「たっだいまー♪」
「お疲れさま、こなた」
サイバトロン地球基地――上機嫌で指令室に姿を見せたこなたに、美遊はそう労いの言葉をかけた。
「ゴメンね、急な話になっちゃって」
「大丈夫ですよー♪
この程度の“お使い”で疲れちゃうような、ヤワな鍛えられ方はしてませんから♪」
苦笑まじりに謝るイリヤに答え、こなたは力こぶを作るようにガッツポーズをしてみせて――
「調子に乗るんじゃないの」
そんなこなたの頭をはたき、たしなめるのはかがみだ。
「相手はシャークトロンだけだったんでしょ?
機動六課の……マスターコンボイだっけ? あの人だけでも十分勝てた戦いだったのよ。そこにちょこっと手を出した程度、疲れなくて当然よ。
それよりも、シャークトロンが出てきたってことは、ノイズメイズ達が今回の“古代遺物”を狙ってきてるのはほぼ確定なんだから、むしろ気を引きしめないと」
「はーい、ワカリマシター♪」
「……アンタがそーゆー受け答えする時は、たいてい右から左へ聞き流してるのよね……!」
「あ、バレた?」
「バレるに決まってるでしょうが!」
あっけらかんと答えるこなたに、かがみは思い切り叱りつける――そんな二人のやり取りを、イリヤは苦笑まじりに眺めていたが、
「…………イリヤ」
そんな彼女に、美遊は小声で声をかけてきた。
「どう思う? 今回のこと」
「うーん……確かにちょっと今までとは違ったね」
《ですよねー》
同じく小声で答えるイリヤに、やはり小声でルビーが同意する。
《さっきの件は、当初のミッションプランにはなく、状況の変化に応じて送られてきた修正プランによるもの――そこまではある意味で“いつも通り”です。
ですが――》
「うん…………
今回は、いつもと違って、修正プランが送られてきてからその実行までの時間的余裕がほとんどなかった……」
《ですが、誰にだって寝耳に水ということはあるものでは?》
「だとしても、今回の状況には当てはまらないよ」
イリヤに異論をはさんだサファイアには美遊が答えた。うなずき、イリヤは続ける。
「今回のことは、“どっちが”出した修正プランかはわからない。
けど……どっちだったとしても、シャークトロンの侵入くらい見落とすはずがない。
そういう人達でしょ? あの人達は」
《それは……まぁ……》
「間違いなく、もっと早くから気づいてたはずだよ。
つまり、意図的に修正プランを送ってくるタイミングを遅らせた、ってこと」
サファイアに小声で告げると、イリヤは未だ騒いでいるこなた達へと視線を戻した。
「間違いなく、あの人達はこの状況を利用することを考えてる。
こなた達の――」
「そして、スバル達の成長のために」
第13話
守りたいもの
〜それぞれの“絆”〜
「うーん、今のところ反応はなし、か……」
無事合流したマスターコンボイの車内――表示されたデータに目を通し、運転席のなのははため息まじりにつぶやいた。
「アリシアちゃん、アスカちゃん。
国守山の方はどうだったの?」
「なーんにも。反応ゼロ」
たずねるなのはだが、後部コンテナスペースにいるアリシアもまたため息まじりにそう答え、アスカと二人で手をパタパタと振ってみせる。
「マスターコンボイさんは何か気づかなかったんですか?」
今度はスバルがマスターコンボイに尋ねるが――
「………………」
そのマスターコンボイは黙り込んだまま答えない。
「……マスターコンボイさん?」
「………………?
どうした?」
「それはこっちのセリフですよ」
スバルが再度呼びかけ、ようやく反応が返ってきた――聞き返すマスターコンボイの問いに、なのははそう答えて肩をすくめてみせる。
「さっきからずっと黙り込んじゃって、どうしたんですか?」
「少し、考え事をな」
「ちょっ、運転中に考え事なんて――」
「心配するな。
このトランステクターの自動運転は優秀で、正直オレ自身も助かっている」
思わず声を上げたティアナに、マスターコンボイはあっさりとそう答える。
「少なくとも、ただ街中を走る分にはオレの運転よりもよほど安全だ。
それがわかったなら、考え事のジャマをするんじゃない」
「フンッ、わかったわよ!」
相変わらず突き放すような物言いのマスターコンボイに、ティアナもまた売り言葉に買い言葉でそっぽを向いてしまう――スバル達が思わず苦笑する中、マスターコンボイは再び黙り込んでしまった。考え事を再開したのだろう。
と――
「……ひょっとして……」
ふとある可能性に気づいたのはなのはだった。
「マスターコンボイさん……国守山の戦闘で、何かありました?」
「――――――っ!」
その問いは、事実を的確に捉えていた――なのはの言葉に、マスターコンボイは思わず息を詰まらせた。
「……そうか。
オレがシャークトロンと戦ったことはすでに知らされているんだったな」
「ま、あたしが真っ先に知らせたからね」
つぶやくように納得するマスターコンボイに対し、アリシアはそう答えて胸をドンと叩いてみせる。
「私達、そこでの詳しいことは知らされてないんですけど……そこで何かあったんですか?」
「……詳しくは報告書データを指揮所の八神はやてに提出した。気になるなら後で閲覧しておけ」
問いを重ねるなのはに答え、マスターコンボイは問題の戦闘の時のことを思い返した。
(あのトランスフォーマー……)
その思考の中心は、国守山での戦闘で姿を見せた青色のトランスフォーマーのことだった。
一応、記録の上では見たことがある――地球に再来したノイズメイズ達を迎え撃っているトランスフォーマー達の筆頭だ。
その正体は今もって不明――地球サイバトロン側も、ノイズメイズ達と戦う彼らを味方と考え、何度も接触を図っているのだが――何しろ本人達が神出鬼没。ノイズメイズ達を追うように現れ、撃退すると早々に引き上げてしまうため、現場に居合わせた者達の目撃情報からしか彼らに関する情報が得られていないのが現状なのである。
(おそらくはシャークトロンか、ヤツらと戦うオレの反応を感知してきたのだろうが……)
気になるのはそこではない。むしろ――
(ヤツは、オレの索敵をかわしてあの場に潜んでいた……だが、なぜヤツはわざわざ姿をさらした?
