地上本部、仮庁舎前――

「クロスファイア――シュート!」
「サイクロン、マグナム!」

 ティアナの、そしてウェンディの放った魔力弾が戦場を駆け抜け、炸裂――マグナダッシャーやノーヴェ達のビークル、庁舎を守って戦うオメガスプリームに迫ったガジェットとエアドールを粉砕し、ティアナとジェットガンナー、そしてウェンディが彼の両横に着地した。
「オメガスプリーム! マグナさん!
 ジュンイチさん達は、もう中に!?」
〈ソノ通リデス〉
 尋ねるティアナに答えたのはオメガスプリームだ。続いてマグナが彼女に聞き返す。
《みんなは、どうしてここに?》
「そんなの、ジュンイチがこっちに来てるのを知ったからっスよ!」
「ジュンイチさんが自ら動いたんだもの。何かあると思ったんです。
 “ゆりかご”も大事ですけど、向こうにはなのはさん達が向かってる――私達はジャマにならないようにその周りを、ってことで」
 そうウェンディとティアナが答えると、
「ティアナさん! ウェンディさん!」
「お待たせしました!」
 エリオとアイゼンアンカー、キャロとシャープエッジ、フリードもやってきた。
 ティアナが各所で戦うフォワードメンバーに集結を呼びかけたのだ。なので――
「はいはーい♪ あーちゃんとーちゃくぅっ!」
 エリオ達に続いてあずさもやってきた。“四神”をその身にまとい、頭上から舞い降りてくる。
「ギンガさん達は?」
「スバル達を追って、もう“ゆりかご”に突入済み。今から合流、っていうのは当然ナシだよ。
 こっちはあたし達だけで片づけよう」
「中は狭くて、トランスフォーマーはロボットモードじゃ入れない……生身での突入ですね」
 エリオに答えるあずさの言葉に、ティアナは言いながらゴッドオンを解除し、
「ジェットガンナー、外をお願い。
 オメガスプリームやマグナさんと協力してここを守って」
「了解しました」
「アイゼンアンカー」
「めんどくさいけど了解っ!」
「シャープエッジ、お願いね」
「お任せください、姫!」
 ティアナの言葉にジェットガンナーが答え、同様にゴッドオンを解除したエリオ、キャロに対してもそれぞれのパートナーが答える。
「よし、そんじゃ、いくとするっスかね♪」
「やっぱりジュンイチさん、マグナさんの身体を取り戻しに来たんでしょうか……?」
「まぁ、それも目的のひとつではあると思うよ」
 そして、同様にゴッドオンを解いたウェンディが一同を促す――尋ねるキャロにはレッコウを肩に担いだあずさが答える。
「他にもいろいろあるよ?
 黒幕なスカリエッティのスポンサーのじーさま達をしばき倒す、とか……」
 

「スバル達の母さんの救出とか」
 

 ………………
 …………
 ……

『………………ぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』
「あれ? 言ってなかったっけ? クイントさんのこと」
「初耳ですよ!」
 あずさの挙げた“目的”に、一同から驚きの声が上がる――不思議そうに聞き返すあずさに対し、ティアナが力いっぱいそう返した。

 

 


 

第111話

雷光
〜切り拓け、勝利への道〜

 


 

 

「なるほどねぇ……
 なかなかゴチャゴチャしたことになってるじゃない」
「はい……」
 クイントが動ける状態を維持されていたのは幸いだった。マグナのメディカルポッドを搬入・搬出モードで運搬、出口を目指して移動しながら、事情を説明していたチンクは施設にあった戦闘ジャケットとデバイスを身に着け、となりを走るクイントの言葉にうなずいた。
「それにしても、事件の一番の黒幕が最高評議会だなんて……
 まったく、局員のひとりとしてやりきれないわね」
「心中、お察しします」
「大丈夫だよ!
 悪いおじーちゃん達は、パパがやっつけてくれるから!」
「そうね……」
 自分の言葉に視線を伏せるチンクのとなりで、ホクトが元気に断言する――その言葉にうなずくと、クイントはとなりに視線を向け、
「ノーヴェも、同じ想いかしら?」
「あ、あたしは、別に、どうとも……」
 話を振ってみるが、ノーヴェはぷいとそっぽを向いてそう答える――ぎこちないその態度に、打ち解けられるのはまだ先かとクイントは苦笑し――
 

「困りますねぇ」
 

『――――――っ!?』
 突然かけられた声に、彼女達はとっさに足を止めた。
「クイント・ナカジマ……あなたに勝手にいなくなられては困るのですがね」
 静かに言いながら、その声の主は廊下の奥から姿を現し、
「あなたは、対柾木ジュンイチ用の貴重な人質なのですから」
 そう告げて――ザインはその口元に不敵な笑みを浮かべた。
 

「…………はい、もう大丈夫ですよ」
「すまない」
 治癒魔法をかけ終え、息をつくシャマルの言葉に、ゼストは深々と頭を下げて礼を言う。
「だが……せっかく癒してくれたというのに、私はもう、お前達の力にはなれそうもない」
 言って、ゼストが視線を向けるのはブレードの“獅子絶閃”で刃を粉々に砕かれた自らの槍だ。
 デバイスのコアは無事なようだが、戦える状態でないのは一目瞭然だ。これでは戦列に復帰できそうもない。
「当然ですよ。
 私の魔法は今回の戦いで受けた傷を癒しただけ――あなたの身体は、もっと根本的な治療を必要としています。
 たとえそのデバイスが万全でも、出撃は認められませんよ――クラールヴィントで縛り上げてでも、止めさせてもらいます」
「それは恐いな」
 口を尖らせ、腰に手を当てて告げるシャマルに苦笑し、ゼストは傍らで両者のやり取りを見守っていたアギトへと向き直った。
《旦那……?》
「アギト……お前はまだ、戦える」
 そうアギトに告げて、ゼストは目の前にウィンドウを展開。目的の反応を探す。
 すぐに反応は見つかった――その位置に思わず笑みを浮かべ、アギトに告げる。
「彼の力になってやってくれ。
 彼なら、お前の力も存分に使いこなしてくれるはずだ」
《旦那……
 ……あぁ、わかった!
 このアギト様の活躍、見ててくれよな、旦那!》
 ゼストの言葉に力強くうなずき、アギトはシャマルへと視線を向けた。
「…………はいはい。
 あの人のところに送ればいいのね?」
《あぁ……頼む!》
 アギトの答えにうなずき、シャマルはクラールヴィントを正面にかまえ、
「あぁ、それから……」
 今まさに転送されようとしていたアギトに、ゼストはひとつだけ付け加えた。
「お前に……伝言を頼みたい」
《伝言……?》
 

「はぁぁぁぁぁっ!」
 咆哮と共に、バルディッシュ・ザンバーの金色の刃が閃く――飛び込んだフェイトの一撃が間合いの中のT型ガジェットをまとめて薙ぎ払うが、後方のガジェット群からのミサイル攻撃が一斉にフェイト目がけて襲いかかる!
「く――――――っ!」
〈Sonic Move!〉
 とっさにソニックブームで回避、再びバルディッシュを振るうが、前に出てきたV型が数体がかりで強力なAMF防壁を展開。力押しでザンバーの刃を押しのけてしまう。
「くっ、AMFのせいで、ザンバーの出力が――!」
 そこに襲いかかる、ガジェット群の一斉射撃――距離を取り、フェイトは舌打ちしながらバルディッシュをかまえ直した。
「思った以上にガジェットの防衛ラインが厚い……!
 早くここを突破して、スカリエッティのところに行かなきゃならないのに……!」
 一瞬、“切り札”を切ろうかとも考えるが――
(ダメだ……!
 リミットブレイクは、まだ使えない……!
 アレを使ったら、本当にもう、後がなくなる……せめて、もう少し……!)
 後のことを、そして自分の“役目”のことを考えたら、こんなところで全力を出すワケにはいかない。この場はなんとかして現状の戦力で押し通るしかない――フェイトがそんなことを考えていると、
〈やぁ〉
 突如ガジェット達が攻撃を停止――同時、フェイトの目の前に突如ウィンドウが展開された。
 その画面に現れたのは――
〈ご機嫌麗しゅう、フェイト・テスタロッサ〉
「ジェイル、スカリエッティ……!」
〈我々の楽しい“祭り”の序章は、キミ達の協力のおかげで最高のクライマックスを迎えられそうだよ〉
「“祭り”……!? こんな戦いのどこが!
 それに……私達が協力しているなんて!」
〈協力しているとも〉
 思わず反論の声を上げるフェイトだったが、対するスカリエッティは余裕の笑みと共にそう答える。
〈キミ達機動六課、管理局、そしてディセプティコンに瘴魔軍……私の作品達とある場所では対峙し、ある場所では並び立ち、この“祭り”を最高に盛り上げてくれているじゃないか〉
「ふざけたことを……
 私達は、お前のデモンストレーションに協力するつもりなんかない!
 お前のやっていることは、ただ地上を混乱させているだけの重犯罪だ!」
 言い返し、フェイトはバルディッシュの切っ先をスカリエッティの映るウィンドウへと突きつけた。
「そんな傲慢で、人の命や運命をもてあそんで……!」
〈貴重な“材料”を無差別に破壊したり、必要もなく殺したりはしていないさ。
 私はただ、尊い実験材料に変えてあげただけさ――〉
 

