「――――何だ!?」
 それを感じ取り、意味を理解するには一瞬で事足りた――地上に現れたその“力”の気配に気づき、ジュンイチは思わず動きを止めた。
「この力……!?」
 感じられる“力”、その気配の“質”は彼の動揺を引き起こすには十分すぎた。雲海のさらに下、今現在スバル達が戦っているであろう地上へと意識を向け――
「戦いの最中に、よそ見など!」
 当然、対峙している相手がそんなジュンイチの異変を見逃すつもりがあるはずがない。ブラッドサッカーへとゴッドオンしたチンクの操るブラッドファングが、そして彼女自身が投げつけた、ブラッドサッカーに装備された彼女の愛用ナイフ“スティンガー”のトランスフォーマー版“スティンガーTF”がジュンイチへと一斉に飛翔する!
「くそ………………っ!」
 これではゆっくり思考をめぐらせる余裕もない。すぐにチンクとの戦いに意識を戻し、迫り来るブラッドファングやスティンガーを右手に生み出し、解放した炎で焼き払う。
 しかし――そんな彼の脳裏には、感じ取った“力”のことがしっかりと焼き付けられていた。
(どういうことだ……!?
 あの“力”……まるで、スバル達と同じ……いや……)

 

「…………“オレとも、同じ”……!?」

 

 


 

第45話

無垢なる狂気
〜凶襲、サイザーギルティオン〜

 


 

 

「おぉぉぉぉぉっ!」
「ぐわぁっ!?」
 巻き起こした青い炎の直撃を受け、ブラックアウトは大きく後退――対し、イクトは再度の追撃を叩き込むべく再度炎を巻き起こす。
 自分にとって相性の悪い戦い方をするブラックアウトに対し、反撃の糸口をなかなかつかめずにいたイクトであったが、そこは瘴魔神将として戦い抜いてきた実戦経験がモノを言った。ヒット・アンド・アウェイを狙うブラックアウトの攻撃のリズムを把握してからは、的確にカウンターを叩き込むことも容易となり、戦局は一気にイクト優勢に傾いていた。
 と――
「………………む?」
 突然“それ”を感じ取り、イクトは思わず動きを止めた。
「フンッ、スキありぃっ!」
 そんなイクトの行動のスキに、ブラックアウトが一気に襲いかかり――
「ジャマだ!」
 ロボットモードへとトランスフォームした彼の拳をあっさりかわすと、イクトは彼に向けて至近距離から青く輝く自らの炎を叩きつけた。
 全身を焼かれ、ブラックアウトが墜落していく中、イクトは“それ”を感じた方向へと振り向き、つぶやく。
「何だ…………?
 柾木と同じ力を、持っているヤツがいる……?」
 

「………………む?」
 広範囲に広がる戦場を把握するために知覚範囲を限界まで広げた代償として、その精度は大きく低下。誰がどこにいるか、その程度しかわからないが――最低限でもそれだけの感度を残していたことで、ブレインジャッカーの思考リンクシステムは戦場に新たに現れた“思念”の存在を感知した。
「新たな介入者か……
 一体、何者か……」
 つぶやき、ブレインジャッカーは知覚範囲を狭め、代わりに感度を引き上げた。“対象”の思念を読み取るべく思考リンクを開始し――
「どこ見てやがる!」
「貴様の見えないところだ」
 だからこそ、すぐそばに存在する“敵意”は敏感に感じ取れた。ビークルモードのジェット機形態で飛び込んできたエアライダーの体当たりを、ブレインジャッカーはいともたやすく回避し、
「□@☆※◇∞△∀〜〜っ!?」
 すれ違いざまに片翼に腕のビームソードで一撃。バランスを崩し、エアライダーは声にならない悲鳴を上げて空中を迷走する。
「く…………っ!
 トランスフォーム!」
 それでも、なんとかロボットモードにトランスフォームし、体勢を立て直すエアライダーだったが――
「オレを含むすべてのジェット機型トランスフォーマーには、その高機動性の代償にある弱点が存在する」
 その瞬間には、すでに決着はついていた。
「空力を限界まで突き詰めたビークルモードからロボットモードへの変形能力を持たせようとするとどうしても発生する――変形トランスフォーム機構の複雑さだ。
 それは必然的に変形を制御するプログラム部分の複雑化を招き、当然情報処理系に対する負担につながる――オレ達トランスデバイスは当然として、通常のトランスフォーマーもプログラムで身体を制御する存在だ。その基本は変わらない。
 変形するその瞬間、変形プログラムによって処理系に瞬間的な負担がかかり、思考に一瞬の空白が生まれる――それが、オレ達ジェット機系のビークルモードを持った者、すべてに共通する弱点だ。
 そして――相手の思考を読むことのできるオレにとって、その一瞬を見極めることはそう難しくはない」
 自らが指摘した“思考の一瞬の空白”――その一瞬を見極め、回り込んだ背後からエアライダーの背中を光刃で貫き、ブレインジャッカーは淡々と告げる。
 つい先日、自分を存分に打ち倒した“暴君”殿なら、別に思考を読む力がなくとも難なく見極めそうだが――そんなことを考えながら、ブレインジャッカーはエアライダーを貫いた右手を引き抜こうと、手始めに光刃を消し去って――
「………………む?」
 気づいた。
 光刃を消し去っただけで、未だエアライダーに突き刺さったままの右手――その右手と砕かれた装甲のすき間からもれる真紅の光に。
 その正体を確かめるべく、ブレインジャッカーが右手を引き抜こうとした、その時――
「……ぐ、おぉぉぉぉぉっ!」
 エアライダーが再起動。咆哮と共にブレインジャッカーの腕を引き抜き、距離を取って対峙する。
「ほぅ……
 中枢部こそ破壊しなかったが、そこから全身への動力伝達系を半分以上破壊されながら、まだそこまで動けるか」
「当たり前だ……
 オレはディセプティコン……ジェノスラッシャー隊のエアライダー様だ……!
 貴様ごときに……やられてたまるかぁっ!」
 素直に感嘆の声を上げるブレインジャッカーに言い返すと、エアライダーはそのまま彼へと襲いかかり――

