「…………ん、と……♪」
無機質な壁に囲まれた広大な空間――格納庫か又は倉庫のようなその部屋で、ジュンイチはうず高く積み上げられた機械の山を前に作業を進めていた。
乱暴に積まれたそれは、破壊されたガジェットの残骸――山の一角から引きずり出したそれの中身をチェックし、使える部品があればそれを外し、傍らに置かれた多数のワゴンに分別して放り込んでいく。
「……時間から考えて、そろそろミッションは2ターン目に入った頃か……」
ふと手を止め、思い出すのは今回のミッションのこと――つぶやき、ジュンイチは先日のアスカとのやり取りを思い出す。
(アイツの話が本当なら……“爆発”するのはおそらくティアナだな。
努力家なんだが……アイツの問題は“努力”でどうにかなるもんじゃないからな……
だからこそ、それが焦りにつながる――今頃そーとーストレスため込んでるはずだ)
そうなると――懸念がひとつ。ため息をつき、つぶやく、
「……最悪の場合……」
「離脱者が出るのも覚悟しなくちゃならんかもな……」
第18話
大地穿つ牙
〜激震・カタストロフシュート!〜
「カイザー、コンボイ……!」
ゴッドオンとトランスフォームを完了し、ガジェット達だけでなくシグナム達とも対峙するカイザーコンボイとその仲間達――シャマルから送られてくるその光景を見ながら、ティアナ達と合流したスバルは思わずその名をつぶやいていた。
頭上から映像を見下ろす、ロボットモードのマスターコンボイもまた、厳しい視線を向けていて――
(それにしても……)
その一方で、アスカは胸中でうめき、眉をひそめた。
(ここに“レリック”はない――自動機械のガジェットならともかく、あの子達が気づかないはずがない……
なら、ガジェット達を叩くために現れた……? けど、ガジェット程度ならあたし達の戦力でも十分に押し返せるのはわかるはず。正直、出てくる理由はその辺りからは考えられない……
あー、もうっ、“ボロを出さないため”とはいえ、向こうのミッションプランを教えてもらえないのはじれったいなー、もう……)
胸中でボヤくが――今さら言っても始まらない。自分の仕事を果たすべく思考をめぐらせる。
(他に何か、あの子達が……しかも全員で出てくる理由があるとすれば――)
「――――――っ!?」
瞬間――アスカの脳裏で“ある可能性”が閃いた。あわてて通信回線を開き、シャマルに呼びかける。
「シャマルちゃん! シグナムちゃん達に後退指示! あたし達のところまで下がらせて!
ティアちゃん、あたし達も迎撃準備!
防衛ラインをコンパクトにまとめる――合流してきたシグナムちゃん達と一緒に、ここを狙って集まってくる敵をまとめて迎え撃つよ!」
〈アスカちゃん!?〉
「どうしたんですか?」
シャマルとティアナの疑問に答える形で、アスカは前線をにらみつけながら告げた。
「読み違えるところだった……!
カイザーコンボイ達の目的は、ガジェット達じゃない!」
「今日も、柾木の声か……」
「貴様がボイスチェンジャーを使っていることは、スバルからの報告で把握している。
いいかげん、正体を現したらどうだ?」
「悪いけど、そうはいかないの」
スターセイバーとシグナムに答え、カイザーコンボイはジュンイチの声のままアイギスを起動、右腕に装着する。
「私としては、『正体を隠す必要があるんじゃないか』的なコトを言われた時にノリでこの声を選んだ、ただそれだけなんだけどね……いざ使ってみると、“あの人”が管理局でかなりの有名人なおかげで、ハッタリとかその他いろいろでけっこう便利らしいんだよね。
もうしばらくは、この声のお世話になる予定なんで夜露死苦」
「あの子達の狙いは――」
「それより……どいてくれない?
私達の狙いは、あなた達じゃないんだけど」
「こちらも、すまないがキミの願いは聞き入れられない」
告げるこなたに答え、スターセイバーはスターブレードをかまえる。
「すでに、そちらの攻撃にこちらの仲間が巻き込まれている。
ただガジェット達を倒すだけならば同士とも言えるだろう――だが、そのためにこちらを巻き込むのもやむなしと言うのであれば、残念ながらこちらもキミ達を敵性存在として認識せざるを得ない」
「そっか……
じゃ、仕方ないね」
スターセイバーの言葉に、こなたは静かに身がまえて――
「――このホテルだよ!」
ホテル・アグスタ前でアスカが告げたその言葉と同時、こなたはクルリときびすを返した。ホテルの方へと向き直り、一気に加速、その場を離脱する!
「な…………っ!?」
「へへん、残念でした♪」
いきなりこちらを無視したその動きに、シグナムは思わず目を見開く――そんなシグナムに、こなたはからかうように言い放った。
「言ったでしょー!?
『あなた“達”には用はないって!』」
「――――っ!
ガジェット込みで『達』かよ!」
「そういうこと!
バイバーイ♪」
気づき、うめくビクトリーレオに答えると、こなたは引き続きホテルを目指す。
「まっ、待ちやがれ!」
あわててヴィータが声を上げ、ビクトリーレオと共にこなたの後を追い――
「今のうち!
私達もいくわよ!」
「うん!」
「あ! 待て!」
守護騎士達の布陣の乱れたスキをつき、地上でも動く――ライトフットの言葉にレインジャーがうなずき、彼女達もシグナルランサーを振り切ってホテルを目指す!
一方、先ほどガジェットを感知した謎の少女と連れの男は、少し離れたところから戦いの様子を見つめていた。
と――そんな彼らの前に、突如ウィンドウが展開された。
その画面に現れたのは、次元犯罪者として指名手配中のジェイル・スカリエッティ。そして――
〈ごきげんよう、騎士“ゼスト”、ルーテシア〉
「………………」
告げられたその言葉に、男は少しばかり機嫌を損ねながら、無言でフードを外した。
その下から現れた素顔は――間違いない。かつて首都防衛隊に所属し、ジュンイチとも交友のあった騎士、ゼスト・グランガイツである。
そんな彼がなぜここにいるのか? そしてスカリエッティとはどんなつながりが――
「……ごきげんよう、ドクター」
一方、となりのルーテシアと呼ばれた少女はごく普通に応じた。フードを外し、あいさつを返す彼女の姿に、ゼストもまたスカリエッティに対する嫌悪を抑えて彼と正対する。
「何の用だ」
〈冷たいね、相変わらず。
――っと、それはともかく、近くで状況を見ているんだろう?
