「いやー、終わった終わったぁっ!」
授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響き、こなたは大きく背伸びした。
机の上に出していた“だけの”教科書をまとめ、カバンの中に放り込んでとなりの教室へと向かう。
目的はもちろん友人の――
「かがみ、かがみー♪
ゲマズ寄ってこ、ゲマズ! あとメイトも!」
「またぁ?」
こなたの元気な勧誘に対し、かがみは呆れたように声を上げた。
「あんたねぇ、昨日も行ったばっかりじゃないの」
「ノンノン、甘いよー、かがみんや。
昨日は昨日の、今日は今日の限定というものがあるのだよ」
「かがみんゆーな。
ったく、よくそれでお金がもつわねぇ」
「だって、バイト代ほとんどつぎ込んでるし♪」
「あー、そうよね。
アンタはそーゆー目的でバイトしてたんだっけね――ん?」
呆れて肩をすくめ――かがみはふと、自分のポケットの中で携帯が震えているのに気づいた。
取り出してみれば、画面はメールの着信を知らせている。すぐに内容に目を通し――
「……あー、こなた?
悪いけど、今日はパスよ」
「えー? かがみのいけずー」
かがみのその言葉に、こなたは口をとがらせて――
「アンタもよ」
「え……?」
あっさりと付け加えられた言葉に思わず顔を上げるが――かがみはかまうことなくこなたに告げた。
「ほら、つかさとみゆきも呼んできて。
“集合”よ」
「――――――っ」
告げられた言葉の意味を、こなたはすぐに理解した。
「……それって……」
「うん」
あっさりとうなずき――かがみは告げた。
「新しいミッションよ」
「失礼します、騎士カリム」
「あぁ、シャッハ……」
ベルカ自治領、聖王教会――入室してきたシャッハの姿に、カリムは目を通していた端末のウィンドウ画面から顔を上げた。
「ご休憩の時間ですよね?
お茶をお持ちしました」
「ありがとう、シャッハ」
礼を言うカリムに微笑を返し、シャッハはお茶を淹れるべく支度を始め――ふと気になり、カリムに尋ねた。
「ところで……先程の緊急連絡は?
何か荒事でしょうか?」
「そういうワケじゃ、ないんだけどね……」
シャッハに答え、カリムは彼女の前にウィンドウを展開、問題の“緊急連絡”の内容を表示した。
その内容は――
「…………あぁ……」
「そう。
“古代遺物”発見の報告」
「管理外の異世界で……」
「本局の方からの依頼なんだけどね……
遺失物管理部の捜査課も機動課も、今は人手が足りないみたいでね……」
言って、ため息をつくカリムだが――ため息もつきたくなるというものだ。なぜなら――
「それで機動六課に依頼、ですか?
六課は“レリック”専任ですのに……」
「『“レリック”である可能性も捨てきれないから』って……
正直、六課はあんまりミッドから動かしたくないんだけど……」
「なるほど……
確かに、我ら騎士団もすぐには動かせる隊はありませんし、休暇中の騎士イクトを呼び戻すのも悪い気がしますし……
騎士ブレードはこういった任には致命的に不向きですしね……」
カリムの言葉に納得すると、シャッハは改めてカリムに尋ねた。
「派遣先は? 遠くの世界ですか?」
「あぁ、まだ見てなかったわ。
えっと……」
つぶやき、カリムはウィンドウの画面をスクロールしていき――
『………………え?』
そこに表示された記述を前に、二人は思わず顔を見合わせていた。
第11話
海鳴へ行こう!
〜出張・機動六課〜
「え…………?
派遣任務……ですか?」
「しかも異世界に?」
「うん」
機動六課・本部隊舎のオフィス――思わず聞き返すスバルとティアナに対し、なのはは笑顔でうなずいた。
「“レリック”か、ガジェットの出現なんでしょうか……?」
「それはわからないけど……“古代遺物”関連ではあるみたいだね」
一方で、首をかしげるキャロに答えるのはフェイトである。
「まぁ、前線メンバー全員出動だし、こないだの出動とあんまり変わらないよ。
エリオもキャロも、平常心でね」
告げるフェイトの言葉にキャロの、そしてとなりのエリオの表情が和らぐ――すでに一度実戦を経験しているとはいえ、まだまだ出動に対する緊張は抜けきってはいなかったようだ。
「緊急出動がなければ、2時間後に出発だそうだから、今やってる作業を片付けたら、出動準備をしておいてね」
『はい!』
元気に返事をするフォワード4人に笑顔でうなずき――なのははふと周りを見回し、
「えっと……マスターコンボイさんは?」
「さっさとデスクワークを済ませて出て行きました」
あっさりと答えるのはティアナだ。
一見するとデスクワークなど性に合いそうもないマスターコンボイだが――そんな周囲のイメージに反してデスクワークはきわめて優秀だ。それまでそんな経験などろくにしていなかったであろうはずなのに、新人達はもちろん、隊長格の誰よりも早く報告書類を仕上げ、しかもそのすべてが一発OKという具合である。何度もやり直しをくらうスバルとは正反対である。
ただ――デスクワークの速いその理由が『1秒たりとも机に座っていたくないから』というのはいかがなものか。大の大人がそんな子供じみた理由で優秀さを発揮しないでもらいたいのだが。
「そっか……
じゃあ、出動準備の片手間でいいから、マスターコンボイさんにも伝えておいてもらえるかな?」
「はい!」
「了解です!」
放送で呼ぶなり通信で伝えるなりすれば早いのだが、スバル達には少しでもマスターコンボイと接し、互いのいろいろなことをことをもっと知り合ってほしい――そんななのはの意図に気づいているのかいないのか、スバルとエリオは彼女の言葉にそううなずいてみせた。
「“古代遺物”の回収任務、ねぇ……」
デバイスメンテナンスルームのとなりに併設されたアナライズルーム――半ばゴッドアイズのオフィスと化しつつあるその室内で、アリシアは情報端末をクルクルともてあそびながらつぶやいた。
「六課は“レリック”専門なのに、何でこんな話が回ってくるかなぁ?」
「うーん、カリムちゃんもシャッハちゃんも渋ってたみたいだけど、他に動かせる人手もなかったみたいだし」
つぶやくアリシアに答え、アスカは必要な機材をチェックしながらそう答えるが――
「……たとえそうでも、六課の任務のジャマになりそうなら、問答無用で話をツブす人がいると思うんだけど?」
「………………」
その言葉にアスカの動きが止まった。そのまましばし考え、
「……そういえばそうだよね」
「でしょ?
