海鳴臨海公園。
 海鳴市南部、海沿いに作られた公園であり、観光シーズンやクリスマスなどにはライトアップなども施される、市内の名所のひとつである。
 しかし――その名所も、今この時は物騒な喧騒と炎に包まれていた。

「見つけたぜ!
 アレが今回のターゲットだな!?」
「あぁ」
 公園の上空――眼下に自分達の獲物を発見し、尋ねるノイズメイズに対しサウンドウェーブは淡々とうなずいた。
 上空に飛来するなり、森に向かって爆撃――人気のない森への攻撃だったために人的被害はなかったものの、いきなりの攻撃は散歩などで夜の公園を訪れていた人々をパニックの中に放り込むには十分すぎた。
 しかも、急襲してきたのはかつてユニクロンを復活させて全宇宙を滅亡に追い込みかけた、ユニクロン軍の戦士達――パニックに陥った人々は我先にと逃げ出し、すでに公園から人の気配は消えている。
 そんな彼らの視線の先にいるのは、焼き払われた森の一角にひそんでいるスライム状の生き物だった。
 どうやら、そのスライムが彼らのターゲットらしい。ノイズメイズ達はスライムを捕獲すべく降下を開始し――
「――――――っ!?
 ノイズメイズ!」

「ぅわっとぉ!?」
 そんな彼らを狙う突然の砲撃――飛来した桃色の閃光を二人はとっさに回避する。
「この砲撃は――」
「アイツか!」
 体勢を立て直す二人の前に現れるのは予想通りの相手――うめき、身がまえる二人の前に、プリムラを装着したなのはが、同じくジンジャーを装着したフェイトと共に飛来する。
「ノイズメイズさん!」
「サウンドウェーブまで……!」
「久しぶりだな、小娘ども!
 ミッドに行っちまったって聞いてたのに、まさか帰ってきてるとはな!」
 声を上げるなのはとフェイトにノイズメイズが答えると、そこへシグナム達が追いついてきて――
《――――――っ!
 みなさん、アレ!》
 気づき、リインが指さしたのは、ノイズメイズ達の狙っていたスライム状の生命体だ。
《あれ、目標の“古代遺物ロストロギア”です!》
「あれが!?」
 リインの言葉に声を上げるのは、地上からビークルモードのマスターコンボイに乗って追いついてきたスバルである。
「ぷにょぷにょスライム……?」
「なんか……ちょっとカワイイかも……」
 上空のノイズメイズ達に怯え、ぷるぷると震えるスライムの姿を前にティアナとキャロがつぶやくのを聞きながら、マスターコンボイはロボットモードにトランスフォームしてノイズメイズ達を見上げ、
「フンッ、何を狙って現れたかと思えば……
 知らんのか? あれはどこぞの好事家が入手した、『ただ“古代遺物ロストロギア”である』というだけのシロモノだぞ」
「知っているさ。
 ――けどな!」
 マスターコンボイに答え――ノイズメイズは突然スライムに向けて発砲した。放たれたエネルギーの渦がスライムを捉え、爆発を巻き起こす。
 だが――
「む、無傷だなんて……!?」
「トランスフォームのビームよ――並の出力じゃなかったはずなのに……!」
 スライムはまったくのノーダメージ――何事もなかったかのように、ただ不安げに身体を揺らすスライムのその姿に、エリオとアスカは思わずうめく。
 と――スライムに異変が起きた。いきなり身体の一部を切り離したかと思うと、切り離された部分が肥大し、本体と寸分違わぬサイズにまで成長する!
「増えた!?」
「ううん、本体はひとつだよ!」
 驚くスバルに答えるのはアスカだ。うなずき、リインが一同に告げる。
《あのスライムは、攻撃を受けると分裂して、ダミーを大量生産してその中に紛れちゃうんです》
「そういうことだ!」
 リインの言葉に言い放ち、ノイズメイズはウィングハルバードをかまえ、
「アレがどんな“古代遺物ロストロギア”か、なんて関係ねぇ――ただ、あの能力はなかなか魅力的なんでな。研究して、有効利用してやろうってワケさ」
「残念だがそうはいかん」
「お前らだけで、あたしら全員止められるとでも思ってんのかよ?」
 ノイズメイズの言葉にシグナムとヴィータが反論、それぞれのデバイスをかまえるが、
「オレ達だって思っちゃいないさ」
 対し、ノイズメイズはあっさりと答えた。彼に代わり、サウンドウェーブが告げる。
「オレ達とて10年前とは違う――それなりに戦力を整えてきているんだ。
 出番だぞ――シャークトロン!」

 その言葉と同時、公園に面した海、その海面の波が突如乱れ始めた。あちこちに渦が生まれ、その中からシャークトロンが次々にその姿を現す!
 しかも数が尋常ではない――岸に沿ってかなりの数が出現。ざっと見た限りでも50体はくだらない。
「あれが報告にあった、ユニクロン軍の新たな量産型か……!」
 うめき、ビッグコンボイはコテージの指揮所に戻ったはやて達ロングアーチへと通信し、
「ロングアーチ、状況は把握しているな!?
 駐留トランスフォーマーは引き続き避難誘導を優先! 出てこられても足手まといだ!
 それから結界だ! ノイズメイズ達のワープ能力を考えれば広域機動戦が予想される! 街全体を覆うデカイのを頼む!」
《了解や!》
 すぐさまはやてが答える――うなずき、ビッグコンボイはなのは達を見渡し、
「チームを二つに分けるぞ!
 フォワードチームで地上のザコを蹴散らして“古代遺物ロストロギア”を確保!
 オレ達は空を抑える! ノイズメイズ達をフォワード陣に近づけるな!」
『了解!』
 返答と同時、なのは達が、そしてスバル達がそれぞれの目標へと動き――
「そういうことだ。
 とっくにいるのはバレてるんだ――さっさと出て来い!」
 そう告げて、ビッグコンボイは振り向きざまに両肩のビッグミサイルを斉射し――ホログラムによって身を隠していたドランクロン、ラートラータ、サウンドブラスターをあぶり出す!
 

