「……どうだった?」
「あかんわ」
先の戦いからすでに三日――地上本部仮庁舎での会議を終え、ノイエ・アースラに戻ったはやては、ミーティングルームで出迎えたビッグコンボイにそう答えた。
すでにそこには隊長格やフォワードメンバー、新たにあやのやみさおを加えたカイザーズ、そして各バックヤードの主任スタッフ――六課の主だったメンバーが勢ぞろいしていた。ミーティングルームの正面、部隊長の席に座り、はやては苦々しく口を開いた。
「私以外の満場一致で、地上本部は『ジュンイチさんの確保、不可能なら破壊』の方向で意見がまとまった。
議論の必要すらない――まさに即決やったわ」
言って、はやてはため息をつき――そんな彼女に、マスターコンボイが口をはさんだ。
「『不可能なら“破壊”』か。
連中は、もはやあの男を“人”としてすら見ていないか」
「ちょっと、マスターコンボイ」
マスターコンボイの言葉に、スバルやギンガの肩がわずかに震える――あわててこなたがたしなめるが、当のマスターコンボイはどこ吹く風だ。
そんな中、息をついて口を開くのはイクトである。
「おそらく……ザインはこの展開すら想定していたんだ。
デブリをちらつかせて脅迫し、六課がすんなり手に入ればよし。
他の勢力が介入してきたならデブリを降らせてまとめて叩く。
そしてそれすら防がれても――ステーションの破片を叩くために“ヴァニッシャー”を撃ったジュンイチが世界から孤立することになる……
事態がどう転んでも利になるよう、ヤツは策を練り上げていたんだ」
「あたしらは、アイツの手のひらの上で踊らされてた、ってワケかよ……!」
頬に絆創膏を貼ったヴィータが、苛立ちもあらわにそううめく――シードラゴンによって早々に撃墜され、どうすることもできなかったことが悔しいのだろう。出撃できていても何も変わらなかったであろうことも重々承知の上で。
「そして何より問題なのは……おそらくは柾木もそれを理解した上で、“ヴァニッシャー”を撃った可能性がある、ということだ」
「どういうことですか?
ジュンイチさん……世界から恐がられることになるのもわかって、それでも撃った、ってことですか?」
しかし、イクトの推理はまだ終わらない。聞き返すキャロにうなずき、続ける。
「記録によれば、ステーションの残骸は気づいた時点ですでにミッドチルダの重力に捕まり、押し返すことは不可能だった……だが、大気圏突入までにはまだ若干の時間があった。
あの男の手持ちの攻撃なら、その間に内部に突入して広域爆砕で内側から破砕、デブリ群とそう変わらない岩塊の集団に変える事もできたはずだ。
なのに、それをしないであえて“ヴァニッシャー”による直接破壊に踏み切った……」
「今イクトさんが言った方法を、あの人が思いつかなかった可能性は?」
「あると思うのか?」
「…………すみません」
あっさりと答えると、ティアナはすごすごと引き下がる――息をつき、イクトははやてへと視線を戻し、
「つまり、柾木は意図的に“ヴァニッシャー”を撃った、ということだ。
それが何を意味するのか……まではわからんがな」
「そっか……
世間様の方はどないな感じやった?」
「オンライン上は静かなものですね――地上本部が事態の収拾を報告したおかげで。
『どうやって』と追求する声がないワケでもないんですけど、ずいぶんと下火ですね」
「ふーん……」
気を取り直してはやてが尋ねるのは情報収集を頼んでいたジーナだが――彼女の答えは、はやての考えていたものとは違ったようだ。腕組みして考え込み、
「私的には、てっきりザインがこないだの“サクラ”を使ってジュンイチさんの排斥運動とか始めると思っとったんやけどなー……」
「おそらく、やっても効果は薄いと判断したんだろう」
はやての疑問にイクトが答え、一同の視線が再び彼に集中する。そんな彼に、代表してライカが尋ねる。
「イクト、それって、どういうこと?」
「考えてもみろ。
普通に考えて、人間ひとりが小惑星規模の物体を破壊するなど、“こちら側”に関わっていない一般の人間が信じられると思うか?」
「………………?」
《つまり、私達はあの人のことをよく知っているおかげですんなり信じられますけど、そうじゃない、しかも能力戦のなんたるかもわかってないパンピーさん達には、そんな現実離れした話を聞かされても信じられない、ということですよ。
映像も、その気になればいくらでも加工できますからね》
今ひとつピンとこないのか、首をかしげるスバルにはルビーが説明してくれた。
「したがって、いくら民衆をあおろうとしても効果は薄いしむしろ不自然。やる意味はないとザインは判断したんだろう。
どの道、そこまでしなくても地上本部の柾木への恐怖はピークに達しているワケだしな」
「民衆と違って、ミッドの地上部隊は以前から手柄を奪われるわ訓練ではボコボコにされて恥をかかされるわと、その実力を思い知らされた上に散々な目に合わされているからな。
言ってみれば、ある意味オレ達よりも犯罪者側に近い立ち位置で被害を受けてるワケで……確かにその上であんなものを見せられれば、本気で恐れもするか」
返すビッグコンボイの言葉にうなずき、イクトは息をついて続ける。
「いずれにせよ、柾木はこれからミッド地上部隊に全力で追われる身となったワケだ。
まったく、ヤツの周りのメンツにしてみればいい迷惑……ではないか。どうせみんな、それすら覚悟の上でくっついてるんだろうし……な」
「そこで私達を見ないでくれると助かるんですけど?」
「うんうん」
チラリと向けられた視線に、元からジュンイチ寄りであったアリシアやあずさが口を尖らせ――
「…………『みんな』じゃないですよ」
静かに口を開いたのはなのはだった。
「ヴィヴィオは……それにゆたかちゃんも、自分の意思でジュンイチさんにくっついていったワケじゃありません。
スカリエッティにさらわれそうになって、ジュンイチさんに助けられて……成り行き上あの人のところにいるだけじゃないですか。
なのに……こんなことになって……!」
ヴィヴィオのことが心配なのだろう。唇をかむなのはの声は震えていて――
「安心しろ。
そこについては一切心配はいらん」
「せやね」
「そうそう」
イクトが、はやてが、ライカが――古くからジュンイチを知る3人はあっさりとそう答えた。
見れば、彼らだけでなく、アリシア達やイリヤ達はもちろん、ゆたかのことを持ち出されたこなたまで、以前からのジュンイチの知り合い達は一切深刻な表情を見せておらず――
「あの人が、ヴィヴィオやゆたかちゃんを守らんはずがないからなー。
あの二人は、ジュンイチさん達が……ジュンイチさんが、必ず守ってくれる」
そんな面々を代表して、迷いなくそう断言し――はやては付け加える。
「そう。たとえ――」
「戦う相手が管理局でも、な」
そのはやての発言とほとんど同じタイミングで――
「はい、お帰りはあちら〜♪」
ジュンイチの手によって、“5つめの”追撃部隊が返り討ちにあっていた。
第101話
揺れる世界
〜ただ信じる道を〜
それから、さらに五日が経過した。
「はい、わかりました。
それでは、これより早速……」
言って、はやては艦長室で通信を終え――深々とため息をついた。
「とうとう……か?」
「うん……
機動六課も、柾木ジュンイチの追跡に参加せぇ、って……」
尋ねるビッグコンボイに答え、はやては自らのデスクに突っ伏した。
「ホント、暴れるやろうとは思っとったけど、ジュンイチさん、ホンマにノリノリやわ……
あの事件からまだ一週間ちょいやっちゅうのに……返り討ちにあった部隊が早くも20を超えたわ」
「一日あたり3部隊、か……
ローラー作戦とはいえ柾木をそれだけ頻繁に見つけている地上部隊の手腕を認めるべきか、それを容赦なく返り討ちにしている柾木に“わざとではないか”と疑いの目を向けるべきか、微妙なところだな」
ため息をついてつぶやくビッグコンボイに、はやてはもはや苦笑を返す以外になかった。
ズンッ!と音を立て――ロボットモードのマスターコンボイはここまで運んできたスクラップの塊をスバルの目の前に下ろした。
そんな二人がいるのは、ノイエ・アースラのシミュレーションルームで――
「え、えっと……マスターコンボイさん?
