「フォースチップ、イグニッション!
 サウンド、ボンバー!」

 イグニッションによって、ブロードキャストの両肩アーマーに展開された大型のスピーカーから強烈な衝撃波が放たれた。広範囲に叩きつけられたそれが、多数のシャークトロンを粉砕する。
 そして――
「デスシザース、アーチャーモード!」
 自身の翼が変形したイグニッションウェポン“デスシザース”をかまえるのはスカイクェイクだ。翼を広げてリムに見立てた、弓形態“アーチャーモード”へと移行したデスシザースから光の矢を連射、射程内のシャークトロンを次々に粉砕していく。
「さすがだな!
 遅刻してきたことも気にならないくらいの暴れっぷりだぜ!」
「…………貴様は、そのあたりの事情は承知しているはずなのだがな」
 からかうブロードキャストに答えると、スカイクェイクはデスシザースを基本形態のシザースモードへ。背後から襲いかかってきたシャークトロンを捕まえ、別の固体に向けて投げつける。
 2体のシャークトロンが激突、爆散するのにはもはや興味を示さず、次の獲物へと視線を向けて――
「………………む?」
 それに気づいた。
「センサーに反応……?
 人間が……3人か。逃げ遅れていたのか……?」
 

「大丈夫? ゆたか」
「う、うん……
 ごめんね、みなみちゃん」
 背の高い、緑の髪の少女――岩崎みなみの言葉に息を切らせながら答えるのは、彼女と比べてふた周りほども小柄な、それでも同い年の少女、小早川ゆたかだ。
 そして――
「謝ることないっスよ!
 悪いのは、いきなりこんなところを襲ってきたアイツらなんスから!」
 1ブロックほど先で暴れているシャークトロンを指さして、眼鏡をかけたロングヘアの少女、田村ひよりがゆたかを励ますようにそう告げる。
 なぜ3人がこんな戦場の付近にいるのか、といえば――正直なところ、運が悪かった、としか言いようがなかった。
 今日は休日と共に友達3人で買い物に来ていたのだが、そこにシャークトロン出現の報が入った。当然、他の人々と共に避難しようとしたのだが――そこで、元々身体の弱いゆたかが体調を崩したのだ。
 彼女の身を最優先に、とのことで、3人はとりあえず最寄のシェルターに避難することにした。避難指定エリアの中ではあったが、このままやり過ごせれば――そんな期待もあったのだが、残念ながら運命は彼女達に味方しなかった。
 シャークトロンは次々に、しかも広範囲に現れ、自分達のいるシェルターも危なくなってきた。仕方なくシェルターを出て、避難しようと行動を開始し、現在に至るワケである。
 当然ながら、周囲に人の姿はない。このまま無事に避難できれば――そうみなみが考えた、その時だった。
「ふ、二人とも!」
 あわてたひよりの声が上がる――同時、背後のビルの陰から、戦場から離れて動き回っていたシャークトロンがその姿を現した。
 キョロキョロと周囲を見回していたその目が、ゆたか達を捉え――

 

 


 

第46話

反撃開始!
〜限定解除と巨人の降臨〜

 


 

 

「ディバイン――!」
〈――Buster!〉
 なのはとレイジングハートが咆哮し――放たれた閃光が一直線に空間を奔る。
 が――すばやく動き回る相手はなのはのもっとも苦手とする部類の相手だ。ハチの能力を有するラートラータは難なくなのはの砲撃をかわし、
「ポイズン、アロー!」
《させないよ!》
 咆哮し、金属すら腐食させる強力な毒を仕込んだ毒矢を放つラートラータにはプリムラが対抗。彼女のコントロールで飛翔するスケイルフェザーが、飛来する毒矢を叩き落す。
「なのは!」
 そんななのはを援護すべく、キングコンボイが彼女の元に向かおうとするが、
「させるか!」
 彼を阻むのはエルファオルファだ。パワーに優れるその巨体でキングコンボイにつかみかかり、力ずくで押さえ込みにかかる。
「ったく! さっきから力任せに!」
 対し、キングコンボイも彼の腕をかいくぐって斬りかかるが、エルファオルファの頑強な装甲はそれ自体が楯であり武器だ。キングコンボイの斬撃を難なく受け止め、逆に繰り出した拳でキングコンボイを弾き飛ばす!
 そして――
「クラップミサイル!」
「そんなもの!」
 ドランクロンが放つのは、相手の動きを封じる特殊なトリモチを仕込んだミサイル――防御自体が危険であるそれを、フェイトはファルコンランサーを連射し、次々に叩き落していくが、
「それで――防ぎきったつもりか!」
 ドランクロンにとっては、フェイトが迎撃に出る、ただそれだけのことでも足止めには十分だった。縦横無尽の機動を最大の持ち味とするトンボの特性を持つ自分の長所を遺憾なく発揮。決して速くはないもののムダのない滑らかな機動でフェイトに肉迫し、
「はぁっ!」
 気合と共に豪腕一閃。元々防御力に重きを置いていないフェイトの防壁を難なく粉砕し、ガードのためにかまえたバルディッシュ越しにフェイトを弾き飛ばす!
 