 同時刻、国守山山中――
「…………よし、誰もいないな」
 転送魔法の術式の描かれたベルカ式魔法の魔法陣の中から森の中に降り立ち、バリケードは静かに息をつき、つぶやいた。
 そんな彼の後に続く形で降り立つのはブロウルとボーンクラッシャーだ――ただし、二人の転送魔法の魔法陣はバリケードと違いミッドチルダ式のものだ。ディセプティコンの初陣の時はショックフリートがベルカ式の転送魔法を使用していることから見ても、彼らは“魔法”という力を重要視してはいるようだが、術式については特に『ミッドだ』『ベルカだ』というこだわりはないようだ。
 それはともかく、彼らが降り立ったのは森の中でも比較的開けた広場だ。しかもところどころが焼け焦げて、そこかしこに機械の残骸が散らばっている。
「ジェノスクリームの読みは当たったな。
 さすがに昼間に戦闘があったばかりのところに再度別の勢力が現れるとは誰も思っていなかったようだな」
 そう。そこは昼間、マスターコンボイがシャークトロン軍団と交戦した場所――戦場から離れた場に転送することで安全に転送を行い、同時に昼間別の勢力が潜入に失敗したその現場にあえて転送することで、監視の目も同時にくぐり抜けようと言うのだ。
「どうやら戦闘は始まっているようだな……
 作戦はミーティングの通りだ。バトってるところにブロウルの砲撃をぶちかまして、連中が混乱してる間にオレとボーンクラッシャーで機動六課のゴッドマスターをふん捕まえる。
 ノルマはオレ達二人でゴッドマスターひとりずつ――欲張ってとりこぼすのが一番バカらしい、って、これはショックフリートも言ってたな?」
「はっ、やりがいのない任務だぜ。
 2、3発ぶち込んで、目当てのブツをかっさらって逃げるだけかよ」
「オレ達ならあんな連中ヘでもねぇってのによ」
「ボヤくんじゃねぇ。
 今回は“レリック”はからんでねぇんだ。本腰入れるほどのミッションじゃねぇんだ」
 本人達としては思い切り暴れたいらしい。愚痴をこぼすブロウルとボーンクラッシャーをなだめると、バリケードはニヤリと笑みを浮かべ、
「……しかし、だ」
『………………?』
「逆に言えば、“レリック”は無視してゴッドマスターだけを狙えばいい。
 前回は優先順位はあったが、結局“レリック”もゴッドマスターも、両方狙わなきゃならなかった――あのリニアレールのミッションよりは、はるかに楽なモンさ。
 ここで作戦成功させれば、オレ達の立場も上がるってもんだ――今は作戦通り、確実にミッションを達成することを考えようぜ」
 そろって首をかしげるブロウルとボーンクラッシャーに、バリケードは今回の作戦のメリットをそう説明する。
「ブラックアウトとレッケージは前回の作戦の傷が癒えてねぇ。大火力のジェノスクリームと空間戦闘に広いスペースを必要とするショックフリートは市街地戦じゃ力を発揮できねぇ。
 今回のチャンス、逃すワケにはいかないぜ」
「なるほどな……
 なら、さっさとおっ始めようじゃねぇか――まずはオレの砲撃だな?」
 バリケードの言葉にうなずくと、ブロウルは意気揚々と踏み出し――
 

