あれから10年――

眠っていたオレに、ヤツはいきなり呼びかけてきた。

 

 

 

――マスターメガトロン――
 

――マスターメガトロン――
 

うるさい
 

――マスターメガトロン――
 

うるさいと言っている
しつこいヤツめ
 

――再び……お前の力が必要とされる時が来た――
 

オレには……関係ない
 

――本当に……そうか?――
 

どういう意味だ
 

――お前は……“守りたいもの”を得たはずだ――
 

………………
 

――“守りたいもの”を得た今、お前は座してなどいられぬはずだ――
 

……いいだろう。たった10年だが、眠り続けているのにもいささか飽きた
貴様の思惑に乗るのは気に食わんが……今はこれを利害の一致と考えてやる
 

――頼む――
 

だが……忘れるな
いつまでも利用されてやると思うなよ――プライマス

 

 

 

 

 

 

こうして――オレはよみがえった。

 

 


 

第2話

再会への道
〜新生・マスターメガトロン〜

 


 

 

「10年間、眠っていた甲斐があったな……
 叩き甲斐のあるヤツがいるじゃないか」
 突然現れ、絶体絶命のスバルの危機を救い――マスターメガトロンはジェノスクリームに対し悠然と告げる。
「そんな……!
 どうして、マスターメガトロンさんがここに……!?」
 一方、事態についていけないのが上空のなのはだ。
 確かに彼との再会は待ち望んでいたことだが――それはあまりにも唐突過ぎた。思わず疑問を口にして――
「オレに聞かれても困る」
 その疑問に、マスターメガトロンはあっさりとそう答えた。
「そういうことは、オレを起こしたプライマスに聞け」
「プライマスさんが!?」
 その言葉に、なのはは思わず声を上げた。
 あの10年前の決戦以来、プラネットフォースを“新スペースブリッジ計画”のために取り外したプライマスは眠りについたままだ。
 そのプライマスが、マスターメガトロンを目覚めさせたというのか――?
 もう何がなんだか――なのはが問いを重ねようとするが、
「マスターメガトロン、か……」
 そんな彼女よりも早く、ジェノスクリームがマスターメガトロンと対峙した。
「聞いたことがある。
 10年前、あのユニクロンと相打ったという、デストロンの破壊大帝か」
「ほぉ……
 それを知っていてなお、このオレに挑むか」
「あぁ、挑むさ。
 ジェノスクリーム、トランスフォーム!」
 余裕の笑みで告げるマスターメガトロンに、ジェノスクリームはビーストモードへとトランスフォームし、
「なにしろ――貴様が強かったのは、所詮10年前の話だろう!」
 吼えると同時、マスターメガトロンへと襲いかかる!
「マスターメガトロンさん!」
 とっさにレイジングハートをかまえ、マスターメガトロンを援護しようとするなのはだったが――
「させると思ってんのか!?」
 そんな彼女にはブラックアウトが攻撃を仕掛けた。放たれたプラズマ砲を、エネルギーミサイル群をかわし、なのはは上空へと逃れる。
 これが対人戦であれば、太陽を背に相手の目をくらませるという手が使えるのだが――
「それで隠れたつもりかよ!?」
 トランスフォーマーであるブラックアウトには通じない。正確になのはの位置を探り出し、プラズマ砲を撃ち放つ!

「マスター、メガトロン……」
 一方、傷ついたスバル達は目の前の戦いをただ見守るしかなかった。ジェノスクリームと真っ向からぶつかり合うマスターメガトロンの姿に、スバルは静かにその名をつぶやく。
「ねぇ、ティア。
 マスターメガトロンって……」
「えぇ、そうよ」
 小声で尋ねるスバルに、ヨロヨロと彼女の元へとやってきたティアナはうなずいてみせた。
「10年前の“GBH戦役”で――デストロンを率いていた破壊大帝。
 そして――ユニクロンに利用されたとはいえ、グランドブラックホールを暴走させた張本人……!」
 うめくように告げ、ティアナはマスターメガトロンをにらみつける。
「アイツの仕業で、数え切れないくらいの人が苦しんだ……あたし達だって……!
 そんな大悪党が、どうしてこんなところに……!?」
「あ、悪党って……」
 そのティアナの言葉に、スバルはあわてて異を唱えた。
「あの人は、あたしを助けてくれたんだよ!」
「じゃあ何て言えばいいのよ!?
 あいつは宇宙を滅ぼしかけた実行犯! それは間違いない事実なのよ!」
 スバルへと向き直り、ティアナは鋭く言い放ち――
「あぁっ!」
 驚くスバルの声に振り向くと――ジェノスクリームに弾き飛ばされたマスターメガトロンが廃ビルの中に叩き込まれていた。

