「ショックフリート……ヤツは?」
「斬空参謀ジェノスラッシャー……
 貴様が参戦する前に“三大参謀”の“空”を担っていた男だ」
 ジェノスクリームと険悪な様子で対峙する、見るからに空戦型とわかるトランスフォーマーの姿を遠巻きに眺め、小声で尋ねるブラックアウトにショックフリートは淡々とそう答えた。
「実力的には貴様や我々と互角……しかし、何分攻撃的な性格でな。
 『戦力が整うまでは潜伏しておくべきだ』という我らの意見に対し『すぐにでも打って出る、それができなくてもせめて積極的に戦力集めに動くべきだ』という積極論を譲らずにな……しまいにはジェノスクリームとこのアジトここを半壊させるほどの大ゲンカをやらかした挙句に軍団を飛び出してしまったんだ」
「で、その後釜に納まったのがオレ、と……」
「複雑な思いになるのはわかるが、そうむくれるな。
 ヤツの抜けた穴を、貴様なら補って余りある――そう判断したからこそ、オレ達は貴様を“空”の参謀の後任に選んだんだからな」
「いや、そりゃわかってるけどよ……」
 ムッとするブラックアウトに苦笑し、ショックフリートがそう告げると、
「………………む?」
 不意に、そんな彼の元に通信が入った。
「こちらショックフリート」
〈おぅ、こちらバリケード。
 新しいターゲットを捕捉したぜ〉
 通信してきたのはバリケード――彼の告げたその一言で、一同の間に緊張が走る。
〈もうレッケージは合流済み、ボーンクラッシャーやブロウルにも招集をかけた〉
「そうか。
 場所はどこだ?」
〈クラナガンだよ〉
「チッ…………管理局のお膝元か」
 バリケードの答えに、ショックフリートは思わず舌打ちした。
「間違いなく、あの機動六課にかぎつけられているだろうな」
〈っつーか、もう来てるよ。
 どうする?〉
 バリケードの問いに、ショックフリートはしばし思考をめぐらせ、
「……わかった。こちらもすぐに向かう。
 お前達は一度後退し、安全圏でボーンクラッシャー達と合流――集合が完了次第、独自の判断で動いてもらってかまわない」
〈了解だ!〉
 うなずき、バリケードは通信を切り――振り向き、ショックフリートはジェノスクリームの傍らで不敵な笑みを浮かべているジェノスラッシャーへと告げる。
「そういうことだ。貴様には悪いが、今回は全員で出る。
 “レリック”確保は我々にとって最優先――貴様にだけ任せてはおけん」
「別にいいぜ。
 オレは好きにやらせてもらうだけだ」
 あっさりと答え――ジェノスラッシャーは付け加えた。
「ただし……ひとつ訂正だ」
「何………………?」
「『貴様』じゃねぇ――『貴様“ら”』だ」
「――――――っ!?」
 その言葉が意味するところは明白だ――ジェノスラッシャーの言葉に、となりのジェノスクリームは思わず目を見開いた。
「貴様、それはまさか……」
「あぁ。
 貴様の考えてる通りだ」
 うなずき――ジェノスラッシャーはあっさりと告げた。
「外で待機させてあるぜ――“オレの忠実な部下達”をな」

 

 


 

第41話

激闘! クラナガン
〜熱戦・烈戦・大混戦!〜

 


 

 

 所変わって、ベルカ自治領、聖王教会・本部――
「それにしても、あなたの制服姿はやっぱり新鮮ですね」
「はぁ……
 『制服が似合わない』というのは、友人はもちろん、妻達にまで言われます」
 カリムの言葉に苦笑するのはクロノ・ハラオウン――現在は時空管理局、次元航行部隊提督にして艦船“クラウディア”の艦長の職にあり、そして六課の後見人のひとりとして名を連ねている。
「そんなことありませんよ。
 いつもの防護服姿と同じくらい、凛々しくていらっしゃいますよ」
「あなたが“けい”と慕う“彼”には、指さしで笑われたんですがね……」
「まぁ、けい様はそういう方ですし」
 苦笑まじりに返すが、カリムもまた笑顔で答える。
「あなたの防護服姿ばかりを見てきた兄様にとっては、“あなたに制服が似合う”というだけでも十分にからかう材料にできてしまうんでしょうね」
「それはそれで……複雑なんですが……」
 カリムの言葉にクロノが軽く肩をすくめると、彼らのいる応接室のドアがノックされた。
「失礼します」
 一礼し、入室してきたのはシャッハだ。そしてその後ろには、先ほどまで捜査関係の会議に出ていたシグナムの姿もある。
「シグナム、お帰りなさい」
「合同捜査の会議は、終わったのか?」
「えぇ、滞りなく」
「そうか……
 こっちはちょうど、六課の運営面の話が済んだところだ」
「ここからは今後の任務についての話。
 あなたも同席して、聞いておいてね」
「はい」
 クロノとカリムの言葉にシグナムがうなずいた、ちょうどその時――突然彼らの元に通信が入った。
 送信者は――
「直接通信……はやてから……?」
 受付を通さず、ダイレクトに通信してくるとは、“それなりの事情”があると見ていいだろう――眉をひそめ、カリムは表情を引き締めて通信をつないだ。
 

「エリオ! キャロ!」
「あ、スバルさん、ティアさん……」
「兄さんに……ガスケットさん達も……」
 仲間達の合流を待つエリオの元に真っ先に駆けつけたのはスターズF+αアルファ――スバルを先頭にやってきた面々の姿に、エリオとキャロが顔を上げる。
「この子が、例の……?
 またずいぶんボロボロに……」
「地下水路を通って……ブレインジャッカーさんと会うまで、かなり長い距離を歩いてきたんだと思います」
 応急手当を終え、眠るように意識を手放している少女――ヴィヴィオを見下ろし、つぶやくティアナに彼女にヒザ枕してあげているキャロが答えると、
「はいはーい! お姉ちゃん参上!」
 ヴァイスと共にやってきたのはアスカだ。スバル達の駆けてきた方とは反対側から彼女達に合流する。
「その子の手当ては終わってるんだよね?
 ……で、ケースの方は?」
「キャロが封印してくれました。
 これ以上ガジェットに捕捉される心配は、もうないと思いますけど……」
 尋ねるアスカに答えると、エリオは問題の“レリック”のケース、それに巻きついた鎖を見せた。
 そこには、もうひとつのケースを縛っていた部分がそのままになっていて――
「ケースは……もうひとつあった、ってことだね……」
「そっちの方の場所はわからないのか?」
「はい。
 今、ロングアーチに調べてもらってます」
 その意味を、アスカは的確に察していた。つぶやく彼女やヴァイスの言葉にうなずき、エリオが補足する。
「アスカさん……どうします?」
「それは、ティアちゃんが決めることだよ」
 尋ねるティアナに対し、そう答えたアスカは彼女の頭を軽くなでてやり、
「フォワードチームのリーダーはティアちゃんだもん。
 あたしはあくまでアナライザー。ティアちゃんの決めた方針に従うよ――もちろん違ってる部分があればフォローはするけどね」
「お、お手柔らかにお願いします……」
 アスカの言葉に苦笑しつつ、ティアナは現状を踏まえて思考をめぐらせ、
「……今、なのはさんとフェイトさん、イクトさん、それからシャマル先生とリイン曹長が、スプラングに乗ってこっちに向かってる――とりあえず、あたし達は隊長達の到着まで現状維持。
 あとは周辺警戒ね――ガジェットのAIだってバカじゃない。“レリック”自体は捕捉できなくなっても、ここまでの移動経路からこの場所を推測してくる可能性はゼロじゃない。
 ……こんなところで、どうでしょう?」
「最後の質問がなきゃ、合格かな?
 判断としては満点だけど……指揮官たるもの、自分の指示にはちゃんと自信を持たなきゃダメだよ」
「あぅ……」
 宣言どおり容赦なく切り込んできたアスカの言葉に、ティアナは思わず肩を落とす――そんな彼女の姿に苦笑しつつ、アスカは傍らの地面に開いた大穴へと視線を向けた。
「あと気にすべきは……ブレインジャッカー、か……
 まったく、あの子もどういうつもりでからんできてるんだか……」
 

「そう……“レリック”が……」
〈うん……〉
 聖王教会・本部、応接室――つぶやくカリムに、通信ウィンドウに映るはやては深刻な表情でうなずいてみせた。
〈それを小さな女の子が持ってた、いうんも気になるし……ガジェットやアグスタの時の召喚師だけやなく、ディセプティコンやザイン、ノイズメイズ達も“レリック”を狙ってる。
 ヤツらが出てきたら、市街地付近での戦闘になる……なるべく迅速に、確実に片付けなあかん〉
「近隣の部隊には、もう?」
〈市街地と、海岸線の部隊には、連絡したよ〉
 クロノの問いにそう答えるはやてだが――その表情は暗い。
 というのも――
〈けど……彼らには悪いけど、正直あてにはならんかもな〉
〈対ガジェットや対瘴魔のノウハウが、よその部隊には決定的に欠落しているからな……
 ディセプティコン達はともかく、今挙げた二者が出てきた場合、最悪足手まといにしかならん〉
「事実とはいえ、辛らつな物言いだな」
 そう。今回の件に限って言えば、直接戦闘となった場合よその部隊はあてにできない――はやてに続く形でハッキリと根拠を言い切るビッグコンボイに、外で待機していたために窓の外からこのやり取りに加わっているスターセイバーは思わず苦笑する。
〈最悪……“奥の手”も出さなあかんかもしれん……〉
「そうならないことを祈るが……」
 はやての言葉にクロノがうめくと、カリムは背後に控えるシグナム、そして窓の外のスターセイバーを順に見回しながら告げた。
「シグナム、スターセイバー。
 あなた達も向こうに戻っておいた方がいいわ」
「はい」
「わかっている」
 カリムの言葉にうなずき、シグナムとスターセイバーはそれぞれ合流するためにその場を離れる――シグナムが応接室を出て行くのを見送り、カリムはウィンドウに映るはやてへと視線を戻した。
「さて……私ができるフォローはこのくらい。
 あとははやて、あなた達のがんばり次第よ」
〈わかってる〉
 うなずき、はやては息をついて続ける。
〈いろんなトコが“レリック”争奪に名乗りを挙げてきて、いい加減ゴチャゴチャしてきとるし……
 今回の件で、少しはスッキリさせへんとね……〉
 

