「ちょっ、何スか、アイツ!?」
崩壊した庁舎の下から姿を現した大型の半人型機動兵器――トライゴッドの威容を見上げ、ウェンディは思わず声を上げた。
「柾木、あれは……!?」
「最高評議会の、クソジジEどもだよ」
尋ねるチンクにジュンイチが答え――その答えにティアナやエリオ、キャロの表情が強張るのを気配で感じ取った。
それが自分達の組織のトップに対する畏怖などではないことはすぐにわかった。だから――気づく。
「…………知っちまったか。
アイツらが、お前らの“周り”に何したか」
その言葉に、固まった3人が無言でうなずく――彼女達らしくない、と言わずにはいられないほどに険しいその表情に、ジュンイチはため息まじりに上空のトライゴッドを見上げる。
「……だ、そうだぜ。
いろいろバレてるみたいだぜ――お前らの小細工」
《そのようだな。
だが――だから何だと言うのだ?》
告げるジュンイチだったが、最高評議会――トライゴッドは平然とそう返してくる。
《すべては管理局が築く平和のため。
死んでいった者達には気の毒だが、その先に待つ平和のための尊い犠牲というものだよ》
「ふざけないでよ……!」
あっさりと答えるトライゴッドの言葉に、苦々しく口を開いたのはティアナである。
「竜召喚の力欲しさにキャロの故郷を攻め滅ぼして……!
エリオを人造魔導師としてよみがえらせたご両親を口封じに殺しておいて……!
挙句、エリオのご両親の死を調べていた兄さんや、スバル達のような戦闘機人達を救おうとしたクイントさん達を謀殺した!
すべて、あなた達がしたことじゃない!」
《言ったはずだ。『平和のためだ』と。
平和のための力の提供を拒む者……平和のために隠されるべき技術を不用意に持ち出そうとする者……そして我らが平和のために行うことを“犯罪”として暴き立てようとする者。
それらはすべて、我らが築く平和に異を唱える“悪”なのだ!》
「勝手な、ことをぉっ!」
ハッキリと言い切るトライゴッドの言葉に、ティアナの頭に一気に血が上った。怒りのままにクロスミラージュの銃口をトライゴッドに向け――
「やめい」
そんなティアナを止めたのはジュンイチだった。彼女の頭を軽くはたき、クロスミラージュの銃口を下ろさせる。
「その銃は、みんなを守るためのものだろうが……怒りで向けてんじゃねぇよ」
そう告げると、ジュンイチはティアナの頭をポンポンと叩き、
「お前らもだ。
怒りで力を振るっちゃいけないのは、お前らも同じだ」
今にも飛び出さんとしていたエリオやキャロの肩を叩き、努めて穏やかな口調でそう告げる。
そして、一同の前に進み出るとトライゴッドと対峙する。
「お前らの怒りは、元から“そっち側”のオレが預かる。
オレの怒りと一緒に、全部アイツにお見舞いしてやるよ」
《ずいぶんな物言いではないか。
世界を管理する“神”である我らに歯向かう愚か者が》
言って、自分達をにらみつけてくるジュンイチに対し、トライゴッドもまた余裕の態度でジュンイチを見下ろしてくる。
《所詮は“人”の枠から転げ落ちた化け物か。
崇めるべき者への礼儀がなっておらん》
「言ってろ、脳みそ風情が」
あっさりと答えるジュンイチだったが――その場の誰もが感じていた。
トライゴッドの告げた「化け物」という言葉――その一言を境に、ジュンイチの周囲の空気が一変したことに。
「てめぇがどこの誰だろうが知ったことじゃねぇ。
オレはこれからてめぇをつぶす――それだけだ。
マグナ!」
《はいよっと!》
ジュンイチの言葉にマグナがすぐに応える――ロボットモードを維持していたマグナブレイカーが背後に着地。すぐに乗り込もうとジュンイチが振り向き――
「待て、柾木」
それを呼び止めたのはチンクだった。マグナブレイカーの手に、ブラッドザンバーの形態で収まったままの愛機を見上げ、
「私も行く。
ブラッドザンバーの力が必要だろう?」
「…………好きにしろ」
苦笑まじりにそう答え、ジュンイチはマグナブレイカーの牽引ビームにその身を委ねた。コックピットへと運ばれ、両脇のスロットルを握り締める。
チンクがブラッドザンバーにゴッドオン、マグナもシステムを戦闘モードに切り替える――跳ね上がった出力を自らのエネルギー制御能力で操りつつ、ジュンイチはトライゴッドに向けて機体を飛翔させる。
「さぁ……いくぜ!
誰にケンカを売ったか――教えてやるぜ!」
第112話
守りたい笑顔
〜Ace & Joker〜
「…………っ、く……っ!」
身体のあちこちに傷が刻まれ、応急処置こそしたものの、まともに貫かれた胸の傷からもわずかずつではあるが出血が続いている――痛みに耐えながら、ヴィータはグラーフアイゼンを支えにヨロヨロと廊下を歩いていく。
クアットロの幻影によって自分の近しい人間に変化したガジェットとの戦いは、ヴィータに多大なダメージを与えていた。幻影が解かれてからもそのダメージが尾を引いて苦戦が続き、なんとか全機撃破したはいいが、もはや自力で歩くことも難しいほどにヴィータは消耗していた。
しかし――
「けど……行かなきゃ……!
スバル達は……玉座の間についた頃だよな……!
はやて達も……外で戦いながら、この船が無力になるのを待ってる……
それに……もう、ビクトリーレオがあそこにいるんだ……!」
駆動炉に続く最後の隔壁はもうすぐ目の前だ。残された力を振り絞り、ヴィータは隔壁の前にたどり着く。
グラーフアイゼンがシステムにアクセス。巨大な隔壁が低い駆動音と共に開かれていき――
「――――――っ!?
ビクトリーレオ!?」
駆動炉の防衛システム――周囲に配置されたキューブ状の迎撃砲台からの砲火にさらされ、ボロボロに傷ついたビクトリーレオの姿がそこにあった。
「スカリエッティがナンバーズの罪を被るつもり、って……!?」
「信じられないのもムリはないよね。
あたしだって、言ってて半信半疑だもの」
せっかく捕らえたと思ったスカリエッティには逃げられ、さらにナンバーズをかばおうとしているとしか思えないデータの改ざん――困惑するフェイトに対し、アリシアは肩をすくめてそう答えた。
「でも……少なくともジュンイチさんはそのことを可能性のひとつとして考えていた……
だとしたら……」
その一方で、アリシアが気にかけていることは他にも――しばし思考をめぐらせた後に、フェイトに向けて告げる。
「とりあえず……手伝って」
「何を?」
「この研究所で一番堅牢な場所を探す」
尋ねるフェイトに答え、アリシアはアジトのデータにアクセス。内部の見取り図を読み出す。
「ジュンイチさんの読みの通りなら、そこにはきっと……」
「くぅ…………っ!」
大空を駆け抜けるマグナブレイカーを狙い、次々に砲火が襲いかかる――トライゴッドの両肩の大型砲や下半身のポッドにズラリと並べられた小型砲、その砲撃の乱射から、ジュンイチは機体をすべらせるように逃れていく。
「なめんな!」
そのまま反転、トライゴッドに向けて反撃のマグナキャノンを放つが、相手も一ヶ所に留まっているワケではない。ジュンイチの反撃をかわしてさらに砲撃を繰り返す。
「こいつ…………っ!
あの巨体で、マグナブレイカーとスピードでタメ張るかよ……!?」
かわせないことはないが、攻めづらくてしょうがない――思わずジュンイチが舌打ちすると、
「ジュンイチ!」
そんなジュンイチを追い、ノーヴェのブレイクコンボイが合流してきた。
いや、ノーヴェだけではない。ホクトのギルティコンボイやウェンディのエリアルスライダーはもちろん、ティアナ達もそれぞれの相棒とゴッドオン、空中と地上から合流してくる。
「お前ら!?