「ぐぅ………………っ!」
 痛みに顔をしかめながら、マスターメガトロンは叩き込まれた廃ビルからその姿を現した。ジェノスクリームの姿を探して周囲を見回すが――
「どこを見ている!」
 すでにジェノスクリームはマスターメガトロンの死角にすべり込んでいた。尾の一撃で、マスターメガトロンを弾き飛ばす!
 何とか踏みとどまろうとするマスターメガトロンだが――ダメだ。踏ん張りが利かず、ヒザをついてしまう。
「フンッ、思ったとおりだな」
 対し、ジェノスクリームはあくまで余裕だ。マスターメガトロンに対し悠々と告げる。
「10年間ずっと休眠状態にあったお前の身体は、どうやら自己修復機能も眠っていたようだ――未だに前大戦のダメージが癒えていないと見える。
 それに――今の貴様は力の源であったユニクロンのプラネットフォースと、デストロンのマトリクスを失っている。
 強靭なボディと絶大な出力――強大なパワーを支えていたものをすべて失った貴様など、そこらのトランスフォーマーにも劣るぞ」
「…………なめるな……!」
 ジェノスクリームに言い返し、マスターメガトロンはその場に身を起こした。
「貴様ごとき、本調子でなくとも……!」
「あぁ……そうかい!」
 答えると同時――ジェノスクリームは地を蹴った。正面からの体当たりでマスターメガトロンの身体を浮かせ、次いで尾の一撃で大地に叩きつける!
「強がりはよせ。
 動力伝達系の異常、潤滑オイルのもれ――フレームだって歪んでる。
 外部から簡易スキャンしただけでも、これだけの異常が見つかるんだ――貴様の身体は、とうに限界なんだよ」
 悠々とそう告げるジェノスクリームだが――
「だから……どうした……!」
 うめくように答え――マスターメガトロンは再び立ち上がった。
「コンディションなどどうでもいい……
 どんな状態であろうと、戦場に立ったからにはすべての力で敵を討つ!」
「言い切るじゃないか……そんなザマで……!」
 高らかに咆哮するマスターメガトロンの言葉に、ジェノスクリームの口元が歪む。
「いいだろう。
 オレを討てるものなら討ってみろ――どうせムリだろうがな!」
 乱暴に吐き捨てて――ジェノスクリームはマスターメガトロンに向けて地を蹴った。
 一瞬にして間合いを詰め、その牙でかみつこうと襲いかかり――
「――――――っ!?」
 だが、その牙が目標を捕らえることはなかった。虚空をかみ締め、ジェノスクリームが驚愕し――次の瞬間、強烈な衝撃が彼を襲った。
 半歩動いたその先で身をひるがえし――ただそれだけでジェノスクリームの死角に回り込んだマスターメガトロンの蹴りが彼を吹き飛ばしたのだ。勢いよく大地を転がり、ジェノスクリームは廃ビルに叩き込まれる。
「外したからといって、いちいち驚いて動きを止めるな、若造が」
 もうもうと立ち込める土煙に対し、マスターメガトロンは淡々と告げ――
「…………ぐっ……!」
 そんな彼の脚部に痛みが走り、わずかに顔をしかめる。
 すぐに自己診断プログラムを走らせ、自己の状態を確かめる。
(今の蹴りだけで、破損箇所8ヶ所追加か……
 思ったより、ガタがきているようだな)
 だが――負けるワケにはいかない。
(復帰第1戦を――“アイツ”の目の前で黒星というワケにもいかないからな)
 胸中でつぶやき――危ういバランスのままマスターメガトロンがかまえる目の前で、ジェノスクリームは土煙の中からその姿を現した。

「マズイよ、あれ……!」
 その様子を前に、スバルは思わず声を上げた。
「強がってるけど、身体の方がついていってない……!」
 思わず腰を浮かせるが――
「――――っ――!」
 その拍子に左手に走った痛みに顔をしかめる。
「ったぁ……!」
「スバル!
 あんただってムリよ! あのジェノスクリームってヤツに痛めつけられたの、忘れたの!?」
 痛みにうずくまるスバルに、ティアナはあわてて声を上げる。
「だいたい、あいつを助ける理由なんかないでしょ!?
 あいつは10年前、世界を滅ぼしかけたのよ!
 あたしもその時被災してる! あんただってそうなんじゃないの!?」
「それは……そうだけど……!」
 ティアナの言葉にうつむき――しかし、顔を上げた時、スバルの瞳には強い決意の色が宿っていた。
「師匠が言ってた……」

『誰かを助けるのに、理由なんかひとつしかいらない。
 “助けたい”から、助けるんだ』
って……!」
 

「ぐぅ………………っ!」
 ガードは間に合うが、踏ん張りが利かない――ジェノスクリームの体当たりを受け、マスターメガトロンはたまらず後方へと後ずさり、
「まだまだぁっ!」
 そのスキを逃すジェノスクリームではない。再びマスターメガトロンに肉迫。真上から踏みつけ、蹴り倒す!
「――いけないっ!」
 その光景に、なのはが救援に向かおうと転進するが――
「させねぇっつってんだろうが!」
 ブラックアウトがそれを阻む。エネルギーミサイルの雨とその間隙をぬって放たれるプラズマ砲が、なのはを空中に足止めしてしまう。
「く…………っ!
 せめて……マスターメガトロンさんに“これ”が渡せれば……!」
 うめき、なのははバリアジャケットの胸元を握りしめた。
 その内側に納められた、銀色のデバイスカードを――

