「………………くっ、ぅ……!」
 意識がよみがえり、四肢に再び力が通う――うめき声を上げ、ノーヴェはその場に身を起こした。
「いてて……
 どう……なったんだ……!?」
 どうやら先ほどまで戦っていた場所のようだが――トーレに敗れたのであればいつまでもこの場にほったらかし、というのは不自然だ。状況を確認しようと、ノーヴェが未だ痛みの残る身体で身を起こすと、マグマトロンにゴッドオンしたまますぐ傍らで倒れているトーレに気づいた。
「…………トーレ、姉……」
 その光景に、彼女もまた自分が倒れた後で限界を迎えたのだろうと察する――しばしためらいを見せた後、痛み身体に鞭打って立ち上がる。
「…………ゴメン、トーレ姉。
 こんなところにほったらかしにしちまうけど……あたし、行かなきゃ……
 ホクトのヤツ……無事にジュンイチに合流できてるといいんだけど……!」
 正直休息を取りたいところだが、まだ“やるべきことがある”と自分の中の何かが告げていた。“妹”と合流すべく、ノーヴェは戦場に向けて一歩を踏み出した。

 

 


 

第109話

ルーテシア奪還作戦
〜超連結合体カイゼルライナー〜

 


 

 

「じゃあ、ジュンイチさんは地上本部に?」
「マグナブレイカーの反応を追いかけた限りでは、ね」
 ブリッツクラッカー達と別れて移動することにしたものの、ガジェットやエアドールに見つかって追いかけ回されてもつまらない。ここは“急がば回れ”が正解だ――ゴッドオンを維持したまま、あえてビル街の中をホバリング走行で移動しつつ、ウェンディは聞き返してくるティアナにそう答えた。
「というか、“ゆりかご”に向かってたらとっくに突入してる時分っスよ――ド派手に外装フッ飛ばして」
「前者の見立てより後者の見立ての方がリアリティがありすぎるのはなぜかしらね……」
「まったくだ」
 ウェンディの言葉に苦笑し、ティアナとジェットガンナーは彼女と共に廃棄都市のビルの間を駆け抜けていく――

 そんなティアナ達からさほど離れていないビルの屋上で――
「あー……めんどくせー……」
 言葉の通り、本当にめんどくさそうにつぶやき、ため息をもらす――周囲で繰り広げられる戦いをまるで意に介さず、モビィ・ディックはその場に寝転んで空を見上げていた。
「戦いなんてめんどくせー……
 移動するのもめんどくせー……
 だから……」
 だが――ここに来てようやく動きをみせた。ムクリと起き上がり、ビル街を走るティアナ達へと視線を向ける。
 どうやら、彼が起きたのは彼女達の気配を察知したからのようだ。彼女達の姿を注視しつつ、つぶやく。
「めんどくせぇから……」
 

「アイツら殺して、終わっとくか」
 

 告げると同時――かざした右手に“力”を集中させた。発現した瘴魔力が一点に押し固められ、高密度の光弾を作り出し――
「――――――っ!?」
 気づいた。後方に跳躍し――頭上から飛来した光弾が、さっきまでモビィ・ディックのいた場所を撃ち砕く。
 そして――
「残念ながら、貴様のその攻撃、許すワケにはいかないんだ」
 言って、降下してきたのはザラックコンボイだ。
「“七人の罪人クリミナル・セブン”のひとりと見受ける。
 悪いが、討たせてもらうぞ」
「……あー……めんどくせぇ……
 アイツら、殺し損ねちまったじゃねぇか」
 告げるザラックコンボイだったが、モビィ・ディックにとってはティアナやジェットガンナー、ウェンディを仕留められなかった方が問題だったようだ。ため息まじりに白鯨の描かれたデバイスカードを取り出し、

「好きにしろ――“怠惰スロウス”」

 告げたその瞬間、デバイスカードが光を放つ――それが収まった後には、モビィ・ディックの背後に巨大な白鯨型の機動兵器がその姿を現していた。
 と――その表面が割れた。展開される装甲の内側から両腕を出現させ、左右二つに分かれた尾びれが余分な部分をたたんで両足に変形。頭部が胸側に倒れ込むと新たな頭部が出現。人型のロボットモードへとトランスフォームする。
「トランスデバイス……!?
 ジェットガンナー達のように、トランステクターを改造したものではなさそうだが……」
 つぶやき、それでも油断なく身がまえるザラックコンボイの前で、モビィ・ディックの身体が誘導フィールドによって“怠惰スロウス”の内部へと吸い込まれていく。
 そして、ライドスペースに入るとベッドのような幅のあるシートの上で横になり、ザラックコンボイに告げる。
「さっきの二人も行っちまったし……もう、追いかけるのもめんどくせぇ……
 めんどくせぇから……代わりに、てめぇを殺してやるよ」
「やれるものならば――やってみろ!」
 告げるモビィ・ディックに答え――ザラックコンボイの放った、雷撃を伴った魔力弾が“怠惰スロウス”へと襲いかかる!
 

〈八神部隊長!〉
 一方、上空の防衛ライン――指揮を執っていたはやての元に、突入部隊のひとつから報告が入っていた。
〈奥へ進めそうな突入口が見つかりました!
 突入隊20名が先行――位置、送ります!〉
 その言葉と同時、はやてのもとに問題の“突入口”の位置データが送られてくる――はやてはそれを他のメンバーのもとにも送信し、
「みんな! 突入口の位置は今送ったデータの通りや!
 行ける子――いる!?」
〈あたし達が行けます!〉
 そう答えたのは――

〈スバルか……ってことは、マスターコンボイやこなたも一緒やね?〉
「はい!
 ちょうど、あたし達も突入できるところを探してたんです!」
「おかげで、見つかったポイントからも比較的近い――すぐに向かえるよ!」
 自分達を先に進ませまいと、ガジェットが、エアドールが次々に襲いかかってくる――それを片っ端から叩き落としながら、カイザーマスターコンボイの“中”からスバルとこなたがはやてに答える。
 と――
〈あたしらも行く!〉
〈お前らだけじゃ不安だしな〉
「ヴィータ副隊長?
 ビクトリーレオ二尉?」
〈オレ達も近くにいる――十分に突入は可能だ〉
 通信に乱入してきたのはヴィータとビクトリーレオだ。スバルに答えるビクトリーレオの言葉にこなたが顔を上げると、左方で戦っていた彼女達の姿を発見した。向こうはすでにこちらを捕捉していたらしく、こちらが見つけたのに気づいたか、ヴィータが自信に満ちた笑みと共にサムズアップしてみせる。
「よし……それなら話は決まりだ!
 さっさと突入して、このくだらん戦いを終わらせるぞ!」
『<<おぅっ!>>』
 方針は決まった。あとは実行あるのみだ――気合を入れ直すマスターコンボイの言葉に、スバル達は力強くうなずいた。
 

