〈スカリエッティのアジトの制圧と危険物の封印および押収、完了しました〉
「そう。
お疲れさま、シャッハ」
ベルカ自治領、聖王教会――通信してきたシャッハの言葉に、カリムは彼女を労い、息をついた。
と、シャッハと通信を代わったのはヴェロッサだ。映像の中でシャッハと交代。カリムに尋ねる。
〈義姉さん、クラナガンの……はやて達の方はどうなってる?〉
「いよいよ大詰め、といったところね……」
ヴェロッサに答え、カリムは別のウィンドウに映し出されている、クラナガンでのユニクロンとの戦いの様子へと視線を移した。
(はやて……兄様……
お願い……世界を守って……!)
「では、作戦を確認しよう」
反撃――と言うにはあまりにも頼りない、一か八かの大博打だが、それでも自分達にはこの方法しか残されていない。一同を見回し、ソニックコンボイはそう口を開いた。
「作戦はいたってシンプルだ。スターライトブレイカーで、ユニクロンを砲撃。
本体撃破はあきらめ、一点集中突破の狙撃でコアを撃ち抜き、その機能を停止させる。
具体的には、ジュンイチが魔力をかき集め、ゴッドブレイカーに蓄積。なのはがそれをスターライトブレイカーの形に練り上げる」
「おぅ」
「はい!」
ソニックコンボイの言葉にジュンイチとなのはがそれぞれうなずく――が、確認すべき事項はそれが全てではない。
「ただ、扱うエネルギーの膨大さゆえに、二人ともそれだけで精一杯となる――そこでカイザーマスターコンボイ、もっと言うならばスバルの出番だ。
二人に代わって、最後の一撃のトリガーを任せる」
「は、はい!」
ソニックコンボイの言葉に、カイザーマスターコンボイにゴッドオンしているスバルが答える。
だが、ビシッ、と直立不動の姿勢で硬直する彼女の姿は、ゴッドオンによって表情が見えない現状でも緊張しているのがバレバレで――
『阿呆』
そんな彼女に、身体を貸しているマスターコンボイと共にその“中”に宿るこなたが動いた。マスターコンボイが右手を、こなたが左手を操り、同時に自分達の頭、すなわちスバルの頭を小突く。
「そう気負うな。
貴様ひとりが引き金を引くワケではない」
「そうそう。一緒にゴッドオンしてる私達だって、スバルと一蓮托生なんだから。
宇宙の命運、一緒に背負ってあげるよ♪」
「マスターコンボイさん、こなた……」
告げる二人の相棒の言葉に、スバルの声にようやくいつもの明るさが戻る――そんな彼女達のやり取りに満足げにうなずくと、ソニックコンボイはジュンイチへと向き直り、
「さて……後は、万が一の敵の妨害に対する備えだが……
ジュンイチ。魔力を集めながら動き回れるか?」
「タメながら回避運動ができるか、ってか?
できないワケじゃねぇけど……できることなら遠慮したいかな?
移動しながらかき集めるより一ヶ所にドンと腰を据えて、そこを中心点に“力”をかき集めた方が遥かに効率がいい。
つまり、飛んできた攻撃に対して回避行動を取ったりすれば、当然チャージ時間は長くなる――“チャージ時間”っつー名前の地獄を自分達で引き伸ばしたいなら、思い切り飛び回らせてもらうけど?」
ジュンイチの答えはあまり芳しいものではなかった。ソニックコンボイも半ば予想していたのか、ジュンイチの言葉に息をつき――
「つまり、確実にお前達を守らなければならない、ということか」
「あのユニクロンを相手にかよ。
またキッツイことやろうとしてるよな」
新たに加わる仲間の声は――
「まぁ、私達の手にかかれば、軽いものだがな」
「安心しな、なのは!
お前にゃ一発の攻撃も通さねぇからよ」
「お前達は安心して、ユニクロンに一撃を叩き込んでくれればいい」
「この宇宙の命運、任せたぜ」
ジュンイチの“究極蜃気楼”でパワーアップしたシャマルのクラールヴィント、そこから放たれる治癒魔法によって、完治とまではいかずとも戦闘可能なレベルにまでは何とか回復したシグナムとヴィータだ。スターセイバー、ビクトリーレオと共に、なのは達の前に舞い降りる。
「ヴィータちゃん!」
「シグナム!」
「スターセイバー達も……
戦えるコンディションなのかよ?」
「万全とは言いがたいが……それはお前達も一緒だろう?」
「このミッドチルダが滅ぼされるかどうかの瀬戸際なんだ。のんびり手当てなんて受けてられるかよ」
「そうか……
ムリをさせてすまない」
なのはやフェイトの声、そしてジュンイチの問いにスターセイバーとビクトリーレオが答える――そんな彼らを労うと、ソニックコンボイは一同を見回し、
「時間も惜しい。始めるぞ。
我々は、スターライトブレイカーをチャージするなのは達を全力で防衛する!」
「作戦――開始!」
第116話
最後の希望
〜星の光に願いを託せ〜
『カイザーマスターコンボイ!』
「ゴッドブレイカー!」
『爆裂武装!』
スバル、こなた、マスターコンボイ、そしてジュンイチの咆哮が響き、それぞれが飛翔――カイザーマスターコンボイの前方へと先行したゴッドブレイカーがジュンイチを宿したままゴッドドラゴンへと変形する。
と、ゴッドドラゴンの下半身が180度回転。前後逆になるとリアスカートが左右に展開。空いた空間を通す形で両足がゴッドドラゴンの胸側に折りたたまれる。
そして、その後方に追いついてくるカイザーマスターコンボイ――ゴッドドラゴンの後部、折りたたまれた大腿部の内部からせり出してきたトリガーグリップを握り、システムをリンクさせる。
『爆裂武装! ドラゴニックバスター!』
両者のシステムが同調――竜の上半身を模した砲台となったゴッドブレイカーをカイザーマスターコンボイに宿るスバルがかまえ、
「なのは!」
「はい!」
この攻撃は彼女もいなくては始まらない。促すジュンイチに応え、なのははドラゴニックバスターの背の上に降り立った。
「私はいつでも!
ジュンイチさん!」
「チャージはとっくに始まってる!」
告げるなのはに答え、ジュンイチは魔力の収束に意識を集中させる――ドラゴニックバスターにその姿を変えたゴッドブレイカー、その背中の翼を、かき集めた魔力を受け止める帆として大きく広げる。
自らの尊敬する師達が必殺の一撃を蓄え始める中、スバルはカイザーマスターコンボイの“中”で大きく息をついた。
ユニクロンへの最後の一撃――そのトリガーを任された重責が、今になってのしかかってくる。
正直、今すぐにでも逃げ出したい気分だが――
(…………それじゃ、ダメなんだ……!)
同時に、そんな自分に抗う心も、スバルの中で激しく渦を巻いていた。
(どんなに恐くても……それだけはダメっ……!
なのはさんが……お兄ちゃんが……マスターコンボイさんや、こなたが……
それどころか、会ったばかりのギャラクシーコンボイさん達まで……みんなが、あたしを信じてくれてる。
みんなが……あたしに未来を託してくれたんだ……!)
逃げてたまるか――自分の中から湧き上がってくる想いに背中を押され、スバルは改めてトリガーを握りしめ――
「…………スバル」
そんなスバルに対し、マスターコンボイは静かに声をかけてきた。
「今さらながら思うんだが……お前がいたせいで、オレは今、ここにいる」
「マスターコンボイさん……?」
「安心しろ。お前を責めるつもりはない。
ただ……お前がいたからこそ、今までの戦いを戦ってこれたんだ。
そして――“これからも戦っていける”」
「………………っ」
そんなマスターコンボイの言葉に、スバルは思わず息を呑んだ。
「これからも」――未来を指したマスターコンボイの言葉が意味するところは明白だ。
「この戦いに勝利しても、すべてが終わるワケじゃない。
オレ達の生きる世界は、この戦いの後も、さらに先へと続いていく……
その世界を生きるためにも……この戦い、必ず勝つぞ」
「はいっ!」
マスターコンボイの言葉に、スバルは力強くうなずいて――
「あぁ〜あ、二人そろって通じ合っちゃってさ」
ため息まじりに口をはさむのはこなたである。
「なんか、私の入り込む余地がないよねー」
「フッ、口をはさみたい時はどんな時でも遠慮をしないヤツが今さら何を。
自分の判断であえて口を閉ざしていたんだろうが」
「まぁ、そうなんだけど……
そこはほら、スバルよりも年上としての気遣い、ってヤツ?」
「背はスバルよりも低いがな」
「うるさいよ!
マスターコンボイだってヒューマンフォームじゃ私と変わらないクセに!」
「残念だったな!
ヒューマンフォームのオレの背は、貴様より2cmも高い!」
「な、なんですとぉ――っ!?」
すぐそばで――文字通り一体となった身体の中で――繰り広げられるやり取りに思わず笑みがこぼれる。気合を入れ直し、さらに緊張も吹き飛ばしてくれた相棒達に内心で感謝しつつ、スバルは改めてトリガーを握った。
(そうだ……
この戦いですべてが終わるワケじゃない。
この戦いを乗り越えたその先――あたし達の行く道は、その先にまで続いてるんだ……
その道に今の世界をつなげるのが、今のあたしの役目……
あたしがみんなを“未来”へつなぐんだ!)
「よし、なのは達はチャージを開始したな」
ジュンイチの駆るドラゴニックバスターが翼を広げ、魔力を集め始める――その姿を確認し、ソニックコンボイはその場に集まった一同を見回し、
「では、我々はなのは達の護衛だ。
ユニクロン軍を押さえ込み、なのは達のチャージを滞りなく進める」
「アイツらの一撃に運命を託したワケだしなァ」
「やるしかないってことだね」
告げるソニックコンボイの言葉にブレイズコンボイとメビウスコンボイがうなずくと、
「ソニックコンボイ」
「ブリッツコンボイ」
声をかけてきたのはビクトリーレオとスターセイバーだ――二人の言いたいことをすぐに悟り、ソニックコンボイとブリッツコンボイは顔を見合わせ、
『リンク、アウト!』
ソニックボンバーやブリッツクラッカーと分離。スターセイバー達と向き合った。
「キングコンボイ!」
キングコンボイが叫び、上昇しつつパワードデバイスを分離させ、
『スターセイバー!』
次いでシグナムとスターセイバーの叫びが響き、スターセイバーがVスターを分離させ、合体形態のままのVスターが上半身と下半身に、さらにそれがそれぞれ左右に分割される。
そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
3人の叫びと共に、分離したジャックプライムの両足に分離したVスターの下半身が、両腕に同様にVスターの上半身が合体する!
