〈隊員呼び出しです〉
「…………ん……?」
突然始まった舎内放送に、マスターメガトロンはふと顔を上げた。
隊舎の南側で、のんびりと陽にあたりながらこの新たなボディのスペックチェックを行っていたのだが――
〈スターズ分隊、スバル・ナカジマ二等陸士。
同、ティアナ・ランスター二等陸士。
ライトニング分隊、エリオ・モンディアル三等陸士。
同、キャロ・ル・ルシエ三等陸士。
ゴッドアイズ、アスカ・アサギ副隊長。
10分後にロビーに集合してください〉
「ひよっこどもか……
まぁ、オレには関係のない話だ」
どうやら新人4名+1名に呼び出しがかかったらしいが――呼ばれていない自分が出る幕はないだろう。マスターメガトロンはチェックを再開し――
〈――続けて。
民間協力トランスフォーマー、マスターメガトロン二等陸尉相当官。
お見えでしたら、部隊長室までおこしください〉
「………………」
どうやら、逃がしてはもらえないらしかった。
第6話
新しい日々
〜幕間の内に〜
「…………む?」
正直面倒だったが――今から逃げても問題を後に先送りするだけだ。仕方なく腰を上げ、隊舎の中に入ると、ちょうど集まっていたスバル達と出くわした。
「あ、マスターメガトロンさん!」
姿を見せたマスターメガトロンの姿に、スバルが顔を輝かせる。
最初に出会った時の戦いで一体化して以来懐かれてしまっているようで、どうにもやりにくい――むしろ、となりでこちらに敵愾心をむき出しにした視線を向けてくるティアナの方がまだ扱いやすいくらいだ。
「そういえば、マスターメガトロンさんも呼び出されてたんですよね?」
「そっちとは別件のようだがな。
貴様らに付きまとわれなくてせいせいする」
尋ねるエリオにマスターメガトロンがそう答えると、
「フンッ、そんなヤツほっときなさい。
行くわよ、みんな」
告げ、こちらに背を向けて歩き出すティアナだったが――
「…………おい、オレンジ頭」
「誰がオレンジ頭!?」
彼女の物言いにムッとしたマスターメガトロンの言葉に、ティアナもまたムキになって振り返り――
「嫌味は弱みを見せずに言うもんだ。
節々の動きがぎこちない――筋肉痛がひどいようだな」
「………………っ!」
反論しようと口を開きかけるが――否定できない。全身を襲った痛みに彼の指摘が事実であることを痛感させられ、ティアナはひとり歯噛みする。
「あれ、ティア、まだキツいの?」
「まぁ……少しね」
バレてしまっては仕方がないし、彼女に当たっても意味がない――尋ねるスバルに、ティアナはそう答えて軽く右肩を回してみる。
「なのはさんの訓練、ハードだもんねぇ」
「今までも結構鍛えてたつもりだったけど……あの指導を受けてると、まだまだ甘かったんだって思うわ」
つぶやくスバルの言葉にティアナが答えると、
「……確かに、厳しい内容ではあるがな……」
「………………?
マスターメガトロンさん……?」
ふとつぶやいたマスターメガトロンの言葉にエリオが首をかしげると、そんな彼らの目の前でキャロがティアナに声をかけた。
「あの、ランスター二士。
よろしければ簡単な治療をしますが……」
「あぁ……ヒーリングも出来るんだっけ。
お願いしちゃおうかな」
「はい♪」
うなずくティアナの言葉に、キャロは手に魔力を集め、ティアナに治療魔法をかけてやる。
「あ、あ、あ〜〜……効く効くぅ〜……」
「……治療というより、まるでマッサージだな……」
キャロの治癒魔法がよほど気持ちいいのか、表情を崩すティアナの姿にマスターメガトロンは思わず呆れ返る。
一方で「生き物には負荷から自力で回復することでより身体が成長する“超回復”というものがあったはずだがなぁ、そんな簡単に回復してしまってもいいのか?」などと思い出すが、どうせ損をするのはティアナなので黙っておく。
気を取り直し、マスターメガトロンはふと残りのメンバーへと視線を向け、
「貴様らはいいのか?」
「あぁ、うん。大丈夫」
「ボクも、なんとか……」
「訓練後のアフターケアは万全でーす♪」
尋ねるマスターメガトロンの言葉に、スバルとエリオ、アスカは笑顔でうなずく。
「さすが、エリオはちっちゃくても騎士だねぇ。アスカさんもケロッとしてるし。
二人とも、今度1on1で組み手でもしてみよっか♪」
「うん、いーよ、スバr――」
「はい!
お願いします、ナカジマ二士、アスカ副隊長!」
『………………』
応えるエリオの言葉に、スバルとアスカは唐突に眉をひそめ――
「あー、楽になった。
ありがとね、キャロ」
「恐縮であります!」
「………………」
こちらでも、キャロの応えにティアナが眉をひそめた。
どうしたのかとマスターメガトロンが見下ろす中、3人はエリオとキャロに告げる。
「あのさ、二人とも、なんつーか、こう……」
「チームメイトなんだし、もうちょっと柔らかくていいんだよ」
「何もガチガチに階級付きで呼ばなくてもさ」
「あ、はい……」
「では、なんとお呼びすれば……」
ティアナとスバル、そしてアスカ。告げる3人に、うなずくキャロのとなりでエリオが尋ね――
「だから、小娘はそれが堅いと言っているんだろうが」
そんなエリオの頭を、マスターメガトロンは人さし指で押さえつけた。
「ただ名前で呼べばいいんだ、名前で」
「そうそう。マスターメガトロンの言うとおりだよ。
スバルと、ティアと、アスカ!」
「そうね。それでいいんじゃないの」
「あたしも、別に呼び捨てでもかまわないしね」
マスターメガトロンに同意するアスカ達の言葉に、キャロとエリオは顔を見合わせ、
「では、スバルさんと――」
「ティアさん、アスカさんで」
「うん♪」
二人の言葉に笑顔でうなずき、スバルはマスターメガトロンへと振り向き、
「じゃあ、集合かかってるし、マスターメガトロンさんも一緒に行こっか♪」
「………………何?」
さも当然のように告げたその言葉に、マスターメガトロンは思わず動きを止めた。
「なぜオレも?
