それは、決して忘れられない記憶――

 

「………………う…………
 ……く…………っ!」
 何が起きたか、すぐにはわからなかった。
 気がついた時には、すでに周りは炎に包まれていた。
 何事かと身をよじり――気づいた。
 自分の動きを封じていた拘束着のベルトが切れている。今の衝撃で千切れたのだろうか。
 千切れた際に強く引っ張られたのだろう、締めつけられた痛みの残る腕をさすりながら顔を上げ――
 

「…………生き残りがいたか」
 

 燃え盛る炎の中、彼はエリオを冷たい目をして見下ろしていた。

 

 それは今から、ほんの数年前の出来事――

 

 


 

第9話

二人のゴッドマスター
〜疾風の拳と雷の槍〜

 


 

 

「マスターコンボイだと……!?
 たかがゴッドオンしただけで――名前を変えただけで、このオレに勝てると思っているのか!?」
 一方、マスターコンボイとスバルのゴッドオンを前にしても、ブラックアウトは怯まなかった。むしろ戦意をむき出しにこちらをにらみつけてくる。
「油断していた前回とは違う――最初から全力でブッ倒してやるぜ!」
 咆哮と同時、マスターコンボイへと襲いかかるが――
「マスターメガトロンさん!」
《マスターコンボイだ!
 それと――レッグダッシャー、アクティブ!》
 文句を言いながらも、マスターコンボイは自らの仕事を果たす。レッグダッシャーを起動、両足に装着し、
「《トレース――マッハキャリバー!》」
〈Trace!〉

 マスターコンボイとスバルがレッグダッシャーにマッハキャリバーをトレース。マッハキャリバーも乗り気で協力し、爆発的な加速と共に二人はブラックアウトの拳をかわし、
「《トレース――リボルバーナックル!》」
 右腕にリボルバーナックルをトレースし、攻撃を外したブラックアウトを思い切り殴り飛ばす!
「何………………っ!?」
 かわされているとは思っていなかったのか、ブラックアウトは驚きつつもエネルギーミサイルを乱射、マスターコンボイを狙うが、
《スバル・ナカジマ――代われ!》
「うん!」
 スバルがうなずき、彼女に代わってマスターコンボイが“表”に出て、
「オメガ!」
〈Yes, My Boss!〉
 起動したオメガを一閃。飛来するエネルギーミサイルを薙ぎ払い――
「がはぁっ!?」
《ぅわぁっ!?》
 またコケた。
《ま、マスターコンボイさんっ!
 まだ慣れてないんですか!? これレッグダッシャー!》
「練習しようにもそもそも立てん! どーしろと言うんだ!」
 抗議の声を上げるスバルに対して力いっぱい言い返し、マスターメガトロンはオメガを杖になんとか立ち上がり、
「ところで、スバル・ナカジマ……
 貴様、剣は……ととっ、使えるのか……?」
《し、師匠から基本的なところは……
 けど、マスターコンボイさんの方がきっと上手で……わわっ、重心、前、前! あわわ、行きすぎ! ちょっと重心下げて!》
 なんとかバランスを保ちながら告げるマスターコンボイに、スバルもまたアドバイスを片手間に答える――なんだかマヌケな光景だが本人達は大マジメなのでそこはスルーだ。
「し、仕方ない……!
 貴様の使いやすいようにいじってやる!」
《え………………?》
 スバルが声を上げるが、マスターコンボイはかまわない――というか、かまっていたらその間にまた転ぶ。オメガを掲げ、叫ぶ。
「オメガ――ナックルブレードモード!」
 その咆哮に対し――オメガが分離した。巨大な両刃の剣が真ん中から別れ、両腕の甲に合体。両腕と一体化した可動式のブレードとなり――
「これなら、お前でも殴るついでに使えるだろ!
 ……だから代われ! このままじゃまたコケる!」
《は、はいっ!》
 どうやらバランス感覚が崩壊寸前のようだ。マスターコンボイの言葉に、スバルはあわてて彼と交代、“表”に出て体勢を立て直す。
「だからどうした!
 所詮はアームドデバイス! 飛べないお前らじゃ、当てることは不可能だろうが!」
 それに対し、ブラックアウトは間合いを取って上昇。こちらの間合いの外からなぶり殺しにつもりのようだが――
《やれやれ……アホか、アイツは》
「かも、ですね……」
 対し、マスターコンボイとスバルはそんなブラックアウトを呆れたように見上げていたが――
「飛べないのなら――」
《駆けるまでだ!》
「《ウィングロード!》」
〈Wing Road!〉
 咆哮と同時、両足のレッグダッシャーに宿るマッハキャリバーがウィングロードを展開。一気に駆け上がり、ブラックアウトに肉迫し――両腕を叩きつけ、眼下の地面に向けて叩き落とす!
「ぐぅ…………っ!」
 もちろん、ブラックアウトもすんなり落とされるほど甘くはない。空中でなんとか体勢を立て直――した瞬間、彼の脇をウィングロードが駆け抜け、
《逃がして――》
「たまるかぁっ!」
 咆哮と共に追いすがってきたスバルが右拳で一撃。同時、腕に合体していたオメガのブレードがスライドして飛び出しニ撃目――たった1発の打撃で瞬間的に2発の攻撃をくらい、今度こそブラックアウトは大地に叩きつけられる。
「つ、強い……!」
《『強い』……?
 まったく、何を言い出すかと思えば……》
 ヨロヨロと身を起こし、うめくブラックアウトの言葉に、マスターコンボイは鼻で笑いながら答える。

《当たり前だ》

「うっわー、言い切っちゃった」
 一切の迷いなく断言するマスターコンボイの言葉に、スバルは思わず苦笑する。
《まぁいい》
 しかし、マスターコンボイは一切気にしない。気を取り直し、スバルに告げる。
《どうせ、あまりモタモタしていられないんだ――さっさと片付けて、なのは達を追うぞ!》
「はい!」
 

「《フォースチップ、イグニッション!》」
 スバルとマスターコンボイの咆哮が交錯し――二人のもとにセイバートロン星のフォースチップが飛来した。そのまま、マスターコンボイのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
 それに伴い、マスターコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
 二人に告げるのはトランステクターのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
 Final break Stand by Ready!〉