オレが最後の1体に攻撃されるとでも思って焦ったか?
……いや。ヤツが本当にオレの索敵を逃れて隠れていられるほどの実力を持っているなら、オレの迎撃が間に合っていたはずなのもわかったはずだ。
あの状況に焦ったとするなら、実力に対し、経験値が恐ろしく足りていないことになる……)
まさかとは思うが――
(あえて、オレに姿をさらした……?
本当の目的はシャークトロンの迎撃ではなく、オレにその存在を知らしめること――自分達がこの件に介入していることを知らせるためだとでも言うのか……?)
「…………まさかな……」
「………………?」
仮にそうだとして、自分達のことを知らせることで、彼らにどんなメリットがあるというのか――現実味のない仮説な気がして、自嘲気味にもらしたマスターコンボイのつぶやきを聞き取り、スバルは思わず首をかしげる。
と、そんな彼女のすぐ前――助手席に座るリインが窓の外の街並みに視線を向け、
《日も落ちてきましたし……そろそろ晩御飯の時間ですね♪》
「うん、そうだね」
リインの言葉にうなずくと、なのはは通信回線を開き、
「ライトニング、そっちはどう?」
〈はーい、こちらライトニング、ビークル担当のジャックプライム♪〉
真っ先に応答したのは、フェイト達を乗せて探索の足として活躍中のジャックプライムだ――続けてフェイトがなのはに答える。
〈こっちも一段落ついたから、待機所に戻るよ〉
〈こちらロングアーチ、はやてです。
ありがたいことに、夕食は民間協力者のみなさんが用意してくれるそうや〉
〈……じゃあ、とりあえずどこかでみんな一度集まって、合流した上で戻るね〉
「うん。じゃあ、また後でね」
フェイトに答え、通信を切り――なのははふと何やら考え込み、
「ふーん……
でも手ぶらで帰るのもナニかなぁ……?」
つぶやくと、なのはは携帯電話を手に取り、
「マスターコンボイさん、ちょっと停めてくれる? あとハザードも」
「なぜだ? そのまましゃべればいいだろ」
「運転席の私が携帯でしゃべるのは、日本の道交法的にひじょーにマズイことなの」
「…………チッ」
舌打ちし――それでもなのはに従った。マスターコンボイは自動運転を解除すると路肩に寄って停車、なのはは携帯電話をダイヤルし――
「…………あ、お母さん?
なのはです♪」
『え………………?』
そんななのはの言葉に反応したのは3名。疑問の声を上げたスバルとティアナ、そして――
「な゛…………っ!?」
驚愕の声を上げたマスターコンボイである。
「うん、お仕事で近くまで来てて……うん、そうなの……」
《……なのはさんの、お母さん……?》
《そりゃ、存在はしてても当然なんだけど……》
こちらの同様も気にせず話を進めるなのはの背後で、スバルとティアナは念話でそんなやり取りをかわし――
「……そうだった……!」
その一方で焦りに満ちた声を上げるのはマスターコンボイだ。
「どうして忘れていた……!
“海鳴になのはと共に来る”ということは、“あの女”との接触の可能性を跳ね上げる行為でしかないだろうが……!」
「マスターコンボイさん?」
「アンタ……なのはさんのお母さんのこと知ってるの?」
まるで、ロボットモードだったら頭を抱えそうな勢いだ。うめくマスターコンボイの言葉にスバルが、そしてティアナまでもが思わず尋ね――
「じゃあ、10分くらいしたらお店に行くね♪」
話が終わったようだ。なのはは終話ボタンを押して携帯電話を閉じた。
「さて、ちょっと寄り道♪」
《オッケー♪》
《はいですー♪》
なのはの言葉にプリムラやリインが元気に答えると、そんな彼女達にスバルとティアナが尋ねた。
「あ、あの……なのはさん……?」
「今、『お店』って……?」
「うん、そうだよ。
ウチ、喫茶店なの♪」
《喫茶“翠屋”!
オシャレでおいしいお店ですよー♪》
なのはとリインが笑顔で二人に答えると、
「そうかそうか。
なら、その“オシャレでおいしいお店”にはお前らだけで行ってこい」
いきなりマスターコンボイがそんなことを言い出した。
「さっきわがままをとおさせてもらったかりをかえさなければ。
たんさくをつづけておいてやるから、みどりやへはおまえらだけで――」
そう告げるマスターコンボイだったが――文字通りの棒読みでは説得力がないにも程がある。
結果――
「ダーメ♪」
案の定、なのはは満面の笑顔でマスターコンボイの意見を斬り捨ててくれた。
「マスターコンボイさんも一緒に行くの♪」
「冗談じゃない! オレは行かんぞ!」
なのはの言葉に、マスターコンボイは普段の落ち着き振りを迷わずかなぐり捨てて反論した。
「わかっているのか!?