絶対裏があると思うんだよねー」
アスカに答え、アリシアはイスに座ったまま「うーん」と背伸びして、
「スバル達に、“レリック”以外の“古代遺物”の対処を実地で教えたいのか――
「それとも、別の何かがあるのか」
「あ、エリオ、キャロー!」
フォワードメンバーの中での一番乗りはスターズの二人――ほんの少しだけ遅れてきたエリオとキャロの姿を見つけ、スバルは元気に手を振って二人を呼ぶ。
スバル達の後ろにはビークルモードでスタンバイしているスプラング――人間メンバーは彼が転送ポートまで運んでくれることになっている。
「スバルさん、ティアさん」
「すみません、お待たせしました!」
「まだ時間あるわよ。
隊長達も、まだ来てないし、アスカさんもまだよ」
ティアナがそう答えると、キャロが周囲を見回し、
「アスカさんもまだなんですか?
部屋は一緒に出たのに……」
「そなの?」
キャロの言葉にスバルが聞き返すと、
「そ、れ、は♪」
「きゃあっ!?」
まさに“いきなり”の登場――突然背後に現れたアスカに後ろから抱きつかれ、キャロが思わず声を上げる。
「あ、アスカさん!?」
「遅くなっちゃってゴメンねー。
忘れ物がないか確かめにアナライズルームに行ってみたら、これが届いてるのを見つけちゃってね」
驚くキャロに告げると、アスカは小箱に入った“それ”を4人に見せた。
「カートリッジ……ひょっとして、エレメントカートリッジですか?」
「そ♪
最新タイプの試作品でね――デバイスと同じ要領で、魔法の術式そのものを組み込んであって、目的の魔法を重ねがけで強化したり、複数の魔法をコンボ発動させたりもできるんだって。
バインド系の“HOLD”と封印の“SEAL”――今回は任務が任務だから、使えるんじゃないかと思って持ってきたの」
アスカがティアナに答えた、ちょうどその時、隊長陣がようやくヘリポートに姿を見せた。
しかし――
「おー、みんなおそろいやねー♪」
「けっこうけっこう♪」
「あれ?
八神部隊長に、シャマル先生も?」
「シグナムちゃんとヴィータちゃんはわかるけど……なんではやてちゃん達まで?」
真っ先に現れたのは意外な面々――なのは達だけでなく、はやてやシャマルまで姿を見せたのを見て、スバルとアスカが首をかしげる。
「まさか、部隊長達も?」
「うん。
隊舎にはグリフィスくんもおるし、ザフィーラとアトラス、シグナルランサーもしっかり留守を守ってくれてる」
「ガスケット達もバカだけど強いからね、何かあった時は何だかんだでがんばってくれるよ」
「詳細は不明だけど、“古代遺物”相手だからね。
主要メンバーは全員出動、ってことで」
「あとは、行き先も、ちょっとね……」
ティアナの言葉にはやて、アリシア、なのは、フェイトの順で答える――特に最後のフェイトの言葉の意味を読みきれず、首をひねるスバル達に苦笑しつつ、アリシアが説明する。
「あたし達が向かうのは、第97管理外世界、地球――その星の、小さな島国の、小さな街、日本・海鳴市。
“古代遺物”は、そこに出現したらしいんだけど……」
「……あー、ちょっと待ったのしばしストップ」
そのアリシアの言葉に、アスカは思わずこめかみを押さえながら待ったをかける。
「あたしの記憶がボケちゃったりしてない限り……そこ、アリシアちゃん達が昔住んでた、なのはちゃんやはやてちゃんの故郷じゃなかったっけ?」
「あはは……その通り。
どうもその辺の、“地元の人間がいる”っていうのも、ウチに話が来た理由のひとつらしいんよ」
「思いっきり土地勘を当てにされてるねー……」
アスカの言葉に、スバル達は思わず顔を見合わせる――そんな姿に苦笑し、はやてとなのはがそう説明する。
「まぁ、そういう事情を抜きにしても、ある程度の広域捜査になる手前、司令部は必要やし。
つまり、これが別の場所でも、どの道指揮官として私とリインは必須やったんやけどな」
「あと、医官のシャマルもなー」とはやてが付け加えると、ヴィータがパンパンと手を叩いて空気を引きしめ、
「ま、そんなワケだ。
疑問も解けたんなら、さっさとスプラングに乗れ――もう出発すっぞ」
『はい!』
一方その頃、地球では――
「久々に常識的な移動をしてる気がするわ」
“普通の”新幹線、指定席車両の車内――食べ終わった駅弁の空箱をゴミ袋にしまいつつ、かがみは思わずそうつぶやいた。
「女子高生が新幹線の指定席で、ってのも、じゅーぶん常識の外だと思うけど? どこのブルジョワ?」
「それでも最近の中じゃ一番マシよ」
笑顔で茶々を入れてくるこなたにツッコみ返し、かがみは彼女の分の空箱も受け取ってゴミ袋に放り込み、
「何しろ、ゴッドマスターになってからこっち、長距離の移動手段といったらトランステクターか転送魔法のどっちかだったワケで」
「お、お姉ちゃん……」
「魔法やゴッドマスターのことは、この場では……」