あのホテルに“レリック”はなさそうだが、実験材料として興味深い骨とうがひとつあるんだ。
少し協力してはくれないかn――〉
「断る」
ゼストの答えはまさに“即答”だった。
「“レリック”がからまない限り、互いに不可侵を守ると決めたはずだ」
言い放つゼストだったが――スカリエッティはかまわずルーテシアに尋ねた。
〈ルーテシアはどうだい?
頼まれてはくれないかな?〉
「…………いいよ」
渋るゼストとは対照的に、こちらはあっさりと承諾してみせた。
〈優しいなぁ。
ありがとう――今度ぜひ、お茶とお菓子でもおごらせてくれ〉
「……ドクターじゃなくて、ウーノが用意してくれるなら」
〈おや、そうなのかい?〉
「ドクターの紅茶はおいしいけど……ビーカーで出すから」
〈ハハハ、これは手厳しい〉
ルーテシアの言葉に苦笑し、スカリエッティは肩をすくめてみせる。
〈キミのデバイス“アスクレピオス”に、私が欲しいもののデータを送ったよ〉
「うん……
じゃあ、ごきげんよう、ドクター」
〈ごきげんよう。
吉報を待っているよ〉
スカリエッティがそうルーテシアに答え――通信は向こうから切られた。
「……いいのか?」
「うん」
尋ねるゼストに対し、ルーテシアは行動を起こすべくマントを脱ぎながらうなずいた。
「ゼストやアギトはドクターを嫌うけど、わたしはドクターのこと、そんなに嫌いじゃないから」
そして、マントの下に隠れていたゴスロリ調の私服姿となったルーテシアは手に着けたグローブ型のデバイス“アスクレピオス”をかざし――告げる。
――我は請う――
「――――っ!?」
一方、こちらはホテル・アグスタ正面――迫るカイザーズやガジェット群を迎え撃たんとしていたフォワード部隊の中で、キャロはそれを感じ取った。
「どうしたの? キャロ」
「うん……」
尋ねるエリオに、キャロは焦りもあらわに答えた。
「近くで……誰かが召喚を使ってる……!」
〈クラールヴィントのセンサーにも反応!
けど、この魔力反応って……!〉
〈お、大きい……!〉
「キャロの他にも、召喚師がいる……!?」
告げるキャロや、彼女に付け加えるシャマルやシャリオの言葉が事実なら、かなりの規模の召喚が行われている可能性がある――うめくスバルのとなりで虚空をにらみつけ、マスターコンボイはうめいた。
「誰がやってる……!?
カイザーコンボイの仲間か、それとも、ガジェットの裏にいるヤツらか……!」
―― | 小さき者、羽ばたく者 言葉に応え、我が命を果たせ! |
「召喚――インゼクト、ツーク」
詠唱を終えたルーテシアの言葉に応え、彼女の足元に展開された召喚魔法陣から現れたものがあった。
粘液に保護された、多数の小さな卵――すぐにそれらは粘液ごと弾け、昆虫型魔法生物“インゼクト”へと姿を変える。
「ミッション、オブジェクトコントロール。
行ってらっしゃい――気をつけてね」
そう命を下し、ルーテシアはインゼクト群を送り出した――インゼクト達は未だ健在なガジェット群と合流、1機につき1匹、ガジェットと一体化していく。
と――ガジェットの動きが変わった。きれいなフォーメーションを組み、ホテル・アグスタに向けて進撃を再開する!
「――何だ!?」
その変化に最初に気づいたのはヴィータだった。
ホテルを目指すカイザーコンボイ達を追う一方で周囲のガジェットも叩き落としていたのだが――ある時を境に突然ガジェット達の動きが変化を見せたのだ。
こちらの攻撃を的確にかわし、防ぎ、中には反撃してくる個体までいる。これは――
「有人操作に、切り替わった……!?
これが、さっきの召喚師の使った魔法の正体かよ……!」
「――――っ!?
かがみさん、これは……!?」
「動きが、変わった……!?」
ガジェットの変化はカイザーズの面々も――地上を走るかがみ達も気づいていた。ガジェットを迎撃しつつホバー移動でホテルを目指す一方で、かがみはみゆきの呼びかけに声を上げた。
が――すぐにその原因に思い至り、みゆきに尋ねる。
「ねぇ!
これって、前にもらったデータにあった――」
「はい。
極小の召喚虫による、無機物自動操作“シュトーレ・ゲネゲン”――“あの子”の魔法です」
「やっぱり……!」
かつて見たデータの中にあった、紫色の髪の少女の写真を思い出しながら、かがみはみゆきの言葉にうなずいて――
〈みんな、聞こえる!?〉
そこへ、指揮所のイリヤからの通信が入った。
〈ミッションプランの変更よ!
2ターン目終了までは現行プランどおり!
3ターン目からはプランをSラインに移行して!〉
「Sラインって言うと、えっと、えっと……!?」
「Sは“Summoner”のS――召喚師の“あの子”が出てきた場合のプランよ!」
ミッションプランを思い出せず、トランステクターのデータの検索も忘れて混乱するつかさに答えると、かがみは上空でシグナム達と追いかけっこを繰り広げているこなたへと呼びかける。
「そういうことよ!
わかってるわね!?」
「とーぜん!」
かがみの問いに、こなたは笑顔で答える。
「ミッションのことなら、きっちり頭に叩き込んであるよ!
勉強のことは頭に入れなくても、こういうことならお任せだよ!」
「勉強のことも頭に入れなさいよ!」
こなたの言葉にかがみは力いっぱいツッコミを入れ――
「――――あれ?」
背後から向かってきているシグナム達が自分を追うのをやめて離れていくのに気づいた。どうしたのかとこなたは首をかしげ――
「《おぉぉぉぉぉっ!》」
「――ぅわっとぉっ!?」
前方から突っ込んでくるのはスバルとゴッドオンし、ウィンドフォームとなったマスターコンボイだ。ウィングロードの上をレッグダッシャーで駆け抜け、“表”に出ているスバルが放った拳を、こなたはあわててアイギスで受け止める。
シグナム達がこなたの背後から離れたのは彼女の突撃から意識をそらすため――自分達の動きに気づかせて背後に意識を向けさせるのが目的だったのだ。
「ったく、やってくれるね……!」
《こっちも貴様に聞きたいことがあるからな――捕まえるためなら手段は選ばん!
さぁ、答えてもらうぞ!》
「なんでこのホテルを狙うの!?
