それは、決して忘れられない記憶――

 

 得てして、空戦魔導師には『エリート』というイメージがつきまとう。
 たとえ“魔法”の力をもってしても、空戦魔導師を育てるにはそれ相応の教育環境とそれを維持するための費用、または学ぶ側に類稀なる先天的センスが必要とされるからだ。元来、人は空を飛ぶことができない生き物なのだから、当然と言えば当然なのだが。
 しかし、だからこそ、彼らは危険な任務に就かされることが多く、しかもその任務にしくじった時の風当たりは相当なものとなる。

 そして――ここにも、その弊害に苦しんでいる少女の姿があった。

 

「…………お兄ちゃん……見ててね……」
 墓石に刻まれているのは、自分にとって最愛の兄の名前――決意を新たにしつつ、少女は静かにつぶやいた。
 そして、もう帰ろうと顔を上げた、その時――
「…………ん?」
 ふと、こちらに向けて歩いてくる人影に気づいた。
 一方、向こうもこちらに気づいたようだ。眉をひそめ、彼は目の前で立ち止まり、しばしこちらを観察した後、尋ねてきた。
「えっと……違ってたらすまん。
 ひょっとして……お前、ティアナ・ランスターか……?」
「え…………?
 あたしのこと、知ってるんですか……?」

 それが――ティアナ・ランスターと“彼”の出会いだった。

 

 それは今から、ほんの数年前の出来事――

 

 


 

第17話

ホテル・アグスタ
〜カイザーズ強襲〜

 


 

 

「…………ん……」
 夜中にふと目を覚まし、ティアナはベッドに身を横たえたまま目を瞬かせた。
「今の……“あの日”の夢……?
 久々に見たわね……」
 どこか懐かしげにつぶやくが、夢の内容自体に懐かしさは感じられない。
 ある意味、今の自分を形成する上で大きな転機となった“あの日”のことは、今でもハッキリと思い出せるからだ。懐かしいのはあくまで“夢という形で思い出された”という事象に対してでしかない。
「……あの日……“あの人”に出会ったから、あたしはここにいられる……」
 しかし――
「……けど……」
 その胸中によぎるのは不安――ベッドの上でひざを抱え、ティアナはポツリとつぶやいた。
「あたしは……“この先”に進めるのかな……?」
 上のベッドで眠る相方からは、安らかな寝息しか返ってこなかった。
 

「…………ん?」
 夜中と言っても、24時間体制を敷いている機動六課が完全に機能を停止することはない。まだあちこちにチラホラと明かりの灯っている本部隊舎、その廊下を歩いていたアスカは、窓の外に動くものの姿を感じた。
 マスターコンボイだ――ビークルモードにトランスフォームすると、そのまま走り去っていく。
 その走り去っていく先にあるものを思い浮かべて、アスカは「あぁ」と納得した。
「まったく、毎日毎日、よくやるよねぇ……」
 実は、こうした彼の行動を目にするのはこれが初めてではない――それどころか、事情を問いただし、こうして“黙認”している時点で、もはや“共犯者”と言ってもいいかもしれない。
 あっさりと事情を看破し、納得したアスカはそれ以上彼にかまうことなくアナライズルームに入り――懐から取り出したリモコンで室内の端末を操作し、扉にロックをかけた。
 しかもただのロックではない――扉の外側の在室表示は無人のそれに切り替わり、同時に保安システムの各種セキュリティにもダミーの情報が流される。
 さらに端末のシステム自体も、ログが一切保存されない設定へと切り替わる――徹底した隠蔽処理だが、アスカにとってはどうということはない。
 何しろ、これらの仕掛けはすべて、これから行うことのために“最初から用意されていた”ものだからだ。
 ともあれ、アスカは端末を起動、通信をつなぎ――
〈なんだ、今日の報告はお前か?〉
「いつもいつも、アリシアちゃんにばっかり夜更かしさせてちゃかわいそうだよ。
 寝不足はお肌の大敵なんだから」
 展開されたウィンドウに現れたジュンイチに対し、アスカは肩をすくめてそう答えた。

 