 消えた。
 

 何の前触れもなく、彼らの視界から姿を消したのだ。
「ぶ、ブロウル!?」
 いきなりのことに、バリケードは思わず驚きの声を上げた。
 あわてて周囲をスキャンするが、ブロウルの姿はどこにもない。ブロウルのいた場所には大きな穴がポッカリと口を開けているだけで――
「――って、ちょっと待て!」
 気づけば謎解きはカンタン。要はその穴に落ちたのだ――あわてて駆け寄り、中をのぞき込んだバリケードは、そこに待っていた光景を前に言葉を失った。
 穴の底から伸びていた多数の金属製の錐がブロウルの身体のあちこちを貫いている――息はあるようだが、完全に四肢を大地に縫いとめられている。
 もちろん、こんな縦穴が自然にできるはずがない。何者かが意図的に作ったものだ。
 しかも、トランスフォーマーを落とすことを前提に。錐が頑丈な金属製であるのがその証拠だ。
「くそっ、誰かいやがるのか!?」
 間違いない。何者かが自分達の出現を読んでいた――うろたえながらも身体は動いた。ボーンクラッシャーはすぐに“敵”から身を隠すべく広場の中央を離れ、森に飛び込もうと走る。
 しかし――後数歩というところで、その足が何かを引っ張った。
 地面に落ちいてた“ロープを”引っ掛けたらしい。その正体を確認しようとボーンクラッシャーは足元を見下ろs――
「ぶぎゃっ!?」
 ――そうとした瞬間、その顔面に何かが叩きつけられた。
 すぐ脇の茂みから飛び出してきた、金属製のアームに取り付けられたスパイクボールだ――よほど強力なバネを仕込んであったのか、とてつもない力で振り抜かれたそのトゲ付きアームに殴り飛ばされ、ボーンクラッシャーは広場の反対側の端までブッ飛ばされる。
「お、おいおいおいっ!?」
 身を隠そうとしたとたんに襲いかかってきたトラップ――それはすなわち、出現だけでなく、そこから自分達が取り得る行動までもが読み切られているということだ。見えざる“敵”の恐るべき実力を垣間見て、バリケードは思わず声を上げた。
 だが、うかつに動けばボーンクラッシャーの二の舞だ。足を止めたまま、注意深く周囲を見回し――
「やれやれ……」
 ため息まじりにこめかみを押さえつつ、ひとつの人影が茂みの中から姿を現した。
「出現から2分も経たずに半壊滅状態って……わずか3名の少数潜入、って要素を考えたとしても、もろすぎるだろ、いくら何でも」
「な、何だ、てめぇは!?」
 思わず身がまえるバリケードだったが、その人物はかまわない。迷わず懐に手を突っ込み――つぶれないようにプラスチックの容器に入れていたシュークリームを取り出し、容器から取り出したそれを口の中に放り込む。
 そして、すぐに次のシュークリームを懐から取り出しながらバリケードへと視線を戻し、
へほけど……もぐもぐ……ほっはひうほきほほへははとっさにうごきをとめたか……
 ほひはえふとりあえず……んぐっ……ほはえはばはひゃはいはひいはおまえはバカじゃないらしいな
「…………食うかしゃべるかどっちかにしろ」
「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ……」
「……しゃべれ」
 迷わず“食べる”方を選んでくれた――絶え間なく“シュークリームを取り出す”“容器を開ける”“食べる”“次を……”の無限ループを繰り返す男に対し、バリケードは若干頬を引きつらせながらそう告げる。
「…………んぐっ。
 いやー、ゴメンねー♪ ミッション終了までガマンしとこうと思ってたんだけど、1個食べ始めたらもう止まんなくってさー♪」
「というか……どれだけ入ってんだ、その懐に」
 口の中のシュークリームを飲み込んでそう告げる男に対し、バリケードは苛立ちもあらわにそうツッコむ。
「まぁ、それはそれとして♪
 話を戻すけど、とりあえず、二人撃破で残りはお前ただひとり――トラップだけじゃ全滅はムリだとは最初から思ってたけど、まぁ上出来かな?」
 だが、やはりかまうことなくそう告げて、男は腰の帯に差した朱塗りの木刀に手をかけた。
「正直、スバル達がしこたまセンサーやらサーチャーやらバラまいてくれたからさ――ヘタに“力”を使ってバトると、そっちに引っかかりそうで怖かったんだよね」
 言いながら、木刀をムダのない動きで抜き放ち、男は――
「けど、お前ひとりっつーなら――」
 柾木ジュンイチは、バリケードへと笑顔で告げた。
 

“力”を使わずアイツらにバレず戦えやれそうだ♪」

 

 


 

第15話

Master & Kaiser
〜二人のコンボイ〜

 


 

 

「くらえぇっ!」
「うっせぇんだよ!」
「相変わらずの大声だな、このフォルテシモ野郎!」
 発声回路の限界に挑むかのような大声と共に襲いくるサウンドブラスターに言い返し、彼のビームをかわしたヴィータとビクトリーレオは一気に接近戦に持ち込もうとするが、
「甘い!」
 サウンドブラスターはあっさりと二人の打撃をかいくぐった。ビクトリーレオの背後に回り込み、至近距離からの銃撃で吹っ飛ばす!
「ビクトリーレオ!」
 その光景にスターセイバーが声を上げ――
「余所見をしているヒマがあるのか?」
「――――――っ!?」
 そんな彼にドランクロンが襲いかかった。スターブレードを振るい、ドランクロンの腕から伸びる光刃を間一髪のタイミングで受け止め、
「紫電、一閃!」
 咆哮と共に、シグナムがレヴァンティンの一撃でドランクロンを弾き飛ばす!
 が――
「――――フンッ」
 吹っ飛ぶドランクロンの口元に笑みが浮かんだ。あっさりと体勢を立て直し、シグナム達と再び対峙する。
「どうした?
 貴様らの力はこの程度ではなかったと記憶しているが?」
「言ってくれるな」
 ドランクロンに答え、シグナムは静かにレヴァンティンをかまえ直す。
(紫電一閃は間違いなく完璧に入っていた――にもかかわらずあの程度のダメージ……
 リミッターによって抑えられた出力を完全にはカバーできていないか……)
 胸中で思わずうめくが――すぐに気合を入れ直す。
(……いや、言い訳だな、それは。
 これが恭也ならば、自らの力を発揮しきれないような状況でも必ずや打開策を見出すはずだ)
 脳裏に浮かぶのは魔力を行使できない身で10年前の“GBH戦役”を戦い抜いた夫のこと――レヴァンティンを握る、力みすぎていた手から力を抜き、呼吸を整える。
「この程度のハンデで不覚を取っては、夫に合わせる顔がない。
 ヴォルケンリッター“烈火の将”にして“黒き双剣”高町恭也の妻――シグナム・高町の名にかけて、沈んでもらうぞ、ドランクロン!」
「その覚悟や良し。
 ならばこちらも全力で応じよう!」
 宣言するシグナムにドランクロンが答え――激闘が再開された。
 

