拝啓。
 父さん、ギン姉、それと(帰ってきてたら)師匠。お元気ですか? スバルです。
 あたしとティアがここ、機動六課の所属になってから、もう2週間になります。
 本出動はまだなくて、同期の陸上フォワード4人、それから一緒に現場に出ることになるアスカさんは朝から晩までずーっと訓練漬け。しかも、まだ一番最初の第一段階です。
 部隊の戦技教官、なのはさんの訓練はかなり厳しいんですが、しっかりついていけば、もっともっと、強くなれそうな気がします。

 当分の間は24時間勤務なので、前みたいにちょくちょく帰ったりはできないんですが、母さんの命日には、お休みをもらって、帰ろうと思います。
 じゃあ、またメールしますね。

スバルより。

 

 


 

第7話

縮まらない距離
〜ファースト・アラート〜

 


 

 

 目の前では、バリアジャケットとは趣きを異とする部分鎧を身にまとった少年が、漆黒のトランスフォーマーと対峙していた。
 トランスフォーマーの方には見覚えがある――セイバートロン・デストロンの先代破壊大帝、ギガトロンだ。
「オレを倒す、か……」
 うめき、ギガトロンは少年に対して自らのイグニッション・ウェポン、デスランスをかまえた。
「なめるなよ。
 オレが智略だけの大帝だと思うなよ。本気になれば、貴様ごとき――」
「だったらとっととかかって来いよ」
 告げるギガトロンの言葉を、少年はあっさりとさえぎった。切っ先をギガトロンに向けていた双刃剣――しかも身の丈ほどもあるそれを肩に担ぎ、続ける。
「オレをなめるな。手加減はいらねぇ。容赦もすんな。
 てめぇの全部の力でかかって来い」
 言って、少年はそのままの姿勢で鎧の背中の翼を広げ、腰を落とす。
「叩きつぶしてやるよ――てめぇのすべてを、オレのすべてで。
 てめぇの力、ひとつ残らず叩きつぶして、どうやったってオレにゃ勝てねぇってことを心の底から思い知らせてやる」
 そして――告げる。
「てめぇにだけは――」
 

「絶対負けない」

 

「…………むぅ」
 時は深夜、機動六課・TF宿舎――設立にあたり古かった建物を改修した機動六課の隊舎群の中で唯一の新築であるその一室で、マスターメガトロンは静かにうめき、スリープモードから復帰したばかりの自らのメインシステムを本格的に立ち上げた。
 機械の身体を持つトランスフォーマーといえど、その本質が生命体である以上睡眠は最低限必要とされる重要な要素だ。彼とてその例にもれず、睡眠をとっていたのだが――
「今のは……」
 睡眠の最中、突如脳裏に飛び込んできた光景が思い起こされる。
 夢、と言うにはどこか感じが違った。強いて定義するならば――
(……記憶、か…………)
 だが、自分はあんな体験をした覚えはない。垣間見たものは自分の記憶ではない。
 では誰の記憶なのか――不思議と答えにはすぐにたどり着いた。
「…………あの小娘か……
 意識の一部にリンクが残っていたか……これも、ゴッドオンの影響か……?」
 考えても答えは出ない――追求をあきらめ、マスターメガトロンは“記憶”の中身へと意識を向けた。
「あれが小娘の見た記憶だとするなら……
 ……ヤツが小娘の“師匠”か……」
 まっすぐな、強い瞳だった。
 だが――にごっていた。
 その奥底に、黒い感情が渦巻いているのを感じた。
 生半可な修羅場で身につくものではない。かつての、デストロン破壊大帝時代の自分ですら、あれだけのモノを手にすることができていただろうか――そんなことを思わずにはいられない。
(あれほどの狂気を抱きながら、その狂気を抑え込み、小娘達のために戦い抜いた、か……
 並の精神力でできることではない――なるほど、小娘がまっすぐに育つはずだ)
 だからこそ――考えてしまう。
(……おい、“師匠”……
 オレは、貴様とは違う……
 狂気を昇華した貴様と――狂気に振り回され、狂気に飲み込まれたオレとでは……)

 

 

「はーい、せいれーつ!」
「はい!」
 なのはの声にティアナが答え、フォワードメンバーはなのはの前に集合した。
 全員が全員、朝から全力で動き回った後で、かなり息が切れている。
「それじゃあ、本日の早朝訓練、ラスト1本。
 みんな、まだがんばれる?」
『はい!』
 声をそろえ、答える一同に、なのはは笑顔でうなずき、
「それじゃあ、シュートイベーションをやるよ。
 レイジングハート」
〈Blitz shooter!〉
 なのはの言葉にレイジングハートが応え――彼女の周囲に、多数の魔力スフィアが形成される。
「私の攻撃を5分間、被弾なしで回避しきるか、私にクリーンヒットを入れればクリア。
 誰かひとりでも被弾したら、最初からやり直しだよ」
 そう説明し、なのははレイジングハートをかまえ――
「待て」
「っとと……」
 唐突に、マスターメガトロンが口をはさんだ――気合を入れたところにいきなり出鼻をくじかれ、なのはは思わずバランスを崩しかけるが、マスターメガトロンはかまわず告げた。
「先にオレがやる――対個人モードに切り替えろ」
「マスターメガトロンさん……?」
「調整の総仕上げだ」
 疑問の声を上げるなのはに、マスターメガトロンはキッパリと告げる。
「いい加減、オレの調整をひよっこどもの訓練に利用されるのもガマンの限界なんでな……さっさと終わりにさせてもうぞ」
「へぇ……」
 告げるマスターメガトロンの言葉に、なのはは思わず笑みを浮かべた。
「いいんですか? そんなこと言っちゃって。
 今のマスターメガトンさん、ひとりじゃ全力出せないんですから、そう簡単にはクリアできませんよ」
「貴様こそなめるな。
 最大出力が発揮できずとも、その程度の訓練など問題にならん」
 対し、マスターメガトロンも笑みを浮かべてそう答えた。二人の視線が、笑みが交錯し――

『GO!』

 同時に叫び――マスターメガトロンが、そしてなのはの操るスフィア群が一斉に動いた。真っ正面に向けて跳躍したマスターメガトロンを狙い、スフィアが一斉に飛翔する。
「オメガ!」
〈Yes, My Boss!
 Combat-System start!〉

 告げるマスターメガトロンの言葉に、彼の手の中に現れた銀色のデバイスカードが応える――同時、彼の手の中には彼の愛刀であるアームドデバイス、オメガが握られていた。
 そのまま、自分を包囲しようとするスフィアの群れをかいくぐり、上空のなのはに向けて魔力刃を放つが――届かない。数発のスフィアが魔力刃の軌道をずらし、なのは自身も身をひるがえして魔力刃をかわす。
 そして――別のスフィアがマスターメガトロンを狙った。素直に後退し、迫るスフィアを次々にオメガで弾き飛ばす。
 だが、素早く飛翔するスフィアを破壊するには至らない。弾かれたスフィアはすぐに体勢を立て直し、再びマスターメガトロン追撃に復帰する。
(ほぉ…………)
 しかし、マスターメガトロンは内心で笑みを浮かべていた。
(決定的な一打こそ打てずにいるが――うまくこちらを包囲しているな。
 この10年で、少しは戦術というものを学んだと見える)
「――だが!」
〈Accel Dash!
 Double!〉