さらりと自分達の秘密を口にしたかがみに、つかさやみゆきが慌ててストップをかけるが――
「気にしてる人、いる?」
かがみの言葉に周囲を見回す二人だが、確かに彼女の言う通り、こちらの話に耳をかたむけている者はひとりもいない。
「ヘタにコソコソしてる方が目立つわよ。もっと堂々としてなさい。
どうせ、聞いたって普通の人達が信じられる内容じゃないんだし」
「う、うん……」
「じゃあ、今回の“お仕事”のおさらいね」
うなずくつかさに告げ、かがみは自分の手帳を取り出し、
「ターゲットは輸送中の事故でこの星に流れ着いた“古代遺物”。
一応、管理局の方からも部隊を送ってもらうらしいけど、ノイズメイズ達が“レリック”みたいに狙ってくる可能性もある。
で、私達の出番、ってワケ――ノイズメイズ達がしかけてきたら迎撃して、状況次第じゃ私達で対象を確保する……って感じ」
「ふむふむ、なるほど……」
「って、アンタも一緒に説明受けたでしょうが。何今になって納得してんのよ?」
うんうんとうなずいているこなたにすかさずツッコむと、かがみは軽くため息をつき、
「私達がゴッドマスターになってそろそろ2ヶ月――慣れから来る油断が一番怖い時期にきてるんだから、しっかりしなさいよ」
「ほーい♪」
答えるこなたの言葉はあくまで気楽で――もう一度ため息をつき、かがみはカバンの中から“パイの実”を取り出した。
「ちょうどこの間、みんなの故郷の話をしたばかりで……なんだか不思議なタイミングですね」
「アハハ、ホントだね!」
転送ポートへと向かうスプラングのカーゴスペース――つぶやくエリオに、スバルは笑いながらうなずいた。
その一方で、キャロとティアナはアスカから第97管理外世界についての説明を受けていた。
「これから行く第97管理外世界は、あたしのいた108世界とすごくよく似た世界でね。
文化レベルはB。魔法文化も次元移動手段もなくってね――」
「って、魔法ないんですか?」
「ないよ」
思わず聞き返すティアナに答えるのは、先祖が出身者であるスバルだ。
「だから、ウチのお父さんも魔力ゼロだし」
「スバルさん、お母さん似なんですよね」
「うん♪」
キャロの言葉にスバルがうなずき、アスカは説明を続ける。
「理由はいろいろあるんだけど……やっぱり魔力資質がない人ばっかり、ってのが大きいよねー。
けど、その反動なのか、資質のある子は誰も彼もすさまじいよー」
「そのいい例がなのはやはやてだね。
アタシ個人のパイプとしても、何人か“そういう子”はいるし。
イリヤとか美遊とか、元気にしてるかなー……? 最近連絡とってないけど」
アスカの説明を引き継ぎ、最後の辺りはどこか懐かしむようにアリシアが告げると、
「はい、リインちゃんのお洋服♪」
《わーい♪
シャマル、ありがとですー♪》
聞こえてきたのは、話に参加していなかった二人の声――シャマルの取り出した子供用の洋服を前にリインが目を輝かせているのを見て、キャロは首をかしげつつ尋ねた。
「リイン曹長、その服……?」
《はやてちゃんの、ちっちゃな時のおさがりですー♪》
「あ、いえ、そうではなく……」
「なんか、普通の人のサイズだな、って……」
《……あー、フォワードのみんなには見せたことなかったですね》
エリオとキャロの言葉に納得すると、リインはスバル達の前でコホンと咳払いをひとつ。そして――
《システム、スイッチ。
アウトフレーム――フルサイズ!》
元気に告げると同時――変化が起きた。
と言っても、別に姿が変わったワケではない。元の姿のまま、その大きさだけが普通の人間ほどの大きさまでスケールアップしたのだ。
「で、でっか……」
「いや、それでもちっちゃいけど……」
「普通の女の子のサイズですね」
《リイン的には『追いつけ追い越せアルテミス!』だったんですけど、それはさすがにまだムリですぅ》
思わずつぶやくティアナ、スバル、キャロに答え、リインは苦笑まじりに肩をすくめる――「まだ」と言っているあたり、『追いつけ追い越せアルテミス!』の野望(?)をあきらめたワケではないようだが。
「向こうの世界には、リインと同サイズの人間も、フワフワ飛んでる人間もいねぇからな――リインが出歩くには、この姿になる必要があるんだよ」
「あー……ヴィータちゃん、一応ツッコんどくね。
ミッドにも普通いないから。リインちゃんサイズの子もフワフワ飛んでる子も」
説明するヴィータにアスカがツッコむと、スバルが首をかしげ、リインに尋ねた。
「リイン曹長――その姿のままでいた方が、いろいろ便利なんじゃないんですか?」
《こっちの姿は、燃費と魔力効率があんまりよくないんですよ。
コンパクトサイズで飛んでる方が楽ちんなんです》
「そうなんだ……」
返ってきたリインの答えに、アスカはつぶやき、何やら考え込んでいたが――不意に顔を上げ、尋ねた。
「じゃあさ、リインちゃんもデバイスなんだし、カートリッジシステム組み込んでみたら?
