「えっと……とりあえず、ジェットガンナーが大規模な作業、作戦を効率化するための大型デバイスとして開発された……っていうのは、本人から聞いてるわね?」
 例の“騒動”から一夜が明けて――機動六課の主要メンバーを指令室に集め、霞澄は開口一番そう切り出した。
 彼女の傍らには、ティアナのパートナーとなったジェットガンナーが控えている。これから霞澄が彼のシステムについての説明をしようというのだ。
「ただ……ジェットガンナーの場合は、ちょっと事情が特殊でね。
 何が特殊かっていうと……“ゴッドマスターによる運用を前提にしてる”って点」
「ゴッドマスターに……?
 じゃあ……」
「うん。
 最終的には、はやてちゃんに正式に要請して、スバル達にもモニターになってもらおうと思ってたの。
 まぁ、今回みたいなことが起きちゃったから、ジェットガンナーは前倒しの投入になっちゃったけどね」
 つぶやくはやてにうなずき、霞澄はそう告げた上で話を続ける。
「で、ティアナちゃんやスバル達はゴッドオンすればトランステクター、つまりマスターコンボイと一心同体。だから、ジェットガンナーはゴッドオンした状態での運用も視野に入れなくちゃならない。
 そのために考えられたシステムが……」
「ゴッドリンク、か……」
「正解♪」
 つぶやくスターセイバーに、霞澄はポンと手を叩いてうなずいてみせる。
「“ゴッド”オンした状態で行われる“リンク”アップ――だからゴッドリンク。
 ゴッドマスターが生身の時とゴッドオンしている時――ジェットガンナーの形態を、単体運用時と装備しての運用時で分けることで、両方の状態に応じた特性を与えている、ってワケ」
「それぞれに応じた特性……
 ゴッドオンしていない状態では航空支援、ゴッドリンク時はティアナの魔力に対する容量確保、ですか?」
「空戦型のジェットガンナーが合体したんだから、てっきり空戦対応になると思ったんだけどね〜」
「う〜ん、私もそれは考えてたんだよね」
 確認するグリフィスやつぶやくアルトに答え、霞澄は苦笑まじりに肩をすくめ、
「確かに、元々ジェットガンナーのゴッドリンクは空戦を念頭において開発してたの。
 コレ見て」
 言って、霞澄が指令室のメインモニターに表示したのは、ガンナーコンボイのイメージCG――ではなかった。
《コレ、ガンナーコンボイさんですか?》
「うぅん、違う……
 見て。ジェットガンナーの両足が分離しとらへん……あくまでビークルモードのまま、マスターコンボイに合体しとる」
 つぶやくリインに答えるはやてに、霞澄は無言でうなずいて肯定を示した。
「これがジェットガンナーのゴッドリンクの草案。名付けて“ジェットコンボイ”。
 空戦能力を与えて、素早く狙撃ポイントを確保して、火力のなさを精密さで補うシャープシュート――そういう運用を考えてたの。
 ただ……」
「ティアのアースフォームのオーバーヒート対策のために、その方針を転換しなくちゃいけなくなった……でしょ?」
 口をはさむアリシアの言葉に、霞澄は思わず苦笑する。
「今アリシアちゃんの言ったとおり、草案どおりのシステムじゃ、アースフォームと同様にオーバーヒートの危険があったの。
 それを回避するため、ジェットガンナーにはティアナちゃんの生み出す膨大な魔力を受け止める受け皿、そしてその魔力を存分に解き放つことのできる頑丈な蛇口としての能力を与えて――その結果として、空戦能力が犠牲になっちゃった、と」
「はーい、しつもーん」
 と、不意にスバルが手を挙げた。
「霞澄おばさん、ひとつ聞きたいんだけど……」
 しかし――その言葉を聴いたとたん、霞澄はいきなり口をとがらせた。そのまま不満そうにプイとそっぽを向いてしまう。
「あ、あれ? 霞澄おばさん?」
「つ〜ん」
「霞澄おばさんってば?」
「つつ〜ん」
「…………“霞澄ちゃん”」
「何ナニ? どうしたの、スバル?」
((こ、子供だ、この人……))
 望む呼び方をされたとたんに態度を一変、満面の笑みで応じる霞澄の姿に、初対面の面々が、そしてすでに面識のあるメンバーも改めて心の中でうめく――ともあれ、反応してもらえたスバルは自らの疑問を口にした。
「さっき、『“あたし達”にもモニターをやってもらおうと思ってた』って言ってたよね?
 ってことは……いるんだよね? ジェットガンナーと同じ、トランスデバイスの試作機の子達って」
「うん、いるよー。
 ジェットガンナーの形式番号は“GLX-04”。すなわち『God Link, X(“試作機”の意)-type』の4番機。
 当然、1〜3番機の子達もロールアウト済み。もうAIの中期教育まで済ませて、それぞれ最終教育のために研修に出てる」
「え、えっと……
 “中期教育”とか“最終教育”っていうのは……?」
《基本的に、AIを一から育てる場合、その教育は3段階に分かれるんだよ》
 首をかしげるキャロに答えるのは実体化したプリムラだ。
《まず、外部との対話能力を養いながら、知識としての常識と倫理観を学習する“初期教育”。私達が“ロボット三原則”なしでも問題なく活動できるのは、その段階がしっかりしてるからこそなんだよ。
 で、次にケーススタディ形式で判断力を養う“中期教育”を経て、実際に社会に出て経験を積む“最終教育”に至る、と……》
「次元犯罪者が犯行目的にAIを育てる場合も、意外にこの三段階はきちんと守ってたるもするんよ」
「特にロボット三原則な。敵には容赦はいらねぇが、味方には絶対に手ぇ出すな――そんな感じにてってー的に教育しやがる。
 その辺おろそかにして、相手もろとも自分もズドン、じゃシャレんなんねぇからな」
「そうなんだ……」
 付け加えるはやてやヴィータの言葉にキャロが納得すると、霞澄はスバルへと向き直り、
「で……さっきみたいなこと聞くってことは……やっぱり気になる? 自分のトランスデバイスが」
「あ、いや……それもあるけど……」
 そう答えると、スバルはジェットガンナーへと視線を向け、
「それなら、他の子達に頼んでもよかったんじゃ……?
 わざわざジェットガンナーの飛行能力をツブして、教育段階を繰り上げてまで……」
「あぁ、そういうことか。
 確かにスバルの言うことももっともだけど……今回のことは、ホテル・アグスタでのオーバーヒートがあってから、急に決まったことだったからね。
 だから、すでに覚醒していたスバル達用にボディが仕上げられていた1〜3番機をいじり直すよりも、当時まだティアナちゃんが“4人目”だって判明してなくて、パートナーに合わせた仕様を決められずにいたジェットガンナーに手をつける――時間短縮のためにも、その方がよっぽど早く仕上げることができる、って結論に至ったワケ。
 実際、合体後のシステムの割り振りの変更や魔力を溜め込むための魔力蓄積システムの増設、さらにはそれらの仕様変更に伴うボディの改造……ジェットガンナーに手を入れるだけでもこんなにもやることがあったんだよ。本体自体は完全に仕上がってた先発機にこれをやろうなんて、自殺行為もいいトコだよ」
「あー、なるほど……そういうことだったんだ……」
 スバルが納得するのを見てうなずくと、霞澄はふぅと息をつき、
「まぁ、理由はそれだけじゃないんだけどね……」
「…………?
 他にも理由があるのですか?」
「うん」
 尋ねるシグナムに対し、霞澄はあっさりとうなずいて――
「“ジェット機が合体したから飛べるようになりました”ってのも、なんか安直じゃない?
 やっぱりこういう“お約束”には反逆しないと♪」
「むしろその理由が本命でしょう。絶対に」
 迷わずビッグコンボイがツッコんだ、その時――
「……ジェットガンナーについての説明は終わったか?」
 ヒューマンフォームとなって“説明会”に参加、それまで沈黙を保っていたマスターコンボイが口を開いた。
「なら、オレはさっさとこの場を去らせてもらおうか」
「何言ってんの。
 ティアナちゃんのゴッドオン中のこととはいえ、ジェットガンナーが合体するのはキミのボディなんだから」
「そうは言うがな……」
 霞澄の言葉にうめき、マスターコンボイは息をつき――
「こうやってコイツに捕まっている現状から、一刻も早く脱却したいんだよ、オレはっ!」
「そんな言い方ってないんじゃない!?」
 マスターコンボイの言葉に声を上げるのは“コイツ”呼ばわりされた張本人――ヒューマンフォームの彼をしっかりと抱きかかえているティアナである。
「つい昨日までこちらを毛嫌いしていたよな、貴様っ!?」
「だからこそじゃない!
 今まで距離開けちゃってた分を埋め合わせしようってんじゃないの!」
「埋めすぎだ! 埋めすぎ!
 貴様、人付き合いまでもが全力全開か!? 貴様のギアにはオーバートップしかないのか!?」
 抱きかかえられたままなんとか脱出しようとするマスターコンボイと放すまいとするティアナ、平行線をたどる両者のやり取りを、周りは楽しそうに見守っているばかりで、誰もマスターコンボイに救いの手を差し伸べようとしない。
「やれやれ、大の男なら、あぁも抱きつかれたらうれしいもんだろうに。
 何で目の前の幸せを堪能できないかね、あの旦那は」
「幸せ以上に身の危険を感じてるんじゃないの?」
 苦笑し、ため息をつくヴァイスにそう答えるのはアスカだ。
「同行しなかったヴァイスくんは知らないだろうけどさ……初披露だった海鳴での出張任務の時なんか、ティアちゃんのテンション、そりゃもうすごかったんだよー。
 愛でたい欲求とそれを抑える理性が、そりゃもうスゴイ勢いでせめぎあってたんだから」
「め、めで……
 ンな、小動物じゃあるまいし」
「ちっちゃいじゃん、今」
「………………」
 あっさりと答えるアスカに対し、反論すべく口を開きかけたヴァイスだったが――今のマスターコンボイの姿を見た限り否定はできないと思ってしまい、黙り込むしかない。
「ティアナさん、すっかり兄さんを独占ですね」
「そうだね」
「なーんか、うらやましいよねー」
 一方、こちらはフォワード陣の残り3名――キャロの言葉にエリオがうなずき、スバルが本当にうらやましそうに口をとがらせる。
「ま、けど今日くらいはいいよね。
 ティア、今までずっとツン全開だったんだもん。せっかくデレが出てきたんだから、発散させてあげないと」
「こら待てぇっ!
 それで被害にあうオレはどうなる!?」
「もうちょっとガマンしてあげて。
 今は今までガマンしてた反動でタガが外れてるだけだから――あと1時間もすれば、コワレてた自分が恥ずかしくなってまたツンに戻ると思うから」
「1時間も耐えられるかぁっ!」
 長年のパートナーとしての経験か、割と冷静に分析してみせるスバルの言葉に、マスターコンボイは思わず声を上げ――
「…………あれ?」
 そんな義兄の姿を見守っていたキャロは、ふと“もうひとりの兄”の姿がないことに気づいた。
「イクト兄さんは……?」
「そういえば……」
 キャロの言葉にエリオも周囲を見回し――彼もまた気づいた。
「……フェイトさんも、いない……?」
 