〈価値のない、ムダな命をね〉
 

「――――――っ!」
 その一言で、フェイトの顔から理性の色が消えた。バルディッシュから生み出されたザンバーの光刃が、彼女の魔力のさらなる供給を受けて輝きを増す。
「言わせて、おけばぁっ!」
 そのまま、フェイトはもう対面するのも腹立たしいとばかりにスカリエッティの映るウィンドウ目がけて斬りかかり――映像の中のスカリエッティがパチンッ、と指を鳴らした。
 その瞬間、床から真紅に輝く魔力の糸が放たれた。フェイトの両足やザンバーの光刃にからみつき、その動きを封じてしまう。
「しまった――!」
 冷静さを失ったスキをつかれた。うめき、フェイトがなんとか脱出しようともがいていると、
「フフフ……」
「………………っ!?」
 聞こえてきた笑い声は明らかに肉声――振り向いたフェイトの視線の先、通路の奥から、スカリエッティは笑いながらその姿を現した。
「普段は温厚かつ冷静でも、怒りと悲しみには、すぐに我を見失う」
 言いながら、スカリエッティが右手に装着したグローブ型のデバイスを握り込む――それに伴い、捕獲糸の一部、ザンバーに巻きついているもののしめつけが増した。AMFに極めて近い性質の魔力糸にその力を奪われ、光刃はひとたまりもなく粉砕される。
 同時、フェイトの身体も床に引き下ろされる――新たに発生した捕獲糸が周囲にオリを作り出し、フェイトをその中に捕らえてしまう。
「キミのその性格は、まさに母親譲りだよ――フェイト・テスタロッサ」
「………………っ!」
 スカリエッティの言葉に、フェイトは思わず顔をしかめる――が、捕獲糸によって作り出されたオリの中ではどうすることもできず、ただスカリエッティをにらみつけるので精一杯だった。
 

「オォォォォォッ!」
 咆哮と共に地を蹴り、拳を振るう――最大戦速で飛び込んだノーヴェの一撃がザインを狙うが、
「――――――フッ」
 ザインの口元に笑みが浮かび――眼前に凝縮された“力”が壁となり、ノーヴェの一撃を受け止める!
「な――――――っ!?」
「お姉ちゃん、どいて!」
 あっさりと自分の一撃を受け止められ、驚愕するノーヴェにホクトの声がかかる――とっさにノーヴェが後退し、
「にーくん! サイズシューター!」
「IS発動――ランブルデトネイター!」

 単独となったザインに向け、ホクトとチンクの攻撃が降り注ぐ!
 しかし――
「今……何かしましたか?」
 ザインには傷ひとつつけられていない。防壁に守られ、まったくの無傷でその姿を現す。
「おいおい……なんだよ、その硬さ……!
 ジュンイチの話じゃ、直接戦闘タイプじゃないってことだったのに……!」
「その防壁強度……ヘタをすれば、高町なのはを上回るぞ。
 どういうことだ……!?」
 自分達の攻撃がまるで届いていない――予想を裏切るザインの防御力に、ノーヴェとチンクが思わずうめき、
「やっぱり、私も……!」
「だ、ダメだよ!
 おかーさんは起きたばっかりなんだよ! いくら機械が寝る前の状態のままにしててくれたからって、すぐには戦えないよ!」
 前に出ようとしたクイントを、ホクトがあわてて制止する。
「あなた達の抵抗は無意味ですよ。
 できればもう、おとなしくしてもらえますか? こちらとしても、あまり本気は出したくないんですよ」
 言って、一歩踏み出すザインに対し、ノーヴェ達も思わず後ずさりして――
 

「ファントム、ブレイザー!」

「エリアル、キャノン!」
 

 咆哮と共に飛来した砲撃が、ザインをまともに直撃する!
 そして――
「ノーヴェ! ホクト!」
「チンク姉もいるっスよ!」
 砲撃と声の主、ティアナとウェンディが駆けてきた。後を追い、エリオやキャロ、フリードとあずさも合流してくる。
 ノーヴェ達の無事を確認する彼女達だが、そうすると当然“彼女”にも気づくワケで――
「って、この人……!」
「ギンガさんに、そっくり……」
「まさか、この人……!」
 口々につぶやき、ティアナ達の視線があずさに集まる――うなずき、あずさはクイントに声をかける。
「お久しぶりです。
 あたしのこと……わかりますか?」
「うん。
 あずさ……よね?
 こんなに大きくなっちゃって……ちょっとした浦島太郎気分ね」
 あずさに答え、クイントが彼女の頭をなでてやり――

「……さすがに、今のは少し驚きました」

『………………っ!?』
 あっさりと放たれた声に、一同の間に驚愕が走る――身がまえるティアナ達の前で、ザインは爆煙の中からその姿を現す。
「ちょっ、無傷ってどういうことよ……!?」
「あたしとティアナの砲撃が、ダブルで直撃したんスよ……!?」
 少しはダメージを与えられたと思っていた――驚き、ティアナやウェンディが声を上げると、ザインは興味深げに彼女達を見回し、
「ティアナ・ランスターに、エリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエ……
 おやおや、みなさんおそろいで……“仇討ち”にでも来ましたか?」
「“仇討ち”……?」
「おや、知らなかったのですか?」
 その言葉に思わず聞き返すティアナに対し、ザインは不思議そうに首をかしげた。
「最高評議会は――」
 

「みなさんの“家族”の仇だというのに」
 

『………………っ!?』
「どうやら、本当に知らなかったようですね」
 ザインの告げた言葉に、ティアナ達は目を見開いて動きを止める――対し、ザインは満足げにうなずき、彼女達に告げる。
「ナカジマ姉妹がいないようですが……まぁ、代わりに直接の“被害者”であるクイント・ナカジマがいることですし……戦闘再開を前に、少し暴露大会といきましょうか」
 余裕の態度でそう告げて――ザインは自らの頭上にいくつかのウィンドウを表示した。
 そこに映し出されたのは――
「あれは――私とクイント殿達が戦った時の!?」
「兄さん……!?」
「ルシエの里が……燃えてる……!?」
「あの車……モンディアルの、父さん達の……!?」
 ジュンイチ達がチンク達に敗れた戦闘機人事件。
 殉職し、棺に納められたティーダ・ランスター。
 燃え盛るルシエの里。
 そして、すべての座席が血まみれになった、エリオの記憶に残る特注の乗用車――映し出された映像を前に、チンクやティアナ、キャロ、エリオが声を上げる。
「見ての通りですよ。
 クイント・ナカジマ達が殉職した戦闘機人事件は最高評議会がスポンサーとなり、スカリエッティが進めていたもの。
 そして……」
 言って、ザインはキャロへと視線を向け、
「そこの竜召喚師の絶大な攻撃能力に目をつけ、“力”を制御できる竜召喚師を得ようとルシエの里を襲撃し」
 続いて、エリオに視線を移す。
「実の息子を人造魔導師として再生させ、事実が発覚するなり暗部の研究施設に流した夫婦を、口封じのためにガジェットに襲わせ」
 最後に視線を向けるのはティアナだ。
「その一件に不審を抱き、独自調査していた首都航空隊のエリート魔導師を、捜査中の事故に見せかけて殺害、さらに汚名をかぶせて捜査続投の目もつぶしたのも、最高評議会の指示によるもの。
 そう――みなさんの“家族”の死には、間接的にせよ直接的にせよ、すべて最高評議会が関わっているのですよ」
 ザインの明かした衝撃の事実を前に、ティアナ達は呆然とその場に立ち尽くす。
「そうとも知らずに、今まで管理局のために戦ってきた……ずいぶんとバカな話ですね。
 みなさんにとってはむしろ復讐すべき憎い怨敵……尽くす価値などないでしょうに」
 このままつぶれてくれればこれほど楽なことはない。笑みを浮かべて告げるザインだったが――
 

「だから何?」
 

「な………………っ!?」
 クイントはあっさりとそう返した。予想を真っ向から裏切るその言葉に、ザインは思わず目を見開く。
「私は別に、局のために尽くしてるつもりなんかカケラもないわよ。
 なのに、今さらそんなこと言われたって困るわよ」
 そんなザインを前にしても、クイントはかまうつもりはない、迷いなく、ハッキリと、堂々と言葉を重ねる。
「私はね、局のために戦ってるつもりなんかない……」
 