「バイタルは、安定してるわね……
 危険な反応もないし、心配ないわ」
「よかった……」
 スプラングに運んでもらい現場に到着――未だ眠ったままのヴィヴィオを診察し、そう結論を下したシャマルの言葉に、スバルはホッと胸をなで下ろした。
「ゴメンね、みんな。
 お休みの途中だったのに」
「いえ……」
「平気です!」
 一方、せっかくの休みにこんなことになってしまい、申し訳なさそうに告げるのはフェイトだ。対し、まったく気にしていないエリオやキャロは笑顔でそう答える。
「ケースと女の子は、このままスプラングさんに運んでもらうから、みんなは、こっちで現場調査ね。
 今、ジェットガンナー達もこっちに向かってきてるし……合流ポイントはみんなの判断に任せるよ」
『はい!』
 なのはの指示にスバル達がうなずくと、そんな彼女に診察器具を片付けたシャマルが声をかける。
「なのはちゃん。
 この子、スプラングのところまで抱いていってもらえる?」
「あ、はい」
 うなずき、なのはがヴィヴィオに歩み寄るのを見て、マスターコンボイがポツリ、と一言。
「投げるなよ」
「そのセリフ、そっくりそのままお返しします!」
 そこはかつて投げ飛ばされた“経験者”――なのはは全力で言い返した。
 

「――――っ!
 ガジェット、来ました!」
 一方、六課本部の指令室では、ジェットガンナー達を送り出したシャリオがガジェットの反応を捉えていた。
「地下水路に、数機ずつのグループで……総数、16……20!」
「海上にもU型、12機単位で5グループ!」
「対TF型、さらに増大! 数は――」
「かなり多いな……」
 しかし、その数はかなりの規模だ――シャリオ達から次々に届く報告に、ビッグコンボイは腕組みしてそうつぶやく。
「どうしますか?」
「うーん……」
 一方、グリフィスの問いにはやても考え込んで――
〈こちら、スターズ2!〉
〈同じく、スターズβベータ!〉
 突然、ヴィータとビクトリーレオからの通信が入った。
〈海上で演習中だったんだけど、ナカジマ三佐が許可をくれた!
 今現場に向かってる――指示を請う!〉
「よし……!」
 二人が加わってくれるなら心強い――ビクトリーレオの言葉に、ビッグコンボイが思わず拳を握って声を上げると、
〈それから、もうひとり……〉
 そうヴィータが付け加えた。そして通信に加わってきたのは――
〈こちらギンガ!〉
「って、ギンガ!?」
 それは、六課への正式合流を前に一度108部隊に戻っていたギンガの声――思わず声を上げるはやての前で、彼女の姿がメインモニターに映し出された。
〈別件捜査の途中だったんですけど……どうも、そちらの事例とも関係がありそうなんです。
 参加してもよろしいですか?〉
「もちろんや!
 助かったで、ギンガ!」
 そうギンガに答え――はやての脳裏でプランがまとまった。すぐに手早く指示を下す。
「ほんなら、ヴィータはリインと合流。協力して、海上の南西方向を制圧」
《南西方向、了解です!》
 打てば響くといった勢いで、スプラングの機内から通信に加わっていたリインがうなずいてみせる。
「なのは隊長とフェイト隊長、ジャックプライムは、北西部から。
 ジャックプライムには、スーパーモードへの合体を許可」
《了解!》
「イクトさんは、正面からの真っ向勝負や」
〈任せてもらおう〉
「女の子と“レリック”の方は、ヴァイスくんとスプラング、シャマルに任せてえぇか?」
〈お任せあれ!〉
〈しっかり守ります!〉
「ギンガは、地下でスバル達と合流。
 道中で“別件”の方の話も聞かせてな」
〈はい!〉
 

「さて……
 みんな! 短い休みは堪能したわね!?」
「ここからはお仕事モードに切り換えて、しっかり、気合入れていこう!」
『はい!』
「オッケー!」
 そして、フォワード陣もいよいよ地下に突入――ティアナとスバルの言葉にエリオとキャロ、そしてアスカがそれぞれにうなずき、
「オイラ達も行くんだな!」
「マスターコンボイ様! どこまでもついていきますよー!」
「あー、わかったわかった。
 ジャマにならない程度について来い」
 テンション高く参戦を表明するアームバレットとガスケットに、マスターコンボイはため息まじりにそう答える。
 この二人は本来ロングアーチ、交通機動班の所属だ。もし事態が市街地に及ぶのを避けられなかった場合、市民の避難誘導に回ってもらわなければならない。
 そういう意味ではこの場に残すべきなのだろうが――彼らの場合ヘタに止める方が暴走を招く。ならばむしろ目の届くところに置いておいた方がいいと考えた上での判断だ。
 そして、スバル達はそれぞれデバイスを起動、バリアジャケットを装着し、ブレインジャッカーの開けた穴から地下へと降り立つ。
 その後に続き、跳び下りてくるマスターコンボイだが、彼の姿はヒューマンフォーム、子供の姿のままで――
「マスターコンボイさん、ヒューマンフォームのままで大丈夫なの?」
「ここ、広いからロボットフォームに戻っても……」
「いや、このままでいい。
 広いと言っても限定された空間には違いない――できるだけ広く使うためにも、ヒューマンフォームのままの方が都合が良い」
 気遣い、尋ねるスバルとキャロだが、あっさりと答えるとマスターコンボイはオメガを起動。自分の現在の体格に合わせたサイズで顕現した愛刀を肩に担ぐ。
「それじゃあ、行くわよ」
 そんな一同の戦闘準備完了を確認し、ティアナは静かに息をついて呼吸を整え、
「――――Mission Start!」
『了解!』
 ティアナの言葉にスバル達が応え、一同は地下水路の暗闇の中を目指して地を蹴った。
 

「……ぅっわー、湿っぽいなぁ、もう……」
「下水道なんだから当然でしょ。
 汚水の水道じゃないだけマシだと思いなさいよ」
 地下水路に降り立ち、つぶやくこなたにかがみがツッコむ――今回の事態に対する緊急ミッションの指示を受けた彼女達は、ミッションプランに従って裏通りのマンホールから地下水路に進入していた。
「とりあえず、ミッションプランの確認。
 私達の役目は、地下水路内のガジェットの掃除と“レリック”の確保。
 予想ポイントに向かえばいい“レリック”側はこなただけで。ガジェットの掃除は戦闘を私が担当してつかさが索敵。
 みゆきは私達の作戦指揮――いいわね?」
「うん!」
「わかりました」
「ほーい♪」
 確認するかがみの言葉に、つかさ、みゆき、こなたの順にうなずく――息をつき、かがみはこなたへと向き直り、
「こなた、単独行動だからって好き勝手するんじゃないわよ。
 特に、ひとりで動く以上足止めなんかされたら完全に動きが止まるんだし、目的ポイントまでは絶対に隠密行動を維持。いいわね?」
「だいじょーぶ♪
 この私にかかれば、この程度のミッションなんて、チョチョイのチョイだよ♪
 大船に乗ったつもりで、かがみん達もがんばってねー♪」
「『大船』ねぇ……」
 あくまで気楽にこなたの言葉に、かがみは思わずため息をついてつぶやく。
「アンタの場合、気まぐれに針路変更する大船なのが問題なんでしょうが……!」
「さすがかがみん、わかってらっしゃる!」
「開き直るんかいっ!」
 力いっぱいうなずいてみせたこなたに対し、かがみの絶妙なツッコミが飛んだ。
 

「いっくぞぉっ!」
 元気に叫び、ジャックプライムはウェイトモードのデバイスカードを取り出し、
「キングフォース、召喚!」
 その叫びに応え――それは彼の周囲に出現した。
 ヘリコプター型のキングジャイロ。
 潜水艦型のキングマリナー。
 ドリルタンク型のキングドリル。
 消防車型のキングファイヤー。
 ジャックプライムをサポートする4機のパワードデバイス“キングフォース”である。
 そして――
「ジャックプライム、スーパーモード!
 キング、フォーメーション!」