「どうしたんですか? こんなところに呼び出して」
 イクトによって屋上に呼び出され、フェイトは不思議そうに彼に尋ねた。
「霞澄さんがジェットガンナーについて説明してくれるって言ってたのに……」
「後で他のヤツから聞けばいい。
 それより、オレとしては主要メンバーが皆一堂に会しているこの状況の方が重要だった。
 今なら、“誰かに聞かれる可能性”も少ないからな」
「………………?」
 ますます意図がわからず、首をかしげるフェイトに対し、イクトは静かに切り出した。
「フェイト・T・高町。
 貴様はエリオやキャロの母親代わりだ。
 だが――あくまで“代わり”だ。オレも、貴様も、アイツらの本来の家族ではない」
「…………はい」
 イクトに指摘されたのは、ある意味彼女が最も気にしていること――神妙な顔でうなずき、フェイトはその先を促した。
「それで……そのことがどうしたんですか?」
「いや、そのこと自体について追求するつもりはない。キツく聞こえてしまったのなら謝ろう。
 オレが聞きたいのは、むしろ二人の“本来の家族”の方だ」
 言って、イクトは懐から使い込まれた手帳を取り出し、
「エリオ・モンディアル――ミッドの資産家モンディアル家の長男として育てられるが、後にすでに死亡していた“本物のエリオ・モンディアル”のクローンであることが発覚、両親に捨てられ、保護施設に引き取られる。
 しかし、その施設というのが、保護施設に偽装した人造魔導師の研究施設だった――その事実をつかんだ何者かの襲撃によって施設は壊滅、逃げ遅れていたエリオはその人物によって救出され、先に 救出されていた他の被験者達と共に今度こそ管理局に保護され、貴様に引き合わされる。
 キャロ・ル・ルシエ――竜召喚を行える第6管理世界アルザス地方の少数民族、ルシエの民として生まれる。
 6歳の頃、その優秀“すぎる”竜召喚の力を恐れられて里から放逐され、流浪の末に管理局に保護されるが、その力を持て余しタライ回しになっていたところを貴様に引き取られた――間違いはないか?」
「はい……」
「そうか。
 なら……」
 フェイトの言葉にうなずくと、イクトはそこで息をついて言葉を区切り、改めて尋ねた。
「貴様は、二人を捨てた“本来の家族”については、どこまで知っている?」
「え………………?」
「二人の本当の家族なんだ。会ってみようとは思わなかったのか?」
「そ、それは……そうですけど……
 モンディアル夫妻は、エリオを保護施設に引き渡した後から姿をくらましていたし、ルシエの民は、竜召喚を厳格に扱ってる関係で少し閉鎖的な民族だから、なかなか機会が作れなくて……」
「…………ほう」
 フェイトの答えは正直芳しいものではなかったが――しかし、その事実はイクトにとっては予測の範囲内だったようだ。納得するようにうなずき、フェイトに告げる。
「やはり、“そういう風に知らされていた”か……」
「え………………?
 どういうことですか?」
「これを見ろ」
 答えて、イクトがフェイトに差し出したのは、書類の束と数枚の写真だった。
「この写真……どこかの廃墟ですか?
 こっちの書類は交通死亡事故の報告書の一部――“違法開発された魔導機械と遭遇、攻撃を受けたことによる事故”……ということはガジェットの?」
「併記されている残留魔力の波形パターンから見て、おそらくはそうだろう。
 貴様が『廃墟』と言った、そっちの写真の現場には直接出向いた――その写真もその時のものだが、その場でもガジェットの残骸を確認している」
 そう答えるイクトの言葉に、フェイトは再び書類へと視線を落とした。
「けど、これがエリオやキャロとどんな関……係、が……」
 眉をひそめるが――“ある可能性”が脳裏をよぎったとたん、言葉は勢いを失った。恐る恐る、イクトに向けて顔を上げる。
 今の会話の流れでこの写真と書類を見せた、そこに意味があるとするなら――
「イクトさん……
 まさか、この2件は……」
「あぁ。
 そら、書類の残りだ」
 フェイトの言葉に真剣な表情でうなずき、イクトは彼女に書類の残りを手渡した。
 すぐにフェイトはその内容に目を通し――そこに記されていた被害者の名前を目にしたとたん、今度こそその顔から血の気が引いた。そんな彼女に、イクトは静かに続ける。
「……あの二人を捨てた“本来の家族”に説教のひとつでも、と思っていたんだが、行方を追ってみたらコレだ。
 写真の廃墟と書類の事故車は――」