「おい、ジェノスクリーム!
 そんなポンコツ、とっとと片付けちまえ!」
「わかっている」
 上空から告げるブラックアウトにジェノスクリームが答えると、
「…………なめたことを――ほざいてくれるな!」
 うめくように言い放ち、マスターメガトロンはジェノスクリームを押しのけ、その場に立ち上がる。
 しかし、ジェノスクリームはあくまで余裕だ。しかし油断するワケでもなく、慎重にマスターメガトロンを見据え、
「フンッ、しぶといヤツだ……
 だが、貴様と遊ぶのもここまでだ」
 そう告げ、背中の2連装砲でマスターメガトロンを狙い――
「――――――?」
 突然、その眼前に空色に輝く光の帯が伸びてきた。ジェノスクリームがその発生源へと視線を向け――
「いっ、けぇぇぇぇぇっ!」
 そんなジェノスクリームに向け、ローラーブレードに魔力を叩き込み、加速したスバルが猛スピードで突撃する!
 だが――
「あの、バカ……!」
 そんなスバルに対し、マスターメガトロンは思わず頭を抱えた。
 なぜなら――
(あんな単純な攻撃、カウンターをもらうだけだぞ!)
 そう。ウィングロードは空中に足場を作り出すことで空間戦闘を可能にする魔法であり、障害物の多い荒地を最高速度、且つ最短距離で突撃するための道を作り出すという意味でも非常に有効な魔法である。
 だが――逆に言えば、“相手に進行ルートを事前に知らせてしまう”という弱点も併せ持つ。あんな真っ向から突撃しては相手に容易に軌道を読まれ、カウンターの餌食になるだけだ。
 当然、ジェノスクリームもスバルを迎え撃つべく尾を振りかぶり――スバルが吼えた。
「リボルバー!」
「――――――っ!?」
「シュート!」
 瞬間、放たれた衝撃波がジェノスクリームの顔面を痛打する――ウィングロードによる見え見えの突撃は“突っ込んで殴りかかると見せかける”ためのフェイク。本命はすでにチャージを終えていたリボルバーシュートだったのだ。
 しかし――
「なめた、マネを!」
 通じない。ダメージにはなったようだが決定打には至らず、ジェノスクリームはスバルに向けて尾をくり出す!
 さすがに倒せるとは思っていなかったろうが、ここまですぐに立て直してくるとは予想外だったのだろう、驚愕するスバルに鋼鉄の尾が迫り――
「――――下だ!」
「――――――っ!?」
 気づけば、マスターメガトロンは思わず叫んでいた――スバルも驚きながらも反応、スライディングの要領で尾をかわし、そのままジェノスクリームの真下にすべり込み、
「ナックル――ダスター!」
 魔力を込めた直接打撃でジェノスクリームの腹に一撃。強烈な衝撃がジェノスクリームの巨体を真上に跳ね上げる!
 そして、スバルは落下するジェノスクリームの下から離脱しようとするが――
「――――――っ!」
 瞬間、今までのダメージからかヒザが抜けた。ふらつく彼女の真上にジェノスクリームが落下。彼女を押しつぶ――
「――――ちぃっ!」
 ――そうとした瞬間、飛び込んできたものがスバルの身体をかっさらい、ジェノスクリームの下から退避させる。
 そして――
「バカか貴様は!
 一体何を考えている!?」
 間一髪でスバルを救い出し、マスターメガトロンは彼女に向けて怒りの声を張り上げた。
「あんな程度の攻撃で、アイツが倒せると本気で思っていたのか!?
 力もないくせに、こんなところにしゃしゃり出てくるな!」
 鋭く言い放つマスターメガトロンだが――
「……ごめんなさい……
 でも……」
 謝罪の言葉に重ね――スバルは告げた。
「それでも……あたしはしゃしゃり出ます。
 『“力”があるかないかは関係ない。重要なのは“できること”があるかないかだ』――昔、師匠が言ってました」
「む………………っ!」
 強い意思を込めた視線を向けるスバルに、マスターメガトロンは思わずうめき――次の瞬間、二人の周りに砲弾が着弾、爆発を巻き起こす。
 体勢を立て直したジェノスクリームによるものだ。
「いい加減にしろよ……! この、ボロボロの半死人どもが!」
 その瞳は怒りに燃え、真っ赤に染まっている――ボロボロのボディでありながらこちらを手こずらせるマスターメガトロンに苛立っていたところへ、さらに戦う力など残っていないと思っていたスバルに逆襲され、完全に頭に血がのぼっている。
「もう知るか!
 ターゲットはもうひとりいるんだ! ひとりくらい消し飛ばしても――かまうまい!」
「何――――っ!?
 おい、ジェノスクリーム! やめろ!」
 上空で彼の言葉を聞きつけ、あわててブラックアウトが声を上げる――しかし、ジェノスクリームはかまわない。
「フォースチップ、イグニッション!」
 咆哮し、背中の連装砲の基部に備えられたチップスロットにデストロンマークの刻まれたセイバートロン星のフォースチップをイグニッション。その口を大きく開き、口腔内に砲門を露出させる。
 とたん、周辺のエネルギーがその砲門に向けて収束していく。これは――
(収束砲――!?
 なのはのスターライトブレイカーと同じ要領で、今までの戦闘で放ったビームの残滓を吸収しているのか!?)
「く…………っ!
 フォースチップ――」
 とっさにイグニッションしようとするマスターメガトロンだが――間に合わない。チャージを終えたジェノスクリームは大きく背をそらし――
「二人仲良く、消し飛べぇっ!
 ジェノサイド、バスター!」
 死の宣告と同時――巨大な閃光がマスターメガトロンとスバルに向けて放たれる!
「――――――っ!」
 回避は間に合わない。スバルは思わず顔を背け――
「――ちぃっ!」
 舌打ちする声と同時――自分に迫っていた閃光がさえぎられた。
「――ぐ、ぬぅ……っ!」
「ま、マスターメガトロンさん!?」
 彼女をかばい、その背にジェノサイドバスターを受けたマスターメガトロンによって。
「そんな……どうして!?」
 自分の参戦をうっとうしがっていたのに、なぜ守るのか――思わず声を上げるスバルだが、
「オレは…………最強だ……!」
 そんな彼女に答えるように、マスターメガトロンは苦痛に耐えながら言葉をしぼり出した。
「オレは、誰にも負けるはずがない、最強の戦士、マスターメガトロン……!
 そのオレが……」
 

「小娘ひとり守り切れないなど、あってたまるか!」
 

「フォースチップ、イグニッション!」
 咆哮し、マスターメガトロンはフォースチップをイグニッション。展開されたバックパックから射出された愛銃を手に取り、
「デス、マシンガン!」
 振り向きざまにデスマシンガンを斉射。放たれた銃弾の雨がジェノスクリームに降り注ぐ!
 さらに流れ弾が足元を破壊。これにはさすがのジェノスクリームもバランスを崩して転倒し、ジェノサイドバスターの光の渦の放出が停止する。
「フンッ、うっとうしい攻撃がようやく止んだか」
 吐き捨てるように言い放ち、マスターメガトロンは立ち上がるとスバルへと向き直り、告げる。
「おい、小娘。
 もうお前は下がっていろ――お前の小細工が通じないことは思い知っただろうが」
 しかし、スバルの答えは――
「……言ったよね? さっき。
 『それでも、あたしはしゃしゃり出る』って」
「お前、まだ――」
「あたしは!」
 口を開きかけたマスターメガトロンの言葉をさえぎり、スバルは彼の顔をまっすぐ見返した。
「あたしは……誰かを、何かを守れる自分になりたくて、今までずっとがんばってきた……
 マスターメガトロンさんはあたしを守ってくれた。だからあたしも、マスターメガトロンさんを守りたい。
 その守りたい人が傷ついてるのに……しぼりカスかも知れないけど、何かを出来る力が残ってるのに……!」
 

