「…………まぁ、こんなところか。
全員、お疲れさま、といったところか」
『お、お疲れさまです……』
廃棄都市群にセットされた訓練フィールドの中央――告げるイクトの言葉に、スバル達やGLXナンバー達、そしてなのは、フェイト、ヴィータは一様にボロボロの様子でうなずいてみせる。
先日はつい意識をそらしてしまい、反射的カウンターで隊長陣を壊滅に追い込んだイクトではあるが、いざ集中すればこの通り――能力制限もなく、オーバーSランク魔導師すら震撼させる実力を遺憾なく発揮できる彼にとって、リミッターのかかったなのは達など敵ではないし、そこにスバル達が加わったところでさしたる違いも出てこない。
結果、撃墜もされずに模擬戦の制限時間いっぱい、しかもそれぞれの動きの欠点を的確につき、そこを徹底的に追い込む形でさんざん小突き回されて――この有様である。
しかし――
「オレを相手にここまでできれば、単独でも超瘴魔獣相手に十分通用するはずだ。
全員、ずいぶんと地力を上げている――それは保証してやる」
それも強くなるためと思えば苦にならない――イクトからもそんな賛辞が贈られるくらいには“成果”を出せていることもあり、誰の顔も満足そうである。
そんななのは達の姿に、イクトはもう一度満足げにうなずいて――
「なのは。
これなら、“そろそろいい頃合”なんじゃないのか?」
「え………………?
あ、そうですね」
『………………?』
一瞬、彼の言葉の意味が理解できなかったが――すぐになのはは気づいた。立ち上がって答えるが、スバル達は何のことかわからず、互いに顔を見合わせる。
「えっと……何の話ですか?」
「お前達の教導についての話に決まっているだろう」
代表して尋ねるティアナだが、イクトはさも当然とばかりにそう答える。
「イクトさん、ちゃんと説明してあげないとわかりませんよ」
「むぅ……それもそうか」
そんなイクトをたしなめるのはなのは――息をつき、イクトはスバル達に説明する。
「実は……すでにお前達は、なのはの立てた教導計画の上でいう“第2段階”をクリアできるだけの実力は身についているんだ。
しかし、ザインの出現のこともあって、早急に瘴魔対策を教え込む必要があった。お前達はもちろん、なのは達にも。
そのために、なのはに頼んで急きょ瘴魔対策のメニューを新たに組み込んでもらっていたんだ」
「えっと……つまり……」
「あぁ」
「うん」
確認するティアナに、イクトとなのはは笑顔でうなずいた。
「新たに組み込まれた“瘴魔対策特別訓練”も終了した以上、言わざるを得まい」
「みんな、おめでとう。
第2段階、終了だよ」
告げるイクトとなのはの言葉に、スバル達は思わず顔を見合わせて――
『……ぃやっ、たぁぁぁぁぁっ!』
二人の言葉の意味を理解したと同時、一斉に歓声を上げる。
そんな大喜びの一同に自身も思わず笑みを浮かべ、フェイトとヴィータは第2段階クリアに伴う連絡事項をスバル達に告げる。
「デバイスリミッターも一段解除するから、後でシャーリーのところに行ってきてね」
「明日からは“セカンドモード”を基本形にして訓練すっからな」
『はいっ!』
二人の言葉に、スバル達は元気にうなずいて――
「――って、ちょっと待ったぁっ!」
ふと気づき、アスカはすかさず待ったをかけた。
「ねぇ、ヴィータちゃん。
今、『明日から』って言った?」
「あぁ。訓練開始は明日からだ」
聞き返すアスカにヴィータが答えると、フェイトとなのはが不思議そうにしている彼女に説明する。
「今日は私達も隊舎で待機する予定だし……みんな、入隊時からずっと訓練付けで、外出なんて捜査や出動関係と、こないだの歓迎会の時ぐらいだったからね」
「そんなワケで、今日はみんな、一日お休みです♪
街にでも出て、遊んでくるといいよ」
なのは達の言葉に、スバル達の顔が一様に輝いて――
「まぁ、“いい加減負荷をかけすぎてきた感のある、この訓練場のフルメンテ”という理由もあるんだがな」
「一応言っとくけど、一番負荷かけまくってんのはお前の大火力攻撃だからな」
付け加えるイクトにはヴィータのツッコミが飛んだ。
第40話
運命、動き出す刻
〜機動六課のある休日〜
「着いたーっ!」
「クラナガン、とぉちゃぁ〜くっ!」
長い道中を経て、ようやくの到着――旅客用転送ゲートを経て、こなたとイリヤは凝り固まった背筋を大きく伸ばして――
「『ついた』って、まだクラナガンに来ただけでしょ?
イリヤさんもいちいちこなたに付き合わないでくださいよ」
そんな二人に軽くツッコミを入れるのはかがみだ。後に続いてくるつかさやみゆき、美遊の姿を確認し、告げる。
「ここ最近ミッションもなくて、訓練、訓練の日々……ようやくスカイクェイクからもらえたお休みなんだから、堪能しなくっちゃ♪」
「だよねー♪」
かがみの言葉につかさが笑顔でうなずき――そんな彼女達にみゆきが声をかけた。
「では……これからどうします?
直接行きますか?」
「とーぜん♪」
「だね」
答えるのはイリヤと美遊――笑顔でうなずく二人に続き、こなたは元気に宣言した。
「最初の目的地はいきなりのド本命――」
「喫茶“翠屋”、クラナガン店♪」
〈以上、芸能ニュースでした。
続いて、政治・経済です――〉
スバル達は汗を流した後外出準備――彼女達と共にシャワーを済ませたなのは達は、はやてら他の隊長陣やシャマルと合流、少し遅めの朝食を楽しんでいた。
そこにはスバル達の朝練には加わらず自主トレに励んでいたマスターコンボイの姿もある。大型ウィンドウに映し出されたニュースのアナウンスが流れる中、楽しげに談笑するなのは達だったが――
〈昨日、ミッドチルダ管理局、地上中央本部において、来年度の予算会議が行なわれました。
当日は、首都防衛隊の代表、レジアス・ゲイズ中将による管理局の防衛思想に関しての表明も行なわれました〉
そのアナウンサーの言葉と共に、周囲の空気が変わった――パスタを口に運んでいた手を止め、マスターコンボイが顔を上げると、なのは達は会話をやめ、皆ウィンドウに注目している。
不思議に思い、マスターコンボイもまたウィンドウに視線を向けると、そこには恰幅のいい中年の管理局将校が声高に演説しているところが映し出されていた。
〈魔法と技術の進歩と進化、素晴らしいものではあるが……しかし! それが故に、我々を襲う危機や災害も、10年前とは比べ物にならないほどに危険度を増している!
兵器運用の強化は、進化する世界の平和を守るためのものである!〉
「このオッサンはまだこんなこと言ってんのか」
「レジアス中将は、古くから武闘派だからな」
「………………?」
「あー、あの人はレジアス・ゲイズ中将。
地上本部の偉い人でバリバリの兵器運用推進派、とでも覚えておけばえぇよ」
映像の中で続く演説にヴィータやシグナムがそれぞれに意見をもらす――首をかしげるマスターコンボイに、はやては苦笑まじりにそう説明する。
「まぁ、言いたいことはわかるんやけどね……地上部隊の行動が後手に回りやすい理由のひとつに、深刻な人材不足があるんも事実やし。
優秀な魔導師は確かにおるけど、絶対数が足りてへん――兵器運用の強化は、それを解消する一番確実な方法やからな」
そう告げると、はやてはマスターコンボイやイクトに順に視線を向け、
「で……二人は今の演説聞いてどう思う?
立場的には管理局の“外”にいる、二人の意見をぜひ聞いてみたいんやけど」
「ふむ…………」
そのはやての問いに、イクトはしばし思考をめぐらせ、
「……危険、だな」
「危険……?」
つぶやくように答えたイクトの言葉に、フェイトが思わず聞き返し――
「やり方が強引過ぎるんだ」
そんな彼女にはマスターコンボイが答えた。
「確かに兵器の運用率が向上すれば、地上部隊の戦力は強化されるだろう。
だが……それは同時に“力で押さえ込む”ということでもある。
そんな態度に出ればどうなるか――オレは10年前に散々お前達から味合わされたからそれがよくわかるが、あの中将サマはその辺りがわかっていないと見える」
「なるほどな……」
「それに、実際の戦闘において、戦闘力の高さなどはカケラも意味がないんだ。
親指一本ひねってやるだけでも、人を悶絶させることは出来るんだ――要は持っている“力”の使いようだ」
うなずくはやてに答え、マスターコンボイは食事を再開し――
「あ、ミゼット提督……」
「え? ミゼットばあちゃん?」
ふと気づいたなのはの言葉に、ウィンドウに視線を戻したヴィータは映像のすみにかなりの歳の――「老齢」と言ってもいいくらいの様子の女性が座っている姿を発見した。
見れば、彼女のとなりにもさらに二人、高齢の男が局の将校制服を身にまとって座っていて――その姿に気づき、フェイトがつぶやく。
「あ、キール元帥と、フィルス相談役もご一緒なんだ……」
「………………?
何者だ? あのジジババどもは」
「ま、マスターコンボイさん! そんなこと言っちゃダメですよ!
管理局の黎明期から、今の形まで整えた功労者――“伝説の三提督”とまで言われる、スゴイ人達なんですよ!」
「ほぉ……」
あわててたしなめるなのはの言葉に、マスターコンボイは感心しながらウィンドウへと視線を戻した。
なのはの話から、自分の中である疑念が頭をもたげるのを感じながら。
(それほどの人材を前に、そこまで言い切るか……
レジアス・ゲイズ……貴様のその自信は、一体どこから来る……?)
