それは、決して忘れられない記憶――
「アルザスの竜召喚の部族、ルシエの末裔の者キャロよ」
「わずか6歳にして白銀の飛竜を従え、黒き火竜の加護を受けた。
お前はまこと、素晴らしき竜召喚師よ」
まだ幼い、白い親友を抱いた自分の前でそう告げるのは、自分の暮らす里の長老達。
だが、その顔は皆、一様にして沈痛なもので――
「じゃが、強すぎる力は災いと争いしか生まぬ」
そう――彼らは恐れている。
彼女の、そして彼女を守る優しき竜達の、あまりにも強大な力を。
だから――
「すまんな……お前をこれ以上、この里に置くワケにはいかんのじゃ」
彼らは、キャロを半ば追放するかのようにキャロを里から旅立たせた。確かに、里を争いから守るためには必要な選択だったかもしれない。
キャロを守る2匹の竜の力があれば、少なくとも、彼女の身の安全は保障される――そんなある種の“信頼”もあったのかもしれない。
だが――彼らはもっとも考慮すべき事項を見落としてしまった。
当のキャロがまだ幼い少女でしかない、その事実を。
その結果――この出来事は彼女の心に深く刻み込まれた。
里を終われる原因となった竜召喚に対する、“危険な力”“みんなを傷つける怖い力”――そんな認識と共に。
それは今から、ほんの数年前の出来事――
第8話
縮まる距離
〜その名はマスターコンボイ〜
「…………何?」
こちらの任務は無事完了――空路を用いて行われていた“古代遺物”の密輸を飛行可能なメンバーでの強襲によって摘発、運ばれていた荷物の中にあった“レリック”の回収に成功したことを報告したシグナムだったが、折り返し本部隊舎のシャリオ達からもたらされた情報に眉をひそめた。
「シグナム、何だって?」
「あぁ……」
尋ねるヴィータの言葉に、通信を終えたシグナムは息をつき、
「……先ほど、新たに“レリック”が見つかった」
「何だって!?」
「リニアレールでの密輸――しかも、列車はすでに“レリック”をかぎつけたガジェットによって襲われているらしい」
思わず声を上げるヴィータに対し、シグナムはそう告げた。
「ついさっき、なのは達が出動したそうだ。
まぁ、なのはが一緒だし、テスタロッサやジャックプライムも合流のために動いているそうだ。新人達の心配はあるまい」
言って、シグナムは軽く息をつき――
「けどさ……なんかおかしくねぇか?」
突然そんなことを言い出したのはビクトリーレオだ。
「なんか……このところ、“レリック”の流通の情報がやけに多くなってきてるだろ。
六課発足からこっち、2週間ちょいでもう3つ目。そのリニアレールで4つ目だ――しかも今回こっちはガジェットどもすら出し抜いてのGET。情報が出てくるのも確実に早くなってきてる」
「けど、ハズレの情報も多いじゃんか。密輸は密輸でも“レリック”はなし、とかさ」
「六課が本格的に動き出したことで、出てくる情報が増えただけ、という可能性もあるだろう」
首をひねるビクトリーレオにヴィータやスターセイバーが答えるが、
(……果たして、本当にそうだろうか……?)
胸中でつぶやき、シグナムは思考をめぐらせる。
ビクトリーレオの言う通り、ここ最近“レリック”やその疑いのある“古代遺物”の情報件数は明らかに増加している。そのおかげで、まだ訓練中だったフォワード陣に代わり自分達が出ずっぱりになっている形だ。
自らの主のスカウトしてきた人材を疑うつもりはないし、実際にロングアーチはトップから末端に至るまで優秀な人間ばかりだが――それにしたって、最近の情報の急増は少しばかり不自然に思えないこともない。
それに――
(今回の2件――空路に我々が出払っているうちに今度は陸路……
陸路へのガジェットの出現というイレギュラーを考慮したとしても、あまりにもタイミングが重なりすぎてはいないか……?)
まさかとは思うが――
(何者かが、意図的にタイミングを測って“レリック”とその情報を流している……?)
「問題の貨物車両、速度70を維持!
依然進行中です!」
「重要貨物室の突破は、まだされていないようですが……」
「時間の問題、か……!」
機動六課指令室――アルトとルキノからの報告に、グリフィスはメインモニタに映し出された貨物列車へと視線を向けた。
内部に積まれた“レリック”を狙ったガジェット群の襲撃によって、列車はコントロールを奪われて暴走。“レリック”を奪われるワケにはいかないし、リニアレールも止めなくてはならない。
部隊長であるはやてはこちらに向かっている最中だ。その間は自分が指揮をこなさなければならない――グリフィスが気を引き締めた、その時、再び警報が鳴り響いた。
「アルト、ルキノ! 広域スキャン!
サーチャー、空へ!」
すぐさまシャリオが動いた。彼女の指示で監視の目は空へと向けられ――
「ガジェット反応!? 空から!?」
「航空型、現地観測隊を捕捉!」
そこに表示されたのは、カリムからはやてに報告のあったばかりの航空型ガジェット“ガジェットU型”の反応だった。驚きながらもアルトとルキノが報告し――
〈ロングアーチ!
こちらフェイト!〉
そこへ、フェイトからの通信が入った。
「こっちは今パーキングに入ったところ。
車停めて現場に向かうから、飛行許可お願い!」
〈了解。
市街地飛行、承認します!〉
グリフィスの言葉にうなずき、フェイトは車をパーキングに滑り込ませた。
外に出て、すぐに念話で相棒を呼ぶ。
《ジャックプライム!》
《ボクも今向かってる!
とはいえ、そっちの方が近い――フェイトが先行しちゃう形になるけど、絶対追いつくから!》
《うん、お願い!》
ジャックプライムの返事に力強くうなずくと、フェイトは懐からウェイトモードのバルディッシュを取り出した。
(エリオ、キャロ、フリード……なのは!
……今行くよ!)