 しかし、こちらも攻められてばかりではない――オメガの言葉と同時にマスターメガトロンは急加速。瞬間的な機動の変化にスフィアが反応するよりも速くその包囲を突破する。
「さすがマスターメガトロンさん!
 けど!」
 そんなマスターメガトロンの動きに、なのはは驚愕すると同時に笑みを浮かべた。素早くスフィアのフォーメーションを組み直し、再びマスターメガトロンを狙う。
 しかし――
「え………………?」
 気づいた。
(スフィアより――速い!?)
 後方から追っているスフィアがまったく追いつけない。
 それどころか、どんどん距離を開けられている。これは――
(さっきの加速魔法が生きてる――?
 私達が使う、瞬間的な加速魔法とは違う――恒常的な、持続式の加速魔法!)
「それでも――回り込ませれば!」
 しかし、そうとわかれば対処はできる――周囲のスフィアを巧みに操り、なのははマスターメガトロンの機動を制限。徐々に追い込んでいく。
 さすがにこれはマスターメガトロンも対処しきれない。見る見るうちに追い込まれ、スフィアの包囲も少しずつ小さくなっていく。
「マスターメガトロンさん!」
「あー、あれじゃダメね。逃げ切れないわ」
 一方、見学しているフォワード陣の目にも、マスターメガトロンの不利は明らかだった。思わず声を上げるスバルのとなりで、元々マスターメガトロンに好意的な感情を持っていないティアナは肩をすくめてマスターメガトロンの負けを宣告する。
「――とらえた!」
 そして――なのははついにマスターメガトロンを追い込んだ。スフィアをかわして上空へと跳躍、空中で逃げ場を失ったマスターメガトロンへと、すべてのスフィアが全方位から襲いかかり――

 

〈Triple!〉

 

 消えた。

 

 すべてのスフィアが。
 そして、マスターメガトロンが。

 

「え………………?」
 一瞬にして視界から消えたマスターメガトロンの姿を探し、なのはは周囲を見回し――
「なのはちゃん」
 そんななのはに、アスカが声をかけた。
「右」
 あっさりと告げられたその言葉に、なのはは眉をひそめて右側へと視線を動かし――
「……アクセルダッシュの本質は加速による緊急機動でも高速戦闘でもない。そんなものは加速能力と持続性に便乗した副次的な使い方にすぎん。
 その本質は、瞬間的な加速によって相手の攻撃のタイミングを外し、戦闘リズムを崩すことにある」
 ビルの上で静かに佇み、マスターメガトロンはあっさりとそう告げた。
 そして――
「一応、弾丸に触れてるが……“これ”は、被弾に入るのか?」
 そう尋ね――“手の中のスフィアを”“すべて”握りつぶした。
「どうなんだ?」
「え、えっと……
 一応、しのぎきったことになるから……クリア、かな?」
 改めて尋ねるマスターメガトロンの言葉に、なのはは戸惑いがちにうなずいてみせる。
「あ、あの魔力弾の嵐を……」
「一瞬で、全部捕まえちゃったんですか……!?」
 まったく見えなかった――マスターメガトロンの取った驚くべき反撃に、エリオとキャロが舌を巻き、
「よ、よく見えましたね……アスカさん……」
「見えなかったよ――ちょっとズルしただけ。
 見失った後、すぐに端末で確認したの」
 なのはよりも早くマスターメガトロンの姿を捉えたことに驚くティアナに、アスカはペロリと舌を出してポケットから予備の簡易端末を取り出してみせる。
「すごいすごい!
 マスターメガトロンさん、すっごぉい!」
 一方、マスターメガトロンの挙げた成果を前にまるで自分のことのようにはしゃぐスバル――そんな彼女を、マスターメガトロンはしばし無言で見つめていたが、
「…………フンッ。
 貴様らの前にやらせてもらって、正解だったようだな」
 ため息まじりにつぶやき、大げさに肩をすくめてみせて――
「この程度で驚くようなレベルのヤツらの後では、いつまで待たされるかわかったものじゃないからな」
「な――――――っ!」
 こちらを足手まといと言わんばかりのマスターメガトロンの言葉に、ティアナは怒りから思わず言葉を詰まらせた。
「ちょっ、マスターメガトロンさん、そんな言い方……!」
「事実だ」
 たしなめようとしたなのはにもキッパリと言い放ち、マスターメガトロンは彼女達に対して背を向け、
「オレの調整はもう十分だ。
 もうオレがここに来る理由もない――後は貴様らで勝手にやれ」
 どうでもよさそうに――本当にどうでもよさそうに言い放つと、そのままマスターメガトロンはシミュレーションエリアから離脱していってしまった。
「何よ、あの態度……!
 元破壊大帝だか何だか知らないけど、人のこと見下して!」
 怒りもあらわにティアナがうめく――エリオとキャロも複雑な表情を見せているが、
「マスターメガトロンさん……」
 ただひとり――スバルだけは悲しげにマスターメガトロンの去っていった方向を見つめていた。
(なんだろう……
 さっきのマスターメガトロンさん……)
 

(なんだか……らしくなかったような……)
 

 

 一方、訓練場を後にし、マスターメガトロンは隊舎へと戻ってきた。
 この新しいボディの調整が終わった以上、今のところ特にやることもない。どうしようかと考えていると――
「あの言い方は、ないんとちゃうかな?」
「知るか」
 出かける用事でもあるのか、正面口から出てきて声をかけてきたはやてに、マスターメガトロンはあっさりと言い放った。
「貴様こそ、のぞき見とはいい趣味をしているとは思えんな」
「せやかて、みんなの様子が気になったんやもん」
 肩をすくめ、告げるマスターメガトロンに対し、はやてはそう答えて口を尖らせ、
「それより、今はマスターメガトロンや。
 あんな言い方したら、ティアナが怒るんはわかっとるはずやろ?」
「だったら何だ?
 適当にご機嫌でもとっておけとでも言うつもりか?」
「いや、そうは言わへんけど……」
 マスターメガトロンの言葉に、はやてはそう答えてため息をついた。
 別にスバル達のことを嫌っているワケではないはずだが――性格上、マスターメガトロンがお世辞など言うとは思えない。むしろ誰彼かまわず悪態を雨アラレとばらまいている現状こそ、まさに“他者にどう思われようが知ったことじゃない”という彼の本質そのものとさえ言えるだろう。
 とはいえ――彼のもたらしたこの現状が良くないものであることもまた事実だ。あぁいった態度をとった、“その意図するところ”はわかるが、そのためにマスターメガトロンと他の面々との関係がギクシャクしてしまう事態は、正直歓迎できるものではない。
 どうしたものかとはやてはしばし思考をめぐらせ――
「………………よし」
 唐突にポンッ、と手を叩いた。
「マスターメガトロン……ちょっと、連れてってもらいたいところがあるんやけど……」
 

