「よぅし、やるよ、レイジングハート、プリムラ!」
〈All right.〉
《はーい!》
「バルディッシュ、ジンジャー、私達も!」
〈Yes,ser!〉
《お任せください!》
はやての言葉にうなずき、なのは達が、そしてフェイト達がそれぞれにかまえ、
「私もやるよー!」
「当然だ!」
はやてとビッグコンボイも、シュベルトクロイツを、シュベルトハーケンを頭上に掲げる。
そして――
『《リミット――リリース!》』
全力を解き放った。
第47話
混戦決着
〜守れたものと残る謎〜
「リミット解除……っ!
これからが、ヤツらの本気ということか……!」
“解放”と同時、なのは達の魔力反応の強さが跳ね上がり、巻き起こった魔力の渦に包まれた。こちらにまで伝わってくる魔力の流れに警戒を強め、ドランクロンがうめくと、
「だからどうした!」
そんな自分達を鼓舞するように、ラートラータが声を荒らげた。
「いくら抑えていた魔力を解放しようが、だからと言って、簡単に挽回を許すワケにはいくまい!
ずっと抑えていたとなれば、解放後は発揮できる力の落差で思うように魔力も使えまい! ここは一気に――」
しかし、ラートラータがその先を告げることはできなかった。
「……言いたい放題言ってくれるね」
自然界ではありえない、真横に渦巻いた竜巻が彼の身体を空高く吹き飛ばしたからだ――空中で立て直すこともかなわず、きりもみ回転しながら大地に落下するラートラータに対し、キングコンボイはため息まじりにそう告げた。
「戦うのは私達だけじゃないんだよ」
《出力の変化に慣れない内は私達がフォローすればいいだけです》
そして、フェイトとジンジャーが周囲に雷光をまき散らしながら後に続き――
《そういうワケだから――》
「ごめんね――ここから先は一方的!」
解放した際に勢い余ってあふれ出した桃色の魔力に包まれ、プリムラとなのはが力強く宣言した。
「あらあら、ようやく本気モードかしら?」
その光景を上空でモニターしているのは、ドサクサにまぎれて高みの見物を決め込んでいるクアットロだ。リミッターを解除したなのは達の姿を、ウィンドウに映し出された映像で確認し満足げにうなずいてみせる。
ようやく目的が果たせるとばかりに各種センサーを全開作動。戦闘の光景を一瞬たりとも逃すまいと観測を開始し――
「――――――っ!?」
センサーが、自分のもとに急速に接近してくる存在を捉えた――同時、雲海を突き破り、二つの影がクアットロの目の前に躍り出る!
太陽を背にクアットロと対峙するのは、バリアジャケットとは異質の戦闘装束に身を包んだ二人の少女――
「あなた達――柾木ジュンイチのお仲間の!?」
「悪いけど……データ収集はさせないよ!」
「あなたの相手は、私達二人が!」
驚愕するクアットロに言い放ち、それぞれのステッキをかまえたイリヤと美遊は――10年前のそれを基本に、スカートをロングにするなど落ち着きを盛り込んだデザインのコスチュームに身を包んだ“カレイドの魔法少女”達はクアットロに向けて飛翔する。
「狙撃――発射!」
「中っくらいの――散弾!」
「く…………っ!」
美遊が放つのは高速の狙撃弾、イリヤは中規模の広域散弾――次々に魔力弾を放つ二人の攻撃から、クアットロは愛機であるステルス機型ビークルに乗り込む余裕もないまま逃げ惑う。
「まったく、あの柾木ジュンイチといい、ディセプティコンといい、あなた達といい!
私は戦闘型じゃないっていうのに!」
そんな彼女達に背を向け、クアットロは迷わず離脱を選ぶ――当然その後を追うイリヤ達だが、
「IS発動――“シルバーカーテン”!」
そんな彼女達から逃れるべく、クアットロは自身のISを発動。その姿がまるで塗りつぶされるかのように消えていく。
「ステルス!? お得意の幻術ってワケ!?