「下がってるなんて、絶対イヤだ!」
 

 その言葉に――応える存在があった。

 

「ぐぁ…………っ!」
 ビッグコンボイの強烈な一撃で両腕のブレードを粉砕され、レッケージは後方に押し戻される。
 バリケードとブロウルはキングコンボイによってすでに沈黙。描写もないままあっけなく叩き伏せられたふがいない仲間に文句のひとつも言いたくなるが――自分もそれどころではない。何とか体勢を立て直し、
「フォースチップ、イグニッション!
 アーマード、キャノン!」

 背中のチップスロットにセイバートロン星のフォースチップをイグニッション。腹部の砲門から特大のビームを放つが――
「そういう隠し武器は――」
〈Explosion!〉
 ビッグコンボイは紙一重でビームをかわし、手にしたシュベルトハーケンでカートリッジをロードしながらレッケージに肉迫し、
「至近で放て!」
〈Donner Schneider!〉
 繰り出した一撃が、レッケージを上空高く跳ね飛ばす!
 そして、ビッグコンボイはレッケージに背を向け――

「ジャスト――5分だ」

 その言葉と同時――レッケージは目を回しているバリケード、ブロウルの上に落下した。
「みんな、ケガはないよね?」
「あ、はい。おかげさまで……」
 尋ねるキングコンボイにシャリオが答え――突如、背後でエンジン音が鳴り響いた。
 振り向くと――戦闘指揮車が突然起動。外に持ち出していた機器をつないでいたコードを引きちぎり、走り出す!
「え!? あ、ちょっと!?」
 突然のことであわてて声を上げ――キングコンボイは見た。
 走り出した指揮車――その運転席が無人のままなのを。
「……おい、キングコンボイ……」
「うん……わかってる」
 声をかけてくるビッグコンボイに、キングコンボイはうなずき、告げた。
「4年前のあの日――“アレ”“あの人”が見つけた時、ボクもその場にいたんだから……」
 そして――つぶやく。

「――“トランステクター”が、起動した……!」

 

「オラオラオラぁっ!」
 咆哮し、飛び回りながら背中の連装砲を撃ち放つジェノスクリーム――対するスバルとマスターメガトロンはダメージも手伝ってまともな回避が出来ず、防御を固めてただ耐えるしかない。
「こ、このままじゃ……!」
「くたばるなら後にしろよ。
 ここで死なれると、守り切れなかったオレの格が下がる」
 さすがに弱音を吐くスバルに淡々と答えるマスターメガトロンだが、彼にとってもこの状況は最悪に近い。傷ついた身体ではデスマシンガンの狙いも満足につけられない。
「けど、このままじゃやられるだけだよ!
 何か……状況を動かす何かがないと!」
「だから自分で動かす、か?」
 スバルの言葉に、マスターメガトロンは冷静にそう聞き返した。
「そういうセリフはまともなコンディションの時に言ってくれ。
 今のオレ達では状況を動かす前に犬死だ――それならむしろ、何かがあった時に備えて“力”を蓄えろ」
 告げるマスターメガトロンだが、ジェノスクリームの砲撃は着実に彼らを追い込んでいく。
「フンッ、そろそろ限界か!?
 だったら――今度こそ、死ねよ!」
 そんな彼らに対し、ジェノスクリームは足を止め、ジェノサイドバスターの体勢に入り――

「ぶぎゃっ!?」

 無様な悲鳴と共に、その身体が宙を舞った。クルクルと空中できりもみ回転し、頭から――いや、顔面から地面に落下する。
「……ぅわぁ、車田落ち……」
 その光景を前に思わずスバルがつぶやき――そんな彼女の前に、ジェノスクリームを跳ね飛ばした“それ”は停止した。
 ビッグコンボイ達の元を走り去った――ジャックプライムが“トランステクター”と呼んだあの戦闘指揮車である。
「え……?
 何? この車……」
「無人……? トランスフォーマーか?
 ……いや、スパークの息吹を感じない。こいつは一体……?」
 突然現れたその指揮車を前に、スバルとマスターメガトロンが声を上げ――突然光が巻き起こった。視界のすべてを覆い尽くすほどの光が二人を飲み込んでいく!
「な、何!?
 魔法――!?」
「いや……違うな」
 光の中で、思わず声を上げるスバルに答えると、マスターメガトロンは頭上を見上げた。
 この光――そこに宿る“力”には覚えがある。虚空をにらみつけ、叫ぶ。
「一体何のつもりだ!?
 オレを復活させて、今度はコレか!
 答えろ――」

「プライマス!」

「えぇっ!?」
 マスターメガトロンの口から放たれたのは意外な名前――思わずスバルが声を上げると、

 ――星が動いている――

 落ちついた“声”が、静かにマスターメガトロンに答えた。

 ――運命のめぐり合わせが、新たな戦いの幕を開こうとしている――

「だからオレを起こしたのか!?」
 告げるマスターメガトロンに、プライマスの“声”は答えた。

 ―― マスターメガトロンよ……お前は先の戦いで“守りたいもの”を得た。
だからこそ――お前にしかこの役目は託せない。
“守りたいもの”を得ながら、それを受け入れられず、否定し、苦悩したお前だからこそ……
その大切さを誰よりも強く感じているはずの、お前だからこそ――

 その言葉と同時――周囲の光が渦を巻き始め、マスターメガトロンとスバルを包み込んでいく。
「この光……なんだか、すごくあったかい……」
「光が……オレの中に、入ってくる……!?」
 未知の感覚に戸惑い、スバルとマスターメガトロンがうめくと、そんな二人に“声”は告げた。

 ―― 力を与えよう。
心を重ねることで、無限の可能性を生み出す力を……
そして――その力で守り抜くのだ。
お前達の“守りたいもの”を――

 

 

 

 

