「お、おい……!?
 何だよ、ありゃあ……!?」
 ユニクロンパレスの突然の出現と“ゆりかご”との融合開始――突然の事態の急変は、戦場を混乱させるには十分すぎた。戦いの手を止め、呆然とつぶやくのは、チャリオッツを装着、アームバレットと戦っていたブロウルである。
「おい、お前らの仕業か!?」
「冗談じゃねぇ!
 誰が“あんなの”を使うってんだよ! まっぴらゴメンだ!」
 バリケードの問いにガスケットが言い返し、ボーンクラッシャーと対峙していたシグナルランサーもまた、現れたユニクロンパレスをにらみつけた。
「まさか……あのユニクロンが、このミッドチルダで復活するっていうのか……!?」
 

「…………ぐ……っ!
 一体、何が……!?」
 ユニクロンに取り込まれ始め、鳴動を始める“ゆりかご”の艦内――足を取られて転倒し、ザインは周囲を見回してうめいた。
 と――周囲の壁からパイプやケーブルが飛び出してきた。辺り一帯の壁や床と一体化し、取り込んでいく。
「な、何だ、これは!?」
 正体はわからないが、それが危険なものであることは直感で察した。逃げ出そうとするが、ダメージの積み重なった身体では離脱もままならない。
 そうしている間にもパイプ類はザインの周囲を埋め尽くしていき――

 

 その視界が閉ざされた。

 

 


 

第114話

援軍さん、いらっしゃい!
〜最終戦だよ全員集合!〜

 


 

 

「これは、一体……!?」
「あたしに聞かれたって……!」
 一方、“ゆりかご”のすぐそばで戦っていた面々は事態の急変に伴い急いで離脱していた。ユニクロンパレスから伸びるパイプやケーブルの届かない距離まで離れ、つぶやくディエチのつぶやきに、中破したデプスダイバーの中――ゴッドオンが解け、ライドスペースに放り出されていたセインもまた困惑もあらわにそう答え、
「ディエチ!」
「セイン、大丈夫ですか!?」
 そんな彼女達を見つけたのはオットーとディードだ。二人のゴッドオンしたクラウドウェーブとウルフスラッシャーが上空から舞い降りてくる。
「オットー、ディード……」
「二人とも、中の連中は!?」
「まだ、みんなの脱出は確認されてない」
 ディエチの腕の中から尋ねるセインだが、オットーの答えは芳しくない――無言でうなずいて同意を示すと、ディードはユニクロンパレスが真上に降り立った“ゆりかご”へと視線を向けた。
「無事ですよね、ヴィヴィオ……!」
「他の子達の心配は……?」
「さっき、柾木ジュンイチも突入していったんだけど……」
「ホントにヴィヴィオ以外どーでもいいのな」
 ディエチ、オットー、セインが順にツッコんだ。
 

〈ユニクロンの残骸、“ゆりかご”上に完全に着陸!
 艦体表面はすでに融合を開始しています!〉
「く…………っ!
 やられた……!」
 クラナガン上空の戦場――通信を通じて伝えられるシャリオの報告に、はやては悔しげにシュベルトクロイツを握りしめた。
「甘く見とった……!
 “ゆりかご”の戦いが終わって、残るは残存戦力の掃討だけ……
 それも、ジュンイチさんの乗っ取ったガジェットの助力で簡単に片づく戦い――みんなの気が緩んだ、一瞬のスキを突かれた……!」
〈ユニクロンの残骸から多数のエネルギー反応!
 トランスフォーマー多数……来ます!〉
 ノイエ・アースラのシャリオからの報告と同時、ユニクロンパレスの各所から無数の影が飛び出してくる。
 ユニクロンの眷属である、白いノイズメイズ達――ユニクロン軍幹部一同の劣化クローン達だ。地上をシャークトロンの群れが侵攻を始めるその頭上を飛翔し、ユニクロンパレスの周囲に防衛ラインを形成していく。
「はやて……!」
「わかっとる。
 私らも出るよ――数で攻めてくるアイツらには、私らの広域攻撃の出番や」
 となりで声をかけてくるビッグコンボイに答え、はやては通信越しに仲間達に告げる。
「ユニクロンの復活なんて、絶対に許したらあかん……! なんとしても阻止するで!
 みんな! もう一踏ん張り、頼むで!」
<<了解!>>
 仲間達の力強い返事が通信の向こうから返ってくる――最前線で早くも衝突。戦火の光が飛び交い始める中、はやてはユニクロンパレスに押さえ込まれた“ゆりかご”をにらみつけた。
「……なのはちゃん……みんな……!
 みんな……きっと無事やって、信じとるからな……!」
 

「放して……! 放して!」
「そういうワケにもいかないんだよ」
 腕の中で暴れるヴィヴィオに対し、駆動炉へとワープアウトしたノイズメイズは余裕の態度でそう答える――脱出しようと懸命にもがくヴィヴィオだが、その腕はノイズメイズの装甲を虚しく叩くだけだ。
 と――
「――ヴィヴィオ!?」
「ノイズメイズ……貴様……!?」
「え――――?」
 眼下からは自分のよく知る声――ヴィヴィオが見下ろすと、そこにはドランクロンのクラップミサイルに囚われ、壁にはりつけにされているヴィータやシグナムの姿があった。
 さらに、ビクトリーセイバーも同様に床に押さえ込まれている。ラートラータのポイズンアローで内部機構にダメージを受け、脱出はおろか抵抗も難しい状態だ。
「ヴィヴィオを放せよ……ノイズメイズ!」
「あん……?」
 傷の痛みに顔をしかめながら、それでも気丈に言い放つヴィータだが、そんなヴィータにノイズメイズはゆっくりと振り向き――

 ヴィータの身体を思い切り踏みつけた。

「がぁあぁぁぁぁぁっ!」
「お前、今の自分の立場がわかってないだろ。
 捕虜の分際で、偉そうな口を叩くんじゃねぇ!」
「やめろ、ノイズメイズ!」
 それはヴィータを踏みつぶすほど体重を乗せていない、むしろ殺さず、痛めつけるための踏みつけ――激痛に絶叫するヴィータへと告げるノイズメイズにシグナムが叫ぶが、
「ヤなこった。
 やめろと言われちゃ、よけいにやりたくなるのが悪役ってヤツだろうが!」
「ぁあぁぁぁぁぁっ!」
 それはノイズメイズをますます調子づかせるだけだった。ヴィータの傷を押し広げるように足をグリグリとひねり、傷口を押し広げられたヴィータの絶叫が室内に響く。
「やめろ! やめろぉっ!」
「うるさいやっちゃのぉ。
 何なら、貴様も吹っ飛んどくか? あぁ?」
 そんなノイズメイズに対し怒りの声を上げるシグナムだが、彼女にはランページが向かった。ミサイルランチャーを彼女の眼前に突きつける。
「先に逝っとれ。
 すぐにこっちのチビも後を追わせちゃるけぇのぉ」
 言って、ランページがランチャーの引き金に指をかけ――
 

「……ダメぇぇぇぇぇっ!」
 

 叫びが響き――ノイズメイズの腕の中から、虹色の“力”があふれ出す!
「ぐ……ぉおぉっ!?」
 巻き起こる“力”の圧力に耐え切れず、ノイズメイズの腕が振り解かれる――発現した“カイゼル・ファルベ”の勢いを浮力にして、ヴィヴィオは宙に浮かんだまま、両目に涙を溜めてノイズメイズをにらみつけた。
「ヴィータさん達を……いぢめるなぁぁぁぁぁっ!」
 恐怖はない。それに打ち勝つ力なら、なのはが、ジュンイチがくれた。スバル達が形にしてくれた――渾身の力で叫び、ヴィヴィオは“自ら魔力を解放した”。
 クアットロに操られていた時とは違う、使い手の明確な意思に従い、虹色の“力”の奔流は力強く彼女の周囲で渦を巻き――内側から吹き飛んだ。弾け飛んだ“力”に巻き込まれ、ランページがシグナムの前から吹き飛ばされる。
 そして――
「ヴィータさん達を、放して……!」
 今再び聖王へと姿を変えたヴィヴィオが、ノイズメイズ達の前に降り立った。
「ヴぃ、ヴィヴィオ、その姿は……!?」
 ヴィヴィオの聖王化を知らないシグナムから戸惑いの声が上がるが、ヴィヴィオはかまわずノイズメイズ達と対峙する。
 しかし――
「のぞき見してたからな――知ってるぜ。
 聖王化……だよな? その“力”」
 対するノイズメイズに、焦りの色はまったくなかった。
 むしろ――
「そうだ……それでいい……!」
 

「オレ達は……そいつを待ってた」

 

「ジュンイチさん!
 ヴィヴィオは、本当に駆動炉に!?」
「間違いねぇ!
 駆動炉のあるブロックから“力”を感じる!」
 玉座の間に集ったメンバー全員が戦闘態勢で駆動炉に急行――その道中、ジュンイチはロードナックル・シロにゴッドオンしているギンガにそう答えた。
「っつーか! また聖王化してるぞ、アイツ!
 お前ら、ヴィヴィオに移植された“レリック”、ブッ壊してなかったのか!?」
「ぜいたくをぬかすな!
 こっちはマグマトロンの強化体を相手にしていたんだ! トランステクターを破壊するので精一杯だ!」
「ちょっと、二人とも!
 こんな時にケンカしない!」
 尋ねるジュンイチに、スバルを宿したマスターコンボイが反論する――そんな二人を頭上からいさめるのは、カイザーコンボイにゴッドオンしたこなただ。
 そして――
《なのは、大丈夫?》
「はい。
 マグナさんのおかげで、なんとか……」
 尋ねるマグナの問いに答えるなのはだが、マグナの姿はどこにもない。
 なんと、現在彼女はなのはとユニゾンしているのだ――なのはの髪が銀色に変化しているのがその証だ。
 ジュンイチとのユニゾンを成功させるため、デバイスとしての性能を犠牲にしてまでユニゾンの安定性を追求した――そう豪語するだけあって、マグナの宿っているユニゾンデバイスボディはジュンイチ以外とも安定したユニゾンを可能としていた。ブラスターの反動によって深く傷ついた彼女の身体をフォローするため、マグナは自らなのはとのユニゾンを提案。こうしてユニゾンしているのだ。
《とりあえず……ユニゾンによるパワーアップもサポートもない。そういう前提で、いつも通りに戦えばいいから。
 あたしは、あなたのダメージの鎮痛と治癒に専念させてもらうわ》
「すみません」
《いいってことよ。
 あなたに何かあって、ヴィヴィオが泣くのを見たくないだけだから》
 礼を言うなのはに、マグナは彼女の“中”でそう答え――
《……まぁ、ここであなたにつぶれてもらって、あたしが代わりにヴィヴィオのママになる、っていう案もないワケじゃないけど。
 ほら、あたしってオリヴィエの親友だったワケだし》
「ダメです」
 なのははキッパリ断った。
 