「バルディッシュ・リリィ……Set up!」
決意と共にその名を叫び――フェイトの身体が金色の魔力の渦に包まれた。
同時、彼女の両側に現れるのは、彼女がこの10年間を共に戦ってきたデバイスシステム“バルディッシュ・リリィ”を構成する二人の相棒――“閃光の戦斧”バルディッシュ・アサルトと“雷光の鳳凰”ジンジャーだ。
そして、フェイト自身もバリアジャケット“インパルスフォーム”を装着。かつての自身のジャケットの意匠に次元航行部隊の執務官制服のデザインを取り入れた漆黒のジャケットの上にマントを羽織り、その場に降り立つ。
「ジンジャー、最大速力で行くよ」
《了解です。
パワードクロス――いきます!》
告げるフェイトの言葉にジンジャーがうなずき――その身体がバラバラに分離した。マントの魔力結合を分解、収納したフェイトの全身に鎧として装着されていく。
「ライトニング1、フェイト・T・高町――行きます!」
最後に頭部にあたるパーツがヘッドギアとして額に装着され――フェイトは雷光の翼“プラズマフェザー”を羽ばたかせ、大空へと飛び立った。
「ヴァイスくん、スプラングさん! 私も出るよ!」
一方、こちらは現場に急行中のフォワード部隊。コックピットに顔を出し、なのははヴァイスとスプラングにそう告げた。
「フェイト隊長と二人で、一足先に空を抑える!
グリフィスくんとスプラングさんは、みんなを下ろしてから援護をお願い!」
「うっす、なのはさん!」
「頼みましたぜ、高町隊長っ!」
なのはの言葉にうなずき、ヴァイスとスプラングは後部運搬スペースのメインハッチを開き、なのはの出撃準備を整える。
「じゃあ、ちょっと出てくるけど……みんなもがんばって、ズバッとやっつけちゃおう!」
『はいっ!』
なのはの言葉にスバル達がうなずき、アスカの新たな仲間、リアルギア達も電子音声でなのはに応え――
「キャロ」
そんな中、なのははキャロに声をかけた。身を固めている彼女の前にしゃがみこむとその頬を優しくなでてやり、
「大丈夫、そんなに緊張しなくても。
離れてても、通信でつながってる――ひとりじゃないから。
ピンチの時は助け合えるし、キャロの魔法は、みんなを守ってあげられる、優しくて、強い力なんだから……ね?」
「…………はい……」
キャロの応えに満足げにうなずくと、なのはは今度はアスカへと向き直り、
「それで……アスカちゃんには、これを」
言って、アスカに手渡したのは――
「これ……マスターメガトロンの?」
「そう。オメガだよ」
銀色のデバイスカードを手に、思わず声を上げるアスカになのはは笑顔でうなずいた。
「マスターメガトロンさん、今のボディじゃ飛べないから……きっと、みんなが先に接触することになると思う。
だから……渡してあげてほしいの」
「オッケ。任せといて♪」
「お願いね。
じゃあ……行ってくるね!」
うなずくアスカに改めて告げると、なのははスプラングの後部メインハッチから空中に身を躍らせ、
「レイジングハート・ブローディア――Set up!」
〈Stand by Ready!〉
《せぇーっと、あぁっぷ!》
なのはの言葉に応え、姿を現すのは彼女の心強き相棒――デバイスシステム“レイジングハート・ブローディア”を構成する“魔導師の杖”レイジングハート・エクセリオンと“桜花の光竜”プリムラである。
二人の相棒に守られ、なのはもバリアジャケット“アグレッサーモード”を装着。その上から、バラバラに分離したプリムラが鎧として装着されていく。
プリムラの頭部が変形した、額の守りと精密射撃デバイスを兼ねたヘッドギアを最後に装着、なのははレイジングハートを手に大空へと飛び立つ。
「スターズ1、高町なのは、いきます!」
高らかに名乗りを上げ、先行するなのはの姿を見送ると、リインはスバル達へと向き直り、
《任務は二つ。
ガジェットを逃走させずに全機破壊すること、そして“レリック”を安全に確保すること。
ですから、スターズ分隊とライトニング分隊、二人ずつのコンビでガジェットを破壊しながら、車両前後から中央に向かうです》
言って、リインは表示したウィンドウ画面に列車の様子を表示し――その中央に赤いマーキングを示した。
《“レリック”はここ、7両目の重要貨物室。
スターズかライトニング、先に到達した方が“レリック”を確保するですよ》
『はい!』
《それで――アスカさんは、スターズと一緒に先頭車両に降りて、コントロールの奪還を試みてください》
「オッケ、お任せ♪
リインちゃんも、現場管制、よろしくね♪」
《はいです♪》
元気にうなずくリインに笑顔を返すと、アスカは手斧を模したデザインの携帯端末――ウェイトモードのレッコウを取り出し、リインと指揮系統の回線をリンクさせ――ちょうど、そこへ六課隊舎の
指令部の捉えた現状報告が届いた。
すなわち――
《スターズ1、ライトニング1、エンゲージ!》
〈なのはちゃん、フェイトちゃん!
接敵したみたいだけど、大丈夫!?〉
「大丈夫。
こっちの空域は二人で抑えるから、新人達の方、フォローお願い!」
〈言われるまでもなく了解っ!〉
返ってきたアスカの返事にうなずくと、フェイトは少し下を飛行するなのはと合流する。
「一緒の空は久しぶりだね、フェイトちゃん!」
「うん。
ジャックプライムもこっちに向かってるし……エリオ達の方には、1体たりとも行かせない!」
「うん!」
フェイトの言葉になのはがうなずいた、その時――飛行型のガジェットU型がこちらを射程に捉えた。一斉に機体下部に備えられた魔力砲で攻撃を仕掛けてくる。
弾速も速く、かなり鋭い攻撃だが――
《フォーメーションがメチャメチャ!
もっと実戦データ、とっといた方がいいよ!》
〈Short Buster!〉
プリムラの言葉と同時にレイジングハートが砲撃一発。ディバインバスターの短距離速射バージョン“ショートバスター”が火を噴き、前方のガジェット群を薙ぎ払う。
そんななのは達に対し、難を逃れたガジェット群は一斉に散開。機動性に難のあるなのはを包囲にかかる。
しかし――
「さすが、経験不足でもバカじゃないね。
けど!」
〈Load cartridge!〉
そんなガジェット群に対しても、なのはは冷静に対処した。カートリッジをロードしたレイジングハートが魔力スフィアを生み出し――
「私と違って、私の魔力弾は素早いよ!」
〈Blitz shooter!〉
なのはの放ったブリッツシューターが、接近するガジェットU型へと襲いかかった。AMFをものともせずにそのことごとくを撃ち貫き、叩き落とす!
