《ジュンイチ》
 チンクの“敗北宣言”に、ジュンイチは深々と息をつき――そんな彼にマグナが声をかけてきたのは、それからすぐのことだった。
《ダメージが大きいのはわかってるけど、そろそろ……》
「わかってる」
 迷うことなくうなずいた。立ち上がり、ジュンイチはマグナブレイカーへと向き直る。
「いつまでも休んでられない――地上本部に急ごう」
「もう大丈夫なのか?」
「万全……とまではいかないけどな」
 尋ねるチンクに、ジュンイチは振り向き、そう答えた。
「筋肉はほとんどつながったし、頭蓋骨もふさがった。
 脳みそはまだしばらくかかりそうかな? 複雑な器官だし、仕方ないっちゃあ仕方ないんだけど……まぁ、それでも問題があるとすればマグナブレイカーの制御がキツイくらいかな?
 オレ自身が戦う分には、ここまで再生すれば十分だ」
「……すでに人間どころか生命体すらやめてないか?」
「できればそこには触れないで。
 オレもたまにそう思うんだから」
 チンクのうめきにジュンイチが同意した、その時――
「パパぁーっ!」
「………………?」
 突然の声にジュンイチが振り向くと、そこへホクトのギルティコンボイが飛来した。地響きを立ててジュンイチの目の前に降り立つとゴッドオンを解除。ホクトがジュンイチ達の前に飛び出してくる。
「パパ、大丈夫!?」
「なんとかな。
 それより……お前はどうしてこっちに?」
「ノーヴェお姉ちゃんから言われたの。
 『パパのお手伝いをしてあげて』って」
「ノーヴェが……?」
 ホクトの言葉に思わず眉をひそめるが――ホクトの興味はすでに彼から離れていた。傍らに倒れるチンクに気づき、パタパタと駆け寄っていく。
「チンクお姉ちゃん、大丈夫?」
「タイプゼロ・サード……確かホクトといったか。
 見くびるな。貴様に心配されるほど、私も柔な機体の作りはしてないさ」
 尋ねるホクトに応えると、チンクは全身に走る痛みに顔をしかめながら身を起こした。ヨロヨロと立ち上がると、ジュンイチに声をかける。
「柾木……
 貴様……言ったな? 『まだマグナブレイカーの制御はキツイ』と」
「あぁ、言ったぜ」
 あっさりと答えて、ジュンイチは自らの愛機を見上げた。
「でも……行かなきゃなんない以上は、行かなきゃな。
 あそこでやらなきゃなんないことが、けっこうあったりするんでね」
「それは……クイント・ナカジマのことか?」
「………………っ」
 その言葉に――ジュンイチの動きが止まった。
「知ってたのか……?
 あそこに、クイントさんがいるって」
「薄々、な」
 尋ねるジュンイチに答えると、ジュンイチの顔を見上げて、チンクは続けた。
「貴様のことだ。どうせ止めたところで聞きはすまい。
 未だ本調子でないその身体でも、平然と最高評議会に突撃していくのが容易に想像できる」
「『身体が完全に再生するまで待て』ってか?
 冗談じゃねぇ。オレ達がこうしている間にも、みんなはまだ戦ってるんだ。休んでなんかいられるか」
「心配するな。貴様ならそう言うだろうと思っていたさ。
 だから……」
 と、そこで息をつき、チンクはより強い口調でジュンイチに告げた。
「私も行く」
「え………………?」
「ブラッドザンバーだ。
 ブラッドサッカーをマグナブレイカーに合体させて、制御に協力する――それなら、今の貴様でもマグナブレイカーを存分に扱えるだろう?」
 意外な提案に、ジュンイチが思わず目を丸くする――珍しくジュンイチを出し抜けたことに少なからず満足感を抱きながら、チンクは彼と正対した。まっすぐに向き合い、改めて告げる。
「お前がここで足を止めたのも、そこまで傷ついたのも私の責任だ。
 せめて、このくらいはさせてくれ――でなければ私の気がすまない」
 そう告げるチンクの目には強い意志の光が見てとれる――説得はムダだと悟り、ジュンイチはため息をついた。
「わかったよ。
 どうやら止める方が手間っぽいや――好きにしろよ」
「あぁ。好きにするさ」
 あっさりと答えるチンクの言葉に、ジュンイチはもう一度ため息をついてマグナブレイカーを見上げた。
「…………やれやれ。
 またひとり、守らなきゃならないヤツが増えちまったみたいだよ」
《何言ってるんだか。
 ちっともイヤじゃないクセに》
 答えるマグナの言葉に苦笑しながら肩をすくめ、ジュンイチはコックピットに向けて勢いよく地を蹴った。

 

 


 

第108話

遠くの背中
〜決死のバーストドライブ〜

 


 

 

「でやぁぁぁぁぁっ!」
 咆哮し、力強く大地を踏み切る――自身の発揮し得る最大速力で、ブレイクコンボイにゴッドオンしたノーヴェはトーレに向けて一気に距離を詰めていく。
 間合いに入ると同時、トーレのゴッドオンしたマグマトロンに向けて拳を叩き込む――ガードを固めたトーレに対し、怒涛のラッシュを仕掛けていく。
 渾身の拳がトーレを大きく弾き飛ばし、追撃をかけるべくノーヴェが加速し――
「IS――発動!」
 トーレのその叫びと同時、マグマトロンの姿が消えた。そして――
「“ライドインパルス”!」
 その姿はノーヴェの背後に。身体全体で一回転、十分に加速をつけたトーレの拳が、ノーヴェの背中に叩きつけられる。
 反応すら許されずに一撃を受け、ノーヴェが姿勢を崩し――さらにトーレが追い討ちを仕掛けてきた。思い切りノーヴェの身体を蹴り上げ、頭上に向けて弾き飛ばす。
「く……ぉっ、のぉっ!」
 上空でなんとか体勢を立て直し、トーレへと向き直るノーヴェだが、高速で飛び回る彼女の姿を捉えることはできない。あっさりと懐に飛び込まれ、正面から殴り飛ばされる。
 さらに地上に向けて蹴り落とされ、廃ビルの屋上に墜落する――追撃に備えてすぐに立ち上がるノーヴェだが、トーレの姿は頭上になく――
「こちらだ、ノーヴェ!」
 すでに背後に回り込んでいたトーレが、ノーヴェを思い切り蹴り飛ばす!
 廃棄都市をまっすぐに飛ばされ、ノーヴェはさらに別の廃ビルに叩き込まれる――廃ビルが崩壊し、降り注いだガレキを吹き飛ばし、ノーヴェは自らの正面、別の廃ビルの屋上に降り立ったトーレの姿をにらみつけた。
「くそっ…………!
 やっぱ、強い……! トーレ姉のISに、ぜんぜんついていけない……!
 これでハイパーゴッドオンなしって、反則だろ……!」
 思えば、スカリエッティの元を離れる以前から、トーレに対して満足な勝ち星を挙げられたことは一度もない。愛機がレベルアップした程度ではその差は埋まらないか――今さらながらに対峙する姉の実力の高さに舌を巻くノーヴェだったが、そんな彼女を前に、トーレは油断することなく鋭い視線をこちらに向けている。
「せめて、トーレ姉のライドインパルスをなんとかしないと……!
 あのスピードを封じないと、こっちの攻撃が当たらない……!」
 だが、そんな方法があるだろうか。自分のできること、その中から使えそうなものがないかと思考をめぐらせて――
「………………あ」
 気づいた。