 

――それぞれの、未来を――

 

 

 

 

 

「くそっ、何なんだ、こいつは……!」
 突然スバルとマスターメガトロンを包み込んだ光を前に、困惑しているのは当事者達だけではなかった。外でその様子を前にしたジェノスクリームもまた、何が起きているのか理解できずに困惑の声を上げるしかない。
「どうなってるんだ? こいつは?」
「知るか。
 内部をスキャンしようとしてみたが、センサーも通らない」
 なのはとの戦いを中断、舞い降りてきたブラックアウトにも尋ねるが、やはり答えは芳しくない。
「何が起きてるの? レイジングハート、プリムラ」
I can't analize.分析できません
《ぜんぜんスキャンできないよ。
 管理局ご自慢の最新センサーに換えたばっかりなのに……!》
 上空で尋ねるなのはにレイジングハートとプリムラが答えると、
《――――あ! 見て!》
 プリムラが声を上げた。見ると、彼女達の眼下で光の渦がゆっくりとほどけていく。
 そして――それは姿を現した。

 白を基調とし、明るめの青色――空色と赤色でアクセントを施したカラーリング。
 ジェノスクリームらよりも一回り大きな――ちょうど、マスターメガトロンらとほぼ同じくらいの、力強さを感じさせる体格。
 そして――ギャラクシーコンボイやビッグコンボイら歴代のセイバートロン星のリーダー達とどこか共通した意匠を持つフェイスガード――

 見たことのない、まったく新しいトランスフォーマーがそこに立っていた。
 

「マスターメガトロンさん達は……!?」
 しかし、光の中に消えたはずの二人や、戦闘指揮車の姿がない。そのトランスフォーマーの周囲を見回し、なのはがつぶやくと、
「心配ない」
 そのトランスフォーマーは静かにそう答えた。
 やはり聞き覚えのない声だが――
「オレ達なら……ここにいる」
「ま、まさか……!?」
 声が違っていても、その言葉の奥にある雰囲気は変わっていない――思わず息を呑み、なのははうめくようにつぶやいた。
「マスターメガトロンさん、なんですか……!?」
 しかし――その問いに、マスターメガトロンが宿っていると思われるそのトランスフォーマーは首を左右に振った。
「言ったはずだぞ、なのは。
 『オレ達は』とな」
「え………………!?」
 その言葉になのはが疑問の声を上げると――トランスフォーマーから新たな声が。
「あたしも……いるんですけど……」
「え、えぇ!?」
 発せられたのは間違いなくスバルの声――驚き、なのはが声を上げると、
「こら! 勝手に“代わる”な!」
 今度はマスターメガトロンの声だ――叱責の声を上げると、なのはに向けて告げる。
「このボディ……何か気づかないか?」
「え…………?」
 言われて、なのははそのボディを観察し――気づいた。
 脚部は先頭の運転席部。
 両肩は後輪と一体化したエンジン部。
 バックパックは最後尾のトランクスペース。
 両腕はスバルのナックルダスターと同様の、円筒形・回転式のエネルギー加速システムだ。おそらくビークルモード時に両肩のエンジン部と連動し、エネルギーの増幅を行うシステムなのだろう。
 つまりこのボディは――
「これ……さっきの指揮車!?
 まさか……これって、確か!?」
「やはり、“これ”が何なのか知っていたか」
 なのはの声に満足げにうなずくと、マスターメガトロンは続けた。
「そうだ。
 こいつは、お前らの持っていた“トランステクター”だ。
 プライマスめ、やってくれる――お前達の目の前で覚醒した“ひとり目”に、こんなイレギュラーをぶつけてくるとはな。
 何しろ――」
 

「本来“小娘のようなヤツ”がひとりで融合するはずのコイツに、オレのスパークまで放り込んでくれたんだからな」

 

「お、おい!? ジェノスクリーム!」
「わかっている!」
 思わず声を上げるブラックアウトに、ジェノスクリームは苛立たしげに答えた。
「あの娘……おそらくは今の光の仕業だろうが……覚醒したようだな」
「くそ…………っ!
 “ゴッドマスター”のお出まし、ってことか……!」
 ジェノスクリームと共にブラックアウトがうめくと、
「そうか……
 小娘のような“適格者”のことは、“ゴッドマスター”と呼称するのか」
 マスターメガトロンはそんな彼らの驚きなど意にも介さない。むしろ彼らの会話から情報を拾い、納得してうなずく。
「おい、どうする?」
「まぁいい。捕獲対象が変化するだけだ」
 思わず尋ねるブラックアウトに、ジェノスクリームは冷静にそう答えた。
「“適格者”二人、しかもそのうちひとりはトランステクターまで手に入れた――獲物としては上々だ。
 どうせ、覚醒したてで力もろくに発揮できまい。二人がかりで叩きつぶすぞ」
「……とか言ってますけど」
《相変わらず、ずいぶんとこちらをなめてくれているな》
 今はスバルが“表”のようだ――告げるその言葉に、マスターメガトロンは念話でそう答える。
《なら……教えてやろうじゃないか。
 自分達が、誰を相手にしたのかを、な》
「はい!」
 マスターメガトロンに答え、スバルはトランスフォーマーとなった自らの身体でかまえ――
「って、あたしが“表”のままでいいんですか?」
《仕方あるまい。
 現状では、機動管制はともかく、メインの攻撃管制は完全にゴッドマスター側に握られているようだからな。ここは貴様に任せる以外にない》
 ため息まじりに――念話で「ため息」というのもおかしな話だが――答え、マスターメガトロンは気を引き締め、
《それより、今はヤツらを片づけることを考えろ!》
「は、はい!」
 答え、スバルがジェノスクリームとブラックアウトへとかまえ――
「――いっく、ぞぉぉぉぉぉっ!」
 宣言と同時、二人に向けて跳躍、突撃する。
 そのままの勢いで拳を繰り出すが――ジェノスクリームもブラックアウトもあっさり回避。間合いを取って散開する。
「あ、あれ?」
《バカ! 何やってる!》
「だ、だって……」
 マスターメガトロンの叱責に、スバルは困ったように答えた。
「ローラーブーツがないから、スピードが……」
《ちぃ……っ!》
 うめくスバルに答え、マスターメガトロンはシステムをチェックし、
《……こいつだ!
 レッグダッシャー、アクティブ!》
 マスターメガトロンの言葉と同時――脚部後方に収められた前輪部がカカトの部分を支点に展開された。そのまま足の裏に装着され、ダッシュ用の脚部ローラーとなる。
《これで文句ないだろ!
 ついでに、貴様のデバイスの力も加えてやれ――“やり方”はわかるな!?》
「はい!」
 マスターメガトロンに答え、スバルはジェノスクリームへと向き直り、
「《トレース――ローラーブーツ!》」
 その言葉を合図に、両足の周囲に光のラインが走った。それは複雑な軌道を描き――スバルのローラーブーツをやや大きめに描き出した。次いで、空間に描き出されたその図形が縮小、両足に溶け込むように消えていく。
 とたん、両足に展開された“レッグダッシャー”のタイヤが一斉に回転を始めた。スバルの意のままに――まるでスバルのローラーブーツそのものになったかのように操ることが出来る。
 そして、スバルはジェノスクリームに対してクラウチングスタートの姿勢をとり、
「今度こそ――いっきまーすっ!」
 その言葉と同時――その姿が消えた。
 いや――爆発的な加速によって一瞬にしてトップスピードまで加速。ジェノスクリームの視界から消えたのだ。
 そして――
《これで――》
「どうだぁっ!」