 吹き飛んだ。

 突然の加速に傷ついた動力部が耐え切れず、一瞬にして内部から吹き飛んだのだ。
「貴様にとって、その肩書きは何よりも重要なものだったのだろう。
 だが……その重要さを理解してやるには、私の思考リンクを持ってしても、少しばかり時間が足りなかったようだな」
 飛び散る破片の中、静かに爆散した相手に言葉を贈ると、ブレインジャッカーはすぐに思考を切り換えた。
 気になるのは、結局確かめられずに終わった、エアライダーの胸部からもれていた光の正体だ。
 わずかな観測時間と光量では、あの光の正体を特定できるだけのデータは得られなかったが――それでも、得られるだけ得たデータは、あの光の正体がかなりの高確率で自分の予測どおりのものであると示していた。
 しかし、だとすれば――
「…………それについては、後でもかまわないか」
 確かめようとした相手はすでにい――すぐに意識を切り替えると、ブレインジャッカーは地上に向かうべく降下を開始した。


 一方、その地上では――

「何だ? 貴様……」
 突然現れ、ディセプティコンとユニクロン軍、双方に攻撃を仕掛けてきた謎の少女――手にした大鎌の刃をこちらに向けている彼女の姿に、ジェノスクリームは露骨に首をかしげてみせた。
 彼らも、ノイズメイズ達も、少女に対する警戒はいきなり最高レベルだ――ほぼ不意打ちだったとはいえ、自分達の戦いの中に混じれるだけの実力を持っていたペイロードがあえなく背後からの一撃を許したのだ。ジェノスクリーム達だけでなく、敵対する側であるノイズメイズ達も、少女の実力を垣間見ていた。この場の誰よりも幼そうだからと言って油断はできない。
「機動六課の味方でもするつもりか?
 だったら遠慮しねぇぞ。叩きつぶしてやるぜ!」
 ジェノスクリームのとなりで、やる気マンマンなのがジェノスラッシャーだった。翼を広げ、少女に向けて言い放つが――
「………………?
 きど…………何?」
 当の少女はくいっ、と首をかしげて見せた。ジェノスラッシャーの挙げた“機動六課”の名には心当たりがなかったらしく、大鎌をかまえたそのままの姿勢で疑問の声を上げる。
「それが何なのかは知らないけど……そんなの関係ないよ。
 わたしはお姉ちゃん達がいぢめられてたから来ただけだもん」
「って、おいっ!」
 少女の言葉に真っ先に反応したのはヴィータだ。先の発言で――より正確に言うのなら『そんなの』のところで――我に返り、あっと言う間にスバル達に合流。すぐそばにいたその少女に詰め寄る。
「何なんだよ、お前!
 いきなり出てきたと思ったら、今度は六課あたしらのことを『そんなの』呼ばわりかよ!?」
 ヴィータの怒りは、我に返るのが半歩ほど出遅れたスバル達の目にも明らかなものだった――まぁ、大好きなはやての“夢の部隊”である機動六課を、よりにもよって『そんなの』という一言で斬り捨てられたのだ。“はやて&家族至上主義”であるヴィータが激怒するのもムリのない話なのだが。
 だが、当の少女はそんなヴィータの怒りも意に介さないようで、首をかしげつつ尋ねる。
「…………何怒ってるの? お姉ちゃん」
「おね…………
 ………………よし、お前は悪いヤツじゃなさそうだな」
「見た目からして普段お姉ちゃん扱いしてもらえないからって、あっさり寝返ってんじゃないわよ」
 “永遠のロリータ”――管理局内でまことしやかにささやかれているヴィータの異名を思い出しつつ、ライカはちゃんと年上扱いしてもらえたことであっさり怒りを引っ込めたヴィータにそうツッコミを入れる。
 同時に、その異名を広めたのが他ならぬかつての自分達のチームリーダーにして今の自分達の同僚(休職中)であるジュンイチであることも思い出したが、ヴィータはそのことを知らないようなので黙っておく。余計な火種は起こさぬに限る。
 この事実は墓の中まで持っていこう。まぁ、どうせ本人(ジュンイチ)あたりがあっさりバラしてトラブルをまき散らしてくれるんだろうけど――そんな、近い未来確実に実現しそうな未来に想いを馳せ、ライカが内心でため息をつきながら少女へと向き直り、
「アンタもアンタよ。
 いきなり知らないヤツが出てきたら、いくら助けてもらったからって警戒するのは当然でしょ?」
「………………?」
 告げるライカだが――少女は首をかしげ、逆に尋ねてくる。
「…………『けーかい』って何?」
「あー……そーゆーのは難しい年頃だってのはわかったわ。
 あのね、『警戒』っていうのは、相手が自分のお友達かどうかわからなくて、不安になっちゃうことよ」
 どうやらライカのセリフの中の『警戒』の一言の意味が理解できなかったらしい。子供相手なのだから言葉を選べばよかった、と内心で反省しつつ、ライカは少女にそう説明するが――
「なんだ、そうなんだ。
 だったらそう言ってよ、おばちゃん」
「殺ぉース!」