 一方、外の戦いは次なる局面へと移行しつつあった。
 未だ活動を続けていたガジェットやドール、瘴魔獣達――そしてはやて達管理局戦力、そのすべてにユニクロン軍は一斉に攻撃をしかけてきたのだ。それぞれが独自に応戦する形で、戦場は今まで以上の混戦状態となっていた。
「みんな! 攻撃を中央に集中!
 敵TF部隊を分断するんや!」
<<了解!>>
 砲撃で敵群をまとめて薙ぎ払うはやての言葉に一同が答える――そんな中、先陣を切って飛び出したのはブリッツクラッカーである。
「いくぜ、お前ら!」
「指図すんな! いくけど!」
「だなだなぁっ!」
 告げるブリッツクラッカーに答えるのはこの混戦でディセプティコン残党を見失ったガスケットとアームバレットだ。ブリッツクラッカーの真下、地上からシグナルランサーと共にユニクロン軍に立ち向かい――そんな二人に、シャークトロン群の放ったビームの雨が降り注ぎ、吹き飛ばす!
「お久しぶりにぃっ!」
「飛ばされたんだなぁっ!」
「あぁ、もうっ! アイツらはこんな時に懐かしのネタを!」
 あっけなく宙を舞い、戦線離脱――久々に星になった二人の姿に、シグナルランサーが声を上げ――
「集中しろ! 来るぞ!」
 ブリッツクラッカーが告げ、彼らに対しても上空の白いノイズメイズ達からの集中砲火が襲いかかる!
「くそっ、弾幕が厚い……!
 これじゃ、うかつに突っ込めねぇ!」
「ブリッツクラッカー!」
 うめくブリッツクラッカーの言葉に晶が声を上げ――
「光雷斬!」
 上空から飛び込んできた影がユニクロン軍に襲いかかり、斬り払う――正面の敵を蹴散らし、ライはブリッツクラッカーの前に舞い降りた。
「フフンッ! やっぱりボクがいないとダメみたいだね!」
「はっ、相変わらず口の減らないガキだな、お前も!」
 ブリッツクラッカーを助け、自信タップリに胸を張るライに答えると、ブリッツクラッカーも摩利支天を一閃。彼女の背後に迫っていた白いドランクロンの顔面を刺し貫く。
「これで貸し借りなしだな」
「そんなことない!
 ここに来るまでに、いっぱい、いぃっぱい倒してきたんだ! ボクの方ががんばってる!」
「ち、ちょっと待て、ブリッツクラッカー!」
 告げるブリッツクラッカーに対し、ライがムキになって言い返す――そんな二人に声を上げるのは晶だ。
「ぶ、ブリッツクラッカー、その子って、一体……!?
 なんか、昔のフェイトちゃんにそっくりなんだけど!?」
「まぁ、昔いろいろと……な。
 悪いな。コイツらの生まれの関係で、ジュンイチから口止めされてたんだよ。
 『知ってるヤツはひとりでも少ない方がいい』ってさ」
 現れたのはかつてのフェイトにそっくりな少女。しかも相棒はその少女と顔見知りの様子――事態が呑みこめず、混乱しながら尋ねる晶に答えると、ブリッツクラッカーは改めて摩利支天をかまえ、
「けど、その辺の話は後で、な。
 今はコイツらを蹴散らすのが先だ!
 遅れるなよ、ライ!」
「それはボクのセリフだよ!」
 だが、事情を説明している余裕はない――ブリッツクラッカーの言葉にライが答え、二人は敵群に向けて飛翔した。
 

「ぬるいわ!」
 斬りかかってきた白いノイズメイズの斬撃を受け止め、返す刃で斬り捨てる――そのまま身をひるがえし、スカイクェイクは背後に迫っていた白いエルファオルファの顔面を蹴り砕く。
「まったく、能力はオリジナルに遥かに劣るクセに、相変わらず数だけは……!
 アルテミス! こちらに来れるか!?」
《すみません!
 負傷者がひっきりなしで……!》
 こうなれば相棒とのユニゾンで――呼びかけるスカイクェイクだが、後方で負傷者の治療にあたっているアルテミスはまだまだ動けそうにない。
「わかった。
 ならば引き続きそちらを頼む」
 言って、スカイクェイクは改めてユニクロン軍をにらみつけ――
「アロンダイト!」
 響いた宣言と同時、飛来した砲撃が白いトランスフォーマー達を薙ぎ払う!
 そして――
「そこにいたか……“闇の書”の“闇”を継ぐ者よ」
 言って、スカイクェイクの前に舞い降りてきたのはヤミである。
「貴様か……“闇統べる王”」
「その名で私を呼ぶな。
 私には、柾木ジュンイチのつけてくれた名前がある!」
「わかった、ヤミ」
「馴れ馴れしいぞ、貴様っ!?」
「どう呼べと言うんだ、貴様は……」
 結局どう呼んでも文句を言われるのではないか――あからさまに機嫌を損ねた様子のヤミに、スカイクェイクは深々とため息をつく。
「ならば、どう呼べばいいんだ?」
「“偉大なるヤミ様”と呼ぶがいいっ!
 あ、“様”は“陛下”でもかまわんぞ」
「断固拒否する」
 迷うことなく即答した。
 

「たぁぁぁぁぁっ!」
「おっと!」
 先の戦いでのダメージがないワケではない。長引かせるのはマズイ――咆哮と共に、全力で殴りかかるヴィヴィオに対し、ノイズメイズはシールドで防御。たて続けに叩きつけられる乱打に対して防戦一方となっている。
「ヴィータ!
 大丈夫か!?」
 一方、、シグナムはクラップミサイルのトリモチからなんとか脱出しようと懸命の抵抗を試みていた。もがきながら、となりのヴィータへと呼びかける。
「きっともうすぐ、なのは達が来てくれる!
 だから、しっかりしろ!」
 ヴィータからの返事はない――イヤな予感を振り払うかのように叫ぶシグナムだったが、
「…………うっせぇな……
 聞こえてる、よ……!」
 傷の痛みに顔をしかめ、それでもヴィータはシグナムに対してそう答えた。
「よかった……生きていたか」
「たりめーだ……!
 それより……」
 安堵の息をつくシグナムに答えると、ヴィータはノイズメイズと戦うヴィヴィオへと視線を向け、
「妙だと……思わねぇか……!?」
「え………………?」
「アイツら……ヴィヴィオが聖王になっちまったってのに、ちっとも焦ってねぇ……!
 それに……見ろ……!」
 その言葉に促され、シグナムはヴィヴィオへと視線を向け――気づいた。
 ヴィヴィオに対するノイズメイズの動き。アレは防戦一方というより、意図的に――
「ガードに……徹している……!?」
「きっと、何か理由があるんだ……!
 何か理由があって……アイツらはあたしを痛めつけて……ヴィヴィオを怒らせて……聖王にならせた……!」
「理由…………?」
 ヴィータの言葉に眉をひそめ――シグナムは気づいた。
 顔を上げ、部屋の中央――煌々と輝きを放つ駆動炉へと視線を向ける。
(そうか……そういうことか……!)
「ダメだ、ヴィヴィオ!」
 ノイズメイズ達の狙いに気づき、シグナムはあわてて上空のヴィヴィオへと呼びかけた。
「私達にかまうな!
 今すぐ逃げて、聖王への変身を解け!」
「大丈夫だよ!
 絶対この人達をやっつけて、助けるから!」
「そうではない!」
 答えるヴィヴィオだが、シグナムはそんな彼女の言葉を真っ向から否定した。
「今のお前の状態こそがヤツらの狙いだ!
 ヤツはわざと貴様を怒らせて、聖王に変身させた! そして今も、戦いを長引かせてその状態を維持させようとしている!
 お前が聖王であることで最大出力での稼動を続ける、この駆動炉の状態を維持するために!」
「え――――――っ!?」
「よく気がついたじゃねぇか! 正解だ!」
 シグナムの言葉に驚くヴィヴィオだったが、他ならぬノイズメイズ自身がシグナムの仮説を肯定する。
「けどな――今さら気づいたところで手遅れなんだよ!」
 だが、気づくのが遅すぎた――ノイズメイズの言葉の直後、天井が砕け散り、飛び出してきたケーブルがヴィヴィオを打ち据え、はね飛ばす!
「きゃあぁぁぁぁぁっ!」
 万全ならともかく、聖王と言えどスバル達との戦いでダメージを背負った身体で耐え切れる威力ではなかった。床に叩きつけられ、変身も解けてしまうヴィヴィオの頭上で、天井を突き破って姿を現したのはユニクロンパレスの動力炉――ケーブルやパイプを“ゆりかご”の駆動炉にまとわりつかせ、少しずつ融合し始める。
「やられた……!
 ヤツらの目的は“ゆりかご”を新たなユニクロンとすること……最初からヤツら自身が言っていたことではないか……!」
「残念だったな。こっちの作戦勝ちだぜ」
 うめくシグナムに答えると、ノイズメイズは倒れ伏すヴィヴィオへと向き直り、
「融合によって、ユニクロンパレスの動力炉は“ゆりかご”の駆動炉のコントロールを奪い取った。
 もう、てめぇに“ゆりかご”のパワーを維持していてもらう理由はねぇ。
 てめぇはもう、用済みだ」
 言って、ノイズメイズはヴィヴィオに向けて右足を振り上げ――
「あばよ」
 振り下ろした。
 

「………………ん?」
 手ごたえがない――獲物を踏み潰した感触が足の下から感じられなくて、ノイズメイズは眉をひそめた。首をかしげて足をどけると、
「…………何?」
 そこに、ヴィヴィオの姿はなかった。
 そして――
「大丈夫? ヴィヴィオ」
「……なのは……ママ……!?」
 ノイズメイズの足の下からヴィヴィオをかっさらったのは、マグナとのユニゾンを維持しているなのはだ。優しく呼びかけられ、ヴィヴィオが彼女の腕の中で声を上げる。
 さらに、スバル達もなのはを追って到着――なのはとヴィヴィオを守るようにノイズメイズ達と対峙する。
「へっ、こんなところまで追いかけてきやがったのか」
「当然だよ。
 ユニクロンの復活なんて、絶対にさせないんだから!」
 告げるノイズメイズに言い返し、なのははヴィヴィオを抱いたままレイジングハートをかまえるが、
「おいおい、ワシらのことを忘れとらんか?」
「お前らは全員満身創痍。こちらは全員万全のコンディション。
 どちらが有利か、考えるまでもないと思うがな」
 ランページやドランクロンが告げ、ユニクロン軍側も全員集合。真っ向勝負の体勢でなのは達と対峙する。
「今ここで全員片づけて、ユニクロン様復活の手向けにしてやるわ!」
「さぁ、覚悟してもらおうか!」
 言って、エルファオルファが拳を打ち合わせ、サウンドブラスターもブラスターガンをかまえ――
 

