「機動六課、か……」
〈えぇ〉
 ウィンドウに視線を向けることもなく、目の前の端末のモニターをにらみつけたまま告げる“彼”に、通信してきた女性――時空管理局本局所属、総務統括官リンディ・ハラオウンは余計な言葉で飾ることなく率直にうなずいた。
「あのひよっこが、もう部隊持ちねぇ……
 まぁ、スバルの上官としちゃ、ある意味適任な人材ではあるけどさ」
〈どうする?
 あの子を守りたいのなら、今からはやてさんに言ってねじ込んでもらうことだって……〉
「必要ねぇよ」
 尋ねるリンディに、“彼”はあっさりと答えた。大きく背伸びし、続ける。
「はやてが動いたとなれば、あの守護騎士どもがくっついていくのは目に見えてる。
 スバルを守るための戦力としては申し分ねぇよ」
 言って、「そういえばスバルってアイツらと会ったことねぇよな……」などと思い出すが、気にせず続ける。
「ずっとそばにいてやることだけが、必ずしも“守る”ことにつながるとは限らない――この10年間で学んだことだ。
 アイツはひとりじゃない。アイツを直接守るのは周りのヤツに任せて、オレはアイツを危険にさらしかねない“火種”の始末に奔走させてもらうさ」
〈そう。
 けど……少しは会ってあげた方がいいわよ。
 スバルさんにも……はやてさん達にも〉
「はんっ、はやてがオレに会いたがるもんかよ。
 模擬戦でトラウマものの“負かし方”したのは他でもない、このオレだぞ」
〈……そう思うのなら、なおさらフォローが必要だと思うんだけど〉
「人はトラウマを乗り越えてより強くなるものだ。
 オレがフォローしてやることじゃねぇよ」
〈……だからなの? “あんな勝ち方”したのは〉
「んにゃ。心の底から楽しませてもらったよ」
〈言ってることに矛盾がありすぎよ!?〉
「おかげでスバルの局入りを押し切られた屈辱を晴らせたよ」
〈しかも八つ当たり!?〉
 思わずツッコミの声を上げ――リンディはなおも「ちゃんとフォローしておくように」と念を押して通信を終えた。
「機動六課、か……」
 沈黙の戻った部屋の中――“彼”はそうつぶやいて端末に視線を戻した。
「…………心配しなくても、フォローならちゃんとしてやるよ」
 つぶやく“彼”の見ている映像には――

“こう”なっちまった以上、ほっとくワケにはいかなくなったからな……」

 マスターメガトロンの宿ったトランステクターにゴッドオンした、スバルの姿が映し出されていた。

 

 


 

第4話

機動六課・集結
〜それぞれの決意〜

 


 

 

「とりあえず……いろいろあったけど、無事合格できて何より、かな」
「まぁ、ね……」
 結局あの場は、はやてへの返事は一時保留ということで解散となった――中庭で息をつき、つぶやくスバルにティアナがうなずく。
 そして、話題に上るのは当然――
「で、さ……
 新部隊の話、ティアはどうする?」
「アンタは行きたいんでしょ?
 なのはさんはアンタの憧れなんだし……同じ部隊なんて、すごいラッキーじゃない」
「……そう、なんだけどさ……」
 あっさりと返してくるティアナの言葉に、スバルは視線を落とし、
「けど、それを言い出したら、ティアだって。
 そりゃ、マスターメガトロンさんのことは気に入らないかもしれないけど……アリシアさんも参加するんだよ? 新部隊」
「……うん……
 けど……」
 スバルの言葉にうなずくと、ティアナは芝生の上に寝転がって青空を見上げ、
「遺失物管理部の機動課って言ったら、普通はエキスパートとか、特殊能力持ちが勢ぞろいの生え抜き部隊でしょ?
 そんなトコに行ってさ、今のあたしが、ちゃんと働けるかどうか……」
 つぶやき、ため息をつくティアナだったが――
「………………?」
 ふと、そんな自分をスバルが楽しげに見下ろしているのに気づいた。
「……何よ? 気持ち悪い」
「えへへ……」
 ティアナの問いに、スバルは笑顔で拳を握りしめ、
「そんなことない! ティアもちゃんとできるって!
 ……って、言ってほしいんでしょ?」
「………………」