ルビー、索敵!」
《難しいですねー。
元々私は索敵向きじゃないですし》
《姉さんの場合“できるのにやらない”んだと思いますが》
告げるイリヤだが、彼女の握るルビーはあっさりと答え――そんな彼女には美遊の手の中のサファイアが答える。
が――
「大丈夫」
そんな彼女達に、美遊は迷わずそう答えた。
「私達が見つけられないなら――“見つけられる人”に見つけてもらえばいい。
――ですよね?」
〈そーだねー♪〉
そう答えたその声は――イリヤ達のものではなかった。
「フフフ、いくら管理外世界の魔導師でも、私のシルバーカーテンの影響から逃れるのは不可能よ♪」
自分の姿を見失ったイリヤ達を後方に置き去りにし、クアットロは姿を消したまま、余裕の笑みと共につぶやいた。
「さて、それじゃあ……」
このまま安全圏まで逃げおおせて、データ収集を再開させてもらおう――そんなことを考えながら、クアットロはビークルに乗り込もうとして――
「――って、きゃあっ!?」
突然ビークルが自動で回避行動をとった。振り落とされそうになったクアットロがあわててビークルにしがみつき――そんな彼女の頭上を、飛来した魔力弾が駆け抜ける。
しかも、1発ではない――多数の魔力弾が飛来し、クアットロに次々に襲いかかる!
「攻撃!?
そんな、シルバーカーテンはまだ――!?」
姿は消したままなのに、なぜ自分に向けて攻撃がくるのか――思わずクアットロが声を上げると、
「まだまだ甘いよー、メガネちゃん♪」
そう告げて、彼女の前に立ちはだかったのは、イスルギを装着し、レッコウを手にしたアスカだった。
「幻術は完璧。センサー類の完全ジャミング――確かに、視認とデバイスのセンサー頼りの管理局の魔導師の子達には、見つけるのは難しいだろうね。
でも……残念でした。あたし達はセンサーに頼らず、“力”を直接感じ取れる。ジャミングじゃごまかせないよ。
たぶん、イクトさん達相手でもごまかせない――108管理外世界出身のあたし達から逃げおおせたいなら、その辺の対策もしっかりしとくべきだったね♪」
「く………………っ!」
カラクリを隠すでもなく、悠々と説明するアスカに対し、クアットロは思わず歯噛みした。
迷わず反転――せめて狙いが鈍ることを期待し、シルバーカーテンによるステルスを維持したまま、何とか離脱しようと逃げ出して――
「悪いけど――逃がさないよ。
無傷のままじゃ、またどっかでいらないちょっかい出したがるだろうから」
しかし、それも彼女の前には気休め程度にしかならなかった。静かに告げると、アスカはクアットロのいるはずの場所に向けてレッコウをかまえた。
「それに――ヴァイスくん狙ったのもムカつくしね。
個人的な恨みつらみも、上乗せさせてもらうよ!」
口を尖らせて宣言し――同時、アスカの目の前に環状魔法陣が展開。その中心に魔力が収束し、巨大なスフィアを形成する。
「あたしんち、家訓!」
言って、アスカはレッコウを振りかぶり――
「『コソコソしてる悪い子ちゃんには、逃げる背後に砲撃一発』!」
「タぁイラントぉっ! バスタァァァァァッ!」
咆哮と同時――魔力スフィアにレッコウを思い切り叩きつけた。その一撃を引き金に魔力が解放、放たれた魔力の渦は、容赦なくクアットロをビークルごと飲み込み、吹き飛ばしていった。
「…………ほぅ……
これが、リミッターを解除したテスタロッサ達の魔力か……」
伝わってくるのは、能力限定を一時的に解除した、なのは達の“本気”の魔力――その“力”を感じ取り、イクトは静かにつぶやいた。
「なるほど。自信を持つだけのことはある。
魔力だけでこの出力とはな……」
自分もパワーで負けるつもりはないが、自分の場合は魔力だけでなく霊力や気もまとめて動員しての出力だ。魔力“だけ”なら自分は白旗を上げるしかない――イクトが素直になのは達の才覚に感心していると、
「自分のことはそっちのけで仲間の心配か!