「みんな、チーム戦にもだいぶ慣れてきたね」
 あの後、ティアナが機嫌を直すまでに若干の時間を要したものの、無事シュートイベーションはクリア――スバル達を整列させ、バリアジャケットを解いたなのはは笑顔でそう告げた。
「ティアナの指示も筋が通ってきたよ。
 指揮官訓練、受けてみる?」
「い、いえ……あの……
 戦闘訓練だけで、いっぱいいっぱいです……」
 なのはの提案にあわてて答えるティアナだったが、
「えー? もったいないなぁ……」
 そんな彼女に不満の声を上げたのはアスカだ。
「ティアちゃん、けっこう的確に指揮してくれるから、すっごくやりやすいんだよねぇ……
 ちゃんと指揮官としての訓練すれば、今のスキルと併せてかなり伸びると思うんだけどなぁ」
「あ、アスカさん……買いかぶりすぎですよ……」
 この中では最年長のはずなのに、その仕草はかなり子供っぽい(しかも似合ってる)――唇に人差し指をあて、「うーん」と首をかしげてみせるアスカにティアナが答えた、その時――
「………………きゅ?」
「どうしたの? フリード」
 突然、フリードが何かに気づいた。尋ねるキャロにかまわず、周囲をキョロキョロと見回し、
「そういえば……何かこげくさいような……」
 続いてエリオが気づいた。その言葉に一同が周囲を見回し――ふと視線を落としたティアナが声を上げた。
「あぁっ!
 スバル、あんたのローラー!」
「え…………?
 ……あぁっ!」
 見れば、スバルのローラーブーツ、その右足側のフレーム部分が火花を散らしている。どうやら駆動系に組み込まれた電子部品がショートしているようだ。
「あっちゃー、ムリさせちゃった……
 『自分で自分の装備を壊すようなバカはやるな』って師匠も言ってたのに……!」
「オーバーヒートかな……
 後で、メンテナンススタッフに見てもらおうか」
 ローラーブーツを抱え、肩を落とすスバルに告げると、なのははティアナへと視線を向け、
「ティアナのアンカーガンも、けっこう厳しい?」
「はい……
 だましだまし使ってますけど、動作不良ジャムが多くて……」
「うーん……」
 その答えに、なのははしばし考え――つぶやいた。
「みんな、訓練にも慣れてきたし、そろそろ……」
 

“実戦用の新デバイス”への切り替えの時期かな……?」
 

 

「じゃ、一旦寮でシャワー使って、着替えてロビーに集まろうか」
 ともかく、まずは朝練の疲れを取ることからだ――隊舎に戻り、なのはがスバル達に告げると、
「………………ん?」
 ふと、アスカがそれに気づいた。
「あの車……乗ってるのって、フェイトちゃんとアリシアちゃんじゃない?」
「え………………?」
 アスカの言葉になのはが振り向くと、ちょうど問題の車が彼女達の前で停車した。車の天井部分が収納され、フェイトとアリシアが顔を見せる。
「これ、フェイトさんの車だったんですか?」
「うん。
 ジャックプライムがいない時の、地上での移動手段なんだ」
 やはり男の子。スポーティなデザインの車に目を輝かせるエリオの問いに、フェイトは優しげに笑ってそう答える。
「そっか……
 確か、ジャックプライムくん、今日はサイバトロンシティだもんね」
「ザラックコンボイに報告に行くだけだから、そんなにはかからないと思うけど……」
 つぶやくなのはにフェイトが答えると、今度はアリシアが尋ねた。
「それで、みんな、訓練の方はどうなの?」
「うん。大丈夫。
 みんなでがんばってる甲斐あって、いい感じだよ」
 そう答えたのはアスカだ――そのままチラリと背後に視線を向け、
「もっとも――がんばりすぎてデバイスが危険域に突入してる手加減知らずさんが二人ほどいるけどね」
『あ、あはははは……』
 その言葉には、スバルとティアナも言い返せない。二人そろって乾いた笑いを返すしかない。
「エリオ、キャロ……ごめんね。
 私は二人の隊長なのに、あんまり見てあげられなくて……」
「アスカもね。
 ホントは私と組むのが主になるんだから、フォーメーションとかしっかり煮詰めないといけないのに……」
「大丈夫だよ。気にしないで。
 アリシアちゃんは外部の調査協力が一通り確約できるまでは現場に出てこれるようなヒマもない――わかってるよ、ちゃんと。
 だから、なのはちゃんもスバルやティアちゃんと組む状態をデフォにしたメニューを組んでくれてるんだし。
 それに、フェイトちゃんも、エリオくんやキャロちゃんだって大丈夫だから。
 むしろ、いろんなところでフォローしてもらって、助かってるくらいだよ」
「みんな、いい感じで慣れてきてるよ。
 いつ出動があっても大丈夫」
 アリシアに答えるアスカに付け加え、今度はなのはがフェイトに尋ねた。
「それで……二人はこれからお出かけ?」
「うん。
 ちょっとアリシアを大学まで送って……私は捜査部の方に」
「私はちょっと夜までかかりそうだけど、フェイトは昼までには戻れるっていうからさ……みんな、さびしんぼさんなウチのフェイトちゃんと、一緒にご飯でも食べてあげてね♪」
「あ、アリシア……!」
 笑顔で茶化すアリシアの言葉に、フェイトは顔を真っ赤にして声を上げ――そんな彼女達のやりとりに、なのは達は顔を見合わせ、思わず笑みをこぼすのだった。
 

「聖王教会騎士団の魔導騎士で、管理局本局の理事官……
 これが、これから会いに行くカリム・グラシアとか言う女の肩書きか?」
「せや。
 私が教会騎士団の仕事に派遣で呼ばれた時やから……8年くらい前からの付き合いやね」
 ビークルモードの戦闘指揮車形態でハイウェイを走り、尋ねるマスターメガトロンに、はやては指揮所スペースでくつろぎながらそう答えた。
「カリムと私は、信じてることも、立場も、やるべきこともぜんぜんちゃうんやけど、今回は、二人の目的が一致したから……
 そもそも、六課の立ち上げ、実質的な部分をやってくれたんは、ほとんどカリムなんよ。おかげで私は、人材集めの方に集中できた」
「そうして優秀な人材を集めた割には、斧娘のような“人事から回ってきた掘り出し物”もいるようだが?
 貴様の目も、まだ節穴が多いようだな」
「むー、痛いところをついてくるなー」
 マスターメガトロンの言葉に苦笑する――が、はやてはそんなマスターメガトロンに、まるで子供を叱る母親のように告げた。
「せやけどな、マスターメガトロン。
 女の子相手に、『斧娘』はないんとちゃうかな?」
「なら斧眼鏡」
「人ですらなくなった!?」
「そっちの呼び名よりはマシ――ということで納得しておけ。
 それより転送ポートに着く。高速を降りるぞ」
「あ、はーい。
 ミッドチルダ内の移動やから、世界内線の方のポートに入ってなー♪」
「了解だ」
 はやての言葉にうなずいて、マスターメガトロンは高速を降りるべく車線を変えてインターチェンジへと入っていった。
 