「どうした? 仕掛けてこないのか?」
 一方、トーレはそんなノーヴェに対し警戒を解くことはなかった。いつ仕掛けられても対応できるように意識を集中させたまま、ノーヴェに対してそう告げる。
「『私を止める』などと大きな口を叩いておいてそのザマか。
 柾木の元に身を寄せても、お前は未熟なままのようだな」
「…………そうでもないさ」
 と、そこでノーヴェから反応があった。スタンスを大きく広げ、トーレに向けてかまえ直す。
「見てろよ、トーレ姉。
 あたしの全力……思う存分見せてやらぁっ!」
 咆哮し、トーレに向けて地を蹴った。渾身の力で拳を繰り出し――
「ぬるい!」
 トーレをとらえることはできなかった。ライドインパルスを使うまでもなくノーヴェの拳をかわし、逆に彼女の腹にカウンターの拳を叩き込む!
「ぐぅ……っ!」
「どうした?
 全力を見せるんじゃなかったのか?」
 腹に拳を打ち込まれ、ノーヴェが苦痛にうめく――そんな彼女に淡々と告げるトーレだったが、
「…………まだだ」
 答えて、ノーヴェは拳を打ち込んだままのトーレの右腕をガッシリと捕まえた。
「逃がしゃしねぇぞ、トーレ姉……!」
「それで捕まえたつもりか?
 その程度、拘束した内に――」
「入らないことぐらい、わかってるさ!」
 告げかけるトーレだったが、当のノーヴェが彼女の言葉を肯定した。トーレの右腕を捕まえたそのまま、自身の“力”を高めていく。
「拘束するのは……ここからだ!」
 

「IS発動――“ブレイクライナー”!」
 

 咆哮と同時――ノーヴェの、ブレイクコンボイの足元から帯状のテンプレート“エアライナー”が伸びた。スバル達のウィングロード、こなたのブレイズロードに酷似したそれがノーヴェやトーレの周囲を縦横無尽に駆け回り、二人をその内側に包囲してしまう。
「これでもう……素早く飛び回れねぇよな?」
「これは……カイザーコンボイの!?」
「あぁ」
 それは、かつてこなたが使ったこともある、ロード系魔法を活かした戦闘ケージ形成――うめくトーレに答え、ノーヴェはようやくトーレの腕を放した。
「六課に合流する前、あたしらはみんな、ジュンイチから六課のヤツらとの対戦を想定して、アイツらの戦闘データをもらってたんだ。
 その中のデータに、コイツのことがあったのを思い出してさ……
 即席のサルマネだったけど、うまくいったみたいだな」
 言って、ノーヴェはトーレに向けて改めて身がまえ、
「ここからだぜ、トーレ姉……
 さぁ、金網デスマッチといこうじゃねぇか!」
「……いいだろう」
 告げるノーヴェに対し、トーレは静かに息をつき、
「だが、これで互角になったと思っているならまだ甘い。
 教えてやるぞ――私の武器がスピードだけではないということをな!」
 力強く言い放ち――トーレが地を蹴り、ノーヴェに向けて襲いかかる!
 

「フォースチップ、イグニッション!
 アーム、バズーカ!」

 咆哮に伴い、飛来しスピーディアのフォースチップをイグニッション――両肩の大型砲を展開したアームバレットが一撃を放つが、
「ひきつぶせ――“チャリオッツ”!」
 ブロウルが自身のデバイス“チャリオッツ”を起動。バイクに引かれた騎馬戦車が出現――その上に飛び乗ってアームバレットの砲撃をかわすと、自身のキャノン砲でアームバレットに向けて反撃の砲撃を放つ。
「ぶち殺せ――“アンタレス”!」
「なんの!」
 そして、ボーンクラッシャーもデバイスを非合体状態で起動した。出現した大型のサソリ型機動兵器と共に襲いかかるが、シグナルランサーも手にした槍でそれぞれの攻撃をさばき、反撃する。
 アームバレットVSブロウル、シグナルランサーVSボーンクラッシャーとくれば、当然――
「殴り尽くせ――“ヘカトンケイル”!」
 バリケードの相手は“残りひとり”に絞られる。両肩に巨腕型の追加兵装、そして周囲に拳をかたどった無数の飛翔体を生み出し、ガスケットと対峙する。
「てめぇらザコにかまってられるか!
 とっとと押しつぶしてやるから、安心してくたばれ!」
 狙うは先手必勝。言い放ち、バリケードは頭上に空飛ぶ拳、フライング・フィストを集結させた。それはひとつに集まり、より巨大な拳を作り出す。
「押しつぶせ! 鋼鉄の巨拳!
 ギガント、ファウスト――ツェアマルメン!」
 咆哮と同時、作り出された巨大な拳がガスケット目がけて飛翔、いや、“落下”し――
「えっと……
 ほい、エグゾーストショット」
 特にあわてることもなく、ガスケットは愛銃エグゾーストショットの引き金を引いた。放たれたスパークエネルギーの弾丸は巨大な拳の指の間――中指と薬指の間にあたる部分からその内部に打ち込まれ、炸裂。爆風によっていともたやすく元の“飛翔する拳フライング・フィスト”の集団に分解してしまう。
「な………………っ!?」
「お前、自分の技の穴に目ェ向けなさすぎ。
 こんなの、ただファンネルもどきを拳の形に組み合わせただけじゃんか。
 どーせやるなら融合させてひとつにしちまう、くらいやれよ。ってーかジュンイチならそこまでやる」
 まさかこんなに簡単に防がれるとは思っていなかった――驚愕するバリケードに対し、ガスケットはあっさりとそう告げる。
「悪いけどよぉ、オレだってあのジュンイチから修行をつけてもらってたんだぜ。
 いわば、生まれ変わった、バージョンアップしたNEWオレなワケだ! ナメてかかるとタダじゃすまねぇぞ!」
「ぬかせ! 機動六課の吹っ飛ばされ要員が!」
「てめぇが言うな! ディセプティコンで同じ立ち位置のクセしてよぉっ!」
 不敵な笑みと共にバリケードに言い返し、ガスケットは勢いよく地を蹴って――
「だなぁっ!?」
「ぶぎゃあっ!?」
 吹っ飛ばされてきたアームバレットにつぶされた。
 