それで、何を……?」
「…………スバル」
こんなところに、こんなスクラップを持ち込んで何をするつもりなのか。真意の読めないスバルが疑問の声を上げるが――それすらもすでに予想の範疇だったか、マスターコンボイはかまわず彼女に告げる。
「コイツを破壊しろ。
オレとハイパーゴッドオンして……“ISを使って”、だ」
「え…………?
あたしの、ISを……?」
「そうだ」
思わず聞き返すスバルに対し、マスターコンボイはあっさりとうなずいた。
「以前、貴様がブチキレてISを起動した際、オレの拳にも反動が来た。
前回も……まぁ、以前ほどではなかったが、オレの拳に相応の負担が来た」
言って、マスターコンボイは自分の右手を握り、開いて、
「トランスフォーマーや戦闘機人に対し、そしてシードラゴン対策としても極めて有効な能力だ。
オレとしては積極的に使っていきたいところだが……使うたびにオレの拳をイカレさせられてはたまったものではないし、ハイパーゴッドオンで同調率が上がっている状態で使った場合、貴様の方へもその反動がいくことになる。
そこで、その辺りの対策をシャリオ・フィニーノに依頼したのだが、そのためには現在得られている以上の、より詳細なデータが欲しいと言われてな」
「だから……実践して、データをとろう、と?」
「そういうことだ」
「そっか……」
あっさりうなずくマスターコンボイだが、対するスバルの表情は優れなくて――
「何だ? 自分の戦闘機人としての能力を使うことに、引け目でもあるか?」
「あ、ううん、そうじゃなくて……」
答えて、スバルは視線を伏せる――そんな彼女の姿に、マスターコンボイは大体の事情を察した。
「柾木ジュンイチのことが気になって集中できん、か……」
「うん……」
尋ねるマスターコンボイに、スバルは力なくうなずいた。
「マスターコンボイさん……あたし達も、お兄ちゃんと戦わなきゃいけないのかな……?」
「さぁな。
次会う時の状況次第、というところだが……少なくとも現状において、ヤツの道はオレ達の進む道とは違う。
そして、お互いにその道を譲るつもりはない――戦うかどうかはさておき、もめ事になるのは、おそらく避けられまい」
スバルに答え、マスターコンボイは息をつき、
「とはいえ……いずれにせよ、ヤツとはもう一度顔を合わせる必要がある。
ヤツが今回の“レリック”を巡る戦いに深く関わっていることは、もはや疑いようはないんだからな。
むしろ、ヤツに真意を問いただす絶好の機会と考えれば、オレ達に追跡命令が出るのは決して悪いことではない」
「……そうですね。
まずはおにいちゃんに会って、それからですよね?」
「そういうことだ。
それに……」
スバルに答え、マスターコンボイは息をつき、
「オレとしても、以前ノされた借りがあるからな……返す意味でも他所からのジャマが入らない状況での対面は望むところだ」
「避けられそうでも迷わず戦うつもりでしょ、マスターコンボイさん……」
「戦うかどうかはさておき」なんて言いながら闘志全開ではないか――戦いに生きる者特有の獰猛な笑みを浮かべるマスターコンボイに、スバルは思わず頭を抱えるのだった。
「………………」
目の前には、再生カプセルにその身を収めたブラックアウト――その姿を、マスターギガトロンはただ無言で見つめていた。
その視線の先には、先の戦闘で胸部を砕かれ、露出した赤い結晶体、すなわちブラックアウトの体内の“レリック”――
「柾木ジュンイチに見られた、か……
あの男のことだ。何を意味するか、くらいのことはすでに理解しているだろうな……」
しかし、それはブラックアウトの身を案じてのことではなかった。息をつき、思考をめぐらせる。
(この戦い……おそらくもっとも多く、もっとも深く事情を知っているのはあの男だ……
しかし、なぜヤツはそこまでのことを知り得た? 裏事情に関してはまだわかるが、ヤツはトランステクターや“レリック”についても詳しすぎる……)
その謎の“答え”として考えられるのは――
(こちら以上に事情を知る者を味方に引き込んでいる、か……
ならば、その者を手に入れることができれば……!)
方針は決まった。きびすを返し、マスターギガトロンはその場に集まっていた部下一同に向けて告げる。
「出撃する。
目標はマックスフリゲート――柾木ジュンイチだ」
「しかし……そう簡単にいきますか?」
「相手はあの柾木ジュンイチ、しかもこっちはブラックアウトが負傷退場」
「数じゃ勝ってても、戦力的にはなぁ……」
しかし、部下達の戦意は低い――先日の戦いでのあの破壊を見ればムリもないかと納得しつつ、マスターギガトロンは告げる。
「心配はいらん。
今のヤツは世界のすべてを敵に回した――そうそうハデなことはできんさ。
できたとしてもそうとう追い詰められた後のこと――ならばその前に攻めきればいい」
そう告げて――内心で付け加える。
(とはいえ……それは“一般論”でしかない。
あの男のことだ。おそらく最初から全力だろう。自分の状況など最初からすべて無視してな……
だが……ヤツの握る情報を得るため、と考えるとグズグズしてもいられない。おそらく管理局も総力を挙げて柾木を追っているはずだ。
多少のムリを通してでも……この場であの男は叩く。
ヤツを倒し、ヤツの持つ情報を握り……)
(我らディセプティコンが、すべてを制する覇者となる)
「何度見ても、すさまじい破壊力だな……」
「だよねぇ……」
所変わって、スカリエッティのアジトではトーレとディエチが先の戦いの映像――ジュンイチが“龍帝破焼砲”でステーションの残骸を焼き尽くすその光景を繰り返し確認していた。
「今までの戦いでボク達と戦ってた時は、本気じゃなかった、ってことかな……?」
「だとしたら、ずいぶんと甘く見られたものですね」
「さて、な……」
同様に映像を見ているオットーやセッテに答えると、トーレはふと視線をそちらに向け、
「チンク。
お前だったらこの攻撃、どう対処する?」
「そもそも撃たせない――それが唯一にして絶対の対策だろうな」
迷うことなくチンクは即答した。
「あの戦いでビッグコンボイが語ったことが事実なら、あの術は相手の魂に直接作用する。
だとすると、そもそも防御すること自体が危険だ――シールドにせよ肉体で受け止めるにせよ、それは自分の“魂”をあの光弾の前に直接晒すのと同義だからな。
回避すればいい、という発想も論外だ。戦いに“絶対”はない。何かの拍子に直撃を受ける可能性もあるし――あの術の特性を考えれば、おそらくかすっただけでもアウトだろう」
「だから、撃たせない……か」
「あぁ。
幸い、あの術は呪文詠唱とエネルギーチャージにかなりの時間を要するようだ。詠唱の時間さえ与えなければどうとでもなる」
トーレに答え、チンクは再び映像に視線を戻した。
(もっとも……あの男がこんな術を私達に撃つこと自体、そもそもあり得ない話なのだろうがな……)
なぜかそれだけは絶対のものとして確信できた。映像でステーションの残骸が焼滅する光景をどこか他人事のように眺めていると、
「しかし……彼は一体何を考えているんだろうね?」
そんなことを言い出したのは、ずっとこちらの会話に一切関わることなく、一心不乱に映像からデータを解析していたスカリエッティだ。
「これだけの破壊力を、瘴魔の起こした事件で世界が注目している中で惜しげもなく晒す――それが世界にどんな影響を与えるか、わからない男ではないはずなんだが……」
「そうですね」
スカリエッティの言葉に同意し、チンクは迷うことなくうなずいた。
「まったく……あの男はいつもいつも、自分が周りからどう思われているか、ということに無頓着すぎる。
だからいつも買う必要もない恨みを買ったり、向けられる必要もない好意を向けられることになる。
今回の事だってそうだ。こんなことをすれば世界が自分を恐れることになる。場合によっては排除に動くだろう……!