違和感はかすかな“イヤな予感”へと形を変えるが――今ここで詮索しても意味がない。何かあるなら、それが表面化してから叩けばいい、などと人のことを言えない武闘派的結論に到達し、マスターコンボイはパスタをすくい、口の中に放り込んだ。
「貸すのはいいけど、コケさすなよ」
一方、こちらは隊舎ガレージ前――バイクの点検をしながら、ヴァイスは私服姿のティアナにそう告げた。
バイクの免許を持つティアナが、スバルと出かけるために貸してほしいと願い出たのだ。
「プロテクターは持ってんのか?」
「自前のオートバリアです」
「そっか」
答えるティアナにうなずき返し、ヴァイスは点検を続け――その手を止めないまま、ティアナに告げる。
「しかし何だな。屋上でヘリの整備とかしてると、お前らの訓練がよく見えるんだけどよ――最近お前、立ち回りがちょっと変わったよな」
「そう……ですか?
あまり自覚はないんですが……」
「ま、あんな“地獄の特訓”やってりゃ、自覚する余裕もねぇか」
“地獄の特訓”――おそらくはなのはではなく、イクトの訓練の方を言っているだろう。思わずティアナが苦笑するが、ヴァイスはかまわず続ける。
「お前、今まではシングルでもチームでもコンビでも、動きが全部同じだったけどよ……最近はだいぶ、臨機応変になってきてるように見えるぜ。
センターらしい動きになってきたんじゃないか?」
言って、ヴァイスは試しにバイク始動――エンジンを回してみた上で改めて各部をチェックし、
「……よし、いい調子だ」
満足げにうなずいて、キーを投げ渡す――それを受け取ると、ティアナはヘルメットとゴーグルを身につけてバイクにまたがり、
「…………あの……これ、聞いちゃいけないことだったら、申し訳ないんですけど……」
「………………?」
いきなり申し訳なさそうに切り出したティアナに、ヴァイスは眉をひそめる――そんな彼に対し、ティアナは尋ねた。
「ヴァイス陸曹って、魔導師経験ありますよね?」
「まぁ、オレは武装隊の出だからな。
ド新人に説教くれられる程度には、よ」
ウソだ――半ば直感的にティアナはそう感じていた。
なのはやイクト、そしてライカ――彼らの訓練はどれも一流レベルと言って差し支えのないものばかりだ。そんな訓練の様子を見ながら、さっきのようなコメントが言える人物が“ド新人に説教くれられる程度”のレベルのはずがない。
「……とはいえ、昔っからヘリが好きでな。
そんで、今はパイロット、ってワケだ」
しかし、だからこそ、彼にとってこの話題はウソをついてまでごまかしたいものなのだとわかる――だから、続けるヴァイスの言葉にツッコむこともせず、ティアナはただ無言でうなずいてみせる。
「ほれ、相方が待ってんだろ。行ってやんな」
「はい。
ありがとうございます!」
告げるヴァイスに答え、ティアナはバイクを発進させる――走り去る彼女の姿を、ヴァイスはしばし見送っていたが、
「…………で、そちらさんはいつまでのぞき見してるつもりだ?」
「あ、あはは……
別にのぞき見するつもりはなかったんだけどね。来てみたらたまたま……」
告げるヴァイスに応え、アスカは苦笑しながらシャッターの前から姿を現した。
「で? こんなところで何してんだよ? お前さんだってオフだろ?」
「あー? ひっどいなー。
それ言うならヴァイスくんだって今日はお空はスプラングに任せて一日オフじゃない」
ぷぅと頬をふくらませ、そうヴァイスに答えたアスカはすぐに笑顔に戻り、
「そんなワケで、二人そろってオフなワケだし……いつぞやのティアちゃんの特訓の時、アドバイスをくれたお礼に誘おうと参上したワケなのよ」
「………………」
そう告げるアスカの言葉に、ヴァイスは軽くため息をつき、
「…………本音は?」
「スバルとティアちゃん、エリオくんとキャロちゃんでお出かけすることになって、相方がいなくて寂しいの♪
どうかお付き合いくださいませ! お願い! この通り!」
「ったく、それでなんでオレだかねー……」
「オフで連れ回せるのがヴァイスくんだけだったから」
「帰る」
「あぁぁぁぁぁっ! ごめんなさい!
調子こきました! 図々しいこと言いました! 謝るから“たったひとりで遊びに行く”なんて寂しいマネさせないでぇっ!」
クルリときびすを返したヴァイスの腰にすがりつき、アスカは半泣き状態で制止の声を上げる。
「ねぇ、いいでしょ?
ティアちゃんの件でのお礼がしたい、っていうのも本当だし」
「ったく……」
シュンと肩を落とし、上目遣いで尋ねるアスカの言葉に、ヴァイスは軽くため息をつき、
「……わかったわかった。
ちょっと待ってろ。スプラングに留守番の申し送りして、支度してくるからよ」
「やったーっ!」
その言葉と同時、態度を一変させて大喜び――まるで子供のように表情をクルクルと変えるアスカの姿に苦笑し、ヴァイスは申し送りのために屋上へと向かうのだった。
「ハンカチ、持ったね? IDカード、忘れてない?」
「えっと……大丈夫です」
ライトニングの方はといえば――現在フェイトがエリオの身だしなみのチェック中。服を整えながら尋ねるフェイトに、エリオは若干恐縮しながらもうなずいてみせる。
「……あ、お小遣いは足りてる?
もし、足りなくなったら大変だから……」
「あ、あの、フェイトさん……」
正直、心配してもらえるのは悪い気はしないが――しかし、それもここまで来るとさすがに気が引ける。ポケットから自分の財布を取り出そうとしたフェイトに、エリオはあわてて待ったをかけた。
「その、ボクも、もうちゃんとお給料をいただいてますから……」
「あ、そっか……」
「だから、大丈夫です。ありがとうございます」
とりあえず“お小遣い”は思いとどまってくれたようだ。納得するフェイトにエリオが頭を下げ――
「まったく、どこまでも過保護だな、貴様は」
そんな二人のやり取りに、新聞に目を通していたイクトは苦笑まじりに口をはさんできた。
「けど……イクトさんは心配じゃないんですか?」
「心配だぞ」
あっさりと答え、イクトは新聞に視線を落とし、
「だが……同時に信頼もしている。
信じてやるのも重要だ――かまってやるばかりが、親の仕事ではないぞ」
「そういう、ものでしょうか……?」
「そういうものだ」
まだ納得がいかないのか、軽く口をとがらせるフェイトにイクトが答えると、
「ごめんなさい。お待たせしました!」
そんな彼らに声をかけ、支度を終えたキャロがパタパタと駆けてきた。
だが――
「あれ……?
キャロ、その服、どうしたの?」
「アスカさんがくれたんです。
子供の頃のお古をベースに、『私に似合うように』って手直ししてくれて……」
彼女の白と桃色を基調としたその私服は、フェイトにとって見覚えのあるものではなかった。首をかしげて尋ねるフェイトに、キャロはそう答え、
「あの……変、でしょうか……?」
「ううん、そんなことない。
キャロによく似合ってる――アスカさん、いいセンスしてるね」
本当にキャロのイメージにピッタリの服に仕上がっている――思わず不安げに尋ねるキャロに、フェイトは笑顔でそう答える。
「エリオくんは……どう?」
「う、うん……よく似合ってるよ、キャロ」
しかし、キャロにとって一番反応が気になるのはフェイトではなくエリオだった。そのエリオからもお墨付きをもらい、キャロが満面の笑みを浮かべる様子を見守り、イクトとフェイトは笑顔で顔を見合わせた。
「じゃあ、転ばないようにね」
「大丈夫です。
前の部隊にいた頃は、ほとんど毎日乗ってましたから」
「ティア、運転うまいんです♪」
隊舎前のロータリーでティアナがスバルと合流、出発準備の整った二人は、ライカと共に見送りに来てくれたなのはに笑顔でそう答える。
「あ、お土産買ってきますね! クッキーとか!」
「うれしいけど、気にしなくていいから、二人で楽しく遊んできなね」
ふと思い立ち、提案するスバルになのはが答えると、
「土産なら本屋で四季報の最新号を頼む」
「って、また脈絡もなく出てきた上に渋いお土産頼むわねー、アンタも」
こちらに向けて階段を下りながら告げるのはマスターコンボイ――ため息をつき、ライカがツッコむがどこ吹く風だ。
「だいたい、マスターコンボイだってお休みでしょ? 遊びに行かないの?」
「興味がわかん」
尋ねるライカにあっさりと答え、マスターコンボイはスバル達のまたがるバイクへと視線を向け、
「しかし、貴様がバイクに乗れたとはな。
オレはいつも移動はビークルモードだからよくわからんが……そんなにいいものか?」
「気持ちいいですよー♪……あたしは後ろに乗ってるだけですけど。
マスターコンボイさんも、今度ヴァイス陸曹から借りて乗ってみたらどうですか?」
首をかしげるマスターコンボイにスバルがそう提案するが、
「あー、マスターコンボイにはムリよ」
「何…………?」
答えたのは本人ではなくティアナ――彼女の言葉に、マスターコンボイは思わず眉をひそめた。
「『ムリ』とはどういうことだ?