下がってろって言ったろ!?」
「言われたけど……やっぱり下がってられないわよ!」
「ジュンイチさんの気持ちはうれしいけど……」
「ジュンイチさんにばっかり、背負わせられないよ!」
驚き、声を上げるジュンイチだったが、ティアナ達も負けてはいない。口々に言い返し、同行してきていたフリードも同意するかのように雄叫びを上げる。
「我々も同じ想いです」
「このまま参戦するのは面倒くさいけど、ほっとくのはもっと面倒くさそうだからね」
「お供いたすでござるよ、大殿様!」
「…………あー、うん。
言いたいこと全部言われちゃったけど……あたし達だってティアナお姉ちゃん達と同じだよ?」
「チンク姉はよくてあたし達はダメ……なんて言わせないっスよ」
「クイント……母さんは柾木あずさに預けてきた!
あたしらも戦うぜ、ジュンイチ!」
ティアナ達だけではない。ジェットガンナー達やホクト、ウェンディやノーヴェも次々に参戦の意志を伝え――
《まったく……》
そんな彼女達の姿に、上空のトライゴッドは苛立たしげにそううめいた。
《まったくもって小ざかしい。
貴重なサンプルだからと見逃してやろうと思っておれば、付け上がりおって……》
「誰がサンプルよ、誰が!」
「ボク達は、あなたの人形じゃない!」
「自分の意思で、自分達の想いで戦ってるんです!」
《それが小ざかしいと言っているのだ――虫ケラどもが!》
反論するティアナ達の言葉にトライゴッドが言い返し――その下半身を攻勢する浮遊ユニットが突如その形を変えた。
上面左右にはめ込まれていた2基の隠し砲塔、さらに前面を覆っていた巨大なハサミを持つ一対のアームが展開され、下面の装甲を形成していた4対8本の脚部もまた下方に解放される。
《神に歯向かうことがどういうことか――教えてくれるわ!》
言い放つと同時、トライゴッドが新たに現れた砲塔を撃ち放った。素早く機体を散開させ、一同がその攻撃を回避する。
「やってくれたな……!
けど!」
今度はこちらの番だ。振り向き、ノーヴェはドライゴッド目がけて飛翔。その右拳をかまえ――
「――――――っ!?
ノーヴェ、後ろだ!」
「あたしも気づいた!」
声を上げたチンクに答え、軌道を強引に修正――左方に機体をすべらせ、“背後”から放たれた砲撃をかわす。
《新手がいたっていうの!?》
センサー類には何の反応もなかったのに――周囲を探るマグナだが、周囲には自分達以外の反応はない。
「考えるのもいいけど動け! 次が来るぞ!」
と、そんな彼らに再びトライゴッドが砲撃、ジュンイチの合図で再び散開、砲撃をかわし――今度は彼らもハッキリと見た。
ジュンイチ達にかわされた砲撃が“曲がった”のだ。大きく弧を描きながら向きを変え、今度はキャロに向けて襲いかかる!
が――そんなキャロをフリードが救った。彼女のゴッドオンしたシャープエッジをその両足に引っかけて上空にかっさらい、破壊の閃光から主を逃がす。
「ビームが、曲がる!?」
「空間湾曲か……!
けど、それさえわかればどうとでも!」
驚くホクトに答え、ジュンイチはトライゴッドに向けて機体を飛翔させる。
反撃の砲撃を放つトライゴッドだが――ジュンイチには当たらない。曲げられ、再度襲いかかる砲撃も含め、そのすべてをかわしながら距離を詰めていく。
「す、すごい……!」
思わず感嘆の声を上げるティアナだが、悪いが応えてやる余裕はない。そのままブラッドザンバーを振るうが、トライゴッドの下半身のハサミに受け止められてしまう。
《懐に飛び込み、ビームを封じる腹積もりか。
ならば!》
しかもこちらの狙いも気づかれた。トライゴッドが告げると同時、下半身の飛翔体ユニット、唯一展開されていなかった上面後方の装甲が跳ね上がり――その内側に刻まれたスリットから、無数の飛翔体が飛び出してくる!
「――――――っ!
全員下がれ! ビットだ!」
「り、了解!」
ジュンイチの言葉にエリオが答えるが――ビットの飛翔速度の方が速い。離脱しようとする彼女達に、次々に襲いかかっていく。
「このぉっ!
クロスファイア――シュート!」
「エリアル、バレット!」
対し、ティアナとウェンディが応戦するが、ビットの動きのキレは彼女達の予想をはるかに超えていた。いともたやすく彼女達の弾幕をかいくぐり、逆に一斉攻撃で彼女達を吹き飛ばす!
「バカな!?
あの弾幕をかわすだと!?」
「くそっ、何なんだよ、あのビットの嵐は!?」
「クソジジイどもが操ってるんだよ――3人がかりで!」
射撃型の二人が、しかも二人がかりで放った弾幕がかすりもしないとは――驚愕するチンクやノーヴェに、ジュンイチは自分を狙ってくるビットをかわしながらそう答える。
「あんにゃろ……3人とも脳ミソだっていうのを、こういう形で利用してきやがるか……!
3つの脳ミソをリンクさせての並列分散処理……それが、人間の頭脳を超えた超速演算処理を可能にしてる。
その演算能力が、これだけのビットコントロールを可能にしてやがるんだ!」
そう告げるジュンイチの能力をもってしても、ビットへの対応で手一杯だ。解き放った炎を目くらましに、間合いに入ったビットをブラッドザンバーで薙ぎ払う。
「参戦許可……出した覚えないけどとりあえず撤回!
全員下がれ! 純粋に戦力的な意味でヤバイ!」
「でも!」
「こんなところで墜ちたくねぇだろ! いいから下がれ!」
反論しようとしたホクトに言い返すと、ジュンイチは今度はチンクに告げる。
「チンク! ファングの制御系全部こっちによこせ!」
「了解だ!」
チンクが答えると同時、ジュンイチの思考にわずかな負荷が加わる――チンクからコントロールを譲渡されたブラッドファングが、ジュンイチを、マグナブレイカーを守るように周りに集結する。
そして、ジュンイチはブラッドザンバーを振りかぶる――ただし、“ノーヴェ達に向けて”。
「柾木!?」
「ノーヴェ――受け取れ!」
その動きの意味に気づいたチンクが声を上げるが――ジュンイチの“決行”の方が早かった。ブラッドザンバーを、チンクをノーヴェに向けて投げ飛ばす!
「柾木、何を!?」
「チンクも下がってろ!」
ノーヴェがキャッチするよりも早くブラッドザンバーからロボットモードにトランスフォーム。告げるチンクに対し、ジュンイチが自分を狙う攻撃をかわしながらそう答える。
「お前らのことまで気を回してる余裕がねぇ!
いけよ、ファング!」
言って、ジュンイチは迫るビットを懸命にかわしていく――飛翔するブラッドファングが、トライゴッドのビットに襲いかかり、激突する!
「ジュンイチ!」
「“ゆりかご”へ向かえ!」
「下がれ」と言われはしたが、どう見ても押されている――飛び出そうとしたウェンディだったが、機先を制したジュンイチの声がその足を押しとどめる。
「戦場を突っ切る形になるけど、幹部級に会わなきゃ楽勝だろ!
こっちはいいから、向こうの戦場の救援に向かえ!」
「でも――」
「お前らの“役割”を思い出せ!」
なおも納得のいかないエリオに、ついにジュンイチも大声を張り上げた。
「オレを失望させるな!
オレはなぁ――」
「“師匠”や“仲間”や、“家族”を見捨てるようなバカを助けた覚えはねぇぞ!」
『――――――っ!』
「オレだって同じだ!
お前らが心配してくれてるんだ――こんなところで墜ちてられるかぁっ!」
咆哮するその言葉に一同が息を呑む――残るブラッドファングを操り、トライゴッドのビットを迎撃しながら、ジュンイチはティアナ達に向けて言葉を重ねる。
「言ったはずだ。コイツはオレが引き受ける――コイツを怒らせちまった責任もあることだしな。
お前らはお前らで、お前らの果たすべきことをしろ!