「はいはい、ちょいとごめんなさいね〜」
 

 そんな両者の間をあっさりと通り過ぎたのはジュンイチだった。
 場の空気を容赦なく無視され、敵味方問わず全員が呆然とその姿を見送る――そんな空気を一切意に介さず、ジュンイチは壁に磔にされたシグナム達の元へと向かった。彼女達を拘束していたトリモチを力任せに引きはがし、救出する。
「……って、お前、人質を!?」
「あっさりしすぎだろ、お前!?」
 あまりにも自然な動きに毒気を抜かれ、むざむざ救出を許してしまった――我に返り、声を上げるドランクロンやノイズメイズだが、
「………………あ゛ん゛?」
 ジュンイチの目に不穏な輝きが宿った。ノイズメイズ達だけでなく、なのは達までもがその迫力にたじろぐ中、助け出したヴィータを抱きかかえたまま立ち上がり、
「ずいぶんと言いたい放題じゃねぇか。
 今までコソコソ隠れてた腰抜けどもの分際でよぉ」
 言って、ジュンイチは自分の腕の中のヴィータを見下ろし、
「オマケに、ケガ人のヴィータに追い討ちかけるようなマネしくさりやがって……
 てめぇらに、ヴィータをこんな目にあわせる権利なんかねぇんだぞ」
 ノイズメイズ達へと怒りに満ちた視線を向け――
「ヴィータをいぢめていいのはなぁ――今のコイツの家族とオレだけだ!」
「お前にもンな権利は認めてねぇよ!」

 復活したヴィータからツッコミが入った。
 と、室内が――いや、“ゆりかご”全体が鳴動を始めた。同時、周囲の壁から新たなパイプやケーブルが飛び出し、“ゆりかご”の駆動炉へと巻きついていく。
「ユニクロンと“ゆりかご”の融合が、加速してる……!?
 ジュンイチさん!」
「わかってる!」
 状況を理解し、声を上げるなのはに対し、ジュンイチの判断も素早かった。あっさりと怒りを引っ込め、ヴィータを抱えたまま彼女のとなりまで後退する。
「コイツらへの仕返しは後回しだ!
 今は体勢を立て直す――脱出するぞ!」
「させると思ってるのか!?」
「オレ達がいるのを忘れたか!?」
「お前らはここで死ぬんだよ!」
 告げるジュンイチの言葉に、サウンドウェーブが、ラートラータが、ドランクロンが襲いかかり――
「それは――」
「こっちの――」
『セリフだ!』
 ギンガが、こなたが、スバルとマスターコンボイが言い返す――それぞれにサウンドウェーブらの突撃を迎え撃ち、弾き返す!
「みんな、下がって!」
「巻き込まれても知らねぇぞ!」
 そんなスバル達に、それぞれが助けた相手を抱きかかえたままのなのはとジュンイチが告げる――スバル達が下がると同時にディバインバスターと炎撃の同時攻撃。ノイズメイズ達の眼前の床を爆砕して追撃を阻む。
「今のうちだ、下がるぞ!」
「誰かビクトリーセイバーさんを!」
「は、はい!」
 ジュンイチとなのはの言葉に答え、こなたがビクトリーセイバーに肩を貸して助け起こし――
「――――っ!
 よけろ、なのは!」
「――――――っ!?」
 気づいたジュンイチが声を上げるが――なのはの反応は間に合わなかった。煙を貫いて飛び出してきた光弾が、なのはのわき腹に撃ち込まれる!
「なのはママ!」
「大丈夫……急所は、外れてる……!」
《あたしが止血する!
 なのははヴィヴィオを守ることだけを考えて!》
 声を上げるヴィヴィオになのはが答え、マグナがすぐに治療に取りかかる――ノイズメイズ達がこちらを捕捉し直すよりも早く、なのは達はそのまま駆動炉から脱出していった。
 

「出口はわかりますか!?」
《多分!
 まだ、それほど内部構造が組み替えられてない――今なら、脱出経路の特定は可能よ!》
 ノイズメイズ達をやり過ごし、ユニクロンと化しつつある“ゆりかご”からの脱出を目指す――尋ねるなのはに対し、マグナは彼女とユニゾンしたままそう答える。
《ただ……問題がないワケじゃないわ》
「『問題』……?
 それって、一体……?」
 告げるマグナの言葉にスバルが聞き返した、その時――
《聖王陛下、反応ロスト。システムダウン――》
 “ゆりかご”自体の、何らかのシステムが作動したようだ。なのは達の進む廊下にも艦内放送が流れ始め、
《艦内復旧のため、全ての魔力リンクをキャンセルします》
 そう告げられた次の瞬間、艦内のAMF濃度が一気に増大。なのはの飛行魔法も維持できなくなり、さらにマグナとのユニゾンも解除される。
《全トランステクター、戦闘モード解除》
 さらに、ゴッドマスター組にも影響が出た。ゴッドオンが解除され、スバル達が廊下に放り出されてしまう。
「マスターコンボイさん!?」
「クソッ、オレ達にまで影響が出たか……!
 停止したのが戦闘システムだけというのは不幸中の幸いか……!」
 声を上げるスバルに答え、マスターコンボイは自分の拳を握って身体の調子を確かめる。
 高濃度AMFが魔力の供給を阻んでいるのか、動きがどこかぎこちない。このままブランクフォームでいるよりはマシかとヒューマンフォームに変身。合体の解かれたトライファイターが彼の頭上に滞空し――
「どわぁぁぁぁぁっ!?」
 最後に“被害”が出たのがジュンイチだった。飛行を維持できなくなり、顔面から勢いよく墜落する。それでもヴィータを頭上に掲げて墜落から守ったのはさすがと言うべきか否か。
「じ、ジュンイチさんまで!?」
「ウソでしょ……!?
 先生の精霊力までキャンセルされるくらいのAMF濃度ってこと……!?」
「マグナの言った『問題』とはこのことか……
 こうなったら、徒歩で脱出するしかないな……!」
 驚き、声を上げるギンガやこなたのとなりで告げ、マスターコンボイはなのはへと向き直り、
「なのは。
 マグナクローネとのユニゾンが解けているが……いけるか?」
「大丈夫……!
 マグナさんの治癒のおかげで、だいぶ楽になってる……歩けるよ」
 尋ねるマスターコンボイの言葉になのはが答えると、
「それよりも、みんな急いで!
 もうすぐ艦内復旧モードに入る――作業のために艦内の隔壁が下りる!」
「えぇっ!?
 だったら急がないと!」
 告げるマグナの言葉にスバルが声を上げるが――時すでに遅し。前後の廊下にバインドの光線が張り巡らされ、さらに天井から降りてきた隔壁が行く手をふさいでしまう。
「間に合わなかった……!」
「よっしゃ、スバル、いったれ!」
「うん!
 スバル・ナカジマ、いっきまぁすっ!」
「私もいくわよ!」
 うめくマグナだったが、フォワード組の対応は早かった。けしかけるこなたと共に、スバルとギンガは隔壁へと突撃する。
 こなたの蹴りが、スバルの拳が、ギンガのリボルバーギムレットが叩きつけられるが――
「って、ウソぉっ!?」
 隔壁はビクともしない。傷ひとつついていないその光景に、こなたが思わず声を上げる。
「こうなったら、戦闘機人モードで……!」
「って、ダメだよ!
 振動破砕はスバルの拳にもダメージが大きいんだから!」
 接触破壊系の自分のISなら破壊できるかもしれない――瞳を金色に輝かせるスバルだったが、それを止めたのはなのはだった。
「スバル達の力は、脱出してからのユニクロンとの戦いで絶対に必要になる。
 だから、今ここでムチャさせるワケにはいかないよ」
「でも、それじゃあどうやって脱出したら――」
 

『でぇいっ!』
 

 なのはに言い返すスバルの言葉が最後まで発せられることはなかった。
 咆哮と共に轟音が響き渡り、目の前の大扉が弾け飛んだからだ。
 ひょっとしたらハリボテだったのではないかと思いそうな勢いで扉は廊下の奥に消えていく――奥から扉が落下したことを示す轟音が響く中、扉を力任せに殴り飛ばしたジュンイチとマスターコンボイは放ったままの拳を引いた。
 その向こう側にあったはずのバインドの壁は、吹っ飛んだ扉によって引きちぎられた後だ。目の前の障害の排除を確認すると、二人はクルリと振り向いて――二の句がつなげず、口をパクパクさせているなのは以下女性陣一同に尋ねる。
『他に、クリアすべき問題はある?』
 

『フォースチップ、イグニッション!』
「ハウリング、パルサー!」
「スナイピング、ボルト!」
「レンジャー、ビッグバン!」

 一斉にフォースチップをイグニッション、必殺技を解き放つ――かがみ、みゆき、つかさの一斉攻撃が前方の白いトランスフォーマー群を蹴散らし、
「いくよ、ひより!」
「おうっス!」
「あやの! あたし達も!」
「うん!」
「ガリュー、お願い」
 爆発の中から飛び出してきた撃ちもらしは、みなみ、ひより、みさお、あやの、そしてルーテシアから指示を受けたガリューの5人が対応する。
「ゆたか!」
「うん!
 マックスフリゲート、一斉砲撃、お願い!」
 そして、みなみの合図でゆたかが号令。マックスフリゲートが一斉砲撃。さらに白いトランスフォーマー群の隊列を深々と抉る――が、それでも敵はさらに攻勢を強めてくる。せっかく穴を開けた防衛ラインも瞬く間に埋められ、それどころか攻め込んできた敵編隊の攻撃がマックスフリゲートに降り注ぐ!

「マックスフリゲートが!」
《やってくれますね……!》
 苦戦するライナーズの様子に気づき、イリヤとルビーが声を上げる――助けに向かおうとするが、彼女達の元にも敵は殺到。体格差と物量差に押され、後退を余儀なくされる。
 と――
「パイロ、シューター!」
 声が響き、正面の白いラートラータがハチの巣にされ、爆散する――イリヤを守るように、セイカが彼女の前に飛来する。
「ご無事でしたか。イリヤさん」
「セイカ……ありがとう!」
 告げるセイカの言葉にイリヤが礼を言うと、
《イリヤさん、あれを!》
 ルビーが声を上げ――同時、“ゆりかご”との融合を続けるユニクロンに異変が起きた。
 半ば乗っ取られた“ゆりかご”から生えた触手がクラナガン旧市街に根を張るように広がり、上部のユニクロンの残骸もまた、生やしたパーツによって少しずつ人型を形成していく。
「ユニクロンの再生が、進んでいるようですね」
《クラナガンに根を張るつもりですか……?
 まったく、どこのデビルガンダムですか》
「ボケてる場合じゃないよ、ルビー。
 状況はまさにそれだけど、ホントにやられるとタチが悪いったらないよ」
 セイカの言葉に続くルビーにツッコみ、イリヤは改めて彼女に尋ねる。
「それより……サーチは続けてるんだよね?」
《もちろん。
 けれど、今のところはヒットなしですね……》
「…………何を探しているのですか?」
「突入した子達!」
 口をはさんでくるセイカに即答し、イリヤは新たに突撃してきた白いサウンドウェーブにカウンターの魔力射撃を叩き込む。
 次いで、セイカがパイロシューターで弾幕を張り、敵群をけん制する――イリヤと背中を預け合う形で、周囲の敵に対応していく。
「しかし……どうやって?
 現在“ゆりかご”は、艦内のAMF濃度の上昇が確認されたのを最後に、通信もサーチも届かない状況のはずですが」
「うん。
 けどね、“ゆりかご”の“外側はサーチできる”」
「………………?」
 そんなイリヤの言葉にセイカは首をかしげ――その時、ルビーのサーチが目的の反応を捉えた。同時、ユニクロンの下の“ゆりかご”、その表面の一角で爆発が起きる。
「ウワサをすれば影、ね……」
 そしてそれこそが、まさにイリヤ達がサーチで探していたものだった。未だ理解の追いつかないセイカに対し、笑いながら告げる。
「だから、外側からサーチをかけてたのよ――」
 

