「さぁ、お前達の心を見せてみろ」
突然の異変に、成す術なく意識を手放したなのは達――力なくその場に崩れ落ちている彼女達を見下ろし、異変を引き起こしたと思われる漆黒のトランスフォーマーは感情のこもらぬ声でそう告げた。
そのまま、手近なところにいたティアナへと手を伸ばし――
「………………む?」
気づいた。
その場に倒れているのは6人と1匹――
「……補足したのは7人と1匹……
……ひとり、逃げたか……」
「……な、なんとか、バレなかったみたいだけど……」
店舗と店舗のすき間――アーケードの裏路地をヨロヨロとおぼつかない足取りで進みながら、スバルはしきりに襲ってくる意識の混濁と戦いながらそうつぶやいた。
次々とみんなが倒れていく中、なぜか自分だけは症状が軽かった。おかげで完全とはいかないものの意識を取り戻し、こうして離脱することができたが、状況は最悪と言ってもいいほどに悪い。
本来ならばすぐにでもなのは達を助けに戻りたいが――
(こんな、意識のハッキリしない状態じゃ……!
念話も、通信も、妨害されてるみたいだし……!)
「早く、マスターコンボイさんに……知らせ、なきゃ……」
そうつぶやくが、スバルもついに力尽きた。その場に倒れ込み、意識を失い――
彼女のジャケットの胸ポケットから、スパイショットが顔を出した。
第28話
受け継がれる想い
〜炸裂!トライアングルスパルタン〜
「……それで、原因は?」
「方法まではまだわからないんですけど……相手はスバル達の脳に直接アクセスしてきたと考えていいと思います。
そして、脳に信号を送って擬似的な眠気を、しかも急激に発生させて、一気にみんなの意識を奪った……言ってみれば、思考に対する麻酔薬のようなものですね」
尋ねるはやてに対し、診察を終えたシャマルは静かにそう答えた。
「そんなことして、脳の方は大丈夫なの?」
「医学的には問題ないわ。
眠気自体は強力だけど、それを引き起こした信号は、脳へ負担をかけないように出力を調整されていたわ。
犯人にとっては、ターゲットが眠っている、というのは何より望ましい状況のようだし、その辺りにはかなり気を遣ってるみたいね」
アリシアに答え、シャマルはベッドに横たわり、静かに眠るスバルへと視線を向けた。
アーケードの外で待機していたマスターコンボイへと、スバルのジャケットに潜んでいたスパイショットが事態を知らせたのだ――スバルを保護し、マスターコンボイが現場に駆けつけた時には、すでになのは以下残りのメンバーの姿はアーケードの中から消えうせていたという。
だが、手がかりはまったくないというワケではなかった。その際たるものが――
「そして、その犯人がコイツ、か……」
スバルのジャケットに潜んでいたスパイショットが撮影した、犯人と思われるトランスフォーマーの写真だった。医務室のモニターに表示されたその漆黒のいでたちを見ながら、シグナムは苦々しそうにそうつぶやく。
「それで……犯人の逃走経路はわかったの?」
「アーケードの奥の店に商品を運び込むための、大型地下搬入口を使われたようだ。
追跡させたアームバレットとガスケットによれば、出入り口の警備員が全員眠らされていたそうだ」
尋ねるフェイトに答えるマスターコンボイだが、その機嫌は目に見えて悪い。
「やはり、監視はアスカ・アサギに任せて、オレが同行すべきだったか……」
「気にするな。
高町なのはがついていながら、一切の反撃が許されなかったんだ――連れ去られるメンバーが入れ替わるだけで、状況は何ひとつ変わらなかったはずだ」
苛立ちもあらわにうめくマスターコンボイにビッグコンボイが答えた、その時――不意にジェットガンナーがきびすを返した。
「ドコ行くんだよ?」
「探しに行く」
尋ねるヴィータに対し、ジェットガンナーはあっさりとそう答えた。
「現場をもう一度調べてみる。
見落とした手がかりがある可能性はゼロではない」
言って、ジェットガンナーは医務室を出て行き――
「なら、ボク達も――」
「待て」
後に続こうとしたジャックプライムを、イクトが呼び止めた。
「オレ達は待機だ」
「どうして!?
なのはが捕まってるって言うのに――」
「まだ、オレ達の出る段階ではないということだ」
反論するように声を上げるジャックプライムに対し、イクトは冷静にそう答えた。
「考えても見ろ。今回の犯人は、今まで捕らえた人質をすべて無傷で返している。
しかも、傷つける以外にも身代金の要求もなし……今回の敵については、手段こそ犯罪ではあるが、その目的はそういったものとは無縁な気がする」
「けど……今回もそうとは限らへんよ。
それに、この動きが、何かもっと大きなことをする前触れかもしれへんし……」
「だからこそ、簡単に強力な戦力を動かすべきではない、ということだ。
直接の捜索は上空からの捜索が可能なジェットガンナーに任せ、オレ達は今回の敵について、可能な限り情報を収集する」
懸念を口にするはやてに答えると、イクトはグリフィスへと向き直り、
「グリフィス・ロウラン、陸士108部隊に戻っている柾木霞澄を呼び出してくれ。
こういう情報収集において、柾木の家の人間は実に頼りになる――彼女なら、何かつかんでいるかもしれない」
「わかりました」
「高町恭也」
「スカイクェイク!」
こなた達を連れて翠屋に現れたスカイクェイクに対し、恭也は彼らしくないあわてぶりと共に声を上げた。
「話は聞いた。
高町知佳とかがみとの連絡が途絶えたというのは本当か?」
「あぁ。
ギガントボムのところから戻る途上で、商店街に寄るという連絡があって……」
「それで、あの事件に巻き込まれちゃったワケか……」
スカイクェイクに答える恭也の言葉に、こなたはテレビで報道されている、アーケード街での神隠し事件の様子を見ながらそうつぶやく。
「お姉ちゃん……!」
「大丈夫ですよ、つかささん」
「そうよ。
かがみもしっかりしてる子だし、知佳さんも一緒なんだから」
不安そうにつぶやくつかさをみゆきとイリヤが励ましていると、恭也はスカイクェイクへと向き直り、
「それで……何かつかめているのか?」
「心当たりは……ないワケではない」
尋ねる恭也に、スカイクェイクは冷静にそう答えた。
「柾木の身内が私的に追っていた相手が、ミッドチルダに戻ってきている、との未確認情報が入っている。
ヤツの能力を考えれば、今回の事件の犯人はおそらく……」
「誰なの? その人って」
口をはさんできたのはつかさだった――息をつき、スカイクェイクはその名を口にした。
「オレ達は……“ゼロ”と呼んでいる」
「…………ん……」
ゆっくりと浮上してくる意識に伴い、ティアナはわずかに身じろぎし、静かに目を開けた。
身を起こしてみれば、そこはどこかの工場跡のようだった。その一角にココに残されていたであろうクッション材を敷きつめて作った簡易的なマットの上に、自分は寝かされていたようだ。
マットはかなり広く、自分以外にも20人以上もの人間が寝かされているが――
(…………みんなは……?)