間。

「痛い痛い痛い! ギブギブ!」
「何よそれはっ! 言ってほしくなんかないわよっ! バカ言ってんじゃないわよっ!」
 スバルの尻を思い切りつねり上げ、悲鳴の響く中ティアナはスバルに言い放つ。
 とりあえず、スバルを放して悲鳴が止む――フンッ、とそっぽを向くティアナだったが、
「……ねぇ、ティア」
 そんなティアナに、スバルは今度は優しく呼びかけた。
「あたしは知ってるよ。
 ティアはいつも、口ではふてくされたこと言うけど、ホントは違うんだって。
 フェイトさんにだって、内心ではライバル心メラメラでしょ?」
「ら、ライバル心とか、そんな大それたもんじゃないけど――」
「こないだ体重計撃ち抜いてたティアにとって、フェイトさんのあのスタイルはライバル心かき立てるよねー」
「………………」

間。

「く、苦しい苦しい苦しいっ! ギブギブギブ!」
「あんたは、またそーやって人の気にしてることをぉっ!」
 今度はキレイなキャメルクラッチ――スバルの上にのしかかり、そのあごをつかんでえび反り状に固め、ティアナは再び怒りの声を張り上げる。
 そして、解放されたスバルがぐったりと大地に突っ伏すのを見下ろし、告げる。
「まったく……何言い出すかと思えば。
 知ってるでしょ? 執務官は、あたしの夢なんだから……勉強できるならしたい、って気持ちはあるわよ」
「だったらさ……やろうよ、ティア!」
 ティアナの言葉に、復活したスバルはティアナに詰め寄り、
「あたしはなのはさんにいろんなこと教わって、もっともっと強くなりたい。
 ティアは新しい部隊で経験積んで、自分の夢を、最短距離で追いかける!」
「…………そうね」
 スバルの言葉に、ティアナの口元に笑みが浮かび――
「それに、当面まだまだ、『二人でやっと一人前』扱いなんだからさ。
 まとめて引き取ってくれるのうれしいじゃん♪」
「………………」

間。

「い、痛い痛い痛い痛いっ! ギブギブギブギブ!」
「そ、れ、を、言、う、な!
 メチャクチャムカツクのよ! 何が悲しくてあたしはどこ行ってもあんたのコンビ扱いなのよ!」
 もはやどんな技か判別不能――スバルにのしかかって右手をひねり上げ、空いている右手でスバルの頬をつねり、ティアナは三度言い放つ。
「まぁ、いいわ。
 うまくこなせれば、あたしは夢への短縮コースだし。
 あんたのお守りはごめんだけど、ガマンするわ」
 スバルを解放し、ティアナは息をついてそう告げて――
「うんうん、そーだよね♪
 あたしもまだまだティアと一緒にがんばりたいし♪」
「………………」
(それって……結局あたしと一緒なのが一番、ってことよね……)
「い、言っとくけど、あくまであたしの夢のためなんだからね!」
 スバルのその言葉に、ずっと面倒を見てきた身として思わず心が揺れ動いてしまう――内心の動揺を打ち消すように、ティアナはスバルに改めて念を押すのだった。
 

「…………あの二人は、まぁ、入隊確定かな?」
「だね」
 その様子を舎内の廊下から見守り、つぶやくはやてになのはがうなずく。
「なのはちゃん、うれしそうやね」
「そりゃあ、ね……」
 はやての問いに笑顔でうなずき、なのはは再び眼下のスバル達に視線を戻した。
 思い出すのは、スバル達から聞いた、先日の戦いにおける彼女達の視点からの顛末について――
「スバル達の話が本当なら……あの二人はディセプティコンに名指しで狙われた、ってことになる。
 あの人達が“レリック”も狙ってる以上、ディセプティコンのことは私達も他人事じゃないし……目の届くところにいてくれるのは大きいよ。
 それに二人とも、教え甲斐がありそうだし……今回は時間をかけて、じっくり教えられるしね」
 そう言うと、なのはは逆にはやてに尋ねた。
「新規のフォワード候補は、あと二人だっけ?
 そっちは?」
「二人とも別世界。
 今、シグナムが迎えに行っとるよ」
 はやてが答えた、ちょうどその時――
「なのは、はやて」
 ちょうどそこへ、リインを連れたフェイトやアリシアが戻ってきた。
「ほんなら、次に会うのは、六課の隊舎やね」
《みんなの部屋、しっかり作ってあるですよ♪》
「うん」
「楽しみにしてる」
 告げるはやてとリインになのはとフェイトが答え――そんな二人にアリシアは自信たっぷりに告げた。
「何といっても、あたしのプロデュースだもんね!」
『………………』
 素直に楽しみにしていいものかどうか、思わず迷いを覚えるなのはとフェイトであった。