 それから、数日が過ぎ――

「……ほんなら改めて、ここまでの流れと、今日の任務のおさらいや」
 移動中のスプラングの機内で、はやては一同を見回し、そう切り出した。
 乗り合わせているのは、なのは達隊長格を含めた各フォワード分隊――ただし、シグナムとヴィータは現場に先行しているため除外――とリイン、そして、これからはやての行おうとしているミーティングに同席するため、ヒューマンフォームとなって同乗しているマスターコンボイとジャックプライムである。
 ともあれ、はやてはすぐとなり、一同のよく見える位置にウィンドウを展開、これから話題に挙げる人物のデータを表示した。
「これまで謎やった、ガジェットドローンの製作者、及び“レリック”の蒐集者は、現状ではこの男――違法研究で広域指名手配されてる次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティの線を中心に、捜査を進める……
 こっちの捜査はフェイトちゃんとジャックプライムが進めるんやけど……みんなも一応、覚えておいてな」
『はい!』
 スバル達が元気にうなずくのを聞き、リインは彼女達の目の前に舞い降り、
《で、今日これから向かう先はここ――ホテル・アグスタ!
 骨とう美術品オークションの会場警備と人員警護、それが今日のお仕事です!》
「はーい、しつもーん」
 と、不意にアスカが手を挙げた――首をかしげつつ、リインに尋ねる。
「それ、“レリック”がぜんぜんからんでないと思うんだけど?
 ひょっとして、海鳴の時みたいな、教会がらみのムチャブリとか?」
《実は、取引許可の出てる“古代遺物ロストロギア”がいくつも出品されるんです。
 で、その反応を“レリック”と誤認したガジェットが出てきちゃう可能性が高い、とのことで、わたし達が警備に呼ばれたですよ》
「なるほど……」
 アスカが納得すると、アリシアは手にしたA4サイズの紙束をパタパタと振りながら一同に説明する。
「一応、出品する品についてはこうしてリストをもらってる。
 ザッとチェックしてみたけど、そんなに危険性の高いものはないね――もっとも、危険性が高かったら研究所か保管庫行きで、取引許可なんて出ないだろうけどね。
 だから、気をつけないといけないのはさっきリインが言ってたガジェットの誤襲撃と――“裏”の動きだね」
「“裏”?」
 アリシアの言葉にスバルが聞き返すと、
「密輸……ですか?」
 スバルに代わりティアナが口を開いた。うなずき、フェイトが説明を引き継ぐ。
「この手の大型オークションだと、密輸取引の隠れみのになったりもするし――いろいろ、油断は禁物だよ」
「一応、現場には昨夜からシグナム副隊長とヴィータ副隊長、それにスターセイバー、ビクトリーレオ……他にも交通機動班を始め、多数の隊員が張ってくれてる。
 それに、今回は増援としてセイバートロン・サイバトロンからも応援が来てくれるそうや」
「セイバートロン・サイバトロンですか……?」
「ミッドチルダじゃなくて……?」
「ちょうど指揮官研修で派遣されてきてた人がおってな――その人が、今回の話を聞いて名乗り出てくれたらしいんよ。
 ザラックコンボイさんは『会ってからのお楽しみだ』っちゅうて、誰が来るか、までは教えてくれへんかったんやけどな」
 首をかしげるエリオとキャロにはやてが答えると、アリシアが改めて一同に告げた。
「あたし達は建物の中の警備に回るから、前線は副隊長達の指示に従ってね」
『はい!』
 アリシアの言葉に、スバル達フォワード陣は元気にうなずき――
「……マスターコンボイ?」
 ひとりだけ反応がない――ずっと黙り込んでいるマスターコンボイの言葉に、ジャックプライムは首をかしげて声をかけた。
「どしたの?
 なんだか静か――というか、さっきからプレッシャーが尋常じゃないんだけど」
「何でもない」
「いや、『何でもない』って……」
 近寄りがたいほどのプレッシャーをガンガン放っておいて何が『何でもない』というのか――食い下がるジャックプライムに対し、マスターコンボイは息をつき、改めて答えた。
「考え事だ。
 プレッシャーは、ジャマされないためのバリア代わりと思っておけ」
「人を寄せ付けたくないなら、もーちょっと穏便にバリア張ってよ、頼むから」
 マスターコンボイの言葉にジャックプライムがつぶやくと、
「考え事……?」
 今度はスバルが反応した。
「ひょっとして……カイザーコンボイのこと?
 海鳴じゃ、結構言われちゃったし……」
「…………さて、な」
 あっさりと答えるが――プイとそらした視線が図星であることを告げていた。もっとも、あの出張任務以来久々の出動だ。前回の出動であれだけ言われてしまったのだから、気にならないワケがない。当然と言えば当然ではあるのだが。
 ともあれ、コホンと咳払いしてごまかすと、マスターコンボイは視線を動かし、
「だいたい……それを言うなら、“向こう”の方がよほど重症だろうが」
 その言葉に集まった視線の先には、思考の渦に沈むもうひとりの人物――先ほどから、なのはもミーティングなど上の空といった感じで何やら考え込んでいる。
「……なのはちゃん?」
「え――――?
 何? はやてちゃん」
 それでも、一応はこちらに意識を向けていたらしい――はやての言葉に顔を上げるなのはの姿に、アリシアはため息をつき、声をかけた。
「なんか……なのはってば、ここ最近いっつもそうだよね。
 訓練とかで動き回ってる時はちゃんとそっちに集中できてるみたいだけど、いざじっとし始めるとすーぐ余所に思考を持ってかれちゃってさ」
「そ、そうかな……?」
「そーそー」
 アリシアがなのはに答えると、フェイトがふと思い出し、つぶやく。
「そういえば……なのはの“それ”も、海鳴から帰ってきてからなんだよね?」
「何や、なのはちゃんもカイザーコンボイのことが気になるん?」
「そ、そういうことじゃないよ、うん」
 あの出張任務で一番大きな出来事と言えばカイザーコンボイの乱入だから、気になることがあるとすれば多分それだ――そう見当をつけるはやてに対し、なのはは手をパタパタと振って否定する。
(そう……カイザーコンボイのことじゃないから……)
 実際、考え事の正体は別のこと――息をつき、なのはは再び悩みの元へと思いを馳せた。
 

「ひ、非殺傷設定を解除、って……!?」
 教官として六課に誘ったイクトから提示されたその条件に、なのはは思わず声を上げた。
「それは……“相手の命をいとうな”ってことですか……?」
 非殺傷設定の有無――それは管理局の魔導師にとっては重大な問題だ。要確保対象に対する安全を守るための保険を自ら捨てることになるのだから。
 したがって、なのはの表情が険しくなるのも当然なのだが、それに対してイクトは――
「………………?」
 本気で首をかしげてくれた。そのまましばし思考をめぐらせ、
「……ふむ。
 なるほど、さっきの言い方ではそう取られてもやむなし、か……
 すまん、オレの言い方が悪かったようだ」
 ひとりで納得し、うなずいたイクトはなのはに対してそう謝罪した。
「別に、オレも相手の命をないがしろにしろ、と言うつもりはない。
 先の発言も、ちゃんとした意味があってのことだ」
「意味、ですか……?」
 そう聞き返すなのはの言葉に、イクトは息をつき、
「……わかった。
 そういうことなら、条件を変えてやる。
 実際に設定は解除しなくてもいい。その代わり――」
 言って、イクトはなのはの鼻先にピッ、と人さし指を突きつけ、告げた。
「今言った“意味”――オレが『非殺傷設定を解除しろ』と言い出した、その理由をあててみせろ。
 貴様がその意味を正しく理解できたなら、お前らの要望通り六課で教鞭を執ってやる――」
 

(非殺傷設定を解かせる、その意味か……)
 胸中でつぶやき、なのははスプラングの窓の外から見えるミッドチルダの空を見上げた。
(イクトさんは……私に何を伝えたかったんだろう……?)
 答えは――まだ出そうになかった。
 