 

「ルシエの里とモンディアル夫妻の、成れの果てだ」

 

「………………っ!」
 ハッキリと事実を言葉にされ、息を呑むフェイトに対し、イクトは息をつき、続ける。
「経緯はどうあれ、エリオもキャロも今は貴様の元に身を寄せている。
 とはいえ、元はモンディアル家とルシエの里の子であることは変わらない――その二人の保護者である貴様に対し、そのように情報がごまかされているのは明らかに怪しい。
 間違いなく、どこかで情報の隠ぺいが図られたと見ていいだろう」
 神妙な表情でフェイトがうなずき、イクトは告げた。
「ガジェットによって二人の家族が襲われ、しかもその事実は隠されていた……
 どうもこの一件、ジェイル・スカリエッティを捕らえればそれで解決、といった単純なものではなくなってきたようだな」

 

 ところは変わってこちらは地球――
《機動六課はどうでしたか?》
「悪くはないな」
 自分“達”の拠点、その指令室に戻るなり、出迎えてくれたのはパートナーである人格型ユニゾンデバイス・アルテミス――労い、尋ねる彼女に対し、スカイクェイクは不敵な笑みと共にそう答えた。
「確かに至らない点は未だ多いが、今回のことでなのは達も自らの未熟を自覚した。
 なのはも周りもまだまだ伸びる――こちらも負けてはいられないな」
《楽しそうですね》
「当然だ。
 なのははかつての教え子だ――バカをやっていれば確かに怒りもするが、成長の兆しが見えれば楽しみにもなる」
 クスリと笑みをもらしたアルテミスにスカイクェイクが答え――端末のひとつがアラームを鳴らした。
 そのアラームが意味するのは――
「おや、“今の”教え子達が来たようだな」
《ですね》
 スカイクェイクのつぶやきにアルテミスがうなずくと、指令室の扉が開き――
「こんちは〜♪」
 元気な声と共に“教え子”達が姿を見せた。第一声を放った先頭の少女に、スカイクェイクは笑みを浮かべて応える。
「またすいぶんとゴキゲンだな。
 ネットゲームでレアアイテムでも手に入れたか?――」

 

 

「こなた」

 