オレは貴様らとは行き先が違うんだが」
「うん。部隊長室でしょ?」
尋ねるマスターメガトロンだが、スバルは満面の笑みでそう応える。
「部隊長室なら、ロビーまでは一緒だよ。
だから、ね?」
「何が『ね?』だ。
オレを巻き込むな。貴様らは貴様らで勝手にしろ」
告げるスバルに言い放ち、一足先にその場を離れるマスターメガトロンだったが――
「…………うん。
じゃあ、勝手にするね♪」
そう答えるなり、スバルはマスターメガトロンに追いつくとそのとなりに立って共に歩く。
「…………何のつもりだ?」
「『勝手にしろ』って言ったから、勝手に一緒に歩いてるの♪」
自分の問いにスバルが平然と答えるのを聞き、マスターメガトロンはため息をつき――
「――――――なら!」
「あぁっ! 逃げた!」
突然地を蹴り、走り出したマスターメガトロンの姿に、スバルは思わず声を上げる。
「待ってよ、マスターメガトロンさぁん!」
「だぁれが待つかぁっ!」
わめきながらロビーに向けて駆けていく二人の姿を見送り――
「ムキになりやすいというか、何と言うか……」
「けっこう……子供っぽいところもあるんですね、マスターメガトロンさんって……」
「うんうん、微笑ましいねー♪」
「バカよ……二人そろって大バカよ……」
ポツリともらすエリオとキャロ、満面の笑みを浮かべるアスカのとなりで、ティアナは思わず頭を抱えていた。
《はい、みなさん、集まりましたねー♪》
「うんうん、時間通りでいいことだー♪」
機動六課隊舎の正面ロビーで、スバル達を迎えに来たリインとジャックプライムが声をかけ――
《…………なんでマスターメガトロンもいるですか?
部隊長室に呼ばれてるですよ?》
「少し、自己嫌悪気味でな……
どうせ時間を指定されてないんだ。行く前に立ち直る時間がほしい」
結局ロビーまでスバルとの追いかけっこに付き合ってしまったマスターメガトロンが、TF用のソファに座り、うつむいたそのままで
リインに答える。
「それより、ひよっこどもの相手だろ。
さっさと連れてってくれ――気疲れの原因はその内のひとりだ」
「あ、またスバルにくっつかれてたのか♪」
あっさり事情を看破するジャックプライムの言葉に思わずスバルをにらみつけるが――当のスバルはまさに何かをやり遂げたかのような満足げな笑みを浮かべ、こちらの視線など平然とスルーしている。
とはいえ、この4日間何度も繰り返された光景なので、特に驚くにも値しない――リイン達は気を取り直し、スバル達へと向き直った。
《今日の午前中は訓練なし、ってことで、スバルさん達4人に六課の施設や人員なんかを紹介していくですよ》
「…………何?」
その言葉に、今度はマスターメガトロンが食いついた。思わず顔を上げ、リインに尋ねる。
「おい、ちょっと待て。
普通、そう言うのは真っ先にやらんか?」
《確かに、他のみんなは初日にオリエンテーションをやったですし、アスカさんは自主的に済ませたそうなんですけど、4人はずっとなのはさんの訓練でしたから》
「マスターメガトロンも付き合ってたんだから、当然まだだよね?」
「あ………………」
そういえば自分もそうだ――答えるリインとジャックプライムの言葉に、ようやくそのことに気づいたマスターメガトロンは思わず間の抜けた声を上げた。
「ですね。
マスターメガトロンさんとみっちりやってました♪」
「『オレと』の部分を強調するな!」
笑顔でリインに告げるスバルの言葉にマスターメガトロンが反論するが、そんな二人に笑いながらリインが告げる。
《けど、おかげで訓練の進みもいいですよ♪
最低限の基準は終わって、今日からは本訓練のスタートだとか》
「え゛………………?」
思わず声を上げるのは、昨日までの“最低限の基準”で筋肉痛に苦しんでいたティアナだ。
「い、今何か、すごいことを聞いた気が……」
「フンッ、今さら何を。
今のうちにせいぜい地獄を見ておけ――そうすれば実戦は楽だぞ」
「他人事だと思って……!」
ざまぁみろとばかりに鼻を鳴らすマスターメガトロンの言葉に思わずにらみ返すティアナだったが、マスターメガトロンはかまわず立ち上がり、
「じゃ、オレはそろそろ部隊長殿のところに行くか。
あまり待たせると砲撃されそうだ」
「フンッ、吹き飛ばされちゃいなさいよ、あんたなんか!」
ムキになり、唇を尖らせるティアナだったが――すっかり優位に立ったマスターメガトロンは笑いながらロビーを後にしていった。
その頃、マスターメガトロンの到着を待つ部隊長室では――
「訓練ももう4日目か……
みんなの手応えはどないや?」
「全員かなりいいね。
そうとう伸びるよ、みんな」
尋ねるはやての問いに、なのはは笑いながらそう答えた。
「取り急ぎ準備だけは終えたんだけど、伸ばしていく方向もだいぶ見えてきた――」
言って、なのはは指折り数えながらメンバーを確認していく。
「高機動と電気資質――突破・殲滅型を目指せるGWのエリオ。
一撃必倒の爆発力に頑丈な防御性能――FAの理想型を目指していくスバル。
“2騎”の竜召喚を切り札に、支援中心に後方型魔導師の完成形を目指していくFBのキャロ。
射撃と幻術を極めて、味方を活かして戦う戦術型のエリートガンナーになっていくはずの、CGのティアナ。
前線で素早く的確な情報を集めて、加えて一緒に前衛に立つ仲間のフォローもそつなくこなす前衛の楯、FGのアスカちゃん。
そして――」
と、なのははそこでふと視線を動かし――
「離れればオメガの砲撃魔法を始めとした大火力、近づけばスバルとゴッドオンしての一撃粉砕。
状況に即して遠近両局面に対応できる攻防の要――MCのマスターメガトロンさん」
「人を勝手にチームに組み込むな」
なのはの言葉に、ようやく姿を見せたマスターメガトロンは不機嫌そうにそう答える。
「再三言っているはずだ――現場においては、オレはオレで勝手にやる。
目標と方針さえ決めてくれれば、後は貴様らの動きに合わせてうまく立ち回ってやるさ」
「えー?」
「当然だ。
オレは嘱託でもない、単なる民間協力者としてここにいる。正式に貴様らの指揮下に入っているワケではない以上、作戦への協力義務はあるが、強制権はないはずだ。
作戦を破綻させない範囲内ならば、行動の自由は認められている――民間協力に関する各種規則は把握済みだ」
不満げに声を上げるなのはに答え、マスターメガトロンは主が不在のビッグコンボイのデスクにドッカリと腰を下ろす。
「で? 話というのは……そのひよっこどものことか?」
「うん。
ようやく基本的なところが終わったから、これからのことをちょっと確認しておこう、ってことだよ」
尋ねるマスターメガトロンの言葉に、なのはは笑顔に戻ってそう答える。
「どこまで伸びるか楽しみでね。
6人がしっかり完成したら、すごいことになるよ」
「一体、そこに至るまでどれだけかかるかな……」
なのはの言葉に答え――ふと動きが止まる。
「――って、だからどうして『6人』なんだ!
