「いっくぞぉぉぉぉぉっ!」
 目の前には敵対する各勢力の送り出してきた多種に渡る無人兵器――しかし、ハイパーゴッドオンの力をトライファイターによって完全に制御された今の自分達の敵ではない。裂帛の気合と共に、スバルは一気に敵中を突破していく。
「やるねぇ、スバルとマスターコンボイ!
 こりゃ、私も負けてられないかな!?」
 そんなスバルとマスターコンボイの戦いぶりに触発され、こなたも奮起。目の前に作り出したスフィアが炎の塊となって燃え上がり、
「クリムゾン、ブレイク!」
 繰り出すのはもっとも信頼の置く必殺技――スフィアに飛び込み、その炸裂エネルギーを推進力と破壊力に変えたこなたも敵陣を突破、先行するスバル達に並ぶ。
「まったく……あの子達はまた勝手に飛び出して!」
「まぁ、私達の機動性では、泉さん達には追いつけないですからね」
「ヴェルなんかそもそも飛べないもんねー」
 そんなスバル達の先行ぶりに舌打ちするのはかがみだ。みゆきやつかさもそれぞれにつぶやくが、3人ともその表情に悲壮感はない。
 なぜなら――信じているから。
 彼女達が、無人兵器などに遅れをとるはずがないと。なのは達を圧倒したシードラゴンを、相性のよさに助けられたとはいえ撃退した彼女達なら、きっと敵の幹部級とも対等に渡り合えるだろうと。
 ならば、自分達のすることは彼女達の気をそらすことがないよう、彼女達がこちらを心配するような状況にならないように戦うことだ。
 ノイエ・アースラを守り抜くべく、彼女達はこちらを狙う無人兵器や瘴魔獣達へと向き直り――
〈――――みんな、気をつけて!
 9時方向から熱源!〉
『――――――っ!?』
 アルトからの報告と同時――飛来した閃光がエアドールの一機を撃ち抜いた。
 

「よっしゃ、命中っス!」
「だからどーした!
 アレだけいるのに、1機や2機落としたところで!」
 攻撃の正体はウェンディ、彼女のゴッドオンしたエリアルスライダーの遠距離狙撃――狙撃モードのエリアルライフルを下ろして歓声を上げるウェンディに、セインは油断しないように釘を刺した。
「ホクト! 暴れてもいいけど、全力でいくなよ!
 ブッ倒れても知らないからな!」
「むーっ! こんなザコ相手に本気になるほど子供じゃないもん!」
「子供じゃん、6歳児……」
「子供じゃないもんっ!」
「ハイハイ、そこまでよ」
 ノーヴェに答えたものの、ガスケットのツッコみにかんしゃくを起こして反論する――そんなホクトをイレインがなだめ、その一方でセインが無事全員合流できたか、点呼の要領で確認する――
「よぅし、みんないるな!?
 ノーヴェ!」
「おぅ!」
「ホクト!」
「はーいっ!」
「ウェンディ!」
「いるっスよ!」
「ディード!」
「はいっ!」
「ルーお嬢様!」
「うん」
「ガスケット!」
「おっしゃあっ!」
「姐さんとオメガスプリーム!」
「誰が姐さんかっ!」
「ジュンイチ!」
『まだっ!』

 ………………
 …………
 ……

「……どこで油売ってんだ、アイツわぁぁぁぁぁっ!」
 多少出遅れたものの、マグナブレイカーのスピードなら追いついていてもおかしくない。不在のジュンイチに対し、セインは思い切り声を張り上げた。

 

 


 

第100話

砕ける星
〜禁忌の砲火〜

 


 

 

「死に物狂いで戦ってますが何かっ!?」
《誰に話してるんですか!?》
「電波送ってきたヤツ!」
 ツッコむマグナに答える一方で動きは止めない――ジュンイチの操作で、マグナブレイカーは自分に向けて放たれたブラッドファングのオールレンジ攻撃をかいくぐる。
「やってくれるね、チンクのヤツ!
 いつの間にハイパーゴッドオンなんか覚えやがった!?」
 舌打ちしながらも刃を一閃、飛来したブラッドファングを片っ端から叩き落とすが、
「――――――っ!」
 瞬間、頭上に気配――とっさに両手のマグナセイバーを交差させ、チンクの繰り出したブラッドサッカーのエナジーブレイドを受け止めるが、
「むぅんっ!」
「っとぉっ!?」
 パワーにおいてはハイパーゴッドオンを遂げたチンクの方が上だ。立て続けに叩きつけられる斬撃の一撃一撃がマグナブレイカーの姿勢を大きく崩し、仕上げとばかりに蹴り飛ばす!
「もらったぁっ!」
「誰がっ!」
 そのスキを逃さず、追撃に移るチンク――だが、ジュンイチも負けてはいない。とっさにマグナプロテクトを展開、チンクのエナジーブレイドを受け止める。
 いかにパワーを上げていようとその本質はエネルギーの剣だ。ジュンイチの防壁はチンクの一撃をしっかりと受け止めているが――
「それなら!」
「ちょ――――――っ!」
《そう来るの!?》
 対し、チンクは強引に押し込みにかかった。驚くジュンイチとマグナにかまわず、推力にものを言わせて大地に叩きつける!
「ぐぅ…………っ!
 さすがはハイパーゴッドオン。ブラッドサッカーでこれかよ……!?」
 中量級のブラッドサッカーでこのパワーとスピードだ。これが重量級のマグマトロンだったらどうなっていたか。機体を起こすジュンイチの頬を冷や汗が伝い――
「策をひねり出す時間など――与えんっ!」
 そんなジュンイチに向け、チンクはさらに襲いかかってくる。
 だが――
「フォースチップ、イグニッション!
 バーストモード、スタート!」

 ジュンイチも素早くフォースチップをイグニッション。バーストモードを発動させ、チンクの斬撃をかわして上空に逃れる。
「今度は――こっちの番だ!」
「そうこなくてはな!」
 言い放つジュンイチにチンクが答え、両者は一気に加速する――めまぐるしく空中を駆け巡り、何度も激しくぶつかり合う。
 そして――
『オォォォォォォォォォォッ!』
 両者の咆哮が交錯――渾身の斬撃がぶつかり合い、互いに大きく弾き合う。
 両者の力はまったくの互角――だが、ジュンイチ達にとってそれは決して状況が好転したとは言えないものだった。
(バーストモードでも互角が精一杯かよ……!
 現行でバーストモードの限界時間は90秒、残り60秒……!
 残り1分で仕留められるか……!?)
 そうだ。ハイパーゴッドオンと違いバーストモードには限界時間がある。それ以上のバーストモードの行使はマグナブレイカーの多段式相転移エンジンがもたないのだ。
 だが、まったく互角のこの戦況では、限界時間内にチンクを叩くのは難しい――否、ハッキリ「ムリ」と断言さえできる。
 となると、残された手は――
「…………マグナ。
 “フルバースト”を使う」
《ジュンイチ!?》
「限界時間はさらに縮まるけど……そもそも時間をかけるつもりはない。
 こっちの最大戦力で、一気に落とす!」
 決意と共に宣言し、ジュンイチは改めてチンクと対峙し、
「フルバーストのシステムも、バーストモード以上に未調整だ――現状じゃ、オレの複数思考マルチタスクも7割以上が制御に持っていかれる。
 フォローは頼むぜ、マグナ!」
《まったく……しょうがないですね!
 でも!》
 ジュンイチの言葉にマグナが答えると同時、チンクがこちらに向けて斬りかかってきた。マグナセイバーで受け流し、ジュンイチはなんとか距離を取ろうとするが――その瞬間、死角から飛び込んできたブラッドファングがマグナブレイカーの右足を払い、体勢を崩す!
「しまった!?」
 “フルバースト”の発動に気を取られた。戦慄するジュンイチに向け、チンクが一撃を繰り出し――

 

 刃が止まった。

 

 光刃は、マグナブレイカーのノド元の装甲をわずかに焼くところで止められた――マグナブレイカーのノド元にブラッドサッカーが刃を突きつけたその体勢のまま、両者はその動きを止めていた。
「………………どういうつもりだ?」
「これ以上は必要ない」
 そのまま刃を突き込んでいれば、自分達を倒せていたはず――尋ねるジュンイチに答え、チンクはあっさりと刃を引いた。
「貴様に、今の私の実力を見せる――それが、この戦いの目的だ」
 言いながら、右手を軽く振るい、エナジーブレイドの形成を解除し、チンクは改めてジュンイチへと向き直った。
「ここまでやれば……貴様も私が“戦力不足”だとは思うまい?」
「………………チッ。
 何かと思えば、“そういうこと”かよ……」
 まさに“一を聞いて十を知る”――チンクのその言葉に、ジュンイチはマグナブレイカーのコックピットで思わずため息をついていた。
「要するに、今回の件に介入する上で、オレに対して事前に『自分は足手まといじゃない』と自己主張したかったワケですかい、てめぇは……」
「貴様のことだ。素直に介入しようとしても、『危ないからお前達は下がっていろ』くらいのことは平気で言い出しかねんからな。
 だから、先に力を見せつけた――貴様が私を後方に下げようなどと、夢にも思わぬように」
 戦いの場とはいえ、幾度となく顔を合わせてきた相手だ。ある程度の人となりは心得ている――だからこそチンクにはわかる。
 この男は、どういうワケかこちらを“敵”としては見ていない――その行動を止めるべき相手であるとは考えているようだが、少なくとも今までの対峙で彼からこちらへの敵意を感じたことはただの一度もない。
 それどころか、こちらを救ってくれたことだって一度や二度ではない。地上本部での戦いの時はマスターギガトロンから妹達を守ってくれたし、現在もノーヴェ達を守り、導いてくれている。
 だからこそ、チンクには理解できる。
 この男はこの一件においても、一番の負担を自ら背負うつもりなのだろうと。
 そして、そのために彼が口実にするのは周囲との実力差――当人のうぬぼれでも周りのひいきでもない、厳然たる現実として存在する彼の常人離れした(実際に常“人”ではないのだが)実力を楯に、「足手まとい」の一言と共に周りを危険から遠ざける。彼の常套手段だ。
 だが――こちらにも戦士としてのプライドがある。何度も助けられた恩もある。
 いずれ決着をつけるために、積み重なった“借り”を返すために――チンクは“力”を手にした。
 そして今――その“力”を行使する。
 その“力”をもって、彼の“言い分”を打ち砕く。
 彼の“言い分”を打ち砕くため――告げる。
「柾木ジュンイチ。
 これでもまだ……私のことを『足手まとい』と言うつもりか?」
「…………あー、もうっ!」
 そして、一方でジュンイチも自分の“口実”が崩れ去ったことがわからないほど愚かではない。チンクの思惑もすべて理解し、頭を抱えていた。
 自分の“常套手段”が使えないのは明らかだ。何しろ、実力差を見せつけるどころか撃墜されていたはずなのだから。
 一応、別の“口実”もないワケではないが――チンクはこちらの思惑を知った上で、真っ向からそれを打ち破ってみせたのだ。ここで覆すのはたやすいが、それは彼女に対してフェアではない。
 もはや、認めるしかあるまい。
「わかったよ! わかりました!
 そんなに首突っ込みたいなら好きにしろ!」
「フッ、そう来なくては――」
「ただしっ!」
 しかし、ただ押し切られるつもりもない。チンクの言葉にかぶせるように、ジュンイチはマグナブレイカーのコックピット越しにビシッ!とチンクを指さし、告げた。
「ついてくるからには死ぬほどこき使うんで、覚悟するようにっ!」
 それは、久方ぶりの“敗北”を味わった彼に今できる、精一杯の負け惜しみで――
 