 轟音と共に金属の分厚い壁が爆発、粉砕される――突入部隊が突破してくれた外装のさらに内側で行く手を阻んでいた隔壁を突破し、スバル達カイザーマスターコンボイ、そしてビクトリーレオとヴィータは“ゆりかご”の内部へと突入した。
「こちらスターズ2!
 スターズ3、α、β……カイザー1、だっけ? そいつらと突入!」
「いい加減私のコールサイン覚えてくれない!? 最終戦なんだからさ!」
 外で指揮を執っているはやてに連絡するヴィータの言葉にこなたが思わず言い返し――直後、彼女達の浮力に乱れが生じた。
 これは――
「AMF……!?」
「内部空間全部に……!?」
 AMFによってヴィータの飛行魔法やカイザーマスターコンボイ、ビクトリーレオのスパークエネルギー推進に問題が生じたのだ――すぐに再調整を施し、姿勢を安定させて改めて艦内に降り立つ。
「見たところただの廊下だというのに、ずいぶんと広いな……」
「トランステクターも運用してたんだろう? 内部で動かすことも前提にしていたんだろうよ」
 そこは自分達が大立ち回りを演じたところで問題はなさそうなほどに広い空間だった。つぶやくマスターコンボイに答え、ビクトリーレオはマグナから受け取った“ゆりかご”の内部データを呼び出した。現在位置を手早く割り出し、主要ブロックの位置と比較する。
「あたしらの目的は二つ。駆動炉の停止、もしくは破壊と……」
「ヴィヴィオの保護……ですね?
 たぶん、ヴィヴィオがいるのは玉座の間……」
「私達がいるのは……艦の中央部だね。
 玉座の間が艦首付近で、駆動炉は……後部推進部のすぐそば!? 完全に正反対だよ!」
「しかもどちらも到達ルートは二つ……さらに選択肢倍か」
 ヴィータ、スバル、こなた、ビクトリーレオ――順につぶやく周囲の面々のやり取りを、マスターコンボイは黙って聞いていたが、
「…………リンクアウト」
『ぅわぁっ!?』
 突然カイザーマスターコンボイの合体を解除。突然のことに驚くスバルやこなたにかまわず、提案する。
「分散するぞ。
 一点突破力に優れるオレとスバル、泉こなたが二つのルートそれぞれから玉座の間を目指す。
 ヴィータ・ハラオウンとビクトリーレオは駆動炉を破壊しろ。直接の打撃破壊力に優れるお前達は駆動炉の破壊に回した方が適任だ。
 それから……お前達も別行動を取れ。二手に分かれて駆動炉を目指すんだ」
「ちょっと待てよ。
 駆動炉と玉座の間であたしらが別れるのは賛成だ。かたっぽ止めただけで止められるかもしれねぇし、両方止めなきゃ止まらねぇかもしれねぇ……両方止めなきゃならねぇ以上、そこは絶対だ。
 けど、そこからさらに二手に別れる必要はあるのかよ? ヘタすれば各個撃破される危険も……」
「その心配はない。
 全員が全員、それだけの実力を有している」
 反論しかけたヴィータだったが、マスターコンボイは迷わずそう断言してみせた。
「むしろ、敵が迎撃戦力を一方の通路にだけ集中させることの方が恐い。
 広いと言っても通路だ。展開できる戦力規模は限られてくるが――そこに戦力を集中されては、広く展開できない分防衛ラインは奥へ奥へ、さらに分厚くなることになる」
「そっか……
 空間が限られてるおかげで物量に押しつぶされる危険性は少ないけど……」
「逆に突破が大変になる、か……
 確かにそう考えると、マスターコンボイの言うとおり二手に分かれた方が得策か」
 マスターコンボイの説明にスバルやビクトリーレオも納得――それを受け、ヴィータはうなずき、一同に告げた。
「よし、マスターコンボイの案でいこう。
 あたしとビクトリーレオが駆動炉へ向かう。玉座の間にはお前らが向かえ」
『了解!』
 スバル達3人がうなずくのを見届け、ヴィータはビクトリーレオと共に駆動炉を目指して飛び立つ――それを見送り、スバル達もまた玉座の間を目指して地を蹴った。
 

「…………ガリュー」
 静かにルーテシアが告げると同時、ガリューが一直線に飛翔する――アイゼンアンカーにゴッドオンしたエリオがストラーダ(inアンカーロッド)でカウンターを狙うが、あっさりとかいくぐってその腹に蹴りを叩き込む。
「エリオくん!」
 その光景にキャロが思わず声を上げるが、そんな彼女やフリードの元には地雷王の群れが迫り――
「キャロちゃん達、危ない!」
 そこへゆたかからの援護射撃。マックスフリゲートから放たれた砲撃が、地雷王達を弾き飛ばし、追い払っていく。
「ルーちゃん、やめて!」
「……シザースタッグ、クロムビートル」
 一方、ルーテシアに向けて呼びかけるつかさだが、ルーテシアはかまわない。2機の昆虫型トランステクターをつかさに向けて突撃させ――
「柊先輩!」
「何やってんだってヴァ!」
 ひよりとみさおの叫びが交錯、飛び込んできたグラップライナーとテンカイオーがクロムビートル達の体当たりを受け止め、弾き返す。
「つかさ! しっかりしなさい!
 このままじゃやられるだけよ!」
「で、でも……!」
 ひより達に守られたつかさに駆け寄り、叱咤するかがみだが、つかさは力なくうつむくばかりだ。
 以前と同じだ。ルーテシアと戦うのをためらい、及び腰になってしまっている――だが、ただ足止めが目的だった前回と違い、今回のルーテシアはスカリエッティ側の戦闘機人、すなわちクアットロに操られ、本気でこちらを叩きに来ているのだ。
 こちらも本気で相手をしなければそれこそつぶされる――もう一度つかさを叱咤しようとするかがみだったが、
「かがみさん、つかささん――来ます!」
 みゆきの言葉と同時――ルーテシアはガリューとクロムビートル、シザースタッグを自分の目の前に集結させる。
 その意味に気づき、かがみが思わず声を上げる。
「まさか――合体する気!?」
 

「スタッグセイバー」
 ルーテシアの指示により、シザースタッグが主なきままロボットモード、スタッグセイバーへとトランスフォーム――そして、そこからさらに変形を始める。
 両腕を後方に折りたたみ、全体が上下反転。腰から下が左右に分かれると両側に開かれ、足の裏から新たに拳が出現。反転したことで下方に配置されていた頭部が背中を通っていたフレームに導かれて新たにあるべき場所に移動。左右に分かれた腰部を両肩、両足を両腕に変形させた、より大型な上半身が完成する。
「クロムホーン」
 続けて、同様にロボットモードとなったクロムホーンも変形。両腕を後方にたたむと頭部からビーストモードであるカブトムシをモチーフにしていた一本角が分離、頭部自体はボディ内部に収納される。
 そして下半身、腰が左右に分割され、腰部を大腿部として両足を延長した新たな下半身となる。
 変形を完了した2体の昆虫型ビークルが交錯し――
「リンク、アップ」
 ルーテシアの言葉を合図に、上半身と下半身が合体、ひとつとなる。
「ミッション、オブジェクトコントロール――ガリュー・in・ビートルシファー」
 そして、ルーテシアのシュトーレ・ケネゲンによってガリューは合体した巨大ビークルへと一体化。スタッグセイバーの頭部の中央にクロムホーンから分離していた角が合体し、3本角となり、その瞳に輝きが生まれる。
 そして、ルーテシアは静かにその名を宣言する。
「重甲合体、ビートルシファー」
 

「そんな!?」
「合体の……別バージョン!?」
 以前のビートルキングとは違う、上下を入れ替えた形での別パターンの合体――こちらに向けて一歩を踏み出すビートルシファーの姿に、みなみやキャロは思わず驚きの声を上げた。
「上下入れ替え合体なんて、あたしらのマネしやがって!」
《み、みさちゃん!》
 その一方で、収まらないのが同系統の合体パターンを持つ機体を操るみさおだ。あやのの制止も聞かず、ビートルシファーに向けて殴りかかり――彼女の視界からその姿が消えた。
「な…………っ!?」
 自分は確かにビートルシファーを視界に捉えていた。それなのに――思わずたたらを踏みながらも、みさおは相手の姿を探し――
「《ぅわぁっ!?》」
 そのビートルシファーの姿は背後に。二人が気づくよりも早く、その背中を蹴り飛ばす。
「な、何スか、今の!?」
「速い――――っ!?」
 驚くひよりと同じ機体に宿りながら、みなみは懸命にビートルシファーの姿を探す――が、目で追いかけるのがやっとというスピードだ。真正面からグラップライナーの目の前に飛び込み、こちらが殴り返そうとするよりも早くグラップライナーを殴り飛ばす!
 