ずいぶんと余裕じゃないか!」
自分の事を無視しているイクトの態度が気に障ったようだ。言い放ちながら、ブラックアウトはイクトに向けてエネルギーミサイルを放ち――
「……そうか――」
そんな彼に告げながら、イクトはその右手に炎を生み出し、
「ほったらかしにして――悪かったな」
振るった右手から放たれた炎が、ブラックアウトのエネルギーミサイルを薙ぎ払う!
「くっ、まだまだぁっ!」
だが、ブラックアウトも引き下がるつもりはない。エネルギーミサイルの爆発の向こう、そこにいるはずのイクトに向けてプラズマキャノンを撃ち放ち――しかし、放たれた閃光は何も捉えることなく、無造作に空間を貫いた。
「何!?
ヤツは、どこに……!?」
爆炎が収まった後、そこにイクトの姿はなかった。見失った敵の姿を探し、ブラックアウトはロボットモードへとトランスフォームして周囲を見回し――
「――――――下!?」
センサーに反応があった。あわてて見下ろしたブラックアウトの眼下で、廃ビルの屋上に降り立ったイクトは再び右手に炎を生み出していた。
しかし、その炎は先ほどのものとはレベルが違う――明らかに数段上の熱量を、右手の一点にすさまじい勢いで収束させていく。
「まったく、ウロチョロと飛び回ってくれるから、正直狙いづらくてしょうがなかったぞ。
広域攻撃で落とそうにも、こんな市街地の近くでオレの最大火力を叩き込むワケにもいかんし、な」
並の魔導師では制御どころか生み出すことすらかなわないであろう、それほどの熱量を右手に生み出しながら、イクトは平然とブラックアウトに向けてそう告げる。
「正直、オレは“狙って撃つ”ということが苦手でな……貴様が間合いに入ってきてくれない以上、攻撃を当てようと思ったら逃げ場を与えないほどの攻撃を叩き込むしかない。
だが、まともにそれをやれば、街に甚大な被害を与えてしまう――それを避けるにはどうすればいいか?
その答えが――これだ」
「ちぃっ!」
放たれるのは間違いなく広域攻撃。撃たれる前にツブすしかない――意を決してエネルギーミサイルをばらまくイクトだったが、彼の周囲にあふれ出した炎の渦がブラックアウトのエネルギーミサイルを弾き飛ばしていく。
「ならば!」
生半可な攻撃では通じない――咆哮し、胸部のプラズマキャノンのチャージを始めるが、それはすでに手遅れだった。
「街に被害を与えずに貴様を落とすには――」
言いながら、イクトは右手を大きく後方へと振りかぶり、
「街に向かって撃たなければいい」
次の瞬間――イクトの頭上に向けて解き放たれた炎は、一面に広がりながらブラックアウトへと襲いかかる!
「ぐぅっ!」
とっさに防御を固めるブラックアウトだが、防壁を持たない彼はその身で炎を受け止めるしかない。灼熱の炎は容赦なく彼の装甲を焦がし、焼き尽くさんと牙をむく。
そのまま、ブラックアウトはイクトの放った炎の渦の中に消えていく――かと思われたが、
「この…………程度でぇっ!」
それでもブラックアウトは意地を見せた。チャージしていたプラズマキャノンを炎の中で発射。放たれた高熱のプラズマ弾がイクトの炎をわずかにかき分け、なんとか直撃だけは避けることに成功した。
「フ……フンッ!
なめるなよ、能力者! 勝負はまだまだこれからだ!」
自然界ではありえない“蒼い炎”が消え、周囲には再び大空が広がる――イクトの攻撃をしのぎきり、反撃開始とばかりにイクトに言い放つブラックアウトだったが、
「――――また!?」
廃ビルの屋上にイクトの姿はない。先ほど背後に回り込まれたことを思い出し、振り向くブラックアウトだが、そこにもイクトは姿はなく――
「二度も同じ手を――使うワケがないだろう!」
真上から急降下、一気に飛び込んできたイクトが、ブラックアウトの右腕を凱竜剣で斬り飛ばす!