魔力がヤバくなってきたらカートリッジで回復! みたいな感じで」
《どこからカートリッジを入れてどこから排莢しろと言うですか?》
思わず想像してしまったのだろう――リインのツッコミにはどこか怯えが混じっていた。
「お、ようやくのご到着か」
「重役出勤、お疲れさまってか♪」
その後、スプラングは無事転送ポートに到着――エントランスホールに姿を見せたなのは達に気づき、ビッグコンボイとビクトリーレオが声をかける。
「手続きは済んでいます。
あとはマスターコンボイが来れば、すぐにでも出発可能です」
「そっか、ありがとな、スターセイバー」
告げるスターセイバーの言葉にはやてがうなずくと、スバルが首をかしげ、尋ねた。
「………………?
マスターコンボイさん、来てないんですか?」
「いや、来ているが、転送前の“下準備”がまだ済んでいなくてな……」
「下準備?」
スバルが聞き返すと、そんな彼女にはアスカが説明した。
「あー、スバル。
いきなりだけど……“プリテンダー”って、知ってる?」
「え?
あー、えっと……」
「トランスフォーマーのトランスフォーム大系のひとつですよね?
確か、サイズシフトと特殊な擬態技術の併用で、ビークルでもビーストでもなく、“人間にトランスフォームする”っていう……」
長年のコンビ生活の賜物か、そうスバルをフォローするのはティアナである。
「正解。
まあ、その技術形態からすれば、“トランスフォーム”って言うよりも文字通りの“変身”って言った方が適切かな?」
「変身魔法みたいなものですか?」
「うん。
実際、ミッドのプリテンダーはサイズシフトと変身魔法の併せ技だね。
同じように人間社会に溶け込んでいた地球のトランスフォーマー達にも同種の技術はあるけど、こっちは魔法じゃなくて科学技術の産物――魔力の代わりにスパークのエネルギーを物質変換して人間に変身するの」
聞き返すキャロにアスカが答えると、そんな彼女達に対しビクトリーレオとジャックプライムが説明を引き継いだ。
「オレ達は、見ての通り純戦闘タイプのトランスフォーマーだからな。探索任務とはいえ、オレ達みたいなのがうろついたら街のヤツらを不安にさせちまうだろ?」
「だから、プリテンダー化の出番。人間態――ヒューマンフォームになって街に入るんだよ。
たとえば……」
その言葉と同時――ジャックプライムの頭上に魔法陣とは別種のエネルギー円盤が姿を現した。ジャックプライムにのしかかるように降下していき――円盤に触れたそばからジャックプライムの姿が光となって霧散していく。
やがて、円盤は完全に大地に触れて消滅し――その後には、見た目15、6歳くらいの少年が立っていた。
「とまぁ、こんな感じ。
ちょうど、スバルやティアナと同じくらいかな?」
「ですね♪
似合ってますよ、ジャックプライムさん!」
姿は変わっても声は紛れもなく彼のもの――ジャックプライムの言葉にスバルが笑顔でうなずくと、
「ちなみにオレは、こんな感じだ」
ジャックプライムに続く形でビクトリーレオが変身。どこか野性的な印象の青年へと姿を変える。
「うっわー、イメージにピッタリだねー」
「だろ?
オレ的に、けっこう気に入ってんだぜ、このカッコ」
感心するアスカにビクトリーレオが答えると、
「えっと……それで、そのプリテンダーになるための措置を、今マスターコンボイさんが受けてる、ってことですか?」
「そういうことだ。
そろそろ終了するはずだが……」
話を本来の路線に戻し、尋ねるエリオにスターセイバーが答えた、ちょうどその時――
「こらぁぁぁぁぁぁっ!」
聞き慣れた声と共に、エントランスの奥――2階に続く階段の踊り場にひとつの人影が現れた。
「あー、マスターコンボイ……さ、ん……」
すかさず声を上げるスバルだったが――その姿を脳が認識した瞬間、その声は尻すぼみとなって消えていく。
なぜなら、現れたマスターコンボイの姿は――
「…………子供?」
「見た目……10歳くらい?」
「ボクらより、少し上くらいでしょうか……?」
「明確に言葉にするな! 現実に直面したくないからっ!」
そう。
順につぶやくアスカ、キャロ、エリオに言い返すマスターコンボイの姿は、せいぜい小学校高学年程度の少年の姿だったのだ。
「八神はやて! 何なんだ、この姿はっ!