「でぇりゃあっ!」
「はぁぁぁぁぁっ!」
 気合と共に渾身の一撃――スバルとエリオの突撃が正面のシャークトロンを1体ずつ粉砕し、
「せー、のっ!」
「このぉっ!」
 そんな二人を死角から狙ったシャークトロンに対してはアスカとティアナがフォローに回った。レッコウの斬撃とクロスミラージュの射撃でまとめて蹴散らしていく。
「こいつら、強さ自体はガジェットとそんなに変わらないわね……
 ま、AMFがない分、だいぶ倒しやすいけど!」
「けど、その分数は多いみたいです!」
 ティアナの言葉にそう答えるのはキャロだ。アスカから随時送られてくるデータに目を通し、
「アスカさんのレッコウで確認されているだけでも、まだ50体以上……!」
「AMFのない分を数でカバーってワケ?
 まったく、うっとうしいわね!」
 舌打ちまじりに、ティアナは新たに1体シャークトロンを撃ち砕く――確かにガジェットよりは容易に倒せるが、この数は正直厄介だ。
「あー、もうっ! どいてよ!」
 前衛のスバル達も、なかなか戦線を突破できないでいる。スバルが殴り倒しても、エリオが、アスカが討ち倒しても、別の固体が穴を埋めてしまってキリがない。
「このままじゃ、“古代遺物ロストロギア”が……!
 アスカさん!」
「大丈夫!
 まだ“古代遺物ロストロギア”の本体は捕まってない――どうも、あちらさんは完全にどれがダミーでどれが本物か、わからなくなってるみたいだね」
 うめくエリオに答えるアスカだが――それでも彼女の表情は固い。
「けど……正直、こっちも時間の問題だよ。
 このままじゃ、あたし達も間違いなく戦いのドサクサで見失っちゃう……!」
 うめき、アスカは前方を――シャークトロンの群れをにらみつけた。
「最低限でも、こいつらの防衛ラインを後半分はえぐりたいんだけど……!」
 そうつぶやくアスカだが、それができるならとっくにしている。
(どうする……?
 “カグツチ”を撃てればいいんだけど……今はまだ“イカヅチ”を“使っていい段階”じゃない……!)
「手持ちのカートリッジで突破に使えそうなのは……“PENETRATE”だけ……!
 “SCREW”を置いてきちゃったのが裏目に出ちゃったか……!」
 自分の“手札”では突破は難しい。打開策を考え、アスカは懸命に思考をめぐらせ――
「この程度の打開策も思いつかんのか、貴様?」
 そう告げ――別の場所でシャークトロンと戦っていたマスターコンボイが彼女のとなりに着地した。
「そんなこと言っても……!」
「簡単なものだ、この程度」
 わからないものはわからないのだと言わんばかりに頬を膨らませるアスカに答えると、マスターコンボイはオメガをかまえ、
「オメガ!」
〈Energy Vortex!〉
 放つのは必殺技に類する魔法の威力セーブ版――振り下ろしたオメガから放ったエネルギーの渦が前方のシャークトロンを次々に粉砕、さらに周辺で難を逃れた別のシャークトロンをその余波で吹き飛ばす!
「……これが答えだ」
 言って、マスターコンボイはアスカへと向き直り、
「できるヤツを使え、できるヤツを。
 貴様、今“自分が突破する”という前提でしか考えてなかっただろ」
「あぅ……」
「今できないのは厳然たる事実だ。今さらどうにかなるか。
 それよりも、今それができるヤツをあてにした方がずっと早い。貴様ができるようになるのは後回しだ」
 気まずそうに視線を泳がせるアスカに告げると、マスターコンボイはスバル達へと視線を移し、
「さぁ、ムダ話はここまでだ。
 スターズFとアスカ・アサギは“古代遺物ロストロギア”を追え。ここはオレとライトニングFで殿しんがりを務める」
「ちょっ、勝手に仕切らないでよ!」
 反論の声を上げたのはティアナだ――さっきまでヒューマンフォームの彼を追い回していた事実もどこへやら、彼に詰め寄り、鋭く言い放つ。
「なんであたし達なの!?
 突っ込ませるなら、突破力のあるエリオがいるライトニングの方が……」
「それだと、スピードのないキャロ・ル・ルシエが置き去りをくらうんだが?
 あっさりとマスターコンボイはそう答えた。
「グズグズしていたら敵はすぐに今開けた穴を埋めてくる――そこを駆け抜けることを考えれば、フォワード、バックス共にそれなりに足の速いスターズが適任だ」
「ぐ………………っ!」
「わかったらさっさと行け。敵が防衛ラインを組み直す前に」
「わ、わかってるわよ!
 スバル、アスカさん!」
「うん!」
「ほーい♪」
 マスターコンボイに言い返すティアナにうなずき、スバルとアスカは彼女と共に“古代遺物ロストロギア”を追う。
 当然、シャークトロン達もそうはさせまいとティアナ達を追い――
「撃ち砕け、オメガ」
〈Hound Shooter!〉
 追撃に回ったシャークトロン、そのすべてに魔力スフィアが襲いかかった。全身をくまなく撃ち抜かれ、瞬く間に物言わぬスクラップへとその姿を変える。
「……オレ達を無視していこうとはいい度胸だ」
 言って、マスターコンボイは傍らのエリオへと視線を落とし、
「エリオ・モンディアル」
「え…………?
 ……あ、はい!」
 これから思い切り戦おうと言う時に声をかけられる、そんな理由があるとすれば心当たりは限られる。最初は戸惑いを見せたものの、エリオはすぐにマスターコンボイの意図を読み取り、笑顔でうなずいてみせた。
 

