「スカリエッティもまた、とんでもないものを持ち出してきましたね……」
「あぁ…………」
 森を引き裂き、浮かび上がる巨大な箱舟――飛び去っていく“ゆりかご”を見送りながら、マスターギガトロンはつぶやくジェノスクリームに静かにうなずいてみせた。
「ガジェットの動きからスカリエッティのアジトを特定して来てみたが……なかなかいいものが見れたな」
「どうしますか?
 アジトに突入しますか?」
「やめておこう」
 あっさりとマスターギガトロンはショックフリートに答えた。
「あれだけのものを持ち出したのだ。おそらく今後の拠点はあの艦だ。
 となれば、あのアジトにはロクなものは残っていまい。
 それに、スカリエッティの先の演説によれば、あの艦自体が、かつてオレが使用していたもののような“古代遺物ロストロギア”であるらしい――成果を狙うのであれば、あの艦を叩き落として中身をいただいた方が実入りはいい」
 そう答え、マスターギガトロンはクルリときびすを返す――部下達には聞かれないよう、声には出さずに続きを告げる。
(それに……柾木ジュンイチやマスターコンボイが現れるとすればあの艦の周りだ。
 今度こそ、ヤツらとの決着をつけてみせる……
 真の破壊大帝となるのも、柾木ジュンイチを殺すのも……このオレだ!)
 

 一方、ノーヴェ達と遭遇、交戦していたリュムナデスもまた、“ゆりかご”浮上にあわせて後退していた。
「申し訳ありません、ザイン様。
 “ゆりかご”への潜入に失敗しました」
〈管理局に見つかり、交戦になってしまったのでしょう? 仕方ありません。
 一度戻ってください。作戦を切り替えます〉
「了解しました」
 どうやらザインは“ゆりかご”浮上の場合の策も用意していたようだ。あっさりと撤退を指示するザインにうなずき、リュムナデスはその場から姿を消した。
 

「古代ベルカの、“王”のひとり……」
「“龍王”……マグナ、クローネ……!」
 何の前触れもなく、唐突に明かされたマグナの正体――つぶやき、なのはやライカは呆然とマグナの方へと振り向いた。
 それは他の面々も同じ――皆一様に驚きの視線をマグナに向けている。平然としているのは、元から彼女の正体を知っていたと思われるジュンイチだけだ。
「で、でも、おかしくないかな?
 マグナ……さんの称号は“龍王”……でも、あの“ゆりかご”に冠せられた称号は“聖王”……」
「今までどおりマグナ、でいいわよ。
 私自身、王サマ扱いは好きじゃないから」
 首をかしげ、自分の呼び方に四苦八苦しながら尋ねるイリヤに苦笑すると、マグナはコホンッ、と咳払いし、告げた。
「まぁ……その辺りのことは簡単な話よ。
 あの“ゆりかご”は……」

 

「私が、あの子の――オリヴィエのために作り上げたものだったんだから」

 

 


 

第105話

決戦開幕!
〜クラナガン大攻防戦〜

 


 

 

「あの“ゆりかご”を作り上げたのが、あなただということはわかりました」
 マグナ自身は「王様扱いはしないでほしい」と願っても、ベルカの騎士として、主でなくとも“王”へ敬意を払うのは彼女の中では当然のことだった。ていねいな物腰を心がけ、シグナムはマグナに声をかける。
「しかし……古代ベルカ時代の人間であるあなたが、どうしてこの時代に?」
「幽霊みたいなもの……ってことなんだけど、それじゃあちょっと抽象的すぎるわね」
 クスリと笑いながらシグナムに答えると、マグナは一同を見回し、尋ねた。
「一応聞くけど……この中で、ジュンイチの“身の上”について知ってる子、どのくらいいる?」
『………………?』
 なぜいきなりジュンイチの話が出るのか――思わず首をかしげるが、とりあえず該当者は次々に手を上げる。
 ナカジマ姉妹にホクト、イレイン、はやて以下八神家、ライカ達“Bネット”組――それを確認すると、マグナは軽くうなずき、
「まぁ……そんなものね。
 じゃあ、今度は今手を挙げた子達に聞くわね。
 ジュンイチがその“身の上”によって得た能力の中で――唯一、自分の意思で活用しているものは何かしら?
 わからない子のために説明つきでどーぞ♪」
「えっと……“情報体侵入能力データ・インベイション”……ですか?
 右手で電子情報、左手で生体情報――触れたものの情報に干渉することのできる能力で、その力を使えばネットワークの中に自分の意識の一部を送り込むこともできる……」
「正解」
 代表して答えたのはギンガだ。満足げにうなずくと、マグナは自らを指さし、
「不肖、この私にもよく似た能力が先天的に備わっていてね――もっとも、ジュンイチのそれよりも使い勝手ははるかに悪かったんだけど。
 何しろアクセスできるのは電子情報だけだし、意識の一部どころか全部って形でしか送り込めないから、送り込んでる間は身体は完全に無防備になっちゃう。
 そんな能力だったから、かしらね……」
 そこで一度言葉を切ると、マグナはコホンと咳払いし、
「………………“潜って”る間に暗殺されちゃった♪ てへ☆」
「いや、そんなブリッコで片づけていい話やないですから!
 めっちゃ大事やないですか!」
 かわいらしくしなを作って告げるマグナの言葉に、はやてはあわててツッコミを入れる。
 と――
《でもでも》
 首をかしげ、口をはさんできたのはリインである。
《身体が暗殺されちゃったら、“潜って”たっていう意識の方も死んじゃうと思うんですけど……》
「そうね。
 そこのかわいらしいお嬢さんの言う通りよ」
 あっさりとマグナは認めた。《そんな、『かわいらしい』だなんて……》とリインが照れているのにかまわず、話を続ける。
「でも、私はこうしてここに意識を保ち続けている。
 理由は簡単――まだ、身体は完全に死んでいないからよ」
「ひょっとして……仮死状態、ですか?」
 尋ねるみゆきに、マグナはうなずき、肯定する。
「幸いにして、脳に影響はなくてね……おかげでこうして活動はできてるんだけど、当時の医学では私の身体を蘇生することは叶わなかった。
 だから私は、後の時代の、進歩した医学による蘇生に賭けることにした。肉体をコールドスリープで保存し、私自身も同じ施設に用意した専用の保存システムの中で眠りについていた。
 だけど……」
「この時代になって、考古学者がマグナの眠ってた施設を見つけちまったんだよ」
 説明を引き継ぎ、告げるのはジュンイチである。
「かくてマグナの身体は管理局の元へ。
 仮死状態とはいえ生きたベルカの“王”の身体だ。ほしがるヤツなんていくらでもいる。
 そして……よりによって、ミッドの地上の一番上が、その“ほしがるヤツ”の筆頭株だった」
「そうか、最高評議会……!」
 気づき、声を上げるなのはにうなずき、ジュンイチは続ける。
「オレがマグナ……今こうしてお前らと話してる意識体の方と出会ったのはそんな頃だ。
 3年前……その少し前にスカと最高評議会のつながりを知ったオレは、連中の情報を少しでも得ようとして、連中が調査を主導したっていう施設をいろいろと探っていた。
 その中には、マグナの眠っていた施設もあって……そこで出会った」
「私は自分の身体を取り戻すため、ジュンイチは最高評議会に対抗するため……
 利害の一致した私達は、手を組んで戦うことにした、ってワケ」
 ジュンイチの後に続く形で説明をしめくくると、マグナは軽く息をつき、
「まぁ……私の話はこのくらいね。
 今は私のことなんかより、“ゆりかご”の……というか、“ゆりかご”を含む“レリックシステム”の話。
 みんなが一番知りたいのはそこでしょう?」
「そうですね。お願いします」
 アリシアの同意にうなずき、マグナは改めて説明を始めた。
「“レリックシステム”というのは、今までにも話したとおり、私が開発、建造を指揮し、オリヴィエに贈った、あの巨大船“ゆりかご”を中心とした自動防衛システムの総称よ。
 内部には箱舟の如く永続的な居住を可能とする生活空間も設けられ、王族は“ゆりかご”を城とし、そこで子を成し、王家の血脈を紡いでいくことが可能となる……故に、“ゆりかご”。
 ただ……」
 と、そこでマグナは言葉を止めた。息をつき、仕切り直した上で続ける。
「ここからはみんなの大前提をぶち壊す話になるんだけど……本来、“レリックシステム”の中に、ゴッドマスターという要素は存在しない。
 “ゆりかご”、“トランステクター”、そして“レリック”……この3つの要素によって、“レリックシステム”は構成されている」
「ち、ちょっと待ってください。
 じゃあ、ゴッドマスターというのは一体……!?」
「そこは後で説明してあげる。
 今は、基礎知識として“本来のレリックシステム”についての話をまずさせてちょうだい」
 口をはさむフェイトをぴしゃりと制し、マグナは続ける。
「まず、トランステクターとは“王”を守るガードシステム……
 そして“レリック”は、そのトランステクターの心臓部よ。
 スキャンし、ボディを確立させたトランステクターに“レリック”が収められることで、トランステクターは仮初の命を得て、主を守るために戦う戦士となる……」
「ほら……ディセプティコンのブラックアウトの腹に、“レリック”が確認されただろう?
 アレが本来の使い方なんだ――わかってやってたのか偶然か、ギガトロンは“レリックシステム”を本来の形で使ってたってワケだ」
「そういえば……」
 マグナに続くジュンイチの言葉に、ゆたかが何かに気づいた。マグナへと顔を向け、告げる。
「ルーちゃん、前に言ってました。
 『11番の“レリック”を手に入れれば、お母さんは生き返るんだ』って……」
「それに……騎士ゼストも、“レリック”によって人造魔導師として蘇生され、行動しています。
 それも、今の話からするとむしろ納得がいくというか……」
「そうだな。
 メガーヌさんのことも、ゼストのオッサンのことも……全部“レリック”に“トランステクターの心臓部”という役割があるからこそのものだ。
 トランステクターに仮初とはいえ“命”を与えるものだからな。人間に使えばごらんの通り、ってワケだ」
 ゆたかやディードの言葉にジュンイチが答え、マグナが改めて説明を引き継ぐ。
「そして“ゆりかご”は“王”の君臨する天空の城砦。
 トランステクターの守護を受け、内部のプラントによって生み出された“ガジェットによって”――」
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁっ!」
 サラリと飛び出した単語はあまりにも予想外が過ぎた。すかさず声を上げ、ライカはマグナの話にストップをかけた。
「ちょっと待ってください!
 今、ガジェットがどうのって言いませんでした!?」
「言ったわよ」
 ごく当然のようにマグナはうなずいた。そんな彼女の傍らで、ジュンイチはなのはへと視線を向け、尋ねる。
「なのはには話したよな?
 8年前、お前を墜としたガジェットがスカリエッティのガジェットのプロトタイプで、“古代遺物ロストロギア”だって話は」
 なのはが無言でうなずくのを確認し、ジュンイチは続ける。
「その“古代遺物ロストロギア”版ガジェットの出所が、あの“ゆりかご”なんだよ。
 外をトランステクターに守らせ、内をガジェットに守らせる。それが“ゆりかご”の防衛システムの概要だ」
〈ボク達の頭の中には、最初からゴッドマスターの知識があった。
 だから、勝手に本来あるべき“レリックシステム”の中に“ゴッドマスター”という要素を加えて、誤った解釈をしていたんだ〉
「はーい、しつもーん」
 ユーノがジュンイチとマグナに付け加える一方で、手を挙げるのはこなたである。
「そんなすごいシステムを、ポンと聖王サマにあげちゃったの?
 自分のところで使えばよかったのに」
「簡単な話よ。
 オリヴィエは、“ゆりかご”を託すに足るような、素晴らしい友人だった……そういうこと。
 彼女なら、あの乱世の時代を終わらせられる……そう信じて、私は彼女に“ゆりかご”を託したの。
 みんな、オリヴィエのことを“最後のゆりかごの聖王”とか言ってるみたいだけど……“最初のゆりかごの聖王”でもあった、ということよ」
 そう答え――そこでマグナの表情が曇った。
「ところが……誤算は発生した。
 システムの想定していないイレギュラーが、すべてを狂わせたの」
「システムの外の存在――トランステクターに適合できる人間……“ゴッドマスター”の出現、ですね?」
 尋ねるはやてに、マグナは静かにうなずいた。
「さっきも語ったとおり、トランステクターは元々“レリック”を核として自立稼動するシステムだった。
 人間が融合することができる、なんて、システム上まったく考えていなかった……
 けど、“レリック”は人の蘇生にも使えることからもわかる通り、その“力”は人間の生命エネルギーときわめて酷似していた――そのことから、適合できる人間であれば、“レリック”の代わりにトランステクターと融合し、操ることができた……」
「その“適合する人間”っていうのが、ゴッドマスター……」
 つぶやくように確認するあずさにうなずき、マグナは視線を落とした。悲しげな眼差しで、当時のことを思い出しながら続ける。
「ただゴッドオンするだけなら、特に問題はなかった。
 問題だったのは、その上位態、ハイパーゴッドオンの方……」
「そうか……“擬似カイゼル・ファルベ”……」
 思いついたようにつぶやくのはアリシアである。
「元々、“カイゼル・ファルベ”は聖王家独自のものだった……それが、聖王家の権威を支えていたと言っても過言じゃない。
 でも、他の人間、ハイパーゴッドマスターも擬似とはいえ“カイゼル・ファルベ”を発現させられた……聖王家にしてみれば、自分達の権威の象徴をマネされたようなものだね」
「その通りよ」
 アリシアの言葉にマグナがうなずくと、今度はフェイトがマグナに尋ねる。
「でも……どうしてハイパーゴッドオンすると“擬似カイゼル・ファルベ”が発現するんですか?
 オリジナルの“カイゼル・ファルベ”は聖王自身の力……ゴッドオンがパワーアップしたからって、簡単に発現できるものじゃ……」
「簡単よ。
 どちらも、“同じことをしているから”――だから、魔力が同様の変質を遂げ、どちらも“虹色の魔力”として発現することになる……」
 言って、マグナは一同の前にウィンドウを展開し、あるデータを表示した。
 ノーヴェのハイパーゴッドオンの映像を例に“擬似カイゼル・ファルベ”の発現を分析したものである。
「聖王は自らの“聖王の資質”によって、ハイパーゴッドマスターはハイパーゴッドオンによって……それぞれの方法によって高められた魔力は、高出力化とそれに伴う高密度化によって魔力光の色を一定に保てなくなり、さまざまな色に変化するようになる。その結果、魔力光が七色に輝くようになるの。
 つまり、生来の資質によって生み出されるか、はたまたトランステクターの力を借りて生み出されるか――“オリジナル”と“疑似”の違いはそれだけでしかない。
 そして――“それだけでしかないからこそ”、アリシアの指摘したとおり、“カイゼル・ファルベ”の象徴としての絶対性は薄まることになった……
 結果として、ハイパーゴッドマスターの出現によって聖王家の権威は弱まり、収まる気配を見せていた乱世は再び混迷の中へ。
 そして、混乱の中、オリヴィエは……」
 そう告げて、オリヴィエは静かに息をついた。
 その視線に宿るのはぬぐいがたい後悔の念で――
「私が“レリックシステム”を作ったせいで、オリヴィエは……
 そして、今また世界の脅威として、その力が使われようとしている……!」
 自分のせいで、現在の状況がある――“ゆりかご”が世界の脅威になろうとしている中、造った張本人としての責任にさいなまれるマグナだったが、
「バカを言うな」
 あっさりと言い放ったのはマスターコンボイだった。
「オレの今の身体はトランステクターだ。
 あの日、あの場にトランステクターがあったから、プライマスがそこにオレのスパークを移植したから、オレは今、ここにいる。
 貴様がトランステクターを作ったから、オレは生きながらえることができた――貴様がいたからこそ、オレは今まで戦い抜くことができた。
 スバル達も同じだ。トランステクターの力があったから、ゴッドマスターとして覚醒できたから、ハイパーゴッドオンができたから、今のオレ達がある。
 今さら貴様のやったことを否定などさせん――オレ達の今までの戦いを、否定などさせてたまるか」
「そうですよ!
 マグナさんがトランステクターを作ってくれたおかげで、あたし達は大切なものを守って戦えた……マグナさんの“おかげ”ではあっても、マグナさんの“せい”なんてことは絶対にないです!」
「あなた達……」
 マスターコンボイの言葉に、スバルも身を乗り出してマグナに告げる――真っ向から自分のしてきたことを認める二人の言葉に、沈んでいたマグナの表情が少しだがほころんだ。そんな彼女に、はやては息をつき、告げる。
「私達には、あなたが今までのことにどんな後悔を抱いているのか、うかがい知ることはできません。
 でも……今この時が、後悔しているべき時やない、っていうのはわかります」
 言って、はやては彼女の前に進み出ると右手を差し出し、
「もう、終わらせましょう。
 “ゆりかご”を叩いて、ヴィヴィオも取り戻して……」
「そう…………ね」
 はやての言葉にうなずき――ようやくマグナの顔に笑顔が戻った。その瞳に再び意志の力をみなぎらせ、マグナははやての差し出してきた手をしっかりと握り返すのだった。
 