「デアボリック――エミッション!」
 咆哮と同時、“力”を開放――スカイクェイクの放出した“力”は一瞬にして効果範囲内を満たし、その中にいたガジェットやドール部隊を叩き落とす。
「こちらスカイクェイク。
 “ゆりかご”南方のガジェット、ドールの約半数を撃墜。
 このまま戦闘を続行する」
〈頼みます!〉
 こちらの報告の通信に答えるのは別の場所で戦うはやてだ。通信を終え、スカイクェイクは周囲を見回し――
「………………む?」
 その光景が視界の隅に引っかかった。動きを止め、眉をひそめる。
 かがみ達とルーテシアの戦いの様子だ――上空に逃れたテンカイオーを、ビートルシファーが素早い動きで翻弄している。
 次いで、地上のグラップライナーが、アイゼンアンカーが、シャープエッジが次々に弾き飛ばされる――と、そこでスカイクェイクは気づいた。
(トリプルライナーとワイルドライナーがいない……つかさか?)
 確認できる大型戦力が明らかに足りない――ワイルドライナーの姿がないことから原因となり得る人物を絞り込み、スカイクェイクは思わず眉をひそめた。
「また戦いをためらっているのか、アイツは……!
 アルテミス!」
《はいっ!》
 スカイクェイクに答え、転送魔法で姿を現すのは、市街地で救護活動にあたっていたアルテミスだ。彼女を伴い、スカイクェイクは教え子達の苦戦する戦場を目指して地を蹴った。
 

「ぐぅ…………っ!」
 なんとか受け止めるものの、勢いに負けて大きく押し戻される――完全にパワー負けし、ザラックコンボイはたまらず後退、なんとか転倒は免れ、目の前の相手をにらみつけた。
 モビィ・ディックの乗り込んだトランスデバイス、“怠惰スロウス”――ザラックコンボイ以上の体躯とパワーを誇るその力を前に、さすがのザラックコンボイも苦戦を強いられていた。
「この……バカ力が!」
 舌打ちまじりに間合いを詰め、ブリューナクを振るうが、
「あー……めんどくせぇなぁ……
 もう、かわすのもめんどくせぇよ」
 モビィ・ディックの言葉の通り、“怠惰スロウス”は回避もせずにまともにくらう――が、それだけだ。重装甲とそれに伴う重量が、ザラックコンボイの一撃も難なく受け止めてしまう。
 そして――
「殴るのも、めんどくせぇ……消えろ」
 “怠惰スロウス”のライドスペースでモビィ・ディックがつぶやき――直後、“怠惰スロウス”の両肩の装甲が開いた。そこから放たれた瘴魔力砲がザラックコンボイを狙う!
「ちぃっ!」
 とっさにシールドを張って防ぐ――が、ものぐさな主に代わって“怠惰スロウス”は勤勉に過ぎた。強烈な砲撃をたて続けに叩き込み、シールドもろともザラックコンボイを吹っ飛ばす。
「主の怠惰を貫くために、デバイスが全力でその障害を排除する、か……!
 なるほど、“怠惰スロウス”の称号をそういうふうに表すか……!」
 叩きこまれた廃ビルの中で身を起こし、ザラックコンボイは再び路上に出て“怠惰スロウス”と対峙する。
「あー、くそっ、めんどくせぇ……
 もう、殺すのもめんどくせぇ……」
 対し、モビィ・ディックはそんなザラックコンボイに対し何の感慨も抱いてはいなかった。ため息まじりにつぶやき、“怠惰スロウス”の両肩の砲門が再びチャージを開始。さらに周囲にも大量の瘴魔力のスフィアが作り出される。
「“殺す”のがめんどうだから“消す”か……短絡が過ぎるぞ!」
 最大火力で吹き飛ばすつもりだ――すさまじい“力”が相手の周囲で渦巻くのを感じつつ、舌打ちまじりにつぶやいたザラックコンボイがブリューナクをかまえる。
「わかってるなら話が早い。
 めんどくせぇから――とっとと消えろや!」
 そんなザラックコンボイに向け、モビィ・ディックが閃光を放ち――!
 

「くぅ…………っ!」
「んぐ……っ!」
 ガード越しに強烈な衝撃が叩きつけられ、ガードが跳ね上げられる――ひよりとみなみの宿るグラップライナーの両腕を真上に弾き、ガリューの宿るビートルシファーが追撃の拳を放つが、
「フォースチップ、イグニッション!
 ハウリング、パルサー!」

 とっさにかがみが援護射撃。周囲に破壊の嵐を巻き起こしながら飛翔するエネルギー弾をかわし、ガリューはひより達から距離をとって体勢を立て直す。
 本来ならばそのまま間髪入れずに追撃、ガリューに反撃のスキを与えず、数に任せて圧倒する――というのが理想なのだが、
「田村さん、かがみさん、下がってください!
 地雷王の群れが来ます!」
 そう。数で押されているのはむしろ自分達の方――前線のかがみ達に告げ、みゆきはロードキングの持ち味のひとつである精密射撃で彼女らを援護する。
「あー、もうっ、じれったい!
 もっとバーンッ! って攻められないのかよ!?」
《ムリだよ。
 ヘタに攻めても、ルーテシアちゃんの召喚虫に全方位から攻撃されるだけだし……》
 このままではジリ貧だ。焦れて地団太を踏むみさおに答えると、あやのはテンカイオーのセンサーを“そちら”に向けた。
 先ほどからアナライズフィールドで身を守るばかりで少しも攻勢に回らないつかさだ。こういう時は彼女の機体、レインジャーの広域砲爆撃があるときわめて助かるのだが――
《仕方ないよ。
 私だって……ううん、きっと他のみんなも……ちょっと、迷ってる。
 柊ちゃんは特に、ヴェルちゃんのこととかもあったし……召喚師同士、私達の中じゃ一番ルーテシアちゃんと距離が近かったんだもの》
「そりゃ、そうだけどさぁ……今はそんなの、言ってる場合じゃないってヴァ!」
 あやのの言い分もわからないでもないが、みさおの言う通り今はそんなことを言っている場合ではない。どちらも捨てられないことが、彼女達の迷いをさらに深いものにしていた。
「これじゃキリがない……!
 キャロちゃん! フリードで上空から狙えない!?」
「やってみます!
 フリード!」
 とにかく、状況を動かさなければ始まらない――かがみの言葉にうなずき、キャロは上空で地雷王と交戦していたフリードに呼びかける。
 生身であればフリードに騎乗するところだが、シャープエッジにゴッドオンしている今の自分の体格では難しい。飛来したフリードの右足につかまり、キャロは大空に舞い上がる。
 もっとも、そんな彼女を見逃すほど相手も甘くはない。キャロ達を迎撃すべく、ガリューが地を蹴り――
「させない!」
「何面倒くさいことしてるのさ!?」
 それを阻んだのはエリオとアイゼンアンカーだ。合体戦士であるビートルシファーを相手にパワー負けし、弾き飛ばされるものの、キャロを狙ったその一撃を手にしたアンカーロッドでしっかりとそらしてくれる。
 すでにキャロが虫達に守られたルーテシアの位置を捕捉。フリードもブラストの狙いをつけている。いける――そう全員が確信したのもムリのない話だったが、
「――――――っ!
 キャロちゃん!」
 だからこそ、それが油断につながった。気づいたみゆきが声を上げると同時――全員の予想を上回る速度で体勢を態直し、再度の強襲をしかけたガリューのビートルシファーが、キャロ達の背後へと回り込む!
 その腕に、ガリューの腕のクローを模したと思われるエネルギークローが展開される。戦慄するキャロに向けて一撃を繰り出し――
 