自分のしたことで自分が危機に陥っているということが、あの男はまったくわかっていない!」
だんだんと語気が荒くなり、最後にはもはや怒鳴り声だ。一気に力いっぱいまくし立て――チンクは気づいた。
周りから自分に向けられる微妙な視線に。
「………………何だ?」
「いや……なんて言うか……」
「いつものことだけど、柾木ジュンイチについての話になるとテンション変わるなー、と……」
尋ねるディエチに対し、ディエチやオットーがそう答え、
「それよりも……柾木ジュンイチが襲われることによって巻き込まれる妹達の心配をだな……」
「トーレこそ何を言っている?」
ため息まじりに告げるトーレだったが、対するチンクは心底不思議そうに首をかしげた。
「セイン達なら、柾木が守るに決まっているだろう?」
『………………』
当然のように、本当にそれが当然のことであるかのようにチンクは言い切った。その鉄壁の信頼に、トーレ達は思わず言葉を失って――
(そう……確かにあの子なら守るでしょうね)
そんな彼女達の会話に混じることなく、クアットロはひとりほくそ笑んでいた。
(あの子は自分が守ると決めた相手を絶対に守り抜く。
けどね――)
「だからこそ、攻め入るスキはそこにあるのよ」
そのつぶやきが聞き取れた者は誰もいない――これから起きる、否、“起こす”ことが楽しみだと言わんばかりに、クアットロはクスリと笑みをもらすのだった。
《第一目標の達成には至らなかったが、その代わりに柾木ジュンイチを世界の脅威に仕立て上げたか……》
《これで、あの男は完全に世界から孤立した》
《代わりの成果としては上々だな》
「ありがたきお言葉」
廃棄ステーションの放棄によって移転した新たなアジトの一室――“主”達からの通信に、ザインはうやうやしく一礼してそう答えた。
《しかし……あまりほめられた手段ではなかったこともまた確か》
《我らにも、ガマンの限界というものがある》
《あまりにも好き放題がすぎるようであれば、スカリエッティのように用済みになるということを、忘れるでないぞ》
「承知しております。
それでは、私はティアナ・ランスター確保のための新たな策を練らねばなりませんので……」
《うむ。頼むぞ》
《すべては我らの世界のため》
《我らが世界の管理者たらんがため》
口々にザインに告げると、“主”達は順に通信を切っていく――静寂の戻った室内で、ひざまずいていたザインはゆっくりと立ち上がった。
「確かに……今回の件、彼らの肝の小ささを少々甘く見すぎていたかもしれませんね。
成果は挙がっても、それで彼らからにらまれては意味がありませんし……やはり、これ以上目をつけられない内に、王手を詰みたいところですね」
その気になればいくらでも相手を抑える手はあるが、さっさと手を切ってしまうには“彼ら”の力はあまりに魅力的だ。
自然と、ここは利用するだけ利用して、相手が手のひらを返してきたところで被害を受ける前に封殺、という選択肢に落ち着く。しかし、そのためにはこちら側にそれを可能とするだけの力を持った手札が必要になってくる。
そう、例えば――
「そうですね……
差し当たり抑えたいのは――」
「“聖王のゆりかご”ですか……」
「はい、しゅーりょー。
んじゃ、ちょいとばかり休憩すっか」
『はーい……』
わずかに汗をにじませ、少しばかり息を切らせたジュンイチの言葉に、一同の力の抜けた返事が返ってくる――ノーヴェ達やホクト、ルーテシア、そして先日の戦いの際、最後の“龍帝破焼砲”による混乱で六課に合流し損ねたガスケットは、まさに“死屍累々”という言葉がピッタリと当てはまりそうな有様でそう答える。
「“最後の切り札”の扱いにも慣れてきてるし、オレをけっこう追い込めるようになってきた……
うん、とりあえずは順調かな?」
「それ……ほんのちょっと汗かいただけで済んでるヤツのセリフじゃねぇぞ、絶対……」
実際、修行をつけ始めた頃からは比べ物にならないほどに腕を上げてきているし、能力面においても“最後の切り札”が限界まで引き上げてくれている――素直に賞賛の言葉を上げるジュンイチだったが、そこまで成長しても“ほんのわずかに余力を削れただけ”では実感も沸かないというものだ。地面に突っ伏したまま、ノーヴェはうめくように彼に答える。
「はっはっはっ、オレだって一応はまだ修業中の身だぜ。
お前らの方が伸びがいいからって、そんな簡単に世代交代はさせねぇよ」
そんなノーヴェに、ジュンイチが笑いながら肩をすくめて――
「っつーか……なんでオレ、今でもここでぶちのめされてんだろ……」
「そんなの、せっかく六課に帰るチャンスだったのに、いつもの習慣でこっちに帰ってきちまったお前の自業自得じゃねぇか」
黒コゲにされ、大地に転がったまま涙するガスケットに、ジュンイチは容赦なく彼のミスを指摘する。
と――
「あー……ジュンイチ……?」
不意に、突っ伏したその体勢のまま顔と手だけを挙げ、ウェンディが声をかけてきた。
「ジュンイチ、こんなことしてていいんスか?
そりゃ……これからキツいことになってく以上、あたしらも強くならなきゃいけないのはわかるっスけど……」
「ジュンイチ、管理局からますます目ェつけられたじゃないか。実際、しょっちゅう追撃きてるし。
のん気にあたし達に修行をつけてくれてる場合じゃないだろう? それなのに……
こんな時なんだ。もっとやることがあるんじゃないのか?」
一番大変なのは彼自身なのだ。自分達にかまけている余裕があったら、もっと自分の身を守ることを考えるべきではないのか。
ウェンディの意見にセインも同意し、二人でジュンイチにそう告げるが、
「こんな時だから、だよ」
対し、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「ウェンディの言ったとおり、追撃は今後ますます激しくなってくと思う。
そのうち、お前らの心配してる通り、お前らの修行を見てやってる余裕はなくなっていくかもしれない」
「わかってんじゃないか。
だったら――」
「だから、今のうちに修行しとくんじゃねぇか」
口をはさみかけたノーヴェだったが、ジュンイチはそんな彼女にあっさりと答えた。
「オレがお前らのことにまで手が回らなくなるほどの状況だぞ。お前らにとってそれがどれだけキツい状況か……正直な話をさせてもらうなら、オレもあまり考えたくねぇ」
「は、はい……」
確かに、ジュンイチが自分達よりも強いのは今のお互いの様子を見れば一目瞭然だ。そのジュンイチですら厳しいと感じる状況ともなれば、今の自分達がついていけるはずがない――ジュンイチの言葉に、そのことを実感したディードはその状況を想像してしまい、思わず身震いする。
「当然、そうなったらオレはお前らのフォローまで手が回らない。お前らには自力で生き残ってもらうしかないんだよ。
そのためのこの修行だ――ちゃんと、現状を生き残るための対策としてやってるんだ。気にしてくれるのはありがたいけど、ここで遠慮、ってのは、ナシにしてくれるともっとありがたいかな?」
「うんっ!