「脱出してきたなのはやジュンイチさんが、“ゆりかご”の外装を吹き飛ばすのを、ね」

 

「よし! 脱出!
 さすがはお兄ちゃん! デタラメにもほどがある!」
「す、スバル……
 それ、あまりほめ言葉には――」
「よせやい、スバル。
 そんなにほめても晩御飯のおかずはサービスしてやらねぇぞ」
「なってた!?」
 力任せに外装を斬り飛ばし、内部を走っていた回路が火花を散らし、爆発――スバルとジュンイチのやりとりになのはが巻き込まれながら、彼女達は“ゆりかご”の内部から姿を現す。
 当然、すぐさまはやてから連絡が入る――
《なのはちゃん、スバル!
 みんなも無事か!?》
「うん。
 私もヴィヴィオも、スバルも、ギンガも、こなたも……
 それに、シグナムさんやヴィータちゃん、ビクトリーセイバー……ジュンイチさんとマスターコンボイさんも。
 みんな無事に、脱出だよ!」
 尋ねるはやてになのはが答え――その時、自分達の位置から少し離れたところで、再び“ゆりかご”の外装が爆発、吹き飛ばされる。
 そして――
「あー、えっとさ……
 面識ないからしょうがないんだろうけど、オレのことも忘れないでくれるかな?」
 ボロ雑巾と成り果てたクアットロを引きずって、鷲悟が姿を現した。
 

「よし!
 アイツら、みんな無事だな!」
〈はい!
 本当によかった……!〉
 そして、旧市街、ハイウェイ上の指揮所でもなのは達の姿は確認していた。告げるゲンヤの言葉に、通信の向こうではやてが答える。
〈せやけど……みんなはまだ、敵陣のド真ん中や。
 ジュンイチさんやなのはちゃん達やったら大丈夫や、と、思いたいけど……やっぱ、助けは必要や思うんですけど〉
「そいつぁ同感だが……!」
 はやての言葉にゲンヤが答えた、その時、彼らのいる指揮所を衝撃が襲った。
 ヤミ達の参戦で一度は危機を脱した指揮所に、ユニクロン軍が襲いかかってきたのだ――放たれたビームの雨が、指揮所やその周辺に降り注ぐ!
「くそっ、こっちもこっちで手一杯かよ……!」
 

「マズイよ――あっちこっちで押され始めてる!」
「それはわかってるけど……!」
 声を上げるホクトに答え、クロスファイアを放つティアナだが、いくら撃墜しても敵は次から次に現れ、襲いかかってくる。
「くそっ、なんつー数だよ!?
 進むどころか、後退もままならねぇ――チンク姉!」
「わかっているが、ブラッドファングの補充が……!」
 うめき、呼びかけるノーヴェだが、チンクのブラッドファングはトライゴッド戦でジュンイチにすべて預けた後だ。現在、ブラッドサッカー内の自己生成システムをフル稼働させているが、それまでは固定兵装のビームソードでしのぐしかない状況だ。
「どうしましょう!
 このままじゃ……!」
「けど、この状況じゃ手分けして助けに行くことも……!」
 うめくエリオにキャロが答え、飛び込んできた白いエルファオルファを二人で斬り倒し――
「とにかく――今は、生き残ることだけを考えなさい!」
 そう一同に告げたのはクイントだ。ローラーブレードで加速、跳躍し、白いノイズメイズの顔面を殴りつけ、粉砕する。
「目先の状況で動いちゃダメ!
 今は耐える時よ――必ずどこかで、勝機はくる!」
「は、はいっ!」
「がんばります!」
 クイントの激励に奮起し、エリオやキャロがうなずいて――
「それまで、戦線がもてばいいでござるがな……!」
「………………っ!」
 つぶやくシャープエッジの言葉に、クイントは答えることができなかった。
 

「ジャマだ、どけぇっ!」
 咆哮と共に炎を解き放つ……ジュンイチの巻き押した炎の渦が、ユニクロン軍の白いトランスフォーマー達を焼き尽くし、
「揺らめけ――“蜃気楼”!」
〈アイギス〉

 “蜃気楼”を起動させると同時にカードをロード――コピーしたアイギスで、飛び込んできた白ラートラータを両断する。
「AMF圏内さえ出ちまえばこっちのもんだ!
 一気に蹴散らして、みんなと合流するぞ!」
「貴様が仕切るな!」
「えー?
 でもこの中じゃ、お兄ちゃんが一番格上だよ?」
「そしてスバルはあっさりなびきすぎだ!」
「ハハハ……ご愁傷様!」
 指示を下すジュンイチに反論するが、相棒はあっさりと彼の味方に転じてしまう――苦労続きのマスターコンボイに苦笑しながら、こなたもまたアイギスで突っ込んできた白いドランクロンを斬り捨てる。
「ディバイン――っ、バスター!」
 そしてなのはも――身体に走る痛みをこらえて放ったディバインバスターが、地上の白いランページ達やシャークトロンの群れを薙ぎ払う。
「スバル、シロちゃん! 行くわよ!」
「うん!」
「りょーかいっ!」
「オレはどーした!?」
 そして、ギンガの言葉にロードナックル・シロが、スバルが答え、マスターコンボイがツッコむ――ゴッドオンを遂げた二組がそろって突撃をかけ、
『ダブル、リボルバーシュート!』
 放たれた魔力弾が、前方の敵を一直線に蹴散らしていく。
 その一方で――
「みんな……! わたしも……!」
「ムリをするな、ヴィヴィオ。
 その身体で、それ以上の聖王化は負担が大きすぎる」
 懸命に戦う一同の姿に、自らも加わろうとするヴィヴィオだったが、それを押しとどめるのは、彼女やヴィータら負傷者組のガードを任されたシグナムだ。
「でも、パパもママも、スバルさん達もボロボロなのに……!」
「それ以上にボロボロなのがお前だ。
 ケガは確かにこの中で一番の軽傷だが、体力の消耗は一番ひどい。これ以上の戦闘は、むしろ柾木達の足を引っ張るだけだ」
「うぅ…………」
「それより」
 なおも納得できないでいるヴィヴィオだったが、そんな彼女の肩をシグナムがつかみ、
「なのはがママなのはいい。
 だが、柾木がパパとはどういうことだ? 詳しく説明してもらおうか」
「え、えっと……?」
「おーい、落ち着けー。
 今のお前は恭也の妻ー」
 後ろでタンカ代わりのフローターフィールドに寝かされているヴィータがツッコんだ。
 これ以上人間関係がややこしいことになってほしくはない――割と切実な願いを込めながら。
 

「オォォォォォッ!」
 咆哮と共にブリューナクを一閃。巻き起こる雷の嵐が、迫る白いトランスフォーマーを薙ぎ払う――ブラックスティンガーと分離、それぞれに懸命の防戦を続けるザラックコンボイだが、敵の数は圧倒的だ。彼らの奮戦もむなしく、戦線は次第に押し込まれていく。
 彼らだけではない。あちこちで、圧倒的な物量差が戦場を飲み込んでいく――六課や仲間達の奮戦も、彼らのいる場所を押さえるので精一杯。広いクラナガンの戦場すべてをカバーするには至らない。
 ジュンイチが乗っ取ったガジェット群も、劣化クローンとはいえトランスフォーマーであるユニクロンの眷属達と比べるとどうしても劣る。次々に破壊され、その数を減らしていく。
 それだけではない。物量に任せた怒涛の攻めは、防戦にあたる管理局員達の間に、少しずつ絶望感をもたらしつつあった。
 そして――
「ぅ……ぅわぁぁぁぁぁっ!」
 それが今、ザラックコンボイの眼下で限界点を超えた。ひとりが悲鳴と共に逃亡。それが周囲にも広がり、次々に逃亡者が出始める。
「お、おい、待て!」
 ザラックコンボイがあわてて声を上げるが、一度始まった恐慌が声をかけた程度で収まるはずもない。多くの者がその場から逃げ出して――
 

「待てよ!」

「だなぁっ!」
 

 そんな彼らの前に立ちふさがった者がいた。
 先ほど空の彼方に吹っ飛ばされ、戻ってきたガスケットとアームバレットである。
「お前ら……どこに行くつもりだよ!?
 こんなところで逃げて、それで解決するとでも思ってんのかよ!?
 ここで逃げたって、ここでの戦いに勝ったユニクロンに世界ごと滅ぼされるのがオチだろうが!」
 ガスケットの言葉に、逃げ出そうとしていた局員達が気圧される――そんな彼らに対し、たたみかけるのはアームバレットだ。
「たとえ無事に逃げられたとしても……お前ら、それで満足なんだな!?
 ここで勝ったって、負けたって、戦ったって、逃げ出したって……遅いか早いか、ってだけで、結局みんな死ぬんだな! オイラだって、いつかは死ぬんだな!
 その時に、思いたいんだな!? 『結局、自分は何もできなかった』って……
 『何も救えなくて、臆病風に吹かれて逃げ出した』って……
 そんなのが、お前達の望みなんだな!? そんな死に方したいんだな!?」
「そんなものが、オレ達の一生でいいのかよ!?
 そんなものが、オレ達の物語でいいのかよ!?
 いい加減に気づけぇっ!
 ここで逃げて……救われないのは世界じゃねぇ!
 オレ達だ! オレ達が救われないんだよ、それじゃ!
 今立たなきゃ……オレ達が救われねぇんだよ!」
 言って、二人は彼らの間を抜けて前線に立ち、彼らを守るようにユニクロン軍への攻撃を開始する。
「そりゃ……オレ達が戦ったところで大した違いはねぇだろうよ。
 オレ達ゃなのはみたいな“エース・オブ・エース”でも、ジュンイチみたいな“ジョーカー・オブ・ジョーカー”でもねぇ。オレ達ががんばったからって、戦場の有利不利がキレイにひっくり返るワケでもねぇ。
 こんなところでヘタレてるオレ達だ。この先成功とか、栄光とか……そんなの、恵まれるかどうかなんてわからねぇ……
 ……けどよぉっ! ここで立てば、“みんなを守って戦ったヤツ”くらいには、なれるだろうが!」
 咆哮し、フォースチップをイグニッション。ガスケットの放ったエグゾーストショットが襲いかかってくるシャークトロンを吹き飛ばすが、
「ぅわぁっ!」
「ガスケット――だなぁっ!?」
 それでも物量差は絶望的だった。爆発の向こうから飛来したミサイルがガスケットを吹っ飛ばし、声を上げるアームバレットも、同様の攻撃で吹っ飛ばされる。
 その正体は白いランページの群れの放ったミサイルだ。体勢を崩したガスケットに向けて、シャークトロンが襲いかかり――
「ぅわぁぁぁぁぁっ!」
 悲鳴に近い咆哮と共に、そのシャークトロンが多数の魔力弾に撃ち抜かれ、爆散した。
 逃げ出そうとしていた局員のひとりだ。そのまま、続けて襲いかかってくるユニクロン軍のトランスフォーマー達に向けて攻撃をしかける。
「くそっ、くそっ、くそっ……!
 やりゃあいいんだろうが、やりゃあ!」
 ほとんどヤケっぱちに近いテンションだが、彼の中には確かに戦意がよみがえっていた――その姿に、他の逃げ出そうとしていた局員達も互いにうなずき、戦線に復帰していく。
 しかも、その空気は全体に広がっていく――指揮系統の維持のために開きっぱなしになっていた通信を介して、ガスケット達の咆哮は戦場全域に伝えられていた。局員達だけではない。圧倒的に物量に押され、苦境に立たされていたなのは達もまた奮起し、戦場が少しずつ押し返されていく。
「よし……みんな、息を吹き返してくれた!」
 少しずつ、ほんの少しずつではあるが、戦いの流れは確かにこちらにかたむいてきている――わずかだが確かな手ごたえを感じ、ビッグコンボイが声を上げると、
「これなら、いける……!」
 そんな彼のすぐそばでうなずき、はやてはユニクロンのすぐ目の前の戦場――なのは達の戦っているであろう戦場へと視線を向けた。
「今なら、なのはちゃん達の援護に戦力も回せる……!
 誰か! なのはちゃん達の脱出ルートを切り拓けるか!?」
 自分で援護したいところだが、自分達のいる位置からは距離がありすぎる――はやてが通信越しに一同に問いかけると、
〈私達がいきます!〉
 さっそく反応があった。名乗りを上げたのは――
「かがみ――ライナーズか!?」
 