「フォースチップ、イグニッション!」
 

 飛来したフォースチップが目の前を駆け抜け、ガリューは突進の勢いを鈍らされる――そのスキにキャロが離脱したのを見て、フォースチップを呼び出したと思われる人物へと視線を向け――
「デス、シザース!」
 すでにその“人物”は目の前にいた。独自の飛行魔法“シュウェーベンフリューゲル”で飛翔し、デスシザースをブレードモードでかまえたスカイクェイクがガリューのビートルシファーに一撃、ブッ飛ばす!
「スカイクェイクさん!」
「まったく……予想通りの展開だな」
 声を上げるエリオにかまわず、スカイクェイクはゆっくりと降下。アナライズフィールドを展開したままのつかさの前に降り立った。
「スカイクェイクさん……
 私……!」
 自分に気づき、顔を上げるつかさに対しスカイクェイクは深く息をつき――
「………………オレも、ヤツと同じだ」
「え…………?」
 言いながらスカイクェイクが見つめたのはルーテシアだ――思わずつかさが声を上げるが、かまわず続ける。
「いや……オレはむしろヤツよりひどいか。
 何しろ、自分のプライドにこり固まるあまりに道を踏み誤ったのだからな……」
 それは10年前、“GBH戦役”の時の自分の話だった。どこか自嘲気味にそうつぶやき――「だが」とスカイクェイクは続けた。
「だが、ビッグコンボイが……八神はやてが……みんながオレを止めてくれた。
 柾木が、再び立ち上がる心をオレにくれた。
 道を踏み外したオレを……アイツらが救ってくれたんだ」
 言って、スカイクェイクはつかさへと視線を戻し、
「友を傷つけたくない――貴様のその優しさは確かに美徳だ。
 しかし、美徳も過ぎれば悪徳となる。
 ただ仲良くするだけが友誼ではない――時には拳を振り上げ、道を外れた友を元の道に叩き返すのも、友としての役割だ」
「………………」
「ルーテシア・アルピーノと“戦う”ために力を振るう必要はない。
 ただ……あの娘を“救う”ために、その力を振るえばいい」
 再びうつむくつかさに対し、スカイクェイクは淡々とそう告げて――
「そうだよ――つかささん!」
 力強く声を上げ、エリオはアンカーロッドを振るい、襲いかかってきた地雷王を打ち据え、後退させる。
「ルーちゃん達を助けたい――想いはわたし達も一緒だよ!」
 そしてキャロも――エリオの背後を狙ったガリューの一撃をシャープエッジのテールブレードで弾き、エリオと背中を守り合う。
 そして――
「大丈夫よ、つかさ」
 自分の姉も想いは同じだった。つかさの肩を叩き、少しばかり照れくさそうに告げる。
「アンタはひとりじゃない。あたしや、みんなが一緒に戦ってあげられる。
 ひとりじゃどうにもならないことも、みんなと一緒なら、きっと乗り越えられる」
「お姉ちゃん……」
「助けるわよ……あの子を」
「………………うん!」
 力強く告げる姉の言葉に、ようやくつかさに元気が戻ってきた。彼女のテンションの上昇に伴い、ゴッドオンしているレインジャーのカメラアイが一際強く輝きを放つ。
「私はひとりじゃない……おねえちゃんや、キャロちゃんや……みんながいる。
 みんなで、ルーちゃんを助けるんだ!」
 完全に復活し、つかさが大地をしっかりと踏みしめて立ち上がる――そんな彼女の周囲にミッド式の魔法陣が展開され、
「竜魂召喚!
 出てきて――ヴェル!」

「オォォォォォッ!」
 召喚するのは自らの相棒――つかさの戦意喪失によって暴れられずにいたヴェルはレインジャーのライドスペースでようやく出番の時を迎えていた。つかさの“竜魂召喚”によって、戦闘形態ワイルドファイアへとその姿を変える。
 そして、つかさはかがみやみゆき、ひより達のグラップライナーを見渡し、告げる。
「お姉ちゃん、ゆきちゃん、田村さん、岩崎さん……合体するよ!」
 

『トリプルライナー!』
 かがみ、つかさ、みゆき――
『グラップライナー』
 そして、ひよりとみなみ――それぞれの咆哮が響き渡り、トリプルライナーとグラップライナーは同時に、背中合わせに跳躍し、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
 宣言と同時に、グラップライナーがいくつものパーツに分離した。そのままトリプルライナーの周囲に配置され、合体を開始する。
 まず、グラップライナーの両足が変形――大腿部を丸ごと、まるで関節部ごと掘り返すかのように引き出すとそれを後方へと折りたたみ、関節部がなくなったことで空洞となった両足の内部空間に、トリプルライナーの両足がまるで靴を履くかのように差し込まれ、そこへグラップライナーの両肩、ニトロライナーとブレイクライナーの先頭車両部分が合体してつま先となり、より巨大な両足が完成する。
 続けて、トリプルライナーの右手に装備されたレインジャーの重火器類、左手に装備されたロードキングのレドームシールドが分離。スッキリした両腕をカバーするように左右に分かれたグラップライナーのボディが合体する。
 内部から拳がせり出し、より巨大になった両腕に分離していた重火器とレドームシールドが再び合体、両腕の合体が完了する。
 ボディにはニトロライナー、ブレイクライナーから分離した胸飾りが胸部左右に合体。最後に両肩にはブレイクアームのカーボンフィストが砲身が短めのキャノン砲となって合体する。
 合体の工程をすべて完了し、各システムが再起動。カメラアイの輝きが蘇り、かがみ達が高らかに名乗りを上げる。
『大! 連結合体! ジェネラル、ライナァァァァァッ!』

「スーパーモード、スタンバイ!
 トランス、フォーム!」
「オォォォォォンッ!」
 ミラーを介して届けられたつかさからの指示に、ワイルドファイアが咆哮する――タンクライナーを牽引し、力強く大地を疾走する。
 そこから、連結を解くと同時にワイルドファイアが頭上高く跳躍。同時に、タンクライナーも土台と砲台が分離する。
 タンクライナーの土台はさらに左右に分割。四肢をたたんだワイルドファイアの後方に合体、人型の両足となる。
 先に分離した砲台は折りたたまれたワイルドファイアの両前足をカバーするように合体。両腕となるとワイルドファイアの頭部が左右に分割。断面がその両腕をカバーするように反転しながら倒れ込み、両肩のアーマーとなる。
 最後に、ボディ内部に収納されていたロボットモードの頭部がせり上がり、ロボット、ビースト両モード共通の胸にはビーストモードの姿を描いたエンブレムが浮かび上がる。
 そして、新たな姿となったワイルドファイアが大地に降り立つ――人語を話せない彼に代わり、つかさが高らかに名乗りを上げる。
「連結合体! ワイルドライナー!」
 

