達のお手並み拝見だ。
アリシア・T・高町が見出し、八神はやての推す二人がどのくらいできるか――見ものだな、高町なのは〉
「ですね♪」
告げるスターコンボイの言葉に、彼女は――時空管理局・本局所属の嘱託魔導師、高町なのはは笑顔でうなずいた。
セイバートロン星中央行政府(旧スカイドーム)、総司令官室――
〈じゃあ、私達は全体を見てますから〉
「あぁ」
なのはが笑顔で通信を切り、スターコンボイは画面をスタート地点で試験の開始を待つスバル達へと切り替えた。
と――
「そろそろ始まりね」
そんな彼のとなり――自分のデスクで同じように画面をのぞき込みながら彼のパートナー、フィアッセ・クリステラが告げる。
「なのは達、大丈夫かな……?」
「やれやれ……10年経とうと、やはり心配か」
「当然だよ。
どれだけ時間が経っても……私は高町家の一員で、なのは達のお姉ちゃんのひとりなんだから」
「そうだな」
そのフィアッセの言葉に、スターコンボイは息をつき、
「お前はあいつらの姉貴分のひとりで――」
言うと同時、手元の端末を操作。部屋の入り口のドアのロックを解除し――
「フィアッセ! やっぱりここにいたのね!
また授業をエスケープして!」
「捜索に駆り出されるオレの身にもなれ!」
「え、エリス!? オートボルト!?」
自動ドアが開かれると同時、現れたのは自分の親友でもあるボディガードのエリス・マクガーレンとその友人であるトランスフォーマー、オートボルト――いきなりの二人の登場に、フィアッセは思わず腰を浮かす。
すぐさまこちらに視線を向けてくるフィアッセに対し――スターコンボイは告げた。
「同時に――CSSセイバートロン星校の校長だよな」
結局、1分も経たずにフィアッセは室内からその姿を消していた。
もちろん、エリスとオートボルトに連行されて。
「始まるか……」
試験の様子を見守る者はここにもいた。ミッドチルダの首都クラナガンにある時空管理局、地上本部――自身のオフィスでその様子を見守り、つぶやくのはミッドチルダのトランスフォーマーを束ねる魔導大帝メガザラックだ。
――いや、この呼び名は現在においては過去のものであり――
〈ザラックコンボイ!〉
「アリシアか」
突然、彼の元に通信が入った。自分を呼ぶその声から相手を察し、メガザラック改め“魔導司令官ザラックコンボイ”は自らのパートナーに応答した。
「やはり……まだかかりそうか」
〈ゴメン! 観測したばっかりのデータまとめるのに手間取ってて……
そっち行くの、もうちょっと遅くなりそう!〉
尋ねるザラックコンボイの言葉に答えるのは、ウィンドウに映るフェイトに瓜二つの少女――彼女の姉である時空管理局・嘱託魔導師にしてクラナガン大学・“古代遺物”研究室特別調査班長兼主任研究員、アリシア・T・高町はパンッ! と合掌して謝罪する。
〈私達にとっても大事な試験なのに、ホントにゴメン!〉
「かまわんさ。
貴様が“レリック”や“ガジェットドローン”について調査を進めてくれているおかげで、なのは達が安心して現場でがんばれるんだからな」
〈それで自分の方のチームの立ち上げが遅れてたら世話ないんだけどねぇ……〉
「むぅ……」
最近、コイツも仕事人間になってきたなぁ――そんなことを感じつつ、ザラックコンボイは肩を落とすアリシアに苦笑してみせた。
そして別の場所では――
「…………そろそろか……」
周囲一面にモニターが配置された専用のデータリングルームの中央に立ち、彼は静かにつぶやいた。
「オメガスプリーム、サーチャーの様子は?」
〈試験場全域に配置完了。
管理局側ニ感知サレタ様子ハアリマセン〉
彼の問いには機械的な発声の、しかしそれでいて人間的な感情の宿った声が答える。
「イレインは?」
〈スデニ作戦準備ヲ完了。
作戦開始時刻ニハ試験モ終了シテイルハズデス。彼女ニモ映像ヲ中継シマスカ?〉
「いや、いい。
オレとしては、アイツのリアクションも楽しみだからな――後のお楽しみってことで」
あっさりとそう答えると、彼はきびすを返し、壁際に立てかけてあった木刀を手に取る。
「オレも出るぞ。
スバルの試験、モニタリングは任せたぜ」
〈シカシ……スバルサン達ハ大丈夫デショウカ?〉
「大丈夫だよ」
彼の答えはあくまであっさりしたものだった。
「スバルなら心配はいらねぇさ。
なんたって……」
「アイツは、オレの自慢の教え子だからな」
ちょうど同じ頃、地球では――
「ふわぁ〜あ……」
「こら。
女の子がそんな大口開けてあくびすんじゃないわよ」
休日の駅のホーム――心底眠たそうにあくびをする泉こなたを、柊かがみはため息まじりにたしなめた。
「どうせ、また遅くまでアニメでも見てたんでしょ?」
「まーねー。
いやはや、今期も深夜アニメはそれなりに豊作だからねー♪
『ル○ーシュ』が日曜5時に移動して、主力がいなくなっちゃうんじゃないかと心配してたけど、杞憂だったね、ホント♪」
かがみの言葉に悪びれることもなくそう答えるが――こなたは「でも」と付け加えた。
「ゆうべは野球中継の延長とかもなくて、定時通りにアニメが見れたから、いつもよりは早く寝られたんだよ」
「つまりいつもはもっと夜更かししてるんかい」
半眼でかがみがうめくと、そんな彼女のとなりでかがみの双子の妹、柊つかさがこなたに尋ねた。
「いつもよりも早く寝ても、やっぱり眠いの?」
「あー、つかさ。
あくまで“いつもよりは”ってだけの話だから。コイツの場合、それでも寝てる時間が遅いことに変わりはないからね」
「まぁ、そうなんだけどね……」
つかさの問いやかがみの指摘にそう答えるこなただったが、その顔はどこか微妙だ。何やら不思議そうに何度も首をかしげている。
「何か気になることでも?」
そう尋ねるのは、友人達の輪の中でひとり沈黙を保っていた高良みゆきだ。
「気になるってゆーかさ……
変な夢を見ちゃったんだよね……」
「夢?」
聞き返すかがみにうなずいて、こなたは夢の中で見たものを簡単に説明した。
「バカでっかい巨人と戦ってたぁ?