「今ちょうど、なのはさん達を望遠で捉えたところです!
 射程もバッチリ! ここからなら砲撃で道を切り拓ける――いけます!」
〈わかった! お願いな!〉
「はい!」
 告げるはやてにうなずき、通信を切る――振り向き、かがみはライナーズのチームメイト達を見渡し、
「と、ゆーワケよ。
 さっさとぶち抜いて、こなた達の脱出ルートを確保するわよ!」
『了解!』
 

『ジェネラルライナー!』
 かがみ、みゆき、ひより、みなみの叫びと共に、ジェネラルライナーが上空高く飛び立ち、
「ワイルドライナー!」
 つかさの指示で、ワイルドライナーがその後を追って跳躍、ワイルドファイアとタンクライナーへと分離する。
「《テンカイオー!》」
 そして、みさおとあやの――テンカイオーが最後に飛び立ち、ワイルドライナーと同様に分離、オクトーンとブロードサイドに分かれ、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
 宣言と同時に合体モードへと移行。分離した面々が合体に備えて変形を開始する。
 まずはタンクライナー、左右に分かれると砲塔が分離。タンク本体がジェネラルライナーの両足の裏に合体、より巨大な両足を形成すると、その前面に分離した砲塔が合体。脚部キャノン砲となる。
 ワイルドファイアは四肢を折りたたむと頭部が分離、前足から後ろが左右に展開。同時、ジェネラルライナーの両腕が本体から分離し、開いた両肩の付け根を展開されたボディがカバーするようにワイルドファイアが合体、新たなボディを形成し、分離していた両腕が再合体する。
 ブロードサイドはビークルモードに変形すると左右に分割。ジェネラルライナーの肩のカーボンキャノンが分離するとその後方に連結。より長い砲身のキャノン砲となり、元通り両肩に合体する。
 最後はみさおのオクトーンだ。ロボットモードのまま頭部を収納、四肢を折りたたみ、背中にバックパックとして合体する。
 胸部、ワイルドファイアの頭部があった部分には列車ターミナルのターンテーブルをイメージしたライナーズのシンボルマークが描き出され、ワイルドファイアの頭部が兜となってジェネラルライナーの頭部に合体する。
 すべてのシステムが起動、合体した各部とリンクする――カメラアイに輝きが生まれ、ライナーズ7名が高らかにその名を名乗る。
『超! 連結合体! カイゼル、ライナァァァァァッ!』
 

『フォースチップ、イグニッション!』
 高らかに宣言すると同時、フォースチップが飛来――カイゼルライナーの背中、オクトーンのチップスロットに飛び込み、全身の放熱システムが展開されていく。
〈Full drive mode, set up!〉
 システム音声が告げる中――カイゼルライナーが突如分離、ジェネラルライナー、ワイルドファイア、タンクライナー、そしてオクトーンとブロードサイドに分離する。
 そして、砲塔を分離させたタンクライナーの上に四肢をたたんだワイルドファイアが合体、さらにその上にビークルモードとなったオクトーンが重なるように合体する。
 ブロードサイドは再び左右に分割。今度はタンクライナーの砲塔と連結し、ワイルドファイアの頭部が上方にスライドし、胸部にできたスペースに合体、巨大な二連装砲台が完成する。
『超、連結武装! カイゼルバスター!』
〈Charge up!
 Final break, Stand by Ready!〉

 完成した巨大砲台“カイゼルバスター”の背後にジェネラルライナーが着地、そこにセットされたトリガーを握り、前方のユニクロン軍へと照準を合わせる。
 そして――
『カイゼル、ファイナルジャッジメント!』
 引き金が引かれた。放たれた巨大な閃光が、ユニクロン軍の白いトランスフォーマー達を力任せに薙ぎ払う!
「よし、道が開いた!」
「一気に脱出するよ!」
 かがみ達の一撃によって、戦場に一直線に空白地帯が刻まれた――言って、スバルとこなたは同時にマスターコンボイへと振り向き、
「……わかっているさ」
 二人に注目されたマスターコンボイもまた、不敵な笑みを浮かべてそう答えた。
 

『マスターコンボイ!』
 スバルとマスターコンボイの咆哮が響き、二人は頭上へと大きく跳躍し、
「カイザーコンボイ!」
 こなたはゴッドオンしたままカイザージェットへとトランスフォーム。上空へと跳んだスバル達を背中に乗せ、一気に上空へと急上昇していく。
 そして、二人は上空の雲海の上まで上昇し、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
 宣言と同時、カイザージェットが複数のパーツに分離。それぞれのパーツが空中に放り出されたマスターコンボイの周囲へと飛翔する。
 最初に変形を始めたのはカイザーコンボイの両足だ。大腿部をスライド式に内部へ収納。つま先を下方にたたんだマスターコンボイの両脚に連結するように合体。より大きな両足を形成する。
 続いて左右に分離し、マスターコンボイの両側に配置されたカイザーコンボイのボディが変形。両腕を側面に固定すると断面部のシャッターが開き、口を開けた内部の空間にマスターコンボイの両腕を収めるように合体。内部に収められていた新たな拳がせり出し、両腕の合体が完了する。
 カイザージェットの機首と翼からなるカイザーコンボイのバックパックはそのままマスターコンボイのバックパックに重なるように合体。折りたたまれていたその翼が大きく展開される。
〈“TRI-STAR-SYSTEM”――start!〉
 そして、トライファイターに備えられた“トライ・スター・システム”が起動――それに伴い、スバルとこなた、マスターコンボイ、二人の魔力がトライファイターに流れ込んでいく。
 胸部アーマーとなったトライファイターの表面に露出した、中央の大きなクリスタルを囲むように逆三角形を描く、三つの小さなクリスタル――右上のそれがスバルの空色の魔力に、左上のそれがこなたの真紅の魔力に、そして最後のひとつ、下部のそれがマスターコンボイの紫色の魔力に満たされ、同時に中央の一回り大きなクリスタルに誘導されるとひとつにまとめ上げられ、虹色の輝きを放つ。
 最後にバックパック、カイザージェットの機首の根元部分に収納されていた新たなヘッドギアがマスターコンボイの頭部に装着。三つの星によって生み出される虹色の輝きを胸に抱き、3人が高らかに名乗りを上げる。
『カイザーマスターコンボイ、トライスター!』
 

「よし! 敵が空けられた穴を埋める前に突破するぞ!
 ビクトリーセイバー!」
「あぁ……すまない……!」
 マスターコンボイが告げ、ビクトリーセイバーを支えて敵中突破、脱出を試みる――次いでヴィヴィオを抱きかかえたなのは、ヴィータを背負ったジュンイチ、シグナムをかかえるギンガ、クアットロを吊り下げて飛び立った鷲悟が後に続く。
 しかし、敵も対応が早い。なのは達を逃がすまいと、周囲の白いトランスフォーマー達が一斉に襲いかかってくる。
「ダメ――このままじゃ、突破しきる前に囲まれる!」
「ううん――大丈夫!」
 時間的に間に合わない――声を上げるギンガだったが、なのははそれをキッパリと否定した。
 その意味をギンガが問うよりも早く、答えを告げる砲撃――マックスフリゲートからの援護砲撃が、なのは達に迫る白いトランスフォーマー達を蹴散らしていく。
 そして、そんなマックスフリゲートのブリッジには、懸命に砲撃支援を指示するゆたかの姿――
「よぅし、このまま一気になのはさん達を助けちゃおう!
 全力でやっちゃえ! トランスフォーム、許可します!」
《了解いたしました》
 

《マックスキング――トランスフォーム!》
 ゆたかの呼びかけによって、マックスフリゲートが動き出す――底部の巨大なタイヤをきしませて走り出し、その速度を上げていく。
 と――底部の推進器が勢いよく推進ガスを吹き出した。その力に持ち上げられ、マックスフリゲートがゆっくりと宙に浮き上がる。
《人工重力システム作動。
 艦内、上下維持設定完了》
 システムメッセージが告げ、マックスフリゲートがゆっくりとその巨体を縦に起こしていく――人工的に発生した重力によって艦内の環境を維持したまま、艦首を天に向ける形でまっすぐに直立する。
 そして、艦の後部が二つに割れた――左右に分割されたそれがスライド式に伸び、両足となって着地。轟音と共に大地を踏みしめる。
 続けて艦の中央部から艦首側が回転を開始。甲板を前部、すなわち戦艦モード時の底部側に向けるように180度回転したところで停止する。
 回転が止まったところで艦首が変形を開始――艦首側の甲板部分が左右に分かれると、そのまま船尾側に回転し、まるでマントのように配置される。
 そして、甲板のなくなった艦首部分は先端部分に内部からせり出した拳が現れ――これもまた左右に分かれた。先ほどの甲板と同じように左右に開かれるように回転、両腕となる。
 最後に、ボディの内部からロボットモードの頭部がせり出し、各システムが再起動。そのカメラアイに輝きが生まれる。
 力強く拳を打ち合わせ、新たな姿となったマックスフリゲートがゆたかと共に自らの名を名乗る。
「《超絶巨人、マックスキング!》」
 