「じゃあ、スバルのローラーブーツとティアちゃんのアンカーガンも自作なワケ?」
「うん。そうだよ」
 機動六課隊舎のシャワールーム――キャロの頭につけたシャンプーをわしゃわしゃと泡立てながら尋ねるアスカに、スバルは笑顔でそう答える。
 ちなみに、アスカはここでも眼鏡着用だ――相応の対策でもしてあるのか、シャワールームの湯気の中でもそのレンズは一切曇っていない。
「訓練校でも前の職場でも、支給品って杖しかなかったんですよ」
「あたしは魔法がベルカ式だし、戦闘スタイルがあんなだし。
 ティアも、『カートリッジシステムを使いたいから』って」
「で、そうなると、自分で作るしかないんですよ。
 訓練校じゃ、オリジナルデバイス持ちなんかいなかったから、おかげで目立っちゃって……」
「あー、わかるわかる。
 魔導スタイルが特殊だと苦労するよねー」
 ティアナやスバルの言葉にうんうんとうなずき、アスカが納得してつぶやくと、今度はアスカに頭を流してもらったキャロが二人に尋ねた。
「あ、もしかして、それでスバルさんとティアナさんってお友達になったんですか?」
「『腐れ縁とあたしの苦悩の日々の始まり』って言って」
 思わず口を尖らせてそう答え――ティアナはふと気づいてアスカに尋ねた。
「えっと……『ローラーブーツやアンカーガン“も”』ってことは……ひょっとしてアスカさんも?」
「うん。あたしのレッコウも自作だよ。
 といっても、設計してもらったものをただ組み立てただけなんだけどね」
 そう答え、アスカは軽く肩をすくめ、
「さっき『魔導スタイルが特殊だと苦労する』って言ったでしょ? あれ、思いっきり実体験。
 レッコウとは結構長い付き合いなんだけど、組んだ当時は、まだカートリッジシステムもレアでね……その上、魔力増幅は二の次、属性付加専用のもの、となるとさらにレア。
 おかげで、自分の戦闘スタイルも自力で確立してくしかなくてね……だから、正規の魔導師教育って受けてないの。
 局の魔導師ランクだって、わざわざ申請して、外部受験で取得したんだから」
「そうなんですか……」
「それに比べて、今はいいよねー。いろんなスタイルに合ったカリキュラムがあって。
 あたしも訓練校からやり直そうかな? ねぇ、スバル。訓練校の入学可能年齢って何歳までだっけ?」
「あ、えっと……」
「アスカさん……その発言はさりげなく自爆かと……」
 半ば本気の様子で尋ねるアスカの問いに、スバルとティアナは思わず苦笑し――彼女達は忘れていた。

 

「みんな、遅いなぁ……」
「きゅくるー……」

 隊舎正面ロビーにて、すでに身体の手入れを終えたエリオとフリードが待ちくたびれていることを。
 

 

ミッドチルダ北部
ベルカ自治領“聖王教会”大聖堂――

「あなたがマスターメガトロンね?
 私はカリム・グラシア――よろしく」
「…………フンッ」
 はやてと共に対面し、笑顔で名乗る金髪の女性――カリムの差し出してきた右手に対し、マスターメガトロンはぶっきらぼうに鼻を鳴らしながらも右の人差し指を差し出し、握手に応える。
 そのままの姿勢で周囲を見回す――大聖堂そのものもそうだが、ずいぶんと天井や入り口が高い。トランスフォーマーの社会進出に伴って改築でもしたのだろう、などと考えながらはやて達へと意識を戻す。
「カリム、久しぶりや」
「はやても、元気そうで何よりね」
 一方、はやてもカリムに笑顔で声をかけ、カリムもまた笑顔で答える――初対面な上に性格に難のあるマスターメガトロンと違い、こちらはそれなりに良き関係が築けているようだ。
 そして、はやてとカリムは用意されたテーブルに座ってお茶の準備。マスターメガトロンはTF用のイスがないためそのすぐ傍らに腰を下ろした。
「ごめんな。すっかりご無沙汰してもうて……」
「気にしないで」
 少しばかり申し訳なさそうに告げるはやてに答え、カリムは少し大きめのティーカップに紅茶を注ぎ、
「はい、どうぞ。
 あいにく、トランスフォーマー用のカップは用意してなくて……」
「気にするな。元々予定になかった客だ」
 カリムにそう答えると、マスターメガトロンは器用にカップを受け取り、味わうでもなく口の中に一気に紅茶を流し込んでしまう。
 そんなマスターメガトロンに苦笑し――カリムははやてへと向き直り、
「部隊の方は順調みたいね」
「これもカリムのおかげやね」
「そういうことにしておくと、お願いもしやすいかな?」
「何や、今日会って話すんは、“お願い”方面か?」
 聞き返すはやての問いに――カリムの表情が曇った。どうやら真剣な話のようだ。
 そして、カリムはウィンドウを展開、そこからの操作で窓の暗幕を閉めると、一同の前にそのデータを表示した。
 そこに表示されているのは――
「これは……ガジェットか?
 しかし、見たことのないタイプもいるな……」
「新型?」
「えぇ。
 今までのT型以外に、新しいのが2種類……
 戦闘性能はまだ不明だけど……V型は、割と大型ね」
「こいつらは対人用のみか?」
「いえ。対TF用と思われる、より大型のモデルも確認されているわ。
 単純なスケールアップのみに留めることでコストパフォーマンスの向上を図る――この点は相変わらずね」
 聞き返すマスターメガトロンに、カリムは真剣な表情で答える。
「本局の方には、まだ正式報告はしてないわ。
 監査役のクロノ提督には、さわりだけお伝えしたんだけど……」
 そのカリムの言葉を聞く中で――はやては気づいた。
 映像のひとつに映っているのが何なのか。
「これは……」
「そう。それが今日の本題。
 おととい付けでミッドチルダに運び込まれた、不審貨物……」
「データと外観が一致する。
 “レリック”のケースだな? となれば中身も当然……」
「その可能性が高いわ。
 U型とV型が発見されたのも、昨日からだし……」
「ヤツらが“レリック”を見つけるまでの予想時間は、どのくらいを見る?」
「調査では、早ければ今日、明日……」
 カリムがマスターメガトロンに答えると、はやては真剣な表情で考え込み、
「せやけど、おかしいな……
 “レリック”が出てくるのが、ちょう早いような……
(『早い』……?)
 小声でつぶやいたつもりだろうが――マスターメガトロンはそのつぶやきをしっかりと聞きつけていた。内心で眉をひそめ――
「だから、会って話したかったの」
 そんな中、カリムははやてに告げた。
「これをどう判断すべきか……どう動くべきか……
 “レリック事件”も、“その後に起こるはずの事件”も……対処を失敗するワケには、いかないもの……」
「………………」
 その二人の言葉に、マスターメガトロンはその場で腕組みし、思考をめぐらせる。
 ここに来るまでに、カリムのプロフィールについては管理局のデータベースで確認している。
 そこに書かれていた彼女の“能力”が事実なら、先程から『早い』だの『その後に』だのとやたら未来形で話している点にも合点がいくが――
「…………まぁ、かまわんか……」
 言って、3人の中でいち早く思考をまとめたマスターメガトロンはその場に立ち上がった。
「どこへ行くん?」
「決まってる。
 これだけの情報があれば十分だ――“レリック”を追跡し、回収する」
「ち、ちょう!
 ひとりで行くつもりなん!?」
「当然だ。
 機動六課への協力は約束した。だが――アイツらとチームを組むことまで認めた覚えはない」
 あわてて腰を浮かすはやてに、マスターメガトロンはあっさりと言い放つ。
「では、あなたはどうするつもりなの?」
「知れたこと」
 続いたカリムの問いにも、マスターメガトロンはやはりあっさりと答えを口にした。
「オレはオレで動く――そして、あいつらよりもさらに前で戦う。
 共に戦って大技に巻き込むよりはずっとマシだ」
 淡々と告げるマスターメガトロンだが――そんな彼の言葉に、カリムはクスリと笑みをもらす。
「…………何だ?」
「いえ……前にはやてが言っていたとおりの人だな、って……」
「八神はやてが……?」
「えぇ」
 聞き返すマスターメガトロンに、カリムは笑顔でうなずき、
「『態度は素直じゃないけど、とても優しい人だった』って……」
「む………………」
 その言葉に、マスターメガトロンはすぐさま視線をそらし――となりで懸命に笑いをこらえているはやてをギロリとにらみつける。
「八神はやて……
 人のことをあることないこと言いふらすのは、正直感心しないんだがなぁ?」
「別に『ないこと』はあらへんと思うよ。
 私はちゃぁんと、事実に基づいて話したつもりやけどな」
「なら、何を根拠に……」
「最近のでいいなら、ひとつあるよ」
 うめくマスターメガトロンに対し、はやてはピッ、と人差し指を立て、
「4分59秒」
「………………?」
 唐突に告げられたその言葉に、マスターメガトロンは思わず眉をひそめた。
「……なんだ? その『4分59秒』というのは」
「今朝のシュートイベーション、マスターメガトロンのクリアタイムや♪」
 尋ねるマスターメガトロンだが、はやては余裕の態度を崩すことなくそう答える。
「さすがはマスターメガトロン。後1秒で逃げ切れたんに、そこで勝ちに行くやなんてね」
「当然だ。
 『逃げる』などという選択はオレにはない」
 はやての言葉にあっさりとそう答えるマスターメガトロンだったが――
「せやけど」
 そんなマスターメガトロンに、はやては笑みを浮かべて尋ねた。
「わざわざ時間をギリギリまで引き延ばしたんはなんで?」
「…………何が言いたい?」
「あの場でマスターメガトロンの使った加速魔法……確か“アクセルダッシュ”やったか?
 『Double』と『Triple』、つまり『2倍』と『3倍』や――あの魔法、自身のスピードを倍加させてく魔法なんやろ?
 あの時、2倍のスピードでスフィアをかき回して、3倍のスピードで自分に迫るスフィアを捕まえた……けど、2倍であのスピードやったら、いきなり3倍でいけば、反応すら許さずになのはちゃんに一撃入れられたはずや」
 「なのはちゃん、相変わらず小回り効かへんし」と付け加え、はやては続ける。
「せやけど、マスターメガトロンは3倍速の使用をギリギリまで抑えた。
 最初は使用制限でもあるんかと思ったけど、今のマスターメガトロンがピンピンしとるんを見とるとそうも思えへん。
 つまり――」
 言って、はやてはマスターメガトロンへと視線を向け、
「時間稼ぎ……したかったんとちゃうかな?」
「何のための?」
「スバル達のための」
 あっさりとはやてはそう答えた。
「ヘトヘトのスバル達がシュートイベーションを始める前に乱入。ギリギリまで引っ張って時間稼いで、なおかつティアナを怒らせて頭を冷やす時間を必要とさせることで、スバル達に休憩の時間を用意したかった……違う?」
「…………何を言い出すかと思えば。
 そんなもの、単なる貴様の想像だろうが」
「せやね。
 けど……少なくとも、私は確信を持ってる」
「む………………」
 そう答えるはやての視線は、さっきまでのからかうようなものとは違う、真面目で真摯なものだった。
 だからこそ、マスターメガトンは――
「………………好きに想像していろ」
 ぶっきらぼうに、そう答えるしかなかった。
 