そう。そこになのは達の姿はない――どこか別の場所に寝かされているのだろうか。
とにかく、今は現状の把握が第一のようだ。他の人達を置いていくのは気が引けたが、息を殺し、ティアナはその場から異動を開始した。
明晰夢というものがある。
意識がハッキリしていて、「これが夢だ」と自分でもわかる夢のことを言う。
そして――
なのははまさに今、その明晰夢を体験していた。
夢の中で、なのはは今よりも幼い姿でベッドに横たわっていた。
全身に包帯を巻かれ、腕には点滴、口には人工呼吸器をつけられて――
(そっか……
これ、あの時の……)
ムリをして、ムチャをして――そのツケが回ってきた結果の事故。
「もう飛べなくなるかもしれない」と医師から言われた時の絶望感は、今でもハッキリと思い出せる。
時間はすでに消灯時間を過ぎているようだ。あの頃は毎日見舞いに来ていた家族の姿もなく、照明の落ちた室内は薄暗く静まり返っていて――
(………………え?)
不意に、自分の頬に暖かな手が触れたのがわかった。
(誰…………?)
少なくとも、自分の家族や友人達ではなさそうだ――それだけはわかった。
しかし、この時の自分はもうろうとしていのか、相手の姿はハッキリとわからない。黒系の服を着ているのか、闇に溶け込んでいるようにも見える。
そして――うっすらと霞のかかった視界の中、手の主は静かにつぶやいた。静寂の中つぶやかれたその言葉は、ハッキリとなのはの耳に届いていた。
それはほんの一言――
――――ごめんな――――
「………の……ゃん……
……なのはちゃん!」
「……ん…………」
夢が終わり、覚醒に向かう意識が捉えるのは自らを呼ぶ声――ライカに揺さぶられ、なのははゆっくりとまぶたを開き――
「起ぉきぃなぁさぁいっ!」
「ふ、ふぇえ〜〜〜っ!?」
待っていたのは起き抜けにはあまりにも辛い強烈な洗礼だった。こちらの覚醒に気づかないライカに思い切り揺さぶられ、なのはは自分の目覚めを伝えることもできず、豪快に脳をシェイクされてしまう。
〈Miss Raika、resign.〉
《なの姉、もう起きてるよぉ!》
「あれ? そなの?」
そんななのはを救ってくれたのは長年の相棒達――レイジングハートとプリムラの言葉に、ライカはようやくなのはを解放した。
「ひ、ひどい目にあいましたぁ……」
「あー、ゴメンゴメン」
まだグルグルと回っているような気がする頭を抱えるなのはに、ライカはあわてて謝罪した。
「昔あずさを起こしてた時のクセで……なのはちゃん、あんまりあの子と声が似てるもんだから、つい……」
「……“あずさ”さん?」
「あぁ、アンタ達に名前出してもわかんないか。
柾木あずさ――管理局でも有名な、ジュンイチの妹よ」
聞き返すなのはにそう答えると、ライカは息をつき、
「それより、今の状況なんだけど」
「あぁ、そうですね。
それで……どんな状況なんですか?」
「最悪の状況よ」
あっさりとライカは答えた。
「どっかの施設の中みたいだけど、具体的にどこか、ってのはわかんないし、念話も通信もアウト……当然GPSもね。
それに……周り、見てみなさいよ」
言われて、なのはは周囲を見回し――さっきまでの自分達と同じく、多くの市民が眠らされ、横たえられているのに気づいた。
「状況からして、まだ発見されてない神隠し事件の被害者達ね……」
「けど、それにしては数が少ないような……
まだ、他の場所に捕まってるんでしょうか?」
「ざっと見て回ったけど、一緒にやられたはずのスバル達の姿がないからね……捕まったのが私達二人だけ、ってワケじゃなければ、そう思っていいでしょうね……」
なのはに答え、ライカは思考をめぐらせる。
(さて、どうしようか……
スバルが離脱に成功しててくれれば、あの子が途中で力尽きたとしても、ジャケットにもぐり込ませておいたスパイショットが、何とか事態を六課に知らせてくれてるはず……
となれば……)
「……ジェットガンナーに、期待するとしましょうかね……」
「かがみちゃん、かがみちゃん」
「……ん……」
自分をゆすり、呼びかけてくる声に対し、かがみはまだ眠そうに目を瞬かせた。
「知佳、さん……?」
「よかった……気がついて。
どこか、ケガとかしてない?」
「あ、はい……
大丈夫です、多分……」
知佳に答え、かがみは彼女の手を取って立ち上がると周囲を見回し、
「それで、ここは……?」
「わからないわ。
私も、ついさっき目を覚ましたばかりだから……」
答えて、知佳は周囲に横たえられ、静かに寝息を立てている他の被害者達へと視線を向けた。
「この人達……もしかして、あのアーケードにいた?」
「たぶんね。
ざっと診てみたけど、みんなただ眠ってるだけみたい」
かがみに答え、知佳は少し考えて、
「とりあえず、こうなった以上はこの人達を何とか起こして、逃がしてあげたいところだけど……」
「これだけの人数を逃がそうってことになったら、結構な大仕事になりますね……
それに、もし移動中に犯人に見つかったら……」
「そうね」
かがみの応えにうなずくと、知佳は改めてかがみに告げた。
「とりあえずはここから離れて、この中の様子を把握しよう。