「なのは……私はもう予定もないから、一度帰ろうと思うんだけど……なのははどうする?」
「そっか……
 私ももう予定はないけど、一度教導隊の方に顔を出そうかな……」
 はやては六課発足に関する調整のために別の部署へ――残る3人で廊下を歩き、尋ねるフェイトになのはがこれからの予定を考えていると、
「あ、それより!」
 そんな会話の流れをぶった斬り、アリシアが声を上げた。なのはの前に回り込み、尋ねる。
「なのは……身体の具合、大丈夫?」
「………………っ」
「うん、平気平気。
 全然問題なし♪」
 アリシアの問いに、フェイトの身体が思わず強張る――そんな彼女のとなりで、なのはは満面の笑みでそう答える。
「ホントに? ムリしてない?」
「大丈夫だよ。
 心配性だなぁ、アリシアちゃんは」
「当然だよ。
 あたしは、みんなのお姉ちゃんなんだからね」
 あくまで笑顔のなのはに対し、アリシアが口を尖らせていると、
「………………見たところ、体調に異常はなし。
 至って健康体だぞ、なのはは」
 突然かけられた声に振り向くと、そこにはマスターメガトロンが立っていた。
「マスターメガトロンさん?」
「このボディのスキャナは実に優秀だな。
 メディカルチェックも、人間ひとりくらいなら数秒で終わりだ」
 声を上げるなのはに答えると、マスターメガトロンはアリシアに向き直り、
「で、だ……
 そんなことを尋ねるということは、こいつ、体調でも崩していたのか?」
「あ、う、うん……
 ちょっと、いろいろあってね……」
「………………?」
 なぜか言葉をにごすアリシアの言葉に首をかしげるが――すぐに気を取り直し、マスターメガトロンはなのはに告げた。
「…………まぁいい。
 それより、なのは。ここを去るなら……送ってやるが?」
「マスターメガトロンが?」
「聞きたいことがある。
 そして……オレが頼みごとをする相手は、この宇宙にはひとりしかいない」
 意外な提案に驚くフェイトにマスターメガトロンが答え――そして、なのはに告げた。
「八神はやてへの返答の参考にしたい。
 眠っていた10年間に――この世界がどうなったのかを教えてくれ」
 

 ミッドチルダ、中央ターミナル――そのエントランスホールに、ひとりの少年の姿があった。
 誰かを待っているのだろうか、初対面の者であれば誰もが目を惹かれるであろう見事な赤毛が特徴的なその少年は腕時計で時間を確認しながらせわしなく周囲を見回し――
「――――あ!
 お疲れさまです!」
 見つけた。桃色がかったブロンドをポニーテールにまとめた、陸士制服に身を包んだ女性――シグナムに対し、少年は声をかけて駆け寄り、
「私服で失礼します!
 エリオ・モンディアル三等陸士です!」
「あぁ。
 遅れてすまない――遺失物管理部、機動六課のシグナム・高町二等空尉だ。
 長旅ご苦労だったな」
 敬礼し、名を名乗る少年――エリオに答えると、シグナムは周囲を見回し、
「……もうひとりは?」
「はい。まだ、来てないみたいで……
 ……あの、地方から出てくる、とのコトですので、迷ってるのかもしれません。
 探しに行っても、よろしいでしょうか?」
「……うむ。
 頼んでいいか?」
「はい!」
 まったく、初々しいものだ――微笑ましさを感じつつ告げるシグナムの言葉に、エリオは元気よくうなずいて見せた。
 