 “死ぬほどこき使うために常に注意をかたむける”――彼女を守るための、自らに対する決意表明でもあった。

 

「ガリュー」
 淡々と告げるルーテシアの言葉にガリューが動く――クロムホーンとシザースタッグを伴い、進路上のドールシリーズやシャークトロン、瘴魔獣を片っ端から叩いていく。
 しかし――敵は一向にその数を減らさない。叩くそばから別の個体がその穴を埋めてしまい、互いに戦い合い、こちらにも攻撃をしかけてくる。
 だが――
「レンジャー、ビッグバン!」
 戦っているのは彼女だけではない。ルーテシア達を狙った敵群を、つかさがハイパーゴッドオンを遂げたレインジャーが必殺の砲火で薙ぎ払う。
「オォォォォォンッ!」
 さらに、彼女に付き従う鋼の地竜――ヴェルファイア改めワイルドファイアも持ちうる火器を総動員。タンクライナーから放たれた多数の砲火が、つかさの撃ちこぼしを確実に叩き落としていく。
「つかさ……?」
「ルーちゃん、来るよ!」
 助けてくれるのか――振り向くルーテシアにつかさが告げ、さらに迫る敵群にレインジャーの火器を斉射。ルーテシアも意識を切り替え、両手のアスクレピオスに“力”を注ぎ込む。
「いくよ――地雷王」
 その目的は再度の召喚だ。術式を起動し、発動させようとした、その時――
「………………?」
 不意に、ルーテシアは違和感を感じた。
 召喚魔法が発動しない。
 いや――発動が妨害されている。
(転送魔法が妨害されてる……?
 でも、さっきはガリュー達を呼べた……その後に妨害がかけられた……?)
 呼ぼうとしていた戦力が呼べなかったことに若干ながら落胆の色を見せるが――召喚できないならできないで現行の戦力で戦うしかない。気を取り直し、ルーテシアは自分を守り戦うガリュー達に新たな指示を下した。
 

「ふぎゃっ!?」
「こなた!?」
 まるでゲンコツを落とされるように、振り下ろされた拳がカイザーコンボイの脳天に叩きつけられる――女の子らしからぬ悲鳴を上げるこなたにスバルが声を上げ、
「ぅにゃあっ!?」
「ホクト!」
 続けてホクトのギルティコンボイが蹴り飛ばされた。ゴロゴロと大地を転がる彼女を、ノーヴェがあわてて受け止める。
 そして――2体のコンボイを蹴散らしたマスターギガトロンが、彼女達を前に悠然とかまえを取り直した。
「さすがはマスターギガトロン。強い……!」
「あんなヤツに“マスター”の称号を使うな。
 同類に見られているようでいい気がしない」
 ハイパーゴッドオンしている以上、少なくともパワー的には互角のはず――経験値の差か、それでも自分達四大コンボイを相手に一歩も退かないマスターギガトロンの姿に、スバルやマスターコンボイが悪態をつくのもムリのない話かもしれない。
「こうなったら……!
 こなた、合体するよ!」
「OK!」
 数で攻めても跳ね返されるのなら――告げるスバルにこなたがうなずき、
「ホクト!
 あたしらも合体するぞ!」
「うん!」
 ノーヴェの言葉に、ホクトも元気に立ち上がった。

『マスターコンボイ!』
 スバルとマスターコンボイの咆哮が響き、二人は頭上へと大きく跳躍し、
「カイザーコンボイ!」
 こなたはゴッドオンしたままカイザージェットへとトランスフォーム。上空へと跳んだスバル達を背中に乗せ、一気に上空へと急上昇していく。
 そして、二人は上空の雲海の上まで上昇し、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
 宣言と同時、カイザージェットが複数のパーツに分離。それぞれのパーツが空中に放り出されたマスターコンボイの周囲へと飛翔する。
 最初に変形を始めたのはカイザーコンボイの両足だ。大腿部をスライド式に内部へ収納。つま先を下方にたたんだマスターコンボイの両脚に連結するように合体。より大きな両足を形成する。
 続いて左右に分離し、マスターコンボイの両側に配置されたカイザーコンボイのボディが変形。両腕を側面に固定すると断面部のシャッターが開き、口を開けた内部の空間にマスターコンボイの両腕を収めるように合体。内部に収められていた新たな拳がせり出し、両腕の合体が完了する。
 カイザージェットの機首と翼からなるカイザーコンボイのバックパックはそのままマスターコンボイのバックパックに重なるように合体。折りたたまれていたその翼が大きく展開される。
〈“TRI-STAR-SYSTEM”――start!〉
 そして、トライファイターに備えられた“トライ・スター・システム”が起動――それに伴い、スバルとこなた、マスターコンボイ、二人の魔力がトライファイターに流れ込んでいく。
 胸部アーマーとなったトライファイターの表面に露出した、中央の大きなクリスタルを囲むように逆三角形を描く、三つの小さなクリスタル――右上のそれがスバルの空色の魔力に、左上のそれがこなたの真紅の魔力に、そして最後のひとつ、下部のそれがマスターコンボイの紫色の魔力に満たされ、同時に中央の一回り大きなクリスタルに誘導されるとひとつにまとめ上げられ、虹色の輝きを放つ。
 最後にバックパック、カイザージェットの機首の根元部分に収納されていた新たなヘッドギアがマスターコンボイの頭部に装着。三つの星によって生み出される虹色の輝きを胸に抱き、3人が高らかに名乗りを上げる。
『カイザーマスターコンボイ、トライスター!』

「ブレイクコンボイ!」
 ノーヴェが名乗りの声を上げ、彼女のゴッドオンしたブレイクコンボイが上空に飛び立ち、
「ギルティコンボイ!」
 続いて、ホクトのギルティコンボイがその後に続く。
 そして、二人は上空高く、頭上に広がる雲海の上に飛び出し、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
 宣言と同時、合体シークエンスが開始――二人の機体の本体、ブレイクロードとギルティサイザーが強化ボディとなっているガードフローター、ギルティドラゴンから分離する。
 そして、ノーヴェのブレイクロードが合体形態を維持したままギルティドラゴンの変形した大型ボディのもとへと飛翔、ギルティサイザーに代わり合体、固定される。
 一方、ブレイクロードに自分の合体するスペースを譲ったギルティサイザーはホクトがゴッドオンしたままビークルモードへとトランスフォーム。機体後部、両足にあたる部分を左右に展開、ギルティドラゴンの両腰をカバーするように合体し、腰あてとなる。
 と、操り手が不在となっていたガードフローターが分離した。分離した両足はギルティドラゴンの両足に合体、より巨大な一組の足を作り出す。
 続いて、ガードフローターの機首部分は左右に分かれてギルティドラゴンの両腕に。シールドのように合体するとブレイクロードの固有兵装であるシールドウェポンがそれぞれに連結、固定される。
 残るガードフローターの本体はギルティドラゴンの背中に、通常の合体時にはブレイクロードを固定するジョイントを利用してギルティドラゴンのバックパックに覆いかぶさるように合体。より巨大なバックパックとなる。
 分離していたギルティドラゴンの頭部はビーストモードのまま胸部に合体、胸飾りとなり、最後にボディ内部からせり出してきたブレイクコンボイの頭部に、ギルティドラゴンから分離した兜飾りが合体、頭部を新たな形に飾り立てる。
 全合体シークエンスを完了し、システムが再起動。ひとつになったホクトとノーヴェが高らかに名乗りを上げる。
『ギルティ、ブレイク、コンボイ!』

 

『フォースチップ、イグニッション!』
「ハウリング、パルサー!」
『ヴァリアブルシュート――イグニッションシフト!』

 咆哮と共に引き金を引き、巨大な光弾が放たれる――かがみやティアナ、ジェットガンナーの放った魔力弾が戦場を駆け抜け、
「アックス、ブレイク!」
『アイゼン、ホームラン!』

 難を逃れ、反撃を試みるべく飛び込んできた者にはみゆきとエリオ&アイゼンアンカーの一撃が待っていた。立て続けに繰り出された必殺技が、迫り来るシャークトロンやランドールを粉砕する。
「よぅし! その調子だ!」
「お前ら! このまま敵をノイエ・アースラに近づけんじゃねぇぞ!」
「そのつもりなんだな!」
「けどさすがにこの数は……ちょっとばかり気が滅入るっスかね!」
 上空で戦うヴァイスとスプラングの言葉に、アームバレットやひよりが答える――確かに、叩いても叩いても次々に敵がわいてくるこの状況は、精神的にあまりいい状況とは言えないが――
「それでも、やるしかないんだよ!」
「ギンガさんの言うとおりです!」
 言い放ち、ギンガが拳を振るう――彼女に同意し、みなみのゴッドオンしたニトロスクリューも得意の蹴り技でシャークトロンを粉砕する。
「とはいえ、ひよりの言うとおり数が多すぎるのも事実、か……
 広域砲撃のできるつかささんやヴェルちゃんがルーテシアのフォローに回ってしまったのは、ちょっと痛手かな……!?」
 しかし、ひより達の言い分ももっともだ。この場を離れ、友達ルーテシアの援護に向かったつかさのことを思い出し、ギンガがロードナックルにハイパーゴッドオンしたままかまえをとり――
「――――――っ!
 みなさん、気をつけて!」
 シャープエッジに護衛されながら、フルバックとして後方に下がっていたキャロが警戒の声を上げた。
「ケリュケイオンのサーチに反応――所属不明の大型機が2機、こっちに向かってきます!」
「所属不明……!?」
 キャロのその言葉に、ティアナはジェットガンナーの“中”で思わず眉をひそめた。
 あちこちの味方からのサーチ情報を統合すると、ディセプティコンもユニクロン軍も、スカリエッティ一味もほぼ全員が顔をそろえている。
 その上での“所属不明”――どこかの勢力の新戦力かと警戒を強めるが、
「きます!」
 そのキャロの言葉と同時、“それ”が彼女達の前に轟音と共に降り立った――
 