 


 

第23話

運命・スタートアップ!
〜こなた、覚醒の時〜

 


 

 

《お待たせしました♪
 いい豆が入りましたから、今日のコーヒーはかなりいけると思いますよ》
「あぁ、ありがとうございます」
 やってきたのは6人。こなた、かがみ、つかさ、みゆき――カイザーズの4人に加えイリヤと美遊だ。人数分のコーヒーを淹れてきたアルテミスに対し、美遊は応えてカップを受け取る。
「……うん、おいしー♪
 また一段と腕を上げたね、アルテミス」
《そ、そんな……まだまだ未熟ですよ》
「そんなことないよー。
 私、喫茶店とかのコーヒーは苦くて飲めないけど、アルテミスさんのコーヒーはぜんぜん大丈夫だもん」
 イリヤの賛辞に謙遜するアルテミスだが、そんな彼女をつかさがさらにほめちぎる。
 と――
「ところでさぁ」
 そんな会話の流れをぶった切ったのはこなただ。お茶請けにと出されたクッキーをかじりながらスカイクェイクへと向き直り、
「スカイクェイク、機動六課に行ってきたんだって?」
「まぁな。
 少しばかり説教を垂れてきた」
 あっさりとスカイクェイクが答えると、こなたはクッキーを新たに一枚口の中に放り込み、
「あの子はどうだったの?
 あのオレンジブロンドの――ガンナーでツインテールでツンデレで、ってな具合にかがみととことんキャラが被りまくってるあの子」
「キャラ被ってて悪かったわね!
 それとツンデレ言うなぁっ!」
 こなたの言葉にかがみがツッコみ――そんなやり取りに苦笑しつつ、スカイクェイクはこなたに答えた。
「今回向こうで起きた騒動の中、一番の伸びを見せたのが、そのティアナ・ランスターだ。
 魔導師としての才もあるが……残念ながら、そちらの才能を引き出すにはいささか難があるようだ。
 おそらく、魔導師にこだわる内は大成すまいが――」
 と、そこで一度息をつくと、スカイクェイクはにやりと笑みを浮かべ、付け加えた。
「観察眼に判断力、そしてそれらを最大限に活かす応用力――魔法によらない部分の才が並ではない。
 “魔導師として”ではなく“戦士として”、“ゴッドマスターとして”見るなら、今後機動六課の新人達の中でもっとも化けかねないのが彼女だ。
 お前達も、うかうかしているとあっという間に追い詰められるぞ」
「だいじょーぶ!
 ホテル・アグスタの時はヒヤッとさせられたけど、ゴッドマスターとしてのキャリアはずっと上なんだから。
 ほぼ同期のスバルならともかく、そう簡単に差を詰められたりは――」
「ちょーしに乗らないの」
「あいたっ」
 笑顔でスカイクェイクに応えるこなたの頭を、最近使いすぎでへたりつつあるハリセンで軽くはたき、かがみは彼女をそうたしなめる。
「私達だって、ゴッドマスターになってからそんなに経ってないのよ。
 長い目で見れば、私達だってひよっこみたいなものなんだから」
「かがみの言う通りだ。
 取り急ぎ実戦を切り抜けられるよう、今までは経験を積ませることにばかり終始してきたが――いよいよ今までのデータを基に、それぞれの基礎を確定させる訓練を本格的に始めることになる。
 今までと違い、一番効果が目に見えづらくなってくる時期だ――ここで焦れれば、ティアナの二の舞になるぞ」
「ほーい」
 わかっているのかいないのか――スカイクェイクの言葉にこなた達があっさりとうなずくと、
「けど……私達がゴッドマスターになってから、3ヶ月くらいになるんだね……」
「長いと見るか短いと見るか……微妙な時期ですね」
 しみじみとつぶやくつかさにみゆきが相槌を打ち――それをイリヤの肩の上で聞いていたルビーがふと思い立ち、こなた達に声をかけた。
《そういえば……私達が知り合った時には、もうみなさん覚醒してましたけど……そもそも、どこがどうなってそうなっちゃったんですか?》
「あー、そういえば、その辺の話って聞いたことなかったね……」
 ルビーの言葉にイリヤがうなずき――不意にニヤリ、と笑みを浮かべた。
「んー、気になるなー。
 ねぇ、よかったら話してくれないかな?」
「うん、いーよー」
 あっさりとうなずくと、こなたは懐かしそうに目を細め、
「まず、最初にゴッドマスターになったのは私なんだよね。
 3月の終わり、春休みの宿題のレポートのために、オーパーツの展示会に行った時のことなんだけど……」
 

 3月某日、埼玉某所――
「ふわぁ〜あ……」
「こら。
 女の子がそんな大口開けてあくびすんじゃないわよ」
 休日の駅のホーム――心底眠たそうにあくびをするこなたを、かがみはため息まじりにたしなめた。
「どうせ、また遅くまでアニメでも見てたんでしょ?」
「まーねー。
 いやはや、今期も深夜アニメはそれなりに豊作だからねー♪
 『ル○ーシュ』が日曜5時に移動して、主力がいなくなっちゃうんじゃないかと心配してたけど、杞憂だったね、ホント♪」
 かがみの言葉に悪びれることもなくそう答えるが――こなたは「でも」と付け加えた。
「ゆうべは野球中継の延長とかもなくて、定時通りにアニメが見れたから、いつもよりは早く寝られたんだよ」
「つまりいつもはもっと夜更かししてるんかい」
 半眼でかがみがうめくと、そんな彼女のとなりでつかさがこなたに尋ねた。
「いつもよりも早く寝ても、やっぱり眠いの?」
「あー、つかさ。
 あくまで“いつもよりは”ってだけの話だから。コイツの場合、それでも寝てる時間が遅いことに変わりはないからね」
「まぁ、そうなんだけどね……」
 つかさの問いやかがみの指摘にそう答えるこなただったが、その顔はどこか微妙だ。何やら不思議そうに何度も首をかしげている。
「何か気になることでも?」
 そう尋ねるのはみゆきだ――首をひねる態度はそのままに、こなたは彼女に答えた。
「気になるってゆーかさ……
 変な夢を見ちゃったんだよね……」
「夢?」
 聞き返すかがみにうなずいて、こなたは夢の中で見たものを簡単に説明した。
「バカでっかい巨人と戦ってたぁ?
 またあんたらしいというか何というか……」
 内容が内容なだけに、聞かされたかがみは呆れ気味だ。
「けど、あんた好みの夢じゃない。何が気になるのよ?」
「うーん……確かに、私的には萌えシチュも燃えシチュも大歓迎なんだけどね」
 かがみの言葉に、こなたはなおも首をかしげ、
「何ていうか……“そういうの”とは、ちょっと違う気がしたんだよね……
 夢って言うには、何かおかしな感じがしたし……それが夢ってものだ、とか言われるとそうだし……うーん……」
 うめき、考え込むこなただったが――
「あ、こなちゃん、電車来たよ」
 その思考を中断するかのように、電車がホームに入ってきた。つかさの声が、こなたの意識を現実に引き戻す。
「ほら、行くわよ、こなた。
 今度の世界史の自由課題に『せっかく展示会やってるんだから』ってオーパーツについてのレポートを提案したのはあんたでしょうが」
「わ、わかってるよぉ」
 かがみにせかされ、こなたはあわてて彼女を追い、電車へと乗り込んでいった。
 