「…………とうとう、クラナガンまで来やがったか……」
 機動六課の中でそんなやり取りが交わされている間にも、“ゆりかご”は着実に進行を続けていた。大量のガジェットに守られながらクラナガンの都市部に迫るその威容を適当なビルの屋上からにらみつけ、ノーヴェはいら立ちもあらわにそう告げた。
「ジュンイチ達から、何か指示は?」
「イレインから、『このまま監視を続けながら合流を待て』って。
 ま、どの道あたし達の戦力だけで攻め落とせる相手じゃないし、むしろ願ったり叶ったりっスねー」
「だな。
 ヴェロッサ達も、アジトの摘発に備えてアジト前で待機、だしな……」
 尋ねる自分の問いにはウェンディが答えた。うなずき、セインは軽く息をつき、そんなセインにノーヴェが尋ねた。
「でもさぁ……このままヤツをクラナガンに入れちまってもいいのかよ?」
「いいんだよ」
 セインはあっさりとそう答えた。
「ドクターに、クラナガンをどうこうする理由なんかない。十中八九、ただの“通りすがり”。ほっとけばこのまま通り過ぎてくれるさ。
 むしろ、それまでは手出しするべきじゃない――そんなことをすれば、それこそ街を巻き込むことになる」
「どーせ管理局も同じように考えてるはずっスし、あたしらの出番は当分先っスかねー?」
 ならば今この時だけは気を抜いていたってバチは当たるまい。軽いノリでセインに同意し、ウェンディは大きくアクビして――

 

 轟音が轟いた。

 

「何だ!?」
「おい、アレ!」
 いきなりの轟音に驚き、舌をかんでしまったウェンディがたまらず涙目になっているが、そんなことはどうでもいい――あわてて周囲を見回し、轟音の正体を探るセインにノーヴェが指さした先では、ガジェットの布陣の一角が吹き飛ばされたことを示す爆煙が上がっていた。
 攻撃を放ったのは――
「おい――あの真下!」
「管理局の部隊が……!?
 何考えてるのさ!? あんな街中でしかけるなんて!?」
 そこには、“ゆりかご”の行動を警戒しながらも市民の避難に従事する局の部隊が展開していたはずだ。状況を理解したセインやノーヴェが声を上げるが、ガジェット達には相手にどんな事情があろうが関係ない。すぐに周囲のガジェットが降下を開始し、交戦を開始する。
「言わんこっちゃない……!
 誰だよ、あの部隊指揮してたの……!」
 どこの誰だか知らないが、状況も見えないほどのバカなのか、それとも部下達を抑えきれないようなヘタレか――まだ見ぬ問題の部隊の隊長に対し、セインは彼女にしては珍しくいら立ちもあらわにそううめき――
「……あぁ、もうっ!
 何やってんだ、このバカども!」
 そんな光景にノーヴェがキレた。エアライナーを発動し空中に向けて全力疾走。途中ブレイクラリーとガードフローターを召喚すると一気にブレイクコンボイへとトランスフォームして戦場に向かう。
「って、待て、ノーヴェ!」
「うかつすぎっスよ!」
 様子見と言われていたのに――だが、同時にこうなった以上静観などしていられないことは彼女達も理解していた。セインやウェンディもそれぞれのトランステクターにゴッドオン、ノーヴェを追って空中に身を躍らせた。
 

「フフフ……あっけないものね。
 緊張感って、意外に付け入りやすいのよね。余裕のなさの裏返しだから♪」
 ほんの一ヶ所で灯った戦いの火は、瞬く間に広がっていく――最初の一撃を皮切りにあちこちで管理局とガジェットの交戦が始まる中、セイレーンは自らのデバイス“淫欲ラスト”をクルクルと弄びながらつぶやいた。
 最初にガジェット達に向けられた一撃は彼女の仕業――“ゆりかご”を警戒していた局員のひとりを操り、攻撃を仕掛けさせたのだ。
「せっかく戦力を展開させたんだもの……存分に戦ってもらうわよ。
 避難できていない一般市民を巻き込んで、ね……♪」
 不敵な笑みと共にセイレーンがつぶやき――
「………………あら?」
 こちらに向かってくる3つの機影に気づいた。
「あれは……!?」
 

「何やってんだ、お前ら!」
 咆哮と共に戦場に飛び込み、一撃――ノーヴェの放った拳が、地上部隊に攻撃を放とうとした重装型の対TFT型に突き刺さり、粉々に爆砕する。
「ったく、こんなところでドンパチやるんじゃないっスよ!」
「周りのパンピーをさっさと逃がせよ!
 そのためにいるんだろ、あんたら!」
 そして、ウェンディやセインも参戦。局員を援護し、ガジェットに立ち向かう。
「六課が来るまでまだかかる!
 あたしらで、なんとかこの場を支えるぞ!」
「おうっ!」
「了解っス!」
 

「あの子達……!」
「またムチャしやがる……!」
 具体的な“ゆりかご”攻略作戦の検討を始めたところに突然の急報――ウィンドウに映し出された、ノーヴェ達の戦いの光景に、なのはが、ヴィータが思わずうめく。
「だが、おそらくあの場に高レベルAMF戦闘が可能な術者は多くはいまい。
 戦端が開かれてしまった以上、アイツらが踏ん張らなければ被害は広がるばかりだ」
「ですね……
 あたし達も、早く合流しないと……」
 一方、ノーヴェ達の行動を理にかなったものと判断するのはマスターコンボイだ。彼の言葉にスバルが同意し――
「………………」
 不意に、ギンガはイヤな予感に囚われた。周囲を見回し、その“予感”が誤っていなかったことに気づく。
「…………ジュンイチさんは?」
『………………え?』