またあんたらしいというか何というか……」
内容が内容なだけに、聞かされたかがみは呆れ気味だ。
「けど、あんた好みの夢じゃない。何が気になるのよ?」
「うーん……確かに、私的には萌えシチュも燃えシチュも大歓迎なんだけどね」
かがみの言葉に、こなたはなおも首をかしげ、
「何ていうか……“そういうの”とは、ちょっと違う気がしたんだよね……
夢って言うには、何かおかしな感じがしたし……それが夢ってものだ、とか言われるとそうだし……うーん……」
うめき、考え込むこなただったが――
「あ、こなちゃん、電車来たよ」
その思考を中断するかのように、電車がホームに入ってきた。つかさの声が、こなたの意識を現実に引き戻す。
「ほら、行くわよ、こなた。
今度の世界史の自由課題に『せっかく展示会やってるんだから』ってオーパーツについてのレポートを提案したのはあんたでしょうが」
「わ、わかってるよぉ」
かがみにせかされ、こなたはあわてて彼女を追い、電車へと乗り込んでいった。
一方、ミッドチルダではスバル達がリインとシグナルランサーから今回の試験の流れについて説明を受けていた。
〈二人はそこからスタートして、各所に設置されたポイントターゲットを破壊。
――あ、もちろん、破壊しちゃダメなダミーターゲットもありますからね〉
〈妨害攻撃を潜り抜け、すべてのターゲットを破壊、制限時間以内にゴールを目指すんだ。
何か質問は?〉
「え?
あ、えっと……」
「ありません」
シグナルランサーの問いに不安になったか、オロオロしだすスバルのとなりでハッキリと答えるのはティアナだ。
「ありません!」
そんな彼女に励まされたか、同様に答えるスバルの言葉に微笑ましいものを感じたか、シグナムランサーは肩をすくめて続ける。
〈スタートまであと少し。
装備の最終確認の時間くらいはある――今のうちに万全の状態を整えろ〉
〈じゃあ、ゴール地点で会いましょう、ですよ♪〉
最後をリインが締めくくり、試験官二人からの通信は切れた。スバルとティアナはスタートラインに並び、自身の装備を再度点検する。
そして――二人の前にスタートへのカウントを示すシグナルが表示された。
「Redy……」
ティアナがタイミングを計る中、シグナルは赤から黄色へ、そして――
『GO!』
シグナルが青に変わった瞬間、スバルとティアナは同時に駆け出した。
最寄のターゲットのあるポイントを目指し屋根伝いに移動、ティアナが目前のビルの壁面にアンカーガンのアンカーを発射する。
ビルの壁面に命中したアンカーは展開された魔法陣によって固定。アンカーを巻き戻す力のままに、ティアナと彼女にしがみついたスバルはビルの谷間を飛び越えていく。
「中のターゲットは、あたしがツブしてくるね!」
「手早くね!」
告げるスバルにティアナが答え――スバルは手を離してティアナの元から離脱。勢いよくビルの中へと飛び込んでいく。
当然、ターゲットを守るべく設置されていたオートスフィアが攻撃を開始するが――
「いっ、けぇっ!」
目まぐるしく動き回るスバルには当たらない。あっという間に飛び込み、スバルは手近なスフィアにリボルバーナックルで一撃。拳を振り抜いた勢いのままに身をひるがえし――そのまま地を蹴り、次の目標に回し蹴りを叩き込む。
大振りな攻撃だが――それがそのまま次の動きに対する予備動作につながり、うまく動きのムダを殺すことに成功している。
そのまま、スバルは次の獲物へと走り、
「ロード、カートリッジ!」
その言葉に――彼女の右腕のリボルバーナックルが応えた。カートリッジをロードし、それに伴い手首の回転リング“ナックルスピナー”が高速回転。解放された魔力を加速させていく。
そして――
「リボルバー、シュート!」
加速された魔力を、スバルは衝撃波として解き放った。巻き起こった魔力の渦がオートスフィアやターゲットを巻き込み、粉砕する!
一方、スバルと別れたティアナは――
「落ち着いて……冷静に……!」
別のビルのターゲット群を狙っていた。自分に言い聞かせつつ、慎重に目標に狙いをつける。
今のところ、オートスフィアに捕捉された様子はない。今のうちに――
意を決し、トリガーを引く――放たれた射撃魔法“シュートパレット”は的確にターゲットを捉え、破壊していくが――
「――――――っ!」
気づき、とっさに銃口をそらした。破壊厳禁を言い渡されたダミーターゲットを避け、残りのターゲットを破壊。次のポイントを目指して地を蹴った。
「…………うん、いいコンビだね」
ウィンドウに映るスバルとティアナは、すでに合流して次のポイントを目指している――手際よく試験を進めていく二人の姿に、フェイトはスプラングの機内で笑顔でうなずいた。
と、地上からもジャックプライムが通信。フェイトに同意する。
〈そうそう。作戦もバッチリ活きてるし、二人の息もピッタリ。
まるでボクとなのはみたいなナイスコンビネーション♪〉
「うん、ジャックプライム。後でまたじっくりお話しようか」
〈どうぞどうぞ♪
何だったら今からでもいいよ。降りてきたら?〉
「……言うじゃない」
〈フェイトこそ〉
「〈フフフフフ……〉」
「あ、あはは……
二人とも、穏便にな……」
ジャックプライムの言葉に、すぐさまフェイトが冷たい空気を身にまとう――すぐにジャックプライムも応じ、なのはを巡ってにらみ合う二人の言葉に、はやてはムダと知りつつもそう告げずにはいられない。
このパターンで引き起こされてきたトラブルの数々は管理局においてもサイバトロン軍においてもけっこうな語り草となっている。10年という時間も、この微妙な三角関係を修正するには足りなかったようだ。
今も昔もトラブルメーカーか――自分のことを棚上げしながらそんなことを思いつつ、はやては気を取り直して続けた。
「せやけど、難関はまだまだ続くよ。
特に、これが出てきたら受験者の大半が脱落する最終関門」
「あ、そうだね。
敵リーダーを想定した、仮想敵であるトランスフォーマー……」
はやての言葉に我に返り、フェイトはコースのデータを読み出して障害の配置ポイントを確認する。
「しかも今回は受験者撃退率8割を越えるガスケットとアームバレット。
二人とも決して弱くない。二人の実力は魔導師で言うところのAAランクに相当するし――何より生活がかかってるから必死だし。
あの子達のレベルじゃ、正面からはちょっと辛いかな……」
「あの悪知恵の回る二人をどーやってやっつけるか……こっちも知恵と勇気の見せ所や」
懸命に反撃を試みるオートスフィアだったが――彼女達を止めることはできない。的確な射撃で撃ち抜いていくティアナ、スピードを武器にかく乱し、瞬時に接近して必倒の一撃を放つスバルの前に、ハイウェイ中段に配置されていたオートスフィア群は瞬く間に駆逐されてしまう。
「……よし、全部クリア!」
「この次は?」
「このまま上。
上がったらまず集中砲火が来るわ」
尋ねるスバルに答え、ティアナはすぐさまプランを伝える。
「“オプティックハイド”を使って、クロスシフトでスフィアを瞬殺。
……やるわよ!」
「了解!」
問題の上層では、多数のオートスフィアが待機。ターゲットを守り、スバルとティアナが上がってくるのを今か今かと待ちかまえていた。
と――来た。下の階層から、アンカーガンのアンカーが地面の裂け目から飛び出し、こちらの階層の天井まで打ち込まれた。
すぐさまオートスフィアが反応、狙いを定める中、アンカーガンのワイヤーが巻き戻されていき――
一斉に放たれたオートスフィアの攻撃は、飛び出してきた“アンカーガンだけを”叩いていた。
そんな中――音が聞こえてきた。
スバルのローラーが大地を疾走する音だ。
同時に、大地に土煙が巻き起こる――それが突然途切れたかと思うとオートスフィアのひとつが突然砕け散った。そして、少し先から新たな土煙が巻き起こり、ターゲット群へと向かっていく。
「5!
