「スプラング!?」
 その場の全員がどうすることもできないまま、容赦なく放たれた一撃――空の一角で六課に戻ろうとしていたスプラングを直撃した砲撃、その爆発を目の当たりにし、スバルは思わず悲鳴を上げた。
「くそっ、ヴァイスやシャマルだって乗ってたのに!」
「あと、あの変な女の子と“レリック”もなんだな!」
 彼が撃たれたということは、被害は彼ひとりではすまない。ビークルモードの彼に搭乗していた者達も――ガスケットやアームバレットも舌打ちまじりにそううめき――
「…………何?」
 そのつぶやきを聞きつけたのは、突然この場に襲撃をかけてきたディセプティコンの新メンバー、ジェノスラッシャーだった。
「あのヘリ野郎が“レリック”を持ってたってことか……
 どこのどいつか知らねぇが、余計なことを……」
「何言ってやがる!
 どーせてめぇらがやったんじゃねぇのかよ!?」
 咆哮し、飛びかかるビクトリーレオだが、
「冗談じゃねぇ!
 オレ達ゃな、戦力になりそうな強いヤツらをかっさらいに来てんだ! 知るかよ、あんなザコ!
 “レリック”持ってたっつーなら、真っ先に襲ってたに決まってんだろうが!」
 そう反論しながら、ジェノスラッシャーはあっさりとビクトリーレオの拳をかわし、
「ま、落とされちまったもんを今さらどうこう言ってもな。
 とりあえず、てめぇらをとっ捕まえるか――殺すかしねぇとな!」
 告げると同時――ジェノスラッシャーの瞳に宿る殺気が鋭さを増した。素早く反転し、ビクトリーレオへと襲いかかる!
 

「ウフフ……文句なしの直撃ね♪」
 一方、こちらは問題の砲撃の発射地点――爆発の中に消えたスプラングを見つめ、クアットロは傍らのディエチに声をかけた。
「どう? この完璧な作戦♪」
「少し黙って」
 しかし、そんなクアットロの言葉に、ディエチは軽く口をとがらせた。
「まだ撃墜を確認してないんだから……っと」
 つぶやき、ディエチは自身の特殊な視覚で爆煙の中を探りつつ手にした大型砲をかまえ直し、さらに自分が足場にしている戦車型ビークルの砲塔も遠隔操作で操り、再び砲撃の体勢に入る。
「あら、まだ撃つつもり?」
「撃墜できてなかったらね」
 自分の砲撃を信用しないワケではないが――物事には常に“まさか”というような事態が付きまとう。クアットロにあっさりと答え、ディエチはチャージを開始した。
 

「ヴィータ副隊長!」
 スプラングの救援に向かおうとしたところにジェノスラッシャーから一撃を受け、大地に叩きつけられたヴィータへにあわてて駆け寄り、声を上げるのはスバルだ。
「大丈夫ですか!?」
「うっせぇ!
 今はあたしなんかかまってる時じゃねぇだろ!」
 助け起こそうとするスバルだが、ヴィータはそんな彼女の手を振り払うとすぐにロングアーチへと回線をつなぐ。
「おい、ロングアーチ!
 スプラング達は無事か!?
 アイツら……落ちてねぇよな!?」
 しかし――スプラングが突然放たれた砲撃によって爆発の中に消えたのは誰の目にも明らかだった。必死に訴えるヴィータの言葉に、本部隊舎のロングアーチ一同はもちろん、スバル達も、誰も答えることができない。
「おい! どうなんだよ!?
 誰か――何とか言えよぉっ!」
 そんな彼女達に対し、半ば悲鳴に近い勢いでヴィータが言い放ち――

 

 

〈『何とか』〉

 

 

『…………はい?』
 無線を介してあっさりと返ってきた返事に、一同の目がテンになった。
「な…………何だって?」
〈だから……『何とか』〉
 思わず聞き返すヴィータにも、声の主はあっさりと答える。
 その声は、ヴィータにとってとても聞き覚えのあるもので――
〈ヴィータちゃんが言ったんだよ。『何とか言え』って。
 だから、『何とか』〉
「ざけんな!
 なのは! こんな時に何言ってんだよ!?」
〈わ、私じゃないよぉ!?〉
 しかし、当のなのはからは否定の声が返ってくる――そこにきて、ヴィータはなのはとよく似た声を持ち、且つこんなバカを言い出しそうな人物の存在に思い至った。
「ってことは……アスカか!?
 てめぇ、いつの間にかいなくなってたと思ったら、何やってやがんだ!?」
〈あー、そういうこと言っちゃうワケ?〉
 しかし、そんなヴィータに対し、アスカは動じることもなくそう返してくる。
〈ランクも下で後輩とはいえ、同じ副隊長に上から目線、っていうのはちょっと感心しないかなー?〉
「………………?」
 あくまであっけらかんとしたアスカのその言葉に、ヴィータは眉をひそめるしかない。
 日頃から階級も入局期別も年の差も気にせず、誰にでも分けへだてなく接するアスカが階級を持ち出すのは、たいていはそれをネタにして相手をからかう時だが――彼女とて副隊長としての自覚も責任感もある。非常時にそんなことをする人間ではないのはヴィータ自身よくわかっている。
 つまり、今の彼女が余裕の態度をとっているのにも、それなりの“根拠”があるワケで――
「って、まさか!?」
 気づき、ヴィータが振り向くのは未だ晴れない、スプラングを狙撃した爆煙の向こう――
〈そして何より……〉
 そんな彼女にかまわず、アスカが告げる間にも、煙は静かに晴れていく。
 そして、薄まった煙の向こうにその“影”がうっすらと見えてきて――
〈しっかりヘリを守った子に対して、ちょーっと言い回しがキツくないかなー?〉
 いつもの専用バリアジャケットの上に青色を基調としたカラーリングの鎧を身にまとったアスカが、難を逃れたスプラングをかばう形でその姿を現した。