 ジュンイチの姿は、いつの間にかその場から消えうせていた。
 

「IS発動――“ブレイクライナー”!」
 ブレイクコンボイの最大の武器が、ノーヴェのISによってさらに高次元に昇華される――エアライナーに飛び乗り、一気に限界速度まで加速したノーヴェが、ガジェットの群れを勢い任せに薙ぎ払う。
 が――そんな彼女に、ガジェット群から容赦のない攻撃が放たれる。すぐそばで至近弾が炸裂し、ノーヴェは一旦後退して攻撃から逃れる。
「くそっ…………
 予想しちゃいたけど、やっぱ相手があたしらでも遠慮なしか……!」
「同じナンバーズでも、あたしらのことは完全に敵としてみてるみたいっスね……!」
 セインやウェンディも懸命に防戦しているが、それでも数の差は絶対的だ。正直、管理局の部隊から引き継いだ形のこの防衛ラインを彼女達3人だけで維持できていること事態が奇跡とも言えた。
 と――
「――ノーヴェ! 危ない!」
「――――――っ!?」
 セインの呼びかけにノーヴェが気づくが――相手の方が速かった。U型に運んできてもらったのだろう。対TFV型のガジェットが頭上に落下。間一髪で気づいたノーヴェはその落下を受け止めるが、この乱戦下でそんな動きを止めるような対応は悪手でしかなかった。V型の重量で完全に足を止めてしまったノーヴェの前後に、対TFT型が回り込んでくる!
「――――――っ!?」
(挟撃――――っ!?)
 やられる。
 戦慄するノーヴェに向け、ガジェット達はそれぞれに魔力砲をチャージし――
 

 薙ぎ払われた。
 

 突如飛来した閃光の雨が、ガジェット達をハチの巣にし、爆砕したのだ。
 そして――
「ノーヴェ!」
 自分の名を呼びながら、自分を守るように――“装重甲メタル・ブレスト”をまとったジュンイチがその場に舞い降りた。
「ジュンイチ!?」
「ウェンディとセイン、巻き込まれるなよ!」
 声を上げるノーヴェを背後に守り、ウェンディとセインに警戒を促し、ジュンイチは背中のゴッドウィングを広げた。
 同時、額のバイザーの内側からターゲットスクリーンがジュンイチの両目を覆うようにスライドしてきた。スクリーン越しに見えるガジェットの群れに対し、ジュンイチは次々に照準を合わせていく。
 その一方で、ジュンイチの周囲に次々と炎の弾丸が生み出されていく。それはジュンイチの周囲を覆い尽くさんばかりの量となり――
「百火、爆砕!
 ビッグバン、デストロイヤー!」

 そのすべてが、一斉に解き放たれた。撃ち出された炎の弾丸が、ジュンイチが照準を合わせたガジェットを次々に捉え、粉砕――瞬く間に彼らの周囲はガジェットの爆発による無数の火球で埋め尽くされた。
「す……すげぇ……!」
 “ヴァニッシャー”以外でも、生身でここまで破壊力を発揮できるとは――その圧倒的とも言える火力に、呆然と声を上げるノーヴェだったが、
「おい、何してる!」
 ジュンイチの鋭い声に我に返った。
「今すぐ“オレから離れろ”!
 ウェンディ! セイン! お前らも近づくんじゃねぇぞ!」
「ジュンイチ……!?」
「お前ら……“オレがどういう立場か忘れたか”!?」
 いきなりの言葉にワケがわからないノーヴェに対し、ジュンイチがそう言い放ち――
「柾木ジュンイチ!」
 新たな声が上がり――管理局の魔導師の一団が飛来した。一糸乱れぬ動きでジュンイチを包囲し、一斉にデバイスを向ける。
「貴様には捕獲命令が出ている。
 このような状況で不本意ではあるが、投降してもらうぞ!」
「――――――っ!
 何だよ、それ!? そんなことしてる場合じゃないだろ!」
 ジュンイチに告げるリーダーらしき魔導師の言葉に、ノーヴェは思わずかみついて――
「よせ、ノーヴェ」
 そんなノーヴェを、ジュンイチは冷静に止めた。
「コイツ、言ってただろうが――『不本意だが』ってな。
 コイツらだってわかってんだ。ホントなら、今はそんなことをしてる場合じゃないってことくらい。
 でも……オレの捕獲命令はまだ生きてる。オレを見つけちまった以上、こいつらはオレに手を出さざるを得ないんだ」
「でも…………!」
「心配いらないよ」
 なおも反論しかけたノーヴェに、ジュンイチはそう答えた。そんな彼に、魔導師達は一斉に魔杖型のインテリジェントデバイスをかまえる。
 しかし――彼らの攻撃がジュンイチを襲うことはなかった。
 上空から飛来した多数の魔力弾が、魔導師達の杖を弾き飛ばしたからだ。
 攻撃の主に敵意はないのか、どの魔導師に対しても、杖の先をジュンイチからそらしただけで破壊はしていない。
「え………………?」
「な?
 別にお前やオレが手出ししなくたって――」
 突然のことに呆然とするノーヴェに対し、ジュンイチはあっさりとそう答え――そんな彼の眼前に、攻撃してきた張本人“達”が舞い降りた。
 それが自分の察知したとおりの相手であることを確認し、ジュンイチは彼らの巨体を見上げ、
「オレ達よりもずっと権力をお持ちの方がいらっしゃったから♪
 ナイスタイミングだな――スカイクェイク、ザラックコンボイ」
「まったく……貴様のことだからまず確実に先走ると踏んで駆けつけてみれば案の定か」
「しかもオレ達のこの行動も予測済みだというのだからまた頭にくるな」
 軽いノリで告げられ、思わず苦言がもれる。名を呼ばれた二人、スカイクェイクとザラックコンボイはジュンイチを軽くにらみつけた後、続いて周囲の魔導師達をにらみつけた。
「貴様ら……何のつもりだ?」
「今お前達が戦わなければならない相手は、この男ではあるまい!
 討つべき相手を、守るべきものを、見誤るな!」
 地球とミッドチルダ、二つの星のリーダーににらまれ、魔導師達は思わずひるんで後ずさりする。
「それはいいけどさぁ……」
 だが、そんな彼らのやり取りに割り込んだのは一番の火種であるジュンイチだ。スカイクェイク達の前に進み出ると爆天剣をかまえ、
「敵さんは――いつまでも待っちゃくれないよ!」
 力いっぱい振るったそれから放たれた炎が、襲いかかってきたガジェットの一群を焼き払う。
 そして、ジュンイチは先ほど自分を包囲した魔導師隊の隊長へと一瞬だけ視線を向け――告げる。
「撃ちたいなら……撃てよ」
「………………っ!」
 淡々と告げられ、隊長が思わず言葉に詰まる――そんな彼にかまわず、ジュンイチは翼を広げて戦場へと舞い戻っていく。
「まったく……せっかく援護に来てやったというのに、自分から『撃て』とぬかすか……」
「つくづく助け甲斐のない男だ、まったく……」
 そんなジュンイチの姿に改めてため息をつくと、スカイクェイクも、ザラックコンボイも、それぞれの獲物を手に戦場へと飛び立った。
 

「“ゆりかご”が完全浮上して、主砲を撃てる位置……加えて、二つの月の魔力が受けられて、地上攻撃の可能な軌道位置まで上昇されたら、事実上アウトだと思ってくれていいわ。
 ザインの時と同じよ。そこまで行かれたら、ミッドの地上すべてが人質になる……!」
 現場に急ぐノイエ・アースラとマックスフリゲート――格納庫でマグナダッシャーの起動準備を進めながら、マグナは通信回線越しに一同に告げる。
〈つまり、まずは“ゆりかご”の浮上を抑えることがまず第一になる。
 もちろん、スカリエッティ達もすんなり止まってくれるとは思えないし、ディセプティコンやユニクロン軍、瘴魔だっている〉
〈こっちも、本局側の戦力が遅れてるとは言っても、地上部隊の各隊が連携して対応に当たることになってる〉
〈その『対応に当たることになってる』部隊がジュンイチにちょっかい出してるけどいいのか?
 アイツと模擬戦してて思い知ったけど……あんまジャマすると、敵もろとも吹っ飛ばす、くらいはフツーにやるぞ、アイツ〉
「<<………………確かに>>」
 後に続くはやてやフェイトの言葉に、ガスケットが乱入してツッコんできた。はやて達やマグナがそろってうなずいてしまうのもムリのない話だが――
〈きっと、そのためにジュンイチさんはスカイクェイクさんを呼んだんじゃないでしょうか?〉
 新たに口をはさむのはギンガである。
〈ザラックコンボイさんとスカイクェイクさん――二つの星の現プラネットリーダーが味方に回れば、地上部隊もおいそれとは手が出せない。自分が手を下すこともなく彼らの手出しを封殺し、さらに対“ゆりかご”のための戦力も維持できる……〉
〈理屈じゃなくて現実をもって論破しようとするあたり、ジュンイチさんらしいというかなんというか……〉
 ギンガの言葉に苦笑するなのはだったが、すぐに気を取り直して一同に告げる。
〈でも……さっきイクトさんが指摘したとおり、高レベルでの対AMF戦のできる魔導師は多くない。
 無事にジュンイチさんへの手出しを控えてくれたとしても、今度は普通に戦闘で撃墜される可能性が浮上してくる……
 みんなにはそれぞれ、グループごとに分かれて各部署に協力することになる〉
〈要は、連中でも片づけられるようなザコはほっといて、連中の手に負えないような連中を片っ端から落としていけばいい、だろう?
 むしろ好都合だ。ザコの掃除なんかやってられるか〉
 なのはの言葉にミもフタもないことを言ってのけるのはマスターコンボイだ。
〈オレ達がすべてを終わらせる――八神はやてがそう宣言したばかりだろう。
 目的が定まっている以上、迷う必要は何ひとつない〉
〈うん!
 お兄ちゃんを助けて、みんなで“ゆりかご”を止めて、ヴィヴィオやルーテシアを助ける!〉
 マスターコンボイの言葉にスバルも同意し、それぞれの通信ウィンドウに映る出撃予定メンバー全員がそれぞれにうなずいてみせる。
 その光景に満足げにうなずき、マグナは現在宿っているユニゾンデバイスボディとのリンクをカットした。思念体となってマグナダッシャーのシステムにもぐり込むと、電子空間の中で静かに目を閉じ、思いを馳せる。
(そう……ここで終わらせるんだ……
 オリヴィエは、ハイパーゴッドマスターによって聖王家が侵されても、私の親友であり続けてくれた……私の味方であり続けてくれた。
 今度は……私がヴィヴィオの味方になる番なんだ!)
 