オレを数に入れるなと言ってるだろうが!」
「だって……」
声を上げるマスターメガトロンだが――そんな彼になのはは告げた。
「今のところ、マスターメガトロンさんってスバルとゴッドオンしなきゃ全開戦闘はできないんでしょ?」
「ぐ………………っ!」
なのはの言葉に、マスターメガトロンは思わず言葉に詰まった。
「通常機動くらいなら問題ないみたいだけど、戦闘レベルでの機動となるとどうしても奇策中心になっちゃうし、正直辛いんじゃないかな?
いくら自由って言っても、戦力面を考えたら結局、マスターメガトロンさんはスバルと組むしかないんだから。ね?」
「……またそれか……!
『やり方などいくらでもある』と何度言っても聞きやしないな、貴様……!」
なのはの言葉に思わず歯噛みし、マスターメガトロンがうめき――
「ふーん……じゃあ、とりあえずはアスカちゃんとマスターメガトロンは省いて、フォワード4人に絞って。
4人のリーダーは誰がえぇと思う?」
気を取り直し、尋ねるはやての言葉に、なのはとマスターメガトロンは動きを止めた。
顔を見合わせ――同時にはやてに視線を戻し、答える。
「ティアナ」
「オレンジ頭」
これは二人とも共通の見解のようだ。
「少し熱くなりやすいところがあるが……その一方で視野は広いし指示も正確だ。感情のコントロールを身に着ければ、その熱くなりやすい点をも武器にできるようになるだろう」
「何よりあの性格――アスカちゃんと一緒に、自然に他のみんなを引っ張ってるしね」
「うんうん、えぇ感じみたいやね」
二人の答えにうなずくはやてだが――
「ただねぇ……」
そんなはやてに、なのはは少し困ったように続けた。
「ライトニングの方は経験不足以外は問題ないんだけど、スターズは……」
「あの二人に問題でもあるか?」
「いや……二人そろってすんごい突撃思考じゃない?
ここは厳しく教えていかないと」
「あー……」
マスターメガトロンに答えるなのはの言葉に、はやては思わず苦笑して――
「10年前の二人みたいな?」
「ど、どーだろ……」
聞き返すその言葉に、なのはは思わず言葉をにごす。反対にマスターメガトロンはどこ吹く風だ。
「だが……それは別に短所というワケではないだろう。
突撃思考なら突撃思考で、あの二人をフロントに据えればいい。スピードに優れるカミナリ小僧なら、中距離に据えても立派にリベロとして機能するだろうし、ガードのポジションならアナライザーの斧娘もいる。フォロー役には事欠くまい」
「それは……もちろん考えてる。ティアナとエリオとアスカちゃんなら、ガード同士でポジションの入れ替えも容易だろうし。
けど……それにしたって、今のままだと二人が危ないよ。引き際の見極めがまだ甘いから」
告げるマスターメガトロンに答え、なのはは小さく息をつき、
「今すぐでも出動できなくはないけど、どっちの分隊もまだあと1週間くらいはフル出動は避けたいかな。
もう少し確実で安全な戦術を教えてからにしたいんだ」
「ふむ……
『確実で安全な戦術』ね……」
「………………?」
つぶやくマスターメガトロンの言葉に、なのははふと首をかしげるが、
「まぁ……フォワードの子達については大丈夫やろ」
そんな二人に告げるのははやてだ。
「そのための隊長、副隊長の配置やし、新人達の配置についてはなのはちゃん――高町教導官と現場の中心になるマスターメガトロンに全面的にお任せや♪」
「ありがとうございます、八神部隊長♪」
はやての言葉に笑顔で答えるなのはだが――
「オレを巻き込むなと言ったはずだ」
ぶっきらぼうに答え、マスターメガトロンは立ち上がり、出口に向かう。
「貴様らはオレをひとりで1チームとして、ひよっこどもとは別に扱えばいい。
それならヤツらのフォーメーションへの影響もないはずだ」
「そ、それはそうだけど……」
答えかけるなのはだったが、マスターメガトロンはそれで話は終わりだとばかりに部隊長室を出て行った。
「……マスターメガトロン、まだここにはなじめへんみたいやね」
「うん……
なんだか、どうしていればいいのか、自分でも決めかねてるみたい」
告げるはやてに答え、なのははため息をつき、
「やっぱり……私達の仲間には、なってくれないのかな……?」
機動六課に参加したのはやはり自分の目的のためだけなのだろうか。協力してくれるのはあくまで義理でしかないのだろうか――そんなことを思い、不安げにつぶやくなのはだったが、
(そういうワケでも、ないと思うけどなー)
心配しなくても、なのはの懸念は単なる杞憂だ――確信と共に、はやては内心で苦笑した。
もし、マスターメガトロンが本当にこちらのことをどうでもいいと感じているのなら――
(自分を嫌ってるティアナに的確な評価を下せるワケないもんなー♪)
「…………『確実で安全な戦術を教えてからにしたい』か……」
廊下をひとり歩きながら、マスターメガトロンは先ほどのなのはの言葉を思い返した。
「なるほど、あのギャラクシーコンボイのパートナーをしていた経験か……
部下の安全を第一にする辺りは、いかにもヤツの影響だ」
納得し、うなずくが――そのカメラアイに宿る明かりはどこか暗い。
人間で言うならば視線に力がない、と言ったところか。
まるで、迷いや悩みを抱えているかのような――ふと足を止め、部隊長室へと振り向く。
(だがな……)
(ヤツは一度、その考え方のせいで道を踏み外しかけたんだぞ……)