 強烈なエネルギーが周囲で渦巻く中、制御OSが告げる――身がまえた二人の目の前に環状魔法陣が展開され、その中央、そして同時に右拳にも魔力スフィアが形成される。
 そして、右腕のエネルギー加速リング“アクセルギア”が装着されたオメガのブレードもろとも高速回転、発生したエネルギーが右拳のスフィアにまとわりつき、その周囲で渦を巻いていく。
《いくぞ、スバル・ナカジマ!》
「こないだみたいな成り行きじゃない……
 あたしとマスターコンボイさんが、自分の意思で力を合わせた――ディバインスマッシャーの完成形!」
 マスターコンボイの言葉にうなずき、スバルは右拳を大きく振りかぶり――
《猛撃――》
「必倒ぉっ!」

「《ディバイン、テンペスト!》」

 右拳を環状魔法陣中央のスフィアに叩きつけた。二つのスフィアの魔力エネルギーが炸裂、強大な魔力の奔流となってブラックアウトに襲いかかり――爆裂する!
 爆煙の中、ブラックアウトはゆっくりと大地へと崩れ落ち――
「二人の拳に――」
《撃ち砕けぬものなし!》

「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
 スバルとマスターコンボイの言葉と同時、絶叫と共に巻き起こる大爆発――周囲でくすぶっていた残留エネルギーが大爆発を起こし、ブラックアウトは天高く吹き飛ばされていった。

 

「新手…………!?」
「大型か……ちょっとだけ、厄介だね」
 大勢はすでに落ち着いた。リニアレールのフォワード陣の援護に向かおうとしたなのは達だったが、そこへ増援の報せが飛び込んできた。接近しつつある敵の増援――ガジェット対TFU型の群れの出現を知らされ、つぶやくなのはにフェイトが告げる。
 そして、彼女達の視界に新手のガジェット群と思われる多数の光点が生まれ――
《なのは、フェイト!》
 突然、彼女達の元に念話が届けられた。
 相手は――
《大技いくよ!
 ここから撃つとそっちまで流れ弾が行っちゃう! ゴメン、うまくさばいて!》
「え!? ジャックプライム!?」
 告げられた言葉にフェイトが声を上げ――
《ストーム、カリバー、ショットガンッ!》
 咆哮と共に――新手のガジェット群、そのさらに後方で魔力の奔流が巻き起こった。それはすぐに強烈な、しかも複数の竜巻となってガジェットを蹴散らし――そのまま、その延長線上にいるなのは達に向けて突っ込んでくる!
「ちょっ、キングコンボイ!?」
 思わず声を上げるが――事前に警告されていた分すぐに対応できた。あわてて離脱し、フェイトは竜巻の群れをかわすと、パワードデバイスと合体、合流してきたジャックプライム――キングコンボイに抗議の声を上げる。
「危ないよ!」
「警告したでしょ!?」
「ってゆーか、今どっちかって言うと私の方に集中してなかった!?」
「気のせいだよ!」
「ウソ! ウソだよ、絶対っ!
 私となのはが一緒に戦ってるのを妬んだんでしょ!? そうなんでしょ!?」
「ちゃんとマジメにやったよ! 半分だけ!」
「残り半分は!?」
「ふ、二人とも……」
《ホントに変わらないよね、そのやりとり……》
 “自分が勝つなのはをGETする”ためではなく“相手に勝たせないなのはをGETさせない”ためなら何でもやる――相変わらずのフェイトとキングコンボイの“仁義なき戦い”を前に、なのはとプリムラは思わず苦笑する。
 こんな最前線でも衝突の絶えない二人だが、決して心配はいらない。
 なぜなら、このケンカも二人はなんだかんだで楽しんでいるフシがあるし、何より――
「それは――」
「ともかく――」
『キミ達、ジャマ!』
 ケンカしている状況下でも、二人は決して周囲への警戒をおろそかにしないからだ――口々に咆哮し、二人はこちらに襲いかかってきたU型(大)の群れに向けて刃を一閃。見事なコンビネーションで蹴散らしてしまう。
「今こっちはフェイトと大事な話の最中なんだから!」
「ジャマしないで――さっさと墜ちてよ!」
《…………全機撃墜とフォワード陣の援護、忘れないでくださいねー……》
 こういう時、二人の矛先が横槍を入れてきた“邪魔者”に向くのもいつものこと――忘れてはいないだろうが一応本来の目的を二人に確認させ、ジンジャーはガジェット群に対して内心密かに十字を切っていた。
 

「はぁぁぁぁぁっ!」
 咆哮と同時に突撃――レッケージは両腕に展開されたブレードを一閃、ガジェットV型の触手を叩き斬る。
 あわてて体勢を立て直すV型だが――
「リカバリが遅い」
 レッケージはそれを待つつもりはなかった。V型を一刀の元に両断、残骸の爆発を待たず列車の上から蹴り落とす。
「…………さて、“レリック”を……」
 つぶやき、“レリック”のある貨物車両へと向き直るレッケージだったが――
「………………む?」
 自身のレーダーに反応があった。見上げたレッケージの頭上をガジェットU型、対TF用の大型モデルが駆け抜け――レッケージの前後に、新たなガジェットV型が降り立った。
 運んできたU型と同じく、対TF用の大型だ。その巨体はリニアレールの上にしがみつくのがやっと、というほど巨大なものだが――逆に言えば前後の進路は完全にふさがれたことになる。
 しかし、レッケージの口元に浮かんだのは――
「………………おもしろい」
 余裕の笑みだった。
 

《現時点で、リニアレールの速度は60前後……
 ムリに止めようとしたら脱線しちゃうですね……》
 アスカによってコントロールを奪還され、リインが守備を引き継いだ制御室――車両の停止を試みていたリインだったが、その結果は芳しいものではなかった。 つぶやくリインのとなりで、アスカのパートナーリアルギア、スピードダイヤルもうなずいてみせる。
《せめて、直線に入るかもうちょっと速度が落ちてくれないと……》
 どちらもすぐには難しい。どうしたものかとリインは考え込み――
〈おーい、チビスケ!〉
〈助っ人参上なんだな!〉
《え――――――?》
 突然入った通信に、リインは思わず顔を上げ――前方からこちらに向けて駆けてくる面々を見て声を上げた。
《あ、アームバレットさん、ガスケットさん!?》

《どうして来てるんですか!?
 お二人は、シグナルランサーさんと同じ交通機動班でしょう!?》
「“市街地出動時の避難誘導”なんて仕事、今回出番完全なしなんだな!」
「このまま居残りなんて、身体がなまっちまわぁっ!」
 驚くリインに答え、駆けつけたアームバレットとガスケットはロボットモードへとトランスフォーム。リニアレールの前方に立ちふさがり、
「ここはオイラ達に任せるんだな!」
「隊舎で待機なんてくだらねぇぜ! オレの活躍を見――」
 しかし、ガスケット達がそのセリフを最後まで告げることは適わなかった。
 理由は簡単。

