「…………はい、メインモニターに出すよ」
「あぁ」
 アリシアの言葉にうなずき、マスターコンボイは部屋の中央に設置されたメインモニターへと視線を向けた。
 機動六課本部隊舎、アナライズルーム――スバル達の朝錬の時間よりもさらに早い時間帯、文字通り朝一番でこの部屋を訪れたマスターコンボイはさらに早くからデータ分析にいそしんでいたアリシアに目的のデータを呼び出させた。
 そのデータとは――
「…………コイツが、スバル・ナカジマの“師匠”か……」
「そう。
 柾木ジュンイチ――第108管理外世界出身の特殊能力者、“ブレイカー”のひとりだよ」
 つぶやくマスターコンボイに答えるアリシアの瞳はとても穏やかで――“彼”がスバルだけでなく、彼女にとっても大切な存在であることを雄弁に物語っていた。
 ともあれ、マスターコンボイはモニターに表示されたデータに目を通していく。
「……新暦65年7月、転送事故により時空漂流者としてミッドチルダに漂着――直後に居合わせた陸士108部隊と行き違いから交戦。これをわずか10分で戦闘不能に追い込む……」
 最初からいきなりスサマジイ一文が出てきた――が、気を取り直して続ける。
「その際の処分は保護観察処分……
 その後、首都防衛隊、及び陸士108部隊の任務に再三に渡り介入、そのすべてを同部隊介入前に解決に導くが、同時に物的被害も甚大なものをもたらす……」
 軽くめまいを覚えてきた。
「その後ギガトロンと接触、後に“ギガトロン事件”と呼ばれる交戦の末にこれを撃破、か……
 さらに“クラスカード事件”擬装の一族ディスガイザー事件”等で活躍……
 …………何だ? この“時計塔襲撃事件”というのは。“参考”扱いになっているが」
「あー、それ、次元犯罪事件じゃなかったの。
 “クラスカード事件”から派生した事件ではあるんだけど、あくまでその世界の中でのことだったから、次元犯罪指定はされなかったの。だから“参考”扱い。
 ただ、その時の暴れっぷりがすごくてねぇ……しかも、その時にモメた相手の組織、それが“時計塔”っていうんだけど、そこがよりにもよって“あの”ジュンイチさん相手に全力で迎撃体制を敷いたもんだからさぁ大変。
 これには、さすがに局の方も動かずにはいられなくなっちゃってね――何しろモメてる片っぽ、ジュンイチさんは別件の仕事で管理局が派遣してたんだから。
 そんなこんなで、結局書類上記録が残っちゃった、ってワケ」
 苦笑まじりにそう答え――そんなアリシアに、マスターコンボイは改めて尋ねた。
「それで……貴様から見て、コイツはどんな男だ?」
「うーん……」
 その問いに、アリシアはしばし考え、
「……えっと……いつもはワガママで、鈍感で、ケンカっ早くて、負けず嫌いで、鈍感で、人をからかうことに命を賭けてて、鈍感で、卑怯者で、鈍感で、すぐに人を怒らせて、わざと空気読まなくて、鈍感で、めんどくさがり屋さんで……」
 再三『鈍感で』が出ている気がするが――なんだかツッコむことに軽い恐怖を覚えた。気を取り直し、マスターコンボイは率直な感想を述べる。
 すなわち――
「最悪な評価だな」
「だって事実だし」
 マスターコンボイにあっさりと答え――アリシアは笑顔で告げた。
「けど……ジュンイチさんは……」
 

「あたし達を、絶対に見捨てないでくれる人」
 

「………………何?」
「さっき言ったみたいにいつもムチャクチャやってる人だけど……気がついたらいつもそばにいてくれる。
 あたし達が危ない時は、それがどんな絶望的な状況でも、絶対に何とかしてくれる……そんな希望を、あたし達にくれる人……」
 一転した評価に思わず眉をひそめるマスターコンボイだったが、アリシアはかまわず穏やかな笑顔でそう答える。
 そして――アリシアは振り向き、マスターコンボイに尋ねた。
「けど、どうしてあたしのところに聞きに来たの?
 スバルなら、あたしなんかよりももっと詳しく知ってるよ?」
「アイツに語らせようものなら、朝から晩までフルマラソンで語りまくるぞ」
「………………否定はしないでおく」
 マスターコンボイの言葉に、アリシアは肩をすくめてそう答え――
〈隊員呼び出しです〉
「…………ん……?」
 突然始まった舎内放送に、マスターコンボイはふと顔を上げた。
〈民間協力トランスフォーマー、マスターメガトロン二等陸尉相当官。
 お見えでしたら、部隊長室までおこしください〉
「オレに…………?」
 思わずマスターコンボイがうめき――そんな彼にアリシアが尋ねた。
「何かした?」
「柾木ジュンイチじゃあるまいし、そんなにしょっちゅう問題は起こさんさ」
「…………その一言に、金輪際反論できそうにないあたしがいるわ……」
 答えるアリシアに対して肩をすくめ、マスターコンボイは呼び出しに応じるべくアナライズルームを後にしたのだった。

 

 


 

第10話

インターミッション
〜見えてくる“敵”〜

 


 

 

5月13日。
 部隊の正式稼動後、初の緊急出動がありました。
 密輸ルートで運び込まれた“古代遺物ロストロギア”、“レリック”をガジェットが発見。輸送中のリニアレールを襲撃。それを阻止し、“レリック”を回収するというのが任務内容。途中、ディセプティコンのブラックアウト、バリケード、レッケージの3名の乱入もありましたが、“コンボイ”を名乗ることを決意、スバルやエリオとのゴッドオンを果たしたマスターメガトロンさん改めマスターコンボイさんをはじめとした六課前線メンバーの活躍もあって無事に解決。
 確保した刻印ナンバー“\”の“レリック”は、現在中央のラボにて保管、調査中。
 『初出動にしてはまず問題ないすべり出しだ』と、部隊長のはやてちゃん、六課の後見人、スターコンボイ、騎士カリムやクロノ提督達も満足されているようです――

 

「……リイン曹長」
《ん…………?
 あ、シャーリー!》
 長々と長文を端末に打ち込んでいたところへ名前を呼ばれ、吏員は自分の元へとやってきたシャリオを見つけて顔をほころばせた。
「ご休憩中ですか?」
《休憩半分、お仕事半分。
 個人的な勤務日誌をつけてたですよー♪》
 シャリオに答えると、リインは端末を片づけるとソファの上に立ち上がり、
《シャーリーは?》
「新しいデバイス達の様子を見に、訓練場の方へ行ってきたんですよ」
《そうですか。
 みんな元気でしたか?》
「はい♪」
 聞き返すリインに対し、シャリオは笑顔でうなずいた。
「フォワード陣もデバイス達も絶好調。
 きっと、今もまだ元気に訓練中だと思いますよ」
 