「くらえぇっ!」
 咆哮し、ビークルモードで周囲を飛翔するブラックアウトがエネルギーミサイルを乱射――散開し、全方位から襲いかかる光弾の群れを、イクトは周囲に張り巡らせた炎の防壁で受け止めるが、
「まだまだ!」
 続いてブラックアウトは機首を展開、その奥に仕込まれたプラズマキャノンでイクトの防壁を痛打する。
 これにはさすがのイクトの防壁もきしみ始めた。思わずイクトが舌打ちし――
「スキありぃっ!」
 そんなイクトに向けて、ブラックアウトが一気に突撃。プラズマキャノンの連射でイクトの動きを抑えたままロボットモードへとトランスフォーム。叩きつけた拳がイクトの防壁を粉砕し――
「残念だったな」
 その拳がイクトを捉えることはなかった。身をひるがえしたイクトは跳馬の要領でブラックアウトの拳をさばくと彼の腕の上で倒立し――
「なのはや八神ならいざ知らず――オレがこの程度、さばけないとでも思ったか!」
 倒立したままのその姿勢から、ブラックアウトの顔面を思い切り蹴り飛ばす!
 が――さすがにこの一撃で終わってくれるような甘い相手ではない。大きく弾き飛ばされながらも体勢を立て直すブラックアウトの姿に、イクトは小さく舌打ちし――
《――イクトさん!》
 そんな彼の元に念話が届いた。
 

「そっちの状況は!?」
《すまんが、もう少しかかりそうだ》
 念話ははやてからのものだった――尋ねるその問いに、イクトは苛立ちまじりにそう答えた。
《さっさと炎撃を叩き込めればいいんだが――向こうもそれを警戒しているようで、なかなかな……》
「まぁ、あちらさんもそれなりに対策を立ててきてるんやろうし、な……」
 イクトの言葉にはやてがつぶやき――そんな彼女に、今度はイクトが尋ねた。
《その様子だと……そっちも似たような状況のようだな》
「正解だ」
 そう答えのは、はやてと共に防壁の中で守りを固めているビッグコンボイだ――同時、エネルギーミサイルの着弾によって視界が閃光に包まれる中、イクトに対し状況を伝える。
「こっちも、ショックフリートに足止めを受けている。
 ヤツもこちらの広域攻撃を警戒しているんだろう――攻撃しようとするたびに分散されて、なかなか一撃を叩き込めない」
《まぁ、ヤツらとしても、オレ達をスバル達の援護に向かわせたくないんだろうから、当然といえば当然だが……》
「せやね。
 それに……」
 ビッグコンボイに告げるイクトの言葉にうなずき、はやては海上に視線を向けた。
 そこには、自分とビッグコンボイが共同で展開した広大、且つ強固な結界――その中で戦っているであろう戦友達のことを思い、つぶやく。
「あっちもあっちでほっとけへんし……
 さっき止められた“限定解除”、使うしかあらへんやろうけど……それもタイミングを誤れば解除時間をムダ遣いすることにもなりかねへん。
 さて、どうするか……」
 

『フォースチップ、イグニッション!』
 咆哮し、フォースチップをイグニッション――飛来した地球のフォースチップが背中のチップスロットに飛び込み、晶と共にイグニッションしたブリッツクラッカーの全身に“力”がみなぎり、彼のカカトの尾翼が展開、ライザーブレードとなる。
 そのまま、ブリッツクラッカーは勢いよく急降下。眼下の目標へと飛翔すると直前で前転のように身をひるがえし、
「ブリッツ!」
「ヒール!」
『クラァッシュ!』

 前転の勢いも加えたカカト落としを繰り出した。カカトから伸びるライザーブレードが、ハイパーベロクロニアの眉間に突き立てられる!
 が――相手は自分の6倍、30m以上の巨体だ。ブリッツクラッカーの突き立てた刃にも、そこから流し込まれたフォースチップの“力”にも抗い、力任せに振り回した両腕でブリッツクラッカーを弾き飛ばす!
「ぐぅ………………っ!
 大丈夫か、晶!」
「なんとか、な……!」
 とっさにガードしたが、すさまじい衝撃は防御越しにも伝わってきた――声を上げるブリッツクラッカーに答え、晶はライドスペースで顔をしかめた。
「ったく……なんてヤツだよ。
 ガタイに差がありすぎるっつっても、眉間に直撃くらったら少しはひるむだろ、普通!」
「まぁ、瘴魔獣っつー時点で“普通”じゃないとは思うけどな」
「いや、そりゃそうだけど……!」
 答えるブリッツクラッカーに思わずツッコむ晶だが――それで状況が好転するワケではない。上空に逃れたブリッツクラッカー達に向け、ハイパーベロクロニアは全身からミサイルを乱射する。
 次々に迫りくるミサイルを素早くかわしながら、手にしたブリッツヘルで反撃を繰り返すブリッツクラッカーだが、やはりハイパーベロクロニアには大して効果はない。
「ブリッツクラッカー! このままじゃヤバイ!
 なんとか大技を叩き込まないと!」
「わかってるけど……!」
 うめく晶に答え、ブリッツクラッカーはかわしきれないと判断したミサイルをブリッツヘルで撃ち落とし、
「それも、この状況じゃ難しいっつーの!
 こうもミサイルをばらまかれたら、スターダストスマッシャーのチャージだってままならないぜ!」
 そう告げる間にも、攻撃は一向に止む気配がない。ハイパーベロクロニアの放ったミサイルが、再度ブリッツクラッカーと晶に向けて襲いかかる!
 

「着陸完了!
 今ハッチを開けるぜ!」
「はいよ!
 到着だぜ、シャマル先生!」
「ありがとう、ヴァイスくん、スプラング!」
 降り立ったのは機動六課本部隊舎の屋上ヘリポート――告げるスプラングとヴァイスに応え、ヴィヴィオを抱えたシャマルは急いでスプラングの機内から出ると待機していた同僚の医療スタッフにヴィヴィオを預ける。
 この後、ヴィヴィオはここで簡単な診断を受けた後、聖王教会系列の病院に搬送されることになっている。もう一踏ん張りとシャマルは自らに気合を入れ――
《シャマル》
 突然、そんな彼女に念話で語りかけてきた者がいた。
 その声は、永い時の中を共に戦ってきた、彼女にとって一番の“パートナー”の声――
「帰ってきたんですか!?」
《えぇ、ついさっき。
 それより……なかなか大変なようですね》
 声を上げるシャマルに答えると、“彼”は改めてシャマルに尋ねた。
《さて……はやて嬢が交戦中でそれどころではないようですから、我がパートナーであるあなたに指示を仰ぎましょう。
 私は、どこの援護に向かうべきですか?》
 