 渾身の一撃が、ジェノスクリームを殴り飛ばす!
「ジェノスクリーム!
 てめぇ!」
 対し、ブラックアウトがこちらに狙いを定めるが――
「させん!」
 これにはマスターメガトロンが反応した。とっさにスバルと代わって“表”に出ると素早く後方に跳躍、ブラックアウトのプラズマ砲をかわし――
「どわぁっ!?」
《ぅわぁっ!?》
 レッグダッシャーのローラーに足をとられた。バランスを崩し、盛大に転倒。後頭部を強打する。
「い、いったぁ……!
 マスターメガトロンさん!」
《こんなバランスの取れない足で戦ってる貴様が悪い!》
 ダメージは二人で共有しているようだ――“表”に戻り、思わず声を上げるスバルだが、マスターメガトロンはむしろ逆ギレした。ムキになって反論する。
「へっ、仲間割れかよ!?」
 そんな二人に言い放ち、ブラックアウトがエネルギーミサイルを放ち――
「させない!」
 その一撃が突然阻まれた。
 飛来した、多数の桃色の魔力弾によって。
 これは――
《なのはか!》
「はい!」
 マスターメガトロンの念話に対し、上空でレイジングハートをかまえたなのはが力強くうなずく。
「二人とも、今のうちに!」
《おぅ!
 やるぞ、小娘!》
「は、はい!」
 告げるなのはの言葉にマスターメガトロンが答え、スバルもそれに同意して身を起こす。
「はんっ! 息の合ってない貴様らなど!」
 咆哮し、エネルギーミサイルとプラズマ砲を同時に斉射するブラックアウトだが――
「させないよ!」
 なのはのブリッツシューターがエネルギーミサイルを迎撃。スバルとマスターメガトロンもプラズマ砲をかわしてブラックアウトへと突撃し――
「せぇいやぁぁぁぁぁっ!」
 気合の入ったスバルの咆哮と共に、叩きつけられた拳がブラックアウトをブッ飛ばす――芸術的な放物線を描き、ブラックアウトの黒い巨体がジェノスクリームのとなりに落下する。
 そして――
《小娘! 思い切り撃ちまくれ!》
「えぇっ!?
 でも、あたし、射撃は――」
《照準ならオレがやってやる!
 遠慮なく撃ちまくれ!》
「は、はいっ!」
 マスターメガトロンに答え、スバルはブラックアウトとジェノスクリームから一旦距離をとり――両足、そして両肩にも内蔵された火器の数々が展開。強烈なビームの雨がジェノスクリームらに降り注ぐ!
《さて……慣らしはこのくらいでいいか》
「ですね」
 そして、告げるマスターメガトロンにスバルがうなずき、二人は身を起こすジェノスクリームとブラックアウトへと向き直ると、スバルが右手を真横にかざし――告げる。
「《トレース――リボルバーナックル!》」
 その言葉を合図に、右腕の周囲を光の筋が駆け巡った。先ほどローラーブーツの能力を模倣トレースした時と同様に、今度はスバルのリボルバーナックルを描き出した。やはり先と同様に右腕に溶け込んでいく。
 右腕のエネルギー加速リング“アクセルギア”が高速回転、“力”を高めていく中、二人は高らかに宣告した。
「《とどめの一撃――全力全開!》」
 

「《フォースチップ、イグニッション!》」
 スバルとマスターメガトロンの咆哮が交錯し――二人のもとにセイバートロン星のフォースチップが飛来した。そのまま、マスターメガトロンのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
 それに伴い、マスターメガトロンの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
 二人に告げるのはトランステクターのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
 Final break Stand by Ready!〉

 強烈なエネルギーが周囲で渦巻く中、制御OSが告げる――身がまえた二人の目の前に環状魔法陣が展開され、その中央、そして同時に右拳にも魔力スフィアが形成される。
 そして――
《猛撃――》
「必倒ぉっ!」