よーするに、あたし達がもっともっと強くなればいいんだよね!」
「ったく……
お前がそういうこと言い出したら、あたしも腐ってられないじゃねぇか……」
最年少のホクトがやる気を出しているというのに、自分達が及び腰では格好がつかないではないか――ジュンイチの言葉にやる気を見せるホクトやノーヴェに対し、セインは思わずため息をつき――
「………………っ」
その瞬間、周囲の空気が変わった。視線を鋭くし、ジュンイチは周囲を見回し、状況を確認する。
(フィールド展開……? でも、術者の気配は感じない……
ってことは、つまり……)
「全員、オレの後ろに下がれ」
状況の把握をすませ、ジュンイチはノーヴェ達にそう告げると己の力を研ぎ澄ませ、戦闘態勢に入る。
「オレの気配探知の外側から、何かのフィールドを展開したヤツがいる。
それはつまり、“オレの気配探知の有効範囲を把握している”ってこと……
つまり、これを仕掛けた犯人はクソメガネか、もしくは――」
「マスターギガトロン」
「正解だ」
ジュンイチがその名を口にすると同時、答えが返ってくる――部下を引き連れてジュンイチ達の前に飛来し、マスターギガトロンは余裕の笑みと共にそう答えた。
「ま、マスターギガトロン!?」
「ディセプティコン……!」
突然の敵の出現に、あわてて立ち上がろうとするノーヴェやセインだったが、
「ブレイクラリー!
……おい、ブレイクラリー!?」
「デプスフロート!?」
トランステクターを呼び出すべくその名を叫ぶが――自分達のもうひとつの身体とも言えるトランステクターは一向にその姿を現す様子はない。
「スラッシュウルフ!?」
「エリアルファイター! 何でこないっスか!?」
「ぎーくん!? ぎーくん2号!?」
ディードやウェンディ、ホクトもダメだ。やはりトランステクターを呼び出せなくて――その様子に、ジュンイチはだいたいの状況を理解していた。
「なるほどね。
さっきのフィールドは通信妨害のためのもの。妨害の目的は、トランステクターの呼び出しを阻むこと……ってなところか」
「その通りだ」
ジュンイチの言葉を、マスターギガトロンはあっさりと肯定した。
「機体の投入が“戦闘スタイルの変化のひとつ”でしかない貴様はともかく、そっちの小娘どもにとってトランステクターの投入は戦力強化としての側面が強い――自然、呼び出せなければ総戦闘力は大きく下がる。
ハンデを抱えた教え子達を守って、どこまで戦える? 身内にはどこまでも甘い貴様が」
「相変わらずそーゆートコつくの好きだねー、お前」
告げるマスターギガトロンの言葉に、ジュンイチはため息をつき、
「まぁ……とりあえず、その作戦自体は悪く“なかった”、とだけ言っておくよ」
「何……?」
悪くなかった――ジュンイチは過去形でそう告げた。その意図を測りかね、マスターギガトロンは思わず眉をひそめる。
「言い方変えようか?
『その手に出るには遅すぎた』って言ってんだよ」
そんなマスターギガトロンに言い放ち――ジュンイチは背後のノーヴェ達に告げた。
「お前ら。
まだ調整は完全ってワケじゃねぇけど……」
「“最後の切り札”、使ってもいいぜ」
「よっしゃ! 待ってました!」
「ずっと実戦で使いたかったんスよね!」
その言葉にがぜん張り切るのはノーヴェとウェンディだ。宝石の姿をした、待機状態の相棒をそれぞれに取り出す。
そして、セインやディード、ホクトやルーテシアもそれに続く――それぞれが、自分達で考えたそれぞれの“相棒”の名を叫ぶ。
「レグルス!」
「ミルクディッパー!」
「アストライア!」
「ジェミナス!」
「にーくん・R!」
「アスクレピオス・S……!」
『Break up!』
その瞬間――全員が光に包まれた。
“力”がそれぞれの周囲にあふれ出し、凝縮され、形となっていく――
ナンバーズの戦闘スーツを踏襲したインナーの上に厚手の戦闘ジャケットを羽織り、ヒザ、ヒジをプロテクターでカバーしたバリアジャケット。
そして、駆動部がより大型化されたジェットエッジ、腕の甲に当たる部分に小型のシールドを追加されたガンナックルを装着したノーヴェの“レグルス”。
両肩に浮遊システムと推進システムを別個に独立させた大型の飛行ユニット、背中にコーン型の粒子加速システムを備え、新規にデザインされたライディングボードとそこにドッキング可能な大型ライフル“サジタリウス”を装備したウェンディの“ミルクディッパー”。
背中と両肩、3基の大型シールドに囲まれ、携行武装として二丁のライフル型インテリジェントデバイス“リーブラ”を持つセインの“アストライア”。
背中にボックス状のバックユニットを背負い、より大型化されたツインエッジ“シュヴェルトツインズ”を両手に携えたディードの“ジェミナス”。
バリアジャケットのデザインも、市販型リボルバーナックルとセットになった基本構成もそのままと外観的な変化はないものの、ニーズヘグの刃の付け根に可動軸が設けられ、より柔軟な取り回しが可能となっているホクトの“ニーズヘグ・R”。
今までのフリルのドレスの上に純白のマントが追加され、両手のグローブだけでなく魔導書型デバイスも追加されたルーテシアの“アスクレピオス・S”。
それぞれが極限まで使い手にあわせて作り出され、使い手の能力を限界まで引き出すことを己が存在意義とする、彼女達に与えられた新たな“力”――
6基の“最後の切り札”が世に出た瞬間であった。
「デバイス、だと……!?」
「いつの間に……っ!」
相手の戦力はあらかた把握していた。ゴッドオンさえ封じてしまえばまだ優位に立つ余地はあると踏んでいたが、ここに来て新戦力とは――
驚くジェノスラッシャーやショックフリートの言葉を聴きながら、マスターギガトロンはノーヴェ達のセットアップを感慨深げに見守っているジュンイチをギロリとにらみつけた。
「柾木ジュンイチ……貴様の仕業か」
「大正解♪」
あっさりとジュンイチはそう返してきた。
「こいつら、トランステクターなしでコテンパンにノされるケースがやたらと多いからな。対策のひとつや二つ、用意するのが普通だろう?