「フォートレス!」
「全砲門――斉射!」
 シャマルの咆哮に答え、フォートレスマキシマスが全身の火器を一斉に解放する――放たれた砲火が狙い違わず目標を直撃するが、
「そんな程度の、砲撃で!」
 相手も超弩級トランステクターを操る身だ。そう簡単に倒れはしない――言い返すウーノがゴッドオンしたアグリッサが、フォートレスマキシマスに組みついた。力比べの体勢でガッシリと組み合う。
 直後、そのままの体勢からお互いの火器が火を吹いた。両者の間で爆発の嵐が巻き起こる。
「ヴァイスくん!」
「はい!
 いくぜ――相棒!」
「おぅよ!
 グリフィス! しっかり捕まってろよ!」
「あぁ!」
 シャマルの言葉にヴァイスが、そのヴァイスからスプラング、グリフィス――順に呼びかけ合い、ヴァイスとグリフィスの乗ったスプラングがアグリッサへと飛翔する。
 なんとかアグリッサに取りつき、ウーノを止める――フォートレスマキシマスと組み合い、動きを止めたアグリッサへと近づこうとするが、
「こないで!」
 アグリッサの背後の砲塔がスプラングを狙って火を吹いた。一斉砲撃で弾幕を張り、スプラングを、ヴァイスを――そして何より、グリフィスを寄せつけない。
「もうやめてください!
 こんなことをして、何になるんですか!?」
「やらなきゃいけない――やらなきゃならないのよ!」
 呼びかけるグリフィスに答え、ウーノはフォートレスマキシマスの両腕を振り払った。素人ながらアグリッサの剛力に支えられた拳がフォートレスマキシマスを殴り飛ばし、スプラングへと向き直る。
「私はドクターの戦闘機人――第一機人ファースト・ナンバーズ、“情報の探求者”ウーノ!
 私はあなたの敵なのよ……戦う以外に、前に進む方法なんかないのよ!」
「そんなこと……っ!」
 そんなことはない――そう告げたいグリフィスだが、アグリッサの全身から放たれ、襲いかかる砲火の嵐がそれを許さない。縦横無尽に砲撃をかわし、激しく揺れるスプラングのコパイロットシートで舌をかまないよう口を閉ざすしかない。
「やめなさい、ウーノ!」
 そんなウーノにシャマルが言い放ち、フォートレスマキシマスがアグリッサに向かうが、
「あなたも――来ないで!」
 彼女達に対しても、ウーノはアグリッサの砲火を浴びせかける!
 

砲射シュート!」
 宣言と同時に力を解放――美遊の放った魔力の渦が一直線に目標めがけて疾走するが、
「そんなもん――効くかよ!」
 サーペントが叫ぶと同時、彼の周囲で刃が荒れ狂う――襲いかかる“貪欲カバトスネス”の連結刃が、美遊の放った魔力の塊を細切れにしてしまう。
 こまかく散らされ、自身の放った魔力が霧散していく光景に舌打ちしたくなるが、そんな彼女にも“貪欲カバトスネス”が襲いかかる!
「く――――――っ!」
 回避しながらも魔力の散弾を放つが、やはりサーペントには届かない。引き戻された“貪欲カバトスネス”がそのすべてを弾いてしまう。
 それは何度も繰り返された攻防の流れ。しかし――
「サファイア……どう?」
《美遊様の見立ての通りです》
 それは美遊にとっては計算のうちだった。再三にわたって相手がこちらに対応した動きから、相手の能力の分析を終えたサファイアが美遊に答える。
《あのデバイスが美遊様の砲撃を斬り裂けるのは、あの刃に強力な魔力コーティングが施されているためです。
 おそらくはあの連結刃の高い精密操作性を実現させるためのものでしょうが、それが相手の攻撃に対する防御性能にも現れているようです》
「攻防一体か……また厄介な……!」
 サファイアの言葉にうめき、美遊はバックステップで距離を取りながらサーペントをにらみつけた。
「イリヤは……?」
《場所を変え、ナンバーズナンバー7との戦闘を継続中です》
「そう。
 早くこっちを片づけて、助けに行かないとね」
《イリヤ様の実力であれば問題ないかと思われますが……相変わらずイリヤ様には甘いですね》
「うん……自分でもそう思うよ」
 サファイアの言葉にそう答え、美遊は懐から一枚のカードを取り出した。
 一般的なデバイスカードよりもやや縦長のカードで、甲冑に身を包み、剣をかまえた騎士の絵が描かれている。
 下部に書かれたカード名は――“Saber”。
「何だ……?
 新しいデバイスでも持ち出してくるのか?」
「違う。
 私達は“魔術師”……魔導師とは違って、デバイスは持たない」
《代わりに私がいますからね》
 サーペントの問いにサファイアと共に答えると、美遊はカードをかまえ――ただ一言、告げた。
 

「――夢幻召喚インストール!」
 

 瞬間――力が解放された。美遊の周囲で荒れ狂い、その姿を覆い隠す。
「何だ…………?」
 美遊の行動が理解できず、サーペントが眉をひそめ――
「毎回思うけど……ジュンイチさん達の“精霊獣融合インストール”と同音異字っていうのはややこしいね。
 イリヤなんか、かなり本気で改名考えてたし」
《変えるべきはジュンイチ様達の方かと。
 こちらは正式な術名ですけど、あちらはジュンイチ様の造語なんですから》
 それぞれに言葉を交わし、姿を現した美遊とサファイアは――

 “青を基調とした騎士服をまとった騎士”と“騎士の大剣”へと姿を変えていた。

 彼女が使った先ほどのカード。名を“クラスカード”という。
 偉業を為し、“英雄”と言われた者達――死後、“英霊”となった彼らを“Saber”、“Lancer”、“Archer”、“Caster”、“Rider”、“Assassin”、“Berserker”――カードに示された“戦種クラス”に分類。その力を引き出し、“術者自身の存在に上書きする”能力を持つ。
 一言で言うならば“自らを英霊に変える”のがこのカードの能力――美遊はその内の一枚、“Saber”のカードにより、剣士の英霊、神話にその名を轟かせたアーサー王をその身に“上書き”させたのだ。
 言わば、今の彼女は“美遊・エーデルフェルトの意識と身体を持ったアーサー王”。そしてサファイアはそんな彼の携えた伝説の聖剣――だが、そんなことは正直どうでも良かった者がいた。
 実際に彼女と対峙しているサーペントである。
「へぇ…………それがお前の“本気”かよ?」
「そう。
 そして――あなたを倒す力」
「おもしれぇ……」
 冷静にそう答える美遊に対し、サーペントが獰猛な笑みを浮かべ、
「だったら見せてみろよ、その“力”ってヤツをさぁ……
 オレがまとめて、喰らってやるよ!」
 言い放ち――同時、“貪欲カバトスネス”が荒れ狂い、美遊に向けて襲いかかる!
 

「ぐぁ………………っ!」
 衝撃音と共にその身体がのけぞる――トーレの拳を受け、ノーヴェはたまらずたたらを踏んだ。
「…………のぉっ!」
 そんな彼女に迫る追撃の手――とっさに身をひるがえして蹴りを放つが、そんなムリな体勢で放った蹴りが通じるはずがない。トーレはあっさりとその蹴りをかいくぐり、逆に軸足を払い、姿勢の崩れたノーヴェの腹にヒジ打ちを叩き込む!
 さらに、ヒジ打ちを受けて前のめりによろめいたノーヴェの顔面を蹴り上げ、軸足を切り替えてもう一撃――たて続けに蹴りを受け、ノーヴェは真紅の“道”の檻の中を何度も跳ねて大地を転がる。
「く……っ、そ……!」
「私のISを封じたところまではほめてやる。
 狭い空間では、ライドインパルスの速力を完全に活かしきることはできない――その点、貴様の見立ては間違っていない」
 いいように打ちのめされ、ノーヴェはもはやフラフラだ。そんな彼女に淡々と告げ、トーレはヨロヨロと立ち上がったノーヴェを殴り倒す。
「とった戦術は間違っていない――ただ、足りなかった。
 ライドインパルスを封じてもなお、私とお前の力の差を埋めるには足りなかった――それだけだ」
 告げて、地に倒れるノーヴェの胸倉をつかんで持ち上げ――つるし上げられた彼女を思い切り殴り飛ばす!
 吹っ飛ばされ、ノーヴェが自身の作り出したエアライナーの壁に激突――さらにそこへ、トーレが追撃の蹴りを叩き込んだ。たて続けに積み重ねられた衝撃に耐え切れず、真紅の壁が打ち砕かれる。
 生じた破壊は檻全体に及び、音を立てて砕け散る――ノーヴェの“力”が霧散していく中、トーレは静かに倒れ伏す妹を見下ろした。
「誇るがいい。
 届きこそしなかったが――お前は確かに強くなった」
 そう告げて、ゆっくりと拳を振り上げ――
 