〈Ax form!〉
一方、フェイトもまた迫り来るガジェットU型と激しい空中戦を展開中。バルディッシュを近接戦闘形態“アックスフォーム”へと変形させ、
「はぁぁぁぁぁっ!」
〈Ax Saber!〉
そこから放たれ、飛翔する魔力刃がガジェットを次々に斬り裂き、粉砕する。
さらに、アックスセイバーを回避し、体勢を立て直そうとするガジェットに素早く肉迫、次々に両断していく!
「さーて、新人ども!
隊長さん達が空を抑えてくれているおかげで、安全無事に降下ポイントに到着だ!
準備はいいか!?」
『はい!』
「モチのロンよ!」
なのは達が戦っている一方で、こちらも現場到着――告げるヴァイスに応えるのは、先行して先頭車両に降下するスバルとティアナ、そしてアスカだ。
そして――
「スターズ3、スバル・ナカジマ!」
「スターズ4、ティアナ・ランスター!」
「ゴッドアイズ2、アスカ・アサギ!」
『いきます!』
タイミングを合わせて同時に空中へと飛び出した。強烈な落下感の中、それぞれのデバイスを取り出す。
「いくよ――マッハキャリバー!」
「お願いね――クロスミラージュ!」
『Set up!』
それぞれの相棒へのエールの後、スバルとティアナが気合と共に叫び――
<<Stand by Ready!>>
それに応え、デバイス達が一斉に起動した。スバルの、ティアナの制服が魔力によって分解され、新たなバリアジャケットとして装着されていく。
そして、スバルの右手にリボルバーナックルが、両脚にローラーブーツ型の新型インテリジェントデバイス“マッハキャリバー”が装着され、ティアナの手には拳銃型インテリジェントデバイス“クロスミラージュ”が握られる。
「久々にトバすよ――レッコウ!」
そんな二人に続くのはアスカだ。先程リインとのリンク調整を終えたばかりの、ウェイトモードのレッコウをかまえ、
「Start up!」
〈Standing by!
Start up――“FULL ARMED”!〉
彼女の言葉に応えてレッコウが起動。その制服が忍装束を思わせるデザインのバリアジャケットに変化し、さらにその上に追加の装甲が半全身鎧として装着される。
忍装束から一転、鎧武者を思わせるいでたちとなったアスカは、巨大な戦斧となったレッコウを手にスバル達を追って降下していく――
「次! ライトニング!
チビども――気ぃつけてな!」
続いて降下するのはライトニングの二人――ヴァイスが声援を送るが、
「………………ん?」
エリオは、となりのキャロの表情が優れないことに気づいた。
その表情は、緊張しているというか、不安を抱いているというか――だから、
「……一緒に、降りようか」
「え………………?」
言って、エリオはキャロに向けて手を差し伸べた。
そんなエリオの笑顔を前に、キャロはしばしリアクションに困っていたが――
「…………うん!」
ようやくその表情に笑顔が戻った。エリオの手を握り返し、今度こそハッキリと眼下の列車へと視線を向ける。
「ライトニング3、エリオ・モンディアル!」
「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエとフリードリヒ!」
「きゅくーっ!」
『いきます!』
そして、元気にメインハッチから飛び出し、列車に向けて降下し――告げる。
「ストラーダ!」
「ケリュケイオン!」
『Set up!』
<<Stand by Ready!>>
同時に叫ぶ二人に対し、デバイス達もまた同時に応える――瞬間、二人の制服も先の面々のようにバリアジャケットへと変化。さらにその上にマントが形成され、エリオの手にはストラーダが握られ、キャロの手にもケリュケイオンが装着される。
そして――
バリアジャケットの装着とデバイスの起動を完了し、機動六課フォワード部隊は暴走リニアレールの上に降り立った。
「あ、あれ……?
このジャケットって……」
「もしかして……」
スバル達にとっては初めて装着する、新たなデバイスに登録されていた新バリアジャケット――そのデザインに見覚えがあるのに気づき、スバルとエリオはそれぞれの場所で思わず声を上げた。
自分達用にアレンジが加えられているが、このデザインパターンは――
《はーい、ご想像の通りでーす♪》
そんな彼女達に応えるのは、騎士服を装着し、彼女達を追って降下してきたリインだ。
《みなさんのバリアジャケットのデザインと性能は、各分隊の隊長さん達のを参考にしてるですよ♪
ちょっとクセはありますが、高性能です♪》
「ぅわぁ、そうなんだ……♪」
リインの言葉に、スバルは顔いっぱいに喜びの色を浮かべる――なのはに強い憧れを持つ彼女にとって、なのはと似通ったデザインのバリアジャケット、というのは何よりもうれしいプレゼントなのだろう。
一方、ティアナはアスカへと視線を向け、
「アスカさんのバリアジャケットは……」
「どっちかって言うと“物理装甲付きの騎士服”に近いかな?
ほら、遺跡発掘となると、地下に潜れば常に落盤の危険ととなり合わせじゃない?だから、魔力による防御よりもむしろ物理的な防御力が求められるワケで……っと……」
ティアナにそう説明し――アスカは不意に表情を引き締めた。
「二人とも……説明、後回しでもかまわない?」
その言葉に、スバル達も気づいた――すぐ目の前の、列車の屋根が不自然に歪み――突き破られた。大きく口を開けた穴の中から、ガジェットT型が飛び出してくる!
「いくよ――二人とも!
言われた分担はとりあえず後回し! まずはここのヤツらを蹴散らすよ!」
『了解!』
<<Drive Ignition!>>
アスカの言葉にスバル達が、そしてそれぞれのデバイス達が答え――
〈Variable Bullet!〉
「シュート!」
こちらの先制打はティアナの多重弾殻射撃。クロスミラージュのサポートで瞬時に生成された魔力弾が、真っ先に飛び出してきたガジェットを撃ち抜き、爆砕する!