……そして」
言って、ジュンイチはマスターギガトロンへと向き直り、
「オレ自身も、同じように“機動戦力が使えない状況下は想定してる”」
「………………っ!」
その言葉にマスターギガトロンが息を呑み、警戒を強める――かまうことなく、ジュンイチは自らの“力”を高め、叫ぶ。
「フォースチップ――“ギガロニア”!」
ジュンイチのその叫びに応え――フォースチップが飛来した。ギガロニアのそれがジュンイチの目の前に舞い降り、その場で静止する。
そして、ジュンイチは手にした霊木刀“紅夜叉丸”を爆天剣へと作り変えると水平に、刺突の形でかまえ、
「イグニッション!」
その切っ先をフォースチップに突き刺した。物質としての結合を解かれ、純粋な“力”の塊となったフォースチップは、ジュンイチの周囲で荒れ狂い、一時その姿を多く隠してしまう。
そして――
「刮目しやがれ!
ずいぶんとお久しぶりの、イグニッションフォーム!」
“力”の渦が吹き飛び、ジュンイチが――
巨大な鋼の身体に収まった状態でその姿を現した。
いや、“身体”というよりは“重機”と言った方が適切かもしれない。ジュンイチの収まっているところはもたれかかるような姿勢のシートになっており、さらに周囲を守るパイプ状のガードなど、まるで運転席のような印象を受ける。
四肢にしても直線的なデザインで各所にパイプが走り、武骨、重厚と言った表現の似合う重量感あふれるものであり、独自に動力でも積んでいるのか、ドルンドルンとエンジン音を立てている。
「どこぞの宇宙でエイリアンの女王とでも戦うつもりか……!?」
「あ、お前的にはそっち方面の連想なんだ。
同じパワーローダーでも、オレ的には『エイリアン』シリーズより『アストレイ』の方が元ネタなんだけど」
軽口を叩くが、それが決して見掛け倒しでない力を持っていることは簡単に想像できた――マスターギガトロンの言葉に、「なるほど、ヤツの好みは洋画系SFか」などと割とどうでもいいことをチラリと考えながら、ジュンイチは不敵な笑みと共にそう答える。
同時、ジュンイチの意志を汲み取った鋼の巨体が一歩を踏み出す――思わずディセプティコンの一同が後ずさりする中、改めて名乗る。
「そんじゃ、いきますか。
ウィング・オブ・ゴッド――ギガンティックフォーム!
目標を、叩き壊す!」
《――――――っ!
なの姉!》
〈It caught a target.〉
「うん!」
単身捜索に出ていたところサーチに反応――プリムラとレイジングハートの言葉に、なのははうなずいて急制動、その場に静止した。
すぐにレイジングハートがサーチ結果をウィンドウ表示してくれる――すぐに内容に目を通し、確認する。
「フォースチップの反応……この反応はギガロニアだね……」
《例の……イグニッションフォームってヤツかな?》
つぶやくプリムラにうなずき、なのははレイジングハートやプリムラが反応を捉えた方向へと向き直った。
「この先に、ジュンイチさんが――ヴィヴィオがいる……!」
地上本部の戦いで離れ離れになったヴィヴィオに、ついに会えるかもしれない――そう思うだけで身体の内から“力”がわき出してくるような気がする。自分の中で何かが充実していくのを感じながら、なのはは反応のあったポイントを目指して飛翔した。
「IS発動――“ブレイクライナー”!」
「なんのっ!」
エアライナーを展開、最大速力で突撃――猛スピードで飛び込んでくるノーヴェの拳をかわし、ビーストモードのジェノスクリームは素早くノーヴェから距離を取り、
「近接戦闘タイプの悲しい性だな! 距離を取られると何もできんか!
フォースチップ、イグニッション!」
今度はジェノスクリームの反撃だ。フォースチップをイグニッションし、口腔内にその“力”を集約させ、
「ジェノサイド、バスター!」
吐き放った。解放されたエネルギーの渦が、狙い違わずノーヴェを直撃する!
「フンッ、所詮はひよっこ。その程度か!」
文句なしの直撃だ。勝利を確信したジェノスクリームが言い放ち――
「……そいつぁ、ちょいと気が早いってもんだろう?」
「………………っ!?」
爆煙の中から平然とした声が返ってきた。驚愕するジェノスクリームの前で、煙が少しずつ晴れていき――
「…………エネルギーシールド!?」
腕の甲の小型シールドは、それ自体がシールド発生器でもあった。左腕のそれでシールドを展開、ジェノサイドバスターをしのいだノーヴェの姿に、ジェノスクリームは思わず驚愕の声を上げ、
「でぁあぁぁぁぁぁっ!」
そんなジェノスクリームへ再度突撃、ノーヴェが右の拳を振り上げる。先ほどジェノサイドバスターを防いだ時と同様にシールドが展開され――“力”の吹き出す方向が変わった。全方位に放っていたものが拳の向いた先、その一方へと集約されていく。
それは“楯”と言うよりもむしろ――
(シールドからソード――形状変化なしでモードチェンジだと!?)
「ちぃっ!」
驚愕しながらも身体は動いた。舌打ちまじりに後退、ノーヴェの繰り出した斬撃をかわすと同時に身をひるがえし、ノーヴェの身体を尻尾の一撃で弾き飛ばす!
「なかなかの業物を与えられたようだな!
だが――同じことだ! 距離さえ取ってしまえば!」
言い放ち、ジェノスクリームは背中の2連装キャノンを連射、ノーヴェの足を止めるが――
「………………へっ」
シールドを展開してジェノスクリームの砲撃に耐えていたノーヴェの口元に笑みが浮かんだ。
「勝ち誇ってるところ悪いけどさ……忘れてねぇか?
コイツを作ったのが――ジュンイチだってことをさ!」
告げると同時にシールドを展開していた左手を振るう――シールドを展開していた“力”が解放され、自分に向けて飛翔していたジェノスクリームの砲撃をまとめて薙ぎ払う。
そして、再び右手をかまえた。ジェノスクリームに向けて突き出すようにかまえ――シールド発生器の先端から魔力があふれ出す。
それはノーヴェの拳の目の前に収束、魔力スフィアを作り出す――
「砲撃だと……!?」
「そういうこった!
アイツが、そんな“距離さえとれば大丈夫”なんて抜け道を相手に許すとでも思ってたのかよ!?」
うめくジェノスクリームにノーヴェが答え――
「いっ、けぇぇぇぇぇっ!」
〈Energy Buster!〉
放たれた砲撃がジェノスクリームを直撃した。
「くらえっ!」
「なんの!
ディープダイバー!」
咆哮と共に、ショックフリートがエネルギーミサイルを放つ――が、セインはその一撃を自身の能力で大地に潜り、回避する。
「フンッ、またその手か!
――だが、前回貴様と戦った際に、その能力の弱点は把握している!」
しかし、ショックフリートにとってその動きは予想の内だった。言い放ち、両腕のビーム砲の銃口をセインの潜った辺りに向け、
「その能力……潜行状態での機動性はほとんどない! 自力で泳ぐのがせいぜいだろう!
出てきたところを狙い打ちにしてくr――」
「そいつぁ残念!」
「――――――っ!?」
自分の叫びに答えたのは、潜行したままのはずのセインの声――あわてて振り向くショックフリートに対し、セインは両手の“リーブラ”から放った魔力弾をお見舞いする。
「ちぃっ!」
「っとぉっ!」
しかし、ショックフリートも負けじと反撃――放たれたエネルギーミサイルを、セインはまたもやディープダイバーで回避し、
「鬼さん、こっちらぁ〜♪」
その数秒後、“ショックフリートの背後に浮上する”!
「何だと!?