そんな、漠然とした不安をマスターメガトロンが感じていた、同じ頃――機動六課の感知していないところで、事態は静かに動いていた。
ミッドチルダの山岳地帯――
その中でも比較的平坦な森の中、1台のビークルが停車していた。
その姿をなのは達が見たならば、きっとそのデザインに見覚えがあることだろう。
なぜなら――
そのビークルは地球、それも日本国内を走る500系新幹線の1両目をスキャニングしていたのだから。
「………………」
正面と左右に配されたモニタが明滅するコクピット内――彼女はシートに身を沈め、退屈そうにポッキーをかじっていた。
セーラー服に身を包み、長い髪をツインテールにまとめた、勝気そうな瞳の少女だ。
小袋に手を突っ込み、中身が空だとわかると次の箱へと手を伸ばし――
〈マスター〉
「何よ? “クーガー”」
告げる声は懐に忍ばせた1枚のカードから――取り出し、聞き返す少女に、クーガーと呼ばれたその銀色のカードは日本語で告げた。
〈……そんなに食べると太りますよ〉
「大きなお世話よ!」
思わず声を荒らげて――そんな彼女にクーガーは続けた。
〈それと〉
「今度は何!?」
〈作戦開始時刻まで残り45秒〉
「う゛っ…………」
その言葉に我に返り――それでも少女はすぐに動いた。クーガーもろともお菓子の類を傍らのボックスに放り込み、シートに座り直すと左右の操作レバーを握りしめる。
ディスプレイのカウントダウンタイマーを確認。『00:00:00』を刻むと同時にフットペダルを踏み込み――
「いくよ――
ライトライナー、発進!」
〈Start up!〉
そう答えたのはお菓子に埋もれたクーガーではなく、ビークルのメインシステムだった。同時、彼女の乗るビークル“ライトライナー”が走り出し、瞬く間に加速していく。
目指すのは目の前の岩山だ。一見何の変哲もない岩山に見えるが――すぐに異変が起きた。地中から現れた無数の砲台がこちらに向けて狙いを定める。
が――
「遅いのよ!」
少女の言葉と同時――ライトライナーはさらに加速した。相手の砲撃体制が整うよりも速く、敵の防衛ラインを一気に駆け抜ける!
一気に岩山へと肉迫し――少女は咆哮した。
「ゴッド――オン!」
その言葉と同時――少女は光となってコクピットの中から姿を消した。
いや――機体と一体化したのだ。
そして――
「ライトフット、トランスフォーム!」
掛け声と共にライトライナーが車体下部の推進システムによって浮上。その推進システム部が左右に展開されて両腕になると、空いたスペースを埋めるように車体の後部が倒れ込んできた。そのまま後部が左右に分かれ、下半身を形成する。
最後に頭部が姿を現すと、ライトライナーがトランスフォームを遂げたトランスフォーマー、ライトフットは岩山に――いや、岩山に偽装した隔壁に蹴りを一発。一気に蹴破ると内部に突入する。
降り立った先に並ぶのは、無数のベルトコンベア式の工業ライン――ガジェットの自動生産システムだ。大きさから判断するなら、生産されているのは対TF用の大型タイプのようだ。
侵入者を前に警報が鳴り響くが――かまわない。すぐに目標を探し、見つけ出す。
この工廠のメイン動力炉だ。一体化している少女の動きそのままに、ライトフットは両脇のショルダーホルスターから専用の2丁拳銃“ライトショット”を取り出し、動力炉へと狙いを定め、
「フォースチップ、イグニッション!」
叫ぶ少女の声に答え、真紅に輝くスピーディアのフォースチップが飛来した。ライトフットの背中のチップスロットに飛び込み――両脚の外側の装甲が展開された。内部から放熱システムが露出し、すさまじい勢いで排熱を開始する。
同時、ライトフットの両腕を通じ、手にしたライトショットへとフォースチップのエネルギーが流れ込んでいき、ライトショット自体の放熱口からも光があふれる。
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
「OK!」
告げる自身のメインシステムに少女が答え――
「ハウリング、パルサー!」
トリガーを引いた。放たれたエネルギー弾はまき散らすエネルギーで周囲を薙ぎ払いながら飛翔し――メイン動力炉を貫通、爆砕する!
大爆発が巻き起こり、さらにそれが周りの生産ラインに飛び火していく中、少女は通信回線を開き、報告した。
「こちら“ライナー1”、柊かがみ!
対TFガジェット生産ライン破壊任務終了!」
〈了解だ。
後は――〉
「わかってますって!
ハデに暴れて、管理局にここを見つけてもらえばいいんでしょ!?」
そう答えて、かがみと名乗った少女はゾロゾロと姿を現した対TF型のガジェット群を見回した。
「ずいぶんと出てきたわね……
上等よ! この私のスピードに、追いつけるもんなら追いついてみなさい!」
また別の場所では――
「た、大変だぁ!」
ターゲットを発見するなり、少女はE1系新幹線をスキャニング、後方に砲台を連結したビークルのコクピットで驚きの声を上げた。
あわてて通信回線を立ち上げ、報告する。
「こ、こちら……えっと……“ライナー2”、柊つかさ!
狙ってたガジェットさん達が、“レリック”を持った発掘調査隊を襲ってます!」
〈バカ! 早くガジェットを蹴散らせ!〉
「け、けど、私の照準じゃ調査隊にも当てちゃいますよ!」
〈そのために、強制転送魔法弾を渡したんだろ!
さっさとそいつで調査隊を逃がせ!〉
「は、はいぃっ!