お前らの――守るべきものを守れ!」
「…………わかった。
行くぞ、お前達」
「チンク姉!」
「ヤツは、我々に高町なのは達のことを託したんだ」
ジュンイチの言葉に同意したのはチンクだ。反論の声を上げるノーヴェにも、努めて冷静にそう答えるとティアナ達へと向き直り、
「ヤツはお前達の怒りを引き受けた。
ならば我々は、ヤツの想いを引き受けてやるべきだ」
「…………そう、ね……」
チンクの言葉にうなずき、ティアナはエリオ達を見回し、
「ここはジュンイチさんに任せましょう。
あたし達は、ジュンイチさんに言われた通り、あたし達の守るべきものを守る――いいわね?」
「ボク達の守るべきもの……」
「“管理局員”として、この世界のみんなの平和と安全……」
「“ボクら個人”として、大切なお姉ちゃん達やなのはさん達!」
「そういうこと」
エリオが、キャロが、ホクトが順に答える――納得してくれた年少組に、ティアナは満足げにうなずき、
「ノーヴェ、ウェンディ」
「わかってるよ、チンク姉」
「別に、管理局がどうなろうがどーでもいいっスけど、みんなに何かあったらジュンイチに会わせる顔がないっスからね」
ナンバーズ組も同様だ。チンクの言葉に、ノーヴェやウェンディも不敵な笑みと共にそう答え、
〈それじゃあ、早く行きましょうか?〉
〈そんなワケで、乗せてってくれるとありがたいんだけどー?〉
「って、クイントさん!? あずささん!?」
突然の通信が彼女達に告げる――発信源をたどればなんと自分達の真下だった。驚くティアナに対し、クイントとあずさは両手を振って彼女達に自らの居場所を伝えてきた。
「レヴァンティン! カートリッジ、ロード!」
〈Explosion!〉
「フォースチップ、イグニッション!
スターブレード!」
咆哮と共にそれぞれが“力”を解放――カートリッジをロードしたシグナムとスターブレードをかまえたスターセイバー、二人は一気に加速、飛翔し、目標へと向かう。
「させっかよ!
トランスフォーム!」
対するはジェノスラッシャーだ。咆哮と共にビーストモードの翼竜形態へとトランスフォーム。刃として鋭く研ぎ澄まされた刃でシグナム達を迎え撃つが、
「紫電、一閃!」
「飛燕、煉獄斬!」
「ぐわぁっ!?」
必殺の一撃を同時攻撃という形で叩きこまれてはひとたまりもない。一方的にパワー負けし、吹っ飛ばされる!
「ぐ…………っ!
くっ、そぉ……っ!」
「……ここまで、だな」
大地に叩きつけられながらも何とか立ち上がるものの、すでにフラフラの状態だ。そんなジェノスラッシャーの姿に、スターセイバーは軽く息をついてそう告げた。
「投降しろ。
悪いようにはしない」
もはや戦う意味はない。バランスを崩してよろめき、今にも倒れそうなジェノスラッシャーに告げるスターセイバーだったが、
「投降しろ、だと……!?」
その言葉に、ジェノスラッシャーの確かに反応した。ふらつく足に喝を入れ、しっかりと踏ん張ってスターセイバーを、シグナムをにらみつける。
「そいつぁ――できない相談だな!」
そして咆哮。投降を促したスターセイバーに対し、力強くそう言い放ち――同時、ジェノスクリームの身体から真紅のエネルギーが解放される!
「何だ!?」
「この輝き……“レリック”の輝きと同じ……!?」
突然の異変に驚き、シグナムが声を上げる――その一方で、スターセイバーは冷静に目の前の異変を分析する。
「間違いない……!
あれは、“レリック”から引き出したエネルギーを、スパークのエネルギーに変換したものだ……!
イグニッションしたワケでもないのに……ヤツのスパークエネルギーが、解放されていく……!?」
思考が口からもれ、言葉として紡がれる――驚愕するスターセイバーの前で、ジェノスラッシャーはロボットモードへとトランスフォーム。その両手に解放されたエネルギーが収束し、いつものそれとは違う、真紅に輝くエネルギーソードとなる。
「その“力”……まさか、その刃!?」
真紅の光刃の正体に気づき、声を上げるスターセイバーだったが、
「オォラァッ!」
相手の方が速かった。地を蹴ったジェノスラッシャーが斬りかかり、スターセイバーはなんとかスターブレードで受け止めるが、
「それで……止めたつもりかよ!?」
「ぐわぁっ!?」
ジェノスラッシャーが言い放ち――スターセイバーの腹を思い切り蹴り上げ、ひるんだスターセイバーを再び放った蹴りで蹴り飛ばす!
「スターセイバー!?
おのれぇっ!」
そんなジェノスラッシャーの思わぬ反撃に、シグナムが動く――再びジェノスラッシャーとの距離を詰め、
「紫電、一閃!」
「させるかよ!」
両者の刃が激突。ぶつかり合う両者の“力”が激しく火花を散らし――
「ぐわぁっ!?」
吹っ飛ばされたのはシグナムの方だった。近くのビルの中に叩き込まれるその光景に、ジェノスラッシャーは油断なく両手の真紅の光刃をかまえる。
「じ、ジェノスラッシャー……!
その刃、まさか……!?」
「おぅともよ。
その“まさか”だよ」
うめくように告げるスターセイバーに対し、ジェノスラッシャーは特に隠すこともせずにそう答えた。
「この刃のエネルギーは、オレの動力源になってる“レリック”から直接引っ張ってきてる。
名付けて、“レリックセイバー”ってところか」
「バカな……!?
“レリック”は貴様らのエネルギー源、我々のスパークのようなものではないか……そのエネルギーを、そんな風に脇に流しては……!」
「あぁ。
今体内に残っている、スパークに変換済みのエネルギーが尽きる前に決着をつけなきゃ、オレは……!」
スターセイバーに答え、レリックセイバーをかまえるジェノスラッシャーだが、その足は早くもふらつき始めている。すでに現時点でエネルギー残量が危険域に突入している証拠だ。
「やめろ!
それ以上は、命を縮めるぞ!」
「命だぁ!?
兵器のオレ達に、ンなもんはねぇよ!」
叫び、取り押さえようとするシグナムだったが、ジェノスラッシャーはそんな彼女の振り下ろしてきたレヴァンティンを真っ向から弾き返し、
「それになぁ!
てめぇらは――まだ戦える内から、形勢が不利になったからってあっさりあきらめんのかよ!?」
「………………っ!」
「それと同じだ!
まだやれることが残ってる内は! 戦う力が残ってる内は、あきらめるワケにはいかねぇだろうが!」
突きつけられた指摘に、シグナムが思わず息を呑む――そんな彼女に、スターセイバーに向けてジェノスラッシャーは一歩を踏み出し、
「意地があんだよ――悪党にだってなぁっ!」
その咆哮に伴い、さらにレリックセイバーのエネルギーが増した。そのままシグナム達に向けて地を蹴り、飛翔し――
「螺旋、血風刃!」
身体全体で高速回転、まるで独楽のように回転するジェノスラッシャーの繰り出した連続斬撃が、シグナムとスターセイバーを弾き飛ばす!
「悲願を果たせ――“復讐鬼”!」
咆哮と共に、マスターギガトロンのかざした剣が姿を変える――触手を生やした球体型モンスターを模したパワードデバイス、“復讐鬼”がなのはの前にその姿を現した。
「武装合体!
マスターギガトロン、スーパーモード!」
そして、呼び出された“復讐鬼”がマスターギガトロンへと合体する――機体を4つに分割し、マスターギガトロンの四肢に合体。スーパーモードへとパワーアップさせる。
「さぁ……始めようか、“エース・オブ・エース”!」
「く…………っ!
レイジングハート! プリムラ!」
〈Drive Ignition!〉
《エネルギーチャージ、とっくに完了!
やっちゃえ、なの姉!》
呼びかける相棒達からは心強い返事が返ってくる――バックステップと共に後方へ飛翔。こちらに向けて地を蹴るマスターギガトロンとの距離を保ちつつ、なのははレイジングハートをかまえ、
「ディバイン――バスター!」
放たれた砲火が、一直線にマスターギガトロンに突っ込んでいく――回避もせず、マスターギガトロンは真っ向から砲撃を受け止めた。轟音と共に巻き起こった爆発がその巨体を包み込む。
「レイジングハート、位置確認!