 着地の衝撃で、ランドールやシャークトロンを粉々に粉砕しつつ。
 

 そして、手近なところにいた瘴魔獣も飛び込んできた何者かの攻撃を受けて爆死する――どうやら、ディセプティコンでもユニクロン軍でも、瘴魔でもないらしい。
 ではスカリエッティの一味かとも思ったが、レーダー反応を見た限り、スカリエッティ派のナンバーズに乱入者の登場に乗じるような動きは見られない。
 相手の正体がわからず、警戒を強める一同の前で、土煙は徐々に晴れていき――
「機動六課のみんな!」
「手助けしてやるぜいっ!」
 現れたのはブロードサイドにゴッドオンした峰岸あやの、そしてオクトーンにゴッドオンした日下部みさおだ。あやのがブロードサイドの豪腕で、みさおがオクトーンのタービンボンバーで、手近な敵無人兵器を破壊する。
「アンタ達、確か地上本部攻防戦で六課の救援に来てくれた……」
「確か……オクトーンと、ブロードサイド!」
「あーらら、やっぱり“気づいてない”んだ♪」
 正体を現した乱入者の姿にティアナやかがみが声を上げると、そんな彼女達の言葉にみさおはどこか楽しそうに声を上げた。かがみのゴッドオンしたライトフットの顔をのぞきこみ、
「柊も、そーゆートコってけっこうヌけてるよなー♪」
「え………………?
 なんで、あたしのこと……」
 当然、何も事情を知らないかがみは自分の名前を呼ばれて困惑するばかりで――しかし、すぐに気づいた。
「って、その声にそのしゃべり!
 アンタ……まさか、日下部!?
 じゃあ、そっちは峰岸さん!?」
「そーだぜー♪」
 驚き声を上げるかがみに対し、みさおは自慢げに胸を張り、
「このあたし、日下部みさお様があやのと一緒に来たからには、ドドーンッと大船に乗ったつもりでいやがれいっ!」
「アンタの場合、その大船ごと難破しそうな気がするんだけど」
「あやのー、柊がやっぱり冷たいよぉ」
「あー、よしよし」
 あっさりと返すかがみの言葉に、みさおのテンションが急降下。あやのがそんなみさおをなだめる――どうでもいいが、二人してゴッドオンしたまま凹んだりなぐさめたりするのはやめてほしい。ゴツい外見と態度がミスマッチ過ぎてぶっちゃけシュールだ。
「それにしても、日下部さん達もゴッドマスターだったなんて……」
「今まで黙っててごめんね。
 みんなとは別に動いてたから……」
 感心し、つぶやくみゆきにあやのが答えると、
「そんなのはどーでもいいんだよ!」
 唐突にみさおが復活した。
「あたしらのことを背景扱いする柊に、あたしらの力を見せてやるーっ!
 あやの!」
「はいはい」
 みさおのよびかけにうなずくと、あやのは周囲を一通り見回し、
「けど、敵の数も多いし……今回は私の方がメインだね」
「オッケー♪」

「ブロードサイド!」
 高らかに名乗りを上げ――あやのがゴッドオンしたブロードサイドのボディが変形を開始した。両腕を後方に折りたたみ、頭部をボディ内に収納すると全体が上下反転。下半身、腰から下が左右に分かれると両側に開かれ、足の裏から新たな拳が出現。左右に分かれた腰部を両肩、両足を両腕に変形させた新たな上半身が完成する。
「オクトーン!」
 続けて、みさおのゴッドオンしたオクトーンが変形――こちらはもっとシンプルだ。両腕を後方にたたんで頭部を収納する。
 そして下半身、腰が左右に分割――ここまではブロードサイドと同じだが、彼女の場合はそこまでで終了だ。左右に分かれた腰を大腿部として両足を延長した、新たな下半身となる。
 変形を完了したオクトーンとブロードサイドが交錯し――
『ゴッド、リンク!』
 二人の変形した上半身と下半身が合体、ひとつとなる!
 そして、ボディ内から新たな頭部が出現し、あやのが高らかに名を名乗る。
「連結合体! カイ、テン、オォォォォォッ!」

「ウソ!?
 日下部と峰岸さんのトランステクターも、合体できるの!?」
《そーゆーこった!
 “海”と“天”を統べる“王”――カイテンオーだ!》
「正式名称は“イージスライナー・マリンミッション”なんだけどね」
 驚くかがみに答えるみさおの言葉に、あやのは苦笑まじりに補足する――どうやら正式名称の“イージスライナー”の名で呼ぶことはいろいろとあきらめたらしい。
《とにかく、ここはあやのにお任せだーっ!》
「みさちゃんも、しっかり支えてね!」
 ともかく、今は敵の迎撃が先決だ。告げるみさおに答えながら、あやのはかがみ達よりも前に進み出て、
「いくよ――フォースチップ、イグニッション!
 カイテン、フルトリガー!」

 いきなりイグニッションしての大技――上半身、ブロードサイドの火器のすべてが一斉に火を吹き、周囲の無人兵器群を薙ぎ払う!
 

「ディバイン――!」
〈――Buster!〉
《いっ、けぇっ!》
 なのは、レイジングハート、プリムラ――三者の咆哮と共に、彼女達の主砲とも言える砲撃魔法ディバインバスターが火を吹いた。前方に立ちふさがるエアドールや水鳥をモチーフにしたらしき瘴魔獣をまとめて蹴散らし、戦場を撃ち貫いていく。
 これだけ敵が飛び交う戦場だ。味方への誤射さえ気をつけてしまえばどこを狙っても差し支えない。次の一撃を放つべく、なのはは魔力をチャージし――
《――なの姉!》
「――――――っ!」
 プリムラの警告と同時に素早く後退――直後、彼女のいた場所を蒼い雷光の弾丸が駆け抜けた。
「プラズマ砲――ブラックアウト!」
「そういう――ことだ!」
 声を上げるなのはに答え、ロボットモードのブラックアウトが上空から急降下してくる――背中のローターを切り離して右腕に装着、回転させながらなのはに向けて振り下ろしてくる。
 当然、なのはもそれをかわして後退――するが、ブラックアウトもそれを先読み。エネルギーミサイルをばらまいて、なのはに反撃のスキを与えない。
 さらに、そこに加わるのはジェノスラッシャーだ。ビーストモードで飛翔、一気になのはに肉迫すると身をひるがえし、翼による打撃を立て続けになのはに叩きつける。
 なんとかそれを防壁で耐え、なのはは改めて距離を取ろうとするが、ジェノスラッシャーがしつこく追従、ブラックアウトも巧みにエネルギーミサイルを回り込ませてこちらの離脱機動を絞り込んでくる。
 そういえば、彼らとは1対1で向き合うのが主で、多数を同時に相手にした覚えはほとんどない。いや、ひょっとしたらこれが初めてかもしれない。
 ジェノスラッシャーがショートからクロス、ブラックアウトがミドルからロング――それぞれに間合いレンジを分担し、怒涛の攻めを見せる二人に、なのはは思った以上の苦戦を強いられていた。
《なの姉! フェイト姉達に応援を――》
「ダメ!
 敵の幹部級はこの二人だけじゃないんだよ――みんなにはそっちが出てきた時に備えて、フリーのままでいてもらわないと……!」
 プリムラの言葉に答え、ブラックアウトらの攻撃を何とかしのぐなのはだったが――間の悪いことに、さらに状況は悪化した。
「フォースチップ、イグニッション!
 ジェノサイド、バスター!」

 地上で瘴魔獣を蹴散らしていたジェノスクリームがこちらに気づいたのだ。ニヤリと笑みを浮かべるとビーストモードにトランスフォーム。フォースチップをイグニッションし、必殺の砲撃をなのはに向けて撃ち放つ!
「――――っ、くっ!」
 なんとかギリギリでそれに気づき、回避するなのはだったが――そこに再度ジェノスラッシャーが強襲、エネルギーをまとった翼がなのはの周囲を守っている魔力障壁に叩きつけられ、その一角を、かなりの範囲にわたって叩き斬る。
 当然、なのはの身体から放たれる魔力によって魔力障壁はすぐにふさがり始めるが――しかし一瞬でふさがるワケでもない。口を開けたままの魔力障壁の“穴”に向け、ブラックアウトが千載一遇のチャンスとばかりにプラズマ砲を撃ち放つ!
(かわせない――っ!?)
 ジェノスラッシャーの一撃で姿勢を崩された自分にはこの一撃を回避する術はない。直撃する――その瞬間、なのはの目の前に巨大な、青い影が舞い降りてきた。
 左手を中心に展開した光壁でブラックアウトのプラズマ砲を防ぎ、右手から放った真紅の炎で追撃を狙っていたジェノスラッシャーを追い払うと、今度は脚部にマウントされていたライフルを手にし、地上のジェノスクリームをけん制する。
 なのはの目の前に迫っていた脅威を払い、改めて背中の翼を広げるのは――
「無事か? 高町なのは!」
「ジュンイチさん!?」
 ジュンイチの駆る、マグナブレイカーだった。
「てめぇ――柾木ジュンイチ!?」
「機動六課を守りに現れたか……!」
「そういうことだ!」
 言って、ジュンイチはマグナブレイカーを操りマグナセイバーを抜き放ち、
「さて……後ろでオレに守られたお姫様。
 これから、お前さんにちょっかい出したヤツにちょいとオシオキしてやるつもりなんだが……ノるかい?」
「もちろんです!」
 答えて、なのはは力強くレイジングハートをかまえる――
 

 “白い悪魔”と“黒き暴君”。

 “エース・オブ・エース”と“ジョーカー・オブ・ジョーカー”

 

 

 それは二人が、初めて明確な意思の元で手を取り合った瞬間であった。

 

 