『ゴッド――オン!』
 その瞬間――エリオの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてエリオの姿を形作り――そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
 同時、マスターコンボイの意識が身体の奥底へともぐり込んだ。代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化したエリオの意識だ。
〈Thunder form!〉
 トランステクターのメインシステムが告げ、マスターメガトロンのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのように金色に変化していく。
 そして――マスターコンボイの手の中で、オメガが握りを長く伸ばし、ランサーモードへとその形を変える。
 大剣から槍へと姿を変えたオメガをかまえ、ひとつとなったエリオとマスターコンボイ、二人が高らかに名乗りを挙げる。
《双つの絆をひとつに重ね!》
「みんなを守って突き進む!」

「《マスターコンボイ――Stand by Ready!》」

 

「よぅし、いくぞ!」
 マスターコンボイとのゴッドオンを遂げ、エリオはシャークトロンの群れへと向き直った。意気揚々とランサーモードのオメガをかまえ――
《――待て」
 それを阻んだのはマスターコンボイだった。リニアレールの時と同じようにエリオを抑えて“表”に出るとキャロへと向き直る。
「兄さん……?」
「『兄』と呼ぶな。全身むずがゆくなる」
 首をかしげるキャロにあっさりと告げると、マスターコンボイは彼女を自らのライドスペースに招き入れる。
「え、えっと……?」
「フリードリヒはコテージに残してきたままだ――今回のお前の役目はブーストが中心になる。
 そんなお前を外に放り出しておく理由があるか?
 それに――」
 キャロに答えると同時、マスターコンボイは背後に向けてオメガを振るった。放たれた魔力の渦がシャークトロンの布陣の一角を吹き飛ばし――
「コソコソ隠れて不意打ちを狙っているヤツもいるようだし、な」
「く…………っ!」
 シャークトロンの群れの中に紛れていたのはユニクロン軍のランページ――マスターコンボイの言葉にうめきながらもあわてて身がまえる。
「よくわかったのぉ、ワシがおるっちゅうことに」
「昔から、不意打ちやだまし討ちは貴様らのお家芸だろうが」
 不敵な笑みと共にランページに答え、マスターコンボイはオメガをかまえ、ゴッドオンしているエリオやライドスペースのキャロに告げる。
「わかっただろ? キャロ・ル・ルシエをライドスペースに退避させた理由が。
 とにかくハデに撃ちまくるコイツが相手では、こっちもハデに立ち回ることになる――外でウロチョロされると正直ジャマだ」
《じ…………っ!?》
「ちょっ、兄さん!?」
「事実を言ったまでだ」
 容赦なく「ジャマ」と言い切ったマスターコンボイに対し、思わずエリオやキャロから声が上がる――あっさりと返すと、マスターコンボイはランページへと向き直り、
「ジャマになるに決まってるだろう。
 ヤツと殺り合うからには――」

 

“巻き込まずに勝つ”のは正直めんどくさいんだ」

 

 

「そこにいられると――」
「ジャマなのよ!」
 一方、こちらは“古代遺物ロストロギア”の追跡に向かったスターズの二人とアスカ――自分達と“古代遺物ロストロギア”の間を阻むシャークトロンを、スバルの拳とティアナの射撃が粉砕する。
「アスカさん!」
「オッケー!」
 これで“射線”はクリア――ティアナに応え、アスカはカートリッジを込めた弾倉をレッコウにセットし、
「レッコウ!」
〈Elment-Install!
 “HOLD”!〉

 ロードするのは試作型の術式カートリッジ――そのままレッコウを振り下ろし、その刃から放たれた藍色の魔力光が鎖を形作り、“古代遺物ロストロギア”のスライムにからみついて動きを封じ込める。
「スバル、今!」
「はい!」
 動きは止めた。後は封印のみ――アスカに応えると、スバルはリボルバーナックルをかまえ――
「――って、ホントにリボルバーナックルでも大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だから! かまわずやっちゃえ!」
 不安なのか確認を取ってくるスバルに、アスカはスライムへとバインドを維持したままそう答えた。それを受けて、スバルは改めてリボルバーナックルをかまえ、
「ロード、カートリッジ!」
 リボルバーナックルに込めていたカートリッジをロード――同時、スバルの足元に封印の術式を込めた魔法陣が姿を現した。
 しかし、その魔法陣はスバルの操るベルカ式ではなくミッドチルダ式――アスカから託され、今この瞬間に使用した“SEAL”の術式カートリッジの術式がミッド式だったためだ。
 そして、スバルはそのままスライムへと突っ込み、
「シーリング――フィスト!」
 拳と共に、スライムへと封印魔法を叩き込む!
 トランスフォーマーのビームを受けても平然としていたスライムだったが、それでも魔法による産物である以上、その影響を受けることは変わらない。バインドによって動きを止められたのがその証拠だ。
 実際、スバルの一撃はスライムへと確実に影響を及ぼしていた。拳を通じて打ち込まれた封印魔法によって全身の魔力を抑えられ、見る見るうちにその動きを弱めていく。
「やった……
 ……ってゆーか、ホントに効いた……」
「当たり前だよ。
 試作品とはいえ、“霞澄ちゃん印”の術式カートリッジなんだから」
 息をつき、つぶやくスバルに対し、アスカはため息まじりにそう答え――
「って、霞澄おばさん!?」
 そのセリフの中に挙がった名前に、スバルは思わず声を上げた。
「アレ、霞澄おばさんのカートリッジだったの!?
 なんでアスカさんが、霞澄おばさんが作ったカートリッジを!?」
「『霞澄さん』って……確か、アンタの“師匠”の母さんの名前も……」
「あー、その辺りの話はまた後でね」
 詰め寄ってくるスバルや口をはさんでくるティアナに応えると、アスカはスライムへと歩み寄り、
「……うーん、結構な威力だったのに、マヒさせるのが精一杯か……さすがは“古代遺物ロストロギア”。
 こりゃ、もう1回くらいぶちかまして完全封印しなきゃダメかn――」
 そこまで告げた瞬間――アスカの身体を強烈な衝撃が襲った真横に跳ね飛ばされ、近くの商店の壁に叩きつけられる!
「アスカさん!?」
「だ、大丈夫……!
 運良く、レッコウ越しにくらったから……!」
 思わず声を上げたスバルに、アスカは身を起こしながら答え――
「手間を省いてくれたようだな。
 一応、礼くらいは言っておこうか」
 ホログラムによるカモフラージュを解除し、姿を見せていなかったユニクロン軍の最後のひとり、エルファオルファがその姿を現した。
 