この人達を逃がすにしても、道がわからなきゃどうしようもないし……かと言って、ここで悠長に助けが来るのを待ってて、万一犯人と鉢合わせして戦闘になったりしたら、この人達を巻き込むことになるからね」
「わかりました」
「………………っ」
曲がり角で様子をうかがい、誰もいないことを確かめる――人気がないからと油断せず、すでにクロスミラージュを起動させているティアナは慎重に廊下を進んでいく。
今のところ、誰にも遭遇していない。このままうまくみんなと合流するか脱出ルートを見つけられれば――そんなことをティアナが考えていると、
〈It is the reaction of the magic in front.〉
不意に、クロスミラージュが異変を知らせてきた。
「犯人、と見るべきでしょうね……」
捕まった人達の脱出を優先するか、犯人の逮捕を優先するか――いずれにせよ、敵の情報はあった方がいい。ティアナは慎重にクロスミラージュが反応を捉えた部屋の扉へとはりついた。
音を立てないように気をつけながら、わずかに扉を開けて中の様子をうかがい――
「………………?」
中の光景を前に、思わず眉をひそめた。
扉の向こうはかなりの大きさの――トランスフォーマーでも難なく機動戦ができそうなほどに広大なホールになっていた。そしてその中央に、大型機材用の整備ハンガーが設置されている。
そして、そのハンガーにはひとりのトランスフォーマーが、背中に多数のコードをつなげられた状態で収められていた。
コードはハンガーにつながり、ハンガーからはさらに多数のコードが伸びて辺り一面の床を埋め尽くしている。どうやらコードは施設の各所に配線されているようだが――
ともかく、他に人の気配はない――意を決して、ティアナは中に入り、コードにつまずかないよう気をつけながらハンガーの前まで歩を進める。
「……何? このヒト……?
まさか、あたし達と同じように捕まったとか……?」
トランスフォーマーの素性を測りかね、ティアナがつぶやき――
「違うな」
「――――――っ!?」
突然、件のトランスフォーマーが答えた――とっさにティアナが飛びのくが、かまわず続ける。
「私は捕まってなどいない。
なぜなら……“私が捕まえる側なのだから”」
「じゃあ、アンタが……!」
「その通り。
私が、貴様達が“連続集団神隠し事件”と呼ぶ一連の事件の実行者だ」
うめくティアナに答え、彼は――ティアナ達をさらった張本人であるそのトランスフォーマーは背中につながったコードを引きちぎるように外しながらハンガーから出てくる。
「それにしても、今日の獲物は実に興味深い。
私の“ブレイン・パラライズ”から自力で脱出する人間がいるとは思わなかった。
しかも複数――さらにその内のひとりが顔なじみとは」
「え――――――?」
最後の一言は明らかに自分ではなく、その背後に向けて放たれた――思わず声を上げ、ティアナが振り向くと、
「やっぱり、私達が隠れてるのにも気づいてたわね」
言って、ライカはなのはと共にティアナの入ってきた扉からその姿を現した。
「発見された被害者が『頭の中をのぞかれてるような気がしてた』って証言をしてたのを聞いて、ひょっとしたら、と思ってたんだけど……まさかそのものズバリ、アンタが犯人だったなんてね」
「え? え!?
ライカさん、知り合いなんですか?」
「まぁね」
思わず声を上げるなのはに、ライカはあっさりと答えた。トランスフォーマーへと向き直り、告げる。
「私達のところから姿を消して2年……ようやく会えたわね。
どういうつもりなのか、説明してもらうわよ、“ゼロ”!」
「…………よし、誰もいないわね」
中の様子をうかがい、誰もいないことを確認すると、知佳はかがみと共に部屋の中へと足を踏み入れた。
この廃工場の中央管制室である。すぐに二人で目的のものを探し始め――
「――あった!
知佳さん、こっちです!」
「かがみちゃん、ぐっじょぶ!」
声を上げるかがみに応え、知佳はすぐに彼女の見つけたもの――工場に引かれていた電話回線のソケットに駆け寄る。
「けど、ミッドチルダって結構技術とか進んでるのに、こういう有線の電話回線とかもまだ残ってるんですね」
「技術なんてものは、新しければいいってものでもないんだよ。
いくら無線通信の方が便利でも、電波が届かなかったらそれまでなんだから」
かがみに応えながら、知佳は自分の通信端末を電話回線に接続、ダイヤルし――
「……あ、恭也くん?
うん、無事だよ。私もかがみちゃんも。
……あぁ、こなたちゃん達も来てるの?」
どうやら翠屋に連絡したようだ――応答したらしい恭也に答えると、知佳はかがみへと手招きしてみせた。知佳から端末を受け取り、かがみが話を代わる。
「もしもし? 恭也さ……あぁ、つかさ?
うん。大丈夫。ケガとかしてないから」
向こうも通信を代わっていた。相手がつかさとわかり、かがみは彼女を安心させるようにそう告げる。
「それより、この通話を逆探知してこっちの場所を……なんだ、スカイクェイクがもうやってるの?
ならいいんだけど……」
言いかけて――かがみはふと何やら思いついた。つかさに対して静かに告げる。
「だったらさ、場所の特定ができ次第、ライトライナーをこっちに向かわせてくれる?