「人を守るために戦ってるのよ」
 

『――――――っ!』
「ジュンイチなんか、モロにそういうタイプじゃない。
 あの子は組織なんか関係ない。必要とあれば協力を仰ぐし、自分から協力することだっていとわないけど……本質的にはみんなを守る、ただそれだけのために戦ってる。
 みんなを守れればそれでよし――ただみんなでつるんだ方がやりやすいから、そうしてるだけよ」
 クイントの言葉に、ティアナ達がハッ、と顔を上げる――そんな彼女達の前に進み出て、クイントはザインに対しそう言い放つ。
「でもまぁ、最高評議会の悪事をバラしてくれてありがとう。そこはお礼を言っておくわ。
 ジュンイチが評議会の人達をしょっ引いてきたら、その辺じっくり取り調べさせてもらうことにするわ」
 言って、クイントはザインの前に進み出て、
「でも……その前に、まずはあなたを逮捕しなくちゃならないみたいだけどね」
「そういうことですね」
「あたしらは、最初っからお前をブチのめすつもりマンマンっスけどねー」
 クイントの言葉に同意するのはチンクだ。次いでウェンディも、手にしたサジタリウスの銃口をザインに向ける。
 そして――
「ほら、みんなもシャキッとする」
 ティアナ達を促しながら、あずさもまたレッコウを、イカヅチをかまえて前に出る。
「あたし達の仕事は悪いことしてる子達をこらしめること。
 最高評議会が悪いことしてるっていうなら、こらしめる子達のリストに評議会の人達の名前が加わるだけじゃない」
「そーそー。
 ティアナお姉ちゃんもエリオくんもキャロちゃんも、みんな難しく考えすぎ!」
「…………そうね。
 ゴメン、ちょっと混乱してた」
「わたし達が戦うのは……」
「みんなを守るため、ですからね!」
 あずさや、彼女に同意したホクトの言葉に、ようやくティアナ達の顔から動揺の気配が消えた。口々に言って、それぞれのデバイスをかまえる。
「そういうワケだから。
 この子達も復活したし、ここからは私達も全力よ。
 ケガしたくなかったら、今のうちに投降なさい」
「投降?
 これは異なことを」
 ティアナ達も復活し、いよいよ反撃開始――しかし、そんな局面を前にしても、ザインは余裕の態度でクイントにそう返した。
「お忘れですか?
 あなた達は未だ、この私に傷ひとつつけられていないということを」
「そういえばそうなのよね……
 さっきからこの子達も不思議がってるし、タネとかあるなら教えてほしいんだけど?」
「いえいえ。タネと言えるような大層な仕掛けはありませんよ」
 尋ねるクイントに答え――瞬間、ザインのまとう空気が一変した。突如雰囲気の変わったザインを前に、一同は思わず身がまえる。
「ただ単に……私の力が増している……そういうことですよ」
「…………あたし達みたいに修行してパワーアップ、ってワケじゃ、ないみたいね……!」
「えぇ。
 私の場合は、“進歩”ではなく“進化”と言うべきですか……」
 強烈なプレッシャーに気圧されそうになりながらうめくティアナに答え、ザインはさらにその異様な気配を強めていく。
「まだ、この私がこの地上本部に現れた理由をお話していませんでしたね?
 正確には“現れた”のではなく、“元からここにいた”のですよ。
 何しろ……私は最高評議会の“駒”として、彼らによって蘇生された身なのですから」
「あなたも、最高評議会に……!?」
「聞くところによると、私の前に蘇生された者がいたようですが、どうにも言うことを聞かないじゃじゃ馬だったようで、あっさりと御役御免になったらしく……それで私が、ということです」
 それでは彼自身も自分達に言ったような“被害者”ではないか――驚くエリオに、ザインはあっさりと答える。
「あぁ、誤解がないように捕捉させていただきますと、私は別に彼らを恨んでなどいませんよ。
 再び我ら瘴魔が天下を取る、そのための戦いに身を投じることができるのですから!」
「つまり、最終的には裏切るワケっスか……!」
「そういうことですよ。
 彼らが与えてくれた……この力でね!」
 その言葉と同時――ザインの身体が突然盛り上がった。筋肉が膨張を始め、その身体が一回り大きくなる。
 いや――“一回り”どころでは終わらなかった。筋肉の膨張はさらに続き、ザインの身体をさらに巨大化させていく。
「みんな! ここは危険よ!
 中央エレベータホールに!」
 このままでは彼の身体はこの廊下に収まらなくなるのは確実だ。とっさにクイントが指示を出し、一同はエレベータホールまで後退する。
 そして――
《オォォォォォッ!》
 獣の如き咆哮が響き渡り――自分達の出てきた廊下が轟音と共に吹き飛んだ。
 舞い散るガレキや土煙の中、“それ”はゆっくりとクイント達の前に姿を現す。
「あの突起……まさか、ベロクロニアのミサイル発射管!?」
「それにあの生体装甲……ビルボネックの甲羅じゃないですか!?」
「鋭いヒレは、たぶんピラセイバー……!」
「尻尾はまるでサメの尾びれそのものじゃない。
 ネプチューンね、アレ……」
 身長は悠に5メートルは越える、重量級トランスフォーマーに勝るとも劣らぬ体躯――そこに、今までザインが従えてきた主要な瘴魔獣の特徴を兼ね備えたその異形の怪物を前に、ティアナやエリオ、キャロとあずさが口々に声を上げる。
《どうですか? パワーアップした私の戦闘形態は。
 我ながら醜いとは思いますが……この姿にならなければ本気では戦えないので、ご容赦いただきたいのですがね》
 そして、その身体を操る自我は当然ザインだった。妙にエコーの効いた声で、クイント達に告げる。
《瘴魔獣将の長としてだけではなく、彼らを生み出すための開発実験台として、瘴魔獣をその身に融合させる実験台として私は蘇生させられた……
 その結果、我が軍の主力瘴魔獣能力のすべてを兼ね備えた、ハイパー瘴魔獣をも超える力を得た超越生命体……それが今の私です》
 言って、ザインはクイント達に向けて一歩を踏み出し、その重量で足元の床に亀裂が走る。
《さぁ……始めましょう。
 ひとり残らず、踏みつぶしてあげますよ!》
 その言葉と同時――ザインが地を蹴った。大きく跳躍してクイント達に襲いかかり、叩きつけたその両足がホールの床を踏み砕く!
 

《ザインめ……調子に乗りおって……》
《我らのいるこの庁舎で戦闘形態バトルフォームになるとは……》
《やはり、あ奴も我らにかみつく運命さだめにあったか……》
 真っ暗な空間の中で、彼らは言葉を交わしていた。
 最高評議会の面々だ――しかし、そこには人影は存在しない。
 あるのはただ、小型のメディカルポッドが三つだけ――その中にも、人間が入っているワケではなかった。
 その中に浮かぶのは、人間の脳、それだけ――しかし、声は確かに、それらのポッドから発せられている。
《それにしても……いやはや、貴重な、消すには惜しい個体ばかりが裏切るものだな。
 ジェイルといい、ザインといい……そもそもザインの前に蘇生させたあのトランスフォーマーも、我らの意に反して勝手に軍団を作り出し、我らに歯向かってきている》
《まぁよい。
 あ奴らは所詮は捨て駒……世を乱し、世界を変えるきっかけを作るための、ただの起爆剤に過ぎん。
 そういう意味では、あ奴らはその目的を果たしたと言えないこともない。
 そろそろ……よいのではないか?》
《我らが求める、優れた指導者によって統べられる世界……
 我らがその指導者を選び、その影で、我らが世界を導かねばならん。
 そのための生命操作技術、そのための“ゆりかご”……旧暦の時代より、世界を見守るために、我が身を捨てて永らえたのも、その技術あってのもの……》
 そう。ポッドに浮かぶ三つの脳、それこそが最高評議会そのもの――肉体を捨ててそのような姿に成り果てまで地上本部の支配者たらんとした者達、それこそが彼らの正体だったのだ。
《地上も次元の海も、未だ我らが見守ってゆかねばならん》
《“海”でぬくぬくとしていた者達に、真の平和を委ねることなどできんよ》
《管理局創立の頃より世界を見守り続けてきた我らこそ、すべてを統べるに相応しき存在。
 今こそ、世界にそのことを知らしめなければならんな》
 高度な意思伝達システムが彼らの思考を読み取り、発声システムが言葉として紡ぎ出す――口々に言葉を交わす彼らだったが――
 

「へぇ……そういうこと」
 

 そこに、新たな声が加わった。
「スカやレジアスのオッサンを手駒に何やろうとしてるのかと思ったら……本局まで巻き込もうとしてたのか」
 そう告げながら、部屋の奥の暗がりからゆっくりと彼らの前に進み出て――
「できればかんべんしてくんないかな?
 リンディさんとかレティさんとか、マリエルさんとかがとばっちりじゃないか――クロノは別にどーでもいいけど
 三つのポッドのちょうど正面で足を止め、ジュンイチは軽く肩をすくめてみせた。
 