 その頃、地球から遠く離れた宇宙の一角では――
「なら、ここで一旦お別れだな」
「あぁ」
 巨大なスターシップの上からそう告げるのは、アニマトロスの大帝、暴虐大帝ギガストーム――彼の言葉に、スカイクェイクはあっさりとうなずいた。
「オレはこのまま地球に先行する。
 お前達も、自分達の星の守備につけ――配備完了まではオレの部下を使ってもかまわん」
「わかっているさ。
 ノイズメイズ達が現れても、返り討ちにしてくれるぜ!」
「その意気だ。
 なら、頼んだぞ」
 こちらの言葉に、スピーディアの大帝、爆走大帝オーバーロードが自信タップリに応える――満足げにうなずき、スカイクェイクは彼らから別れて最寄りのスペースブリッジへ向かう。
 自分のビーストモードは合体型の大型モンスター。長距離巡航には向いていない――ロボットモードのまま飛行しつつ、スカイクェイクは自身のライドスペースに座る相棒に声をかけた。
「アルテミス、ここから地球からのレーダー網にアクセスできるか?」
《ここからでは、さすがに……
 せめて、スペースブリッジに入れば、ブリッジの制御システムを通じてアクセスできると思いますが……》
「それでいい。
 とにかく今は地球に急ぐぞ」
 答えるアルテミスに告げると、スカイクェイクはスペースブリッジの入り口へと急ぐ。
「ここへ来て“ヤツら”を見失ったのは痛かった……!
 早く地球に戻り、防衛体制をとらせなければ……!」
 

 こなた達が向かったオーパーツ展示会、その会場は都内の科学館だった――歩道に面した入り口からエレベータで1〜3階をやりすごし(立体駐車場のスペースになっているためだ)、会場へと向かう。
 そして――
「ぅわぁ……」
 会場のあちこちに並べられたオーパーツの数々を前に、つかさは思わず感嘆の声を上げていた。
「をををををっ! これがかの有名な“水晶髑髏どくろ”!?
 あっちは“ピリ・レイスの地図”!? “アッシリアの水晶レンズ”や“カンブリア紀のネジ”まで!?」
 一方、こなたは実際に目にするオーパーツの数々に大興奮。まだ順路の序段だというのに、あちこちせわしなく走り回っている――そんな彼女にかがみがため息をついていると、となりでみゆきがパンフレットに目を通し、
「かなりの展示規模ですね……
 “デリーの鉄柱”のような大型のオーパーツなどもあるみたいですし……」
「これ、展示してあるのってほとんどがレプリカって聞いてるけど……本物もいくつか展示されてるんでしょ?
 こんな集客数も見込めないような立地の科学館で、よくここまでの規模で開催できたわねー」
 こんな規模の展示会が開けるほど、この科学館は有名だっただろうか――感心するみゆきのとなりで、かがみはそんなことを考えながらつぶやいて――
「ま、ここの命運を賭けた一大イベントだからねー♪」
 そんなかがみの疑問に答えたのはこなただった。
「ここ、年々来場者数が減ってるらしくってさ。
 ここらで一発当てとかないと、いい加減ヤバイらしくってさ」
「またせちがらい理由が出てきたわねー……」
「ま、おかげでこんな充実した展示会を開いてもらえて、私としては万々歳だけどねー♪
 …………ん?」
 呆れるかがみに答え――こなたは何かに気づき、再び駆け出した。展示スペースの中央に展示された、オレンジ色の結晶体を見に行ってしまう。
「ちょっ、どうしたのよ、こなた!?」
「コレコレ! 今回のオーパーツ展の目玉! 通称“橙水晶”!
 ……まぁ、私としては時期的に“オレンジ水晶”って呼びたいところだけどねー」
「はいはい」
 こなたの答えを軽くあしらうと、かがみは彼女のとなりから“橙水晶”をのぞき込み、
「けど……ずいぶんきれいに整った形してるわね。
 色といい形といい、どう見たって自然にできたものじゃなさそうだけど……昔の技術でこんなの作れたの?」
「チッチッチッ、甘いなー、かがみんや。
 昔の技術じゃ作れそうにないから、オーパーツなんじゃん♪」
「ま、そりゃそうなんだけどね」
 不敵に笑いながら答えるこなたの言葉に、かがみはそう答えて肩をすくめ、
「まったく……こなたってば、ホントこういうオーパーツとか好きよねぇ」
「だって、古代文明の遺物だよ! 神秘のアイテムだよ!
 この内のどれだけを古代のトランスフォーマーが作ったのか、って思ったらワクワクしない!?」
「あー、結局そこに落ち着くワケね……
 そうよね。アンタはロボットつながりでトランスフォーマーも大好きだったのよね」
 こなたの言葉にため息をつき、かがみは彼女に尋ねた。
「そういえば……セイバートロン星にも行ったことあるのよね?」
「うん、“先生”の口利きでね。
 9年位前だから……9歳の頃かな?」
「“先生”……あぁ、アンタの武道の」
 こなたは基本的に学校の先生達を「○○先生」と名前で呼ぶが、それは彼女が無条件に“先生”と呼ぶ唯一の人物である、彼女が幼い頃に師事した武道の師との混同を避けるためだという――前にこなたが言っていたことを思い出し、かがみは納得してそうつぶやく。
 そして、こなたは息をつき、遠い目をしてつぶやいた。
「そういえば……“先生”とはずいぶんとごぶさただけど、今はどうしてるのかなぁ……?」
 