「なめるなぁっ!」
 そんな二人に向け、先陣を切るのはジェノスラッシャーだ。翼をエネルギーで包み込み、最大加速で彼らに向けて突撃をかけ――
「フェイトちゃんの――」
「3倍おせぇっ!」
 あっさりとカウンターが炸裂。なのはのシューターの嵐で自慢の突撃は速度を殺され、そこにジュンイチの操るマグナブレイカーが蹴りを一発。エネルギーコーティングを受けておらず、無防備な顔面にマグナブレイカーの右足の裏が叩きつけられ、元々スピードを重視し重量に恵まれない彼の身体は哀れなほどたやすぐ吹き飛ばされていく。
「ジェノスラッシャー!
 おのれぇっ!」
 それを見て黙っていられるはずがないのが兄弟たるジェノスクリームだ。上空の二人に向けて再びジェノサイドバスターの体勢に入り――
「そう来ると思ったから――砲撃撃たずに溜めてたんだよね!」
 ジュンイチはすでにそれを予見していた。ジェノスラッシャーへの蹴りと並行して高めていた炎を解き放ち、ジェノスクリームに叩きつける。
 もちろん、ディセプティコンの古参幹部たるジェノスクリームを沈黙させるには足りないが、周囲を完全に炎で包み込まれては視界はふさがれ、さらに熱感知による照準システムの類もほぼ沈黙。しばらくはまともな戦闘行動など取れないはずだ。
「次っ! クロコプター!」
「誰がクロコプターかっ! 勝手におかしな名前をつけるんじゃないっ!」
 だからこそ、ブラックアウト迎撃に専念できる――言い放つジュンイチに言い返し、ブラックアウトがエネルギーミサイルをばらまくが、
「させないっ!」
《わたし達を忘れるなんて、いい度胸してるよっ!》
 なのはとプリムラの叫びと同時――飛来するエネルギーミサイルのすべてが撃ち砕かれた。なのは達の放ったブリッツシューターによるものだ。
 しかし、それでもブラックアウトはそのまま距離を詰め、ローターブレードを振りかざして踊りかかってきた。なのはとジュンイチも左右に散って回避、ジュンイチがライフルを撃ち放つが、ブラックアウトもその身を滑らせてジュンイチの射撃をかわす。
 そんな中、ジュンイチはなのはが自らの背後に回り込み、砲撃のチャージに入ったのを察し、ブラックアウトに向けて炎を解き放った。巻き起こった灼熱の渦の中を突き抜けてきたブラックアウトの拳をギリギリまでひきつけ、寸前で機体を急上昇させる。
 瞬間、桃色の閃光がほとばしる――マグナブレイカーがブラインドとなって隠されていたなのはの砲撃にブラックアウトは対応も間に合わず、まともにバスターレイを喰らって体勢を崩す。
 そこへ、上空に逃れたはずのジュンイチからの追撃――再びブラックアウトの眼前に舞い降り、マグナセイバーの刃で左右立て続けに、思い切り斬りつける!
 仕上げはなのはのバスターの第二射だ。成す術なく直撃を受け、後退を余儀なくされるブラックアウトに対し、ジュンイチとなのはは油断なくかまえるが、
《――――なの姉!》
《ザコが来る!》
 プリムラやマグナからの警告の声――指揮系統で自らの上位にいるブラックアウトの危機に反応したのだろう。近くで戦っていたエアドール達が、一斉にこちらに狙いを定め、殺到してくる。
「やれやれ……ブラックアウトを落とす前にまずはコイツらか」
「任せてくださいっ!
 レイジングハート!」
〈Load cartridge!〉
 つぶやくジュンイチに答え、なのはが前に出る――彼女の呼びかけに答え、レイジングハートがカートリッジをロードし、
「バスターレイ――Shoot!」
〈Baster ray!〉
 放たれた、カートリッジによって強化されたバスターレイが、周囲のエアドールをまとめて薙ぎ払う。
「やるねぇ。
 ヴィヴィオが今のお前さんを見たら、きっと諸手を上げて大喜びだぞ」
「――――あぁっ! そうだ!」
 考えてみれば、ヴィヴィオはジュンイチのところに保護されてるのではないか――ジュンイチの言葉にふとそのことを思い出し、なのはは思わず声を上げた。
「ジュンイチさん!
 ヴィヴィオは!? ヴィヴィオはどこですか!?」
「あのなぁ……こんなところに連れて来れるはずないだろ。
 留守番だよ、留守番!」
 なのはの問いにそう答え、ジュンイチは飛び込んできたエアドールをマグナセイバーで叩き斬り、
「心配しなくてもちゃんと元気でやってるよ。
 口頭でよかったら、近況報告、聞くか?」
「もちろん!」
「じゃあ、そうだなぁ……
 とりあえず、最近ピーマン嫌いが克服されてきた」
「ホントですか!?」
「あぁ。
 最初は、ペースト状にすりつぶしたのを別の料理に混ぜ込んだりしてたんだけど……」
 などと話し込んでいる二人だが――ここが戦場であることを忘れたワケではない。やりとりの平和さとは裏腹に、エアドールやら瘴魔獣やら、寄ってくる敵を片っ端から叩き落としていく。
「他には!? 他にはないんですか!?」
「うーん、そうだなぁ……」
 砲撃で敵機をまとめて薙ぎ払うなのはに背中を預け、ジュンイチは瘴魔獣を叩き斬りながら次の話題を探して――
 

「ア! ホ! かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 

「どわぁぁぁぁぁっ!?」
「にゃぁぁぁぁぁっ!?」
 咆哮と共に、二人のもとに飛翔する刃の群れが殺到した。あわてて二人が回避すると、奇襲の“犯人”が目の前に舞い降りてきた。
「貴様ら……何をやっている?
 ここが戦場のド真ん中で、現在進行中で戦っているということを忘れてないか?」
「はっはっはっ、何を言うんだい。
 忘れてるワケないじゃないか」
 上空でザコの掃除に専念していた、チンクがハイパーゴッドオンしたブラッドサッカーだ。虹色の魔力の渦を荒々しく揺らし、淡々と告げる彼女の言葉に、ジュンイチはカラカラと笑いながらそう答える。
「まったく、興がノってくるとすぐにふざけるのは貴様の悪いクセだ。
 高町なのは。貴様も貴様だ。ヴィヴィオが心配なのはわかるが、そのことを聞き出すなら後にしてくれ。貴様までもが柾木のノリに付き合ってしまってどうする」
「ご、ゴメン……
 ヴィヴィオのことを聞いたら、いてもたってもいられなくなって……」
 チンクの言葉に、痛いところをつかれたなのはが苦笑まじりに謝罪して――
《っていうか……》
 そこに口をはさんできたのはプリムラだった。
《そういうキミも、なんでそんなにご立腹なのさ?
 ひょっとして……ヤキモチ?》
『や………………っ!?』
 プリムラにしてみれば「ただのたとえ」以上の意味はなかっただろう――しかし、その一言は、チンクや引き合いに出されたなのはに思いのほか大きな動揺をもたらしていた。きっとハイパーゴッドオンしていなかったら、彼女の顔は真っ赤だったに違いない。というか実際なのはは耳まで真っ赤だ。
「な、ななな、なんでそうなるのかな、プリムラ!?」
「そ、その通りだ!
 私はただ、貴様らの戦いに対する態度を……」
「そーだぞー。
 あまり二人を困らせるなよ」
 あわてて抗議の声を上げるなのはやチンクのとなりで、ジュンイチもマグナブレイカーのコックピットでため息をついて、
「そんな事実無根なことを言われちゃ、二人だってどうすればいいかわかんねぇだろ。
 コイツらがオレに惚れてるんならまだしもさぁ」
「………………」
 いろいろと言いたいことが脳裏をよぎったが、それはひとまずさておいて――なのははクルリとチンクへと向き直り、尋ねた。
「………………鈍感?」
「残念ながら、コイツはこのテの話題に関しては本気でコレだ」
 なのはの問いに、チンクは心の底からため息をついてそう答え――
「だいたいさぁ、オレみたいなのに惚れる女なんかいやしないだろ。
 ンなの天地がひっくり返ってもありえねぇって」
「………………
 …………
 ……
 …………本気で墜としていいだろうか」
「魅力的な提案ですけど、それはちょっと……」
 続くジュンイチの言葉に、本気で殺意がこみ上げてきた。うめくチンクの言葉に、なのははなんとなく同意できるものを感じながらもそんな彼女を制止して――
「貴様ら……!
 こちらをシカトするとは、いい度胸だ!」
 そんな彼女達の態度に、さきのダメージから立ち直ったブラックアウトがキレた。咆哮と共に襲い掛かるが――
「うるさいっ!」
 よりによって標的が今のやり取りでフラストレーションを溜め込んだチンクだったというのはタイミングが悪すぎた。チンクの放ったブラッドファングがブラックアウトへと殺到――胸部を直撃、吹っ飛ばす!
 すさまじい衝撃を連続で叩きつけられ、ブラックアウトの胸部装甲が、さらにその内側のショック吸収機構やバリア発生システムが砕け散り、空中に散乱する。間髪入れず、そのまま撃墜しようと動くジュンイチとなのはだったが――
『――――――っ!?』
 目の前の光景に、二人は思わず自らの目を疑っていた。
 砕け散ったブラックアウトの胸部装甲、飛び散った内部のパーツの数々――その奥から顔をのぞかせた“それ”を見て。
 特徴的なデザインの、真紅に輝く結晶体。すなわち――
「“レリック”……!?」
「………………ちぃっ!」
 なのはの言葉に、一瞬ブラックアウトの肩が震えたのを、ジュンイチは見逃さなかった――なのはの動揺のスキをついて後退、ビークルモードにトランスフォームして離脱していくブラックアウトを見送ると、静かにマグナに尋ねる。
「…………見逃した方が正解、だろう?」
《えぇ。
 アイツ自身を撃墜できれば問題はなかったでしょうけど……あぁも外装がはがれた状態じゃ、流れ弾が“レリック”本体に行かない保証はなかったから》
「だよなぁ……」
 答えるマグナの言葉に、ジュンイチはつぶやいてため息をついた。
 周囲への警戒を怠らないまま、自嘲気味につぶやく。
「まったく……なんてこったい。
 オレ達はずっと……“オリジナルのレリックシステム”と戦ってたワケだ」
《まさか、システムを解析していた存在がいたとは、私も思わなかったわ》
「そんなヤツがいるとしてもスカぐらいだと思ってたからなー。
 さすがはギガトロン、ってところか」
 つぶやき、ジュンイチは意識を切り替えた。頬をパンパンッと叩き、気合を入れ直す。
「まぁ、その話は後だ。
 今は周りを飛び交ってるザコ達の大掃除をしなくちゃな」
《えぇ……》
 ジュンイチの言葉にマグナが同意し――彼らはチンクやなのはを導くように飛翔、突撃する――
 

 しかし、彼らは気づいていなかった。
 

 戦場から、瘴魔軍がいつの間にか姿を消していることに――

 

「ジーナさん、入れそう?」
「もうちょっと、待ってください……!」
 一方。ノイエ・アースラのアナライズルーム――尋ねるあずさに、ジーナは端末に向けてすさまじいスピードでのタイピングを続けながらそう答えた。
 二人は現在、ザイン達の占拠した廃棄ステーションへのハッキングを実行中――あずさの“四神”をサポートにつけてもらい、処理能力を引き上げた端末でアクセスを試みていた。
 その標的は、廃棄ステーションの中枢システム――今回の事態に際し、はやてはなんとかザインの掌握下に置かれたデブリを無力化できないかと考え――そこでふと疑問に気づいた。

 そもそも、ザインはどうやって警告のデブリを地上に落としていたのだろう?

 瘴魔と言っても、神将と言っても生身の人間だ。ステーションの周囲すべてのデブリを操ることなど不可能だろう。
 そこで考えた可能性が、“ステーションの牽引トラクタービームを利用しているのではないか”というもの――そこで、ステーションのシステムを掌握、デブリを無力化しようと急遽ジーナが呼び寄せられ、こうしてハッキングによる強制アクセスが試みられることになったのである。
 これでもジーナは地元の世界では名の知れた善玉ハッカーホワイトハットだ。当初はミッドのプログラム独特のセキュリティ構築パターンに苦戦したものの、すぐにその攻めどころを理解し、セキュリティをすり抜けてシステムの奥へ奥へと入り込んでいく。
「メインシステム……捕獲完了!」
 そして、ついにファイヤーウォールを完全突破。システムの内部へと侵入を果たし――
「――――――っ!?」
 それを発見した。その意味を理解し、同じく気づいたあずさと顔を見合わせる。
「何、これ……!?」
「ジーナさん……?
 何か、トラブルでもあったんですか?」
 尋ねるのは、敵の迎撃のために出撃していったはやてとビッグコンボイに代わりブリッジをまとめるグリフィスだ。彼の問いに答える形で、ジーナは状況を説明する。
「ハッキングには成功しました。
 けど……これを見てください!」
 言って、ジーナは“それ”をブリッジのメインモニターに転送。同時に出撃している各隊長達にも送信する。
 表示されたのは、デジタルの時刻表示――ただし、その数字は時を刻んで増えていくのではなく、逆にずっと減り続けている。
 つまり、この時刻表示が意味するのは――
〈何や? コレ。
 カウントダウン……?〉
 通信越しにつぶやくはやての言葉に――ジーナは答えた。
「それ……」

 

「ステーションの、自爆装置です」

 