プリムラ、次弾チャージ、急いで!」
もちろん、あのマスターギガトロンがこの程度で撃墜できるなどとはなのはも思っていない。相棒達に指示を出しながら、慎重に爆煙の中の様子をうかがい――そんな彼女を狙い、煙の向こうから触手が4本、次々に飛び出してくる!
《なの姉!》
「ブリッツシューター!」
〈Blitz shooter!〉
対し、なのはもすぐに対応。放たれた魔力弾が触手を迎撃。破壊には至らないものの、自分への攻撃をさばいてみせる。
すぐさま、4本の触手の飛び出してきた位置、その中央へとレイジングハートを向け、
「バスターレイ、Shoot!」
〈Baster ray!〉
放たれた砲撃が間髪入れずに目標に着弾、爆発を起こし――
(発射から着弾までの時間がさっきよりも短い――近づかれた!)
しかしそれは、相手の接近を意味していた。とっさに距離をとろうとするなのはだったが、それよりも早く飛び込んできたマスターギガトロンによって、思い切り“ゆりかご”艦内の床に叩きつけられてしまう。
「く…………っ!
でも――!」
しかし、元々高い防御力に救われてダメージは最小限――すぐに起き上がり、逃げようとするが、
「逃がすか!」
マスターギガトロンがネメシスの触手を伸ばしてきた。なのはの離脱しようとする軌道上に触手を回り込ませて動きを止め、そのまま距離を詰めると拳を叩き込む!
「あぁぁぁぁぁっ!」
とっさに展開されたラウンドシールドによって直撃は免れたが――それだけだ。叩きつけられた強烈な衝撃に姿勢を維持できず、大きく弾き飛ばされたなのはは艦内の壁に叩きつけられてしまう。
「くぅ…………っ!」
「死ねぇっ!」
背中に叩きつけられた衝撃に苦悶の表情を浮かべるなのはに、マスターギガトロンが襲いかかる――繰り出された触手をかわし、飛翔するなのはだったが、
「逃げられると思ったのか――貴様の、そのスピードで!?」
マスターギガトロンの反応の方が速い。かざした右手に魔力が集中。放たれた砲撃がなのはを直撃、吹き飛ばす!
「あぁぁぁぁぁっ!」
まともに直撃をくらい、吹っ飛ばされる――勢いよく床に叩きつけられるなのはに対し、マスターギガトロンは悠然と歩を進めてくる。
「ダメだ……こっちの得意な距離を取らせてもらえない……!
私がやられてイヤなことを、きっちり把握して攻めてくる……!」
並の砲撃では通じないし、通じるほどの砲撃を撃てるほど距離も取らせてもらえない。攻撃は苦手分野の近接戦が中心――そして何より、重装甲ゆえに重く、クセのあるこちらの機動を正確に把握、先読みしてくる。
こちらの不利な要素を正しく理解し、とことんついてくるマスターギガトロンの容赦のない猛攻に、なのははうめきながらもなんとか立ち上がる。
「このままじゃダメだ……!
今の出力のままじゃ、逃げ切れないし、防ぎきれない……それに、攻撃だって通りきらない……!」
迷いは一瞬――すぐに相棒に呼びかける。
「レイジングハート……!
ブラスターモード、リミット2!」
最低限、出力を上げることはどうしても必要だ。レイジングハートに告げるなのはだったが――
〈Are not yet.〉
対し、レイジングハートはそんななのはをいさめるようにそう告げた。
〈It is immediately dealt with even if it uses from the front.
Wait until the more decisive chance comes.〉
「でも……」
〈Believe me,Master.〉
「………………」
言葉を重ねるレイジングハートに、なのはは思わず答えに困り、
《私からもお願い、なの姉》
そんな彼女に、プリムラもまた告げる。
《私達がいっぱいいっぱい、フォローするから……その時が来たら、全力で制御するから。
だから、チャンスが来るまでがんばろう!》
「…………そうだね」
そんなプリムラの言葉に、なのはは息をつき、答えた。
「不利だからって安易に出力アップに頼ってたら、ダメだよね……
そんなんじゃ、いつまで経っても、あの人には追いつけない……!」
そう答えるなのはの脳裏に蘇るのは、自分と悠然と対峙するジュンイチの姿――
「ありがとう、二人とも。少しは冷静になれたよ。
ブラスターのリミット解放のタイミングは、私達3人で考えよう」
言って、なのははレイジングハートを改めてかまえ、
「それまでは……絶対に耐え切ってみせるから!」
告げると同時――なのはの放ったディバインバスターが、マスターギガトロンの展開した防壁に叩きつけられる!
「ホントにあった……
ジュンイチさんの読み通りだ……」
「ここは……ビオトープ……?」
アリシアに続いてスカリエッティのアジトのさらに奥へ――たどりついたそこは、地下であることが、重犯罪者のアジトであることが信じられないような一面の花畑だった。一帯を見回し、フェイトはつぶやくアリシアのとなりで思わず声を上げた。
「なんで、このアジトにこんな場所が……!?」
「アレだよ」
フェイトに答え、アリシアが視線で指し示した先には、花畑の一角に並んだ、きれいに切りそろえられた石が並べられている。
いや、ただの石ではない。これは――
「お墓……!?」
「うん。
たぶん……スカリエッティの実験で、犠牲になった人達や動物達の……これを見て」
つぶやくフェイトに答え、アリシアは石に刻まれたそれを指さした。
「単語として意味を持たない、アルファベットと数字の羅列……
たぶんコレ、実験対象につけたコードナンバーだよ。動物とかだと名前なんかないだろうから、区別するためにコードナンバーを使うしかなかったんだ……」
そのアリシアの言葉に、フェイトは足元の墓石に視線を落とす――そこには、アリシアの見つけたものとは違い、確かに人名が刻まれている。
「確かに、あの人のしてきたことはほめられたものじゃない。
でも……スカリエッティはスカリエッティなりに、自分の犠牲になった人達に対しての責任ってものを、持ってたんじゃないかな……?
だからこそ、自分の実験によって死んでしまった命を、こうして葬ってあげて……」
「そんな……!?」
つぶやくように告げるアリシアだったが、その内容はフェイトにとってはとうてい信じられるものではなかった。彼女にとってあまりにも衝撃的なその事実を知らされ、混乱のあまりよろめいてしまうほどだ。
「……わからない……
わからないよ、アリシア……
だって、スカリエッティは……絶対に許せない、重犯罪者のはずなのに……!」
そんなフェイトの言葉に、アリシアは息をつき、
「わからないなら、さ……知ろうとするしか、ないんじゃないかな?」
「え…………?」
「話せばいいじゃない。
どっち道、スカリエッティの罪が消えるワケじゃない以上は捕まえなきゃならないんだもの。
捕まえた後……スカリエッティとタップリと話せばいいじゃない」
顔を上げるフェイトにアリシアが答え――
〈あー……お話中なのはわかるけど、ちょっとゴメンね〉
そんな彼女達のやり取りに乱入してきたのは、展開されたウィンドウに映るジャックプライムだ。
〈フェイト、それからアリシアも。
ちょっと、ボクの方までこられないかな?〉
「どうしたの? ジャックプライム」
〈うーん……〉
聞き返すフェイトの言葉に、ジャックプライムは映像の中で困ったように頬をかき、
〈なんか……“モノスゴイモノ”を見つけちゃったみたいで、さ……〉
「いっ、けぇぇぇぇぇっ!」
咆哮と共に“力”を解き放つ――ジュンイチの、マグナブレイカーの周りで荒れ狂う炎が渦を巻いて襲いかかるが、
《その程度の異能が、我らに通じるものか!》
トライゴッドには通用しない。放たれた砲撃によって炎はあっけなく吹き散らされ、さらに彼らに操られる大量のビットがマグナブレイカーに襲いかかる。
《どうしたどうした? 先ほどまでの威勢が見えんなぁ?》
「言ってろ、ボケが!」
返すと同時に炎を解放、迫るビット群を焼き払うジュンイチだったが、ビットの数は一向に減る様子がない。機体自体に生成プラントが仕込まれているらしく、次々に生み出されてはトライゴッドの周りで守りを固めていく。その圧倒的な物量を前にしては、さすがのジュンイチもチンクから預かったブラッドファングも使い切り、完全に攻めあぐねている状態だ。
《フンッ、いい加減にあきらめろ。
所詮、貴様ごときが神たる我らに勝てるはずがないのだ。
我らに従い、我らの築く世界を守るための力となるのであれば、これまでのことを不問にしてやってもいいぞ》
「ハッ、冗談じゃねぇ」
完全に調子づき、上から目線のトライゴッドだが、そんな彼らに対し、ジュンイチは苛立ちもあらわにそう答えた。
「“世界を守るための力”か……
“だからこそ、お前らはダメなんだよ”」
《何………………?》
「お前らは、世界しか見ちゃいない!