 ジャックプライムが叫ぶのにあわせ、キングフォースは彼の周りを飛翔し、合体体勢に入る。
「キングジャイロ! キングファイヤー! 各アームモードへ!」
 キングジャイロとキングファイヤーはそれぞれジャックプライムの左腕、右腕に合体、より巨大な腕となり、
「キングドリル! キングマリナー! 各レッグモードへ!」
 同様の指示を受け、キングドリルが右足に、キングマリナーが左足に合体、こちらもより巨大な両足となる。
 その一方で彼の胸部装甲が展開――“第2のマトリクス”の輝きによって内側から照らされた新たな胸部装甲が姿を見せる。
「ディスチャージサイクル、スパークパルスコンディション、メインプログラム・システムチェック、各ウェポンシステム、スラスターバランス――その他いろいろ、オールオッケイっ!
 スーパーモード――キングコンボイ!」

「なのは、フェイト! こっちは準備オッケイ!
 いつでもいけるよ!」
「うん」
 告げるジャックプライム改めキングコンボイの言葉にうなずき(ついでになのはを先に呼んだことに対し鋭い視線で抗議することも忘れない)、フェイトはなのはやとなりのイクトへと尋ねた。
「それにしても、エリオ達……ちょっと、頼れる感じになってきたかな……?」
「フッ、まだまだ。
 ヤツらの才覚ならもっと上にいけるさ」
「だね」
 フェイトの問いにそう答えるイクトとなのははどこか楽しそうだ。クスリと笑みを浮かべ――イクトはすぐに表情を引き締めた。
「それより、そろそろ行くぞ。
 アイツらの休みをぶち壊した不届き者に、存分にオシオキしてやろうじゃないか」
「ですね」
 告げるイクトにフェイトがうなずき、なのはとフェイトがレイジングハートとバルディッシュを起動、プリムラやジンジャーを鎧として装着する。
 そしてイクトも自身の周囲に“力”を渦巻かせ、推進力に変えて宙へと飛び立ち、なのは達やキングコンボイと共に海上のガジェット群へと向かう。
「早く事件を解決させて、またみんなにお休みあげたいね」
「うん!
 みんなで遊びに行ったら、きっと楽しいよね」
 そのためにも、この場は一気に片付ける――フェイトの提案に笑顔でうなずくなのはだが、
「そうだな。
 特にお前らは、まだまだ消化しなければならない休暇が山のように残ってるしな」
「…………それには触れないでください」
 イクトの言葉に、なのはは思わず苦笑し――しかし、そのイクトの声が妙に遠かったのに気づいた。
 フェイトと顔を見合わせ、首をかしげて振り向いて――
「――って、イクトさん、そっちじゃないですよ!」
 今まさに反対方向に飛んでいこうとしていたイクトを、フェイトがあわてて呼び止めた。
 

 そんな彼女達から見て、街のほぼ反対側――ビルの屋上で、ルーテシアは静かにクラナガンの街並みを眺めていた。
 と――そんな彼女の傍らにウィンドウが開き、ウーノの姿が映し出された。
〈例の部隊に確保された“レリック”と“マテリアル”は、妹達が回収します。
 お嬢様は地下の方を〉
「ん…………」
〈騎士ゼストとアギト様は?〉
「…………別行動」
〈おひとりですか?〉
「ひとりじゃない」
 ウーノの問いに淡々と、最低限の言葉で答えていくと、ルーテシアは手にはめたブーストデバイス“アスクレピオス”から漆黒の球体を生み出した。
「わたしには……ガリューがいる」
〈失礼しました。
 協力が必要でしたらお申し付けください。最優先で実行いたします〉
 言って、ウーノは通信を切り――ルーテシアは告げた。
「行こうか……ガリュー。
 探し物を……見つけるために……」
 

〈ギンガさん――状況は聞いてますか?〉
「もちろん!」
 一方、ギンガもまた、スバル達と合流すべく地下水路に降りていた――通信の向こうから尋ねるティアナに、笑顔でうなずいてみせる。
「ティアナ――現場リーダーはあなたよね? 指示をくれるかな?」
〈はい!
 ひとまず南西の、F94区画を目指してください! 途中で合流しましょう!〉
「了解!」
 ティアナの言葉にうなずき、ギンガは懐からそれを取り出した。
 スバルのマッハキャリバーの待機状態と同じデザインの、紫色の結晶体である。
 それこそ、六課合流にあたり彼女に正式に支給された専用デバイス――
「お願いね、“ブリッツキャリバー”」
〈Yes,ser!〉
 ギンガの言葉に応え――ブリッツキャリバーが起動した。ギンガの全身をバリアジャケットが包み、左腕にリボルバーナックルが、両足にスバルのマッハキャリバーによく似たデザインのブリッツキャリバー本体が装着される。
 そして、ギンガは六課本部指令室へと通信をつなぎ、
「八神二佐。
 取り急ぎですが……こちらの状況を報告します」
 

「スターズ1、ライトニング1、α、ブレイカー1、後1分ほどでエンゲージ!」
「スターズ2、β、リイン曹長と合流!」
「フォワード陣、ガジェットの予想目標地点に進行中――このペースなら先行できます!」
 本部の指令室を飛び交うシャリオ達の報告――それを逐次耳に入れつつ、はやてはスバル達との合流を急ぐギンガから簡単な報告を受けていた。
〈私が呼ばれた現場には、ガジェットの残骸の他に、壊れた生体ポッドがあったんです〉
「生体ポッド……?」
〈はい。
 ちょうど、5、6歳くらいの子供が入るくらいの大きさの……〉
 聞き返すビッグコンボイに答え、ギンガは続ける。
〈そして、近くには何か、重いものをひきずって歩いたような後があって……それをたどって行こうとした最中に、そちらの事態についての連絡を受けた次第です。
 それから……〉
 と、そこでギンガは珍しく言いよどんだ。しばしのためらいの末、告げる。
〈この生体ポッド、少し前の事件で、似たものを見た覚えがあるんです〉
「似たものを……?」
 ギンガの言葉に眉をひそめ、はやてはギンガから転送されてきた問題の生体ポッドの写真を見て――
「…………これ……!?」
〈やはり……八神二佐もですか……〉
「うん……
 私も、見たことがある……」
 つぶやくはやてにうなずき――ギンガは告げた。
〈以前頻発した、“違法研究施設連続襲撃事件”……
 その中で発見された――〉
 

〈“人造魔導師計画”の、素体培養機……!〉

 

〈これは、あくまで推測ですが……その子は、人造魔導師の素体として、作り出された子供ではないかと……〉
「“人造魔導師”……?」
「何なんだな? それ」
 ギンガのその通信は、フォワード陣の元にも届いていた。随行しているガスケットとアームバレットが首をかしげると、アスカが二人に説明する。
「優秀な遺伝子を使って、人工的に生み出した子供に、投薬とか、機械部品とかの埋め込みで後天的に強力な魔力や能力を持たせる……それが、人造魔導師……」
「倫理的にはもちろん、今の技術じゃ、どうしてもいろんな部分でムリが生じるし、コストも合わない……
 だから、よっぽどどうかしてる連中でもない限り、手を出したりしない技術のはずなんだけど……」
「……なるほどな」
 アスカに付け加えるティアナの説明に、マスターコンボイは納得してうなずいてみせた。
「つまり……今回の相手はその“よっぽどどうかしてる連中”である可能性が高い、というワケか……」
「えぇ」
 ティアナがうなずく傍らで、スバルはチラリとエリオへと視線を向けた。
 彼の出生――エリオが人造魔導師計画の技術の一部を転用して産まれた存在だということは聞いている。彼にとってはどうしても辛い話題だろう。
 それに、スバルにとっても他人事とは言えない。自分はもちろん――
(……“お兄ちゃん”にとっても……)
 ふと暗い気分になりかけたが、スバルは頭をブンブンと振ってその考えを頭の中から追い出して――不意にキャロの両手のケリュケイオンが警告を発した。
It confirms a fluid reaction.動体反応を確認The gadget drone.ガジェットドローンです
「来ます!
 小型ガジェット、6機!」
「了か――」
 キャロの言葉にティアナがうなずきかけた、その時――彼女の脇を二つの影が駆け抜けた。
 同時、行く手のT字路の影からガジェットが飛び出してきて――
『フォースチップ、イグニッション!』
「エグゾースト、ショット!」
「アームバズーカ!」

 ガジェット群がAMFを展開するよりも早く、ガスケットとアームバレットの速攻が目標を粉砕する!
「よっしゃ、撃破っ!」
「やったんだな!」
「す、すごい……!」
 瞬く間にガジェット群を撃破し、ハイタッチを交わす二人を前に、エリオは思わず感嘆の声を上げた。
「いつもふざけてばっかりだったから、よくわかんなかったけど……」
「よくよく考えてみれば、二人も八神部隊長から直接スカウトされて六課に来たんだよね……」
「そういうこった!
 オレ達だって、マジになれば強いんだ!」
 つぶやくアスカやスバルの言葉に、ガスケットはガッツポーズを決めてそう答え――
「そうなんだな!
 地下なら吹っ飛んでも天井があるから大丈夫なんだな! 安心して暴れられるんだな!」
「いや、そういう自信の持ち方はどうなのよ……」
「というか……吹っ飛ぶのは確定なんですね……」
 続くアームバレットの言葉に、ティアナはもちろん、キャロさえも思わずツッコミを入れていた。
 

「よし、いい調子だな」
《リインも絶好調です!》
 海上の戦いは、出撃したのが隊長格ばかりということもあり圧倒的優勢――自分達が迎え撃ったガジェットU型の群れを一掃し終え、うなずくヴィータにリインが笑顔でうなずく。
「このままガンガンいくぜ!」
「あぁ!」
 しかし、まだまだ敵は残っている。ビクトリーレオの言葉にヴィータが応え――
《………………っ!?
 二人とも、あれ!》
 リインがそれに気づいて声を上げた。彼女の指さす方向へと振り向き――そこに新たなガジェットの群れを発見した。
「増援……?」
「だが…………」
 しかし、その存在にはどこか言い知れぬ違和感を感じる――今までとは違うと察し、ヴィータとビクトリーレオの表情に緊張が走った。
 

「――――――っ!?」
 “それ”を感じ取ったのは突然のことで――思わずアスカはその場に足を止めた。
「アスカさん……?」
「どうしたんですか?」
 そんな彼女に気づき、ティアナやキャロが声をかけるが、アスカはかまわず視線を頭上に向ける。
(何? この魔力……
 魔導師とも、トランスフォーマーとも違う……
 まるで……――――みたいに……!)
 