最後に、ビークルモードのスターセイバーが背中に合体、フライトユニットとなり、3人が高らかに名乗りを上げる。
『セイバァァァァァ、コンボイ!』
『ギャラクシーコンボイ!』
なのはとギャラクシーコンボイの叫びが響き、ギャラクシーコンボイはギャラクシーキャノンを分離。両腕を背中側に折りたたみ、肩口に新たなジョイントを露出させ、
『ビクトリーレオ!』
次いでヴィータとビクトリーレオが叫び、ビクトリーレオの身体が上半身と下半身に分離。下半身は左右に分かれて折りたたまれ、上半身はさらにバックユニットが分離。頭部を基点にボディが展開され、ボディ全体が両腕に変形する。
そして、ビクトリーレオの下半身がギャラクシーコンボイの両足に合体し――
『リンク、アップ!』
4人の叫びと共に、ビクトリーレオの上半身がギャラクシーコンボイの胸部に合体。両腕部がギャラクシーコンボイの両肩に露出したジョイントに合体する!
最後にビクトリーレオのバックユニットがギャラクシーコンボイの背中に装着され、4人が高らかに名乗りを上げる。
『ビクトリー、コンボイ!』
「………………ん……」
視界に最初に飛び込んできたのは、無機質な室内灯の明かりだった――意識を取り戻し、レジアス・ゲイズはうっすらと目を開いた。
「……ここは……?」
「機動六課の協力者――その母艦のトランスフォーマーの中です」
疑問を口にしたレジアスに答えたのは、ベッドのすぐ脇に佇むシャマルである。
「お前は、八神はやての……!」
「動かないでください。
薬物は可能な限り抜いたし、治癒魔法の効果も確実に出てますけど、それでも完全に影響が消えたワケじゃないんですから」
彼女が、自分が敵視していた八神はやての縁者であることはすぐにわかった――身を起こそうとしたレジアスを、シャマルはあわてて寝かしつける。
「薬物……
……そうか……私は、評議会に更迭されて……」
「評議会の手の者に、薬物を投与されていたんです。
あなたの死を、自分達の手によるものと思わせないために……
薬物による中毒死となれば、誰も評議会が仕組んだものとは思わないはず……まず真っ先に、犯罪者の手によるものだと考えるでしょうから」
レジアスのつぶやきに答え、シャマルは息をつき――
「……なぜ、私を助けた……?」
「私達の判断じゃありません。
ジュンイチさんがイレインに頼んでくれたそうです」
「……私に、事件について証言させるためか……」
「少なくとも、イレインにはそう話していたみたいですね」
「………………何?」
シャマルの言葉からは、何か含みのようなものが感じられた。まるで、その言葉の裏にまだ何かがあるかのような――
「どういうことだ?」
「私には、それが本当の理由だとは思えないんです」
聞き返すレジアスに対し、シャマルは迷うことなくそう答えた。
「きっと、ジュンイチくんは見たくなかったんですよ」
そうシャマルが告げると同時――
「父さん!」
悲鳴に近い声が響いた。レジアスが顔を上げた、その視線の先で――医務室の入り口で息を切らせ、大きく肩を上下させているのは――
「オーリス……!?」
「よかった……無事だったんですね……!」
いつものクールな彼女は完全にその面影をなくしていた。感極まり、ベッドにすがりついて泣き崩れるオーリスの姿に、シャマルはもう一度繰り返した。
「きっと、ジュンイチくんは見たくなかったんですよ――」
「父親を亡くす、娘の姿を……」
そんな親子の再会が繰り広げられているマックスキング――その外側では、ティアナ達六課フォワード部隊やかがみ達カイザーズの合体したカイゼルライナー、ルーテシアとビートルシファー、そしてクイントが守りを固めていた。
「わかりました。
じゃあ、あたし達もそこに加わります」
そして、指揮所とのやり取りを終えると、ティアナは通信を切って仲間達の方へと振り向いた。
「ティアちゃん、何て?」
「なのはさん達が……スターライトブレイカーを撃つって」
『えぇっ!?』
「戦場に飛び散った魔力の残滓をかき集めて、ユニクロンに向けて叩き込むつもりか……
また思い切った手に出たねー」
あずさに答えるティアナの答えに、一同から驚きの声が上がる――エリオに身体を貸しているアイゼンアンカーが苦笑すると、
「ティアナ!」
「ギンガさん!
シロくんも!」
「あたしもいるっスよ!」
ビークルモードで駆けてきたのはギンガを乗せたロードナックル・シロだ。
声を上げるキャロの前で停車すると、ギンガを降ろしてロボットモードへとトランスフォーム。すぐ脇にはウェンディのエリアルスライダーも降下してくる。
「どうしてこっちに?
ジュンイチさん達と一緒だったんじゃ……?」
「そのジュンイチさんに言われたの。
『全力で戦うなら、Vストライカーに合体した方がいいだろ』って」
「でも、合体するにはブレインジャッカーが……」
「オレがどうかしたか?」
ティアナの問いに答えるギンガに、さらにキャロが尋ねる――彼女に答えるのは、ギンガに続いて飛来、合流してきたブレインジャッカーである。
「アンタねぇ……今までどこで何やってたのよ!?」
「観察だが?」
今までの激戦の中まったく姿を見せることのなかったブレインジャッカーに声を荒らげるティアナだったが、当のブレインジャッカーはあっさりとそう答えた。
「“ゆりかご”ごときにお前達が敗れるとも思えなかったのでな――観察を優先させてもらった」
「ユニクロン戦に移行してからけっこう経ってるんだけど!?」
「“ゆりかご”突入組の救出を優先したからだ」
なおも問いを重ねるティアナだが、ブレインジャッカーもあっさりと答える――どう考えても反省しているとは思えないその態度に、ジェットガンナーにゴッドオンしたまま思わず頭を抱えるが、
「…………まぁ、いいわ。
来てくれたワケだし、文句は後にしてあげる」
それでもなんとか自分を納得させ、すぐに顔を上げた。
「今はそれよりも、なのはさんやジュンイチさんの援護よ。
あたし達も合体するわよ!」
告げるティアナの言葉に一同がうなずき――
「――――――っ!
ティアナさん、危ない!」
「く………………っ!」
こちらの合体の気配を察知したか、ユニクロン軍からの攻撃が激しさを増す――地上からも上空からも、白いトランスフォーマー達が殺到してくるが、
「させないわよ!」
「そういうことっスよ!」
「ガリュー、お願い!」
それを黙って見逃すような仲間はここにはいない。クイント、ウェンディ、ルーテシアの叫びと共に、それぞれの攻撃でユニクロン軍の面々が蹴散らされ、
「カイザー、スパルタン!」
さらに、駆けつけたライカの必殺技が炸裂――降り注ぐ“力”の弾丸が、陣形の崩れた敵をさらに混乱の極みに叩き込む。
「私達もいるのよ!」
さらに、一足先に合体していたかがみ達も参戦。重装甲の巨体を楯に攻撃をしのぎ、レンジャーバスターからの砲撃の連射でユニクロン軍をけん制する。
そして――
「ラケーテン、バレット!」
彼女も駆けつけてくれた――咆哮し、ロンギヌスをラケーテンフォルムへと変形させたアリシアが、超高速突撃で体勢の崩れたユニクロン軍を薙ぎ払う。
当面の危機を排除すると、クイントはティアナ達へと振り向き、合体を促す。
「私達が敵を抑えるから、その間に合体を!」
「すみません。病み上がりなのにムリさせて……」
「病み上がりがどうの、なんて言ってられる状況じゃないでしょう?」
永い眠りから目覚めたばかりのクイントにまで足止め役を頼まなくてはならないとは――すぐそばに舞い降り、謝るアリシアだが、対するクイントはあっさりとそう答えた。
「安心なさい。
これでも一番の先輩よ――8年“程度”のブランクが何だって言うのよ。
合体する間はきっちり守ってあげるから、その代わり合体してからは大暴れ、期待してるわよ」
「はい!」
元気に答えるティアナに、クイントは笑顔でうなずいて――
「はいはい、ブレインジャッカー。
あたしも乗るんだから早くライドスペースへの入り口開けてよね」
「わかっている。
そう急かすな」
レッコウを肩に担ぎ、左手のイカヅチをガシャンッ、と鳴らす――脅しともとれる態度で告げるあずさの言葉に、ブレインジャッカーは肩をすくめてそう答える。
「そんなに早く終わらせてヴァイス・グランセニックに甘えたいか」
「おぅともよ!」
「…………否定すらしないのか……」
即答するあずさの言葉にさすがのブレインジャッカーもそのポーカーフェイスがわずかに崩れる――思わず呆れたようにつぶやくが、当のあずさはそんな彼にかまわず彼のライドスペースへと乗り込み、
「それじゃあ、いくわよ!」
『了解!』
あずさの上げた号令に、これから彼女達と一体になろうとする面々が力強くうなずいた。
『ロードナックル!』
『ジェットガンナー!』
『アイゼンアンカー!』
『シャープエッジ!』
『ブレインジャッカー!』
ティアナ達4人と5体のGLXナンバー、そしてあずさ――それぞれの咆哮が響き渡り、彼らは次々に上空へと跳躍し、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
宣言と同時にそれぞれが変形を開始、合体体勢に入る。
まずはロードナックル・シロだ。ビークルモードにトランスフォーム。車体脇のアームに導かれる形で後輪が前輪側に移動、前輪を含めた4つのタイヤが整列し、車体後尾には合体用のジョイントが露出、巨大な左腕へと変形する。
次はシャープエッジがビーストモードに変形。喉元にあたる部分に合体用のジョイントを露出させる。
ジェットガンナーもビークルモードへとトランスフォームすると、そこから機首を後方にたたみ、機体下部の装甲を展開して合体ジョイントを露出させる。
最後にアイゼンアンカー。分離し、運転席側をジョイントとして合体していた2台のビークルは今度は車体後尾をジョイントとして合体。小型クレーンにトランスフォームしたアイゼンアンカー自身は背面側に合体し、起き上がった運転席部分を爪先とした、下半身へと変形する。
そして、変形した各員が下半身を分離させたブレインジャッカーの周囲に配置。アイゼンアンカーの変形した下半身がブレインジャッカーの上半身に合体。その後方、アイゼンアンカーの本体が合体したそのさらに後方にはトリプルライナーの下半身が合体し、まるで神話に出てくるケンタウロスのような人馬状の下半身が完成する。
ロードナックルとシャープエッジはブレインジャッカーの両肩アーマーに合体。ブレインジャッカー自身の両腕を残したまま、1対の追加アームとなる。
最後にジェットガンナーがバックパックとしてブレインジャッカーの背中に合体。ブレインジャッカーのウィングが展開され、各機の合体が完了する。
ジェットガンナーの機内から射出されたヘッドギアがブレインジャッカーの頭部に被せられ、各システムが再起動。カメラアイに輝きがよみがえる。
全身に力がみなぎり、力強く拳を、アームを打ち合わせ、ひとつとなったティアナ達が名乗りを上げる。
『星雷合体! Vストライカー!』
「くぅ……っ!
魔導師隊! 陸も空も、陣形を崩すな!