実際に乗ってみなければわかるまい」
「いや、だって……」
聞き返すマスターコンボイの言葉に、ティアナはマスターコンボイの頭から爪先まで何度も見渡し、
「ヒューマンフォームのその背丈じゃ、どう考えたって足が届かないでしょ?」
「な………………っ!?」
その言葉に、思わずマスターコンボイが言葉を失い――そんな彼の姿に、一同の間から笑い声が上がる。
「まぁ、今日のところはガマンして。
お土産、ちゃんと買ってきてあげるから♪」
「じゃ、行ってますね! なのはさん、ライカさん、マスターコンボイさん!」
スバルと共にそう言い残し、ティアナはバイクを発進。街の方へと繰り出していく――その後ろ姿を見送り、なのははライカに声をかけた。
「『足が〜』だって。
ティアナも、マスターコンボイさん相手に言うようになったみたいですね」
「まぁ、ね。
一時期の過剰なまでの執着ぶりも落ち着いてきたようだし、いい傾向なんじゃない?」
なのはの言葉に肩をすくめ、ライカもまたそう答え――
「いいワケあるか……!」
一方で怒りに燃えるのがマスターコンボイである。
「『足が』……『届かない』だと……?
アイツめ……! 人が一番気にしてる、この形態での背丈の話を……!
よほどオレの怒りを買いたいと見える……!」
「え、えっと……マスターコンボイさん?」
完全に目が据わっている――思わず一歩後ずさりしながら、なのはが恐る恐る声をかけるが、背後に炎でも立ち上っていそうな迫力のマスターコンボイの耳には届かない。
「…………いいだろう……!
オレだってバイクが乗れるということを! 足の長さが戦力の決定的差でないことを教えてくれるわぁっ!」
「え、あ、ちょっと、マスターコンボイさん!?」
思わずストップをかけるなのはだったが――頭に血が上ったマスターコンボイはかまわず走り去っていってしまった。
「まったく……どこ行くつもりなんだろ……」
しかし、マスターコンボイが向かったのは街の方でもガレージでもない。行き先がわからずなのはが首をかしげていると、そんな彼女のとなりでライカがつぶやくように答えた。
「バイクを“呼びに”行ったんでしょ」
「………………?」
その後、エリオやキャロもフェイトとイクトに見送られて外出。見送りを終えたなのは達は4人そろって隊舎へと戻ることにした。
と――そんな彼女達の前方から、シグナムとヴィータがやってくるのが見えた。
「シグナム……?」
「ヴィータちゃんも……
二人とも外回り?」
「あぁ。
108部隊と聖王教会にな」
「ナカジマ三佐が合同捜査本部を作ってくれるんだってさ――その辺の打ち合わせ」
尋ねるフェイトとなのはに、答えるシグナムのとなりでヴィータが後に続く。
「で、あたしはプラス向こうの魔導師の戦技指導。ビクトリーレオと一緒にな。
まったく、教官資格なんて取るもんじゃねぇな」
そう続け、ヴィータは肩をすくめるが――その言葉とは裏腹に、彼女の表情はどこか楽しそうだ。
「捜査周りのことなら、私も行った方が……」
「準備はこちらの仕事だ」
一方、捜査主任としてシグナムに対し名乗りを上げるのはフェイト――しかし、そんな彼女にシグナムはあっさりとそう返してきた。
「お前は指揮官で、私はお前の副官なんだぞ。
あまり、私の仕事を奪ってくれるな」
「で、でも……痛っ!?」
なおのシグナムに食い下がろうとしたフェイトだったが――そんな彼女の頭がイクトによって軽く小突かれた。
「そのくらいにしてやれ、テスタロッサ。
いつもいつも交代部隊の指揮ばかりで、ロクにライトニングの業務に関われていないんだ。たまに回ってきた正規の業務くらい、やらせてやってもバチはあたるまい」
「そ、それは、まぁ……」
イクトの言葉にしぶしぶ納得するものの――フェイトは一転、イクトに詰め寄って、
「それはそうと、イクトさん!
また『テスタロッサ』って! 名前で呼んでくださいよ!」
「い、いや、しかしだな……」
「しかしもカカシもありません!」
苦手な話題を振られ、さすがのイクトも思わずたじろぐ――そんな彼に詰め寄り、フェイトはさらに追い討ちをかける。
「私からもはやてからも何度も言われてるのに、未だに名前で呼んでくれないんですから……
やっぱり、一度砲撃で吹っ飛ばさないとダメなのかな……なのはが私にしたみたいに」
「……そんなことしたのか? お前」
「そ、そんなワケないですよ!
たまたまそういう流れになった、っていうだけで……!」
フェイトのつぶやきに冷たい目線を向けてくるイクトに、なのははあわてて弁明の声を上げる――そんな彼女達の様子に、ヴィータとシグナムは顔を見合わせ、同時に肩をすくめてみせた。
《最初のリミッター解除、無事に済んでよかったですねー♪》
「はい♪」
その頃、デバイスメンテナンスルームでは、シャリオとリインが作業しながら談笑中――安堵の息と共に告げるリインの言葉に、シャリオは笑顔でうなずいてみせる。
「明日からは、4機の調整であわただしくなりますし、今のうちに、なのはさんとレイジングハートさんの限定解除モード“エクシードモード”の最終調整もしておきたいところですね」
《バルディッシュのザンバーもですね》
「忙しいですねー♪ 楽しいですねー♪」
リインの言葉に本当に楽しそうにそう答え――ふと思い立ち、シャリオはリインに提案した。
「そういえば、リイン曹長も、そろそろ完全チェックとかしときましょうか?」
《あ、そうですね!
お願いするです!》
答え、リインはメンテナンスポッドの設置された作業台へ――ふわり、と舞い降りると、チェックの準備のために制服を脱ぎ始める。
「最近は、どなたともユニゾンされてないんですよね?」
《ですねー。
はやてちゃんはもちろん、シグナムもヴィータちゃんも、私を使うほどの状況にはならないですし》
「それ自体は、いいことなんですけどね」
答えるリインにうなずき、ポッドの準備を進めるシャリオだったが、そんな彼女に、一足に準備を終えたリインは少しマジメな表情で続ける。
《でも……いざという時に働けなくては、“祝福の風”の名が泣きますから……》
そう答え、自分の魔導書“蒼天の書”を顕現させるリインの脳裏によみがえるのは、かつての“擬装の一族事件”の顛末だ。
別に、あの時リインの調整が不完全だったワケではない。だが――“初手の遅れが最悪の事態を招いた”という意味では、今まさにリインが危惧した危険性の典型的な事例と言える事件だった。
あの時、自分達がもっと迅速に動けていれば、“擬装の一族”達にもっと違った未来を用意できたのかもしれない――そんな想いは今でも常にある。
だからこそ、同じ悲劇を繰り返さないためにも、常に備えを万全にして、即時対応を可能にしておかなければならない。
そのために――
《だから、私や“蒼天の書”のメンテナンスチェック、よろしくですよ、シャーリー♪》
「はい♪」
「ぅっひゃあっ! 楽しい〜っ♪」
「ちゃんとつかまってなさいよ!」
街に続く郊外の峠道をバイクで疾走――後ろで本当に楽しそうに歓声を上げるスバルにティアナもまた笑顔で告げる。
「天気もいいし、絶好のツーリング日和ね!」
「うん!
このままずーっと走っていきたいね!」
「予定変更してもいいけど、今日は街で遊ぶんでしょ?」
「えへへ……とりあえず街に出て、アイス食べながら考えよー♪」
聞き返すティアナにスバルがそう答えた、その時――
「………………あれ?」
最初に気づいたのはティアナだった。
バックミラーに、後ろから猛追してくるバイクの影がちらついたからだ。
「どしたの?」
「いや、後ろから、誰か……」
「後ろ……?」
自分の問いに答えるティアナの言葉に、スバルは思わず首をかしげた。
「『後ろ』、って、この道って六課本部に通じる一本道だよ?
あたし達以外に、バイクで出かけるような人っていたっけ?」
「ヴァイス陸曹かな……?」
確か自分が借りたこのバイク以外にも所有していたはずだし、六課割当の官用バイクの管理をしているのも彼だ。スバルに答え、ティアナはバックミラーの角度を調整して後方の車両の正体を確認してみる。
顔はフルフェイスのヘルメットに隠れてよく見えないが、体格から自分達よりもかなり小柄であることがうかがえ――
「――って、まさか!?」
そこまで確認したところで、相手の正体に思い至った。よく見れば服装も別れる直前に見たそれと同一だと気づき、ティアナは思わず声を上げ――
「何をモタモタしている!?
先に行かせてもらうぞ!」
そんな二人を、バイクに乗ったマスターコンボイが追い抜いていく!
「ま、マスターコンボイさん!?」
意外な人物の登場に驚き、スバルは思わず声を上げ――同時に疑問もわき上がる。
「け、けど、マスターコンボイさんの乗れるバイクなんて六課に……!?」
ティアナが『背丈が足りない』と指摘したのは決して冗談ではなく、事実にもとづいたものだ。そんな彼がどうやってバイクに乗っているのかと首をかしげるスバルだったが――その疑問はすぐに解けた。
「――って、そのバイク、ガスケットさんじゃないですか!」
「パラリラパラリラぁ〜♪」
そう。マスターコンボイが乗っているのはビークルモードであるバイク形態にトランスフォームしたガスケット――なのは達の元を離れた後、マスターコンボイは訓練場でシグナルランサーから避難誘導の訓練をしぶしぶ受けていた暴走コンビの元に突撃。ガスケットを連れ出してティアナ達を追跡してきたのだ。
そして――
「待ってほしいんだなぁっ!」
ガスケットがいるということは当然彼も――見事なドリフトでティアナ達を追い抜き、ビークルモードのアームバレットも彼らを追いかける。
「見たか!