翠屋に行くということは、すなわち“あの女”のところに行くって事だぞ!」
「別にいいじゃない。
もう敵と味方ってワケじゃないんだし」
「それ以前の問題だ!
そもそも“あの女”、最初からオレのことを敵扱いしとらんかっただろうが!」
「だったらなおさら大丈夫でしょ?
そんなに毛嫌いしなくたって……」
「ギガロニアで“あんな目”にあわされて、毛嫌いするなと言う方がムリだ!」
『………………?』
あのマスターコンボイが心底嫌がっている――意外な展開を見せる目の前の光景に、スバルとティアナは思わず顔を見合わせていた。
それから10数分後――
「お母さん、ただいまー♪」
「娘さん達のお帰りじゃー♪」
「なのは、アリシア、お帰りー♪」
10年前から度々手を加えてはいるものの、その落ち着いた佇まいは変わっていない。喫茶“翠屋”の入り口をくぐったなのはとアリシアを、高町桃子は笑顔で出迎え――
「で……こっちがマスターメガトロンさん?
ずいぶんとかわいくなっちゃって♪」
「ほっとけ!」
ヒューマンフォーム――子供の姿でなのはに手を引かれたマスターコンボイに対しても笑顔で告げる。力いっぱい言い返すマスターコンボイだが、やはりこの姿では迫力に欠ける。
なぜ、マスターコンボイがヒューマンフォームなのか? その疑問の答えは、先ほどのやり取りの直後までさかのぼる――
先ほどのやり取りの後、頑として翠屋行きを承諾しないマスターコンボイはついに実力行使に踏み切った。
と言っても、彼がなのは達に対して手荒なマネなどできようはずもない。その代わり、なのは達を車内から追い出して逃亡を図ったのだ。
当然ながらなのは達もそれを追跡したのだが――そこでマスターコンボイは思い切った行動に出た。
なんと、あれほど嫌がっていたヒューマンフォームに変身し、人ごみにまぎれるという手に出たのだ。
その発想自体は悪くはなかった。実際、一度はうまくなのは達をまいたのだが――そこで誤算が発生した。
そう。
彼は“彼女”の存在を忘れていた。
とりあえず、ここでの詳しい描写は省かせてもらうとしよう。
捕獲されたマスターコンボイが後にもらした「オレンジ色の追跡者を見た」という発言から、だいたいの経緯は想像できるだろうから。
その後、なのはは「もう逃げられないように」とマスターコンボイの手をしっかりと握って放そうとはしなかった。
マスターコンボイとしても、そんな状態でムリにロボットモードに戻ろうとすればなのはを跳ね飛ばしてしまうことは容易に想像できた。結果、再度の逃亡を図ることもできず、こうして連行されてきてしまったワケだ。
「それと、今のオレはマスターメガトロンじゃない!
“機動六課のコンボイ”――マスターコンボイだ!」
「あら、そうなの?
よろしくね、マスターコンボイくん♪」
「敬称が『くん』に!?」
「だって、『さん』って感じじゃないじゃない♪」
「言いながらなでるな!」
すっかりマスターコンボイを子供扱いで翻弄する桃子の姿は10年前から変わらぬ、優しさあふれる“母親”の姿――そんな彼女の姿に、ティアナがつぶやくのはたいていの人が抱く感想。
すなわち――
「お母さん、若……」
そう、若い。どう見ても若い。多少高めに見積もったとしても、見た目では20代後半程度にしか見えない。
たぶん、後からフェイト隊長達と来るエリオ達も似たような反応するんだろうなー、あ、でも、フェイト隊長のお義母さんでもあるんだからエリオ達は知ってるか――そんなことをやや現実逃避的に考えていたティアナは、ふととなりの相方のリアクションがやけに小さい、というかまったく見られないことに気づいた。
「――アンタは驚かないの?」
「んー、あたしは、“歳なんか関係なく若いお母さん”って見慣れてるから」
ティアナの問いに、スバルは苦笑して肩をすくめる。
「ウチのお母さんもそのケがあったし、六課後見人のレティ提督とリンディ提督――あたしも個人的にこの二人とは知り合いなんだけど、二人とも今でもぜんぜん見た目若いよ。
で、極めつけが“師匠”のお母さん。見た目あたし達とほとんど変わらないし、あの“師匠”が『人外』って言い切るくらい、昔から見た目が変わってないんだって」
「……アンタの人脈もたいがいデタラメよね……」
スバルの言葉にティアナがうめくと、
「なのは、アリシア、戻ったか!」
キッチンの奥から現れたのはなのはの父、高町士郎、そして――
「なのは! アリシアも!」
「お姉ちゃん!?」
続いて現れたのはなのは達の義姉にして“無限書庫”副司書長、高町美由希だった。
「美由希ちゃん、“無限書庫”でお仕事なんじゃないの?」
「んー……」
首をかしげて尋ねるアリシアに対し、美由希はどことなく視線をさまよわせ、
「実は……管理の方から『休まなさすぎだ!』って怒られちゃって……
私的には、あそこで働くこと自体が一番の楽しみなのにぃ……」
「あー、そうなんだ……」
いわゆる“本の虫”である美由希のことだ。大方昼夜を問わず『仕事』と称した読書に明け暮れていたのだろう。
その光景があまりにも簡単にイメージできてしまい、アリシアは思わず苦笑する。
「まぁ、そんなワケで、現在強制休暇中。ユーノくんと交代でね。
なのはも、たまには休まないと私みたいに怒られるよー」
「ニャハハ……気をつけるよ……」
美由希の言葉に苦笑と共にうなずいて――なのははスバル達が置いてきぼりになっているのに気づいた。
「あぁ、この子達は私の生徒♪」
「ど、どうも……
ティアナ・ランスターです……」
「スバル・ナカジマです!」
「アスカ・アサギ。よろしく♪」
なのはの紹介を合図に、ティアナ達が順に名乗った、その時――店の入り口のドアが開き、ベルが心地よい音で来客を知らせた。
「よっ、なのは」
「あぁ、ヴィータちゃん」
来客の正体は別行動だったヴィータだった。声をかけられ、なのはが振り向き――
「――って、そっちの人は?」
「あぁ、イクトか?