さらに体勢を崩したブラックアウトに蹴りを一発。トドメに至近距離から火炎を叩き込んだ。もはや滞空すらできず、落下していくブラックアウトの後を追い、イクトはその身柄を確保すべく降下し――
「………………む?」
突然、落下するブラックアウトの周囲に魔法陣が展開された。異変に気づき、加速するイクトだったが、彼の手が届くよりも早くブラックアウトの姿はその場から消え去ってしまった。
「……転送魔法か……
しかし、ヤツの意識は完全に刈り取っていたはず……となると、撃墜された時の緊急避難用に、自動発動を設定していたと見るべきか……」
つぶやき、イクトはブラックアウトの消えたその場所を静かに見下ろした。
「……引っかかるな」
彼の脳裏をよぎるのは、ブラックアウトが転送によって離脱した、その事実に対するかすかな疑念――
(自動設定だったと仮定するなら、意識の途切れたヤツに代わって発動させるデバイスがあったと見るべきだが……だとすると、なぜヤツは戦闘でそれを使わなかった?
何か、使うワケにはいかない理由があったということか……?)
考えられる可能性は――
(ヤツらも……テスタロッサ達と同じく全力を隠していたということか?
だとすると……)
「次は、今回のように楽に勝たせてもらえるとは、限らんかも知れんな……」
勝ってかぶとの緒を締めよ――そんな言葉を脳裏でつぶやきつつ、イクトは次の“獲物”の気配に向けて飛び立ち――
「……いや、こっちだ、こっち」
まったく正反対の方向へ向かおうとしたのに気づいてあわてて反転した。
「…………隊長格のみなさん、いよいよ本気モードになったみたいだな」
地上の様子は、常人離れした知覚を持つ彼には手に取るように把握できていた――チンクと対峙し、ジュンイチは爆天剣をかまえ直しながらそう告げた。
「どうする? チンク。
地上には、まだクソスピードスターとクソ砲台……それにルーテシア達やクソダイバーがいるんだろう?
しかも、それぞれにバトってバラバラに動いてるみたいだし……本気モードの六課隊長陣が相手じゃ、ちょっとキツイんじゃないのか?」
「問題ない。
トーレもディエチも、この程度の戦いで不覚を取るような間抜けではない――お嬢様やセインも同様だ」
告げるジュンイチの言葉に、チンクはあっさりとそう答える――ジュンイチの『クソ○○』という呼び方で誰のことを言っているのか的確に把握しているあたり、彼の言動に慣らされてきている気がするがそれはさておき。
「私はあくまで、貴様との決着をつけるのみ。
――フォースチップ、イグニッション!」
ジュンイチに向けてそう宣言し――チンクが吼えた。飛来したミッドチルダのフォースチップが彼女のゴッドオンしたブラッドサッカーの背中、ウィングの基部に備えられたチップスロットへと飛び込んでいく。
「戦姫――召来!」
〈Full drive mode, set up!〉
そして、チンクの宣言と共にフルドライブモードが起動。一気に出力を増したブラッドサッカーのもとに、射出していたブラッドファングが一斉に殺到した。彼女のかざした右手に集まり、“力”によってつなぎ合わされて巨大なブレードを形成する。
「へぇ、てめぇも本気モードか」
「そろそろ幕引きの頃合だ、ということだ」
告げるジュンイチに答え、チンクは形成された大剣を後方に勢いよく振りかぶる。
「さぁ、どうする? 柾木ジュンイチ。
そのまま潔く討たれる貴様ではあるまい」
「……ま、そりゃそうなんだけどね。
じゃ……」
尋ねるチンクに答え、ジュンイチもまた爆天剣をかまえ、
「ちょっとの間だけ……本気になろうか」
そう告げた瞬間――彼の顔から笑みが消えた。鋭い視線がチンクを射抜き、同時、彼の周囲で“力”が炎となって荒れ狂う。