えっと、えっと……レンジャーライナー、火器システム起動!」
通信の相手の言葉に悲鳴まじりにうなずくと、つかさと名乗った少女はあわてて自らのビークル“レンジャーライナー”に連結した砲台を起動。その内の1門の照準をガジェットに襲われる調査隊に向けて撃ち放つ。
放たれた砲弾は調査隊のちょうど後方に着弾し――着弾点を中心に魔法陣を展開した。調査隊を魔力の輝きが包み込み――次の瞬間には、彼らの姿はその場から消えていた。
「ち、調査隊と“レリック”の保護、完了です!」
〈よし、後はガジェットを蹴散らせ!〉
「はい!
ゴッド――オン!
レインジャー、トランスフォーム!」
答え、つかさもまたレンジャーライナーにゴッドオン。ライトフットと同じプロセスでトランスフォームし、連結していた砲台を背中に背負う。
トランスフォームを完了し、つかさのゴッドオンしたレインジャーが大地に降り立つ――が、そんな彼女をガジェットが取り囲んだ。対人用にも関わらず、体躯で勝る彼女に向けて一斉に砲撃を浴びせる!
当然、そんな攻撃が通じるはずもなく、その装甲が攻撃をことごとく弾き飛ばすが――
「はわわわわっ!?
ごっ、ごめんなさぁい!」
当のつかさは“攻撃された”という事実だけで簡単にパニックに陥った。おびえるままに頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。
抵抗がないのをいいことに、さらに攻撃を加えるガジェット達だったが――
〈Analyze complete.
Shield open!〉
レインジャーのシステムがつかさに告げると同時――周囲にエネルギーフィールドが展開された。飛来するガジェットの光弾をことごとく分解、無効化してしまう。
ガジェットのAMFと同じ、エネルギー無効化フィールドだ――ガジェットの攻撃を解析し、それを無効化するフィールドを展開したのだ。
「あ、あれ……?」
攻撃が来なくなったことに気づき、つかさは顔を上げ――彼女の動きに合わせ、レインジャーは立ち上がり、ガジェット群へと向き直る。
対し、自身の攻撃が通じないと悟ったガジェット達は魔力弾による攻撃から物理攻撃に切り替えた。側面から触手を伸ばして一斉に攻撃態勢に入るが――
「もう、怖くないよ!
あなた達なんか、みんなやっつけちゃうんだから!」
攻撃が効かなくなったことで調子をを取り戻してしまったつかさの前にはすべてが遅すぎた。背面に背負った火器を起動。両肩に大型のガトリングガンが、両腕にビームガンが装着され、同時に両脚に装備されていたボックスがフタを開け、内蔵されていたミサイルポッドが露出する。
「フォースチップ、イグニッション!」
そして、つかさがフォースチップをイグニッション。レインジャーのバックユニット上部に設置されたチップスロットに紫色の――ギガロニアのフォースチップが飛び込み、バックユニット下部、そして両脚後方に放熱システムを展開。放熱を開始する。
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
全身の火器にフォースチップのエネルギーが充填され、メインシステムが告げるが――
「え、えっと、えっと……」
肝心のつかさがシステムを使い切れていない。せっかくカッコよくイグニッションしたにもかかわらず、全身の火器の照準を合わせるのに四苦八苦する有様で、レインジャーも彼女の動きに合わせてオタオタするばかりだ。
そんな彼女に向け、ガジェット達は一斉に襲いかかり――
「もう……全部撃っちゃえぇっ!
レンジャー、ビッグバン!」
対し、つかさはほぼヤケクソ気味に一斉射撃に踏み切った。照準もままならないまま撃ち放つが――放たれた砲弾はそのことごとくが的確にガジェットを撃ち抜き、粉砕し、消し飛ばす!
「…………ふぇえぇ〜〜……」
息をつき――つかさは思わずその場にへたり込んだ。ゴッドオンを解いてコクピットに姿を現し、レインジャーはレンジャーライナーへとトランスフォームする。
「こちら“ライナー2”……敵ガジェット、やっつけたよぉ……」
〈了解だ。
傍受した管理局の通信によれば、調査隊は無事保護されたらしい〉
「そうなんだ。よかったぁ……」
答える通信の声に安堵し、つかさは腰のポケットに右手を突っ込み、鎖でベルトにつながれたパスケースを取り出した。
その中から銀色のカードを取り出し――告げる。
「キミもありがと、“ミラー”♪」
〈何のことでしょう?〉
「さっきのレンジャービッグバンの時、私の代わりに狙いを合わせてくれたんでしょう?」
告げるつかさの言葉に、ミラーと呼ばれたカードは黙り込み――答えた。
〈あなたのことは、姉君様から任されておりますので〉
そしてまた、別の場所で――人知れず、ガジェットの一団が砂漠を疾走していた。
目的は、この先にある無人の遺跡だ。
そう、無人のはずだ。だが――
「…………来ちゃいましたか……」
向かってくるガジェットを出迎えた者がいた。
400系新幹線型のビークルの傍らに控えた、桃色の髪をフワリとなびかせた、眼鏡をかけた少女だ。
そしてその手には――“レリック”のケースが抱えられている。
「できれば、このままやり過ごせればよかったんですけど……」
〈遺跡のワナにことごとくかかり、時間をかけてしまったマスターが原因だと思いますが〉
つぶやく少女に対し、彼女の懐の銀色のカードがそう答える。
〈なんでいちいち、往路で仕掛けを見抜いたワナに復路ですべて引っかかるんですか。
まったく、“レリック”を安全に運ぶことにばかり注意しているからそうなるんですよ。私がフォローしなければどうなっていたか……
だいたいマスターは一度集中すると他のことがまるで見えなくなるんですから……〉
「ぶ、“ブレイン”。その話はまた後で……」
状況に一切かまわず説教を始めたカード――ブレインに対し、少女はあわてて制止の声を上げた。
「それより今はガジェットの撃退です。
ブレイン。ロードライナー遠隔操作。このままトランスフォームします」
〈……了解。
では、この件についてのお話はまた後ほど〉
少女の言葉にブレインが同意を示し――彼女のビークル“ロードライナー”が無人のまま起動。動力部がうなりを上げる。
そして――
「ゴッド、オン!