「マックスキング!」
《了解。
 最終砲撃、スタンバイ》
 ゆたかの言葉に答え、マックスキングが両手を前方にかざした。前方で両手を組み合わせ、突き出すようにかまえる。
《全砲門、リミッター解除。
 エネルギー充填、60%、70%、80%……》
 その動きに伴い、両腕の、さらに全身の砲塔がすべて前方の敵部隊へと向けられた。マックスキングの制御のもと、そのすべてに発揮し得るエネルギーのすべてが注ぎ込まれていく。
《……エネルギー充填完了。
 最終砲撃、スタンバイ完了》
「うん!」
 そして、すべての準備が整った――マックスキングの言葉にうなずくゆたかの前に、ブリッジの床下からトリガーユニットがせり出してくる。
 その引き金を引くのは自分の役目だ。息をつき、ゆたかはそのトリガーをゆっくりと握りしめ、
「……いきます!
 マックス、ファイナルバースト!」
 宣言と共にトリガーを引く――同時、マックスキングの全身から放たれた砲火の雨が、ユニクロン軍へと降り注ぐ!
 降り注いだ砲撃の雨により、戦線に開いた穴を埋めようとした敵トランスフォーマー群は片っ端から火球に変わる――爆発に彩られた戦線の穴を、なのは達は急ぎ駆け抜けていく。
「よし――いける!」
《といってもギリギリだよ……!
 すぐ後ろまで敵が来てる!》
「任せろ!」
 なのはに警告するプリムラに答え、脱出組の後方に出るのはジュンイチだ。
〈クロスミラージュ〉
 “蜃気楼”へとカードをセット。作り出したクロスミラージュのコピーを両手にかまえ、ジュンイチは追ってくるユニクロン軍へとその銃口を向け、
「百火――爆砕!」
 咆哮に伴い、“装重甲メタル・ブレスト”のヘッドギアに内蔵されたターゲットスクリーンがジュンイチの眼前に展開され、視界の中の敵に片っ端から照準を合わせていく。
 そして、ジュンイチの周囲にロックしたターゲットの分だけ、周囲を覆い尽くさんばかりの量の火炎弾が生み出され――
「ビッグバン、デストロイヤー!」
 解放された。発射された炎弾の雨はコピーしたクロスミラージュに制御され、狙い違わずユニクロン軍のトランスフォーマー達を撃ち抜き、爆砕し、薙ぎ払う!
 が――さらなる追撃が襲いかかる。爆発の嵐を抜け、飛び出してきた白いノイズメイズがジュンイチに襲いかかる!
「なめんな!」
 とっさにクロスミラージュをダガーモードに切り替え、魔力刃で中枢部を貫く――が、そんなジュンイチの背後に、別の個体が回り込んでくる!
 ジュンイチの反応は間に合わない。そのことを自覚し、戦慄するジュンイチに向けて刃が振り下ろされ――しかし、その一撃がジュンイチを捉えることはなかった。
 衝撃音と共に、ジュンイチを狙った白いノイズメイズの腕が斬り飛ばされたからだ。次いで顔面を粉砕され、破壊される。
 そして――
「貴様らしくないな。
 もう少し粘れると思ったんだが」
「今の今までサボってたヤツに言われたかぁないわい」
 舞い降りてきたブレインジャッカーの言葉に、ジュンイチは口を尖らせてそう答えた。
 

〈なのはさん達がライナーズと合流!
 みんな無事です!〉
「やれやれ……ようやくか」
 飛来する白いノイズメイズの突撃をかわし、直下に蹴り落とす――ノイエ・アースラのルキノからの報告に苦笑し、ライカと合流、シャマル達のマキシマスの防衛にあたっていたイクトはなのは達やジュンイチの“力”の気配を感じる方へと視線を向けた。
「けど、よかったじゃない。
 これで、みんなの撤退ルートを気にすることなく、思いっきりやれるんだからさ」
「まぁな。
 広域型はこういう時に困る。援護もままならんからな――」
 となりで地上のシャークトロンを狙い撃ちにしているライカの言葉にイクトがうなずき――

 ――――――

『――――――っ!?』
 二人の感覚が“それ”を捉えた。

 

『――――――っ!?』
 気づいたのはイクト達だけではない。ライナーズやマックスキングと合流したジュンイチやスバル、マスターコンボイ――“力”の気配を感じ取れる者、全員が“それ”を感じ取った。
「ど、どうしたの……!?」
「…………“力”が、生まれた……!」
 彼らの表情はどう見ても尋常ではない。ジュンイチですら、余裕の表情が消し飛び、冷や汗の上に歯がみしている――恐る恐る尋ねるかがみに対し、マスターコンボイもまた冷や汗を流しながら答えた。
「さっきまでただのエネルギー反応でしかなかったものが、突然“力”に化けた……!」
「………………っ!
 それって、まさか……!」
 エネルギー反応と、それが変化したという“力”――状況を考えると、示すものはひとつしかなかった。つぶやくなのはに、スバルが答える。
「たぶん……そうです。
 あのユニクロンの破片……アレが、ユニクロンとして復活し始めて……“命”を持ったんです……
 “ゆりかご”の動力エネルギーを、吸収して……!」
「ち、ちょっと待ってよ……!」
 スバルのその言葉に、思わず声を上げたのはこなたである。
「ユニクロンって、ホントにこんなとんでもないパワーなワケ……!?
 そりゃ、私達なんかよりも遥かに上だとは思ってたけど……それでも、こんなの……!?」
「…………私は、みんなみたいに“力”を感じ取れるワケじゃないけど……!」
 そんなこなたに答えるのはなのはだった。かつての戦いの記憶を思い返しながらこなたに告げる。
「あのユニクロンの欠片は、ほんの一部でしかない……
 もし、みんなの感じてる“力”が、欠片の大きさに相当した割合のパワーでしかなかったとしたら……」
「完全復活されたら、それこそ本当に、どうしようもなくなる……!」
 なのはの言葉に、ジュンイチがうめく――歯がみして、マスターコンボイは戦場全体に意識を広げた。
 各地に散って戦う仲間達や地上部隊の“力”を把握。その消耗度合いも含めて考えて――結論を出す。
「……『完全復活』どころの騒ぎじゃない。
 今の戦力では、現状のユニクロンですら……!」
「そんな……!
 これだけみんなが集まってるのに……!」
「数の問題じゃない……!
 “ゆりかご”やディセプティコン、瘴魔――戦い通しで、こっちの戦力がガタガタなんだよ……!」
 マックスキングのブリッジで声を上げるゆたかだったが、彼女のつぶやきにはスバルが答える。
「10年前は、どうやってアイツらを倒したんですか?」
「オレが“マトリクス”を使った」
 尋ねるみゆきに即答するのはマスターコンボイだ。一同を見回し、詳しく語り始める。
「当事はもっと多くの戦力が戦いに加わったが、ユニクロンが完全体だったこともあって、まったく歯が立たなかった。
 そこで、オレがヤツの唯一の弱点であった“マトリクス”で、ヤツの身体を吹き飛ばしたんだ」
「じゃあ、その“マトリクス”をもう一度使えば……」
「もうない」
 提案するあやのだったが、マスターコンボイはあっさりとその希望を打ち砕いた。
「“マトリクス”は代々のリーダーの知識と経験、そしてスパークの残滓が蓄積された超エネルギー集合体でな。使い捨てな上に、そう簡単に再チャージできるものでもない。
 オマケに、持ち主のスパークと直結しているせいで、使ったが最後持ち主の命はない――オレだって、プライマスがサルベージしなければ今でも死体のままだったさ」
「つまり、その手は完全にボツ、か……」
「あぁ」
 ジュンイチの言葉にうなずき、マスターコンボイはユニクロンをにらみつけ、
「弱点のマトリクスが使えない以上、真っ向から力ずくで叩きつぶすしかない」
「でも、今展開している戦力じゃ、それも難しい……!」
 告げるマスターコンボイだが、ギンガの言うとおりそれが難しいのは全員が把握している――うなずき、なのはのレイジングハートを握る手に知らず知らずの内に力がこもる。
「せめて……10年前、一緒に戦ってくれたみんながいてくれれば……!」
「………………ジュンイチ」
「あぁ……」
 なのはのつぶやきに、マグナがジュンイチへと視線を向ける――うなずき、ジュンイチが口を開きかけた、その時、
「なのはさん、スバル!」
「パパ達も無事だったんだ!」
 ティアナやホクトが叫び、ジェットガンナーが、ギルティコンボイが飛来する――ウェンディ以下行動を共にしていた面々もまた、次々に合流してくる。
 そして、当然“彼女”も――
「…………やっぱ来ちゃったのか、クイントさんも……」
「当然でしょう?
 戦える状態にしておいてくれた最高評議会には感謝しなくちゃね」
「あのクソ脳どもも余計なことを……!」
 正直、クイントの身を案じる立場としては後方に下がっていてほしいのだが――それを今さら言っても、戦えるコンディションに回復してしまったクイントが引き下がるとも思えない。説得を早々にあきらめ、ジュンイチはノーヴェやウェンディに尋ねる。
「ノーヴェ、ウェンディ……
 セインやディード達は?」
「別行動だ。今はどこにいるのか……」
 尋ねるスバルにノーヴェが答えると、
「話は後にした方がいいぜ!」
「来たよ、来た来た!」
 みさおやつかさが声を上げ、周囲のユニクロン軍のトランスフォーマー達が一斉にこちらに向けて侵攻を開始する。
「なんか……わたし達、狙われてないですか……?」
「う、うん……」
 しかし、その侵攻ルートは何やら自分達に集中しているような――つぶやくキャロにウェンディがうなずくと、
「その理由は……アイツだろうな」
 ジュンイチが答え、視線で指すのはマスターコンボイである。
「兄さんが……?」
「さっき、本人から聞いた。
 10年前、“GBH戦役”でユニクロンを吹っ飛ばしたのはマスターコンボイだって話だ。
 もし、あのユニクロンの欠片に自我があって、しかもそのことを覚えていたとしたら……!」
 エリオに答えるジュンイチの言葉に、一同の視線がマスターコンボイへと集中し――
「…………お前のせいかぁぁぁぁぁっ!」
「悪かったな! アイツ自身の仇でさぁ!」