 かれたからだ。リニアレールに。

『どわっはぁぁぁぁぁっ!?』
《……そりゃ……列車の目の前にいたらそーなるですよねぇ……》
 思わずつぶやくリインの見送る中、高速で疾走するリニアレールにね飛ばされた二人は空の彼方に吹っ飛んでいく。
 代わりに残されるのは、彼らの心からの叫び――
『なんでオレ達だけ、こぉなんのぉぉぉぉぉっ!?』
 

 A.キミ達だから。

 

 同時刻、はるか後方では――
「……くっ、そぉ……!」
 スバルとマスターコンボイに吹き飛ばされたその先――吹き飛ばされ、大地に叩きつけられた際に巻き起こった土煙の中から、ブラックアウトはゆっくりとその姿を現した。
「やってくれたな、アイツら……!」
 うめきながらも自己診断プログラムを走らせ、自身の状態を確認する。
「……まだ、十分に戦えるな……!
 オレを完全に倒したかどうかも確かめずに離脱とは、詰めが甘いぞ……!」
 任務続行は可能だ。戦線に復帰すべく、ブラックアウトは立ち上がり――
《どっちかって言うと、『詰めが甘い』って言うより、『あなたなんかどーでもよかった』ってカンジだと思いますけどねー》
「――――――っ!?
 誰だ!?」
 いきなりの声がブラックアウトに告げた。とっさに振り向いたブラックアウトの見たモノは――

 “ナニか”だった。

 本当にそんな表現しか出てこない――板状のリングを外枠とし、その中に五芒星があしらわれたプレートが、左右に生えた羽でパタパタと飛んでいるのだから。
「…………何だ? このナゾのUFOは」
《あらまぁ、失礼ですね。
 最高位の魔術礼装をつかまえてUFO呼ばわりとは》
「実態はどうあれ、見た目は完全にUnknown Flying Objectだろうが」
 不服そうに反論するナゾの物体に答え――ブラックアウトはふと気づき、眉をひそめた。
「“魔術”、だと……!?
 魔法じゃないのか?」
《はーい、魔術ですよー♪
 とゆーか、ミッドやベルカのような、科学技術と一緒くたになった、ファンタジーに真っ向からケンカを売ってるような魔法と比較されるのははなはだ心外ですね》
 ナゾの物体がそう答えた、その時――
「ルビー、そのくらいにしといたら?」
《はーい♪》
 新たな声が割って入った――元気に答えると、ルビーと呼ばれたナゾの物体は声の主のもとへと飛翔する。
 年のころはなのは達よりも少し上だろうか――金と言うよりも白金に近い色合いの金髪を肩の辺りで切りそろえたその女性は、ルビーを傍らに控えさせ、ブラックアウトと対峙する。
「何だ? 貴様……
 機動六課の仲間か?」
「んー、ちょっと違うかな?」
 尋ねるブラックアウトに答え、女性は軽く肩をすくめ、
「私はただ、個人的にお節介を焼きに来ただけだからねー。六課の中には、私がここに来てるのを知ってる子はいないよ。
 だから――」
 そう告げながら、女性は右手をかざし――そこへルビーが飛び込んだ。自らの下部にグリップ部を作り出し、ステッキとなって彼女の手の中に収まる。
 そして、ステッキとなったルビーをブラックアウトに向け、女性はハッキリと宣言した。
「みんなに気づかれないうちに、さっさと退場してもらおうかな?
 ルビー!」
《はいはーい♪》
 答えると同時――女性の周りに魔法陣が展開された。
 円形の魔法陣だが、ミッド式魔法のものではない。明らかに術式の違う、まったく異系の術式によって描かれた魔法陣である。
《コンパクト、フルオープン――鏡界回廊、最大展開!
 いつでもいいですよー♪》
「オッケー♪」
 ルビーの言葉に答え、女性は高らかに告げた。

 

「転身!」

 

 

「おらぁっ!」
 咆哮し、バリケードの繰り出した拳がガジェットV型(大)を直撃する――しかし、ガジェットは多少たじろいだものの、すぐにバリケードに向けて触手を繰り出してくる。
「くそっ、頑丈なヤツだぜ!」
 少し離れたところでもう1体と戦っているレッケージも未だ撃破には至っていない。“対TF型”の名はダテではないか――長期戦の予感に舌打ちするバリケードだったが――
「ではぁっ!?」
 その予感が現実のものとなることはなかった。真横からの衝撃で列車から叩き落とされ、そのままガケを転げ落ちていく。
「何だ!?」
 対峙していたV型(大)から間合いを取り、レッケージが声を上げると、
「グギュルァアァァァァァッ!」
 咆哮し、彼らの頭上をキャロとエリオを乗せたフリードが駆け抜ける!
「フリード、ブラストレイ!」
 まずは正面のガジェットV型(大)――キャロの号令によって、フリードはブラストフレアとは比べ物にならない、巨大な火球を口腔内に作り出し、
「ファイア!」
 キャロの号令と共に、それは火炎となって放たれた。V型(大)の触手を一撃のもとに焼き払うが――本体はAMFによって難を逃れる。
「やっぱり、硬い……!」
「あの装甲は、砲撃じゃ抜きづらいよ。
 それに、対TFを想定した大型モデルだから、その分AMFも強力だし……」
 つぶやくキャロの言葉にエリオが答えると、
《だったら――》
「直接ブッ叩く!」
 咆哮と共に、飛び込んできた巨体が、触手を失ったV型(大)へと一撃。AMFの物理防御層、さらにはその装甲すら易々と打ち貫き、深々と拳を突き立てる!
 致命傷を受け、V型(大)は爆発。その炎の中ゆっくりと立ち上がるのは――
「マスターメガトロンさん!?」
「改め、マスターコンボイさんだよ♪」
 思わず声を上げるエリオに、マスターコンボイにゴッドオンしているスバルが答える。
 と――
《降りろ、スバル・ナカジマ!》
「え――――――?」
《ゴッド、アウト》
 突然の提案に驚くスバルにもかまわない――マスターコンボイはいきなりスバルとのゴッドオンを解除。彼女を列車の上に放り出す。
「マスターコンボイさん……?」
「こんな場所で、オレみたいなデカイヤツが走り回れるものか。
 貴様のスキルを最大限に活かすなら、今はゴッドオンを解除するのが正解だ」
 思わず声を上げるスバルに答え、マスターコンボイは残るV型(大)とレッケージに向き直る。
「じゃあ……どう分担します?」
「オレがガジェットを殺る。
 スバル・ナカジマはレッケージをスピードでかき回せ」
 スバルの問いにマスターコンボイが迷わず答えると――
「ボクもいきます!」
 そんなマスターコンボイに告げ、エリオがフリードの上から跳び下りてきた。
「断る。
 この場でフォーメーションを組むのは、スペース上二人が限界だ――3人目はいらん。相方を守ってやれ」
「その“守る”ために、ボクも戦いたいんです!」
 あっさりと断るマスターコンボイだが、エリオもまた譲らない。
「ボクはガードウイング……“守るために前に出る”のが仕事です!
 みんなを守るために、ボクはここにいる――ここでがんばれないんじゃ、六課に来た意味がないんです!」
「……やれやれ……こいつも強情系か……」
 エリオの言葉に、マスターコンボイは敵への警戒を保ったまましばし思考をめぐらせ、
「……いいだろう。
 スバル・ナカジマ、貴様は下がって桃頭のガードだ。
 カミナリ小僧とオレとで組むぞ!」
「はいっ!」
 マスターコンボイの提案にうなずき、エリオはストラーダをかまえる。
「そうだ……ボクは“守るため”にここにいる……」
 決意と共に意識を研ぎ澄ませ――そんな彼の脳裏に、かつての記憶がよみがえった。