「ルーちゃん……今助けてあげるから!」
 宣言しながら、ジェネラルライナーはルーテシアに、ガリュー以下召喚虫軍団に向けて一歩を踏み出す――となりに並び立つワイルドライナーも同じく。
 対し、ガリュー達も黙って見ているワケがない。ガリューに操られたビートルシファーが一気に踏み込み、ジェネラルライナーに一撃を叩き込む。
 そう、“叩き込む”――その巨体ゆえに回避もままならず、ジェネラルライナーはその一撃をガードもできずにまともにくらう――が、
「それが……どうしたぁっ!」
 かわせないことなど百も承知。ジェネラルライナーは“かわせないこと”を前提とした重装甲タイプの合体戦士だ。ガリューの一撃をまともにくらいながらも、かがみの操作でその腕をつかみ、投げ飛ばす!
 ガリューをいとも簡単に一蹴したジェネラルライナーに向け、今度は地雷王の群れが殺到するが、
「ヴェル、お願い!」
 つかさの指示でワイルドライナーが動いた。両腕が変形したワイルドランチャーで弾幕を張り、地雷王達を寄せつけない。
 そして――
「ゴメンね、ガリュー……
 でも、ルーちゃんを止めなくちゃいけないの!」
 謝りながらビートルシファーを捕まえたつかさが、そのまま思い切り、再びビートルシファーを投げ飛ばす!
「ルーちゃん!」
 最大の障害であったビートルシファーを背後に追いやり、つかさは虫達に守られているルーテシアへと駆け寄り――
 

「………………ダメ…………!」
 

 静かに、力強くルーテシアがつぶやいた。
「負けられない……
 負けちゃダメ……!」
「る、ルー、ちゃん……!?」
 どう見ても尋常な様子には見えない――戸惑うつかさすら、ルーテシアの目に入っているとは思えない。
「私は……負けられない……!
 私が負けたら……母さんが……!」
「母、さん……!?」
 ルーテシアの言葉を聞きつけたかがみが思わず眉をひそめ――気づいた。
 あるではないか。ルーテシアに関して、“母親”がからんだ重要な要素が。
「そうか……メガーヌさん!
 ルーテシアのお母さんで、今はスカリエッティのところに……ルーテシアを操る上で、これ以上のカードはない!」
「でも、ルーテシアちゃんに脅迫されてるような感じはないっスよ?」
「おそらく……暗示か何かを受けているんじゃないでしょうか?
 『私達を倒さなければ母親が危ない』といったようなことを思い込まされているとしたら、脅迫を受けるまでもなく……」
「私達と戦おうとするでしょうね……!
 まったく、余計なことをしてくれるわ……」
 いずれにせよ、ルーテシアを一刻も早く確保することが先決だ。ひよりに答えたみなみの言葉に答え、かがみはルーテシアに向けて手を伸ばし――
「…………ダメ……
 ……負けられない……
 母さんが……!」
 

「……ぃ…………イヤァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
 

 ルーテシアの感情の高ぶりがピークに達した。絶叫と共に、ルーテシアの身体から膨大な魔力がほとばしる!

 

「………………何……?」
 目の前の光景に、モビィ・ディックは眉をひそめた。
 閃光が薙ぎ払ったその先に、ザラックコンボイの姿がない。
 そう。“たったひとつの装甲のカケラすらも”。
「どこへ消えた……!?
 めんどくせぇんだよ……さっさと出てこい!」
 まさか逃げたということはあるまい。ザラックコンボイの姿を探し、モビィ・ディックが声を荒らげ――
「おいおい、どうした? なまけ者。
 ずいぶん必死にオレを探すじゃないか……“怠惰”の名が泣くぞ」
 そう答えるザラックコンボイはモビィ・ディックの、彼の乗る“怠惰スロウス”の頭上――自分よりも一回りも巨大な、漆黒のサソリ型の機動兵器の背の上から見下ろしてくる。
 ザラックコンボイの専用パワードデバイス“ブラックスティンガー”である。
「せっかくこちらが、貴様のそのなまけぶりに敬意を払い、見習ってやろうというのに、当の貴様の怠惰がその程度ではな……」
「見習う、だと……!?」
「あぁ。
 貴様を見習って……」
 うめくモビィ・ディックに答え、ザラックコンボイはあっさりと告げた。
「圧倒的な力をもって、楽に叩きつぶさせてもらおうと思ってな」
 

「ザラックコンボイ、スーパーモード!
 パワード、クロス!」

 ザラックコンボイが咆哮すると同時、ブラックスティンガーは上方へと飛翔、変形を開始する。
 背部ユニットが起き上がり、後方へと展開。左右二つに分割されて両足となり、次いで両足のハサミがスライド。腕の甲に移動して篭手となり、ハサミのなくなった腕は内部から拳がせり出してくる。
 人型のロボットモードへの変形が完了、ブラックスティンガーの胸部が展開される――その内部にザラックコンボイが飛び込むと再び装甲を閉じ、彼の身体をしっかりと保護する。
 唯一露出した頭部にもヘッドギアが装着され、より巨大な姿となったザラックコンボイが名乗りを上げる。
「魔将大帝――ブラックザラック!」
 

「アレが……ミッドチルダのリーダー、ザラックコンボイの本気の姿……!」
「そういうことだ」
 合体を完了し、大地に降り立つ――うめくモビィ・ディックの“怠惰スロウス”と対峙し、ザラックコンボイ改めブラックザラックはあっさりとうなずいた。
「悪いが、この身体になってはこちらとしても加減が利かん。
 挑んでくるのなら相応の覚悟というものを――」
「ゴチャゴチャとめんどくせぇ!
 つぶせ! “怠惰スロウス”!」
 淡々と告げるブラックザラックの口上を無視し、モビィ・ディックが“怠惰スロウス”をけしかける――同時に放たれた砲撃がブラックザラック“のいた場所を”薙ぎ払い、
「こっちだ」
 “怠惰スロウス”の肩に“背後から”ブリューナクの刃をつきつけ、ブラックザラックは淡々と告げた。
「言ったはずだぞ。『加減が利かん』と。
 それはパワーだけではない。スピードもまたしかり」
「なめてんじゃねぇよ――めんどくせぇっ!」
 ブラックザラックの言葉にモビィ・ディックが言い返し――両肩の装甲が前方と同様に展開された。前方と同様に装備されていた魔力砲が火を吹くが、ブラックザラックは至近距離から放たれたその砲撃も難なくかわす。
「驚いたな……
 その魔力砲、後ろ側にもついていたのか」
「この程度で驚いてんじゃねぇよ……
 めんどくせぇんだ、とっとと消えろぉっ!」
 距離を取って着地、感心してつぶやくザラックコンボイに対し、モビィ・ディックが“怠惰スロウス”のすべての火器を斉射。放たれた閃光の雨がザラックコンボイへと降り注ぐが、
「その程度の弾幕で、この姿となったオレを墜とせるとでも思っているのか?」
 ブラックザラックはまったく動じない。周囲に張り巡らせた多数のシールドを巧みに操って“怠惰スロウス”の砲撃を弾きつつ、ブリューナクのカートリッジをロードする。
 雷神の槍の名を受け継いだその名に相応しく、ブリューナクが白銀の雷光をまとう中、ブラックザラックは力強く地を蹴った。一気に“怠惰スロウス”との距離を詰め、
「雷光――」

砕斬さいざん!」

 渾身の斬撃と共に、生み出した雷撃を“怠惰スロウス”へと叩き込む!
「が………………っ!?」
 必殺の一撃は“怠惰スロウス”を一撃で両断、さらに雷光を叩きつけた衝撃がその残骸を粉々に撃ち砕く――デバイスを破壊されたことによる反動ダメージ、さらにブリューナクの雷撃をまともにくらい、モビィ・ディックは機外に投げ出され、大地に叩きつけられる。
「……なるほど。
 楽に勝つのも、これはこれで悪くない」
 勢い余って地面に突き立てられたブリューナクを引き抜いたブラックザラックがつぶやくと、大地に倒れ伏すモビィ・ディックが彼に向けてうめく。
「バカな……!?
 ただ武装しただけで、“怠惰スロウス”の重装甲を一撃で破壊できるくらいのパワーが出せるだと……!?
 てめぇ……一体、何者だ……!?」
 ただ「合体してパワーアップしたから」で済まされる次元の話ではない――自分の戦った相手の秘めた実力に戦慄するモビィ・ディックに対し、ブラックザラックはあっさりと答えた。