4!
3!」
一方で響く、ティアナのカウントダウンの声――と、『3』を数えたところで突然土煙の上にスバルの姿が現れた。
ティアナの得意とする幻術魔法のひとつ。相手から姿を隠す“オプティックハイド”だ。
これで姿を隠し、スバルはターゲット群への突撃を敢行したのだ。ということはティアナも――
「2!
1!
――0!」
いた。カートリッジをロードし、オートスフィアの攻撃をかわすスバルの反対側――ちょうどオートスフィアの布陣の背後をつく形で、3つのスフィアを生み出したティアナがカウント『0』と同時に姿を現す!
そして――
「クロスファイア!」
「リボルバー!」
『シュート!』
二人の魔法が火を吹いた。彼女達の最も得意とするコンビネーション“クロスシフト”が、オートスフィアを瞬く間に薙ぎ払う――
「ほぉ……
確かにこれは、なかなかに伸びしろがありそうだ」
スバルとティアナの戦いぶりを眺め、ビッグコンボイは思わず感嘆の声を上げた。
「後は最終関門を残すのみ……
どうやら、無事に終わってくれそうだな……」
そうつぶやいた、その時――
「…………あれ?」
「どうした? シャーリー」
別の端末で記録を取っていたオペレータのひとり、シャリオ・フィニーノの上げた声に、ビッグコンボイはすぐに聞き返した。
「いえ……
一瞬、対空レーダーに反応があったような気がしたんですけど……」
「何だと……?」
シャリオの言葉に、ビッグコンボイは眉をひそめて自分の端末にレーダー画面の履歴を呼び出す。
確かに、レーダーには一瞬だけ何かが映っているが――それだけだ。以降の画面には何の反応もない。
「八神二佐達に、報告しますか……?」
「あぁ……頼む」
尋ねるシャリオに答えると、ビッグコンボイは端末を操作し、
「同時にレーダー全基フル稼働だ。裏づけをとる。
それぞれ別々にフィルタをかけ、考え得るあらゆる角度からスキャンしろ」
「わかりました!」
「――へぇ、そう攻めてきやがったか」
「けっこうやるんだな」
ティアナとスバルの戦いぶりは、彼らもモニタで見守っていた。感心するガスケットのとなりで、アームバレットがうんうんとうなずきながら答える。
一時は海鳴の某警察協力者にポリスカラーに塗り替えられてしまったガスケットだったが――この10年で紆余曲折を経たか、元のカラーリングに戻っている。丁稚奉公の方がどうなっているかは推して知るべし、だが。
「さて、どう出てくるかね……
これが大型スフィアがオレ達の役を務めるパターンだったら、射程外を迂回していく手が常套手段だろうが……」
「そん時は思う存分追い回せばいいんだな」
「そういうこと♪
ひよっこどもには悪いが、こっちだって仕事でやってんだ――生活がかかってる以上、手加減しないぜ!」
やる気も十分にガスケットが声を上げ――
「………………あん?」
ふとアームバレットがビルの外へと視線を向けた。
「どうした? アームバレット」
「いや……
なんか、外で動いた気がしたんだな……」
「おいおい、ひよっこどもはまだ1ブロック向こうだぜ」
「……そうなんだな。
きっと気のせいなんだな」
ガスケットに答え、アームバレットはスバル達を迎え撃つため所定のポジションに布陣する――
それが、“気のせい”ではなかったことに気づかないまま。
「イェ〜イ♪ ナイスだよ、ティア!
1発で決まったね!」
「あんだけ時間があればね」
守る者のいなくなったターゲットを悠々と破壊するスバルの言葉に、ティアナは囮に使ったアンカーガンを回収しながらそう答える。
「普段はマルチショットの命中率、あんまり高くないのに……
ティアはやっぱ本番に強いなぁ♪」
「うっさいわよ。
さっさと片付けて、次に――」
言いながら振り向き――ティアナは気づいた。
「――――――?」
こちらに気を取られているスバルの背後に浮かぶ――
(オートスフィア!
くっ、撃ちもらしがいた!?)
「スバル、防御!」
とっさに叫ぶが――間に合わない。スバルを狙ったオートスフィアの攻撃を、ティアナはやむなく彼女を突き飛ばして回避させる。
そのまま隠れられる場所を探して走るが、オートスフィアは今度は自分を狙ってきて――
「――――――っ!」
反撃とばかりにオートスフィアを狙った瞬間、イヤな音と共に足首に痛みが走った――左足をガレキにとられ、ひねったのだ。
あまりの痛みに転倒するが――そのまま転がってガレキの影に隠れることに成功。そこからオートスフィアを狙い――撃ち落とす!