 

 “正体”を知らされ、放り込まれた施設で、自分は拘束されていた――自暴自棄となったそのままに、電気資質を備えた高い魔力を振るった自分を、職員達が恐れたためである。
 だが――反省はなかった。
 誰よりも慕っていた、何よりも信じていた両親に捨てられた今、彼にとって“正しいもの”など存在しなかった――何もかもが間違っている。間違っているのが当たり前なのだから、間違った自分は悪くない――そんな思考の“負”の連鎖に、彼の心はどっぷりとつかり込んでいた。
 そんな時だった。
 “彼”が現れ――“彼女”との出会いへの道を切り開いたのは。

 

 深夜の深い闇の中、突然彼の部屋を――施設全体を襲った衝撃は、彼を眠りの底から呼び戻すには十分すぎた。
 周囲を見回した時には、すでに自分の周りは炎に包まれていて――

「…………生き残りがいたか」

 燃え盛る炎の中、彼はこちらを冷たい目をして見下ろしていた。
「誰ですか……? あなたは……」
「……ここの職員にとっての“死神”だ」
 尋ねるエリオに答えると、男は彼の姿を頭からつま先まで観察し、
「……職員じゃないな。
 保護対象はすべて連れ出されたと思ってたが……しくじりやがったな」
 舌打ちまじりにつぶやくと、男は面倒くさそうに頭をかき――
「…………“死神”……って、言いましたね……」
 そんな男に、エリオは自然と声をかけていた。
 その言葉に込められた、エリオの“本当に問いたいこと”を読み取り――男は首を縦に振った。
「…………あぁ」
 静かにうなずく男の言葉に――エリオは確信した。
 この施設の者達がたどった“末路”を。
 だから――尋ねていた。
「…………ボクも……ですか……?」
 その問いに――男は答えない。
「……ボクは……ボクじゃなかった……
 “エリオ・モンディアル”だと思っていたボクは……ただ“エリオ・モンディアル”を真似ただけの、ただの人形だった……
 こんなボクに……生きてる理由なんて……」
 わずか5歳にして立たされた絶望――それがエリオに5歳児らしからぬ言葉を発させていた。
「あなたが死神だというなら……ボクも……」
 その言葉に、男は息をつき――

「イヤじゃボケ」

 心底嫌そうに言い放った。
「オレが容赦しないのは、オレの“敵”だけだ。
 その定義の外にいるお前を殺す理由はねぇよ。
 それに――」
 エリオに対してそう告げると、男は彼を見下ろし、
「“敵”でもない、ただ死にたがってるだけのヘタレを殺すシュミはねぇ」
「………………っ!」
 容赦なく言い放たれたその一言に、エリオは思わず唇をかみ締めた。
「死にたいなら勝手に死ね。
 だがな――その選択を他人に押しつけてんじゃねぇ」
 言って、男はエリオに対し背を向けて――告げた。
「ムカツクんだよ。てめぇみたいなヤツを見てると。
 誰かのコピーだから何だってんだ。人工的に生み出されたから何だってんだ――自分の生まれが普通じゃなかったからって、自分だけが不幸だなんてツラしてんじゃねぇぞ」
 背を向けたまま、男はエリオに向けて続ける。
「そんなに不幸自慢がしたいなら、オレだって自慢してやるよ。
 お前はまだ幸せだ――コピーだろうが人造魔導師だろうが、最初から“そういう形で生まれた”んだからな。
 オレみたいな――」
 