目的は何!? ガジェットと敵対してたんじゃないの!?」
「『ここのスイートルームで一泊♪』とか答えたら、納得してくれるのかな!?」
マスターコンボイとスバルの問いかけをそう茶化し、こなたは二人を押し返した。体勢を立て直そうとする二人だが、それよりも早くアイギスを一閃。ウィングロードを破壊し、足場を失った二人を蹴り飛ばす!
「くぅ…………っ!」
《パワーは向こうが上か……!
その上空を飛べる分空間戦闘でも上――性能差が恨めしいな、まったく!》
それでもなんとか体勢を立て直して着地し、うめくスバルに対しマスターコンボイがうめき――
「――――――っ!?」
直前で気づいて身をひねり、スバルは背後から飛来した閃光をかわす。
その閃光の主は――
「ガジェット!?
追いついてきたの!?」
《カイザーコンボイめ――最初からヤツらにぶつけるために、ヤツらの進路上に叩き落としてくれたな!》
驚くスバルにマスターコンボイが答えそんなスバル達に、次々に追いついてきたガジェットがビームの雨を降らせてくる!
「――来た!」
見上げるその先に、ついにカイザーコンボイが飛来――スバル達を叩き落とされ、再び襲いかかるシグナム達をこなたが懸命にさばいている光景を見上げながらティアナが声を上げ、
「こっちも来た来た!」
地上からはライトフット達――森の中から飛び出してきたかがみ達3人を前に、アスカはレッコウを手に身がまえる。
「かg――ライトフットさん」
「うん。
機動六課のフォワード部隊……ミッションプランの予測どおり、ホテル正面に防衛ラインを設置してたね……」
トランスフォーマーとしての名で自分を呼ぶみゆきに答えると、かがみは手にしたライトショットの銃口をティアナ達に向けた。
「私達は、別にあなた達と事をかまえるつもりはないわ。
そこをどいてくれるなら、あなた達に危害は加えない」
「そうはいかないわね。
あたし達だって、仕事でここを守ってるんだもの」
告げるかがみの言葉にティアナが答え――
「――待って!」
そんなかがみ――ライトフットの腕を、レインジャーにゴッドオンしたつかさが抑えた。
「ちょっ、どうしたのよ?」
「な、何か変だよ!」
思わず問いただすかがみだったが、つかさの答えは「何か変」というあいまいなもので――
「――――っ!」
一方で、キャロが“それ”を感じ取り、一同に告げる。
「みなさん、気をつけて!
遠隔召喚――来ます!」
その言葉と同時――周囲に多数の召喚魔法陣が現れた。数秒をおき、その中からガジェットが次々に姿を現す!
「召喚って、こんなこともできるの!?」
「優れた召喚師は、転送魔法のエキスパートでもあるんです!」
驚くアスカにキャロが答えると、転送されてきたガジェット群は隊列を整え、こちらと対峙する。
「お、お姉ちゃん……!」
「こいつらも操られてる――六課とモメてる場合じゃないわね……」
不安げに声をかけてくるつかさの言葉に、かがみはそうつぶやいて思考をめぐらせ――
「レインジャー、ロードキング! とりあえずはガジェットの迎撃を優先するわよ!
こいつら、ホテルの中に1機たりとも入れるんじゃないわよ!」
素早く決断し、そう指示を下すと同時に地を蹴り、ライトショットの狙いをガジェット群に向ける。
「あの人達、ホテルを守ろうと……!?」
「自分達も突入しようとしてたんじゃ……!?」
そんなかがみ達の転進ぶりについていけず、エリオとキャロが思わず疑問の声を上げると、
「何でもいいわ。
あたし達も、ガジェットの迎撃、いくわよ!」
クロスミラージュをかまえ、ティアナが二人に指示を下す。
(そう。今までと同じだ――証明すればいい)
そして、胸中で自分自身に言い聞かせつつ、ティアナは足元に魔法陣を展開した。
(自分の能力と勇気を証明して……
あたしはそれで、いつだって、やってきた……!)
「…………?
何……?」
ガジェットの転送は彼女の仕業――しかし、何か気になることでもあったのか、転送を終えたルーテシアはわずかに首をかしげてみせた。
「どうした?」
「失敗」
尋ねるゼストに、ルーテシアは淡々とそう答えた。
「ホテルの中に召喚して、騒ぎを起こすはずだったのに……正面に出た……」
「妨害……ではないな。
もし妨害ならば、召喚自体が不発に終わるはずだ」
「うん……
妨害というより……たぶん、干渉……」
ゼストにうなずき、ルーテシアはホテルの方を見ながらそうつぶやいた。
(召喚座標がずらされた……
まるで……“何かに引き寄せられるみたいに”……?)
しかし、ルーテシアがその原因を追究しようとした矢先、偵察に放っていたインゼクトからの報せが届いた。
「……ドクターの探しもの、見つけた……」
言って、ルーテシアはアスクレピオスをかざし、
「“ガリュー”、ちょっとお願いしていい?
ジャマな子は、インゼクト達が引きつけてくれてる――荷物を確保して。
気をつけて行ってらっしゃい」
その言葉と同時、アスクレピオスから漆黒の球体が現れた。先ほど転送にズレが生じた遠隔召喚は行わず、戦いのドサクサに紛れてホテルへと向かう――
球体が向かったのは、ホテルの地下駐車場だった。物陰にもぐり込むと形を変え、人間程度の大きさの、“昆虫人間”とでも表現できそうな容姿の召喚獣としての姿を現す。
そのまま、先導のインゼクトのとまっているトラックに歩み寄ると、後部コンテナの扉を難なくこじ開け、目的の品を手に取り――
「ちょっといいですか?」
《――――――っ!?》
いきなりかけられた声にあわてて振り向くと、そこには美遊が静かに佇んでいた。
こちらに気配を悟らせることなく背後に回り込んだ――相手の秘めた実力に戦慄しつつも、ガリューは目的の品を小脇に抱え直して戦闘体勢に入り――
《待ってください。
私達は戦うつもりはありません》
《………………?》
待ったをかけたのは、美遊の背後から現れた待機モードのサファイアだ。いきなりの登場に虚を突かれたこともあり、ガリューは首をかしげて動きを止めてしまう。
「サファイアの言う通り。
私達はあなたにも、あなたの主にも危害を加えるつもりはない。その骨とう品も、持っていってもらってかまわない。
けど――このまま“静かに帰られちゃうとちょっと困る”の」
困惑するガリューに告げると、美遊はステッキモードとなったサファイアを手にする――しかし転身はせず、そのままサファイアを振りかぶり、
「だから――騒ぎを起こさせてもらうからね!」
振り下ろされたサファイアから魔力弾をばらまき、周囲の車を爆砕する!