が――二人は気づいていなかった。
ティアナがオートスフィアを破壊した瞬間――
同時にもうひとつ、破壊音が響いたことに。
「ん? どないしたんやろ?」
「サーチャーに、流れ弾が当たったみたいだけど……」
ティアナがオートスフィアを撃ち落とした瞬間、突然映像が途切れた――全体がサンドノイズに覆われた画面を前にはやてとフェイトが声を上げる。
そして、こちらでも――
「うーん、トラブルかなぁ……?」
映らなくなった画面を前に、なのはは困ったように首をかしげていた。
しばし考え――決める。
「リイン、シグナルランサーさん。
一応様子を見に行くね」
〈お願いします〉
〈任せる〉
ゴール地点で待機しているリインとシグナルランサーに告げ、なのははその場を後にした。
この時、彼女達は気づくべきだったのだ。
サーチャーを撃ち落とした銃弾は――
ティアナのいた側から放たれたものではなかったことに。
「ティア!」
「騒がないで!
何でもないから!」
心配そうな顔をして駆け寄ってきたスバルに、ティアナはすかさず一喝する。
「ウソだ! 『グキッ!』って言ったよ!
捻挫したでしょ!」
「だから、何でもないって――」
言いながら立ち上がろうとしたティアナだったが――瞬間、左足に激痛が走った。顔をしかめ、うずくまってしまう。
「…………ゴメン、ティア……
油断してた……」
「あたしの不注意よ。撃墜を完全に確認してなかった……
あんたに謝られると、かえってムカつくわ」
謝るスバルに答えると、ティアナは自分の足の状態を軽く確かめ、
「……走るのは、ムリそうね……
最終関門は、抜けられない……」
「そんな……!」
うめくスバルだったが――そんな彼女にかまわず、ティアナは告げた。
「あたしが離れたところからサポートする。
そしたら……あんたひとりなら、ゴールできる」
「ティア!?」
「っさい!
『次の受験の時は、あたしひとりで受ける』っつってんのよ!」
声を上げるスバルに言い返し、ティアナは気丈に彼女を見返す。
「つ、次の試験って……半年後だよ!?」
「迷惑な足手まといがいなくなれば、あたしはその方が気楽なのよ。
わかったら、さっさと……」
言って、立ち上がろうとするティアナだったが、やはり痛みが走ってうまく歩けない。
「ほら、早く!」
それでもなんとか自らの身体を支え、促すティアナだったが――
「ティア……あたし、前に言ったよね?」
そう前置きし――スバルはティアナに告げた。
「弱くて、情けなくて……誰かに助けてもらいっぱなしな自分がイヤだったから、管理局の陸士部隊に入った……
魔導師を目指して……ギン姉から魔法とシューティングアーツを習って、“師匠”のところで修行して……人助けの仕事についた……」
「知ってるわよ。
聞きたくもないのに、何度も聞かされたんだから……」
ぶっきらぼうに答えるティアナに対し、スバルは静かに続けた。
「ティアとはずっとコンビだったから、ティアがどんな夢を見てるか――魔導師ランクのアップと昇進にどれくらい一生懸命かも、よく知ってる……
……だから! こんな所で! あたしの目の前で!
ティアの夢をちょっとでもつまづかせるのなんてイヤだ!
ひとりで行くのなんて、絶対イヤだ!」
「じゃあどーすんのよ!
残り少ない時間で、動けないバックス抱えて、どーやってゴールすんのよ!?」
言い返すティアナだったが――
「ティア……
昔、師匠が言ってたことがあるんだ……」
そう答えて――スバルはその時のことを思い出した。
「スバル。
戦うための技能――その概念を表したトライアングルの内訳はわかるか?」
「え………………?」
訓練の間のちょっとした休憩時間――と言っても、打ちのめされたスバルが復活するのを待つだけの、言わば“師匠のための”休憩――木刀をクルクルともてあそんでいる師匠から突然そう尋ねられ、スバルは首をかしげながらしばし考え、
「えっと……
“心”“技”“体”……ですよね?」
「そうだ。
………………一般的には、な」
「違うんですか?」
「いや。正解だ」
聞き返すスバルに対し――師匠はあっさりと否定した。
「間違っちゃいないが――もう少し押し進めて考える余地がある、って話だ」
そう付け加えると、師匠はスバルに対して続けた。
「一般的に挙げられる三つの要素、“心”“技”“体”――だが、もうひとつ、付け加えてもいい要素がある。
戦略、判断力といった、考える部分――すなわち“智”だ。
まぁ、一般的なトライアングルだと“心”か“技”に含まれてるんだろうけどな」
「三角じゃなくて……四角だ、ってことですか?」
「いや、三角だ」
迷わずそう答える師匠だが――スバルはワケもわからず首をひねる。
「けど……三角じゃ……」
「『ひとつ余る』――だろ?」
スバルのその問いは予測済みだったか、師匠は笑いながら告げた。
「だが、三角形の“点”は3つじゃない。
もうひとつ――中心点があるだろう?」
「中心……?」
「そう。三角形を描く、3つの点を支える中枢――そこにこそ“心”をあてはめるべきだとオレは思ってる。要は“心”がすべての中心ってことだな。
“智”“技”“体”を外周の3点に、その3つを支える中心点にすべての根幹である“心”を配する――それが、オレが真にあるべきだと考えるトライアングルの姿だ。
言ってみれば、頂点に立つ“心”が他の三つを吊り下げる――トライアングルはトライアングルでも、三角形じゃなく、三角錐ってことだ」
そう告げると――師匠は真っ向からスバルと向き合い、告げた。
「いいか、スバル。よく聞け。
技も身体も上には上がいる。てめぇに知恵なんぞ期待しちゃいねぇ。
けどな――」
「『どれだけ打ちのめされても、結果がハッキリと出るまでは心だけは折るんじゃない。
あきらめずその場に立ち続けている限り、打つ手は無数にあるんだから』って……
だからあたしはあきらめない。
時間切れでも、ティアを背負ってでも――ゴールするまでは、絶対に」
そう告げて――息をつき、スバルは告げた。
「ルールの裏側を突く、師匠お得意の裏技――
反則、とられちゃうかもしれないし、ちゃんとできるかも、わからないけど……
……うまくいけば、きっと二人でゴールできる」
「……本当?」
聞き返すティアナの言葉に――「う゛っ」とスバルの顔が引きつった。その顔からみるみる内に自信が失せ、不安げに続ける。
「あ、えっと、その……ちょっと難しいかも、だけど……
ティアにもちょっと、ムリしてもらうことにもなるし……
よく考えると、やっぱりムチャっぽくはあるんだけど……
なんていうか、ティアナがもし良ければ、っていうか……」
「…………あぁぁぁぁぁっ、もうっ! イライラする!」
どんどん尻すぼみになっていくスバルの言葉に、ティアナは苛立ちを募らせ――爆発させた。スバルの胸倉をつかみ、顔を寄せて言い放つ。
「グヂグヂ言ったって、どうせあんたは自分のワガママを通すんでしょ!?