 そして、機動六課隊舎では――
「これが……」
「あたし達の新デバイス、ですか……?」
「そうでーす♪」
 目の前に並ぶのは、ウェイトモードのデバイス達――思わず尋ねるスバルとティアナに、シャリオは笑顔でうなずいた。
「設計主任は私! 協力はなのはさん、レイジングハートさんとリイン曹長!」
「へぇ……強力なバックアップだねぇ……」
 シャリオの言葉にアスカが感心していると、エリオとキャロは自分達のデバイスへと視線を落とし、
「ストラーダとケリュケイオンは変化なし、かな……?」
「うん、そうなのかな……?」
 エリオのつぶやきにキャロが同意すると――
《違いまーす♪
 変化なしなのは外見だけですよ♪》
 そんな二人に告げるのはリインだ。
《二人はちゃんとしたデバイスの使用経験がなかったですから、感触に慣れてもらうために、基礎フレームと最低限の機能だけで渡してたですよ》
「あ、あれで最低限……!?」
「ホントに……?」
《はいです♪》
 驚くエリオ達にうなずくと、リインは今度はアスカのもとへ飛び、
《そして、もうレッコウが完成の域にあるアスカさんには、新デバイスの代わりにこの子達を♪》
 言って、アスカに見せたのは別のテーブルに並んだ――
「デジカメに……携帯電話に……双眼鏡?」
 思わずアスカが首をかしげるが、そんな彼女にかまわずリインは告げた。
《みんな、アスカさんにホントの姿を見せてあげるです♪》
 その言葉と同時――並んでいた3つのアイテムが唐突に動いた。突如飛び上がったかと思うと人型にトランスフォーム、テーブルの上、アスカの正面に整列する。
「うわー……ちっさ……」
「かわいー♪
 何? この子達」
「デバイスにトランスフォーマーの技術を取り入れて生み出された、デバイスとは別の形のパートナー、“リアルギア”よ」
 その姿に思わず声を上げるティアナやスバルに答えるのはシャリオだ。
《携帯電話からトランスフォームするスピードダイヤル。
 デジカメからトランスフォームするスパイショット。
 そして、双眼鏡からトランスフォームするロングビュー。
 みんな、データ分析を目的とした、アスカさんのためのサポーターです♪》
 そう告げると、リインは一同の目の前に舞い上がり、
《みんなが扱うことになる子達は、六課の前線メンバーと、メカニックスタッフが、技術と経験の粋を集めて完成させた最新型!
 部隊の目的にあわせて――そして、エリオやキャロ、スバルとティアとアスカさん、個性に合わせて作られた、文句なしに最高の機体です!
 この子達はまだ、みんな生まれたばかりですが、いろんな人の願いや想いが込められてて、いっぱい時間をかけてやっと完成したです。ただの武器や道具と思わないで、大切に、だけど性能の限界まで思いっきり全開で使ってあげてほしいです》
「うん。
 この子達もね、きっとそれを望んでるから」
 リインの言葉にシャリオが付け加えると――
「ごめんごめん。お待たせー♪」
 メンテナンスルームの扉が開き、なのはが姿を見せた。
「ナイスタイミングです。
 ちょうど今から、機能説明をしようかと」
「そうなんだ。
 もう、すぐに使える状態なんだよね?」
「はい」
 尋ねるなのはに答えると、シャリオはスバル達の新デバイスのデータを表示し、説明を始めた。
「まず、スバル達の使うその子達には、みんな何段階かに分けて出力リミッターをかけてるのね。
 一番最初の段階だと、そんなにビックリするほどのパワーが出るワケじゃないから、まずは、それで扱いを覚えていって――」
「で、各自が今の出力を扱いきれるようになったら、私やフェイト隊長、リインやシャーリーの判断で解除していくから」
《ちょうど、一緒にレベルアップしていくような感じですね》
 なのは、リインがシャリオに続くと、ふと気づいたティアナがなのはに尋ねた。
「出力リミッター、っていうと……なのはさん達にもかかってますよね?」
「うん。
 私達はデバイスだけじゃなくて、本人にも、だけどね」
「リミッターが、ですか?」
「“能力限定”って言ってね、うちの隊長と副隊長はみんなだよ。
 ヴィータ副隊長にシグナム副隊長。そしてそれぞれのパートナートランスフォーマーのみんな――嘱託の私とフェイト隊長もね」
《はやてちゃんとビッグもですね》
 聞き返すエリオになのはとリインが答えるが、年少二人とスバル、アスカはその意図がわからず首をかしげており――そんな彼女達にはシャリオが助け舟を出した。
「ほら、部隊ごとに保有できる、魔導師ランクの総計規模、って決まってるじゃない」
「あ、あーあー、そうでした」
 シャリオの言葉に、ようやく納得したスバルが答えるが――そんな彼女のとなりでアスカが挙手し、
「はーい、しつもーん。
 局員じゃないあたしは、今の話でもサッパリなんだけど」
「まぁ、わかりやすく言えば、ひとつの部隊が強力な戦力を独占しないための措置、みたいなところかな?
 魔導師ランクごとにポイントみたいなものがある、って想像してみて――ランクが高ければ高いほどそのポイントは高くて、ひとつの部隊で保有できる魔導師は、所属する魔導師全員のポイントの合計が、部隊ごとに決められたポイントを上回らないようにしなきゃいけない、って説明で、わかる?」
《ひとつの部隊がたくさんの優秀な魔導師を保有したい場合は、そこに上手く納まるよう、魔力の出力リミッターをかけるですよ》
 なのはとリインの言葉に、アスカは今の説明を頭の中で整理して――
「えっと……つまり……
 ……小隊システム?」
「さ、さすがアリシアちゃんの同僚。そういう例えで来るんだ……」
 思わずなのはが苦笑するが、アスカは不思議そうに首をかしげ、
「けどさ……それって、あまり意味ないことない?
 制限がかかるのは出力だけなんでしょ? 技術とかスキルとか、戦術思考とかはそのままなんでしょ?」
「んー、まぁ、結局のところは裏ワザみたいなものですし」
 肩をすくめてシャリオが答えると、なのはは説明を続けた。
「うちの場合だと、はやて部隊長が4ランクダウンで、隊長達はだいたい2ランクダウンかな。
 トランスフォーマーのみんなはランクとかってまだ制定されてないから、“人間の魔導師に置き換えた場合の想定ランク”に応じてリミッターがかかってる。だいたい、それぞれのパートナーと同じくらいのリミッターがかかってるね。
 一番制限がかかっちゃってるのはビッグコンボイさんかな? 出力が高い分、5ランクもダウンしてる」
「よ、四つ、五つ、って……
 八神部隊長がSSで、ビッグコンボイ副部隊長の想定ランクは確かSSSのはずだから……」
「Aランクまで落としてるんですか?」
《はやてちゃんもいろいろ苦労してるです……》
 ティアナとエリオが思わず声を上げると、スバルがなのはに尋ねる。
「なのはさんは……?」
「私は元々S+だから、2.5ランクダウンでAA。
 だからもうすぐ、ひとりでみんなの相手をするのは辛くなってくるかな?」
《隊長さん達ははやてちゃんの、はやてちゃんは直接の上司のカリムさんか、部隊の監査役、クロノ提督の許可がないと、リミッター解除はできないですし、許可は、めったなことでは出せないそうです 。
 みなさん、大変なんですよー》
 答えて、肩をすくめてみせるなのはのとなりでリインもため息まじりに告げるが――
「そうでもないんじゃないかな?」
 それに異を唱えたのはアスカだ。
「さっきも言ったけど、出力にリミッターがかかってるだけで、他の能力は全部そのままなんだから。
 出力なんて強さの一要素。たとえ出力が低くたって、戦い方しだいでどうとでもなるものなんじゃないの?」
「そう簡単にはいかないよ、実際やってみると……」
「あ、えっと……」
 そう答えるなのはだが、それを聞いたスバルはなぜか気まずそうに視線を泳がせて――
「……あたし、実際に知ってます。“実例”」
「そうなの?」
「はい……」
 聞き返すなのはに答え、スバルは告げた。
「Fランク相当まで出力を落とした“師匠”が……」
 