炎皇寺往人――なのははブレード、知ってるだろ? アイツの知り合いだよ」
ヴィータに同行していたイクトを前に尋ねるなのはに、ヴィータはイクトを彼女に紹介してやる。
「あたしはもっと前に一緒に仕事したことがあったんだけど、さっき偶然一緒になっt――」
「あぁ――――――っ!?」
ヴィータの説明をさえぎり、驚きの声を上げたのはスバルだった。まっすぐにイクトを指さし、
「い、イクトさん!?
どうしてヴィータ副隊長と一緒にゃばっ!?」
「人を必要以上に指さすものじゃない」
スバルとてなのはやヴィータの教導で格段にレベルを上げている――にもかかわらず、イクトは瞬時に間合いを詰め、見事としか言いようのない反応を見せたはずのスバルのガードをすり抜けてその額にデコピンをお見舞いした。
ただ中指で弾くだけ、という見た目の動きからは信じられないような衝撃に額を打ち抜かれ、スバルがたまらずのけぞる光景を前にヴィータは口笛で賛辞を贈り、なのはやマスターコンボイはムダの一切見られなかったイクトの動きに思わず目を見開く。
そんな中――ごく当たり前のように彼に声をかける者がいた。
「……相変わらず、見事すぎる体さばきですね、イクトさん」
「まさか貴様までいるとは思わなかったな。
どうやら、『強制休暇を取らされた』というウワサは事実だったようだな――高町美由希」
「え? え?
美由希ちゃん、イクトさんと知り合いなの?」
声をかけるイクトと平然と返すイクト――意外な組み合わせの二人のやり取りに、思わず尋ねるのはアリシアだ。
そんな彼女の疑問に対し、イクトはあっさりと答えた。
「貴様らも、オレが聖王教会から依頼を受けて動くことが多いことは知っているだろう。
その“仕事”のための情報源として、オレもよく“無限書庫”は利用させてもらっているが……そこでいろいろと助けられていてな」
「助けられて……?」
思わず首をかしげるアリシアの言葉に、イクトは息をつき――告げる。
「貴様ら、オレが書庫の検索端末をまともに扱えるとでも思っているのか?」
説得力がありすぎた。
「じゃあ、ヴィータちゃんとイクトさんは“擬装の一族事件”の時に?」
「あぁ。
八神はやて以下守護騎士一同とはその頃からの付き合いだ」
お互いの自己紹介も終わり、ライトニングの面々を待つ間しばしのコーヒーブレイク――話を聞き、確認するなのはに答え、イクトは軽く息をつく。
「ちなみに、このメンツの中で一番付き合いが長いのはスバル・ナカジマとアリシア・T・高町だ。
スバル・ナカジマの“師匠”とはそれ以前からのライバルでな。その縁もあって、“ギg――“ある事件”で知り合った」
言いながら、一瞬こちらを一瞥、一箇所だけ訂正するイクトの言葉に、未だヒューマンフォームを解かせてもらえないでいるマスターコンボイは思わず眉をひそめるが――
「はーい、ドリンク、お待たせ♪」
そこへ現れたのは桃子だ。両手にトレーを1枚ずつ、器用にバランスを取ってコーヒーや紅茶を運んでくる。
「はい、スバルちゃんとティアナちゃんは疲れが取れるようにホットミルクティーね」
「ありがとうございます」
「いただきます」
「リインちゃんはアーモンドココアよねー♪」
《ありがとです!》
「マスターコンボイくんには熱めのコーヒー。
とりあえずブラックだけど……砂糖とかなくても大丈夫?」
「問題はない。ブラックで十分だ」
………………
…………
……
「だから、そうじゃないだろ、オレ……!