どうせどうせあたしは、あんたのワガママに付き合わされるんでしょ!?
だったらハッキリ言いなさいよ!」
そんなティアナの言葉に――スバルはその表情を引き締めた。
「二人でやれば、きっとできる。
信じて、ティア」
その言葉に――ティアナは息をつき、スバルを解放した。すぐに残り時間を確認し、
「残り時間、3分40秒……
…………プランは?」
「…………ん?
見つけたぜ、姐さん達!」
ティアナ達をロストしてからしばし――上空からその姿を探していたスプラングがティアナの姿を見つけた。すぐに機内のはやて達に映像を送る。
「お、いたいた♪」
何かあったのかと心配していたが、どうやら大丈夫なようだ。安堵の息をつくはやてだったが――
「…………あれ?」
その映像を見て、フェイトはふと違和感を感じた。
「けど、これ……」
つぶやくフェイトだったが――ティアナに特におかしなところはない。“平然とハイウェイを駆けていく”――
「おい、いたぜ、アームバレット!
向かって来てる――追いかけ回すプランAは破棄だ!
プランB、本陣守備のまま迎撃すっぞ!」
「了解なんだな!」
一方、そのティアナの姿はガスケット達も捉えていた。告げるガスケットの言葉にアームバレットが答え、
「フォースチップ、イグニッション!
アーム、バズーカ!」
放つのは自分の一番の得意技だ。アームバレットの両肩に展開されたアームバズーカの一撃が、ハイウェイの上をこちらに向けて駆けるティアナへと襲いかかり――命中する!
「直撃!?」
その光景ははやて達も目にしていた。思わず声を上げるはやてだったが――
「ううん、違う……」
そんなにはやてに、フェイトは冷静に告げた。
同時――爆発の中からティアナが飛び出してきた。アームバレットが追撃をかけているが、その猛攻撃をものともしないで駆け抜けていく。
やられ役だったとはいえ、アームバレットも前大戦を戦い抜いた戦士のひとりだ。空戦ならともかく、上空という回避フィールドを持たない陸戦の、しかもCランクの新人がかわせる攻撃ではない。しかし、ティアナは平然とかわし、突き進んでいく――
「高速回避……?
……いや、ちゃうな……」
彼女達の魔法によって、何らかの仕掛けが施されているに違いない――その“仕掛け”の正体を探るはやてのとなりで、フェイトは静かにつぶやいた。
「あの子……ティアナは囮」
「囮……?」
顔を上げるはやての言葉にフェイトはうなずき、
「そう。あのティアナは――」
そう告げるフェイトの視線の先で――
「囮の、幻術だよ」
ティアナは二人に増えていた。
二人がそう話している頃、ティアナの“本体”は――
「“フェイクシルエット”――これ、ムチャクチャ魔力食うのよ……!」
ハイウェイの一角、ガスケット達の射程の外でガレキの中に隠れていた。幻術によって生み出した自らの幻を遠隔操作しながら、舌打ちまじりにつぶやく。
「あんまり、長くもたないんだから――」
《一撃で決めなさいよ。
でないと、二人で落第なんだから!》
「うん!」
念話で告げるティアナにそう答えるスバルは、ちょうど反対側――ガスケット達の布陣の背後に回り込んでいた。ビルの屋上に佇み、足元に魔法陣を展開する。
「あたしは空も飛べないし、ティアみたいに器用じゃない。
師匠みたいにどんな状況でも戦えるワケじゃないし、遠くまで届く攻撃もない……
できるのは、全力で走ることと、クロスレンジでの一発だけ……」
つぶやくスバルの右手でリボルバーナックルがカートリッジをロード。足元の魔法陣が輝きを増す。
「だけど……決めたんだ……
“あの人”みたいに……強くなるって!
誰かを、何かを――守れる自分になるって!
だからあたしは守るんだ――
自分の夢を――ティアの夢を!」
高まる魔力の中――拳を振り上げる。
「師匠が言ってた……!
『バカでもかまうな。バカならバカで、そのバカを極めろ。
極めたバカは――天才を超える』って!」
「ウィング、ロード!」
咆哮と共に、拳を魔法陣に叩きつけ――魔法陣が変形した。魔法陣を形成している紋の一部が飛び出し、ガスケット達の布陣しているビルに向けて伸びていく。
“ウィングロード”――空を飛べない彼女が空間戦闘を行うため独自に生み出した、ローラーブーツで疾走できる“道”を作り出す魔法である。
“道”はそのままビルに飛び込み――壁に衝突して止まった。これでガスケット達のもとに一気に迫ろうというのだが――
「おい、アームバレット!
後ろに魔力反応――回り込まれてっぞ!」
「えぇっ!?」
気づかれた。あわてるガスケットの言葉にアームバレットが声を上げ――
「って、こっちも来たぁっ!」
「何だと!?」
そんな彼らの前にティアナの幻術が現れた。とっさにガスケットが迎撃するが、幻は次々に姿を現す。
「こいつら全部ニセモノなんだな!?」
「バカかてめぇは!?
そう見せかけて、本体が転送魔法で突撃、ってパターンもあるだろうが!」
あわてるアームバレットにガスケットが言い返す。確かに考えられる戦法であり、そこに気づいたガスケットの判断も賞賛に値するが――だからと言って――
スバルから意識をそらしてしまったのは失敗だった。
「行って、スバル!」
「いっくぞぉぉぉぉぉっ!」
ティアナの合図と同時――リボルバーナックルにカートリッジをロードしたスバルが発進した。限界まで加速しビルまで突撃。外壁を強行突破し――
「出たぁぁぁぁぁっ!?」
「やっぱこっちだったんだなぁっ!」
「おぉぉぉぉぉっ!」
そのまま、自分の登場に驚くガスケット達に向け、渾身の拳を繰り出す!
が――その拳がガスケット達に届くことはなかった。目の前に現れた魔力の壁が、スバルの拳を受け止めたのだ。
ガスケット達も意味なくこの場から動かなかったワケではない――足元には今回の試験用に借りてきた、プロテクション発生装置が仕掛けられていたのだ。
「……へ、へっ、バーカバーカ!