「ぅわわわわっ!
 ら、ライカさん、落ち着いて!」
「だぁれがおばさんじゃあっ!
 あたしはまだ26よぉっ!」
 無邪気な少女の一言がライカの怒りを買った。今まさに少女に殴りかからんといった勢いのライカが、ティアナに羽交い絞めにされ、制止された状態で怒りの咆哮を上げる。
 と――
「ねぇ、ちょっといいかな?」
 少女の前にしゃがみ込み、目線の高さをそろえたギンガが声をかけた。
「キミ、お名前は?」
「ホクト!」
 いともあっさりと少女――ホクトは答えた。
「年はいくつ?」
「ろくさーい!」
「何をしに来たの?」
「お姉ちゃん達に会いに来たの!」
 尋ねるギンガに、ホクトは素直に答えていく――ヴィータとライカ、すなわちホクトにあしらわれた二人がポカンとしていると、二人へと振り向き、ギンガは告げる。
「子供と話す時、上から見下ろす目線っていうのはあまり良くないんですよ。
 相手に対して、必要以上にプレッシャーをかけちゃいますから」
『う゛………………っ』
 ギンガのその言葉に、モロに“上から目線”で少女に対していた二人は思わずうめいて一歩後ずさり――そんな二人に苦笑しつつ、ギンガは改めてホクトに尋ねる。
「それじゃ……とりあえず最後の質問。
 キミの言う『お姉ちゃん達』っていうのは、誰のことかな?」
「あれ? わからない?
 お姉ちゃんと――お姉ちゃん!」
 言って、ホクトが指さした人物を認識し――ヴィータ達は一様に言葉を失った。
 なぜなら、ホクトが指さした二人とは――
「あ、あたしと、ギン姉……!?」
「どういうこと……!?」
 ホクトの言葉は“当事者達”にとっても衝撃的なものだった――思わず顔を見合わせ、スバルとギンガがつぶやくと、
「そんなことはどうでもいい」
「いや、どうでもよくないですよ!」
 口をはさんできたのはマスターコンボイだ。思わずツッコむスバルにかまわず、ギンガに対し『どけ』とジェスチャー。素直に下がったギンガに代わりホクトの前に立ち――唐突に、こちらを見上げるホクトの眼前にオメガの切っ先を突きつける。
「に、兄さん!?」
「何してんのよ!?
 相手は子供じゃないの!」
「貴様らは黙っていろ!」
 思わず声を上げるキャロやティアナに言い放つと、マスターコンボイはホクトへと視線を戻し、
「オレが聞きたいのは、貴様がオレ達の敵か味方か――ただそれだけだ」
「お姉ちゃん達の味方ぁーっ!」
「………………なるほど。
 『お姉ちゃん達の』か……」
 あっさりと即答するホクトの言葉に、マスターコンボイは静かに息をつき――
「つまり……貴様はスバル・ナカジマとギンガ・ナカジマの味方“でしかない”ということか」
「………………?」
 そう告げるマスターコンボイからあからさまなプレッシャーが放たれるが――当のホクトは気づいているのかいないのか、不思議そうに首をかしげるだけだ。
「チッ、調子が狂う……!」
 “のれんに腕押し”とはこのことだ。まるで手応えのないやり取りに、マスターコンボイは思わず舌打ちして――
「おいおい、仲間割れするなら、さっさと自滅するか後にするか、どっちかにしてくれないか?」
 そんな彼らに声をかけてくるのはノイズメイズだ。
「さっきから、こちらを無視してごちゃごちゃと……!」
「てめぇら、やる気あるんかいっ!」
 さらに、サウンドウェーブとランページも不満げに声を上げる――不意打ちしてこないのは、おそらく先ほどのペイロードへの一撃によってホクトのことをかなりのレベルで警戒しているためだろう。
「あらら、怒らせちゃった……」
 しかし、当のホクトはまったく気にしている様子はない。笑いながら大鎌を「よっこいしょ」と持ち上げ、肩に担いで彼らと対峙する。
「けどね……わたしだって怒ってるんだよ」
 言いながら、両足を広く踏ん張り、重心を落とす。
「お姉ちゃんをいぢめる、悪い子達は――」
 そのまま、ノイズメイズ達に向けて飛び出そうと、前方に体重を預けた、その時――
「なめ……るなぁっ!」
 そんなホクトの背後から、突然身を起こしたペイロードが襲いかかる!
「アイツ!?」
「まだやられてなかったワケ!?」
 ペイロードの突然の復活に、ビクトリーレオやティアナが声を上げる――彼女達だけでなく、他のメンバーもそれぞれの獲物をかまえるが、
(――――間に合わない!)
 このメンバーの中でもっともダッシュ力に優れるエリオですらそう感じる、それほどまでに絶望的なタイミングだった。
 そして、ペイロードの拳がホクトへと迫り――

It was sorry.残念でした

 特有の電子音声が響くと同時、ペイロードの右腕、そのヒジから先が消失した。
「………………え?」
 当のペイロードですら呆然と声を上げる――そんな、誰もが状況を理解できないでいる中、ガシャンッ、と音を立て、離れたところに落下したのは、今しがた全員の視界から姿を消したペイロードの右腕だ。
「…………ぐぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」
 理解した途端、ペイロードを襲う激痛――そこから先の失われたヒジを押さえ、ペイロードは絶叫しながらその場にヒザをつき、
「…………見た?」
「う、うん……」
 尋ねるこなたに、スバルは呆然としながらうなずいた。
「今の一撃……あの子じゃない……
 “あの鎌が”……“勝手に動いた”……!?」
 そう。ペイロードの腕を切り落とした一撃はホクトの大鎌によるもの――しかし、それはホクトによって振るわれたものではなかった。
 彼女の手に握られた大鎌が勝手に動き出し、むしろホクトの手を逆に振り回さんばかりの勢いでペイロードの腕に一撃を見舞ったのだ。
「ありがと、にーくん♪」
It is to be consequential.当然のことです
 だが、やはりと言うべきその大鎌の使い手であるホクトはその反応に対し驚くことはない。笑顔で告げる彼女の言葉に、“にーくん”と呼ばれた大鎌は淡々とそう答える。
It defends a master.マスターを守る――It's the mission of me that it is a Armd-device.それがアームドデバイスである私の使命です
「もう、マジメだなー、にーくんは」
 答える“にーくん”の言葉に笑いながら、ホクトは改めて“にーくん”をかまえ、
「んじゃ、いくよ!
 “ニーズヘグ”――パワー全開!」
〈“Nidhogg”, Combat-System Restart!
 The output supply, the resumption.出力供給、再開
 ホクトの言葉に“にーくん”――アームドデバイス“ニーズヘグ”はさらに自らの出力を引き上げた。彼女の両腕のリボルバーナックル、そのナックルスピナーがギュンギュンと回転音をかき鳴らす中、ペイロードに向けて思い切り振りかぶり、
「にーくん、カウントダウン」
The count-down, the beginning.カウントダウン開始
 Remaining time,残り時間 “5:00”.〉
 告げるホクトにニーズヘグが答え――彼の柄に備えられた電光表示部にタイマーが表示された。“5:00”から始まり、カウントダウンを刻み始める。
「残り5分、だぁ?
 このオレを、5分で片付けるとは、ずいぶんとバカにしてくれるな!」
 右腕をあっさりと斬り飛ばされ、しかも5分で片付けると宣言された――侮辱とも取れるホクトの態度に腹を立て、ペイロードは身を起こして彼女をにらみつけるが、
「キミに?
 ううん、違う違う」
 対し、ホクトはあっさりと否定の声を上げた。ペイロードから視線を外し、ジェノスクリームやジェノスラッシャー、さらにはノイズメイズ達まで順に見回し、
「キミ達みんな……5分でやっつけちゃうんだから!」
「それが、バカにしていると言うんだ!」
 ホクトの言葉にますます怒りを強め、ペイロードはホクトに向けて地を蹴り――
「しょうがないでしょ!
 5分で、終わらせなきゃいけないんだから!」
 対し、ホクトもまたペイロードに向けて地を蹴った。ペイロード以上の加速で彼の懐に飛び込み、予想外のスピードに驚愕するペイロードを前にニーズヘグを握る両手に力を込め、
「いっ、けぇっ!」
 渾身の力で、その巨大な刃を叩きつけた。ペイロードもとっさにガードを固め、斬り裂かれることはなかったが――勢いよく叩きつけられた一撃は、ガードの上からペイロードを吹き飛ばす!
「あ、アイツ……!? なんつーパワーだ!?」
「すごすぎなんだな!?」
 エリオ達よりも小さな身体のどこにそんなパワーが――驚き、ガスケットとアームバレットが声を上げると、
「逃がさないぞぉっ!」
 声を上げ、ホクトは吹っ飛ぶペイロードに向けて地を蹴った。大地に叩きつけられ、アスファルトをえぐる勢いでめり込んだペイロードへと一足飛びに追いつき、追撃とばかりに振るった二撃目が、まるでゴルフのスイングのようにペイロードを再び空へと打ち上げる!
 強烈な一撃を受け、ペイロードの巨体が今度は宙を舞う――そんなペイロードに向け、三度ニーズヘグを振りかぶったホクトに気づき、ヴィータは彼女が“何を”仕様としているのかほを悟り、声を上げた。
「ヤベぇ――アイツを止めろ!」
「ヴィータ副隊長!?」
「いいから早くしろ!」
 思わず声を上げるエリオに答え、ヴィータはホクトへと視線を戻し、
「アイツ、あのディセプティコンを――」