オレだってその気になれば、バイクの1台や2台!」
「って、それ、ガスケットがアンタを乗せて走ってるだけでしょーが!」
「んー、後ろから何か聞こえるなー♪
後でゆっくり聞いてやるさ! “後で”な! はーっはっはっはっ!」
「パラリラパラリラぁ〜♪」
「待ってほしいんだなぁっ!」
ツッコむティアナの言葉も、勝ち誇って浮かれているマスターコンボイには届かない――彼を乗せたガスケットが一気に加速、後を追うアームバレットと共に一足先に街へと向かう。
「よっぽど悔しかったんだね。ティアに『ムリだ』って言われたの……」
「そ、そうね……」
むしろ気にしているのは『バイクに乗ろうにも背丈が足りない』と言われたことだろうが。
ともあれ、スバルの言葉に思わず苦笑し――そんなティアナの口元の笑みが不敵なそれへと変わった。
「でも……このまま抜かれっぱなし、ってのはナシよね?」
「とーぜん!
ティア! 腕の見せ所だよ!」
「えぇ!
しっかりつかまってなさいよ!」
声援を送るスバルに答え、ティアナは一気にバイクを加速させた。
スバル達スターズ・フォワードがそんなことをしている一方、ライトニング組はというと――
「えっと……シャーリーさんが作ってくれた今日のプランは……」
現在は駅でレールウェイの到着待ち。つぶやき、エリオはストラーダに記録していた“本日のスケジュール”を確認する。
「『まずはレールウェイでサードアベニューまで出て、市街地を二人で散歩。ウィンドウショッピングや、会話などを楽しみ』……」
「『食事はなるべく雰囲気が良くて会話の弾みそうな場所で』……」
脇からのぞき込んできたキャロも予定を読み上げ、二人は思わず顔を見合わせる。
「成功を祈るわ♪」などとこのデータを用意してくれた際のシャリオの顔が脳裏によみがえるが――何を持って“成功”とすればいいのか、残念ながら二人には皆目見当がつかない。
というか、二人にさせるには明らかに対象年齢が届いていないプランだ。“余計なお世話”にも程がある。
「な、なんだか難しいね……」
「う、うん……」
案の定、このプランの持つ意味に思い至らず、エリオもキャロも首をかしげるばかりだが――
「と、とりあえず、順番にがんばってみよう」
「うん!」
それでも素直に信じてしまうのが二人だ。気を取り直して告げるエリオの言葉にキャロがうなずき、二人はちょうどやってきた列車へと乗り込む。
幸い空いている席を見つけ、座ることができたところで、エリオはふと思い出してキャロに尋ねた。
「そういえば……キャロの竜って、フリードの他にもう一騎いるんだよね?」
「うん。
“ヴォルテール”……黒くて、すっごく大きな竜」
話題に挙がったのはキャロやフリードの“仲間”について――尋ねるエリオに、キャロは笑顔でうなずいて説明を始める。
「フリードは、私が卵から孵して育てたんだけど、ヴォルテールは、アルザスの土地に憑いてる古い守護竜なの。
だから“わたしの竜”って言うより、わたしがヴォルテールの横で、力を貸してもらってるというか……そんな感じ」
「そっか……
フリードみたいに紹介してもらえたらうれしいんだけど、そんなに偉大な竜なら、わざわざ来てもらって、あいさつだけ、ってワケにもいかないよね……」
「うん……
大きさも大きさだし、ヴォルテールの力を借りるのは、本当に危険な時だけだから……」
恐縮気味につぶやくエリオに思わず苦笑し、キャロはそれでもエリオに約束する。
「でも、いつかきっと、紹介するよ。
フリードもね、エリオくんのこと、ホントに友達だと思ってるみたいだから……」
「そっか……
なんだかうれしいな」
「だからね、ヴォルテールとも、きっと仲良くできると思う」
「うん!」
キャロの言葉にエリオが笑顔でうなずき――ちょうどそこで、車内のアナウンスがサードアベニューへの到着を告げた。
「にゃはは……♪
やっぱりここのアイスは見た目からして素敵だぁ〜♪」
「まったく……何を締まりのない顔をしているんだ、みっともない……」
競い合うようにしてクラナガン市街に到着。スバルがオススメのアイスショップへ――五つのテイストを絶妙なバランスで積み上げた自分のアイスを前に相好を崩しまくりのスバルの姿に、ヒューマンフォームのまま先に購入を済ませていたマスターコンボイは思わずため息をつき、
「ホント、アンタってばアイス好きよねー」
「好き好き、大好き〜♪」
苦笑するティアナにスバルが答え、3人は近くのベンチに腰かける。
「じゃあ……」
「うん。
乾杯、と♪」
そして、ティアナとスバルはアイスを軽く突き合わせ――戸惑いながらもマスターコンボイもそれに倣う。
「しかし、薦められるままに買ったが、ココア味、か……」
「そだよー♪
“師匠”オススメ! きっとマスターコンボイさんも気に入るよ♪」
「オレとヤツの嗜好が似通っていれば、な」
自信タップリに答えるスバルの言葉に、マスターコンボイは軽く肩をすくめる――そんな彼のとなりで、スバルは勢いよくアイスにかじりつき、
「う〜ん、おいしー♪」
「……ふむ…………」
満面の笑みを浮かべるスバルの姿をしばし観察し、マスターコンボイは自分のアイスへと視線を戻す。
「…………よし」
「あ………………っ!」
そして、意を決して大口を開ける――意図に気づいたティアナが制止の声を上げるよりも早く、勢いよくアイスにかぶりつき――
「――――――っ〜〜〜〜〜っ!」
「だ、大丈夫、マスターコンボイさん!?」
「あー、もう、何してんのよ。
スバルと違って慣れてないのに、そんな食べ方するから……」
強烈な冷たさが脳天を直撃――カキ氷を勢いよく食べた時にも通じるあの「キ〜ンッ!」という頭痛に襲われ、頭を抱えるマスターコンボイに対し、それを見てあわてるスバルのとなりでティアナは思わずため息をつく。
「こんな食べ方して大丈夫なのはスバルだけなんだから――」
「えー? そんなことないよ?
ギン姉や師匠だってぜんぜん平気だし」
「……スバルとギンガさんと二人の師匠だけなんだから、マネしたって痛い目見るだけよ」
「…………肝に銘じておこう」
スバルのツッコミを受けて言い直すティアナの言葉に、マスターコンボイはまだ痛む頭を片手で抱えながらなんとか身を起こし、
「で? この後はどうするんだ?」
「え? この後?」
「さっき言ってただろ。
『アイスを食べてからその後のことは考える』と」
「あ、聞こえてたんだ……」
答えるマスターコンボイの言葉にそのことを思い出し、スバルはしばし考え、
「じゃあさ、これ食べたらゲーセン行かない?
せっかくマスターコンボイさんもいるんだし」
「あ、いいわねー♪
せっかくマスターコンボイもいるんだし」
「……ちょっと待て。
なぜオレがいると『せっかく』で遊技場行きになるんだ?」
『ロクな休みの過ごし方を知らないマスターコンボイ(さん)の勉強のため』
声をハモらせて答えられた。
「失礼な。
オレとて休みの過ごし方くらい心得ているぞ」
「ちゃんと休みの過ごし方をわかってる人は休日返上でデイトレードなんかしないわよ」
「………………」
ティアナに反論できなかった。
そして、そんな彼女達の傍らで――
「…………つ、疲れた……」
「だなぁ……」
ここまで全力疾走させられたガスケットとアームバレットが、労いゼロで放置されていた。
「あー♪ これなんかいいかなー?」
「お、いい目利きしてるじゃねぇか。
そいつ、なかなかの逸品だぜ」
上機嫌なアスカの問いに、彼女の手にした“それ”を品定めし、太鼓判を押す――今日一日大好きなヘリいじりで過ごすつもりだった休日の予定もアスカの誘いで急きょ変更。ヴァイスは彼女と共にショッピングへと繰り出していた。
そんな二人が現在物色しているのは――
「オレとしちゃ、こっちのインパクトドライバの方が使い勝手がいいんだがな――隊舎の整備班の間でも御用達だぜ」
「えー? でも、女の子が使うには少し重いよ?」
「あー、それでアルトが使わねぇのか……」
専門店の動力付工具コーナーだ。らしいと言えばらしいのだが、男女の外出先としては色気なんぞカケラも感じられない場所である。
それは彼も感じていたのか――ヴァイスは手にしたインパクトドライバを棚に戻すと軽く息をつき、
「しっかし、お前さんもこういうのに詳しいよな。整備員でもないってのに」
「一応、実家でいろいろ手伝ってたから♪」
「なんだ、お前んちって工場か何かか?」
「そういうワケじゃないんだけど……ウチの場合、家のいろんなものの維持管理はたいてい自分達でやってたからねー。
電子部品から大型機械まで、基本的なところならだいたいできるよ――こないだだって、JF704式の予備機、整備手伝ってあげたじゃない」
「まぁ、そりゃそうだがよ――おかげでその後、アルトが『仕事取られたーっ!』ってヘソ曲げたのも忘れんなよ?」
「ご心配なく。
ちゃーんと“翠屋”クラナガン店のシュークリームでご機嫌取りは完了です♪」
笑顔で答えるアスカの言葉に、ヴァイスは軽く肩をすくめ――ふと苦笑して告げる。
「やれやれ……お前さんも大した万能超人だよな。
いつぞやの教官の真似事もそうだけどよ、こういう技術職の分野でもそうとうじゃねぇか。
その上、本職の魔導師としてもあんな扱いづらいデバイス使って、成長著しい新人どもに一歩も引けを取ってねぇときた」
「レッコウのこと?