『――――――っ!?』
 その言葉に――ブリッジの空気が凍りついた。
「ど、どういうことですか!?
 私達をここに呼びつけておいて、ステーションを吹き飛ばすって!?」
「わかんないよ、そんなの!」
 思わず声を上げるシャリオだったが、そんなことはハッキングした本人達が一番よくわかっていた。言い返すようにあずさが答え、ジーナも真剣な表情で画面と向き合う。
「確かなのは、そのまま放っておいたらステーションが自爆する、ってこと、それだけです!」
「解除できるんですか?」
「やってみます!」
 グリフィスに答え、ジーナは再びアクセスを開始。自爆システムのありかを探っていく。
 そのまま、耐え難い沈黙の中作業を進めることしばし――
「………………捕獲完了。
 自爆システムのコード入力システムを発見!
 解除コードを解析……出ました!」
 ジーナの手にかかれば、すでに進入を果たしたシステム内でこの程度のことをこなすのは朝飯前だ。あっというまに解除の準備を整え、
「止まりな、さいっ!」
 コードを打ち込んだ。システムが命令を正しく受け取り、発信を示すメッセージが表示される。
 しかし――
「そんな……!?」
「ウソでしょ……!?」
 その結果は予想外のものだった。打ち込んだジーナも、サポートに徹していたあずさも、驚愕に目を見開く。
「システムは掌握してる……解除パスも打ち込んだ。システム上の結果も“解除”になった。
 なのに……カウントダウンが止まらない!?」
「どうなってるの!? コレ!」
 システムは確かに正常に作動しているのに――今度はあずさがコードを入力。再びシステムが自爆システムの解除命令を発するが、やはりカウンターは止まらない。
「どういうこと……?
 システムからの命令が、自爆装置に届いてない……!?」
 こうなってくるとジーナ達にも何が何だか――思わず頭を抱えるジーナだったが、
(…………『届いてない』?)
 その一言で――あずさの頭に雷光のごとく閃いたものがあった。
「そうか……!
 状況の把握のために必要なカウントダウンの計測機器だけを残して、他の配線をシステムから物理的に切り離してるんだ……!
 だから、システム上は停止できても自爆システムは止まらない……!」
「ど、どうするんですか!?」
「うーん……」
 カラクリはわかったが、それは逆に「どうしようもない」ことを証明してしまったようなものだ。尋ねるシャリオの問いに、あずさは思わず考え込み――
「あのぉ……」
 ふと手を上げ、声を上げたのはアルトだった。
「私、思うんですけど……」
 

「止める必要、あるんですか?」
 

『………………』
 その一言で――ブリッジの空気が先ほどとは別の意味で沈黙した。
「考えてみれば……そうですよね?」
「あそこに、私達の知り合いがいるワケじゃないし……」
「そもそも、敵の本拠地なんだし、どうなろうと……」
 上からジーナ、シャリオ、グリフィスの意見だ――自爆システムの作動という予想外のアクシデントについあわててしまった、と一同は思わず苦笑して――
「でも……だとしたら、どうしてザイン達はステーションの自爆システムを作動させたんだろう……?」
 逆に新たな疑問がわいてきた。腕組みして、あずさが画面をにらみつけながら考え込み――
「………………っ!
 八神部隊長!」
 新たな事実に気づいたのはシャリオだった。思わず席を立ち、通信の向こうのはやてに向けて声を上げる。
〈どないした、シャーリー?〉
「それが……!」
 聞き返してくるはやてに対し、シャリオは信じがたい面持ちで目の前の画面を見つめていた。
 だが、観測されたデータはすべて、ここに映し出されたものが真実であると告げていた。動揺を懸命に抑え、報告する。
「衛星軌道上、廃棄ステーションのすぐ目の前に――」
 

「本局の次元航行艦隊が出現しました!」

 

「なんやて!?
 クロノくん!?」
〈し、知らない!
 ボクはこんな動きがあるなんて、何も聞いてないぞ!〉
 シャリオからの報告に、あわててはやてが問いただすのは、状況の把握のために回線を開きっぱなしにしていたクロノだ――しかし、クロノにとってもこの事態は予想外だったようだ。あわてて首を左右に振り、否定の声を上げる。
「けど……艦隊は実際に現れてる。
 本局の方で足並みがそろってないんか……!?」
 どうしてそんなことになっているのか、まったく事態が呑み込めない。困惑もあらわにはやてがうめき――
「もしかして……」
 不意に、共に戦っていたライカがある可能性に気づいた。確認するようにはやてに尋ねる。
「ねぇ、はやて……
 そもそも、局があたし達をザインに売り渡したのって、セイレーンが“淫欲ラスト”で一般人を大量に操って世論を操ったのが決め手になったのよね?」
「そうですけど……それがどうかしたんですか?」
 聞き返すはやてに対し、ライカは簡潔にその事実を告げた。
「セイレーンって……本局の中でも一度、“淫欲ラスト”を使ってるわよね?」
『………………あぁっ!?』
 

「フフ〜ン♪ 誰も彼も甘いわねー。
 私の“淫欲ラスト”の洗脳能力の根本は“催眠術ヒュプノシス”――暗示である以上、一度かけちゃえば後のかけ直しはけっこう楽なのよね♪」
 廃棄ステーションに向かう本局艦隊――その帰艦のブリッジで、セイレーンは艦長席に座り余裕の態度を見せていた。
 本来そこに座るべき艦長は、物言わぬ肉塊と化して足元に転がっている――が、そのことに対して騒ぎ立てる者はいない。
 なぜなら、ブリッジクルーのみならず、この艦の、艦隊のすべての人間が彼女の“人形”と化しているのだから。
「まぁ、おかげでこうして本局の艦隊を持ち出して来れてるワケで、おバカ様々ね。
 さぁて、さっさと“お仕事”を終わらせちゃいますか♪」
 不敵な笑みと共にうなずいて――セイレーンは立ち上がり、指示を下す。
「全艦、攻撃用意! 全砲門開け!
 目標――」
 

「廃棄ステーション!」
 

〈艦隊、ステーションに照準! 砲撃体勢です!〉
「えぇっ!?」
《どういうこと!?》
 シャリオからの報告は、なのはの元にも届いていた。今まさにステーションを攻撃しようとしている本局艦隊の様子を知らされ、なのはやプリムラが声を上げると、
「心配はない」
 そう答えるのはチンクである。
「あの程度の艦隊の火力では、あのステーションを叩くにはおそらく足りまい。
 何のつもりかは知らないが……あの攻撃は徒労に終わる」
「そ、そっか……」
《よかったぁ……》
 チンクの言葉に、なのは達は思わず安堵の息をつくが、
(本当に……そうか……!?)
 ジュンイチはそう簡単に納得できなかった。傍らに展開したウィンドウに詳細な情報を表示し、その意味を読み解こうと思考をめぐらせる。
「チンクの見立ては正しい。あの艦隊の火力じゃ、ステーションを破壊するには確かに足りない……
 けど……だとしたらどうして攻撃をかける? アレをあの艦隊で破壊するつもりなのだとしたら、破壊を後押しする“何か”が別になきゃ……」
 思考がつい口をついて流れ出る。考え込みながら、ジュンイチは無意識の内に自らの考えを言葉としてつむぎ出し――
「――――――っ!
 ちょっと待ってください!」
 そんな彼に口をはさんできたのはなのはだった。
「あの艦隊の砲撃じゃステーションは破壊できないけど……
 ……でも、“何か別の力と一緒に使えば”……」
 そうつぶやくなのはの声は戦慄に震えている。
 自らの口にした『別の力』に心当たりがあったからだ。
「そうか……! そういうことだったんだ……!」

 そんな彼女達のはるか頭上、衛星軌道上で、艦隊の向けた砲門すべてに光が生まれ――

「そのための――」

 

 放たれた砲火が、廃棄ステーションに降り注ぎ――

 

「自爆システム!」

 

 同時、自爆システムのカウントが0を刻んだ。

 

 巻き起こった爆発は外側と内側から――通路という通路を、空間という空間を、紅蓮の炎が飲み込んでいく。
 時間にして1秒も要らず、内側のすべてが灼熱の渦で満たされ、行き場を失った炎は外郭を引き裂いて外部へとあふれ出していく。
 岩石と金属の塊は、一瞬にして炎の塊へとその姿を変えて――まるで力を溜めこむようにわずかに縮んだ後、轟音と共に弾け飛んだ。
 大爆発を起こし、ステーションは自らの内に生まれた膨大なエネルギーをまき散らし、四散する――だが、破壊はそれだけに留まらなかった。
 ステーションの大爆発によって発生した衝撃波が、周囲のデブリ群を巻き込んだのだ。ほとんどない重力によって軌道上に留められていた宇宙のゴミ達が、巻き起こった衝撃によって吹き飛ばされ、押し流されていく。
 ステーションとは反対側、すなわち――

 

 ミッドチルダの地上に向けて。

 

〈ステーション、大破!
 衝撃波で、デブリが一斉に落下を開始しました!〉
「やっぱり……!」
 シャリオからの報告は、自分達の辿りついた推測が今まさに現実となったことを示していた。ジュンイチが、チンクが息を呑む中、なのはは苦々しく顔をしかめながらそううめいた。
「瘴魔軍め……!
 デブリを一斉に落とすために、ステーションを破壊してその衝撃波を利用したというのか……!?」
「それだけじゃねぇよ」
 つぶやくチンクだが、ジュンイチはさらにその裏に隠された“もうひとつの意味”にも気づいていた。
「確かに、あのステーションを破壊するために、ザインはステーションの自爆システムをも利用した。
 けど……“外から見えたのは艦隊の砲撃だけだ”
「――――――っ!
 そうか……事実はともかく、見た目的には!」
「あぁ」
 気づいたなのはの言葉に、ジュンイチはうめくように答えた。
「事情を知らない人達の目には、あのステーションは本局の艦隊の攻撃で破壊されたように見えたはずだ。
 そして、その衝撃で一斉に降り注ぎ始めたデブリ群……!」
 なのはに答え、ジュンイチは頭上に現れ始めた無数の赤い光点をにらみつけた。
「ザインのヤツ……これが狙いだったんだ……!
 アイツは……最初からデブリを地上に落とすつもりだったんだ!
 それも……本局にすべての責任をかぶせる形で!」
 

〈お仕事完了!
 私はもう“帰る”から、後はよろしくねー♪〉
「了解した」
 通信が切られると同時、セイレーンの“力”の気配が本局艦隊旗艦からかき消える――セイレーンの転送離脱を確認し、シードラゴンは衛星軌道上で、自らの“力”で超高度の過酷な環境から身を守りながら息をついた。
「さて…………」
 セイレーンは自らの役目を終えた。次は自分“達”の番だ。振り向き、共にこれからの“仕事”をこなす相棒に声をかける。
「モビィ・ディック」
「あん?
 なんだ、ようやく出番か? ふわぁ〜あ……」
「………………」
 この男、今までその身をこの高度に留め、“力”でその身を守ったまま“昼寝していた”というのか――怠けているのかがんばっているのか、イマイチわからないモビィ・ディックに、シードラゴンは顔をしかめながらも指示を下す。
「出番だ。
 さっさと起きて支度しろ」
「へいへい。
 まったく、めんどくせぇめんどくせぇ」
 シードラゴンの言葉に、モビィ・ディックは白鯨の描かれたデバイスカードを取り出す――そしてシードラゴンも、自らのデバイスカード、竜を描いたそれを取り出した。
「すまんな。
 戦う意志のない者を討つのは主義ではないが――主命だ。悪く思うな」
 セイレーンのいなくなった今、そこに意志を持つ者はいないはずだが――それでもそう伝える。本局艦隊に向けてそう告げると、シードラゴンは改めて宣言した。