「オラァッ! いっくぞぉっ!」
「はい!」
 咆哮し、愛鎚グラーフアイゼンをかまえるヴィータに答え、スバルはリボルバーナックルをかまえた。
「でやぁぁぁぁぁっ!」
 咆哮と共に繰り出されるのは戦場では必殺の破壊力を発揮する鉄槌――対し、スバルは素早く相棒の名を呼んだ。
「マッハキャリバー!」
〈Protection!〉
 スバルの声にマッハキャリバーが答えた。リボルバーナックルを中心にプロテクションを展開。ヴィータの一撃を受け止める。
 スバルもマッハキャリバーも、強烈な一撃に対し見事に耐えてみせる――が、彼女達はもちこたえられても地面の方がもたなかった。地面をえぐりながら押し戻され、スバルは背後の木にしたたかに打ちつけてしまう。
「っつー……! いたた……!」
「……フンッ。
 なるほどな」
 右手のしびれに顔をしかめるスバルの前で、ヴィータはひとり納得し、グラーフアイゼンを肩に担いだ。
「やっぱ、バリアの強度自体はそんなに悪くねぇな」
「あ、ありがとうございます……」
 こちらの賛辞に答え、スバルはプロテクションを解き、
「一応……“師匠”との修行時代に防御魔法の強度アップはみっちりさせられたんです」
「…………ジュンイチにか?」
「はい。
 『攻撃のさばき方を教えてる時間はないから、防御力のアップを中心に』って……」
 戻ってくるスバルの言葉に思わず聞き返すヴィータだったが、スバルは平然とそう答える。
 ……いや、その瞳に宿る感情は『平然と』という言葉とは程遠く――
(…………“諦め”か……?)
 聞くな、と本能が告げたが――所詮、知的生命体は好奇心には勝てない生き物だ。内心の動揺を懸命にこらえ、ヴィータは尋ねた。
「……一応、聞くぞ。
 何やらされた?」
「…………実践で攻撃防がされました。
 基本の“炎撃解放”から段階的にレベルアップして……“ギガフレア”系まで」
「……アイツならやるだろうな」
 確信に満ちた口調でヴィータは断言した。
 ――否。断言できた。
 なぜなら――
「……あー、とりあえず……
 …………あたしは“スパイラル”まで耐えたからな」
「……“ストライク”が限界でした……」
 自分も経験者だったから――告げるヴィータの言葉にスバルは思わず苦笑する。
 ヴィータも、そんなスバルの姿に“自分の時”を思い出してため息をつく――結局は自分も“彼”の最強砲撃を止められなかった事実、そして最後には「こんなのなのはだって耐えられるかーっ!」と逆ギレまでした過去を頭の片隅にしまいこみつつ。
 ともあれ、ヴィータは気を取り直し、改めて説明を始めた。
「あたしやお前のポジション――FAはな、敵陣に単身で斬り込んだり、最前線で防衛ラインを守ったりが主な仕事なんだ。
 エリオが担当しているGWやアスカのFGも似たような役回りを持っちゃいるが、攻防両立・やや防御よりなGW、自分は防衛徹底、前線支援専任のFGよりもさらに攻撃的なポジションだ。
 当然、防御スキルと生存能力が高いほど、攻撃時間を長く取れるし、サポート陣にも頼らねぇですむ。特にFGのアスカの負担を大幅に削れる。
 ……って、これは前になのはにも教わったな?」
「はい」
 うなずくスバルに対し、ヴィータは右手にパンツァーヒンダネスを、左手にパンツァーシルトを展開し、
「受け止めるバリア系。
 弾いてそらすシールド系。
 そして、身にまとって自分を守るフィールド系。
 この3種を使いこなしつつ、ポンポン吹っ飛ばされねぇようにな。
 とりあえず、ジュンイチにしごかれた賜物か、下半身の踏ん張りはしっかりしてるから……後はマッハキャリバーの扱いを身につけろ。
 特にグリップ力は前のローラーブーツよりも格段に上がってるから、その辺りの感覚の誤差を早く修正して、必要以上に踏んばり過ぎないようにしねぇとな」
「がんばります!」
 元気なスバルの答えにうなずくと、ヴィータは彼女の眼前にグラーフアイゼンをつきつけ、
「防御ごとつぶす打撃は、あたしの専門分野だからな。
 グラーフアイゼンにブッ叩かれたくなかったら、しっかり守れよ」
「はい!」
 

 そして別の場所では、フェイトとジャックプライムによるエリオ、キャロへの指導が行われていた。
「エリオとキャロは、スバルやヴィータみたいに頑丈じゃないから、反応と回避がまず最重要。
 たとえば――こんな風に」
 言って、フェイトは二人の前で手本を見せた。訓練用のオートスフィアの放った低速の魔力弾を、最小限のステップでかわしてみせる。
「まずは動き回って、狙わせない。
 攻撃が当たる位置に、長居しない――ね?」
『はい!』
 エリオとキャロの返事にうなずくと、フェイトは傍らのジャックプライムに目配せした――それを受けて、ジャックプライムは端末を展開するとオートスフィアへと命令コマンドを打ち込みながら二人に告げる。
「まず、二人には今フェイトの言ったことを、低速で、確実にできるようになってもらう。
 で、それをクリアしたら、少しずつスピードを上げていく……
 最終的には……“このくらい”はできるようになってもらうよ」
 その言葉と同時――命令を受領したオートスフィアが一斉に動き出した。フェイトを狙い、高速で魔力弾を連射する。
 しかし、フェイトには当たらない――なめらかな動きで魔力弾を次々にかわしていく。
「今のフェイトの動きだって、今言った基本の動作を、ほんのちょっとだけ早回ししてるだけなんだよ。
 何でも高速で動く必要なんかない。『基本の動作をしっかり身につけて確実に』――それだけでも案外かわせちゃうもんだよ」
「そうだね。
 むしろ、速くなったからってカンやセンスに頼って動く方が危ない――の!」
 ジャックプライムに付け加え、フェイトは最後に大きく跳躍、見事オートスフィアの攻撃をかわしきってジャックプライムのとなりに着地する。
「高速戦闘の中でこそ、日頃の訓練の量が出てくる。
 どれだけ基礎を固めているか――それが勝敗を大きく左右することになる……」
 言って、フェイトが思い出すのは4年前の任務で知り合ったバトル好きの先輩能力者のこと――正規の訓練を受けていない彼でさえ、“経験”という形で基礎をしっかりと固めていた。独学であろうと正規の訓練を受けていようと、基礎を重んずる点は変わらないのだ。
「GWのエリオは、どの位置からでも攻撃やサポートをしてあげられるように。
 FBのキャロは、素早く動いて、仲間の支援をしてあげられるように。
 確実で、有効な回避アクションの基礎、しっかりと覚えていこう」
『はい!』
 

「――――――っ!」
 自分を狙い、次々に襲いくる魔力スフィア――それらを素早く捉え、ティアナはクロスミラージュで次々に撃ち落としていく。
「うん、いいよ、ティアナ! その調子!」
 一方、スフィアを操っているのはなのはだ――ティアナに告げ、撃ち落とされた分だけ新たなスフィアを作り出す。
 なのはの周囲に浮かぶスフィアはいくつもの色に色分けされている――これを様々な種類の目標やその目標からの攻撃に見立て、想定された状況に即した弾丸を選び、撃ち落とす、というのだ。
「ティアナや私は動き回ってその都度有利な射撃ポジションを確保する機動射撃型じゃない。
 じっくりと腰を落ち着けて狙う精密射撃型――いちいち避けたり受けたりしてたんじゃ、仕事ができないからね!」
「――――――っ!?」
 その言葉と同時――スフィアの機動パターンが変化した。すぐに反応し、ティアナもクロスミラージュに指示を下す。
「バレット! レフトV! ライトRF!」
〈All right.〉
 すぐに迫るスフィアに応じた弾丸を放ち、撃ち落とす――が、別のスフィアが死角から飛び込んできた。迎撃は間に合わず、ティアナはその場を飛びのいてかわすしかない。
「ほら、そうやって動いちゃうと後が続かないよ!」
 言って、なのはは再び死角からティアナを狙い――今度は反応が間に合った。ティアナは素早く狙いを定め、死角に回り込んでいたスフィアを叩き落とす。
「そう、それ!
 足は止めて、視野は広く!」
 そんなティアナに対し、なのはは次々にスフィアを動かすが、ティアナも死角を的確についてくるそれらのスフィアに随時対応していく。
 やがてカートリッジに蓄積されていた魔力が尽きるが――すぐに銃身と一体になったクロスミラージュのマガジンをパージ。本体をホルスターの中に突っ込んでその中に収められていた予備のマガジンをリロードする。
 そして、そんな彼女になのはが問いかける。
「射撃型の真髄は!?」
「あらゆる相手に、正確な弾丸をセレクトして命中させる――判断速度と命中精度!」
「正解!
 チームの中央に立って、誰よりも早く中長距離を制する――それが私とティアナのポジション、CGの役目だよ!」
「はい!」
 