「キミの母親、プレシア・テスタロッサは、実に優秀な魔導師だった……
 私が原案のクローニング技術を、見事に完成させてくれたのだからね」
 捕獲糸で作られたオリの中に囚われ、それでもフェイトは気丈にスカリエッティをにらみつける――その鋭い視線を前にしても動じることなく、スカリエッティはウィンドウにフェイトの母、プレシアの映像を映し出してそう告げる。
「だが、肝心のキミは、彼女にとって失敗作だった。
 よみがえらせたかった実の娘アリシアとは似ても似つかない、単なる粗悪な模造品としてしか、彼女の目には映らなかった。
 それゆえ、まともな名前すらもらえず、プロジェクトの名をそのまま与えられた……
 記憶転写クローン技術、“プロジェクトF.A.T.E.”の最初の一葉……フェイト・テスタロッサ……」
「…………ライオット!」
〈Riot Blade!〉
 スカリエッティの言葉に、フェイトはついに腹をくくった。立ち上がり、力強く宣言――バルディッシュがカートリッジをロードし、ザンバーの柄がより小型に変形。ザンバーよりもさらに凝縮された魔力刃を作り出す。
「ハァッ!」
 そして、気合と共に一閃――捕獲糸のオリを破り、スカリエッティの前に進み出る。
「それがキミの切り札かい?
 なるほど……このAMF状況下では、消耗が激しそうだ」
 だが、その一振りだけで、フェイトは大きく息を切らせていた。そんな彼女の様子に、スカリエッティは余裕の笑みと共に肩をすくめてみせる。
「だが――使ってしまっていいかい?
 ここにいる私を倒したとしても、“ゆりかご”も私の作品達も止まらんのだよ?」
「何…………!?」
「“プロジェクトF”は、うまく使えば便利なものでね。
 私のコピーは、すでに12人の戦闘機人達、全員の体内に仕込んである――いや、柾木ジュンイチはそのことを知っていたようだ。ノーヴェ達のものは、すでに摘出されているようだから、残りの8人分か。
 どれかひとつでも生き残れば、すぐに復活し、一月もすれば、私と同じ記憶を持って蘇る……旧暦の時代、アルハザード時代の統治者達にとっては常識の技術さ。
 つまりキミは、ここにいる私だけでなく、各地に散った8人の戦闘機人、その全員をひとり残らず殺すか捕らえるかしなければ、この事件は……止められないのだよ!」
 そのスカリエッティの言葉と同時、再び捕獲糸が飛び出す――ライオットの使用によって息を切らせていたフェイトにかわしきることはできず、今度はその身をがんじがらめにしばり上げられてしまう。
「あぁ……絶望したかい?
 だが、悲観することはない。
 キミと私は、よく似ているんだよ」
「何……だと……っ!?」
「私は自分の作り出した生体兵器達、キミは自分で見つけ出した、自分に反抗することのできない子供達……
 それを自分の思うように作り上げ、自分の目的のために使っている……違うか?」
「違う…………!」
「違わないさ。
 キミもあの子達が自分に逆らわないように教え、戦わせているだろう?」
 反論するフェイトだったが、その声には力がなく――それを見抜いたスカリエッティもまた余裕の態度でフェイトの反論を封じ込める。
「私もそうだし、キミの母親も同じさ。周りのすべての人間は、自分のための道具にすぎない。
 そのクセ、キミ達は自分に向けられる愛情が薄れるのには臆病だ。実の母親がそうだった……キミもいずれ、あぁなるよ。
 間違いを犯すことに怯え、薄い絆にすがって震え……そんな人生など、無意味など思わんかね?」
「黙れぇぇぇぇぇっ!」
 スカリエッティの言葉に、ついにフェイトのヒザが崩れた。泣き叫ぶように絶叫するその姿を、スカリエッティは実に楽しそうに見下ろして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんちゃって♪」

 

 

 顔を上げ、フェイトはスカリエッティに対しウィンクまじりに舌を突き出してみせた。

 