そんなに使いづらい子かなぁ? 他にも同じ運用方法のデバイス使ってる人知ってるよ?」
「そいつのランク、ぜってーAAA以上だろ。
いいか――“砲撃戦に極端に特化した魔法設定で、近接戦闘は武器としての本体の仕様に完全依存”なんてデバイス、使い勝手が悪いに決まってるじゃねぇか。
要は、斬り合いしながら砲撃戦も同時にこなす、ってことだぞ――しかも、お前さんはそこにアナライザーとしての分析作業もあるんだぜ。
ひとりで三役こなすなんて、どこのアシュラマンだよ」
「むむっ、甘いなー、ヴァイスくん。
アシュラマンは確かに顔と腕は3組あるけど、思考はひとつだけなんだよ」
「いや、ツッコむのはそこじゃねぇよ。
お前のレッコウが使いづらい、って話だろうが」
ピッ、と指を立てて答えるアスカにツッコむと、ヴァイスはため息をついて肩をすくめ、
「前にストームレイダーのメンテ頼みに行った時、シャーリーがボヤいてたぜ。
『必要出力レベルはBランク級なのに、扱いの難しさと来たらAAAランク級。
使い手に平気で限界を要求するスパルタデバイスだ』ってな」
「ひっどいなー、人の相棒に向かって」
ヴァイスの言葉に口をとがらせ、、アスカはつぶやきながら頭をかき、
「あたしだって、ちゃんと練習してるんだよ。
でないと、“残りの子達”と一緒になんて扱えないし……」
「……“残りの子達”?」
「………………あ」
本当に何気なく口にしてしまったのだろう。気になる単語を拾ったヴァイスの言葉にアスカは「あっ」と口元を押さえるがもう遅い。
「……みんなには、ナイショだからね。
一応申請は通してあるから問題ないけど、みんなにはいきなり見せて驚かせてあげたいんだから」
「わかったわかった」
人さし指をツンツンと付き合わせ、上目遣いで見上げてくるアスカに苦笑し、ヴァイスは答えて彼女の頭をなでてやる。
「とはいえ、聞いちまった以上は気になるな。
どんなのが後に控えてるんだよ?」
「フフフ、全部は教えられないなー♪」
尋ねるヴァイスに答えると、アスカは自分の手にしていた電動ドライバを棚に戻し、
「けど……次の子は割とすぐに紹介できるかもね。もうロールアウトも間近だし♪」
そういうと、アスカはヴァイスの右腕に自らの左腕をからめる――右腕を抱きしめられるような、まるで恋人同士のような体勢にヴァイスが顔を赤らめるが、
「ほら、次行こう!
次はいつ休めるかわかんないんだもん! 今日はとことん楽しむよーっ♪」
「…………はいはい」
当のアスカはまったく気にしていないようだ――自分の照れすら吹き飛ばすような無邪気な笑顔に、ヴァイスは苦笑まじりにうなずきながら彼女の後に続いた。
「んー、おいしー♪」
「うんうん。
それは何よりね♪」
一口食べるなりの手放しの賛辞についつい顔がほころぶ――口にしたケーキの美味しさに満面の笑みを浮かべるかがみに、知佳は笑顔でそう答える。
「いやー、みんながお休みで助かったよ。
シグナムは六課の方が抜けられないし、恭也くんは甘いものが苦手だし……試食を頼める人がいなくて困ってたの」
「私達の休みは、渡りに船だった、ってことですか……」
「でも、おかげでこんなに美味しいケーキが食べられるんだから、ラッキーだよねー♪」
知佳の言葉にみゆきやつかさが答えると、
「けど、こんなにおいしいと後で体重計が怖い人が若干1名♪」
「うっさいわね!」
茶化すのはもちろんこなただ。思わず顔を赤くして、かがみはこなたにツッコミを入れ――
「…………イリヤ?」
「あ、ううん、なんでもないから」
こなたの言葉に思わず自分のお腹へと視線を落としたイリヤは、気づいた美遊にあわてて答える。
と――
「まぁ、こなたじゃないが、食べたからにはその分動いておいた方がいいだろうな」
そう答え、恭也はこなた達の前に淹れたてのコーヒーを出していく。
「最近は訓練が中心なんだって?」
「そだねー。
トリプルライナーの調整とかも兼ねて、模擬戦とかをガッツリ」
「まぁ、それでもトリプルライナーの実戦投入はもう少し先になりそうですけど」
恭也に答え、こなたとかがみはコーヒーをすする――となりでつかさが一口すするたびに砂糖を足しているのはとりあえずスルーしておく。
「できることなら、ウチのなのは達の力になってもらいたいが……難しいんだろうな」
「はい……
今回の事件、その“裏”側の事情から、民間人のゴッドマスターであるこなた達をうかつに合流させられない……だから、むしろそれを利用して、管理局を隠れみのにしている部分を私達であぶり出そう、というのが、現時点での基本方針で……」
恭也のつぶやきに申し訳なさそうに答えるのは美遊だ。
「ま、だいじょーぶだいじょーぶ♪」
「私達と機動六課、表と裏からのサンドイッチで、スカリエッティなんかケチョンケチョンにしてやるんだから♪」
「そうか。それは頼もしいな」
一方、自信満々なのがイリヤとこなた――二人の言葉に、恭也は笑顔でうなずいてみせる。
(とはいえ……かつては柾木ですら殺されかけたというほどの相手……そんなに簡単にいくとは思えないが……)
無論、そういった不安も皆無ではないが――
(……だが……きっと大丈夫だな。
この子達の目は……力はとても真っすぐに伸びてきてくれている。
この子達となのは達……それぞれがそれぞれの場所で力を出し切れば、きっとどんな相手にだって……)
我ながら楽観論だとは思うのだが――彼女達を見ているとなぜかそんな気持ちに、信じてやりたいという気持ちにさせられる。内心で苦笑し、恭也はこなたのコーヒーカップが空になったのに気づき、お代わりを用意すべく豆の準備に取りかかった。
一方、機動六課本部隊舎では――
《はやてちゃーん、ただいまですー♪》
「おかえりー♪」
部隊長室でビッグコンボイと事務仕事を片付けていたところに相方がご帰還――笑顔で戻ってきたリインに対し、はやては笑顔で迎え入れる。
「メンテナンスチェックとかしてたん?」
《はいです。
私と“蒼天の書”のフルチェック、問題なしでーす♪
で、今シャーリーはトランスデバイスのみんなのチェック中で……はやてちゃんのシュベルトクロイツと“夜天の書”、それにビッグコンボイのシュベルトハーケンも、シャーリーが後で受け取りに来るそうですよ》
「ん。了解や」
答えるリインの言葉にうなずき、はやては引き出しにしまっておいた剣十字のペンダント――待機状態のシュベルトクロイツを取り出し、“夜天の書”も顕現。ビッグコンボイもまたはやてのシュベルトクロイツと同デザインの待機状態をとっているシュベルトハーケンを取り出す。もちろん、シャリオでも持ち運べるようサイズシフトでサイズを縮小するのも忘れない。
「……今日は一日、のんびりすごせるとえぇんやけどな」
「まったくだ」
本当なら、この子達が活躍しないで済むような状況が一番望ましいのだが――そんなことを願いつつ、自らのデバイスを軽くなでながら告げるはやてに、ビッグコンボイもまた同じ想いを抱きながらうなずいて――
「落ち着け、テスタロッサ!
エリオ達が心配なのはわかるが、待機シフトだろう!」
「けど、二人ともクラナガンは初めてなんだよ! 何かあったら……!」
「わかった!
それならオレが様子を見に行く! それなら問題ないだろう!」
「そんなの二次災害が起きるだけじゃないですか!
それならイクトさんが残って、私が行った方が!」
「いや、アイツらの“力”を追えばたとえ迷おうがたどり着ける……はずだ!
だから、ここはオレが!」
「ぜんぜん安心できませんよ!
やっぱり私が!」
「オレが!」
「私が!」
『………………
……よし、二人で行こう!』
「二人とも何バカ言ってんのさーっ!?」
「…………アイツらときたら……
どいつもこいつも、いい年をして……少しは落ち着いてほしいものだな……」
中庭から聞こえてきたのはフェイトとイクトのやり取りと結論に対するジャックプライムのツッコミ――ちっとものんびり過ごせてない面々の声に、ビッグコンボイは思わずうめいて――
「……まぁ、のんびりせぇへんとバッチリ関係を進展させてほしい子達もいるにはいるんやけどなー♪」
「…………でないと、こうしてウチの相方の“オヤジモード”がまた起動するんだからさ……」
二人のやり取りにアヤシイ笑みを浮かべるはやての姿に、ビッグコンボイは心からのため息と共にそう付け加えた。
《ヤだヤだヤだぁっ!
フルチェックなんか後でいいでしょ!? スバルと遊びに行きたいぃ〜っ!》
「はいはい、ワガママ言わないの」
「そうだよ。シロくん。
ちゃんとメンテナンスを受けなくちゃ」
先ほどリインがはやてに告げた通り、現在デバイスメンテナンスルームではシャリオによるGLXナンバーの健康診断の真っ最中――左肩の液晶画面で駄々をこねるシロの癇癪に、ロードナックル・クロとシャリオはなだめるように言い聞かせる。
「『後でいい』などというセリフは、日頃からメンテナンスを正規に受けている者のセリフだぞ、兄よ」
「ジェットガンナーの言う通りでござるぞ、シロよ。
拙者達がデバイスである以上、いついかなる時も、備えを万全にしておかねばならぬ」
《そ、それはそうだけど……》
ジェットガンナーやシャープエッジもシロを説得する側だ。自分でも自覚はあるのか、映像の中のシロは肩を落としてつぶやいて――
「そうだぞ、シロ」
さらにはアイゼンアンカーまで――彼の肩を叩くようなノリでロードナックル・クロの肩を叩き、
「ボクとしては別に遊びに行ってもいいと思うけど、そうなったらかなりの高確率でボクらが探しに行くようなめんどくさい事態になるんだから。
だから、ここはガマンしてね――主にボクのために」
《少なくともその理由には納得したくないんだけどね、ボク!》
あっさりと告げるアイゼンアンカーに、シロは態度を一転させて力いっぱい言い返す――いろいろな意味で台無しにしてくれる自分達の長兄の態度に、ジェットガンナーとシャープエッジは互いに肩をすくめ、ため息をつくのだった。
「…………あれ?」
アナライズルームの前を何の気なしに通りかかったところで、ライカは今日は今朝から見かけなかった顔が前方からやってくるのに気づいた。
「アリシア」
「あれ、ライカさん……?