「《ディバイン、スマッシャー!》」

 右拳を環状魔法陣中央のスフィアに叩きつけた。二つのスフィアの魔力エネルギーが炸裂、強大な魔力の奔流となってジェノスクリームとブラックアウトに襲いかかり――爆裂する!
 強烈な一撃を受け、前のめりに倒れ込む二人――さらに彼らの周囲でくすぶっていたエネルギーが、とどめの大爆発を巻き起こす!
 しかし――
「ジェノスクリーム!」
「心配するな……まだやれる!」
 それでも撃破には至らない――その事実が彼らの実力を物語っていた。うめくブラックアウトに答え、ジェノスクリームが身を起こすが、
「ムリをするな!
 今のオレ達のダメージでは、これ以上の任務続行は不可能だ!」
 そんなジェノスクリームを抑えつけ、ブラックアウトは背中のローターを展開。ジェノスクリームを抱えたまま上空に離脱し、ワープゲートを展開する。
「レイジングハート!」
《逃がしちゃダメ!
 どうしてあの子達を狙ったのか、聞き出さなきゃ!》
〈All right.〉
 だが、なのはもみすみす逃がすつもりはない。プリムラと共に告げる声にレイジングハートが答える。
I make them faint by intermediate range guuuery.中距離砲撃によって昏倒させます――Master!〉
「――――――っ!?」
 いつも冷静なレイジングハートの声が突然悲鳴に変わった。彼女からの情報を受け取り、見下ろしたなのはの視線の先で、スバルが――彼女の一体化したマスターメガトロンがその場に苦しそうにうずくまっている。
《どうした、小娘!?》
「なんだか……急に、力が抜けて……!」
 声を上げるマスターメガトロンにスバルが答え――その身体が光に包まれた。一瞬の間をおき、スバル自身とトランステクターのビークルモードである戦闘指揮車に別れて大地に叩きつけられた。
《ど、どうしちゃったの!?》
「――――――っ!
 それより!」
 思わずプリムラが声を上げ――我に返ったなのはが振り向くが、すでにブラックアウトらはワープゲートを通過。彼女の目の前で、ワープゲートは静かに閉じられていった。
 

「はぁぁぁぁぁっ!」
「ムダなことを……」
 咆哮と共に斬りかかるフェイトだが――やはりショックフリートには届かない。バルディッシュに生み出された光の刃は、空間に溶け込んだショックフリートを虚しくすり抜ける。
「こいつ……! さっきから消えてばかり……!」
「消えてはいないだろう?」
「さっきから、ずっとお前達の目の前にいるだろう」
 舌打ちするフェイトに対し、空間に溶け込んだいくつものショックフリートが淡々とそう答える。
「しかもこちらからは攻撃していない」
「放っておいて、仲間を助けに行くことも出来るだろう?」
「こっちがみんなの援護にここを離れれば、背中から撃つつもりなんと違う?」
「やれやれ、信用のないことだ」
 負傷したスプラングをかばいながら答えるはやての言葉に、ショックフリートが苦笑まじりにつぶやき――
「………………む?」
 その表情が一変した。
「………………やれやれ、任務失敗か」
「何やて?」
「どういうこと!?」
「ここでオレがお前達を足止めする理由もなくなった、ということだ」
 はやてとフェイトに答え、ショックフリートの幻影は上空で集結。単体のショックフリートとして実体化する。
「今回はお前達の勝ちだ。
 だが――またいずれ、まみえる事もあるだろう――」

“同じ落とし物”を追う者として、な……」

「――――――っ!」
「願わくば――その時は、こちらが全力で戦える任務内容であってほしいものだ」
 かけられた言葉に、はやてが思わず目を見開く――そんな彼女にかまわずそう告げると、ショックフリートは再び空間に溶け込み、今度は完全にその姿を消していった。
「…………八神二佐」
「わかっとる……」
 つぶやくスプラングに、はやては真剣な表情で答えた。
「あいつ……ぜんぜん本気で戦っとらへん……
 自分を空間と同化させることで、攻撃できなくなる代わりに相手からの攻撃も受けつけない――自分の特性を最大限に活用して、私達を足止めすることだけを考えて戦っとった……
 それに……」
 そして――虚空を見つめ、つぶやく。
「アイツのあの物言い――間違いあらへん。
 アイツらも“アレ”を追ってて……」

「私達も“アレ”を追ってることを知ってるってことや……」

 

「撤退!?
 どういうことだ、てめぇ!?」
 突然入った無線は撤退指示――リイン、シグナルランサーと対峙したまま、ボーンクラッシャーは思わず声を上げ――
「スキあり!」
「おっと!
 誰がスキありだって!?」
 そんな彼にシグナルランサーが仕掛けた。繰り出された槍をかわし、ボーンクラッシャーは逆にクローアームでシグナルランサーを弾き飛ばし、
凍てつく足枷フリーレン・フェッセルン!》
「なんの!」
 リインの仕掛けた凍結系の拘束魔法をも回避する。
《むぅ! 悪い子は素直に捕まるです!》
「だぁれが素直に捕まるか、このチンクシャ!」
《ちん……っ!?
 むーっ! リインはチンクシャなんかじゃないです!》
 ボーンクラッシャーの言葉に、リインは顔を真っ赤にして反論し――
《って、あぁっ! 待つですぅ!》
「ヤなこったぁっ!」
 そのスキに、すでにボーンクラッシャーは逃亡の途についていた。声を上げるリインに言い返し、そのままビークルモードにトランスフォームし、走り去っていってしまった。
 

「どうする? こいつら」
「当然、捕獲でしょ?」
 目の前で完全に目を回しているバリケード、ブロウル、レッケージの3人を前に、尋ねるビッグコンボイにキングコンボイはあっさりとそう答える。
 この3人を捕縛し、尋問すれば今回の戦闘の目的もハッキリするだろう――そう考える二人だったが、
「そうはいかない」
「――――――っ!?」
「何者だ!?」
 突然の声に振り向き――二人の前に、実体化したショックフリートが姿を現した。
「新手!?
 この人達の仲間なの!?」
「まぁ、そんなところだ」
 キングコンボイの問いに答えると、ショックフリートはツールボックスから取り出した手榴弾のようなもののピンを抜き――“レッケージ達に向けて”放り投げる!
「こいつ――!?」
「口封じのつもりか!?」
「違うな」
 驚くキングコンボイとビッグコンボイにショックフリートが答え――手榴弾が炸裂した。レッケージ達の周りに“ベルカ式魔法陣を描き出す”!
「魔法!?」
「こいつら……一体!?」
 声を上げる二人の前で、魔法陣は輝きを増し、レッケージの姿が消えていく。これは――
「転送、魔法――離脱させた!?」
「魔法というものがあるとは、便利な時代になったものだな」
 キングコンボイの言葉に答えると、ショックフリートは再び上空に飛び立ち、
「また会おう、コンボイ達よ」
 そう告げて――空間に溶け込み、ショックフリートもまた離脱していった。
 