そこに生きてる人間のことなんか、これっぽっちも見ちゃいない!」
トライゴッドに言い返し、ジュンイチはマグナセイバーを両手にかまえる。
「お前は、ちっともわかっちゃいない――」
「みんなは、大丈夫でしょうか……?」
「今は、信じるしかないわ」
戦艦マキシマスの艦内――ウーノを支え、つぶやくように尋ねるグリフィスに対し、シャマルは静かにそう答えた。
「心配はあるまい。
お前達のところの魔導師達も、騎士達も、皆それだけの戦いを戦い抜いてきたのだから」
そして、ゼストもまた、各地で戦う“仲間”達の勝利を信じてそう告げて――
〈事件が解決したって、グリフィスとクソ秘書が引き離されたら意味がねぇ……〉
「え………………?」
「ジュンイチさん……?」
突然開かれた通信から自分達の名前が挙がり、グリフィスと彼に支えられたウーノが顔を見合わせ、
〈すべてが終わったって、ナンバーズのみんなが引き離されてたら意味がねぇ……〉
「ジュンイチ……」
「アイツ……私達のことまで……」
“ゆりかご”の前――セインや、彼女を守ってドールや瘴魔獣の群れを迎え撃つディエチが声を上げ、
〈世界を救ったって、ギンガ達が幸せになれなきゃ意味がねぇ……〉
「ジュンイチさん……!」
“ゆりかご”の艦内でガジェットの群れと対峙するギンガもまた、彼の想いを汲み取ってその名をつぶやき、
〈“ゆりかご”を止めたって、なのはとヴィヴィオが笑って生きられなきゃ意味がねぇ!〉
「………………っ!」
マスターギガトロンの砲撃をなんとかラウンドシールドで受け止め、フラッシュムーブで追撃の触手をかわす――次々に繰り出される攻撃をかいくぐりながら、なのはは強くレイジングハートを握りしめる。
「たとえ周りでドンパチやってようが、アイツらが心から笑っててくれればそれでいい」
ジュンイチの操作でマグナセイバーが峰を重ねるように合体、マグナブレードへと変形し、
「たとえ相手が悪党でも、一緒にメシ食って、ゲラゲラ笑ってられるならそれでいい」
言いながら、ジュンイチはそれをトライゴッドに向けてかまえる。
「たとえどれだけ平和でも……」
「アイツらが笑ってられない世界は願い下げだ!」
力強く宣言し――ジュンイチの“力”の高まりに伴い、マグナブレイカーの周囲の炎がその勢いを増す。
「マグナ……使うぞ」
《もう、止めないわよ》
静かに告げるジュンイチの言葉に、ウィンドウに映るマグナは不敵な笑みと共にそう答えた。
《というか……むしろやりなさい。
これは指示じゃないわ……ベルカの“王”としての、命令よ》
「王様扱いはされたくないんじゃなかったっけ?」
《特権は使うためにあるのよ》
「そいつぁごもっとも」
あまりにもあっさりとした物言いに、ツッコむよりも先に苦笑がもれる――マグナブレイカーのコックピットで肩をすくめ、ジュンイチはレバーを握りなおし、
「そんじゃ……相方さんのご命令が下ったことだし、そろそろ本領発揮といこうか!」
上空のトライゴッドをにらみつけ、高めた“力”を解放すべく、宣言する。
「フォースチップ、イグニッション!」
瞬間――ジュンイチのもとにフォースチップが飛来した。ミッドチルダのチップがジュンイチの精霊力の影響を受けて変質。“ブレイカー”のフォースチップへと姿を変え、マグナブレイカーの背中のチップスロットへと飛び込んでいく。
それに伴い、機体がバーストモードへと移行。マグナブレイカーのまとう“力”が一気にそのパワーを増し、激しく荒れ狂う。
だが、それで終わりではない。ジュンイチの制御により、高まる“力”が機体の内へ内へと流し込まれていく――並の制御システムでは間違いなく機体もろとも焼き尽くすであろうその“力”をジュンイチは抑え、まとめ、導いていく。
そして――叫ぶ。
「マグナブレイカー……全リミッター、完全解放!」
「フル、バァァァァァァァァァァストッ!」
その瞬間――“力”が弾けた。
ジュンイチによって完璧に制御された“力”が、マグナブレイカーを通じて解放されたのだ。一度その内部に取り込まれ、練り上げられたその力は、バーストモードのそれをはるかに上回る出力をもって、マグナブレイカーを真紅の輝きで照らし出す――
これこそが、マグナブレイカーの最大の切り札“フルバースト”。バーストモードですらもてあますほどのフォースチップのエネルギーを、さらに機体の内部で凝縮、より純度の高い“力”に高めることで、機体のスペックをさらに劇的に引き上げる。
しかし、高まりすぎた力は機体はもちろん、制御するジュンイチにもさらなる負担を強いる。ジュンイチとマグナブレイカー、双方がその力を極限まで出し切ることで初めて使用が可能となる、まさに“全力全開”と名づけるに相応しい力なのだ。
《な、何だ、その力は!?》
一方、フルバーストの発動に面食らったのはトライゴッドだ。データにあるバーストモードのそれをはるかに上回る出力上昇に驚きの声を上げ――
「ビビッてるヒマは――」
《――――――っ!?》
「――ねぇぞ!」
そんなトライゴッドに、ジュンイチの駆るマグナブレイカーが襲いかかった。とっさに展開されたシールドに、振り下ろされたマグナブレードが叩きつけられる!
だが――
「オォォォォォッ!」
咆哮と共に、ジュンイチは叩きつけたマグナブレードをさらに押し込んだ。食い込むように防壁を抉る刃が、やがてはシールドの反対側に届き、力任せに押し切ってみせる。
《なめるな、この化け物が!》
対し、トライゴッドも2本のハサミで応戦。再び振るわれたジュンイチの刃を迎え撃つが、
「そんな――もんでぇっ!」
ジュンイチはハサミをかいくぐってその下側に。すくい上げるように振るったマグナブレードが、左のハサミを支えるアームの中ほどから斬り落とす!
《おのれぇっ!》
咆哮と共にトライゴッドがビットを向かわせる――無数のビットがあっという間にマグナブレイカーを取り囲み、一斉射撃をしかけるが、
「このオレ達が、墜とせるかぁっ!」
マグナブレイカーは一発の被弾も許さない。ジュンイチの操作で全方位に防壁を展開。飛来するビットのビーム、そのすべてを受け止める。
直後、着弾による爆発の嵐が巻き起こり――煙が晴れた後にマグナブレイカーの姿はない。爆発に紛れ、トライゴッドの死角に逃れたようだ。
《ヤツは、どこに……!?》
すぐにセンサー類を用いてマグナブレイカーを探す――が、トライゴッドが反応を捉えるまでのわずかな時間すら、今のジュンイチ達にとっては十分な時間だった。
「《オォォォォォッ!》」
ジュンイチとマグナ、二人の咆哮が重なり合い、背後から振り下ろされたマグナブレードの刃が、トライゴッドの人型の上半身、その右腕を叩き斬る――どころか、斬撃の衝撃で粉々に粉砕する!