『ゴッド――オン!』
 その瞬間――スバルの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてスバルの姿を形作り――そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
 同時、マスターコンボイの意識が身体の奥底へともぐり込んだ。代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化したスバルの意識だ。
〈Wind form!〉
 トランステクターのメインシステムが告げ、マスターメガトロンのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのように空色に変化していく。
 それに伴い、オメガが分離――巨大な両刃の剣が真ん中から別れ、両腕の甲に合体。両腕と一体化した可動式のブレードとなる。
 両腕に装着されたオメガをかまえ、ひとつとなったスバルとマスターコンボイ、二人が高らかに名乗りを挙げる。
《双つの絆をひとつに重ね!》
「勇気の魔法でみんなを守る!」

「《マスターコンボイ――Stand by Ready!》」

「トランスフォーム!」
 こなたの咆哮が響き、それに伴い、大空を飛翔するジェットが変形トランスフォームを開始する。
 まず、後方の推進システムが後ろへスライド、左右に分かれ、尾翼類が折りたたまれると爪先が起き上がって人型の両足となり、さらにその根元、腹部全体が180度回転し、機体下部を正面にするように反転する。
 続けて、機体両横、翼の下の冷却システムが変形。後方の排気口がボディから切り離されると内部から拳がせり出し両腕に。両肩となる吸気部は、両サイドのカバーが吸気口を覆うように起き上がり、カバー全体が肩アーマーとなる。
 最後に機首が機体上部、背中側に倒れるとその内部からロボットモードの頭部が現れ、カメラアイに光が宿る。
「ゴッド、オン!」
 そして、こなたが再び咆哮。同時にこなたの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてこなたの姿を形作り――そのままカイザージェットの変形したボディと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
 背中の翼が上方へと起き上がり、ゴッドオンを終えたこなたは高らかに名乗りを上げる。
「熱き勇気と絆の力!
 翼に宿して悪を討つ!

 
カイザーコンボイ――Stand by Ready!」

「いくよ、マスターコンボイさん!」
《おぅ!》
「こらこらー、私を忘れるなー」
 ゴッドオンを完了し、告げるスバルにマスターコンボイが答える――二人に軽くツッコむと、こなたは彼女達と共にジェノスクリームやジェノスラッシャーと対峙する。
「フンッ、貴様らでオレ達の相手の相手をするつもりか?」
「お前らのようなにわか連携が、オレ達に通用するとでも思ってるのかよ?」
 対し、ジェノスクリームとジェノスラッシャーは余裕だ。そろって迎え撃つべく二人で身がまえる。
 しかし、彼らも決して根拠なく余裕の態度でいるワケではない。ジェノスクリームの知る限りスバルやマスターコンボイはこなたのゴッドオンしているカイザーコンボイと連携したことなど皆無だし、そもそも対峙したこと自体数えるほどしかない。連携しようとしても、そうそううまくいくものではない。
 対し、自分達はブランクこそあるがかつて共に参謀を務めた間柄だ。彼女達よりもはるかにうまくコンビネーションを形成する自身がある。
 連携戦ともなれば、自分達が負けるはずがない――もはや確信にも似た思いと共にかまえるジェノスクリーム達だったが、
「………………だから?」
 対し、スバルはあっさりとそう聞き返した。
「なんたって初共闘だもん。連携なんてうまくいかないよね、普通は」
 そんな彼女の傍らで、こなたも肩をすくめてそう告げて――
 

『それでも、やりようならある!』
 

 まったく同じタイミングで地を蹴った。スバルの拳がジェノスクリームを、こなたの蹴りがジェノスラッシャーをブッ飛ばす!
「く…………っ!
 このぉっ!」
 痛烈な一撃を受けながら、ジェノスラッシャーは上空に逃れようと上昇するが、
「逃がすもんか!
 ウィング、ロード!」
 スバルもウィングロードを展開。その後を追ってレッグダッシャーで走り出す。
「へっ! オレを相手に、飛べねぇクセに空中戦を挑むかよ!?」
「そういうこと!」
 声を上げるジェノスラッシャーに言い放ち、スバルはさらに加速した。迎え撃つべく翼を広げるジェノスラッシャーへと迫り――
 

 通り過ぎた。
 

「………………へ?」
 てっきり攻撃がくると思っていた。カウンターを狙っていたジェノスラッシャーが思わず間の抜けた声を上げ――
「残念でした! 本命はこっち!」
 スバルに気をとられ、意識をそらしていたジェノスラッシャーの背後から、急上昇してきたこなたが思い切り蹴りを叩き込む!
「よし! ナイスこなた!」
《まったく、えげつないマネをする……》
 再度の攻撃を試みるべく反転スバルだが、そんな彼女に対しマスターコンボイは少々呆れてそうつぶやく。
《貴様、師である柾木ジュンイチからどんな教えを受けていたんだ?》
「見てのとおり♪
 それに……」
 あっさりとマスターコンボイに答えると、スバルはカイザーコンボイへと――こなたへと視線を向け、
「すぐにあたしの狙いに気づいたって事は……」
「ご明察。
 私も弟子だよー。一応、姉弟子ってことになるのかな?」
 尋ねるスバルに対し、こなたは笑いながらそう答える。
「くそっ、アイツら同門だったのか!?」
 そんな彼女達の会話に、ジェノスラッシャーは彼女達の今の見事な連携の根源を悟ったうめきながら背中のキャノン砲を連射するが、スバルもこなたもそれをあっさりとかわし、
「あたし達それぞれじゃ勝てないかもしれない――でも!」
「私達がそろったなら、アンタ達二人にも負けやしないよ!」
 一気に急降下、ジェノスクリームに肉迫し、拳と蹴りを叩き込む!
 