「レッコウ! エレメントカートリッジ、ロード!」
〈Elment-Install!
 “RELAY”!〉

 アスカの言葉にレッコウが答え、エレメントカートリッジをロード。同時、彼女の周囲に多数の魔力スフィアが作り出される。
「はい、準備オッケイ!
 アリシアちゃん、スプラング、いつでもいいよ!」
「うん!」
「おう!」
 アスカの言葉にうなずくと、アリシアとスプラングは彼女に向けてかまえ、
「まずは――オレからだ!」
 先に仕掛けたのはスプラングだ。撃ち放たれた多数の訓練弾がアスカの背後に並べられたターゲットの群れに迫る。
 対し、アスカもレッコウをかまえ、
「レッコウ! 魔法中継!
 ラウンドシールド!」
〈Relay――“Round shield”!〉
 アスカの指示にレッコウが答えると同時、スフィア群がそれぞれ個別にラウンドシールドを展開する。
 彼女の生み出したスフィアは単に攻撃用、防御用というものではない。自身の魔法を中継、遠隔発動させることの出来る“中継リレースフィア”だったのだ。
 そして――
「アンド、オールコントロール!」
〈All control!〉
 アスカとレッコウの操作でスフィア群は一斉に飛翔。ターゲットやアスカ自身を守り、スプラングの訓練弾をことごとく防ぐが――
「自分の守りも――」
「――――――っ!?」
「忘れちゃダメだよ!」
 そこへアリシアが飛び込んできた。放たれたロンギヌスの穂先を、アスカは身をひるがえして回避、そこからさらに反転、横薙ぎに切り替えてきたアリシアの一撃もガードする。
 一瞬の静寂の後、弾き合うかのようにお互いが間合いを取り――二人は同時にかまえを解いた。脇でスピードダイヤル以下リアルギアの3名がパチパチと拍手する中、アリシアはアスカに告げる。
「アスカの担当するFGは防御が命。
 敵の攻撃に直接さらされることになるスバルとエリオを、二人と同じ最前線で守ってあげる――後方からのサポートの目が届かなかったり、対応が間に合わないような状況下でも前線のアタックメンバーが心置きなく、めいいっぱい戦えるように支えてあげるのが仕事だよ」
「かと言って、みんなを守ろうとするあまり自分が墜とされたらお話にならない。みんなを守ることに集中しすぎず、ちゃんと自分のことも守らなきゃいけない――でしょ? なのはちゃんに教わったよ」
 答えるアスカにうなずき、アリシアは続ける。
「FGに求められるのは、前線の子達に迫る危険を確実に察知、掌握する認識能力――周辺視野は広く、他の感覚も研ぎ澄ませて、前線のすべてを感じ取る索敵能力が第一なの。
 高性能センサーを満載して、且つアームドデバイスならではの前線運用を両立できるレッコウは、そーゆー目的とは特に相性がいいんだから」
「わかってるよ」
 そう答えると、アスカはレッコウへと視線を落とし、
「あたしは、まだまだこの子“達”の力をほんのちょっとしか使いきれてない……
 ならせめて、今の段階で出来ることくらいは、しっかり身につけておかなきゃね」
「その意気その意気!
 それじゃ、もう1発いくよ!」
「ドーンと来いっ!」
 アリシアの言葉に気を取り直し、アスカもレッコウをかまえて答え――
「それはいいんだけどなぁ……」
 不意に、そんな彼女達のやり取りに口をはさんできたのは――
「オレ達、いつまでこのままなんだろうな?」
「だなぁ……」
 ガスケットとアームバレットだ。二人は現在、バインドでスマキにされた挙句、ターゲット群の中に放り込まれている。
 対し、そんなガスケット達に対し、アリシアはあっさりと答えた。
「そんなの、訓練が終わるまでに決まってるじゃない。
 こないだのリニアレールでの無断出動の罰なんだから――むしろ、この程度ですんでラッキーじゃない」
「何がラッキーだ!?」
「こんなところで的になるなんて、普通に怒られるよりもタチ悪いんだな!」
「的?」
 しかし、そんな二人の言葉に、アスカは首をかしげた――すぐに思い至り、答える。
「あ、ひょっとして、自分達が狙われてると思ってる?
 大丈夫じょぶジョブ。二人ともターゲットじゃないから」
「え? そ、そうか……?」
 拍子抜けしたように(あるいは安堵したのかもしれないが)ガスケットは息をつき――アスカは続けた。
「だからあたしも守ってあげるつもりは全然ないし。
 安心して、流れ弾の恐怖にさらされてね――でないとオシオキにならないし♪」
「安心できるかぁっ!
 っつーか、このオシオキ考えたのぜってーお前らだろぉっ!」
 バインドで拘束されたまま、ガスケットは何とかその場から逃れようともがき始める。アームバレットもそれにならい、2体の巨大なミノムシが無様に跳ね回るのをスッパリと無視し、アスカ、アリシア、スプラングの3人はそれぞれにかまえ――
 

 結局。

 ガスケットは3発、アームバレットは5発被弾した。

 

 

「いやー、やってますなー」
 そんな彼らの訓練の様子を見学用の待機所でモニターし、ヴァイスは軽いノリでそうつぶやき、
「初出動がいい刺激になったようだな」
 そのとなりでうなずき、同意するのはシグナムだ。
「いいっスねー、若い連中は」
「若いだけあって成長も速い」
 答え、シグナムはモニターの中のスバル達へと視線を向け、
「もっとも、まだ当分は危なっかしいだろうがな」
「そう思うんなら、シグナム姐さんも稽古をつけてきてやればいいじゃないっすか。
 なんで参加しないんで?」
「私は古い騎士だからな。
 スバルやエリオのように、ミッド式と混じった近代ベルカ式の使い手とは勝手が違うし、剣を振るうしかない私が、バックス型のティアナやキャロに教えてやれることもない」
「アスカはどうなんスか?」
「あまりに変則的すぎてどうしようもない」
 あっさりとシグナムは白旗を揚げた。
「彼女のスタイルは近接戦は“純体術とレッコウのエレメントカートリッジによる属性付加エンチャント”、中距離以上の距離は“ミッド式による間接攻撃専門”、という具合に技法が完全に分化している、極めて特殊なタイプのオールラウンダーだ。
 近接戦だけならば私も教えてやれないこともないが、同時に中長距離もバランスよくこなさなければならない、となると、私ではあまりにも無力だ。おそらくはなのはも難しいだろう。
 私の知る限り、それができるのは……文字通り『何でもアリ』を体現した“あの男”しかいまい」
「スバルの“師匠”殿ですか……
 柾木ジュンイチ――でしたっけ?」
 シグナムの言葉に、ヴァイスは苦笑まじりに肩をすくめた。彼のそのつぶやきにうなずき、シグナムもまた苦笑し、続ける。
「そして何より、私は人に物を教えるというタイプではない――戦法など、『届く距離まで近づいて斬れ』ぐらいしか言えん」
「ハハハ……それもすげぇ奥義ではあるんですけどね……」
 苦笑するヴァイスに笑みを返すと、シグナムは映像へと視線を戻した。
(それにしても……)
 その胸中によぎるのは、剣に、そしてそれを振るう自らの技術にすべてを預ける騎士だからこそ気づけた違和感――
(スバルとティアナ、この二人の動きのクセが似通っているのはわかる。
 訓練校時代からの腐れ縁らしいからな……同じ訓練を積んでいたんだ。個癖による微妙な差異を除けば、どうしても動きは似てくる。
 しかし……“アスカまで同じクセを持っている”のはどういうことだ……?)
 考えられる理由はいくつかあるが――そんなことをシグナムが考えていると、不意にヴァイスが口を開いた。
「そういえば、姐さん。
 マスターメガトロン……じゃなかった。マスターコンボイの旦那は、やっぱボイコットっスか?」
「いや、違う」
 あっさりと否定し、シグナムは告げた。
「セイバートロン星――」
 

「サイバトロン本部からの呼び出しだ」

 

「まずは、コンボイ襲名おめでとう、と言ったところか」
「フンッ」
 セイバートロン・サイバトロン本部、総司令官室――デスクに座り、告げるスターコンボイの言葉に、マスターコンボイは軽くそっぽを向いてソファに腰かけた。
「そんな世間話をするためにオレを呼んだワケじゃあるまい?
 さっさと用件を言え」
「別に世間話をするつもりはないさ。
 ちゃんと本題に関係する話だ」
 ぶっきらぼうに告げるマスターコンボイに苦笑すると、スターコンボイはそう答え、続けた。
「オレも、貴様も、今やそれぞれにコンボイを名乗る立場となった。
 だが……共にセイバートロン星の生まれで元デストロン。
 その上名前も一字違い……なかなかにややこしいと思わないか?」
「フンッ、何だ? まさかオレにコンボイの名を返上しろとでも言うつもりか?」
「安心しろ。そんなつもりはないさ」
 視線を鋭くし、にらみつけるマスターコンボイだったが、対するスターコンボイはあっさりとそう答える。
「コンボイを辞するのは――」
 