 振り下ろした。

 

「おぉぉぉぉぉっ!」
 お互いに速度は期待できない身だ。おかげでかなり苦労したが、なんとか回り込めた――背後からつかみかかり、フォートレスマキシマスはウーノのアグリッサを押さえ込みにかかる。
 さらに、牽引トラクタービームを拘束に利用。自分ごとアグリッサの全身に巻きつけ、動きだけでなく砲撃をも封じ込める。
「いいわよ、フォートレス! そのまま動きを止めて!
 ヴァイスくん! グリフィスくんを!」
「わかってまさぁな!」
「いっけぇっ!」
 シャマルの叫びに答え、ヴァイスとスプラングはさらに加速していく。一気にアグリッサとの距離を詰めていくが、
「ダメ――こないで、グリフィスくん!」
 ウーノの、アグリッサの底力はそんな彼らの予想を超えていた。動力部がうなりを上げ、発揮された怪力で牽引トラクタービームの拘束を引きちぎる!
 間髪いれず、対空砲火でスプラングを追い払う――振り向きざまにフォートレスマキシマスを殴り飛ばすと、たたらを踏んだフォートレスマキシマスに向け、両腕の主砲をかまえる。
「さっきからジャマなのよ、あなた……
 ジャマをしないで……死になさい!」
 ウーノが咆哮し、フォートレスマキシマスを狙った主砲にエネルギーがチャージされていく。そのまま、フォートレスマキシマスに向けて解放され――
 

「ダメです!」
 

「――――――っ!?」
 グリフィスの叫びが響き、彼の意図を汲んだスプラングが、主砲のすぐ前に飛び出してくる!
 そんなグリフィス達の行動に驚き、ウーノは思わず動きを止め――
「フォートレス! 今よ!」
「おぅっ!」
 シャマルの叫びにフォートレスが動いた。チャージ済みのアグリッサの主砲に両の拳を振り下ろし、粉砕する!
 エネルギーを最大まで溜め込んでいた主砲にそんなマネをされたらどうなるか、その答えは明白だ――行き場を失ったエネルギーはアグリッサの“中”を縦横無尽に駆け巡り、全身で爆発を起こす。
「こんな……程度でぇっ!」
 だが、ウーノもまた止まらない。まるで絶叫するかのように咆哮し、その他の火器を起動させ――
「いや――すでに、詰みだ!」
 そんな彼女の、アグリッサの顔面をフォートレスが思い切り殴り飛ばす!
 全身を行き場を失ったエネルギーに焼かれ、さらに顔面を痛撃――たて続けの衝撃でゴッドオンが解け、ウーノが空中に放り出され――
「ウーノさん!」
 そんなウーノをスプラングが追いかけた。急降下しながら落下していくウーノを拾い上げ――
「…………大丈夫ですか? ウーノさん」
 ウーノの身は彼に委ねられた。ウーノが再び空中に投げ出されないようにとしっかりと抱きとめ、グリフィスは彼女にそう尋ねる。
「グリフィスくん……?
 ――――――っ! 放して! 放してったら!」
「いいえ! 放しません!」
 我に返り、状況を理解すると同時、ウーノはグリフィスの腕の中から逃れようと身をよじる――非戦闘型の戦闘機人といえどその腕力は常人を軽く上回る。すさまじい勢いに腕を振り解かれそうになりながらも、グリフィスはなんとか耐えしのいでそう答える。
「ここで放したら、あなたはまた離れていってしまう――だから絶対、放しません!」
「離れていいのよ――離れなきゃならないの!」
 告げるグリフィスに答えるウーノの声はほとんど泣き声に近かった。グリフィスの腕をなんとか振りほどこうともがきながら叫ぶ。
「私は、グリフィスくんよりもドクターを選んだ……グリフィスくんの敵であることを選んだのよ!
 そんな私が、グリフィスくんに救ってもらえる価値なんてないのよ!」
 もはや本音も建前もない。自らの感情をぶちまけるようにウーノが言い放ち――
「だったら――」
 

「どうしてボクらの前に現れたんですか!?」
 

「――――――っ!」
 グリフィスのその言葉は、ウーノの胸の内を鋭く撃ち抜くものだった。息を呑み、思わずその身をすくませる。
「救われたくないのなら……その価値がないと、必要がないと感じていたのなら、戦いの場にあなたが現れる必要はない。
 アグリッサの能力が必要なのだとしても、ボク達の目の前に現れる理由はない……広域殲滅型のアグリッサには、もっと必要とされる局面があるはずです」
 そして、そんなウーノにグリフィスが続ける――ウーノを抱きしめたまま、静かに告げる。
「どんな形にしても、ウーノさんはボクと意図的に接触するためにこの場に現れた……
 ボク達に止められるにせよ、ボク達を討ち倒すにせよ……自分とボクとで。そういう形で決着をつけること望んだ……」
「グリフィスくんに……何がわかるというの……!?」
「わかりますよ」
 反論するウーノだったが、グリフィスは迷うことなくそう答えた。
「ウーノさんが……ずっとそう、叫んでいたから……
 ボク達と戦いながら、ずっと……戦うことで、ボクに呼びかけてくれていたから……」
「え…………?」
「覚えていませんか?
 初めてデートしたあの日の……チェスで対戦した時のこと……」
 思わず声を上げるウーノに対し、グリフィスは目を閉じ、その時のことを思い出しながら続ける。
「あの時……チェスから将棋に、さらに将棋と同じ文化圏で生まれた囲碁へと話が移っていって……その時に言っていたじゃないですか。
 囲碁の別名は“手談”――勝負の中で相手と語らうものだって。
 あの時と同じです。ウーノさん……戦いながら、自分の想いをぶつけてきてくれた……
 ボクと会いたい。会って、お互いの関係に決着をつけたい……あなたの攻撃は、そんな想いで、まるで泣き叫ぶみたいだった……」
「………………」
「『来ないで』なんて言わないでください……
 『そんな価値はない』なんて、言わないでください……
 せっかく会えたのに……離れていこうとしないでください……!」
 そして――グリフィスはウーノを振り向かせた。自分と向き合った形で、彼女の両肩を捕まえ、告げる。
「ウーノさん……」

 

「好きです」

 

「あなたのことを、ひとりの男として……好きなんです。
 だから……一緒にいさせてください。
 あなたが罪を償う間も、その先の時間も……あなたのそばに、いさせてほしいんです」
「………………」
 そんなグリフィスの告白に、ウーノは静かに視線を落とした。
 グリフィスの言葉に答えるでもなく、しばしの間じっと黙り込み――
「…………せっかく告白したのに、『そばに“いさせてほしい”』か……
 男の子の告白にしては、ずいぶんと控えめなんじゃないかしら?」
「う…………っ……
 そ、それは……」
 意外な反撃に、思わずたじろぐグリフィスに対し、ウーノは――
「まぁ――」
 