 同時刻、スペースブリッジ内――
《大気圏外に位相の乱れを確認。
 大規模ワープアウトの兆候と思われます》
「チッ…………
 よりによって、地球に現れたか……!」
 自身のライドスペース内からそう報告するアルテミスの言葉に、スカイクェイクはスペースブリッジ内を高速で飛行しながら舌打ちする。
「最初の一手は、許すしかないか……!
 とにかく急ぐぞ! しっかりつかまっていろ!」
《はい!》
 アルテミスがうなずくと同時、スカイクェイクは気合を入れ直し、一路地球へ向けて一気に加速した。
 

「んー、たんのーした、たんのーしたぁ♪」
「堪能したのはいいけど、ちゃんとレポートに反映しなさいよ」
 展示会の見学を終え、上機嫌で会場を後にし、科学館から出てきたこなたに対し、かがみは半ば呆れながらそう釘を刺す。
 と――
「………………?」
 ふとつかさが足を止めた。何かが気になるかのように、しきりに周囲を見回し始める。
「……どうしたのよ?」
「あ、うん……
 お姉ちゃん……今、何か変な感じしない?」
「変な感じ?
 ……別に何も感じないわよ。気のせいなんじゃない?」
「けど……」
 答えるかがみだが、つかさはなおも気になるようで――と、そんな彼女の姿に、こなたの目が輝いた。
「んっふっふっ……さてはつかさ、何か未知なる力に目覚めたとか?
 キュピーン! とか『そこっ!』とか」
「勝手に人の妹をニュータイプにすんじゃないわよ!」
 ツッコミと共にかがみがこなたの頭をはたいた、その時――
「……あの……」
 そんな彼女達のやり取りに、みゆきが口をはさんできた。上空を見上げ、指さして、
「ひょっとして……あれじゃないですか?」
『………………?』
 その言葉に、こなた達はほぼ同じモーションでみゆきの指さした方へと視線を上げて――
「……な、何よ、アレ……!?」
 はるか上空に浮かんだ、巨大な岩のようなものを前に、かがみは思わず声を上げていた。
「こ、こなた! アレ何よ!?
 オーパーツ好きでトランスフォーマー好きのあんたならわかんじゃないの!?」
「わかんない。わかんないけど……」
 かがみの言葉に、こなたはそううめきながら宙に浮かぶ岩を見上げ――
「わかんないけど……あえて言おう!
 あれはきっと、ラピ――」
「はーい! 危険な発言ストぉーップ!

 ってゆーか、どう見ても城じゃないでしょアレ!」
 拳を握りしめ、いろいろなところを敵に回しかねない発言をかましかけたこなたを、かがみはあわてて制止する。
 だが――
(あんなところにあんなふうに“していられる”ってことは……地球サイバトロンの防衛網をすり抜けてきた、ってことだよね……)
 かがみに押さえ込まれながら、こなたは心の中でつぶやいた。
(そんなことができる人達がいるとしたら……前に“先生”が言ってた……)
「…………ニ……ン軍”……」
「………………?
 こなた……?」
 ポツリ、とつぶやいたこなたの言葉にかがみが眉をひそめ――
「みなさん、早く避難してください!」
「この辺りには避難勧告が出ました!」
 そんな彼女達や、周りで浮遊体がを見上げている野次馬達に対し、駆けつけてきた警官達が大声で呼びかけた――その言葉に従い、人々は一斉に避難を始める。
「お、お姉ちゃん!」
「つかさ、離れるんじゃないわよ!」
 当然、こなた達もあっという間にそんな人々の流れに飲み込まれてしまった――声を上げるつかさにかがみが呼びかけるが、どちらかと言うとおとなしめ、悪く言えば“どんくさい”とすら表現できてしまうつかさにこの人波は辛かった。仕方なく、みゆきと共につかさを支え、かがみは今しがた出てきた科学館の軒下に避難する。
 と――かがみは気づいた。
「あれ……?
 こなたは……?」

「…………ダメだ、つながらないよ……」
 人波を避けて路地裏にもぐり込み、携帯電話で連絡を試みるが、相手からの応答はない――息をつき、こなたは携帯電話の終話ボタンを押して呼び出しを終了した。
「“先生”なら、アレの正体もわかると思うんだけど……」
 しかし、現実として連絡がつかないのだ。現状ではどうしようもない。
「とにかく、かがみ達と合流しないと……」
 気を取り直し、こなたははぐれてしまったかがみ達と連絡を取ろうと携帯電話を操作し――
「お、おい、アレ!」
 そんな時、避難していた群衆の中から声が上がる――こなたが視線を上げると、突然浮遊体に亀裂が走った。
 そして、浮遊体は“内部から”砕け散った。破片が周囲のビル群に降り注ぎ、建物に突き刺さる中――
「……長かったぜ……この時が来るまで……」
 浮遊体が砕け散った際に巻き起こった煙の中からそんな声が響き、
「我らユニクロン軍、堂々の復活だぜ!」
 浮遊体の中から現れた巨大な空中要塞を背に、ノイズメイズは堂々と名乗りを上げた。
 