「殺すつもりだ!」

『――――――っ!?』
 ヴィータの言葉に、スバル達は思わず息を呑んだ。
 相手を“殺す”――魔導師、騎士として戦うための技術を学んできたスバル達だが、実戦の場に出たのはつい最近――初代“夜天の魔導書”、“闇の書”の守護騎士として永い時の中で戦場に立ち続けてきたヴィータと違い、“相手を殺す”ということは未知の領域だ。
 だが、自分達よりもさらに幼い年頃にしか見えない、目の前の少女は、それを何のためらいもなく実行しようとしている――スバル達が次の思考に意識がつなげられず、動きを止めてしまうのは致し方ないことだったが、今はそれがマイナスに働いた。
「と、ど、めぇっ!」
 結果、スバル達の誰も制止の声を上げられない。迷うことなく跳躍し、ホクトはペイロードへと向かう。
 空中できりもみ回転するペイロードにこちらのこれからの攻撃をガードする余裕などあるはずがない。本命の一撃をお見舞いしようと、ホクトはペイロードに向けて地を蹴り――
「させっかよ!」
「――――――っ!」
 そんな彼女の背後に飛び込んできた者がいた――とっさに身をひるがえし、狙いを変更したホクトのニーズヘグは、自分の背中に迫っていたヴィータのグラーフアイゼンを受け止める。
「………………何?」
「『何?』じゃねぇ!
 てめぇ、アイツ殺すつもりだったろうが!」
 首をかしげ、尋ねるホクトに、ヴィータはグラーフアイゼンに力を込めたまま声を荒らげるが、
「……どうして?」
 あくまで彼女は無邪気なまま――首をかしげ、ホクトは本気で疑問の声を上げる。
「ど、『どうして』、って……決まってるだろ!
 殺さなくたって、お前の実力なら――」
「えー?」
 なんとかホクトを諭そうとするヴィータだが、ホクトはまたもや首をかしげてみせて――
「だって……アイツ、お姉ちゃん達の敵だもん。
 敵は殺さないとダメだよ。でしょ?」
「な………………っ!?」
 あっさりと――本当になんでもないかのように告げるホクトの言葉に、ヴィータは思わず言葉を失った。
(こいつ……殺すってことに抵抗がねぇのか!?)
 何のためらいもないホクトの言葉に、無意識の内にヴィータの手から力が抜け――結果押さえつけの弱まったグラーフアイゼンから脱出するとホクトはニーズヘグをかまえ――そこで気づいた。
「てめぇ、空を……!?」
 そう。ヴィータの目の前でホクトはニーズヘグを手に、確かに空中にその身を留めている。
 先ほどギンガに答えた彼女の言葉の通りなら、まだ6歳の少女――正規の訓練を受けているとは思えない。
 とすると、彼女は――
「先天の、空戦スキル保持者か……!」
 思わずうめくヴィータだったが――そんなことは彼女にとってあまり重要なものではなかった。ニーズヘグをかまえたまま、ヴィータに告げる。
「何? お姉ちゃんもジャマするの?
 だったら――」
 尋ねるその言葉に伴い、彼女の瞳から感情の色が消える――とっさにヴィータが警戒を強めて、次の瞬間、
 

「死んで♪」
 

 明るい声色で宣告した瞬間――ホクトの振るったニーズヘグが、防御を固めたヴィータのパンツァーシルトに叩きつけられる!
 さすがは防御の硬いヴィータの防壁だ。ホクトの一撃に対し、パンツァーシルトは真っ向から受け止めている――
「――――――って!?」
 かに見えたが、ニーズヘグの刃、その先端が突き立てられた一点から、防壁に亀裂が広がっていく!
(結界破壊効果――じゃねぇ!?
 こいつぁ……!)
「とんでもねぇ量の魔力を、切っ先の一点に集めてやがる……!
 力ずくで破るには足りねぇ分を、一点突破に切り替えることで補いやがったか!」
 うめくと同時、ヴィータは身をひねり――瞬間、防壁を打ち砕いたニーズヘグが、ヴィータのバリアジャケットをわずかにかすめる。
「こいつ!」
 とっさにグラーフアイゼンを振るい、反撃を狙うヴィータだったが、姿勢が悪かったのが災いしてキレがない。ホクトはあっさりとかわすと振り抜いたニーズヘグを一周させる形でかまえ直し、
「もう、いっぱぁつ!」
 その言葉と同時、彼女の両手のリボルバーナックルがナックルスピナーを高速回転――その光景を前に、ヴィータは気づいた。
(リボルバーナックルで、魔力を加速させて……!?
 こいつ、アームドデバイスであるリボルバーナックルを、増幅専用に使ってやがる!?)
「なんつー、贅沢な使い方を!」 
 確かに、ケリュケイオンのように魔法の補助も兼任する“一般的な”ブーストデバイスに比べ、魔力増幅“だけ”を見るなら戦闘用デバイスの方が能力は上だが、だからと言って1基丸ごと増幅専用に使うなど、普通はコスト面からの問題からやる人間などいない――うめくヴィータだが、ホクトは迷わずヴィータに向けて突撃する。
 増幅された魔力がふんだんに込められた刃がヴィータに迫り――
「させるかよ!」
「ぅわぁっ!?」
 ヴィータを狙うホクトへと拳を叩き込んできたのはビクトリーレオ――とっさのことで防御も間に合わず、ホクトはバリアジャケット越しに衝撃を受けて眼下のアスファルトに叩きつけられる!
「いたた……!」
 が――ニーズヘグがホクトの下に回り込み、自らを緩衝材にしてホクトの身を守った。それでもクラクラする頭をブンブンと振りながら、ホクトはムクリと身を起こし――
「貴様ぁっ! よくもオレの腕を!」
「――――――っ!?」
 ヴィータの乱入によってそのまま大地に放り出されていたペイロードが復活、ホクトに向けて襲いかかる!
 ビクトリーレオの一撃によるダメージで、ホクトに反応はできない。ニーズヘグはホクトの身体の下で、先ほどのようにホクトを守ることもできない。
 対処手段のないホクトに向けて、ペイロードはまだ無事な左腕で拳を繰り出し――