「そんなキミだから、私も好きになったのだろうけど……ね」
 

 自分の肩を捕まえていたグリフィスの両腕を放し、逆に彼を優しく抱きしめた。
「まったく……困った子……
 犯罪者の私が、一緒にいるワケには行かないって……だから離れて、私が選んだ道を貫こうと思ってたのに……何もかもぶち壊しじゃない……!」
「それでいいんですよ……
 ボクのためだって……たとえそうでも、そのために選びたくない道を選ぶなんて……そんな選択、いくらでもぶち壊してあげます」
 そして、グリフィスをよりしっかりと捕まえる――そんな彼女に答え、グリフィスも彼女を抱きしめ返す。
「…………やれやれ。
 二人して、状況もオレ達のこともすっかり忘れちまいやがって」
「まぁ……いいんじゃないのか?
 今この時くらいはさ」
 今は戦いの真っ最中で、ここは自分達の操縦する機内――ため息をつくヴァイスに対し、スプラングは苦笑まじりにそう答える。
「はぁ……いいわねぇ。
 私もブレードさんと……♪」
 一方、シャマルもそんな“アツアツ”の二人の姿に自分とブレードを重ね、フォートレスマキシマスのブリッジで絶賛トリップ中で――
「おーい、シャマル!」
「え――――――?」
 そんなタイミングで“待ち人”来る――声をかけてくるブレードの姿に、シャマルは思わず声を上げる。
「ブレードさん!?
 一体どうして……ハッ!? まさか私の想いが通じたとか!?
 ブレードさん、今行きます!」
「あ、おいっ、シャマル!?」
 こうなるとわき目も降らずに一直線、なのがシャマルだ。フォートレスが呼び止めるのも無視して転送魔法でその場を離脱。ブレードのすぐ目の前に降り立つ。
「ブレードさん!
 私のために来てくr――」
「患者だ」
 そのままブレードに抱きつこうとしたシャマルだが、ブレードはそんな彼女の前にゼストをずいっ、と押し出してくる。
「てめぇなら、そいつを治せるだろ。後は頼むぞ」
「え? あ、ちょっと?」
 突然のことに理解が追いつかないシャマルを残して、ブレードはさっさと去っていってしまう――結局シャマルにできたのは、
「…………いや、そこでオレをにらまれても困るのだが……」
《あたしら……悪くないよな……?》
 ゼストと、付き添いのアギトをにらみつけることだけだった。
 

「くぅ…………っ!」
 また突撃を止められる――両手に伝わってくる衝撃に顔をしかめつつ、美遊は一度距離を取り、
「オラオラ――どうした!?
 さっきまでの自信はどこへ消えたよ!?」
 そんな美遊に向け、サーペントの放った“貪欲カバトスネス”が襲いかかる。攻撃を回避し、美遊はさらに数歩の後退を余儀なくされてしまう。
「思った以上に、“貪欲カバトスネス”の防御能力が高い……!」
《というより、攻撃が的確すぎるんですよ。こちらの攻撃に対する返しが鋭すぎです。
 “攻撃は最大の防御”とはよく言ったものです》
 こちらがいくら仕掛けても、すぐに目の前に刃の嵐が立ちふさがってくる。ヘタに突っ込んでも細切れにされるだけだ。
 この姿の切り札、宝具“約束された勝利の剣エクスカリバー”もおそらく通じないだろう。あれはブレードの“獅子絶閃”と同じく斬撃に特化しているといっても、本質的には魔力斬撃というより魔力砲に近い。先ほどの砲撃と同様に斬り散らされるのがオチだ。
 恐ろしく攻撃的な、それでいて鉄壁の防壁――それが、再三に渡って突撃を返された美遊による“貪欲カバトスネス”の分析結果だった。
「“Saber”との相性が悪すぎる……!
 あの形状を考えれば、接近さえできれば勝機はあるけど……」
《そもそも接近ができないのでは意味がありませんね。
 もっとも、あちらも、それを見越してのあの防御でしょぅし……そういう意味では、接近戦に弱いだろうという美遊様の見立ては間違ってはいないのでしょうけど》
 冷静に状況を分析する美遊とサファイアに対し、サーペントは特に仕掛けてくる様子はない。ただこちらの攻撃を警戒し、“貪欲カバトスネス”を周囲で渦巻かせているのみだ。
《どうしますか? 美遊様》
「少なくとも“Saber”では勝てない……これは決定事項。となると他の手段になるけど……」
《ブレード様なら、相手の攻撃にかまわず飛び込んで行きそうですけどね。
 傷つくそばから治っていくって反則ですよ》
「確かにその通りだけど、私はあの人みたいに超速回復はできないから――」
 そう答えかけ――美遊は動きを止めた。
(『かまわずに“飛び込んでいく”』……?)
 サファイアの先ほどの言葉が脳裏に蘇る――自分の中で歯車がカチリ、とかみ合うのを感じながら。頭の中で情報が組み合わさり、ひとつの結論を導いていく――
「…………サファイア」
 言いながら、美遊は懐から新たなカードを取り出す――そのカードの意味に気づき、サファイアは彼女の意図を読み取った。
「いけそう?」
《タイミングがかなりシビアですけど……あえて言いましょう。
 『私とあなたなら、何の問題もなく』と》
「うん。いい子だ」
 サファイアの答えにうなずき、カードをかまえ――告げる。
夢幻召喚インストール!」
 それは先ほどにも起きた現象――カードからあふれた“力”が美遊を、サファイアを覆い隠していく。
「フンッ、バカのひとつ覚えかよ?」
 対して、サーペントはバカにするかのようにそうつぶやく――美遊が再度の“夢幻召喚インストール”を行なうのを、特に妨害することもなく見つめている。
 何をしようが“貪欲カバトスネス”の防御は敗れはしまい。絶対の自信と共に相手の攻撃を待ちかまえ――
 

 トンッ、と音を立て――美遊は“サーペントの背後に着地した”。
 

「――な…………っ!?」
 サーペントの身体に――ちょうど心臓のあるはずの位置に、まるでドリルで貫いたような破壊痕を刻んだ上で。
「…………“刺し穿つ死棘の槍ゲイボルク”。
 撃てば標的を必ず仕留める、“Lancer”の宝具」
 静かに告げて、美遊は手にしたサファイアを振る――全身にピッタリとフィットし、彼女のバツグンのスタイルを惜しみなく強調した武道服に身を包み、真紅の槍へと姿を変えた相棒を。
「あえて再度の変身をしたのだから……その防御を貫ける姿になったと考えておくべきだったね」
 告げる美遊の言葉に答えることもなく、サーペントの身体がその場に崩れ落ちた。同時、“貪欲カバトスネス”も力を失い、地に落ちる――
「………………っ」
 それと同時、美遊もまた、その場にヒザをついた。変身が解け、自身の身体の中から“Lancer”のクラスカードが排出される。
「“夢幻召喚インストール”2連発に宝具が1発……
 10年前よりも総量は上がっていても、私の魔力じゃこれが精一杯か……!」
 だが――それでもやることは残されている。疲労感に襲われる身体に鞭打って、なんとか立ち上がろうとする。
「まだ、イリヤが戦ってる……助けに、行かないと……!」
 しかし、身体が言うことを聞かない。力の入らない自分の身体に、美遊は悔しさから歯がみして――
《恐れながら……手助けはするべきではないかと》
 そんな彼女に告げたのはサファイアだった。
《美遊様はナンバーズのナンバー7をイリヤ様に任せてサーペントと戦った……その時点で、私達はナンバー7の制圧をイリヤ様に託したと考えるべきです。
 この上での手出しは、そんな彼女への信頼を自ら否定するようなものではありませんか?》
「………………そうだね。
 サファイアの言うとおりだ」
 優しく、諭すように告げるサファイアの言葉に、美遊は大きく息をつき、
「まだ、戦いは続く……イリヤ以外のところで、援護すべき戦場が出てくるかもしれない。むしろ、そっちに備えないと……
 サファイア。戦闘に巻き込まれてない区画を探して、一度退く――そこで回復を待って、改めて出るよ」
《わかりました》
 