「途中で“人間をやめさせられた”人間に比べればはるかにマシだ」
 

「……え…………?」
「もう一度言うぞ。
 不幸なヤツなんて、この世界を見渡せばゴマンといるんだ――てめぇひとりが不幸だなんてツラすんじゃねぇ。
 みんなが、自分の身に降りかかった不幸と戦いながら生きてるんだ。てめぇとどれだけの違いがあるってんだ?」
 一瞬、言っている意味がわからなかった――だが、そんなエリオへと振り向き、男はそう続ける。
「別に、人生あきらめること自体はどうとも言わねぇよ。それ自体はてめぇ自身の問題だ。オレ達みてぇな外野がどうこう言えるもんじゃねぇ。
 だがな――」
 言って、男は左手でエリオの胸倉をつかみ、
「それが認められるかどうかは別問題だ。少なくともオレは絶対に認めてやらねぇ。
 いいか――“あきらめていい権利”ってのはな、その前に死ぬほど悪あがきしたヤツにしかねぇんだ。
 “あきらめ”ってのは、死ぬほどがんばって、それでもどうすることもできなかったヤツにだけ許される救いだ。
 がんばりもあがきもしないでンなことほざくんなら、そいつぁ“あきらめ”じゃねぇ。逃げてるだけだ」
 その言葉に、エリオは答えない――自分の言葉を咀嚼そしゃくするようにうつむき、考え込む その姿に、男は息をつき、告げた。
「…………それから、訂正がもうひとつ。
 てめぇ、オレに殺されることをご希望だったみたたいだけど……そもそも、オレはここで誰も殺してない」
「え…………?
 だって、さっき自分のことを……」
「“死神”っつったのはもののたとえ。
 まぁ……『死んだ方がマシ』っていう“寸止め地獄”には追い込んでやったけどな。そういう意味じゃ、“死神”の方がまだ慈悲深いんじゃね?」
 そう言うなり――男はエリオの身体をそのまま持ち上げ、ヒョイと肩に担いで立ち上がった。
「な、何を……!?」
「救助」
 思わず声を上げるエリオに対し、男はあっさりとそう答えた。右手をかざしそこに“力”を集中させていく。
 すぐに炎が手の中に生み出される――それはみるみる内に温度を上げていき、やがてはバリバリと雷光を放ち始める。あまりの高温にプラズマ化したのだ。
 しかも、周りには余分な熱を一切放出していない――プラズマ化するどの高熱エネルギーを生み出しながら、彼が完璧にそれを制御している証拠だ。
「す、すごい……!」
 炎と雷光が一体となったかのようなその輝きにエリオが思わずつぶやき――
「とりあえず今は助けてやる――とりあえず生き残っとけ。
 まぁ、その上でまだ死にたいっつーなら止めねぇよ。吊るなり舞うなり好きにしろ。
 だがな――そいつぁ、今オレが言ったことをよく考えてからにしろ」
 告げると同時――男が放った熱線は、施設の壁を難なく撃ち貫いていった。
 

 そして――エリオを施設の外に連れ出すと、彼は再び炎の中にその姿を消していった。
 その数時間後、エリオは管理局の救助隊に救出されることとなり――フェイトと出会うこととなる。
 

 保護施設の皮を被った、人造魔導師の研究施設の資料――“炎から守られていた”施設職員の虐待の証拠と共に。

 

(あの人に言われて……フェイトさんに出会って……わかったんだ……!)
 決意と共に、エリオは自らの中の魔力を練り上げていく。
(みんな、不幸な出来事や、辛い想いと向き合いながら生きてるんだ……
 だから……自分が辛い思いを乗り越えていくから……誰かに優しくしてあげられるんだ……)
 その瞳に――迷いはなかった。
(だから、ボクも……誰かに優しくしてあげたい。
 そのために――)
「みんなと力を合わせて……みんなを守るんだ!」
 決意と共に、エリオは自らを叱咤するように宣言し――
 

 異変は突然訪れた。
 

 突然、マスターコンボイとエリオの胸元が光り始めたのだ。
 その位置は――
「オレのスパーク……いや、スパークの中の、リンカーコアか……!?」
「ボクのリンカーコアも……?」
 思わずつぶやく二人だが――突然のことでワケがわからない。
 考えられるのは――
「共鳴、しているのか……?」
 思わずつぶやき――マスターコンボイは気づいた。
(まさか……)
 確証はない――だが、試してみる価値はありそうだ。
「おい、カミナリ小僧」
「え…………?」
 声をかけられ、エリオがこちらに視線を向けるが――かまわずマスターコンボイは告げた。
「ゴッドオンするぞ」
「え? ちょっと!?」
「試せそうだから試す!」
 思わず上がったエリオの声を突っぱね、マスターコンボイは迷わず言い放つ。
「苦情は後で受けつけてやる! とにかく合わせろ!」
「は、はいっ!」
 そして――二人が吼えた。
 

『ゴッド――オン!』
 

 その瞬間――エリオの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてエリオの姿を形作り――そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
 同時、マスターコンボイの意識が身体の奥底へともぐり込んだ。代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化したエリオの意識だ。
 さらに、マスターメガトロンのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのように金色に変化していく。
 そして――マスターコンボイの手の中で、オメガが握りを長く伸ばし、ランサーモードへとその形を変える。
 大剣から槍へと姿を変えたオメガをかまえ、ひとつとなったエリオとマスターコンボイ、二人が高らかに名乗りを挙げる。

《双つの絆をひとつに重ね!》
「みんなを守って突き進む!」

「《マスターコンボイ――Stand by Ready!》」

 

「そ、そんな!?」
 スバルではなく、エリオとのゴッドオン――指令室でその一部始終を目の当たりにし、ルキノが思わず声を上げる。
「トランステクター1台につき、ゴッドマスターはひとりだけのはず……
 なんで、スバルとゴッドオンするマスターコンボイさんがエリオくんと……?」
 同様に原因がわからず、シャリオが声を上げると――
「確かに、普通なら1台のトランステクターにゴッドオンできるゴッドマスターはひとりだけや」
 そんな彼女に、はやてが告げた。
「せやけど……それは、トランステクターの方がゴッドマスターひとりひとりに合わせて自分のシステムを随時調整できないから。
 自分でシステムの調整ができないから、現状の自分のシステムに適合できたゴッドマスターとしかゴッドオンできへん……
 せやろ? シャーリー」
「はい……
 ――――って!?」
 言いかけ――シャリオは気づいた。
 はやてが言いたいことを正しく読み取り――モニターへと視線を戻してつぶやく。
「まさか……
 マスターコンボイさんが……自分でエリオくんに合わせて調整した……!?」
 