なんでナチュラルに対応してしまうんだ、いつもいつも……!」
「ま、マスターコンボイさん!?」
ふと我に返れば“自己嫌悪タイム”スタート――テーブルに突っ伏し、頭を抱えてうめくマスターコンボイの姿に、スバルは思わず驚きの声を上げる。
「な、何なの、アレ……」
「あー……」
うめくティアナの言葉に、ヴィータもコメントに困って頬をかき、
「一言で言うなら、“ギガロニアの(マスターコンボイにとっての)悪夢”の再現、ってトコか」
『………………?』
目の前で当人が激しく凹んでいるのを前にしては、さすがのヴィータも詳しく語るのははばかられた。仕方なく言葉をにごすが、当然ながらスバルとティアナには通じない。
「ホントに何なんだ、あの女は……
どれだけ警戒しても、あっさりとこちらの懐にもぐり込んでくる……」
一方、マスターコンボイは少しは持ち直したようだ。桃子の去っていったキッチンをにらみつけ、呼吸を整えながらうめくが、
「それが、あの高町桃子という女性の力なんだろうな」
そんな彼に答えたのはイクトだった。
「アリシアから軽くは聞いていたが……直に会ってみてよくよく実感させてもらった。
あぁいう手合いは人の心、他者の思いを汲み取るのが抜群に上手い。こちらがいくらガードを固めようと、いともたやすくくぐり抜けて本音の部分を探し当ててしまう。
そんな高町桃子の娘として生まれたからこそ、高町なのはは10年前、お前と心を通わせることができたんだろう」
「むぅ……」
イクトの言葉に、マスターコンボイは思わず視線を落として考え込み、
「何の話ですか?」
「別に。
他愛のない話さ」
聞こえていなかったのか、尋ねるなのはに対しイクトはあっさりとそう答えた。
「マスターコンボイと話していたのさ。
もし高町桃子が貴様らと同等の力を有していたなら、10年前にマスターコンボイを止めていたのは彼女だっただろう、とな」
その言葉に、全員の脳裏にイメージが浮かんだ。
なのはのそれにソックリなバリアジャケットを身にまとい、レイジングハートを手に圧倒的な火力を発揮しつつ友好を求める桃子の姿が。
その光景はなんと言うか――
あまりにも違和感がなさすぎた。
キキッ。とブレーキ音を立てて停車――無事合流し、バニングス家のコテージへと戻ってきたマスターコンボイとジャックプライムの車内から、なのは達やフェイト達、そして半ばなし崩し的に同行してきたイクトが次々に下車していく。
「運転お疲れさま、マスターコンボイさん」
「…………フンッ」
笑顔で労うなのはだったが、ロボットモードへとトランスフォームしたマスターコンボイは鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。
「あれ…………?
マスターコンボイさん、ご機嫌ナナメ?」
「お母さんに頭が上がらなかったの、そんなに悔しかったのかな?」
「“お前と高町桃子のタッグに”だと思うんだがな、正しくは……」
スバルと二人で首をかしげるなのはに対し、イクトはため息まじりにツッコんで――
「…………あれ?
なんか、ちょっといい匂いが……?」
「きゅくる〜♪」
「うん……」
「はやて達が、もう晩御飯の支度を始めてるのかな?」
何やら香ばしい香りが漂ってきた。気づいたキャロや彼女の背負ったリュックの中に隠れていたフリード、二人に同意するエリオの言葉にフェイトがつぶやくと、
「……あ、お帰りーっ!」
「なのはちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん!」
こちらに気づいたアリサが声を上げた。そのとなりですずかも気づき、アリサと二人でこちらに向けて駆けてくる。
と――
「あれ、すずかさん……?」
「スバルちゃん?
そっか……はやてちゃんがスカウトしたって言ってたっけ」
すずかの登場に驚き、目を丸くしたのはスバルだ。そんな彼女に気づき、すずかもまた自らの記憶の中の情報を引っ張り出してそう納得する。
「え? ちょっ!?
二人とも、知り合い!?」
「というか……」
「(ある意味)いつもの“師匠”つながり、ですね……」
まさかこの二人が知り合いだとは思わなかった。驚くなのはに対し、すずかとスバルは顔を見合わせてそう答える。
と――
「それはいいが――お前達、そこから離れろ」
そう口をはさんできたのはイクトだ――見れば、エリオやキャロを連れて道路の端に退避している。
「まぁ、轢かれてもいいと言うなら止めないが」
「え………………?」
イクトの言葉にフェイトが振り向くと、丘の下の方から1台の車がこちらに向かってきているのが見えた。確かにこのままここにいては通行のジャマになってしまうが――
「誰だろ……?」
「この先なんて、アリサちゃんちのコテージしかないのに」
むしろ誰が来たのかが気になった。つぶやくなのはとフェイトだったが――近づいてきた車をハッキリと視認すると、二人で「あぁ」と納得した。
そして、問題の車はなのは達のすぐ目の前で停車した。その中から姿を見せたのは――
「ヤッホー♪」
ヴィータと同じくクロノの妻、(身体年齢上)ヴィータの義姉にあたるエイミィ・ハラオウン――
「みんな、お仕事してるかー?」
フェイトの使い魔であり、今は前線を退き燃費のいい子供の姿に変身しているアルフ。そして――
「お姉ちゃんズ、参上♪」
先ほど翠屋で会ったばかりの美由希だ。
「美由希ちゃん……?」
「さっき別れたばかりなのに……?」
「いや、エイミィがヴィータに合流する、って言うから。
私も、ちょうどシフトの合間だったし」
アスカとティアナの疑問に美由希が答えると、一方でアルフがエリオやキャロに駆け寄り、
「エリオ、キャロ、元気だったかー?