「よりによって、こんな時に現れるなんて……!」
 ノイズメイズ出現の報せは、すぐに地球に駐留している“彼ら”のもとにも届けられた――高速道路を東京に向けて急ぎながら、セイバートロン・サイバトロンの地球駐留隊員、ロングマグナスは焦りもあらわにそうつぶやいた。
 パートナーである神咲那美の帰省に付き合い九州まで遠出していたのが裏目に出た。内心で舌打ちするが、それで事態が改善されるワケでもない。
「ロングマグナス、とにかく急ごう!」
「みんなを……まもらなきゃ」
「わかってる!」
 しかし、それでも急がないよりはマシだ――運転席で告げる那美や彼らの“家族”である久遠の言葉にうなずき、ロングマグナスはさらに加速した。
 

「いけぇっ! シャークトロン軍団!
 “ターゲット”を探して、確保しろ!」
 告げるノイズメイズの言葉と同時――背後の空中要塞に動きがあった。各所のハッチが開き、そこからずん胴の魚に手足が生えたかのような容姿のモンスタートランスフォーマー達がゾロゾロと姿を現したのだ。
 ノイズメイズ達“新生ユニクロン軍”の主兵力、量産型擬似トランスフォーマー“シャークトロン”である。
 そして、シャークトロン達は一斉に地上へ向けて跳び下りた。次々に降下し、街を攻撃、破壊しながら各所に散っていく。
 そんなシャークトロンの群れに対し、地元の警察も黙って見ているワケがない。警察所属のトランスフォーマー達を中心に、シャークトロン達に対し迎撃を開始するが、
「ザコは引っ込んでな!」
 そんな彼らにはノイズメイズが襲いかかった。ワープを駆使してあちこちの防衛ラインを急襲、ウィングハルバードで次々にトランスフォーマー達を斬り捨てていく。
 トランスフォーマー達がいなくなってしまえば、人間の警官達に擬似とはいえトランスフォーマーであるシャークトロン達を止められるはずもない。圧倒的な戦力差に、次々に蹂躙じゅうりんされていく。
 そして、ノイズメイズが新たな獲物に狙いを定め――
「させるか!」
「――――――っ!」
 今まさに警察所属のトランスフォーマーに向けて振り下ろされようとしていた刃が止められた。
「久しぶりだな、ノイズメイズ!
 生きてると踏んでたスカイクェイクの読みは大正解だったワケだ!」
「貴様……!」
 告げられた言葉に舌打ちし――ノイズメイズはとっさに後退、乱入してきたトランスフォーマーと対峙する。
 突如現れ、警察の面々を救ったトランスフォーマー、その正体は――
「けどな、てめぇらの進撃もここまでだ!
 このブロードキャスト様が、てめぇらを止めてやる!
 さぁ、キバって行くぜ!」
「言ってくれるな、このお調子者が……!」
 意気揚々と告げるのは地球出身のトランスフォーマーのひとり、ブロードキャスト――高らかに告げられた宣言に対し、ノイズメイズはウィングハルバードをかまえ、告げる。
「だが、見たところパートナーの小娘もいないみたいじゃないか!
 たったひとりで、このオレ達を止められるとでも思ってるのか!?」
 しかし――
「違うな。
 間違っているぞ、ノイズメイズ!」
 ブロードキャストはまったく臆していない。むしろ芝居がかった態度で某黒い騎士団のリーダーを真似しつつ、余裕の笑みと共に言い放つ。
「見たところ、あの量産型に自我があるとは思えない――お前の命令で動いているはずだ。
 つまり――」
 言って、ブロードキャストは急加速、一気にノイズメイズへと突っ込み、
「お前ひとりを倒せば、アイツらの優位も崩れ去る!
 仲間を連れてきていないことを悔やむんだな!」
「やれるものなら、やってみろ!」
 ブロードキャストの言葉に言い放ち――ノイズメイズとブロードキャストの拳が激突する!
 

「かがみー!
 つかさー!
 みゆきさーん!」
 はぐれてしまったかがみ達を探し、こなたは人々が逃げ惑う流れに逆らいながら声を上げる。
 普通に考えれば、すでに避難したと考えるべきだろうが――こなたはなんとなく確信していた。
 友情に厚いかがみ達のこと、簡単にその場を離れはしないだろう――はぐれてしまった自分のことを、今の自分と同じように探し回っているに違いないと。
 そうこうしている間に、こなたはわき道を抜けて大通りに出た。さすがにこの辺りは避難もほぼ完了して閑散としていて――
「こなた!」
「かがみ!?」
 しかし、かがみ達はそこにいた――しかも、先ほど自分達がいた科学館の軒下に。
「どこ行ってたのよ!? まったく!」
「ゴメーン!
 それより、どしたの!?」
「つかさが!」
 駆け寄りながら、まだ距離があるため大声で尋ねるこなたに対し、かがみもまた大声で答える――見れば、つかさが辛そうな表情で足首を押さえている。どうやら移動しようとした矢先にくじいてしまったらしい。
「手伝って! 避難しなくちゃ!」
「う、うん!」
 かがみの言葉にこなたがうなずき――その瞬間、彼女達の頭上を駆け抜けた者がいた。
 ノイズメイズ――そして彼に対し苦戦を強いられているブロードキャストである。
 