「オレの方だ」
 

「え………………?」
 告げられた意外な一言に、マスターコンボイは思わず目を丸くして――その瞬間、パシャリッ、とシャッター音が響いた。
 その音の発生源、それは――
「…………ふむ、いい顔が撮れたな」
「って、ちょっと待て!」
 つぶやき、撮影用のカメラ型端末(カメラアイを持つトランスフォーマーといえど、画像に携帯性を求める場合は外部端末を使用するのが一般的である)の画像を確認するスターコンボイに、撮影された当人であるマスターコンボイは思わず声を上げた。
「なんでそこで写真撮影になる!?」
「八神はやての依頼だ」
 あっさりとスターコンボイは答えた。
「指示通りに話を誘導し、貴様がするであろうマヌケ面を写真に収めろ、とな」
「あのプチダヌキが……!
 今すぐ消せ! その画像を!」
「かまわんぞ。
 すでに送信した後だからな」
「…………八神はやて……戻ったら覚えていろ……!」
 帰ってからの報復を固く心に誓い、マスターコンボイは拳を握りしめてそううめく。
「貴様も貴様だ。
 あの女の下らん茶番に付き合いおって。冗談にしてもタチが悪いぞ」
 まぁ、ここで怒っていても仕方がない。ため息をつき、スターコンボイをたしなめるマスターコンボイだったが――
「冗談? それこそ心外だな」
 対し、スターコンボイはそんなマスターコンボイに対し余裕の態度でそう答えた。
「オレがコンボイを辞したのは事実だ。
 八神はやてはそこに便乗してネタを持ち込んだにすぎん」
「何?
 では、本気でコンボイの名を返上したのか?」
「あぁ」
 眉をひそめるマスターコンボイに答え、スターコンボイは苦笑まじりに肩をすくめた。
「プライマスの承認によってコンボイを名乗ることを許されたとはいえ、オレの現在の地位はほとんどタナボタで手に入れたようなものだ。
 かつてのギャラクシーコンボイや、実力でギガトロンを倒して破壊大帝の座についた貴様とは違う――オレは、貴様らのように周りを納得させるだけのものを持って今の地位についたワケじゃないんだ」
「だからコンボイを辞する、か?」
「あぁ」
 マスターコンボイに答え、スターコンボイは息をつき、
「この10年、セイバートロン星をまとめてきたが……正直な話、まだまだ未熟を痛感させられる。
 名前負けというのはオレのプライドが許さんからな――“コンボイ”の名を返上し、一から修行し直しだ」
「力不足だと思っていたのなら、さっさと“コンボイ”の名を返上してしまえばよかったものを。
 だいたい、それがオレを呼び出したことと何の関係が――」
 言いかけ――ふとある可能性がマスターコンボイの脳裏をよぎった。
「おい……まさか、貴様!?」
「その『まさか』だ」
 あっさりとスターコンボイは認めた。マスターコンボイと正対、姿勢を正し、告げる。
「マスターコンボイ。
 現セイバートロン・トランスフォーマー総司令官代行として正式に要請する。
 お前に、総司令官代行の座についてもらいたい」
「…………本気か?」
「コンボイを辞してまで推すんだ。本気に決まっているだろう。
 もちろん、機動六課に身を置いたままでかまわない。その辺りについては、出向という形に落ち着けるよう、ザラックコンボイや八神はやてとも調整を進めている」
「なるほどな……
 あのチンクシャダヌキ……! ふざけてるのかマジメなのかどっちなんだ……!?」
 答えるスターコンボイの言葉に、マスターコンボイは思わずうめいて頭を抱える。
 だが、そんなマスターコンボイに対し、スターコンボイはあくまでもマジメに続けた。
「マスターコンボイ……お前が組織というものを堅苦しく感じ、嫌っていることは重々承知だ。
 昔と違い、かつての自分の行いに対して……特に高町なのはに対して負い目を感じていることも。
 だが――その上で、オレはやはり貴様しかいないと思っている。
 オレのような間に合わせの“コンボイ”ではない――真に相応しい力を持ち、さらに“守ること”を知った貴様にしか、本当の意味でギャラクシーコンボイの抜けた穴を埋めることはできない。
 総司令官代行の地位には貴様がつくべきなんだ、マスターコンボイ」
「………………」
 その言葉に、マスターコンボイは息をつき――
「……本音を聞こうか」
「何………………?」
「オレを甘く見るなよ、スターコンボイ――いや、“コンボイ”の名を返上したのならスタースクリームか。
 貴様が名前負けした程度でその名を返上するようなタマか。むしろその名に恥じぬよう全力で悪あがきに徹するだろうが。
 『力不足』云々は、オレの就任に対し、オレの過去の行いから難色を示すであろう連中を納得させるための大義名分と見たが――違うか?」
 尋ねるマスターコンボイの言葉に、スターコンボイ改めスタースクリームは苦虫をかみつぶしたように顔をしかめてみせる。
 そして、それはマスターコンボイの推理の的中を何よりも雄弁に物語っており――
「……やはり、貴様にごまかしは効かんか」
 肩をすくめ、スタースクリームは降参を示した。
「貴様の読んだ通り、オレの語った理由は単なる建前だ。
 今回の話には、多分に政治的な意味がある――イヤな話だがな」
 最後に付け加えられたのは紛れもない本音なのだろう――ため息をつき、スタースクリームはマスターコンボイに告げた。
「詳しくは話せんが、機動六課の設立は管理局だけでなく、この世界そのものに対しても大きな意味を持つ――だからこそ、クロノ・ハラオウンやカリム・グラシアら管理局に名を連ねる者達だけでなく、オレやザラックコンボイも後見人に名を連ねている。
 だが――それゆえに、管理局上層部の保守派に対しては快く思われていないのもまた事実だ」
「なるほど、それでオレの出番か。
 セイバートロン星の総司令官が直接部隊に参加しているとなれば、その政治的影響力は計り知れない。
 外部からの政治的影響力を強めることで、管理局保守派からの圧力の排除を試みようというワケか」
「そうだ」
 納得し、つぶやくマスターコンボイの言葉に、スタースクリームは淡々とうなずいた。
「機動六課には志半ばで倒れてもらうワケにはいかない。
 オレなりザラックコンボイなりが直接乗り込めればいいんだが……それぞれ簡単に身動きの取れる立場じゃない。
 だからこそ、この役目をお前に託したいんだ」
「ふむ…………」
 スタースクリームの言葉に、マスターコンボイは腕組みをして考え込む。
(そういえば……カリム・グラシアも同じようなことを言っていたな……)
 『“レリック事件”も“その後に起こるはずの事件”も、対処を失敗するワケにはいかない』――そう語ったカリムの言葉が脳裏によみがえる。
(なるほど。
 “その時”が来るまで、何が何でも六課を守りきる――そのために、手段は選ばんというワケか)
「引き受けてくれないか? マスターコンボイ」
 改めて尋ねるスタースクリームに対し、マスターコンボイは――

 

「…………お断りだ」

 

 ハッキリと拒否を示した。
「マスターコンボイ!」
「“そのため”にせっかく手に入れた“コンボイ”の名を返上し、さらにかつて対立したオレにまで頭を下げる――貴様の“本気”はよくわかった。
 だが、それと話に乗るかは別問題だ」
 声を上げるスタースクリームに対し、マスターコンボイはそう答えて立ち上がり、
「悪いが、オレはその話に乗るつもりはない。
 ビッグコンボイなりスターセイバーなり、他をあたるんだな」
「ま、待て、マスターコンボイ!」
 話は終わりだ、とばかりに立ち去ろうとするマスターコンボイのその態度に、スタースクリームはあわてて制止の声を上げる。
 しかし、マスターコンボイは面倒くさそうに振り向き、
「心配しなくても、六課は守る。
 そっちはそっちで動けばいい――“コンボイ”を再び名乗ろうが、こっちに人を送り込んでこようが好きにしろ」
 そう告げるマスターコンボイの言葉に迷いはない――彼の“本気”を感じ取り、説得はムリだと悟ったスタースクリームは息をつき、
「…………せめて、理由くらいは教えてくれてもいいんじゃないのか?」
「簡単な話だ」
 マスターコンボイはまたしても迷いなく答えた。
「オレが“セイバートロン星のコンボイ”になったら――」

 

“機動六課のコンボイ”じゃなくなるだろうが」

 

 