……あれ? 二人とも、ちょっと背ェ伸びたか?」
「えっと……どうだろ?」
「ちょっと、伸びたかな……?」
アルフの問いに、育ち盛りの二人は少し照れ気味にそう答え――
「…………ん?」
ふと視線をめぐらせてみたスバルは、イクトが何やら難しい顔をして首をひねっているのに気づいた
「イクトさん、どうしたんですか?」
「いや……少し気になってな」
言って、イクトが見ているのは今しがた合流した美由希達3人だ――順に見渡した後、その中のひとりで視線を固定し、スバルに尋ねる。
「『“お姉ちゃん”ズ』――なのか?」
「何でそのセリフをあたしを見ながら言うのさ!?」
アルフは本気で怒ったようだった。
『………………』
ともあれ、駐車場を離れてコテージへと戻ってきたなのは達だったが――戻ってくるなり、スバル達は思わず動きを止めていた。
「あぁ、みんな、お帰りー♪」
左手にへら、右手に塩コショウのビンを握り、程よく熱された状態でジュージューと食材を焼いている鉄板の前に立つはやての姿を前にして。
「――って、部隊長自ら鉄板焼きを!?」
「そんなの、わたし達がやります!」
「あー、えぇよえぇよ。
お料理はシュミのひとつやし♪」
一瞬ポカンと口を開けて呆けてしまったが、我に返れば大あわて――口々に言いながら駆け寄ってくるティアナやキャロを制し、はやては笑顔でそう答える。
「八神部隊長の料理はギガウマだからな。安心して任せとけ」
「確かにな」
上司に任せきりというのが恐縮なのはわかるが、ここはむしろ手伝わない方がはやてのためだ――肩をすくめて告げるヴィータのとなりでイクトもまた同意し、
「元々味付けには定評があったし、“擬装の一族事件”の折、“万国料理人”の異名を持つ柾木――貴様らには『スバル・ナカジマの“師匠”』と言った方が通じるか。ヤツの指導でレパートリーも多岐にわたる。
鉄板焼き程度、八神はやてにとっては初歩もいいところだ。手伝う方がむしろジャマだと思っておけ」
「はぁ……そういうことなら、お任せしますけど……」
イクトの言葉に微妙な表情でうなずき――ティアナは振り向き、スバルに尋ねた。
「ってゆーか、またアンタの“師匠”が出てきたわよ。
“万国料理人”ってナニよ? 一体いくつ異名持ってんのよ、アンタの“師匠”」
「……あ、アハハ……」
彼については、一番近いところにいるスバルですら理解の届かないところが多いのだ。尋ねるティアナの問いにも、スバルは乾いた笑いを返すしかなかった。
「……今のところ、サーチャーの反応はなし、か……」
その後、はやて特製の鉄板焼きも仕上がり、人間メンバーとトランスフォーマーの有志で食事会――輪に加わる気になれなかったマスターコンボイは、初対面組の自己紹介の場に顔を出しただけでその場を辞した。湖のほとりでひとりサーチャーを介した遠隔探索を続けていたが、芳しくない結果に思わずため息をつく。
と――
「あー、いたいた」
「………………?」
突然の声に振り向くと、そこにいたのはアスカとキャロ――“仲良しルームメイトコンビ”の二人だ。
フリードの姿はない――そういえば食事会の場を辞する際、プリムラやリインと仲良く肉の奪い合いをしていたな、などと記憶の中の割とどうでもいい情報を拾い出す。
「何か用か?」
「『何か用か?』じゃないよ。
はい、コレ」
言って、アスカは自分が抱えていた、一抱えほどもある皿に盛りつけられた肉や野菜を差し出した。
もちろん、先ほどはやてが焼き上げた鉄板焼きの一部だ。見れば、キャロもペットボトルのドリンクを抱えていて――
「……オレの分、か?」
「そ。
せっかくはやてちゃんが作ってくれたんだから、マスターコンボイも食べなくちゃはやてちゃんに悪いよ」
答えるアスカの言葉に、マスターコンボイはしばし眉をひそめていたが、やがてため息をつき、二人に告げた。
「二人そろって、いつまでそんな重いものを抱えているつもりだ?
さっさとその場に放り出せ」
『………………?』
思わず顔を見合わせる二人に対し、マスターコンボイはもう一度ため息をつき、言葉を重ねた。
「食ってやる――そう言っているんだ」
「……馳走になった」
「一口で食べておいて、『馳走』も何もあったもんじゃないと思うんだけど……」
アスカ達にとっては大きな皿でも、ロボットモードのマスターコンボイはヒューマンフォームの子供の姿と違って大型トランスフォーマーだ。結局一口でたいらげてしまったマスターコンボイの言葉に、アスカはため息まじりにそうツッコむ。
「にしても……マスターコンボイって、たまーにしゃべりが古めかしい時があるよね。今の『馳走になった』とか」
「そうなのか?」
「あー、えっと……」
思わず聞き返すマスターコンボイの言葉に、キャロは思わず視線を泳がせて――その態度こそが何よりも肯定を示すものだと気づいた。あわててフォローしようとするが、
「で、でも、わたしは好きですよ、マスターコンボイさんのしゃべり方!
何て言うか……おじいちゃんと話してるみたいで、なごむって言うか……」
「おじ…………っ!?」
「あわわ、そうじゃなくて!