「ほな、隊長陣も出動や!」
『了解!』
 スバル達が順次出動、マグナもジュンイチとの合流が果たされ次第すぐに出動してもらうべく準備完了。今度は自分達の番だ――ブリッジの艦長席から立ち上がり、力強く告げるはやての言葉に、周囲に控えていたなのはが、フェイトとジャックプライムが、ヴィータとビクトリーレオが、シグナムとスターセイバー、アリシアが――そしてイリヤと美遊もそれぞれにうなずいてみせる。
 そして、彼女達が出て行くのを敬礼して見送っていたグリフィスだったが、
「ほら、何してるの?」
 そんな彼の脇をヒジで小突いて告げるのはシャリオだ。
「グリフィスも、早く」
「え………………?」
「ヴァイス陸曹が、スプラングと待ってますよ。
 協力してくれるそうです」
 シャリオの言葉に何のことかと眉をひそめるグリフィスだが、そんな彼にアルトもまた笑顔でそう告げる。
「止めたいんでしょう? ウーノさんのこと。
 なら、グリフィスも行くべきだよ」
「シャーリーの言う通りよ」
 告げるシャリオに同意し、ブリッジに現れたのはシャマルだ。
「私とフォートレスも、マキシマスで出動するわ。
 グリフィスくんの援護、バッチリしてあげる」
「シャマル先生……」
 どうやら、彼女もウーノを止めるのに協力してくれるつもりのようだ。そして――
「早く……行ってあげてください」
 ルキノもまた、操舵席からグリフィスに告げた。
「きっと……ウーノさんもそれを待っています」
「ルキノ……」
 精一杯の笑顔で告げる彼女に、グリフィスはしばし黙考し、
「……すまない、シャーリー。ここは任せる。
 シャマル先生、行きましょう!」
「えぇ!」
 決断した。グリフィスの言葉にシャマルがうなずき、二人はブリッジを飛び出していった。
 

 ノイエ・アースラの底部、その一角に備えられた降下ハッチが開き、そこからキングコンボイを先頭に六課隊長格のトランスフォーマー勢が次々に降下。その後を追い、制服姿のなのは達が一斉に飛び出していく――その光景を、カリムは聖王教会の執務室で、ウィンドウ越しに見つめていた。
 自らの、今できる最後の役割を果たすためだ。これが済めば、後は見守ることしかできない――息をつき、静かに告げる。
「機動六課隊長、副隊長一同……能力限定、完全解除。
 はやて、シグナム、ヴィータ、アリシア……
 なのはさん、フェイトさん……
 ビッグコンボイ、ジャックプライム、スターセイバー、ビクトリーレオ……
 そして……イクト様、イリヤさん、美遊さん……
 みなさん、どうか……」
〈大丈夫や、カリム!〉
〈迅速に解決します!〉
〈お任せください!〉
 六課を、カイザーズを導いてきたエース達全員に自らの願いを託す――カリムの言葉に、代表してはやてが、フェイトが、そしてなのはが答え、カリムは改めて告げた。
「リミット――」

 

「リリース!」

 

 瞬間、全身に力がみなぎる――限定解除によってすべての力の発揮を許され、なのは達の身体が魔力の輝きに包まれる。
 そして、それが晴れた後には、なのは達は皆バリアジャケットの装着を完了していた。ルビーとサファイアによって魔術礼装を身にまとったイリヤ、美遊と共に大空に舞い上がる。
 さらにビッグコンボイ以下トランスフォーマー勢の出力リミッターも解除。なのは達を追って飛翔する。
 と――なのはの身体に鎧として装着されている状態のプリムラが声をかけてきた。
《……あのね、なの姉……》
「ん? どうしたの? プリムラ」
《私達……がんばるから。
 レイジングハートも、私も……なの姉のデバイスとして恥ずかしくないように、いっぱいいっぱい、がんばるから》
「………………うん」
 静かにうなずくなのはに対し、プリムラは改めて気合を入れた。彼女の感情の高ぶりに応え、機体に備えられたなのはの魔力を増幅するブースターが一際強くうなりを上げる――
 先のジュンイチとの話の中で、プリムラは改めてレイジングハートと話し合った。
 そして考えた。自分達となのはの“強さ”を支えていたものは一体なんだったのか。
 なのはは、自分の周りの人達を守りたい、いつだってそう願っていた。その想いを支えに、どんな困難も、どんなピンチも、8年前のあのケガだって乗り越えてきた。
 ならば自分達はどうだろうか。デバイスである自分達になのはのように守りたい相手など――いた。
 なのは自身だ。
 マスターであり、パートナーであるなのはのことを、自分も、レイジングハートも、ずっと守り続けてきた。
 それは、彼女が自分達のマスターだったから、だろうか――否。そんなことはない。
 レイジングハートも、自分も、なのはのことが大好きだから。だから守りたいのだ。
 この10年間を、自分達はずっと共に過ごしてきた。共に戦い、共に学び、時には共に遊びもした。
 自分達にとって、なのははもはやただのマスターではない。マスターであると同時に、“家族”と呼んでもいいほどに大切な存在なのだ。
 だから――
(私達が守るよ、なの姉……
 レイジングハートも、私も……なの姉のことをずっと……!)

 そして、なのはもまた、プリムラの言葉に決意を新たにしていた。
(そうだ……
 私は、私だけで戦ってるワケじゃない。
 フェイトちゃんや、はやてちゃんや、みんなが……
 ……それに、レイジングハートやプリムラだっている)
 ジュンイチに気づかされた。自分が他人を頼れないでいたことを。
 ジュンイチに教えられた。自分はひとりではなかったことを。
 仲間達が、自分のことを支えてくれる。
 レイジングハートが、プリムラが、想いを貫く力をくれる。
 みんながいるから、自分は戦ってこれた――自分が頼ろうとしなくても、みんなが自分を支えて、力を貸してくれていたのだ。
 だから――

(私達は――)
 

(いつだって――)

 

((ひとりじゃない!))

 

 強い想いを今一度翼に宿し、なのはは――なのは達は戦いの場を目指し、飛翔した。

 

「いっ、けぇぇぇぇぇっ!」
 咆哮と共に、拳に宿った炎が打ち出される――ジュンイチの手によって燃え盛る炎は、狙い違わずガジェット群を捉え、焼き尽くしていく。
「よっしゃ、次!」
 最初から数で負けている戦いだ。そしてセオリーに則り頭=“ゆりかご”をつぶすワケにはいかない。中にはヴィヴィオが、そして出撃していなければルーテシアもいるのだから。
 となれば相手が戦力を繰り出す以上のペースで相手の戦力を削っていくしかない。次の一撃をチャージしながら、ジュンイチは敵の密集しているエリアを探して視線を走らせ――
「――――――!?」
 気づき、防御を固めた彼の力場にエネルギー弾が多数叩きつけられた。
 そして、彼に向けて鋼の巨体が舞い降り、一撃を振り下ろす――エネルギー刃だったためにジュンイチの力場に止められるが、もしこれが実体剣であったなら、この一撃は容易に力場を破り、ジュンイチの身体を粉みじんに撃ち砕いていただろう。
 その一撃の主は――
「見つけたぞ――柾木ジュンイチ!」
「マスター、ギガトロン……!」
 うめくように答えると同時に“力”を燃やす――炎を巻き起こし、ジュンイチはマスターギガトロンを押し返すと間合いを取る。
「まったく、いつものパターンかよ……!
 オレ達の戦いに便乗して、邪魔者を片づけつつ、使えるものは片っ端からかっさらおうって腹か」
「当然だ!
 これだけの“力”を持つ“古代遺物ロストロギア”……利用しない手はないだろう!」
 うめくジュンイチにマスターギガトロンが言い放ち――
「それに……同じように考えたのは我らだけではないようだぞ?」
「――――――っ!」
 気づくと同時に、跳躍し、回避――とっさに左に跳んだジュンイチの目の前で、猛スピードで飛び込んできたシードラゴンが一撃を空振りしていた。
「瘴魔――――っ!?
 しかも、コイツって確か――」
「IS発動――“皆殺しの鼓動ジェノサイドビート”!」
 うめくジュンイチに対し、シードラゴンはさらに追撃をかける――こちらを捕まえようと次々に伸ばされる腕を、ジュンイチは不意討ちを受けたことも重なってただかわし続けることしかできない。
「逃がすか!」
「ったく――しゃーねぇ!」
 そんなジュンイチを狙い、シードラゴンはさらに攻勢を強める――このまま回避に徹していてはいずれ捕まる。そう判断するなり、ジュンイチはその場に力強く踏みとどまり、シードラゴンをにらみ返す。
「覚悟を決めたか!」
「誰が!
 要は触れられなきゃいいんだろうが!」
 言い放つと同時、ジュンイチはシードラゴンへとカウンターの拳を打ち放ち――
「させるかぁっ!」
「――――――っ!?」
 そんなジュンイチに向けて“力”の砲撃が襲いかかった。とっさにジュンイチが後退し、ジュンイチとシードラゴンの間を砲撃が突き抜ける。
 砲撃を放ってきたのは――
「アイツ――クラーケンか!?」
 そう。ジュンイチが発見したのはクラーケンだ。再び砲撃のチャージに入るクラーケンに向けて身がまえて――
「もらったぁっ!」
 そんなジュンイチに向けて、シードラゴンが先の砲撃の爆煙の中から飛び出してくる!
(しまった――意識をそらすのが狙いか!?)
 らしくもなくこんな単純な手に――舌打ちするジュンイチだが、シードラゴンの攻撃は容赦なく襲いかかってくる。
(どうする――!?
 回避――ダメだ! 間に合わねぇ!
 防御も、できることなら……!
 …………だったら!)
「南無三!」
 こうなったら“賭ける”しかない――決断し、ジュンイチはシードラゴンの繰り出してきた一撃を“右手で受け止める”!
「バカめ!
 吹き飛ばしてくれる!」
 そんなジュンイチにシードラゴンが言い放ち――
「させっかよ!」
 同時、ジュンイチもまた咆哮し――直後、二人の間で“力”が荒れ狂った。ジュンイチとシードラゴン、つながれた二人の手を中心に“力”の稲妻がほとばしり、二人を吹き飛ばす!
 見れば、ジュンイチの右手も、シードラゴンの右手も、もうもうと煙を立ち上らせていて――その様子に、マスターギガトロンはジュンイチが何をしたのかを見抜いていた。
(かわしきれないと見て、とっさに相手の超震動波を真似して相殺したか……!
 まったく、相変わらずムチャをする……!)
「あっぶねぇな、てめぇ……!
 けど、奇襲のタイミングがよかっただけに残念だな!
 オレにエネルギー砲撃は効かねぇよ――いるとわかれば、対処のしようなんていくらでも!」
「ならば試してみるか!? 我が怒りの力!」
 不敵に告げるジュンイチに言い返し、クラーケンが突撃。ジュンイチもそれを迎え撃とうと身がまえ、両者の距離が一気に詰まり――

 

 真横からの砲撃で、クラーケンが吹っ飛ばされていた。

 

「え………………?」
 だが、その一撃はジュンイチが放ったものでも、別の場所で戦っているノーヴェ達の放ったものでもなかった。まったく予期していなかった一撃に、ジュンイチも呆然と声を上げ――
「ジュンイチさん!」
 そんな彼の元に飛来したのはなのはだ。今のジュンイチを援護した砲撃は、彼女の放ったものだったのだ。
「大丈夫ですか!?」
「へっ、オレがこの程度でどうにかなるかっての!」
 尋ねるなのはに答えると、ジュンイチは彼女を守って前に出た。飛び込んできたシードラゴンの一撃を、炎で視界を奪った上でさばき、シードラゴンを蹴り飛ばす。
「やるな!
 ――だが!」
「いい加減しつこい!」
 しかし、シードラゴンも負けてはいない。体勢を立て直して再び襲いかかってくるシードラゴンに対し、ジュンイチも今度こそ叩き伏せるべく身がまえて――
「悪いな――柾木!」
 そんなジュンイチの脇を駆け抜けたイクトが、シードラゴンにカウンターの蹴りを叩き込む!
「イクト!?」
「先日の雪辱戦だ。
 そいつの相手はオレに譲ってもらおう」
 驚き、声を上げるジュンイチに答えると、イクトは改めてシードラゴンと対峙する。
 そして、なのはが、イクトが、ジュンイチを守るように彼の眼前に舞い降りて――
 

 シグナム達隊長陣が。
 

 こなた達カイザーズが。

 

 そして、スバル達フォワードチームが――

 

 機動六課の総力がその場に集結した。

 