 

 


 

第43話

猛撃! ナンバーズ
〜激突する“悪意”〜

 


 

 

〈安心して。ヴァイスくん達なら大丈夫。
 しっかり守ったから。あたしのNEWデバイス――“イスルギ”でね♪〉
「イスルギ……!?」
《鎧として装着されてる、ってことは……プリムラやジンジャーと同じ、パワードデバイスですか……!?》
 改めてウィンドウが開かれ、そこに映し出されたアスカの言葉に、スバルやリインが呆然とつぶやく。
 彼女の身に装着されているその鎧は、普段彼女がバリアジャケットに付け加えている追加装甲よりも装甲部分を増やした半全身鎧セミ・アーマータイプ。中でも肩アーマーは肩から下に垂れ下がる形の大型タイプで、六角形のプレートが組み合わされた半円形の装甲が左右の守りを固めている。
 さらに背中には飛行システム――ランドセル型のバックパックの下部から推進ガスが噴射され、空戦特性のない彼女を空中に留めている。
 と――
「なんとか、フォローが間に合ったね」
 一同の後ろでそう口を開くのはアリシアだ。
「アリシア……知ってたのか!? あのデバイスのこと」
「知ってるも何も、さっき地下からの脱出のドサクサにあの子に“イスルギ”を渡したのはあたしだし」
 尋ねるヴィータにそう答えると、アリシアは軽く肩をすくめ、
「霞澄ちゃんの作ってくれた、新型パワードデバイス“イスルギ”……
 あれを持ったあの子がついててくれれば、スプラングの方はもう安心かな?」
 

〈そいつが、お前の言ってた『次の子』か!〉
「まぁね♪」
 一方、こちらは空中のアスカ達――通信越しに感嘆の声を上げるヴァイスに対し、アスカは笑顔でうなずいた。
「それより、そっちは大丈夫?」
〈へっ、オレならぜんぜん平気だぜ!〉
「あたしが守ったんだからヴァイスくんが無事なのは当たり前。
 あたしが聞いてるのはあの女の子――ヴィヴィオちゃんとシャマルちゃん。
 ……あ、ついでに“レリック”」
〈“レリック”はついでかよ……
 まぁいいや。二人とも無事だぜ。オレと同じく、お前が守ってくれたおかげでな〉
「そ。それはよかっ――」
 言いかけ――アスカは気づいた。
 先ほどスプラングを狙った“イヤな気配”――二つ並んでいるその気配の一方の力がグングン上昇してくる。
 これは――
「…………へぇ。
 こりずにもう一発来るんだ」
 次の砲撃が来る――自分が防いだことも考慮したのか、先ほど以上の出力がチャージされているのを確認しながらも、アスカの口元には不敵な笑みが浮かぶ。
「おいおい、なんかさっきよりもデカイぞ!?
 大丈夫かよ!?」
「だいじょーぶ♪」
 思わず声を上げるのはヴァイス達を乗せているスプラング――しかし、アスカはあくまでも余裕の態度でそう答えた。
「この“イスルギ”を、甘く見てもらっちゃ困るってもんだよ♪」
 

「アイツが、私の“ヘヴィバレル”を……!」
「そうみたいね。
 まったく、あんな隠し玉があったなんて、やってくれるわね」
 さすがに、自分が万全のお膳立てを整えた今の攻防をしのがれたのには少々気分を害したらしい。いつものひょうひょうとした態度は鳴りをひそめ、ほんの少しではあるが確かに眉をひそめたクアットロはディエチのつぶやきにそう相槌を打った。
「ディエチちゃん、大丈夫?」
「問題ない」
 尋ねるクアットロだったが、すでにディエチの思考は狙撃の一点にのみ集中されていた。今まさに再チャージの終わろうとしている砲撃の狙いをアスカに――その背後で飛び去らんとしているスプラングに向ける。
「私が本気になれば……魔導師の防御程度で!」
 こちらも防がれたことが不本意だったのだろう。少なからず興奮した様子で、ディエチは引き金を引いた。
 

 ディエチの気合と共に、強烈な閃光が放たれた。先程よりも強大な力の込められた閃光が、スプラングの背中を目指して宙を駆け抜けていく。
 が――
「まったく……
 何か工夫をこらしてくればまだイスルギこの子の力の振るい甲斐もあったんだけどねぇ……」
 その進路上にはアスカがいる――ため息をつき、彼女は迫り来る閃光に向けて空いている左手をかざす。
「そっちのプライドもあるだろうし、気持ちはわからないでもないけどさ……」
 そう告げる言葉に伴い、かざした左手の前面に“力”が集っていき――
「防がれた攻撃をただ強くしただけじゃ、同じことの繰り返しだよ♪」
 生み出された防壁が迫り来る閃光を受け止め――直後の爆発も含め、ディエチの砲撃をいとも簡単に防いでみせた。
 