「クソ脳ども……いや、トライゴッド!
お前は、その場所にいちゃいけないんだ!」
ビットと砲台を総動員し、ジュンイチを、マグナブレイカーを狙う――トライゴッドのばらまく火線の嵐をかいくぐり、ジュンイチの放った炎が自分を狙うビットを何機か飲み込み、爆砕する。
「お前がいる限り、世界は、管理局はお前達を頼ろうとする!
世界は、お前を中心に回り続ける!
けど……それじゃダメなんだ!」
《ほざくな!》
左右の主砲がこちらを狙う――通常のスピードではかわせなかったであろう砲撃をあっさりかわし、ジュンイチはトライゴッドの懐に飛び込み、渾身の拳で殴り飛ばす。
「世界は、個人の意志で動かされちゃいけない!
世界は、個人の手に委ねられちゃいけない!
世界が頼りたがるような――そんな超越者は、存在しちゃいけないんだ!」
《貴様が――言えた義理か!》
マグナブレードとトライゴッドのハサミが激突、つかまれたマグナブレードがきしむのを感じ、ジュンイチはとっさにハサミに蹴りを叩き込み、弾いた。背後から迫るビットをかいくぐり、トライゴッドの周囲を飛翔する。
《貴様も、この事件を裏で操り、世界を動かしてきただろうに!
同じ穴のムジナが――片腹痛いわ!》
トライゴッドの咆哮と共に、ビットが一斉に飛翔。放たれたビームがマグナブレイカーに降り注ぎ――
「…………わかってんだよ――そんなこと!」
ジュンイチの放った炎がビームを吹き飛ばした。そのままビットを飲み込み、一掃する中、トライゴッドをにらみつけ、告げる。
「個人の意志で世界を動かした……その咎なら受けるさ。
お前達を倒して……すべてにケリをつけた後でな!」
『――――――っ!?』
激しく“力”をばらまきながら戦うマグナブレイカーのパワーは、戦場のほぼ反対側の“ゆりかご”の、しかもAMFの効いた艦内からも探知できた。お互いに対峙する相手のことを一瞬忘れ、なのはとマスターギガトロンは同時に顔を上げた。
「――なんだ!?
このパワーは……!?」
「…………わかるはずだよ、マスターギガトロンさん」
驚愕し、うめくマスターギガトロンに答え、なのはは静かに息をついた。
「これは……ジュンイチさんだよ。
ジュンイチさんが……戦ってるんだ……!」
先ほどの通信――ジュンイチの手によるものとは思えない。おそらくはマグナが自らの独断で配信したであろう彼の宣言を思い返しながら、レイジングハートを握る両手に力を込める。
「これは、ジュンイチさんのフォースチップの……ジュンイチさんの、命の“力”……
みんなの明日を切り拓こうとする、ジュンイチさんの想いの“力”……!」
顔を上げ、決意に満ちた視線をマスターギガトロンに向ける。
「レイジングハート。
プリムラ」
〈It understands.〉
《チャンスを待つつもりだったけど……あんなの聞かされたら、こっちもくすぶってられないよね!》
静かに告げる言葉はただの確認――案の定、相棒達からはなのはの意図を正確に読み取り、同意する返事が返ってくる。
もう、何のためらいもない――強い決意と共に、なのはは叫んだ。
「ブラスターモード、リミット、オールリリース――」
「ブラスター、3!」
同時――なのはの魔力が一気に跳ね上がった。なのはの周囲が桃色に輝く彼女の魔力光に包まれ、渦を巻く。
さらに、周囲にはレイジングハートのエクセリオンモード、その先端を模したオールレンジ端末“ブラスタービット”が作り出される。その数――4基。
「とうとう、使ったか……」
対し――マスターギガトロンは冷静にその光景を見守っていた。なのはのパワーアップにも動じることなく、息をついてそうつぶやく。
「そのブラスターシステムの正体は、術者の身体の耐えられる限界をはるかに超えた自己ブースト……
撃てば撃つほど、守れば守るほど、飛べば飛ぶほど、術者もデバイスも命を削る諸刃の剣……
優秀な前衛がいて、後先考えない一撃必殺を撃てる状況ならば有効な手であろうが、単独戦闘ではその負荷を倍増させるばかり……
そこまでして勝ちたいか、このオレに」
「勝ちたいんじゃ……ないよ」
静かに、落ち着いた口調で、なのはもまたマスターギガトロンに答えた。
「ただ……止めたいだけ。
この“ゆりかご”も……あなたも」
「できるとでも思っているのか?」
〈We can do.〉
《がんばってるのは、なの姉だけじゃない……私達だって、一緒に戦うんだもん!
不屈の“エース・オブ・エース”、高町なのはとそのパートナーである私達が力を合わせれば、あなたなんかに負けたりしない!》
聞き返すマスターギガトロンだが、レイジングハートやプリムラもまた、なのはを支えるように力強く断言する。
「マスターギガトロンさん……
大規模騒乱罪の現行犯で、あなたを無力化します!」
「いいだろう!
来い! 高町なのは!」
告げるなのはに言い返し、マスターギガトロンがしかける――身にまとう“復讐鬼”から放つ触手の群れが、一斉になのはに向けて襲いかかるが、
「ブラスタービット!」
〈Divine Buster!〉
なのはの指示でブラスタービットが飛ぶ。なのはの魔法を中継し、それぞれが魔力砲を放ち、触手を迎撃する。
「今のは……出力こそ落ちていても、紛れもなく貴様の主砲……!
貴様の魔法を中継するのが、そのビットの本当の力か!
ならば、これでどうだ!」
告げると同時、マスターギガトロンは触手群を引き戻した。それぞれの先端に魔力を集め、一斉に解き放つ!
だが――またもブラスタービットが動いた。なのはの周囲に集結するとそれぞれがプロテクションを展開。なのは自身の展開したそれも加わり、マスターギガトロンの砲撃を難なく受け止め、弾き飛ばす!
そして――
「いっけぇっ!」
〈Baster ray!〉
なのはの咆哮が響き――放たれた一斉砲撃が、今度こそマスターギガトロンを直撃する!
「オラオラオラオラァッ!」
両腕から伸びる、真紅に輝く光刃を閃かせ、目の前の標的に踊りかかる――自分の命すら“力”に変えたジェノスラッシャーの猛攻が、シグナムとスターセイバーを圧倒、追い込んでいく。
「やめろ、ジェノスラッシャー!
本当に死ぬぞ!」
「言ったはずだ――知ったことじゃねぇってよぉっ!」
警告するスターセイバーだが、ジェノスラッシャーは止まらない。斬撃の合間に繰り出した蹴りがスターセイバーの胸を強打し、
「紫電、一せ――」
「おせぇっ!」
シグナムに向けて右の光刃を振るった。すくい上げるように放たれた斬撃が振り下ろされたシグナムの刃と激突。彼女の手からレヴァンティンを弾き飛ばす!