そんな程度で、管理局お墨付きのこのバリアが破れるもんか!」
一瞬本気でビビったものの――そこはガスケット。すぐに調子に乗ってスバルに言い放つが――
「おぉぉぉぉぉっ!」
スバルは止まらない。むしろリボルバーナックルにカートリッジを立て続けにロード、魔力を高めた篭手で防壁を抉っていく。
そして――
「ぃいぃやぁぁぁぁぁっ!」
咆哮と共に、渾身の一振りで一気に防壁を引きちぎる!
これは――
「バリアブレイク!?
そんなの使えるなんて、聞いてないんだな!」
「マヂですかぁっ!?」
驚愕し、あわてて火器を向けるガスケット達だが――遅い。スバルは二人の攻撃をかわして間合いを取ると右手を頭上へ、左手を逆方向、真下にかまえた。
「一撃、必倒ぉっ!」
それぞれの手を大きく半回転、描かれた円の軌道に魔力が流れて環状魔法陣を展開。同時に足元にもベルカ式の魔法陣が展開される。
そして、スバルは大きく身をひねり――
「ディバイン――!」
「バスタァァァァァッ!」
咆哮と共に――繰り出した拳から放たれた魔力の渦が、ガスケットとアームバレットをブッ飛ばす!
そして、ガスケット達は――
『どわっはぁぁぁぁぁっ!?
新シリーズ、スピーディア暴走コンビ、初フライト!』
『健っ、在っ!』
絶叫と共に宙高くブッ飛ばされ――久しぶりに大空の星になった。
「…………お、来たな」
《来たですよ♪》
一方、ゴール地点ではシグナルランサーとリインが待機していた。コースの向こうから立ち上る土煙を見つけ、安堵の声を上げる。
もちろん――ティアナを背負い、ローラーブーツで疾走するスバルである。
「あと何秒!?」
「16秒――まだ間に合う!」
尋ねるスバルに答え、ティアナはスバルの背から銃撃。ゴール直前に置かれた最後のターゲットを破壊する。
「よぅし!
魔力、全開ぃぃぃぃぃっ!」
後はゴールするだけだ。余力を残す理由もない――スバルはローラーブーツに残った魔力を叩き込み、一気に加速してゴールを目指す!
が――
「スバル! 止まる時のこと、ちゃんと考えてるんでしょうね!?」
「………………あ゛」
ティアナの言葉に、その表情が引きつった。
が――とっさにかけたブレーキも間に合いそうにない。減速は始まっているが、完全に失速するよりも早く自分達はゴールを駆け抜け、その先のハイウェイに積み上げられたガレキの山に突っ込むことになるだろう。仮にそれをかわしたとしても、豪快に宙を舞うことになるのは間違いない。
『わぁぁぁぁぁっ!』
勢いを殺せないまま、スバルとティアナはゴールへと迫り――
爆発が巻き起こった。
「な、何!?」
吹き飛ばされた衝撃で、真上に跳ね飛ばされた二人はそのまま大地に落下した。
助かったのはいいが状況がわからない――突然のことに目を丸くして、ティアナを背負ったままでの着地に成功したスバルが声を上げると、
「スバル、あれ!」
ティアナが声を上げ、指さした先に、1機のヘリコプターが飛来した。
「試験官さん達のヘリ……?」
「ううん……
軍用の攻撃タイプだ……管理局のヘリじゃない!」
つぶやくスバルにティアナが答えると、
「ブラックアウト、トランスフォーム!」
咆哮し、ヘリコプターが人型のロボットモードにトランスフォーム、二人の前に着地した。
「と、トランスフォーマー!?」
驚きの声を上げるスバルだが――ブラックアウトと名乗ったそのトランスフォーマーはかまわず二人の身体をデータスキャン、分析を開始する。
「な、何よ、アンタ!」
ティアナの上げた声にも反応せず――スキャンを終えたブラックアウトは満足げにうなずいてみた。
「データスキャン終了。パラメータ異常……個体02の脚部に損傷、それ以外は問題なし、と……」
助けに来てくれたのだろうか。自分達の身体の調子をスキャンし、つぶやくブラックアウトの言葉に、スバルとティアナは顔を見合わせて――
「選別条件、オールクリア。
“捕獲対象”2名、確認」
『――――――っ!?』
告げられたその言葉に、スバルとティアナは身を強張らせて――突然、轟音と共に二人の背後のビルが砕け散った。
中から現れたのは漆黒に染め抜かれ、背中に2門の大型砲を装備したT-REX型のビーストロボット。そして――
「ジェノスクリーム、トランスフォーム!」
彼もまたトランスフォーマーだった。咆哮し、ロボットモードにトランスフォームすると、ジェノスクリームと名乗った彼は尻尾の部分が分離、右腕に合体し大型キャノンとなったその銃口をスバルとティアナに向ける。
「お前ら……オレ達と来てもらおうか。
我ら“ディセプティコン”の元にな」
「ディセプ、ティコン……!?」
まったく聞いたことのない名前だ――ジェノスクリームの言葉にスバルが思わず声を上げると、
「何なのよ、あんた達……!」
そんなスバルの背後で、ティアナはジェノスクリームをにらみつけた。
「いきなり現れて、ワケわかんないこと言い出して……
あげくあたし達を連れて行く? 誘拐じゃない!」
「『誘拐』?
おいおい、ずいぶんと的外れなことを言うじゃねぇか、小娘が」
しかし、そんなティアナの言葉をブラックアウトは鼻で笑い、
「誘拐じゃない――
……拉致だ」
言って、ブラックアウトはティアナに向けて手を伸ばし――
「――――――ちっ」
その手が突然止まった。舌打ちしながら立ち上がり、
「どうやら……ジャマが入ったみたいだな」
言って、顔を上げたその視線の先には――ホバーボードモードの相棒に乗り、こちらに向けて飛翔してくる、白いバリアジャケットに身を包んだ魔導師の姿があった。
「あれは…………!」
見覚えのある姿だ――思わずスバルが声を上げると、
「ずいぶんと対応が早いじゃねぇか……」
同様にその姿を身ながらつぶやくブラックアウトに、ジェノスクリームはため息をつき、答えた。
「貴様がサーチャーのひとつをつぶしたからだろうが」
「何だと?