「な、何よ、アレ!?」
「あんなスゴイ砲撃を……簡単に!?」
 Sランク級の全力砲撃を“Bランクの”アスカが防ぎきった――信じられないその光景を前に、ティアナやキャロが思わず声を上げると、
「さすがは霞澄さん。
 宣言どおりのスペックだねー」
 対し、アリシアはこの結末を予想していたのか、平然としている――説明を求める視線を向けてくる一同に対し、告げる。
「イスルギはね、総合的に見ればそれほど強力なデバイスじゃない。
 攻撃魔法なんて迎撃用しか備えてないし、飛行ユニットだって通常戦闘には十分でも高速戦クラスの機動はさすがにムリ。
 けどね……ただ一点。防御力に関して言えば、六課で所有してるすべてのデバイスを超える能力を秘めてるんだよ」
「すべての……って……
 じゃあ、あのイスルギってデバイスの防壁は、六課のヤツらの中じゃ最高硬度ってことか!?」
「そ。リミッターなしのなのはの防御よりも硬いんだから、アレ。
 何しろ、元々“防御力の徹底的な追及”を目的に作られた、完全防御専門のデバイスだからね……逆に言えば、そのくらいの強度がなきゃ逆に肩書き倒れだよ」
 さすがに驚きの声を上げるヴィータに答えると、アリシアはロンギヌスをかまえ――
「――そんなワケだから!」
 背後に向かって一閃。こちらがアスカ達に気をとられているスキをつこうと密かに忍び寄っていたペイロードの拳を全身のバネを総動員した一撃で打ち返す!
「ヘリの方はもう任せちゃってOK!
 あたし達はさっさとこっちを片付けて、砲狙撃なんてぶちかましてくれた子を追っかけるよ!」
『了解!』
 

「そういうワケだから、ヴァイスくんはヴィヴィオちゃん達を連れて離脱。
 後ろからの砲撃は全部防いであげられる自信があるけど……どこにヒマしてる敵さんがいるかわからないから、十分に気をつけてね」
〈あぁ、任せろ!〉
 告げるアスカにヴァイスが答え、スプラングはそのまま六課本部隊舎を目指して離脱していく。
「さて、と……」
 それを少しだけ見送ると、アスカは砲撃の飛来した方向――すなわちディエチやクアットロのいる方角へと向き直った。
 

「私の……“ヘヴィバレル”を、二度も……!?」
「認めるしかないわね……あの防御力が本物だって」
 うめくディエチの脇で静かに告げるクアットロだが――その表情は先程よりも苛立ちが増していた。軽く親指をかみながらアスカの姿をにらみつける。
「とにかく、今は退きましょう。
 これ以上は、あちらさんの追跡を許すことになるわ」
「く…………っ!」
 それでも、冷静な判断は失っていなかった。告げるクアットロの言葉に、ディエチは歯がみしてうなずいて――

《…………そう、うまくいくのかなー?》

『――――――っ!?』
 二人の思考の中に届いたのは意外な人物からの擬似念話――驚愕し、ディエチとクアットロは思わず目を見開いた。
「これ……あの小娘ちゃんの声!?」
「どういうことだよ、クアットロ!?
 なんで、私達の擬似念話の回線にアイツが乱入してこれるんだよ!?」
 

「さっき、地下にいた子とそこのメガネちゃんが話してたでしょ?
 幸い、メガネちゃんの気配の方には早い段階で気づいてたからね――キミ達の念話の思念パターン、こっそり観測させてもらったワケだよ♪
 これはそれをマネしただけ――レッコウのサポートでね」
 驚愕するクアットロに擬似念話越しにそう答え、アスカはレッコウを肩に担いで笑みを浮かべてみせる。
「それより……気づいてない?
 そちらさんのお仲間、ちょぉっと厄介なことになってるよ」
《そうねー。なんかジャマが入っちゃったっぽいね。
 けど……敵のあなたに忠告されるほどのことじゃないわ♪》
「かもね。
 地下にいたあの子も例の召喚師と一緒だし……あの子達を助けた“速い子”もけっこうな使い手みたいだからね」
 あっさりとアスカが答え――そんな彼女にクアットロは逆に尋ねた。
《そんなワケだから……そろそろ本音を言ったら?
 せっかく私達の知らないうちに私達の擬似念話回線への介入を可能とした――せっかく手に入れた強力なアドバンテージを、私達と世間話をするためだけに使うワケがないでしょう?》
「あらら、ド直球?
 意外だね。“こういう攻め手”をしてくる人にしては」
《腹の探り合いは嫌いじゃないけど……時にはそれをしないことの方が武器になる。そういう状況もあるってことよん♪
 こうしてる間にも、あなた達の隊長が妨害を振り切ってこっちに向かってくるかもしれないもの》
「んー、言われてみればそうだねー」
 クアットロの言葉に半ば棒読みに近い口調で、アスカはあっさりとそう答える。
「けど、特に深い意味はないんだよ、ホント。
 あたしとしては、お話できれば十分だったから」
《…………何ですって?》
「そりゃ、あたしだって『時間を稼いでその間に隊長達が』っていうのは考えなかったワケじゃない。
 けど、世の中そううまくはいかないよね――だってなのはちゃん達は現在進行形で絶賛足止め喰らい中だし、下のヴィータちゃん達は『目の前の敵を倒してから』なんて悠長なこと言ってるしねー。
 まぁ、無視して追いかけても後ろから撃たれるだけだから、正解ではあるんだけど」
 「『あちらを立てればこちらが立たず』とはよく言ったものだねー」と付け加え、アスカはため息をついて肩をすくめる。
「そんなワケで、あたし達の方は今んトコこれで手詰まり。
 だから――」
 その瞬間――アスカの口元が不気味につり上がった「ニヤリ」という擬音がこの上なく似合う笑み共に、クアットロに告げる。
 