「フォースチップ、イグニッション!
 ミサイル、バーンじゃあっ!」

 その頃、マスターコンボイ達の戦いはスバル達の殿を務める形で市街地へとその舞台を移していた。手にしたガトリングランチャーにフォースチップをイグニッションし、ランページはミサイルを乱射、そのすべてがマスターコンボイに向けて襲いかかるが、
「その程度!」
 直線機動が中心のエリオでは、この包囲をくぐり抜けるのは荷が重い――“表"に出たマスターコンボイが回避を担当、そのことごとくをかわしていく。
「キャロ・ル・ルシエ!」
「はい、兄さん!」
 すぐさま応え、キャロが威力強化――刃に魔力の通ったオメガを握りしめ、マスターコンボイはランページへと間合いを詰め、
「エリオ・モンディアル!》
《はい!」
 瞬時に“表裏”交代――“表”に出ると同時にオメガを振るい、エリオはランページに一撃を叩き込む!
 その時――
《後ろだ!》
「――――っ!?」
 “裏”に下がったマスターコンボイが警告の声が上がる――とっさに振り向き、エリオは背後に回り込んでいたシャークトロンを斬り捨てる。
《よし、次!》
「は、はい!」
 マスターコンボイの言葉にうなずくエリオだったが、その声はどこか固くて――
「……エリオくん、どうしたの?」
「うん……」
 それを、パートナーであるキャロは敏感に感じ取っていた――問いかけたキャロに対し、エリオはランページをにらみつけたまま息をつき、
「一応、命のない、トランスフォーマーに似てるだけのロボットだってわかってるけど……それでも、やっぱりいい気分じゃないな、って……」
 心も、命も持たない、ガジェットと同じ大量生産のロボットであることはすでに伝え聞いているが――それでも、ガジェットと違って“見た目はトランスフォーマー”なのだ。それを討ち倒すことに対して抵抗感を感じずにはいられないエリオだったが――
《だから何だ?」
 言うなり、マスターコンボイが再び“表"に出てきた。テンションの上がらないエリオに代わってランページのスキをうかがう。
「トランスフォーマーだろうがサルマネの人形だろうが知ったことか――戦場に出てきて敵対する以上、どちらであろうがそれは“敵”だ。
 “敵”として出会ったからには、それが“敵”である以上全力で討ち倒せ――それが相手に対する戦士としての礼だ」
《で、でも……》
「それに」
 思わず反論しかけたエリオの機先を制する形で、マスターコンボイは続けた。
「オレにはお前らがそのことに引け目を感じる理由が理解できん。
 相手を傷つけるのをためらうということは――」
 言いながら素早く後退、左サイドからこちらを狙っていたシャークトロンを薙ぎ払い、
「それはつまり、お前らの中の“優しさ”とやらが正しく働いている証拠だろうが」
「え…………?」
 その言葉に、ライドスペースでそのやり取りを聞いていたキャロは思わず声を上げ――
 

 思い出した。

 

「…………はい?」
 自分の“力”に対する想いを変えたあの日、あの瞬間から数時間前――任務の現場に向かう車内で、運転席でハンドルを握る“彼は”思わず聞き返した。
「……『人を殺したことがあるか』だぁ?
 お前みたいなガキがする質問じゃねぇな」
「す、すいません……」
 “彼”の言葉に、助手席でフリードを抱えるキャロは思わずその身を縮こまらせて、
「その……聞いてると思いますけど……この子達は、今までにも何度も暴走しているんです。
 その度に、いつも誰かを傷つけて……今までは、誰も死なせずにこれましたけど……」
「……“もしもの時”が来るのが、怖いってか」
 “彼”の言葉に、キャロは無言でうなずいた。
 そんな彼女の姿を横目に見ながら、“彼”は軽く息をつき――
「……あるぜ。殺したこと」
 淡々と、そうキャロに事実を告げた。
「そして、たぶんこれからもだ。
 本当にそうするしかない、って言うなら――オレは何人だって殺すし、殺せる。
 それだけの力をオレは持ってるし――それはお前の竜にとっても同じことだ」
「……はい……」
 ハッキリと告げるがゆえに、それが事実だと思い知らされた。“彼”の言葉にキャロは思わず視線を落とした。
 いつかは自分達もそうなってしまうのか――そんな言い知れぬ不安が胸中に巻き起こり――
「…………けど」
 そんなキャロに対し、“彼”はそう前置きし、告げた。
「“その時”が来れば殺しもするが――」
 