「さっさと……どけよぉっ!」
「お断りだ!」
 咆哮するヴィータにノイズメイズが言い返し、グラーフアイゼンとブラインドアローがぶつかり合い、
「どうした、どうした!?
 当たらんなぁっ!」

「くっ、ちょこまかと……!」
《さっさと当たるですぅーっ!》
 ワープによるヒット・アンド・アウェイを繰り返すサウンドウェーブの言葉に、ビクトリーレオが両肩のビクトリーキャノンを、リインが自身のフリージングダガーを連射しながら歯噛みするが――
「ワシもいるってことを、忘れてもらっちゃ困るのぉっ!」
 そんな彼らやノイズメイズと激突するヴィータに向け、ランページが地上からミサイルをばらまいてくる。
 先ほどから両者の戦いは一進一退。ノイズメイズ達が地上の戦いの共倒れを狙って時間稼ぎに徹していることも重なり、ヴィータ達は未だに突破の糸口をつかめないでいた。
「どうせ今から何やったって間に合うもんかよ!
 もうあきらめな!」
「あきらめて、られるかよ!」
 ノイズメイズに言い返し、ヴィータはグラーフアイゼンをかまえて突撃する。
 懇親の力でグラーフアイゼンを振り下ろし――瞬間、ノイズメイズの姿が消えた。
(ワープ――!?)
 気づくと同時、死角に生まれる殺気――とっさに身をひねるが、間一髪で回避しきれなかったノイズメイズの光刃が、ヴィータの背中に切り傷を刻む!
「ぐぁ…………っ!」
「とどめだ!」
 彼女も戦士だ。傷を受けたからと動きを止めることはないものの、それでも明らかに彼女の動きから冴えが消えた。そんな彼女に向け、好機とばかりにノイズメイズが突撃し――
 

「残念でした!」
 

 脇から飛び込んできたライカが、ノイズメイズを思い切り蹴り飛ばす!
「ライカ!」
《ライカさん!?》
「お待たせ!」
 声を上げるヴィータやリインに答え、ライカは再構築したカイザーブロウニングを手に彼女と並び立つ。
「お前、なんでこっちに!?
 スバル達は!?」
「そのスバルが、こなたと二人して健闘してくれてんのよ。
 おかげでこっちに回ることが可能になった、ってワケ」
 ヴィータに答え、ライカはノイズメイズや彼と合流したサウンドウェーブをにらみつけ、
「さぁて、それじゃ反撃開始といこうかしらね!」
「なめるな!」
「貴様ひとり加わったところで!」
 告げるライカに言い返し、ノイズメイズとサウンドウェーブは一直線に彼女に向けて飛翔。ライカもそんな彼らを迎え撃つべく、弾かれるように加速、突撃する。
 と――ノイズメイズとサウンドウェーブの姿が消えた。ワープによって瞬間移動、警戒し、急停止したライカの頭上と直下に回り込む。
 上下から挟撃する形となった二人がライカに迫り――
「もう一度言うわよ。
 ――残念でした!」
 そう言い放つと同時――ライカの姿が消えた。目標を見失い、サウンドウェーブの拳とノイズメイズの光刃が空を薙ぐ。
「なんだと!?」
「ヤツもワープを使えるのか!?」
 驚き、ノイズメイズとサウンドウェーブはライカの姿を探して周囲を見回し――
「そんなんじゃ――ないわよ!」
 ライカはサウンドウェーブの背後にいた。カイザーブロウニングの銃身、その下部を光刃でコーティングしたカイザーソードでサウンドウェーブをブッ飛ばし、
「ヴィータ!」
「オーライっ!」
 サウンドウェーブが吹っ飛ぶ先にはヴィータがいた。瞬時にライカの意図を理解したヴィータは、飛ばされてくるサウンドウェーブをグラーフアイゼンで豪快に打ち返す。
「サウンドウェーブ!?
 こいつ!」
 対し、ライカに向けてブラインドアローからビームを放つノイズメイズだが、ライカはまたも姿を消し、ノイズメイズのビームは虚空を貫く。
「くそっ、どうなってやがる!?
 ワープじゃないってぇなら、この動きは!?」
 まるで捉えることのできないライカの動きに、ノイズメイズが声を上げ――
「なんてことはない――単なる速さよ!」
 ノイズメイズの眼前に飛び込み、ライカがカイザーソードでノイズメイズを殴り飛ばす!
 その先にはビクトリーレオが――サウンドウェーブ同様カウンターの拳でブッ飛ばされる光景を前に、ライカはフンッ、と鼻を鳴らして言い放った。
「加速力と最高速度しか能がないから、あんまり自慢にならないんだけど――この二つにかけては、フェイトにだって負けない自信があるのよ。
 武道における“縮地”みたいなもんよ――瞬間的にトップスピードまでいけるから、普通の動きに慣れてるあんた達の目やら視覚センサーやらじゃ、あたしの動きを追いきれない。
 結果として、あたしがまるでワープしたみたいに見える、ってワケ――ワープだけが瞬間移動じゃないのよ。おわかり?」
 

「あーっ、くそっ!
 何か苦戦してるみたいじゃのぉ……」
 上空でライカに翻弄され、ヴィータとビクトリーレオの一撃を許したノイズメイズとサウンドウェーブの姿に、ランページは地上から見上げながらため息混じりにそうつぶやいた。
「じゃが……こっちを忘れてもらっちゃ、困るのぉ!」
 しかし、彼とてただ黙って見ているつもりはない。地上からライカを狙い、ランページはミサイルランチャーをかまえ――
「――って、どわぁっ!?」
 そんな彼に向け、突然多数の光球が飛来――直撃を受け、ランページが声を上げ、
「ぶべらぁっ!?」
 続けて痛烈な打撃が――ものすごい勢いで飛び込んできた影の突撃を受け、ランページの巨体は宙を待った。
 そして――
「……忘れてるワケないじゃない。
 やっぱアンタ、アホだわ」
 突進は彼女の手によるもの――ラケーテンフォルムから通常のランサーフォルムに戻したロンギヌスをかまえ、アリシアはため息混じりにそう告げて、
「祝・初コンビネーション♪
 ティア、ナイス射撃だったよ♪」
「は、はい……恐縮です……」
 グッ、とサムズアップしてみせるアリシアの言葉に、ティアナはクロスミラージュの銃口を下ろして息をつき、
「…………要するに、ティアナとのコンビネーションがやりたくてひとりで飛び出したんですね……」
 一方で、アリシアに置いていかれる形となったギンガは、カラカラと笑うアリシアの姿に思わず肩をすくめるのだった。
 