「へっ、ようやくのお出ましかよ?
 ずいぶんと出遅れてんじゃねぇか。お出かけ前のメイクアップでもしてたか?」
「もう、またそうやって茶化すんだから……
 ジュンイチさんが勝手に動きすぎなんですよ」
 なのはの砲撃によって、なんとか当面の苦戦は脱した――しかし、そのことに対し素直に礼を言うジュンイチではない。軽口を叩くその姿に、ロードナックルにゴッドオンしたギンガは深々とため息ついてみせる。
「ギン姉の言うとおりだよ。
 すっごく心配したんだからね」
「心配してくれるのはありがたいけどさ、心配する相手間違ってない?
 なんたってオレだよ、オレ」
「いや、その通りだとは思いますけど……」
「自分で言うのはどうかと……」
「客観的に事実を告げただけだ」
 スバルへの答えに苦笑するエリオやキャロに答えると、ジュンイチは改めて右手に炎を生み出し、
「ま……おかげで助かったけどね!」
 前方に向けて解き放った。炎は防壁となり、マスターギガトロンの放ったビームを誘爆させて防御する。
 そして、ジュンイチは改めてなのは達を見回し、
「油断すんなよ、みんな。
 ここにギガトロンやシードラゴン達が現れたっつーことは、他のヤツらだって戦場のどこかに当然いるはずだ。
 これから散開して事態に当たるんだろう? 不意討ちを食らう可能性に気をつけろよ」
「読んでたんですか?
 私達がどういう作戦を取るのか」
「これだけ戦線が拡大している状況を考えれば、当然そーなるでしょ。
 “一点突破で速攻解決”なんて周りの部隊に負担を押し付けるような手段をお前らが取るはずないしな。
 だから、お前らが到着するまでに広域爆砕かましまくって、できるだけ防衛ライン薄くしておきたかったんだけど……」
 聞き返すはやてにジュンイチが答えると、
「確かに――さっさと動かなければ、ジャマが入る一方だな!」
 その一方でイクトが動いた。“皆殺しの鼓動ジェノサイドビート”で突破してきたシードラゴンの一撃をさばくとその腕を捕まえ、投げ飛ばす!
「テスタロッサ、行け!
 ミッションプランの通り、スカリエッティのアジトへ!」
「はい!」
 それぞれの配置の都合上、スカリエッティのアジトへはこの戦場を突っ切るのが一番の近道――だからここまでは同行してきたが、フェイトの役目はこの戦場を制することではなくアジトに残ったと思われるスカリエッティの逮捕だ。告げるイクトに対し、フェイトは力強くうなずき――と、その視線がなのはに向いた。
「………………?
 何?」
「なのは……ムチャだけはしないでね」
 首をかしげ、尋ねるなのはに対してそう答えるフェイトは本当に心配そうだ。
「なのはとレイジングハート、プリムラのリミットブレイク、“ブラスターモード”……
 なのはは言っても聞かないだろうから、使っちゃダメ、とは言わないけど……」
 そこで一度言葉を切り、フェイトは確実になのはに伝わるよう、ハッキリと告げる。
「お願いだから、ムリだけはしないで。
 私が……私達が、いつもどれだけ心配しているか――」
 

「知ってるよ」
 

 しかし、言いかけたフェイトに向けられたのは、なのはのそんな優しい言葉だった。
「ずっと心配してくれてたこと……よく知ってる。
 フェイトちゃんも、はやてちゃんも、ヴィータちゃんも、シグナムさんも……
 スバルやマスターコンボイさん、ティアナやキャロ、エリオ、ギンガ……
 ジャックプライムくん、スターセイバーさん、ビクトリーレオさん、GLXナンバーのみんな……
 他にも、合流してからのこなた達だったり、ロングアーチの子達だったり、シャマルさんだったり……みんなみんな、ずっと心配してくれてた……
 ごめんね、今まで応えてあげられなくて……」

『“他人に頼れない”――それがお前の欠点だ』

(そうだね……
 私、本当にバカだったんだ……!)
 昨夜言われたばかりの言葉が脳裏に蘇り、なのははその言葉を自分に向けた張本人へと視線を向けた。張本人、すなわちジュンイチがうなずくのを見て、改めて一同を見渡す。
(悲しい出来事……理不尽な痛み……どうしようもない運命……
 そんなのが嫌いで、認められなくて、撃ち抜く力が欲しくて……
 だから私はこの道を選んで……同じ想いを持った子達に、技術と力を伝えていく仕事を選んだ……)
 静かに瞑目し、空いている右手を胸元で握り締める――まるで、その内にある想いを握りしめるように。
(この手の魔法は、大切なものを護れる力……
 想いを貫き通すために、必要な力……)
 自分を討ち倒した、ジュンイチの戦いぶりが、自分の目を覚まさせてくれた時の優しげな瞳が脳裏に蘇る――そして実感する。
 ジュンイチにとって、あの戦いはヴィヴィオのためだけではなかった――なのはのための戦いでもあったのだと。
 自分の撃墜のことをずっと気に病み、8年間も独りで苦しみ続けてきた彼の想いを、ムダにするワケにはいかない。
 そして、いつだって自分のことを想い、気遣ってくれた周りもみんなの想いも――
(待ってて、ヴィヴィオ……
 私が、助けに行くから……
 みんなと一緒に、必ず助けに行くから……!)
 決意を新たに、なのははゆっくりと目を開けた。スバル達へと視線を向け、その名を呼ぶ。
「スバル。
 ティアナ。
 エリオ。
 キャロ。
 ギンガ。
 それから、短期間ではあったけどカイザーズの子達……」
 自分の想いを伝えるため、一言一言、ハッキリと言葉にしていく。
「みんな……本当に強くなった。
 いろんな訓練を乗り切って、どんな絶望的な状況でも、あきらめずに道を切り拓いてきた……その経験は、みんなを大きく成長させてくれた。
 みんな、私が信頼できるくらいに、強くなった」
 スバル達は、自分の言葉を一字一句聞き逃すまいと耳を傾けてくれる――そんなスバル達に、そして周りのフェイト達に、自分の思いのたけをぶつける。
「私は、ヴィヴィオを助けたい。
 でも……そのためには、私やレイジングハート、プリムラの力だけじゃ絶対的に足りなくて……
 …………でも、みんながいてくれる。
 みんなが一緒に、戦ってくれる。
 みんなの力をあわせれば……きっとすべてを、最高の形で終わらせられる。
 だから……みんなが私を頼ってくれるように……」
 

「私にも、みんなのことを頼らせて」
 

 なのはのその言葉に一同の間に沈黙が落ち――

「…………ズルイですよ、なのはさん」

 そう口を開いたのはスバルだった。
「あたし達みんな、なのはさんのことを尊敬しています。
 そのなのはさんにそんなこと言われて……奮い立たない人なんかいませんよ!」
「スバルの言うとおりやね。
 私も、今のでけっこうやる気メーター上がってきたよ!」
「お前がそこまで言うんだ。踏ん張らないワケにはいかないな!」
 スバルやはやて、ビッグコンボイの言うとおり、みんななのはからの意外な発言や“あのエース・オブ・エースに頼られている”という事実によって完全にテンションを上げていた。「うんうん」とうなずくもの、単純に頼られてうれしい者。自らの頬を張って夢ではないと確認する者――それぞれに気合を入れ直している。
「おーおー、みんなやる気になっちまってまぁ。
 愛されてるねー、なのはのヤツ」
 そんな一同の光景に、ジュンイチは笑いながら肩をすくめ、
「お兄ちゃんもだよ」
 そんな彼にも、スバルはため息まじりにそう告げた。
「お兄ちゃんもなのはさんを見習ってよ。
 いつもいつも、ひとりでムチャして……」
「はっはっはっ、それは違うぞ、スバル」
 しかし、そんなスバルの言葉にも、ジュンイチは笑いながらそう答え、
「ひとりでムチャしてるんじゃない――」
 

「“ひとりじゃないからムチャできるんだ”」
 

 思い切り断言してくれた。
「ひとりじゃないから、オレは安心して暴れられる。
 お前らが後ろにいるから、オレは背中を気にしないで突っ込める。
 守りたいお前らがいるから……どこまでも力がわいてくる!」
 その言葉に伴い、ジュンイチの身体から“力”がもれ始める――ジュンイチによって高められ、彼の身体に収まりきらなくなった精霊力が、ジュンイチの周囲で強烈に渦を巻く。
「オレはお前らを頼れない。頼るヒマがあったら自分で動いちまう。
 だからせめて……オレはオレの戦いをする。
 お前らがオレを心配しなくてもいいように……心配するのもバカらしいくらい。
 オレのことを無条件に信じられるくらい、オレらしく暴れ回ってやる!」
 そして、ジュンイチは左手を――その手首に装着されたブレイカーブレスを頭上高く掲げた。自身の“力”が周囲を真紅の光で照らす中、その名を叫ぶ。

「マグナダッシャー!」

 ジュンイチのその叫びと同時、彼の頭上に魔法陣が展開される。
 ノイエ・アースラの転送システムだ――同時、転送魔法陣の中からマグナの宿るマグナダッシャーが飛び出してくる!
 

「エヴォリューション、ブレイク!」
 ジュンイチの叫びにマグナが答え、マグナダッシャーが力強く大地を駆け抜ける。
 そして、車体両横の装甲が上部へと展開。さらに車体下部の推進器で起き上がると共に、車体後部が180度回転、後方へとスライドして左右に分割。つま先が起き上がり両足へと変形する。
 続いて、運転席が左右に分かれて肩アーマーとなり、その下部に折りたたまれるように収納されていた腕が展開。拳がその内部から飛び出し、力強く握りしめられる。
 車体上部――変形の結果背中となったそこに配された砲台はキャノン部が前方に倒れてショルダーキャノンに。ボディ内部からロボットモードの頭部がせり出し、その額から変形に伴い跳び下りていたジュンイチに向けて誘導トラクターフィールドが展開される。
 放たれた光に導かれ、ジュンイチはマグナダッシャーへと引き寄せられ――その姿が消えた。一瞬にして機体内部の圧縮空間に用意されたライドスペースへと転送される。
 そこに用意されたコックピットシートに腰かけ、ジュンイチはシート両側に設置されたクリスタル状のスロットルレバーを握りしめる。
「マグナ! 全システム起動!
 戦闘コンバットシステム――Get Ready!」
《了解!》
 マグナからの答えと共に、ジュンイチはスロットルレバーを勢いよく押し込む――変形を完了し、システムが完全に起動した機体のカメラアイが輝き、ジュンイチが高らかに名乗りを上げる。
「“龍”の“炎”に“王”の“牙”!
 “不屈の果てに高みあり”!
 
龍炎王牙――マグナブレイカー!」

 

「よっしゃ――いくぜ!」
「させん!」
 咆哮と共に、ジュンイチは一気にマグナブレイカーを加速させた。前方に立ちふさがるマスターギガトロンに、マグナセイバーを両手に斬りかかる。
 対し、マグマトロンもデスランスで応戦――斬り結びながら、ジュンイチが一同に指示を下す。
「時間がねぇから基本方針だけ簡単に確認するぞ!
 シンプル・イズ・ベストだ! “ゆりかご”や乱入組を手分けして叩け――そんだけ!」
「細かいところは各自の判断で動いてもらってかまへん!
 判断材料として、ノイエ・アースラは各自に戦況の随時連絡を!」
「いいの? はやてちゃん。
 そこまで自由にやらせちゃって……」
「これだけゴチャゴチャしてまったら、戦場全体で連携し合うんは難しい。
 せやったら、連携にこだわるよりもむしろ、個人でもチーム単位でもえぇから、それぞれが戦いやすいように、っていうのを第一に――それが、現状では最善やと思う。
 とはいえ……」
 元々手分けして戦う予定だったとはいえ、そんなアバウトな指揮でいいのか――ジュンイチと共に下した指示に思わず聞き返すなのはに答えると、はやては空を悠然と進む“ゆりかご”をにらみつけた。
「問題は、“ゆりかご”の足を止められへんことや。
 なんとかして、アイツの足を止めへんと……!」
 悠然と空を行く“ゆりかご”を前にはやてがうめき――
「あー、それなら大丈夫!」
 そう答えたのはジュンイチだった。ジェット機形態へとトランスフォーム、突撃してきたマスターギガトロンをさばき、
「その辺は気にしなくていいから、そのまま行かせて!」
 さらに、放った砲火が戦場に炎の花を咲かせる――マスターギガトロンだけでなくガジェット、瘴魔獣やドールの群れとも戦いながら、ジュンイチははやてにそう告げる。
「どういうことですか?」
「どうもこうも……このまま街の真上で戦うワケにはいかないでしょうが!
 少なくとも、街の外には出てもらわないと!」
 尋ねるはやてに答え、ジュンイチは改めて砲撃一発。前方の敵群をまとめて吹き飛ばす。
「せやけど……前進を許せば、その分“ゆりかご”の上昇を許すことになる」
「“ゆりかご”の得られる魔力の量が増えて、更にパワーアップすることになるんだぞ」
「その辺も考慮した上で、『大丈夫』っつってんだよ!」
 反論するはやてとビッグコンボイだったが、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「心配すんな。
 我に策あり、だ」
 言って、ジュンイチは“ゆりかご”をにらみつけ、続ける――
 