速い――――っ!?」
「バカか、あんた!」
再び放たれた“リーブラ”の魔力弾を回避するショックフリートに、セインは再度狙いを定めながら告げる。
「今までと違って、今は新たにこの“アストライア”を装着してるんだぜ!
あたし専用に調整されたデバイスで――どうして、あたしの能力を補助する仕掛けがあるって考えないかな!?」
「そうか……っ!
ヤツのあの装備――潜行中の機動力アップも可能というワケか……!」
ようやく“カラクリ”に気づき、ショックフリートが歯がみしてうめき――そんな彼に、“リーブラ”から放たれた魔力弾が降り注ぐ!
「ならば――!」
だが、ショックフリートもそのままおとなしくやられてはくれない。セインの放った魔力弾の雨をかいくぐり、一気に彼女に肉迫する。
「銃を両手にかまえては、接近戦など!」
そのまま、セインに向けて拳を繰り出し――
「リーブラ!」
〈Ton-Far form!〉
セインの呼びかけに“リーブラ”が答え、その形状を変える――グリップの付け根を基点に180度回転、トンファーとなって、ショックフリートの拳を受け止める。
そのまま身体を滑らせ、体勢を入れ替えるようにショックフリートの拳を受け流すとリーブラを両肩のシールドの内側にマントし、代わりに取り出したロッドがスライド式に伸びて一振りの棍となる。
「どぉりゃあっ!」
「っと!?」
間髪入れずその棍で一撃――しかし、ショックフリートもそれをかわし、両者は再び距離を取って対峙する。
「銃がトンファーになったかと思えば今度は棍……
ずいぶんといろいろ積んでるな」
「ノーヴェ達と違って、ディープダイバーを用いた潜入が主だったあたしは直接戦闘タイプの戦闘機人じゃなくてね、腕力はどうしてもアイツらに劣るのさ。
腕っ節で足りない分は武装とか悪知恵とかで補わざるを得ない――この“アストライア”は、そのスタイルを突き詰めていけるように調整されてんだよ」
ショックフリートに答え、セインは棍をかまえたまま、すり足で半歩だけ間合いを詰める。
「なるほど。貴様らなりに考えてのこと、か……
だが、その程度で勝てる気になられても困るんだがな」
対し、ショックフリートもエネルギーミサイルの発射システムを全基チャージし、
「所詮、貴様らも我らから見ればただの人間と変わらないことを教えてやる!
かかってこい! 戦闘機人ふぜいが!」
「戦闘機人ナメんなよ、トランスフォーマーふぜいが!」
互いに言い放ち――両者は同時に地を蹴った。
「オラオラオラぁっ!」
「おっと!」
ブラックアウトが負傷により欠けている今、航空戦力は自分の独壇場だ――咆哮し、襲いかかってくるジェノスラッシャーの翼による斬撃を、ウェンディは空中で飛び越えるようにかわし、
「今度は、こっちの番っスよ!」
手にしたライフル“サジタリウス”をジェノスラッシャーに向けた。左手にシールドとして携えたライディングボードを支えに固定、照準を合わせると同時にトリガーを引く。
同時――巨大な閃光が放たれた。サジタリウスの銃口から解き放たれた破壊の渦が、一直線にジェノスラッシャーに向けて飛翔するが、
「なんの――これしきぃっ!」
ジェノスラッシャーも急旋回、なんとかウェンディの放った砲撃を回避する。
「ったく、何なんだ、ソイツぁよぉ。
ドデカい砲撃をチャージもなしにポンポンと……!」
距離をとり、うめくジェノスラッシャーの前で、ウェンディの手にしたサジタリウスからカートリッジが排出される。
そして、ウェンディが新たなカートリッジを装填、サジタリウスがそれを撃発し――ジェノスラッシャーは気づいた。
「今、発射段階でもないのにカートリッジを……!?
……そうか。使用段階にカートリッジを使うんじゃなくて、装填と同時にカートリッジ内の魔力をライフルの中でチャージしてやがったか……」
「イイ目してるっスねー。
ま、バレちゃったら隠してる理由はないっスかね」
ジェノスラッシャーのつぶやきに不敵な笑みを返し、ウェンディはサジタリウスの銃口をジェノスラッシャーに向け、
「この子、伊達や酔狂でこんなデカいナリしてるワケじゃないってことっスよ。
この子の本領は火力よりもむしろ内部の魔力蓄積量――カートリッジとあたし自身、それぞれから供給される魔力を内部に用意された大型の魔力バッテリーに蓄積、チャージしておくことで、発射段階でのチャージ時間を大幅に短縮してるんスよ」
「へっ、それさえわかりゃこっちのモンだ!
要は、再チャージの時間を与えず、今持ってる魔力を使い果たさせればいいってことだろうが!」
自慢げに説明するウェンディに言い返し、ジェノスラッシャーは翼を広げて突撃し――
「残念ながら、そう簡単にはいかないっスよー♪」
その突撃を、ウェンディはヒラリとかわして距離を取る。
「逃げんな!」
そんなウェンディを追い、再度突撃をかけるジェノスラッシャーだが――何度突っ込んでもウェンディを捉えられない。ヒラリ、ヒラリ、と難なくかわされていく。
決してウェンディのスピードがジェノスクリームに勝っているワケではないが――それでも捉えられないのには理由があった。
「こいつ……小回りが効きすぎだろ!?」
そう。
最高速度では決して大きな差があるワケではない両者だが――こと機動性という意味では、加速に物を言わせて直線的に突撃するジェノスクリームよりも小回りを活かして回り込むウェンディの方に分があった。その機動性を活かし、ウェンディはジェノスラッシャーの突撃をさばいているのだ。
「高機動と大火力の両立――それがあたしの“ミルクディッパー”の本質っスよ!
“かわして”“溜めて”“撃つ”――そう簡単に捉えられると思うんじゃないっス!
それに!」
言って、ウェンディはジェノスクリームの背後に回り込むとサジタリウスをかまえ、
「アンタには、何度も痛い目にあわされてるっスからね!
個人的な恨みつらみも込みで、ますます負けられないっスよ!」
撃ち放った砲撃で、ジェノスラッシャーを吹き飛ばす!
「はぁぁぁぁぁっ!」
「おぉぉぉぉぉっ!」
しっかりと大地を踏みしめ、刃をぶつけ合う――体躯で勝るレッケージの繰り出す左右からの斬撃を、ディードも“シュヴェルトツインズ”で一撃一撃、ていねいにさばいていく。
そして、スキを見つけると同時に反撃を打ち込んでいく――レッケージも負けじと反撃を返し、両者は一進一退の攻防を繰り返していた。
「体格差をうまく活かす……これではラチがあかんか……!
ならば!」
しかし、その状況はレッケージにとって好ましいものではなかった。バックステップでディードから距離を取り、
「アーマード、キャノン!」
腹部のキャノン砲を放った。ディードが近接戦型と踏んで、砲撃で片付けようという判断だ。
しかし――
「させない……っ!
“レイストーム”!」
ディードが咆哮すると同時――背中のバックユニットから多数の魔力弾が発射。それらはディードの眼前で渦を巻き、防壁となってレッケージのアーマードキャノンを受け止める。
「もう、一発!」
そして、ディードは再度魔力弾を発射――今度はレッケージを狙い。その足元を崩しにかかる。
「この制御精度……先ほど防壁に転用した応用性……!