「クロスミラージュ!」
〈Bullet-F!〉
ティアナの指示に答え、クロスミラージュはすぐに魔力弾の設定を切り替える――放たれた弾丸が、ミサイルポッドを追加装備したガジェットT型の攻撃を撃ち落とす。
しかし、まだ攻撃を防いだだけだ。すぐに追撃の魔力弾を放つが、ルーテシアの“シュトーレ・ゲネゲン”によって動きの向上したガジェットには通じない。的確に調整されたAMFによって威力を軽減され、撃墜には至らない。
しかし――
「フォースチップ、イグニッション!
ハウリング、パルサー!」
トランステクターにゴッドオンしていることもあり、かがみはものともしていない。フォースチップをイグニッションしてフルドライブモードへと移行、自分を狙った対TFV型の攻撃をかわして跳躍、そのまま空中から放ったハウリングパルサーがガジェット群を薙ぎ払う!
足を止めてじっくり狙うようなことはせず、移動しながら常に狙いをつけている――ティアナやなのはのような精密射撃型と対を成す、“動きながら狙う”機動射撃型ガンナーの動きである。
そのスタイルから命中精度と射程は精密射撃型のガンナーに比べどうしても劣ってしまう機動射撃型だが、今回のような乱戦はむしろ得意分野だ。素早い動きでガジェットをかき回し、確実に当てられる距離まで一気に詰めて一撃を撃ち込んでいく。
「く…………っ!」
だが――そんなかがみの活躍は、ティアナの心の中に確かな焦りを芽生えさせていた。
スタイルの違いも、人とトランスフォーマーの違いから来る出力差も理解している――しかし、それでも“同じガンナーなのに”という想いを抑えられない。
「負ける――もんですか!」
譲れない意地に突き動かされ、ティアナは正面のガジェットへとクロスミラージュをかまえ――
「ティアナさん!」
キャロの悲鳴と同時、別のガジェットがティアナの背後に回り込む!
ガジェットの魔力砲に光が生まれ――
「ティア、危ない!」
咆哮と共に、ガジェットが殴り飛ばされた。
ものすごい勢いで戦場に飛び込んできたマスターコンボイ――スバルによって。
「スバル!?」
「大丈夫、ティア!?」
声を上げるティアナにスバルが聞き返すと、
「へぇ、意外と早いお帰りだね」
《いけしゃあしゃあと、よくも言う……!》
アイギスの刃で対TFタイプ、U型(大)を貫いたまま告げるこなたに、マスターコンボイはうめくように言い返す。
《さっきははぐらかされたが、貴様の真意、答えてもらうぞ!」
言い放ち、マスターコンボイは“表”に出ながら一歩踏み出し――
「ごはぁっ!?」
《むぎゅっ!?》
レッグダッシャーに足をとられた。背後に倒れそうになり、とっさに踏んばろうとするが、そのせいで今度は前方にバランスを崩し、マスターコンボイはスバルもろとも顔面から地面に突っ込んだ。
「ぅわぁ、痛そ……」
《ま、マスターコンボイさん!
レッグダッシャー使ってる時に“表”に出ないでくださいよぉっ!》
「す、すまん……!」
思わずつぶやくこなたの眼下で、マスターコンボイはスバルに叱られて“裏”側に引っ込む。
そして、スバルはその場に身を起こすと頭上のカイザーコンボイを見上げ、
「と、とりあえず……マスターコンボイさんじゃないけど、あたしもキミには聞かせてもらいたいことがいろいろあるんだよね。
FSAにブレイジングスマッシュ――キミが使うバージョンはクリムゾンブレイクだっけ?
そして、ボイスチェンジャーに使ったサンプルボイス――これだけそろってるんだもん。師匠と関係がないなんて言わせないよ!」
「つまり、私と“あの人”の関係が知りたい、と、そういうワケ?」
スバルのその問いに、こなたがそう聞き返し――
「…………ふむ」
思いついた。カイザーコンボイの“中”でニヤリと笑みを浮かべ、こなたはあえて自分本来の声でスバルに答える。
「そうだなぁ……
わかりやすく言うと――“将来を約束した仲”?」
「え?
……ふぇえぇぇぇぇぇっ!?」
思わずスバルが声を上げ――こなたはそのままたたみかける。
「他には……“運命共同体”?」
「えぇぇぇぇぇっ!?」
「“死ぬ時は一緒と誓い合った間柄”?」
「なぁぁぁぁぁっ?」
「“未来の伴侶”とか?」
「う、ウソだぁ!?」
「うん、ウソ」
「………………」
場の空気がピタリと静止した。
周囲で続く戦闘の爆音が響く中、彼女達の間だけが沈黙に支配され――口を開いたのはスバルだった。
「ウソ……なの?」
「うん、ウソ」
「どこから?」
「『将来を約束した仲?』から」
「全部じゃない!」
「素直に答えてもらえるとでも思ってた?」
こなたがあっさりと答えると、今度はマスターコンボイが尋ねる。
《つまり、それは『答える気はない』ということか?》
「そゆコト。
だから聞かれても答えられないから。ゴメンね♪」
「そんなコト言われたって、納得できるワケないよ!」
こなたの言葉に対し、スバルもまた負けじと言い返す。
「答えて!
どうしてこのホテルを狙うの? 師匠はこのことを知ってるの?」
《やめておけ、スバル・ナカジマ。
ヤツは『答えられない』と言ったはずだ》
問いを重ねようとするスバルに対し、マスターコンボイはそう彼女を制する。
《いずれにせよ、ヤツらがオレ達の戦いに乱入してきた事実は変わらん。
こちらに敵対行動をとった時点で捕縛の口実は成立する――捕らえ、事情聴取でも何でもすれば、貴様の知りたいことはどれもハッキリするだろう?》
「やるしか、ないの……!?」
マスターコンボイの言葉にスバルがうめき――
『《――――――っ!?》』
気づき、双方が離脱――瞬間、彼女達のいた場所にガジェットのビームが降り注ぐ!
「ったく! ジャマだよ!」
すぐさま反撃、こなたはお返しとばかりにアイギスを振るい、飛び込んできたガジェット、対TFU型をカウンターで斬り捨てる。
そしてスバル達も――
「マスターコンボイさん! あたし達も!」
《チ…………ッ!