「ウフフ……」
 そんな彼女達のはるか頭上――クラナガン上空の雲海、そのさらに上に、ひとりの女性の姿があった。
 身体にピッタリとフィットしたボディスーツを身につけ、さらにマントを身にまとった眼鏡をかけている――その場に滞空するステルス爆撃機の上に立ち、余裕の表情で戦場を見下ろしている。
「このクアットロのインヒューレントスキル“シルバーカーテン”。
 ウソと幻のイリュージョンで、回ってもらいましょう♪」
 笑顔でそう告げると、女性は右手をかざし――彼女の足元に、魔法陣とは明らかに趣の違う、円形の幾何学模様が描き出された。
 

「航空反応……さらに増大!?
 これ……ウソでしょ!?」
 そうアルトが声を上げるのはムリのないこと――何しろ、今まさにレーダー画面を塗りつぶさんばかりに、ものすごい勢いで反応の数が増え続けているのだから。
「何、これ……!?
 ……波形チェック! 誤認じゃないの!?」
「問題、出ません!
 どのチェックも、実機としか……!」
「なのはさん達も『目視で確認できる』って……
 レイジングハートさんやプリムラさんの直接スキャンでも、同様の結果が……!」
 尋ねるシャリオだが、ルキノやアルトの答えは芳しいものではなくて――
「……ふむ……」
 そんな彼女達の後方――はやての脇に控え、ビッグコンボイは腕組みして考え込んだ。思考をめぐらせた上で、自身の推論を口にする。
「視覚的なものだけじゃない……おそらくは、センサー反応にまで虚像を感知させる、そういった特性の幻術だろう」
「――――――っ!?
 ビッグコンボイ、それって、確か……!」
「あぁ」
 その推論は、はやての脳裏に“ある記憶”をよみがえらせた。声を上げる彼女の言葉に、ビッグコンボイは深刻な表情でうなずいてみせる。
「“擬装の一族ディスガイザー事件”の時、柾木が言っていた“特殊な幻覚”の話だ。
 これは……ますますきな臭くなってきたようだな……」
 

「幻影と実機の、混成編隊……!?」
《私達のセンサーまでごまかされるというのは、少しばかりプライドが傷つきますね……》
 はやて達の交わす会話は、彼女達の耳にも届いていた――つぶやくフェイトの言葉に、彼女に鎧として装着されているジンジャーは苛立ちもあらわにそううめいた。
「防衛ラインを割られない自信はあるけど……ちょっとキリがないね……」
《うん。
 それに……》
 なのはに答え、プリムラは少しばかり深刻そうな口調で続ける。
《ここまで派手にしかけてくる、となると……これ、多分陽動だよ》
「だね。
 地下か……スプラングさんの方に主力が向かってる……」
《オレは“両方”に一票だ》
 うなずき、つぶやくなのはに念話で付け加えるのはイクトだ。
 と――しばし考え、フェイトはなのはに告げた。
「なのは……ここは私で抑える。
 イクトさんとキングコンボイ、ヴィータ達と一緒に」
「フェイトちゃん!?」
「フェイト!?」
「チームでも、普通に空戦してたんじゃ、時間がかかりすぎる……」
 いきなり何を言い出すのか――驚き、声を上げるなのはとキングコンボイだが、フェイトはあくまで冷静に続ける。
「けど、“限定解除”すれば、広域殲滅でまとめて墜とせる……!」
「それは、そうだけど……」
《それなら、オレの領分だろう。
 ここはオレが引き受け、残りのメンバー全員で戻れば……》
「なんだか、イヤな予感がするんです」
 提案するイクトにも、フェイトはハッキリとそう答えた。
「その“イヤな予感”が当たりだとすれば……イクトさんはむしろ、“本命”のガードについてもらった方が……」
 そうフェイトが告げた、その時――
〈割り込み失礼!〉
 いきなり彼女達の前に通信ウィンドウが展開された。
 その通信の主、それは――
 

「ロングアーチからライトニング1へ!
 その案も、限定解除申請も、部隊長権限で却下します!」
 そう告げるのははやて――市街地の上空で騎士甲冑に身を包み、フェイトに対してハッキリと言い放つ。
〈はやて……!?〉
〈はやてちゃん……!?
 なんで騎士甲冑!?〉
「“イヤな予感”は私も同じでな……クロノくんから、私の限定解除許可をもらうことにした。
 空の掃除は私がやる――なのはちゃん達は街に戻ってスプラングの護衛。ヴィータとリインは、フォワード陣と合流して、ケースの確保を手伝ってな」
 そうはやてが指示を下すと、一方でつないでいた通信からクロノが告げる。
〈キミの限定解除許可を下せるのは、現状ではボクと騎士カリムの一度ずつだけだ。
 承認許諾の取り直しはかなり難しいぞ……使ってしまっていいのか?〉
「使える能力を出し惜しみして、後で後悔するのはイヤなんよ」
 そう告げるクロノだが――しかし、はやてはハッキリと首を横に振った。
「“擬装の一族ディスガイザー事件”の時の……ジュンイチさんみたいな人は、もう出したくないから……」
〈…………そうか……
 だが、場所が場所だけに、SSランク魔導師の投入は許可できない。
 解除は3ランクに留まるが……大丈夫か?〉
「たぶん……ううん、絶対大丈夫や」
 答えるはやてに対し、クロノは静かに息をつくと目の前に小規模な魔法陣を展開、対象システムにアクセスし、
〈八神はやて、能力限定解除。
 3ランク、リリースタイム、カウント120。
 解除、承に――〉

〈ちょおっと待ったぁっ!〉

 しかし、クロノの言葉は、いきなりの通信によって中断させられた。
〈再度の割り込み、失礼しまーす♪
 悪いが、そっちの限定解除も却下だ、却下!〉
「え!? えぇっ!?」
 突然通信し、大声でまくし立てるのは聞き覚えのある声で――戸惑い、はやては思わず声を上げた。
「ちっ、ちょう待ちぃ!
 何の権限でアンタにそんなこと言われなあかんの!?」
 

「『何の権限』ねぇ……
 そんなの、オレ様権限に決まってんだろ!」
 彼女が権力を持ち出すのは、ムリヤリにでも仲間を下がらせ、安全を確保するための決まり文句――そんな彼女の心情を見抜きつつ、ブリッツクラッカーははやてよりもやや現場寄りの位置――港湾区の上空からそう告げた。
「数の限られてる限定解除――こんなところで使うんじゃねぇよ」
〈せやけど……〉
 反論しかけたはやてを制し――ブリッツクラッカーは告げた。
「わかってねぇな、はやて。
 “オレ達がやる”――そう言ってるんだ」
〈………………っ〉
 その言葉が“ブリッツクラッカーの参戦”を意味することは明白だ。ウィンドウの向こうではやては思わず息を呑み――気づいた。あわててブリッツクラッカーに対して問いただす。
〈――って、『オレ“達”』!?〉
「そ。 『達』♪」
 そう答えるのは、ブリッツクラッカーのライドスペースに座る“彼女”の声――
〈晶ちゃん!?〉
「そーゆーこと。
 ブリッツクラッカーに迎えに来てもらってたのが、いい形で幸いしたみたいだな」
 声を上げるなのはに答え、晶は自信に満ちた笑みと共にはやてに告げる。
「だから、はやてちゃんやなのちゃん達の限定解除は“少しだけ”待ってもらえるかな?」
〈『少しだけ』……?〉
「“イヤな予感”がするのは、お前らだけじゃなかった、ってことだ」
 晶に聞き返すはやてには、ブリッツクラッカーが答える。
「ここでそいつらを叩いても……たぶん、それで終わりじゃない。
 そんだけハデに陽動をかけられれば……当然、他の勢力だってかぎつける」
〈このガジェット達は……私達だけじゃなくて、他の勢力に対しても陽動になってる……!?〉
 つぶやくフェイトにうなずき、ブリッツクラッカーは続ける。
「お前らの限定解除……するとすればその時だ。
 集まってくるヤツら――お前ら3人でまとめて、全力全開で叩き落とせ!」
〈…………わかった。
 ほんなら、そこはお任せするよ〉
「任された!」
 はやてに答えると、ブリッツクラッカーは海上の戦場へと向き直り、
「そんじゃ、いくぜ!」
 言って取り出したのは、表面に槍の絵が描かれた銀色のカード――
「“撃ち”貫け――摩利支天まりしてん!」
 その言葉と同時、カードは光を放ちながら本来の姿へと形を変える――数秒の後、光が消えた後には一振りの銀色の槍が姿を現し、ブリッツクラッカーの手に握られていた。
「さて……六課の皆さんには本邦初公開! “摩利支天”のお披露目だ!
 ジュンイチ仕込みの砲狙撃戦――自慢の腕前と一緒にご披露と行こうか!」
 