「いっけぇっ!」
「IS発動――“ヘヴィバレル”!」
 セインがリーブラや全身の火器を斉射、ディエチも自身のISを発動させての砲撃――二人の攻撃がジェノスクリームへと襲いかかるが、
「そんな、バカ正直な狙いで!」
 ジェノスクリームには当たらない。ビーストモードでホバリング。地面をすべるように駆け抜け、二人の攻撃をかいくぐっていく。
「くそっ、すばしっこいっ!」
「私達の機動じゃ、狙いがつけ辛い……!」
 水中戦と地上戦、想定した戦場は違えど、セインとディエチのトランステクターはどちらもチーム戦においては砲狙撃支援を目的とした機体だ。同じ砲撃戦仕様と言っても、自ら前線に突撃して砲撃を叩き込む強襲型であるジェノスクリームと比べて機動性はどうしても譲る形になる。
 結果――
「くらえ!
 フォースチップ、イグニッション!」
 相手の先手を許し続けることになる。ジェノスクリームが背中の二連装キャノンでけん制しつつフォースチップをイグニッションし、
「ジェノサイド、バスター!」
「ヤバイ――!」
「セイン、よけて!」
 必殺の砲撃が放たれた。セインとディエチがとっさに離脱し、二人のちょうど中間地点に砲撃が着弾、爆発を巻き起こす。
 だが、それは現在の戦況を考えると悪手でしかなくて――
「しまった、分断され――」
「気づくのが遅い!」
 うめくディエチを、一気に間合いを詰めたジェノスクリームが尾の一撃で打ち飛ばし、
「ディエチ――ぅわぁっ!?」
 声を上げたセインには背中の二連装キャノンを叩き込む。
「くそっ、やられっぱなしじゃないか……!
 なんとか、状況をひっくり返す方法を考えなきゃ……!」
 このままでは二人ともやられるのを待つばかりだ。事態を打開する方法を探り、セインは思考をめぐらせる。
(考えろ……! 頭ン中全部演算に回せ……!
 見つけるんだ……この状況をひっくり返せる“何か”を……!)
 周囲の状況、自分達の武装、相手の能力――ジュンイチの元に身を寄せている間、最年長機人ナンバーズとしてマックスフリゲートのフォワードリーダーを務めた、その経験をフルに活かして策を考え、
「…………ディエチ!
 あたしのガジェットへの命令権限、まだ有効!?」
「なワケないだろ!
 ジュンイチの方に鞍替えした時点で、逆利用される危険があるからってクア姉が――」
 何か思いついたらしく、尋ねるセインの言葉に答え――ディエチもまた、彼女の考えに気づいた。
「……そうか、ガジェット!
 いけ! アイツの足を止めろ!」
 そのディエチの指示に従い、周囲でドール部隊と戦っていたガジェットの一部が標的をジェノスクリームへと変更する。一斉にジェノスクリームへと襲いかかり――
「そんなもの!
 ジェノサイド、バスター!」
 ジェノスクリームには通じない。ジェノサイドバスターの一撃がガジェット群を薙ぎ払う。
「バカが……
 今さらガジェットごときで、このオレが止められるとでも――」

「もちろん――!」

「――思っちゃいないさ!」

「何――――っ!?」
 答える声に思わず声を上げ――そんなジェノスクリームの目の前、爆煙の中からセインが飛び出してくる!
(まさか――ガジェットをけしかけたのは、コイツを接近させるためのオトリか!?)
 一瞬、裏をかかれたと背筋が凍るが――
「だが――詰めが甘い!」
 それでも、対応するには十分な距離があった。素早くチャージ、ジェノサイドバスターを放ち――狙い違わずセインのデプスダイバーを直撃する!
 だが――
「――――っ、のぉぉぉぉぉっ!」
「な――――――っ!?」
 響き渡った咆哮に驚愕する――同時、爆煙の向こうからデプスダイバーが飛び出してくる。
 その両肩から、デプスダイバーの特徴だった巨大なバインダーが姿を消している――バインダーを楯にすることで、ジェノスクリームのジェノサイドバスターをしのいだのだ。
(防ぐことまで前提だったのか――!?)
 今度こそ戦慄するジェノスクリームの懐に、セインは相手が反応するよりも早く飛び込み、
「これでも――くらえぇぇぇぇぇっ!」
 手にしたリーブラの銃口をジェノスクリームへと突きつけた。迷うことなく引き金を引き――零距離で砲撃が炸裂、大爆発を巻き起こす!
「ぐぅ…………っ!
 こ、の……!」
 至近距離から強烈な一撃を受け、ジェノスクリームもただではすまなかった。ビーストモードの胸部装甲に大きく亀裂を刻まれ、よろめきながら爆煙の中から姿を現す。
 一方、セインは――彼女もただではすまなかったようだ。むしろ、ジェノサイドバスターの強行突破のダメージがあった分ジェノスクリームよりも深刻だった。うめき声すら上げられず、爆煙の中で大地に倒れ伏す。
「フンッ、最後の悪あがきか……!」
 そんなセインの姿に、ジェノスクリームが息をつき――
 

「“最後”じゃないさ」
 

「――――――っ!?
 しまった――!」
 声をかけられ、自らの失念に気づいた――焦るジェノスクリームの目の前で、主砲のチャージを終えたディエチが爆煙の向こう側からその姿を現した。
「セインの今までの特攻は、すべてこのための布石か……!」
「そういうことだ!
 セインが身体を張ってチャンスを作ってくれたんだ――ムダになんか、するもんか!」
 うめくジェノスクリームにディエチが答え――
「IS発動――“ヘヴィバレル”!」
 ディエチの砲撃が、ジェノスクリームを真っ向から吹き飛ばした。