あのままあのサーチャーを放っておいたら見つかってたかもしれなかったんだぞ。
そこのオレンジ頭の流れ弾に見せかけて破壊、連中に見つかることなく姿を隠す――オレの判断のどこにミスがあるってんだ?」
「誰の仕業であろうと異常事態は異常事態。当然動くだろ。
人の忠告を聞かずにサーチャーをつぶすからこうなる」
「ちっ…………
わかったよ。じゃあ、オレがヤツを止めてきてやるよ。
その間にお前がこっちを片付ければ作戦完了、問題はないだろうが」
「……いいだろう」
ジェノスクリームがうなずくのを見て、ブラックアウトはその場から飛び立った。たたんであった背中のローターを展開し、上空へと迎撃に向かう。
そして――ジェノスクリームはスバル達に向き直り、
「助けを期待してもムダだ。
今頃は、この試験場にいる他の連中も、襲撃を受けているはずだ」
「オラオラオラオラぁっ!」
咆哮し、敵トランスフォーマーの背中から飛び出してきたクローアームがリインを襲う――が、
「危ない!」
それを防いだのはシグナルランサーだ。手にした槍でクローアームを受け止める。
「へぇ、ちっこいボディのクセして――やるじゃんよ!」
しかし、圧倒的な体格の差が物を言った。敵トランスフォーマーは力任せにシグナルランサーを蹴り飛ばし、
「てめぇみてぇなチビスケがこのボーンクラッシャー様に歯向かえるもんかよ。
ムカつくな、てめぇ」
告げると同時――もう一度クローアームを繰り出した。
「大丈夫か!? スプラング!」
「スンマセン……油断しました……!」
自分を守るように敵に対して立ちはだかり、尋ねるはやてに対し、ロボットモードのスプラングは被弾した腕を押さえてそう答える。
「フェイトちゃん! スプラングは私がフォローする!」
「うん、お願い!」
告げるはやてに答え、フェイトは敵トランスフォーマーに向けて飛翔。光刃を生み出したバルディッシュを繰り出すが――
「え――――――?」
突然敵の姿が透けたかと思うと、バルディッシュの一撃は相手を捕らえることなくすり抜ける!
同時――敵が分身した。フェイトの周囲に散らばり、包囲する!
「バルディッシュ!」
〈Falcon lancer, shoot!〉
とっさにファルコンランサーで迎撃に出るフェイトだが――やはり届かない。金色の魔力の楔は目標を捕らえることなくすり抜けていく。
「これは――幻術!?
ジンジャー!」
《現在解析中です!
ですが――》
尋ねるフェイトに答え、すぐとなりに実体化したジンジャーは告げた。
《質量はもちろん、魔力反応、光学反応、すべてなし!
あれは、幻術でもホログラムでもないし――“本体”も存在しません!》
「どういうこと!?」
告げるジンジャーの言葉にフェイトが声を上げると、
「ムダなことだ。やめておけ」
そんな彼女に、敵トランスフォーマーは静かに告げた。
「このショックフリートの秘術を破ることなど貴様らには不可能。
おとなしく――消えてもらおうか」
その瞬間――分身達が姿を消した。再び実体化したショックフリートが、フェイトに向けてミサイルをばらまく!
《ビッグ! ジャックプライム!》
「襲撃されてるんだろ? わかってるさ」
「けど、こっちもそれどころじゃないんだよね!」
念話で告げてくるはやてにそう答え、“キングフォース”と合体、キングコンボイとなったジャックプライムはビッグコンボイと共に飛来する砲弾をあるいは回避
、あるいは叩き落とし、シャリオ達オペレータ陣を守って敵と対峙する。
敵は3体。それぞれ戦車、パトカー、装甲車からトランスフォームするトランスフォーマーだ。
「へっ、生意気なヤツらだぜ。
オレの砲撃が当たりゃしねぇ」
「そりゃ、ブロウルのヘタクソな砲撃じゃムリだろうよ」
「何だと!?
おい、バリケード! もういっぺん言ってみろ!」
パトカータイプのバリケードの言葉に戦車タイプのブロウルがムキになって言い返すと、
「仲間割れは――後でやってもらおうか!」
そんな二人にビッグコンボイが襲いかかった。振り下ろしたマンモスハーケンの一撃を、二人は左右に跳んでかわす。
「こっちは急いでるんだ。
悪いが――1分で沈んでもらう」
「何だと!?」
ビッグコンボイの言葉にバリケードが声を上げると、
「それは聞き捨てならんな」
そんな彼に告げたのは最後のひとり、装甲車タイプのトランスフォーマーだった。
「やっちまえ、レッケージ!」
「あんなデカブツにいい気にさせるな!」
「言われるまでもない」
告げるバリケードとブロウルに静かに答え――次の瞬間、レッケージと呼ばれたそのトランスフォーマーの姿が消えた。そして――
「――――――っ!」
とっさにかまえたビッグコンボイのマンモスハーケンが――彼の手の中から消えた。
瞬時に間合いを詰めたレッケージが、マンモスハーケンを柄の中ほどで斬り飛ばしたのだ。
(オレ自身より――武器破壊を狙ってきたか!)
胸中でうめき、間合いを取ろうとするビッグコンボイだったが――
「逃がさん!」
レッケージの方が速い。繰り出された蹴りが胸部を痛打、ビッグコンボイが弾き飛ばされる!
「ビッグコンボイ!」
「心配するな。このくらい……!
それより、貴様も気を抜くな……!」
声を上げるキングコンボイに答え、ビッグコンボイは身を起こし、レッケージと対峙する。
「なるほど。そこそこできるな。
確かに、貴様が相手じゃ1分で終わらせるのは難しそうだ」
言って――ビッグコンボイは左腕のツールボックスからそれを取り出した。
剣十字の紋章をかたどった金細工だ。握りしめ、静かに告げる。
「シュベルトハーケン――Standing by」
その言葉に応え、彼の手の中に現れるのは愛用の戦斧――アームドデバイス“シュベルトハーケン”だ。
姿勢を落としてシュベルトハーケンをかまえ――告げる。
「訂正してやろう――」
「5分でツブす」
「く………………っ!」
ブラックアウトから放たれ、全方位から襲い来るエネルギーミサイル群に対し、プリムラを鎧として装着したなのははすぐに対応した。ブリッツシューターを連発。迫り来るそばから次々に叩き落していく。
だが――攻撃がやまない。次々に飛来するエネルギーミサイルの嵐に、なのはは懸命の防戦を強いられている。
ブリッツシューターを操る一方で砲撃も狙うが――ブラックアウト自身がそれを阻む。時には自ら光弾の飛び交う中を駆け抜けて接近戦を挑み、時にはプラズマ砲で砲撃し、なのはになかなかチャンスを与えない。
「パワーはそこそこ……けど、それ以上に戦い慣れしてる……!」
「当然だ!