「空の上は、なんだか大変みたいね……」
「うん……」
 接触したガジェット群を蹴散らし、フォーメーションを整える――集合し、つぶやくティアナに、スバルは真剣な表情でうなずいた。
「アスカさん、ケースの推定位置は?」
「もうすぐ。あと1ブロックもないよ」
 フォーマンセルでの索敵は自分の仕事だが、今のフォーメーションではそれは彼女の仕事――尋ねるキャロに対し、アスカはそう答えるとレッコウを肩に担ぎ、
「それとガスケット」
「あんだよ?」
「そこにいると危ないよ?」
「………………?」
 アスカの言葉にガスケットが首をかしげた、その時――
「って、どばぁっ!?」
 突然、彼の左手に口を開けた通路からガジェット――の残骸が吹っ飛んできた。ガスケットに激突し、爆発を起こす。
「だから言ったのに……
 それに、“そっち”ももーちょっと確認してから殴り飛ばさなきゃダメだよ」
「す、すみません……
 ちょっと、熱くなっちゃいまして……」
 そうアスカに対して頭を下げながら、爆煙の中から姿を現したのは――
「ギン姉!」
「みんな、お待たせ」
 声を上げるのは当然スバル――気を取り直して答え、彼女はスバル達の隊列に加わり、
「一緒にケースを探しましょう。
 ここまでのガジェットはあらかたつぶしてきたから、追撃の心配もないと思うわ」
「うん!」
「はい!」
 告げるギンガの言葉に、スバルとティアナが元気にうなずき――
「……オレへの謝罪はなしかい、コラ……!」
「あ………………
 す、すいません! 大丈夫ですか!?」
「今さらおせぇよ!」
 ツッコまれてようやく気づいた――あわてて頭を下げるギンガに、ガスケットは全力で再度のツッコミを入れるとガックリと肩を落とし、
「いーんだいーんだ、どーせオレなんかこんな役回りばっかだよ。
 華々しいトコは全部てめぇら任せで、露払いくらいにしか期待されてねぇんだよ……」
「えぇい、いぢけるなら帰ってからにしろ。
 うっとうしいし……どうせ本気じゃないだろうが」
「あ、わかります?」
「……ならんでもいいところで、どんどんタフになってるよな、お前ら……」
 あっさりと持ち直したガスケットの姿に、マスターコンボイはため息まじりに答えて――
「そして貴様は、何をさっきから“空”を気にしている?」
「あ、うぅん……なんでもないよ」
 尋ねるマスターコンボイに対し、アスカは手をパタパタと振ってそう答える。
 しかし、「なんでもない」というのはもちろんウソだ――気づいているだろうがそれ以上の追求をしてこないマスターコンボイに内心で感謝しつつ、アスカはスバル達の後に続きながら“力”を探り続ける。
(さっきから上の方に隠れてる“変な魔力”――よくよく探ってみればひとつじゃない……
 街中のあちこちに散ってる……けど、どうして沈黙してる……?
 何か目的があるとして……それは何……?)
 一瞬、はやて達に報告すべきかどうか迷いを抱き――
(………………?
 いらない、かな?)
 気づき、自らがでしゃばるのはやめにした。
(“向こう”が、気づいたっぽいし……なんとかなりそう、かな?)
 

「……動いてるね、間違いなく」
「アンタ達が追ってる、“例のヤツら”?」
「うん」
 聞き返してくるライカにあっさりと答え、アスカ曰く「“向こう”」の二人――アリシアはビルの屋上から海上の戦場を眺めていた。
「前にジュンイチさんからもらったデータにあった“シルバーカーテン”――かなり厄介な幻覚だよ、アレ」
「ふーん……」
「ま、ブリッツクラッカーに任せとけば大丈夫そうだし、あたし達はあたし達で動こう」
 納得するライカにそう答え、アリシアは真剣な表情で続ける。
「今回遊撃で動くのははやてから承認済み――お墨付きをもらった状態で、あたし達は好きに動ける――」
 そう告げた、その時――アリシアの元に念話が届いた。
 六課で使っているそれとは別物の魔力パターンで送られてきた念話、その主は――
《アリシアちゃん、お久しぶり!》
「イリヤ!?
 じゃあ、ひょっとして――」
《うん。
 私達もいるよ》
「美遊も!
 二人とも、こっちに来てるの?」
 久しぶりに聞く友人達の声に思わず喜びの声を上げ――アリシアは気づいた。すぐに気を取り直し、尋ねる。
「――って、今二人って“遊撃組”のサポートでしょ!?
 その二人がこっちに来てるってことは……」
《うん》
 うなずくイリヤの声に、アリシアはだいたいの事情を悟った。
《私達は私達で地上のフォローに回るよ。
 アリシアちゃん達は地下でしょ?》
「正解――ミッションプラン作ったの、ジュンイチさんでしょ? 相変わらずいい読みしてるよね。
 ……じゃ、ここからはお互いマヂモードってことで」
《了解。
 バレることなく、ド派手に静かに暴れようか♪》
 答え、イリヤの方から念話を切った――息をつき、アリシアはライカへと振り向き、
「……どうも、本格的にいろいろ動き出してるみたい。
 あたし達も急いだ方がいいね、コレ」
 言って、アリシアは懐に右手を突っ込み、待機状態のイスルギを取り出した。
「やる気マンマンのはやて達には悪いけど……“裏”を知ってる身とはしてはここで限定解除は使えないし、イクトさんやライカさんの全開戦闘も、できれば避けたい。手の内知られちゃうからね。
 あたし達は少しでも自分達の戦力を上げて――その使いこなしで乗り切ろう」
「了解。
 閉鎖空間じゃ私は能力戦はできない……そんな私をこっちに引っ張ってきた理由、今の説明で合点がいったわ」
 アリシアの言葉にうなずき、ライカはきびすを返し、自らの立つビルの脇の路地――その一角に見える、地下水路へと続くマンホールを見下ろした。
「じゃ、いくわよ。
 たぶん、積極的な勢力はもう地下に主力を送ってる――とっととスバル達に合流して、とっとと終わらせるわよ」
「はーい!」
 

〈ロングアーチ1、シャリオから、ゴッドアイズα、ブリッツクラッカーへ!〉
「はいはーい♪」
 六課の指令室からのシャリオの通信――自慢の愛槍“摩利支天”を軽々と振り回しつつ、ブリッツクラッカーはウォーミングアップの片手間に応答した。
〈サイティングサポートシステム起動――索敵データの転送準備完了!〉
「了解だ」
 ブリッツクラッカーがうなずくと、そんな彼のライドスペースから晶がシャリオに告げる。
「ゴメンな、シャーリー。
 コイツ、狙撃はバッチリのクセして、広域索敵はからっきしだからさ」
〈いえいえ。これが私達の仕事ですから。
 それより……ホントに索敵データだけでいいんですか?
 “摩利支天”とのシンクロ誤差の調整も一緒に済ませてあります。いくら狙撃が得意と言っても、万全を期す意味でも、サイティングサポートも……〉
「心配すんな。必要になれば頼むけど、少なくとも今はまだいらねぇよ。
 晶も言ったろ? 『狙撃はバッチリ』ってさ――いいから、サイティングサポートに回す分のシステム容量も、全部索敵に回してくれ。少しでも索敵の精度を上げるのが重要なんだ」
 告げるシャリオに対し、ブリッツクラッカーは笑顔でそう答えると改めて“摩利支天”をかまえ直し、
「『大丈夫だ』って証拠なら、今からたっぷり見せてやるからさ。
 オレ様の腕前を見て、思う存分ぶったまげやがれ!」
 その言葉と同時――ブリッツクラッカーの足元に魔法陣が展開された。
 槍という形状からして、“摩利支天”はアームドデバイスと見ていいだろう――しかし、足元に展開された魔法陣はミッドチルダ式のもの。宣言どおりの砲狙撃戦の体勢だ。
 息をつき、ブリッツクラッカーは静かに意識を集中。同時に右目にはヘッドギアの中に収納されていた照準デバイスがセットされ、目標のガジェットの一団に狙いを定める。
〈スターズ1、ライトニング1、α以下、海上に展開中の各チーム、離脱確認!
 着弾地点の安全、確保!〉
「了解!
 そんじゃ、いくぜ! ジュンイチ完全監修、アイツの主力砲撃ゼロブラック――ミッドチルダ式魔法版、“雷”属性仕様!」
 シャリオの報告にうなずき、告げるブリッツクラッカーの言葉に伴い、彼の周りで電撃が荒れ狂い始めた。それは次第に収束し、“摩利支天”の穂先に強烈な光球を作り出す。
「ブリッツクラッカー、目標を――狙い撃つ!」
 瞬間――閃光が放たれた。
 