 その頃、ホテル・アグスタから少し離れた森の中で――
「じゃあ、今日のミッションのおさらいは以上ね」
 テントを張って設営した簡易的な指揮所で、美遊と共にこなた達の前に立つイリヤはそう説明を締めくくった。
 と、次は美遊が前に出てこなた達に告げる。
「前回、カイザーコンボイとして接触したこなたに続いて、今回はかがみ達も六課の前に出て行くことになる。
 今まで断片的にしか管理局の前に姿をさらしてこなかったキミ達“カイザーズ”が、本格的に管理局への介入を開始する――今後を左右する、重要なミッションになる」
 その言葉に、かがみのとなりのつかさが思わず身を縮こまらせて――
「――けど」
 そんな彼女に優しく微笑み、美遊は安心させるように告げた。
「ミッション自体の難度は最近みんながこなしてきたミッションとそう変わらない。
 それに――私は私で役目を割り振られて動けないけど、いざって時はイリヤもフォローに出てもらう手はずになってる。
 いつも通りにやれば大丈夫だから、緊張しないで、思いっきりやってみよう、ね?」
「…………はい!」
 美遊のその励ましに、つかさの顔に笑顔が戻った。うなずき、イリヤはこなた達を見回し、
「それじゃ、これからミッション開始までスタンバってもらうワケだけど……何か質問とかある?」
「はーい♪」
 元気に手を上げたのはこなただ。
「持ってくおやつにバナナは含まれますかー?」
 しかし、彼女の口から出たのはある意味“お約束”のネタだった。かがみにハリセンで張り倒されるこなたの姿に苦笑しつつ、イリヤはそれに応えてやろうと口を開き――
「バナナはスポーツの際の栄養補給にも用いられるほど栄養価の高い食材だよ。
 それに、普通は食後のデザートとして出てくるものだし……『嗜好品』としての意味合いの強い“おやつ”には含まないのが妥当だろうね」
『………………』
 となりの美遊からマヂレスが返された。
 

「ただいまー……」
「戻ったか」
 アナライザーとミドルコマンダーである自分達は中央に配置してもらった方が何かと動きやすい――ヒューマンフォームでホテルの正面の警備についていたマスターコンボイは、戻ってきたアスカにあっさりとそう声をかけた。
 なぜアスカが席を外していたのかというと――
「なのは達は無事会場入りできたか?」
「なんとかね……」
 尋ねるマスターコンボイに答え、アスカは心の底からため息をついて肩を落とし、肩の上や頭の上で、スピードダイヤル以下3体のリアルギアもそれにならう。
「なのはちゃん達、まさかあんな厚化粧で出てくるなんてね……」
 そう。
 ホテルでのオークションの警備ということで、中を守ることになっていたなのは達隊長格はドレス姿に着替え、参加者に紛れて会場入りする手はずになっていたのだが――あのお嬢様方は、こともあろうにバリバリの厚化粧で出てきたのだ。アスカがあわてて4人を控え室に連れ戻し、メイクし直して送り出してくれたおかげで、なんとか事なきを得た、というのがここまでの流れである。
「あの様子じゃ、絶対“こういう場”に慣れてないね、みんな。
 気合入れて化粧しなきゃ、とでも思ったんだろうけど……結果として完全に空回りだよ」
「そういう貴様は慣れているようだな――ずいぶんと落ち着いたものだ」
「あたし?
 んー、慣れてるって言えば慣れてるかな?
 あたし、いわゆる“イイトコ”の生まれだからね、こういう高級ホテルの類にはよく来てたの」
 聞き返すマスターコンボイに答えると、アスカは軽く息をつき、
「それにしても……“また”なのはちゃん達はスバル達と別行動か……」
 つぶやき――アスカは先日の“報告”を行った晩のことを思い出した。
 

「こないだのアリシアちゃんの報告以降にやった訓練の内容は、今送ったデータの通りだよ」
〈……ホイ、確認完了、と……〉
 告げるアスカの言葉に、ジュンイチはデータの中身を確認してうなずいてみせる。
〈……メニューを見た限り、少しじっくりやりすぎな気はするが……まぁ、この程度なら許容範囲だろう。
 訓練成績のデータから見ても、着実にスバル達のレベルも上がってきてるようだし……とりあえず、順調にステップアップしてるようで何よりだ〉
「うん。
 この分なら、みんなのデバイスのリミッター、思ったより早く第一段階を解除できそうだ、って、なのはちゃんも言ってた」
 そう答え――アスカは息をつき、ジュンイチに告げた。
「で、ものは相談なんだけど……」
〈“イカヅチ”の使用許可なら出さねぇぞ〉
 ジュンイチは容赦なくアスカの望みを両断してくれた。
〈海鳴での戦闘のことは、オレも記録に目を通させてもらった。
 確かに、あの状況なら“イカヅチ”の主力砲撃である“カグツチ”を撃てば、突破口を開くのは容易だったはずだ。
 けど――まだあの力を“ヤツら”の目にさらしていい段階じゃない。
 それに、お前がやっちまったらスバル達の経験値にならない――それはお前だってわかってるはすだ〉
「そ、それはそうだけど……」
〈だいたい、“イカヅチ”はまだリミッターの調整が終わってない。今のまま使えば、間違いなく“イカヅチ”の方が持たない。
 そんなワケで、お前にはまだまだ“イカヅチ”は渡せない――すでに母さんにも絶対に渡さないように言い含めてあるからそのつもりで〉
「あぅ……いぢめっ子さんめぇ……」
 肩を落とし、涙ながらにつぶやくアスカの言葉に、ジュンイチはウィンドウの向こうでため息をつき、
〈…………わかった、わかった。
 “イカヅチ”はムリだけど、母さんの話じゃ“イスルギ”がそろそろ仕上がるらしい――調整が済み次第、お前の方に回してもらうようにするから〉
「ホント!?」
〈ホント〉
 瞬時に顔を輝かせたアスカに答え――ジュンイチは不意に話題を切り替えた。
〈まぁ、その辺の話はこのくらいにして、だ……
 六課の様子はどんな感じだ? うまくやれてるか?〉
「………………あ」
 そう尋ねるジュンイチの言葉に、アスカの表情が停止した。数秒の沈黙の後、再起動と同時に頭を抱える。
「……忘れてた……
 “そっち”についても、相談したいって思ってたんだ……!」
〈………………?〉
 ウィンドウの向こうでジュンイチが首をかしげ――アスカは告げた。
「気休めとか、スバルの弁護なんか聞きたくないだろうから……ハッキリ言うね。
 ――マズイ雰囲気だよ、それもすっごく」
〈………………〉
 その言葉に、ジュンイチの表情がマジメなものに変わる――息をつき、アスカは説明を始めた。
「スバル達と隊長組、この間の距離が結構開いちゃってるの。
 まぁ、何人かはしょうがないと思うよ。フェイトちゃんは捜査主任で、シグナムちゃんは交代部隊の隊長さんだし、はやてちゃんは部隊間の調整、アリシアちゃんはラボでの調査結果の確認でしょっちゅういなくなってるし。
 けど……なのはちゃんとヴィータちゃん。この2人は明らかにアウトだよ。なのはちゃんは訓練や出動が終わるとすぐにみんなの次の訓練計画を練りに帰っちゃうし、ヴィータちゃんもはやてちゃんのところにすっ飛んでっちゃうし。
 スバルはなのはちゃんと、フェイトちゃんはキャロちゃんやエリオくんともっと話したがってるんだけど、周りがあんまり接点がないもんだから、気後れしちゃってるフシもあるし……
 結局、接点の多い隊長格って言ったら、ゴッドアイズ副隊長とフォワード要員を兼任してるあたしだけ――アリシアちゃんとも相談して、何度かみんなの接点を増やそうとしたんだけど、なかなかうまくいかなくてね……
 トランスフォーマーのみんなは原則パートナーと一緒だし……結果として、フォワード陣と隊長格のみんな、この二つで完全にグループが別れちゃってる。
 もし、このままなのはちゃん達とスバル達の距離が開いたままだったとしたら……」
 そして――アスカはハッキリとジュンイチに告げた。
「たぶん、近いうちに爆発するよ。
 それも……かなり悪い形で」
〈…………確かに、マズイな、そりゃ……
 六課とカイザーズはオレ達の“計画”の要だ――今六課に空中分解されたら、管理局側の対スカリエッティ戦力が事実上消滅することになる〉
 ため息まじりに頬をかき、ジュンイチはしばし思考をめぐらせ、
〈…………わかった。
 とりあえず、なんとか手は打つから、お前らは状況の悪化だけでも食い止めておいてくれ〉
「『手は打つ』って……」
 なんとなく“イヤな予感”がした――眉をひそめ、アスカはジュンイチに尋ねた。
「もちろん……穏便にすませてくれるよね?」
 しかし、ジュンイチはその言葉にあっさりと答えた。
〈そんなの、ムリに決まってるだろう?〉
 