理由? そんなの決まってるじゃない――」
「やられっぱなしは、主義じゃないのよ」
「“ゼロ”か……
その名で呼ばれるのも久しぶりだな」
言い放つライカの言葉に、“ゼロ”と呼ばれたトランスフォーマーは淡々とそうつぶやき――ふと首をかしげ、訂正した。
「……いや、名を呼ばれること自体が久しぶりか。
私のことを知る者と出会うこと自体、久しくなかったからな」
「………………?」
告げるトランスフォーマーだったが、その言葉にティアナは思わず首をかしげた。
何と言うか――おかしい。
平然と、淡々とトランスフォーマーは語っているが――よく聞いてみると“平然”“淡々と”といった表現とは少し違うがする。
強いて言うなら、言葉のひとつひとつに本来込められているべき感情が込められていないような印象を受ける。
いや、込められていないと言うよりは――
(まるで、感情の表し方を知らないような……
けど、それじゃまるで……)
「『ジェットガンナーと同じ』か?」
「――――――っ!?」
こちらの思考をさえぎり、告げる“ゼロ”の言葉に、ティアナは思わず目を見開いた。
(コイツ、どうしてジェットガンナーのことを!?
それに、どうし――)
「『どうして自分ガジェットガンナーを連想したのがわかった?』だろう?」
「また…………!?」
再び“ゼロ”は自分の考えていることを言い当ててみせた。“ゼロ”が何をしているかわからず、ティアナは警戒を強め――
「驚かすのはそのくらいにしたら?」
そんなティアナを“ゼロ”からかばうかのように、ライカが前に出てそう告げる。
「ったく、少しは相手のことを考えなさいよ。
“自分の後輩”のパートナーに対して、少しばかり礼儀がなってないんじゃないの?」
『え――――?』
しかし、続いて告げられたのは意外な一言――ライカのその言葉に、ティアナもなのはも驚いて彼女に注目した。
「ど、どういうことですか、ライカさん!?
今の言い分だと、“ゼロ”が、ジェットガンナーの――」
「うん。
先輩だよ、“ゼロ”は」
思わず疑問の声を上げるティアナに、ライカはあっさりとそう答えた。
「ジェットガンナーの先輩……つまり“ゼロ”も、トランスデバイスの試作機ってことですか?」
「そゆコト。
“ゼロ”っていうのは、元々はこの子の型番からみんながつけた愛称だったのよ」
尋ねるなのはにもそう答え、ライカは続けた。
「ジェットガンナーを始めとした4人の試作型トランスデバイス“GLXナンバー”。
その4人の開発ベースとなった、本当の意味での試作機――
形式番号“GLX-00”――トランスデバイス試作零番機。それが“ゼロ”の正体よ」
「コイツが、ジェットガンナーの先発機……!?」
ライカから告げられた事実に思わずうめくティアナだったが、ライカはハッキリとうなずいてみせる。
「2年前、“ゼロ”はトランスデバイスの開発系譜の一番の先頭を走る形で生まれたわ。
そして、後発機の開発のための基礎データを確立させた後は、後発機のための各種武装のテスト機として、そのまま開発チームの一員になっていた。
けど、ある時……AI教育を担当してた私や、生みの親である霞澄さんが別件で留守にしている間に、いきなり姿をくらまして、そのまま行方不明になってたのよ」
言って、ライカは“ゼロ”へと向き直り、
「教導官としての仕事の片手間に、ずっと行方を追ってたけど……まさか最初はぜんぜん関係ないと思ってた事件の捜査線上に浮上してくるなんて思っても見なかったわよ。
けど、ちょうどいいから答えてもらうわよ――アンタの目的は何?
何がしたくて、私達の前から姿を消して、こんなところでこんなことをしてるの?」
その問いに、“ゼロ”はしばし沈黙し、やがて静かに答えた。
「……心を、知るためだ」
「心を……?」
「私は、人の心に興味がある。心がどういうものかを知りたい。
しかし、あの開発チームの中にいては、その答えを得ることはできないと判断した」
「だから、開発チームを飛び出した、っていうの?」
「そうだ」
口をはさむなのはにも、“ゼロ”はあっさりとうなずいた。
「なるほど……だんだん話が見えてきたわ。
被害者が傷つけられたり、身代金を要求されたりしなかったのも当然だわ――その人自身、しかもその心が目当てだったんだから。
大量の人間を一度にさらってたのは、効率よく多くの人間の心を読み取るため……
そして、みんなを眠らせていたのは、抵抗されないため、だけじゃなくて、自分の正体を隠したまま“観察”を行なうためでしょ?
目撃証言から自分のことが明るみに出れば、もっと早く私達が動いてたはずだからね――ひとりでも多くの人間の心を“観察”したかったアンタにとって、事情を知る私達の介入は可能な限り避けたかった、ってところかしらね」
「……いくつか足りないが、及第点といったところか」
ライカの言葉にうなずいてみせる“ゼロ”だったが――
「そっちの事情はわかったよ。
けど、それでもやってることは犯罪だよ」
言って、なのははレイジングハートを起動。バリアジャケットを身にまとい、実体化したプリムラを鎧として装着すると“ゼロ”の前に立ちはだかる。
「犯罪、か……
人でもトランスフォーマーでもない、デバイスでしかない私に、“犯罪”という概念は当てはまるまい」
「確かに、法的にはね。
けど、だからって放っておいていい理由にはならないよ」
答えて、なのははレイジングハートをかまえ、
「だから、これからすることは“管理局員として”じゃなくて、“私個人として”。
“ゼロ”さん……あなたを、止めるよ」
「私を止める、か……」
告げるなのはの言葉に、“ゼロ”は小さく息をつき、
「……おもしろい。
やってみろ」
「言われなくても!」
応えると同時、なのはが動く。放たれたブリッツシューターが、一斉に“ゼロ”へと襲いかかり――
「…………フッ」
そんななのはの攻撃を、“ゼロ”は鼻で笑い飛ばし――迫り来るブリッツシューターのすべてを最小限の動きで次々にかわしていく。
「なら――っ!」
続いてショートバスター。ブリッツシューターをかわしている“ゼロ”へと間髪入れずに撃ち放つが――やはりかわされた。“ゼロ”は飛来する閃光をギリギリのところでかわしてしまう。
《なの姉! コイツ……!》
「攻撃を、読まれてる……!?