「“獲物”はお譲りすることにしたの♪」
 

「――――――っ!?」
 その言葉に、クアットロは彼女の意図を察した。その顔から血の気が引き、あわててディエチに対して告げる。
「ディエチちゃん、急いで離脱!」
「クアットロ!?」
「やられた……!
 あの子、とんでもない食わせ者だわ!」
 眉をひそめるディエチに対し、クアットロは悔しそうに歯がみした。
 その言動にいつもの不遜な態度はない。やはり姉妹の中でも頭脳面の担当なだけに、その分野で出し抜かれたのは相当プライドが傷ついたのだろう――そんなことを考えるディエチだったが、クアットロにそんな余裕はない。
「あぁして自分のデバイスの能力を見せ付けたのは、“本当の目的”から私達の意識をそらすためのオトリ……!
 あの小娘……! 自分達の戦力を私達に回せないからって……“よその勢力に丸投げしたのよ”!」
「な………………っ!?」
 その言葉にディエチは思わず言葉を失い――同時に悟った。
 もしクアットロが言う通りなら、ここでアスカがそのことを示唆する発言をした意味は――
(オトリの役目を……果たした!?)
 その瞬間、自分が足場にしている戦車型ビークルから警告メッセージ――そこには、自分達を狙う照準を感知したことを示すロックオンアラートが表示されている。
 次いで検出されるエネルギー反応。その分類は――
(――砲撃!?)
 そう認識すると同時、同じ砲撃手として理解する――自分の反撃は間に合わないと。
「く………………っ!」
 理解した以上行動は早い。迷わずディエチは戦車を走らせ、ビルの上から飛び出した。同時にクアットロも自分のステルス機型ビークルに飛び乗って離脱し――次の瞬間、飛来したエネルギーの渦が自分達のいたビルの屋上を吹き飛ばす!
 元々転送によってあのビルの屋上に持ち込んでいた戦車は当然“飛び下りる”などという事態は想定しておらず、そこからは完全に自由落下になるが――砲撃の直撃を受けるよりはマシだ。なんとか体勢を保ったまま、戦車は地響きを立てて大地に着地する。
 足元から伝わってくる衝撃に顔をしかめながら、ディエチは自分に向けて砲撃を放った犯人の姿を探し――発見した。
 旧市街の区画で3ブロック先、ビルの屋上でホバリング旋回しながらこちらに向き直るホバータンク――こちらの離脱を確認すると、自らもビルから降下。ホバリングによって難なく着地するとこちらに向けて突進してくる。
 そして――
「ブラジオン、トランスフォーム!」
 咆哮、そしてトランスフォーム――ホバータンク改めブラジオンは、こちらに向けて突進しながらロボットモードへとトランスフォーム。ディエチの前へと降り立った。
「何者だ!?」
「ディセプティコンだ!」
 返ってくる答えは単純そのもの――尋ねるディエチに即答すると、ブラジオンは背中にマウントされた戦車時の主砲に手をかけた。
 同時、背中での固定が外れ、砲塔もろとも分離したそれをディエチに向けてかまえる――どうやら彼の場合、ロボットモードでは砲塔は砲撃のためのものではなく、近接戦闘用の鈍器へとその役割を変えるらしい。
「ディセプティコンが誇る武の体現者! ブラジオンとはオレのこと!
 恨みはないが――我が軍団のため、潔く降るがいい、能力者よ!」
「ずいぶんな自信だね……
 ……しかも、過信かと思えばそうでもないみたいだし」
 物腰といい突然の降伏勧告といい、ずいぶんと豪快に見えるが、砲塔の分離したハンマーをかまえるその姿にスキは見られない――ブラジオンの実力を冷静に推し量り、ディエチは面倒な相手とであったとばかりにそううめく。
「我が実力を推し量るとは、そちらも能力頼みの無能ではないようだな、能力者。
 ならばこそ素直に降れ――こちらは抵抗するなら殺せとも言われている。素直に降らぬ限り、命の保障はできかねる」
「……言ってくれるね。
 私を殺せるとでも思ってるんだ?」
 ブラジオンの言葉に眉をひそめ、ディエチは自らのビークルの上で静かに立ち上がった。
「悪いけど、私達にだって都合がある――そう簡単に捕まってあげられない。
 人を単に“能力者”としか呼ばないような礼儀知らずには、特にね」
「そちらこそ言うではないか。
 無礼な呼び方をしてほしくなければ、自らの名でも名乗ったらどうだ?」
「それもそうだね」
 ブラジオンの言葉にあっさりと納得し――ディエチは高らかに咆哮した。
「ゴッド――オン!」
 その咆哮と同時――ディエチの身体が粒子化し、彼女の足元の戦車型ビークルへと染み込むように一体化していく。
「アイアンハイド、トランスフォーム!」
 そして、その勢いでロボットモードへとトランスフォーム――主砲を右肩に備えたロボットモードとなったディエチは、ブラジオンに対し堂々と名乗りを上げる。
第十機人テンス・ナンバーズ、“狙撃する砲手”ディエチ! トランステクターは“アイアンパンツァー”!
 砲狙撃戦士アイアンハイド! Target――Lock on!」
 