こちとら、“ディセプティコン”の中でもトップクラス! 三大参謀のひとりだぜ!」
なのはに言い返し、ブラックアウトはさらにエネルギーミサイルを放ち、なのはの足を止めにかかる。
「ま、さすがにたったひとりで前大戦の英雄殿に勝てるとは思ってねぇけどな――足止め任務くらいならむしろ楽勝ってことよ!」
「私達のことを知ってる――!?
あなた達、一体!?」
思わず声を上げるなのはだが――
「なぁに、大した者じゃねぇよ」
答え、ブラックアウトはプラズマ砲をチャージし――
「ただ、事前の情報収集を徹底しただけの――単なるプロフェッショナルさ!」
なのはに向けて撃ち放つ!
「ぐぁ…………っ!」
コンクリート壁に叩きつけられ、衝撃で肺から空気が叩き出される――受身も取れないほどの一撃を受け、スバルはその場に崩れ落ちた。
「スバル!」
声を上げるティアナだが――彼女は左足のケガがあり動けない。カートリッジも使い切ってしまい、ここからスバルを援護することもできない。
「いい加減にしろ。
オレ達の任務は貴様ら二人を生きたまま連れ帰ることだが――『無傷で連れ帰れ』とは言われていない」
すでに決定打は何度も受けた――それでも立ち上がろうとするスバルに、ジェノスクリームは淡々と言い放つ。
「このまま抵抗を続けても苦しみが増すばかりだ。
勝敗は決した。もう――やめろ」
「………………イヤ、だ……!」
ジェノスクリームにそう答え、スバルはよろめきながらもその場に立ち上がった。
「まだ……決まって、ない……!
あたしはまだ……立ち上がれる……!
『結果が出るまで、心だけは折るな』――師匠が、そう言ってた……!」
「…………やれやれ。
ずいぶんと厄介な教えを施したらしいな、貴様の師匠とやらは」
そんなスバルの言葉に、ジェノスクリームはため息まじりにうめき、
「仕方ない。
死なない程度に吹き飛ばし、連れ帰ることにしよう」
「そうは……いかない……!」
言って、右腕のキャノン砲をかまえるジェノスクリームだが――スバルもまた、リボルバーナックルをかまえる。
「ここで負けたら、ティアまで連れて行かれるんだ……!
あたしは、ティアを守る……!
お前なんかに、絶対負けない!」
宣言し、にらみつけるスバルに対し、ジェノスクリームは――
「…………現実は、非情なものだ」
静かに告げ――右腕の砲が火を吹いた。
「スバル――――っ!」
もはや回避もままならないスバルに必殺の閃光が迫る。その光景にティアナは思わず絶叫し――
同時刻。
第97管理外世界・海鳴市――
森の中から姿を現したのは、漆黒のボディのライオン型トランスフォーマーだった。
旧デストロン軍の暗黒獣神ダークライガージャックである。
――いや、その名はすでに過去のものだ。「名前が長い!」などと横暴なことを言い出した主の同居人達のワガママによって半ば強引に改名させられ、現在は“ライガーノワール”と名乗っている。
彼が姿を現したのはさざなみ寮の裏庭――そこには、自分と同じように改名させられた同志、ダークファングウルフ改め“ファングノワール”、ダークニトロコンボイ改め“ニトロノワール”がのんびりと日向ぼっこを楽しんでいた。ビーストモードで日に当たるファングノワールの背中の上では、現在は寮を出てこの地に腰を落ちつけているかつての寮生の飼い狐、久遠が気持ちよさそうに寝息を立てている。
そして、ライガーノワールもその輪に加わろうと一歩を踏み出し――
「………………?」
ふと何かに気づいて顔を上げた。
同時、ファングノワールとニトロノワールも気づいたようだ。ファングノワールはビーストモードのまま、ニトロノワールはロボットモードにトランスフォームし、ライガーノワールと同じ方向へと視線を向ける。
「………………くぅん?」
ファングノワールの背の上で、目を覚ました久遠が疑問の声を上げるが――3人のトランスフォーマーは答えない。
代わりに――同時につぶやいた。
『………………来ル』
自分に迫る閃光を前にして、スバルは思わず目を閉じていた。
着弾までもう1秒もない。灼熱の閃光は自分を直撃し、粉々に吹き飛ばすだろう。
(ティア…………!)
せめて、彼女だけは無事に逃げ延びて欲しい――心から願い、スバルは目をつむったまま両の拳を握りしめ――
「よく吼えたぞ、小娘」
その言葉と同時――迫っていた閃光は目の前で爆発を起こした。
「え………………?」
一体誰が守ってくれたのか――状況が理解できず、爆風から目をそむけていたスバルは周囲を見回し――
「――――――っ!
ちぃっ!」
目の前のジェノスクリームが舌打ちと共に後退。一瞬前まで彼のいた地点に、上空からの閃光が突き刺さる!
「何だ!?」
「誰――?」
上空で戦うなのは達の、さらに上空からの攻撃だ――思わず攻撃を止めたブラックアウトと共に、なのはは攻撃の主へと視線を向け――
「え――――――っ!?」
その目が驚愕で見開かれた。
「10年、か……」
静かにつぶやき、彼はゆっくりとスバルの前に降下してきた。
「しばらく寝ている間に、ずいぶんと楽しそうなことになっているな」
そう告げ、スバルを助けたそのトランスフォーマーは静かに大地に降り立ち、ジェノスクリームの前に立ちはだかる。
「あ、あなたは……!?」
その姿に、なのは思わず声を上げ――そんな彼女に、彼は静かに告げた。
「しばらくぶりだな――なのは」
それは――
「マスター、メガトロンさん……!?」
まさに、10年ぶりの再会だった。
オーバーロード | 「ようっ! 元気か、てめぇら! 自称“『Master strikerS』界の『旦那さんにしたい男』ナンバー1”、爆走大帝オーバーロードだ! ついに始まった、新人魔導師達の甘く切なく、ちょっぴりしょっぱいハートフル――」 |
スバル | 「違います! それにオーバーロードさんの出番はまだ先ですよぉっ!」 |
オーバーロード | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第2話『再会への道〜新生・マスターメガトロン〜』に――」 |
二人 | 『ゴッド、オン!』 |
(初版:2008/04/05)