「フフフ……せいぜいあがきなさい」
 その頃、“ゆりかご”艦内――艦の制御を担当するクアットロは、監視システムで外の様子を見物しながら満足げにうなずいた。
「あなた達がどれだけ抵抗しようと、この“ゆりかご”をどうこうできるはずないのにね。
 まぁ、柾木ジュンイチの“あの砲撃”ならわからないけど……ヴィヴィオちゃんがいる以上、あれは絶対に飛んでこないし……」
 どうせ抵抗されたところで、この“ゆりかご”を止められる戦力はどの勢力も持ち合わせていないはず――絶対の自信と共につぶやくクアットロだったが、
「………………あら?」
 艦外の監視システムのひとつが反応を示しているのに気づいた。
「甲板の上に、誰か……?」
 すぐに確認すべく映像を呼び出し――甲板の上に佇む、真っ白なマントに身を包んだ人物の姿が映し出された。

 

「このまま進めば、アイツは廃棄都市エリアの上を通ることになる」

 

「何? アイツ……
 いつの間に……?」
 気づかぬうちに“ゆりかご”の甲板上に取りついていたその人物の姿に、クアットロは思わず眉をひそめた。
(一体何者……?
 敵なのは確かでしょうけど……だとしたらどうして何もしないであそこに……?)
 真意が読めず、困惑するクアットロの見つめる中、映像に映るその人物は静かに右手を掲げた。

 

「市街地さえ出ちまえばこっちのもの――」

 

 その時、一際風が強く吹いた。人物のかぶっていたフードがその風にあおられて外れ――
「――――――っ!?」
 クアットロは驚愕に目を見開いた。
 なぜなら――フードの下に現れた素顔は、ジュンイチに瓜二つだったからだ。
 だが、ジュンイチは現在、はやてと話している真っ最中のはずで――
「ど、どうしてあの子がここに!? どうやって!?」
 予想外の展開にあわてるクアットロにかまわず、ジュンイチ(?)は掲げていた右手を振り下ろし――

 

「あと2、30分は足止めできる」

 

 ジュンイチがそう締めくくるのと同時――

 

 

 “ゆりかご”は、“真下に落下した”。

 

 

「な、何? 今の……」
「“ゆりかご”が……“落ちた”……!?」
 墜落とか、不時着とかではない。文字通り真下に“落ちた”――突然大地に突っ込んだ巨大な鋼の艦の姿に、なのはやフェイトが呆然とつぶやくと、
「今のって……!?
 …………まさか!?」
 その現象の原因について心当たりのある人物がいた。声を上げ、ギンガはジュンイチへと振り向いた。
 同様にスバルや、ライカ達“Bネット”組も――代表する形で、スバルが尋ねる。
「お兄ちゃん、まさか……」
「そう、その『まさか』」
 そんなスバルに対し、ジュンイチは笑顔でうなずいた。
「ヴィヴィオがさらわれた以上、“ゆりかご”の浮上は時間の問題だったからね。
 すぐに連絡を取って――」

 

「“鷲悟しゅうご兄”、こっちに呼んどいた」

 

「っ、いたた……!」
 艦内にはショック吸収システムが十分に働いているはずだが、それでもすさまじい衝撃が襲ってきた――“ゆりかご”の管制室で、クアットロはぶつけた頭をさすりながら身を起こした。
 すぐに玉座の間の様子を確認する――玉座に座っていたのが幸いだったか、ヴィヴィオに大事はなかったようだ。今の衝撃で魔力吸収もストップしたらしく、激痛から解放されたヴィヴィオは意識を失い、静かに寝息を立てている。
「でも、一体何が……!?」
 状況から察して、甲板の上にいたあのジュンイチにそっくりな人物が何かしたのだろうが――たかが人ひとりにこの巨大な“ゆりかご”を大地に叩きつけるようなマネができるだろうか。
 ともかく状況の把握が先決と、クアットロは周囲にサーチをかける。
 “ゆりかご”は現在、再開発地区のど真ん中に墜落している――その重量と落下の衝撃で、何層も地下区格を貫き、船の下半分はほぼ完全に埋没してしまっている。
 しかも落下の衝撃は周囲にも及んでいた。周囲のビルの多くが倒壊。“ゆりかご”の甲板の上に崩れ落ちており、推進システムもいくつかガレキで詰まってしまっているようだ。
「あの子は……!?」
 そして、この状況を作り出したと思われる張本人は――いた。先ほどと変わらぬ甲板の上で、平然と佇んでいる。
 と――相手がこちらのサーチャーに気づいたようだ。振り向き、声をかけてくる。
〈よぅ。
 初めまして――と言うべきかな? えっと……クワトロ、だっけか〉
「クアットロよ。
 誰がグラサン大尉なのよ」
 今は相手の情報を得るのが先決。挑発に乗るのはもちろん論外だが、だからと言って無視するのもメリットはないと判断し、クアットロは努めて冷静に彼の言葉に答えた。
「でも……あなたのその見た目だと、『初めまして』って気がしないのよね、こっちとしては」
〈だろうね〉
 対し、こちらの思惑に気づいていないのか、それともあえて乗ってきているのか、青年もあっさりとクアットロの挑発に応じてくる。
〈まぁ、仕方ないっちゃあ仕方ないよ。
 兄弟なんだから、似てて当然ってもんでしょ〉
「兄弟……?」
〈そ。兄弟〉
 クアットロに対してそう答え――青年は大げさすぎるほどに恭しく一礼し、まとっていたマントをはぎ取った。
 ジュンイチと同じデザインの、しかし色は正反対の白い道着を身にまとい、自らの名を名乗る。
〈改めまして、お初にお目にかかります♪
 属性エレメントは“闇”。ランクは“マスター”。
 “Bネット”特別機動部隊所属、“隠し牙シークレット・ファング”――〉

 

〈柾木ジュンイチの双子の兄――柾木鷲悟しゅうごだ〉

 

「ジュンイチさん、お兄さんいたの!?」
「初めて知った……」
「まぁ……今までこっちの世界ミッドにはめったに顔出さなかったし、はやて達とつるんだ“擬装の一族ディスガイザー事件”でも終始裏方だったから、お前らが知らなくてもむしろ当然なんだけどな」
 異変の張本人はなんとジュンイチの兄、しかも双子――驚くなのはやキャロに、ジュンイチは気にする様子もなく肩をすくめ、
「まぁ、それ以前に、ヤツの役職自体が表に出るものではないからな」
 そう捕捉するのはイクトである。
「“Bネット”特別機動部隊の構成メンバーは“表向き”3名。
 柾木、オレ、ブレード……その人数やコールサインに“牙”の名を冠していることから“ケルベロス”ともあだ名されるオレ達だが――実はその裏にもうひとり、4人目の“隠し牙”が存在する」
「それが、あの人……!?」
「そうだ」
 聞き返すフェイトにイクトがうなずき、ジュンイチが彼を改めて紹介する。
「柾木鷲悟――オレの双子の兄ちゃんにして、“ブレイカーズ”第4のマスターブレイカー……
 あ、ちなみにアレですっごい寂しがりやさんだから、仲良くしてあげてね♪」
「って、アイツの“寂しがり”は、お前が改造されてから10年前の“瘴魔大戦”の頃まで、8年間も身体を乗っ取ってたのが原因だろうが……」
「それをオレに言うなよ。
 オレだって知らなかったことだし、そもそもオレのせいで“そう”なってたワケじゃないんだからさ」
 うめくイクトに悪びれることもなくそう答え、ジュンイチは不敵な笑みを浮かべて告げた。
「ともかく……鷲悟兄は“ゆりかご”の足止めにはピッタリの能力を持っていてね。
 それで、今回足止め役として来てもらったワケだ」
「足止めにピッタリの能力……?」
 ジュンイチのその言葉に首をかしげたのはティアナだ。振り向き、スバルに尋ねる。
「スバル……アンタは知ってるんでしょ?
 何よ? あの人の能力って」
「えっとね――」
 

〈つまり……あなたはあの柾木ジュンイチの双子の兄で、この“ゆりかご”の足止めを任された、と。
 そして、この現状こそがあなたの“足止め”の成果……〉
「そういうこと」
 一方、“ゆりかご”甲板上でも、鷲悟がクアットロに自らの素性を語っていた。納得したクアットロにうなずくが――突然深々とため息をつき、
「けど、理解が早くてちょっとつまらないかな? こっちとしてはもーちょっと説明とかでお話したかったんだけどね」
〈敵相手にコミュニケーションに飢えられても困るんだけど――ね!〉
 鷲悟の言葉にクアットロが言い返し――周囲から駆けつけてきたガジェットの群れが鷲悟をグルリと取り囲む!
 

「あぁっ! 囲まれやがった!」
「何やってるのよ、あの人!」
 その様子は、なのは達も望遠映像で確認していた。鷲悟がガジェット群に囲まれた様子を見て、みさおやかがみが声を上げ――
「大丈夫だよ」
 そう答えたのは、ティアナへの回答を保留したスバルだった。
 

〈どうやってるのかは知らないけど、大したものね。
 何しろ、この“ゆりかご”の巨体を見事に押さえ込んでるんだから〉
 鷲悟自身は、ガジェットに囲まれたまま動く気配を見せない――そんな彼に対し、クアットロは素直に賞賛の言葉を贈るが、
〈……でも、ここまでね。
 “ゆりかご”みたいな巨大なものを押さえ込んでおくなんて、相当の負担のはず。
 あなた、そんな態度してるけど、実はほとんど余裕はないんじゃない?〉
「さて、どうだかね」
〈フフフ……すぐにわかるわ〉
 肩をすくめる鷲悟にクアットロが答え、周囲のガジェットが少しずつ包囲を狭めていく――
 

「鷲兄の属性は“闇”。
 そして、能力特性は――」
 

〈相手は“ゆりかご”を押さえ込むので精一杯!
 さっさと叩きつぶしちゃいなさい!〉
 クアットロの指示を受け、ガジェット達が一斉に鷲悟へと襲いかかり――

 

「重力制御!」

 