「セイン!」
 完全に破壊された胸部装甲の奥に見える“レリック”はそのエネルギー放出を停止。無事、“レリック”を暴走させることなくジェノスクリームを停止させられたようだ――声を上げ、ディエチはセインへと向き直った。
 当のセインは、機能を停止したデプスダイバーから放り出され、大地に倒れ伏したまま――ディエチもゴッドオンをとき、彼女へと駆け寄る。
「セイン、しっかりしろ! セイン!」
「ディエチか……
 ジェノスクリームは……?」
「心配するな。倒したよ。
 セインの、おかげでね……」
 自分の腕の中で尋ねるセインに答え、ディエチは彼女を安心させるように優しく微笑んでみせる。
「だったら……あたしらの勝負の続きを……って、言いたいけど……これじゃムリかな……?」
 言って、セインが視線を向けるのはロボットモードのまま機能を停止したデプスダイバーだ。
「まぁ……それでもいっか……
 ディエチにだったら、やられても……」
 姉妹達の中ではそれほど仲の悪くないディエチが相手ならば、ここで倒されたとしても悔いはない――痛みに耐えながらなんとか笑顔を作り、告げるセインだったが、
「バカなこと、言わないでくれるかな?」
 そんなセインに、ディエチはため息まじりにそう答えた。
「私に、トドメを刺せって言うの? 冗談じゃないよ」
 その場にセインを寝かし、イノーメスカノンを手に立ち上がる。
「自分が誰だか、忘れたの?
 セイン――キミは、私の“お姉さん”なんだからね」
 振り向き、セインを守るようにイノーメスカノンをかまえる――その銃口を、自分達を包囲し始めた瘴魔獣やドール部隊に向けながら。
「心配しないで。
 セインのがんばりは、絶対にムダにしない……!
 自分の役目は放り出せないけど……絶対に、セインのことも守ってみせるから!」
 力強く宣言し――ディエチの身体から虹色の魔力があふれ出す!
 その正体など、今さら詮索するまでもない――起きた現象とそれが示すものを瞬時に悟り、ディエチは迷うことなく、力強く叫んだ。
「ハイパー、ゴッドオン!
 アイアンハイド――トランスフォーム!」

 

「………………」
 トーレは静かに、自分の足元のそれを見下ろしていた。
 拳を打ち落としたその下にあるのは、へこんだ金属の板一枚――ブレイクコンボイのボディを形成する、ガードフローターの翼の一部である。
「とっさによけたか……いい反応だ。
 だが、それ以上あがいて何になる?」
 一撃を打ち込まれたはずのノーヴェは、自分のすぐ脇で息を切らせている――もはやゴッドオンを維持するので精一杯といった様子の彼女の姿に、トーレは淡々と告げて立ち上がる。
「これ以上あがいても無様なだけだ。
 安心しろ――ドクターの元で、お前はお前の経験を元に、新たに生まれ変わることになる」
 そう告げるトーレだったが――
 

「………………ダメなんだ……!」
 

 ノーヴェの耳には届いていなかった。よろめきながらも立ち上がり、トーレに向けてそう告げる。
「『強くなった』だけじゃ、ダメなんだ……!
 『届かなかった』じゃ、ダメなんだ……!
 届かせなきゃ、ダメなんだよ!」
 渾身の力でそう叫び、ノーヴェがトーレに向けて突撃する――放たれた右ストレートをかわし、カウンターを狙うトーレだったが、
「だぁりゃあっ!」
「がっ!?」
 一撃を入れたのはノーヴェの方――間髪入れずに放たれた左の拳が、トーレのゴッドオンしたマグマトロンの顔面を捉える。
 さらに、わき腹に蹴りを叩き込み、たたらを踏んだトーレの横っ面に回し蹴り――思わぬ反撃を受け、トーレはたまらず後退するが、
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「――――――っ!」
 ノーヴェはそんな彼女を逃がすまいと追撃をかけてきた。追いついてきたノーヴェのラッシュを、トーレはライドインパルスを使うスキもなく、さばき、しのぐしかない。
「最後の底力か……!
 いい加減、墜ちろ!」
 だが、そんなノーヴェの反撃もいつまでも続かない。突然のことに驚きはしたが、トーレはすぐに対応した。ノーヴェの拳を完全に受け流し、無防備な背中に拳を叩き込み、眼下の地面に叩き落とす!
「まだそこまでの力を残していたとはな……正直驚いた。
 だが、ここまでだ……お前の力では私は倒せん」
「…………まだ、だ……!」
 告げるトーレだったが――ノーヴェはそれでも止まらない。再び身を起こし、トーレと対峙する。
「あたしは、まだ立ち上がれる……! 走れるし、拳も振るえる。蹴りだって打てる……!
 たとえ、全部の技が返されたって……あたしはまだ、戦う力が残ってる!
 そして何より……あたしには、戦う理由がある!」
 腹の底から咆哮し、最後の力を振り絞る――今にも消え入りそうだったノーヴェの“擬似カイゼル・ファルベ”が再び勢いを取り戻し、ノーヴェの周囲で渦を巻く。
「見せてやるよ、トーレ姉……!
 これがあたしの……ホントにホントの、全力全開だ!」
 