仕方ない! 先にガジェットを叩く!》
カイザーコンボイのことは気になるが、本来の目的は“ホテルの防衛”だ。スバルの言葉に舌打ちしながらも、マスターコンボイもガジェット迎撃に意識を切り替え、二人は地上の対TF型ガジェットの迎撃に向かう。
「いっけぇっ!」
最初の獲物は正面のV型(大)。気合と共にスバルの放った拳がV型(大)を貫く――
「って、えぇっ!?」
――かと思われた瞬間、V型(大)が触手で拳を受け止めた。スバルが思わず驚きの声を上げ、
《――――っ!
下がれ!》
「は、はいっ!」
直感的に危険を察したマスターコンボイの指示で後退。反撃してきたV型(大)のビームをかわすと再度距離を詰め、
「今度こそ――」
《沈めぇっ!》
魔力を存分に込めた渾身の拳が、AMFや触手の防御をものともせず、今度こそV型(大)を貫き、粉砕する。
「やっと1体……!
マスターコンボイさん、これって……!」
《明らかにヤツらの戦術レベルが上がっている……!
例の召喚師の無機物操作か……!》
うめきながらも、二人はすぐに次の獲物へ――手近な対人ガジェットの群れに対し右腕の“アクセルギア”を高速回転させ、
「リボルバー、シュート!」
ガジェットに向けてリボルバーシュートを放つが――ガジェット群は散開してそれをかわし、逆にこちらへビームの集中砲火を浴びせてくる。
「痛っ! 痛っ! 痛たたたっ!」
《く…………っ!
ガジェットのクセにナマイキな!》
1発1発は大したことはないが、むしろ敵のレベルが上がった方が問題だ――反撃に放ったリボルバーシュートもかわされ、スバルとマスターコンボイはたまらず後退、他のフォワードメンバーと合流する。
「大丈夫ですか!? 兄さん、スバルさん!」
「な、なんとか……」
《痛くはないがうっとぉしい!》
尋ねるキャロにスバルと共に答えると、マスターコンボイは思考をめぐらせ――スバルと“表裏”を交代するとレッグダッシャーを収納してティアナへと向き直り、
「オレンジ頭!
こういう時こそ貴様の射撃だ! まとめて叩き落とせ!」
「一度に全部はムリよ!
どう考えても出力不足!」
ムリを言うなとばかりにマスターコンボイにくってかかるティアナだったが――
「……出力が足りればいけるんだな?」
「え………………?」
対し、マスターコンボイは冷静に聞き返してきた。“売り言葉に買い言葉”な展開を想像していたティアナは思わず動きを止めてしまう。
「どうなんだ?」
「そ、それは……
……できると、思うけど……」
「よし」
マルチロックオンはクロスミラージュがサポートしてくれる。後は出力さえなんとかなれば――そう判断したティアナの答えに、マスターコンボイは満足げにうなずき――
「ゴッドオンすればなんとかなるな」
「………………は?」
何の迷いもなく放たれた一言に、ティアナの目が点になり――
「はいぃぃぃぃぃっ!?」
それはすぐに驚きの悲鳴へと変わった。
「あ、あたしと、マスターコンボイが!?」
「そうだが?」
「心底不思議そうに聞き返さないでよ!」
首をかしげるマスターコンボイに、ティアナは力いっぱい言い返す。
「あたしはゴッドマスターじゃないのよ!
そのあたしが、どうしてゴッドオンなんか――」
「本当にそうか?」
しかし、マスターコンボイはティアナの叫びにそう聞き返した。
「確かめてもいないのに、どうしてそう言い切れる?
まだ覚醒していないだけ、という可能性もある――ならばこの場で覚醒するのもアリなんじゃないのか?」
「そ、それは……」
「スバル・ナカジマ、エリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエ……
フォワードメンバーの中で、3人が次々にゴッドマスターとして覚醒した。それなら、ひょっとしたら自分も……と、どうして考えられない?」
「………………」
マスターコンボイの言葉に、ティアナは思わず視線を落とす。
スバル、エリオ、キャロ――3人の誰に対しても、自分は才能の差を実感させられている。『自分も』などとは考えられるはずもない。
それに――
「だいたい……あなたとゴッドオンだなんて……!」
確執のあるマスターコンボイとのゴッドオン――その事実が、何よりもティアナの足を押しとどめていた。
しかし――
「……なるほど。
所詮貴様は“その程度”だったか」
「………………っ」
そんな彼女に、マスターコンボイは容赦なく言い放った。瞬間的に頭に血が上り、ティアナはマスターコンボイをにらみ返す。
「どういう、意味よ……!」
「イヤな相手とは組めない、ということだろう? 貴様の言ったことを要約すると。
これは任務だぞ。同じチームに組み込まれた以上、仲間と割り切って組むしかないだろう。
気に入った相手としか組めないというなら、それは貴様の弱さであり、甘えだ」
迷いなく言い切り――マスターコンボイは改めて彼女に尋ねた。
「もう一度きくぞ。
貴様は、本当に“その程度”なのか?」
「…………そんなワケ、ないでしょ!」
その問いに、ティアナはハッキリとそう答えた。
「わかったわよ! そこまで言うならやってやるわよ!
あたしに対して『その程度』なんて言ったこと、後悔させてあげるわよ!」
「その意気だ」
ティアナの言葉にうなずくと、マスターコンボイは“裏”側のスバルに呼びかける。
「そういうことだ。
話はまとまったぞ」
《うん!
ゴッド、アウト!》
うなずき、スバルは自らゴッドオンを解除、ティアナのとなりに降り立ち、
「しっかりね、ティア!」
「言われなくても!」
スバルに答え、ティアナは静かに息を整える。
(そうだ――証明するんだ……!
すごい魔力がなくたって……一流の隊長達のいる部隊でだって……どんな危険な戦いだって……!
兄さんから受け継いで……“あの人”が磨き上げてくれた、あたしの――ランスターの弾丸は、ちゃんと敵を撃ち抜けるんだって!)
決意を固め、ティアナはマスターコンボイへと振り向き、
「いくわよ、マスターコンボイ!」
「おぅ!」
『ゴッド――オン!』
その瞬間――ティアナの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてティアナの姿を形作り――そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
同時、マスターコンボイの意識が身体の奥底へともぐり込んだ。代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化したティアナの意識だ。
さらに、マスターメガトロンのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのようにオレンジ色に変化していく。
そして――マスターコンボイの手の中でオメガが変形を開始。両刃の刃、その峰を境に全体が二つに分離すると、刃と共に二つに分かれた握りが倒れて鍔飾りと重なりグリップに変形。二丁拳銃“ツインガンモード”となる。
大剣から銃へと姿を変えたオメガを両手にかまえ、ひとつとなったティアナとマスターコンボイ、二人が高らかに名乗りを挙げる。
《双つの絆をひとつに重ね!》
「信じる夢を貫き通す!」
「《マスターコンボイ――Stand by Ready!》」
「す、すごい……!