艦隊組は撃ちまくれ! 敵を蹴散らすのももちろんだが、周りの見えない味方の未熟者どもに、射線に割り込むスキを与えるな!」
一方、こちらは別の区画で戦う魔導師部隊――素早く指示を下し、イクトは思わずため息をついた。
偶然この辺りで戦っていたところ、周りの魔導師やトランスフォーマー達をフォローしているうちに気づけばこの一角で戦う部隊の指揮官的な立ち位置に放り込まれていた。“Bネット”のものとはいえ指揮官資格を持つ身だ。別に不満ではないが、成り行き任せで、というその経緯には大いに文句を言いたいところだ。
丸投げしてくれた魔導師隊の隊長達を叱り飛ばしたいところだが、それどころではないと自らに言い聞かせて自重する。
と――
《イクトさぁんっ!》
「む…………?
リインフォースU、か……?」
声を上げ、小さな身体で飛来したのはリインだ。イクトの前に舞い降り、息を切らせる。
《やっと六課の人に会えたですよぉ……
みなさん、散り散りになって戦いすぎですぅ》
「それはいいが……なぜここに?
貴様の役目は現場での通信管制補佐だろうが」
《だってだって! ユニクロンが出てきたですよ!
きっとはやてちゃん達には私が必要になると思って、飛んできたんですよぉ》
尋ねるイクトの問いに答えると、リインは周囲をキョロキョロと見回し、
《それで……ここにいる六課組はイクトさんだけですか?》
「あぁ。
光凰院もいたが、先ほど柾木達の援護に向かってしまってな。気づけばここに置き去りだ」
尋ねるリインに、炎で前方の敵を蹴散らしながら答えるイクトだったが――
《あああああ……
はやてちゃん達のところまで守ってほしいのに、相手がイクトさんじゃ絶対にたどり着けないですぅ。絶対迷うですぅ》
「いきなりひどい言われようだな……否定できんが」
《否定するですよ! できるようになるですよ!》
苦笑しつつも認めたイクトの言葉に、リインは思わず声を上げ――その時、唐突に彼らの頭上に陰が落ちた。
「これは……!?」
いや――彼らの周りだけではない。辺り一帯が突然薄暗くなったのだ。何が起きているのか把握できず、イクトが思わず眉をひそめ――
《この反応って……!?
ぅわわわわっ!? 上の方でなんだかとんでもなくムチャしてる人がいますぅっ!》
「何………………?」
先に気づいたのはリインだった。彼女の言葉に、イクトが頭上を見上げ――そこに、巨大な何かが現れているのに気づいた。
その正体は――
「巨大な……空間湾曲場だと……!?」
それが捻じ曲げられた空間そのものだと気づくまで、ほんの数秒――そのことに気づいたとたん、ほとんど芋づる式にこの現象を起こしたのが誰かに思い至っていた。
「あれだけの規模の空間湾曲をやってのけるヤツ……
……貴様か! 水隠――いや、青木啓二!」
「逆に聞きたいね!
オレ以外に誰がこれをできるって!?」
そんなイクトの叫びはしっかりと届いていた。頭上の広大な空間をまとめて歪め、青木はイクトに対しそう答えた。
「空間湾曲は、オレ達マスターランクのお家芸だぜ!
その上、オレの空間湾曲は現ブレイカー最強!
このオレに……歪められない世界はない!」
どこぞの紛争根絶を目指す私設武装組織に狙われそうなセリフを吐く間にも、彼の“作業”は続いている。空間は歪み、ねじれ、次第にひとつの形を作り出していく。
そこまでして彼が作り出したものとは――
「勇者王さんよ! 技を借りるぜ!」
「空間レンズ――展開!」
空間そのものを媒介としたレンズだ。青木の、イクト達の――近辺で戦う全ての者達の頭上で、堂々とその存在を示す。
そして――
「準備はできたぜ――娘っ子ども!」
「了解っ!」
告げる青木に答えるのは、イリヤに美遊、クロエ、そしてセイカ、ライ、ヤミ――青木の指示に従い、空間レンズのさらに上空で待機していた彼女らが一斉にその姿を現す。
そんな彼女達は、すでにそれぞれ砲撃体制に入っており――
「全員砲撃!
一点集中――ぶちかませぇっ!」
「ルシフェリオン、ブレイカァァァァァッ!」
「雷刃滅殺極光斬!」
「エクス、カリバァァァァァッ!」
青きの合図と同時、セイカ、ライ、ヤミの全力砲撃。さらに、
「いくよ――クロエ、ミユ!」
「りょーかいっ!」
「うん!」
『砲射!』
タイミングを合わせ、イリヤ達も同時砲撃。一斉に放たれた砲撃が巨大な空間レンズに飛び込み、ひとつにまとめ上げられていく。
「スターライトブレイカーとやらを撃つには、大気中に散った魔力が必要なんだろう!?
今から思い切り――ぶちまけてやるよ!」
――――神獣咆炎!
そして、空間レンズを操る青木がまとめ上げられた“力”に指向性を与える――空間レンズによって一点に狙いを集中させられた巨大な魔力の奔流が、途上のユニクロン軍を薙ぎ払いながらユニクロンを直撃。大爆発を巻き起こす!
「す、すさまじいパワーだな……!」
「ちっともすさまじくなんかないさ。
自分じゃ威力ある攻撃が撃てないから、みんなの火力を借りただけなんだからさ」
目の前で繰り広げられたすさまじい破壊に、思わずつぶやくのはレオザックが武装合体を遂げたライオカイザーだ――しかし、青木はそんな彼の言葉に苦笑まじりにそう答える。
「要は、どんな技も使いようだよ。
機体を持ってた頃はともかく、今の生身のオレは打撃力ばっかりで火力が悲しいくらいにないからさ――今みたいに、知恵と能力の工夫で乗り切るしかないのさ」
そうライオカイザーに告げて――青木の表情から笑みが消えた。
「それより……気合入れろよ」
言って、青木は前方を――“神獣咆炎”の直撃によって立ち込める爆煙をにらみつけ、
「さすがに、今の一撃で神サマもやる気になったみたいだからさぁ……!」
晴れていく爆煙の向こうから、カメラアイに明確な輝きを灯したユニクロンがその姿を現した。
青木の一撃は、ユニクロンの肩を大きく抉っている――しかし、それも致命傷には至らず、すでに再生を始めている。
「バカな…………!
今の一撃でも、致命傷にならないのか……!?」
その光景に、地上で戦っていたオーバーロードの側近、メナゾールが息を呑む――と、そんな彼の周囲で突如突風が巻き起こった。
いや――風ではない。ユニクロンが下半身、地面スレスレのあたりから急速に周囲の空気を吸い込み始めたのだ。風はやがて突風の如き勢いとなり、ガレキを巻き上げつつユニクロンの中に吸い込まれていく。
「アイツ、何を……!?」
その様子を上空で見つめ、ミッドチルダのトランスフォーマーのひとり、スペリオンがつぶやき――再生したユニクロンの両肩がバックリと口を開けた。
その奥では、すさまじい勢いで風が荒れ狂っている――その正体に気づき、スペリオンが叫ぶ。
「全員下がれ!
圧縮空気砲――来る!」
その警告はまさにギリギリのタイミングだった。取り込まれ、極限まで圧縮された空気の塊が撃ち出され、散開した彼らの間を駆け抜けていき――はるか上空で炸裂した。押し固められていた空気が解放され、突風となって荒れ狂うのが、上空の雲が吹き飛ばされる光景でハッキリとわかる。
「たかが空気の塊でも、ユニクロンが撃てばあの威力か……!」
単なる空気と侮る事なかれ。解放された圧縮空気の威力がどれほどのものかは、一瞬にして巨大な雲が吹き飛ばされたその光景から容易にうかがい知れた。直撃していたらと思うと、スタースクリームの部下、サイクロナスの背筋を寒気が走る。
「へっ、けど、当たらなきゃ関係ないね!」
「今度はこっちの番だ!」
そう告げるのはアニマトロスのテラシェーバーや地球のブレインストームだ。それぞれに武器をかまえ――ふと頭上に意識を向けた青木はそれを見た。
ユニクロンの一撃が炸裂した上空で暴風が荒れ狂い、突如自分達の頭上に“釣鐘状の積乱雲が急速に発生する”光景を。
その現象が意味するところに気づき、顔から血の気が引いていくのをハッキリと感じながら、青木は周りの味方に警告しようと口を開き――
次の瞬間、上空の戦士達を“真上からの”衝撃が襲った。
「何!?」
《みんなが!?》
比較的低高度にいたことが幸いし、その影響は最小限――突如頭上から叩きつけられた“突風”に耐えながら、イクトとリインはその光景を前に声を上げずにはいられなかった。
自分達ですらその場に留まるので精一杯だった、上空からの突風――上空で戦っていた青木達を直撃した際にはどれほどの衝撃だったか、正直考えたくはない。
実際、直撃を受けた者達の内、その場に留まれたのは青木やイリヤ達を含めてほんのわずか。大半の者が、ユニクロン軍のトランスフォーマー達もろとも地面に向けて叩き落とされてしまっている。
《一体、何が……!?》
つぶやくリインのとなりで、イクトは頭上を見上げ――先ほど青木がその出現を目撃した積乱雲に気づいた。
同時――今の一撃の正体に気づく。
「そういうことか……!
さっきの圧縮空気砲――本命はこっちだ!」
《え…………?》
「ユニクロンは、地上の空気を吸収して、圧縮空気砲という形で上空にぶちまけた……!
そうすることで、地上の気圧を下げ、同時に上空の気圧を上げる……その結果生じる急激、且つ極端な気圧差で、強力な超急下降気流を擬似的に作り出したんだ……!」
力任せに火力をぶちまけてくるかと思いきや、まさかそういう手で来るとは――自然を利用したユニクロンの攻撃に思わず舌を巻くイクトだったが、
「…………だが、逆に言えば好機とも取れるか……」
《イクトさん……?》
「伝え聞く“本来のユニクロン”の戦闘能力を考えれば、ヤツはそんな回りくどいことをしなくても、十分にこちらを叩きつぶすことはできたはずだ」
その瞳は未だ希望を見失ってはいなかった。首をかしげるリインに対し、そう前置きした上で続ける。
「だが、ヤツはダウンバーストという自然現象を利用する攻撃に出た……
未だそれだけの火力を発揮できないのか、再生のためにエネルギーを回しているのか……とにかく、今のヤツは、周りの力を利用しなければならないほどに余裕がないんだ」
そう告げると、イクトはほんの数秒思考を巡らせ、
「…………リインフォースU。
守ってやるから案内しろ――前線と合流し、オレも攻勢に出る」
《は、はいです!》
元々、はやて達と合流するため、その間の護衛を求めてイクトと合流したのだ。その提案はリインにとってまさに渡りに船だった。
うなずき、リインはイクトの肩に舞い降りると彼を先導。イクトは前線の主力組と合流すべく戦場を駆ける。
「…………勝機は、まだ残されている……!」
すぐに前方に白いドランクロンが立ちふさがるが、放った青い炎で一蹴する――先を急ぎながら、イクトは自らに言い聞かせるようにつぶやいた。
「今までも、何度も経験してきたことだが、やはりそう……っ!