ロードキング、トランスフォーム!」
少女がロードライナーにゴッドオン。ライトフット、レインジャーと同じプロセスでロボットモードへとトランスフォームする。
そして、少女はロードキングの背中のバックユニットにマウントされた手斧“ロードアックス”を手に取り、
「フォースチップ、イグニッション!」
告げ、青色に輝く地球のフォースチップをイグニッション。脚部に展開された放熱システムが排熱を始める中、ロードアックスにフォースチップのエネルギーをチャージアップする。
そんな少女に――ロードキングに対し、ガジェット達は一斉に襲いかかり――次の瞬間、ロードアックスの刃からエネルギーがあふれた。それはより巨大な光刃を形成し、
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
「アックス、ブレイク!」
振り下ろした一撃に伴い――光刃を形成していたエネルギーが弾けた。すさまじい“力”の渦となり、周囲のガジェット群を粉砕する!
が――
「――――――っ!?
まだ――っ!」
1体だけ、生き残りがいた。自分達だけでは勝算がないと判断したか、こちらに背を向けて離脱を試みる。
「――――――いけない!」
だが、その先には小さな集落がある。このままでは逃亡したガジェットは集落に突撃することになる――そのことに気づき、少女はすぐに動いた。バックユニットにマウントされた専用ライフル“ロードショット”を手に取り、
「フォースチップ、イグニッション!」
再びフォースチップをイグニッション。今度はロードショットにエネルギーをチャージアップする。
そして、かまえたライフルの狙いをガジェットに向け――
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
「スナイピング、ボルト!」
放たれた銃弾が一直線に突っ込み――さらに加速した。正確にガジェットの動力部を撃ち抜き、爆砕する。
「…………こちら“ライナー3”高良みゆき。
全ガジェットの撃退を確認しました。
“レリック”を回収し、帰投します」
言って――彼女は視線を森の向こうへと向けた。
集落の無事を確認。安堵の息をつき、つぶやく。
「なんとか……あの村を巻き込まずにすんだみたいですね……」
〈“カイザー1”!
……おい、“カイザー1”!
………………こなた! 応答しろ!〉
「はいはーい♪
こちら“カイザー1”、泉こなた♪」
自分を呼ぶその通信の声に、こなたはインカムを身に着け、気楽な声で応答した。
〈勝手に連絡を絶つな!
何をしていた!?〉
「ゴメンゴメン♪」
告げる声に対し、こなたは満面の笑顔で一言。
「ちょっとレアアイテムひろっちゃって♪」
〈また機体の回線使ってネットゲームか!?
あれほど私用で回線を使うなと――〉
「いやー、だって光ブロードバンドよりも通信速度速いじゃん、これ♪」
〈オレには高度な技術の大いなる無駄遣いにしか思えん〉
こなたの答えにため息をつき――通信相手は尋ねた。
〈で……首尾は?〉
「問題なし♪」
〈そうか……かがみ達も任務を完了した。お前もすぐに戻れ。
後は予定通りだ。“レリック”は裏ルートに流し、情報をリークして管理局に回収させる〉
「はーい♪」
答え、通信を終えたこなたはインカムをスカートのポケットに押し込み、
「それじゃ……帰ろうかな♪」
その場に待機させていた“相棒”を見上げてつぶやくその周囲には――
その大小を問わず、ガジェットの残骸が無数に転がっていた。
「まったく……ヤツもあれさえなければ……
こういうところは、さすが“あの男”の教え子、といったところか……」
息をつき、通信を終えた彼は静かに息をついた。
と――
《全員任務完了ですか?》
「あぁ。無事に終わり、現在帰投中だ」
声をかけてきた相棒に、彼は静かに答えた。
《よかった……みんな無事で……》
「まぁ、な……」
こなた達の無事を喜ぶ相棒に同意すると、彼は彼女を安心させるように告げた。
「アイツらは現在進行形で実戦の中に放り込まれてる。
敵の方が待ってくれない以上、実戦の中で鍛えていくしかないが――安心しろ。ここしばらくの実戦で、アイツらの実力もだいぶ伸びてきてる」
言って――彼は端末へと向き直り、
「それより、問題はこれからのオレ達の取るべき方針だ。
訓練を兼ねた小規模な任務で“敵”に打撃を与え、且つ分断させると同時、こちらでも“レリック”を回収、裏ルートを利用して管理局に回収させる……
今のところはうまくいっているが……うまくいっている内に、別の手を考えておくべきだろうな」
《ですね……
こうも頻繁に情報を流して裏のルートを摘発させていれば、その内密輸ルートも限られてきてしまうでしょうし……何より“敵”の目も、そういつまでも分散していられないでしょうし。
それに、ノイズメイズ達の目的が未だハッキリしないのが気になります。地球に戻るなり“レリック”を狙ったかと思えば、それっきりこちらに攻撃を仕掛けてくるばかりで……正直、“レリック”にこだわっている様子が見えません。
まだわからないことが多い以上、懸念は早めに解決しておくべきです。“レリック”の回収と“敵”の分断――いずれも次の手を今から考えておく必要があるでしょうね》
「あぁ」
相棒の答えに、彼はしばし思考をめぐらせ――尋ねた。
「それで? 今回の輸送ルートは確保できたのか?」
《はい。
まずは空路。そしてもう一方は――》
《リニアレールウェイを使うルートです》
《はい――こちらの食堂で、案内は一通り終了です》
「食堂の使い方は、もうみんなわかるよね?」
『はいっ!』
案内の最後は食堂――尋ねるリインとジャックプライムの問いに、フォワード4人は声をそろえてそう答える。
と――ちょうどその時、舎内に独特のチャイムが鳴り響いた。午前の課業が終了した合図である。
「ちょうどお昼、か……」
《じゃあ、これにて解散としましょう。
午後の訓練もがんばってください、ですよ♪》
『ありがとうございました!』
元気に答えるスバル達にうなずき、リインはそのまま飛び去っていく。
「じゃ、一緒にお昼にしようか?」
「え? ジャックプライムさんも、ですか……?」