なんで、オレのヒューマンフォームがこんなガキなんだ!」
「きっと遺伝子が不器用なんやね」
「どこぞの超時空要塞アニメシリーズ(最新作)のセリフを引用してごまかすな!」
あっけらかんと答えるはやてに言い返し、その場で地団太を踏むマスターコンボイだが――彼には悪いが今の姿では“ガキ大将のかんしゃく”にしか見えない。
「えー? カワイイよ、マスターコンボイさん。
ね? エリオくん」
「う、うん……」
「冗談じゃない!
なんでオレがこんな格好を!」
「えー? 似合ってるのにもったいないよ」
「って、頭をなでるな!」
キャロやエリオに、そしてスバルにそれぞれ言い返すと、マスターコンボイは自分の頭をなでるスバルの手を振り払い、
「オレンジ頭! こいつらを何とかしろ!」
いつもは敵意を向けられてばかりだが、さすがに今は頼るしかない。ティアナへと向き直り、そうスバル達の抑えを要請するマスターコンボイだったが――
「あれはマスターコンボイなの、マスターコンボイなの……!
どけだけカワイくてもマスターコンボイなんだから、流されちゃダメ、流されちゃ……!」
「貴様が一番重症かぁぁぁぁぁっ!」
どこか危険な輝きをたたえた瞳で、必死に自分自身に言い聞かせているティアナの姿に、マスターコンボイは頭を抱えて絶叫した。
「…………ふむ」
転送完了と共に各種センサーが回復――なのは達と共に久しぶり(スバル達にとっては初めて)となる海鳴の地に降り立ち、マスターコンボイは顔を上げて周囲を見回した。
ちなみに、その姿はヒューマンフォーム――子供の姿のままだ。
事態の元凶である(確証はないがたぶんそうだろう)はやては「他に寄るところがあるから」と守護騎士達を連れてそそくさと別行動に移ってしまい、なのははなのはで「カワイイからいいじゃない」と肯定派に回ってしまった。
そんなワケで、「どうせ移動になれば指揮車にトランスフォームする自分が足になるに決まっている。それまでの辛抱だ」と懸命に自分に言い聞かせ、ムリヤリ自らを納得させた次第である。
ただし、アヤシイ空気を放っていたティアナには一切近寄らなかったが。
「……ここが……」
「なのはさん達の、故郷……」
「うん。
ミッドの郊外と、ほとんど変わらないでしょ?」
周囲を見回し、つぶやくティアナとスバルに、なのはは優しげな笑顔と共にそう答える。
「……空は青いし、太陽はひとつだし……」
「山と、水と、自然の匂いもそっくりです」
「湖も綺麗です」
「きゅくる〜♪」
本当にミッドチルダと変わらない――ティアナとキャロ、エリオのつぶやきにフリードが元気にうなずく傍らで、マスターコンボイは雲すらまぶしく輝いている初夏の青空を見上げた。
「……まさか、また再びこの地を踏む日が来るとはな……」
「マスターコンボイさん……?」
「何でもない。
らしくもなく昔を思い返していただけだ」
こちらのつぶやきを聞きつけたか、振り向くなのはに対し、マスターコンボイは自嘲気味にそう答えてみせる。
「マスターコンボイさん、来たことがあるんですか?」
「来たも何も……オレはこの地でなのはと出逢ったんだ」
尋ねるスバルにも、マスターコンボイはそう答える。
「初めての出逢いは敵同士――
なのははサイバトロンに協力し、グランドブラックホールの脅威から全宇宙を救うため……
そしてオレは、自らの力を高めるためのエネルギー源として……互いにプラネットフォースを追い求め、何度となくぶつかった……」
自分でもよく口が回るとは思ったが――不思議と話を切り上げる気にはならなかった。
「思えば、初めてオレがなのはを守ったのもこの海鳴だ。
この地は、つくづくオレには因縁深いと見える」
「へぇ……」
自分の知らなかったマスターコンボイの過去――思わずスバルが呆けるとなりで、ティアナは周囲を見回し、なのはに尋ねた。
「ところで……ここは具体的にはどこなんでしょう?
なんか、湖畔のコテージ、って感じなんですけど……」
《現地の住人の方がお持ちの別荘なんです。
捜査員の待機所としての使用を、快く許諾していただけたですよ♪》
「現地の方……?」
答えるリインにキャロが聞き返した、ちょうどその時――
「……あ、車だ」
1台の車がこちらに向かってくるのが見えた。スバルが思わず声を上げる。
「車、この世界にもあるんだ……」
「いや、そりゃあるよ……そこまで文化レベル低くないんだから」
つぶやくティアナにアスカがツッコむと、車は一同の前で停車し、
「なのは! フェイト! アリシア!」
「アリサちゃん!」
「アリサ!」
「お久しー♪」
喜び勇んで車から飛び出してきたのはなのは達の大切な幼馴染――笑顔で声を上げるアリサ・バニングスに対し、なのは達も笑顔で応える。
「何よ、もう……ご無沙汰だったじゃない!」
「あはは、ゴメンゴメン」
「いろいろ、忙しくって……」
「私だって忙しいわよ。大学生なんだから」
「ちょっと、ちょっと、アリサってば。
私も一応大学生だよ?」
なのはとフェイトに答えるアリサに、となりでアリシアがすかさずツッコむ――そんな幼馴染同士の仲の良いやり取りに、半ば置いていかれた形になっているスバル達だったが――
「……アリサ・バニングス。
10年前、“GBH戦役”に参加していた、地球人の民間協力者のひとりだ」
そんなスバル達にアリサを紹介したのは、意外なことにマスターコンボイだった。そんな彼の声を聞きつけたか、アリサは彼へと振り向き、
「…………誰? このガキんちょ」
「が…………っ!?」
「アリサちゃん、実はね……」
何気なく放たれた一言に、マスターコンボイは思わず停止。そんな彼の姿に苦笑しつつ、なのははアリサに耳打ちして――
「…………はぁ? マスターメガトロン!?