「てめぇもだぁっ!」
次いで、スターセイバーの手からもスターブレードが弾き飛ばされる――これでシグナムとスターセイバーは完全に無防備な状態だ。
「もらったぁぁぁぁぁぁっ!」
勝ちはもらった――確信と共に、ジェノスラッシャーが両手の光刃をスターセイバー目がけて振り下ろし――
スターセイバーの“拳”が、ジェノスラッシャーの顔面に打ち込まれていた。
「な………………っ!?」
痛烈なカウンターに集中を乱され、両手から光刃が消失した。たまらずたたらを踏み、ジェノスラッシャーがうめき――
「はぁぁぁぁぁっ!」
その顔面を、さらにシグナムが放った飛び蹴りが痛打する。
たて続けに顔面に打ち込まれた打撃は、ジェノスラッシャーのバランスを完全に崩壊させた。その身体が仰向けに崩れ――
「むんっ!」
そんなジェノスラッシャーを捕まえたのはスターセイバーだ。ジェノスラッシャーの身体をうつ伏せになるよう地面に叩きつけ、そのまま背後からのしかかり、押さえ込む。
そこへ、弾き飛ばされていたレヴァンティンを拾い上げたシグナムがバインドをかけた。ジェノスラッシャーの身体を縛り上げ、完全に拘束する。
「ディセプティコン破斬参謀ジェノスラッシャー。
大規模騒乱罪と陸士108部隊襲撃の容疑で、貴様を逮捕する」
「ぐ………………っ!」
スターセイバーの言葉になんとか脱出しようともがくジェノスラッシャーだが、シグナムのバインドは思いのほか強固で、抵抗はおろか身動きすら満足にとれない。
「てめぇら……剣だけじゃなかったのかよ……!」
「それなりに、死に物狂いで修行したからな」
それにしても、剣を弾き飛ばしたその後に、素手のまま反撃を許すとは思っていなかった――うめくジェノスラッシャーにはスターセイバーが答え、
「もう柾木に『斬れなきゃただの役立たず』などと言われるのは御免なんだ」
シグナムもそう同意してみせた。息をつき、ジェノスラッシャーに向けて付け加える。
「貴様にはわからんだろう。
いくら本人ではないとはいえ――恭也の前に愛した男、その生まれ変わりに落胆されるのは、けっこうキツイんだぞ」
「こ、これって……!?」
ジャックプライムからの報告を受け、やってきたのはアジトの最深部――そこに収められていた“それ”を前に、フェイトは思わず声を上げた。
目の前では、頭頂高で30m強、全長に至っては50mに達しようかというサイズの巨体を青色の装甲で固めた、人型に近いスタイルのドラゴン型機動兵器が壁に縛り付けられるように拘束され、沈黙していて――
「うんうん、懐かしーなー」
「って、アリシア、知ってるの!?」
となりで感慨深げにうなずくアリシアに、フェイトは驚き、声を上げる。
「アリシア、これは一体……!?」
「聞いたことない?
ジュンイチさん達“ブレイカー”は、それぞれ自分達専用の機動兵器“ブレイカービースト”を持ってる。
もっとも……ジュンイチさん達の場合は、10年前にジュンイチさん達の世界で起きた“瘴魔大戦”で、ジュンイチさん以外のみんなのブレイカービーストは全部大破しちゃったんだけど……」
「じゃあ、まさか、この機体は……!?」
「そう」
そのアリシアの説明で“答え”が見えた。つぶやくフェイトに、アリシアは力強くうなずいてみせる。
「この子が、ジュンイチさんのパートナーのブレイカービースト――“ゴッドドラゴン”だよ。
以前、ジュンイチさんがナンバーズに再戦を挑んで、またボロ負けした……その時に鹵獲されて、行方知れずになってたの」
言うと同時、アリシアはゴッドドラゴンに向けて跳躍、手にしたロンギヌスを一閃する。
と、一瞬の間を空けて、ゴッドドラゴンの身体を縛りつけていた拘束がすべて破壊される――同時、解放されたゴッドドラゴンのカメラアイにうっすらと輝きがよみがえる。
「やっぱり……
ストラグルバインドと同じ、“力”を封じるタイプのバインドで押さえ込まれてたみたいだね……」
ゴッドドラゴンの再起動を確認。予想通りで助かった、とばかりにアリシアが肩をすくめ――突然、アリシアの眼前に“力”が収束を始めた。
「攻撃――!?」
「違うよ」
あわてて警戒するジャックプライムにアリシアが答え――ぽんっ、という音と共に、それは彼女達の前に現れた。
青色で人型に近いフォルム――ゴッドドラゴンにそっくりな竜、その子供である。
「おはよう、ブイリュウ」
それは、ブレイカービーストがパートナーとなるブレイカーとの仲介のために自分達に似せて作り出す、“プラネル”と呼ばれる分身体――アリシアにブイリュウと呼ばれたその子竜は、しばし不思議そうにアリシアを見上げていたが、
「ひょっとして……アリシア?
どうしちゃったの? そんなに老けちゃっ――あだっ!?」
「うん。
とりあえずそこは『育った』って言ってほしかったかな?」
皆まで言う前にゲンコツを落とす――ちょっとした浦島太郎気分からもらした不用意な一言によって“オシオキ”され、ブイリュウは頭を抱えて痛がって――
「大丈夫?」
「って、ゲンコツ落としたのはアリシアじゃないか――」
フェイトの呼びかけをアリシアからのものと思ったようだ。涙目でブイリュウが顔を上げ――フェイトに気づいて首をかしげた。
かたわらのアリシアと交互に見つめることしばし――
「アリシアが二人いる――っ!?」
「あー、もう、一体何から話せばいいのやら……」
驚きの声を上げるブイリュウの姿にいろいろと説明の必要を感じ、アリシアは深々とため息をつくのだった。
視界に捉えた標的が、こちらを迎え撃つべく砲撃を繰り返す――精密に機体を操って迫る弾幕をかいくぐり、ジュンイチはマグナブレイカーをトライゴッド目がけて突っ込ませた。ほとんど体当たりに近い勢いで組みつき、そのまま眼下の地上へと急降下――否、落下していく。
落下先は道路ではなくビルの真上――ビルそのものを押しつぶすように2体の機動兵器が落下。舞い上がる粉塵の中、トライゴッドが、次いでマグナブレイカーが飛び出してくる。
「オォォォォォッ!」
劇的な差こそないが、フルバーストによってスピードではこちらが上回っている。さほど労することなく間合いを詰め、ジュンイチはマグナブレードを振り下ろした。追撃を警戒し後退する形で飛翔していたトライゴッドの下半身の大型飛行ポッド、その前面を深々と斬り裂く。
《そう――いつまでも易々と!》
しかし、最高評議会の3人の脳髄を収納、それらを統合することで絶大な情報処理能力を有しているトライゴッドが、いつまでも攻められっぱなしで終わるはずがない。その反応速度はすでに今のジュンイチ達のそれに追いつきつつあった。飛行ポッド後方の砲塔をマグナブレイカーに向け、正確な砲撃でその動きを封じにかかる。
「ちぃ……っ!
非戦闘職の脳みそどもでも、三人寄れば何とやらかよ!?」
毒づきながらも、機体を操る手は休めない――着実に先ほどよりも精度を高めている砲撃に何度か背筋を冷やしながらも距離を詰め、その手のマグナブレードで斬りかかり――
かわされた。
今までの相手の動きならば確実に捉えていたであろう、その斬撃が。
「な………………っ!?」
《ウソでしょ!?》
相手の反応が鋭くなってきていることは気づいていた。だが、こちらもそれを見越した上で今のタイミングで仕掛けたのに――こちらの読みを上回る速度での進歩を見せたトライゴッドにジュンイチとマグナが声を上げた瞬間、コックピットを激しい衝撃が襲った。
トライゴッドの右のハサミがマグナブレイカーの左腕を襲ったのだ。前腕部に鋭いハサミを叩きつけ、力任せに粉砕する。
その衝撃にマグナブレイカーが大きく姿勢を崩し――
「なめんな!」
ジュンイチも負けてはいない。弾かれた勢いをそのまま活かして機体を一回転。その分の回転を、遠心力をふんだんに込めた一撃で、愛機の片腕を奪ったハサミを両断、爆砕する。
《往生際の悪い!
いい加減に墜ちろ! この世界の“敵”が!》
「“敵”で結構っ!」
叫び、砲撃を乱射するトライゴッドにジュンイチが言い返し、マグナブレイカーもまた炎を解き放った。両者の攻撃がぶつかり合い、両者の爆発の嵐が巻き起こる――
「そうそう――いつまでも!」
咆哮と同時、触手から砲撃を斉射――マスターギガトロンの砲撃、その内の一発の直撃を受け、なのはのブラスタービットが1基破壊される。
「まだまだ!
1基やられたくらいで!」
〈Divine Buster!〉
しかし、なのはもかまわず攻勢に出る。放たれた砲撃がマスターギガトロンを直撃し――
「オォォォォォッ!」
ブラスターシステムの全リミッター解除により、なのはの魔力は劇的に増している。今やディバインバスターですら大帝クラスを一撃で落とせる威力を発揮する――だが、その直撃を受け、それでもなおマスターギガトロンは止まらない。装甲をズタズタにされながらも爆煙の中からなのはの目の前に飛び出してきた。驚愕するなのはの胸倉をつかみ、力任せに“ゆりかご”艦内の床に叩きつける!