「やれやれ……まいったわね」
 今日の任務はケチがつきっぱなしだ――ブラジオンの砲撃から逃れたクアットロは、自分のステルス機型ビークルの機上でため息をついた。
「ここまで巻き返されたら、“マテリアル”は譲るしかないわね……」
 しかし、このまま手ぶらでは帰れない。スバル達が確保しているはずの“レリック”をどう奪ってやろうか。それとも別の手土産になりそうなものを探すか――
「けど……」
 その一方で、クアットロが考えるのは、先ほどのアスカとのやり取り――
(あの小娘……自分達が手詰まりだと判断するなり、迷わず敵対勢力のディセプティコンを利用する手に出てきた……
 目的のためなら敵すら利用するあの智略……あれはまるで……)
そんなことを考えながら、クアットロは思わず眉をひそめ――その瞬間、彼女のビークルが動いた。いきなりその場を離れ、飛来した多数のビームを回避する。
「攻撃……!?」
 いきなりの攻撃に、クアットロはその主の姿を探して視線をめぐらせて――
「――――そこっ!」
 発見と同時、ビークルがエネルギーミサイルで反撃――しかし、雲海の中から飛び出してきたブレインジャッカーは、そんなクアットロの攻撃をかわして彼女と対峙する。
「あらあら。どこのどなたかしら」
「白々しいな。
 貴様の思考には不意打ちへの驚きはあっても私自身への驚きがない――私のことなど、とうに情報を得ているのだろう?」
 告げるクアットロだが、ブレインジャッカーもあっさりとそう答える。
「それで? 私に何の御用かしら?」
「簡単な話だ。
 貴様の思考が教えてくれている――先ほど機動六課のスプラングを狙った砲撃は貴様の指示だろう?」
 淡々とクアットロに答え、ブレインジャッカーは静かに息をつき――
「貴様の余計な横槍のせいで、貴重な観察対象のひとりを失うところだった。
 その報い――今ここで受けてもらう」
「あらあら……それは困ったわねぇ♪」
 その言葉に力がこもった。静かに、低い声で告げるブレインジャッカーに、クアットロは少しも困っていない口調でそう答え――
『――――――っ!?』
 二人同時に気づいた。とっさに離脱し――その間の空間を、飛来したエネルギーミサイルが撃ち貫く!
 そして――
「能力者みっけ!
 ジャマすんじゃねぇよ、そこのブリキ人形!」
 そう言い放つのはビークルモード、ジェット戦闘機形態のエアライダーだ。ブレインジャッカーをエネルギーミサイルで牽制しつつ、クアットロを追尾する。
「何? あなたも私狙いってワケ?」
「そういうこった!
 エアライダー、トランスフォーム!」
 あくまで余裕の態度と共に尋ねるクアットロに答えると、エアライダーはロボットモードへとトランスフォーム。クアットロへと襲いかかり――
「ジャマは貴様だ」
 淡々と言い放ち、ブレインジャッカーがエアライダーを蹴り飛ばす!
「ンだぁ? ジャマすんのか!?」
「こいつは私のジャマをした。報いを与えなければならない」
 体勢を立て直し、尋ねるエアライダーにブレインジャッカーは淡々とそう答え――
「ウフフ、こんなところでつぶし合ってくれるなんて、私ってラッキー♪」
「って、こら、待て!」
 そのスキにクアットロはその場からの離脱に動いた。エアライダーの制止にもかまわず、全速力でその場を離れていく。
「……クソッ、どーしてくれんだよ?
 てめぇのせいで、ジェノスラッシャー様に献上する能力者を逃がしちまったじゃねぇか」
「『どうしてくれる』は私のセリフだ。
 あの女は後の災いにしかならない――この場で仕留めるのが最上だったものを」
 舌打ちし、こちらに向けてガンを飛ばすエアライダーに対し、ブレインジャッカーは静かに息をついてそう答え――
「せめてもの侘びに――代わりに死ねよ、ポンコツ!」
「お断りだ」
 そんなブレインジャッカーに対し、エアライダーが襲いかかった――ばらまくように放ったエネルギーミサイルを、ブレインジャッカーは素早く回避する。
「悪いが、私にも目的がある。
 その目的を果たすまで、貴様ごときに落とされてやるワケにはいかない」
 言って、ブレインジャッカーは改めてエアライダーと対峙し、
「貴様がそれを阻もうというのなら――押し通らせてもらうまでだ」
「やれるものなら、やってみろやぁっ!」
 告げるブレインジャッカーに言い返し――エアライダーが再度エネルギーミサイルをばらまいた。
 