「ただの……大帝だ」

 

「IS発動――スローターアームズ!」
「く………………っ!」
 “力”の発動と同時、刃が閃く――とっさに身をひるがえしたイリヤの視線の先で、自分を狙っていた斬撃がエアドールを両断する。
 弧を描き、刃は放った本人のもとへと戻っていく――ブーメランブレードをキャッチし、セッテはイリヤに向けて再度突撃。振り下ろされた刃をとっさにルビーで受け止め、なんとかその場に踏みとどまる。
「どうしました?
 先ほどから防戦一方ですが」
「反撃させてくれないクセに……よく言うよ!」
 たとえどれだけ優勢でも彼女に油断はない――いや、油断するほど感情の幅がない、というべきか。淡々と告げるセッテに言い返し、イリヤは彼女に向けて蹴りを放った。一瞬早くセッテが下がり、両者は改めて対峙する。
「そっちこそ、ゴッドオンしないなんてどういうつもり?
 余裕ってヤツかな? だとしたら失礼しちゃうんだけど」
「ご心配なく。
 戦士として、あなたと対等の条件で戦うためです」
《ぅっわー、何ですか? あの『オレより強いヤツに会いに行く』状態は》
 そして、イリヤの問いにもセッテの答えは淡々としたもので――それに不満げなつぶやきをもらすのはルビーである。
《まったく、泥臭いったたらありませんよ。
 セッテさん……でしたっけ。あなたダメダメですよ》
「ダメ……ですか?」
《えぇ、そうです。
 やはり魔法少女の戦いはもっとキラキラしてハデでなければなりません。具体的には――もがもがっ!?》
「あー、とりあえずルビーの言うことは気にしない方向で」
 聞き返すセッテに気を良くしたか、力説し始めたルビーを黙らせるとイリヤは思考をめぐらせる。
(少なくとも……現状のままじゃ勝ち目は薄いかな。射撃も砲撃も、あの子の速度じゃかわされるだけ……)
 つぶやき、意識を向けるのは懐にしのばせた“切り札”――
(やっぱり夢幻召喚インストールしかない、ってところだけど……どれを使うべきか……
 “Rider”は強力な戦力になる動物とか乗り物がないと意味がないし、“Berserker”を使うのは女の子としていろいろとアウト……
 “Archer”が……“あの子”がいてくれれば……!)
 思わず舌打ちするが、ないものねだりをしてもしょうがない。この状況を、自分は手持ちの札だけで覆さなければならないのだ。
《まったく、どうしてジャマするんですか。
 せっかくこの私が、ド派手な魔力砲で当たり一帯を焦土に変える魔“砲”少女の素晴らしさをあの方に知らしめてあげようとしていたのに》
「いきなり“ホウ”の字でつまずいてるから。
 魔“砲”少女って、それじゃまさになのはだよ」
 そのためにも、まずはこのうるさいステッキを黙らせる方が先決かもしれない――そんなことを考えながら、ルビーの言葉に答えるイリヤだったが、
「………………え?」
 ふと、今のやり取りが脳裏に引っかかった。

『射撃も砲撃も、あの速度じゃかわされるだけ』

『ド派手な魔力砲で当たり一帯を焦土に』

『魔“砲”少女って』

 先の自分の思考やルビーの言葉、そしてそれに対する自分の答え――いくつものキーワードが浮かんでは消えていく。
「…………そうだね。
 この手があったか」
《イリヤさん?》
「大丈夫。
 たまにはいいかなー? とか思っただけだよ――」
 首(?)をかしげるルビーに答え、懐からそのカードを取り出し、
「魔“砲”少女ってヤツも……ね」
 

夢幻召喚インストール!」
 

 宣言と同時、“力”が解放される――巻き起こる魔力の渦に、イリヤの姿が覆い隠されていく。
 そして――同時に周囲にも“力”が走った。上空の空間に円を基本とした幾何学模様と文字の集合体を――魔法陣を大量に描き出していく。
「こ、これは……!?」
 イリヤが“切り札”を切ったのは間違いない――だが、この現象は想定の外だ。周囲を見回し、セッテが声を上げ――
「…………クラスカード――“Caster”。
 それが、この“力”の名前だよ」
 告げて――ファンタジーの中の“魔法使い”を思わせるマント姿となり、魔杖へと姿を変えたルビーを握るイリヤが魔力の渦の向こうから姿を現した。
「それがあなたの“本気”というワケですか……」
「んー、ちょっと違うかな?
 キミに勝つために、一番最適な選択をした――それだけだよ」
「どちらでもかまいません。
 では、続きを」
 答えるイリヤに告げ、セッテが身がまえて――
「あー、えっと……」
 そんな彼女に、イリヤは困った様子で頬をかき、
「そんなやる気になってるところを悪いんだけど……」


「もう、“詰みチェック”だから」


 あっさりとイリヤが告げると同時――上空の魔法陣群から一斉に“力”が放たれた。降り注ぐ魔力の奔流が、瞬く間にセッテを飲み込み、爆炎の嵐を巻き起こす!
「……ぐ…………っ!?
 IS――発動!」
 さすがにこれはかわしきれなかった。とっさに爆炎の中から飛び出し、少しばかり煤けたセッテはイリヤに向けてブーメランブレードをかまえ、
「スロータばっ!?」
 しかし、そんな彼女の一撃が放たれることはなかった――未だ砲撃を続けていた魔法陣群の攻撃が一気にセッテに襲いかかったからだ。顔面に一発もらったのを皮切りに、大量の魔力砲が彼女に向けて降り注ぐ!
 しかも魔法陣群は一発撃てばそれで終わりではない――撃ったそばから再び魔力をチャージ、セッテに向けて解き放つ。
 一撃をもらって姿勢の崩れたところにそんな砲撃の雨を降らされてはかなわない。さすがのセッテも逃げることすらかなわず、炸裂する魔力の渦の中に消えていき――
「考えてみれば、簡単な話だったたんだよね」
 降り注ぎ続ける砲撃の中、イリヤは静かにそう告げた。
「撃っても高速機動でかわされる――だったら、“かわされた先を撃てばいい”
 でも、それをするにもキミの動きは速すぎる。キミよりも速いっていう3番の子と戦わなくて済んで、心底ホッとしてるよ。
 だったらどうすればいいのか――答えは簡単だよ」
 そう告げる中、ようやく爆撃が終了した。もうもうと眼下の地面を覆っていた煙が晴れていき――
「“逃げられるよりも早く、逃げ切れないほどの広範囲をまとめて吹き飛ばせばいい”」
 地面を大きく穿ったクレーターの中央に、意識を失い、ボロボロの戦闘ジャケット姿のセッテが倒れていた。
「そして、一発じゃ倒れられないなら、倒れるまで撃てばいい。
 ごめんね、あっけない幕切れで。そして――」
「――IS――発動!」
 その身柄を確保しようと歩み寄った瞬間、セッテが吼えた。
 気絶していたのは演技だったのだ。ISを発動、高速機動を発揮し、イリヤに向けて襲いかかり――
 