身体の中から“力”があふれてくる……
これが、ゴッドオンの力……!」
マスターコンボイとのゴッドオンを果たし、ティアナは自らの中で渦巻く“力”を感じて思わずつぶやく。
だが――
(…………何だ……?)
その“力”に、マスターコンボイは不可解な“何か”を感じていた。
(……これは……何だ…………?
今までと、違う……?)
巻き起こる“力”は今までのゴッドオンと同じ、高められたゴッドマスター自身の魔力――しかし、そこに“同じだが違う”何かを感じるマスターコンボイだったが、
「これなら、いける……!」
《………………っ!
待て、オレンジ頭!》
マスターコンボイがあわてて制止しようとするが、ティアナはかまわずツインガンモードのオメガをかまえた。ガジェットを狙って引き金を引き、放たれた魔力弾がV型(大)をとらえ――AMFも防御も関係なく、粉々に爆砕する!
「とんでもない威力ね……!」
ゴッドオンによって高められた自らの射撃、その威力は思いのほか強力なものだった――うめき、ティアナは別のガジェットを撃ち貫き、
(ヘタに射線を取り損なうと、ホテルにまで被害が……!
けど、それなら取り損なわなきゃいい!)
「みんな、下がって――巻き込まれるわよ!」
そうアスカやエリオ達、スバルに呼びかけると、ティアナは素早く後方に跳躍、ガジェットを狙い、次々に撃ち抜いていく。
そのパワーは確かにすさまじい。対人型はもちろん、対TFV型の強力なAMFすらものともしない。
「な、なんつー火力だ……!?」
「一発一発がなのはのシューター、リミッターなしに匹敵する破壊力だぞ……!」
その光景を上空から見下ろし、つぶやくヴィータとビクトリーレオだったが――
「あれって……!?」
同じくそんなティアナ達を見下ろし、こなたはカイザーコンボイにゴッドオンしたまま眉をひそめた。
「すごい、ティア……!」
「あれなら、ガジェットなんかメじゃないですね!」
すさまじい火力でガジェットを蹴散らすティアナとマスターコンボイの姿に、彼女の指示で後方に下がっていたスバルとエリオがつぶやく。
確かに火力は圧倒的だった。この分なら、彼女だけでも十分にガジェット群を一掃出来るだろう。
しかし――
「…………あれ……?」
そんな中、キャロはふと違和感に気づいた。
「兄さん……」
「ティアさんが戦闘を始めてから、急に黙り込んだような……?」
「あと、数機――!」
圧倒的な火力を前に、ガジェット部隊は壊滅状態――勝利を確信し、ティアナは再びツインガンモードのオメガをかまえ――
「――――――っ!?」
気づき、ティアナは素早くその場を飛びのき、上空から飛び込んできたカイザーコンボイの蹴りを回避する。
「そういえば、アンタ達もいたのよね……」
うめくティアナに対し、こなたはアイギスをかまえ、
「その力、なんかすっごくヤバそうな感じがするんだよね……
悪いけど、止まってもらうよ!」
「く………………っ!」
言い放ち、斬りかかるこなただが、ティアナもまたオメガでそれを受け止める。
元々が剣であるオメガはこなたの斬撃を真っ向から受け止める――が、こなたはすぐに斬撃から蹴りへと切り替えた。自分の剣を止め、動きを止めていたティアナを蹴り飛ばす!
「やって……くれるじゃない!」
それでもなんとか受け身を取り、ティアナは間合いを取って立ち上がると再び斬りかかってきたこなたの刃を受け止め、
「上等よ!
だったら、こっちも本気で応えるまでよ!」
こなたに言い放ち――ティアナはそのままこなたを押し返した。間合いが開くや否や、強烈な魔力弾を次々に撃ち放つ!
「ちょっ、待っ!? 危ないって!」
あわてながらもとっさに反応――こなたは素早く後退して生き残っていたガジェット群を楯にした。ガジェットに着弾すると同時に炸裂した魔力弾が、周囲のガジェットもまとめて巻き込むほどの大爆発を巻き起こす。
「ったく、もうっ!
少しばかり、ムチャクチャやりすぎだよ!」
うめき、こなたはティアナの射撃をかわして突撃。素早く距離を詰めてアイギスを振るう。
対し、ティアナも右のオメガで真上から振り下ろされたその一撃を受け、左のオメガでこなたを狙うが、
「何のそれしきっ!」
こなたは素早く左半身を引いて――ティアナにアイギスを叩きつけた右腕はそのままに身をひねってティアナの射線から逃れた。その勢いで右半身を軸に身をひるがえし、左のヒジ打ちでティアナを至近距離から弾き飛ばす!
「す、すごい……!」
その攻防を前に、エリオは思わず息を呑んだ。
「海鳴でランページを圧倒したカイザーコンボイと、互角に戦ってる……!」
「けど、一発一発がデカすぎだ!」
つぶやくエリオに答え、巻き添えを避けようと後退してきたヴィータは、ビクトリーレオと共に彼らの脇に舞い降りた。
「今のところはうまくカバーできてるけど……あんなの、いつまでも扱いきれるもんじゃねぇ!
もうちょっと加減しろっつーの! 何考えてんだ!」
苛立ちを隠そうともせず、ヴィータは吐き捨てるように声を荒らげて――
「……違うよ」
静かにそう答えたのはアスカだった。つぶやき、カイザーコンボイを狙ってオメガから強力な魔力弾を放ち続けるマスターコンボイ――ティアナを見つめ、告げる。
「そう……ティアちゃんはちゃんと加減してる……」
「おいおい、ちょっと待て……」
アスカの言葉に、彼女の言いたいことに気づいたヴィータの顔から血の気が引いた。
「まさか……“手加減してもあの威力”だってのか?」
「たぶんね」
あっさりとうなずくと、アスカはふと視線を落とし、
「ただ……わからないのは威力よりも、それを実現させている出力の方。
あんなの、いくらマスターコンボイが大型トランスフォーマーだからって出せるもんじゃないよ。
ティアちゃんがゴッドオンしてることを考えても異常すぎる……」
イヤな予感が消えない――不安を打ち消せないまま、つぶやく。
「一体、ティアちゃんとマスターコンボイに何が起きてるの……!?」
「よっ! ほっ! はっ!」
すでにガジェット群は壊滅し、楯にできるものは残っていない――飛来する魔力弾を、こなたは空中で身をひるがえしてかわしていく。
「――そこぉっ!」
しかし、決して撃たれてばかりではない。弾幕の途切れを見逃さずに急降下。一気にティアナに肉迫し、一撃を狙うが、ティアナもまたそれをかわし、両者は地上と空中で再びにらみ合う。
「ったく、何度も何度も空に逃げて……!