 押しつぶされた。
 スバルの言葉と同時――鷲悟の放った超重力によって、“ゆりかご”の甲板に叩きつけられて。
〈な………………っ!?〉
「読み違えたな、クアットロ」
 予想外の展開に絶句するクアットロに対し、鷲悟はあっさりとそう告げた。
「“ゆりかご”みたいなデカブツを地面に押さえつけてるから、その分“力”を使ってる……か? 逆だ、逆。
 “相手がデカブツだからこそ、オレは楽できてるんだよ”」
 言いながら、鷲悟はガジェットの残骸のひとつを指さす――重圧が増し、さらに押しつぶされるその残骸を見て、クアットロは彼の能力に気づいた。
〈それは、まさか超重力……!?〉
「そう。
 オレの属性である“闇”――その究極形とも言えるのが、光さえも脱出不可能と言われるブラックホールだ。
 “闇”に属するオレの能力は、そのブラックホールを構成するもっとも主要な存在――重力を自在に操る、重力制御能力さ」
 そう告げると、鷲悟はVサインのように人さし指と中指を立て、
「じゃあ……前提の説明が済んだところで、わかりやすくたとえ話。
 3kgの鉄くずがあったとして……そこに2倍の重力をかけたら、鉄くずの重さはどうなる?」
〈そんなの簡単よ。
 2倍の重力がかかったのなら、2倍の6kg……〉
 そこまで告げて、クアットロの動きが止まった。
〈………………あぁっ!〉
「気づいたみたいだな」
 そして、そんなクアットロの反応は、鷲悟にとって満足のいくものだった。うんうんとうなずき、告げる。
「重力が2倍になれば、重量も2倍になる――それはつまり、ターゲットの重量が重ければ重いほど、重力の増加量も増すってことだ。
 増してや、標的はこんなデカブツだ。ほんの少し、重力を倍にしてやるだけで、十分にコイツの浮力の限界を突破できたよ」
 あっさりと告げる鷲悟だが、クアットロにはまだひとつ、腑に落ちない点が残っていた。
〈で、でも、たかが2倍と言っても、そんな広域の重力場をどうやって……!?
 “ゆりかご”の周辺には、ちゃんとAMFを展開していたのに!?〉
「簡単な話さ。
 オレ達の使う精霊力や瘴魔力は、魔力に霊力や気の力を混ぜ合わせ、変質させたものだ。
 魔力が混ざってると言っても、本質的には別物に変化してるんだ。対魔力に特化したAMFじゃ、オレ達の“力”を完全に封じることはできない。
 だから、“シグナムさん達以上・なのはちゃん達未満”の出力しかないジュンイチ達でも、AMFの中で存分に暴れ回ることができる。
 そして当然、オレも同じことができる――重力場の広域展開も、2倍程度なら軽いものさ。
 逆に、オレが魔導師だったとしたら、どれだけがんばっても“ゆりかご”を止められるほどの重力場は作れなかっただろうね」
 そう告げて、鷲悟は自信タップリに笑みを浮かべ、
「ジュンイチがオレを呼んだ理由がまさにそれだ。
 AMFの干渉をやり過ごせて、しかも巨大物体の動きを封じるのに、これでもかってくらいおあつらえ向きな能力――この“ゆりかご”の足を止めるのに、オレ以上の人材が果たしているのかねぇ?」
 

「そっか……
 そう考えると、アイツの能力って、すっごく“ゆりかご”と相性いいのよね……」
「ブレイカーだからAMFの影響も魔導師ほどではない。
 そして、ヤツの超重力は相手が大きければ大きいほどさらに効果を増していく……」
「逆に反重力はキツイだろうねー……やらないと思うけど」
 一方、ジュンイチもマスターギガトロンと戦いながら鷲悟とほぼ同じ内容を一同に説明。周囲のガジェットやドール、瘴魔獣を叩き落としながら納得するライカやシグナムに、ジュンイチは軽く苦笑しながらそう答え、
「相変わらず――余裕だな!」
「余裕ですからっ!」
 そこに、マスターギガトロンが斬りかかってきた。振り下ろされた一撃をかわし、ジュンイチはマスターギガトロンの背後に回り込み、蹴り飛ばす!
 そして――
「高町、なのはぁっ!」
 なのはの元にはクラーケンが襲いかかってきていた。連続で繰り出される砲撃をかわし、なのはは改めてクラーケンと対峙する。
「さっきはよくもやってくれたな!」
「まったく、しつこい……っ!」
 そういえば彼の冠する感情は“憤怒”だったか――怒りの声を上げるクラーケンに対し、なのははレイジングハートをかまえ、
「いい加減――おとなしくしてもらうよ!」
〈Divine Buster!〉
 放たれた砲撃が、クラーケンの放った砲撃と激突する!
 両者の砲撃は互いに譲らず、衝撃をまき散らしながら拮抗し――
「いっ、けぇぇぇぇぇっ!」
「な――――――っ!?」
 なのはの咆哮と同時――桃色の閃光が勢いを増した。驚愕するクラーケンの閃光を飲み込み、クラーケン自身を直撃、吹っ飛ばす!
「おーおー、気合入ってるねぇ!」
 素直に仲間を頼り、吹っ切れるものがあったのだろう。今までとは力の入れようが段違いの砲撃に、ジュンイチは素直に賞賛の声を上げ、
「そんじゃ――オレもっ!」
 斬りかかってきたマスターギガトロンの一撃をかわして上昇。頭上に回り込むとかざしたマグナブレイカーの両腕に“力”を流し込む。
「いくぜ!
 鷲悟兄にリスペクトを表しまして!」

――
 
惑星ほしに宿りし因果の鎖よ
我が命により我が意に従え!

 詠唱と共に、ジュンイチの重ねた両手に漆黒の“力”が生まれる――迷うことなくジュンイチはそれを振りかぶり、
重力領域グラヴィトン!」
 解放しながら振り下ろした。同時、周囲に広がった“力”がすさまじい重圧を生み出し、マスターギガトロンを眼下の地面へと叩き落とす!
 自身の重量にジュンイチによって倍化させられた重力加速が加わり、マスターギガトロンの身体がすさまじい勢いで大地に打ちまれる――表層をブチ抜き、一気に地下区画まで叩き込まれたその姿を一瞬だけ見下ろし、ジュンイチははやてへ振り向き、
「今のうちだ、はやて!
 こんな横槍軍団にかまってられるか! 一気にそれぞれのターゲットに攻め込むぞ!」
「は、はい!」
 ジュンイチのその言葉にうなずくと、はやては一同を見回し、
「ほんなら、みんな……
 散る前にひとつ、私から言うとくことがある」
 そう前置きすると、はやては軽く息をつき、
「この戦い、きっと今までで一番激しくなると思う。
 ギリギリの戦いを強いられる子も、いると思う。
 せやけど――これだけは約束してほしい。
 この中の誰が欠けても、それはきっと勝利やないと思う――みんなが無事に戻って、みんな笑顔で迎えられてこそ、本当の勝利やと私は思う。
 せやから――これは機動六課部隊長としてやなくて、八神はやてとしてのお願いや。
 誰ひとり欠けることなく――全員、無事に帰ってきてほしい」
 その言葉に、その場の誰もが力強くうなずく――それを受け、はやては高らかに告げた。
「ほんなら、改めて……
 ……機動六課、カイザーズ、ジュンイチさんとこのみんな!
 総員――出動!」
『了解!』

 

「そぅら、よっと!」
「よっ、ほっ、はっ!」
 後を追ってくるガジェット達が魔力砲やミサイルを放ってくるが――そんなものに当たってやるワケにはいかない。ヴァイスの操縦によるサポートを受け、スプラングは迫り来る攻撃を次々にかわしていく。
「悪いな、グリフィス!
 この先もこんなアクロバットが続くぞ!」
「かまいませんよ、このくらい!」
 告げるヴァイスに答え、となりのシートに座るグリフィスは気丈に前方をにらみつけた。
「ウーノさんを止めなきゃならないんだ……このくらいで、へこたれてられませんよ!」
「上等、だ!」
 グリフィスの言葉に、ヴァイスが満足げにうなずき――
「そこ――動かないでよ!」
 その呼びかけの声と同時、スプラングの両脇を巨大な閃光が駆け抜けた。前方の戦場に飛び込み、ガジェット群を薙ぎ払う。
 シャマルとフォートレスの乗る、戦艦マキシマスの援護砲撃である。
「助かりましたよ、シャマル先生! フォートレス!」
「どういたしまして♪」
「まだまだいくぞ!」
 礼を言うヴァイスにシャマルやフォートレスが答えると、
「――――――っ!
 みんな、アレ!」
 前方の異変に気づいたグリフィスが声を上げた。見ると、自分達の行く手の空間にすさまじいエネルギーの放出が発生している。
「何かが……ワープアウトしてくる……!?」
「この状況で出てくるとしたら……ひとつっきゃねぇわな……!」
 うめくグリフィスに対し、一足早くその正体に気づいたヴァイスは笑みを浮かべ――それでも緊張を隠しきれない様子でそうつぶやいた。
「モテモテじゃねぇか、補佐官さん。
 待ちきれなくて――向こうの方からお出ましじゃねぇか!」
 その言葉と同時、空間が“弾け”――ウーノの専用トランステクター、空中要塞アグリッサがその姿を現した。
 

「フォースチップ、イグニッション!
 ハウリング、パルサー!」

 咆哮と共に、巨大な光弾が放たれる――マックスフリゲートの甲板の上から放たれたかがみの一撃が空間を駆け抜け、射線やその周囲の敵群をまとめて薙ぎ払っていく。
 さらに――
「レンジャー、ビッグバン!」
「スナイピング、ボルト!」
「クルーズ、フルファイア!」

 つかさやみゆき、あやのも必殺技を放ち、かがみの開けた戦線の穴をさらに広げていく。
 さらに――
「一斉放火――撃って!」
〈了解〉
 ゆたかの言葉にマックスフリゲートの管制システムが答える――マスターからの指示を受けたマックスフリゲートが、一斉砲撃で迫り来る敵をかたっぱしから叩き落としていく。
「ナイス、ゆたかちゃん!」
「私じゃなくて、マックスフリゲートがすごいんですよ」
「それでも、よ」
 ブリッジから答えてくるゆたかに「奥ゆかしいことだ」と苦笑し、かがみはチラリと背後に視線を向け、
「こらーっ! 降りてくるっスよ!
 でなきゃブン殴れないじゃないっスか!」
「ひ、ひより、落ち着いて……」
 強力な火器を持たないために迎撃に参加できない面々がそこにいた。頭上のガジェット達に向けて叫ぶひよりを、みなみがなんとかなだめている。
 と――
「すみません、かがみさん……」
「私達も、乗せてもらっちゃって……」
「いいのよ。向かう方向は一緒だったみたいだし」
 同乗しているのはエリオとキャロだ。アイゼンアンカーとシャープエッジにゴッドオンしたまま礼を言う二人に、かがみは笑いながらそう答える。
 と――
「お、おい!
 アレ!」
 頭上で航空戦力を相手にしていたみさおが声を上げた。彼女の指さした先へと、かがみ達が視線を向け――
「――――――っ!
 アレは……!?」
「クロムホーンにシザースタッグ……! インゼクトの群れもいる……!」
 そこには良く見知った面々――明らかな敵意と共にこちらに向かってくるその姿に、つかさやゆたかが声を上げる。
「やってくれるわね……!」
 そのことが意味するのは明白だ――歯がみして、かがみは悔しげにうめき――
「よりによって、つかさのいるところにあの子をぶつけてくるとはね……!」
 ガジェットU型の上にガリューと並び立つルーテシアをにらみつけた。
 

「IS発動――“皆殺しの鼓動ジェノサイドビート”!」
「ちぃっ!」
 繰り出されるのは触れただけで相手を討ち滅ぼす必殺の一撃――舌打ちし、イクトはシードラゴンの攻撃を、ISの効果範囲に触れないよう細心の注意を払いつつかわしていく。
「どうしたどうした!?
 かわすので精一杯か!? まるで手ごたえがないぞ!」
「別に、貴様を楽しませるために戦っているワケではないのだがな!」
 挑発するシードラゴンに返し、イクトは大きく後退。距離を取ってシードラゴンと対峙する。
「瘴魔神将最強の名が泣くな。
 そんなザマで、オレに勝てるとでも思っているのか?」
 現状、戦いはまさに一方的だ――これまで一度も満足な反撃を撃ってきていないイクトに対し、落胆のため息をもらすシードラゴンだったが、
「………………そうだな。
 そろそろいいだろう」
 対し、イクトは気分を害するでもなくそう答えた。
「今までの戦いが物足りなかったというのなら謝ろう。
 だが……安心していい。“ここからは、少しはまともに戦えそうだ”」
「何………………?」
 そのイクトの言葉に、シードラゴンは思わず眉をひそめた。
「何だ?
 貴様、今までの戦いでは手を抜いていたというのか?」
「そうではないさ。
 ただ……貴様との間合いを測りかねて、上手く戦えずにいたことは確かだ」
 尋ねるシードラゴンに答え、イクトは彼を軽く手招きした。
 自信に満ちた笑みを浮かべ、シードラゴンへと告げる。
「ウソだと思うのならさっさとかかって来い、瘴魔獣将。
 獣の親玉ごとき、手の内が知れればオレの相手にならんことを教えてやる」
 