そして――
「スバル、下がって!」
言って、アスカはレッコウをかまえるとすでにカートリッジを仕込んだ弾倉をセットし、
「レッコウ! タイムラグロード!」
〈Elment-Install!
“CLASH”!〉
アスカの指示で、レッコウはエレメントカートリッジを1発だけロード。物理破壊力を強化した戦斧で、アスカは足元の屋根を薙ぎ払った。まだ車内に潜むガジェット達の姿をあらわにし――
〈“STUN”!〉
続けて2発目のエレメントカートリッジをロード。刀身部分から放たれた雷撃がガジェット達に襲いかかった。車内探索の障害にならないよう、AMFを展開していなかったのだろうか――雷光は特に分解されることもなくガジェット達を包み込み、内部回路をショートさせて動きを止める。
「同時に使うだけがコンボじゃないよ!
スバル!」
「はい!
いっくぞぉぉぉぉぉっ!」
アスカの言葉にうなずき、スバルが突撃。一気に車内に突入し、至近打撃“ナックルダスター”が着地点付近にいたガジェットを粉砕する。
続いてアスカも突入。すぐさま左右に分かれて別のガジェットの触手を回避すると、二人がそれぞれに弾き飛ばしたガジェットが車内の中央で激突、爆発する。
〈Absorb Grip!〉
そして、マッハキャリバーが床を、壁面をしっかりとかみしめ、スバルは駆けながら次のガジェットへと狙いを定め――
「リボルバー、シュート!」
渾身の一撃を叩き込む――が、そのまま勢い余って屋根から外に飛び出してしまう!
「スバル!
レッコウ、フォローを!」
あわてて相棒にスバル救出を指示するアスカだったが――
〈We don't have to.〉
そんな彼女に対し、レッコウはあっさりと否定を示した。どういうことなのかと尋ねようとした、その時――
〈Wing Road!〉
その疑問に答えを示したのはスバルの両脚のマッハキャリバーだった。スバルの真下に足場を展開、スバルの身体を再び列車の上へと導いていく。
その足場は――
「ウィングロード……!?」
思わず驚きの声を上げるアスカの頭上を駆け抜け、スバルは無事に列車の上へと着地するが――
「あー、えっと……」
突然のことに思考が追いついていないのは彼女も同様だった。不思議そうにマッハキャリバーを見下ろし、
「マッハキャリバー……お前って、もしかしてかなりすごい?
加速とか、グリップコントロールとか……それに、ウィングロードまで……」
〈Because I was made to make you run stronger and faster.〉
あっさりと応えるマッハキャリバーの言葉に、スバルはしばしポカンとしていたが、
「…………うん。そうだね。
でも、マッハキャリバーはAIとはいえ心があるんでしょ?
だったら……ちょっと言い換えよう」
気を取り直し、スバルは自分達のブチ抜いた穴へと視線を向けた。
自分とマッハキャリバーが協力した、初めての“成果”へと――
「お前はね、あたしと一緒に走るために、生まれてきたんだよ」
〈I feel it to same way.〉
「違うんだよ、いろいろと」
そう答えるスバルの言葉に、マッハキャリバーはしばし沈黙していたが――やがて一言、付け加えた。
〈……I think about it.〉
「………………うん!」
《アスカさん、どうですか?》
「とりあえず、先頭車両は制圧!
制御の方は……ちょっと待ってね」
その後、アスカはガジェットをスバル達に任せて先頭車両を制圧、列車の停止を試みていた――リインに答えると、アスカは念話を中断して操作パネルの上に立つスピードダイヤルに尋ねた。
「どう? スピードダイヤル」
アスカの問いに、スピードダイヤルは電子音で答える――しかし、念話のようなものなのか、アスカにはその答えを正確に読み取ることができた。
「……うん、とりあえず制御の奪還には成功。停止を指示してもらったけど……加速がつきすぎてる。減速はし始めてるから、もう脱線の心配はないけど……停車までにはまだかかりそう。
今の速度でムリに止めようとすればそれこそ脱線しちゃうよ。
その間にまた占拠されたら、元の木阿弥だね」
しかし、すぐに停車、というワケにはいかないようだ――リインに告げて、アスカは少し考えた末に提案する。
「スバル達は大丈夫?
援護がいらないなら、ここはあたしが守って――」
そう言いかけ――アスカは唐突に動きを止めた。
《アスカさん?》
「ゴメン……リインちゃん。
前言撤回。スピードダイヤルを置いてくから、ここの守りをお願いしていい?」
どうしたというのか――尋ねるリインに対し、アスカは真剣な表情でそう告げた。
「マスターメガトロンさんが、こっちに向かって来てる……
けど……他にも後三つ、イヤな気配が近づいてきてる……!」
「………………あれ?」
戦闘の衝撃で破れた天井の向こう――そこに見覚えのある姿を見つけ、スバルはふと足を止めた。
「あれ……マスターメガトロンさんだ!」
「ようやく!?
まったく、ずいぶんと遅刻してくれるじゃない!」
天井のさらに先に見えるのは、頭上に伸びる急勾配の坂を走りながらこちらを追跡する、ビークルモードのマスターメガトロン――声を上げるスバルの言葉に、元々彼を嫌っているティアナは苛立たしげにうめく。
と――
「スバル、ティアちゃん!」
声を上げ、アスカが二人に追いついてきた。
「二人とも、大丈夫?」
「えぇ。
大したもんですよ、このクロスミラージュ。いろいろ便利な上に、弾体生成までサポートしてくれますし」
尋ねるアスカにティアナが答えると、スバルがアスカに声をかけた。
「それよりアスカさん!