「迷いだけは、なくしたくねぇな」
 

「え…………?」
「今でも、殺す前は迷ってる、ってことだよ」
 思わずこちらをみやるキャロに対し、“彼”は笑いながらそう告げた。
「安心しろ。
 そうやって相手を傷つけるのを怖がってるってのは、相手を気遣う“優しさ”が残ってる証拠だ。
 そりゃ、殺んなきゃならない時は殺んなきゃだけど……だからって、“迷わず”っつーのは、オレぁヤだね。
 “優しさ”が残っているうちは、オレ達ゃまだ正常だ。そいつをなくしちまったようなヤツとは仕事をしたくねぇし……」
 そうキャロに告げ――“彼”は一息つき、どこか自嘲気味に告げた。
「そんな自分に、“戻り”たくもねぇしな」
 

 その言葉に――キャロは確信していた。
 この人は自分と同じなんだと。
 自分と同じ、自らの“力”で誰かを傷つけることの怖さを知っている人間なんだと。
 だからこそ、キャロは“彼”に親近感を抱いた。
 その親近感が原因で――数時間後、暴走によって“彼”を傷つけてしまったことフリード達を激しくなじってしまうことになるとも知らずに――

 

(そっか……)
 蘇った記憶をなぞり――キャロはひとり納得した。
 どうして、“元破壊大帝”という経歴を持つマスターコンボイを、自分が“兄”と呼びたくなるほどに受け入れることができたのか――
(兄さんって……“あの人”に似てるんだ。考え方とか……)
 また少し、マスターコンボイのことを理解出来たような気がして、自身でも気づかぬ内にキャロの頬が緩み――
〈マスターコンボイさん!〉
 そんな中、突然はやてからの通信が入った。
〈急いでアスカちゃん達のトコへ!
 3人のトコに、エルファオルファが!〉
「何だと!?」
〈なのはちゃん達にも伝えたんやけど、向こうもノイズメイズ達に足止めされてて……〉
 その言葉に公園の方を見やると、確かに公園の上空では未だ激しく閃光が飛び交っている。ノイズメイズ達のワープを駆使した特殊な機動を前にしては、さすがのなのは達もなかなか主導権を握らせてはもらえないらしい。
〈お願いや、3人のところに急いで!〉
「チッ、世話の焼ける……!」
 舌打ちしながらも身体は動く――勢いよく地を蹴り、スバル達の元へと向かおうとするが、
「そうはさせへんわ!」
 ランページがそれを阻んだ。放たれたミサイルの雨が目の前に降り注ぎ、マスターコンボイは足を止められてしまう。
「お前の相手はワシじゃ!
 何シカトしてヨソ行こうとしとるんじゃ!」
「……ったく、この急いでる時に……!」
 ランページの言葉にうめき、マスターコンボイは彼に向けてオメガをかまえ直す。
《マスターコンボイさん!
 ここはアクセルダッシュかボクのソニックブームで!
 スピードを上げて一気にいけば――》
「いや、それでは背後から狙い撃ちにされる。
 やはり叩いてから行くしかないようだ」
 告げるエリオにも、マスターコンボイはあっさりとそう答え――付け加える。
「この形態はお前が扱うのが筋なのだろうが――もうしばらく“裏”側でガマンしていろ。
 コイツを片付けたら、すぐにでも代わってやる」
「できるもんなら、やってみぃや!」
 マスターコンボイに言い返し、ランページがミサイルを撃ち放った。放たれたミサイルが一斉にマスターコンボイ達へと襲いかかり――!
 

「このぉっ!」
「なんの!」
 咆哮と共に放たれたスバルの拳を、エルファオルファは正面から受けて立った。そのまま受け止めた右腕の一振りでスバルを押し返すが、
「スバル!」
〈Variable Bullet!〉
 ティアナがフォローに回った。放たれた魔力弾が追撃を狙ったエルファオルファの足を止め、
「さっきの――」
〈Slash Bullet!〉
「お返しだよ!」
 アスカもエルファオルファに反撃――先ほどの一撃のお返しとばかりにレッコウを振るい、その軌跡から放たれた魔力の渦が魔力弾の雨となってエルファオルファを直撃する!
「こ、の……小娘どもが!」
 それでも、撃破にはほど遠い――うめき、エルファオルファはビーストモードへとトランスフォーム。ゾウの身体にシャチの頭部と背びれを持つ融合ビーストとなり、スバル達に向けて熱線を吐き放つが、
「何のこれしき!」
〈Slash Burster!〉
 アスカが再びレッコウを振るった。再び放たれた魔力の渦は、今度は砲撃となってエルファオルファの熱線を相殺し、
「クロスファイア――シュート!」
 ティアナの伝家の宝刀、クロスファイアシュートが火を吹いた。砲撃の直後で動きを止めていたエルファオルファへと降り注ぐ。
 見事な連携でエルファオルファを寄せつけない3人だが――状況は決して有利とは言えない。反撃こそ確実に決めているものの、パワーの差が災いして決定打を決められないのだ。
 対するエルファオルファにしても、素早いスバル達を相手に攻撃を当てられない。それぞれが決め手を欠いたまま、両者は再びにらみ合い――
 