「何………………?」
 突然のフェイトの異変にスカリエッティが眉をひそめ――それまでの苦悶の様子などまったく見せず、フェイトはいとも簡単に捕獲糸の拘束を引き裂いてみせる。
「やれやれ、だね。
 ずいぶんとキツく縛ってくれちゃって……跡がついちゃったらどうするの?」
「バカな…………!?
 そのバインドは、キミ用にしつらえた特別製、そんな簡単に破れるはずが……!?」
「わかってないみたいだね。
 だから、だよ――“対フェイト専用だからこそ、あたしには通じないんだよ”」
「――――――っ!?」
 答えるフェイトのその言葉に――スカリエッティは気づいた。
「キミは…………“フェイト・テスタロッサではないな”……!?」
「うん」
 あっさりとそう答えると、フェイトと思われた“彼女”はマントに手をかけ、はぎ取り――その下から現れた“本来の”バリアジャケットには、三つの瞳が三角形を描くマーキングが描かれていた。
 “真実を見抜く第三の目”――“神の目”を現す、ゴッドアイズの隊章である。
「時空管理局・嘱託魔導師。
 機動六課“ゴッドアイズ”分隊長――アリシア・T・高町!
 どうだった? 私の名演技は♪」
「バカな……!?
 いったい、いつから彼女と入れ代わって……!?」
「も・ち・ろ・ん、最初から♪
 なんでわざわざ、なのは達とド派手に出動して、クラナガンの戦場を突っ切るような目立つマネをしたと思ってるの?
 あなたの目を、こっちに向けるために決まってるじゃない」
「では、そのバルディッシュは……!」
「うん。
 ジュンイチさんが“蜃気楼”で作り出したコピーだよ。
 ってゆーか、ビックリだよねー。まさかデータを渡しただけでライオットまで再現できちゃうんだから」
 言って、アリシアは手元のバルディッシュへと視線を戻す――アリシアが正体を明かして役目を終えたその模造品は、霧散し、元のナノマシンの粒子となってアリシアの取り出した収納ケースの中に自ら納まっていく。
「本物のフェイト・テスタロッサは……?」
「そんなの決まってる。
 ブッ壊しに行ってもらったよ――」
 尋ねるスカリエッティに、アリシアは余裕の笑みと共にそう答え、
「この基地の……AMF発生装置をね」
 その言葉と同時――アジトが揺れた。足元からの振動と、同時に軽くなった身体がフェイトの“任務”の完了を知らせ、
「スカリエッティ!」
 すぐ近くの床が切り崩された。崩壊した構造材のすき間を高速機動ですり抜け、本物のフェイトが飛び出してくる。
「アリシア……大丈夫?」
「だーいじょうぶジョブJOB♪
 私を誰だと思ってやがりますか? フェイトの自慢の“お姉ちゃん”だよ?」
 心配そうに駆け寄ってくるフェイトに答えると、アリシアは改めてスカリエッティへと向き直り、
「それにしても、ずいぶんとまぁ言いたい放題言ってくれたよねぇ……
 ホント、フェイトを直接ぶつけなくて正解だったわ。この子だったら間違いなく心とかへし折られてただろうし」
 言いながら、本来の自分のデバイス、ロンギヌスを起動。スカリエッティに向けてその穂先を突きつける。
「けどね……カン違いしてるよ。
 『自分に逆らわないように育てる』とか、『自分の思うように使ってる』とか……ウチのフェイトが、そんなことができるワケないのよ。
 なんたって……家族がからんだ時のフェイトは、六課で並ぶ者のない……究極のおバカさんに成り果てるんだから!」
「あ、アリシア!?」
 フォローしてくれたかと思ったら、実際は別の切り口からこき下ろされただけ――アリシアの言葉に、フェイトは思わず声を上げる。
「そ、そんなことないよ!
 私だって、エリオ達のことについてはちゃんとしてるよ!」
「ちゃんとしてる子はエリオ達がちょっと疲れ果ててて自分に気づいてくれなかっただけで『嫌われたぁーっ!』とか言ってみんなに泣きついたりしないのよ!」
「はぅっ!?」
 自分の反論にあっさりとフェイトが轟沈する――ため息まじりに、アリシアはスカリエッティへと向き直り、
「とまぁ……こんなあり様の子に、あなたが言ったようなことができるかしら?
 ぶっちゃけ、あたしはムリだと断言したい」
 そう告げて、アリシアはため息をつき、
「それに……それはあなただって同じだよ」
「何…………?」
「あなたは決して、自分の作った戦闘機人達を道具扱いなんかしていない。
 マグマトロンを始めとした、あなたの作ったトランステクターのゴッドマスター保護システム……データを見たマグナさんが驚いてたよ。『ここまでやるか』って。
 本当に道具扱いしてるのなら、そんな保護システムなんか組む理由はない」
「何を言っているんだい?
 彼女達にはこれからも果たすべき仕事がある……その仕事を果たしてもらうためには無事に戻ってきてもらわなければならない――保護システムは必要なシステムじゃないか」
「まぁ、今はそういうことにしておこうかな?
 ……フェイト」
「うん」
 スカリエッティに答えるアリシアに促され、なんとかシリアスモードに復帰してきたフェイトはザンバーフォームのバルディッシュをかまえ、
「…………オーバードライブ。
 “真・ソニックフォーム”」
〈Sonic Drive!〉
 フェイトの言葉にバルディッシュが答え――彼女の姿が変わった。
 マントが消滅し、中のバリアジャケットも各部が消滅。ほとんどレオタードに近い形状となる――バリアジャケットの装甲を削って機動力を高めた高速機動形態、“真・ソニックフォーム”である。
〈Riot Zamber!〉
 同時、彼女の手にしたバルディッシュも変形――先ほどアリシアがコピーバルディッシュで見せたライオットブレードへと変形するとさらにそれが二つに分化。グリップから伸びる魔力流でつながった、二刀流のライオットザンバーと変化する。
「じゃ、次はあたしだね。
 ロンギヌス――オーバードライブ! “真・マグナムフォーム”!」
〈Magnam Drive!〉
 そして、アリシアもまたバリアジャケットをモードチェンジ――ただし、フェイトと違ってこちらは重量型だ。全身の各所にプロテクターが追加され、そのプロテクターの上に補助推進システムが装着される。
〈Zwei Raketen!〉
 さらにロンギヌスもライオットザンバー同様に双つに分化。やや小型になり、取り回しやすくなった双槍、ツヴァイラケーテンへと変化する。
 フェイトが高機動性を追求したように、突破力を徹底的に追求したアリシアのリミットブレイク、“真・マグナムフォーム”である。
「フェイト! あたしが道を切り拓く!
 フェイトはそれを押し広げて!」
「うん!」
 そんな二人に対し、動きを再開させたガジェット達がスカリエッティを守るかのように防衛ラインを構築――ツヴァイラケーテンをかまえたアリシアにフェイトがうなずき、
「いっくぞぉぉぉぉぉっ!」
 気合の入ったアリシアの咆哮と共に、双つのロンギヌスがカートリッジをロード。さらに全身に備えられた補助推進システムが推進ガスを噴射し始める。
 そして、アリシアは力強く地を蹴り――ロンギヌスが槍の内側から推進ガスを噴射、全身の推進システムと併せて爆発的に加速し、
「撃ち抜け、暴風!
 マグナム、トルネイド!」
 そのまま突撃――ガジェット群を薙ぎ払い、宣言どおり一気にスカリエッティまでの道を切り拓く!
 それでも、難を逃れたガジェット達が防衛ラインに開いた穴をふさごうと殺到するが、
「させない!」
 フェイトがそこに飛び込んだ。二振りのライオットザンバーでガジェットを片っ端から斬り捨て、一気に防衛ラインを突破する!
 そのまま、ライオットザンバーをひとつに重ねる――柄が一体化し、背中合わせに合体したライオットザンバーの刃が、一振りの大型ザンバーを形成する。
 そして、アリシアも――ツヴァイラケーテンの一方の柄が消滅、もう一方の先に連結するように合体し、、巨大な突撃槍ランスとなる。
 フェイトとアリシア、二人は一気にスカリエッティとの距離を詰め――
『オォォォォォッ!』
 同時に叩き込んだ一撃が、思い切りスカリエッティをブッ飛ばした。スカリエッティの身体が一直線に吹っ飛び、壁へと突っ込む。
「…………スカリエッティ。
 あなたを……逮捕します」
 もうもうと立ち込める土煙の中、フェイトは息をついてバルディッシュを下ろし――
「……あー、フェイト?
 カッコよく決めたところで大変申し訳ないんだけど……」
「………………?」
 声をかけてきたアリシアの言葉に顔を上げ――フェイトは目を見張った。
 スカリエッティの叩き込まれた壁の穴――その向こう側が空洞になっており、スカリエッティの姿がどこにもないのだ。
「そんな……!?
 私とアリシアの一撃を受けたのに!?」
「ううん。きっとまともに入ってない。
 直撃の瞬間、アイツは後ろに跳んでた――衝撃を、殺されてたんだ……!」
 声を上げるフェイトの言葉にアリシアが答え――突如、彼女達の周囲にウィンドウが展開された。
「これは……!?」
「このアジトにある、戦闘機人の開発とか、今までの作戦のデータみたいだけど……」
 内容からそのおおよその意味はわかるが、どうしてこれがいきなり表示されたのか――戸惑い、フェイトやアリシアがつぶやき――突如、そのデータに動きが生じた。画面に表示されたデータが、次々に消失していく!
「しまった!
 証拠の隠滅――!?」
「ううん――違う!
 こっちのウィンドウを見て!」
 声を上げるフェイトに答え、アリシアは別のウィンドウを指さす――そこには、消されたデータの上から新たに別のデータが書き込まれている様子が映し出されている。
「データを、改ざんしてる……!?
 でも、どうしてそんなことを……!?」
「ちょっと待って。
 改ざんされたデータに、何か目的のヒントがあるかも……」
 証拠を消したいならわざわざ上書きする必要などないはずだ。スカリエッティが残したと思われる“小細工”の目的が見えず、眉をひそめるフェイトのとなりで、アリシアは改ざんされたデータに目を通し――
「…………ちょっと待ってよ。
 何よ、コレ……!?」
「アリシア……?」
「これを見て!」
 声をかけてくるフェイトに答え、アリシアは問題のデータを彼女に見せた。
「洗脳記録とか、実働メンバーの自由意思のからむ余地のないミッションプランとか……ナンバーズの子達が自分達の意思で動いてた、っていう事実が徹底的に隠されてる!
 “ナンバーズは、スカリエッティの洗脳下で行動、自分の意思は持っていなかった”――事情を知らない人からしたらそう見えるように、証拠のデータが書きかえられてる……
 すべての責任が……スカリエッティひとりに被せられるように改ざんされてるんだよ!」
「スカリエッティに!?」
「スカリエッティは、自分ひとりでこの事件を起こした、って……そう見せかけようとしてる!
 これじゃあ、データからはナンバーズの子達を罪に問うことはできない……」
 そう答え、アリシアは息をつき、思考をめぐらせる――すぐに結論を出し、つぶやく。
「……やっぱり、そうとしか考えられないよね……
 ジュンイチさんから仮説を聞いた時は信じられなかったけど、実際にこういうことされちゃうと、ね……」
「アリシア……?
 どういうこと? どうしてそこで、ジュンイチさんの名前が?」
「簡単な話だよ」
 尋ねるフェイトだったが、アリシアの答えはシンプルだった。
「ジュンイチさんは、こうなることも可能性のひとつとして考えてたんだよ。
 スカリエッティが、こういう形でデータの改ざんを行なうかもしれない、って……
 きっと、ジュンイチさんは予想してたんだ。
 スカリエッティが――」
 

「“娘”達全員の罪を、自分ひとりで被るつもりなんだって……!」

 