マスターメガトロンさんが来ます! オメガを返さないと!」
「うん、わかってる!」
スバルの言葉にアスカがうなずき、3人はマスターメガトロンが気づけるように列車の屋根の上に上がる。
「マスターメガトロンさぁん! こっちです!」
「む………………
トランスフォーム!」
手を振り、声を上げるスバルに気づき、マスターメガトロンはすぐにこちらに向けて進路を変えた。併走しながら跳躍、ロボットモードへとトランスフォームしてスバル達の前に着地する。
「状況を説明しろ」
「“レリック”は中央の重要貨物室。
今、あたし達とライトニングのちびっ子二人とに別れて、前後から制圧に向かってるトコ。
あと、他にもこっちに向かってきてる連中が――」
尋ねるマスターメガトロンの問いに、アスカは状況を説明していき――
「――――――っ!?
下がれ、ひよっこども!」
気づき――マスターメガトロンが動いた。スバル達の前に立ち、飛来したミサイルを防御する。
「な、何……!?」
思わずティアナがうめくと、リニアレールの前方からミサイルの主が飛来した。
1機の戦闘ヘリコプターだ。その正体は――
「ブラックアウトか!」
「おぅよ!」
うめくマスターメガトロンに言い返し――ブラックアウトはロボットモードにトランスフォーム。体当たりのようにマスターコンボイへ飛びつき、そのままリニアレールから飛び降りる!
「マスターメガトロンさん!」
その光景を前に、思わずスバルは声を上げ――
「行って、スバル!」
「アスカさん!?」
そんな彼女に告げたのはアスカだ――思わず声を上げるスバルに駆け寄り、オメガのデバイスカードを渡す。
「スバルなら、マスターメガトロンとゴッドオンできる――フルパフォーマンスなら、ここで置いてかれても追いつけるでしょ?」
「け、けど……」
アスカの言葉に、スバルは不安げにティアナへと視線を向けるが――
「……行きなさいよ」
当のティアナも、やや不満げであるもののスバルを促した。
「…………いいの? ティア」
「あんたのことだから、このままアイツを置き去りにしたら、気になってこっちに集中なんて出来ないでしょ。
とっとと助けて、スッキリしてきなさい」
「け、けど、あたしがいなくなったら、フォーメーションが……
それに、ティアだってディセプティコンのターゲットだし、“レリック”だって……」
「そっちは何とかなるよ。
スバルほどの突破力はないけど、あたしだって前衛だもん。ティアちゃんとのフォーメーションはこなせるよ」
スバルにそう答えると、アスカは通信回線を開き、
「なのはちゃん!」
〈ん。わかってる。
スバル、私からも、お願いできるかな?〉
アスカの声にうなずき、なのははスバルに告げる。
〈ティアナやアスカちゃんの援護は私達でできるだけしてあげられる。ディセプティコンについても含めて、ね。
だから……〉
そこで一度言葉を切り――なのはは告げた。
〈マスターメガトロンさんを、お願いね〉
「はい!」
「スターズ1、ライトニング1、制空権獲得!」
「ガジェットU型、散開開始!
追撃サポートに入ります!」
一方、機動六課の指令室では、空の戦いが一段落ついたことが確認されていた――シャリオの言葉に続き、アルトが報告する。
シャッハに送り届けてもらったはやてが戻ってきたのは、ちょうどそんな時だった。
「ごめんな! お待たせ!」
「八神部隊長。
今のところは、比較的順調です」
「そっか」
グリフィスの報告にうなずき、はやてが指揮官席に着いた、ちょうどその時――
「――――――っ!」
その情報に気づき、シャリオが、そしてアルト声を上げた。
「エンカウント!
新型です――8両目で、ライトニングFが接触!」
「フリード! ブラストフレア!」
「きゅっ!」
接触したガジェットV型の触手をかわし、キャロとフリードは屋根の上へ――キャロの指示に従い、フリードは口の中に火球を生み出す。
「ファイア!」
そして、キャロの合図で吐き放つが――V型には通じない。触手によって真っ向から弾き飛ばされる。
「ぅおりゃあぁぁぁぁぁっ!」
そして、エリオもまた、雷光をまとったストラーダをかまえてV型に突撃。その刃を叩きつけるが――
「…………か、硬い……!」
V型の装甲の強度はT型を上回るものだった。ストラーダを通じて伝わってきた衝撃に、エリオは思わずうめく。
と――V型が周囲にエネルギーを放出し始めた。同時、エリオのストラーダの刃を覆っていた雷光が、そしてキャロの足元の魔法陣もまた消滅してしまう。
これは――
「AMF――!?」
「こんな遠くまで……!?」
至近のエリオはともかく、距離をとっていたキャロにまで影響を与えるとは――思わず二人が声を上げた、その時――
「きゅうっ!?」
「え…………?
エリオくん!」
「――――――っ!?」
最初に気づいたのはフリードだった。その意図を悟ったキャロの呼びかけでエリオがとっさに後退し――次の瞬間、飛来したエネルギーミサイルがV型のAMFと激突。貫くには至らないがその巨体を押し戻す。
「援軍――!?」
誰かが助けに来てくれたのか――思わず声を上げるキャロだったが、
「ところがどっこいっ!」
「こっちも敵だ!」
その言葉と共に彼らの頭上に飛び出してきたのは、急勾配のガケを駆け下りてきた装甲車とパトカー。そして――
「バリケード、トランスフォーム!」
「レッケージ、トランスフォーム!」
パトカーがバリケードに、装甲車がレッケージにトランスフォーム。背中合わせに列車に降り立ち、背中合わせにエリオ達、V型、それぞれと対峙する。
「トランスフォーマー……!?」
「まさか、ディセプティコン……!?」
「その通りだ」
つぶやくエリオとキャロに答えるのは、V型をにらみつけているレッケージだ。
「バリケード、そのガキどもは任せるぞ」
「おぅよ。
“レリック”は頼むぜ、レッケージ!」
そして、レッケージの言葉に答え、バリケードはエリオ達へと一歩を踏み出し、
「フォースチップ、イグニッション!」
地球のフォースチップをイグニッション。両脚から分離したタイヤが二つ折りにたたまれ、バリケードの両拳に装着される。
「ホイール、ナックル!」
咆哮と同時、バリケードはエリオ達に突撃――彼らに向け、その両の拳を立て続けに打ち放つ!