「演習で地上本部の部隊ひとつ、丸ごと壊滅に追い込むのを……」
 

『《え゛………………っ!?》』
 そのスバルの言葉に、場の空気が硬直した。
「え!? ちょっ!? 待って!?」
 そんな中、真っ先に再起動したのはなのはだった――まだ動揺が残るものの、何とかスバルに尋ねる。
「スバルの言う『師匠』さんって、会ったことないけど……あの人だよね? “地上部隊の黒き暴君”、“ジョーカー・オブ・ジョーカー”!
 じゃあ、あのウワサってホントだったの!?
 『“ジョーカー・オブ・ジョーカー”が、魔法を一切使わずに一個大隊ツブした』って!」
「はい……」
 なのはの言葉に、スバルは申し訳なさそうにうなずいてみせる――

 

 にわかには信じがたい話だが、残念ながらスバルの言っていることは真実だ――管理局の訓練記録を洗い出せば、その時の記録はちゃんと残っていたりする。

 舞台となったのは年に一度行われる、地上本部の部隊と一般陸士連合部隊による大規模演習だった。
 部隊規模で地上本部の本隊に劣る一般陸士部隊は数個部隊が合同であたる――『“連合”部隊』と銘打たれているのはそのためだが、実際のところ、普段別個に任務に当たっている彼らが組んだところでそう簡単に連携が取れるものでもない。
 結果、勝敗はいつも地上本部側の圧勝――実態としては本隊の訓練のための“噛ませ犬”としての意味合いが強かった。
 当然、“噛ませ犬”になるとわかっている陸士部隊側の士気が上がるはずがない――せいぜいケガのないように、などとやる気のない発言をした総指揮官に対し、真っ向から異を唱えた者がいた。
 それがスバルの“師匠”――その年、訓練への参加が割り当てられたスバルの父ゲンヤの部隊に同行していたこの男は、あろうことか一佐である総指揮官にストレートに言い放ったのだ。

『引っ込めヘタレ』

 その後、彼は現状の彼我の戦力を比較した上で本隊を撃破するための作戦をダース単位で提示。それは参加していた各部隊の面々に『本部の連中に一泡吹かせてやれる』と確信させるには十分であったが――たまったものではないのが自分を差し置いてそんな提案をされてしまった総指揮官だった。
 すでに勝ち目のないものとあきらめていた総指揮官殿は、むしろ地上本部側に気持ちよく勝たせることで自分の覚えをよくする、言わば接待的な方向にこの演習を利用することを考えていた――その思惑を水泡に帰しかねない提案をされた上、総指揮官である自分を差し置いて信頼の置ける作戦を提示されたことでその場の面目までツブされたのだ。ムキになって“師匠”にくってかかったものの、逆に接待の思惑を見抜かれた挙句にさんざんにこき下ろされる始末。
 とうとうキレた総指揮官は“師匠”に対し「そこまで言うなら貴様だけで片づけてこい。これだけ作戦が思いつくんだ、ひとりでも勝てるような作戦も立てられるだろう」とまで言い出した。
 事ここに至ってはもう総指揮官に求心力はなかった。“師匠”自身が「修行のために」と自らにリミッターを使用、Fランク相当まで出力を落としていたこともあり、誰もが「そんなムチャな命令に従うことはない」との意見を示したが――彼は逆に聞き返したという。