うっとうしいのよ!」
うめき、ティアナはオメガを撃ち放つが、やはりマスターコンボイには当たらない。素早い機動でかわされてしまう。
「これじゃジリ貧ね……
マスターコンボイ! 一気に決めた方がいいと思うんだけど!?」
これではキリがない。早い決着を狙うべきかと“裏”側にいるはずのマスターコンボイに呼びかけるティアナだったが――
《………………》
「もう、何さっきから黙り込んでるのよ!?」
当のマスターコンボイからは返事がない――実は文句なり指示なり、さっきから再三に渡って声をかけているのだが、一向に返事が返ってこないのだ。
(何よ……自分からゴッドオンを提案しといて、あたしなんかどうでもいいっての……?)
「……いいわよ。
そっちが答えないなら、あたしもあたしで勝手にやるから!」
そんなマスターコンボイに対し、ティアナは対話をあきらめてオメガをかまえ、“力”を高めていく。
(そうだ……答えてくれないマスターコンボイなんかほっとけばいい。
あたしはいつも通り……今出せる全力で、アイツを叩き落とす!)
「いくわよ!」
「フォースチップ、イグニッション!」
ティアナの咆哮が響き――セイバートロン星のフォースチップが飛来した。そのまま、マスターコンボイのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
それに伴い、マスターコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
そう告げるのはマスターコンボイのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
再び制御OSが告げる中、ティアナはツインガンモードのオメガをかまえ――その正面に魔力弾を作り出す。
しかもただの魔力弾ではない。ティアナやマスターコンボイの魔力とフォースチップの“力”、それらの力が混じりあったそれは、今までのものとは比較にならないほどのサイズにまで巨大化する。
「ちっ、ちょっと待った!
そんなの撃ったら!」
その光景に思わずうめくこなただが――ティアナはかまわず、巨大魔力弾の生成を終える。
《こなた!》
「わかってる!
しのぐには……これしかない!」
念話で声をかけてくるかがみに答え、こなたは空中で身がまえ、
「フォースチップ、イグニッション!」
〈Full drive mode, set up!
Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
彼女もまたフォースチップをイグニッションフルドライブモードへと移行する。
《ちょっ、まさか、クリムゾンブレイクで蹴り飛ばすつもり!?
いくら何でもムチャよ!》
「大丈夫! 安心して!」
声を上げるかがみに答え、こなたは自信タップリに告げる。
「『キャプつば』と『ファンタジスタ』は全巻読んでるから!」
《それで何をどう安心しろと言うか、アンタはぁぁぁぁぁっ!》
かがみの叫びが心配から一転、ツッコミのそれへと変わるが、こなたはかまわずクリムゾンブレイクの体勢に入った。眼前に巨大な炎の鳳凰を生み出す。
そして、ティアナは上空のこなたへとオメガの銃口を向け――
「一発――必倒ぉっ!
カタストロフ、シュート!」
放たれた巨大魔力弾がこなたに向けて撃ち出される!
対し、こなたもまた炎の鳳凰の中に飛び込み――
「紅蓮――蹴撃!
クリムゾン、ブレイク!」
炎を伴って撃ち出されたこなたの蹴りが、ティアナの放った魔力弾と激突する!
しかし――
「……ぐ…………っ!」
出力では明らかにティアナのカタストロフシュートの方が勝っていた。魔力弾のエネルギーが右足を蝕む感触に、こなたは思わず苦悶の声を上げる。
「まさか、ここまでとはね……!
せめて、『リベロの武田』も読んどくべきだったかな……!?」
《だから、そーゆーのでどうにかなるもんじゃないでしょうが!》
すかさずかがみからのツッコミが入る――が、こなたはクリムゾンブレイクの体勢のまま気合を入れ直し、
「ま、心配しなくてもダイジョーブ!
受け止めるのはムリでも――」
言って、こなたは身をひるがえし――カタストロフシュートの魔力弾を足に引っかけて振り回し、
「蹴飛ばす分には無問題!」
勢いを受け流す形で、眼下の森へと“足で”投げ落とした。魔力弾はそのまま森の中へと飛び込んでいき――大爆発を起こし、森の一角を完全に吹き飛ばす!
「す、すごい……!」
「なんて破壊力なのよ……!」
その衝撃はホテル前にも届いた。爆風に耐えながら、キャロやかがみが思わずうめき――
「今のって……!?」
一方で、スバルはまったく別のことに驚き、目を見開いた。
(回し蹴りの動きで足を引っかけて、脚力にモノを言わせて強引に投げ落とす――)
「柾木流・蹴技、“龍星落”……
また、師匠の技を……!」
「ふぅっ、なんとかしのいだね……
非殺傷設定があるからって、その上で炸裂してあの威力……絶対、人に撃っていい出力じゃないデショ……」
もうもうと立ち込める爆煙の中、こなたは息をついて地上のマスターコンボイを見下ろした。
しかし――
「とはいえ……そう何度も止められそうにないね――もう止めたくもないし」
右足にはしびれが走り、眼下には大地を大きくえぐられたカタストロフシュートの爪痕――できることなら二度と相手をしたくない。
「向こうはまだまだヤる気マンマンだし……さて、どうしようかね……?」
眼下でオメガをかまえるティアナの姿に、こなたはため息まじりにつぶやいて――
〈みんな、聞こえる!?〉
そこへ、イリヤから通信が入った。
〈ミッション終了よ。
各自、速やかに帰投して〉
〈え…………?
『終了』って、私達、まだホテルには……〉
イリヤの言葉に、つかさが思わず疑問の声を上げる――そんなつかさにため息をつき、かがみが答える。
〈あのねぇ……確かに私達はホテル突入を目標にここまで突っ込んできたけど……それ、“手段”であって“目的”じゃなかったんじゃない?〉
〈あ、そっか……〉
〈どうやら、別行動をとっていた美遊さんが上手くやってくれたようです。
だから、イリヤさんも帰投命令を出したんじゃないんですか?〉
〈そういうこと♪〉
付け加えるみゆきにイリヤが答え――息をつき、こなたは一同に告げた。
「だったら、かがみ達は先に帰ってて――地上は今の一発でゴチャゴチャだから、上手く離脱できると思うし」
〈って、アンタはどーすんのよ?〉
「こっちは注目あびちゃってるからねー。
てきとーにあさっての方向に逃げて、後で合流するから♪」
かがみにそう答えるなり、こなたはティアナ達に背を向け、ジェット機モードにトランスフォームし、そのまま急加速と共に離脱する。
「逃げた!?」
「逃がすもんですか!」
背後から上がったアスカの声に、ティアナは迷わず一歩を踏み出し――
「――って!?」
突然、そのヒザから力が抜けた。たたらを踏み、その場にヒザをついてしまう。
「ちょっ、ちょっと!?