そして――
「今日こそ――沈め! 柾木ジュンイチ!」
「冗談じゃ――ねぇっつーの!」
次の瞬間――巻き起こった衝撃が雲海を吹き飛ばした。
「ぐわぁっ!?」
強烈な一撃を受け、ドリルホーンはガードの上からゆうに5メートル以上も押し戻された――たまらずヒザをつく彼に対し、ルーテシアによってトランステクター“クロムビートル”と融合、クロムホーンへとトランスフォームしたガリューは静かにかまえ直す。
だが――ドリルホーンの相手は目の前のガリューだけではない。周辺に気を配りつつ、後方へと下がるが――
「残念でした!」
“彼女”を警戒しての後退も、彼女自身に読まれていては意味がない。着地した足元から無機物潜行能力“ディープダイバー”によって潜行していたセインが飛び出し、右手に生み出したビームダガーでドリルホーンに一撃を見舞う。
真っ向勝負のガリューと奇襲のセイン――本来共闘を想定していない二人だが、今この場では両極端とも言える互いのスタイルがうまくかみ合い、抜群のコンビネーションを見せている。その猛威を前に、ドリルホーンは完全に追い込まれていた。
「バカな……! このオレが、こんな小娘どもに……!」
「これが現実」
手も足も出ず、信じられないとばかりにうめくドリルホーンに対し、ルーテシアは淡々とそう告げる。
「あなたも弱くないけど……ガリューの方が、もっと強い」
「……あー、お嬢様……あたしは?」
《どうでもいいんじゃね?》
「なんでぇ!?」
「…………ガリューとセインの方が、もっと強い」
思わず手を挙げ、尋ねるセインの言葉にアギトがツッコむ――が、そんなアギトとは対照的に、ルーテシアはちゃんとセインも含めた形に訂正する。
だが、そんな彼女達のやりとりも、今のドリルホーンには屈辱の上塗りにしか映らない。
「なめるな……!
こんなヤツらに、このオレがぁっ!」
半ばヤケクソ気味の咆哮と共に、ドリルホーンはルーテシアに向けて突撃し――
「……ガリュー」
そんなドリルホーンを前にしても、ルーテシアは静かにガリューへと声をかけた。
「もういいから……」
「“終わらせて”」
その瞬間、ガリューはすでに動いていた。
瞬時に地を蹴り、ドリルホーンへと突撃。繰り出された拳をかいくぐるとドリルホーンに向けて一撃を放ち――ドリルホーンの巨体を一撃のもとに両断していた。
真下から斬り上げられた一撃に身体を真っ二つに断ち切られ、ドリルホーンは爆発、四散する――その光景を前に、セインは静かに息をついた。
「やれやれ、終わりか。
相変わらずガリューは容赦ないねー」
「…………どうでもいい」
あっさりと答え、ルーテシアはガリューとクロムホーンの融合を解除。“中身”を失ったクロムホーンは元のビーストモードであるクロムビートルへとトランスフォームする。
彼女のドリルホーンに対する態度は終始淡々としたものだった――彼女自身の言うとおり、本当に“どうでもいい”のだろう。そんなことを考えながら、セインは軽く肩をすくめると改めてルーテシアに声をかけた。
「それで……ルーお嬢様。これからどうするんですか?」
「決まってる」
尋ねるセインに対し、ルーテシアは迷わず即答した。
「今度こそ……“レリック”を手に入れる」
「ブリッツ、シューター!」
〈Blitz shooter!〉
《いっけぇぇぇぇぇっ!》
「ぐおぉぉぉぉぉっ!」
なのは達のかけ声を合図に、スケイルフェザーとブリッツシューターが一斉に飛翔――魔力弾と魔力陣の渦に巻き込まれ、ドランクロンが吹き飛ばされ、
《今です、フェイト!》
「うん!」
告げるジンジャーに答え、フェイトが突撃――ジンジャーの操るプラズマフェザーによって動きを封じられたラートラータを、アックスモードのバルディッシュで弾き飛ばす!