「…………っ、く……っ!」
「しっかりしてください!
 すぐに手当てしますから!」
 戦闘中、突如ホクトの身に起きた異変――“限界”を迎え、全身を襲う激痛に顔を歪めるホクトに駆け寄り、キャロはすぐにヒーリングを始める。
 そして、彼女達や地下で確保した“レリック”のガードとしてこの場に残ったエリオやフリードも、彼女達の様子を静かに見守っている。
 キャロのヒーリングの腕は自分も時折世話になってよく知っている。すぐにホクトは回復するだろう。だからそれまでは自分が守らなければ――そんな決意と共に、エリオは“レリック”のケースを抱えたままストラーダを握り直し――
「………………どうして……!?」
 そんな彼の意図に反する声がキャロの元から上がった。
「どうしたの? キャロ」
 視線だけを向け、尋ねるエリオだが――そんな彼に対し、キャロは今にも泣き出しそうな顔で答えた。
「…………治らないの……」
「え………………?」
「身体の切り傷やすり傷とかはすぐに治ったけど……ホクトちゃんを苦しめてる体内の負荷だけは……
 ヒーリングが効いてないワケじゃない……効いてるけど……それ以上に、この子にかかってる負担が大きすぎる……!」
「そんな……!」
 キャロの答えに、エリオは思わずうろたえて――
「……う…………っ!」
「だ、大丈夫!?」
 再び痛みにうめいたホクトに、キャロは必死に呼びかける。
 ホクトからの返事はない――あまりの痛みに泣き声すらあげられず、自らの身体を抱きしめるようにして身を震わせるばかりだ。
「ど、どうしよう……!」
 ヒーリングのできない自分にはどうすることもできない。狼狽し、声を上げるエリオだったが、
「…………大丈夫……!」
 意を決したキャロが動いた。苦しむホクトの身体を優しく抱きしめ、ケリュケイオンでブーストしたヒーリングの魔力を全身から彼女の身体に伝えていく。
 かつて、リニアレール戦でエリオを癒した時と同じ――集中させた一点にヒーリングをかけて治すのではなく、ホクトの全身にまんべんなくヒーリングをかけているのだ。
「大丈夫……大丈夫だから……
 絶対に……治してあげるからね……!」
 優しく、心からの想いで呼びかけるキャロの言葉に――苦悶にゆがんでいたホクトの顔がわずかに安らいだ。
 