 イリヤの姿が消えた。
 

「な………………!?」
 高速移動などではない。一瞬にして自分の視界からイリヤの姿が消え去り、セッテは思わず驚きの声を上げ――
「言ったでしょう? 『もう詰み』だって」
 そんなセッテの背中に、静かに魔杖が突きつけられた。
「今のは……!?」
「ただの転移魔法だよ。
 もっとも、発動速度も転送可能距離も、はるかに今の魔法のそれを上回ってるけどね――神代かみよの魔術を伝える“Caster”の古代魔術を、知らなかったとはいえ甘く見たのがあなたの敗因よ」
 驚愕するセッテにイリヤが告げて――魔力砲が火を吹いた。至近距離からセッテを吹き飛ばし、近くの廃ビルへと叩き込む!
 砲撃の直撃と爆発の衝撃で、廃ビルが轟音と共に崩壊していく――その光景を前に、イリヤは夢幻召喚インストールを解除した。
 自分の“中”から出てきた“Caster”のカードを手に、ルビーに尋ねる。
「………………やりすぎちゃったかな?」
《そうですか?
 むしろ私的には不満なんですけど。撃ち足りないったらないですよ》
 あっさりと答えるルビーの言葉に、イリヤは思わず苦笑して――
 

 ――――――
 

「――――――っ!?」
 突如巻き起こる巨大な“力”の気配――勝利の余韻も一瞬にして吹き飛ばされ、イリヤは“力”の発生した方向へと視線を向けた。
 この力は――
「間違いない……!
 この“力”……ルーテシアだ……!
 いったい、あの子の身に何が……!?」
 

「な、何…………!?」
「ルー、ちゃん……!?」
 追い詰められ、ルーテシアの感情が爆発――同時に巻き起こった魔力の奔流に、エリオやキャロが思わず声を上げた。
「ルーちゃん!」
「バカ! 一旦下がるわよ!」
 一方で、あわてて駆け寄ろうとしたところを姉に止められるのはつかさだ。かがみの操作で、ジェネラルライナーが後退し――ルーテシアが絶叫するようにその名を叫んだのは、まさにその瞬間の出来事だった。
 

「白天王ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 

 その瞬間、上空に巨大な召喚魔法陣が展開された。直後、巨大な何かがルーテシアの背後に落下――いや、“着地する”。
 舞い上がる土煙の中、それはゆっくりと立ち上がり――真っ白な生体装甲に包まれた、巨大な召喚虫が姿を現した。
「な、何でござるか、アレは!?」
「あれが、ルーちゃんの……究極召喚……!」
 うめくシャープエッジの言葉にキャロが答えると、白い巨大召喚虫“白天王”はこちらに向けてゆっくりと一歩を踏み出す。
「く、くるっスよ!」
「わかってるわよ!
 いくわよ――みんな!」
 あわてるひよりに答え、かがみが一同を鼓舞する――ジェネラルライナーが地を蹴り、白天王へと殴りかかるが、
「――――そんなっ!?」
 その拳はあっさりと止められた。驚愕しながらもかがみは素早く後退し、
「それなら――これでどう!?」
 両肩のカーボンキャノンで砲撃――しかし、これも白天王の強靭な生体装甲によって弾かれてしまう。
 そして、白天王が反撃に出た。地を蹴り、一気にジェネラルライナーに肉迫。強烈な右拳がジェネラルライナーを一撃で殴り飛ばす!
《柊ちゃん!?》
「アイツ……なんてパワーだよ!?」
 一撃でジェネラルライナーを弾き飛ばすとは――驚き、あやのやみさおが声を上げると、
「…………大丈夫!」
 答えるのはつかさの声だ――同時、ジェネラルライナーが再起動。その場に起き上がって再び白天王と対峙する。
「負けられないのは私達だって同じだもん……
 そうでしょ!? キャロちゃん!」
「はい!」
 呼びかけるつかさの言葉に、キャロはすぐにその意図に思い至る――シャープエッジにゴッドオンしたまま、ジェネラルライナーの前に降り立つ。
「一緒に戦いましょう、つかささん!
 同じ召喚師として……わたしもルーちゃんを助けたいです!」
 力強くそう告げて――キャロの足元に召喚の魔法陣が展開された。一際強く輝きを放ち始める中、キャロが呪文を詠唱する。

――

 
天地貫く業火の咆哮
遥けき大地の永遠とわの護り手
我が元に来よ、黒き炎の大地の守護者

「竜騎招来、天地轟鳴!
 来よ、ヴォルテール!」

 キャロが魔法を発動、足元の魔法陣がさらに大きく広がる――そして、その中から現れたのは、かつて六課隊舎攻防戦で姿を見せたキャロのもう一騎の使役竜、真竜ヴォルテールである。
「オォォォォォォォォォォッ!」
 天高く咆哮し、ヴォルテールが目の前の目標目がけて地を蹴る――白天王もそれに応じ、両者はガッチリと組み合い、力比べの体勢となる。
「つかささん!」
「うん!
 でも、ちょっと待って!」
 攻撃をうながすキャロに断りを入れると、つかさはワイルドライナーを、そしてみさお達のテンカイオーを順に見渡し、
「ヴェル、日下部さん、峰岸さん……
 お願い、私達に力を貸して!」
「え? 何だよ、今さら?
 あたしら、とっくに協力して戦って――」
《ち、ちょっと待って!》
 首をかしげ、聞き返すみさおだったが、彼女よりも早くあやのがつかさの言いたいことに気づいていた。
「まさか、柊ちゃん……」

「私達と、ゴッドリンクを!?」

「ちょっと、つかさ、本気!?」
「ノーマルゴッドマスターとハイパーゴッドマスターとのゴッドリンクなんて……できるんですか?」
「わかんない……
 けど、ジェネラルライナーじゃ、たぶんルーちゃんの白天王には勝てない!
 あの子に勝つには、私達が……ライナーズ全員が力を合わせなきゃ!」
 驚くかがみや尋ねるみゆきに答え、つかさが自分自身に言い聞かせるようにそう告げて――
「あたしは……試してみるべきだと思うっス」
 そう答えたのはひよりだった。
「できるかどうかはともかく……やらなきゃ届かないなら、やるしかないっスよ!」
「私も、ひよりの言う通りだと思います」
「あぁ、もう、アンタ達は……」
 年下組がすっかりやる気だ。これで先輩である自分達が及び腰では格好がつかないではないか――ひよりや、同意するみなみの言葉にため息をつき、かがみは深く息をつき、
「…………仕方ない。やるわよ!
 ただし、合体できなくたって怒らないでよ!」
 

『ジェネラルライナー!』
 かがみ、みゆき、ひより、みなみの叫びと共に、ジェネラルライナーが上空高く飛び立ち、
「ワイルドライナー!」
 つかさの指示で、ワイルドライナーがその後を追って跳躍、ワイルドファイアとタンクライナーへと分離する。
「《テンカイオー!》」
 そして、みさおとあやの――テンカイオーが最後に飛び立ち、ワイルドライナーと同様に分離、オクトーンとブロードサイドに分かれ、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
 宣言と同時に合体モードへと移行。分離した面々が合体に備えて変形を開始する。
 まずはタンクライナー、左右に分かれると砲塔が分離。タンク本体がジェネラルライナーの両足の裏に合体、より巨大な両足を形成すると、その前面に分離した砲塔が合体。脚部キャノン砲となる。
 ワイルドファイアは四肢を折りたたむと頭部が分離、前足から後ろが左右に展開。同時、ジェネラルライナーの両腕が本体から分離し、開いた両肩の付け根を展開されたボディがカバーするようにワイルドファイアが合体、新たなボディを形成し、分離していた両腕が再合体する。
 ブロードサイドはビークルモードに変形すると左右に分割。ジェネラルライナーの肩のカーボンキャノンが分離するとその後方に連結。より長い砲身のキャノン砲となり、元通り両肩に合体する。
 最後はみさおのオクトーンだ。ロボットモードのまま頭部を収納、四肢を折りたたみ、背中にバックパックとして合体する。
 胸部、ワイルドファイアの頭部があった部分には列車ターミナルのターンテーブルをイメージしたライナーズのシンボルマークが描き出され、ワイルドファイアの頭部が兜となってジェネラルライナーの頭部に合体する。
 すべてのシステムが起動、合体した各部とリンクする――カメラアイに輝きが生まれ、ライナーズ7名が高らかにその名を名乗る。