〈ゼロブラック・プラズマ、第一波発射!
 発射軌道、正常!〉
〈グループEに着弾します!〉
 シャリオとルキノの言葉と同時、画面に巨大なエネルギーの炸裂反応が生まれた――はやての見ているウィンドウの中で、グループEとしてマーキングされていたガジェットの群れは一瞬にしてその反応を消滅させた。
〈グループE、消滅。
 続いてグループBに着弾……グループB、消滅!〉
「……なるほど。
 大きく出るだけあって、腕上げてるやん」
 その成果はかなりのものだ。しばらく一緒に仕事をしない内にずいぶんと上がっていたブリッツクラッカーの腕前に、はやては素直に感嘆の声を上げ――
「……放出系である柾木のゼロブラックと違って、ヤツの場合は反応炸裂式か……」
「ビッグコンボイ……?」
 その声に振り向くと、隊舎の防衛のために残してきたはずのビッグコンボイが飛来。はやてに合流する。
「隊舎の方は?」
「ザフィーラとアトラスがいる。問題はあるまい」
 尋ねるはやてに答えると、ビッグコンボイは彼女のとなりに並び立ち、
「それより……この状況、後に活かすことを考えるべきだ」
「わかってる。
 シャーリーにはもう、消滅時のデータの収集を頼んでる」
 あっさりとはやてはそう答えた。
「これでなんとか、幻影と実機を見分ける手がかりをつかめればえぇんやけど……」
〈『つかめればいい』じゃないですよ。
 つかんでみせます。絶対に!〉
 通信の向こうから告げるシャリオの言葉にうなずき、はやては改めてウィンドウの中に映る戦場へと視線を戻した。
 

「あらあら……これは、ちょっとマズイかしら?」
 その発言の内容とは裏腹に、声色はまったく狼狽していない――雲海の上からブリッツクラッカーが砲狙撃戦を繰り広げる光景を見下ろし、クアットロはひとりつぶやいた。
「さすがは“あの男”の一味に名を連ねる“遅咲きの天才”ブリッツクラッカー。
 本気で来られると、幻惑したって意味ないわねー」
 その態度はあくまで余裕だ。というのも――
「けど……予想の範囲内。
 そろそろ、他の場所にもシルバーカーテンを仕掛けて、振り回してみようかしら?」
 こちらが彼のこの奮戦を織り込んだ上で動いていることなど、彼らが気づいているはずがない――状況を手のひらに握る優越感を感じつつ、クアットロは本当に楽しそうにつぶやいて――
「………………っ!?」
 突然、自分が足場にしているステルス機型ビークルが動いた。下方に向けてミサイルを発射し、クアットロはその反動で思わずたたらを踏む。
「オートガードシステムが作動……!?」
 自分がここにいることに気づいた者がいるのか――下方でミサイルが目標に着弾、爆発するのを見下ろしながら、クアットロがつぶやき――
「――――――まさかっ!?」
 “ある可能性”に気づいた。そんな彼女の目の前で、爆煙の中から飛び出してきたのは――
「見つけたぜ――クソメガネ!」
「やっぱり――柾木ジュンイチ!」
 そう。襲撃者の正体は“装重甲メタル・ブレスト”を着装したジュンイチ――背中の翼から推進力を生み出し、一直線にクアットロめがけて飛翔する。
「からんでくるとは思ったけど……かぎつけるのがドクターの予定より早い……!」
 うめくクアットロの足元でステルス機型ビークルがミサイルを放つが、ジュンイチは手にした爆天剣でそれらを次々に叩き斬り、蹴散らしながら突っ込んでくる。
「余計な小細工はさせねぇ――瞬殺で墜とす!」
 咆哮しながら、ジュンイチはついにクアットロの眼前に飛び出した。爆天剣を握る右手を大きく振りかぶり――
「……でもね」
 その瞬間、クアットロの口元に笑みが浮かんだ。
「確かに“予定外”ではあったけど……」

「“予想内”よ♪」

 そう告げた、次の瞬間――ジュンイチの姿は彼女の正面から消えた。
 突然飛び込んできた漆黒の、巨大な何かがジュンイチを体当たりで弾き飛ばしたのだ。
「………………っ!」
 突然の衝撃に、ジュンイチは大きく弾き飛ばされながらも体勢を立て直し、体当たりの主をにらみつける――そんな彼の目の前でゆっくりと翼を広げるのは、背中に2基の巨大な推進システムを備えた、コウモリ型の機動メカである。
 そして――その背の上でゆっくりと身を起こしたのは、クアットロのそれと同じデザインのボディスーツとコートを思わせるマントに身を包み、右目に眼帯を着けた、銀髪を風になびかせたひとりの少女だ。
 外見的にはエリオやキャロとさして変わらない年頃に見えるが――それが“外見上のこと”にすぎないことをジュンイチはすでに知っていた。
「久しぶりだな……柾木ジュンイチ!」
「やっぱりてめぇか、チンク……!
 クソメガネのシルバーカーテンで隠れてやがったか……!」
 告げる少女に名前込みで応えつつ、ジュンイチは改めて爆天剣をかまえた。
 そんな彼に対し、チンクと呼ばれたその少女はコートを大きくひるがえし、
「待っていたぞ、この時を……
 再び貴様と刃を交える、この時を……貴様もそうだろう?」
「……待ってたのは否定はしねぇが、少し訂正だ。
 “今”会いたいとは、思ってなかったな」
「そうか」
 ジュンイチの答えにあっさりとうなずくと、チンクはコートの中に仕込んだホルスターから数本のスローイングナイフを取り出し、かまえる。
 対し、ジュンイチも爆天剣をかまえ――
「じゃあ、ここは任せるわん♪」
「あぁ」
「――――――っ!?
 待ちやがれ、クソメガネ!」
 その一方で、クアットロはチンクにそう告げて離脱体勢に入る――声を上げ、ジュンイチは彼女の足を止めるべく炎を生み出し――
「そうは――させん!」
 ジュンイチを阻むのは当然チンクだ――クアットロを追おうとしたジュンイチに対し、手にしたスローイングナイフ“スティンガー”を投げつける!
 すかさず爆天剣で刃を弾くジュンイチに対し、チンクは力強く言い放つ。
「ここで会ったことこそ、私は天命と考える!
 貴様との因縁――この場で決着をつける!」
 

「はぁぁぁぁぁっ!」
 ブリッツキャリバーのタイヤを唸らせ、ギンガはガジェットV型に向けて突撃――放たれる射撃をトライシールドで防ぎつつ、一瞬にして相手の間合いの中へと飛び込み、
「はぁっ!」
 裂帛の気合と共に左拳で一撃。V型もかろうじて触手で防ぐが――
「いっけぇぇぇぇぇっ!」
 ギンガの目的はあくまで動きを止めること――彼女の頭上を飛び越え、スバルがV型へと襲いかかる!
「ディバイン――」
 咆哮と共に魔力スフィアを生み出しつつ、ガジェットの装甲をAMFの防壁もろとも右ストレートで粉砕。内部でスフィアを完成させ――
「バスタァァァァァッ!」
 零距離、どころか内部からの砲撃――これにはさすがのV型も一撃でその巨体を撃ち抜かれ、
「離れろ、ボケがぁっ!」
 トドメにおいしいところをかっさらうのはガスケット――スバルが拳を引き抜くと同時にV型を蹴り飛ばし、V型は3人の前方で爆発する。
「よっしゃ! さっきのボケ分フォロー完了!」
「あ、あはは……」
 どうやら、さっきの失態の分を取り戻すための助力だったようだが――自分で『ボケ』と言っていれば世話はない。どうあってもカッコよく決められないガスケットの姿に、スバルは思わず苦笑し――
「どぉりゃあっ!」
「どわぁっ!?」
 背後から、豪快なかけ声と共に投げ飛ばされてきた対TF仕様のガジェットT型がガスケットを直撃。ガスケットの身体が宙を舞い――
「そこにいると危ないんだな」
「先に言えぇぇぇぇぇっ!」
 投げ飛ばした張本人、アームバレットの言葉に、ガスケットはガバッ、と身を起こして声を上げる。
 そう答えながらも、激突してきたT型(大)をエグゾーストショットの零距離発射で撃ち抜き、その機能を停止させるのも忘れていない。さすがと言えばさすがなのだが――
「えっと……いいの? ほっといて」
「ま、まぁ……ある意味“いつものこと”だから……」
「本人達も、強いことは強いんですけどねぇ……どうもそれが長続きしない、って言うか……」
 ぎゃいぎゃいと騒ぐ暴走コンビを前にして、思わず尋ねるギンガにスバルが、そして合流してきたティアナがため息まじりに答える――そんなことを繰り返しつつ、スバル達はガジェットを蹴散らしながら先に進み、やがて下方に大きく開けた空間に出た。
「貯水エリアみたいね……」
「貯水エリア?」
「大雨とかで増水した時、増えた分の水が地下水路から地上にあふれないように、プールしておくための空間だよ。
 ケースが下水に流されたとしたなら、ここのどこかに流れ着いてるはずなんだけど……」
 ギンガに聞き返すキャロにアスカが答え、一同は貯水エリアの底へと降下する。
「それにしても……ジェットガンナー達、遅いわね……」
「だよね……」
 その一方でティアナが気にするのは、未だ合流できないでいる自分達の相棒のこと――つぶやくティアナに同意し、スバルは周囲を調べながら小さくうなずく。
「いくらめんどくさがり屋のアイゼンアンカーでも、遅くなるなら、連絡くらいはすると思うんだけど……」
「うん……」
「地上はゴタゴタしているようだし、ガジェットもうろついている。
 ヤツらのAMFの影響で、通信やこちらの追跡に障害が出ているのかもしれん」
 つぶやくエリオとキャロに答え、マスターコンボイは天井を見上げた。
 抱いた懸念は口にすればエリオ達を不安がらせる――声にはせず、胸中でつぶやく。
(しかし……“レリック”を狙ってるのはガジェットだけじゃない。
 パートナーなしでガジェット以上の敵に出くわした場合……苦戦は、免れないかもしれんな……)
 