それは、スカリエッティの戦闘機人の……!」
「一応、私もその“ドクターの戦闘機人”のひとりなんですけどね」
その光弾の動きには覚えがあった。距離を取り、うめくレッケージにディードは淡々とそう答える。
「“レイストーム”……私と同じ因子から生まれた、私の双子の姉、オットーのISを、この“ジェミナス”は擬似的に再現できるんです。
私のために、ジュンイチさんはこのシステムを“ジェミナス”に組み込んでくれた――元々、双子としてオットーとコンビを組んでいた、その経験を活かすために」
(そして、きっと……いつか来る、私とオットーの再びの共闘に備えての、連携の感覚の維持のためでもある……)
後半の理由は予測に過ぎない。故に口に出さず、胸の奥に留めておく――意識を切り替え、ディードはレッケージをにらみつけ、
「たとえ陣営は離れても、私はオットーと共に戦っている……そして、きっとオットーも同じ想いでいてくれている。
再びあの子と手を取り合うその日まで……あなたごときに負けるワケにはいきません!」
「『ごとき』とは、言ってくれるじゃないか!」
ディードの宣言にレッケージが応じ――両者は再び激突した。
「どぉりゃあっ!」
咆哮と共に砲撃一発。ブロウルの放った砲弾が一直線にホクトへと突っ込むが――
「にーくん!」
〈All right.〉
告げるホクトにニーズヘグが答える――同時、ニーズヘグの刃が可動部を軸にグリップ側へと倒れ込んだ。刃を倒したことで斬撃力は失ったが、その強靭な刃によってニーズヘグの長い柄が補強され――
「にーくん、ホームランっ!」
渾身の力で、ニーズヘグを砲弾に叩きつけた。そのまま勢い任せに振り抜き、砲弾をブロウルに向けて打ち返す!
「どわぁっ!?」
「まだまだぁっ!」
打ち返されてきた砲弾に驚き、跳びのいたブロウルに向け、ホクトが追撃をかける。打ち返した砲弾を追いかける形で間合いを詰め、サイズモードに戻したニーズヘグを振り上げ――
「なんとぉっ!」
ブロウルはムリヤリそれを受け止めた。ふらつきながらも何とか踏ん張り、バリアを展開してニーズヘグの刃を受け止める!
「ちょっ、その体勢で普通耐える!? ねぇ!?」
「耐えなきゃ斬られるだろうが!」
「なるほど、まったくその通り!
――でもっ!」
ブロウルの言葉にうなずくと同時、ホクトはニーズヘグに“力”を流し込む――グリップを通じて刃に宿った彼女の“力”が、ブロウルのバリアを侵蝕し、叩き斬る!
「な…………っ!?
バリアブレイクかよ!?」
「“破壊”? 違うよ!」
驚くブロウルに答え、ホクトは再度の突撃――今度こそ防いでみせるとブロウルがまたもバリアを展開するが、
「あたしのは――“両断”だよ!」
ホクトには通じない。再び振るったニーズヘグが再びバリアを粉砕、今度はブロウルの身体を捉え、砲門を中ほどで断ち切りながら吹き飛ばす!
「うん♪ エネルギー制御特化型のパパが強化してくれただけのことはあるね。
『それがエネルギーでできてるなら、どんなバリアもぶった斬る』ってキャッチコピー、案外ホントかもしれないね」
一撃を加えた刃を見て満足げにつぶやくと、ホクトは気を取り直して相棒に尋ねる。
「にーくん、調子はどう?」
〈The living energy control, 89 percent of efficiency of the husband.
The crash probability of occurrence, 0.3 percent.〉
「うん、上々♪」
答えるニーズヘグに答え、ホクトはその刃を大きく後方に振りかぶる形でかまえる。
防御も回避もない――ただ目の前の相手を斬り伏せる、それだけを突き詰め、ジュンイチとの“修行”の中で身に着けた、一撃必倒の勝負に出る時のためのかまえだ。
いつでも地を蹴られるように全身に“力”を充実させ、ヨロヨロと立ち上がるブロウルに告げる。
「死にたくないなら逃げてもいいよ。
相手を殺さずやっつけられるほど、あたしは戦い上手じゃないんだから!」
「この、小娘がぁっ!」
咆哮と同時に突撃、バリケードが両手に装備したホイールナックルで殴りかかるが、
「アスクレピオス」
ルーテシアの言葉と同時、彼女の周囲に滞空していた鋼鉄の楯がその眼前に集結する――それにはひとつの強大な楯となり、バリケードの拳を受け止める。
「こっちだっているんだぜ!」
だが、敵はバリケードだけではない。そんな彼女に向け、反対側からボーンクラッシャーがクローアームを伸ばして襲いかかり――
「ムダ」
ルーテシアには届かない。先ほどバリケードの拳を受け止めた楯の一部が回り込み、先ほどと同様に楯の集合体となってボーンクラッシャーの一撃を受け止める。
「あなた達の攻撃は、全部このガードビットが止めてくれる」
「へっ、だったら先にそのうっとうしいシールドからブッ壊してやるぜ!」
告げるルーテシアに言い返し、ボーンクラッシャーが再度クローアームを振り上げて――
「スキありだぁっ!」
そんなボーンクラッシャーを阻むのはガスケットだ。渾身の力で飛び蹴りを一発。人間で言うところのこめかみにクリーンヒットをもらい、ボーンクラッシャーはたまらずひっくり返り、昏倒する。
「へっ、どんなもんだい!
てめぇらの敵が嬢ちゃんだけだと思ったら大間違いだぜ!」
「ぬかせ! カトンボが!」
勝ち誇るガスケットだが、敵はボーンクラッシャーだけではない。言い放ち、バリケードが彼に殴りかかり――
「――――――っ!?」
直前で気づき、後退――直後、バリケードが飛び込んでいたであろう空間を強大な魔力の奔流が貫いた。
「砲撃、だと……!?
一体誰が……!?」
その砲撃はルーテシアのいる方からのものではなく、増してや目の前のガスケットが放ったものでもない――警戒し、周囲を見回すバリケードだったが、
「――――――っ! 上!」
再びバックステップで後退――彼のいた場所に、直上から放たれた閃光が叩きつけられる。
すぐに頭上を見上げるが、そこには誰もいない――ただ、“魔力を吐き出し、消えていく魔力スフィアがあるだけだ”。
そこで再びの気づき――バリケードはあたりを見回し、自分達の周囲に同様のスフィアが多数配置されているのを確認する。
「これは……まさか、“指定座標にスフィアを作り出しての遠隔砲撃”……!?」
この場にいる者でこんなことができるのは――振り向くバリケードの視線を受け、ルーテシアは静かにうなずいた。手にした魔導書を開き、告げる。
「これが、わたしの“アスクレピオスS”に追加された二つの要素。
わたし自身の防御力を上げて、ガリュー達が安心して前線に出て行けるようにするためのガードビットと、動かないわたしでも多方向からの砲撃を可能にする“遠隔砲撃能力”……」
そのルーテシアの言葉を合図とするかのように、周囲に配置されたスフィアが一瞬だけその輝きを強める。
「周りは完全に包囲した。
もう、わたしの“詰み”」
「なめるな……!
それなら、撃たせる前に討つまでだ!」
告げるルーテシアに言い返し、バリケードが一直線に彼女に突っ込み――
「ごめん。
もう、チャージは終わってる」
そのルーテシアの言葉と同時、彼女の正面のスフィアが火を吹いた。放たれた砲撃がカウンターの形でクリーンヒット、バリケードを吹っ飛ばす!