「ジェットショット!」
 叫ぶと同時、ジェットガンナーがジェットショットを連射、頭上から降り注ぐエネルギー弾の雨がブロウルの足を止め、
「今だ、ライトフット!」
「了解!」
 ジェットガンナーの合図にうなずくのは、ライトフットへとゴッドオンしたかがみである。
「フォースチップ、イグニッション!」
 そして、咆哮するかがみの元に飛来するのはスピーディアのフォースチップ――それが背中のチップスロットに飛び込むと同時、全身に“力”が駆け巡っていく。
 全身の放熱システムが起動、システムがフルドライブモードへと移行する中、かがみはわき上がる“力”のすべてを手にした専用銃“ライトショット”へと収束させていく。
 そして、かがみは迷うことなくライトショットをブロウルに向け、
「ハウリング、パルサー!」
「なんのっ!」
 放たれるのは絶対の自信を伴った一撃――かがみの放った、フォースチップの“力”をありったけ込めたエネルギー弾を前に、自身の砲撃で対抗するブロウルだったが、
「――って、にゃばぁっ!?」
 通常の砲撃程度でしのげるほど、かがみの一撃は甘くはなかった――対抗した砲撃をあっさり吹き散らしたエネルギー弾に直撃され、ブロウルは勢いよく吹き飛ばされ、
「はぁぁぁぁぁっ!」
 咆哮とともにシャープエッジが刃を一閃。ボーンクラッシャーのクローアームを中ほどから叩き斬る。
 そして――
「フォースチップ、イグニッション!」
 シャープエッジに続いてイグニッションするのはつかさのゴッドオンしているレインジャー。紫色に染め抜かれたギガロニアのフォースチップが彼女の背中のチップスロットへと飛び込み、つかさもまたフルドライブモードへと移行。両肩のガトリングガン、両脚のミサイルポッドが起動し、さらに両腕にビームガンが装着される。
 苦手分野である照準プロセスは思い切ってすっ飛ばす――どうせ狙うのはひとりなのだから、そこにだけ集中すればいい。つかさは迷わずシャープエッジが離脱、独りその場に残されたボーンクラッシャーへと全身の火器を向け、
「たぶんケガだけですむから許してくださぁい!
 レンジャー、ビッグバン!」
「これでケガだけって、むしろなぶり殺しじゃねぇかぁっ!」
 放たれた無数の弾丸は見事に全弾直撃。ボーンクラッシャーが吹っ飛ばされる――悲鳴がツッコミなあたり、つかさの言う通り命に別状はなさそうだが。
「ブロウル! ボーンクラッシャー!」
 立て続けに撃破された仲間達の姿に、思わずバリケードが声を上げ――
「オレ達だっているんだぜ!」
《無視されちゃうのはムカついちゃうな、もうっ!》
 そんな彼にはロードナックルが殴りかかった。クロを主人格に据え、右拳を立て続けにお見舞いすると素早くシロに交代し、
「いっ、けぇっ!」
 左アッパーがバリケードのアゴをとらえ、勢いよく打ち上げる!
「ロードキング、フィニッシュよろしくっ!」
「はい!」
 告げて飛びのくロードナックル・シロに答え、みゆきが前に出た――ロードキングにゴッドオンした状態で、ロードアックスをかまえてバリケードと対峙する。
「フォースチップ、イグニッション!」
 そして、彼女もまたフォースチップをイグニッション――地球のフォースチップをイグニッションし、フルドライブモードへと移行する。
「なめんな、小娘!」
 対し、バリケードもまた彼女に向けて突撃。拳を繰り出すが――その軌道上にみゆきの姿はなかった。
「確かに小娘ですけど……素人ではないんです!」
 バリケードの拳を最小限の動きで回避。みゆきはバリケードの背後に回り込みながらロードアックスを握り直し、
「できれば――これで倒れてください!
 アックス、ブレイク!」
 逆袈裟に斬り上げた一撃で、バリケードを弾き飛ばす!
「さて……これで残るはお前だけだな」
「く………………っ!」
 仲間が次々に倒され、残るはレッケージただひとり――アンカーロッドを突きつけて告げるアイゼンアンカーに、レッケージは思わず歯噛みする。
「だが――それでも、ここで退くワケには!」
 戦略的には撤退するのが正解だろう――しかし、戦士としてのプライドがレッケージにその道を選ばせることを阻んだ。アイゼンアンカーに言い返し、両腕のブレードを振りかざして地を蹴って――
「――はい、残念♪」
 彼の斬撃を、アイゼンアンカーはいともたやすくかわしてみせた。そのままアンカーを射出、ワイヤーでレッケージの身体をからめ取り、
「アイゼンホームラン――“イグニッションしてないからそれなりに威力弱めバージョン”っ!」
「がはぁっ!?」
 そのまま引き寄せてアンカーロッドで一撃。直撃を受けたレッケージはまっすぐにブッ飛ばされ、そのまま廃ビルに突っ込んで意識を手放した。
「よっしゃ、戦闘終了!」
 アンカーロッドを肩に担ぎ、アイゼンアンカーが勝どきの声を上げ――
「こちらも、片付いたようでござるな」
 シャープエッジが告げ、ジェットガンナーやシロ、そしてかがみ達と共に合流する。
「手助けはいらなかったようだな。さすがは我々の長兄と言ったところか」
「なんのなんの。お前らがめんどくさい他のヤツらを全部引き受けてくれたおかげだよ」
 ジェットガンナーにそう答えると、アイゼンアンカーはゴッドオンしたままのかがみ達へと視線を向け、
「そちらさんもありがとねー。助かっちゃったよ。
 ボクら、純粋なトランスフォーマーじゃないから、パートナーがいないとフォースチップを使えないんだよ」
「いいわよ、別に」
「私達にとっても、ほっとけない相手だったからね」
 アイゼンアンカーの謝辞にそう答えるかがみとつかさだったが――
「いやねー、レッケージだけならともかく、他のヤツらも、となると正直面倒くさくてさー。
 おかげで楽ぅ〜に片付いたよ、マヂありがと♪」
「めん…………っ!?」
《あー、気にすんな気にすんな》
「兄ちゃん、デフォでこーゆー性格だからねー。まぢめに相手すると疲れるだけだよ」
「そ、そうなんですか……?」
「恥ずかしながら……」
 思わず言葉を失ったかがみにはクロやロードナックル・シロが答える――聞き返すみゆきに答え、シャープエッジはそう答えてため息をつく。
「じゃあ、ボクらはこのままスバル達と合流するけど、みんなはどうするの?」
「私達も行くわよ」
 ともあれ、気を取り直して尋ねるロードナックル・シロに対し、かがみはあっさりとそう答えた。
「私達の側からも、ひとり向こうに行ってる子がいるからね」
「ひとり……あぁ、カイザーコンボイか」
「察しがよくて助かるわ」
 あっさりと察するアイゼンアンカーにうなずき、かがみは軽く肩をすくめてみせる。
「一応、ミッションプランの上ではまだ許容範囲内の時間差ではあるけど……あの子もなんだかんだで危なっかしいところがあるから、早いトコ援護に合流したいのよ」
「へー、そうなんだ」
 ライトショットをしまい、どこか不安げな表情で頭をかくかがみの言葉に、ロードナックル・シロはうんうんとうなずき、
「優しいんだねー、ライトフットって」
「やさ…………っ!?
 そ、そんなんじゃないわよ! ただ、あの子がしくじったら私達まで危ないから……!」
 ロードナックル・シロの言葉に、かがみはあわてて手を振りながらそう答える――その光景を前に、アイゼンアンカーはジェットガンナーに尋ねた。
「ねぇ、ジェットガンナー」
「どうした?」
「今、目の前ですごく見慣れた光景が繰り広げられてる気がするんだけど」
「『気がする』ではない。
 我々が日常的に目にする光景に、50%以上の要素が酷似している」
 