「フォースチップ、イグニッション!」
 

 ノーヴェの叫びに応え、ミッドチルダのフォースチップが飛来した。ブレイクコンボイの背中のチップスロットへと飛び込んでいく。
 それに伴い、ブレイクコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出し、勢いよく熱風を噴き出し始める。
 通常ならこのまま必殺技に移るところだが――
「オォォォォォォォォォォッ!」
 必殺技の体勢を取ることなく、ノーヴェが力強く咆哮する――彼女によって高められ、より勢いを増した“力”が、ブレイクコンボイの全身を駆け巡る!
「これは……!?
 柾木の機体に搭載された、バーストモードと同じ……!?」
 荒れ狂う“力”に圧倒され、思わず一歩退いたトーレがうめき――
「だぁりゃあっ!」
「――――――っ!?」
 ノーヴェが地を蹴った。すさまじい加速でトーレの懐に飛び込み、驚愕するトーレの顔面を、彼女が反応するよりも速く殴り飛ばす!
(速い――――っ!)
「ライド、イn――」
「させるか!」
 ライドインパルスを使われてはせっかくのパワーアップもフイになる。使わせるワケにはいかない――吹っ飛びながらもISを発動させようとするトーレの後ろ、吹っ飛ぶその先に回り込んだノーヴェが、飛んできたトーレの身体を真上に向けて蹴り上げる!
「く――――っ、おぉっ!」
 蹴り飛ばされたおかげで距離は開いたが、再びISを発動させようとしても、それを脅威と感じているノーヴェは全力で妨害してくるはずだ。
 ここはセオリー通り、一撃入れてそのスキに――決断すると同時、追ってくるノーヴェに向けてマグマトロンの腕部ビーム砲をかまえるトーレだったが、それに気づいたノーヴェも急制動、プラス方向転換。照準を合わせ直すトーレの射撃をかわし、一気に距離を詰めるとお返しとばかりに飛び蹴りを叩き込む。
「ちぃ…………っ!」
 それでも、トーレはなんとか受け身を取り、大地に倒れ込むことなく体勢を立て直す――追ってくるノーヴェに対し、カウンターの拳を打ち放つが、
「そんな――もんでぇっ!」
 ノーヴェはその一撃を、ブレイクコンボイの額で受けた。衝撃に顔をしかめるトーレを、渾身の力で思い切りブン殴る!
 顔面に強烈な一撃を受け、トーレはたまらずのけぞって――そんな彼女をノーヴェが捕まえた。そのまま上空へと舞い上がり――
「……く……ら……えぇぇぇぇぇっ!」
 一転して急降下。トーレのゴッドオンしたマグマトロンを、思い切り廃ビルのひとつに叩きつける!
 屋根を突き破ってマグマトロンが内部に叩き込まれ、廃ビルが轟音と共に崩壊する――バックステップで降ってくるガレキから逃れ、ノーヴェは距離を取って様子をうかがう。
 そんな彼女の予想通り、トーレはまだ終わってなどいなかった――降り積もったガレキを吹き飛ばし、ノーヴェの前に今一度その姿を現す。
「やって、くれるじゃないか……!」
「そりゃこっちのセリフだっつーの。
 けっこうマヂめに攻撃叩き込んだのに、あっさり立ってきやがって……」
 うめくように告げるトーレ姉に答え――ノーヴェはブレイクコンボイの“中”で顔をしかめた。
「こっちは……けっこう、限界だってのに……!」
 その原因は、全身に走った痛み――直後、ブレイクコンボイの各部で小爆発が起きた。強烈な過負荷を受けた関節部が火を吹き、回路がバチバチと火花を散らす。
「ノーヴェ……!
 やはり、その形態……!」
「あぁ。
 お察しの通り――かなりヤバイレベルでムチャしてるよ」
 その異変だけで、何が起きているかを察するには十分すぎた――うめくトーレに対し、ノーヴェは激痛に顔をしかめながらそう答えた。
「やってることはマグナブレイカーのバーストモードと同じだ。
 イグニッションしたフォースチップのエネルギーを使って、機体の性能にブーストをかけ続ける……
 言ってみれば、マグナブレイカーの“バースト”モードとあたしらのフル“ドライブ”の融合――“バーストドライブ”ってところか」
「だが……マグナブレイカーのそれと違い、正規のシステムではないそのモードは、かなりの負担を強いる。
 その結果が、先ほどの回路のショートということか……」
 ノーヴェの言葉にうめくように答え、トーレは彼女の動きを警戒しながら息をついた。
 ムチャが過ぎるにもほどがある。思い切り動いたとはいえ、この短時間で関節部がオーバーヒートし、回路が焼き切れるなど尋常な負荷ではない。
 下手をすれば、ブレイクコンボイの機体そのものが吹っ飛ぶ可能性も――そんなムチャを平然としでかした妹の行動が理解できず、思わずノーヴェに尋ねる。
「どういうつもりだ……!
 どうして、そこまでして私と戦う……? そこまでする必要があるのか……?
 柾木ジュンイチのために、そこまでできる理由がお前にあるというのか……?」
 しかし――そんなトーレの問いに返ってきたノーヴェの答えは――
「別に、ジュンイチのためだけじゃねぇよ……!」
「何、だと……!?」
「確かにジュンイチには恩がある。返さなきゃならないとも思ってる。
 けど……それ以上の想いで、今、あたしはここにいるんだ……!」
 そう告げて、ノーヴェはしっかりとトーレを、マグマトロンを見据えた。強い意志をその視線に込めて、続ける。
「ドクターのところにいた頃から……戦闘リーダーだったトーレ姉はあたしの憧れで……目標、だったんだ……
 トーレ姉みたいになりたくて……そんでもって、ほんのちょっとだけでいいから、トーレ姉よりも強くなりたくて……そう思ってたから、あたしは強くなりたかった……!」
 ずっと遠い存在だと思っていた――いや、今でも彼女の強さは自分の手の届かない高みにある。
 だが――だからこそ、ずっと憧れてきた。ずっと超えたいと思ってきた。
 そんな彼女が今、自分の目の前にいる。
 追い抜くことはできなくても、せめて――自分の先を行くその背中に、指先くらいは触れてみせる。
「ドクターを止めたいとか、ヴィヴィオを助けたいとか……理由はいろいろあるけど……それよりも、あたしはトーレ姉に勝ちたい。
 ……いや、違う」
 そして――ノーヴェはトーレを真っ向から見据え、告げる。
「あたしは――」
 

「トーレ姉に、勝つ」
 

「…………よかろう」
 その言葉からノーヴェの“本気”を感じ取り、トーレは静かにうなずいた。なめらかな動きで右半身を引き、ノーヴェに向けてかまえる。
「お前の覚悟……確かに受け取った。
 ならば私も、“戦士として”だけではなく、“姉として”もそれに応えよう」
 その言葉と同時――トーレが“力”を解放した。エネルギーの渦がマグマトロンの周囲に巻き起こるのを身ながら、ノーヴェもまた自らの“力”をさらに高めていく。
「ノーヴェ……!」
「トーレ姉……!」
 互いに相手の名をかみ締めるようにつぶやく――かまえ、にらみ合っていたのはほんの数秒だったかもしれない。しかし、当人達にはそれが無限の時の流れにも思えていた。
 周囲の何もかもが消え去り、相手しか見えなくなる。極限の集中状態の中、トーレも、ノーヴェも、相手をジッと見据えたそのまま、身じろぎひとつせずに――

 

 次の瞬間、すでに二人の拳は交錯していた。

 

 交錯は一瞬。衝撃も一度きり――すべてを賭けた一撃を放ったその体勢のまま、ノーヴェも、トーレもその動きを止めていた。
 互いの拳はどちらも相手の胸に届いている、完全な相打ちの形だ。激突の衝撃で上空に吹き飛ばされた破片がパラパラと降ってくる中――
「………………っ」
 ノーヴェの口からうめき声がもれた。同時、彼女の、ブレイクコンボイの全身を覆っていた“力”の流れが消失する。
「……時間切れ、かよ……!」
 すでに“力”は使い果たしていた。全身を覆っていたのはその残滓にすぎない――力が抜け、その場にガクリ、とヒザをつく。
「…………ちく、しょう……!」
 それだけ、しぼり出すようにつぶやいて、ノーヴェはゴッドオンしたまま、その場に崩れ落ちていく――そんな彼女を、トーレはほんの少しだけ振り向き、無言で見下ろした。
「…………『ちくしょう』か……」
 最後のノーヴェの言葉を反芻し、独り静かにつぶやく。
「そんなセリフを吐くから、貴様は未熟だと言うんだ」
 倒れたノーヴェにそう告げた、次の瞬間――
 

 マグマトロンの機体が火を吹いた。
 

 ノーヴェは、トーレに一撃を入れることが叶わなかったワケではなかった。
 あの一瞬の刹那――ノーヴェの“力”は霧散するまさにその一瞬前に、トーレに向けて打ち込まれていたのだ。
 致命的なダメージが、マグマトロンの内部を一気に破壊していく――機体のあちこちが小爆発を繰り返す中、トーレは倒れたノーヴェを見下ろした。
「まったく……貴様はいつまで経っても甘い……」

 

 

 

「勝者が……敗者のセリフを吐んじゃない」

 

 

 

 そのセリフを最後に――トーレはゆっくりとその場に崩れ落ちていった。


次回予告
 
ガスケット 「あー、本編じゃカッコよく決めたってのに、アームバレットのおかげでさんざんだぜ」
アームバレット 「ゴメンなんだな……」
シグナルランサー 「それよりも、なんとしてもヤツらを押さえるぞ!」
ボーンクラッシャー 「やれるもんならやってみろ!」
ブロウル 「お前らなんか、返り討ちにしてやるぜ!」
バリケード 「ディセプティコンなめんなよ、コラぁっ!」
ジュンイチ 「盛り上がってるトコ悪いんだけどさぁ、『ザコキャラ同士の小競り合い書いたって盛り上がらねぇし、飛ばして先行く』ってよ」
“ザコキャラ”一同 『ぅえぇぇぇぇぇっ!?』
ジュンイチ 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第109話『ルーテシア奪還作戦
 〜超連結合体カイゼルライナー〜』に――」
7人 『ハイパー、ゴッド、オン!』

 

(初版:2010/04/24)