思わず口にしたティアナの疑問はある意味でもっともだ。惑星自体のエネルギー“エネルゴン”を動力源としているトランスフォーマー達は基本的に食事を必要としない。味覚や食性機能はついているがあくまで補助的なもので、生命維持とはそれほど関係していないのだ。
だが、そんなティアナに対し、ジャックプライムは手をパタパタと振り、
「そりゃ、ボクらみたいなトランスフォーマーは食事しないと生きていけないワケじゃないけどさ……やっぱり、おいしいご飯は食べたいよ。エネルゴンばっかりじゃ味気ないし。
今じゃエネルゴンを味付けする技術も出てきてるし、そういうエネルゴンを料理風に加工して売ってくれるところだってあるんだよ」
「はぁ……」
ジャックプライムの答えにティアナがうなずくと、
「スバルー、ちょっといい?」
「あ、はーい♪」
人垣の向こうからこちらを見つけ、声をかけてくるのはロングアーチのメンバー、アルト・クラエッタだ。元気に返事をし、スバルはティアナ達へと向き直り、
「じゃあ、先に食べてて。すぐ合流するから」
「ん」
『はいっ!』
ティアナとエリオ達の答えに、スバルはアルトの元へと駆けていく――ティアナも気を取り直して食堂のカウンターに向かい――ふと足を止めた。
無言で後ろをついて来るエリオとキャロに対し、告げる。
「……あのさ、実は3日前から思ってたんだけど……
あんた達二人って、お互い全然しゃべんないわよね?」
「え?」
「あ、そ、そうでしょうか?」
「うん、ぜんぜん静かだよね」
ティアナの突然の問いに戸惑う二人に答えるのはアスカだ。
「ジャックプライムさん。二人は兄妹みたいなもの、って話を聞いてたんですけど」
「うーん……間違っちゃいないけど……」
ティアナにそう答え、ジャックプライムは軽く肩をすくめ、
「実は、エリオとキャロって、直接面識があったワケじゃないんだよ」
「はい。実際にあったのは六課に来る時が初めてなんです。
写真では知ってたんですが……」
「私達は二人ともフェイトさ……フェイト隊長が保護責任者なのですが、別々の場所で過ごしていましたので」
「そっか……」
簡単に聞いていい内容ではなかったようだ――ジャックプライムに同意したエリオとキャロの言葉に、ティアナは息をつき、
「ごめんね、あんたらもいろいろ複雑なんだ」
「いえ……
ジャックプライムさんやフェイト隊長からも、なるべく二人で仲良くしてほしいと言われていますので……」
「そっか。
お父さんやお母さんの言うことはちゃんと聞かないとね」
『はいっ!』
ティアナの言葉にエリオ達がうなずくと――
「……ちょっと待って、ティアナ」
突然、ジャックプライムが口をはさんだ。ティアナの前にかがみ込み、告げる。
「確かにボクはフェイトと一緒にエリオとキャロの“お父さん”をしてるけど――別にフェイトとは何でもないからね。
いい? 絶対ヘンなカン違いしないでよ!」
「は、はぁ……」
この時の彼の目はマジだった――後にティアナはこの時のことをそう語ったという。
「わかった?」
「はい……」
「よし。
じゃ、改めてお昼にしようか♪」
うなずくティアナにジャックプライムが告げ、一同はそれぞれに散開。それぞれおかずを取ってくる。
味付けエネルゴンだけですむジャックプライムが一足先にTF/人間共用のテーブルを確保。そこへティアナ達が戻ってくるが――
「………………」
「………………」
『……………………』
みんなの分のサラダをまとめて持ってきたエリオ、各自の取り皿を確保してきたキャロ――どちらも黙々と配膳を進めるのを見て、ティアナとアスカ、ジャックプライムは同時にため息をつく。
「……ほ、ホントに会話ないよね、二人とも」
『す、すみません!』
「謝んなくていいけ、どっ!」
思わず声をそろえてジャックプライムに謝る二人に対し、ティアナはスバルにしているようにその頭をグシャグシャと乱暴になで、
「あんた達、ライトニングのコンビなんでしょ? しかも同い年。
スターズのFAみたいにむやみに誰とでも馴れ合う必要はないけどさ、お互いのコミュニケーションはしっかり取れてないとマズイんじゃないの?」
告げるティアナの言葉に、二人はその意味を考えるかのように視線を落とし――
「お待たせー」
そこへスバルが戻ってきた。一同の間の微妙な空気を前に、ティアナに尋ねる。
「5人で何のお話?」
「別に。
ちっこいの二人があんまり話さないわね、って言ってただけ」
「あー、それ?
あたしもちょびっと思ってた。
お話はした方がいいよー♪」
言って、スバルはティアナによって乱されたエリオとキャロの髪形を直してやり、
「最初は話なんて合わないのが当たり前。
何でもお話していく内にいろいろわかってくるもんなんだから」
「はいっ!」
エリオが元気に答えるのを見て――アスカはティアナへと視線を向け、
「…………なるほど。
実体験だね」
「そこで納得しないでくれると非常に安心できるんですが」
思わずため息まじりにティアナが答えると、その一方でエリオとキャロは顔を見合わせ、
「がんばりましょう、ルシエさん!」
「がんばるであります、モンディアル三士」
「いやいやいやいや。ストップストップ」
二人の言葉に、思わずジャックプライムは待ったをかけた。
「そーやって堅苦しいのもどうかと思うよ、ボクは」
「だね。
その呼び方もよくないね」
ジャックプライムにスバルが同意し、二人はエリオ達の声をまねて、
「『いくよ、キャロ!』」
「『うん、エリオくん!』
……とかでいいんじゃないかな?」
「が、がんばります……」
二人の言葉に答えるエリオだが――やはりまだ堅い。「こりゃ先は長そうだ」とひとり感じ、ティアナは思わず苦笑を浮かべていた。
「なのはちゃん的には、この機動六課はどーやろ?」
「どうって?」
「いい部隊になりそうかな――とか」
部隊長室での会話はマスターメガトロンが出て行った後も続いていた。聞き返すなのはに、はやてはそう答えた。
その言葉に、なのははしばし考え、
「……人材は本当に高いレベルでそろったと思う。
ロングアーチやバックヤードまで本当にいい子達ばっかりだったし。
新人達も――特にフォワード達はいろいろ“重い”子も多いけど……
ライトニングの二人やマスターメガトロンさんはもちろん、スバルやティアナも……」
「そこは心配ないよ」
不安げにつぶやくなのはに、はやてはハッキリとそう答えた。