「が…………は……っ!?」
〈Master!〉
《なの姉!
こんのぉっ!》
衝撃で肺から空気を叩き出されたなのはが苦悶の表情を浮かべる――それぞれに声を上げ、プリムラはなのはを救うべくレイジングハートと共にブラスタービットを操った。1基の砲撃でなのはの上からマスターギガトロンを吹き飛ばし、残る2基がバインドでマスターギガトロンの身体を拘束する。
《なの姉!》
「大丈夫――いける!」
そして、プリムラの呼びかけに答えたなのはが、身にまとうプリムラの翼を広げて飛翔。縛り上げられたマスターギガトロンへと飛翔し、
「たぁぁぁぁぁっ!」
エクセリオンモードのレイジングハート、その先端に展開された魔力刃“ストライクフレーム”で一撃。バインドもろともマスターギガトロンの胸部を深く斬り裂くが、
「素人の、斬撃でぇっ!」
バインドをも断ち切ったその一撃は、同時にマスターギガトロンの解放という結果も招いてしまっていた。自由を取り戻したマスターギガトロンが腕のギガクローで一撃。なのははかわしきれず、まともにその一撃を受けてしまう――が、その瞬間、なのはのバリアジャケット、その上着が弾け飛んだ。
バリアジャケットの防御システム“リアクターパージ”だ。自ら爆散、衝撃を相殺した上着に守られ、危機を逃れたなのはは距離を取り、マスターギガトロンと対峙する。
「一度オレに墜とされた分際で……!
いい加減にくたばれ、この負け犬が!」
「そういうワケには……いかない!」
息を切らせ、肩を大きく上下させるマスターギガトロンに答え、なのはもまた息を切らせながらレイジングハートをかまえる――
なのはがストライクフレームをより大きく再生成したレイジングハートを。
ジュンイチのマグナブレイカーがマグナブレードを。
それぞれにかまえ、それぞれの相手目がけて飛翔する――
「たとえ、すべてを敵に回そうが――」
砲撃を繰り返すトライゴッドに向けてジュンイチが叫び、突撃――かわしきれなかった砲撃がマグナブレイカーの右足、ヒザから先を吹き飛ばす。
「たとえ、どれだけ傷ついても――」
残る3基のブラスタービットが飛翔。マスターギガトロンの身体に合体しているネメシスに突き刺さり、爆発。相打ちに持ち込む。
「たとえ、世界を壊す罪を背負おうが!」
砲撃がマグナブレイカーの左肩を爆砕。衝撃でマグナブレイカーのマスクが割れ、人間のそれを模した口元があらわになる。
「たとえ、もう二度と飛べなくなっても!」
放たれた砲撃を装甲が減り、強度の落ちた防壁で受ける――衝撃で額の皮が裂け、流れ出た血がなのはの顔を赤く染める。
だが――
『それでも!』
彼を、彼女を止めることは叶わず――
『守りたい笑顔があるんだ!』
二人の一撃は、まったく同じタイミングで、それぞれの相手を刺し貫いていた。
《お、おのれ……!》
ジュンイチの刃は最高評議会メンバー、彼らの脳髄の収められたポッドのある区画をほぼ正確に刺し貫いていた。書記、そして評議員の脳髄が巨大な刃で押しつぶされた中、一段高いところに収められていたために唯一難を逃れた議長がうめき声を上げた。
《こんなところで……“神”たる我らが……!》
「てめぇらが何者だろうが……関係ねぇよ……!」
うめきながら、議長の操作でトライゴッドが残る左手でマグナブレイカーの頭部をつかむ――ダメージの蓄積でコックピット内の各所がショート。小爆発と放電を繰り返すコックピットの中で、ジュンイチは額から血を流し、身体を打ちつけた痛みに顔をしかめながらそう答えた。
「てめぇらはオレの周りのヤツらに手を出した。
だから倒す――それだけの話だ」
小爆発を繰り返しているのはコックピット内だけの話ではない。その身を貫かれたトライゴッドや、マグナブレイカーの機体自体もあちこちから火を吹いていて――
「終わりだぜ。クソジジEどもが。
オレの身内に手ェ出すヤツらは――」
「神サマだろうが叩きつぶす!」
その咆哮と同時――
マグナブレイカーは、トライゴッドが大破、巻き起こった大爆発の中に消えていった。
「ぐ……ぉ……っ!」
なのはの一撃は先の斬撃で斬り裂かれた装甲のすき間を正確に捉えていた――うめきながら、マスターギガトロンはなのはに向けて弱々しく手を伸ばすが――
「エクセリオン――バスター!」
なのはの攻撃はまだ終わってはいなかった。咆哮と同時、レイジングハートの先端――すなわち、マスターギガトロンの体内で魔力スフィアが生み出される!
「しまっ――っ!?」
(斬撃で装甲を破り、そのすき間から内部への零距離砲撃……!
すべては、この一撃のための、布石か……!)
「ブレイク、シュート!」
気づいたマスターギガトロンが脱出しようとするが、なのはの方が早かった。咆哮と同時に魔力スフィアを解放。巻き起こった桃色の魔力の奔流が、マスターギガトロンの背中を内側から食い破る!
「が………………っ!?」
その衝撃で思い切り吹き飛ばされ、マスターギガトロンの身体が背後の壁に叩きつけられる――そんな彼の姿を、なのははゆっくりと床に舞い降りながら見つめていた。
「……ジュンイチさんが不思議がった。
『そもそも、どうしてあなたがよみがえったのか』、『どうやって“レリック”と接点を持ったのか』って……その謎が、やっと解けたよ」
その視線の先には、マスターギガトロンの体内で輝く真紅の結晶体。それは――
「“レリック”……
あなたも……最高評議会の手で、人造魔導師技術によってよみがえった実験台だったんだね……」
「あぁ……そうだ。
オレは人造魔導師技術による蘇生技術をトランスフォーマーに転用できないか……その実験によって蘇生させられたテストモデルだ。
その実験によって、よみがえったオレは“レリック”の存在を知り、その使用法を解明し、ヤツらに反旗をひるがえした……
まったく……気づくのが遅いわ、マヌケが……」
告げるなのはに、マスターギガトロンが答える――その言葉に息をつき、なのはは改めて彼に告げた。
「じっとしてて。
突入隊があなたを確保して、安全な場所まで、護送してくれる……
何より、その傷では動くだけでも命にかかわりかねない――あなたの命を守る意味でも、これ以上の抵抗は認められない」
〈Sealing.〉
なのはの意図をくみ取り、レイジングハートがバインドでその身体を拘束する――完全に抵抗する余力を失ったマスターギガトロンに対し、なのはは改めて告げた。
「もう一度言うよ。
ディセプティコン・リーダー、マスターギガトロン……」
「あなたを……大規模騒乱罪の現行犯で、拘束します」
「オォォォォォッ!」
咆哮と同時にその身を反転。足先を目の前の扉に向ける――ガジェットを蹴散らしながら進軍、こなたの駆るカイザーコンボイは立ちふさがっていたガジェット、その最後の1機を粉砕。扉を打ち破るべその足先に“力”を注ぎ込んでいく。
こなたの資質によって巻き起こった炎がカイザーコンボイの右足を包み込み――
「クリムゾン、ブレイク!」
咆哮と共に解き放った。こなたの打ち込んだ蹴りが、目的地へと続く最後の隔壁を吹き飛ばす!
そして、こなたは“ゆりかご”の中枢、玉座の間へと飛び込んで――
「――――――っ!?」
驚愕し、その目を見開いた。
なぜなら、彼女の目の前には――
「――――スバル! マスターコンボイ!」
ゴッドオンも解け、ズタボロになって床に転がる、スバルとマスターコンボイの姿があったから――
スバル | 「あたしは……なのはさんみたいに強くない…… お兄ちゃんみたいに、何でもできるワケじゃない……
でも……
絶対助けてあげるからね、ヴィヴィオ……!」 |
(初版:2010/05/22)