『超! 連結合体!
 カイゼル、ライナァァァァァッ!』

 

「ほ、ホントに合体しちゃった……!」
「そうっスよ!
 やっぱり、やればできるんスよ!」
「っていうか、私も“表”に出てる……
 これが、ハイパーゴッドオン……」
 合体を完了し、地響きを立て、両足をアスファルトにめり込ませながらカイゼルライナーが大地に降り立つ――かがみ、ひより、そしてあやのがその“中”でそれぞれに声を上げる。
「白天王……ガリュー……
 母さんのために……こいつら、全部やっつけて!」
 一方、合体を遂げたカイゼルライナーを前にしても、暗示にかかったルーテシアが動じることはない。彼女の指示で、ガリューが猛スピードで襲いかかってくるが、ジェネラルライナーにすらその攻撃は通じなかったのだ。彼の一撃はその装甲でたやすく止められ、
「ゴメン、ガリュー……
 少しの間、眠っててもらうっスよ!」
 離脱しようとしたガリューをひよりがつかまえた。その身体を持ち上げると、力任せに足元の大地に叩きつける!
「キャロちゃん、ヴォルテールを下がらせて!」
 そして、次こそが大本命――キャロの指示でヴォルテールが後退、自由となり、再びこちらに狙いをつける白天王へと両肩のキャノン砲を向け、
『カイゼル――キャノン!』
 発射した。放たれた砲撃は狙い違わず白天王を直撃。生体装甲を貫くことはできなかったが、爆発の衝撃で吹き飛ばされた白天王は宙を舞い、大地に叩きつけられる。
「ヴォルテール!」
 そしてそこにキャロからの追撃――ヴォルテールが翼を起点にスフィアを形成、そこから放った砲撃を白天王に叩き込む。
 と、先ほど大地に叩き込まれたガリューが復活、背後からカイゼルライナーを狙い――
「させない!」
 それを阻んだのはエリオだ。アイゼンアンカーのアンカーロッドでガリューの一撃を受け止め、
「我々を――甘く見るな!」
 スカイクェイクが、デスシザースの一撃でガリューを弾き飛ばす!
「つかささん!」
「うん!」
 このまま一気に決める――キャロの言葉にうなずき、つかさは白天王へと向き直る。
「ルーちゃん……今、助けてあげるからね……
 私だけじゃない……私達みんなで!」
 

『フォースチップ、イグニッション!』
 高らかに宣言すると同時、フォースチップが飛来――カイゼルライナーの背中、オクトーンのチップスロットに飛び込み、全身の放熱システムが展開されていく。
〈Full drive mode, set up!〉
 システム音声が告げる中――カイゼルライナーが突如分離、ジェネラルライナー、ワイルドファイア、タンクライナー、そしてオクトーンとブロードサイドに分かれてしまう。
 だが、それは決してトラブルなどではなかった――砲塔を分離させたタンクライナーの上に四肢をたたんだワイルドファイアが合体、さらにその上にビークルモードとなったオクトーンが重なるように合体する。
 そして、ブロードサイドは再び左右に分割。今度はタンクライナーの砲塔と連結し、ワイルドファイアの頭部が上方にスライドし、胸部にできたスペースに合体、巨大な二連装砲台が完成する。
『超、連結武装! カイゼルバスター!』
〈Charge up!
 Final break, Stand by Ready!〉

 完成した巨大砲台“カイゼルバスター”の背後にジェネラルライナーが着地、そこにセットされたトリガーを握り、白天王へと照準を合わせる。
 そして――
『カイゼル、ファイナルジャッジメント!』
 引き金が引かれた。放たれた巨大な閃光が、白天王を直撃する!
 大爆発に呑まれ、白天王が吹き飛ばされ――
『終点――到着!』
 かがみ達ライナーズの勝利宣言と同時、その巨体は轟音と共に大地に叩きつけられたのだった。
 

「ルーちゃん……大丈夫ですか?」
《大丈夫ですよ。
 召喚獣である白天王がノックダウンしたことで、精神リンクを伝ってダメージがフィードバックしただけ――要するに白天王がやられたショックで気絶してるだけです》
 白天王のK.O.と同時、ルーテシアもまた意識を失い、崩れ落ちた。現在は全員がゴッドオンを解除、手当てを受ける彼女を見守っている――心配そうに尋ねるつかさに対し、スカイクェイクに同行していたアルテミスがルーテシアを介抱し、そう答える。
 と――ウワサをすれば何とやら。ルーテシアの眉がわずかに動き、そしてゆっくりと瞳が開かれていく。
 果たして彼女は正気に戻ったのか。一同が固唾を呑んで見守る中、ルーテシアはそんな彼女達を見回して――
 

「みんな…………ゴメン……」
 

「…………ルーちゃん!」
「よかったぁっ!」
 口をついて出たのは謝罪の言葉――彼女の正気を確信し、つかさとキャロ、召喚師仲間二人は喜びの涙で顔をグシャグシャにしながらルーテシアに抱きつく。
「よかった……本当によかった……!」
「…………本当に……ゴメン……
 でも……母さんが……」
「大丈夫よ」
 泣きじゃくるつかさに謝るルーテシアに答えたのはかがみだ。
「スカリエッティのアジトにはフェイトさん達が向かってる。
 きっと、アンタの母さんも助けてくれるわよ」
「そう…………」
 告げるかがみの言葉に、ルーテシアはうなずき、しばし沈黙し――
「……ありがとう」
「………………っ。
 べ、別に、私はお礼を言われるようなことはしてないわよ。
 アンタを助けようとしたつかさに協力しただけだし、メガーヌさんを助けるのはフェイトさんだし……」
 素直に感謝の言葉を向けられ、一瞬にして顔が真っ赤になる――照れて視線をそらし、そっぽを向くかがみの姿に、一同は思わず笑い声を上げるのだった。


次回予告
 
イリヤ 「さーて、私の方の戦いも片づいたし、美遊と合流しようかn――」
????(1) 「ていっ!」
イリヤ 「って、どわぁぁぁぁぁっ!?
 だ、誰よ、いきなり砲撃してきたの!?」
????(1) 「フフフ……イリヤ、あなたの出番もここまでよ。
 次回からはあなたになり替わり、この私が目立たせてもらうわ!」
イリヤ 「って、何でアンタがいるの!?」
????(2) 「私達もいますが」
????(3) 「祝! ボクらの『GM』シリーズ初出演〜っ!」
????(4) 「我の偉大さを考えれば、むしろ遅すぎたくらいだな」
イリヤ 「え? 何? またメンツが増えるワケ?
 っていうか……目立てるような戦場、残ってる?」
????(全員) 『それは言わないで!』
イリヤ 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第110話『解き放たれる者〜蒼き炎と白き闇〜』に――」
5人 『ハイパー、ゴッド、オン!』

 

(初版:2010/05/01)