「危ない!」

 一瞬の刹那、ホクトを守ったのはスバルだった。ホクトを抱きしめるようにかばい、楯となり――そんな彼女の背中にペイロードの一撃が叩きつけられた。衝撃に耐え切れず、抱きしめたホクトと共に吹っ飛ばされる!
「スバル!」
「ちょっ、大丈夫!?」
 ティアナとこなたが声を上げ、二人があわてて駆け寄ると、
「だ、大丈夫……!
 ホクトは、無事だよ……!」
「って、アンタは無事じゃないでしょ!」
 ダメージに顔をしかめるスバルの答えは、ホクトの無事を告げるもの――思わずティアナが声を上げると、
「…………お姉ちゃん……?」
 スバルの腕の中で、ホクトは思わず声を上げた。
「守って……くれたの……?」
「うん。
 だって……“お姉ちゃん”なんでしょ? あたしは♪」
 尋ねるホクトに、スバルは痛みに耐えながらもなんとか笑顔を作ってそう答え――
「身を挺してそいつを守るかよ……
 まだ本当にてめぇの姉妹かもわからねぇのに、ご苦労なこった」
 そんな彼女達に向けて告げるのは、ペイロードの傍らに舞い降りたジェノスラッシャーだ。そして、さらにジェノスクリームも彼らに合流、スバル達と対峙する。
「スバル! みんな!
 ――ヴィータ!」
「わかってらぁ!」
 一方、ヴィータとビクトリーレオも黙っていない。再集結したディセプティコン組からスバル達を守るべく、彼らに向けて急降下し――
「残念だな!
 そう簡単には、いかないんだよ!」
 そんな彼女にノイズメイズが立ちふさがる――エネルギーミサイルでヴィータ達を牽制。サウンドウェーブや地上のランページと共に二人と対峙する。
「せっかく数を減らしてくれそうなんだ!
 乱入されたら意味ないんだよ!」
「下はディセプティコンに任せて、我らの相手をしてもらおうか!」
「くそ……っ!
 ジャマ、すんなぁっ!」
 言い放つノイズメイズとサウンドウェーブに言い返し――ヴィータはグラーフアイゼンをかまえて彼らに向けて突撃をかける!
 

「ユニクロン軍が、うまく便乗してくれたようだな……
 どちらが勝っても、こちらにしては競争相手が減って好都合と言うものか」
「そういうこったな」
 上空で激突するヴィータ達とノイズメイズ達を見上げ、つぶやくジェノスクリームの言葉にあっさりとうなずき、ジェノスラッシャーはスバル達へと向き直り、
「ま、そんなワケで援軍は来ないぜ。
 傷を負ったヤツをかばいながら、どこまで戦えるかな?」
「それはそっちも同じでしょう?」
「あたし達もいるってこと、忘れてもらっちゃ困るのよね!」
 ジェノスラッシャーに言い返し、スバル達をかばうように前に出るのはライカとアリシアだ。
「こちらとて、先ほどから暴れそこなったままでイラついてるんだ。
 悪いが、少しばかり八つ当たりに付き合ってもらうぞ」
「そーだそーだ!」
「オイラ達だっているんだ! 無視すんなぁっ!」
 オメガをかまえ、ジェノスクリーム達に告げるマスターコンボイの両横で、ガスケットとアームバレットもやる気マンマンで声を上げ――
 

「…………どいてよ」
 

 底冷えのする、低い声と共に、スバルの腕の中から脱出したホクトはニーズヘグを手に立ち上がった。
「『お姉ちゃん達をいぢめるな』……そう言ったよね? わたし」
 まだ幼い少女とは思えない、すさまじい怒りの気配を放ちながら、ライカ達やマスターコンボイ達の間を抜け、
「にーくん、カウントは?」
With the stopping of the battle, it is while the count-down stops.戦闘中断によりカウントダウン停止中
 Remaining time,残り時間 “2:43”.〉
「そっか。
 じゃ……」
 ニーズヘグの答えにうなずくと、ホクトは振り向きもしないでライカ達に告げる。
「ジャマしないでよ、みんな。
 こいつら……みんな殺すから」
「って、そんなのダメに決まってるでしょうが!
 そいつらには、聞きたいことが山ほどあるんだから!」
 あわてて声を上げるライカだが、ホクトはかまわずニーズヘグを振り上げ、
「ギルティドラゴン!」
 その名を叫ぶと同時――彼女達のいるハイウェイ跡のすぐ傍らで廃ビルが轟音と共に砕け散った。
「な、何!?」
 思わずティアナが声を上げ――それに気づいた。
 ビルが崩れ落ち、土煙が舞い散る中、その向こうに見える巨大な影に。
 そのシルエットはまるで――
「フリードみたいな……竜……!?」
「きゅく?」
 思わず傍らのフリードを見返すキャロだが、そんな彼女にフリードは首をかしげてみせる。
 そして――
「グァアォオォォォォォッ!」
 高らかに咆哮し――首の短い4つ足のドラゴンの姿を模したその機動メカは、翼を広げて土煙を吹き飛ばして漆黒に染め抜かれたその巨体を現した。
「いくよ、“ぎーくん”。
 残り時間全部使って……とりあえずこいつらを全員殺すよ」
 静かに告げるホクトの言葉に、“ぎーくん”と呼ばれたギルティドラゴンは再び咆哮――彼(?)の同意を受け、ホクトは力強く叫ぶ。
「ゴッド――オン!」
 その瞬間――ホクトの身体が光の粒子へと変換、霧散した。そのままギルティドラゴンにまとわりつき、一体化していく。
「あのドラゴン……まさか!?」
「トランス、テクター……!?」
 思わずうめくギンガのとなりで、ティアナもまた声を上げ――ギルティドラゴンと一体化ゴッドオンしたホクトは再び力強く叫んだ。
「トランス、フォーム!」
 その言葉を受け、ギルティドラゴンの巨体がトランスフォームを開始――両後ろ足をたたむと後ろ半身が後方にスライド、左右に分かれて両足となる。
 前足は爪先が腕の甲へとスライド。爪先のあった場所には、内部からせり出してきたロボットモードの拳がセットされる。
 ドラゴンの頭部は胸部へと移動。代わりに露出した首の付け根の部分からロボットモードの頭部が飛び出し、システムの起動したカメラアイに輝きが生まれる。
 トランスフォームを完了し、ゴッドオンしたホクトは今の自分の姿の名を改めて名乗った。
「サイザーギルティオン――Stand by Ready!」
 