ゴッドアイズに何か用?」
「いや、通りかかっただけだけど……」
首をかしげるアリシアにそう答え――ライカは逆に彼女に尋ねた。
「それより、どこ行ってたのよ?
今朝から姿を見なかったけど」
「あぁ、霞澄さんのトコに」
「108部隊に?
だったら、さっきシグナムとヴィータがスターセイバーやビクトリーレオを連れて向かったけど……」
「だから急いで戻ってきたの。
鉢合わせして、“コレ”を見られるワケにはいかないから」
言って、アリシアがライカに見せたのは、カメの甲羅をイメージさせるデザインのペンダント――
「それ……もしかして、“四神”の?」
「そう。
“四神”の2号機……“イスルギ”。
今のところ、六課でこの子の存在を知ってるのはあたし達だけだね……“四神”については後見人のレティ提督が直接所有許可を発行してるから、はやてだって知らないんだから」
その辺りの書類がはやての目に留まっていればわからないけど――そう付け加え、アリシアは周囲を見回し、
「ところで……この子のマスターさんは?
さっそく試してもらいたかったんだけど」
「あ、そっか……アンタは今朝いなかったから知らないのよね」
アリシアの言葉に、ライカはようやくそのことに思い至り、ポンと手を叩いて告げる。
「今朝、ようやくみんなの訓練が第2段階をクリアしてね――そのご褒美として、今日1日休みになったのよ。
ヴァイスを拉致ってたみたいだし……今頃街でショッピングでもしゃれこんでるんじゃない?」
「そっか……
じゃ、実働テストは帰ってきてからだね」
すぐにでも性能を見てみたかったのだが。どちらかと言えば興味本位で――肩をすくめ、アリシアが自分のデスクに腰を下ろすと、ライカもまた手近なイスに座り、
「しっかし、あの子がヴァイスとねぇ……意外と言えば意外かな?」
「んー、でも、兆候はあったんだよね。
ティアナの一件の時、何かと相談に乗ってもらってたみたいででね。それ以来何かと話すことが多くなって、いつの間にか……って流れ。
もっとも、二人ともまだ自覚症状はないみたいだけど。二人の認識としては、“仲のいい異性の友達”って感じかな?」
「ふーん……」
アリシアの答えに納得し――ライカは改めて尋ねた。
「で……このことをジュンイチは知ってるの?」
「知らないよ。
ってゆーか、知らせるワケにもいかないし」
あっさりと答え、アリシアは肩をすくめ、
「ジュンイチさんが知ってたら、大変なことになるって、絶対」
「そうね……」
アリシアの言葉に“その時”のことを思い描き――ライカは思わず顔をしかめた。
彼女とアリシアの脳裏に浮かぶのは、“そうなった時”に確定するであろう未来の光景――先に断言したのはライカだった。
「…………降るわね。血の雨が」
「それも土砂降りのが、ね……」
「はぁ……
なんだか、ホントのんびりだね……」
「うん……」
とりあえず、ライトニングコンビの休日はそろそろ折り返し――公園で一休みしながら、エリオはとなりでつぶやくキャロの言葉に静かにうなずいた。
世間的にも休日のため、公園の中には家族連れも多い。子供が親に甘えている姿を見ると、どうしても寂しい想いを抱かずにはいられないが――自分達にもかけがえのない人達がいる。そう思うとそんな寂しさはすぐに霧散してしまった。
「……キャロは、六課に来る前は、こういうお休みとか、過ごしてた?」
「実は、あんまり……
自然保護区に努めてると、あんまり街に出ることとかも、少なくて……」
「あ、そっか……」
少なくともキャロの場合、入局してからの職場が職場だっただけにそういうことは難しいか――マズイことを聞いてしまったかと一瞬後悔するエリオだったが、
「でも、フェイトさんに遊園地とか水族館とかに連れて行ってもらったことはあるよ」
「あ、ホント?
実はボクも」
結果として上手い具合に話が進んでくれたようだ。フェイトとの思い出を語るキャロに、エリオは笑顔で同意する。
「ジャックプライムさん、遊園地とかだと一緒になってはしゃいでるのに、博物館とか水族館とかだと『遊べないから』って退屈そうで……」
「エリオくんの時も?
それで、ゲームセンターに行こうとして、フェイトさんから『キャロにはまだ早いでしょ』って怒られて……」
「うん、そうそう。
ボクの時は、一度だけ二人で行ったことがあって……後でフェイトさんにバレて、二人一緒になって叱られて……」
同じことをしていても、やはりどこかしらに違いはある――二人の思い出話を交換し、エリオとキャロの表情からも自然と笑みがこぼれる。
と、その時、腕時計形態で待機しているエリオのストラーダが通信の着信を知らせた。
「はい、こちらライトニング3」
〈はーい、こちらスターズ3♪〉
「そっちの休日はどう?」
「ちゃんと楽しんでいるか?」
通信の主はスバルだった。ゲームセンターの入り口の脇で、マスターコンボイと共に、マッハキャリバーの通信機能でライトニング組の様子を尋ねる。
ちなみにティアナはまだゲームセンターの中――店に設置してあったサイズシフト設備のおかげで身体を縮小、入店することができたガスケットとガンシューティングで熾烈なスコアランキング勝負を繰り広げている。ちなみにアームバレットはギャラリーの盛り上げ役だ。
〈はい。まだ中盤ですけど、なんとか〉
「いや……なんか、困ってることとかないかなー、とか思っただけなんだけどね」
〈ありがとうございます♪〉
〈おかげさまで、ありません〉
そう謝辞を伝えてくるのはキャロだ。続いてエリオもそう答えてくる。
と、スバルの脇からマスターコンボイがエリオに呼びかける。
「こちらは今遊技じょ――」
「ゲームセンター、だよ、マスターコンボイさん」
「……ゲームセンターだ。
お前達は今どこだ? 予定がないのなら、スバル・ナカジマ達と合流するのも手だと思うが」
「『自分と』って言わない辺りがマスターコンボイさんだよねー」と小声で茶々を入れてくるスバルにはゲンコツを落としておく。
そんな彼らに、エリオ達は元気に答えてくるが――
〈えっと……予定通り公園で散歩して、これから、デパートを見て回って……そんな感じです〉
〈その後、食事して、映画見て、夕方には海岸線の夕焼けを眺める……ってプランを作ってもらってますので〉
『…………はぁ……?』
何と言うか、もう少し年上の男女が過ごす休日の予定ではないか――エリオや彼に付け加えたキャロの言葉に、スバルとマスターコンボイは思わず顔を見合わせる。
〈ちゃんと、順番にクリアしていきます!〉
「く、クリアときたか……
相変わらずバカ正直なヤツらだ」
このままでは、二人ともいつもの作戦行動のように“プランを消化すること”を念頭に動きかねない――弟分・妹分のマジメさに思わずため息をつき、マスターコンボイは改めて二人に告げた。
「よし、お前達の予定はよーくわかった。
その上で、オレからのアドバイスをくれてやろう」
《はい…………?》
「とりあえず、お前ら、こっちと合流しろ。スバル・ナカジマ達と遊んだ方がまだマシかもしれん。
それがムリだと言うのならかまわんが、少なくとも聞いていたプランは頭から外せ。それが最低限だ」
〈え? でも……〉
「他人の決めた予定で心から楽しめるものか――そう言ってるんだ」
やはり、自分達のために用意してもらったプランを放棄するのは気が引けるのか、反論しかけたエリオだったがマスターコンボイはピシャリと言い放つ。そんなマスターコンボイに苦笑しつつ、スバルはエリオ達に告げる。
「えっと……とりあえず、二人のしたいようにすればいいんだよ。
行きたいところに行って、やりたいことやって……そんな感じ。
せっかくの休みなんだもん。楽しまなきゃ♪」
〈は、はい……〉
〈がんばってみます……〉
「困ったことがあったら、いつでもこっちに連絡するんだよ。
街での遊びは、あたし達の方が先輩なんだからね」
《はいっ!》
元気に答えるエリオとキャロにうなずいて――「じゃあね」と通信を切るとスバルは思わず苦笑した。
「……『がんばる』だって。
なんか、あの二人、今度は“楽しもうとすること”に一生懸命になりそうだねー」
「まったくだ」
スバルの言葉にうなずき、マスターコンボイは軽く肩をすくめてみせる。
「あの二人――少しは休日の過ごし方を学ばせた方がいいかもしれんな」
「あー、マスターコンボイさんが言う?
ティアじゃないけど、一日デイトレードに費やそうとしたマスターコンボイさんも、休みの使い方、微妙に間違ってると思うよ」
「そうか……?