「はーい、じゃあ、午前の訓練終了!」
 午前のメニューを一通り終え、全員集合――告げるなのはの言葉に、スバル達は思わずその場にへたり込んだ。
 スバルも、ティアナも、エリオも、キャロも、皆一様に大きく肩で呼吸し、懸命に酸素を肺へと送り込んでいる――アスカも4人よりは余裕を残しているものの、それでも疲労を隠し切れずにいる。
「お疲れ。
 個別スキルに入ると、ちょっとキツイでしょ」
「ち、ちょっとと言うか……」
「その、かなり……」
 労うなのはにティアナとエリオが答えると、キャロはアスカへと視線を向け、
「アスカさんは、大丈夫なんですか……?」
「『大丈夫』とはいえないけど……それなりに、意地があるからね。
 せめて、スタミナくらいはみんなに勝っときたいもん……最年長として
 キャロに答え――最後の一言でアスカのテンションが急降下。落ち込むくらいなら最初から言わなければいいのに、と思うティアナだったが、あいにくフォローもツッコミもできる状態ではない。
「フェイト隊長やアリシア隊長は忙しいからそうしょっちゅう付き合えねぇけど、あたしは当分、お前らに付き合ってやっからな」
「あ、アハハ……ありがとうございます……」
 笑顔でグラーフアイゼンを突きつけ、告げるヴィータの言葉にスバルが乾いた笑いを返すと、フェイトは新人達に告げる。
「それから、ライトニングの二人は特にだけど、スターズの二人も、まだまだ身体が成長してる最中なんだから、くれぐれもムチャはしないように」
『はい!』
 フェイトの言葉にスバル達がうなずき――なのはが笑顔で締めくくった。
「それじゃあ……お昼にしよっか?」
 

「あ、みんな、お疲れさんやね」
 昼食をとろうと隊舎に戻ってきたなのは達を出迎えたのははやてだ――ちょうど出かけるところだったのか、リインと共に車中からなのは達に声をかける。
「はやてとリインは外回り?」
《はいです、ヴィータちゃん!》
 尋ねるヴィータにリインが答えると、はやてもうなずき、付け加える。
「うん。
 ちょう、ナカジマ三佐とお話してくるよ」
「え………………?」
 はやての言葉に、スバルがわずかに反応する――そんな彼女の変化を見逃さず、はやてはスバルに尋ねる。
「スバル――お父さんとかお姉ちゃんとかに、何か伝言とかあるか?」
「あ、いえ……大丈夫です」
 スバルがそう答えると、となりで聞いていたアスカは何かに気づいたようだ。ふと首をかしげ、
「…………あれ?
 はやてちゃん、『お父さんとかお姉ちゃんとかに』って……“お義兄ちゃん”は?」
「あぁ、“師匠”?
 実は今、“師匠”、部隊の方にいないみたいだから……」
「せやね」
 スバルの言葉にはやてがうなずくのを見て――なのははなんとなく確信した。
「…………はやてちゃん……
 ひょっとして……ホッとしてる?」
「………………うん」
 苦笑まじりに、はやてはうなずいた。
「あの人がおるところにノコノコ出てったら、オモチャにされてまうのがオチやし」
「あ、アハハハハ……」
 本当に自分の義兄は彼女に何をしたのだろうか――何とも表現しがたい微妙な表情でつぶやくはやての姿に、スバルはただ乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
 

「なるほど。
 スバルさんのお父さんとお姉さんも、陸士部隊の方なんですね……」
「うん。
 八神部隊長とは“擬装の一族ディスガイザー事件”の時からの知り合いだったんだって――なんでも一時期、父さんの部隊で研修して、その時に“師匠”にもいろいろ教えてもらったみたい」
「まぁ、あの様子を見る限り、トラウマも一緒に植えつけられちゃったっぽいけどね」
 なのは達隊長格と別れ、新人達は偶然顔を合わせたシャリオと昼食――つぶやくキャロに、スバルはスパゲッティを頬張りながらそう答え、アスカもまた苦笑まじりに付け加える。
「スバルさんの“お師匠様”……“お義兄ちゃん”ですか? その人は陸士部隊の人じゃないんですか?」
「そうだよ。
 “師匠”はもっぱら、知り合いのいる部隊と個人的に仲良くしてるだけ」
 尋ねるエリオにも、スバルはあっさりとそう答え、
「そもそも、“師匠”って魔導師じゃないし……だから、局への魔導師登録もしてないし、魔導師ランクだって持ってないんだよ」
「あー、そういえば、前にそんなコト言ってたわね?
 確か、魔力以外にも人間が持ってる“力”を軒並み引き出して使うんだっけ?」
「うん」
 思い出したように口をはさむティアナにうなずくと、スバルは指折り数えながら説明する。
「肉体に宿る生命エネルギー“気”。
 魂そのものに宿る力“霊力”。
 そして、あたし達も使ってる“魔力”。
 この三つの“力”を引き出して、ひとつにまとめた“力”が――」
「“精霊力”……だよね? 確か」
 そうスバルに確認をとったのはシャリオだ。
「知ってるんですか?」
「前に、同系の能力の人と任務で一緒になったことがあるの。
 その人は、どっちかって言うと『突っ込んで斬る!』ってタイプの人だったけど」
「あー、たぶんブレードさんだ……」
「そう、その人」
 ティアナに答えたシャリオの言葉に、思い当たったスバルがつぶやき、シャリオもまたうなずいてみせる。
「しっかし、スバルの“師匠”のことといい、ウチの部隊って関係者つながり多いですよね……
 隊長達も、幼馴染同士なんでしたっけ」
「そうだよ。
 なのはさんと八神部隊長は同じ世界の出身で、フェイトさんとアリシアさんも、子供の頃はその世界で暮らしてたとか」
「“師匠”も一時期滞在してたよ――なのはさん達とは会わなかったみたいだけど」
 つぶやくティアナにシャリオが答えると、すかさずスバルが口をはさむ――からめる話題と見るや迷わず“師匠”の名を持ってくる辺りは“師匠/なのは党”(ティアナ命名)のスバルらしいが。
「えっと……確か、管理外世界の97番……」
「そ」
 つぶやくエリオにシャリオが答えると、ティアナがスバルへと向き直り、
「確か、スバルのご先祖様も……」
「うん。
 前に父さんが言ってた――父さんの先祖もその世界の出身なんだって」
「そういえば、名前の響きとか、何となく似てますよね、なのはさん達と」
 キャロがそう納得すると、エリオがスバルに尋ねる。
「じゃあ、“お師匠様”はどこの世界の出身なんですか?
 ウワサとか聞く限りはミッド生まれって感じじゃないし、今の話だとなのはさん達の世界とも違うみたいだし……」
「管理外の108番だって。
 “師匠”が言うには、なのはさん達の世界とよく似てるらしいよ――あたしは“師匠”の実家にしか行ったことないから、比べようがないんだけどね」
「108番……?」
 と、エリオに答えたスバルの言葉にキャロが反応した。アスカに視線を向け、尋ねる。
「108番、って、確かアスカさんも……」
「………………?
 ……あー、そーいえばキャロちゃん以外には言ってなかったっけ?」
 キャロの言葉に「やっちゃったよ」的な顔でつぶやき、アスカはポンと手を叩いた。不思議そうな顔をしているスバル達に対し、気まずそうに頭をかきながら告げる。
「えっと……今さらだけど、自己紹介に項目ひとつ追加。
 アスカ・アサギ――ただ今スバルの口から話題に上りました、第108管理外世界の生まれだったりします」
「そ、そうなんですか?」
「実はそーなの。
 いやー、キャロちゃんには言ってあったから、みんなにも教えてたつもりですっかり忘れてたよ、アハハ……」
 驚きの声を上げるスバルにそう答え――アスカは苦し紛れにライトニングの二人に話題を振った。
「そ、そーいえば、キャロちゃんの生まれは第6管理世界のアルザスだったよね?
 じゃあエリオくんは?」
「あぁ、ボクは本局育ちなんです」
 答えるエリオの言葉に、ティアナとキャロは「あ……」と顔を見合わせる――が、テンパっているアスカは気づかないままに問いを重ねてしまう。
「管理局本局?
 住宅エリア、ってコト?」
「本局の、特別保護施設育ちなんです。
 8歳まで、そこにいました」
「………………あ゛」
 その言葉で、さすがにアスカも気づいた。自らの掘ってしまった墓穴を前に動きが止まる。
「ご、ゴメン……
 なんかもマズイコト聞いちゃった?」
「あ、あの……気にしないでください」
 あわてて謝るアスカだが、エリオはなだめるようにそう答え、
「優しくしてもらってましたし……ぜんぜん普通に、幸せに暮らしてましたんで。
 それに……確かに、ボク自身も一時期気にしていたこともありましたけど……そのせいで、叱られちゃったことがあるんです」
「『叱られた』、って……フェイトさんに?」
「あ、いえ……
 フェイトさんとは、別の人に」
 尋ねるシャリオに答え、エリオは苦笑まじりに肩をすくめ、
「その人に言われたんです。
 『程度は違っても、みんなそれぞれ不幸な出来事と向き合って生きてるんだから、自分だけが不幸だなんて顔をするな』って」
「そうなんだ……」
 エリオの言葉に納得すると、スバルはふと首をかしげ、
「なんか、ウチの“師匠”が言いそうなパワフル理論だよねぇ、それ」
「言われてみれば……
 案外、同一人物だったりして」
「アハハ、まっさかー! いくら何でもそんな偶然ナイナイ!」
 エリオの言葉に、スバルは笑いながら手をパタパタと振ってみせる。
「“師匠”、来る人は拒まないけど自分から人に関わることなんかしない人だもん。
 ホントに“師匠”だったらアイスをたっぷりおごってあげる! そんなこと賭けてもいいくらいありえないよ」
「へー、そこまで言うんだ。
 だったらあたしは“同一人物説”に1票!
 負けたらアイスおごってあげるよ、スバル♪」
「ふふん、じゃあ、その時を楽しみにしてますねー♪」
 便乗してくるアスカに対し、スバルは笑顔で答える――すっかり明るさを取り戻した空気の中、エリオは柔らかく笑みを浮かべ、
「その人とは、その叱られた時に会ったきりなんですけど……フェイトさんと同じように、すごく感謝してるんです。
 フェイトさんも、引き取ってもらってからずっと、いろいろと良くしてもらってて……魔法も、ボクが勉強を始めてからは時々教えてもらってて……本当に、いつも優しくしてくれて……ボクは今も、フェイトさんに育ててもらってる、って思ってます。
 フェイトさん、子供の頃に家庭のことでちょっとだけ寂しい思いをしたことがあるって……だから、寂しい子供や、悲しい子供のことを、放っておけないんだそうです。
 『自分も、優しくて、暖かい手に救ってもらったから』って……」
「うん……
 なんか、わかるな、その気持ち……」
 エリオの言葉に、スバルもまた優しげに微笑んでそう答える。
「あたしも……家庭のこと、っていうのとはちょっと違ったけど……“師匠”にはすごく助けてもらったから……
 それに……なのはさんにも」
 言って、スバルは食堂の窓の向こうに見える青空へと視線を向けた。
「……いつか、なりたいね。
 なのはさんや、フェイトさんや……“師匠”みたいな、優しくて、強い人に……」
 