『………………いいの?』

 そんなやり取りの後、1週間を予定した演習が開始され――

 3日後、トラップや奇襲、その他奇策・珍策の限りを尽くした“師匠”の大暴れによって、“地上本部の精鋭部隊、一個大隊が丸ごと、撤退すら許されず壊滅の憂き目にあう”という前代未聞の結末を迎えることとなる。

 

 余談だが、この時“師匠”にこき下ろされた陸士部隊側の総指揮官は、この演習の半月後“偶然”発覚した汚職の事実により管理局を追われているのだが、この一件との因果関係は不明である。

 

「“師匠”、言ってました。
 『出力なんて単なる目安。「リミッターがかかってるから」なんてただの言い訳。
 足りない出力は技なり経験なり知略なりで補ってしまえば、どんな強敵だって打ち倒せる』
って」
「な、何者なんですか、スバルの“師匠”さんって……」
「……あー、えっと……」
 話を聞き、思わずシャリオがうめくが、当のスバルは乾いた笑いを返すしかない。
《単に『あの人が』って前提条件がつくだけで、信憑性が一気に跳ね上がるのが一番怖いところです……》
「そっか……リインは一緒に仕事をしたことがあるんだよね?」
 冷や汗を垂らし、うめくリインの言葉に、なのははその事実を思い出してつぶやく。
「私も、ウワサだけは聞いてるんだよねー。
 『宇宙恐竜に勝った』『Gと戦って引き分けた』『英霊の具現を張り倒した』『神様をパシリに使った』『猛毒をもって毒を制する人』、その他いろいろ……」
「異名もいろいろ聞きますよね?
 “黒き暴君”“ジョーカー・オブ・ジョーカー”はもちろん、“漆黒の破壊神”“隠し技の百貨店”“反則技の伏魔殿”“超広域型疫病神”“生きた理不尽”“歩くご都合主義”……」
「何か……途中から、異名が明らかにおかしな方向に向かってないですか?」
 なのはに付け加えるシャリオにエリオがうめき、一同の間に気まずい沈黙が落ち――
「……ま、まぁ、“師匠”さんの言ってたこともひとつの真理だね」
 そんな空気を振り払うかのように、なのははポン、と手を叩いて告げた。
「戦い方は人それぞれ。出力に頼らず、自分にできる精一杯のことをやれば、必ず道は開けるものだから。
 スバルのお師匠様の例はちょっと極端だけど……根ざしてる部分は、きっと同じはずだよ」
「さすがなのはちゃん。うまくまとめたね」
「む、蒸し返さないでくれると助かるかな……?」
 アスカの言葉に苦笑し、なのははスバル達へと向き直り、
「まぁ、隊長達や“師匠”さんのことは頭の片すみくらいでいいよ。
 今はみんなのデバイスのこと」
「新型も、みんなの訓練データを基準に調整してるから、いきなり使っても、違和感はないと思うんだけどね」
「午後の訓練の時にでもテストして、微調整した方がいいね」
 スバル達に告げるシャリオにアスカが告げると、シャリオはそんな彼女に、まるで自慢でもするかのように笑顔で答える。
「遠隔調整もできますから、手間はほとんどかからないと思いますよ」
「そうなの?」
「便利だよねー、最近は」
《便利ですー♪》
 首をかしげるアスカのとなりでなのはとリインがつぶやくと、シャリオはスバルへと向き直り、
「スバルのには、リボルバーナックルとのシンクロ機能も、うまく設定できてるからね」
「ホントですか!?」
「持ち運びが楽になるように、収納と瞬間装着の機能もつけといた♪」
「ぅわぁ、ありがとうございます!」
 シャリオの言葉に、スバルは満面の笑顔で礼を言い――
「………………あれ?」
 気づいた。
 メンテナンス用のケースに収められている、銀色のデバイスカード。あれは――
「あれって……マスターメガトロンさんの、オメガじゃないですか?」
「あぁ、そうだね。
 今朝の訓練の後、調整を頼まれて……」
 シャリオがスバルに答えると、スバルはふと気づいてなのはに尋ねた。
「そういえば……マスターメガトロンさんって、どのくらいのリミッターがかかってるんですか?」
「え? マスターメガトロンさん?」
 その問いに、なのはは思わず声を上げ――苦笑まじりに答えた。
「ううん、マスターメガトロンさんには、リミッターはかかってないよ」
「え………………?」
「一応、はやて部隊長のスカウトで六課に来たけど、マスターメガトロンさんの立場って、あくまで“民間協力者”って扱いだから。
 ランクに制限がかかるのは正規の局員と嘱託魔導師――つまり正式に管理局に登録されている魔導師に限られてるの。『善意で手伝ってくれている人に足枷はつけられない』ってことで、民間からの協力者には、どれだけ高い出力を持っていてもリミッターはかけられないことになってるんだよ」
「あたしとアリシアちゃんにもかかってないよ。
 だからランク制限のこと知らなかったんだし」
 スバルに説明するなのはのとなりで、アスカは自らを指さしてそう答え――
「つまりあたしは、24にもなってリミッターなしでBランクのへっぽこさんなワケで……」
「あわわ、そんなことないですよ!」
 さりげなく自爆だった。凹むアスカにスバルはあわててフォローの声を上げ――そんな中で、ティアナはメンテナンスケースの中のオメガへと視線を戻した。
 『マスターメガトロンにはリミッターがかかっていない』――今のなのはの言葉が脳裏を駆け巡る。
「何よ、それ……!
 結局のところ、特別扱いで調子に乗ってるだけじゃない……!」
 気づけば、無意識のうちに拳を握りしめていた。
 

「アリシアはもう大学。
 私はこの後、港湾地区の捜査部に寄っていこうと思うんだけど……そっちは何か、急ぎの用事とかあるかな?」
〈いえ、こちらは大丈夫です〉
 アリシアを大学に送り届け、ハイウェイで車を走らせながら尋ねるフェイトに、ウィンドウに映るグリフィスが答える。
〈副隊長お二人とスターセイバー、ビクトリーレオは空路での“レリック”密輸の情報が入り、交代部隊と一緒に出動中ですが、隊舎にはなのはさんもいらっしゃいますので――〉
 しかし――そんなグリフィスが最後まで告げることはできなかった。
 突然、彼の映るウィンドウのとなりに新たなウィンドウが展開されたからだ。
 そこに朱記されていたのは、たった一言――
 

 ――“ALERT”――

 

 

「このアラートって……!」
「一級警戒態勢……!?」
 一方、警報は機動六課隊舎でも鳴り響いていた。スバルとエリオがつぶやくと、すぐそばのモニタにグリフィスの姿が映し出された。
「グリフィスくん!」
〈はい!
 教会本部から出動要請です!〉
 グリフィスがなのはに答えると、次いでとなりのモニタが起動、はやてが姿を見せた。
〈なのは隊長、フェイト隊長、グリフィスくん!
 こちらはやて!〉
〈状況は!?〉
 回線は向こうにもつながったのだろう。フェイトの声がはやてに尋ねる。
〈教会騎士団の調査部で追ってた、“レリック”らしきものが見つかった。
 場所は、エーリム山岳丘陵地区。対象は、山岳リニアレールで移動中!〉
〈移動中、って……〉
「まさか……」
〈そのまさかや。
 内部に侵入したガジェットのせいで、車両の制御が奪われてる。
 リニアレール車内のガジェットの数は、最低でも30体以上。大型や飛行型の、未確認タイプも出てるかもしれない。
 いきなりハードな初出動や――なのはちゃん、フェイトちゃん、行けるか?〉
〈私はいつでも〉
「私も!」
 フェイトとなのはがうなずくと、はやてはスバル達へと視線を向け、
〈スバル、ティア、エリオ、キャロ!
 みんなもオッケーか!?〉
『はい!』
〈ごめんな、アスカちゃん。
 いきなり隊長不在の出動やけど……〉
「心配ないよ。
 アリシアちゃんがいなくても自分の仕事はわきまえてるし……先輩として、スバル達は何があっても落とさせない」
 はやての言葉に、スバル達とアスカはそれぞれに力強く答える。
〈よし……えぇお返事や。
 シフトはA-3。グリフィス君は隊舎での指揮。リインは現場管制!
 なのはちゃん、フェイトちゃんは現場指揮!
 ほんなら……〉
 言って、はやては映像の向こうで立ち上がり、