逃げる者もまた苦しい。有利な者も、また苦しいんだ……
あきらめるには……まだ早い……!」
飛び交う火線をかいくぐって飛翔。イクトは前方のユニクロンをにらみつけた。
「追え……可能性を……!
捨てるな……“勝ち”を……!
目指すんだ……勝利した自分達をっ……!」
《はいです!》
誰に向けたつぶやきでもなかったが、リインが力強くうなずく――そんな彼女に苦笑し、イクトはさらに加速した。
「やりやがったな、てめぇっ!」
ユニクロンの引き起こしたダウンバーストにより、上空の戦力の大半が削り取られた――怒りの咆哮と共に、鷲悟はユニクロンに向けて突撃する。
と――ユニクロンの体表が変化を始めた。次々に表面に露出するのは無数のレーザー収光器だ。
その意味を鷲悟が理解するよりも早く、閃光が放たれる――無数のビームが鷲悟目がけて殺到するが、
「ムチャをするな、バカ者が!」
その前に立ちふさがったのはデスザラスだ。バリアを展開し、鷲悟を狙ったビームを防御する。
「無鉄砲に突っ込みおって……!
何か仕掛けるなら、さっさとやってしまえ!」
「了解っ!」
言い放つデスザラスに答え、鷲悟は彼の背後から飛び出し、
「てめぇが空気なら、オレは重力だ!」
「重力剛砕撃!」
“闇”属性の重力使い、その真骨頂――ユニクロンの全身に、強力な重力場を叩きつける!
「お前も、相当な重量だからな……
そのバカデカイ図体だ――10倍の重さになれば、身動きひとつできねぇだろ!」
あの巨体で重量が10倍になれば、もはや身動きすらできないはず――自信に満ちた笑みと共に言い放つ鷲悟だったが、
「…………って、おいっ!?」
そんな重圧の中、ユニクロンはゆっくりと右手を動かした。
自分にのしかかる重圧の発生源――すなわち鷲悟を脅威と見なしたか、その右手を彼の方に向け――
「――いかんっ!
総員、回避!」
気づいたデスザラスが鷲悟のえり首をつかんで急速後退――直後、戦士達の散った空間を、ユニクロンの放った特大の砲撃が撃ち貫いた。
「ウソでしょ……!?
鷲悟さんの重力場の中で、アレだけ動けるなんて……!」
鷲悟の重力場によってその重量を10倍にされながらも、ユニクロンには何の障害にもなっていない。その光景が信じられず、ジーナは廃ビルの屋上で思わず声を上げた。
「ミニサイズでアレって……完全体はどれだけデタラメだったの……!?」
「あまり、知りたくない話題ですね、それ……」
今現在のユニクロンですら手におえない状況なのだ。これが完全体であったなら――考えただけでもゾッとする。ジーナの頭上に滞空し、鈴香がファイのつぶやきに答えると、
「――――――っ!
攻撃、来る!」
ジーナが気づき、声を上げる――先だって鷲悟を狙ったビーム砲の群れに、新たな光が次々に生まれていく。
今回は特定の誰かを狙っている様子はない。ということは――
「無差別攻撃――!
みんな、危ない!」
鈴香が警告の声を発すると同時――全方位に向けて閃光が放たれた。
「みんな!」
「なのは! 動くな!」
ついに動き出したユニクロンの一撃は、自らの眷属すらも巻き込んで仲間達に牙を向く――声を上げるなのはを制し、ビクトリーコンボイは彼女達に向けて飛来したビームをその身を楯にして防ぎ、
「ギャラクシー、キャリバー!」
「エターナル、コフィン!」
ソニックボンバーがギャラクシーキャリバーでビームを迎撃。一瞬の間隙をつき、クロノが氷結魔法を発動させ、前面に作り出された氷の壁が自分達を守る楯となる。
「やるじゃねぇか、クロノ!
さすがは管理局最強の中間管理職!」
「ちっともうれしくない二つ名をつけないでくれるかな!?」
ジュンイチの言葉に思わずクロノが言い返し――
〈ちょっ、ホクト、何してるの!?〉
〈ノーヴェ! ムチャだ、下がれ!〉
通信を介し、クイントやチンクの声が響いた。
「このまま遠巻きに戦ってたって、ジリ貧だろうが!」
「懐に飛び込めば、なんとかなるかも!」
背後で上がる制止の声を振り切り、全速力で突撃――大地を疾走するノーヴェのすぐとなりをホクトが超低空飛行。二人はユニクロンの一斉砲火と反撃に出た管理局側の爆撃、それぞれの攻撃が降り注ぐ中をユニクロンに向けて突撃する。
真下から見上げるユニクロンは、まさに「天を衝く」という表現がそのものズバリ当てはまるような圧倒的な威容を見せつけていた。それだけで思わず圧倒されそうになるが、折れそうになる意識を奮い立たせるとユニクロンの表面を駆け上がり始める。
そのまま、周囲に散らばるユニクロンの砲台を、間合いに入るそばから叩き壊していく――ユニクロンの巨体を考えると微々たるものだが、それでも二人はかまうことなくユニクロンの体表を駆け上がり続けた。
「何考えてるの、あの子達は!」
当然、そんな彼女達の行動は周りからすれば無謀そのもの。見ているだけで緊張のあまり意識を手放しそうだ。
それは、マックスキングで戦いを見守るシャマルも同様だった――医務室の大型モニターで二人の様子を目の当たりにして、思わず声を上げる。
「ホクトお姉ちゃん……ノーヴェお姉ちゃん……!」
彼女達が心配なのはシャマルだけではない。ヴィヴィオもまた不安そうに自らの胸をかき抱き――
「ダメよ、ヴィヴィオ」
そんな彼女の心中を察し、シャマルは機先を制して釘を刺した。
「あのユニクロンは、聖王化したからってどうにかできる相手じゃない……
ヴィヴィオが出て行ったところで状況は変わらないわ」
「でも!」
シャマルの言葉に、ヴィヴィオは思わず反論の声を上げ――
「私も、彼女の意見に賛成だね」
『――――――っ!?』
新たにヴィヴィオに告げた声は、シャマルやヴィヴィオ――さらには二人のやり取りや戦いの様子を見守っていたゲイズ親子を硬直させるのに十分な衝撃を有していた。
「今のキミが、生身で出て行ったところで、あのユニクロンには通じないよ」
「ど、どうして、あなたがここに……!?」
驚愕し、うめくシャマルに対し、現れたその人物は実に楽しそうに口元を歪めた。
「ホクト、ノーヴェ……!
お兄ちゃん、なのはさん!」
「私達だって、なんとかしたいけど……!」
「まだ出力が足りねぇ……!
この程度のパワーじゃ、ユニクロンには通じねぇ……!」
みんなが決死の覚悟で戦っているというのに、自分達はただ待つことしかできないのか――声を上げるスバルに対し、なのはやジュンイチも焦りを隠し切れず、うめくようにそう答える。
「私だって……行けるものなら、今すぐにでもみんなを守りに飛んでいきたい……!
でも……みんなは、私達がスターライトブレイカーをチャージできるように、って、私達を守って戦ってるんだよ……!」
「す、すみません……」
そうだ。みんなのことが心配なのは自分だけではない――なのはの言葉にそのことに思い至り、血気にはやって独走しかけたことを謝罪するスバルだったが、
「心配することはない」
対し、彼は冷静だった。マスターコンボイは自らの“中”にいるスバルに対し、落ち着いたようすでそう答える。
「ヤツらなら、そう簡単に撃墜されはしない。
オレ達を守り切る――そう宣言した以上、ヤツらは必ずやり遂げる」
「そうそう。
スバルもなのはさんも、みんなを心配しすぎだよ」
マスターコンボイの言葉に気楽そうに同意し、こなたもまたスバルに告げる。
「そんなに不安なら、もうひとつ、心配いらない、っていう根拠を教えようか?
こういう時には、とある“お約束”があってね――」
こなたがそう告げた、その時だった。
前方の戦場で轟音が響き渡る――見ると、ちょうど真正面の戦場で、もうもうと煙が上がっている。
魔力砲の爆発でも、ユニクロンのビームによる爆発でもない。廃ビルが崩壊した、その結果舞い上がった土煙だ。
そして、その土煙のド真ん中。堂々と仁王立ちしてユニクロン軍と対峙するのは――
「フンッ、管理局もサイバトロンもだらしがねぇな。
敵のオレ達に助けられてるなんて、いい笑いものだぜ!」
意外な人物の参戦に、その周囲の魔導師やトランスフォーマー達は一様に驚き、動きを止める――そんな彼らに告げる乱入者に対し、ユニクロン軍のトランスフォーマー達が襲いかかり――
「殴り尽くせ――“ヘカトンケイル”!」
咆哮と共に、空飛ぶ拳が荒れ狂う――乱入者、バリケードのデバイス、ヘカトンケイルの一部である“フライングフィスト”が、殺到してきたユニクロン軍を叩き伏せ、
「ひきつぶせ――“チャリオッツ”!」
ブロウルの呼び出した戦車型デバイス、チャリオッツが起動キーの宣言の通り別の個体をひきつぶす。
そして――
「ぶち殺せ――“アンタレス”!」
ボーンクラッシャーの呼び出したサソリ型デバイス、アンタレスが主と合体。勢いよく振るわれた尾が、槍となってシャークトロンを撃ち貫く。
「アレは……バリケード!?」
「ブロウルに、ボーンクラッシャーまで……」
だが、管理局に対し敵対していたディセプティコン、そのメンバーである彼らがどうして――ちょうどその直上で戦っていたライカやヴィータが、彼らに気づいてあわてて降下してくる。
「お前ら、どうして!?」
警戒し、グラーフアイゼンをかまえたまま目的を問いただすヴィータだったが、
「決まっている――」
「この宇宙を、守るためだ」
それに対するバリケードの答えは、まさに意外なものだった。
「何……だと……!?」
「カン違いするなよ。
オレ達が守るのはこの世界だ。お前らを守るつもりはないし、お前らに味方するつもりもないさ」
思わず呆然とするヴィータに対し、バリケードはため息まじりにそう付け加えた。
「この宇宙はマスターギガトロン様が支配する。
あんな死にぞこないの神にくれてやるワケにはいかないんだよ!」
「あー、なるほど……」
「そういう理由なら納得だわ。
まったく、正義のヒーローっぽい答えを返すから、一瞬フリーズしちゃったじゃない」
「お前らがどう思おうが知ったことじゃねぇよ」
あまりにも似合わない答えだとは思ったが、結局はディセプティコン第一か――拍子抜けし、肩を落とすヴィータやライカの言葉に、バリケードは心外だとばかりに鼻を鳴らしてそう答える。
「ディセプティコンの底力、見せてやるぜ!」
「どいつもこいつも、かかって来やがれ!」
そんなバリケードに続く形で、ブロウルやボーンクラッシャーも高らかにそう宣言して――
「そういうことなら――」
「オイラ達だって、負けてられないんだな!」
その脇を駆け抜け、ユニクロン軍に突っ込むのは、ビークルモードのアームバレットとガスケットだ。
「お前らにばっかり見せ場はやらないぜ!」
「やらないんだな!」
口々に言いながらロボットモードにトランスフォーム。ユニクロン軍へと襲いかかり――
『どわぁぁぁぁぁっ!?』
再び始まったユニクロンの爆撃が直撃。二人を空高く吹っ飛ばす!