ひざまずかせろ――“傲慢プライド”!」

「好きにしろ――“怠惰スロウス”」

 シードラゴンが、そしてモビィ・ディックが告げて――二人のデバイスカードが光を放った。
 光は二人の後ろに集まり、首長竜と白鯨を形作る。その次の瞬間、それらは“人型に姿を変えて”――
 

 3秒後、本局艦隊は世界から消滅した。

 

「本局の艦隊が……!?」
「この“力”……シードラゴンか!? 他にももうひとり……!?
 ヤツめ、オレ達の前から消えたかと思ったら!」
 ほんの数秒で、頭上に感じていた多くの命が一掃された――あまり感じたくなかった“現実”を感じ取り、スバルとマスターコンボイは思わず唇をかんだ。
「それよりも、問題はデブリだよ!」
「そうだな……
 アレをなんとかしないと、戦いどころじゃないぞ!」
 そんな彼らに告げるのはこなたやノーヴェだ。デブリは大多数がステーションの下方に配置されていたことから、そのほとんどがこちらに向けて落下してきている。確かにアレをどうにかしなければ、戦いを続ける、離脱する以前に生き延びることすら困難な状況にもなりかねない。
 見れば、ディセプティコンも、ユニクロン軍も、そしてトーレやウーノ達スカリエッティ一味も異変に気づき、上空からこちらに向かっているデブリ群をその視界に捉えようと上空を見回している。
「それだけじゃないよ!
 爆発の衝撃で、相当遠くまで飛ばされたヤツだって、ひとつや二つじゃない!
 もし、街にでも落ちたりしたら……!」
 そして、問題はデブリが落下したその場合――声を上げ、きびすを返すフェイトだったが、
「待て!」
 そんな彼女を呼び止めたのはジュンイチだった。
「あさっての方向に飛んだのはほっとけ!」
「どうして!?
 アレが落ちたら――」
「大気圏突入のコースをたどるワケじゃねぇんだ! 斜めに落ちれば、その分長く摩擦熱で燃やされて、確実に燃え尽きる!
 それよりも、まっすぐこっちに落ちてくるヤツだ!」
 声を上げるフェイトにジュンイチが答えると、
〈ジュンイチさん!〉
 そんな彼の元に、マックスフリゲートに残っていたすずかからの通信が入った。
〈デブリの落下コース分析、終わったよ!
 今からそっちに送るから!〉
「すまねぇ!」
 ジュンイチがうなずくと同時、マグナブレイカーのコックピットに座る彼の目の前に、分析データを表示したウィンドウが展開される。
 そして――ジュンイチはそれを迷わず周囲の面々にも転送した。
 自分の保護下にいるノーヴェ達やなのは達機動六課はもちろん、ディセプティコンやユニクロン軍、ウーノ達にもだ――さらに全周波数帯で通信をつなぎ、告げる。
「今全員にばらまいたデータは、今この瞬間にもミッドチルダに降り注ごうとしているデブリの落下軌道の予測データだ。
 この戦場を中心に、半径10kmが被害確定圏内、半径30kmが被害発生が予測される警戒圏内と算出されてる」
 相手からの反応を待つ必要はない。かまわず続ける。
「つまり、ここを中心とした実質半径40kmの範囲にデブリの雨が降り注ぐ。
 別に『ミッドチルダを守るために協力しろ』とは言わねぇよ。オレ自身、そんな意識はさらさらないしな。
 逃げるなり身を守るなり、どうするかは……」

 

「自分達で決めろ」

 

「よっしゃ、いくぜ!」
「おーっ!」
「お言葉に甘えて、好きにさせてもらうっス!」
 そのジュンイチの言葉に真っ先に答えたのはノーヴェやホクト、ウェンディ――ディードやセイン、そしてルーテシアの指示を受けたガリュー達と共に、勢いよく上空へと舞い上がる。
「おーおー、空一面デブリの反応だらけじゃないか!」
「狙う必要がない、というのは、射撃の苦手な私には助かります!」
 前方を視界に捉えたカメラアイの解析結果は、デブリの反応で埋め尽くされている――不敵な笑みを浮かべるセインにディードが答え、
『フォースチップ、イグニッション!』
「ダイバー、フルバースト!」
「フェンリル、スラッシュ――フライ!」

 二人の必殺技が口火を切った。セインの一斉砲撃とディードの二連光刃が上空のデブリ群と真っ向からぶつかり合い、爆発の嵐を巻き起こす。
「次! ウェンディ!」
「りょーかいっス!
 フォースチップ、イグニッション!」
 必殺技を放ったスキを埋めるべく、セインの指示で動くのはウェンディだ。セインの脇を駆け抜けながらフォースチップをイグニッションし、
「サイクロン、マグナム!」
 放たれた“風”の弾丸が、迫るデブリ群を吹き飛ばす!
「私らもいくよ!
 ビッグコンボイ!」
「おぅっ!」
 デブリに立ち向かうのはノーヴェ達だけではない。当然六課も動く――その先陣を切るのは部隊長コンビだ。はやての言葉にビッグコンボイが応え、
「フレースヴェルグ!」
「ビッグキャノン――GO!」

 二人の砲撃が、デブリ群の一角をまとめて吹き飛ばす。
「シュランゲバイセン!」
「スターブレード!」
「トライデント、スマッシャー!」
「ストーム、カリバー、ブレイカー!」

 もちろん、他のメンバーも負けてはいない。シグナムとスターセイバー、フェイトとキングコンボイ――ライトニングの隊長陣が一斉にデブリに攻撃をかけ、
「カイザー、スパルタン!」
 ライカもまた、“装重甲メタル・ブレスト”の各所に備えた精霊力砲を斉射し、デブリ群を蹴散らしていく。
 幸いなことに相手はデブリだ。隕石と違って密度は低いしオマケに軽い――大気圏内に入れば空気抵抗で落下速度は鈍るし、落下したとしても巨大なクレーターができるような衝撃もない。
 人間の反応速度でも狙い撃てるし破壊も簡単。トランスフォーマーの面々だけでなく生身の人間であるはやて達も迎撃できているのはそのためだが――問題がないワケではない。
 いかんせん数が多すぎる――どれだけ撃っても、デブリの雨は一向にその勢いを弱める気配はない。
 デブリ群を大きく穿つような攻撃ができればまだやりやすくなるのだろうが、デブリの雨は広範囲にわたって降り注いでいる。必然的に火力を分散せざるを得なくなり、そんな余力は持てそうにない。
「ダメだ……!
 止めきれない!」
「数が多すぎるよ……!」
「だからって、あきらめられないでしょ!
 転送魔法での離脱ができない以上、生き残るためにはこの場を耐えしのぐしかないのよ!」
 近接戦闘用の機体だが、アイゼンアンカーやシャープエッジにだって最低限の火力は与えられている――懸命に迎撃するエリオやキャロだが、それでも事態は一向に好転しない。つい弱音を吐く二人を叱咤し、ティアナもジェットガンナーの火力を総動員してデブリの迎撃にあたる。
 だが――それでも、この破壊の雨の終わりはまだまだ見えそうになかった。
 

「アイツら……バカ正直にデブリに向かっていきやがった」
「バカだねぇ、アイツらも。
 まだまだデブリの地上到達には時間があるんだ。とっとと逃げりゃいいのによ――自分達に向かってくるのだけを叩いてさ」
 その光景を、ディセプティコンの面々は部隊を集結させて眺めていた。ドール部隊にデブリ群を警戒させ、ジェノスラッシャーの言葉にバリケードが同意すると、
「身を守るためだけではないからだ」
「………………?
 どういうことでしょうか……?」
 口をはさんだのはマスターギガトロンだった。聞き返すジェノスクリームに答える形で、一同の前にウィンドウを展開、そこに周辺の地図を表示する。
「柾木から提供された被害予測データ――被害確定圏の外だが、被害予測圏内に何ヵ所か街がある。
 だからヤツらはデブリをひとつでも多く撃墜し、自分達だけでなくその街も生き残れるように戦っているんだ」
「正義の味方の悲しい性ってヤツですかい」
「まったく、甘い連中だ」
 肩をすくめるジェノスラッシャーのとなりでショックフリートも肩をすくめるが、
「そう――確かに甘い」
 そう断言しながらも、マスターギガトロンは鋭い視線で六課やジュンイチ一派の戦いぶりを見つめていた。
 しかし、その心中は決して穏やかなものではなくて――
(だが――その“甘さ”を貫くのは容易なことではない。
 周りの仲間も、さらには周辺の民間人までも、自分を守るのと並行して守らなければならないのだから……)
 それが、まるで「お前はできないのか」とこちらを見下しているように思えて――知らず知らずのうちに、マスターギガトロンは腕組みしたその手を強く握り締めていた。
 

「レイジングハート! プリムラ!
 バスターとシューターの同時運用――いけるね!?」
〈All right.〉
《もちろん!》
「オレ達もいくぜ!
 フェザーファンネル!」
「ゆけよ――ブラッドファング!」
 もちろん、なのはやジュンイチ、チンクも参戦――それぞれに広域攻撃を仕掛けるが、彼らの攻撃をもってしてもデブリ群を止め切ることができない。
「やるぜ、ホクト!」
「おぅともよーっ!」
『ハイパー、ブレイク、サイクロン!』
「マスターコンボイさん、こなた! あたし達も!」
「おぅ!」
「オッケイっ!」
『ハイパー、ディバイン、テンペスト!』
 そして、ノーヴェとホクト、スバル達も必殺の砲撃でデブリを迎撃。かなりの広範囲に渡ってデブリを薙ぎ払うが、あくまで“広い範囲に攻撃した”だけだ。吹き飛ばしたのはデブリ群の表層だけで、すぐにその奥のデブリが自分達に向けて降ってくる。
「マズいよ! このままじゃ押し切られる!」
「あきらめるな! 死にたくなかったらな!」
 うめくこなたに言い放ち、再度ディバインテンペストを放つマスターコンボイだったが――そんな彼らの砲撃を抜け、難を逃れたデブリのひとつが迫り来る!
(直撃――――――っ!?)
 回避も迎撃も間に合わない。一瞬にしてそう理解したスバルの背筋が凍りつき――
 