「…………なるほど。
 10年前に発足した“新スペースブリッジ計画”はすでに第四次まで数え、現在ギャラクシーコンボイ達各惑星のプラネットリーダーは全員参加の状態か……」
「うん。何度かメンバーの交代もあったしね。最初出遅れたフレイムコンボイさんも、今では船団のひとつを指揮してる。
 一応、いくつか惑星を見つけたみたいだけど……今のところ、どこもテラフォーミングのための事前調査の段階かな」
 ビークルモードである戦闘指揮車形態で首都高速道路を走るマスターメガトロンの車内――コンテナ内部の指揮所スペースで、なのはは確認する彼にそう答えた。
「大帝達はどうしている?」
「メトロタイタンは引き続きギガロニアに残ってる。メガザラック――ザラックコンボイはさっき会ったからわかるよね?
 残り3人――“真スペースブリッジ計画”を立ち上げたギガストームとオーバーロード、それに巻き込まれたスカイクェイクの方は、結局なんだかんだでギャラクシーコンボイ達と共同で進めてるみたい。
 こっちは正規のチームじゃないから、頻繁に連絡を取り合ってるワケじゃないけど……たまにアルテミスがリインにメールをくれるくらいかな」
 続く問いに答えるのはアリシアだ。
 と――
「…………出たよ、なのは。
 フォワード候補、残りの二人」
 そこに声をかけてきたのはフェイトだ。積み込ませてもらっていた自分の車の端末から、なのはが訓練を受け持つことになる残りの二人――新規のフォワード候補のデータを呼び出す。
「ふーん……
 ホントにこの二人なんだね、フォワード候補」
「うん……
 まだ子供だから、ちょっと不安なんだけどね……」
 なのはのつぶやきにフェイトが答えると、マスターメガトロンもまた問題のデータにアクセスし、
「能力的には問題はなさそうに見えるが?
 …………む? 保護者は貴様か? フェイト・テスタロッサ」
「うん……いろいろあって、保護者として面倒を見てるんだ」
 そう答えるフェイトだが――マスターメガトロンはさらに気になるデータを見つけた。
「…………その上、所属予定分隊の隊長まで貴様か」
「まぁ、私の隊だし……一緒なら、少しは安心かな、って……」
 答えるフェイトの言葉に、マスターメガトロンはしばし沈黙し――
「…………過保護がすぎるぞ」
「…………自分でも、そう思ってるけど……」
 告げられた言葉に思わずフェイトは顔を赤くして――そんなフェイトの様子に、なのはとアリシアは思わず顔を見合わせ、苦笑した。
 

「ルシエさん! ルシエさーん!」
 相手の名を呼びながら、エリオは人ごみをすり抜け、ターミナル内を駆けていく。
「管理局機動六課新隊員の、ルシエさーん! いらっしゃいませんかー?」
 そんなことを続けながら、エリオはエスカレータ前にさしかかり――
「あ、はーい!
 わたしですー!」
 そんな彼に答える声があった。
「すみません、遅くなりましたーっ!」
 エスカレーターを駆け下りながら、こちらに向けて急ぐ、まだ幼い少女だ。
「ルシエさんですね?
 ボクは……」
 ともかく、自己紹介しようとしたエリオだったが――
「――きゃあっ!?」
 突然、少女が足を踏み外した。バランスを崩し、少女の身体は空中に投げ出され――
「――――――くっ!」
〈Sonic move!〉
 自分の腕時計が――いや、“腕時計を模したウェイトモードのデバイスが”告げるのと同時、エリオの姿がその場から消えた。
 爆発的な加速力によって瞬時に加速、少女のもとへと跳んだのだ。
 人ごみをすり抜け、倒れそうになった少女を受け止めてエスカレータの上まで飛び上がり――
「――って、ぅわぁっ!?」
「きゃあっ!?」
 着地の際にバランスを崩した。何とか少女をかばうものの、エリオはそのまま仰向けに倒れ込んでしまう。
「いてて……
 すみません、失敗しました」
「いえ……ありがとうございます、助かりました」
 倒れてしまったことを謝るエリオに、少女は身を起こしながら答え――
「…………ん?」
「………………?」
 ふと少女が何かに気づいた。見下ろす少女の視線を追ってエリオも視線を下げて――
「………………っ!」
 気づいた。
 彼女を支えるためにそえていた自分の手が――しっかりと彼女の胸を押さえていることに。
「あ、すみません。
 今どきますね」
「い、いえ、こちらこそ、ごめんなさいっ!」
 まだ幼い、という言い訳は通用しないだろうし、させたくもない――気にすることもなくエリオの上から降りる少女だったが、そんな彼女にエリオは改めて謝罪して――
「きゅう〜〜……」
「………………『きゅう』?」
 返ってきたのは少女の声ではなく、動物の鳴き声――思わずエリオが顔を上げるその前で、少女は自分の抱えていたカバンを開き、
「きゅくる〜っ!」
 その中から顔を出したのは、1匹の竜の子供だった。
「竜の、子供……?」
 エリオがつぶやくと、少女は彼へと向き直り、
「すみませんでした。
 エリオ・モンディアル三等陸士ですよね」
「あ、はい」
 エリオがうなずくと、少女は改めてフードを取り、
「初めまして。
 キャロ・ル・ルシエ三等陸士であります。
 それから……この子はフリードリヒ。私の竜です」
 名乗る少女――キャロの言葉に、フリードリヒと呼ばれた竜の子供は彼女の手の中に舞い降り、エリオに対し名乗るかのように鳴き声を上げた。
 