「…………援護、ありがとう」
「いらなかったかもしれないけどなー。
まったく、そのデバイスといいお前さん自身といい、末恐ろしいねー、まったく」
バリケードとボーンクラッシャーを叩き、一区切り――援護してくれたことについて礼を言うルーテシアに、ガスケットは「お前ならそんなものなくても勝てただろう」と肩をすくめてみせる。
「にしても、その気になれば全部のスフィアで一斉砲撃もできただろうに、それをしないで一発だけで決めちまうとはな。
余裕を見せつけるなんて、お前さんにしては、ずいぶんとえげつない勝ち方するじゃねぇか」
ルーテシアの戦闘態勢解除に伴い、周囲のスフィアも消えていく――それを見ながらつぶやくガスケットだったが、ルーテシアは首を左右に振って彼の言葉を否定した。
「実際に砲撃ができるスフィアは一度にひとつだけ。私の魔力じゃそれが限界。
だから、配置したスフィアのひとつだけに魔力を流し込んで砲撃用にする――残りのスフィアは、全部それを隠すためのダミーになる」
「…………それでも十分えげつねー……」
いずれにしても、相手は全方位砲撃の恐怖におびえることに変わりはない――いろんな意味でルーテシアよりもジュンイチの好みの方が色濃く出ている気がして、ガスケットは思わずため息をついた。
「おぉぉぉぉぉっ!」
「へっ! そんなもんっ!」
咆哮と共に愛槍、デスランスを振るうマスターギガトロンだったが、懐に飛び込まれた状態では槍などむしろジャマなだけだ。当然のようにジュンイチを捉えることはできず――
「どっ、せぇいっ!」
左の膝蹴りで身体を浮かされた。さらに、その一撃を予備動作として右半身を引いていたジュンイチが、渾身の右フックでマスターギガトロンを殴り飛ばす!
今のジュンイチはギガンティックフォームとなり、巨大化した重厚な“装重甲”の中にその身を収めている。その外見からスピードは犠牲になっているに違いないと踏んでいたマスターギガトロンだったが、結果は見ての通り。ジュンイチはギガンティックフォームの鋼の巨体で、むしろマスターギガトロンを翻弄するほどの素早さを見せていた。
「ぐぅ…………っ!
なんという反応速度だ……! あんな図体で、柾木のゴキブリ並の反応速度を完全に活かしきっている……!」
「たりめーだ!
何しろ、最初から“そういうふうに”作ってるんだからな!」
うめくマスターギガトロンに答え、ジュンイチは身をひるがえし、
「それに、デカイ図体っつっても……たかだか重量級トランスフォーマー並だ!」
ローリングソバットを放った。マスターギガトロンの胸を痛打し、押し返す。
「中に収まってるオレと比べたから規格外にデカイように錯覚したんだろうけど、実質、ガタイ的にはてめぇと大して変わらないぜ。むしろ頭部がない分、タッパじゃてめぇに負けてるくらいだ。
第一、コイツぁ元々、マグナブレイカーとかが使えない時に代替戦力として用意したものだからな――大型トランスフォーマーとガチの殴り合いをするために作ったんだ。そのくらいの機動性はなきゃ、お話にならないんだよ」
たたらを踏むマスターギガトロンに答えると、ジュンイチは改めて身がまえ、
「前にも言ったよな、ギガトロン。
お前らは、ハッキリ言って今回の事件の中じゃ脇役もいいところだ。“レリック”を手に入れて、その力で余計な野心を蘇らせて、横から首を突っ込んできてるだけだ。
ンな半端な覚悟で、オレの進む“道”に割り込んでくるんじゃねぇ。ひき逃げされても文句言えねぇぞ」
「ぐ………………っ!」
最後の茶化すような物言いに一瞬否定しかかるが、マスターギガトロンはそこから言葉をつなげられなかった。
ジュンイチの言っていることが、まさに正鵠を射ていたからだ。実際、自分達はこの事件の“裏”の情報を求めてこうしてジュンイチ達を襲撃してきた――自分の胸中を見透かしたかのようなジュンイチの指摘に反論もできず、ただうめくしかない。
そんなマスターギガトロンに対し、ジュンイチは静かに息をつき、
「さて……コイツ、イグニッションフォームの例にもれず制御するのはけっこう骨でさ……そろそろ終わりにしたいんだ。
っつーワケで――とっとと沈め!」
その言葉と同時――ジュンイチはフォースチップの“力”を解放した。内包されていたエネルギーが解き放たれ、その周囲で渦を巻く。
渾身の力で地を蹴り、先のソバットのダメージでフラつくマスターギガトロンへと突撃し――
「くらい、さらせぇっ!
ギガントぉっ! ハンドぉっ! クラッシャァァァァァッ!」
フォースチップの“力”を右拳に全集中、思い切り叩きつける!
「ぐわぁぁぁぁぁっ!?」
こちらの“全力”を込めた一撃を受け、マスターギガトロンが吹っ飛ばされていく――戦場を飛び出し、その外側に落下するのを見送り、ジュンイチは静かに告げた。
「Finish Completed.
“車田落ち”して反省してな」
「マスターギガトロン様が!?」
「くそっ、退くしかないか……!
マスターギガトロン様と合流して、撤退する!」
ジュンイチがマスターギガトロンを吹っ飛ばしたことで、大勢は完全に決した――それぞれの場所でうめき、ショックフリートやジェノスクリームは周囲で戦う仲間をまとめ、撤退していく。
「いやー、トランステクターなしで大丈夫かと思ってたっスけど、さすがは“最後の切り札”っスね」
「終わってみれば楽勝じゃねぇか」
「まぁ、オレの作品だからな♪」
誰もトドメを刺すには至らなかったが、その戦いの内容は「楽勝」と言っても差し支えのないものだった。感嘆の声を上げるウェンディやノーヴェに、ギガンティックフォームの解除されたジュンイチは汗をぬぐいながらそう答え、
「それより、まだ警戒は解くな。
……“次”が来る」
「次………………?」
ジュンイチの言葉に、セインが聞き返した、その時――
“彼女”が飛来した。
その白い色合いが夕焼けに映えるバリアジャケット。
両足から伸びる、浮力を生んでいる桃色の魔力の翼。
そして、その手に握るのは、先端を金色の装飾と赤い宝石で飾った魔杖型のインテリジェントデバイス――
どうして“彼女”がこの場に現れたのか――動揺をあらわにするノーヴェ達にかまわず、ジュンイチは“彼女”へと向き直り、告げる。
「ようこそ」
「高町なのは」
ヴィヴィオ | 「なのはママ!」 |
なのは | 「ヴィヴィオ!」 |
ジュンイチ | 「うんうん、ようやく親子の再会か。 感慨深いねぇ……自分とギンガ達の時を思い出しちまった」 |
なのは | 「そうですか?」 |
ジュンイチ | 「あぁ。 今となっては、スバルのおしめを取り替えてやったあの日々もいい思い出だぜ」 |
スバル | 「そんなに昔からウチにいたワケじゃないですよね?」 |
ジュンイチ | 「でも“そっち方面”の世話してたのは事実だろ。 だってお前、最後のおねしょが確か……」 |
スバル | 「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 |
ヴィヴィオ | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第102話『明日なき対決〜譲れないもの〜』に―― ハイパー、ゴッド、オン!」 |
ジュンイ&なのは | 『よくできましたー♪』 |
(初版:2010/03/06)