(ホント、昔っから荒療治至上主義なんだから……)
 そもそも彼が現在推し進めている“計画”そのものが“荒すぎる荒療治”といったシロモノだ。胸中でつぶやき、アスカがため息をつくと、
「アスカ、マスターコンボイ」
「ヴィータ・ハラオウンか。
 何かあったか?」
 かけられた声に振り向き、マスターコンボイは現れたヴィータにそう聞き返す。
「セイバートロン星からの応援、とかいうヤツ、来てねぇか?」
「知るか。
 そもそもオレ達は誰が来ているかすら知らんのだ。そんな状態で探し出せるものか」
 尋ねるヴィータにマスターコンボイが答えた、ちょうどその時――
「オレ達だよ」
 そう答えた声は背後から。マスターコンボイ達が振り向いた、その視線の先にいたのは――
「晶!?」
「よっ、久しぶり♪」
 驚きの声を上げたヴィータに対し笑顔でうなずくのは城島晶――10年前の“GBH戦役”の際の戦友のひとりで、現在はセイバートロン星で“翠屋セイバートロン星1号店”のマネージャーを務めている。
「……なるほど。
 貴様がこの場に現れたということは……」
 晶がここにいるのなら、“応援”というのはおそらく、彼女のパートナートランスフォーマーの“アイツ”だ――だいたいの事情を察したマスターコンボイがつぶやくと、
「そういうこと!
 トランスフォーム!」
 予感的中。言って、ビークルモードのジェット機形態で飛来した“彼”はマスターコンボイやヴィータの前に着地し――
 

「…………誰?」
 

 最初に言っておく。
 ヴィータは別に、ボケたワケでもイヂワルしたワケでもない。
 ただ純粋に、信じられなかった。
 それほどまでに、目の前の“彼”は雰囲気をガラリと変えていたのだ。
 表情は引き締まり、落ち着いたその物腰からは迫力すら感じられる。自分の知る“彼”とはまさに正反対といった感じだ。
 そんな大混乱のヴィータに対し、“彼”ことブリッツクラッカーはため息をつき、
「それは“見違えた”って意味でいいのか? だとしたらうれしいんだけど」
「なっ、なななななっ!?」
 落ち着いた調子で答えるブリッツクラッカーの言葉に、ヴィータは完全に動揺して後ずさりして、
「こっ、こっちのボケに冷静に返しまで……!?
 何だ、何なんだ、この落ち着きっぷりは!?」
「……だってさ。
 言われてるぜ、ブリッツクラッカー」
「ったく……言いたい放題だな」
 ヴィータと晶の言葉に、ブリッツクラッカーは不満そうにため息をつき、
「あのな、ヴィータ……
 セイバートロン所属のオレが、何しにミッドチルダこっちに来てるのか、聞いてないのか?」
「え………………?」
 その言葉に、ヴィータの目がテンになる――苦笑し、アスカは彼女に説明する。
「はやてちゃん、言ってたよ。
 『指揮官研修に来てる子が――』って。
 わざわざミッドに来て、ってことは、魔法戦がらみの研修だろうね」
「そういうことだよ」
 アスカの言葉にニヤリと笑うブリッツクラッカーのその表情は、ヴィータもよく知る“いつもの彼”のものだった。
「オレとしてもきゅうくつでしょうがないんだけど、任務中くらいはキリッとしてないと、いつまで経っても修了できないんだy――」
「と、ゆーワケで、こうしてネコかぶってるワケ。
 普段のコイツはちっとも変わってないから安心していいよ」
「…………晶……!」
 あっさりと付け加えるアスカの言葉に、ブリッツクラッカーは思わず肩を落とす――が、すぐに気を取り直してマスターコンボイへと向き直り、
「それはともかく……お久しぶりです、マスターメガトロン様」
「まったくだ」
 かつての名で呼ばれたことをとがめるのは、この場ではヤボと言うものだろう――ブリッツクラッカーの言葉に、マスターコンボイは軽く肩をすくめてみせる。
「しかし、お前が指揮官研修とは、ずいぶんと偉くなったものだな」
「この10年でいろいろありましてね。死にもの狂いで生き残ってたら、いつの間にか」
 肩をすくめ、ブリッツクラッカーは冗談まじりにそう答える――そんな彼に多くを語るようなことはせず、マスターコンボイは彼に尋ねた。
「で? 今日ここに来ている知り合い連中はコレで全員か?」
「あー、まだいますよ。
 っつっても、なのは達の方の知り合いなんスけどね」
 