「そらそら、どうした!?
 キバっていくんじゃなかったのか!?」
「くそっ、ちょこまかと……!」
 余裕の態度で告げるノイズメイズに対し、ブロードキャストは舌打ちまじりにうめいた。
 機動性ならば決して負けてはいないが――ノイズメイズにはワープという切り札があった。こちらの機動を上回る動きを見せ、死角から襲いくるノイズメイズに対し、ブロードキャストは次第に劣勢に追い込まれていく。
「だから言ったんだ。
 パートナーもなしに、このオレに勝てるはずがないってな!」
「やかましい!
 まだ勝負はついてないぜ!」
 言い返し、ノイズメイズへと殴りかかるブロードキャストだったが、
「そうか」
 ノイズメイズの姿はすでにそこではなく――
「なら――さっさと勝負をつけることにしようか!」
 そう言い放ち、背後にワープしていたノイズメイズがブロードキャストをこなた達の頭上――科学館の屋上へと叩き落とす!
「とどめだ!」
 そして、トドメとばかりに放ったノイズメイズのエネルギーミサイルの雨が、ブロードキャストへと襲いかかる!
 降り注ぐ光弾の雨を受け、ブロードキャストだけでなく科学館も被害を受けた。ブロードキャストのいる上層部分が大きく崩壊し――
「――――――っ!」
 当然、その残骸は地上へと降り注いだ。その中でも一際巨大なガレキが自分達に向けて落下してくるのを見て、かがみが思わず息を呑む。
「かがみ! みんな!」
 あわてて彼女達の元へと向かうこなただが――彼女の足ではどう考えても間に合わない。
 それに、たとえ間に合ったとしても、こなたには今まさにかがみ達を襲おうとしているガレキをどうすることもできない。仲良くつぶされてしまうのが関の山だ。
 だが――そんなことなどこなたには関係なかった。
(かがみ達を――助けなきゃ!)
 ただその一心で、かがみ達へと走り続ける――
 

(力が……!)
 

 そして――同時に願う。

 

(力が欲しい……!)

 

 今、もっとも必要なものを――

 

 

(あいつらに負けない――)

 

 

 

 

(かがみ達を、守れる力が!)

 

 

 

 その瞬間――すべてが制止した。

 

 燃え盛る炎も。
 

 爆風で舞い散る粉塵も。
 

 崩れ落ちるガレキも。
 

 そして――

 

 

 その下で恐怖に顔をこわばらせるかがみ達も。

 

 

「な、何……?」
 突然の異変に戸惑い、こなたが周囲を見回し――
「…………え……?」
 自分の周りで、蒼く、淡い光が巻き起こっているのに気づいた。
「な、何……?」
 何が起きているのかまったくわからない――困惑するこなただったが、不思議と不安は感じなかった。
 自分の周りの光が、まるで自分を守るように優しく包み込んでくれている――
(何? これ……
 光が……私を包んでる……?
 …………ううん、違う……)

 

 

(私が……光に、なっていく…………!?)

 

 

「……え…………!?」
 驚きに目を見開き、かがみはうめくように声を発した。
 あちこちで火の手の上がる街並み――
 周囲に散らばる、巨大なガレキの数々――
 そんな中、自分達の目の前で――
 

 青色の巨体を持つ、一体の巨大なトランスフォーマーが、自分達に向けて落下してきたガレキを受け止めてくれていた。
 

 一体何が起きたのか――思考が追いつかず、かがみは疑問を言葉にまとめられない。
 見れば、抱き合って恐怖に身を固めていたつかさとみゆきも事態を呑み込めず、不思議そうに周囲を見回している。
 一方、そんな3人を守った“青いトランスフォーマー”は受け止めたガレキを脇に放り出し、
「みんな……大丈夫?」
 尋ねるトランスフォーマーの声に、かがみは思わず息を呑んだ。
 聞き間違えるはずがない。
 この声は――

 

 

 

 

 

 

「………………こなた……!?」

 

 

 

 

「よかった……」
 気づけば、かがみ達の上でガレキを受け止めていた――かがみ達の無事に、こなたは安堵の息をつき――
「――って、え? あ、あれ?」
 そこでようやく状況に気づいた。自分の身体に起きた異変に対し、こなたは思わず戸惑いの声を上げる。
「ど、どうなってるの……?」
 思わず周囲を見回し――思い付き、近くのビルへと向き直る。
 前面ガラス張りのそのビルの壁は、今の彼女の姿を明確に彼女へと知らしめていて――
「私が……トランスフォーマーに、なってる……!?」
 基本カラーは青。無骨そうなイメージのデザインだが、実感としてはまったく重量を感じない。むしろ普段よりも軽く感じるくらいだ。
「一体、何が……?」
 呆然とつぶやくこなただったが――
「何だ、貴様……!?」
 そんなこなたの前に、上空のノイズメイズが警戒の声を上げた。同時、彼の元に集まってきていたシャークトロン達も警戒もあらわに彼女の前に立ちふさがる。
「ち、ちょっと、まさか……やる気!?
 ちょっ、ちょっとタンマ! まだ頭の中の整理が!」
 あわてて待ったをかけるこなただが――かまわずシャークトロンはこなたに向けて襲いかかる!
「わぁっ!」
 そんなシャークトロンのかみつきをかわすと、こなたはかがみ達を巻き込まないよう大地を転がって距離を取り、
「……ま、いっか!」
 こうなったらやるしかない――意識を切り替え、こなたはシャークトロンと対峙した。
「まだ何が何やらぜんぜんわかんないけど……なんとかなるよね、きっと!」
 言って、こなたは右手を頭上にかざすと人さし指を立て、
「“先生”の太鼓判付き、ヒーローもののお約束、ひとーつ!
 『最初はいきなり、無我夢中! やるべきことに全力全開!』」
 高らかに告げると同時、こなたはノイズメイズやシャークトロンに向けて地を蹴った。


次回予告
 
ノイズメイズ 「ノイズメイズ先生の『ユニクロン軍講座』の時間だ!
 シャークトロンは10年前に使ってたオレ達のコピー量産型をマイナーダウンして、数をそろえやすくした超簡易量産型だ!」
こなた 「いや、いくらなんでもマイナーダウンしすぎじゃない?
 しかも、ノイズメイズ達のどこをどうマイナーダウンしたら半魚人型になるワケ?」
ノイズメイズ 「デザイン担当がランページとエルファオルファだったからだよ。
 ちょっと考えればわかったはずなんだよなぁ……あの海鮮コンビに任せたら海系の機体が出来上がるに決まってるだろうが……」
こなた 「えっと……ドンマイ。
 ともかく! 次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 GP-24『勇者ノツバサ〜その名はカイザーコンボイ〜』に――」
二人 『ゴッド、オン!』

 

(初版:2008/09/06)
(第2版:2008/09/17)
(次回サブタイトルを修正)