さっきも貴様らに言われたが、あまり自覚はないんだが」
「そうなの。せっかくの休みだもん。外に出て遊ばなきゃ。
だから、マスターコンボイさんには、あたし達が休みの過ごし方を教えてあげる!」
「やれやれ……気楽なことだ」
満面の笑みで告げるスバルの言葉に、マスターコンボイは軽くため息をつき、
「……しかし、それも何も事件が起きていないからこそ、か……」
「だね」
マスターコンボイにうなずき、スバルは人々がのんびりと行き交う街並みを見渡し、つぶやいた。
「このまま、今日一日事件とか、事故とか起きなきゃいいんだけどね……」
しかし、事件はともかく、事故はやはりどこかしらで起きてしまう。
そんな事故現場のひとつ――トラックが横転した現場に、六課に近しい人物の姿があった。
108部隊所属に所属する陸戦魔導師――ギンガ・ナカジマである。
「陸士108部隊所属、ギンガ・ナカジマ陸曹です。
現場検証の、お手伝いに参りました」
「ありがとうございます」
名乗り、一礼するギンガに対し、一足先に現場検証に取り掛かっていた所轄の局員もまた頭を下げて応える。
「横転事故と聞きましたが」
「えぇ……
ただ、事故の状況がどうも奇妙でして……」
「奇妙……?」
「運転手も混乱していてるんですが……どうも、何かに攻撃を受けて、荷物が勝手に爆発したとか……」
「うーん……」
局員の言葉に腕組みして考え込み、銀河は周囲に散乱したトラックの積荷を見渡した。
「運んでいた荷物は、缶詰や飲料ボトル……爆発するようなものじゃないですよね……?」
確かに妙な話だ――ギンガが首をかしげていると、局員はさらに付け加えた。
「それと……下の方に、妙な遺留品があってですね……」
言って、局員はその“遺留品”のひとつを目で示して――それを見たギンガは思わず眉をひそめた。
「…………ガジェット……?」
そう。
そこに転がっていた“遺留品”は大破したガジェットT型だったのだ。
しかし、ガジェットの出現も誰かしらの交戦の報告も聞いてはいない。どういうことかと首をひねっているうち、ギンガはそのすぐそばに何かの液体が水たまりを作っているのに気づいた。
少なくともトラックに積まれていた飲料のものではなさそうだ。点々と続く水たまりの先を視線で追っていき――その先にあったものを見て、ギンガは驚愕から目を見開いた。
「これは……“生体ポッド”……!?」
「アリシアから連絡。
スバル達、第2段階をクリアしたってさ」
「そっか」
その頃、ミッドチルダのどこか――そう告げるイレインの言葉に、ジュンイチはあくびまじりにうなずくと目の前の画面に表示されるデータの羅列に視線を戻した。
「思ったより、訓練の進みが加速してるな……
さすが我が教え子。飲み込みが早い上に周りまで引っ張るか」
「まぁ、スバル達だけでなくて、新人ズの全員が全員、何かしらの形であんたと顔合わせてるからねー。
そりゃタフにもなるでしょ」
「その意味を小一時間ほど問い詰めたいところだけど……まぁ、アイツらがタフなのはいいことだな」
イレインの言葉に思わずムッとしながらそう答え――ジュンイチは改めて彼女に尋ねた。
「ところで……今日は“もう一組の新人ズ”もクラナガンだよな?」
「らしいわよ。
久々の休みだから、恭也さんトコにケーキごちそうになりに行くんだって」
「恭也さんトコに?」
「そ。
なんでも、知佳さんの新作ケーキの試食を頼まれたんだって」
「ふーん……」
イレインの言葉に、ジュンイチはしばし考え込んで――
「……若干1名、今夜辺り体重計を前に泣きそうだな」
「それは思ってもツッコまないであげなさい」
思わず苦笑し、イレインは手近なシートに腰を下ろし、
「最近は大きなミッションもなくて、訓練漬けだったみたいだけど、その分かなりレベルアップしてるみたいよ。
みんなのデバイスも戦闘稼動が可能になったって話だし……だいぶ戦力が整ってきてるわよ」
「その辺の話じゃ、ある意味オレ達が一番出遅れてる感じはするかな」
イレインの言葉に苦笑すると、ジュンイチは傍らに置かれたマグカップを手に取り、その中に注がれたココアを口の中に流し込む。
「まぁ、現段階じゃスカ公達も戦力の完全投入には至ってないみたいだし、五分っちゃ五分なんだけどな。
“イグニッションフォーム”も、半分以上が戦線投入できてるし……」
そう言いかけた、その時――不意に端末のひとつがアラームを鳴らした。
その途端、ジュンイチの表情が変わった――すぐに目の前の端末に問題のデータを表示する。
「…………こいつぁ……?」
「ジュンイチ、まさか……」
「そのまさかだよ」
一方、同様にアラームの意味を知るイレインの表情も硬い。うなずき、ジュンイチは天井を見上げ、
「オメガスプリーム。
すぐにこのデータをミッションプランのデータに反映させてくれ」
〈デハ…………〉
「あぁ」
聞こえてきた電子的な音声にそう答えると、ジュンイチは息をつき、
「トータルミッションを“3rdステージ”に移行する」
〈了解イタシマシタ〉
オメガスプリームが了解を示すと、ジュンイチはさらに次々にデータを呼び出し、確認、修正を加えていく。
「“新人ズ”がクラナガンに集結しててくれるのは幸いだったな……
おかげですぐに対応できる」
「クラナガンで……すぐに対応……?」
そのジュンイチの言葉に眉をひそめ――イレインの脳裏に“ある可能性”がよぎった。
「ちょっと待ってよ、ジュンイチ。
それじゃあ……」
そんなイレインに無言でうなずくと、ジュンイチはメインモニターに“その場所”のマップを表示した。
それを見たイレインの表情がこわばるのを気配で感じながら――告げる。
「“3rdステージ”、ファーストミッションの舞台は……」
「ミッドチルダ首都、クラナガンだ」
〈“レリック”反応を追跡していたドローンT型6機、すべて破壊されたようです〉
「そうか……」
一方、ガジェット破壊の報せは、当然その主の元にも届いていた――報告するウーノに対し、スカリエッティは満足げにうなずいてみせた。
「破壊したのは局の魔導師か……それとも“当たり”を引いたかな?」
〈確定はできませんが……どうやら後者のようです〉
「素晴らしい。
早速追跡をかけるとしよう」
ウーノの言葉に表情をほころばせ、スカリエッティが告げると、
「ねぇ、ドクター」
彼らのやり取りに新たな声が加わった。
スカリエッティのいるホール――その奥から進み出てきた、ひとりの少女である。
「それならあたしも出たいんだけど」
「“ノーヴェ”……キミか」
〈ダメよ、ノーヴェ。
あなたの武装もトランステクターも、まだ調整中なんだし〉
「でも……今回出てきたのが“当たり”なら、自分の目で見てみたい」
「別に焦らずとも」
たしなめるウーノに答える、ノーヴェと呼ばれた少女に対し、スカリエッティはあくまで余裕の態度でそう告げた。
「アレはいずれ必ず、ここにやってくることになるワケだからね。
まぁ、落ち着いて待っていてほしいな」
しかし、ノーヴェはあくまで不満なようで――「仕方がない」と肩をすくめ、スカリエッティは“切り札”を切ることにした。
「それに……今回が“当たり”だとすれば、“彼”が現れる可能性は非常に高い」
「………………っ」
その言葉にノーヴェの表情が変わるのを、スカリエッティはハッキリと確認した。
「だとするなら……この場は“チンク”に譲るのが筋じゃないかな?」
「…………わかった」
さすがの彼女もこの話題を出されては強くは出られない――うなずき、ノーヴェがホールから立ち去るのを待って、ウーノは話題を元に戻した。
〈ドローンの出撃は、状況を見てからにしましょう。
“妹達”の中から、適任者を選んで出します――“チンク”も含めて〉
「あぁ。
後は……“愛すべき友人”にも、頼んでおくとしよう」
うなずき、スカリエッティは画面を切り換え、ビル街の光景を映し出した。
彼が見つめるのは、その中の一転に映る少女の姿――
「優しいルーテシア。聞こえるかい?
“レリック”がらみだ――少し手伝ってくれるかい?」
クラナガン市街、その地下を走る下水道――
整備用の重機も入るためそこそこの広さを持つその地下水道を、現在ひとりのトランスフォーマーが鼻歌を歌いながら歩いていた。
「♪〜一度願った、夢ならば〜
信じて進めよ、男の道〜♪」
ただし、本人的には楽しんでいるのだろうが、その声には起伏というものがあまりなく、歌というよりは“リズムと音階に合わせた棒読み”と言った方がしっくりくる――しかし、そんなことなどまったく気にせず、ブレインジャッカーは鼻歌を続けつつ地下水道を進んでいく。
こんな真っ昼間から地上を出歩くつもりはない。自分がお尋ね者だという自覚は十二分にあるのだから。
「♪〜嗚呼、迷いの荒波・特異点〜♪
…………む?」
だが――そんな彼は、ふと何かに気づいて足を止めた。
自身に搭載された思考リンクシステムが、ある思念をキャッチしたからだ。
しかし、それは――
「……こんなところで……子供の思念だと……?」
こんな地下水道に子供がいるなど、普通ならば考えられない。興味を抱き、ブレインジャッカーは思念の発生源へと向かうことにした。
幸いすぐ近くだ。すぐ目の前の曲がり角を曲がり、しばし進み――そこに、目的の子供の姿を発見した。
まだ5〜6歳といった年頃の少女だ。着ているものは服というよりも布に近くて――しかし、何より目を引いたのは彼女の左手に巻きつけられた鎖である。
その鎖は何かケースのようなものを二つ縛りつけていて、それを少女が引きずっている格好だ。
と、前側のケースが通路の継ぎ目に引っかかった。その拍子に少女がバランスを崩し――
「おっと」
倒れかけた少女を、ブレインジャッカーは間一髪でその手に収めていた。
「どうした、子供。
こんなところで何をしている」
尋ねるブレインジャッカーだが、少女は疲れきっているのか息を切らせていて答える余裕はない。仕方がないと、ブレインジャッカーは思考リンクで少女の記憶をのぞくことにした。
だが――
「…………何だ、これは……?