「あの子……ゴッドマスターだったの……!?」
 ゴッドオン、トランスフォームを完了し、自分達の前に降り立ったホクト――サイザーギルティオンの姿を前に、スバルはティアナに支えられた状態で声を上げた。
「あたしも……戦わなきゃ……つっ……!」
「ちょっ、ムリよ!
 バリアジャケット越しとはいえ、無防備な背中にモロにもらったのよ!
 キャロ!」
「は、はい!」
 自分も共に戦うべく、マスターコンボイの元に向かおうとするが、そんなスバルの身体を激痛が襲う――スバルをたしなめたティアナに呼ばれ、キャロはあわててスバルの治療に向かう。
「どうする? ライカさん」
「『どうする』って……ほっとけないわよ。
 ほっといたら、あの子ディセプティコンを皆殺しにしかねないわよ!」
 素直に介入していいものか――さすがに状況をはかりかね、尋ねるアリシアにライカが答えるが、
「ジャマしないでよ」
 告げると同時、ホクトの背中の翼から縁取りの部分が分離した。ホクトが腰のツールボックスから取り出し、長く伸ばした棒の先端に連結されると、ニーズヘグのような大鎌“ギルティサイズ”となり、ホクトの振るうままライカ達と自分との間のハイウェイに深い切り傷を刻み付ける。
「ジャマしたら……殺すから」
 彼女に迷いがないのは先の攻防で実証済み――思わずライカ達が身がまえる一方で、ホクトは改めてジェノスクリーム達と対峙する。
「アイツ、ゴッドマスターかよ!?」
「ちょうどいいじゃねぇか。
 どうせ叩きのめす予定だったんだ――捕獲できればそれでよし。できなきゃブッ殺せばいいだけだろ」
 うめくペイロードに答えるジェノスラッシャーだったが、
「ムリだよ」
 言って、ホクトはギルティサイズを肩に担いだ。
「わたしが……みんな殺すから。
 トレース――ニーズヘグ!」
〈Trace!〉
 ホクトの言葉に従い、ニーズヘグがギルティサイズに宿る――同時に力強く地を蹴り、ホクトはジェノスクリーム達へと突撃をかける!
「なめるな!」
 対し、背中のキャノンで応戦するジェノスクリームだが、ホクトは止まらない。ジェノスクリームの攻撃をものともしないで突っ込み、大上段からニーズヘグを振り下ろす。
 が、ジェノスクリーム達も散開して回避。ホクトを包囲する形となるが――かまわずホクトはそのまま直進。まっすぐ後退、すなわち自分の正面に残ったジェノスクリームへとさらに突撃をかける。
「まずはオレか!
 いいだろう! オレを最初で最後の獲物にしてくれる!」
 そんなホクトを迎え撃とうと、ジェノスクリームはドッシリとかまえてホクトを待ちかまえ――