「新部隊、なかなか調子良いみたいじゃねぇか」
 陸士108部隊、隊長室――ソファに腰掛け、ゲンヤ・ナカジマははやてに対してそう切り出した。
「そうですね……今のところは」
 言って、はやてもまたソファに腰を下ろし――そんな彼女にゲンヤが尋ねた。
「しかし、今日はどうした?
 古巣の様子見にわざわざ来るほど、ヒマな身でもねぇだろうに」
「フフフ、愛弟子から恩師への、ちょっとしたお願いです♪」
 笑いながらはやてが答えた、ちょうどその時、隊長室に来客を知らせるブザーが響いた。
「どうぞー」
「失礼します」
 ゲンヤが入室を許可し、開いた扉の向こうから姿を現したのは――
「ギンガ!」
「八神二佐! お久しぶりです!」
 思わず声を上げたはやてに対し、ギンガは笑顔で一礼する。
「おぅ、どうした?」
 一方、用件を尋ねるゲンヤだったが、そんな彼にもギンガは笑顔で答えた。
「はい……
 “おばさま”が差し入れを持ってきてくださっt――」
「おじゃましまーす♪」
 しかし、ギンガがその先を告げることはできなかった――そんな彼女を押しのけ、“来客”が隊長室に飛び込んできたからだ。
 その顔ははやてもよく知る相手――思わず腰を浮かし、声を上げる。
「霞澄さん!
 お久しぶりです!」
「あれ、はやてちゃん!?
 わー、久しぶり! 元気にしてる!?」
 一礼するはやてに答えるのは、108部隊と懇意にしている民間協力者、柾木霞澄――『少女』と言っても差し支えないような見た目だが、コレでも立派な二児の母。何を隠そう、そのウワサだけで機動六課を度々震撼させている“師匠”こと柾木ジュンイチの実の母親なのである。
 ゲンヤとは親友のような間柄であり、はやてとは彼と同じく“擬装の一族ディスガイザー事件”からの付き合いである。
「ゲンちゃんから聞いてるわよ。
 新設された部隊の隊長さんになったんだって?」
「はい……
 まだまだ慣れないことばかりですけど、何とかがんばってます」
 霞澄にそう答えると、はやては逆に霞澄に尋ねた。
「それで……霞澄さんは?
 さっきギンガが差し入れがどうとか……」
「うん、コレ♪」
 はやてに答え、霞澄は手にした包みを差し出した。
「霞澄ちゃん特製、豆大福!
 せっかくだから、はやてちゃんもどうぞ♪」

「お願いしたいんは、密輸物のルート調査なんです」
 ゲンヤに豆大福を渡すと、霞澄は早々に退室――ギンガとリインもその後に続き、二人きりになった隊長室で、はやてはゲンヤに対し本日の用件、その本題を告げた。
「お前んトコで扱ってる“古代遺物ロストロギア”か。
 確か……“レリック”とか言ったか?」
「はい……
 それが通る可能性の高いルートがいくつかあるんです。詳しくはリインがデータを持ってきてますので、後でお渡ししますが……」
「……ふーん……」
 はやての言葉に、ゲンヤはしばし考え、
「…………ま、ウチの捜査部を使ってもらうのはかまわないぜ。
 密輸調査はウチの管轄のひとつだし、ジュンイチや、その師匠である霞澄にしごかれたウチの捜査部は、言っちゃ何だが粒ぞろいだからな。
 だが……」
 と、そこでゲンヤは眉をひそめ、はやてに尋ねる。
「八神よ、他の機動部隊や本局の捜査部じゃなくて、わざわざウチに来たのは、何か理由があるのか?」
「密輸ルートの捜査自体は、彼らにも依頼してるんですが、地上のことは、やっぱり地上部隊が一番よく知ってますから。
 それに……最近、“レリック”の出現頻度がこちらの予測を超える勢いで高くなってきてるんです。
 シグナムもこの流れには人為的な介入があると見てますし……一刻も早い原因の究明のためにも、人手は多い方が、そして優秀な方がえぇですから」
 そう答えるはやてだったが――
「…………フム。
 ま、“一応”筋は通ってるな」
 そのゲンヤの言葉は、言外に「まだ理由があるんだろう?」と告げていた――さすがに一筋縄では行かないかと、はやては思わずヒザの上の拳を握りしめ――
「…………いいだろう、引き受けた」
 はやてが口を開くよりも早く、ゲンヤは彼女にそう告げた。
「捜査主任はカルタスで、ギンガはその副官だ。
 二人とも知った顔だし、ギンガなら、お前も使いやすいだろ」
「はい。
 ウチの方は、テスタロッサ・高町一尉が捜査主任になりますから、ギンガもやりやすいんじゃないかと」
 あっさりと追及の手を引っ込めたゲンヤの思惑は気になったが、ともかくはやてはゲンヤに機動六課こちらの捜査体制を説明する。
「他にも、手がいるようなら何人かつけてやるぞ。
 ……ま、霞澄に関しちゃ自分で交渉してもらうがな――アイツぁオレの部下ってワケじゃねぇし」
「あ、いえ、霞澄さんは……」
 付け加えるゲンヤに対し、はやてはパタパタと手を振ってそう答える。
「何だ、アイツじゃ不満か?」
「いえ、そういうことじゃなくて……
 霞澄さんを勝手にお借りしたら、龍牙のおじ様に怒られちゃいそうですし……」
 ゲンヤにそう答えると、はやては思わず視線をそらし、
「セットで、ジュンイチさんまで追っかけてきそうで……」
「…………相変わらず、アイツのことは苦手なんだな……」
 