「マスターメガトロンさん!?」
「心配するな。
 どうやら――トランステクターはゴッドマスターの融合が解かれると自動でビークルモードに戻るシステムのようだ。
 トランスフォーム!」
 声を上げるなのはに答え、マスターメガトロンは改めてトランスフォーム。先ほど見せたロボットモードとなってその場に立ち上がる。
 見ると、先程とボディのカラーリングが違う――青かった部分が色あせ、グレーになっているが、今はそんなことを気にしていても意味がない。マスターメガトロンはスバルの前にひざまずき、
「おい、小娘」
「す、すみませぇ〜ん……」
 当のスバルは目を回しているだけだ――どうやら心配はいらないようだ。
「問題なし、か……どうやら、融合が解けたのは小娘の体力切れが原因のようだな。
 おい、そっちは大丈夫か?」
 息をつき、ティアナへと向き直るマスターメガトロンだが――
「――――――っ!」
 そんなマスターメガトロンに対し、ティアナはアンカーガンの銃口を突きつけた。
「マスター、メガトロン……!
 10年前……あなたのせいで、この世界は!」
「…………そうか……
 ……貴様も、オレの“罪”の犠牲者のひとりというワケか……」
 憎しみの込められた視線を向けるティアナの言葉に、マスターメガトロンは息をつき――
「待ってよ……ティア……」
 そんなティアナを、身を起こしたスバルが止めた。
「マスターメガトロンさんは……あたしと一体化して、戦ってくれた……
 10年前とは、違うよ……」
「そんなこと……信じられるワケ……!」
 スバルの言葉に、ティアナは苦々しげにうめき――

「その話は……また今度にしようか」

 言って、なのはが3人の間に割って入った。
「ランスター二等陸士はケガしてるし……二人も疲れきってるみたいだし。
 まずはゆっくり休んで、ケガを治して――それからにしよう」
「…………フンッ、いいだろう」
 なのはの言葉にマスターメガトロンがうなずき――

「なのは……さん……」

 なのはを前にして、スバルは思わず声を上げていた。
「ん………………?」
「あ、いえ……
 高町なのは、一等空尉!」
 振り向くなのはの姿に、スバルはあわてて姿勢を正して訂正するが、
「一尉はあくまで“相当”。私は嘱託だしね。
 それに……『なのはさん』でいいよ。みんなそう呼ぶから。
 呼び捨てにする人もいるしね」
「………………フンッ」
 スバルに答え、こちらを見上げてくるなのはに対し、マスターメガトロンは鼻を鳴らしてそっぽを向く。
 そんなマスターメガトロンに苦笑し、なのははスバルへと向き直り、
「4年ぶりかな……
 背、伸びたね――“スバル”
「え………………?」
 その言葉に――スバルの動きが止まった。
 自分が彼女と出会ったのは、4年前のあの日――炎の中での、ほんのわずかな時間のことだったのに――
(覚えていて……くれたんだ……)
「また会えて……うれしいよ。
 それに――」
 優しく告げて、なのははティアナと、そしてマスターメガトロンへと順に視線を向け、
「守れたね、ちゃんと」
「………………っ!」
 その言葉に――スバルは思わず息を呑んだ。
(…………そうだ……
 守れたんだ……あたしは……!)
 誰かを、何かを守れるような自分になりたい――そう願って走り続けてきた自分の道を、なのははちゃんと見ていてくれた。

 感極まり、スバルの目に涙があふれ――

 今まで抱えていた多くのものが、一気にあふれ出して――
 

「…………ぅ……
 ……ぅわぁぁぁぁぁっ!」
 気づけば、スバルはなのはの胸元に顔をうずめ、大声を上げて泣いていた。

 

 

 

 

 

 時を同じくして――

 

 

「……え…………!?」
 驚きに目を見開き、かがみはうめくように声を発した。
 あちこちで火の手の上がる街並み――
 周囲に散らばる、巨大なガレキの数々――
 そんな中、自分達の目の前で――
 

 青色の巨体を持つ、一体の巨大なトランスフォーマーが、自分達に向けて落下してきたガレキを受け止めてくれていた。
 

 一体何が起きたのか――思考が追いつかず、かがみは疑問を言葉にまとめられない。
 見れば、抱き合って恐怖に身を固めていたつかさとみゆきも事態を呑み込めず、不思議そうに周囲を見回している。
 一方、そんな3人を守った“青いトランスフォーマー”は受け止めたガレキを脇に放り出し、
「みんな……大丈夫?」
 尋ねるトランスフォーマーの声に、かがみは思わず息を呑んだ。
 聞き間違えるはずがない。
 この声は――

 

 

 

 

 

 

「………………こなた……!?」

 

 

 

 

 

ミッドチルダで――

 

 

そして地球で――

 

 

 

 

この日

 

 

 

彼女達を中心として

 

 

 

 

本当の意味で、運命が動き始めた。


次回予告
 
ギガストーム 「我こそは! アニマトロスが誇るバンディットロンが首魁、暴虐大帝ギガストーム!
 オレ様に逆らうヤツは、正義も悪も喰らい尽くしてやるぜ! がーっはっはっはっ!」
なのは 「だからぁっ! ギガストームさんも出番が早いですよ! もっと後ですよ!
 待ちきれないからって予告ジャックしないでください!」
ギガストーム 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第3話『機動六課・発足〜始まりは4年前〜』に――」
二人 『ゴッド、オン!』

 

(初版:2008/04/12)