しかも今はコンボイを名乗ってるの!?」
「う、うん」
うなずくなのはに訝しげな視線を返すと、アリサはマスターコンボイへと視線を戻し、
「……で、それがなんでそんなカッコしてるのよ?」
「笑いたければ笑えばいい」
「あははははっ!」
本当に笑われた。
おかげですっかりヘソを曲げてしまい、そっぽを向いてしまうマスターコンボイだったが――そんな彼のことなど一切気にしないまま、アリサはスバル達へと向き直り、
「まぁ、気を取り直して自己紹介。
今マスターメガトロン……じゃない、マスターコンボイから聞いたと思うけど……アリサ・バニングス、なのは達の幼馴染ってヤツね。
よろしくね♪」
『よろしくお願いします!』
「よろしく、アリサちゃん♪」
アリサの自己紹介に対し、スバル達新人4人は元気に一礼――その一方で、年上であるアスカの応対は砕けたものだ。
「うんうん、元気でよろしい♪」
そんなスバル達に笑顔でうなずくと、アリサは今度はなのは達に尋ねた。
「それで……はやて達は?」
《別行動ですぅ》
そう答えるのはリインだ。
《違う転送ポートで来るはずですので、たぶんすずかさんの所に……》
「はやてちゃーん!」
「すずかちゃん!」
転送を終えると同時、出迎えてくれたのは親友の声――駆け寄ってくる月村すずかに、はやては満面の笑みで応じた。
「久しぶり!
すずかちゃん、元気やった?」
「うん! 元気元気!」
尋ねるはやてにすずかが笑顔でうなずくと、
「………………?」
ふと気配を感じて、シグナムが視線を動かした。そんな彼女の動きに、ヴィータもまたそちらへと振り向き――
「――アイツは!?」
思わず驚きの声を上げていた。
なぜなら、こちらに向けて歩いてくる“気配の主”は、まさかこの場で出会うとは思いもしなかった人物で――
「覚えのある“力”が転送されてきたと思ったら、やはりお前達か」
「イクト!? なんでてめぇが!?」
告げる炎皇寺往人に対し、ヴィータは思わず声を上げ――
「っつーか……相変わらずお前の周りって“野性の王国”化するよな」
「原因がわからん以上改善のしようもないからな……」
彼の足元では、月村家で世話をされている子猫達がイクトの足へと総攻撃の真っ最中――なぜか動物に好かれない(どころかむしろ攻撃対象になるほど嫌われてしまう)彼の体質は相変わらずらしい。
「で、『なぜここにいるのか』というハラオウンの問いの答えだが――理由はコレだ」
言って、イクトが取り出したのは1基の携帯電話――ではなく、この第97管理外世界でも周囲に怪しまれずに使えるよう偽装した、管理局製のナビゲーション端末だ。
「久しぶりに休みが取れたのでな。かねてからシグナムに薦められていた本家翠屋のスイーツを馳走になろうとやってきたのだが……ナビゲーションが故障した上に道にも迷ってしまってな。
どうしようもなくなって、仕方なく月村に救援を要請した次第だ」
「……メカオンチと方向オンチも相変わらずみたいやね……」
「故郷での“瘴魔大戦”、1年間愛機の整備を人任せで通した過去はダテではないぞ」
「自慢にならねぇから言わねぇ方がいいぜ、そーゆーの」
苦笑するはやてに答えるイクトにヴィータがツッコむと、シグナムがそんなイクトを鼻で笑い、
「フン、“炎”の瘴魔神将ともあろう者が情けない」
「未だにビデオの録画予約も出来ない貴様に言われたくはないな――高町知佳が嘆いていたぞ」
「言ってくれるな……
レヴァンティンのサビになりたいか?」
「やれるものならやってみるがいい。
オレの炎を越えて接近できると言うのならな」
『フッフッフッ……』
かなり据わった目つきでにらみ合うイクトとシグナム――戦士として互いを認め合う好敵手同士である二人は何かしらある度に張り合っている。どこかやり取りが子供じみているのは、二人のライバル関係をプロデュースした某“暴君”殿の影響だろうか。
そして、そんな二人を取り巻く周りはと言うと――
「お仕事だから、あんまりゆっくりは、できないんだよね……?