「なんでオレ達だけ!」
「こぉなるのぉぉぉぉぉっ!?」
断末魔の悲鳴だけを残し、彼らは放物線を描いて宙を舞い――キラリ、と輝きを残して空の星になった。
「だぁぁぁぁぁっ! くそっ!
叩いても叩いてもキリがねぇ!」
「もういっそ顔面まで上がって殴っちゃおうか!」
そんなことをしても効果がないのはわかっているが、こうもジリ貧ではそんなこともつい考えてしまう――苛立ち、声を上げるノーヴェにホクトが提案するが、それで状況が変わるはずもない。
「ったく、一気にドバァッ! とブッ飛ばしてぇな、おいっ!」
「広域攻撃できる人、カモーンっ!」
いい加減自分達だけでは厳しくなってきた。思わず二人が声を上げ――
吹き飛んだ。
目の前を影が駆け抜けたかと思うと、その影の進路上の砲台が一気に蹴散らされたのだ。
そして――
「しっかりしろ、ノーヴェ。
それが、私に勝利した者のする戦いか?」
「トーレ、姉……!?」
本来の彼女の愛機――専用機マスタングにゴッドオンし、サンドストームにゴッドオンしたセッテを連れて現れたトーレの姿に、ノーヴェは呆然と声をしぼり出した。
「手伝ってやる――さっさと蹴散らすぞ。
セッテ」
「はい」
告げるトーレの言葉にセッテがうなずき、
『IS発動!』
「ライドインパルス!」
「スローターアームズ!」
高速で飛翔する二人が、砲台を瞬く間に蹴散らしていく!
「ディセプティコンや、スカリエッティのところのナンバーズまで……!」
「いやー、“ウワサをすればなんとやら”ってホントだね。
可能性を口にしたらホントに来ちゃったよ、みんな」
苦戦する戦場に突如現れた意外すぎる援軍――驚き、つぶやくスバルにこなたが答えると、
「お前ら、状況がわかってるのか!?」
「アイツらが来てくれて早々、いきなりヤバイんですけど!?」
マスターコンボイやジュンイチが、焦りもあらわにそう叫ぶ――見ると、ユニクロンがこちらに向けて右手をかまえ、そこに膨大なエネルギーを溜め始めているではないか。
「こっちを狙ってる……!?
このチャージに気づかれた!?」
「お兄ちゃん、回避!」
「ムリだ!
現在目標出力の80%――ここまでエネルギーを溜め込んだら、ヘタに動けばむしろ暴発を招く! クラナガンもろとも吹っ飛びたいか!?」
なのはやスバルの言葉にジュンイチが答えると同時――閃光が放たれた。
巨大な“力”の塊が、なのは達を吹き飛ばそうと牙をむき――
『まだだぁぁぁぁぁっ!』
『ぅおぉぉぉぉぉっ!』
咆哮と共に――エネルギーの渦が受け止められた。
ティアナ達のVストライカーと、かがみ達のカイゼルライナーだ。2体の合体戦士が巨大光球の前に飛び込み、防壁を展開して光球を受け止める!
「ティアナ! かがみ! みんな!」
「約束したんだ……!
絶対に、守るって……!」
「こなた達には、一撃だって攻撃を通させるもんか!」
声を上げるなのはにはティアナとかがみが答え、それぞれが共に合体する仲間達と“力”を高めていく――しかし、それでも拮抗を保つので精一杯だ。
いや――むしろ、それでもユニクロンの光弾は彼女達の防壁をジワジワと侵食しつつある。
「だ、ダメ、なの……!?」
「キャロ、あきらめちゃ、ダメだ……!」
弱気になるキャロを叱咤するエリオだったが、限界なのは彼も同じだ。すさまじい圧力に、展開された防壁に亀裂が走り――
「ダメぇぇぇぇぇっ!」
叫び声が響きと同時――防壁が“虹色に”染まった。
新たに加わった一機が、防壁にさらなる“力”を流し込んだのだ。
だが、その“一機”の正体は予想外が過ぎた。驚き、後方でなのはが声を上げる。
「マスター、マグマトロン……!?
まさか……」
「ヴィヴィオ!?」
時間はほんの少しだけさかのぼり――
「今のキミが、生身で出て行ったところで、あのユニクロンには通じないよ」
「ど、どうして、あなたがここに……!?」
驚愕し、うめくシャマルに対し、現れたその人物は実に楽しそうに口元を歪める。
だが、相手が相手だけに、そんな態度を見せられても警戒心しかわいてこない――クラールヴィントをかまえ、シャマルは告げる。
「答えなさい!
今さら、ヴィヴィオに何の用なんですか――」
「スカリエッティ!」
「これはごあいさつだね
別に、悪い話を持ってきたワケではないんだが」
言い放つシャマルの言葉に、スカリエッティは笑いながら肩をすくめ――
「悪いけど……信用できない」
「それもそうだね。
それは私自身も自覚している――というか、気づいていたんだね、私のことに」
背後から自らの首に押し当てられるのは金色の魔力刃――スカリエッティのマックスキング侵入にいち早く気づき、駆けつけたフェイトに対し、スカリエッティはやはりひょうひょうとした態度でそう答える。
「だが、今は信じてもらうしかない。
ユニクロンに勝たれては私としても都合が悪い――だからこうして、彼女に贈り物をしにわざわざ出向いたのだからね」
言って、スカリエッティが視線で示したのはヴィヴィオだ。同時、ウィンドウが展開され、そこに映し出されたのは――
「マスターマグマトロン!?」
そう。そこに映し出されたのは、マックスキングのすぐ目の前に佇むマスターマグマトロンの姿――驚くフェイトだったが、スカリエッティはそんな彼女にかまわずヴィヴィオへと向き直り、
「もちろん――あれはキミのものだ。
先ほどカイザーマスターコンボイに破壊された機体のデータもフィードバックしてある。より扱いやすくなっているはずだ」
「………………っ」
そう告げるスカリエッティに対し、ヴィヴィオは不安げにフェイトへと視線を向けた。
そのフェイトは、スカリエッティに向けて無言でザンバーを向けていたが、
「…………わかった」
息をつき、フェイトは静かに刃を下ろした。
「おや、信じるのかい?」
「お前のしたことは許せない……
けど……お前が今、どういう想いでこんなマネをしているのか――アジトにあった“アレ”を見た今なら、理解できる。
お前も、私達と同じように命を大切に思ってる――違うのは、そのためにしていることが合法か違法か、ただそれだけ」
「…………見たのかい? “アレ”を」
フェイトが言っているのが、アジト最深部のビオトープ――そこに作られた実験対象達の墓であることは容易に想像がついた。尋ねるスカリエッティに対し、フェイトは無言でうなずいてみせる。
そして、フェイトはヴィヴィオへと向き直り、
「ヴィヴィオ……
私は、あなたには戦ってほしくない。
聖王化できるって言っても、それは“レリック”の力を借りてのことだし、実戦経験だってない……エリオ達とは違うもの。
でも……ヴィヴィオは、戦いたいんだよね?」
「フェイトママ……」
その言葉どおり、フェイトの顔は不安でいっぱいだ。自分のことを心から心配してくれるフェイトに対し、ヴィヴィオはしばしためらった後、ハッキリとうなずいてみせる。
「わたしも、戦いたい……
フェイトママや、なのはママや、パパや……みんなを守りたい。
聖王化できて、マスターマグマトロンを新しくもらって……今のわたしには、それができるから……」
その言葉に伴い、ヴィヴィオの身体が光に包まれる――身体が一気に成長し、聖王としての姿になったヴィヴィオは、改めてフェイトに告げる。
「だから……行くよ。
ママ達の娘として……ママ達みたいに、みんなを守ってみせるから……!」
言って、ヴィヴィオはフェイトの脇を駆け抜けて医務室を飛び出していく――その後ろ姿を見送り、フェイトが息をつくと、
「…………お前のことだから、スカリエッティはともかくヴィヴィオは行かせないと思ったんだがな」
「イクトさん?」
ほぼ入れ違いに近いタイミングで現れたのはリインを連れたイクトだ。意外な人物の登場に、フェイトは思わず驚きの声を上げる。
「どうしてここに?」
「ジェイル・スカリエッティの気配に気づいてな。
マックスキングのすぐそばにマスターマグマトロンもあったし、もしかしたらと思って来てみれば……だ」
尋ねるフェイトに答えると、イクトはスカリエッティへと向き直り、
「ずいぶんと思い切った行動に出たものだな、ジェイル・スカリエッティ。
だが……おかげでなんとなく見えてきた。
お前が、今回の事件でどうして管理局への全面攻撃に出たのか……」
「え………………?」
「ほぉ……」
ますます目を丸くするフェイトと、どこか楽しげに笑みを浮かべるスカリエッティ――自分の言葉に正反対の反応を見せる二人に苦笑し、イクトは続ける。
「自分の周りのすべてを求める“無限の欲望”――それがジェイル・スカリエッティという男の本質だ。
だから……貴様はその本質に従い、求めたんだ。
自分の周りの“すべての幸せ”。すなわち――」
「すべての命の、幸せを……」
《どういうことですか?》
「欲望とは、必ずしも自分のためにしか働かないというワケではない
時に、欲望は自分以外の誰かのために働くこともある」
イクトの言葉に、リインが思わず声を上げる――答えて、イクトはスカリエッティへと視線を向けた。
「“欲望”とはすなわち“願い”だ。
“アレが欲しい”、“それをしたい”……そして、“あの人にあぁなってほしい”という感情もまた“願い”、すなわち“欲望”だ。
貴様は最高評議会によって、限りない欲望をその身に与えられた……
その欲望には、自分以外の者達への願いも、含まれていたんじゃないのか?」
「じゃあ、スカリエッティは、自分の周りの存在……ナンバーズのために、局とのつながりを破棄して、反逆した……!?」
シャマルの言葉にうなずくイクトに、スカリエッティは答えない。ただ無言でイクトに続きを促し、イクトもそれに従い話を続ける。
「レジアス・ゲイズの計画の上では、ナンバーズは摘発後管理局に保護され、罪の償いということでその任務に従事させられることになっていた……
だが……そこで少し考えてみよう。
今の管理局が、果たして彼女達をまともに扱うだろうか?」
「…………どういう意味ですか?」
「言ったままの意味だ。
悲しいかな、今の管理局にはそういったことを疑わずにはいられない風潮があるのは事実だ」
イクトの指摘に、他ならぬ管理局の一員であるフェイトの顔が曇る――そんな彼女に若干申し訳ないものを感じながらも、イクトはそう答えて話し続ける。
「“犯罪者は一生犯罪者”――それが、今の管理局の中でまかり通っている風潮だ。
例えば八神はやてがいい例だ。彼女は“闇の書”の最後の主として、今でも快くは思われていない。
そうだろう? レジアス・ゲイズ」
自分の言葉に、すっかりカヤの外に置かれていたレジアスが顔をしかめるが、イクトはそんな彼にただ肩をすくめるのみだ。
「八神はやてですら“あぁ”だったんだ。戦闘機人であるナンバーズがまともに人間扱いされるとは思えない。
前科者には情け容赦ないのが今の管理局だ――増してや純粋な生まれじゃないとくればますます遠慮はなくなるだろう。
間違いなく、ナンバーズは“駒”として使い捨てられる……」
そして、イクトは改めてスカリエッティへと向き直り、
「だからお前は管理局に戦いを挑んだんだろう?