 眼前を“何か”が駆け抜けた。
 

 瞬間、自分達に直撃するはずだったデブリが粉々に粉砕された。カイザーマスターコンボイに迫った脅威を一瞬にして切り払い、彼らの前に舞い降りたのは――
「マスター、ギガトロン……!?」
「恩などいらんぞ。
 オレが守ったのは貴様らじゃない」
 うめくようその名をつぶやくマスターコンボイに答え、マスターギガトロンは右手に魔力弾を生み出し、
「オレが守ったのは――オレ自身のプライドだ!」
 解き放った。魔力弾は飛翔中に破裂、無数の魔力弾となってデブリ群へと降り注いでいく。
「貴様らにできることがオレにできんはずがないからな。
 まぁ、たかがゴミ掃除でも、オレの力を見せつけるエサくらいにはなるだろう」
「勝手なことを……!」
 うめくマスターコンボイだったが、かまわない――マスターギガトロンは不敵な笑みと共に降り注ぐデブリ群を見上げた。
「まったく、瘴魔軍め……人の支配する予定の星で、何をしてくれる!
 総員攻撃開始! デブリをすべて破壊しろ!
 エアドールを前面に出せ! 最悪ぶつけてでも止めろ!
 我らがものとなるであろう星を守るため、そして我々が今を生き延びるため――持てる力のすべてを振り絞れ!
 ディセプティコン――Attack!」
『了解!』
 そして――マスターギガトロンの指揮の元、ディセプティコン全軍がデブリ迎撃に加わった。
 

「あー、もうっ!
 さっきまでとは別の意味でキリがない!」
「しょげんな、柊! まだまだくるぞ!」
 先ほどまでは無数のザコ敵、そして今は無数のデブリ――ボヤかずにはいられないかがみにみさおが答え、彼女達も引き続きデブリ迎撃に全力を注いでいく。
 と――そんな彼女達の目の前で、デブリの群れが別方向からの砲火の雨にさらされた。
 その指揮をとっているのは――
「ノイズメイズさん!?」
「ボサッとすんな! てめぇら!」
 驚き、声を上げるみゆきだが、そんな彼女に対し、ノイズメイズは間髪入れずに叱咤の声を上げる。
「あんなモノが降らされたら、こっちまで巻き添えだろうが!」
「お前らだけに任せておけるか! ワシらもやったるわい!」
 言って、サウンドウェーブやランページもシャークトロンを率いて迎撃に加わる――が、そんな彼らの主張におかしな矛盾を聞き取ったのはかがみである。
「って、アンタ達、ワープで逃げりゃいいじゃないの!
 アンタ達のワープは妨害されてるワケじゃないんでしょ!? 原理が違うんだから!」
「シャークトロンが逃げられずに破壊されるだろうが!」
「せっかくまた数がそろったのに、また全滅なんてシャレにならんじゃろうが!」
 実に彼ららしい理由だった。
 

「フッ、貴様らに、空中戦の手本というヤツを見せてやる!」
「いらないよ、そんなの!
 あたし達はあたし達でやるんだから!」
 そして共闘の動きはこちらでも――トーレの言葉にホクトが言い返し、ギルティブレイクコンボイとマグマトロンは互いに競い合うようにデブリの雨を蹴散らしていく。
 さらに、
「オットー!」
「うん!
 IS発動――“レイストーム”!」
 ディードの合図でオットーがISを発動。。放たれた光の渦がデブリを次々に粉砕、時折発生する取りこぼしを、ディードがツインブレイズの機動性に物を言わせて斬り飛ばしていく。
「ディエチ! そっち行ったぞ!」
「わかってる!」
 そして、砲撃に特化した機体を操る二人も互いに補いながらの迎撃だ。セインの言葉にディエチがうなずき、アイアンハイドとデプスダイバーが全身の火器を立て続けに撃ちまくる。
 そして――
「柾木!」
 なのはと協力してデブリ迎撃にあたっていた二人が動く――ジュンイチに声をかけ、チンクは彼のすぐとなりに舞い降りた。
「私を使え!」
「お前を……?」
 一瞬、何のことを言っているのかわからなかったが――ジュンイチはすぐにチンクの意図を理解した。
「……なるほど。了解だ。
 ぶちかますとしますか。オレとお前の合体攻撃!」
 

「マグナブレイカー!」
「ブラッドサッカー!」

『爆裂武装!』

 ジュンイチとチンク、二人の声が交錯し、マグナブレイカーとブラッドサッカーが飛翔する。
 そして――ブラッドサッカーがビーストモード、ブラッドバットへと変形。マグナブレイカーの頭上に飛び出すと自らの頭上でその翼を重ね、それ自体を巨大な刃とした一振りの大剣へとその姿を変える。
『マグナブレイカー、ブラッドザンバーモード!』
 目の前に下りてきたその大剣をマグナブレイカーがつかみ、ジュンイチとチンクが名乗りを上げ、
『《フォースチップ、イグニッション!》』
 そのまま間髪入れずに必殺技に移行した。ジュンイチとマグナ、そしてチンクの叫びが交錯し――彼らの元にミッドチルダのフォースチップが飛来した。そのまま、マグナブレイカーのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
 それに伴い、マグナブレイカーの両足、両肩、そして両手でかまえたブラッドザンバーの装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
《フルドライブモード、セットアップ!》
 ジュンイチと共に機体のエネルギーを制御しているマグナが告げ――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
《チャージ、アップ!
 ファイナルブレイク――Stand by Ready!》
「いっくぞぉぉぉぉぉっ!」
 マグナからのGOサインを受け、ジュンイチは両手でブラッドザンバーを振り上げる――そこにブラッドファングが殺到、ブラッドザンバーの刀身を包み込むように集まり、より巨大な刀を形成する。
 ブラッドザンバーに集まったブラッドファング、そのひとつひとつにフォースチップの“力”が流し込まれていき――
『《ブラッドザンバー、グランドフィニッシュ!》』
 ジュンイチ達がブラッドザンバーを横薙ぎに振るうと同時、すべてのブラッドファングが解き放たれた。ブラッドザンバーの軌跡をたどるように撃ち出され、デブリ群へと降り注ぎ――吹き飛ばす!
 その破壊力や攻撃範囲はすさまじく、降り注ぐデブリの群れを今まで以上に大きく穿ち、しかもその破壊を広範囲に広げていく――
「す、すごい……!」
「ジュンイチとチンクが、合体攻撃……!?」
 その圧倒的とも言える、大迫力の大破壊に、スバルやディエチがそれぞれの場所で感嘆の声を上げるが――
「なのは!」
「はいっ!」
 まだ終わりではない。ブラッドザンバーをかまえたマグナブレイカーの背後で、巨大な力がふくれ上がる――自らの眼前に巨大な魔力スフィアを作り出したなのはが、ジュンイチの呼びかけに答えてレイジングハートをかまえる。
 そのスフィアは、今までの戦闘で大気中に放出された魔力をかき集めたもの。すなわち、これから彼女が放つのは――
「スターライトぉっ! ブレイカぁぁぁぁぁっ!」
 なのはの誇る最強砲撃魔法――解放された桃色の閃光が、ジュンイチとチンクが開けたデブリ群の穴に叩き込まれた。大爆発を巻き起こし、その周囲のデブリもまとめて吹き飛ばす!
「なのはちゃん達が大穴開けてくれた!」
「あと一息だ!
 総員、攻撃の手をゆるめるな!」
 立て続けに叩き込まれた大規模破壊の一撃は、デブリの総数を大きく減らした。はやてやマスターギガトロンの号令の響く中、全員が残る力を振り絞ってデブリを迎撃していく。
 そして――
〈フェイトさん達の周囲のデブリに、都市部への直撃コースをとっているものはありません!
 他の区画の援護に回ってください!〉
〈スバル、こなた! そっちはあと一息だよ!〉
 そんな彼らの奮闘の甲斐あって、デブリの群れは無事に退けられそうだ。状況を逐次報告するシャリオやアルトの報告も、朗報を次々にもたらしてくれる。
「なんとか、なりそうだな……!」
「あぁ……よかった……」
 もう何度グランドフィニッシュを放っただろうか――息をつくジュンイチの言葉に、チンクもブラッドザンバー形態のまま、息を切らせてそう答える。
「なのはもお疲れ。
 スターライト、一発だけだったとはいえけっこうデカいの撃ったんだ――そうとうキテるだろう?」
「に、にゃはは……実は、かなり」
 大仕事はまもなく完遂。油断なく迎撃を続けてはいるが、軽口のひとつや二つは許されるだろう。一足早く労いの言葉をかけるジュンイチに、なのはは苦笑まじりにうなずいて――

 

 

〈何よ――コレ!?〉

 

 

 ノイエ・アースラから悲鳴が上がったのは、その直後のことだった。
「シャーリー!?
 どうしたの!? 何があったの!?」
 突然の悲鳴に、あわてて状況を確認しようとするなのはだったが――
「上を見ろ、高町なのは!」
「最後の最後で……とんでもないモノが残っていやがった……!」
 いち早く、チンクとジュンイチが状況の変化に気づいていた。二人の言葉に、なのはは頭上を見上げ――すべてを理解した。
 今までのデブリとは比べ物にならないほどに巨大な――ノイエ・アースラよりも何倍も大きな岩と金属の塊が、デブリ群の迎撃によって上空に立ち込めていた爆煙の向こう側に姿を現したのだ。
「な、何なんですか!? アレ!?」
「おそらく……ステーションの残骸だ。
 例の自爆の際、すべて破壊されたワケではなかったんだ……!」
 なのはに答えるチンクの表情も硬い。もしアレが地上に落ちたらと考えると、正直な話ゾッとする。
 高度を計測したところまだ軌道上にいるようだが、それは確実にこちらに向けて高度を下げてきている。このままでは――
《なの姉! もう一回スターライト!
 アレをなんとか壊さないと!》
「ムリだよ……!
 いくら私のスターライトでも、あんな大きなの……!」
 プリムラの提案に顔を青ざめさせたままそう答え――なのははふと思い立った。はやてへと通信し、尋ねる。
「はやてちゃん!
 ノイエ・アースラにアルカンシェルはついてないの!?」
〈ついてるけど……!〉
 なのはに答え、通信ウィンドウの向こうのはやては頭上の空にその存在感を存分に示しているステーションの残骸を見上げた。
 艦長として、ノイエ・アースラの仕様はすべて頭に叩き込んだ――だからこそわかる。
「ついてるけど……あの大きさを完全に破壊するんは、現行モデルのアルカンシェルでもムリや……!」
「そんな……!」
 それはつまり、現在自分達の有するあらゆる攻撃があの残骸を撃ち砕くには足りない、ということを示していた。
 一体どうすればいいのか。先ほどまでの希望を一瞬にして打ち砕かれ、なのはは自分の無力をかみ締めて――

 

「………………仕方ねぇ」

 

 口を開いたのはジュンイチだった。チンクとの爆裂武装を解除し、息をついて頭上のステーションの残骸を見上げる。
「…………やっぱ、“この手”しかない、か……」
「ジュンイチさん、何か方法があるんですか!?」
「あの残骸を、破壊できるとでも言うつもりか!?」
「あぁ。
 なんとかする方法は――ある。
 あるけど――」
 詰め寄ってくるなのはやチンクに答えると、ジュンイチは二人に向けて手をかざし――直後、二人の足元に精霊術の術式陣が描き出される。
 これは――
「転送術!?
 ジュンイチさん、これはどういう――」
 ことですか――そうなのはが尋ねきる前に、彼女の姿はジュンイチの視界から消え失せた。
 同時にチンクのブラッドサッカーも――今頃は、それぞれの仲間の元へ無事転送されているはずだ。
「…………ゴメンな。
 でも、近くにいたらきっとオレを止めると思うから……」
 その場からいなくなったなのはとチンクに静かに告げて、ジュンイチは マグナブレイカーのハッチを開き、外に出た。
「全員、残りのデブリを叩きながらマグマブレイカーの後ろまで後退しろ」
 無数に近いデブリを破壊し続けたことで、周囲には粉塵が吹き荒れている――目の中に粉塵が入りそうになり、顔をしかめながら通信回線を開き、告げる。
「巻き込まれてあのデカブツと一緒に“消し飛ばされた”って、オレは一切責任取らないからな」
 