《まったく、うっとうしい……!
 いい加減、死になさい!》
 苛立ちもあらわに咆哮し、獣化したザインが全身から生体ミサイルを斉射する――屋内でもおかまいなしの爆撃が襲いかかるが、
「そんなもの!」
「当たんないよ!」
 ノーヴェやホクトには届かない。目まぐるしく飛び回ってかく乱、ザインのミサイルをかいくぐっていく。
 そして――
「クロスファイア――シュート!」
 ティアナの放ったクロスファイアが、さらに飛来した生体ミサイルを迎撃し、
「エリアル、ショット!」
 ミサイルの間隙を縫い、ウェンディの射撃がザインをとらえる。
 そして――
「フリード、ブラストフレア!」
「きゅくーっ!」
 キャロの合図でフリードが火炎を吐き放った。巻き起こる炎がザインの視界を奪い、
「エリオくん!」
「はい!」
 あずさとエリオが懐に飛び込んだ。レッコウとストラーダの一撃が、ザインの顔面に叩きつけられる!
《ぐぅ…………っ!
 やってくれますね!》
 しかし、ザインを倒すにはまだ足りない。全身のミサイルをばらまきながらその巨腕の怪力や腕から生える鋭利なヒレで執拗にこちらを狙ってくる。
「ったく、しつこいわね!
 何発叩き込めば倒れるのよ、アンタは!?」
《倒れることはありませんよ!
 その前に――あなた達が死ぬのですから!》
 何度攻撃を当ててもひるむ様子を見せないザインに、ティアナがうめく――答え、ザインが彼女を狙って生体ミサイルを撃ち放つが、
「足元が――」
《――――――っ!?》
「お留守なのよ!」
 クイントがそんなザインの足元に滑り込んでいた。気づき、見下ろすザインのアゴを、アッパーカットで打ち上げる!
「よし、入った!」
 文句なしのクリーンヒットだ。ティアナを援護、ガンナックルからの射撃で彼女を狙った生体ミサイルを蹴散らしたノーヴェが声を上げる――が、
《だから――どうしたと言うんですか?》
 ザインには大して効いていない――振り下ろされた拳をかわし、クイントはノーヴェ達のそばまで後退してくる。
「ちょっ!? まともに入ったよね、今!?」
「『まともに』じゃない……!
 アイツの力場で、威力を殺された!」
 驚き、声を上げるホクトに答え、クイントは悔しげにザインをにらみつける。
《ムダですよ。
 あなた達に、強化された私の力場を破ることは不可能です!》
 言い放ち、ザインが全身のミサイル発射菅からミサイルをばらまく――建物の崩落の可能性もまるで意に介さない破壊の雨を、クイント達は散開して回避する。
「く…………っ!
 このままじゃ、どれだけ撃ってもムダ弾っスね……!」
 ミサイルを迎撃し、間隙をついてザインを狙うウェンディだが、やはりザインの力場に阻まれて攻撃が届かない。
「アイツを倒すには、生半可な攻撃じゃダメだ……!
 それこそ、一か八か、くらいの大技じゃないと……!」
 うめくようにつぶやき、思考を巡らせる――迷いは一瞬だった。ミサイルの雨を回避しながらティアナ達に声をかける。
「ティアナ――それにみんな!
 命は惜しいっスか!?」
「当然よ!」
 迷うことなくティアナは即答した。
「執務官になる夢を叶えるまでは、死ぬワケにはいかないわよ!」
「ボクらだって!」
「フェイトさんに恩返しするまでは死ねません!」
「きゅくーっ!」
 答えるのはティアナだけではない。エリオやキャロ、フリードもそれぞれに宣言する。
「私もね――パパやママにいっぱい甘えたいもん!
 こんなところで、やられてられない!」
「あたしは……ジュンイチへのリベンジかね、とりあえず!」
「待て、ノーヴェ! それは私が先だぞ!」
 ホクトやノーヴェ、チンクもだ――ミサイルをかいくぐり、ザインに攻撃をしかける。
「そう言うウェンディさんはどうなんですか!?」
「あたしは、そうっスね……
 ジュンイチとのバージンロード、っスかね?」
「ぅわぁ、ウェンディさん、大胆……」
「だったらあたしだって!
 ヴァイスくんが婿入りしてくれるまでは死ねないよ!」
 思わず顔を赤くしてもそれはきっと罪じゃない。エリオへと答えた言葉にキャロの上げた感嘆の声や、それに続くあずさの宣言に、ウェンディはクスリと笑みをもらし――すぐに気を取り直し、ザインをにらみつけた。
「でも……コイツを今倒しておかないと、あたし達の夢どころじゃなくなるんスよ!」
「そうよね……
 根性入れるしかないわよね、ここは!」
「ちょっと、あなた達!?」
 ウェンディの言葉に、ティアナもまたクロスミラージュをかまえて答える――まとう空気の変わった彼女達の姿に、クイントは思わず声を上げた。
「何考えてるの!?
 バカなマネはやめなさい!」
「バカなマネじゃないですよ……」
 しかし、クイントの制止の声も届かない。ティアナが告げ、彼女達はミサイルの雨をかいくぐって集結する。
「これは……みんなの、明日につながる一手!
 いくわよ、みんな!」
『おぅっ!』
《いいでしょう……その覚悟、叩きつぶしてさしあげましょう!》
 気合を入れるティアナ達に、ザインも応じる。火花を散らして両者がにらみ合い――
 

 斬り裂かれた。
 

 両者の間の空間が――“巨大な光の刃によって”。
《何…………っ!?》
「これって……!?」
 だがその一撃を放ったのは、その場の誰でもなかった――ザインとティアナが声を上げると、
「いいぞ、てめぇら。よく吼えた」
 言って、破壊された壁の向こうから彼はその姿を現した。
「けどな――やめとけ、やめとけ、特攻なんぞ。
 そんな勝ち方したってつまんねぇだろ」
「ぶ、ブレードさん!?」
 そう。そこに現れたのはシャマルにゼストを押しつけて姿を消したブレードだった。驚くティアナにかまわず、斬天刀を肩に担ぐ。
 そして――
《あたしもいるぜ!》
「って、アギトもいるんスか!?」
 ブレードに並び立つアギトの姿に気づき、ウェンディが驚きの声を上げる。
《いくぜ、ブレードの兄貴!》
「へぇへぇ。
 試してやるよ――てめぇの力ってヤツをよ!」
《上等っ!》
 ブレードの言葉にアギトも不敵な笑みと共にそう返し、

「《ユニゾン――イン!》」

 宣言と共に、二人の存在が重なった。ブレードの長い黒髪が、身にまとう“装重甲メタル・ブレスト”、“ブレードライオット”が真紅に染まり、周囲に渦巻く“力”が炎となって燃焼を始める。
《バカな……!?
 ブレイカーであるあなたが、ユニゾンするなどと!?》
「そう驚くもんでもねぇだろ。
 柾木のヤツだって、ユニゾンの経験はあるんだぜ――オレができないとは限らないだろう?」
 驚愕し、目を見開くザインに対し、ブレードは獰猛な笑みを浮かべてそう答える。
《それだけじゃねぇよ!
 ブレードの兄貴の属性は“剣”――“炎”はもちろん、“水”でも“風”でも“大地”でも、“光”や“雷”でもない!
 自然の元素の属性を持たない兄貴は、相性の問題を気にせず、あたしの炎の力をすんなり受け入れられる! あたしみたいな属性持ちの融合騎との相性はバツグンなんだよ!
 今の兄貴は“剣”と“炎”の二つの属性を持つ――“二重属性能力者ダブルエレメント”なんだ! お前なんかにゃ負けねぇぞ!》
「……とまぁ、詳しい理屈はそういうことらしいぜ」
 一方でザインに告げるのはブレードの“中”のアギトだ。肩をすくめて付け加え、ブレードは足元に転がっていた手すりの残骸を拾い上げた。ブレードの“再構成リメイク”によって形を変え、二振りめの斬天刀へと姿を変える。
 右手の斬天刀がブレード本来の“力”に、左手の斬天刀がアギトの“炎”に包まれる――右半身を大きく引く形でブレードがかまえ、
「ひよっこどもはナカジマ母を連れて下がってろ。
 巻き込まれてぶった斬られても――知らねぇぞ!」
 言って、ブレードがザインに向けて地を蹴る――左手のヒレで右の斬天刀を受け止めたザインに向け、さらに炎に包まれた左の斬天刀を振り下ろす。
 対し、ザインも右手のヒレで受け止める――ブレードの身体を蹴り飛ばし、間合いを取るザインだったが、
「それで――止めたつもりかよ!?」
 ブレードが双つの斬天刀を振るい、光刃と炎刃が放たれる――斬り裂かれこそしなかったが、直撃を受けたザインの身体は大きくバランスを崩して倒れ込む。
「まだまだぁっ!」
 さらに、ザインに向けて斬天刀を振るい続ける――たて続けに放たれる“力”の刃が、ザインに向けて降り注ぐ。
《これが……全力全開の、兄貴の力……!?》
「『オレの全力』……?
 バカ言うなよ、アギト」
 ティアナ達を苦しめたザインがまるで子ども扱いだ。驚嘆するアギトにブレードが答え、
「オレの全力なんざ……まだまだ先だぜ!」
 さらに放った“力”の刃が、ザインの巨体を痛撃する!
《おぉのれぇっ!》
 しかし、ザインも黙ってやられてはいない。咆哮と共に全身からばらまいた生体ミサイルが光刃を、炎刃をかいくぐってザインに迫るが――
「させない!
 みんな、援護射撃!」
『了解!』
 ティアナの指示で一同が一斉射撃、ブレードに迫ったミサイル群を薙ぎ払う!
「へっ、余計なことしやがって!」
 そんなティアナ達の援護に笑みを浮かべ、ブレードは再び地を蹴る――カウンターを狙ったザインの右腕を十字に交差させた斬天刀で受け止めた。さらにその腕に刃を引っかけ、投げ飛ばす!
 ザインの吹っ飛ぶ先にはティアナ達。そして――
「いったぜ。
 万全の体調じゃなくても、一発くらいは“ウサ晴らし”してやんな!」
「心遣い――感謝するわ!」
 クイントがいた。ブレードに答え、渾身の一撃が飛ばされてきたザインの顔面に叩きつけられる!
 大地に叩きつけられ、バウンドし、ザインの巨体がブレード目がけて打ち返され――
《兄貴――全力全開、ぶちかませぇっ!》
「おぅよ!」
 アギトの言葉にブレードが答え、二人の周囲で渦巻く炎がさらに勢いを増す。
 そのすべてが、二振りの斬天刀の刃に注ぎ込まれ、
「《炎剣――》」
 振り下ろした左の斬天刀でザインに一撃。さらに右の斬天刀も振り上げ、

「《重閃!》」

 仕上げの一撃を、ザインの巨体に叩きつける!
《ギャアァァァァァッ!》
 斬り裂かれ、吹っ飛ばされ――ザインの身体が壁を突き破り、庁舎の外に叩き出され――
「命があったら――また戦おうやろうや」
 ブレードの言葉と同時、叩き込まれた“力”が炸裂。ザインの身体は炎の中に消えていった。