「うーん……そうなんよ。
まぁ、なくしもの探しなんやけどね」
「がんばってね。
時間あるようなら、ご飯とか一緒に食べよ?」
「うん、きっと♪」
「……お前は調理に参加するなよ、シャマル」
「あー、ヴィータちゃん、ひどい!」
「けど、当然の意見だとは思わないか?」
「戦力の低下は避けなければな」
「ビクトリーレオ、ビッグコンボイまで!?」
「二人とも、それはないだろう」
「スターセイバー、あなただけは味方です――」
「この場合、戦力は“低下”ではなく“減少”だ。頭数が減るのだから」
『なるほど』
「あはは、スターセイバー、うまいなー」
「うわーん!」
“いつものこと”すぎて、すでに平然とコントを繰り広げられる領域に達していた。
「さて……じゃあ、改めて今回の任務を簡単に説明するよ」
『はい!』
コテージを後にして、街に向けて移動中――歩道を歩きながら、スバル達はなのはの言葉にうなずいた。
そんな一同の後ろを、マスターコンボイはヒューマンフォームのまま、ムスッとした顔でついていく――いよいよ移動の段階になり、「これで子供の姿からはオサラバだ」と意気込んだのだが、「街をよく見て回りたい」というスバルの言葉に一同が同意したために目論見がご破算になってしまったのだ。
「捜索地域はここ、海鳴市の市内全域」
言って、なのはは今回のために改めて購入した最新の市内道路地図を広げ、
「反応があったのは、ここと、ここと……ここ」
「移動してますね……?」
「そう。
誰かが持って移動してるのか、独立して動いてるのかはわからないけど」
なのはのとなりで地図をのぞき込み、つぶやくティアナにフェイトが答える。
「……対象“古代遺物”の危険性は?」
「今のところ、確認はされてないね」
不満は多々あるが、任務は任務だ。割り切らなくてはやっていられない――気を取り直し、尋ねるマスターコンボイにはアリシアが答えた。
「“レリック”だったとしても、この世界は魔力保有者は滅多にいないから、暴走の危険はかなり低いし。
現状で一番怖いのは、誰かの手に渡って魔法技術がこの世界に流出しちゃうケースだね」
「とはいえ、やっぱり相手は“古代遺物”。
何が起きるかわからないし、場所も市街地――油断せずに、しっかりと捜索していこう」
なのはの言葉に、スバル達は一様にうなずいてみせる。そんなスバル達の姿に満足げに微笑むと、アリシアはフェイトに続きを促した。
「じゃあ、捜査主任さん、後の仕切りはヨロシク♪」
「うん。
副隊長達には後で合流してもらうので、先行して捜索を開始しよう。
中距離探査はリイン、プリムラ、ジンジャー。それからクロスミラージュとレッコウにも簡易版の探索魔法をセットしてあるから、分担して、少し離れて探して歩こう」
「後は、市内各所にサーチャーとセンサーを設置しなきゃいけないでしょ?」
「うん。作業としてはそのくらいだね」
聞き返すアスカにフェイトがうなずくと、
「すまん、遅くなった」
「シグナム。
ちょうどよかった……今から始めるところです」
姿を見せたのは、イクトとのにらみ合いから復帰したシグナムだ。声をかけられ、フェイトは笑顔でそう応じる。
〈ロングアーチも準備万端や〉
〈あたしもこれから、探索と設置をしながらスターズに合流する〉
「了解」
続くはやてやヴィータからの通信になのはが答え、はやては改めて一同に告げる。
〈ほんななら、機動六課出張任務、、“古代遺物”探索――任務開始や!〉
『了解!』
こうして、なのは達はスターズとライトニング、ゴッドアイズそれぞれに分かれ、“古代遺物”の探索にとりかかった。
「リイン、久しぶりの海鳴の街はどう?」
《やっぱり懐かしいですー♪》
ようやくヒューマンフォームから脱出、ビークルモードで市内を走るマスターコンボイの車内――運転席に座っている(だけの)なのはの問いに、リインは笑顔で答える。
《なのはさんは?》
「私は、『懐かしい』って言うより……『あれ? 仕事中なのに帰ってきちゃった?』みたいな感じかな」
苦笑まじりになのはが答える後方――指揮所スペースでは、ティアナとスバルがモニター越しに海鳴の街並みを興味津々といった様子で眺めている。
「っつーか……ホントにミッドのちょっと田舎の辺りと大差ないわねー。街並みも人の服装も」
「うん……
あたしは好きだな、こーゆー感じ」
「確かに、のんびり屋の貴様にはお似合いの土地柄かもな」
「あー! マスターコンボイさん、それ絶対ほめてないでしょ!」
「当然だ」
「むーっ!」
口をはさんでくるマスターコンボイの言葉にスバルが口を尖らせると、
〈なのは隊長〉
そこへ、ヴィータからの通信が入った。
「あたしは、ロングアーチからの直接指示で動いてっからな。
ビクトリーレオやスターセイバーと一緒に、上空からのセンサー散布だ」
〈了解。
お願いね、ヴィータ副隊長〉
民間人の目撃を避けるため視覚的にジャミングをかけ、海鳴上空を飛翔するヴィータの言葉に、なのはは笑顔でそう答える。
と、今度はプリムラとリインが通信に割り込み、尋ねる。
《何なら、リインをそっちに合流させよっか?