「オラオラオラァッ!
 パワーグライド、トランスフォーム!」
 咆哮と共に、軍用輸送機をスキャンしたパワーグライドはロボットモードへとトランスフォーム。エネルギーミサイルをばらまきながらトーレに向けて襲いかかるが、
「…………フンッ」
 彼の拳がトーレに届くことはない――素早い動きでパワーグライドの拳をかわし、その背後へと回り込む。
 そのまま反撃の蹴りを放つが――パワーグライドも負けてはいない。決して素早くはないがムダのない動きで蹴りを回避。トーレは一旦パワーグライドから距離を取る。
「チッ、すばしっこいヤツだぜ」
「舌打ちしたいのはこちらの方だ」
 本気ではないであろう、わざとらしい舌打ちをもらすパワーグライドに、トーレも緊張を解かないままそう答える。
「巨体のハンデをうまく殺した、この体格差を覆すには十分な機動――並のトランスフォーマーではこうはいくまい」
「ほぉ……たったあれだけの攻防でよく見ているじゃないか。
 貴様の見立ての通り――オレの“速さ”は速度によるものじゃない。
 オレだって、この巨体が高速機動戦に向いてないことはわかってるからな――だからこそ、オレは別の形での“速さ”を求めた」
 告げるトーレに答え、パワーグライドは笑みを浮かべて続ける。
「スピードとは単純な速さだけじゃない。鈍重な動きも、徹底的にムダを省くことで究極の速さを手に入れることができる。
 貴様らのように、単純にスピードを高めるだけでは到達できない領域の“速さ”がオレにはある。
 わかるか? 貴様がどれだけ速く動こうが、オレはこの場で貴様の攻撃をかわせばいい。
 お前の“速さ”は、オレの“速さ”には届かないんだよ」
 そう告げるパワーグライドに対し、トーレは静かに息をつき――
 

「言いたいことは、それだけか?」
 

 そう告げたトーレの声は、彼女のいた“はずの”場所から放たれたものではなかった。
「くだらない能書きをダラダラと……
 確かに貴様のその“速さ”は脅威だが……」
 ため息をつき、パワーグライドの背後に背中合わせの状態で佇むトーレは四肢に2本ずつ生み出された、翼を思わせる形状の光刃――右手から伸びるそれを軽く振るい、
「…………悲しいかな、その実力に見合う精神を持ち合わせてはいないようだ」
「………………っ!?」
 その言葉と同時――パワーグライドの胸部装甲に一文字の傷があらわになった。受けた覚えのないその傷に、パワーグライドのカメラアイに驚愕の色が浮かぶ。
「私のIS、“ライドインパルス”――身体の補強と全身の加速能力によって生み出される超高速戦闘能力」
 そんなパワーグライドに告げ、トーレは悠然と振り向きながら告げる。同様に振り向くパワーグライドと改めて正対し、
「どれだけ高い実力も、貴様自身におごりがあればその輝きは鈍る。
 貴様の力は……私には届かない」
 そう告げると、トーレはそのまま真下に降下。廃棄都市の只中に降り立った。
「しかし……いかに実力に開きがあろうと、挑んでくる者に対して手を抜くのは戦士の矜持に反する。
 こちらの最大戦力をもって……私は貴様を討とう」
 上空に佇んだままこちらを見下ろしてくるパワーグライドにトーレが告げた瞬間――旧市街を駆け抜け、それは彼女の元に駆けつけてきた。
 1台の、機動部隊が使用するような4WD仕様の大型ポリスカーだ――トーレに従うように、彼女のすぐ脇に停車する。
「そいつが……貴様のトランステクターか?」
「あぁ、そうだ。
 ドクターから与えられた私のトランステクター“マスタングドーベル”だ」
 自分を追って降下し、尋ねるパワーグライドに答え、トーレは静かに息をつき――
「ゴッド、オン!
 マスタング、トランスフォーム!」

 咆哮と共にマスタングドーベルと呼んだトランステクターにゴッドオン――間髪入れずにロボットモードへとトランスフォームし、パワーグライドと対峙する。
第三機人サード・ナンバーズ“瞬撃の先槍”トーレ。トランステクターは“マスタングドーベル”。
 高速突撃隊長マスタング――格の違いを見せてやる」
 あくまで冷静に、しかし闘志は確かにみなぎらせ――静かにパワーグライドにそう名乗るトーレだったが、
「…………いや、違うな」
 ふと思い直した。パワーグライドを見据え、淡々と訂正する。
「残念ながら――」
 そう告げるのと同時、ゴッドオンし、マスタングとなったトーレの姿がその場から消えた。
 その次の瞬間には、ゴッドオン前と同じく四肢に翼を生み出したトーレの姿がパワーグライドの後方にあり――
 

「貴様の目では、見せてやることは叶わない」
 

 パワーグライドには、すでに頭から全身を両断する斬撃が刻まれていた。
「…………き、きさ、ま…………っ!」
「悪いが……我々は管理局とは違う。
 敵に対する慈悲などない――トランステクターが陸上用だからとなめてかかるような愚か者には、特にな」
 うめくパワーグライドにトーレが答え――斬り裂かれたパワーグライドの中枢から“力”があふれた。漏れ出したエネルギーに全身を焼かれ、パワーグライドは大爆発と共に四散した。
「そして……貴様らを生かしておく必要のない理由はもうひとつ」
 炎に焼かれた破片が飛び散る中、トーレは静かに付け加える。
「貴様らの“正体”など……ドクターはとうに分析済みだ」
 