落ち着いてて、安心できるっというか……!」
よりにもよって『おじいちゃん』――むしろダメージを受け、マスターコンボイが固まってしまったのを見て、キャロはあわててフォローをやり直す。
「あー……キャロちゃんの言いたかったのはもっといい意味でのことだったんだろうけどさ……
それでも、そんな『おじいちゃんみたい』的なイメージを相手に与えちゃってるワケなのよ」
そんな二人に苦笑しながらも、アスカはマスターコンボイにそう告げる。
「せっかくそんな若々しい声にチェンジできたんだから、もっと若者言葉使おうよ。
『すげー!』とか『やるじゃん』とか『マヂかよ!?』とか『萌えー♪』とか」
「ラストひとつは明らかに間違ってないか?」
「うん。ネタ振りだし」
ツッコむマスターコンボイにアスカが答え――コテージの方から笑い声が聞こえてきた。
「あっちはにぎやかにやってるねー」
「……オレンジ頭の怒声とスバル・ナカジマの悲鳴が混じっていた。
大方スバル・ナカジマの天然ボケにオレンジ頭がツッコみ、それが周りにウケた、といったところだろう」
アスカのつぶやきにマスターコンボイが冷静に答えると、
「……けど……」
そんな二人に、キャロは笑いながら声をかけてきた。
「本当に、あぁいう、あったかくてにぎやかな“家族”と“友達”なら、全身全霊で守りたい、って思いますよね……」
「そうだね……」
「………………フンッ」
優しく微笑み、同意するアスカだが――マスターコンボイの反応は違った。
「悪いが、オレには半分も理解できない感情だな」
「『半分』……?」
最初はいつもの意地っ張りが出たのかとも思ったが――『半分』とあえて分量指定が入っているのが気になった。首をかしげ、アスカが聞き返すと、マスターコンボイはあっさりと答えた。
「オレに“家族”はいないからな」
「…………ぁ……」
「だからオレは“家族”と言われてもピンとこない。
もう一方、“友人”にしても“戦友”がせいぜい――だから『半分も』だ」
「ご、ごめんなさい……」
「家族についてのことを言っているのなら謝罪は無用だ」
思わず謝るキャロにも、マスターコンボイはあっさりと答えた。
「オレにとっては、むしろそっちの方が普通だったんだ。
天涯孤独も、独りでいるのも、“家族”を見せつけられるのも……これだけ永く生きていればイヤでも慣れる」
言って、大げさに肩をすくめるマスターコンボイだったが――
「……それでも……」
そんなマスターコンボイに、キャロはおずおずと告げた。
「わたし……最近、機動六課のみんなも、なんだか家族みたいだな、って、思うんです……
アスカさんも……エリオくんも……スバルさんや、ティアナさん……フェイトさん達……それに、マスターコンボイさんも……」
「……オレも、か……?」
眉をひそめ、聞き返すマスターコンボイだが、そんな彼にうなずき、キャロは続ける。
「わたしが前にいた自然保護隊も、隊員同士は仲良しでしたけど、六課のは、それともちょっと違ってて……」
「ウチは上司組はそろって親類縁者で固まってるからねー。隊長格で身内じゃないのってあたしぐらいだもん。
アットホームな感じになるのは、ある意味必然だったのかもね」
同意するアスカにうなずき、キャロはマスターコンボイへと向き直り、
「だから……マスターコンボイさんにも、そんな風に感じてもらえたら、とってもうれしいです」
「…………そうか」
キャロの言葉に軽く答え――マスターコンボイはなにやら楽しそうにニコニコしているアスカに気づいた。
「どうした? アスカ・アサギ」
「いやいや♪
『よかったねー♪ こんなカワイイ家族ができて♪』とか思って♪」
尋ねるマスターコンボイに答えると、アスカは腕を組みなにやら考える仕草を見せ、
「となると、マスターコンボイの役どころって何だろ……?
お父さん……は、ジャックプライムだから……やっぱり、さっきの話の流れでおじいs――」
「オメガ」
〈Yes, My Boss!
Combat-System start!〉
「ゴメンナサイ」
迷わずオメガを取り出したマスターコンボイに対し、アスカは間髪入れずに土下座する。
「けど……そうなるともう“お兄ちゃん”しか残らないよ。
ダメだからね。それだとあたしの“お姉ちゃん”のポジションとかぶっちゃうんだから」
「そもそも、ムリに役を当てはめようとするから矛盾が生じるんだということをわかっているか?」
どうあっても家族の役を割り振りたいようだが、それでも自分の立場との重複はイヤらしい。口をとがらせて告げるアスカに、マスターコンボイはため息まじりにツッコみ――
「……お兄さん、か……
…………えへへ……♪」
「あれ、キャロちゃん!?」
「どちらかと言えば乗り気か、貴様!?」
何やら楽しげなキャロの姿に、アスカとマスターコンボイは二人で驚きの声を上げる。
だが、キャロはかまわない。少しばかり照れがまじり、若干頬を赤く染めながらマスターコンボイを見上げ、
「えっと……呼んでみてもいいですか?」
「は!?
いや、ちょっと待――」
「兄さん♪」
………………
…………
……
「……だから、何なんだ、この“間”は!?
どうしてセリフひとつでこうも泥沼にハマっていくんだ!?