けど、先読みしてるにしては……?」
“ゼロ”がこちらの動きを読んでいるのは間違いないが、それにしてはどこか反応がぎこちない――“ゼロ”の動きに得体の知れない違和感を覚え、なのははプリムラの言葉に眉をひそめた。
こちらの動きを見てから反応しているワケではなく、明らかに先読みをしている。しかし、スカイクェイクのようにこちらの動きを見切り、こちらが動く前から対応のために動いている様子でもない。
強いて言うならその中間、こちらが“動き出そうとしてから”動いているような、そんな微妙なタイミング――
(――って、あの時……)
と、そこまで考えた瞬間、なのはの脳裏に先ほどのやり取りが思い出された。
(さっき、“ゼロ”はティアナの考えていることを二回も言い当ててみせた。
そして、今の攻撃への反応……
もし、私の考えていることが本当なら……)
「その通りだ」
と、そんな彼女に対し、“ゼロ”は“彼女の思考に対して”そう肯定の意思を示した。
「貴様の考えている通りだ、高町なのは」
「やっぱり、そうなんだ……」
うめくなのはに対し、“ゼロ”はもう一度うなずき、告げる。
「私の“今の名”を教えよう。
私は人間、トランスフォーマー、デバイスを問わず、ターゲットの頭脳にアクセスし、干渉することができる。
その力を使えば、相手の心を容易に読み取ることができ、さらにはその思考から相手の攻撃を見切ることも容易。さらに緊張していない、ゆるんだ思考ならば一時的にマヒさせ、眠らせることも可能となる。
そう、私は――」
「“頭脳を乗っ取る者”――ブレインジャッカーだ」
「ず、頭脳に干渉、って……!」
「ま、簡単に言うと、“心を読める”のよ、アイツは」
“ゼロ”改めブレインジャッカーとなのはの戦いを見守り、うめくティアナに対し、ライカはあっさりとそう答えた。
「アイツは開発チームを抜ける直前、パートナーとの連携を目的として開発された、思考リンクシステムの試作型をテストしてた――で、そのテスト中にチームを抜けたから、そのまま搭載しっぱなしになってるワケ。
あのシステムを積んでたから、アイツはさらった人達の心を観察できてたし、その応用で一時的に思考をマヒさせて、私達を容易に捕らえることができた……
もっとも、それほど強力な信号を送り込むワケじゃないから、不意打ちでもしない限り思考マヒは成功しないと思うけどね」
「って、のん気に解説してる場合ですか!?」
告げるライカに対し、ティアナはあわてて声を上げた。
「つまり、それってなのはさん達の攻撃が、全部ブレインジャッカーには筒抜けってことじゃないですか!」
「そういうことね。
ま、さすがの“エース・オブ・エース”様も手を焼くか……」
ティアナの言葉に、ライカはつぶやいて肩をすくめ、左手に着けた腕時計型端末“ブレイカーブレス”をかまえた。
「しょうがない。
手、貸してあげましょうか!」
「ブレイク、アァップ!」
ライカが叫び、頭上にかまえたブレイカーブレスが光を放つ。
と、その光は流れるようにライカの身体を包み込むと大きな鳳凰の姿を形作る。
そして、ライカが腕にまとわりついた光を振り払うと、その腕には分厚い甲を持つ真紅のプロテクターが装着されている。
同様に、足の光も振り払い、脚部両脇に盛り上がった形をしたプロテクターを装着した足がその姿を現す。
そして、身体を包む光を両手で振り払うと、他の女性ブレイカーとは違い重装甲のボディアーマーが現れ、背中には大型のテールスタビライザーを形成、その両脇に鮮やかな真紅の翼が生み出される。
さらに、左手に光が収束、ライカがその光をつかむとそれは形を作り出し、大型のライフル“カイザーブロウニング”へとその姿を変える。
最後に額の光を右手で振り払い、ヘッドギアを装着したライカが叫ぶ。
「世界を照らす真紅の輝き! 邪悪を貫く希望の雷光!
光速の凰神、フラッシュ・コマンダー!」
「なのはちゃん、下がって!」
「――――――っ!?」
いきなりの声に、なのははとっさに後退――そんな彼女と入れ代わるように専用装重甲“F・コマンダー”に身を包んだライカはブレインジャッカーの前へと飛び出し、
「カイザーブロウニング!」
手にした大型ライフル“カイザーブロウニング”を連射し、ブレインジャッカーを狙うが、ブレインジャッカーもその射線をライカの思考から読み取り、次々にかわしていく。
「ムダだ、ライカ・グラン・光凰院。
どれだけ撃とうと、私は貴様の狙いを貴様の思考の中から読み取ることができる」
「知ってるわよ、そんなの!」
ブレインジャッカーが言い返すと、ライカは間合いを取り、
「けど――手ならある!」
「――――――っ!」
その言葉と同時、彼女の思考を読んだブレインジャッカーがとっさに防御体勢に入るが――
「さすがに、心を読んでヤバイと気づいたみたいね!」
かまいはしない。ライカはカイザーブロウニングをかまえ、
「アンタが射線を読んでかわしに来るって言うなら――読まれたってかわしきれないようなのを叩き込むまでよ!」
「オールウェポン――フルオープン!」
ライカが叫ぶと同時、両肩、両足、両腕に両腰――彼女の装重甲に装備されたすべての武装が展開し、
「カイザー、ヴァニッシャー!」
さらにカイザーブロウニングともうひとつの専用銃“カイザーショット”を合体させ、必殺ツール“カイザーヴァニッシャー”が完成する。
「ターゲット、ロック!」
そして、額のバイザーから照準デバイスが右目にセットされ、すべての武装がブレインジャッカーへと照準を定め、
「凰雅束弾!
カイザー、スパルタン!」
叫んで、ライカがカイザーヴァニッシャーのトリガーを引き――全身から放たれた精霊力の閃光やエネルギー弾が、一斉にブレインジャッカーに降り注ぐ!
そして、ライカがカイザーショットを下ろし、全身の武装を収納して離脱し――ブレインジャッカーに叩き込まれたエネルギーのすべてが大爆発を起こした。
「やった!」
文句なしの全弾直撃――手応えを確信しティアナは思わず歓喜の声を上げた。
「す、すごい……!」
《1発1発は大したことのない魔力弾なのに、すべての攻撃を同時に着弾させることで、総合的な破壊力を何倍にも引き上げてる……!