 ホクトがブレーキをかけた。

 大地に両足のカカトを叩きつけ、ガリガリとハイウェイのアスファルトを削りながら急減速。慣性がほぼ解消されると同時、横っ飛びに跳躍し、カウンターを狙ったジェノスクリームの尾を回避する。
 しかも、ジェノスクリームへと再度突撃するかと思えばそうでもなく、飛びのいたその方向へとそのまま直進。上空からばらまかれたジェノスラッシャーのエネルギーミサイルの爆撃もものともしないで突き進む。
 そんな彼女の狙いは――
「しまった! ペイロード狙いか!」
「あのチビ、傷ついてるペイロードを真っ先に叩きにきやがったか!」
 声を上げるジェノスクリームの言葉に、ジェノスラッシャーはさらに爆撃の勢いを強めるが、ホクトはそのままペイロードへと襲いかかる!
「フンッ! 先ほども吹っ飛ばすだけで斬れなかったものを!」
 自分を吹っ飛ばしたそのパワーは脅威だが、斬撃そのものには耐えられる。腕を斬られたのは、間接部を狙われたからに過ぎない。
 斬れない以上、ただの強力な打撃と代わらない――ホクトに言い返し、ペイロードは真っ向から彼女の襲来を待ちかまえる。
 どちらにせよ、先ほどの攻撃のダメージで素早い機動はまだ難しい。かわしきることは正直難しく、“受け止める”というのがペイロードにとってもっとも最善な手段なのだが――物事には、“最善”では補いきれない差というものも時に存在する。
「バカ! かわせ、ペイロード!」
「え――――――?」
 気づいたジェノスラッシャーが声を上げるが――対し、ペイロードが声を上げた時には、すでにすぺては終わっていた。
「……ゴッドオンして、斬れ味だって上がってるに決まってるじゃない」
 告げるホクトはすでにペイロードの後方。ニーズヘグの宿ったギルティサイズもすでに振り抜かれていて――次の瞬間、ペイロードは胴体のところで上下に真っ二つにされ、爆発、四散した。
「まずひとり!」
 仕留めたペイロードには目もくれず、ホクトは今度はジェノスクリームへと襲いかかる――その光景を、出遅れたライカ達は警戒しながらも見守る――むろん、彼女達としても乱入のタイミングをうかがってはいるのだが。
「あぁ、もう! あの子、何なのよ……!」
 言動はあくまで無邪気で、しかし無邪気なそのままで、冷酷に相手を斬り捨てる――ホクトのようなタイプは“Bネット”に身を置くライカにとっても未知のケースだった。思わずうめき、ライカは頭を抱える。
「なんとかして止めないと、最悪ジェノスクリームやジェノスラッシャーも……」
「わかってるわよ!」
 ゴッドオン前ですらペイロードを追い詰め、ゴッドオン後は一瞬にしてペイロードを瞬殺――ギンガの指摘は、いかに相手がディセプティコンの幹部クラス2体だと言っても冗談には聞こえなかった。声を荒らげるライカだが、それで事態が好転するワケではない。
「とにかく! タイミングを見極めて、なんとか乱入!
 トランスフォーマー組はホクトを止めて――ただ、ディセプティコン側は数で圧倒したいから、頭数確保の意味でマスターコンボイのゴッドオンはなし。
 マスターコンボイ、ブランクフォームでのミッションになるけど、いける?」
「当然だ」
 尋ねるライカにマスターコンボイが答え、いつでも乱入できるように身がまえる一同だが、
「心配いらねぇよ!
 お前らは、オレが相手してやるぜ!」
 咆哮し、飛び込んでくるのはジェノスラッシャーだ。ホクトはジェノスクリームに任せることにしたのか、こちらに向けてエネルギーミサイルをばらまいてくる。
「全員散開!」
『了解!』
 ライカの言葉にアリシアを始めとした一同がうなずき、その場から散ってエネルギーミサイルを回避するが――
「――しまった!
 スバル、キャロ!」
 そんな中、ペイロードの一撃を受けたスバルや彼女にヒーリングをかけているキャロは動けない。らしくもなく彼女達のことを失念してしまった自らの失態に舌打ちし、ライカは素早く反転、二人をかばってエネルギーミサイルを自らの力場で受け止める。
 が――
「“スラッシャー”の名は、飾りじゃねぇんだぜ!」
 そんな彼女に向けて、エネルギーミサイルを隠れみのにジェノスラッシャーが襲いかかった。刃のように研ぎ澄まされた彼の翼が、受け止めたライカの専用ライフル“カイザーブロウニング”を中ほどから叩き斬る!
「ライカさん!」
「あたしなら大丈夫!
 “Fフラッシュ・コマンダー”の重装備をなめなさんな!」
 キャロの手当てを受けているスバルが声を上げるが、ライカはかまわずそう答えると上空に舞い上がったジェノスラッシャーをにらみつけ――
 

「あ゛ぁぁぁぁぁっ!」
 

 絶叫じみた悲鳴が上がったのは、その時だった。
「何だ!?」
 その声は、上空で戦うヴィータ達の耳にも届いていた――声を上げ、ヴィータが眼下の戦場を見下ろすと、
「ヴィータ、あれ!」
 ビクトリーレオの指さした先で――ホクトのゴッドオンしたサイザーギルティオンが大地に倒れ、苦しみもがいていた。
 

「ぐぉ…………っ!」
 時間はほんの少しだけさかのぼり――ホクトの振るったギルティサイズの一撃をその牙で受け止めたものの、ジェノスクリームはそのまま振り回され、大地に叩きつけられた。
「こいつ……なんてパワーだ!」
「たぁぁぁぁぁっ!」
「しかも迷わず追撃ときたか!
 トランスフォーム!」
 うめきながらもロボットモードにトランスフォーム。倒れた自分の頭上から振り下ろされた追撃の大鎌をかわすと、ビーストモード時に背中に装備されていた2門のキャノン砲を両手にかまえ、ホクトを狙って連射する。
 しかし、ホクトもまたその一撃をギルティサイズで防ぎ、再びジェノスクリームを強襲、大鎌を横薙ぎに振るってジェノスクリームを狙うが、
「なんの!」
 かわせるタイミングではない――そう悟った瞬間、ジェノスクリームはむしろ前方へと踏み込んだ。大鎌の刃の攻撃可能範囲、その内側へと飛び込んで一撃を回避する。
 そのままホクトを狙おうとするが、さすがにそれは叶わず、ギルティサイズの柄の部分の直撃を受けて真横に吹っ飛ぶ――この一撃で決められなかったことに舌打ちしつつ、ホクトは再びギルティサイズをかまえ直した。
「まったく……さっさと死んでよ! 急いでるんだから!」
 ギルティサイズを手に声を上げるホクトだったが――その態度はジェノスクリームの脳裏にある違和感を生んでいた。
 なんというか――先ほどまでとは違う。
 先ほどまでヴィータやライカを振り回していた無邪気さが見られない――いや、本質的には無邪気なままだが、どこか焦っているような印象を受ける。
 そこで、ジェノスクリームは先ほどからホクトが告げている“ある事柄”に思い当たった。
(そういえば……ヤツは最初、戦闘時間を5分と定めた。
 そして、先ほどの戦闘再開の際にも、自分のデバイスに残り時間を確認させている……)
 何か、あの5分という宣言には、余裕などとは別の、それもオーバーするワケにはいかない、そんな重要な意味が隠れている気がする――そう考えると後の行動は早い。ジェノスクリームはライフルとしてかまえた両手のキャノンを連射、ホクトの足を止めにかかる。
「ちょっ、待っ!?
 あー、もうっ! 近づかせてよね、ホント!」
 これでは接近してギルティサイズで叩き斬るのも難しい。飛来するビームを片っ端から叩き落とし、ホクトは不満げに声を上げ――
The remaining time, 30 seconds.残り時間、30秒
「えぇっ!?
 だったら、のんびりしてられないよ!」
 そんな彼女に届く、ギルティサイズに宿るニーズヘグからの警告メッセージ――思わず声を上げ、なんとか間合いを詰めようとホクトは一か八かの突撃に打って出て――
「そいつを待ってたぞ!
 フォースチップ、イグニッション!」
 まだ性格の幼い彼女のこと。時間が押し迫ってくれば、焦って必ず飛び込んでくる――そう読んでいたジェノスクリームにとって、この展開はまさに予想されていたものだった。ジェノスクリームは冷静にフォースチップをイグニッション。胸部の竜の口が開かれ、
「ジェノサイド、バスター!」
「きゃあっ!」
 ロボットモードのまま放たれたジェノサイドバスターが、ホクトを直撃、吹き飛ばす!
 勢いよく弾き返され、大地に叩きつけられ――それでも、ホクトはなんとか身を起こすが、
〈……5、4、3、2、1……0〉
 そんな彼女に、ニーズヘグのカウントダウンが、非情のタイムリミットを彼女に告げた。
 と――
「――――――っ!」
 カウントダウンの終了と同時、彼女の身を襲う異変――“自分の内側から”巻き起こった衝撃が、彼女の身体を内部から揺らした。
 たまらず彼女はヒザをつき――真の苦痛はその後に襲ってきた。
「ぐ……あ゛ぁぁぁぁぁっ!」
 一瞬の空白の後、彼女に襲いかかる激痛――自分の身体を支えることもできず、ホクトはその場に崩れ落ち、悲痛な苦悶の叫び声を上げた。
 