「ホントに……ボクが、マスターコンボイさんと……?」
《あぁ……どうやら、思ったとおりのようだ。
 あの共鳴は、オレのトランステクターとしてのシステムが貴様に呼応した結果――つまり、貴様もゴッドマスターだったんだ》
 自分がゴッドオンに成功したのが信じられず、思わずつぶやくエリオにマスターコンボイは彼の“中”でそう答える。
《どういうことか、詮索は後回しだ。
 まずは、目の前の敵を片付けるぞ!》
「はいっ!」
 告げるマスターコンボイに答え、エリオはランサーモードのオメガをかまえ、
「エリオ・モンディアル――マスターコンボイ、いきます!」
 宣言と共に地を蹴り、ガジェットV型に襲いかかる!
 すかさず魔力砲で応戦するV型だが――
「そんなの――」
《当たるか!》
 エリオとマスターコンボイには通じない。エリオの素早さが反映された、巨体に見合わぬ機動で魔力砲をかいくぐり、一気に間合いを詰めて蹴りを叩き込む!
「ちぃっ!」
 そんなマスターコンボイに対し、もう一方の敵――レッケージが動いた。両腕のブレードでマスターコンボイを狙うが、
「させる、もんかぁっ!」
 ウィングロードに乗って疾走してきたスバルがそれを阻んだ。リボルバーナックルの一撃がレッケージの足を止め――
「《トレース――ストラーダ!》」
 その硬直は、エリオとマスターコンボイにとっては絶好のチャンスだった。素早く距離を合わせ、ストラーダをトレースしたオメガで一撃を見舞う。
「ぐ…………っ!
 やってくれる!」
 それでもひるまずにブレードを繰り出すレッケージだったが、エリオには通じない。ブレードの間合いから素早く後退、逆にオメガで立て続けに刺突を叩き込む。
 完全に間合いを掌握され、レッケージは手も足も出ないが――
《やれやれ……小技の刺突でチクチクといたぶるか。
 意外にえげつない戦い方をするな、貴様》
「え、えげつない!?」
 素直な感想をもらすマスターコンボイに、エリオは思わず声を上げた。
《まったくもって、意外な一面を見た気がするなぁ……》
「そ、そんなんじゃないですよ!」
 からかうマスターコンボイに対し、エリオはあわてて弁明の声を上げる。
「ボク、身体が小さいから、薙ぎは逆に槍に振り回されるから、ってなのはさんが……」
《止められているワケか……》
「はい……あまり多用はするな、って……」
 答えるエリオの言葉に、マスターコンボイはため息をつき――
《しかし――オレにゴッドオンしている時までそうでは、こっちはみみっちい戦いをされて気分が悪い。
 後で少しは手ほどきを受けておけ》
「は、はい……」
《と、いうワケで――」
 その言葉と共に――マスターコンボイとエリオ、“裏”と“表”が入れ替わった。エリオに代わり、マスターコンボイがランサーモードのオメガをかまえる。
《あれ……?
 マスターコンボイさん?》
「とりあえず、今は引っ込め。
 このまま続けさせると、延々と刺しまくる戦いになりそうだからな」
《あぅ……》
 思わずエリオがうめくが、マスターコンボイはこちらに対して警戒を強めるV型とレッケージへと向き直り、
「そういうことだ。
 とはいえ、オレもオレで、槍の扱いは理屈の上でしか知らんからな――練習台になってもらおうか」
「ぬかせ!」
 マスターコンボイに言い返し、突っ込んでくるレッケージだが――

「教導――開始だ」

 その言葉と同時――身をひるがえしたマスターコンボイがオメガの一撃でレッケージへと一撃を見舞う!
「まだまだ!」
 言って、マスターコンボイがオメガを振るうが、レッケージはそれをかいくぐって懐に飛び込み――
「ぬるい!」
 懐に飛び込まれたマスターコンボイは、間合いを取るどころかむしろレッケージに向けて踏み込み――その顔面にヒザ蹴りを叩き込む!
「バカか、貴様。
 今の空振りがカウンター狙いの“仕込み”だということぐらい気づけ」
 言って、マスターコンボイは顔面に一撃をもらい、ふらつくレッケージに対し無造作に間合いを詰めた。彼の脇の下の空間にオメガを差し込むとそのまま背を向け、
「すっ飛べ!」
 オメガの石突側を掲げると、肩に担ぐような体勢で思い切り下に引き下げた。肩を支点としたシーソーと化したオメガはレッケージの脇に引っかかり、そのまま投げ飛ばす!
「どうしたどうした?
 それではこっちは練習にもならないんだがな」
「く………………っ!
 なめるな!」
 マスターコンボイの言葉に、レッケージは再び襲いかかるが――
「なめているのは――そっちだろうが!」
 マスターコンボイはオメガの刃で一撃――さらに石突側でもう一撃。そのまま刃と石突、双方を駆使して立て続けに連撃を叩き込む!
 その間合いは剣で戦うレッケージの間合いと変わらない――槍を柄の中心でかまえ、刃と石突の双方を打点とすることで、さながら柄を中心として双方に刃を持つ“双刃剣”のごとく取り回し、剣の間合いでの戦いを可能としているのだ。
《す、すごい…………!》
「長柄の武器も、扱いをわきまえれば狭い間合いでも扱える。
 槍は間合いを取らなければ振るえない――そんなセリフは単なる妄言と知るがいい!」
 “裏側”で感嘆の声を上げるエリオに対し、連撃を続けたそのままで言い放ち――間合いを離すと仕上げとばかりに回し蹴りを一発。レッケージをリニアレールから叩き落とす!
「次は貴様だ!」
 こちらに必殺技を使わせることもなく退場したレッケージのことなどもはや眼中になし――続いてマスターコンボイは漁夫の利とばかりに重要貨物室の突破を試みていたガジェットV型(大)を狙う。
 相手も球体であるボディ形状を活かしてすぐさま振り返るが――すでに遅い。間合いに飛び込んでいたマスターコンボイによって、先程のレッケージと同じく連撃の餌食となり、
「こいつは――オマケだ!」
 間合いを離したマスターコンボイが力いっぱい刺突を叩き込んだ。とっさにAMFをバリア代わりに受け止めるV型だが、そのまま勢いに負けて押し戻される!
「さて、と……そろそろ、まとめの時間かな?」
 レールウェイの上をゴロゴロと転がり、まだかろうじて残っている触手でなんとか踏みとどまるV型(大)を前に、マスターコンボイはオメガを振り回しながらそうつぶやき――
「マスターコンボイさん!」
 そんな彼に声をかけてきたのは、フリードに騎乗するキャロだった。
「今なら押し切れます!
 威力強化をかけますから、そのまま一気に!」
「ほぉ……」
(戦況の見極めはオレンジ頭や斧娘の役目かと思いきや――こいつもなかなか見ているものだな)
 折りしもフィニッシュに移ろうとした自分と思考が重なった――キャロの的確な判断に、マスターコンボイはフェイスガードの下の口元を歪め、
「かまわんぞ。
 こちらは元々、貴様らライトニングの担当だ」
 告げると同時――マスターコンボイはオメガの矛先をガジェットに向け、
「オレのパワー、キャロ・ル・ルシエのブースト、チビ竜フリードリヒの火炎、エリオ・モンディアルの雷――ひとつに束ねてヤツを討つぞ!」
「《はい!》」
「グギュウッ!」
 マスターコンボイの言葉に二人と1騎がうなずく――先陣を切り、キャロが呪文を詠唱する。

 ―― 我が乞うは、清銀の剣
若き槍騎士の刃に、祝福の光を!