「ふーん…………」
 ミッドチルダ、クラナガン大学・考古学研究室――息をつき、研究室の中だというのに発掘用の作業服に身を包んだ女性は手元の書類へと視線を落とした。
 年のころなら20代。腰まで伸ばしたきれいな黒髪を首のすぐ後で束ね、前髪は左右に分けてカチューシャで押さえている、眼鏡をかけた知的美人、といった印象の女性である。
 その書類はの内容とは――
「…………『アスカ・アサギ研究員を、遺失物管理部機動六課スタッフとして採用する』ですか……」
「えぇ」
 目の前でうなずく“管理局からの使者”に対し、女性――アスカ・アサギはため息をついた。
「それはいいですけど……
 何も、本局の提督さんが、直接持ってこなくても……」
「気にしないで。
 今回の人事は、私にとっても他人事じゃないもの」
 つぶやくアスカに対し、目の前に座る“使者”、レティ・ロウランは笑顔で肩をすくめてみせた。
「とにかく、これで4月から晴れて機動六課の一員よ」
「ですね……」
 レティの言葉に、アスカはうなずいて息をつく。
「…………気が乗らない?」
「そういうことはないですよ。元々希望してたことですし。
 ただ……」
 尋ねるレティに答えると、アスカは軽く苦笑してみせて、
「すっかり、リニスさんに代わるアリシアちゃんのお目付け役になっちゃってるなー、と……」
「……仕方ない、といえば仕方ないわね。
 実際、あの子のノリを制御できるのはリニスさんとザラックコンボイと……キミしかいないんだもの。
 “彼”は止めるどころか、むしろ一緒になって暴走するクチだし……」
 アスカの言葉に苦笑を返し、レティは彼女にそう答える。
「まだまだ、のんびりできる日は遠いですね……」
機動六課むこうで、後任の人材育成でもしてみる?」
「そうします……」
 レティの言葉にそう答え、アスカは改めてため息をついた。
 

 そんな出逢いがそこかしこで繰り広げられている、その一方で――
「…………ヴィータちゃん、ザフィーラ。
 追い込んだわ」
 展開された結界の中――“湖の騎士”シャマルは探査魔法で目標の位置をつかみ、離れたところにいる仲間に告げる。
「ガジェットT型……そっちに3体!」
 