「中の警備の方は、さすがに厳重やね……」
「うん……
 これなら、たいていのトラブルには自分達で対応できそうだね」
 オークションの会場となるホールを2階席から見回し、つぶやくはやてになのはがうなずく。
「外は六課の子達が固めてるし、正面入り口には防護シャッター……」
「ここに“レリック”がない以上、ガジェットがここまで来ることもなさそうだしね」
 引き続き警備体制を確認するフェイトに相槌を打ち――ふとステージの方に視線を向けたアリシアは、そこでオークションの打ち合わせをしていたスタッフの中に知った顔があるのに気づいた。
「ひょっとして、あの人……
 ねぇ! そこの緑の髪の人!」
「はい?」
 そんなアリシアの呼びかけに、彼女曰く“緑の髪の人”はこちらへと振り向き――その顔を見たはやてが声を上げた。
「ロッサ!?」
「はやて! アリシアもか!」
 向こうもこちらに気づいたようだ。はやての言葉に、彼女に“ロッサ”と呼ばれた緑の髪の青年――管理局本局査察部の査察官、ヴェロッサ・アコースは笑顔でそう返してくる。
「ロッサも来てたん?」
「あぁ。
 今回のオークションで解説をしてくれる、“彼”の護衛のためにね」
 はやてに答え、ヴェロッサは背後に控えさせていた“彼”を前に出させて――
『え………………?』
 驚きの声は“彼”となのは達、双方から上がった。
 なぜなら、お互いに知った顔だったから――目を丸くして、なのはが“彼”の、“彼”がなのはの名を呼ぶ。
「ユーノくん……?」
「なのは……?」
 

《でも今日は、八神部隊長の守護騎士団、全員集合かぁ……》
「そうね」
 配置の都合上、スターズFの二人は別々の場所で警備にあたることになった――念話で話しかけてくるスバルに、中庭を守るティアナはそう相槌を打ち――ふと思い立ち、スバルに尋ねた。
「そういえば、アンタはけっこう詳しいわよね、八神部隊長とか副隊長達のこと」
《うん……
 直接会ったことはなかったけど、父さんやギン姉、師匠から少し聞いてたから……》
 ティアナにそう答え、スバルは自分の知っている情報を並べ立て始めた。
《八神部隊長の使ってるデバイスが魔導書型で、それの名前が“夜天の書”っていうこと。
 副隊長達とシャマル先生、ザフィーラは、八神部隊長が個人で保有している特別戦力だってこと。
 そして、それぞれのパートナー、ビッグコンボイ副部隊長やスターセイバー、ビクトリーレオ、アトラス、フォートレス教授は全員が全員、セイバートロン・サイバトロンの総司令官経験者ばかりだってこと。
 で、このメンバーにリイン曹長を合わせて11人そろえば、師匠以外の相手には無敵の戦力だ、ってこと……》
「……『師匠以外の』って部分に異常な説得力を感じるわ……」
 はやては思い出すだけでフリーズするし、他の守護騎士達も彼について話を聞こうとすると口を濁してばかり――日頃からジュンイチに対する彼女達の苦手意識の深さを目の当たりにしているだけに、スバルのその言葉にはうなずくしかない。
《ま、八神部隊長達の詳しい出自とか能力の詳細は特秘事項だから、あたしも詳しくは知らないけど……》
「そうね」
 スバルの言葉にうなずき、ティアナは視線を落とし、つぶやいた。
希少技能レアスキル持ちの人はみんなそうよね……」
《…………?
 ティア、何か気になるの?》
「別に、なんでもないわよ。
 そういえば、アンタの師匠もそうだったなー、って思い出しただけ」
《…………ぁ……》
 自分の胸中をよぎった不安をごまかすために何気なく振った話題だったが――スバルにとってはある意味“地雷”な話題であることを忘れていた。スバルの声から元気が消えたことに気づき、ティアナは内心で舌打ちする。
 スバルの話から断片的に聞いただけだが、彼女の師であるジュンイチもまた、自らの“力”やスキルにからんでかなり“重い”過去を背負っているらしく、彼を気遣うスバルはとにかくその話題に触れられることを嫌うのだ。
 彼女が対外的な場ではジュンイチのことを“師匠”と呼んでいるのもそのあたりの事情からきている――直接的にジュンイチの名前を出すことで、興味本位の第三者から彼について根掘り葉掘り聞かれたくないのだそうだ。
「ご、ゴメン……
 アンタにとっては、触れられたくない話題だったわね」
《いいよ、気にしないで。
 特秘事項って言っても、師匠の場合は知ってる人って結構多いし。
 元々家族だった龍牙おじさんや霞澄おばさん、あず姉は当然として、父さんにギン姉、アリシアさん、リンディ提督にレティ提督にクロノ提督……
 八神部隊長にも前に仕事で一緒になった時にバレちゃって、守護騎士のみんなと一緒に説明してもらったらしいし……それに、聖王教会の偉い人も何人か、その時一緒に聞いてるって言ってたっけ》
「……なんか、後半スサマジイ顔ぶれなんだけど」
《ホントだよねー》
 苦笑しつつ、ティアナはスバルの声に元気が戻ったことに安堵する――うわべだけかもしれないが、明らかに元気をなくされているよりはマシというものだ。
《じゃあ、また後でね》
「ん…………」
 スバルの言葉にうなずき、念話を終えたティアナは思わずため息をついた。
「やっぱりすごいわね、“上”の人達は……」
 スバルが絶賛するはやてや守護騎士達――そして彼女達をまとめて相手にしながら、たったひとりで壊滅状態に追い込んだという逸話を持つ柾木ジュンイチ。
 先日海鳴で共闘したイクトに至っては、そのジュンイチですら“自分より強い”と言い切るほどだという――当然のことではあるが、やはり自分達とはレベルが違いすぎる。
 思えば、自分のいるこの機動六課だってそうだ。リミッターがかかっているとはいえ、隊長格全員がオーバーSランク、副隊長も外部協力者であるアスカを除きニアSランク。
 他の隊員達も、前線から管制官に至るまで歴戦の猛者や未来のエリート達ばかり――周囲から「やられ役」だ何だと言われているガスケットやアームバレットだって、詰めが甘いだけでマジメに戦えばなのは達ですら手を焼くほどの実力を持っているのだ。
 フォワード部隊などは特にその傾向が顕著に出ている。10歳にしてすでにBランクを取得しているエリオとレアで強力な竜召喚師のキャロはどちらもフェイトの秘蔵っ子。
 豊富な知識と経験を武器に、常に二手三手先まで余裕を持って読み通すことのできるアスカに、“元破壊大帝”という肩書きに恥じない実力を誇るマスターコンボイ。
 危なっかしくはあっても潜在能力と可能性の塊で、“師匠”つながりで得た豊富な人脈や優しい家族のバックアップもあるスバル――
「……やっぱり、ウチの部隊で凡人はあたしだけか……
 それに……“アイツ”も……」
 思い出されるのは先日の地球での任務――その中で出会った、カイザーコンボイと名乗った謎のトランスフォーマーのことだ。
 技術はそれなりのものが身につき、見事な戦いぶりを見せていた。しかし――それに反してその戦術自体は完全な力押し。あまりにも拙く、粗かった。高い実力に対し、経験や訓練の量が伴っていない証拠だ。
 だが――それでもランページを相手に圧倒的な強さを発揮した。
 まるで、『才能で戦うとはこういうことだ』ということを体現したかのように。
 あんなものを見せられれば、イヤでも“才能の差”というものを痛感せずにはいられない。だが――
「けど……だから何だってのよ」
 だからと言って、あきらめるつもりは毛頭なかった。
「あたしは……立ち止まるワケにはいかないんだ……!
 兄さんのためにも……“あの人”のためにも……!」
 