 声を上げるノーヴェに、マスターコンボイが力いっぱい言い返すが、
「二人とも、そんなこと言ってる場合じゃないよ!」
「攻撃――来る!」
 あずさとみなみが声を上げ――ユニクロン軍からの攻撃が彼らのもとへと降り注ぐ!
「く………………っ!
 全員応戦! マス……あたし達を狙ってくるなら好都合よ! むしろここで食い止める!」
「今サラッとオレのせいにしかけたよな!?」
 思わずマスターコンボイがツッコむが、今はそれどころではない――ティアナの言葉を合図に、一同がそれぞれに応戦。迫り来るユニクロン軍の白いトランスフォーマー達やシャークトロンに応戦する。
 しかし、そもそも数が多すぎる。こちらが撃墜する以上の勢いで敵はその数を増やし、ジワジワと後退を余儀なくされていく。
「くそっ、これじゃキリがないよ、めんどくさいな!」
「倒しても倒しても……!
 数が多すぎる! このままでは、先にこちらが力尽きる!」
 懸命の防戦も、このままではこちらのガス欠を待つばかり――うめくアイゼンアンカーとジェットガンナーだが、それでこの状況が好転する、などということはもちろんない。
 このままではマズイ――焦りに顔をしかめながら、マスターコンボイはそちらへと視線を向けた。
 こんなイレギュラーな状況まで対策ができているはずもない、と思いつつも、わずかな希望に賭けて尋ねる。
「柾木ジュンイチ! 何かないのか!?
 こういう状況をひっくり返せる、裏技みたいなものが!」
「うん、あるよー」
「あぁ、そうだよな!
 いくら貴様でも、さすがにそろそろ隠し技も打ち止めで……」
 あっさりうなずいたジュンイチの言葉に、マスターコンボイは舌打ちまじりにそう答え――止まった。
「………………あるの?」
「あるよ。
 っつーか、さっきそれ話そうとしてたんだよね。クイントさん達が来てうやむやになっちゃったけど」
 ホントに対策を立てていた――振り向き、マスターコンボイの“中”から尋ねるスバルに対し、ジュンイチはやはりあっさりと、白ドランクロンの顔面に火炎を叩き込み、爆砕しながらうなずいてみせる。
「考えてもみろよ。
 アイツらは最初から、ユニクロン復活のために“レリック”のエネルギーを狙っていたんだぜ。
 当然、ユニクロンの復活を許す――そういう可能性も、最悪のケースとして想定してた。“こういう形”になる、とまでは予想できてなかったけどね。
 だから……スカイクェイクにこなた達のお守りを頼んだように、もうひとり――ザラックコンボイにも仕事をお願いしていた」
 言って、ジュンイチは右手を前方にかざした。左手を添え、精神を集中させながら説明する。
「10年前の戦士達――“GBH戦役”でユニクロンに立ち向かった戦士達のひとりひとりと、ずっと連絡を取り合っていてもらったのさ。
 用件は世間話でもなんでもいいから――とにかくスペースブリッジ計画で出払ってる連中も含めて、ひとり残らず。
 すべては――この時のために!」
 そう告げると同時、ジュンイチが“力”を解放――彼の足元に円を描き、その内側に図形を描き出していく。
 精霊術の術式陣だ。そこへジュンイチが“力”を流し込み――
 

「ブイリュウ、もっとスピード出ないの!?」
「ムリだよ」
 現在、二人と1体は戦場を目指して移動中――ゴッドドラゴンのコックピット、メインシートに座って尋ねるアリシアに、ブイリュウは彼女に抱きかかえられた状態でそう答えた。
「これが性能の限界だよ――元々、ボクらは長距離巡航を想定したタイプじゃないからねー」
「まぁ、私達が生身で飛んでいくよりは速いけど……!」
「こうしている間にも、みんなは……!」
 通信でクラナガンの状況は聞いている。ユニクロンの復活という非常事態に、後ろのサブシートに座るフェイトや、ゴッドドラゴンの背中につかまっているキングコンボイは焦りを隠しきれなくて――
『……え…………っ!?』
 そんな彼女達を真紅の光が包み込んだ。思わず声を上げ――次の瞬間には、彼女達の姿はその場から消えていた。
 

「1中隊の3分隊は、そのまま東の大通の防衛! あと、7分隊も向かってくれ!
 3中隊は全隊中央通りへ!」
 戦艦マキシマスのブリッジで、フォートレスが地上本部所属の武装隊に指示を出す――了解の返事を確認し、背後のシャマルへと振り向き、
「シャマル!
 他に防衛ラインの薄いところは!?」
「待ってください。
 今サーチしてますから……」
 尋ねるフォートレスに対しシャマルはクラールヴィントをマキシマスのレーダーと連動。周囲の状況をサーチして――
「――――って、えぇっ!?」
 その足元に、真紅の術式陣が展開された。
 

「はやて!?」
「これ――ジュンイチさんの!?」
 一方、異変ははやてのもとでも――声を上げるビッグコンボイに返す余裕もなく、はやては自身の直下に展開された術式陣を見て声を上げる。
 瞬間、はやての視界が歪む――ほんの一瞬だけ遠のいた意識が戻ってくると、
「はい、必要メンバー“お取り寄せ”完了〜♪」
 ぽんっ、と手を叩いて告げるジュンイチの姿が目の前にあった。
 はやてだけではない。すぐとなりにはシャマル、さらに頭上にはフェイト達やキングコンボイを乗せたゴッドドラゴンの姿もある。
「じ、ジュンイチさん……!?」
 自分が転送されたのだとすぐには気づかず、思わずはやてが驚きの声を上げ――
「なのは!」
 そんな中で、いち早く状況を理解したフェイトがゴッドドラゴンのコックピットから飛び出してきた。ジュンイチの傍らのなのはのもとへとあわてて駆け寄る。
「なのは、大丈夫!?
 ブラスターを使ったんでしょう!?」
「う、うん……
 マグナさんのおかげで、なんとか……」
 尋ねるフェイトになのはが答え、彼女のとなりのマグナがフェイトに向けて手を振ってみせる。
「それより……ジュンイチさん。
 はやてちゃんやシャマルさんを呼んで、どうするつもりなんですか?」
 それよりも気になるのは、ジュンイチがはやて達を集めてた目的だ。尋ねるなのはに対し、ジュンイチは笑顔で答えた。
「フェイト達については、目的はゴッドドラゴンさ。
 オレ達ブレイカーにとって、ブレイカービーストは精霊力を供給してくれるサポート役でもあるからな――これからすることにからんで、ちょっとパワーをわけてもらいたいんだよ。
 はやてとシャマルはそのお手伝い」
「『これからすること』……?」
「そう。
 これからする――反撃の“下準備”のね!」
 なのはに答え、ジュンイチはゴッドドラゴンの頭上に飛び乗り、その場で再び“力”を解放する――放出され、導かれた力はジュンイチの周囲、それなりに距離を置いて数ヶ所に収束。それぞれに巨大な術式陣を描き出す。
 そのすべてが、先ほどと同じ術式を描き出した、そしてさらに巨大な術式陣――それこそ“戦艦さえも召喚できそうなほどの大きさ”の術式陣が多数描き出されたのを見て、ジェットガンナーが声を上げる。
「まさか――大規模召喚!?」
「確かに、あれだけの規模の召喚をしようとなると、パワーの供給源を求めたのは納得できるけど……
 だけど、このタイミングで、一体何を呼ぶつもりなの……!?」
 ジュンイチは一体何を召喚するつもりなのか――ジェットガンナーの“中”でティアナがつぶやくと、
「…………まさか……」
 気づいたのはギンガだった。ジュンイチへと振り向き、尋ねる。
「ジュンイチさん。
 まさか、ザラックコンボイさんにみんなと連絡を取り合っててもらってたのって……!」
「当事の戦士、みんなの位置を、随時把握するため……!?」
「そういうこった!
 各惑星の連中や、スペースブリッジ計画で宇宙に出てるヤツら――全員まとめて呼び寄せる!
 『ご都合主義だ』と思わば笑え!
 それでも言いたい! 『こんなこともあろうかと』ぉっ!」
 ジェットガンナーに続くティアナやなのはに答えるその言葉に伴い、ジュンイチの足元にも術式陣が展開された。各術式陣が“力”のラインで結ばれ、連動。まるで鼓動のように脈打ち始める。
「はやて! キャロ! ルーテシア! つかさ! でもってオマケにシャマル!
 よーするに召喚使えるヤツ! 全員手伝え!
 ちょいとドデカく、召喚いくぜ!」
「は、はいっ!」
 ジュンイチに言われ、はやてが術式陣のひとつに降り立つ――それにならい、指名された残りの面々もそれぞれ手近な術式陣に向かう。
 とりあえず、つかさのレインジャーが地上近くの術式陣に無様によじ登る姿は見ないでおいてやる――全員が配置についたのを確認し、ジュンイチは深く息をつき、
「そんじゃま――いくぜ!
 召喚担当の皆さん、全力全開でサポート夜露死苦!」
 そして、ジュンイチが“力”を集めた右手を頭上高く掲げ――

 

 

「援軍さん――いらっしゃあいっ!」

 

 

 手の中の“力”の塊を、思い切り足元の術式陣に叩きつけた。それを合図に術式が発動、周囲に展開された術式陣が一斉に“力”を放出し始める!
「き、来た来た!」
「つかささん、落ち着いて!」
「押さえ込もうと思わないで。
 私達は手伝いだけ――この陣の中から“力”が飛び出さないように、流れをまとめるようなイメージで」
「う、うん!」
 あわてるつかさにキャロやルーテシアがアドバイス。気を取り直し、つかさが術式のサポートに取りかかった。はやてやシャマルも自分の受け持った術式陣のサポートを続けるが――
「――って、ジュンイチさん!
 何で私の担当の陣だけ3つもあるんですか!?」
「手伝い組の中で一番魔力容量あるだろうが! その分負担を負いやがれ!」
「横暴やぁーっ!」
「終わったらあずさの胸もんでよし!」
「全力でやらせていただきますっ!」

 残念ながらはやての嗜好は把握済み。エサで釣るなど造作もない――あっさりとはやてを丸め込み、ジュンイチは術式の制御を続ける。視界の外であずさが抗議の声を上げているがとりあえずは兄権限によって全力で無視だ。
 ジュンイチの周囲で“力”が渦を巻き、足元の術式陣へ。さらにそこからそれぞれの術式陣に流れ込んでいく。
 それぞれの術式陣が活性化し、光を強めていく――はやて達のサポートで維持され、空間を歪めていく。
 そんなジュンイチ達目がけて、ユニクロン軍が殺到するが、
「ジャマは――」
『させない!』
 なのはとスバル達がそれを阻む。なのはのディバインバスターが迫り来る敵の編隊を討ち抜き、難を逃れたものをカイザーマスターコンボイとなったスバル達が放つディバインテンペストが薙ぎ払う。
 さらにティアナ達やライナーズも参加、ジュンイチの妨害をしようとするユニクロン軍を迎撃していく――仲間達に守られ、ジュンイチの術式は次の段階へ。発生した空間の歪みをさらに広げていく。
 そして――
「――――――っ!
 来た! 来ました!」
 最初に捉えたのはキャロだった。彼女のサポートする術式陣、そこに生まれた歪みの中央に、何かの影が見え隠れし始めて――
「キャロ、危ない!」
「――――――っ!」
 ティアナの叫びで我に返る――振り向いた彼女目がけて、なのは達の防衛ラインを突破した白ノイズメイズが襲いかかる!
「姫!」
 とっさにシャープエッジが防御を固めるが――それだけだ。逃げられない彼女達に向け、白ノイズメイズがブラインドアローをかまえる。
 しかし――その一撃が放たれることはなかった。キャロの背後の空間の歪みから飛び出した火炎の塊が、白ノイズメイズを直撃、粉々に爆砕する!
「え………………!?」
 歪みの中の何者かからの援護射撃――思わずキャロが振り向いた、まさにその時、
 