「く………………っ!」
 舌打ちと共に、セインのゴッドオンしたデプスチャージはその場から飛びのいて――
「ぅおぉらぁっ!」
 彼女のいたその場の地面を、ドリルホーンの拳が粉々に撃ち砕く。
「ったく、冗談じゃないっての!」
 うめいて、セインは自身のIS、無機物潜航能力“ディープダイバー”で地中に逃れようとするが――
「させるかよ!」
「ぅわっとぉ!?」
 ドリルホーンが左手につながったワイヤーを引き――そのワイヤーに左足を捉えられているセインはバランスを崩し、大地に叩きつけられる。
 無機物であれば地面にも潜ることのできるセインが未だに離脱できないでいる理由がこのワイヤーだ。ドリルホーンにしっかりとつながったこのワイヤーを何とかしない限り、ルーテシアを抱えて逃げようとしても彼まで引き連れていってしまうことになる。
 なんとか切断を試みるものの、ドリルホーンもそうはさせじとワイヤーを引っ張ってこちらの体勢を崩しに来る――反撃も同様に封じられ、セインはドリルホーンを相手に思わぬ苦戦を強いられていた。
「だから逃げるなって。
 オレの役目は、てめぇらを殺すか捕まえるかすることなんだからな」
「何度言わせればわかるのさ……!
 そんなのは、まっぴらごめんだっつーの!」
 告げるドリルホーンに言い返し、セインはドリルホーンに向けてミサイルを放つが、
「ムダだ!」
 ドリルホーンは自分の足元に勢いよく右の拳を振り下ろした。撃ち砕かれ、跳ね上がった岩盤の数々がミサイルを防ぐ楯となる。
「あきらめろ。
 お得意の無機物潜航を封じられた以上、てめぇに勝ち目はねぇんだよ」
「く………………っ!」
 告げるドリルホーンの言葉に、セインは思わず歯がみして――

「…………セイン」

「え…………?」
 突然かけられた声に振り向くと、アギトを伴ったルーテシアがすぐそばまで進み出ていた。
「あ、危ないですよ、お嬢様!
 下がっててください!」
 あわてて声を上げるセインだが、ルーテシアは首を左右に振った。
「セインは……さっき、地下で助けに来てくれた。
 今度は……私の番」
「けど……危険ですよ、やっぱり!
 ここは私に任せて!」
《へっ、今にもやられそうになってるクセに、任せてられるかっての!》
 ルーテシアの身を案じ、告げるセインにアギトが答えると、
「アギトも……下がってた方がいい」
 そんなアギトにも、ルーテシアは静かにそう告げた。
 一方、そんなルーテシアの姿に、ドリルホーンは眉をひそめ、
「何だ?
 次はてめぇが相手ってワケか?」
「…………違う」
 尋ねるドリルホーンだが、彼の問いにルーテシアはあっさりとそう答えた。
「戦うのは、私じゃない……」
 その言葉と同時――ルーテシアのすぐ後方に召喚魔法陣が出現した。
 しかも大きい――先ほど“地雷王”を召喚した時に匹敵するサイズだ。
《お、おい、ルールー!?
 まさか……“アイツ”か!?》
「………………ん」
「だ、ダメですよ!
 まだ未完成で、使っちゃダメだってドクターにも言われてるでしょう!?」
「大丈夫」
 アギトに対する彼女の答えから“召喚対象”に思い至り、あわてて制止の声を上げるセインだが――そんなセインにもルーテシアはあっさりと答える。
「私“達”なら……きっと大丈夫」
 そう告げ、ルーテシアはさらに魔法陣の輝きを強め、
「…………召喚……“クロムビートル”」
 彼女のその言葉に伴い――それは召喚魔法陣の中から姿を表した。
 漆黒に染め抜かれた、巨大なカブトムシ型の機動メカ――
「と、トランステクター!?
 てめぇ……ゴッドマスターか!?」
「違う」
 驚き、声を上げるドリルホーンだが、ルーテシアは首を左右に振って否定を示した。
「私は、ゴッドオンできない。
 けど……ゴッドオン以外の機能なら、ゴッドマスターでなくても使えるから……」
 そして、ルーテシアはアスクレピオスを着けた右手をかざし、
「ガリュー……お願い」
 召喚するのは先ほど送還したガリューだ。漆黒の光球のまま、彼女の目の前に姿を現すとクロムビートルに向かう。
 そして――
「ミッション、オブジェクトコントロール――ガリュー・in・クロムビートル」
 ルーテシアの指示に従い、ガリューはクロムビートルの中へと飛び込んでいく――とたん、クロムビートルのシステムが起動した。カメラアイを真紅に染め、ゆっくりと立ち上がる。
 彼女の使う、召喚虫を対象に一体化させ、コントロールする無機物自動操作魔法“シュトーレ・ゲネゲン”だ――これならゴッドマスターではないルーテシアもクロムビートルを操ることができる。
「クロムホーン……トランスフォーム」
 そう告げるルーテシアの言葉に従うのは、当然クロムビートルと一体化しているガリューだ――同時、クロムビートルはロボットモードにトランスフォーム。甲の中に収納されていた手足を展開。さらに頭部が左右に展開して肩アーマーとなると、インセクトモードの頭部の中に隠れていたロボットモードの頭部が露出する。
「召喚虫を操る私に合わせてドクターが用意してくれた、昆虫型トランステクター“クロムビートル”。
 装甲武人クロムホーン……あの敵を、やっつけて」
 人語を話せないガリューに代わり名乗りを上げ、すぐさま指示を下す――ルーテシアの言葉に従い、クロムホーンを操るガリューが地を蹴り、ドリルホーンへと襲いかかる!
 