そして、キングコンボイもまたエルファオルファから間合いを取り、
「いっ、けぇっ!」
振るったカリバーンから魔力刃を放ち、エルファオルファを打ち据える!
それぞれの猛攻にさらされ、ドランクロン達は一ヶ所に追い込まれ――
「フェイトちゃん!
キングコンボイくん!」
「わかってる!」
「りょーかいっ!」
なのはの言葉にフェイトが、キングコンボイが答え――それぞれのかまえた“相棒”に魔力が収束されていく。
そして――
「エクセリオン――バスター!」
「トライデント、スマッシャー!」
「ストーム、カリバー、ブレイカァァァァァッ!」
3人の放った攻撃が3方向からドランクロン達に襲いかかった。同時に着弾し、大爆発を巻き起こす!
が――
「…………逃げられた、ね……」
「うん…………
きっとまた、ワープで……」
爆煙の晴れた後には何も残ってはいない――つぶやくなのはの言葉に、フェイトは神妙な面持ちでうなずく。
「まぁ、この程度で決着がつくようなら、10年前にもう倒せてる――今回は、撃退できただけでもよしとしよう。
アイツら、しぶといし……企みをひとつひとつつぶしまくって、地道にいこう。ね?」
「…………そう、だね」
できればこの場で落とし、逮捕しておきたかった――逃げられたのは残念だが、現状を考えれば最善の結果とも言える。なだめるように告げるキングコンボイの言葉にフェイトがうなずき、なのはもまた気を取り直して自らの頬を叩き、
「それじゃあ……早くスバル達の援護に行こう!」
「うん!」
「はーい!」
なのはの言葉にフェイトとキングコンボイがうなずき、彼女達は旧市街に向けて加速した。
「ちぃっ!」
舌打ち混じりに空間に溶け込み、別の場所で実体化――はやての背後に回り込み、実体化したショックフリートはエネルギーミサイルを放つべく振りかぶるが、
「甘い!」
「ぐぅ…………っ!?」
そんな彼の前に飛び込んできたのはビッグコンボイだ。振り下ろしたシュベルトハーケンを、ショックフリートはなんとかかいくぐり、再び空間に溶け込んで離脱する。
「くそっ、なぜだ……!?
こちらの攻撃が、ことごとく読まれているだと……!?」
うめき、今度はビッグコンボイの背後で実体化するショックフリートだったが、
「攻め口がワンパターンすぎなんよ!」
「ぐわぁっ!?」
言い放ち、はやての放った魔力砲撃がショックフリートを吹き飛ばし、
「そうも毎回死角から攻めてくれば、逆に死角だけに気をつけていればいいだけのこと!」
体制を崩したショックフリートを、ビッグコンボイがシュベルトハーケンで殴り飛ばす!
「こっちもさっさと新人達の援護に向かいたいからな――さっさと沈んでもらうぞ!」
「く…………っ!
なら、攻め口を変えれば済む話!」
そんな彼らに対抗すべく、ショックフリートはビッグコンボイに言い返して再び空間に溶け込んだ。今度は距離をとったところで実体化し、エネルギーミサイルによる爆撃を狙うが――
「あー、言い忘れたが……」
「攻撃の時には実体化せなあかんのやから、そこを狙えばすむんよ?」
そんな彼を、はやてとビッグコンボイの放った“ダブル”デアボリック・エミッションが吹き飛ばしたのは――
ショックフリートの実体化から、ジャスト2秒後のことだった。
「グオォォォォォッ!」
咆哮し、全身からミサイルをばらまくハイパーベロクロニアだが――元々戦艦からトランスフォームするフォートレスマキシマスの装甲の前には通じない。巻き起こる爆発をものともせず、ハイパーベロクロニアに向けて歩を進める。
そして、ゆっくりと――スケールの差からそう見えるだけで、当事者達にしてみれば十分素早いのだが――フォートレスマキシマスの拳が振り上げられ、
「はぁぁぁぁぁっ!」
鉄拳一発。その差は実に3倍――体格ではるかに上回るフォートレスマキシマスの拳が、ハイパーベロクロニアの顔面を上方から打ち落とす!