少なくともこういう役どころではないだろ、オレはぁっ!」
「ど、どうしたんですか、兄さん!?」
「ぬがぁぁぁぁぁっ!」
「……あー、気にしなくてもいいよ、キャロちゃん。
あまりの照れくささに全身むずがゆくなってるだけだから」
大混乱のマスターコンボイの姿に思わず声を上げるキャロに答え――アスカはキャロの肩をポンと叩いて、
「ところでキャロちゃん♪」
「はい?」
振り向くキャロに対し、アスカは満面の笑みと共に告げた。
「いつでも、“お姉ちゃん”って呼んでいいからね♪」
一方、別の場所では――
「………………」
食事会の席を離れていたのはマスターコンボイだけではなかった。少し離れた丘でイクトはひとり黙々と皿に盛り付けた肉を頬張っていた。
口の中の肉を飲み込み、考えるのは――
(やはり、いたな……)
自分の予想通りの人間が機動六課にいた、その事実だった。
少し前から、カリムの話やウワサで聞いた限りでも予感はあった――この海鳴ではやてと会えたのを好機と見て接触を図ってみれば、その予想は見事に当たっていた。
(まぁ……ここには“守りたい者”がいるからな……当然と言えば当然か。
まったく、正直に自分の手の者として送り込めばいいものを……相変わらず素直じゃないというか何というか……
それとも……これも“贖罪”のひとつだとでも言うつもりか……?
だとするなら……)
「それは、あまりにも自虐がすぎるぞ……」
思わず思考の一部を声に出してつぶやいた、その時――
「イクトさん」
「ん…………?」
ふと声をかけられて顔を上げた。振り向けば、そこにははやての姿があった。
小声でのつぶやきだ。指揮官としては優秀でも戦士としては能力頼みなところのあるはやてが今のつぶやきを聞きつけたとは思えない――努めて平静を装って聞き返す。
「八神はやてか……どうした?」
「それはこっちのセリフですよ。
みんなと一緒に食べへんの?」
「にぎやかな席は苦手だ」
「あー、もう、イクトさんまでそういうコト言うんですか?」
あっさりと答えるイクトの言葉に、ははやては思わずため息をつき、
「マスターコンボイも同じようなコト言ってどっか行ってまったんよ。
スターセイバーとビッグはまた探索に出てってまったし、まったく、ウチの男衆ときたら……」
「待て。オレは六課の人間じゃない。『ウチの』という括りで語るな」
すかさずイクトのツッコミが入った。
「だいたい、盛り上げ役ならビクトリーレオがいるだろう」
「ツッコミ役がおらへんねん」
「貴様がツッコめ。それで解決だ」
イクトが即答し、そこで会話が止まる。
しばしの間沈黙が続き――
「…………なぁ、イクトさん」
沈黙を破ったのははやてだった。
「私ら……機動六課を外から見て、どう思う?
ちゃんとやれとるかな?」
「まだまだに決まっているだろう」
イクトは容赦なく斬り捨てた。
「機動課の中の一部隊とはいえ、一から新設した部隊だぞ。
発足からわずか1ヶ月――そんな短期間でまともに回せる形に持っていこうという、その発想自体にそもそもムリがある」
「厳しいなぁ」
「良い評価を期待していたワケではあるまい?」
苦笑するはやてに即答し、イクトは息をつき、
「機動六課はまだまだこれからだ。
優秀な人材を多数抱え、将来性は十分にある――それを活かすも殺すもお前達次第だ」
「肝に銘じておきます」
イクトの言葉にはやてがうなずくと、
「八神部隊長、イクトさーん!」
そんな二人を見つけ、スバルが駆けてきた。
「なのはさんが、『サーチャーの反応待ちの間にお風呂を済ませに行こう』って……」
「風呂……?」
スバルの言葉に、イクトは首をかしげ、
「八神はやて、先ほど包丁を借りに中に入ったが……アリサ・バニングスのコテージには浴室はなかったと記憶しているが」
「せやね」
イクトの言葉にうなずくと、はやては笑みを浮かべてつぶやいた。
「となると……」
「……“あそこ”やね」
「…………さて、到着、と……」
そうつぶやくと、彼は息をつき、目の前に広がる街並みを見渡した。
「今のところ、機動六課のサーチャーにもサイバトロン基地のセンサーにも反応はなし、か……」
言いながら、背中の荷物――と言っても着替えなどを入れた簡単なものばかり――を背負い直す。
そして――
「……じゃ、この目で直に見届けさせてもらおうかね。
今回のミッション、その顛末を……」
その言葉と同時、彼は――
柾木ジュンイチは、海鳴の街に向けて一歩を踏み出した。
アスカ | 「マスターコンボイ、キャロちゃんのお兄ちゃんになっちゃったんだね……」 |
マスターコンボイ | 「待て。 オレは認めてない。ヤツが勝手に言っているだけd――」 |
アスカ | 「今まで、あたしがキャロちゃんを“お姉ちゃん”としてかわいがってきたのに……その座を狙うなんて、やってくれるね……」 |
マスターコンボイ | 「だいだい、元々は貴様が冗談めかしてオレを兄呼ばわりしたのが原因だろうg――」 |
アスカ | 「こうなったら! マスターコンボイ! キャロちゃんのお兄ちゃん、お姉ちゃんの座を賭けて勝負だよ!」 |
マスターコンボイ | 「って、話を聞けぇっ!」 |
アスカ | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第14話『一時の休息〜機動六課、銭湯態勢!〜』に――」 |
二人 | 『ゴッド、オン!』 |
(初版:2008/06/28)