「へぶしっ!」
「ティアナ、どしたの?」
「いや、急にくしゃみが……ほこりでも吸っちゃったかしら……?」
 唐突にくしゃみしたティアナの姿に、ギンガが思わず尋ねる――自分にも原因に思い当たらず、ティアナはつぶやいて首をかしげ、
「オレを相手に、余裕じゃのぉ、貴様らぁっ!」
 そんな彼女達に向け、先ほどの彼女達の攻撃では撃破に至らなかったランページがミサイルを乱射する!
「ったく、往生際の悪いっ!」
 降り注ぐミサイルをかわし、アリシアは一旦距離をとってギンガやティアナと合流し、
「ティアナ、援護お願い」
「あたしとギンガはアイツに突っ込むから。
 アイツのミサイルを叩き落とすなりあたし達が吹っ飛ばしたランページに追撃するなり――その辺りは任せるよ!」
「了解!」
 気合を入れ、答えるティアナにうなずき、ギンガとアリシアは再びランページに向けて地を蹴り、ランページへと突撃する。
「なめんなやぁっ!」
 対し、ランページも迎撃すべくミサイルランチャーをかまえ――
「だなぁっ!」
「――って、のわぁっ!?」
 真横からの体当たりが炸裂――スキをうかがっていたのか、今まで姿を見なかったアームバレットの体当たりを受け、ランページが姿勢を崩し、
「もう、いっぱぁつっ!」
 反対側から、ガスケットがランページの側頭部に飛び蹴りを一発。首からゴギリ、とイヤな音を立てつつ、ランページは反対側へと押し戻され、
「二人とも、ナイスフォロー!」
「いっけぇっ!」
 結果的に元の位置に戻ってきたランページを、アリシアのロンギヌスとギンガの左ストレートがブッ飛ばす!
 立て続けに連続攻撃を喰らい、ランページの巨体が宙を舞い――
「ティアナ、追撃どうぞ!」
「はい!
 ヴァリアブル――シュート!」
〈Variable Shoot!〉
 アリシアの言葉に、ティアナはすぐに反応した――クロスミラージュと共に放った魔力弾が、空中のランページを直撃、吹っ飛ばす!
 

「そんな、バカのひとつ覚えが何度も!」
 咆哮し、こちらもエネルギーミサイルを乱射――迫り来る巨大なミサイルの群れを、ブリッツクラッカーはまとめてなぎ払い、
「でもって――こいつはお返しだ!」
 すかさず放ったブリッツヘルの一撃が、ハイパーベロクロニアの胸部を叩く。
 だが、やはりハイパーベロクロニアには通じない。巨体に見合った強靭な筋肉でブリッツクラッカーの一撃に耐えると、ハイパーベロクロニアは再度ミサイルを乱射する。
「くそっ、なんつーか、さばききれなくなってきたぞ!」
「なんとか踏ん張れ!
 こいつを結界ここから出すワケにはいかないんだぞ!」
 先ほどから同じ流れの攻防の繰り返し――しかし、確実にブリッツクラッカーはハイパーベロクロニアが放つ大量のミサイルの物量に押され始めていた。思わず愚痴るブリッツクラッカーを晶は懸命に叱咤する。
 そんな彼らを狙い、絶え間なく降り注ぐミサイルの雨――懸命に迎撃を繰り返す迎撃を繰り返すブリッツクラッカーだが、その迎撃ラインは着実に縮小の一途をたどっている。
 そして――
「――――ヤバイ!」
 ついに1発のミサイルが彼の迎撃ラインを突破した。こちらの射撃をかいくぐり、迫るミサイルを前にブリッツクラッカーの背筋を寒気が走る。
 せめてライドスペースの晶だけでも守らなければ――とっさに胸部をかばうブリッツクラッカーに、彼の身の丈ほどもある巨大なミサイルが迫り――

 

 爆発した。

 

「え………………?」
 その身体を爆発が包み込むよりも早く、巨大なミサイルは突然爆散した。てっきり直撃するとばかり思っていたブリッツクラッカーが予想外の光景に目を丸くして――
「ブリッツクラッカー、上!」
 一足先に気づいた晶が声を上げた。彼女に従い、ブリッツクラッカーが上空を見上げると、
「あ、あれは……!?」
 そこには、巨大な魔法陣が結界の天井面いっぱいに描かれていた。
 その陣はベルカ式。書き込まれている術式は――
「転送系――それも、艦船移動用の……!?」
 つぶやき、ブリッツクラッカーは気づいた。
 あの魔法陣を抜け、この場に現れるであろう存在の正体に。
「そうか……帰ってきやがったのか……!」
 自分の読んだ通りなら、現れるのは心強い援軍であり――その読みはおそらく正解であろう。確信と共に笑みを浮かべ、
「ったく、遅いじゃねぇか――」
 

「フォートレス!」
 

 その言葉と同時――転送魔法陣をくぐり、ヴォルケンリッターがひとりにしてシャマルのパートナー、フォートレスが誇る愛艦、マキシマスがその威容を現した。

〈フォートレス!?
 帰ってきたんか!?〉
「お久しぶりです、我が主」
 自身の結界の中に現れたのだ。彼女が気づかないはずがない――思わず通信してくるはやてに対し、フォートレスはマキシマスのブリッジで優雅に一礼して応える。
「はやて嬢が戦闘中のようでしたので、我がパートナー、シャマルに判断を仰ぎ、参上いたしました。
 こちらへの参戦でよろしかったですか?」
〈もちろんや!
 一番デカイ目標、引き受けてくれてありがとな!〉
「礼には及びません。
 我らヴォルケンリッターは主はやて嬢の刃。主はやて嬢の楯。主はやて嬢の頭脳――」
 礼を言うはやてに応え、フォートレスは身をひるがえし、
「主の身に降りかかる危難、我ら一丸となりて打ち払いましょう!」

「フォートレス、スーパーモード!
 トランスフォーム!」

 フォートレスが咆哮すると同時――マキシマスが変形を始めた。
 双頭の艦首の先端が起き上がりつま先となり両足が完成、次いで推進部が基部から回転し前面へと向き、収納された推進バーニアに代わり拳が現れる。
 最後に変形するのはマキシマスのメインブロック――艦橋部が真っ二つに別れ、艦底側に折りたたまれてボディとなる。
 そして――
「ヘッド、オン!」
 四肢を折りたたんだフォートレスが頭部にトランスフォーム、変形を完了したマキシマスのボディに合体する。
 すべてのシステムが起動し、フォートレス自身の瞳にも輝きが生まれる。
 力の通った拳を握りしめ、新たな姿となったフォートレスは高らかに名乗りを上げた。
「フォートレス、マキシマス!」
 