記憶がほとんど欠落している……?」
少女の思考の中に、記憶と呼べるものがほとんどない――ある場所からマンホールを伝ってこの地下水道へと入り、ここまで進んできた記憶しかなく、自身が何者かも、どうして手にケースの縛り付けられた鎖を巻きつけられているのかも、どこに向かえばいいのかもまったく把握していない。
しかし、そんな中でも、最低限の情報は手に入った。
それは、少女の名前――
「…………“ヴィヴィオ”……
それが、お前の名か」
自分の名前が呼ばれたのがわかったのか、少女はわずかに身じろぎするが、
「…………しかし……」
それ以上にブレインジャッカーの興味を引いたのは、その少女の心の内側――
「…………なんと、純粋な思念だ……
ここまで曇りのない思念は、初めて観測する……記憶がないためか……?」
同じ年頃の子供でも、普通に育ち、さまざまな経験を経てきた子ではこうはいかない。少女の純粋な思念に感嘆の声を上げるブレインジャッカーだったが――
「………………む?」
気づき、ブレインジャッカーは顔を上げた。
この場に向けて、急速に接近してくる反応が多数――
「…………ガジェットドローンT型、6機確認。
やれやれ、純粋な心を前にして、純粋な機械人形のお出ましか」
反応の正体を確認、立ち上がり――そこへきて、ブレインジャッカーはようやく気づいた。
少女の引きずっていたケースが、“レリック”を納めるためのものであることに。
そして――先ほど少女がケースを通路の継ぎ目に引っかけた際、後側につながれていた方のケースの結束が解け、ケースが下水に落下し、流されてしまっていることに。
「………………ん?」
不意に“それ”に気づき、エリオが顔を上げたのは、キャロと二人で街中を歩いていた時だった。
「エリオくん……?」
「キャロ……何か聞こえなかった?」
「何か……?」
「うん……」
聞き返すキャロに答え、エリオは周囲を見回し、
「何か……爆発音のような……」
そして――エリオの耳が再び問題の音を捉えた。音のした方へと走り、エリオは近くのビルとビルの間の路地へと入っていく。
車両も通れるよう比較的広めの路地だが、あくまで資材搬入用のもので人通りはなく――
『――――――っ!?』
突然、周囲の空気が変わった――すぐに結界が展開されたのだと気づく。
次の瞬間――
「――危ないっ!」
半ば直感に従う形でエリオはキャロをかばい――行く手のマンホールのフタが突然爆発した。
いや――光の刃がマンホールの周囲を地下から円形に切り取り、その内側が吹き飛ばされたのだ。
同時、結界はすぐに消失し――それは爆発の跡から姿を現した。
「貴様らが気づいてくれたのは僥倖と言うべきかな?……」
「って、ブレインジャッカー!?」
「どうしてここに、ブレインジャッカーさんが!?」
「地下で少しトラブルが起きた。
そこに、貴様らの思念を感じ、最寄りのマンホールに急行した――そういうことだ」
驚くエリオとキャロに答え――ブレインジャッカーは素早く振り向き、彼を中心に結界を展開する。
先ほどの結界は彼の手によるもののようだ。すぐに自分が空けた穴の中に向けて腕部のビームガンを発砲。穴の奥――地下水道で爆発が巻き起こる。
「やれやれ……トランスデバイスといえど所詮はデバイス。マスターなしでは結界の維持もままならないか。
爆音の封じ込め、くらいがせいぜいとは……」
「ブレインジャッカー、どうなってるの?」
肩をすくめるブレインジャッカーだが――こちらはまったく状況についていけない。思わずエリオが疑問の声を上げる。
「トラブルって、一体……?」
「この少女を拾った」
尋ねるエリオにあっさりと答え、ブレインジャッカーは大事そうに脇に抱えていた少女――ヴィヴィオをその場に寝かせる。
そして、彼女が持っていたケースを見せて――事態を察したエリオとキャロの表情が強張った。
「ん………………?」
「全体通信……?」
突然、待機状態のペンダント形態で首から提げていたそれぞれのデバイスがコール音を立てる――スバルとマスターコンボイは眉をひそめてマッハキャリバーとオメガを手に取った。
ティアナもクロスミラージュのデバイスカードを手に取り、ガスケット達も通信回線から着信を確認する。送信側を確認し、ティアナが眉をひそめてその名をつぶやく。
「キャロから……?」
「こちら、ライトニング4。
緊急事態につき、現場状況を報告します!」
二人にヴィヴィオを託すと、ブレインジャッカーは追跡者を迎撃すべく出てきた穴から再び地下へ――ヴィヴィオを介抱するエリオの脇で、キャロが状況を報告する。
「サードアベニュー、F23の路地裏にて、レリックと思しきケースを持った少女を保護したブレインジャッカーさんと遭遇!」
〈ブレインジャッカーが!?〉
思わず声を上げたのは本部に残ったライカだった。
「どういうこと!?
ブレインジャッカーはそこにいるの!?」
〈いえ……
ブレインジャッカーは少女を保護した状態で地下水道から出てきたんですけど……“レリック”に引き寄せられたと見られるガジェットを迎撃するために、また地下水道に……〉
尋ねるライカに、エリオはキャロに代わってそう説明する。
〈ブレインジャッカーの証言によると、ガジェットは単に自動巡回モードだったものが“レリック”に反応したもののようです。
それから……女の子の名前は“ヴィヴィオ”。ブレインジャッカーの思考リンクで探っても、それ以外は移動中のことしか記憶には残ってなかったそうです。
現在、そのヴィヴィオは意識不明で……〉
〈指示をお願いします!〉
エリオや、続くキャロの言葉にうなずくと、ライカは傍らのなのはに目配せして――なのはは画面に映る休日組一同に告げる。
「スバル、ティアナ、マスターコンボイさん、悪いけどお休みは一時中断」
〈はい!〉
〈大丈夫です!〉
〈任せろ〉
「アスカちゃんとヴァイスくんも、急いで合流して」
〈はいはーい♪〉
〈はいよ!〉
なのはの言葉にスバル達がうなずくと、続けてフェイトがエリオ達に指示を下す。
「救急の手配はこっちでする。
二人はそのまま女の子とケースを保護。応急手当をしてあげて」
〈はい!〉
〈わかりました!〉
「全員待機体勢!
席を外してる子達は配置に戻ってな!」
一方、部隊長室で相変わらず事務仕事に追われていたはやても、急いで指令室に向かうべく席を立っていた。
「ガジェットが自動巡回モードやったからって安心はできへん。すぐに連絡を受けた本体が動き出すはずや。
安全確実に保護するよ――“レリック”も、その女の子もや!」
《了解!》
「ミッションプランが届きました。
すぐにみなさんのデバイスに転送します」
「ん、ありがと」
喫茶“翠屋”クラナガン店――午後のピークも近づき、客も増えてきたため「他の客に聞かれるとマズイだろう」という恭也の配慮で通された休憩室で、かがみはみゆきからデータを受け取ってうなずいてみせる。
「今回は、状況次第じゃあたし達も全開出動ってワケね……」
「仕方ないよ。
今回は“3rdステージ”の前哨戦、ターニングポイントになるミッションだし……」
自分達にも役割が割り振られているのは最近のミッションではよくある話だったが、戦闘にまで参加するのは久しぶりだ。つぶやくイリヤに答え、美遊はミッションプランを読み進めていき――
「……みんな、準備はいい?」
そんな彼女達のいる休憩室をのぞき込んできたのは知佳だ。後に恭也も続き、こなた達に告げる。
「必要なら、知佳さんが現場まで送ってくれる。
それに……いざとなればオレも出る」
「いえ……お気持ちだけいただきます」
「そーそー。
恭也さんはマヂモンで切り札なんだから、ここでドッシリかまえててくれればいいから♪」
恭也の言葉にみゆきやこなたが答えると、
「………………っ!」
ミッションプランの中のある項目に気づき、美遊は思わず目を見開いた。
だが、すぐに平静を取り戻し、恭也とイリヤに声をかける。
「イリヤ、恭也さん、ちょっと」
「………………?」
「どうした?」
聞き返す二人を視線でうながし、美遊は二人と共に廊下に出る。
「どうしたの? 美遊」
「ミッションプランに、何か問題でも?」
「ん…………
問題、といえば、問題かも……」
尋ねるイリヤと恭也に対し、美遊はそう答えてその画面を見せた。
それは、ミッションプランのデータの中でも、イリヤと美遊、指揮官的立場に位置する二人のデータにだけ付け加えられた項目――それを目にした瞬間、イリヤと恭也は思わず顔をしかめた。
「…………これ……それだけ、今回のミッションが“本気”、ってことだよね……」
「だろうな……」
イリヤの言葉にうなずき、恭也はその“項目”の内容を口にした。
「状況の流れ次第によっては……」
「柾木の直接出撃も、十分に有り得る……!」
スバル | 「ところで……ガスケットさん達、マスターコンボイさんについてきたけど、お休みじゃなかったんですよね?」 |
ガスケット | 「はっ! オレ達ゃマスターコンボイ様の忠実な部下だ!」 |
アームバレット | 「マスターコンボイ様のためなら、命令違反なんてヘでもないんだな!」 |
はやて | 「あー、二人とも。 勝手に訓練放り出した罰として、減法3ヶ月なー」 |
ガスケット | 「ヘでもない……ヘでもないさ……!」 |
アームバレット | 「こんなの、ちっとも辛くないんだな……!」 |
スバル | 「あ、血の涙」 |
ガスケット | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第41話『激闘!クラナガン〜熱戦、烈戦、大混戦!〜』に――」 |
4人 | 『ゴッド、オン!』 |
(初版:2009/01/03)