こっちのサーチは私とティアナでできるし》
《お手伝いしますよ、ヴィーちゃん?》
「平気だって。お前らはなのはを手伝ってやんな。
じゃ、また後でな」
言って、ヴィータは通信を終え――
「オレのことは、話さなくてもよかったのか?」
「今は、な」
すぐとなりを飛翔するイクトの問いに、ヴィータはあっさりとそう答える。
「なのは達は、お前らのメンツはブレードしか知らねぇ――ジュンイチについても、局内のウワサと“スバル情報”でしか知らねぇし。
ここでお前のことを話したって、“ブレードやジュンイチの知り合い”って理由でムダに緊張させちまうだけだよ」
「まぁ、アイツらの印象はある意味強烈だからな」
ヴィータの答えに納得の上で苦笑し――その笑みが変化した。ニヤリと笑い、ヴィータに告げる。
「しかし、そうやっていろいろとお節介を焼く辺り、貴様も高町なのはやスバル達には存外甘いな。
いや――『優しい』と言い換えた方が良いか?」
「う、うっせぇ!」
イクトの指摘に顔を真っ赤にして言い返し――ヴィータはふと真顔に戻り、尋ねた。
「……けど、ホントによかったのか? 手伝いなんて。
せっかくの休みなんだろ? ゆっくりしてりゃいいのに」
「気にするな。
聖王教会からの依頼なんだろう? ならばオレも決して無関係というワケではない。
半分程度は、教会の依頼で日銭を稼ぐ、オレ自身のプライドのためだと思っておけ」
「そっか」
あっさりとうなずき、視線を前方に戻すヴィータを横目で眺めながら、イクトは胸中でつぶやいた。
(そう。半分はオレのプライドのため……
残り半分は――)
(オレ自身の、“確かめたいこと”のためだからな……)
「ん、んー……よく寝たぁーっ!」
「電車乗り換えてから寝っぱなしだったもんね、アンタは」
「かがみんは食べっぱなしだったみたいだねー。
お菓子のゴミ、だいぶ増えてたし」
「う、うっさい!」
そんな会話を交わすこなたとかがみを先頭に、こなた達4人は海鳴駅の改札をくぐって駅を出た。
「ここが今回のミッションエリアか……」
「探索範囲は市内全域なんだよね?」
「うん……
もう管理局のチームも来てる頃合だし、こっちも急いで取りかからないと……」
駅前広場を見回すつかさに答えると、かがみはしばし思考をめぐらせ、
「うまく、管理局の探索データを利用できれば良いんだけど……
みゆき、ブレインでアクセスできない?」
「システム的には可能だと思います。私達みんな、正規のアクセスIDも用意してもらってますから、ハッキングにもなりませんし。
ただ、いくらハッキングではないといっても、いきなり探索任務中の部隊のデータにアクセスするのは、さすがに怪しまれてしまうのではないかと……」
「うーん、そっか……」
答えるみゆきの言葉にかがみが考え込んだ、その時――
「素直に自分達でサーチしろ、ってことじゃない?」
「こういう探索任務の上で必要な能力の向上――きっとそれが、今回のミッションの狙いなんだと思うよ」
『――――――っ!?』
答えたその声は、自分達の中の誰のものでもなくて――こなた達は思わず顔を見合わせた。
自分達の話の内容を聞きつけただけでなく、その内容を正しく理解している――振り向いた4人の前には、二人の女性の姿があった。
そのうちの一方はリニアレール戦の現場で人知れずブラックアウトを叩き伏せた女性――イリヤだ。
そしてもうひとりの方は、年の頃なら彼女と同じくらい、手入れの行き届いた黒髪を腰の辺りまで伸ばしている――こちらもイリヤに負けず劣らず、なかなかの美人だ。
「あ、あの……あなた達は……?」
「あれ? 聞いてない?」
代表して声を上げるかがみだが、イリヤはそう聞き返しながら首をかしげてみせる。
「一応、みんなを手伝ってあげて、って頼まれて来たんだけど?」
「いえ、まったく……」
「そっか……そりゃ驚くよね。
ゴメンね、ビックリさせちゃって」
答えるみゆきの言葉にそう謝罪すると、イリヤは相方の黒髪の女性と顔を見合わせ、
「じゃあ、改めて自己紹介。
今回のミッションのサポートと各種教導を担当することになった、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン――呼ぶ時は『イリヤ』でいいからね♪
それから……」
そう名乗るイリヤの言葉にうなずくと、黒髪の女性もまた一歩前に出て、
「美遊・エーデルフェルト。
私も、呼ぶ時は『美遊』でいいから」
「そんなワケで、よろしくね♪」
事務的でクールな美遊と元気でフレンドリーなイリヤ。両極端な二人の自己紹介に、かがみ達は思わず顔を見合わせて――
「フンフン、元気っ子とクールっ子……
こりゃまた萌えの気配がしますのー♪」
そんな中、こなただけはあくまでいつも通りだった。
マスターコンボイ | 「まったく……なんでオレのヒューマンフォームはこんな子供の姿なんだか」 |
はやて | 「仕方ないやん。そういうデザインなんやから」 |
マスターコンボイ | 「そもそも、なぜこんなデザインにしたんだ? デザインしたのは誰だ? デザインしたのは」 |
はやて | 「リインやけど?」 |
マスターコンボイ | 「果てしなく意図的な人選ミスな気がするのはオレだけか!?」 |
はやて | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第12話『“影”の片鱗〜国守山の再会〜』に――」 |
二人 | 『ゴッド、オン!』 |
(初版:2008/06/14)