〈Enchant of Field invade!〉

 ―― 猛きその身に、力を与える祈りの光を

〈Boost Up, Strike Power!〉

「ツインブースト――スラッシュ、アンド、ストライク!」
Approval承認!〉
Annahme受諾!〉
 同時、一度にかけられる二つの効果――キャロの二重詠唱による多重ブーストをオメガが、そしてそこに宿るストラーダが受け取り、
《いきます!》
「グギュアァッ!」
 そこにエリオが自らの魔力資質によって雷光を付加。さらにフリードもまたブラストレイの要領で火炎をまとわりつかせ、オメガの刃が3種の魔法によってさらなる輝きを放つ!
《マスターコンボイさん!》
「言われなくてもわかってる!」
 エリオに答え、マスターコンボイはV型(大)に向けて一歩を踏み出し、
「仕上げは――オレと貴様、二人でいくぞ!」
 

「《フォースチップ、イグニッション!》」
 エリオとマスターコンボイの咆哮が交錯し――二人のもとにセイバートロン星のフォースチップが飛来した。そのまま、マスターコンボイのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
 それに伴い、マスターコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
 二人に告げるのはトランステクターのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
 Final break Stand by Ready!〉

 強烈なエネルギーが周囲で渦巻く中、制御OSが告げる――そのまま、マスターコンボイはオメガを振りかぶり、
「どっ、せぇいっ!」
 投げつけた。一直線に飛翔したオメガは、V型(大)の展開したAMFの防壁も難なく突破。その装甲に深々と突き立てられる。
 とはいえ、相手は対TF戦闘を想定した大型タイプだ。その傷は致命傷には程遠いが――
《それで終わりだと――》
「思わんことだ!」
 マスターコンボイとエリオの攻撃は終わらない。腰を落とし、身がまえた二人の目の前に自分達がくぐれそうなほどに大きな環状魔法陣が展開される。
 そして、右腕の“アクセルギア”が高速回転、発生したエネルギー光となってが拳を包んでいく。
 そのまま拳をかまえ、突撃。環状魔法陣へと飛び込み――発射台としての役割を与えられていた魔法陣が彼らを打ち出した。さらに背中のバーニアで加速し、マスターコンボイとエリオは一直線にオメガを突き立てられたV型(大)へと襲いかかり、
「我が敵を討て――炎の刃!」
《すべてを貫け――雷の刃!》

「《サンダー、フレア!》」

 右腕をオメガの石突に叩きつけた。拳を通じて叩き込まれた新たな魔力を起爆剤とし、オメガの刃に宿っていた魔力エネルギーが炸裂、強大な魔力の奔流となってV型(大)の内部で荒れ狂い、爆裂する!
 内部から炎を吹き出し、大型ガジェットはゆっくりとリニアレールの屋根の上へと崩れ落ち――
《撃破――》
「確認!」

 エリオとマスターコンボイの言葉と同時、巻き起こる大爆発――周囲でくすぶっていた残留エネルギーが大爆発を起こし、ガジェットV型(大)は内部から爆発、四散する。
 そして――きびすを返し、爆発の跡に背を向けたマスターコンボイは静かに告げた。
「教導……完了」
 

「車両内、及び上空のガジェット反応、すべて消滅!」
「スターズ4、ゴッドアイズ2、“レリック”を無事確保!」
《車両の速度、安定レベルに到達!
 もう脱線の心配はないです! 今止めまぁす!》
 アルトが、ルキノが、そして現場のリインが報告する――戦闘の取りあえずの終結を示すそれらの報告に、はやては指令室で息をついた。
「……とりあえず、任務は完了やな。
 スターズの3人とアスカちゃん、リインはスプラングに回収してもらって、そのまま中央のラボまで“レリック”を護送してな」
「残りのメンバーはどうしますか?」
「現場待機や」
 尋ねるグリフィスにも、はやては笑顔でそう答える。
「現地の局員に事後処理の引継ぎ。そのためのデータ集めもお願いな」
 

「…………回収のヘリが来たようだな」
 すでにエリオとのゴッドオンも解除し、マスターコンボイは上空からゆっくりと降下してくるスプラングの姿を見上げてそうつぶやいた。
「スゴイ! スゴイよ、エリオ!
 初めてゴッドオンしたのに、マスターコンボイさんと息ピッタリ!」
「そうだよ……ビックリしちゃった」
「そ、そんなことない、かな……?
 途中から、ずっとマスターコンボイさんに“表”に出てもらってたし……スバルさんの援護や、キャロのブーストもあったし」
 一方、マスターコンボイとの意外なゴッドオンを遂げたエリオはスバルとキャロから惜しみない賛辞を受けていた。二人の言葉に少し照れ気味にそう答え、
「それに……フリードも助けてくれたしね」
「グギュウッ!」
 エリオの言葉に、フリードもまた上機嫌でうなずいてみせる。
「ほら、スバル、行くわよ!」
「あ、はーい!
 それじゃあ、みんな、また後で!」
 そんな彼らのやり取りに割って入るティアナの声――答え、スバルが彼女と合流するのを、キャロもエリオも笑顔で見送っていたが、
「キャロ・ル・ルシエ」
 不意に、マスターコンボイが声をかけた。振り向く彼女に対し、飛び去っていくスプラングから視線を外さないまま告げる。
「………………礼を言う」
「いいですよ。
 みんなをサポートするのは、フルバックの私の役目ですし♪」
「あー、いや、ブーストのことではなくt……」
 満面の笑顔で答えるキャロに対し、マスターコンボイは思わず上げかけた自らの声に待ったをかけた。
 彼女の姿を見て、自分も今の自分と向き合う決意ができた――そんなことを改めて説明するのも、何だか気恥ずかしいよう気がして――
(…………まぁ、いいか)
 結果、胸中でそううなずくのみにとどめ、マスターコンボイは静かに息をついた。

 

 

 そんな中――その光景を監視する者達がいた。

 