「そうですか、フェイトさんが……」
《はいです♪》
 一方、こちらは談話室――霞澄と共にテーブルを囲み、つぶやくギンガにリインが答える。
「フェイト……って、あの空港火災でギンガを助けたっていう、アリシアちゃんの妹さんだよね?
 確か、はやてちゃんとも幼馴染なんだって?」
《そうですよー♪
 六課の捜査主任ですから、ギンガは一緒に捜査にあたってもらうことになるかもですよ》
「これはすごくがんばらないといけませんね!」
 霞澄に答えるリインの言葉に気合が入ったようだ。拳を握りしめ、ギンガがつぶやく。
 そんなギンガの姿に、リインはうなずき、続ける。
《それから、捜査協力にあたって、六課からギンガに、デバイスを1基プレゼントするですよ!》
「デバイスを?」
《スバル用に作ったのと同型機で、ちゃんとギンガ用に調整するです!》
 思わず聞き返すギンガだったが、リインは笑顔でそう答える。
「それは、あの……すごくうれしいんですけど……いいんでしょうか……?」
「いいんじゃないの?
 『くれる』って言ってるんだから、もらっちゃえば」
 一方、恐縮するギンガに答えるのは霞澄だ。
「せっかく『ギンガのために』って作ってもらったのに、そのギンガが使ってくれないんじゃ、デバイスの子がかわいそうだよ」
《霞澄ちゃんの言う通りですー♪
 フェイトさんと一緒に走り回れるように、立派な機体にするですよ♪》
「……はい。
 ありがとうございます、リイン曹長」
 霞澄とリインの言葉に、気を取り直したギンガは笑顔でうなずき――
「――っと、そうそう。
 ねぇ、リイン」
 ふと思い立ち、霞澄はリインに尋ねた。
「レッコウの調子はどう?
 シャリオちゃんから何か聞いてる?」
《バッチリ、絶好調ですよー♪
 ……けど、なんで霞澄ちゃんがレッコウのことを知ってるですか?》
「知ってるも何も……」
 聞き返すリインに対し、霞澄はクスリと笑みを浮かべ、
「何を隠そう、レッコウのメインフレームを設計したのは、この霞澄ちゃんだったりするんだから♪」
《そうなんですか?》
「そーなんですよ♪」
 リインの声真似と共にそう答え、霞澄は笑顔で胸を張り、
「レッコウは私の最高傑作のひとり!
 デバイスとしての出来は、シグちゃん達のレヴァちゃん達にだって負けないんだから♪」
《むむっ!
 リインやレヴァンティン達だって負けてないですー♪》
 霞澄の言葉に、リインがぷうと頬を膨らませて、それでもどこか楽しそうに反論する――そんな二人の仲の良いやり取りに、ギンガはクスリと笑みを浮かべた。
 

「一本取られた、って顔だね、スタースクリーム」
「……フィアッセか」
 セイバートロン・サイバトロン本部屋上――夕焼け空を見上げていたところに声をかけられ、スタースクリームは現れたフィアッセへと振り向いた。
「こっちはヤツを引き入れるために“コンボイ”の名まで返上したというのに、迷うことなく話を蹴ってくれたよ」
「……その割には、ちっとも悔しそうには見えないけど?」
「まぁな」
 フィアッセの言葉に、スタースクリームは苦笑まじりに肩をすくめた。
「“機動六課のコンボイ”――ヤツはハッキリと自分のことをそう示した。
 ヤツが守りたいのはセイバートロン星でもこの宇宙でもない――自分を受け入れてくれた、あの機動六課の連中だけらしい。
 “支配すること”が“守ること”に変わっただけで、自分中心に目的を定めるところは相変わらずだが……“守りたいもの”を『守る』と言い切れるそのまっすぐさは、少しうらやましくはある」
 言って、スタースクリームは傍らのフィアッセへと視線を落とした。
 かつては自分もそうだった――10年前、自分はフィアッセと出会い、彼女を守るために戦った。当時のことを思い出し、気づかぬ内に頬が緩む。
「まぁ、ヤツ自身が『守る』と言ってるんだ。六課についてはヤツのお手並み拝見といこうか」
 だが、そんな心中を見透かされるのも照れくさい――ごまかすように告げると、スタースクリームはぷいと視線をそらした。
 

「…………どう? アリシアちゃん」
「……たぶん、はやてやシャーリーの見立て通りだね」
 表示されているのは、先の出動の時のマスターコンボイとスバル、エリオとのゴッドオンとその後の戦闘の光景――午後の訓練を休んでデータ分析に従事し、尋ねるアスカにアリシアはそう答えた。
「まぁ、無意識の対応だと思うけど……マスターコンボイはスバルとゴッドオンする時とエリオとゴッドオンする時とで、自分のボディのトランステクターとしてのセッティングを調整してる。
 世界唯一の“生命を持つトランステクター”の、マスターコンボイだからこそできる芸当だね。
 それから――」
 言って、アリシアは画面を切り替え、戦闘シーンのみを表示した。
「スバルがゴッドオンしてる時は“風”、エリオがゴッドオンしている時は“雷”――ゴッドオン中は、ゴッドマスターの持ってる力――この場合は二人の魔法だね。その属性が強く反映されてるみたい。
 ゴッドオン中、マスターコンボイのボディカラーが変わってるのも、ボディを二人の魔力が循環した結果、魔力が装甲の表層を循環してる部分がその“力”に反応して変色したんだと思う。
 最近の仮面ライダーっぽく言うなら、スバルとのゴッドオン時は“ウィンドフォーム”。エリオとのゴッドオン時は“サンダーフォーム”ってところかな?」
「なるほど……
 ってことは、戦況に応じて、二人のゴッドオンの特性を上手く使い分ければいろんな状況にも対応できるし、戦術の幅も大きく広がるね」
「そういうこと。
 にしても……」
 アスカの言葉にうなずくと、アリシアは息をつき――胸中で続ける。
(けど……まさか、“ホントに”エリオくんまでゴッドマスターに覚醒するなんて……
 だとしたら、やっぱりティアやキャロにも可能性がある……?
 けど……そうだとしたら……)

(4人がゴッドマスターになりえることを……“あの人”は最初から知ってた……?)

 

「…………あん?
 何見てんだよ、ジャックプライム?」
 オフィスに入るなり、目に入ったのは真剣な顔でウィンドウ画面をのぞき込むジャックプライムの姿――首をかしげ、ガスケットはアームバレットと顔を見合わせた後にそう答えた。
「アニメでも見てんのか?」
「むむっ、失礼な!
 今日はそんなの見てないよ!」
「今日“は”って……」
 となりのデスクからシグナルランサーの声が上がるがとりあえず無視だ。
「ほら、これ!」
 ともかく、ジャックプライムはガスケット達に自分の見ていた映像を転送した。表示された映像をガスケットがのぞき込み、
「これ……例の、地球でノイズメイズ達を蹴散らしたって言う?」
「そう。そのトランスフォーマーのみなさん」
 ガスケットに答え、ジャックプライムは自分のウィンドウに映る、青色のボディの大型トランスフォーマーへと視線を向けた。
「この子達……ノイズメイズ達と戦う一方で、最近はガジェット達にもちょっかいを出してるみたいなんだよ。
 この間は“レリック”を狙って動いてたらしいガジェットの部隊を迎撃してるし……他にも、ガジェットの隠し工場を何件もツブしてる」
「ガジェット達も敵と見なしてるんだな……?」
 アームバレットがそうつぶやく傍らで、ガスケットは首をかしげ、ジャックプライムに尋ねた。
「けどよぉ、なんでそいつら、そんな隠し工場のことなんか知ってやがったんだ?
 お前らだって見つけてなかったんだろ?」
「当たり前だよ。知ってたらすぐにでも裏づけとって突撃してるよ、ボクもフェイトも」
 ガスケットに答え、ジャックプライムは肩をすくめてみせる。
「しかも、ごていねいに管理局が気づくように、わざとハデに暴れてくれたみたい。
 フェイト、凹んでたよー。『この子達が襲うまでぜんぜん気づけなかった』って」
 その話を聞き、全員の脳裏に“背中を向けてしゃがみ込んで地面に『の』の字を描いているフェイト”の姿が浮かんだ――なぜかどのイメージの中のフェイトも“たれウサ耳”を標準装備しているのは果たして偶然か否か。
「けど……見方を変えれば大問題だよ、これ」
 しかし、そんなガスケット達に対し、ジャックプライムはあくまで真剣にそう続けた。
「まぁ、確かに問題だわなぁ……
 天下の管理局が、フリーのトランスフォーマーに先を越されちまってる、ってことなんだからな」
「面目丸つぶれなんだな」
「いや、そこはいいんだよ。ボクらの仲間って民間でスゴイ人達なんてゴロゴロしてるし、マスターコンボイだって立場上は民間協力者扱いなんだよ。
 面目云々なんて何を今さら、じゃない。気にしてたってキリがないよ」
 ガスケットとアームバレットの言葉にあっさりと問題発言をぶちかますと、ジャックプライムは息をつき、
「ボクが言いたいのは別のこと」
「別のこと……?」
「うん」
 聞き返すシグナルランサーに答え、ジャックプライムは告げる。
「この子達、結構あちこちでガジェットを迎撃してるよね?」
 最初はその意図を読み取れなかったシグナルランサー達だったが――その後に続いた言葉に、思わず顔を見合わせることとなる。
「それってさ、つまり――」
 