「…………あたしらの覚悟、ムダに終わったっスね……」
「そういうこと言わない。
 戦いはまだ続くのよ――今はムチャせずにすんだことを素直に喜びましょう」
 せっかく気合を入れたのに、見せ場もないままブレードに持っていかれた――ザインの撃破を示す爆発をどこか達観した様子でながめ、ため息をもらすウェンディをティアナがたしなめると、
「アギト」
《あ、あぁ……》
 ブレードに促され、アギトがユニゾンを解いた。クイントの前に舞い降り、告げた。
《クイント・ナカジマ……だよな?
 ゼストの旦那から伝言、預かってんだ》
「伝言……?」
 聞き返すクイントにうなずき、アギトは告げた。
《旦那……アンタや、ルールーの母さんに謝りたがってる。
 8年前、戦闘機人事件の捜査で二人をこんな目にあわせちまったことを……
 だから……助け出されたら、『会いたい』って伝えてくれ、って……》
「そう」
 アギトの言葉にうなずき――クイントは息をついた。
「ゼスト隊長は、どこにいるの?」
《マキシマスに。
 六課の医者に治してもらってる》
「そう……
 じゃあ、そこに行きましょう」
 言って、クイントはアギトをともない、一同の先頭に立って歩き出す。
「マグナさんの身体も持って帰らないといけないし……」
 

「謝る必要もないことでいつまでもウジウジ悩んでるウチの隊長に、ちょっと喝を入れなきゃならないみたいだし、ね♪」

 

《柾木、ジュンイチ……!
 貴様、どうやってここに!?》
「入り口見つけて」
 動揺し、声を上げる――相手が脳だけなので声色で判断するしかないのだが――真ん中のポッドの脳、最高評議会議長の言葉に、ジュンイチはあっさりとそう答えた。彼らの動揺などおかまいなしと言わんばかりに彼らの前へと進み出る。
「いやー、それにしても、ずいぶんとまぁ人間やめた格好になっちゃってるもんだねぇ。
 そこまでして生きたいかねぇ? おにーさんにはちょっち理解できないわ」
《フンッ、貴様のようなバケモノふぜいに、理解してもらおうなどとは片腹痛いわ》
「おやおや、なかなか手厳しいね」
 左側のポッドに収められた脳――書記の言葉に笑い声を上げるジュンイチだったが、笑い声に反しその目はまったく笑っていない。不穏な気配に気づき、右側のポッドの脳、評議員があわてて声を上げる。
《わ、私達を殺すつもりか!?
 地上本部の頂点に立つ我らを殺せば、この地上はさらなる混乱に!》
「今でもじゅーぶん混乱してるだろうに、よく言うねぇ」
 評議員の言葉に、ジュンイチは肩をすくめてそう答える。
「まぁ……安心しろや」
 そして、彼らをなだめるようにそう告げて――

「もう……あんたらは“頂点”なんかじゃない」

 遠慮なく言い放った。その言葉に、評議会の面々は思わず言葉を失う。
《ど、どういうことだ!?
 貴様……今度は何をした!?》
「別に。大したことじゃないよ」
 あっさりと議長に答え、ジュンイチは背後にウィンドウを展開した。
 そこに映し出されたのは、何かのポートフォリオと思われるデータの数々だった。
「とりあえずはおさらいだ。
 管理局ってさぁ、けっこう金食い虫な組織だけど、その運営資金ってどうやって確保してる?
 現地の政府はあてにできないよね――世界ごとに独自運営を許されているとは言っても、自分達はあくまで“時空管理局”であって現地の公的機関じゃないんだ。向こうの世界の政治を行なうための税金を局の運営に使わせたりしたらあっちこっちから批判が噴出することになる。影響力が強いって言っても、各地上本部はあくまで“派遣されてる”ってことを忘れちゃいけない。
 結果として、スポンサーを募って資金提供を受けるのが一番の収入源、ってことになる――そしてそれは、このミッド地上本部も例外じゃない」
 そう前置きし、ジュンイチは右手で背後のウィンドを肩越しに示し、
「さて……本題。
 こいつぁ、ミッド地上本部のスポンサー企業の出資比率を円グラフ化したものと、その各会社のポートフォリオなワケだけど……」

 

「オレの合図ひとつで、この会社全部、オレのものになる、と言ったら?」

 

《何っ!?》
「ネットワーク上に自律・自己学習型の株式売買プログラムを、そりゃもう大量にばらまかせてもらった」
 ジュンイチの告げた言葉は、普通に考えれば到底信じられないことだった。声を上げる評議員に対し、ジュンイチはあっさりとそのカラクリを暴露する。
「ターゲットはミッド地上本部のスポンサー企業すべて。ノルマは各会社の株式70%以上――各プログラムはそれぞれに株式売買を繰り返して、オレのダミーとして各会社の株式を買い集めた。
 あー、釘刺しとくけど、資金はオレの私財をそれぞれのプログラムが株式売買やら為替取引やらで独自に殖やしていったもの。自律システムによる株式の自動売買を禁止する法律もミッドにゃないから、資金的にも手法的にも、まったくの合法だ」
《そうか……!
 地上本部崩壊の折、経済が混乱しなかったのは……》
「そう。
 オレのばらまいた大量の売買プログラム達が、“地上本部の崩壊”という要素に不安を抱くことなく、冷静に市場の推移を分析して売買を繰り返した――その結果だよ。
 もっとも――その時はオレもちょいとばかり仕手戦を仕掛けて、フォローはさせてもらったがね」
 書記の言葉にあっさりと答えるジュンイチだったが、当の評議会の面々にとってはとてつもない一大事だ。
 何しろ、ジュンイチさえその気になれば、地上本部のスポンサーは一瞬にして彼の支配下に収まるということなのだから。もし彼の手によって地上本部への資金の流れが断ち切られれば、ミッド地上本部はあっという間に干上がってしまうことだろう。
「わかったか?
 もう、とっくの昔に王手は詰まれていたんだよ、アンタ達は」
 地上本部を“物理的に”粉砕され、不正の一斉暴露によって“社会的に”打ちのめされ、そして今またスポンサー企業を抑えられることで“経済的に”叩きつぶされた――自分達の立つ場所が単なる砂上の楼閣だと知った彼らの絶望は想像するに余りある。もっとも、ジュンイチは想像できたとしても手加減してやるつもりは一切ないのだが。
「もう一度言うぜ。
 お前らは、地上本部の頂点になんか立っちゃいない。
 ただ余計な欲をかいた、救いがたいジーサマ達だってことさ」
 言って、ジュンイチは“紅夜叉丸”を抜き放った。一瞬にして爆天剣へと“再構成リメイク”し、
「さぁ……今までの行い、出るトコ出た上で洗いざらい吐いてもらおうか。
 イヤだっつーなら、そのポッドを遠慮なく叩き壊させてもらうまで――さぁ、どうするよ?」
 そう言い放つジュンイチだったが――
《なめるなよ……このバケモノが!》
 議長が叫ぶと同時――部屋が揺れた。
 いや、揺れているのはこの部屋ではなく、庁舎全体だ――低い音と共に鳴動を始める。
「これは……!?」
 単なる悪あがきにしては規模が大きい。自分の知らない隠し種でも残していたか――周囲を見回してジュンイチがつぶやき――
「――――って、てめぇら!?」
 最高評議会メンバーの脳を収めたポッドが、周囲の床ごと沈んでいく――床下に逃げようとする彼らに向けて炎を放つジュンイチだったが、それは彼らの前に展開された防壁によって受け止められてしまう。
《やりすぎたな、柾木ジュンイチよ》
《我らを怒らせたその報い、その身に受けるがいい》
《もっとも……ここから無事に脱出できればの話だがな》
「く………………っ!」
 揺れはますます強くなり、建物全体が崩落を始めている。評議会メンバーらの言葉を聞くまでもなく、ジュンイチは脱出すべくきびすを返した。


「な、何…………!?」
 異変は、すでに庁舎を脱出、オメガスプリームやジェットガンナー達と合流していたクイント達も気づいていた。突如鳴動し、崩落を始めた庁舎を見上げて、クイントは思わず声を上げる。
 と――
「どっ、せぇいっ!」
 気合の入った咆哮と共に庁舎の壁が吹き飛んだ――自らの炎で壁を焼き崩し、ジュンイチが庁舎の中から飛び出してくる。
「ジュンイチくん!?」
「クイントさん!?
 え? 何!? もう動けるの!?」
 チンク達に任せたのだ。クイントの無事は確実とは思っていたが、まさか動ける状態にあるとは思わなかった――自分の姿に驚くクイントにジュンイチが声を上げると、
「それより、ジュンイチさん!
 中で一体、何が起きたんですか!?」
「残念ながら、そいつぁこっちが聞きたいくらいでね。
 最高評議会のジーサマ連中、何を隠していやがった……!?」
 それよりも今は庁舎に起きた異変の方が重要だ。尋ねるティアナにジュンイチが答えた、その時――仮庁舎の建物そのものが、轟音と共に“内側から”砕け散る!
 