娘達を、守るために……娘達を“駒”として扱いかねない管理局から、彼女達を解放するために……
だが、ミッド地上本部を叩いたところで、人材搾取の根源たる本局が出張ってきては同じこと。保護された彼女達が別の形で使いつぶされるだけ……だから、貴様は管理局システムそのものを打ち崩す以外に選択肢がなかった。
個人的興味から確保していた“ゆりかご”と、その起動のために生み出していたヴィヴィオを使って……な」
「…………やれやれ」
そんなイクトの言葉に、スカリエッティはため息まじりに肩をすくめた。
「他人の心根を暴いたことはあるけれど、まさか自分が暴かれる側に回るとはね」
「オレを甘く見るなよ。
確かに機械もまともに扱えず、ひとりでは満足に目的地にもたどり着けないが――それでも、かつて一軍を率いた自負と経験はある。
だから……区別くらいはできるんだよ。“主”と“親”の違いくらいはな」
「なるほどね」
イクトの言葉にあっさりと納得すると、スカリエッティはフェイトへと向き直った。警戒を強める彼女に対して両手を突き出し、
「さぁ……逮捕したまえ」
「え………………?」
「もう、やれることはすべて終わらせた……そういうことさ」
あまりにも突然のことに、逮捕を望んでいた張本人も戸惑うばかり――目を白黒させるフェイトに、スカリエッティは肩をすくめてそう答えた。
「今の管理局はもはやガタガタだ。
柾木ジュンイチの“攻撃”によって、権威の失墜は本局にまで及ぶだろう――もうウチの娘達を力で縛りつけることはできまい。
私の目的は、すでに達成された――後は敗者としてけじめをつけるだけだ」
言って、もう一度両手を差し出してくるスカリエッティに対し、フェイトは――
「…………まだだ」
言って、その手を押し返した。
「戦いはまだ続いてる……事件は、まだ終わってない。
だから……お前の、“娘達を守る”という役割も、まだ終わってない」
「いいのかい?」
「アジトでの戦いで……お前はアリシアを通じて私に言った。
『私と母さんはよく似てる』って……」
聞き返すスカリエッティに対し、フェイトはそう答えて視線を落とし、
「今……そのことを、すごく実感してる。
だって……」
「娘のために戦うあなたの気持ちが、すごくよくわかってしまうから……」
「ヴィヴィオ!」
「大丈夫だよ、なのはママ……!」
今再びマスターマグマトロンに乗り込み、聖王として戦いに加わったヴィヴィオ――声を上げたなのはに対して、懸命に防壁を維持しながらそう答える。
「マスターマグマトロンになっても……ちゃんと、わたしだから!」
そう告げるヴィヴィオの声は、決して揺らぐことのない力強さを宿していた。
「“レリックウェポン”としてじゃない……わたしは、わたしとして、戦うんだ……
なのはママを守って……みんなを守って……!
みんなのために戦うのが、“王”様なんだから!」
宣言し、ヴィヴィオは防壁にさらに魔力を流す――しかし、ユニクロンの砲撃の力は圧倒的だ。ヴィヴィオの力を加えてもなお、彼女達はグイグイと押し込まれていく。
「だ、ダメだ……
どーすんだよ、柊! このままじゃブチ破られるぞ!」
「わかってるわよ!」
声を上げるみさおに答え、かがみはなんとか踏ん張ろうとカイゼルライナーの出力を上げにかかる――もちろん、みさおを始めとした他のライナーズ・メンバーも同様だ。
「絶対、耐え切ってやるんだから……!
こんなところで、終わってたまるものですか!」
「あずささんの言うとおりよ!」
そして、Vストライカーも懸命に防壁を支える――あずさの言葉に答え、ギンガもまた気合を入れ直す。
「絶対、ジュンイチさんは守ってみせるんだから……!」
「ま、そりゃそうだよね!」
改めて告げるギンガに答えるのは、Vストライカーの下半身の一部を形成するアイゼンアンカーだ。
「めんどくさいけど、がんばってあげるよ!
マスター・ジュンイチに告白して、スルーされるギンガをこれからもネタにするために!」
「そこのトランスデバイス! 後で訓練場に顔出しなさいっ!」
「上等だよ――後があればの話だけど!」
「あるに、決まってるでしょうが……!」
ギンガに答えるアイゼンアンカーに言い返すのはティアナだ。
「そうだ……! “後”は必ずある……!
ううん、違う……!
あたし達が……」
「守るんだぁぁぁぁぁっ!」
その叫びと同時――ティアナの中で“何か”が弾けた。
“力”とは異質のそれは、魔力とは別種の波動となって、彼女の宿るVストライカーから放出された。まるで水面に波紋が広がるかのように、周囲に広がっていく。
そして――波動を受けた一同の放つ魔力が、爆発的に増大する!
「な、何コレ!?」
「わからないけど……チャンスだよ!」
突然の異変に、つかさが驚いて声を上げる――答えて、エリオは防壁越しに目の前に迫るユニクロンの光弾をにらみつけた。
「このまま……みんなで、一気に、押し返しましょう!」
「そうね!
いくわよ――みんな!」
『おーっ!』
エリオに答えたかがみの言葉に、一同が防壁に魔力を流し込み、一気に膨張した防壁がユニクロンの光弾を押し返し、弾き飛ばす!
「あ、アレは……!?」
「ティア達の、魔力が……!?」
その光景は、当然ティアナ達に守られるなのは達も目の当たりにしていた。仲間達が絶対に止められないと思われたユニクロンの一撃を防ぎきったのを前に声を上げ、
「というか……」
「なんか、私達も、みたいなんだけど!?」
マスターコンボイやこなたの言葉と同時、彼女達もまた、それぞれの内側からさらなる力があふれ出す!
「じ、ジュンイチ!?
何なの、コレ!?」
「まさか……!?」
そして、それはジュンイチも同様だ――周りの現象に驚くブイリュウにかまわず、ジュンイチはティアナの宿るVストライカーへと視線を向けた。
(こいつぁ……ティアナの“能力”、か……!?
でも……そもそも“制御できるようにできてない”はずの力が、どうして……!?)
ただひとり、事態を知るが故に辿りついた仮説と疑問――しかし、今はそれを論じている場合ではない。
「とにかくチャンスだ!
ユニクロンめがけて撃ちまくれ! 今の一撃をこれ以上許すな!」
「了解だよ、お兄ちゃん!
いくよ、みんな!」
ジュンイチの言葉にはあずさが答え、彼女達はユニクロン軍に向けて再度の反撃に転じていく。
「私達もいくわよ!」
「了解っス!」
「ガリュー、私達も」
もちろん、彼女達だけではない。クイントの言葉にウェンディが答え、ルーテシアを肩に乗せたビートルキングと共に敵群へと攻勢をかける。
「ウーノさん、いけますか!?」
「グリフィスくんが支えてくれるのよ――問題なんてあるはずがないでしょう!」
さらに、グリフィスを連れたウーノが再びゴッドオンしたアグリッサで参戦。全身の砲台が一斉に火を吹き、
「マックスキング、全砲門、全力全開っ!」
「私もいることを、忘れてもらっては困るな!」
ゆたかの指示を受けたマックスキング、さらにフォートレスマキシマスがそこに加わった。超大型TF3体の一斉砲撃が、ユニクロン軍を薙ぎ払いつつユニクロン本体にも砲撃が降り注いでいく。
そして――
「者ども、オレに続けぇっ!」
「アニマトロスのトランスフォーマーの勇猛振りを見せてやれ!」
「負けるなよ!
スピーディアのトランスフォーマーは速さが命!」
「他の星のヤツらに先陣を奪われたとあっちゃ、いい笑いものだぜ!」
ブレイズコンボイとギガストーム、ニトロコンボイとオーバーロードがそれぞれの故郷のトランスフォーマー達を率いて攻勢をかける。
〈私達だっているのよ!〉
〈全魔導師部隊! 総攻撃だ!
もうフォーメーションがどうのと難しいことは言わねぇ! 真っ向勝負でぶち破れ!〉
『了解っ!』
もちろん、管理局の魔導師部隊も黙ってはいない。指揮を執る霞澄やゲンヤの言葉にそれぞれの場所で答え、一斉攻撃を開始し、
「オラオラオラぁっ!
オレと戦いたいヤツらは前に出ろ!」
《剣のブレイカー、ブレードの兄貴と、剣精アギト様のお通りだ!》
ブレードとアギトもまた、ユニゾン状態で最前線に降り立ち、白いトランスフォーマー達を片っ端から斬り捨てる。
さらに、メビウスコンボイとデスザラスが地球の、タイタンコンボイがブレンダルやモールダイブを、ザラックコンボイがミッドチルダの、それぞれの故郷のトランスフォーマー達を率いてそれに加わった。全員が一丸となり、ユニクロン軍に立ち向かう――
「見たか、ユニクロン!
これが――私達の“力”だ!」
その先頭に立つのはビクトリーコンボイだ。弾幕をかいくぐって飛翔。ユニクロンの眼前へと飛び出し、
「目覚めよ、次代の希望!
“つなぎし者”――Set Up!」
〈Stand by Ready, Set up!〉
デバイスカードをかまえ、呼びかけるビクトリーコンボイ――その言葉に従い、銀色のカードは2連装ライフル型の専用デバイス、“ネクサス”へと形を変える。
素早くカートリッジをロード、その銃口をユニクロンに向け、
「エターナル、ブレイズ!」
〈Eternel Blaze!〉
放たれた砲撃が、ユニクロンの顔面を痛打。大爆発を巻き起こす!