〈機動六課、フォワード部隊――出動!〉

『はいっ!』

 

「シャッハ、はやてを送ってあげて。
 機動六課の隊舎まで、最速で」
〈かしこまりました、騎士カリム!〉
 ウィンドウを展開し、告げるカリムの言葉に、彼女に仕える騎士、シャッハ・ヌエラは力強くうなずく。
「聖堂の裏へ。シャッハが待ってる」
「おおきにな、カリム」
 答えるはやてに、カリムも笑顔でうなずき――
「ならば、オレも出動するとしようか」
 そんな彼女達の傍らで、マスターメガトロンもまたこちらに対して背を向ける。
「やっぱり……ひとりで行くつもりなん?」
「当然だ」
 尋ねるはやてにも、マスターメガトロンはハッキリと答えた。
 そして、自らの右手へと視線を落とし、
「八神はやて……お前も、知っているはずだ。
 オレは……ひとつ間違えば、この力で世界を消し去るところだったんだ。
 オレの力は滅びの力――なのは達の敵を滅ぼすことであいつらを守る。それが、今のオレの考えつく唯一の“道”だ」
 言って、マスターメガトロンは一足先にカリムの執務室を出て行き――
「マスターメガトロン……」
 不意に、カリムがマスターメガトロンを呼び止めた。
「力は、ただ力でしかありませんよ」
「………………?」
「そのことを……忘れないでください」
 真剣な表情で告げるカリムの言葉に、マスターメガトロンはしばし沈黙し――
「……忘れない。
 だがそれだけだ」
 淡々と言い放ち、今度こそ執務室を出て行った。

 

 一方、なのは達はヴァイスの操縦するスプラングに乗って現場へ急行中で――
「新デバイスはぶっつけ本番になっちゃったけど、練習通りにやれば大丈夫だからね」
「はい!」
「がんばります!」
「アスカちゃんにお任せ♪」
《エリオとキャロ、フリードもがんばるですよ!》
『はい!』
「きゅくる〜!」
 なのはの、そしてリインの言葉にスバル達は力強くうなずく。
「危なくなったら、私やフェイト隊長、リインがちゃんとフォローするから、おっかなびっくりじゃなくて、思いっきりやってみよう!」
 そう告げるなのはだったが――
「きゅ〜?」
「………………?」
 フリードが不安げにしているのに気づき――エリオはふと、となりのキャロがじっとうつむいているのに気づいた。
「大丈夫?」
「あ、うん……大丈夫……」
 気遣い、尋ねるエリオに、キャロは笑顔で答え、
「スピードダイヤル、ロングビュー、スパイショット。
 3人とも、がんばろうね♪」
 告げるアスカに、3体のリアルギアは電子音声で元気に答える。
 そしてスバルも、ウェイトモードの――ネックレスの宝石を模した姿をとっている、自らの新しい相棒に静かに語りかけていた。
「初めまして、で、いきなりになっちゃったけど……一緒にがんばろうね、相棒」
 そのスバルの言葉に、“相棒”はうなずくかのように一瞬輝きを増し――そんな彼女達を乗せ、スプラングは一直線にエーリム山岳地帯へと飛翔した。
 

「…………機動六課が動いたぞ」
「やっとか……」
 何処がとも知れない暗闇の中――告げるジェノスクリームにブラックアウトは舌打ちまじりにそううめいた。
 そして、ジェノスクリームは手元に展開したウィンドウパネルを操作し――彼らの正面に大型ウィンドウが展開。山岳を駆け抜けるリニアレールを映し出した。
「連中の出動先は山岳リニアレール。
 どうやらその列車が“レリック”を運んでいたらしいが――オレ達と機動六課以外にも追っているヤツらがいただろう。そいつらが一足先に襲撃を仕掛けている」
「ほぉ……
 あの部隊がターゲットを引き込んでくれたおかげで、ずいぶんと動きづらくなってしまったが……こいつはちょうどいい。
 これで、前回こなし損ねた任務を今度こそ遂行できるというものだ」
「出るつもりか?」
「当然だ」
 尋ねるジェノスクリームに、ブラックアウトは憮然としたままそう答える。
「オレ達に与えられた任務はゴッドマスターの捕獲と“レリック”の獲得……今回の出撃は、まさに一石二鳥というものだ」
「しかし、あの部隊が正式に出動となれば、あの手強い魔導師達も出てくるはずだ。
 それに、トランステクターと融合したマスターメガトロンのこともある」
「だったら何だ? 指をくわえてみていろとでも言うつもりか?
 敵が戦力をそろえてこようが、不意をつけば問題はない。
 ゴッドマスターは連中の戦力でもある。それを確保すれば同時に敵の戦力は落ちる――“レリック”についても同様だ。先に確保してしまえば、敵はこちらをそう簡単に攻撃できなくなる。
 こちらにとって有利に持ち込める条件がそろっているんだ。恐れる理由などない」
 あっさりと答えると、ブラックアウトはその場を後にして――ジェノスクリームはため息をついた。
「まったく……任務に忠実なのは美徳だが、ヤツの場合それが行き過ぎるのが問題だな」
 そうつぶやき――ジェノスクリームは振り向き、告げた。
「レッケージ、バリケード。
 ブラックアウトのフォローにつけ」
「旦那は行かないんで?」
「今回の戦場は高速で走り続ける列車だ。
 飛行も長時間の高速走行もできないオレには不向きだ」
 あっさりとバリケードに答えると、ジェノスクリームは視線を正面に戻し――モニタに映し出されたリニアレールをにらみつけた。
「ゴッドマスターの捕獲はついででかまわない。むしろ前回の失敗で執着しているブラックアウトが勝手に動いてくれる。
 お前達は、“レリック”の回収を優先しろ」
「“レリック”を……ですか?」
「そうだ」
 聞き返すレッケージに、ジェノスクリームはあっさりとうなずいた。
「ゴッドマスターはヤツら以外にもいる。
 むしろ必要なのは“レリック”の方だ。こちらを手に入れられれば――」

 

 

「トランステクターも手に入るんだからな……」


次回予告
 
なのは 「暴走リニアレールまで子供2人、大人4人で」
ヴァイス 「おぅよ! いくぜ、スプラング!」
スプラング 「あてんしょんぷりーず!
 当機は間もなく、目的地までブッ飛ばします!
 お客様は、とっとと席に着きやがれ!」
スバル 「……すっごい、不安なんですけど……」
なのは 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第8話『縮まる距離〜その名はマスターコンボイ〜』に――」
4人 『ゴッド、オン!』

 

(初版:2008/05/17)