「ぅひゃあっ!?」
「ち、ちょっと!?」
 飛び散ったガレキは、ジュンイチ達とは反対方向に脱出していたイレインやドゥーエ達の元にも降り注いでいた。レジアスを支えながら、あわててシュレッドラプターの影に隠れ、ガレキをやりすごす。
「い、一体何が起きたっていうのよ……!?」
 衝撃が過ぎ去り、状況を把握しようとイレインが顔を出し――
「――――――っ!?
 こ、これって……!?」
 そんな彼女の視線の先には――仮庁舎のあった場所に、巨大な縦穴が口を開けていた。
 

「おいおい、何だよ、あれ……!?」
「今の破壊でできたもの……ではないな……
 あの庁舎の下にあった空間が、今の破壊で露出した、ということか……!」
 当然、その縦穴はジュンイチ達のいるところからも見えていた。驚き、圧倒され、うめくノーヴェにチンクもまた動揺を懸命に抑えながらそう答え――
「………………あん?」
 最初に気づいたのはブレードだった。
《兄貴……?》
「底の方から、何か来るぜ」
 尋ねるアギトにそう答え――それは地下空洞の奥底からゆっくりと浮上してきた。
 マグナブレイカーよりもふた周りほども巨大で、下半身を巨大な浮遊ユニットに収めた、半人型の機動兵器が。
 そして、それはゆっくりとジュンイチ達の方へと振り向き、
《ふむ…………生きておったか。
 今の破壊で、ガレキの下敷きにでもなってくれれば御の字だったのだが》
「その声……最高評議会の!?」
 聞こえてきたのは、最高評議会の3人の声が重なった合成音声――ジュンイチが声を上げるが、彼らはそれを意に介する様子もない。
《まぁよい。
 それならば、改めて踏みつぶしてやるまでよ――この“トライゴッド”でな!》
「トライゴッド……“三人の神”か」
《そうだ》
 うめくジュンイチに答え、最高評議会――いや、トライゴッドは告げた。
《畏れよ――そしてひれ伏せ!》

 

《我は神なり!》

 

 

「一気に行くよ――レイジングハート!」
〈A.C.S. Drive, Stand by!〉
 宣言するなのはに答え、レイジングハートがA.C.S.を起動させる――自らに光の翼とどんな困難も打ち貫く戦槍を生み出したレイジングハートを手に、なのははプリムラの翼を大きく羽ばたかせた。目の前のガジェット群へと突撃し、一気にその防衛ラインを突破する!
 スバル達に遅れて“ゆりかご”に突入することしばし――だいたい玉座の間への行程の半分ほどをすぎたところである。
「このまま一気に……!
 待ってて、ヴィヴィオ、スバル、マスターコンボイさん、こなた……!」
 その先にいるであろう“娘”や教え子達、そして大切な仲間のことを想い、なのははさらに行く手に立ちふさがるガジェット達を蹴散らして先を急ぐ。
 AMF影響下でもこの戦闘力――もはや“ゆりかご”内部の防衛戦力では彼女を止めることは不可能だ。手がつけられないにも程がある。
 このままいけば、あらゆる障害を突破して玉座の間へと到達できるだろう――と、なのはがふと気を緩めた、まさにその一瞬のことだった。
 

「オォォォォォッ!」
 

 咆哮と同時、行く手の廊下――その天井が轟音と共に砕け散った。
 飛び散る破片の中、天井を突き破り、床を踏み砕いて降り立った巨大な影がゆっくりと立ち上がる。その右手にはすでに、巨大な光の塊が生まれていて――
(砲撃体勢――――っ!)
「エクセリオン――」
 気づくと同時に身体が動いた。迷うことなくなのははレイジングハートをその影に向け――
「ギガ、ブレイザー!」
「バスタァァァァァッ!」

 咆哮が交錯し――なのはと突入してきたマスターギガトロン、両者の砲撃が激突する!
 だが、その威力はすでにチャージを終えていたマスターギガトロンの方が上――なのはの放つ桃色の閃光は少しずつ、ジリジリと押されていくが、
「レイジングハート……プリムラ……!
 “ブラスターシステム”……リミット1、リリース!」
 なのはにはまだ“打つ手”が残されていた。自分の相棒達に宣言し――同時、彼女の身体に魔力がみなぎる。
「ブラスト――シュート!」
 そして、なのはがその力を解き放つ――それによってなのはの砲撃は力を取り戻し、マスターギガトロンの砲撃と完全に拮抗する。
 両者共に一歩も退かない砲撃の激突――やがてどちらともなく“力”の放出を終え、閃光の消え去った後に両者は改めて対峙した。
 が――
「――――――っ!」
《なの姉……!?》
 レイジングハートを握る手に痛みが走る――思わず左手を押さえたなのはに、プリムラが心配そうに声をかける。
〈Master?〉
「平気。
 ブラスター1はこのまま維持」
《いいの?》
「いいよ。
 っていうか……」
 レイジングハートに、そしてプリムラに答え、なのはは前方のマスターギガトロンをにらみつけた。
「ホントなら、リミット全部解放したい気分だよ。
 あの人相手に、温存なんかしてたら瞬殺以外の結末なんかありえないし」
《このAMF濃度なら本質的に魔法である“支配者の領域ドミニオン・テリトリー”は使えないと思うけど……それでも格上には違いない、か……》
「そういうこと」
 プリムラ答えて、なのはは改めてレイジングハートをかまえる――対し、マスターギガトロンも今のなのはの反撃にどこか満足げにうなずいていた。
「抜き打ちでオレのギガブレイザーを止めた……それが“ブラスターシステム”とやらの効果か。
 大層な名前の割には、大したことはないな」
「何ですって……!?」
「気を悪くしたなら謝ろう。
 技術的には大したものだが……その技術を用いる“目的”が大したことはない、と言ったつもりだったのだが」
 視線を強めるなのはだったが、マスターギガトロンはまったく動じることなくそう答えた。
「貴様のただでさえ巨大な魔力をさらに増幅する――並大抵のものではない。
 開発者はよほど知恵を絞り、試作と失敗を繰り返したことだろう――だからこそ惜しい。
 それだけの技術を、ただ増幅するためだけにしか使わないとは」
「それが……私達にとって最善だからだよ。
 そう確信したからこそ……シャーリーやマリーさんはその技術のすべてをブラスターシステムに注ぎ込んでくれた」
 それは戦士であり軍師であり、同時にエンジニアでもあるマスターギガトロンなりの最大級の賛辞なのだろう――対し、なのはもまた、自分達のことを理解してこのシステムを組んでくれたシャリオやマリエルのことを誇らしげに語る。
「そう言うあなたこそ……
 ディセプティコンのメンバーがトランステクターと“レリック”を正しく運用した姿だというのは聞きました……それだけの、“古代遺物ロストロギア”の秘密をそこまで解明できる技術があるのに、なんでこんなことを」
「知れたこと。
 オレが“大帝”だからだ」
 迷うことなくマスターギガトロンは即答した。
「コンボイが“守る者”であるように、大帝とはすなわち“統べる者”。
 あらゆる外敵を破壊し、デストロンを統べる者……そのために絶対の力を求めるのは当然のこと。
 あのマスターメガトロン――マスターコンボイもそうだっただろう。ヤツが自身の“力”によってそれを為そうとしたのに対し、オレは技術によってそれを為そうとしている……ただそれだけの違いでしかない」
 そう告げるその言葉に伴い、マスターギガトロンの周囲で“力”が渦巻き始める。
「オレはこの“ゆりかご”を手に入れる。
 そして、デストロンの代わりに我がディセプティコンを最強の軍団としてみせる……貴様ごときにジャマはさせん!」
 高らかにそう宣言するマスターギガトロンだったが――
 

「…………違うよ」
 

 静かになのははそう答えた。
「あなたはマスターコンボイさんとはぜんぜん違う。
 あの頃のマスターコンボイさんは、ずっと強くなることを追い求めていた……でも、同時に周りの人のことを認められる強さも持っていた。
 相手をただ否定して、見下すだけのあなたとはぜんぜん違う!」
 レイジングハートが、プリムラが同時にカートリッジをロードする――高まる魔力を懸命に制御しつつ、なのははマスターギガトロンをにらみつけた。
「マスターコンボイさんにデストロンを追い出されて当然。
 ジュンイチさんに負けて当然。
 あなたは、あの人達にはとうてい及ばない――私がそれを、証明してみせる!」


次回予告
 
トライゴッド 《我は神なり!》
ジュンイチ 「お前らが神だと!?
 オレ達ゃンなの認めねぇぞ!」
なのは 「そうですよ!」
ジュンイチ 「そんなに認めてほしいなら……

 

 ……悪魔なのはに勝ってみろ!」

なのは 「103話で『魔王』を名乗った人に言われたぁーっ!?」
ジュンイチ 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第112話『守りたい笑顔〜Ace & Joker〜』に――」
3人 『《ハイパー、ゴッド、オン!》』

 

(初版:2010/05/15)