「…………来たな」
 シャマルの情報は正確だった――連絡からすぐに目標を視界に捉え、獣の姿をとっている“楯の守護獣”ザフィーラは静かにつぶやく。
 報告どおり目標は3体。彼らが“ガジェットT型”と呼ぶ、まるで薬のカプセルのような形の自律機械達は猛然とこちらに突っ込んできて――
「オォォォォォッ!」
 それをむざむざ通すザフィーラではない。咆哮と同時に得意魔法“鋼のくびき”が発動、発生した魔力の錐が、先頭の1体の展開したフィールドと衝突する。
 とたん、錐はガジェットの防壁によって魔力の結合を解かれ、分解されていく――が、それよりも錐が本体に届く方が早かった。あっけなく機体を打ち貫かれ、先頭のガジェットが爆発、四散する。
 その爆発に紛れ、残り2体のガジェットがザフィーラの脇をすり抜けていくが――
「でやぁぁぁぁぁっ!」
 その先には待ちかまえているのは“鉄槌の騎士”ヴィータ・ハラオウン――手にした愛槌“鉄の伯爵”グラーフアイゼンでガジェットの1体を思い切り殴り飛ばし、粉砕する!
 しかし、そんな彼女に対し背を向け、最後の1体は上空へと逃れ――
「はい、ご苦労さん♪」
 そんな言葉と同時――そのガジェットは真横からの強烈な衝撃によって粉砕されていた。
 そして――
「1体仕損じたな、ヴィータ。
 クロノやエイミィとよろしくやってる内になまったか?」
「うっせぇ!
 アイゼンのシュワルベフリーゲンで落とす予定だったんだよ!」
 最後のガジェットを粉砕し、舞い降りてくるのはヴィータのパートナートランスフォーマー、“撃砲の野獣騎士”ビクトリーレオ――彼の言葉に、ヴィータは思わず口を尖らせる。
 と――
「シャマル、残機確認」
 尋ねるザフィーラのパートナー、“鉄拳の騎士”ダイアトラスの問いに、シャマルは周囲をサーチし――
《対人型、対TF型、共に残存反応なし。
 全部つぶしたわ》
「そうか……」
 シャマルの答えに、ザフィーラはガジェットの残骸へと視線を向け、
「出現頻度も、数も、増えてきたな……」
「あぁ……
 動きもだんだん賢くなってきてる」
「おまけに、こいつら自身の性能もな」
 ザフィーラに答え、ヴィータとビクトリーレオもすぐ傍らに着地。シャマルやダイアトラスも合流してくる。
「でも、このくらいなら、まだ私達で抑えられるわ」
「そうだな……」
 シャマルの言葉にビクトリーレオがうなずくと、となりでヴィータがため息をつき、
「ド新人に任せるには、ちょっとメンドい相手だけどな」
「仕方あるまい。
 我らだけでは手が足らぬ」
「人手不足……」
 ザフィーラとダイアトラスが答えると、シャマルがそんな彼らに告げた。
「大丈夫……
 そのための、新部隊だもの……」
「はやての……」
 つぶやき――ヴィータは息をつき、訂正した。
「いや……
 あたし達の、新部隊……」
 

「機動六課、か……」
 まだ居場所の定まらない身の上だ。なのはを送り届けた後は気ままにぶらつくのみ――市街地のビルの上でヒマを持て余し、マスターメガトロンは誰に言うでもなくつぶやいた。
「実働専門に絞ることで、有事即応に特化させた――“守ること”に特化させた部隊、か……」
 つぶやき、脳裏に思い出されるのは10年前の、ユニクロンとの最終決戦。
 あの破壊神を止めるために、自分はその命を引き換えにしてデストロン・マトリクスを解放した。
 宇宙を守るために――ではない。
 自分を認めてくれた、ひとりの少女を守るために。
 そう、それはつまり――
「オレに、世界を守る意志などない。
 いや……そもそも、10年前のあの選択は、本当になのはを“守るため”の行動として正しかったのか……
 “守る”ということの、その意味すら……“守る”ことと“戦う”ことの違いすら、オレは理解できていない……
 そのオレを招くか、八神はやて……」
 つぶやき、マスターメガトロンはツールボックスからそれを取り出した。
 ウェイトモードのTF用デバイスカード――10年前、なのはに預けたオメガである。
 先ほどこれを返してもらった時、なのはが笑顔で告げた言葉が脳裏に再生される。
「…………『おかえりなさい』か……」
 静かに息をつき――夜空を見上げる。
 周囲がどう思っているかはともかく、彼女は――なのはは心から自分の帰還を喜んでくれている。
 ならば――
「……いいだろう。
 それならそれで……機動六課を利用してやる」
 その瞳に宿るのは、強い決意――
「機動六課で見つけてやる。
 “守る”こと――その、オレなりのあり方を……」
 