こんな大火力攻撃の方法もあるんだね……》
〈It becomes studying.〉
一方、なのはやプリムラ、レイジングハートも今のカイザースパルタンには舌を巻いていた。口々に感嘆の声を上げるが――
「…………まだよ」
対し、ライカは真剣な表情でそう告げた。
「本当のカイザースパルタンは、すべての攻撃がまったく同じ瞬間に着弾するように仕向けるけど……今の一発、微妙に着弾のタイミングにズレがあった。
アイツ、かわしきれないと悟って、むしろ自分からこっちの攻撃に飛び込んだ――着弾のタイミングをずらして、カイザースパルタンのダメージを軽減したのよ」
その言葉と同時、煙が晴れていき――その向こうから、ダメージこそ受けたものの、未だ健在のブレインジャッカーが姿を現した。
「言ったはずだ、『ムダだ』と。
思考を読むことのできる私は、お前達の攻撃に関する知識から、その弱点をも読み取ることができる」
「……みたいね。
ったく、厄介なシステムを着けっぱなしで出ていってくれたもんね」
あくまで淡々とブレインジャッカーは告げるが、なのは達の前では初披露だった必殺技まで抑えられたのは大きい。うめき、ライカはなのはのところまで後退、合流する。
「どうするんですか? ライカさん」
「ったく……どうしたもんかしらね……
思考を読まれる以上、向こうの裏をかくのは難しいし……」
なのはの問いにつぶやき、ライカはしばし考え、
「……こうなったら、心を読まれる部分についてはスッパリあきらめて開き直るわよ。
なのはちゃんは本来一撃必殺タイプみたいだけど、とりあえずそっちは封印。小技の乱発で逃げ場を奪って、一気にたたみかける。OK?」
「はい!」
ライカの提案になのはがうなずくが――
「簡単に、連携などさせはしない!」
二人が組むのはさすがに厄介だと判断したようだ。阻止すべく動いたブレインジャッカーが一気になのはへと肉迫、振り下ろした手刀でなのはを弾き飛ばす!
「なのはちゃん!
このぉっ!」
そんなブレインジャッカーに対し、ライカがカイザーブロウニングをかまえるが、
「させないと言ったぞ!」
ブレインジャッカーがライカに向けて“発砲した”。腕から放たれたビームがライカの力場を打ち据える!
「ちょっ、何で!?
どーしてアンタが武器つけてんのよ!? テスト機で非武装だったアンタが!」
「わかっていないな」
驚くライカに答え、ブレインジャッカーは彼女へと発砲を続けながら告げる。
「私は多くの人間の頭脳をのぞいてきた。
その知識を持ってすれば――自身の強化も不可能ではない!」
「隊長達は、どこに……?」
一方、ジェットガンナーは上空からなのは達の捜索を行なっていた。周囲をサーチしながら、慎重に移動を続ける。
と――
「…………む?」
不意に、彼のレーダーに反応があった。
しかし、それはなのは達の反応ではなく――
「データ照合……
“カイザーズ”のトランステクター、ライトライナーと確認」
要追跡対象ではあるが、今回はあくまでなのは達の捜索が目的だ。かまわず飛び去ろうとするが――
「…………生体反応、なし?
無人誘導で動いているのか……?」
ライトライナーが無人で走行しているのに気づき、動きを止めた。
「つまり、ライトライナーのゴッドマスターは現在単独で、しかもトランステクターを必要とする状況にある……
……まさか、ライトライナーのゴッドマスターも神隠しの被害にあったのでは……?」
「――――来た!」
そして、こちらは中央管制室で手に入れた地図で無事廃工場から脱出したかがみと知佳――やってきたライトライナーに気づき、かがみが声を上げる。
「さぁ、これで準備オッケイ!
私達をさらってくれた不届き者に、反撃開始よ!」
これで反撃ができる――意気揚々と告げるかがみだったが、
「――――ちょっと待って!」
そんな彼女を、知佳が止めた。
「あれ見て!」
「え…………?」
知佳の言葉にかがみが空を見上げ――上空から急降下してきたジェットガンナーが、屋根を突き破って工場内に突入する!
「何だ――!?」
なのは達の攻撃をことごとく読み取り、戦いを優位に進めていたブレインジャッカーだったが、ここに来ていきなりのアクシデント――突然崩落した天井の破片をかわし、驚きの声を上げると、
「…………高町なのは一等空尉、ライカ・グラン・光凰院、ティアナ・ランスター二等陸士を確認。
やはり、ここが神隠し犯の隠れ家だったようだな」
言って、崩れた天井から舞い降りてきたジェットガンナーがなのは達の前に降り立った。
「じ、ジェットガンナー!?」
「無事なようだな、ティアナ・ランスター二等陸士」
驚き、声を上げるティアナにジェットガンナーが告げて――
「4番機か……
完成した貴様に会うのは初めてだな」
「データと照合。
零番機と確認した」
声をかけてきたブレインジャッカーに対し、ジェットガンナーもまた身がまえて応じた。
「創主・霞澄達の元を離れ、姿を消していた貴様がなぜここにいる?」
「別に貴様達に用があったワケではない。
私の目的に動いていたところに、お前達が関わってきただけの話だ」
尋ねるジェットガンナーに答え、ブレインジャッカーも腕のエネルギーガンをかまえ、
「貴様も私のジャマをするか」
「私はパートナーであるティアナ・ランスター二等陸士のデバイスだ。
彼女や彼女の仲間達が貴様の前に立ちふさがるのなら、私もそれに加わるまでだ」
尋ねるブレインジャッカーに対し、ジェットガンナーはジェットショットを手にそう答え――
「ちょおっと待ったぁっ!」
新たな声が乱入――同時にホールの壁が爆砕され、かがみのゴッドオンしたライトフットが飛び込んでくる。
「ライトフット!?」
「って、カイザーズの!?
なんでこんなところに!?」
「こっちも巻き込まれたのよ!」
驚くなのはやライカに答え、かがみはブレインジャッカーへと向き直り、
「そんなワケで、私もコイツにはいい加減腹が立ってるのよ!