「はぁぁぁぁぁっ!」
「くっ!」
 咆哮と共に迫る敵を前に、舌打ちまじりに後退――アイアンハイドへとゴッドオンしたディエチに回避されたブラジオンのハンマーは、轟音と共にアスファルトの地面を粉々に撃ち砕いた。
「どうした!? 一方的ではないか!」
 しかし、ブラジオンの攻撃はそれで終わりではない――すぐさま追撃に移り、立て続けにハンマーを繰り出してくるブラジオンに対し、ディエチは反撃の糸口を見つけられず、防戦に徹するしかない。
「せめて、距離が取れれば……!」
 砲撃専門である自分は、近接戦闘となるとどうしても苦手だ――何とか自分の間合いでの戦いに持ち込もうとするディエチだったが、ブラジオンもそれをさせまいと間合いを離そうとしない。
「まったく! 戦車のトランスフォーマーってことは砲手だろうに!」
「砲手だからこそさ!」
 思わず舌打ちするディエチだったが、ブラジオンはかまわずそう答える。
「砲手だからこそ、同じ砲手の嫌がることがよくわかる!
 同じ砲手として腕を競い合いたいところだが――こちらも任務でいるのだ! 貴様の苦手な間合いで徹底的に叩かせてもらう!」
 言い放ち、ブラジオンは唐竹割りのように大上段からハンマーを振り下ろした。回避が間に合わず、とっさにガードしたディエチだが――その一撃は彼女の両足を大地にめり込ませてしまう。
 しかも、ブラジオンの強烈な一撃で両腕の内部機構が損傷したのか、ディエチの両腕にしびれが走り始めた。これでは次の一撃は止められそうにない。
「これで――終わりだ!」
 そしてそれは、一撃を叩き込んだブラジオンが一番よく理解していた。咆哮と共に、もう一度振り上げたハンマーを全力で振り下ろし――

 

 

 

 

 弾かれた。

 

 ガギンッ!という嫌な金属音が響くと同時――強烈な衝撃がブラジオンのハンマーを真っ向から打ち返したのだ。
「な………………っ!?」
 予想しなかった手応えに、ブラジオンは思わずたたらを踏んで後退する――数歩下がってようやく体勢を立て直すと、ブラジオンは衝撃の発生源へと視線を向けた。
 そこはディエチのゴッドオンしたアイアンハイドのちょうど目の前――自分の一撃によって舞い上がった土煙でよく見えないが、そこには確かに何かがいる、そんな気配がある。
「何が…………!?」
 一方、今の一撃が弾かれたのはディエチにとっても予想外だった。思わず、呆然と声を上げ――
 

「…………やれやれ……」
 

 土煙の中から、気だるそうな声が上がった。
「あちこちで、強いヤツらがバチバチ殺り合ってやがるな……
 つぶし合いなんかすんじゃねぇよ。もったいねぇなぁ」
 ため息まじりにつぶやくと、“彼”は身の丈ほどもありそうな片刃の大剣をガシャンッ、と肩に担いだ。
「まぁ、いいか。
 とりあえず、強いってことはそう簡単には死なねぇだろ――生きてりゃまた機会もあるか」
 勝手にそう納得すると、“彼”は晴れてきた土煙の中からその姿を現した。
 腰まで届く、後ろで簡単にまとめられた真紅の長髪。
 そしてその髪と同じく真紅に染め直された、迷彩機能を完全に無視したアーミールックに身を包み、“彼”はブラジオンと対峙する。
「おい、そこのハンマー野郎――」
 そして――

 

 

 

 

「オレと、楽しく殺し合おうじゃねぇか」

 

 

 “剣”のマスターブレイカー、ブレードは堂々と宣戦布告の言葉を放った。


次回予告
 
ガスケット 「なんか、よそでもハデにバトってるみてぇだな……
 きっと強いオレ達の力を必要としてるはず! いくぞ、アームバレット!」
アームバレット 「けど、なんか手助けする方が危ないヤツもいるみたいなんだな」
ガスケット 「え!? どんなヤツ!?」
ヴィータ 「斬っても斬っても倒れやしねぇで、血まみれになりながら満面の笑みと共に“こっちに”斬りかかってくる“味方”だ」
ガスケット 「それ、“味方”って言えるのか……?」
ヴィータ 「………………ちょっと自信……ねぇ」
アームバレット 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第44話『凶刃、煌く〜突撃! ブレード・ライアット〜』に――」
3人 『ゴッド、オン!』

 

(初版:2009/01/24)