「な、何だ? アイツ……」
「急に、苦しみだしたんだな……?」
 ジェノスラッシャーと対峙する中、突如上がった悲鳴――振り向き、そこにホクトのゴッドオンしたサイザーギルティオンが倒れているのを発見し、ガスケットとアームバレットが声を上げる。
「な、何が……!?」
 思わず声を上げ――スバルはふと、先ほどのホクトの発言を思い出した。

『しょうがないでしょ!
 5分で、終わらせなきゃいけないんだから!』

「まさか、さっきのカウントダウン……!?」
 もし、自分が気づいたとおりなら――思わずスバルがつぶやくと、
「ひょっとして……」
 そんな彼女にヒーリングをかけたまま、キャロもまた声を上げた。スバルと顔を見合わせ、つぶやく。
「さっき言ってた、『5分で終わらせる』って宣言……
 あの5分って設定時間は……」
「あれは、余裕なんかじゃなくて……」
 

『戦うことのできる、限界時間……!?』

 

「――――――っ!?」
 チンクと幾度となく斬り結び――その最中、ジュンイチは異変を感じ取った。
 突然、マークしていたホクトの“力”が安定を失ったのだ――チンクの放ったブラッドファングをかわし、ジュンイチはさらに気配を探る。
(あの“力”……急に振れ幅がデカくなりやがった……
 どうなってやがる? 考えられるのは……)
 原因について思考をめぐらせるが――そんな中、それどころではない事実に気づいた。
(……マズイ!
 デカイ側のパワーがデカすぎる――あのままじゃ、“力”の持ち主の身体がもたねぇ!)
「くそっ、なんでこう次から次に問題が!」
 そうと気づいてしまった以上、放っておくワケにはいかない。うめき、ジュンイチは反転し、降下すべく加速する――が、
「逃がすか!」
 チンクがそれを阻んだ。ブラッドファングのいくつかがジュンイチの進路上に飛び込み、その足を止めさせる。
「貴様の相手は私だ!」
「ったく! 急がなきゃならねぇって時に!」
 吼えるチンクにジュンイチが言い返し――再び両者が激突する!


「なるほどな。
 貴様が勝負を焦っていた理由は、そういうことか」
 もうゴッドオンを維持するのもままならない――サイザーギルティオンの中からも放り出され、大地に倒れ込んだホクトを見下ろし、ジェノスクリームは余裕の笑みを浮かべてそう言い放った。
「だが、そうとわかれば攻略はたやすい。
 せっかく参入した戦力ペイロードをあっさり減らしおって――その命、貴様の命で償ってもらおうか」
 言って、ジェノスクリームは淡々と――きわめて事務的に、手にしたキャノン砲の銃口をホクトに向けた。
「これで……終わりだ」
 告げながら、ジェノスクリームはキャノン砲の引き金を引――
 

 ――こうとした瞬間、真横からの衝撃が彼の巨体を弾き飛ばした。
 

「何だ!?」
 それでも、すぐに受け身を取って体勢を立て直し――ジェノスクリームが見上げた先で、1機の青色のジェット機が大空を飛び回る。
「あれって……!」
 その光景に、アリシアが思わず声を上げると、
「そ。
 私のトランステクター、カイザージェットだよ」
 告げて、彼女達の前に出てきたのはこなただ。
「んー、まだあの子が何者か、とか、わかんないことが多すぎだけど……とりあえずほっとくワケにもいかないでしょ。
 私が先陣切って助けにいくから、あの子の回収ヨロ」
「任せて……いいのね?」
「競争相手の言い分なんか信用できないだろうけどさ……とりあえず、任されてあげようじゃないの♪」
 尋ねるアリシアにこなたがそう答えると、
「あたしも……いきます!」
 キャロによるヒーリングが完了したのだろう。少しばかり気だるそうに頭を振りながら、スバルが立ち上がった。
「マスターコンボイさん、いけるよね!?」
「むしろ行かせろ。さっきから見てばかりでウズウズしてたんだ」
「了解♪」
 尋ねる問いに、マスターコンボイもやる気マンマンで答える――満足げにうなずき、スバルはこなたと並び立つ。
「ワケがわかんない、って言うなら、こなた、キミのこともだけど……」
「だね。
 今はあの子の救出が最優先」
 スバルに答え、こなたは地面に倒れたまま苦しんでいるホクトへと視線を向ける。
 しかし、それも一瞬のこと――すぐに身を起こすジェノスクリームへと視線を戻したこなたは、スバル、マスターコンボイと共に咆哮した。
 すなわち――
『ゴッド、オン!』
 

「ようやく、戻ってきましたか……」
 スペースブリッジを抜け、広がるのはミッドチルダの青空――“自艦”のブリッジで、彼は静かにつぶやいた。
「機動六課は現在出動中。
 できることなら一刻も早く助けに行きたいところですが……」
 あそこには自分の“パートナー”もいる。すぐにでも向かいたいが、その前に自分にはやることがある。
「では……急いで入港手続きを済ませましょうか」
 そう。ミッドチルダに戻ってきたばかりで、手続き関係が一切手付かずだ――つぶやき、彼は艦を接舷ポートに向けて転進させた。


次回予告
 
スバル 「こなた、一緒に連携して戦おう!」
こなた 「私とスバルの初めての共同作業だね!
 ……あれ? そうなるとスバルが新郎で私が新婦なのかな? いやいや、この場合、私が新郎でスバルが新婦!? あ、もしかして、両方新郎!?」
マスターコンボイ 「とりあえず貴様は落ち着け!」
スバル 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第46話『反撃開始!〜限定解除と巨人の降臨〜』に――」
3人 『ゴッド、オン!』

 

(初版:2009/02/07)