「くらえ!」
咆哮し、両肩、両足からエネルギーミサイルを放つマスターメガトロンだが――
「くらうかよ!」
ヘリコプター形態で空中を飛翔するブラックアウトには当たらない。こちらの攻撃をかいくぐると空中でロボットモードへトランスフォーム。マスターメガトロンに向けて両腕からプラズマ弾を撃ちまくる。
「そらそら、どうした!? 元破壊大帝殿!?
どうやら、その新しいボディは飛べないらしいな!」
「ちっ、人の気にしていることをベラベラと……!」
余裕の態度と共に告げるブラックアウトに対し、マスターメガトロンは思わず舌打ちし――
『――――――っ!?』
突如、戦場にそれが飛び込んできた。
ブラックアウトの正面に真上から飛び込んできた、空色の帯状魔法陣。すなわち――
「ウィングロード!?」
「でぇやぁぁぁぁぁっ!」
驚くマスターメガトロンの言葉と同時、飛び込んでくるのは予想通りの人物――ウィングロードの上を駆け抜け、突撃してきたスバルが、リボルバーナックルの一撃でブラックアウトを大地に叩き落とす!
「マスターメガトロンさん、大丈夫!?」
轟音と共に大地に顔面から落下――見事な“車田落ち”を披露してくれたブラックアウトに一切かまわず、マスターメガトロンへと駆け寄るスバルだが――
「バカか、貴様!
なぜ来た!?」
そんなスバルに対し、マスターメガトロンは鋭く言い放った。
「貴様はフォワードチームの一員だ! 仲間はどうした!?
こんなところでオレにかまっているヒマがあったら、転送でも何でもしてもらって、早く仲間の元に帰れ!」
「け、けど…………」
「オレにかまうなと言っているんだ!」
反論しかけたスバルにも、マスターメガトロンは鋭く言い放った。
「オレなら心配はいらん!
今回の任務は“レリック”の回収のはずだ――わかったなら、すぐに戻ってその任務にあたれ!」
とどめとばかりにさらに言葉を重ねるマスターメガトロンだったが――
「………そうやって……そうやって、ずっとひとりで戦っていくつもりなんですか?」
「………………っ」
返ってきたのは、彼の心情を的確に言い当てた問い――思わぬスバルの“反撃”に、マスターメガトロンは無意識のうちに動きを止めた。
「やっぱり……そうだったんだ……
マスターメガトロンさん、優しいから――試験の時も助けてくれたし……普段はいつも機嫌悪そうにしてるクセに、あたしが近寄っていっても、文句を言ったりはしても、本気で突き放したりはしないでくれたし……
だから……今朝、みんなにあんなこと言ってるの、すごく不自然で……きっと、そうなんじゃないか、って思ってた」
「………………チッ」
スバルの言葉に対し肯定も否定もできず、視線をそらして舌打ちするしかないマスターメガトロンだったが――
「けど……」
そんなマスターメガトロンに対し、スバルは告げた。
「けど……あたしは……!」
「マスターメガトロンさんとも、一緒に戦いたい!」
「――――――っ!?」
ハッキリと告げられたスバルの言葉に、マスターメガトロンは思わず息を呑む。
「さっき、言ったよね――『あたしはフォワードチームの一員だ』って……
けど、フォワードチームはあたし達だけじゃない! あたしや、ティアや、エリオやキャロ、アスカさん……そして、マスターメガトロンさん!
6人そろって、あたし達はフォワードチームなんだよ!」
「…………小娘……」
仲間として一緒に戦いたい――スバルのまっすぐな想いを前に、マスターメガトロンは静かに息をつき――
「貴様ら……!
いつまでゴチャゴチャとしゃべっているつもりだ!」
そんな二人に言い放ち、復活したブラックアウトがエネルギーミサイルをまき散らす!
「オラオラオラぁっ!」
一方、リニアレールの上では、バリケードとエリオ達が交戦中だった。転落の恐れを微塵も感じさせることなく地を蹴り、バリケードはエリオ達に突撃する。
当然エリオ達もそれをかわし、バリケードの拳は列車の屋根を穿つ――破壊が足元まで至り、車内に落下したバリケードへとエリオがストラーダをかまえて飛び込んでいくが――
「しゃらくせぇっ!」
バリケードは狭い車内にもかかわらずエリオの斬撃をかわし、エリオもまた、お返しとばかりに放たれたバリケードの右拳をストラーダで受け止める。
「エリオくん!」
AMFのせいでブーストによる援護もできず、キャロはバリケードの拳を止めたストラーダを懸命に支えるエリオを、ただ見ていることしかできない。不安そうに声上げるが、
「大丈夫……任せて!」
「なめんな!」
そんな彼女に答えるエリオに対し、バリケードが左拳で追撃――しかし、エリオの姿を捉えることはできなかった。
直前でバリケードの右拳を受け流して跳躍、追撃をかわしてバリケードの頭上を飛び越えたからだ。
そのまま、背後からバリケードを狙うが――
「なめんな――ガキが!」
バリケードはそんなエリオの攻撃にも反応した。背を向けたまま背後のエリオに向けて、力任せに蹴りを放つ。
「ぅわぁっ!」
まさか返してくるとは思わなかった。まともに蹴りをくらい、エリオの身体が車内の壁に叩きつけられる!