「ガジェットの動きが、活発化してきてるってことにならないかな?」

 

 

「はーい、じゃあ、夜の訓練終わり!」
『お疲れさまでした!』
 なのはの言葉に、スバル達は声をそろえて応える――4人が4人とも疲れきって、息も絶え絶えの状態だ。今の返事も、『最後の力を振り絞って』という表現がしっくり来るような有様だ。
「ちゃんと寝ろよー」
『はーい!』
 ヴィータの呼びかけにも、一足先に隊舎へと引き上げていく4人は疲れきった声色で応え――
「………………ん?」
 シミュレータの終了処理を行っていたなのはが、スバル達の去っていく隊舎側とは反対方向――市街の方から向かってくる大型ビークルの存在に気づいた。
 セイバートロン星から戻ってきたマスターコンボイだ。向こうもなのはやヴィータに気づいたのか、二人のちょうど目の前で停車するとロボットモードへとトランスフォームする。
「マスターコンボイさん……?
 セイバートロン星からの呼び出しって、何だったんですか?」
「気にするな。
 取るに足らんヤボ用だ」
 尋ねるなのはに答え、マスターコンボイは大げさに肩をすくめてみせる。
「そう言う貴様らこそ、今日はずいぶんと遅くまでしごいていたようだな」
「んー、みんなもだいぶ伸びてきたからね。
 当分の間は、毎日こんな時間になるんじゃないかな?」
「そうか。
 なら、お前らもさっさと休め――出動がかかっても疲れて足手まとい、というのはゴメンだからな」
 答えるなのはの言葉に答え――最後にそう付け加えると、マスターコンボイは再びビークルモードにトランスフォーム、隊舎に向けて走り去っていってしまった。
「ったく、相変わらず言いたい放題だな、アイツ。
 まさか、わざわざアレ言うためだけに訓練場こっち側まで回ってきたんじゃねぇだろうな?」
「まぁまぁ、ヴィータちゃん。
 マスターコンボイさんも、きっとスバル達のことを気にかけてくれてるんだよ」
 セイバートロン星へのスペースブリッジからは、まっすぐ帰ってきたとすれば隊舎脇の駐車場から入ってきた方が本部隊舎には近い。わざわざ訓練場の前を通ろうとすれば、意図的に遠回りすることになる。
 そのことを思い出し、うめくヴィータになのはが答えるが――彼女達は気づけなかった。
 『今日はずいぶんと〜』とマスターコンボイは言っていた――それはつまり、今日から訓練が長くなったことはマスターコンボイにとって誤算だったということだ。
 つまり、マスターコンボイがあえて訓練場に回ってきたとすれば、それは“すでに訓練が終わっていること”が前提だったことを意味する――

 

 そのことに、そしてその意味になのは達が気づくには、まだしばらくの時間が必要とされていた。

 

 

「…………“レリック”についてのデータは、これで全部?」
「はい」
 その頃、フェイトはシャリオと共に中央のラボを訪れていた。
 新型ガジェットや回収された“レリック”のデータ――先日の出動で新たに得られたデータから捜査の手がかりがないかチェックするためだ。
「この“レリック”も、なんだかワケがわからないんですよねぇ……
 エネルギー結晶体にしてはなんだか変ですし、よくわからない機構もあるみたいだし……」
「まぁ、簡単に使い方がわかるようなら、“古代遺物ロストロギア”指定はされないだろうし……」
 答えるフェイトに「そうですね」とうなずき、シャリオは画面を回収されたガジェットの残骸の写真へと切り替えた。
「これは……新型ガジェットの?」
「はい。
 U型もV型も、ヴィータ副隊長達が捕獲してきたものとほとんど同じですね……」
 フェイトに答えながら、シャリオは写真を次々に表示していき――
「――――っ!?
 シャーリー、ストップ!」
 気づき、フェイトはシャリオに待ったをかけた。
「少し戻して。
 多分、内燃機関の分解図……」
「って言うと……コレですか?」
 フェイトの指示でシャリオが表示した写真には、基盤にはめ込まれた青色の結晶体が写っている。
 それは――
「ジュエルシード……!?」
「ジュエルシード?」
 聞き返すシャリオにうなずくと、フェイトは画面に視線を戻した。
「10年前、私となのはが探し集めていた“古代遺物ロストロギア”……
 その正体は、ミッドチルダ・サイバトロンの最長老アルファートリンが自分のスパークを結晶化したもので……けど、今はアルファートリンのスパークも抜けて、ただのエネルギー結晶体として本局の保管庫に保管されているはず……」
 シャリオにそう説明し――フェイトは再び何かに気づいた。
「シャーリー、ちょっと右上の方を拡大してみて。
 何か書いてある」
「あ、はい……」
 言われるままにシャリオは画面を拡大。基盤に留められていたプレート、そこに記されている単語を表示する。
「サイン……ですか?
 “ジェイル”……」
「……“ジェイル・スカリエッティ”」
 シャリオが読みきるよりも早く、フェイトはその名を口にした。関連データを読み出し、表示する。
「ドクター・ジェイル・スカリエッティ。
 数々の違法研究で広域手配されている、次元犯罪者……
 ちょっと事情があって、この男は何年か前からずっと追ってるんだ……」
「けど、そんな大物が、こんな簡単に自分の手がかりを残すんですか?」
「本人だとしたら挑発、他人だとしたらミスリード狙い――どっちにしても、私やなのはがこの件に関わってることを知ってるんだ。
 けど、もし本人だとすれば、“古代遺物ロストロギア”技術を使ってガジェットを作れることも納得できるし、そこまでして“レリック”を集めてる理由も想像がつく……」
 シャリオに答え、フェイトはしばし思考をめぐらせ、
「……シャーリー、すぐにこのデータをまとめて、隊舎に戻ろう。
 隊長達みんなで、対策会議を開きたいんだ」
「はい」

 

 この時、フェイトはひとつだけ過ちを犯した。
 

 写真の中のスカリエッティのサインを発見したこと。そこから『本人なら挑発、他人ならミスリード狙い』と推測した。そこは間違っていない。
 

 だが――彼女はこの時、もうひとつ気づくべきだったのだ。
 

 問題の写真の画像ファイル、その作成日時が――

 

 ミッドチルダでガジェットU型、V型が確認される“3日前”だったことに。

 

 

〈……シャーリー、すぐにこのデータをまとめて、隊舎に戻ろう。
 隊長達みんなで、対策会議を開きたいんだ〉
〈はい〉
「………………ふーん……」
 耳につけたイヤホンから聞こえるその会話に、シートに身を沈めていた“彼”は満足げにうなずいた。
「さすがはアリシアの妹、ってところか……
 一発でスカ公までたどり着きやがった♪
 ……ま、そうでなきゃ、わざわざ“フェイクシード”の写真を紛れ込ませた意味がねぇけどな」
 どうやら、“例の写真”は“彼”の仕込らしい――満足げにうなずくと、“彼”は通信端末を起動させた。
 すぐにつながり、男の声が“彼”に尋ねる。
〈……どうした?〉
「フェイトがスカ公のことに気づいた。
 オレとしちゃ、もう数日くらいかかると思ってたけど、なかなかやるね」
〈では……〉
「あぁ」
 通信相手の言葉に、“彼”は――

 

 

 柾木ジュンイチは、口元に笑みが浮かぶのを自覚しながら告げた。

 

 

「“2ndステージ”の、開幕といこうか♪」


次回予告
 
マスターコンボイ 「貴様らも柾木ジュンイチの指導を受けたことがあったのか」
ヴィータ 「あー、まぁ、な……」
スバル 「キツかったですよねー……いろいろと」
マスターコンボイ 「スバル・ナカジマはともかく、ヴィータ・ハラオウンがそこまで言うとはな……
 それほどまでに厳しい訓練だったということか?」
スバル 「うーん……厳しい、というか……」
ヴィータ 「体力的なところより……精神的にクるんだよなぁ……」
マスターコンボイ 「………………?」
スバル 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第11話『海鳴へ行こう!〜出張・機動六課〜』に――」
3人 『ゴッド、オン!』

 

(初版:2008/06/07)