「ほらほら、どいてどいて!」
「そこのけそこのけ、コンボイが通るっ!」
 スバルとこなたの叫びが響き――“暴風”が駆け抜けた。カイザーマスターコンボイTSが、敵群を薙ぎ払いながら再開発地区の崩壊した街並みを駆け抜けていく。
「柾木ジュンイチの兄とやらに感謝だな!
 “ゆりかご”まで、得意の地上戦で突っ切っていける!」
「私は空戦型だし、別に空中でもいいんだけどねー!」
 マスターコンボイの言葉にこなたが答える――軽口を叩きつつも、その突進の勢いにはいささかの衰えも見られない。
 このまま、一気に“ゆりかご”へと突撃――といきたかったが、
「がぁぁぁぁぁっ!」
 咆哮と共に、前方の地面が砕け散る――地中から姿を現したのは、ジュンイチによって地下に叩き込まれたマスターギガトロンだ。
「アイツ――まだ動けたの!?」
「当然だ!
 このマスターギガトロン様が、あの程度で倒せるとでも思っていたか!」
 驚くスバルに言い返し、マスターギガトロンがトランスフォーム。上下がひっくり返り、両足を双つの頭部に変形させた双頭竜へと姿を変える。
「バラバラに粉砕してやるぞ、マスターコンボイ!」
「やれるものなら――やってみろ!」
 言い放つマスターギガトロンにマスターコンボイが言い返し、両者が交錯。マスターギガトロンの牙がカイザーマスターコンボイへと襲いかかり――

 

「と言いたいところだが――」

「あなたにかまってるヒマなんか――」

「これっぽっちもないんだよ!」

 

 虚空をかんだ。
 マスターギガトロンの一撃が届く直前、カイザーマスターコンボイが合体を解除。左右に分かれてマスターギガトロンの一撃をやり過ごしたのだ。
 そのまま、マスターギガトロンの脇を駆け抜け、一気に“ゆりかご”を目指す――
「――――――って!?」
 そうなると、当然コイツは完全に無視された形になる。我に返り、マスターギガトロンは思わず振り向き、声を上げた。
「ちょっと待て!
 このオレを……このマスターギガトロン様を、無視するだと!?
 ディセプティコン最強の、このオレを!?」
「わかっていないようだな、マスターギガトロン!」
 しかし、マスターコンボイはそんなマスターギガトロンに対し、余裕の態度で言い放つ。
「ディセプティコン最強――“だからこそ、無視する”!
 最強だからこそ――“誰も無視するとは思わない”!」
「――――――っ!」
 “誰もやらないと思うことだからこそ実行する”――思考のエアポケットを見事についたマスターコンボイ達の判断にまんまと乗せられたと気づき、マスターギガトロンの頭が一気に沸騰した。
「なめた……マネをぉぉぉぉぉっ!」
 怒りのままに咆哮し、マスターギガトロンが追跡に移ろうと翼を広げ――そんなマスターギガトロンに、突然ビームの雨が降り注ぐ!
 その攻撃の正体は――
「ガジェットだと!?」
 スバル達を追っていたガジェット群だ。その行く手にマスターギガトロンの姿を見つけ、敵性存在と確認して攻撃してきたのだ。
「――まさか、ヤツら、これも狙っていたと……!?」
 完全に殿しんがりを押しつけられた形だ。ガジェットの攻撃が降り注ぐ中、マスターギガトロンは静かに肩を震わせ、
「ど、こ、ま、で、も……
 …………人のことを、コケにしおってからにぃっ!」
 怒りの咆哮と同時――解き放たれた“力”の渦がガジェット群を吹き飛ばす!
 

 誰もが“ゆりかご”を目指し、それぞれの戦いに身を投じる――そんな中、ただ1機だけ、“ゆりかご”とは別方向を目指して飛翔する機体があった。
 ジュンイチとマグナの駆る、マグナブレイカーである。
「今のところ、地上本部に動きはなし、か……
 “ゆりかご”が来てるし、守りくらいは固めてると思ったんだけど」
《全戦力を市街地に回したと見るべきか、ワナとみるべきか微妙なところね》
 その標的は地上本部仮庁舎――つぶやくジュンイチの言葉に、マグナもまた分析データに目を通しながらそう答える。
「まぁ、ワナだったとしても突破するだけだ。
 何が何でも、あそこには行かなきゃならないんだし」
《私の身体、取り返さないといけないしね》
「あぁ。
 それに……」
 つぶやくように答え、ジュンイチは静かに息をついた。
(たぶん……クイントさんも、あそこにいる……)
 ノーヴェ達の証言では、スカリエッティはクイントの身柄を確保していなかった。となれば彼女を捕らえているのは最高評議会だと思っていい。
 だが――バカ正直に手元に置いているとも考えづらい。どこか別の拠点をかまえ、そこに確保していると見るべきだろう。
 だからこそ、ジュンイチが地上本部を崩壊させた事実が活きてくる――地上本部が、最高評議会が現庁舎から放り出され、次の拠点に移らざるを得なくなるからだ。
 メインとなる拠点を真っ向からつぶされたのだ。おそらく次は、重要度の高い拠点に移るはず――そうすれば自分達を守る、という名目の元にいくらでも警備を強化できるからだ。自分達にとって重要なモノを隠し持つ上で、これほど都合のいいことはない。
 そして――そんなジュンイチ達の目論見は見事図に当たった。現在の仮庁舎を調べたところ、巧妙に隠された隠し施設が見つかったのだ。
 過去の隠し資材の搬入記録の中に人造魔導師素体の搬入記録も発見できた。目指す仮庁舎が評議会の“裏”の拠点と考えて、まず間違いないだろう。
(必ず助けるぞ。クイントさん……!)
 決意と共に、ジュンイチはスロットルを強く握りしめ――
「――――――っ!?」
 気づくと同時にアラートが鳴り響き、急制動をかける――同時、ジュンイチの目の前を、飛翔する刃の群れが駆け抜ける!
「ブラッドファング――チンクか!」
 認識すると同時に反応――振り向き、マグナセイバーを振るったジュンイチの刃を、チンクのゴッドオンしたブラッドサッカーはブラッドファングを集中させた楯で受け止める。
「おいおい、どこほっつき歩いてんだよ?
 “ゆりかご”は向こうだぜ?」
「この戦場においてもっとも警戒すべき相手を、こちらに向かってこないからといって放置しておくバカが、どこにいる!?」
 軽口を叩くジュンイチに答え、チンクは取り出したブラッドサッカー用のスティンガーを取り出し、ジュンイチに向ける。
「戦うしか、ないってワケか……!」
「逃げてもかまわんぞ。
 その時は、不本意だが後ろから撃たせてもらうだけだ」
 そう告げるチンクの表情は真剣そのものだ――彼女の“本気”を感じ取り、ジュンイチは静かに息をついた。
「…………わかったよ。
 どうやら、お前を倒さない限り、地上本部には行かせてもらえないみたいだしな」
 そして、顔を上げたジュンイチの表情は一変していた。ふざけた空気を捨て去った、“戦士の顔”となったジュンイチが、マグナブレイカーを駆ってチンクと対峙する。
「こっちも、決着つけたい気持ちは同じなんだ。
 いろいろ片づけてからにしようと思っていたのが、前倒しになったってだけの話だ――お望みとあらば、ここで決着つけてやるよ!」
「ようやくその気になったか。
 ならば――」
 そう答えて――不意にチンクは眼下の地上に向けて降下し始めた。見下ろす形となったこちらにかまわず大地に降り立つと、ゴッドオンも解除し、生身となってこちらを見上げてくる。
《ゴッドオンまで解いて……
 誘われてるわよ、ジュンイチ》
「あぁ」
 一方、彼女の行動の意味をジュンイチ達も正しく理解していた。告げるマグナの言葉に、ジュンイチは静かにうなずいた。
「…………せっかく手に入れたハイパーゴッドオンの力すら放り出して、生身での対決をご希望か。
 とことん8年前の続きとして戦いたいらしいな……」
 そして、ジュンイチもまたマグナブレイカーを降下させた。チンクがそうしたように、大地に降り立つとそのコックピットから外に出る。
「悪いな、マグナ。
 もーちょっと、オレのワガママに付き合ってくれや」
《何を今さら。
 出会ってからこっち、いつだってあなたのワガママに付き合ってきたじゃない》
「…………サンキュな」
 マグナの答えに改めて礼を言い、ジュンイチはマグナブレイカーのコックピットから飛び降りた。大地に降り立ち、チンクと対峙する。
「待たせたな。
 幸い、見届け人ならウチのマグナがやってくれるだろうよ――何しろ古代ベルカ時代出身だ。そーゆーのにも理解はある」
「それは幸い」
 不敵な笑みと共に、答えたチンクがスティンガーをかまえる――そして、ジュンイチもブレイカーブレスをかまえ、“装重甲メタル・ブレスト”を装着する。
「あの戦いで止まったいろんなもの――いい加減、動かさなくちゃな!」
「同感だ!」
 吼えるジュンイチにチンクが答え――両者は同時に地を蹴った。
 

「…………あちこちで、動き始めているようだな」
《あぁ……そうみたいだな》
 そんな中、人知れず廃棄都市を駆け抜ける影が二つ――サーチをやりすごす意味から街中を地上ギリギリの低空飛行、つぶやくゼストの言葉に、アギトは静かにうなずいた。
「だが、おかげでこちらとしては好都合だ。
 このまま地上本部に突入、レジアスの行方の手がかりを――」
 

「ようやく、だな」
 

「《――――――っ!?》」
 突然の声に、ゼストとアギトが停止し、身がまえる――そんな二人の前に、声の主は路地裏からその姿を現した。
「貴様…………っ!」
《旦那……?
 知ってるのか?》
「あぁ、知ってるだろうな」
 うめくゼストにアギトが尋ね――そんな彼女に、男はあっさりと答えた。
「あっちでコソコソ、こっちでコソコソ……
 おかげでオレも、ずいぶんと走り回らされたぜ」
 ガシャンッ、と音を立て、身の丈ほどもある大剣を肩に担ぎ――
「さぁ――」

 

「楽しく殺し合おうケンカしようじゃねぇか、オッサン」

 

 ブレードは、ゼストに向けて獰猛な笑みをその口元に浮かべていた。


次回予告
 
シャマル 「みなさん、お待たせしました!
 次回はブレードさんの出番ですよ!」
ブレード 「久々のバトルだぜ……
 よぅし、高町六女なのは! とっととリミットブレイクしてかかってきやがれ!」
なのは 「にゃあぁぁぁぁぁっ!?
 こ、こっちじゃないですよ! 敵はあっちですよ、あっち!」
ブレード 「かてぇコト言うなよ。
 どっちでもいいじゃねぇか」
なのは 「いや、よくないっ!」
シャマル 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第106話『貫くべきもの〜自分で選んだ道ならば〜』に――」
3人 『ハイパー、ゴッド、オン!』

 

(初版:2010/04/03)