「エリオくん!」
苦戦を強いられるエリオの姿に、キャロが思わず声を上げ――
「――――――っ!」
そんな彼女の脳裏に、過去の記憶がよみがえった。
里を出てから、キャロに居場所はなかった。
自らも竜召喚の力を持て余していたキャロはその力を制御できず、彼女の竜達はその力を解放されるたびに彼女の制御を離れ、彼女に害をなそうとする存在をその周りごと薙ぎ払った。
結果、キャロは管理局に保護された後も厄介者扱いで――最初から暴走を前提にされ、たったひとりで殲滅戦に放り込まれたこともあった。
すっかりふさぎ込んでいた彼女に転機が訪れたのは、そんな時だった。
きっかけは、ある意味ではいつものこと――任務中にまたしても暴走してしまったフリード達は、目標を完膚なきまでに叩きつぶした後も際限なく暴れ回った。
しかし――この日その任務に従事していたのは、彼女だけではなかった。
同行していたのは、管理局と縁があるらしい希少技能保有者――同じ特殊能力持ちとしてキャロ自身は親近感を抱いていたが、フリード達はそんな彼にも牙を向いたのだ。
結果としては、彼が必死にフリード達を止めてくれたことで、暴走は終息した。が――その代償として、彼は炎に焼かれ、咬みつかれ、気づけば全身傷だらけになっていた。
当然、キャロは嘆いた。ようやく自分と似たような立場の、仲良くなれるかもしれない、そんな人に出会ったというのに、その人を傷つけたフリード達を、キャロは珍しく声を荒らげてなじった。
その光景を前に、彼は右手を振り上げ――
キャロの頭にゲンコツを落とした。
「ふざけるな。
こいつらが……何のために暴れ回ったと思ってやがる」
それが、いきなり脳天に一撃を受け、呆然とする彼女に向けられた第一声だった。
「こいつらは、お前のために戦ってくれてるんだろ?
そんなヤツらを、そんな簡単に嫌ったり、恐れたりすんじゃねぇよ」
彼は認めてくれていた。
フリード達の想いを――キャロを守りたいという、彼らのその願いを。
そして――
「相手は生き物なんだ。制御なんか、そう簡単にできるもんじゃないし、そもそも『制御しよう』なんて考え自体しちゃいけない。
まずは、お前を守ってくれるこいつらを……そして、こいつらと心を通わせることができる、お前の力を受け入れて……好きになることから始めればいい。
せっかく竜と仲良くなれる、なんてうらやましい力を持ってんだ。嫌いなままじゃ、もったいねぇだろ」
キャロの持つ竜召喚の力が危険なものでなく、竜と心を通わせることのできる、優しい力であることを。
「覚えとけ。
強すぎる力を持ってるヤツが災いを呼ぶんじゃない――自分の力を好きになれないヤツが、災いの種を作っちまうんだ。
実際それで痛い目を見たヤツの忠告だ。ありがたく聞いとけ、チビスケ」
縁がなかったのか、彼とはそれっきり会えていない――しかし、彼の言葉は、キャロに自分の力を見つめ直すきっかけをくれた。
しかし、それでも自分の竜召喚が誰かを傷つけてしまいかねないものである事実は変わらず――思い悩んでいた彼女の前に現れたのが、フェイトだった。
「確かに、すさまじい力を持っているんですが……制御がロクにできないんですよ」
フェイトに対し、そう説明する係員の言葉には、キャロを迷惑だと断じるような念がありありと込められていた。
強力な力を制御もできず、周りまで巻き込んで暴走させる――同じようなことの繰り返しで、彼もまたうんざりしているのだろう。
「竜召喚だって、この子を守ろうとした竜が勝手に暴れ回るだけで……とてもじゃないけど、まともな部隊でなんて働けませんよ。
今までどおり、単独で殲滅戦に放り込むくらいしか――」
「もう結構です」
しかし――そんな彼の言葉をフェイトは不愉快そうに一蹴した。
「では……」
「いえ」
話を白紙にするつもりか――尋ねる局員に対し、フェイトはハッキリと答えた。
「この子は、予定通り私が預かります」
「わたしは、今度はどこに行けばいいんでしょう……?」
季節は冬。保護施設の外は一面の雪景色で――フェイトにマフラーを巻いてもらうその一方で、キャロはフェイトにそう尋ねた。
しかし、フェイトは、そんなキャロの問いに笑いながら答えた。
「それは……キミがどこに行きたくて、何をしたいかによるよ」
「え…………?」
「キャロは……どこに行って、何がしたい……?」
思わず首をかしげるキャロにフェイトは優しく問いを重ねるが、肝心のキャロはいきなりそんなことをきかれて戸惑うばかり。
そんなキャロの姿にクスリと笑みをもらし、フェイトはキャロの手を取り、微笑みながら告げた。
「…………そうだね。
時間はあるんだ。ゆっくり考えよう。
キャロの行きたい場所、やりたいことを……」
初めてだった。
考えたこともなかった。
それまで、自分の前にはいつも、“自分のいてはいけない場所”や、“自分がしてはいけないこと”しかなかったから――それを、当然のように考えていたから。
自分の力を好きになれ――“彼”にそう言われて、どうすれば自分の力を好きになれるのかに思いを馳せてはいたが――自分がどうしたいか、何をしたいか、そんな“自分の希望”なんて、思いつきもしなかった。
自分の行きたい場所――
自分のしたいこと――
「………………フンッ。
手こずらせやがって……」
自分の一撃をまともにくらい、痛みから動きの止まったエリオを捕まえ、バリケードは勝ち誇ってそう言い放つ。
「心配するな。オレはお前を殺しはしねぇ」
そして、気を失い、ぐったりとしたエリオの身体を持ち上げ――
「ただし――お前自身が生き残れるかは別問題だ!」
言い放ち――エリオの身体を車外に放り出す!
エリオの身体は、そのままガケにそって走るリニアレールの脇、すなわち空中に投げ出され――
「エリオくん!」
その光景を見た瞬間――頭の中が真っ白になった。
気づけば、身体は動いていて――
キャロは、エリオを追って空中に身を躍らせていた。
「ら、ライトニング4……跳び下り!?」
その光景は、当然六課隊舎の指令室でもモニターされていた。キャロが列車から飛び降りたのを見て、ルキノが思わず声を上げる。
「あ、あの二人……あんな高高度でのリカバリなんて!」
同様にアルトも声を上げ――
「いや、あれでえぇ」
そう答えたのははやてだった。
どういうことなのか、一瞬理解が追いつかなかったが――
「――――っ!?
そうか!」
真っ先に気づいたのはシャリオだった。
「列車から飛び降りたってことは、あの場にいたバリケードだけじゃなくて――ガジェットからも距離をとることになる!」
「そう。
発生源から離れれば、AMFも弱くなる」
一方、空の戦いはもはや一方的――ガジェットU型を蹴散らしつつ、なのはが告げる。
「使えるよ――」
「フルパフォーマンスの魔法が!」
(エリオくん……!)