「フォートレスが参戦したか……
 これで、あちらの戦力バランスは完全に逆転したな」
 周囲を飛び回るブラックアウトの攻撃をさばきつつ、イクトは結界内の様子を感じ取った“力”で把握しながら静かにつぶやいた。
 いくら巨大化したハイパー瘴魔獣であろうと、フォートレスマキシマスの巨体はそれ以上。先ほどまでブリッツクラッカーが味わった苦労を、今度はハイパーベロクロニアが味わうことになる。
 これからハイパーベロクロニアがたどるであろう“結末”を察し、イクトは同じ瘴魔として心ばかりの同情を贈り――
「何、他ごと考えてやがる!」
 それをスキと見たか、ブラックアウトがイクトに襲いかかった。ロボットモードにトランスフォームし、イクトに向けて拳を打ち放ち――
「八神はやて」
 はやてに対して念話で呼びかけるイクトは、一瞬にしてブラックアウトの背後に回り込んでいた。
「このタイミングが、“頃合”だとオレは判断するが?」
 

「せやね……」
「確かに、今が最高のタイミングだろうな」
「………………?」
 念話で尋ねるイクトに、はやてとビッグコンボイはあっさりと答える――そんな彼女達の姿に、ショックフリートは周囲に自分の存在を“散らした”まま眉をひそめた。
「貴様ら……何の話をしている?」
「あぁ、大したことやあらへんよ」
 尋ねるショックフリートに、はやてはあっさりと答える。
「単に……そろそろ本気を出そうか、って話や」
 

「本気に、だと……?」
「まぁ、ね」
 はやて達の会話はこちらでもモニターしていた――警戒し、つぶやくドランクロンに、キングコンボイは愛刀カリバーンを手にそう告げた。
「そっちだって把握してると思うけど?
 ボクらの……能力限定の話は」
「………………っ!?」
 キングコンボイの言葉に、ドランクロン達の警戒が度合いを強める――そんな彼らに、なのはとフェイトが続ける。
「私達は、機動六課に全員が集結するため、部隊保有戦力の規定に収まるように、リミッターをかけて魔導師ランクを落としてるの」
「けど……どうしてもその戦力が必要になった場合に限り、上官の権限でそのリミッターを解除できる」
 そして、港湾区上空の戦場でも、はやてとビッグコンボイがショックフリートに告げていた。
《スバル達もなんかピンチっぽかったからなー……ホントなら、もっとはように解除して、アンタらみんなさっさと叩きたかったんやけど……》
《そこでネックになったのが、海上に出現したあのハイパーベロクロニアだ》
《あれがザインの差し金であることは明白。
 そしてその目的はおそらく、この場に集結した各勢力の戦力評価……早々にガジェットに殺させて巨大化させたのは、誰もが“本気にならざるを得ない”戦力を差し向けるためだろう》
 はやてとビッグコンボイに付け加えるのは、ブラックアウトと戦っているイクトである。
《他の勢力にぶつけるのが最善の策……と、貴様らなら考えるだろうが、オレ達の場合そうもいかん。
 何しろ、貴様らの誰も、街への被害など考慮に入れないだろうからな。正面からぶつけ合わせたらシャレにならん》
《かと言って、私達で叩くってワケにもいかなくってねー》
《何しろ、敵は私達の戦闘データを得るのが目的ですからね。
 ヘタにあなた達を叩いてフリーになろうものなら、私達のデータを得ようとこちらに突進してくることになる――当然私達もすぐに迎撃に向かいますが、それでもお互いに接近し合う以上、戦場が街に近くなるのは必然》
 なのはやフェイトに装着されたまま、プリムラとジンジャーもイクトに続いてそう告げて、
《だから、はやて達は限定解除のタイミングをギリギリまで計る必要があったんだよ》
《ハイパーベロクロニアが海上から動けなくなるか、倒してから向かっても十分海上で迎え撃てる――そんな状況になるまで、です!》
 ノイズメイズとサウンドウェーブをけん制し、ヴィータとリインもそう説明する。
 

「けど……それももうおしまい」
「フォートレスがハイパーベロクロニアを引き受けてくれたおかげで、オレ達も心置きなく戦える」
 改めて告げて、はやてとビッグコンボイはそれぞれの獲物をかまえる――そして、はやては高らかに宣言した。
「機動六課、各隊員へ!
 隊長として、隊長格の限定解除、ならびに全開戦闘を承認します!
 データなんか取らせる余裕は与えへん――てってー的に、やっちゃってください!」
『《了解っ!》』
 

「よぅし、やるよ、レイジングハート、プリムラ!」
〈All right.〉
《はーい!》
「バルディッシュ、ジンジャー、私達も!」
〈Yes,ser!〉
《お任せください!》
 はやての言葉にうなずき、なのは達が、そしてフェイト達がそれぞれにかまえ、
「私もやるよー!」
「当然だ!」
 はやてとビッグコンボイも、シュベルトクロイツを、シュベルトハーケンを頭上に掲げる。

 

 そして――

 

 

 

 

『《リミット――リリース!》』

 

 

 全力を解き放った。


次回予告
 
ジュンイチ 「六課の隊長サマ達も限定解除。いよいよ本気モードか。
 じゃ、オレも次回は……」
はやて 「脱ぐんか?」
ジュンイチ 「脱がねぇよ!
 何期待に満ちた目ェしてんだよ!?」
はやて 「別にえぇやん。
 今回出番なかったのを気にしてこうして予告に出張ってくるよりはよっぽど目立てるよ?」
ジュンイチ 「やかましいっ!」
はやて 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第47話『混戦決着〜守れたものと残る謎〜』に――」
二人 『ゴッド、オン!』

 

(初版:2009/02/14)