「みんな……!」
《すごい……!》
管理局・トランスフォーマー連合軍とユニクロン軍、全面対決となった双方が激突するその光景に、なのはや彼女にユニゾンしているマグナは思わず声を上げた。
《みんなが、がんばってくれてる……!
これならいけるね、なの姉!》
「うん!」
自らの鎧となったまま、そう告げるプリムラの言葉になのはがうなずき――
「それでも――取りこぼしが出るってのはどういうことかねぇ、アイツら!」
ジュンイチが告げると同時、こちらの戦線を突破してきたユニクロン軍のトランスフォーマーが彼らの元へ飛来し――
「させないよ!」
蹴散らされた。ヴィヴィオのゴッドオンしたマスターマグマトロンが、なのは達を守ってユニクロン軍と対峙する。
「なのはママ達には、指一本触れさせないんだから!」
そうだ。そのために自分はここに来た――強い決意を胸に、ヴィヴィオは高らかに宣言し――
「ヴィヴィオ!」
「チンクさん……?」
そこにチンクのブラッドサッカーが飛来した。突然声をかけられ、ヴィヴィオは不思議そうに上空のチンクを見上げるが、チンクはそんな彼女にかまうことなく提案する。
「ブラッドザンバーだ――いけるな!?」
「うん!」
「マスターマグマトロン!」
「ブラッドサッカー!」
『爆裂武装!』
ヴィヴィオとチンク、二人の声が交錯し、マスターマグマトロンとブラッドサッカーが飛翔する。
そして――ブラッドサッカーがビーストモード、ブラッドバットへと変形。マスターマグマトロンの頭上に飛び出すと自らの頭上でその翼を重ね、それ自体を巨大な刃とした一振りの大剣へとその姿を変える。
『マスターマグマトロン、ブラッドザンバーモード!』
「いっくぞぉっ!」
巨大な剣へとその姿を変えたチンクを掲げ、ヴィヴィオは一気に飛翔。襲い来るユニクロン軍の白いトランスフォーマー達を次々に斬り捨てていく。
そして、その暴れぶりに警戒を強め、彼らが後退し――
『フォースチップ、イグニッション!』
それは逆にチャンスだった。素早くフォースチップをイグニッション。チンクとヴィヴィオはフルドライブモードへと移行し、
『ブラッドザンバー、グランドフィニッシュ!』
放たれた無数の刃が、ユニクロン軍を薙ぎ払う。
だが――やはり実戦経験のないヴィヴィオでは狙いが甘い。チンクのフォローも追いつかず、難を逃れた白いトランスフォーマー達が次々に爆煙の向こうから姿を現し――
「ヴィヴィオに――手を、出すなぁぁぁぁぁっ!」
咆哮と共に刃を一閃――飛び込んできたディードのウルフスラッシャーが、白いドランクロンとラートラータを斬り捨て、
「IS発動――レイストーム!」
オットーのレイストームが、白いサウンドウェーブを飲み込み、粉砕する。
「ヴィヴィオ、大丈夫ですか!?」
「チンク……無事……?」
「ディードお姉ちゃん!」
「オットー、お前……!?」
安否を尋ねる二人の言葉に、ヴィヴィオとチンクが声を上げる――そんな彼女達に向け、白いトランスフォーマー達が殺到してくるが、
「側方注意、だよ」
オットーが告げると同時――彼らはたて続けに飛来した閃光によって撃ち抜かれた。
「よっしゃ!
ディエチ、次だ、次!」
「わかってる。
もうチャージは始めてる」
振り向き、告げるのは大破した自らの機体から降り、自身のデバイス“アストライア”を起動させたセインだ――うなずき、アイアンハイドにゴッドオンしているディエチは主砲へのエネルギーチャージを続ける。
「それより、セインも照準サポートよろしく」
「はいはいっと!」
告げるディエチに答え、セインが両肩と背中に装備されたシールドを稼動――レーダーに転用したそれでサーチをかけ、次に狙うべき相手を捕捉する。
そのデータは大破した愛機デプスダイバーのメインシステムを介してディエチのアイアンハイドへ。そのデータを元にして、ディエチが自身のサーチ範囲以上の距離にいる相手に正確に照準を合わせている、というワケだ。
「そうだ……!
デプスダイバーはブッ壊れちまったけど……戦えなくなったワケじゃない……!
あたしはあたしのできることで、戦うんだ……ディエチ!」
「チャージ完了。
砲撃を開始、チンク達を援護する」
セインに答え、ディエチは目標に向けてアイアンハイドの主砲をスナイパーライフルのようにかまえ――
「違う違う。そうじゃないだろ」
そんな彼女に、セインが不満の声を上げた。
「狙撃の時の決めセリフ、教えたろ?」
「正直、ネタにされてるとしか思えないんだけど……」
セインのこだわりに苦笑しながら、ディエチは改めて主砲をかまえ、
「アイアンハイド――目標を狙い撃つ!」
引き金をしぼり、閃光を撃ち放った。
「みんな……いける、いけるよ!」
「そのままやっちゃえ、ゴーゴーゴー!」
そんな彼女達の戦いぶりは、後方のなのは達を勇気づけるには十分すぎた。希望の見えてきた戦場に、スバルやこなたが歓声を上げる。
《魔力チャージ――目標出力の90%を突破!
これならいけます!》
「なんとか、なりそうだね……!」
「まったく……ヤキモキさせやがるぜ……」
さらに、指揮所のシャリオからも朗報が届いた。なのはのつぶやきにジュンイチがうなずき――
「…………分かれて、なかったんだな……」
ポツリ、とそうつぶやいたのはマスターコンボイだった。
「マスターコンボイさん……?」
「こんな最悪のタイミングでユニクロンの復活が始まって……それでも、オレ達は希望を捨てずに戦ってきた……」
思わず振り向くなのはに答える形で、マスターコンボイは静かに、自分の想いを告げていく。
「だが、それは柾木ジュンイチの奇策とか、仲間達の踏ん張りとか……オレ達の誰かがもたらす“何か”、誰かがもたらす“きっかけ”に対する希望だった……
希望とか、望みとか……そういうものは、人間やトランスフォーマーとは、別のものだと思っていた……直接のものじゃない、オレ達“が生み出す何か”として、別に分けて考えていた……
だからこそ、その“きっかけ”をつかむために、この命が続く限りあがかなければならないと……そう思っていた」
そして、マスターコンボイは自分達を守って懸命に戦う仲間達へと視線を向けた。
「…………違ったんだな……
希望は、誰かが生み出す“何か”じゃない。
人が……トランスフォーマーが……
……オレ達自身が、希望そのものだったんだ……!」
「セイバーコンボイ!」
「フェイト、お帰り!
それにイクトさんやリインも!」
双方が総力を持ってぶつかり合う激戦の中、フェイトがイクト、リインと共に再び合流――告げて、セイバーコンボイはフェイトと二人で襲いかかってきた白いエルファオルファを叩き斬
る。
さらに、リインが別の敵群を氷結魔法でまとめて拘束。イクトがそれらを自身の炎で吹き飛ばす。
「スカリエッティは?」
「『まだ終わってないなら、もう少しあがいてみる』って言って、またどこかに行っちゃったよ」
尋ねるセイバーコンボイにフェイトが答えると、
「ひえぇぇぇぇぇ……」
「きっつかったぁ……」
息を切らせて、ユニクロンの表面で暴れていたホクトとノーヴェが離脱、戻ってきた。
「二人とも、お疲れさま。
じゃあ……後はなのは達の直衛に戻ってもらえるかな?」
「冗談じゃねぇ!
あたしはまだまだ――」
「ホクトの方は、少し負担を減らした方がいいよ」
反論しかけたノーヴェだったが、フェイトはぴしゃりとその反論を封じ込めた。
「ニーズヘグが制御してくれてるって言っても、ホクトの戦闘可能時間は無制限になったワケじゃないんでしょ?
ノーヴェはお姉ちゃんなんだから、ちゃんとホクトを守ってあげなきゃ」
「…………わ、わかったよ……
ほら、行くぞ、ホクト」
「うん!」
ノーヴェの言葉にホクトがうなずき、二人は連れ立って後退していく――それをしばし見送り、フェイトは息をついて気合を入れ直し、
〈総員警戒っ!〉
悲鳴に近い勢いで声が上がった。
タイタンコンボイと共にいるはずのリンディの声だ。何事かと振り向いて――フェイトは目を見開いた。
ユニクロンの胸部、その装甲が開き、その中から巨大な砲塔が姿を現す。
あれは――その正体に思い至り、フェイトがかすれた声でその名をつぶやく。
「ユニクロンの、主砲……!」
「カオス、ブリンガー……!」
カオスブリンガー。
前回の戦いでも一度だけ使用された、ユニクロンの武器の中でも最強の破壊力を誇る、まさに“主砲”である。
その威力は絶大で、前回撃たれた際はたったの一撃で――弾けた散弾だけで彼らの故郷であるすべての星に壊滅的な打撃を与えた悪魔の兵器である。
今回のユニクロンが不完全体だとか、そんなものは関係ない――今の弱体化したユニクロンが撃ったとしても、その一撃は自分達をいともたやすく薙ぎ払い、クラナガンを地図から消すことなど造作もないはずだ。
こちらの策など関係ない。アレが撃たれたら一撃で全てが終わる。しかし――
「お兄ちゃん、チャージ!」
「残り95%……!」
「それだけあれば十分だよ! 撃っちゃえば――」
「なのはの術式展開が済んでない!
まず間違いなく――向こうの方が速い!」
こちらの“切り札”はまだその形を成してはいなかった。スバルに、こなたにそれぞれ答え、ジュンイチはドラゴニックバスターに宿ったまま、悔しげにユニクロンをにらみつけた。
「オレの見通しが甘かった……!
なのはにかかる負担を軽くしようと、ギリギリまで術式の展開を控えさせたのが裏目に出た……!」
《このままじゃ……アレを撃たれる……!》
うめくジュンイチの言葉にマグナがつぶやき――
《………………あれ?》
気づいた。
《どういうこと……!?》
「マグナさん……?」
なのはが尋ねるが――マグナは答えない。しばしユニクロンを凝視し、確認する。
《間違いない……
カオスブリンガーのチャージスピードが……落ちた……!?》
そのマグナの観測は決して間違ってはいなかった。
ユニクロンの胸に姿を現した破壊の申し子――そこに流し込まれる“力”が急速に衰え始めたのだ。
だが、その理由になのは達が気づくことはない。
なぜなら――
「フォースチップ、イグニッション!
デス、ランス!」
その原因は、ユニクロンの“中”にあったから――咆哮し、マスターギガトロンはフォースチップをイグニッション。目の前で力強く光を放つそれに向けてデスランスを振るう。
それは、ユニクロンの動力炉とパイプやケーブルによってつながった“ゆりかご”の駆動炉だ。ユニクロンのパワーはここからユニクロン側のコアに流し込まれ、そこから全身に分配されているのだ。
だからこそ、マスターギガトロンはここに目をつけた。渾身の刃が、両者をつなぐケーブルを、パイプを断ち切っていく。
「管理局め。このオレを置き去りにしおって……!