「ジュンイチさん……!?」
 事態を打開する術を懸命に探っていたら、突然なのはが転送されてきた。聞けばジュンイチの仕業だという――彼の男の真意が読めず、はやては思わず彼が残っているであろう方角へと視線を向けた。
「ヤツめ……ステーションをどうするつもりだ……?
 あの男の手持ちの術で、あんな巨大なものを破壊できるものなど……」
 そんなはやての脇でビッグコンボイがうめき――その脳裏に“ある可能性”がよぎった。一瞬にして背筋が凍り、顔を上げて叫ぶ。
「あのバカ……まさか、“ヴァニッシャー”を撃つつもりか!?」
「ちょ………………っ!?」
 ビッグコンボイのその言葉に、ライカの顔から血の気が引いた。
「待ちなさい、ジュンイチ! アンタ正気!?
 こんな状況で“ヴァニッシャー”を撃つつもり!?」
「あかん! ジュンイチさん!
 それだけは……“ヴァニッシャー”だけは撃ったらあかん!」

「………………?」
 ビッグコンボイの言葉に、ライカだけではなくはやてまでもがあわてふためく――通信の向こうで突然冷静さを失った二人の姿に、マスターコンボイは思わず眉をひそめるが、
「あの……八神部隊長……?
 その“ヴァニッシャー”って、何なんですか? あたしも知らないんだけど……」
「何………………っ?」
 疑問の声を上げたスバルの言葉に、マスターコンボイは思わず声を上げた。
 ジュンイチが何をしようとしているのか、自分達はともかく、彼にご執心のスバル達ですら知らないとは珍しい――何やら得体の知れない“イヤな予感”が頭をもたげるのを感じながら、マスターコンボイははやてに尋ねた。
「おい、八神はやて……
 答えろ。あの男は、何をするつもりだ?
 この状況で、あのステーションを止める方法があるというのか?」
〈『止める』んやない〉
 だが、尋ねるマスターコンボイの問いに、はやては静かに答えた。
〈あの人、言ったやないか――『消し飛ばす』って。
 ジュンイチさんは、あのステーションを……“焼滅”させるつもりや〉
「バカな……!?
 どういうことだ!? あの男は機体を放棄して外に出たんだぞ!
 まさか、生身でアレをどうにかできるとでも言うつもりか!?」
 そんなことができるのか――思わず声を上げるマスターコンボイだったが、
〈『できる』……って言ったら、どうや?〉
 対し、はやては迷うことなくそう答えた。
〈あの人の“本気”を知ってる人の統一見解や。
 条件が整った上でなら、あの人の最大破壊力は……〉

 

 

〈戦略兵器すら凌駕する〉

 

 

「さて……やるか」
 腹は決まった。後は実行するだけ――つぶやき、ジュンイチは“装重甲メタル・ブレスト”の翼を広げ、静かに空中に浮かび上がった。
 その足元に精霊術独特の術式陣が展開。両手を前方に差し出し、手のひらを上下で重ね合わせるようにかまえながら呪文の詠唱に入る。

 ―― 見えざる虚空をたゆとうし
滅びを司る龍の王よ
裁きを司る龍の帝よ

 

「“龍帝破焼砲ドラグ・ヴァニッシャー”……柾木の手持ちの精霊術の中でも、文句なしに最強の座に君臨する砲撃術だ」
 そう前置きすると、ビッグコンボイはかがみの映る通信ウィンドウへとへと向き直り、
「柊かがみ。
 実家が神社の貴様は知っているだろう。“八百万やおよろずの神々”については」
〈え? あ、はい……〉
〈ビッグコンボイ副指令、“やおよろずのかみがみ”って……?〉
 うなずくかがみとは対照的に、ティアナは意味がわからず首をかしげる――ミッド生まれでは仕方がないかと息をつき、説明する。
「日本に古くから伝わる考え方でな――生物・非生物を問わずあらゆるものに魂が宿っている、という考え方だ。
 オレ達の生きるこの惑星はもちろん、貴様らがメモ書きで使う筆記用具1本、宿舎のカーテンレールの『シャーッ』ってなるアレひとつに至るまでに意識が、魂が宿っている、ということなのだが……柾木の“龍帝破焼砲ドラグ・ヴァニッシャー”は、その魂を直接攻撃、破壊することで標的の存在そのものを焼き尽くす術なんだ」
〈えっと……どゆこと?〉
〈イマイチよくわかんないんだけど……それとアレが破壊できる、できないって話がどうつながるんだよ?
 今の話、破壊力の説明とか一切してないよね?〉
「今の話でわからんか?」
 疑問の声を上げたのはロードナックル・シロとセインだ。答えて、ビッグコンボイは頭上に迫りつつあるステーションの残骸を見上げた。
「あの術は、そこに宿る魂さえ破壊できれば、あらゆる対象を問答無用で焼滅させることができるんだ。
 つまり、その破壊対象に大きさは関係ない、如何なるものも、あの術の前には等しく破壊される――」
 

「“たとえ、それが惑星サイズの物体であっても、枯れ葉を燃やすが如く焼滅することになる”」

 

 ―― 我らが望みをむさぼりし
邪悪な 人ならざる者に
汝の持ちうる力を示し
永遠トワの滅びをここにもたらせ!

 ジュンイチの呪文の詠唱が完了、彼の手の中に真紅の火球が作り出される。
 そして、ジュンイチは完成した火球を手の中に維持したまま腰だめにかまえ、
「“龍帝破焼砲ドラグ・ヴァニッシャー”!」
 解き放った。ジュンイチの手の中から、すべてを焼き尽くす破壊の“力”が撃ち出される。
 すさまじい熱量を内包させた火球は一直線に空間を駆け抜け――ステーションの残骸に突き刺さった。
 しかし、それっきり何も起きない。火球を撃ち込まれた一角が破壊されただけだ。
 そのまま、誰もが落下する残骸をにらみつけたままの沈黙が一秒、二秒――異変が始まった。
 落下を続ける残骸の内部から何かが震えるような低い音が響き始め――すぐにそれは轟音へと変化した。
 表面のあちこちから亀裂が生まれ、広がっていく。それに伴い、それぞれの亀裂の中央から炎があふれ出し、亀裂に沿って全体に広がっていく。
 やがて、炎は勢いを増し、火柱に変わった。外殻が内部から焼き尽くされ、飛び散ることすら許されずに焼滅していく――
 

 そのわずか数秒後、周りのすべてを薙ぎ払わんばかりの大爆発を巻き起こし――閃光の消え去った時、そこにはほんのわずかな破片すら残されてはいなかった。
 

 考えるまでもない。
 ステーションは、完全に破壊され、焼滅した。

 

 

 “生身の人間の放った砲撃によって”。

 

 

「な、なんという破壊力だ……!?」
「あれだけの岩と金属の塊が、あんな小さな火球一発で……!?」
 その一部始終は、その場の全員が目の当たりにすることとなった。目の前で行われた“大規模”という表現すら生ぬるい破壊に、マスターギガトロンやトーレはそれぞれの場所で驚き、目を見開いていた。
 そして、驚愕しているのは六課の面々も同じで――
「『戦略兵器』……八神はやてがそうたとえたのも納得だ。
 ノイエ・アースラのアルカンシェルですらどうにもならないと思われたステーションを、破片ひとつ残さず焼滅させたあの破壊力……
 あれを見た管理局の頭でっかちどもの対応が目に浮かぶ」
〈うん……〉
 つぶやくマスターコンボイの言葉に、はやては沈痛な面持ちでうなずいた。
〈これで……確実にジュンイチさんは世界を“敵”に回した。
 今までジュンイチさんに目ェつけられてた人達だけやない……地上本部全体が、ジュンイチさんの排除に動き出す……〉
「そんな……どうして!?
 お兄ちゃん、ただみんなを守っただけなのに!」
「守るために“したこと”が問題なんだよ……」
 さすがに、普段の物腰に隠れて聡いところのあるこなたはマスターコンボイやはやての懸念に気づいていたようだ。抗議の声を上げるスバルにそう答える。
「みんなを守るために、先生はあのステーションの残骸を破壊した――“たったひとり”で。
 でもさ、スバル……そんなことができる人って、“世界に何人いるのかな?”」
「………………っ!」
「そういうことだ、スバル」
 ようやく彼らの話している“意味”を理解したスバルが息を呑む――彼女の動揺を感じ取りながらマスターコンボイがうなずき、はやてが続ける。
〈今までは、どれだけ暴れてもそれが“人にできることのスケールアップ版”の域を出ることはなかった……だから地上本部もある程度は黙認できてきた。
 せやけど、その認識はこの一撃で完全に塗り替えられたはずや。
 いくら“そういう性質”の術やったって説明しても、“結果”が先行した人達にはきっと届かへん。
 “生身でアルカンシェル以上の破壊力を発揮する”……そんな人間を、怖がらないはずがない……〉
〈しかも、その力は兵器などの道具を使ったことによるものじゃない。アイツの術……アイツの“技”によるものだ。
 その“力”が兵器なら取り上げればいい。部隊なら解散させればいい……だが、“技”である限り、ヤツからその“力”を取り上げることはできない。
 自分達に御せぬ存在であり、しかもその気になれば自分達を簡単に抹殺できる“力”を持つ者……政治屋どもが、そんな(自分達にとって)危険な存在を野放しにするはずがない〉
「もはや、管理局は……少なくともこの脅威を直接目の当たりにしたであろうミッド地上本部は、柾木を“味方”と見ることは絶対にないだろう。
 それどころか、自分達を脅かす最大の脅威として、全力で排除に乗り出すはずだ。
 自分達の脅威――その『自分達の』の部分を『世界の』に置き換えて、な……」
「そんなの……!」
 マスターコンボイのその言葉に、スバルは強く拳を握りしめた。
「そんなのって、ないよ……!
 お兄ちゃんはただ、みんなを守ろうとした、それだけなのに……!」
 苦しげに、うめくようにつぶやくスバルに、誰も、何も告げることができなくて――

 

 六課をザインに引き渡すことは避けられた。

 

 降り注ごうとしていたデブリは阻止することができた。

 

 

 しかし――

 

 

 

 

 彼らの間には、この難局を乗り切った達成感など、微塵も存在してはいなかった。


次回予告
 
ジュンイチ 「お前、どうしてハイパーゴッドオンなんかできるようになったんだ?」
チンク 『とっくにご存じなんだろう?』
ジュンイチ 「はい?」
チンク 『穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた』……えっと……」
ジュンイチ 「………………あー、チンク。
 オレの趣味に合わせてネタ振りしてくれたんだろうけど……カンペ見ながらじゃいろいろと台無しだぞ?」
チンク 「う、うるさいっ!」(←真っ赤)
ジュンイチ 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第101話『揺れる世界〜ただ信じる道を〜』に――」
二人 『ハイパー、ゴッド、オン!』

 

(初版:2010/02/27)