そっちがコイツを逮捕するのは勝手だけど――その前にブッ飛ばさせてもらうわよ!」
言うが早いか、かがみはブレインジャッカーに向けて跳躍した。一気に距離を詰め、拳を打ち放ち――
「ムダだ」
ブレインジャッカーには届かない。かがみの狙いを彼女の思考から読み取り、あっさりと回避すると逆にかがみを蹴り飛ばす!
「何をしようと無意味だ。
お前達が戦い方を考える限り、私はそれを読み取って対応することができる」
「読み取って……?
コイツ、心が読めるっての!?」
ブレインジャッカーの言葉に対し、彼の能力に気づいたかがみが声を上げ――
「“考える限り”……“読み取れる”……?」
一方で、同じ言葉からティアナは何かを感じ取っていた。
「考えても、読まれるなら……」
「ティアナ……?」
ブツブツとつぶやくその姿になのはが首をかしげるが――ティアナはかまわずブレインジャッカーへと向き直り、
「ジェットガンナー、あたし達でいくわよ!」
「了解だ」
「ちょっ、ティアナ!?」
告げるティアナとうなずくジェットガンナー、二人の会話に、なのははあわてて声を上げた。
「ムチャだよ、ティアナ!
私達の攻撃だって、さっきから全部読まれてるのに!」
「待って、なのはちゃん」
しかし、ティアナを止めようとしたなのははライカによって制止された。
「……任せるわ。
アイツをブッ飛ばしてやんなさい」
「わかりました!
いくわよ、ジェットガンナー!」
「了解だ」
告げるライカの言葉に、お墨付きを得たとばかりにティアナはジェットガンナーの背中に飛び乗った。そのままジェットガンナーが飛び立ち、ブレインジャッカーに立ち向かう。
「ライカさん……?」
「今はあの二人に任せるのが最善だってことよ」
どういうつもりなのか――声をかけるなのはに対し、ライカはあっさりとそう答えた。
「もし、ティアナが考えてることが私と同じなら……ここにいる戦力の中でアイツに一番対抗しやすいのは、あの二人だと思うからね」
「次はお前達か……」
ティアナを背中に乗せ、こちらに向かってくるジェットガンナーに対し、ブレインジャッカーは相変わらず無感情な声でそうつぶやいた。
「いいだろう。
誰が相手であろうと同じことd――」
しかし――そんな彼の言葉を、突然の着弾音がさえぎった。視線を落とし、今の音の発生源が右腕の火器“の残骸”だと確認する。
「……今のは、貴様か……?」
「どうした? 零番機。
私達の攻撃はすべて読めるのではなかったのか?」
尋ねるブレインジャッカーに答え、ジェットガンナーはさらにジェットショットを連射。回避しようとするブレインジャッカーだが――
「む…………ぐ……っ!」
やはり今までのようにはいかない。すべてをかわしきることができず、何発か喰らってしまう。
「どういうことだ……?
なぜ貴様の思考が読みきれない……?」
「当然よ」
うめくブレインジャッカーに答えたのは、ジェットガンナーの背の上のティアナだった。
「AIがまだ未成熟なブレインジャッカーは感情が薄くて、プログラムによる計算で物事を考えてる。
心の薄いジェットガンナーの心は、さすがのアンタも上手く読めないみたいね!」
「えっと……どういうことですか?」
「ティアナちゃんの言った通りよ」
事態についていけず、尋ねるなのはに対し、ライカは苦笑まじりにそう答えた。
「ジェットガンナーは、まだハッキリとした心を持ってるワケじゃない――あの子の心は、まだこれからの学習で作り上げていく段階にあるの。
だから、思考のほとんどはAIのプログラムによる計算に頼ってる――AIが成熟して、心を持ってるレイジングハートやプリムラと違って心が未完成なジェットガンナーに限っては、ブレインジャッカーの思考スキャンの影響をあまり受けないのよ」
言って、ライカは満足げにうなずいてみせ、
「まさか、“未熟であること”がこんなところで役に立つなんてね……
でもって、それを見抜いたティアナも、なかなかにいいパートナーよね」
そう告げ、ライカはなのはへと視線を向け、
「なんか、話によるとスカイクェイクにずいぶんと凹まされたらしいけど……一応、大事なことはちゃんと伝えてるみたいじゃない」
「大事なこと、ですか……?」
「そ。
パートナーの力を、お互いが最大限に引き出すこと……
なのはちゃんがレイジングハートやプリムラと三人四脚で培ってきたことを、あの二人……クロスミラージュを含めれば3人か。きっちり受け継いでる」
なのはに答え、ライカは優しげに微笑んでみせた。
「自信を持っていいわよ。
確かに、スカイクェイクの言う通り、私達みんな、まだ未熟なのかもしれないけど……それでも、なのはちゃんの教えは、ちゃんとあの子達にも伝わってたってコトだからさ♪」
「ちぃ…………っ!」
うめき、回避を試みるブレインジャッカーだが、やはりジェットガンナーの狙いを読みきることができない。何発か直撃を許して姿勢を崩し、
「そこっ!」
体勢の崩れたブレインジャッカーに向けて、ティアナがヴァリアブルバレットをお見舞いする!
「あたしもいるんだからね!
便乗するみたいでスッキリしないけど……とりあえずブッ飛ばさせてもらうわよ!」
さらに、そこへ地上からもかがみがライトショットで対空砲火――ジェットガンナーによって優位を崩され、ブレインジャッカーは次第に追い詰められていく。
「よぅし!
ジェットガンナー! 一気に決めるわよ!」
「了解だ」
『フォースチップ、イグニッション!』
ティアナとジェットガンナーの咆哮が響き――地球のフォースチップが飛来した。そのままティアナの足元、ジェットガンナーの背中のチップスロットへと飛び込んでいき、
「排熱システムフル稼働。
フルドライブモード、起動」
ジェットガンナーが告げ――彼の四肢や両翼の排熱デバイスがより強烈に体内の熱を排出。同時、フォースチップのエネルギーがジェットガンナーの全身を駆け巡り、ティアナのクロスミラージュにも供給されていく。
そして、ジェットガンナーがスペアのジェットショットを取り出して二丁拳銃に。シングルモードのクロスミラージュと併せ、それぞれの銃口に魔力スフィアが形成され――
「三点――」
「粉砕!」
『トライアングル、スパルタン!』
放たれた三つの魔力スフィアが、ブレインジャッカーへと撃ち放たれる!