 そのマスターコンボイの懸念は、すでに現実のものとなっていた。
 

「串刺しに――なりやがれぇっ!」
「残念ながら、遠慮させてもらうでござる!」
 咆哮し、ボーンクラッシャーが背中から繰り出したクローアームを、シャープエッジは自身のサーベルで受け流し、
「オラオラオラオラァッ!」
「く………………っ!
 旧市街だからいいものの、遠慮なく……!」
 豪快に砲撃を繰り返すブロウルに対し、ジェットガンナーは攻撃をかわしながらうめく。
 スバル達との合流を目指し、地上からケースの予想地点へと向かっていた彼らだが――そんな彼らの前に、ディセプティコンの先行部隊が姿を現したのだ。
 向こうにとっても予想外だったのか、驚きつつもディセプティコン側が攻撃を開始。対してジェットガンナー達も応戦し、現在に至っている。
「やはり――貴様らも“レリック”をかぎつけていたか!
 だが、渡しはしない!」
「じょーだん!
 お前らに渡したって、めんどくさいことにしかならないんだ――“レリック”はこっちで回収させてもらうよ!」
 ディセプティコン側のチームリーダーはレッケージ――両腕のブレードで斬りかかるが、アイゼンアンカーも合体させず両手にかまえたアンカーロッドでそれを受け止め、
「どけや、オラぁっ!」
《それはこっちの――》
「セリフだよ!」
 バリケードの言葉にクロとロードナックル・シロが言い返し――両者の拳が激突する!
 

「――――あった!
 見つけました!」
 広い貯水エリアとはいえ、索敵すれば場所の特定はあっという間――レリックの収められているはずのケースを見つけ、キャロはスバル達を呼び集めた。
「キャロ、封印お願い!」
「はい!」
 ティアナに答え、キャロがケースに向けて駆け出して――
「――待って!」
 そんな彼女を呼び止めたのはスバルだった。
「スバルさん……?」
「スバルの言う通り。
 ちょっと待って」
 振り向くキャロに告げると、アスカは彼女をかばうように周囲を警戒しながら手にしたレッコウに尋ねた。
「レッコウ」
There is not a reaction around.周囲に反応はありません
 しかし、レッコウの答えは芳しいものではなく――
「――――――っ!
 上だ! 下がれ!」
 気づいたマスターコンボイが声を上げるが――二人が離脱するよりも早く、頭上から降り注いだ魔力弾がキャロとアスカを吹き飛ばす!
「キャロ! アスカさん!
 ――このぉっ!」
 思わず声を上げ――エリオは跳躍、魔力弾の発生した辺りの空間に向けてストラーダを振るう。
 しかし、彼の刃に手応えはなく――着地したエリオや、警戒を強めるスバル達の前に、襲撃者は静かにその姿を現した。
 全身を甲羅を思わせる生体装甲で覆った、人型の怪人――
「瘴魔獣……じゃないわね。瘴魔力の反応がない……」
 センサーに瘴魔力を示す反応は検知されていない――警戒を強め、ティアナは怪人に向けてクロスミラージュをかまえる。
 他の面々も一様に警戒を強め、怪人を包囲し――
「――しまった! ケース!?」
 怪人に気をとられ、“レリック”のケースを失念していた。気づき、振り向くスバルの前で、ひとりの少女が――ルーテシアが“レリック”のケースを拾い上げる。
「ま、待って!
 それ、危険なものなんだよ――触っちゃダメ!」
 そのまま、ルーテシアはその場を去ろうときびすを返した。スバルがあわてて声を上げ――
「スバル!」
 ギンガの声が響いた。
 気づけば、スバルとルーテシアに全員の意識が向いた一瞬の間に地を蹴った怪人が、スバルに向けて鋭い爪を繰り出していて――

「ぬるい」

 止められていた。
 ただひとり、怪人の動きに反応の間に合っていた――マスターコンボイのオメガによって。
「悪いな。
 だが、オレもこいつらのお守りを任されている身なんでな――そうやすやすと、一撃を許してやるワケにはいかんのだ」
「………………」
 告げるマスターコンボイに対し、怪人は無言のまま――しかし、虫を思わせるその複眼の輝きが鋭さを増したような気がする。
 一方、ルーテシアはそんな彼らにかまわず再度一歩を踏み出して――止まった。
「はい、そこまでなんだな」
「悪いけど、元悪役だからな――女の子に銃突きつけるくらい、なんとも思わねぇよ」
 いつの間に回り込んでいたのか、彼女の両サイドに立つアームバレットとガスケットに火器を向けられて。
 そして――
「ゴメンね、乱暴で。
 でも、これ、本当に危ないものなんだよ」
 言って、オプティックハイドで姿を消していたティアナも、いつかの模擬戦でなのは相手に生み出した魔力刃を背後からルーテシアの喉元にあてた状態で姿を現す。
 これには、さすがにルーテシアも抵抗できず――
《ルールー》
 そんな彼女に、突然の念話が呼びかけた。
《「1、2、3!」で目ェつぶれ!
 いいか――1!
 2!》
 その言葉に従い、ルーテシアは目を閉じ――
《3!》
 次の瞬間――ルーテシアの目の前に紫色の炎弾が着弾した。強烈な爆音と閃光が周囲から視覚と聴覚を奪い――
「――――――っ!?」
 怪人が動いた。とっさにオメガをかまえ直すマスターコンボイだが――ここでヒューマンフォームのままであったことが災いした。子供の身体のままでは怪人の攻撃を受け止めきれず、ガードもろとも弾き飛ばされる。
 さらに、怪人は閃光と爆音で周囲の確認の遅れているティアナやガスケットらをも弾き飛ばすと、ルーテシアを守るようにスバル達と対峙する。
「……ありがとう、ガリュー」
 静かに怪人“ガリュー”に礼を言うと、ルーテシアは天井を見上げ、
「…………アギトも」
《まったく……あたし達に黙って、勝手に出かけちゃったりするからだぞ。
 ホントに心配したんだからな》
 そう答え、ルーテシアの前に舞い降りてきたのは、身長30センチほどの大きさの、真紅の髪の少女――
「あ、あれ……!?」
「リインフォースUと、同じ……!?
 まさか、ユニゾンデバイスか……!?」
 吹っ飛ばされた自分を受け止めてくれてアスカが頭上でうめくのが聞こえる――同様の結論に達したマスターコンボイもまた、彼女に下ろしてもらい、オメガをかまえながらそううめく。
 しかし、当の本人――ルーテシアに“アギト”と呼ばれたその小さな少女はそんな彼らに一切かまわず、自信タップリに告げる。
《ま、もう大丈夫だぞ、ルールー。
 何しろ、このあたしが来てやったんだからな!》
 そして、アギトはスバル達へと向き直り、
《オラオラ! お前らの相手は、この“烈火の剣精”、アギト様がしてやるぜ!》
「アギト……!?」
「それが、あの子の名前……!?」
 そんなアギトの言葉に、スバルとアスカは静かにつぶやき――
「……“烈火”ってことは……バーニングフォーム?」
「いやいや、あのちっこい身体にそんなパワーはないでしょ。
 いいとこフレイムフォームくらいで――」
《だぁれが仮面ライダーだ!
 バーニングでもなけりゃフレイムでもねぇ! ついでにストームでもグランドでもトリニティでもねぇ!》
 顔を見合わせてつぶやくスバルとアスカに対し、アギトは力いっぱい言い返す――それを聞き、となりでガリューが自らの首に巻かれたマフラーに手をかけるのに気づき、ルーテシアは静かに息をつく。アギトが「潜伏中の暇つぶしに」と(ガリューも巻き込んで)見ているテレビのヒーロー番組を少し自重させようと密かに決意しつつ。
《とにかく! てめぇらの相手はこのあたしがしてやるよ!》
 ともあれ、気を取り直したアギトはスバル達に対して威勢良くタンカを切ってみせる。
《お前らまとめて黒焦げにしてやるぜ!
 どっからでも……かかってこいやぁっ!》
 見た目はともかく、自分達のスキをついてルーテシアに脱出の機会をお膳立てした実力は本物だろう。アギトの言葉に、スバル達は一様に警戒を強め――