急激な落下感の中、懸命に身体を進め、キャロは一足先に落下していくエリオの元を目指す。
(守りたい……!
優しい人を……わたしに笑いかけてくれる人達を……)
「自分の力で、守りたい!」
決意を込めた宣言と共に、キャロはエリオの手をつかむことに成功し――
〈Drive Ignition!〉
そんな彼女の思いに、ケリュケイオンもまた応えてくれた。その“力”を解放して二人を包み込んでいく。
飛行はできずとも、落下速度を軽減することぐらいはできる――減速し、ゆっくりと降下していく中、キャロはフリードに向けて呼びかける。
「フリード……不自由な思いをさせててゴメン。
わたし、ちゃんと制御するから……!」
「…………ん……」
そう告げるキャロの腕の中で、エリオが意識を取り戻す――が、そのことにも気づかないほど集中しているキャロはフリードに向けて告げる。
「いくよ――フリード!」
―― | 蒼穹を走る白き閃光 我が翼となり天を駆けよ! |
「来よ、我が竜フリードリヒ!
竜魂召喚!」
呪文の詠唱を完了し、キャロが咆哮――その瞬間、フリードの姿が変わった。
彼らを包み込む魔力光の中、見る見るうちにその身体を巨大化させていく。
そして――
「グギュルァアァァァァァッ!」
キャロの魔力光を完全に吹き飛ばし――抑えられていた力を解放されたフリードはキャロ達を背に乗せ、天高く咆哮を轟かせた。
「し、召喚成功!
フリードの意識……ブルー! 完全制御状態です!」
指令室でも、この光景は驚きと共に受け止められていた。フリードの状態を確認し、ルキノはただひとり冷静だったはやてに報告する。
「これが……」
「そう」
そして、となりでも同様に驚いているグリフィスにうなずくと、はやてはモニタへと視線を戻した。
「キャロの竜召喚……その力の一端や。
もう、心配はいらんみたいやね」
そうはやてがつぶやくと同時――どちらかの無線が今の竜召喚の拍子にONになったのか、エリオとキャロの会話の音声が飛び込んできた。
〈あ、あの……キャロ……?〉
〈え…………?
あ、ご、ごめんなさい! わたし……〉
〈う、ううん、こちらこそ……〉
「………………」
「うんうん、青春しとるなー♪」
流れからして、意識を取り戻したエリオの指摘で、キャロは自分がエリオを抱きしめていたことを思い出してあわてて解放、二人でペコペコ謝り合っている、といったところか――緊張感が一瞬で霧散した二人のやり取りを前に、思わず言葉に詰まるグリフィスの傍らではやては満足げにうなずいていた。
「あれが……チビスケの本当の姿か……!」
その光景は、ブラックアウトと戦っていたスバル達にもモニタされていた。弾幕を避けて逃げ込んだ岩陰で、リニアレールの状況を確認すべく展開したウィンドウに映るフリードの姿にマスターメガトロンがつぶやく。
「カッコイイ……!」
映像の中のフリードの雄姿にスバルが感嘆の声を上げるが――マスターメガトロンはその背中の上に座るキャロへと視線を向けた。
「…………桃頭……
アイツは……恐れていた自らの力と、正面から向き合った……」
その脳裏に、聖王教会でカリムから告げられたことがよみがえる。
(『力は、ただ力でしかない』か……
どんな力も、それだけではただの力……
その力を善にするのも悪にするのも、決めるのはそれを使う者の心のあり方ひとつ……
かつて宇宙を滅ぼしかけたオレの力も、オレが願えば、なのは達を守る力に変わる――そういうことか……)
「あの女め、回りくどい言い回しをしてくれる……!」
苦笑まじりにつぶやき――マスターメガトロンはその場に立ち上がった。
「どうしたの、マスターメガトロンさん?」
「いくぞ。
こんなところで時間をつぶしていられるか――さっさとリニアレールを追い、他のヤツらと合流する」
思わず疑問の声を上げるスバルにマスターメガトロンが答えると、
「逃げるのか、マスターメガトロン!?」
そんなマスターメガトロンに対し、ブラックアウトが声を上げるが――
「逃げる? 違うな」
あっさりと答え、マスターメガトロンは静かにブラックアウトへと向き直った。
「アイツらを――機動六課の仲間を、守りに行くんだよ!」
「“守る者”としてな!」
「マスターメガトロンさん!」
機動六課のみんなを“仲間”と呼び、さらにはそれを守るために“コンボイ”を名乗る――ハッキリと決意を固めたマスターメガトロンの言葉にスバルが喜びの声を上げると、マスターメガトロンはスバルへと向き直り、
「やるぞ、小娘!
…………いや……スバル・ナカジマ!」
「はい!」
何をするか、などと尋ねる必要はない――うなずき、スバルはマスターメガトロンと共に叫ぶ。
『ゴッド――オン!』
その瞬間――スバルの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてスバルの姿を形作り――そのままマスターメガトロンと同じくらいの大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
同時、マスターメガトロンの意識が身体の奥底へともぐり込んだ。代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターメガトロンの身体に溶け込み、一体化したスバルの意識だ。
さらに、マスターメガトロンのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのように空色に変化していく。
そして――ひとつとなったスバルとマスターメガトロン、二人が高らかに名乗りを挙げる。
――――いや、マスターメガトロンではない。
“守る”事を決意した彼の新たな名、それは――
《双つの絆をひとつに重ね!》
「勇気の魔法でみんなを守る!」
「《マスターコンボイ――Stand by Ready!》」
スバル | 「次回は、マスターメガトロンさん改めマスターコンボイさんが大暴れ! 一緒に戦うあたしもがんばるよーっ!」 |
はやて | 「さぁて、それはどないやろなー。 次回、ちょっと驚きの展開が待っとったりするかもなー?」 |
マスターコンボイ | 「何…………? まさか、『スバル・ナカジマ暁に死す』とか!?」 |
スバル | 「ふえぇぇぇぇぇっ!?」 |
はやて | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第9話『二人のゴッドマスター〜疾風の拳と雷の槍〜』に――」 |
3人 | 『ゴッド、オン!』 |
(初版:2008/05/24)