 「守りにくい」――それが、ホテル・アグスタとその周辺の地図に目を通したマスターコンボイの偽らざる正直な感想であった。
 地形的には建物の周囲は起伏も少なく、非常に開けた場所なのだが、問題は建物と駐車場を除きほぼ全面的に森に囲まれている点だ。陸上戦力の面々にとっては視界が悪いことこの上ない。
 それでも、はやて以下機動六課の面々は可能な限りの人員を動員して警備にあたる――そんなホテル・アグスタを、静かに見つめる者達がいた。
「あそこか?」
「ん…………」
 尋ねる男の問いに、となりに並び立つその少女は小さくうなずいた。
 どちらもフードを目深に被り、その素顔をうかがい知ることはできないが――
「お前の“探し物”はここにはないのだろう?
 何か気になるのか?」
「……ん……」
 少女が再びうなずき――その時、彼女の元に“それ”が飛来した。
 半透明な羽を羽ばたかせた、虫に似た生命体だ――“それ”から伝えられた情報を受け取ると、少女は男に告げた。
「ドクターの“オモチャ”が、近づいてきてるって」
 

 別に、その言葉が合図になったワケではないだろう。

 

 しかし――

 

 その言葉と同時、状況は大きく動いた。

 

「――――――っ!?
 クラールヴィントのセンサーに反応……!?」
 突然異変を伝えてきた自らのデバイスの反応に眉をひそめ――シャマルはすぐに六課隊舎でこちらの状況をモニターしているシャリオ達に確認を取る。
「シャーリー!」
〈はい!
 ……来た来た、来ましたよ!
 ガジェットドローン陸戦T型、機影30、35……!〉
〈陸戦V型、2、3……4!〉
〈対TF、T型が20……25! V型が2!〉
 

「エリオ、キャロ――お前達は上に上がれ。
 ティアナの指揮で、ホテル前に防衛ラインの設置をする」
『はい!』
 状況はすぐに全員に伝えられた――ライトニング分隊を指揮し、ザフィーラと共に地下駐車場の警備についていたシグナムからの指示に、エリオとキャロが力強くうなずく。
 そして、シグナムはザフィーラにも指示を下す。
「ザフィーラはアトラスと合流、我々と共に迎撃に出るぞ」
「心得た」
〈了解〉
 地上の駐車場を抑えていたアトラスと共にうなずくと、ザフィーラはエリオとキャロへと振り向き、
「守りの要はお前達だ。頼んだぞ」
「うん!」
「がんばる!」
 

《前線各員へ。
 状況は広域防御戦――ロングアーチ1の総合管制と併せて、私、シャマルが現場指揮を執ります!》
《スターズ3、了解!》
《ライトニングF、了解!》
《ゴッドアイズ2、了解!》
《ロングアーチF、了解!》
 シャマルからの念話に答えるのはスバルとエリオ、アスカ――便宜上“ロングアーチF”のコールサインを割り振られている交通機動班からはシグナルランサーが返事を返す。
 そして――
「スターズ4、了解!」
 ティアナも動く。クロスミラージュから放った魔力アンカー“アンカーショット”をホテルの壁面に固定、巻き戻す勢いで一気にホテル正面へと跳ぶ。
「ティアちゃん、こっち!」
 ホテル正面には最初からこの場に布陣していたアスカとマスターコンボイの姿――二人のもとに着地すると同時、ティアナはシャマルに向けて叫ぶ。
「シャマル先生! あたしも状況を見たいんです!
 前線のモニター、もらえますか!?」
「こっちにもお願い!
 遠すぎて、今の段階じゃレッコウでのサーチは難しいし、森がジャマしてロングビューもスパイショットも状況を見られないの!」
《了解。
 クロスミラージュとレッコウに直結するわ!》
 ティアナと彼女に便乗したアスカの言葉にシャマルが答え――すぐに、クラールヴィントのとらえたガジェットの映像が展開されたウィンドウに表示された。
 