「『立ち向かうための意志を持った子』――前線メンバー集める時に、資質以上に一番気にしたところや。
あの4人は、推薦の上で選んだとはいえ、そこは絶対間違いない。マスターメガトロンも、その意志があると思ったから私は声をかけた。
プライマスに認められたマスターメガトロンはもちろん――スバルがトランステクターに選ばれたんも、きっとその意志があったからや」
言って、はやては肩をすくめ、
「なのはちゃん、フェイトちゃんやアリシアちゃんには苦労かけるし、寄り道もしてもらって、申し訳ないんやけど……」
「寄り道じゃないよ。
“前線で教官”って立場は私にとっては夢見たいな話だし」
はやての言葉に、なのはは笑みを浮かべてそう答えた。
「“立ち向かうための意志”に“撃ち抜く力”と“元気に帰ってくる技術”をしっかり持たせてあげること――
それが、私の仕事だからね……」
「…………ん?」
隊舎内を移動中(『スバルから逃亡中』とも言う)、マスターメガトロンは前方に知った顔を見つけた。
「八神はやてのところのチビスケか……
どうした?」
《あぁ、マスターメガトロンさん。
ちょっと人を探してて……》
声をかけるマスターメガトロンに答え、“チビスケ”ことリインはデバイスのメンテナンスルールのドアを開け、
《シャーリー、一緒にお昼にするですよー♪》
「あ、リイン曹長、それにマスターメガトロン二尉相当官も……」
「階級は省け、うっとうしい。
大体、初対面の時は『さん』付けだったろうが」
「け、けど、あの時は階級なんて知らなかったから……」
シャリオの言葉にため息をつき、マスターメガトロンは彼女のいじっていたモノへと視線を向け、
「…………デバイスの調整か?」
「はい。
マスターメガトロンさんのオメガと、フォワードの子達用の新作なんですけど……」
答えて、シャリオはメンテナンスケースの中に収められたウェイトモードのデバイス達へと視線を向ける。
「新作、だと……?
初耳だな」
「まぁ、ちょっとスバル達を驚かせたくて、秘密にしてもらってるんで」
思わず尋ねるマスターメガトロンの問いに、シャリオは意地悪そうにペロリと舌を出してみせる。
《そろそろ完成ですか?》
「“マッハキャリバー”がちょっと手こずってます」
リインに答えると、シャリオは小さくため息をつき、
「スバルのオリジナル魔法のウィングロード、あれをこの子からも発動できるようにしたいんですが、それがもう難しくて!」
「というと、その“マッハキャリバー”とやらは小娘用か……」
つぶやき、マスターメガトロンはケースの中へと視線を向け、
「確かに……ゴッドオンした時に感じたが、ヤツの魔法は“先天系”が多い。
あの時二人で撃ったディバインスマッシャーも、よくディバインバスターを再現していたが、術式自体はほぼ完全にヤツ自身のオリジナルだった」
「えぇ……
だから、スバルの相棒になるマッハキャリバーが一番難しい子なんですが……」
《その分、やりがいがある……ですよね?》
「ご名答♪」
告げるリインの言葉に、シャリオは笑顔でそう答える。
「もちろん、マッハキャリバーだけじゃないですよ。
みんなのデバイスはもちろん、マスターメガトロンさんのオメガも、制御システムのアップグレードでさらに使い方の幅を広げられそうですし……」
「ふむ……
なら、その仕上がりとやらを楽しみにさせてもらおうか」
楽しそうなシャリオの言葉にマスターメガトロンが答えると、リインはメンテナンスケースの中のデバイス達をのぞき込み、告げる。
《みんな……もうすぐ目覚めとマスターとの出逢いですね。
ちゃんと立派に完成して、それぞれのマスターと一緒に精一杯がんばるですよ。
わたしも応援するです!》
その言葉に――デバイス達は一斉にコア部分を輝かせた。
まるで、リインの励ましに答えるかのように――
「ん〜〜っ!
しっかり食べたし、午後は訓練!」
「張り切りすぎて、食べたものを吐くんじゃないぞ」
「山盛りにして食べてたもんね、スバル……」
昼休みも終わり、全員集合――やる気十分なスバルにマスターメガトロンとアスカはため息まじりにそう告げる。
「キャロのおかげで筋肉痛も治ったし、ビシッと決めないと」
一方でティアナがストレッチをしながらつぶやくとなりで、エリオとキャロは顔を見合わせ、
「がんばろうね」
「うん……がんばろう」
互いにエールを交し合っていると、そこへなのはがやってきた。これで訓練参加者、全員集合である。
「うん、みんなそろってるね。
さて、じゃあこれから第一段階に入っていくワケだけど――スバルのゴッドオンも含めて、個人スキルはまだやりません。当分はコンビネーションとチームワークが中心ね。
基本となるスターズ・ライトニングの4人でのフォーメーション、そしてそれを支えるアスカちゃんのサポート。それぞれ得意の分野をしっかり活かして協力し合う――まずはそこから。
個性を活かして、能力をフルに活用して、まずは4人チームでの戦いをしっかり身につけよう」
『はい!』
なのはの言葉にフォワード陣4人がうなずくのを、マスターメガトロンは少し下がったところで見つめていた。
「現場では4人がチームを組んで動くことになる――だから先にコンビネーションを身につけさせ、お互いのことを知らしめる、か……
教える内容に問題はない。だが……」
先ほど、部隊長室を後にした時に感じた不安が一瞬脳裏をよぎるが――
「……フンッ。
らしくないな、我ながら……」
そんな自分に苦笑し、マスターメガトロンは息をついた。青空を見上げ――つぶやく。
「そうだ……ヤツらがどんな訓練をしようと関係ない。
オレは――」
「“オレのやり方”でやらせてもらうまでだ」
アリシア | 「次回の『Master strikerS』は、ミッドチルダにお住まいの、カリム・グラシアさんのお宅からお送りします♪ 聖王教会の大聖堂を兼ねた、ゴージャスなお住まい! こだわり住宅の秘密とは? お楽しみに!」 |
フェイト | 「って、ここはそういうコーナーじゃないから! ちゃんと予告をしようよぉ!」 |
アリシア | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第7話『縮まらない距離〜ファースト・アラート〜』に――」 |
二人 | 『ゴッド、オン!』 |
(初版:2008/05/10)