どうなってるの、これ!?」
「これは……!?」
警備員に案内され、通された地下駐車場で、ヴェロッサは目の前の光景に思わずうめいた。
フロアは全体的にひどいありさまだ――現在は火も消し止められているが、ほとんどの車が爆発、炎上し、フロア全体が焼け焦げている。
「警報装置は、作動しなかったんだね?」
「は、はい……
どうも、配線が切られていたようで……」
「なるほどね……」
警備員のその答えに、ヴェロッサは苦笑まじりに肩をすくめた。視線を動かし、後部コンテナが乱暴にこじ開けられたトラックを見ながら胸中で推理を組み立てる。
(魔法関係の品を運ぶための安全措置を施した専用トラック……
オークションに出る品はすべて専用の金庫に運び込まれている。出品の品とは考えられない――密輸品を持ち込んでいて、それが奪われた、というところだろうね)
そこまではいい――釈然としないのはそこからだ。
(だが――その後に何かがあった……
警報装置を黙らせたのは、おそらく強奪者かその支援者だろう。だからこそ、強奪者は遠慮なくコンテナをこじ開けられた……
だが、そのまま去ればよかったはず。こんな破壊を行っても騒ぎを起こすだけで、彼らにとっては何の利益もない。
この破壊は第三者によるものだと考えていい……)
真っ先に考えられるのはその“第三者”との戦闘だが――
(けど……戦闘があったにしては、それらしい形跡がサッパリだ。車だけ破壊してそれで終わり、といったような……
それこそ、まるで騒ぎを起こすだけが目的だったような……でなければ、行動がちぐはぐ過ぎる)
そこまで考え――ふと気づく。
(『行動がちぐはぐ』と言えば……ホテルの外のカイザーコンボイの一味も、こっちに仕掛けてきたと思ったらホテルを守ってる……行動に一貫性がまるでない。
ひょっとしたら……)
「……なるほど。
どこの誰か知らないけど……やってくれるね」
「……うん。ガリュー、ミッション・クリア……いい子だよ。
じゃあ、そのままドクターのところに届けてあげて」
どうやら、ガリューは無事に任務を果たしたようだ――情報を受け取り、ルーテシアはそう告げてやり取りを終えた。
「……品物は、何だったんだ?」
「わかんない。
オークションに出す品物じゃなくて、密輸品みたいだけど……」
尋ねるゼストにそう答え――ルーテシアは付け加えた。
「あと、途中で変なジャマが入った、って……」
「ジャマ……?」
「女の魔導師。
周りの車を破壊して、騒ぎだけ起こして消えちゃったって……」
「女、か……
なら、ジュンイチではないか……」
息をついてつぶやき――ゼストは、ルーテシアが自分をじっと見つめているのに気づいた。
「……どうした?」
「そのジュンイチって人のこと」
尋ねるゼストに、ルーテシアは静かに答えた。
「ゼストは知り合いみたいだけど……わたしはあの人のことは知らない。
どうして、わたし達を追いかけているのかも……ドクターのことも追いかけてるみたいだけど、それとは、ちょっと違う気がする。
けど……」
そして――ルーテシアは空を見上げ、つぶやくようにゼストに告げた。
「わたしは、あの人のことを、もっと、ずっと前から、知ってる気がする……」
「ち、ちょっと、マスターコンボイ!
返事くらいしなさいよ!」
突然の脱力感は一瞬――すぐに立ち上がり、ティアナは“裏”側のマスターコンボイに向けて呼びかけた。
今の脱力はあまりにも不自然だった。自分の感じる限り異常は見えないから、何かあるとすればマスターコンボイなのだが……
「マスターコンボイ! どうしたのよ!?」
思えば、ゴッドオンしてすぐは彼も口を閉ざしてはいなかったが、いざ戦闘が始まってからは一切彼の声を聞いていない。状況が読めず、ティアナはなおも呼びかける。
と――
《うる、さい……な……!》
「……っと、ようやく答えたわね」
やっと反応が返ってきた――マスターコンボイのその声に、ティアナは息をついてそう答える。
「ったく、何してんのよ?
ずいぶんダルそうだけど、まさか寝てたとか言わないでしょうね?」
《バカを言うな……!
それより……戦闘が終わったなら、さっさと出て行け……!》
答えると同時――マスターコンボイは“裏”側からゴッドアウトを強制発動。ティアナを外に放り出した。
「って、何よ、いきなり――!」
いきなり放り出され、ティアナは思わず声を上げ――次の瞬間、動きを止めた。
目の前で――
マスターコンボイが身体の各所から火を吹き、崩れ落ちるのを目にして。
「…………え……?」
一瞬、何が起きたかわからなかった。
事態に思考が追いつかず、呆然とその光景を見つめるしかなくて――
「ま、マスターコンボイさん!?」
「兄さん!?」
「大丈夫ですか!?」
倒れたマスターコンボイにあわてて駆け寄るスバル達の声に、ティアナはようやく現実へと引き戻された。
「な、何よ……
どうしたってのよ……!?」
しかし、それでも目の前の状況が理解できない。
「なんで、アンタがそんなになってるのよ……
いつもの元気はどうしたのよ……」
呆然と歩を進め、ティアナはマスターコンボイへと力なく呼びかける。
「いつもみたいに偉そうにしてなさいよ……!
ナマイキな態度で、ふんぞり返っていなさいよ……!」
「答えなさいよ、マスターコンボイ!」
その叫びに、マスターコンボイが答えることはなかった。
スバル | 「マスターコンボイさん、どうしちゃったんだろ……?」 |
アスカ | 「考えられる仮説はいくつかあるね……
どれだと思う?」 |
スバル | 「うーん……3番!」 |
マスターコンボイ | 「貴様らオレを何だと思ってる!?」 |
アスカ | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第19話『それぞれの“過去”〜こだわる“理由”〜』に――」 |
3人 | 『ゴッド、オン!』 |
(初版:2008/08/02)