だが……逆に好都合だ!」
そう。
彼は“ゆりかご”内部でのなのはとの決戦に敗れ、捕縛され――突入隊が自分を確保するよりも早くユニクロンの復活という事態になったため、そのまま艦内に放置されていたのだ。
しかし、それも今となってはむしろ幸運――パイプ類の切断を完了すると、ユニクロンの内部の活動が明らかに弱まったのがわかる。
「こういったデカブツを叩くのにもっとも有効な手段……
それは内部に突入しての、内側からの攻撃……!」
つぶやき、マスターギガトロンはデスランスを放り投げ、真紅に輝く“ゆりかご”の駆動炉をにらみつけた。
艦内のシステムをユニクロンに掌握され、そのユニクロンとつながっていたケーブル類も失い、行き場を失ったエネルギーが駆動炉の中で出口を求めて暴れ回る――狙い通りの展開に笑みがこぼれる。
「神だかなんだか知らないが……相手が悪かったな。
フォースチップ、イグニッション!」
咆哮し、再度フォースチップをイグニッション――マスターギガトロンの胸部装甲が開き、そこに2門の収束エネルギー砲が姿を現す。
その内部にエネルギーが収束――埋め込まれた今の自分の“命”、“レリック”に負荷が走り火花が散るが、それでもかまわずにチャージを完了する。
大した出力はいらない。今や“ゆりかご”の駆動炉はパンク寸前。後はほんの一押ししてやるだけでいいのだから――
「たかだか神が……」
「このオレの支配する世界に、手を出すなぁぁぁぁぁっ!」
マスターギガトロンの主砲――ギガスマッシャーが火を吹いた。
「あれは!?」
声を上げたのはスバル――彼女の気づいた異変は、なのは達の目にも入っていた。
突如、ユニクロンの下半身、“ゆりかご”の一角で爆発――それにともない、ユニクロンがさらにパワーダウンしたのだ。
「なんだか知らないけど、チャンスだ!
なのは!」
「は、はい!
レイジングハート、プリムラ! マグナさん!」
《うん!》
〈All right!〉
《任せなさいって!》
何が起きたのか、自分達に知る術はない――しかし好機であることには違いない。ジュンイチの言葉になのはが、なのはの言葉にデバイス達やマグナが答え、なのはの足元に魔法陣が展開される。
「スバル!」
「はいっ!」
そして、なのはの言葉にスバルがうなずく――意識を集中し、カイザーマスターコンボイの演算システムを介してなのはの術式に自らの術式を重ねていく。
そのまま、今度はジュンイチの蓄えたエネルギーに干渉し――
「ユニクロンが!」
しかし、そう簡単にはいかなかった。ユニクロンが再び身を起こし、カオスブリンガーをこちらに向けてきたからだ。
「今のまま、チャージの済んだ分のパワーだけで撃つ気か!?」
「万事、休すか……!」
その狙いに気づき、ジュンイチが声を上げる。うめくマスターコンボイの目の前で、ユニクロンがカオスブリンガー先端に光を生み出し――
その砲塔が爆発した。
「え!? 何!?」
「ユニクロンの、カオスブリンガーが……!?」
こちらにもはや抵抗の術はなかった。成す術なくユニクロンの一撃をもらうばかりだった――そんな絶望的な状況をひっくり返した異変に、なのはやこなたが思わず声を上げる。
見ると、カオスブリンガーの砲塔、大破したそのすぐ脇に何か影が見える――よくよく目を凝らすと、その特徴的なシルエットがその正体を教えてくれた。
トーレが乗り捨てた、ボロボロのマグマトロンだ。操っているのは――
「まさか……スカリエッティか!?」
〈何をしている?〉
声を上げるマスターコンボイだったが、そんな彼にスカリエッティからの通信が届く。
〈こんな絶好の機会を、呆けて逃すつもりかい?
ぶつけてやるがいい――命ある者、その“力”の輝きを〉
「………………っ」
そのスカリエッティの言葉に、スバルは唇をかむ――ドラゴニックバスターのトリガーを握る手にも自然と力が入る。
この一撃でユニクロンを倒し、みんなを守る――そう自らに言い聞かせるが、同時に反対の思いも彼女の中で頭をもたげてくる。
すなわち――“もし、これでもユニクロンを倒せなかったら?”
そうなれば、今までみんなががんばって守ってくれたのがすべてムダになる。そう思うとたまらなく恐ろしい。
プレッシャーで身体が固まる。それに視界もどんどん暗く――
「撃て――スバル」
「――――――っ」
そんな彼女を現実に引き戻したのは、マスターコンボイの一言だった。
「お前の手で――すべてに決着をつけろ!」
「………………はいっ!」
その言葉に、視界が再び開ける――力強くうなずき、スバルはトリガーを改めて握りしめる。
「お兄ちゃん!」
「チャージ完了、100%!」
「なのはさん!」
「術式構築――完了!」
「マスターコンボイさん、こなた!」
「いつでもいいよ!」
「ぶちかませ!」
スバルの呼びかけに、それぞれが力強く答える――うなずき、スバルは前方のユニクロンをにらみつけた。
ドラゴニックバスターが――ゴッドドラゴンが大きく口を開け、そこからあふれ出た“力”が目の前に巨大な“力”の塊を作り出し――
「ユニクロン……ッ!」
「これで……終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
『スターライト、ブレイカァァァァァァァァァァッ!』
引き金が引かれた。解き放たれた“力”が巨大な“渦”となって空間を駆け抜ける。
“力”の奔流は一直線に戦場を駆け抜け、ユニクロンに襲いかかる――カオスブリンガーの残骸を撃ち砕き、その胸に叩きつけられる。
内蔵砲の跡を粉砕し、閃光はさらに中へと突き進み――
「人間を……」
スバルの――
「トランスフォーマーを……」
マスターコンボイの――
「この宇宙を……」
こなたの――
『命の“力”を、なめるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
3人の咆哮が響き渡り――
閃光は、ユニクロンの中枢部――そこに収められたコアを飲み込んだ。
“力”の渦はコアを消し飛ばしながらもユニクロンの体内を駆け抜け、さらに内部で拡散。ユニクロンの体内を駆け巡る。
しかも、拡散したことによってそれぞれの威力が弱まったためにユニクロンの外装を破ることができず、そのままユニクロンの体内をすみずみまで、内側から破壊し尽くしていく。
それでも、スバル達の砲撃は終わらない。集めたエネルギーを全て出し尽くすかのように続く“力”の放出はユニクロンの体内にさらに“力”を流し込む形となり、ユニクロンの内部で荒れ狂う。
そして――ついにその容量が限界点を超えた。装甲を歪め、盛り上げ、ユニクロンの身体は一気にふくれ上がり――
消し飛んだ。
ダウンバースト攻撃を放った際に両肩に開けた圧縮空気砲の砲塔から、内部に収まりきらなくなったエネルギーが一気に上方へとあふれ出した。その流れに追従した残りのエネルギーが渦を巻き、砲口を押し広げるかのようにユニクロンの上半身を飲み込んでいく。
装甲の亀裂が上半身全体を、さらには直下の“ゆりかご”をも覆い尽くし、その亀裂に沿って“力”が噴出。本流に導かれるように天高く放出されていき――
すべてが終わった時、ユニクロンの巨体は、クラナガン再開発地区から完全に消えうせていた。
〈…………ユニクロン……エネルギー反応ゼロ。
消滅を、確認しました〉
〈ユニクロン軍の擬似トランスフォーマー、全機停止を確認!〉
「…………勝った……の……?」
「みたい……だよね……?」
報告するシャリオの言葉は、全周波数帯で戦場全体に届けられた――合体したまま身を起こし、つぶやくティアナにかがみもまたカイゼルライナーに合体したままそう答える。
「…………勝った……!
勝ったんだ、あたしら!」
「うん…………!」
「えぇ」
「やったんだね、彼らは……」
別の場所では、セインの上げた歓声にディエチが、ディードが、オットーが答え、
「大したもんだ、アイツら」
「まったくだ」
大きく息をつくブレイズコンボイの言葉に、恭也は彼の傍らに降り立って肩をすくめる。
誰もがユニクロンの消滅という事実を自分の中で受け入れていき――戦場のあらゆる場所から歓声が上がるまで、そう時間はかからなかった。
「…………ふぅ……」
「お疲れさまでした、ジュンイチさん」
ドラゴニックバスターからゴッドブレイカーへ、そして合身を解除――ゴッドドラゴンに戻った相棒から出てきたジュンイチに、すぐそばに滞空しながらなのはが応える。
「ユニクロンも、これでおしまいか……」
「終わったんだね、全部……!」
「うん………………っ!」
安堵の息をつくのは彼らも同じだ。マスターコンボイやこなたの言葉に、スバルは生身であったならきっと号泣していただろうと感じながら何度もうなずいて――
「………………まだだ」
静かにそう告げたのはジュンイチだった。
「何…………?
『まだ』、とはどういうことだ?」
「聞いたとおりの意味だよ」
尋ねるマスターコンボイに答えると、ジュンイチは“装重甲”の背中の翼、“ゴッドウィング”を広げてゆっくりと浮かび上がり、上昇する。
「まだ一戦、肝心なのが残ってる」
そして、ジュンイチはそう告げながらなのはへと視線を向ける――最初は何のことかわからず、眉をひそめていたなのはだったが、すぐにジュンイチの言いたいことに気がついた。
「…………あぁ、そうですね。
すっかり忘れてました」
そう言いながら、なのははレイジングハートを――
“ジュンイチに向けて”かまえた。
静かに息を吐き、ジュンイチに向けて淡々と告げる。
「柾木ジュンイチ……あなたを、大規模騒乱幇助、及び地上本部ビルに対する建造物損壊、その他諸々の容疑で……」
「逮捕します」
ティアナ | 「10年前、なのはさん達が世界を守り抜いて……」 |
あずさ | 「あたし達を、今の世界につなげてくれた」 |
エリオ | 「だから今度は、ボク達が世界を次につなげていく」 |
キャロ | 「次の世代に、次の世界を託すためにも……」 |
スバル | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 最終話『未来への道〜果てしないこの空へ〜』 それは『さよなら』じゃなくて……きっと、本当の始まり……」 |
(初版:2010/06/19)
『GM』シリーズ
NEXT PROJECT
「恭文を六課に?」
SPECIAL THANKS
コルタタ
(敬称略)
「そんなワケで、やってきました機動六課、と……」
――“古き鉄”、参戦――
「私は全力で行くから、恭文も全力で来てっ!」
『とある魔導師と守護者と機動六課の日常』
2010年7月
“古き鉄”は、“守護者”と出会う