「それならば――」
「遠慮なくいったらぁっ!」

 その言葉と同時、攻撃は放たれた。
 水路の奥から放たれた多数のミサイルが――“その場の全員に向かって”
「キャロちゃん、防御!」
「は、はい!」
 対し、とっさに動くのはアスカ――彼女の言葉にうなずき、キャロは彼女のとなりでケリュケイオンをかまえ、
《Double-Protection!》
 レッコウとケリュケイオンが共同で防壁を展開。飛来したミサイルが防壁の向こうで爆裂。強烈な衝撃がアスカとキャロの両腕に伝わってくる。
「敵の増援!?」
「だったらどうしてあの子達まで攻撃されてるのよ!?」
 声を上げるスバルにティアナが言い返す――見れば、ルーテシアとアギトはガリューに抱えられて離脱している。
 しかし、さすがの彼女達も今の攻撃の中では“レリック”のケースを守りきれなかったようだ。先ほど彼女達が立っていた地点に、ケースは無造作に放り出されていて――
「ほい、いただき、っと♪」
 言いながら、無造作にそのケースを拾い上げるのはサウンドウェーブと共に現れたランページだ。
「サウンドウェーブ、ランページ!?」
「今の攻撃はアイツらかよ!?」
 声を上げるエリオのとなりでガスケットがうめくと、
「“レリック”を――返せぇっ!」
「バカ、スバル!」
 そんなランページ達に向けて、スバルが地を蹴った。ティアナの制止も届かず、一気にランページ達との距離を詰めて――
「遅いんだよ!」
 そう告げる言葉と同時――彼女の真上にワープアウトしたノイズメイズが、スバルを地面に叩きつける!
「ひよっこ風情がでしゃばりやがって。
 とりあえず――死ねよ!」
 そして、地面に押さえつけたスバルの頭めがけて、シールドの先端に生み出した光刃を突き下ろし――

 

「カイザー、ヴォルケイノ!」
〈Kaiser Volcano!〉

 

 響き渡ったのは少女の声とデバイスの電子音声――次の瞬間、巻き起こった炎の渦が、今まさにスバルの命を絶とうとしていたノイズメイズへと横殴りに叩きつけられる!
 強烈な灼熱の嵐を受け、ノイズメイズはたまらずスバルの上から吹き飛ばされ――
「まったく……こっそり動いてこっそり終わらせるはずが、とんだトラブルだよね」
 言って、彼女は静かにその場に降り立った。
「き、キミは……!?」
 つぶやくスバルに対し、彼女は静かにノイズメイズ達やルーテシア達を見渡し、
「成り行きだけど……助けてあげるよ」
 言って――彼女は身につけた装備をかまえた。
 空色の、各所にプロテクターの備えられたバリアジャケットをまとい、右手に装備しているのは楯と一体化した大剣型のアームドデバイス。
 そして両足には――
「マッハ、キャリバー……!?」
 スバルのつぶやいた通り、彼女の両足にはスバルのマッハキャリバー、ギンガのブリッツキャリバーと同じローラーブーツ型デバイス――ただし、彼女のものには先端に鋭いスパイクが装備され、武装としてのカスタマイズがされている。
「後でかがみ達がうるさいだろうけど……ま、ここで名乗らないのはないよね、シチュ的に♪」
 そして――彼女は大剣の切っ先を敵対者達に向け、名乗った。
「通りすがりの新米魔導師、泉こなた!
 義によって助太刀いたす、なんちゃって♪」
 

「はぁぁぁぁぁっ!」
 裂帛の気合と共に、チンクは取り出したスティンガーを次々に投げつける――そのことごとくを爆天剣で叩き落とし、ジュンイチは改めて彼女や、彼女を乗せたコウモリ型機動兵器と対峙した。
「どうした? クアットロを追わんのか?」
「させる気ねぇクセしてよく言うぜ」
 尋ねるチンクに答え、ジュンイチは自身の周囲に炎を生み出し、
「…………しゃーねぇ。
 少しだけ、付き合ってやるから――てめぇも出せよ、“切り札”」
「……いいだろう」
 ジュンイチの言葉に答え、チンクはゆっくりとかまえを解いた。改めてジュンイチへとまっすぐに正対し、静かに告げる。

「……“ゴッド、オン”」

 その瞬間――チンクの身体が光に包まれた。全身が粒子と化し、足元のコウモリ型機動兵器の中に染み込むように一体化していく。
「ブラッドサッカー、トランスフォーム!」
 コウモリ型機動兵器の主導権を得たチンクが咆哮――同時、コウモリ型機動兵器がトランスフォーム。バックパックが後方に展開、左右に分かれて両足となり、翼の基礎フレームに添えられていた両腕が解放される。
 頭部が胸部に引き込まれて胸部装甲となり、ロボットモード用の新たな頭がボディ内よりせり出しトランスフォームが完了。チンクはジュンイチと真っ向から対峙する。
 そして改めて名乗るのは、自らと相棒、そして今の姿の名――
第五機人フィフス・ナンバーズ――“刃舞う爆撃手”チンクとその愛機トランステクター“ブラッドバット”!
 空爆戦士、ブラッドサッカー!」
「……異能者保護支援・対異能治安維持機関“Bネット”発起人。
 兼、独立機動部隊、“第一の牙ファースト・ファング”――柾木ジュンイチ。
 っつっても、“Bネット”の方はもうン年単位で休職中だがな」
 名乗りを返し、ジュンイチも爆天剣をかまえる。
 そして――

「いざ――」

「尋常に――」

 

『勝負!』
 

 両者の“力”が激突した。

 

 

「なかなか、ハデにやっているようですね」
 各所で戦いの繰り広げられているクラナガン市街――旧市街のビル、その屋上でザインは静かにつぶやいた。
「さて……現時点において、勢力規模でもっとも劣る我ら瘴魔が戦いを有利に進めるには、こちらの脅威を実情以上に見せかけるハッタリが何よりも重要になる……
 その上でこの状況、最大限に利用できそうですが……」
 つぶやきながら、周囲に“力”を放ち、各地に散らばる“関係者”達の状況をサーチする。
「……まだ、状況を見極めてから参戦しよう、などと考えて隠れている輩がいるようですね。
 我らが動くのは、彼らの後、くらいがアピールタイミングとしては最適ですか。
 もっとも……」
 言って、ザインは旧市街の一角へと視線を向けた。
「一組、すぐにでも参戦したくてウズウズしている方がいらっしゃるようですがね」
 

「……そろったか」
 そのザインの視線の先――別のビルの屋上で、ジェノスラッシャーは集まった面々を見渡した。
 ジェット戦闘機、ホバータンク、大型輸送機、トレーラートラック、そしてドリルタンク――ジェノスラッシャーの目の前で、同時にロボットモードへとトランスフォームする。
「エアライダー、ブラジオン、パワーグライド、ペイロード、ドリルホーン――
 全員、捕捉は完了しているな?」
 尋ねるジェノスラッシャーに対し、名前を呼ばれた5人のトランスフォーマーは一様にうなずいてみせる。
「ジェノスクリーム達は……状況を見極めてから、か……
 相変わらず手ぬるいヤツらだぜ」
 他の参謀達は別の場所に隠れて静観中――相変わらずの慎重路線に舌打ちするが、ジェノスラッシャーはすぐに気を取り直して顔を上げた。
「デカイ“力”の反応があちこちにゴロゴロしてやがるってのに、何手ぇこまねいてるんだか……
 ゴッドマスターだろうがそうじゃなかろうが関係ねぇ――要はこっちの戦力になればいいんだ。
 これだけ獲物がウジャウジャしてりゃ選ぶ必要もねぇ。手当り次第でいくぞ」
 その口元に獰猛な笑みを浮かべ、ジェノスラッシャーは部下達に対して宣言する。
「おとなしく捕まるようならそれでいい。
 もしそうじゃなけりゃ――どいつもこいつも、皆殺しだ!」
『了解!』
 

「…………ここか……」
 一方、サードアベニュー、F23――六課から現場検証を引き継ぎ、所轄の局員達があわただしく動き回っている路地裏を前に、ひとりの少女が静かにつぶやいていた。
 長く伸ばした青色の髪を首の後ろで無造作にまとめ、緑色の瞳を持つ、エリオ達より少し年下、といった年頃の少女だ。
「……うん、やっぱりここだ」
 確認してみた結果、ここで間違いないようだ。笑顔でうなずくと、少女は路地裏へと一歩を踏み出し――
「あぁ、ダメダメ」
 そんな少女の動きに気づいた局員が彼女を呼び止めた。
「お嬢ちゃん、ここは入っちゃだめだよ。
 少し前に事件があって、まだ危ないかもしれないんだ」
「大丈夫だよ」
 しかし、少女はあっさりとうなずいた。
「おじちゃん達、ジャマしないでよ。
 “お姉ちゃん”に会いに行くんだから」
「『お姉ちゃん』……?」
 少女の言葉に、局員が首をかしげるが――子供というものはそれほど我慢強いものではない。ムッとしながら、唇をとがらせて告げる。
「もう、いいからどいてよ。
 でないと――」
 そう告げた瞬間――
 

「…………殺すよ?」
 

 少女の瞳が、金色に変化した。


次回予告
 
ジュンイチ 「久しぶりだな、チンク」
チンク 「あぁ。
 8年前の借り、今日こそ返させてもらうぞ!」
ジュンイチ 「そいつぁこっちのセリフだぜ!
 あの日、てめぇに奪われた――給食の焼きそばパンの恨みは必ず晴らす!」
チンク 「ツッコみどころが多すぎるわっ!?」
ジュンイチ 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第42話『各雄集結〜集う力、現れる力〜』に――」
二人 『ゴッド、オン!』

 

(初版:2009/01/10)