〈刻印ナンバー\、護送体勢に入りました。
 追撃戦力を送りますか?〉
「やめておこう」
 追撃を提案する、自分の秘書を務めてくれている女性に対し、その男はそう答えると口元に小さく笑みを浮かべた。
「“レリック”は惜しいが……彼女達や向こうのトランステクターのデータが取れただけでも十分さ」
 言って――男はモニターを切り替え、なのは達の映像を次々に表示していく。
「それにしても……この案件は実に素晴らしい。
 私の研究にとって、興味深いそろっている上に……」
 そう告げる男の視線は――フェイトと、そしてそのとなりのエリオの映像で止まっていた。
「この子達――生きて動いている、“プロジェクトF”の残滓を、手に入れるチャンスがあるのだから……」
 しかし――男の笑顔がそこで停止した。すぐに不機嫌そうな顔に変わり、モニターを再び切り替える。
 そこに表示されたのは、破壊された工場のような施設、そして砂漠や森林、荒野に無数に転がるガジェットの残骸――
「むしろ問題なのはこちらだ……
 ガジェットの生産ラインを立て続けに破壊され、さらには管理局の押さえていない“レリック”の回収にあたらせたガジェット達も次々に襲われ、破壊されている……」
〈生産ラインの破壊は、わざと派手に行い、管理局の目が向くように示しています。
 ガジェットの迎撃も明らかに先手を打っており――“敵”が我々の動きを読み切り、それを阻むことを目的として作戦行動を展開しているのは確かなようです。
 ……“彼”でしょうか?〉
「もしくは、“彼”の息のかかった者達、だろうね……
 前者――“彼”が直接動いているならともかく、後者だとやっかいだね……“彼”はあれで後ろ盾となり得る友人が意外と多い。特定は難しいだろうね」
〈調査を行いますか?〉
 女性の言葉に、男はしばし考え、
「……やめておこう。
 “彼”がからんでいる可能性は、しばらく私とキミだけのオフレコにしておこう――もしそれで“彼”に直接つながるような情報が出てきたりしようものなら、“チンク”が黙ってはいないだろうからね」
 言って、男は背後へと振り向き、女性に向けて告げる。
「“ウーノ”、心配する必要はない。
 どんな道筋であれ……“彼”はここに来るしかないんだ。
 なにしろ――」
 

「ここにこそ、“彼”の求めるものがあるのだからね……」

 

 

「ってて……ひでぇ目にあったぜ……」
 リニアレールの路線のはるか下――ガケの底をトボトボと歩きながら、バリケードはため息まじりにつぶやいた。
 本来の姿に戻ったフリードによってリニアレールから叩き落とされ、あえなく戦線を離脱――レーダー反応によればレッケージも敗れたようだ。ここは素直に撤退するのが賢いと判断し、マスターコンボイとスバルに敗れたと目されるブラックアウトとの合流を目指す。
 そして、ブラックアウトが戦ったと思われるポイントへと到着し――
「――――――っ!?
 ブラックアウト!?」
 確かにブラックアウトはそこにいた。
 ただし――
「……あの、小娘、が……!」
 死なない程度に黒コゲにされて。
 

「…………うん、そう。
 “お仕事”、完了したよ」
 そこから少しだけ離れた岩場――携帯電話型の通信端末に向け、女性は何事もなかったかのようにそう告げた。
《あれだけシバキ回せば、ブラックアウトもリニアレールを追いかけられないでしょうね》
〈そうか……お疲れさん〉
 声色から苦笑しているのがわかる――通信相手の男がルビーに答えると、今度は女性が尋ねる。
「けど……ホントにトドメ刺さなくても良かったの?」
〈刺したかったワケじゃねぇだろ?〉
 あっさりと男は答えてきた。
〈確かに、お前も今までの戦いで命がけの修羅場ってヤツをくぐり抜けてきてる。
 けど……本当の意味で“命を奪ったこと”はない。
 そして――オレは今後も“させる”つもりはねぇよ〉
 そう告げるその声は強い決意に満ちていた――これ以上この話題を続けようとすれば間違いなく怒られると察し、女性はあきらめて話題を変えた。
「けど……何が一番辛いかって、アリシアちゃん達にも秘密、ってのがねー」
〈まぁな……お前も“美遊”も、仲良くしてるもんな……
 確か、アリシアの紹介でなのはやフェイトにも会ってるんだろ?〉
「うん!」
 女性が笑顔でうなずくと、男はため息をつき――
〈だ、か、ら、マズイんだろうが!
 お前らにはこなた達のフォローもしてもらわにゃならんのだぞ! こんな早い段階から首突っ込んでんのがバレたら、後々ややこしくなるだろうが!〉
「わ、わかってるよぉ……」
 思い切りまくし立てられ、女性は思わず端末を耳元から離して答える。
〈ったく……マヂ頼むぞ。
 遠坂ですら始末に終えなかったそのクソステッキの手綱を握れるのは、今んトコお前しかいないんだからな〉
《クソステッキとは何ですか、クソステッキとは》
 男の言葉に不満の声をもらすのは、もちろん『クソステッキ』呼ばわりされたルビーだ。
《私的には、いくら10年来の付き合いとはいえ、ハイティーンどころか20歳過ぎのマスターなんてナンセンスの極みなんですよ。
 そんなコトを言ってると、今すぐ契約を破棄して――》
〈あー、そーゆーコト言う?
 じゃあ、“ローティーンのかわいいマスター候補を紹介してやる”っつー話もなかったことに〉
《誠心誠意務めさせていただきます》
「安い!? 安いよ、ルビー!?」
 即座に態度をひるがえしたルビーの姿に、女性は思わずツッコみを入れる――男に対し「十分手綱握れてるじゃない」とも考えるが、ツッコんだらその後の返しが怖いので黙っておく。
〈とにかく、終わったんなら戻ってこい。
 今、こなた達の方も終わったって連絡が来た――向こうのフォローに回った“美遊”も引き上げさせる〉
「ホント?
 じゃあ、今から帰ればちょうど夕方だし……晩御飯は一緒に食べられるね!」
〈オレに作れってか?
 衛宮の料理で舌の肥えたお前を満足させるのは骨が折れるんだぞ〉
 暗に“骨が折れるが負けるつもりはない”と告げていた。
〈まぁ、そっちについては善処しよう。
 気をつけて帰ってこいよ――イリヤ〉
「はーい♪」
 男の言葉に答え、イリヤと呼ばれた女性は笑顔で敬礼してみせる。
「それじゃあ――」

 

「“カレイド01”、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン!
 只今より、そちらに帰還しまーす♪」


次回予告
 
マスターコンボイ 「マスターコンボイの、『正しいデバイスの使い方教室』の時間だ!
 まずはデバイスを起動し――後は斬って斬って斬って斬って、 斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って、斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って、斬りまくるぅっ!」
なのは 「説明になってない!?
 っていうか予告をしてください!」
マスターコンボイ 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第10話『インターミッション〜見えてくる“敵”〜』に――」
二人 『ゴッド、オン!』

 

(初版:2008/05/31)