「ブルァアァァァァァッ!」

「ブァアァァァァァッ!」
 

 野太い咆哮と共に、空間の歪みの中から飛び出して、キャロの頭の上を飛び越えて現れたのは、4足歩行と2足歩行のドラゴン達だ。
 そして――
 

「フレイムコンボイ!」
「ギガストーム!」

『トランスフォーム!』
 

 咆哮と共に、空中で人型のロボットモードへトランスフォーム。地響きと共に着地したのは、アニマトロスの暗黒司令官フレイムコンボイに暴虐大帝ギガストーム――アニマトロスが誇るリーダーコンビである。
「ふ、フレイムコンボイさん……!?」
「おぉ! その匂いはなのはか!
 久しぶりだな! 見違えたぞ」
 驚き、声を上げるなのはに気づき、振り向いたフレイムコンボイが手を挙げてそれに答え、
「しかし、ずいぶんと派手にやってるじゃないか。
 これは暴れがいがありそうだ!」
 一方で、自分達の出現に警戒を強めるユニクロン軍の白いトランスフォーマー達を前に、ギガストームが余裕の笑みと共に言い放つ。
 さらに――
「フッ、久しぶりのコンビ結成だな。
 腕は鈍ってないだろうな? フレイムコンボイ」
「バカにするなよ、高町恭也」
 フレイムコンボイはパートナーを組んでいた恭也まで一緒だ――愛用の小太刀“八景”を手に尋ねる恭也に答え、フレイムコンボイもフレイムアックスを肩に担いで前に出る。
「見せてくれる、この10年でさらに磨き上げられたこのオレの強さをな!
 強さこそ正義! 力こそ強さ!
 力こそパァぅワァアァッ!」
『意味同じだからソレ』

 フレイムコンボイ以外の全員からツッコミが飛んだ。
 

「ったく、ワラワラとうっとうしいっ!」
「数が多すぎなんだな!」
 別の場所では、武装隊員達を立ち直らせた立役者達が交戦中――倒しても倒しても数が減っている気がしないシャークトロンの群れを前に、ガスケットとアームバレットがグチをこぼすが、それで状況が改善されるはずもない。
「あー、もうっ! やってられるかぁっ!
 都合よく出て来い、心強い援軍〜〜〜っ!」
 まったく先の見えない泥沼の戦いに、ついにガスケットがキレた。頭を抱えて絶叫し――

『それではっ!』
「お言葉に!」
『甘えて!』

 そんな彼に答え、その周囲を駆け抜けたのは、スポーツカーと大型ホバータンク、そして高速レスキューヘリ――
 

『ニトロコンボイ!』
「オーバーロード!」
『ライブコンボイ!』

『トランスフォーム!』
 

 スピーディアと地球のリーダー達だ。音速司令官ニトロコンボイとそのパートナー、槙原耕介。爆走大帝オーバーロード、そして航空司令官ライブコンボイとパートナーの相川真一郎――それぞれロボットモードへとトランスフォームし、ガスケット達の前に並び立つ。
「お、お前ら!?」
「久しぶりだな」
「はやてちゃん達の部隊に誘われたと聞いたが、元気にやってるみたいじゃないか」
 驚くガスケットにニトロコンボイや耕介が答えると、
「私だっているわよ!
 クロミア、トランスフォーム!」
 頭上から彼らに告げ、戦闘艇からロボットモードにトランスフォームし、降下してきたのは、ガスケット達のデストロン時代の仲間、女性型トランスフォーマーのクロミアである。
「主役は遅れて登場するもの!
 この私の活躍に存分に見とれなさい! オーッホッホッホッ!」
 久々の登場で上がりに上がったテンションのままに、クロミアは思い切り高笑いを上げ――
「さーて、次行くべ」
「だなだな」
「耕介、敵の動きは把握しているか?」
「あぁ。ここからだと……」
「真一郎、ボク達も行くぞ」
「わかってるって」
「さーて、オレはどこで暴れようかねー。
 オラ、ヒラ局員どもも、もうひとふんばりがんばれ〜っ」
『うぃ〜っス』
「聞きなさいよ、アンタ達ぃっ!」
 無視して目の前の敵を蹴散らし、次の戦場を目指して解散する一同に、クロミアは力の限り絶叫した。
 

「あ、アイツらって……!?」
「他の惑星のコンボイと、大帝達……!」
「ジュンイチさんが召喚したのは、彼らだったんですね……」
 思いもよらない援軍の姿を、セイン達もまた視界に捉えていた。セインに答えるディエチのとなりで、ディードもまた納得してうなずいてみせる。
 と――
「…………ディード」
 そのディードのさらにとなりに控えていたオットーが動いた。クラウドウェーブにゴッドオンした状態でディードの宿るウルフスラッシャーを引き寄せるとレイストームで周囲にバリアを張る。
「………………?
 どうした? オッどわぁぁぁぁぁっ!?」
「でぇぇぇぇぇっ!?」
 尋ねるディエチの言葉が悲鳴に化ける――轟音を響かせ、すぐそばに巨大な何かが降り立った。落下の衝撃ではね飛ばされて来たガレキの雨が、ディエチやセインのもとへと降り注ぐ。
「な、何だぁ――って、デカっ!?」
「お、大きい……っ!?」
 降下してきたのは、直上の術式陣から出現した巨大重機と大型移動要塞だ。驚くセイン達にかまわず、ユニクロン軍に向けて走り出し、
 

『メガロコンボイ!』
「メトロタイタン!」

『トランスフォーム!』
 

 もちろん彼らもなのは達のかつての仲間だ。咆哮と共に、リンディを連れた巨神司令官メガロコンボイと要塞大帝メトロタイタンがロボットモードへとトランスフォームし、
 

「スタースクリーム、トランスフォーム!」
 

 さらに、そんな彼らを追ってきたトレーラー型ビークルがトランスフォーム。スタースクリームが彼らの脇に着地する。
「スター、スクリーム……!?」
「セイバートロン星から来てくれたんだ……!」
 スタースクリームとは六課隊舎攻防で対峙した間柄だが、今回は共にユニクロンと戦う“仲間”として――つぶやくディードにディエチが応えると、
〈フフンッ、私もいるんだからね!〉
「って、こら、フィアッセ! わざわざ名乗る必要なんかないだろう!」
 ライドスペースから通信システムを介して自己主張するのはスタースクリームのパートナーであるフィアッセだ。ウィンドウをデカデカと展開して名乗りを上げる彼女にスタースクリームが声を上げると、
「フィアッセ・クリステラも来てるんだ……
 …………よし、終わったらサインもらおう
((ファンだったんだ……))
 小さくガッツポーズをとり、小声でつぶやくオットーの姿に、ディードとディエチ、セインの心の声が唱和した。
 

 もちろん、彼らコンボイや大帝達だけではない。アニマトロスのファングウルフやスピーディアのオートランダー、ガーディオン以下地球の合体戦士達にギガロニアのブレンダルにモールダイブ達。そしてセイバートロン星のガードシェル達やラナバウト達まで。もちろんそれぞれ人間のパートナー達も一緒に――かつての戦いで共にユニクロンと戦った仲間達が次々に空間の歪みの奥から姿を現し、戦列に加わっていく。
 トランスフォーマー達だけではない。10年前に発足した新たなスペースブリッジ計画のために建造されたサイバトロンのスターシップ、さらにはこなた達が地球での拠点としていた、空中要塞 クラウドキャッスルまでもが、ジュンイチの展開した巨大な術式陣に導かれ、戦場のあちこちに次々に現れる。
「へっ、まさかまたお前と組むことになるとはな!」
「オレとしては、ジュンイチさんがお前まで捕捉していたことに驚きだよ。まったく……」
 その中にはこんな人まで――“GBH戦役”の後、元の風来坊に戻ってあてのない旅に出て行ったはずのソニックボンバーだ。彼の言葉に、艦長を務めるクラウディアからムリヤリ召喚で呼び寄せられたクロノは並んで飛翔しながら思わず苦笑する。
 そして――
「ザラックコンボイ様! お待たせしました!」
 レオザック達もいる。ミッドチルダ・サイバトロンの面々も術式陣の中から現れ、ザラックコンボイと合流する。
「いやー、正直、このまま出番がないまま終わるんじゃないかとヒヤヒヤしていましたよ」
「そう言うな。
 万一の備えとして待機を命じていたんだ。本来なら出番がなかった方が戦況的にはありがたかったんだからな」
「ち、ちょっと待ってください!」
 レオザックと共に合流したオンスロートに答えるザラックコンボイの言葉に、なのはは思わず待ったをかけた。
「ザラックコンボイさんだけの参戦で、おかしいとは思ってたんですけど……まさかザラックコンボイさん、こうなることを見越してレオザックさん達を出動させずにいたんですか?」
「さっきの柾木の話を聞いていただろう?
 オレはユニクロンの復活に備えての動きを、柾木から依頼されていた――当然、対ユニクロンのために戦力を温存することは考えたさ。
 その分“ゆりかご”との戦いが戦力不足になることは考えたが、その分オレが暴れて帳尻を合わせることで対価とした」
「そ、そうだったんですか……」
 ユニクロンの復活という最悪のケースまで想定して、ジュンイチは打てる手をすべて打っていたのか――先見の明がありすぎるにも程がある。告げるザラックコンボイの言葉に、もう驚嘆を通り越して呆れるしかないなのはだったが、
「そんなことより、なのは。
 これだけみんなが集まっているんだ――誰か忘れちゃいないか?」
「え――――――?」
 そのザラックコンボイの言葉に、なのはは思わず首をかしげ――
 

「なのは」
 

「――――――っ!?」
 かけられた声に、彼女は思わず身体を震わせた。
「久しぶりだな」
 そう告げるその声を忘れるはずもない。
 ゆっくりと振り向き――“彼”の姿を発見した。
 

 真紅に染め抜かれたボディ――
 

 背中に装備された、重火器を備えたバックパック――
 

 そして、胸部装甲越しにもその輝きを確認できるサイバトロンのマトリクス――

 

 

 間違いない――久方ぶりの再会。その感慨と共に、その名を呼ぶ。

 

 

 

 

「――――ギャラクシーコンボイさん!」


次回予告
 
ジュンイチ 「さーて、最終戦も盛り上がってきたし、オレもそろそろ“蜃気楼”の真の力を解放しようかな?」
ウェンディ 「さて、ここで問題っス!
 “蜃気楼”の真の力とは何!?

 1.自爆装置
 2.自爆装置
 3.自爆装置

 さぁ、どれっスか!?」

ジュンイチ 「自爆以外の選択肢がねぇ!?」
ウェンディ 「お約束じゃないっスか!」
ジュンイチ 「お約束過ぎて斬新さがねぇんだよ!
 やるならもっといろいろやれっつーの!」
ウェンディ 「あ、自爆装置自体はOKなんスか……」
ジュンイチ 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第115話『みんなまとめて全力全開!
 〜本当の“最後の切り札ラストカード”〜』に――」
二人 『ハイパー、ゴッド、オン!』

 

(初版:2010/06/05)

 

 

 

 

 

『GM』シリーズ

NEXT PROJECT

始動

 

 

SPECIAL THANKS

コルタタ
(敬称略)

 

 

『とある魔導師と守護者と機動六課の日常』

 

2010年7月

 

――“古き鉄”、参戦――