《シグナム、ヴィータちゃん!》
「わかってる!
 スターズ2、β、ライトニング2、β、出るぞ!」
 こちらを呼ぶシャマルにそう答え、シグナム、ザフィーラと合流したヴィータはホテルから出た。
 外ではすでにそれぞれのパートナーが待機。そして――
〈デバイス、スーパーモード、両ロック解除!
 グラーフアイゼン、レヴァンティン、レベル2起動承認! スターセイバー、アトラス、スーパーモード・トランスフォーム承認!〉
 シャリオから、正式にこちらの戦力の解放許可が下りた。ヴィータとシグナムは顔を見合わせ、同時にうなずくと待機状態の相棒を取り出し、
「グラーフアイゼン!」
「レヴァンティン!」

 咆哮が交錯――瞬時に起動した各々のデバイスを手に、二人は騎士服を装着し、
「来い! Vスター!」
「ダイジェット、ダイパンツァー、出動!」
 スターセイバーとアトラスも動く。それぞれのサポートビークルを召喚、重爆撃機型のVスターとダイジェット、自走砲型のダイパンツァーが彼らの元に駆けつけ、
「スターセイバー、スーパーモード!」
「スーパーモード、ダイアトラス!」
『トランスフォーム!』

 咆哮し、それぞれのサポートビークルと合体、スーパーモードとなる。
 そして――戦闘準備の整った守護騎士達は一斉に飛び立ち、一気に戦場へと飛翔した。
 

「……動いたみたいだね」
「うん……」
 状況は各自のデバイスを通じて随時伝えられてくる――つぶやくフェイトにうなずくと、なのはは念話でユーノ達に呼びかける。
《ユーノくん、アコース査察官。
 主催者さん達はなんて?》
《一応、はやてが状況は伝えてくれたんだけどね……》
《『お客の避難やオークション中止は困るから』ってことで、開始を少し延ばして様子を見るそうだよ》
 なのはの問いに対し、ユーノとヴェロッサがそう答え――ヴェロッサは笑いながら付け加えた。
《まぁ、ボクとしてもヘタに避難させないのは賛成かな?
 パニックの元だし、何より現状で一番安全なのは、伝説のエース達が守るここだからね》
 

「フォーメーションはライトニング2、βがフロント、スターズ2がセンター、スターズβがバックス!」
「大型は私とスターセイバーでツブす。ヴィータは取りこぼしと細かいものを、ビクトリーレオは砲撃支援だ!」
 言いながらも、刃を振るう手は止めない――上空から急襲、対人V型を両断しつつ、シグナムはスターセイバーの指示を補足する。
「任せろ!
 いくぜ、アイゼン!」
〈Jawohl!〉
 そして、それにヴィータが応え、振りかぶられたグラーフアイゼンが魔力で鉄球を多数生成し――
「まとめて――ブチ抜けぇっ!」
 ヴィータがそれを打ち放った。飛翔する鉄球――ヴィータの射撃魔法“シュワルベフリーゲン”はシグナム達の間合いを迂回しようとしていたT型やV型に次々と襲いかかった。AMFをものともせず、その機体を貫いていく。
「いっくぜぇっ!
 フォースチップ、イグニッション!
 ビクトリー、キャノン!」

 続いて、ビクトリーレオも砲撃を開始。パートナーイグニッションではないものの、それでも十分な威力を持った砲撃がガジェット群へと降り注ぎ、蹴散らしていく。
 そして、別の場所では――
「ここから先へは行かせん!」
「通行禁止」
 彼らも忘れてはならない。ザフィーラの“鋼のくびき”が、ダイアトラスの拳と砲撃がガジェット群を迎え撃つ。
 そんな二人に対し、ガジェットは接近戦をあきらめ、距離をとっての包囲戦に移るが――
「真上が――」
「ガラ空きだぜ!」
 言い放ち、上空から飛び込んでくるのは晶をライドスペースに乗せたブリッツクラッカーだ。
『フォースチップ、イグニッション!
 ブリッツ、ヘル!』

 そして、手にした大型ライフル“ブリッツヘル”にフォースチップをイグニッション。放熱システムの展開されたそれから放たれたビームが、AMFもろともガジェットを爆砕する!
 しかし、そんな彼らも、広く戦場を展開されては全体まで手が回らない。難を逃れたガジェットの一団が別の方角からホテルを目指し――
「へっ、待ってたぜ!」
「ここは通さないんだな!」
 そこにはシグナルランサー率いる交通機動班“ロングアーツF”が待ちかまえていた。先陣を切って飛び出したガスケットとアームバレットがビークルモードのまま大ジャンプ。空中でロボットモードへとトランスフォームし、ガジェット群へと襲いかかる。
 頭上から迫り来る二人に対し、ガジェット群は――

 

 かまうことなく、彼らの真下を駆け抜けた。
 

「って、素通りかよぉっ!?」
「だなぁっ!?」
「何やってんだ、お前らぁっ!」
 結果、ものの見事に攻撃のタイミングを外した二人はバランスを崩してそのまま墜落した。顔面から地面に突っ込むガスケット達の姿に、ひとり残されたシグナルランサーは思わず声を上げる。
「な、なんの、まだまだ!」
「これからなんだな!」
 しかし、ガスケット達もこれで終わりではない。すぐに立て直し、自分達をかわしたガジェット達を追いかける。
「ったく、世話の焼ける!」
 一方、シグナルランサーもガジェット群を迎撃すべく自らの槍をかまえ――

 

 その脇を閃光が駆け抜けた。

 

 その光が物理破壊設定の、そして人工的に収束された魔力ビームであることに一瞬遅れて気づく――放たれた閃光はガジェット群の中央に着弾、大爆発を巻き起こす!
 そして、さらに多数のビームが立て続けに飛来、ガジェット群を次々に吹き飛ばしていき――
「んぎゃぁぁぁぁぁっ!?」
「なんでオイラ達までぇっ!?」
 ガスケットとアームバレットが巻き込まれた。空の彼方に吹っ飛ばされ、キラリと輝くお星様となって退場してしまう。
「なんだ――!?」
 こんな荒っぽい攻撃、一体誰が――シグナルランサーが思わず振り向くと、森の中をこちらに向かってくる土煙が見えた。
 巻き起こしているのはタイプ違いの3機の新幹線型ビークル――今の砲撃はやや後方を走る、砲台を連結したE1系新幹線型ビークルの放ったもののようだ。
 そして――シグナルランサーはそのビークルに見覚えがあった。
「あれは……ノイズメイズ達と戦っている一派の!?」
 