 均衡は、唐突に破られた。
 

『――――っ!?』
「何だ――!?」
 兆候を察すると同時、スバル達もエルファオルファも素早く交代。まるでそれを合図にしたかのように、両者の間のビルが轟音と共に崩壊する。
 そして――
「どわはぁっ!?」
 舞い上がる土煙の中、吹っ飛ばされてきたランページが大地に叩きつけられた。
「ランページ!?」
 いきなりの乱入者にエルファオルファが声を上げると、
「大口を叩いておいて、結局はそのザマか……」
 言って、マスターコンボイはエリオをゴッドオンさせたまま、キャロをライドスペースに収めたまま、ランページを追ってその姿を現した。
「ま、マスターコンボイさん!?」
「なんつードハデなことしてくれちゃってるの!?」
「オレのジャマをして、いらつかせたコイツが悪い」
 視線すら合わせることもなく“コイツ”ことランページを指さし、マスターコンボイはあっさりとスバルやアスカにそう答える。
「まー、確かにエリオ・モンディアルやキャロ・ル・ルシエには参考にならんような戦い方をしたような気はするが……それもここまでだ」
 言って、マスターコンボイはロボットモードとなってランページを助け起こすエルファオルファへと向き直り、
「悪いが、オレにもいろいろと思うことがあってな――機動六課のヤツらこいつらを守るのが、今のオレにとって最優先なんだ。
 オレの守る対象者に手を出しておいて――タダですむと思うなよ!」
「ぬかせ!」
 マスターコンボイに言い返し、エルファオルファは彼に対して身がまえる。
「こちらこそ、果たさなければならない使命がある!
 貴様ごときにかかずらっている場合ではないのだ!」
 咆哮し、エルファオルファは再びビーストモードへとトランスフォーム。マスターコンボイに向けて一気に突進する!
《来ます!》
「見ればわかる!」
 エリオに答え、マスターコンボイもまたオメガを振るい――
 

 轟音と共に――

 

 

 刃は虚空を薙いでいた。

 

「な…………っ!?」
 衝撃音は確かに響いた。しかし、その手に一切の手応えが感じられなかった。驚愕に目を見開き――確かに跳ね飛ばされていたエルファオルファが、そんなマスターコンボイの背後に落下した。
「な、何が……!?」
《わ、わからない……》
 ライドスペースでつぶやくキャロにエリオがうめくように答えると、
「……オレ以外のヤツが、ヤツを弾き飛ばしたんだ」
 ただひとり、ある可能性に思い至ったマスターコンボイは憎々しげに声を上げた。
「昼間にもいたな。人が戦っているところに、不可解な横槍を入れてくれたヤツが……!
 性こりもなく、また出たか!」
 うめき、マスターコンボイが振り向き――そんな彼らの頭上を、1機のジェット機が駆け抜ける!
 全体を蒼く染め抜かれた、直線的で無骨なデザインのジェット機だ。
「な、何? アイツ……」
「あの機体は……!?」
 いきなりの乱入者を見上げ、ティアナとアスカがうめき――
「ゴッド、オン!」
「――――――っ!?」
 ジェット機から響いた声に、スバルは思わず目を見開いた。
「トランスフォーム!」
 しかし、声の主はかまわず咆哮。それに伴いジェット機が変形トランスフォームを開始する。
 まず、後方の推進システムが後ろへスライド、左右に分かれ、尾翼類が折りたたまれると爪先が起き上がって人型の両足となり、さらにその根元、腹部全体が180度回転し、機体下部を正面にするように反転する。
 続けて、機体両横、翼の下の冷却システムが変形。後方の排気口がボディから切り離されると内部から拳がせり出し両腕に。両肩となる吸気部は、両サイドのカバーが吸気口を覆うように起き上がり、カバー全体が肩アーマーとなる。
 最後に機首が機体上部、背中側に倒れるとその内部からロボットモードの頭部が現れ、カメラアイに光が宿る。
 背中の翼が上方へと起き上がり、トランスフォームを終えたトランスフォーマーは高らかに名乗りを上げる。

「熱き勇気と絆の力!
 翼に宿して悪を討つ!
 カイザーコンボイ――Stand by Ready!」

「か、カイザー、コンボイ……!?」
《あの人も、ゴッドマスター……!?》
 突如現れ、ゴッドオンからトランスフォーム――姿を現したカイザーコンボイを見上げ、キャロとエリオが呆然とつぶやく。
「一体、何者なの……!?」
 一方で、ティアナもまたカイザーコンボイの正体を測りかねていた――となりでも、アスカが険しい表情でカイザーコンボイを見つめている。
 しかし――
「どうして……!?」
 スバルの驚きは、その場にいる誰のものとも違った。
「…………あの声……!?」
 なぜなら、カイザーコンボイの――正確にはカイザーコンボイにゴッドオンしているゴッドマスターの声に聞き覚えがあったから。
 決して自分が聞き間違うはずのない声――思わずいつもの呼び方を忘れ、“本来の呼び方”と共につぶやく。
「まさか――――」

 

 

 

 

 

「…………お兄ちゃんの、声……!?」


次回予告
 
スバル 「そういえば、イクトさんってどこ行ったんだろ……」
アリシア 「今回出番なかったよねぇ……
 案外、ここまで来る途中で道に迷ってたりして?」
スバル 「ま、まさかぁ! いくらイクトさんでもそんなこと……

 

 ……ありえるね」

アリシア 「でしょ?」
イクト 「ほっとけ!」
スバル 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第16話『ただできることを〜炎の翼と深淵の杖〜』に――」
3人 『ゴッド、オン!』

 

(初版:2008/07/12)