 同時刻、セイバートロン星中央行政府、総司令官室――
〈久しぶりだな、スターコンボイ〉
「あぁ」
 モニターに映る通信の相手に、セイバートロン星に戻ってきたスターコンボイは静かにうなずいた。
「元気そうで安心したぞ、スカイクェイク」
〈実際にお前と顔を合わせたのが6年前の帰港時、通信で言葉を交わしたのが4年前、か……〉
 スターコンボイの言葉に答え、通信の相手――地球デストロンのリーダー、恐怖大帝スカイクェイクはニヤリと笑みを浮かべ、
〈後は、もっぱらお前んトコの“嫁さん”が応対してくれてたからな〉
 その瞬間――室内に轟音が響いた。
 出所はスターコンボイのデスク――スカイクェイクの言葉に、スターコンボイがイスごとひっくり返ったのだ。すぐに立ち上がり、スカイクェイクに向けて声を張り上げる。
「な、ななななな、何をいきなり!?」
〈ん? 違うのか?〉
「違うっ!」
 聞き返すスカイクェイクに、スターコンボイは全力で反論した。
「フィアッセはパートナーだ!
 嫁とか妻とか、そういう相手では断じてないっ!」
〈………………
 オレ、『フィアッセ』なんて一言も言ってないんだが?〉
「ぐ………………っ!」
 笑みを浮かべるスカイクェイクの言葉に思わずうめく――初歩的なトリックに引っかかってしまった自分に腹が立つ。
〈そうか……お前ら、結局“まだ”なワケか。
 いい加減腹を括れよ、このチキン野郎〉
「うるさいっ!」
 スカイクェイクに言い返し、スターコンボイはイスを起こして座り直した。もちろん頭を抱えながら。
「しばらく顔を見ない間に、ずいぶんとぶっ飛んだ性格になったな……」
〈“身内”が“身内”だからな。
 あんな連中と10年もつるめば、それなりになるさ〉
 うめくスターコンボイに答え――意地の悪い笑みを浮かべていたスカイクェイクは唐突に表情を引き締めた。
 公私のけじめをハッキリさせるスカイクェイクが、マジメな話題に移行する合図だ――スターコンボイも表情を引き締め、スカイクェイクの言葉を待つ。
 スカイクェイクからの言葉はない。10秒、20秒……そこから察し、スターコンボイは口を開いた。
「重要な……案件か」
〈…………あぁ。
 ドレッドバスターに通すべき話ではあるんだが――ヤツに話せば即座に表ざたになりかねないからな。
 できることなら、水面下で打てるだけの手を打ってから表に出したい話だ〉
「なるほど。
 そのための口ぞえを、オレに頼みたいということか。
 確かにヤツは優秀だが、いかんせんマジメがすぎる――こういう“裏”は周りがフォローしなければならん、か」
〈そういうことだ〉
「だが――」
 うなずくスカイクェイクに答え――スターコンボイは告げた。
「もう、ヤツの名は“ドレッドバスター”ではないぞ」
〈何…………?
 メガザラッ……ザラックコンボイみたいに改名したのか?〉
「いや。
 スキャニングのし直し――“リスキャニング”を行い、それに伴い名を改めた」
 聞き返すスカイクェイクに、スターコンボイはうなずき、続ける。
「地球に対しては魔法のことを極秘にしている関係上、ミッドチルダの技術をおおっぴらによその星で使うワケにはいかないからな。
 そしてそれは――たとえ宇宙連合のお膝元であろうと、セイバートロン星も例外じゃない」
〈…………なるほど〉
 それだけで、スカイクェイクはすぐに気づいた――思わず苦笑し、告げる。
〈そういえば、ヤツはボディそのものにカートリッジシステムを装備してたな〉
「そういうことだ。
 カートリッジシステム自体は使わなければいいが――メンテナンスとなるとそうもいかん。
 結局、自分の身体に難儀してリスキャニング、ボディのカスタマイズを行ってカートリッジシステムを排した。今のヤツはドレッドバスター改め“ドレッドウィング”だ」
 そう告げて――スターコンボイは尋ねた。
「それで……そのドレッドウィングに万全を期した上で話したいこと、とは?」
 と――その言葉に、スカイクェイクはキョトンとして聞き返した。
〈おいおい……まだ気づいてないのか?〉
「何………………?」
〈オレ達は――“リアルタイムで通信してる”んだぞ〉
「――――――っ!」
 その言葉に――スターコンボイは気づいた。
 リアルタイムで通信している――それはつまり、時差が生じることなく通信できる位置にスカイクェイクがいることを示している。
 と、いうことは――考えられる答えはひとつしかない。
「貴様ら……戻ってきているのか!?」
〈あぁ……
 急ぎで戻ってきたから、こうして事後連絡になったが――すでに地球にいる〉

 

 

 

〈ノイズメイズ達を、追ってな〉


次回予告
 
ザフィーラ 「むぅ…………
 次回は……
 ………………
 …………
 ……
 ……オレにはムリだ」
ヴィータ

 

「ザフィーラ!? 今さらか!? おい、今さらか!?
 ムリならムリってやる前に言えよ!
 次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第5話『機動六課・始動〜訓練の始まり〜に――」
二人 『ゴッド、オン!』

 

(初版:2008/04/26)