「アイツら……!?」
 乱入者の情報は、シャマルによってすぐに各自に伝えられた。知らせを受け、ヴィータは思わずロングアーチFの受け持つ防衛ラインの方へと視線を向ける。
「そーいや、アイツら、ガジェットも目の敵にしてたっけな」
「じゃあ、ここに現れたガジェットを叩きに来たってのか?」
 うめくビクトリーレオにヴィータが聞き返すと、
〈敵増援を確認!
 空戦U型、対人30、対TF12!〉
「向こうも航空戦力のお出ましか……!」
 シャリオから新たな敵の出現が報告された。つぶやき、振り向くシグナムの視線の先で、ガジェットU型の群れが雲のすき間から姿を見せる。
「ビクトリーレオ!
 こちらから打って出ることは避けたい! 狙えるか!?」
「ロングレンジは苦手だが――ま、やってみるさ!」
 スターセイバーに答え、ビクトリーレオは両肩のビクトリーキャノンを迫り来るガジェットU型へと向け――
「――――――っ!?」
 気づいた。直前で離脱したビクトリーレオの眼前を、背後から飛来した閃光が駆け抜けた。ビームはそのままガジェット群へと襲いかかり、その一角を吹き飛ばす!
「くそっ、誰だ、オレごとガジェットを狙いやがったのは!?
 味方も一緒に落とす気か!?」
 なんとか体勢を立て直し、ビクトリーレオがうめくと、
「いや、違う!」
 そう答えたのはヴィータだ。
「今の一発を撃ったのはあたしらじゃねぇ……
 ――アイツだ!」
 その言葉と同時――今のビームの主が彼女達の脇を駆け抜けた。
 青色の大型ジェット機だ。すなわち――
「カイザーコンボイか!」
 

「フフンッ、航空戦力相手なら、私とカイザージェットの出番なのだよ♪」
 こちらのいきなりの乱入に警戒を強めるシグナム達を尻目に、こなたは自らのジェット機型トランステクター“カイザージェット”のコクピットで機嫌よくつぶやいた。
「何しろ、空は私の独壇場――かがみ達は飛べないもんねー♪」
〈うっさいわよ、こなた!〉
「あ、かがみ、聞こえてた?」
〈当たり前でしょ!〉
 ミッションの修正プラン発生に備え、連絡用の回線は常に開けられているのだ。聞かれていて当たり前だ――白々しくとぼけるこなたに対し、ライトライナーに乗るかがみは力いっぱいツッコミを入れる。
〈とにかく!
 『空は独壇場』って言えば聞こえはいいけど、要は“こなたしか空で戦えない”ってことなのよ。
 空でピンチになられても、私達は助けに行けないんだから、油断するんじゃないわよ!〉
「わかってるよ♪
 心配してくれるなんて、かがみんの愛を感じるねー♪」
〈お姉ちゃん、優しいねー♪〉
〈な…………っ!?
 ち、違うわよ! 私が心配なのは、ミッションが失敗しないか、ってことで……!〉
〈あ、あの……ミッション中ですし、そのくらいで……〉
 こなたの、そしてそれに反応したつかさの言葉に、かがみは思わず顔を真っ赤にして反論する――緊張感の失われた3人に対し、みゆきは戸惑いながらもそうたしなめた。

〈んー、みゆきさんにも怒られちゃったし、そろそろマヂモードでいこうか♪〉
「ずっとマヂモードでいなさいよ、まったく……」
 こなたの言葉にそうツッコむと、かがみはライトライナーのコクピットで息をつく。
 そして、表情を引きしめ、一同に告げる。
「それじゃ――いよいよ本番!
 私達の本御披露目、ドハデにいくわよ!」
〈うん!〉
〈はい!〉
〈はーい♪〉
 つかさ、みゆき、こなた――三者三様の返事にかがみがうなずき、
『ゴッド、オン!』
 先陣を切るのはかがみ達地上組だ。同時に叫び、それぞれのトランステクターに融合ゴッドオンし、
「ライトフット!」
「レインジャー!」
「ロードキング!」

『トランスフォーム!』

 一気にロボットモードへとトランスフォーム。ガジェット達の、そしてヴィータ達の前に並び立つ。
 そして――
 

「トランスフォーム!」
 こなたの咆哮が響き、それに伴い、大空を飛翔するジェットが変形トランスフォームを開始する。
 まず、後方の推進システムが後ろへスライド、左右に分かれ、尾翼類が折りたたまれると爪先が起き上がって人型の両足となり、さらにその根元、腹部全体が180度回転し、機体下部を正面にするように反転する。
 続けて、機体両横、翼の下の冷却システムが変形。後方の排気口がボディから切り離されると内部から拳がせり出し両腕に。両肩となる吸気部は、両サイドのカバーが吸気口を覆うように起き上がり、カバー全体が肩アーマーとなる。
 最後に機首が機体上部、背中側に倒れるとその内部からロボットモードの頭部が現れ、カメラアイに光が宿る。
「ゴッド、オン!」
 そして、こなたが再び咆哮。同時にこなたの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてこなたの姿を形作り――そのままカイザージェットの変形したボディと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
 背中の翼が上方へと起き上がり、ゴッドオンを終えたこなたは高らかに名乗りを上げる。
「熱き勇気と絆の力!
 翼に宿して悪を討つ!

 
カイザーコンボイ――Stand by Ready!」


次回予告
 
ブリッツクラッカー 「へへん、どうっスか! このオレの活躍っぷりは!」
マスターコンボイ 「確かに、腕は確実に上がっているな」
はやて 「はぁ……ホンマにねぇ……
 さんざん落とされてみんなのいいいぢられ役やったブリッツクラッカーさんはもうおらへんのやね……」
ブリッツクラッカー 「なんでそこで号泣するかな!?」
アスカ 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第18話『大地穿つ牙〜激震・カタストロフシュート!〜』に――」
3人 『ゴッド、オン!』

 

(初版:2008/07/26)