「そんなもの!」
対し、ブレインジャッカーも回避を試みるが――その瞬間、三つの魔力スフィアがはじけた。無数の魔力弾の雨となり、ブレインジャッカーを包囲、一気に襲いかかる!
これはさすがのブレインジャッカーもかわしきれない。すべてが彼を直撃し――
『……皆、中』
ティアナとジェットガンナーが告げると同時――ブレインジャッカーの周囲でくすぶっていた魔力が大爆発を巻き起こした。
「今の技……まさか、原形はトライアングルバースト……?」
ブレインジャッカーへと必殺技を叩き込んだティアナとジェットガンナー、二人の姿に、なのはは思わず声を上げた。
「なのはちゃん……?」
「あぁ、今の技……昔私がギャラクシーコンボイさんと使ったことのある技に似てたんです」
ライカに答え、なのはが思い出すのは10年前の“GBH戦役”――チップスクェアを巡る攻防の中で自分とギャラクシーコンボイが使った技にそっくりだった。
おそらく、ティアナは自分の技を研究する中で、参考としてポジションが同じなのはの技を研究、その過程でトライアングルバーストの存在を知ったのだろうが――
「けど、途中からの“散弾による包囲・殲滅”は私のカイザースパルタン……
即席で私達二人の持ち技を組み合わせるなんて、やるじゃないの」
「はい!
なんたって、ティアナもジェットガンナーも、私達機動六課の仲間なんですから!」
自分の教え子に対して感心するライカの言葉に、なのはは誇らしげに胸を張り――
「…………なるほど、やってくれる」
そんな彼女達に告げて――各部が大きく破損したブレインジャッカーは爆煙の中から姿を現した。
「素直に負けを認めよう。今回はお前達の勝ちだ。
お前達が私の“ブレイン・パラライズ”を受けながらも目覚めたことに興味を持ち、不要な接触を避けようとしなかった私のミスだ」
「あ、そ。
じゃ、ミスついでに次は私達に捕まってもらおうかしら」
告げるブレインジャッカーに答え、ライカがカイザーブロウニングをかまえるが、
「そうはいかない。
私はまだ、心というものを理解するには至っていない」
言って、ブレインジャッカーはジェットガンナーが突入の際に開けた穴からホールの外に脱出し、
「私は答えに至るまで、これからも人の心を観察し続ける。
また、いずれ会うこともあるだろうが……今回はここまでだ。
トランスフォーム!」
そう告げて――ブレインジャッカーは鳥の翼を思わせる形状の可変翼を持つジェット機へとトランスフォーム、その場から飛び去っていく。
「逃がすもんですか!」
そんな彼を追おうと、ライカが背中の推進システムの出力を上げ――
「待ってください!」
あわててなのはがそれを止めた。
「今は、ブレインジャッカーに眠らされていた人達の救助が先です!」
「っと、そうだったわね……」
なのはの言葉に気を取り直し、ライカは彼女と共にティアナの元に向かい――ふと気づいて声を上げた。
「そういえば……ライトフットは?」
「え………………?」
ライカのその言葉に、なのはもまた周囲を見回すが――すでにライトフットの姿はホールの中から消えていた。
〈そうか。無事に離脱したか〉
「ゴメンね。
まだ接触していいタイミングじゃなかったのに、余計な手出しするのを認めてくれて」
すでにライトフット――かがみは工場からの退避を完了していた。通信の向こうでつぶやくスカイクェイクに、かがみはライトライナーのコクピットでそう告げて頭を下げる。
〈お前も後のことを考え、ゴッドオンしたまま正体を明かすことはなかった――あの程度なら問題はあるまい。
それより、知佳と共に早く戻れ。つかさや恭也がお待ちかねだ〉
「りょーかい、っと」
スカイクェイクの言葉に答え、かがみはライトライナーの操縦レバーを握りなおし、
「じゃ、いきますよー。
しっかり捕まっててくださいね、知佳さん」
「うん!」
知佳が笑顔でうなずくのを確認し、かがみは翠屋に戻るべくライトライナーを発進させた。
「……あの者達……実に興味深い」
なのは達の前から離脱――ミッドチルダの空を飛翔しながら、ブレインジャッカーは静かにそうつぶやいた。
「時空管理局、遺失物保管部、機動六課……か……」
淡々と、今回対峙した者達の所属を復唱し――ブレインジャッカーは今後の行動を決めた。
すなわち――
「彼女達を、今後の最優先観察対象に指定。
あのように“様々な過去”を持つ者達ならば……私の望む答えを見出す手がかりとなるかもしれん」
となれば、まずはこの身体を修復しなければ――今後のプランを急速に固めつつ、ブレインジャッカーはさらに加速する。
「せいぜい利用させてもらうぞ、機動六課。
私が心というものを知るために。そして――」
「我らGLXナンバーのトランスデバイスが生み出された、“真の理由”のために」
アリシア | 「『GM』シリーズのアイドル、アリシアちゃんだよー♪ なーんか最近影が薄いのよねぇ……空気キャラにならないようにがんばらなきゃ! さて次回は、『出張任務再び』、『キャロの実力』、『正しい森での暮らし方』の3本をお送りします♪ 来週も見てくださいね、じぁーんけーん……」 |
ライカ | 「付き合わないからね、私は」 |
アリシア | 「もーっ! ライカさん、ノリ悪いなぁ、もう!」 |
ライカ | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第29話『サバイバルだよ大行進!〜アニマトロスぶらり旅〜』に――」 |
二人 | 『ゴッド、オン!』 |
(初版:2008/10/11)
(第2版:2008/10/12)(誤植修正)