豪快な一撃を受け、ハイパーベロクロニアがヒザをつき――さらに、その顔面にフォートレスマキシマスはヒザ蹴りを叩き込む。
さらに、後方にたたらを踏みながら後ずさりするハイパーベロクロニアに向け、全身の火器を斉射――降り注ぐ砲火にさらされ、ついにハイパーベロクロニアが仰向けに倒れ込む。
そして――
「とどめだ!
フォースチップ、イグニッション!」
フォートレスマキシマスがフォースチップをイグニッション。とどめの砲撃を放つべく腰の両側に仕込まれた大型の砲門を展開する。
その砲門に閃光が生まれ――砲門からあふれ出した。左右からあふれた光は互いに引かれ合い、フォートレスの正面で混じり合うと巨大な光球へとその姿を変えていく。
必殺の一撃をスタンバイし、フォートレスマキシマスは大きく振りかぶり――
「マキシマム、ブラスト!」
放たれた光球がハイパーベロクロニアを直撃。巻き起こった大爆発は結界内で荒れ狂い、その身体を容赦なく引き裂き、消し飛ばした。
熱量が、爆風が収まり、静寂が戻る――余波で荒れ狂う足元の海面を考慮、はやて達からコントロールを引き継いでいた結界を維持したまま、フォートレスマキシマスはセンサーで周囲をサーチする。
結果――敵性反応なし。
「…………ふむ」
どうやら片づいたようだ。改めてフォートレスマキシマスは息をつき――
「……『ふむ』じゃねぇぇぇぇぇっ!」
抗議の声は彼の左胸――その内側から上がった。
同時、そこに設置されていたハッチが開き、中から姿を現したのはブリッツクラッカーだ。となりには、彼のライドスペースから降りた晶の姿もある。
「ったく、いきなり人を転送回収するから、何かと思えば……
結界の中みたいな閉鎖空間で、ナニ主砲ブッ放してんだよ!? ヘタすりゃ自分だって危なかったろうが!」
逃げ場のない空間では、爆発は拡散することなく燃焼体がある限り荒れ狂う――ヘタをすればフォートレスマキシマス自身も焼き尽くされていた可能性は、ブリッツクラッカーの言う通り確かにあった。
だが――
「………………本音は?」
「人の出番を取るんじゃねぇ!」
「少しは取り繕おうよ、お前はっ!」
フォートレスマキシマスの指摘にあっさり本音をぶちまけるブリッツクラッカーに、晶は阿吽の呼吸でツッコみを入れた。
「かっとばせーっ! こ、な、ちゃんっ!」
「ブッ飛ぶのは、てめぇだ!」
気合を入れ、斬りかかるカイザーコンボイ、すなわちこなたに言い返し、ジェノスラッシャーもまた彼女を迎え撃つべく飛翔――すれ違いざま、こなたの左手に装着されたアイギスとエネルギーに包まれ、刃と化したジェノスクリームの翼がぶつかり合う。
が――
「っとぉっ!?」
全身でぶつかる形となったジェノスラッシャーが打ち勝った。取り落とすことはなんとかしのいだが、楯と一体化したアイギスの刃を勢いよく弾かれ、こなたは大きくバランスを崩してしまう。
「もらったぜ!」
そして、そんな彼女の姿はジェノスラッシャーにとっては絶好のスキに見えた。一気に流れを引き寄せるべく、追撃の一撃を狙って突撃し――
「――と、見せかけて!」
「――――――っ!?」
姿勢を崩したかに見えたこなたが、弾かれたその勢いのままに身をひるがえした。理性よりも本能に警告され、ジェノスラッシャーはとっさに軌道を脇にそらし――
「ド真ん中ストレートだぁっ!」
“右手によって”振るわれた刃が、かわしきれなかったジェノスクリームの翼をわずかに削る。
しかし、アイギスの楯の部分は相変わらず左手に装着されていて――と、そこでジェノスラッシャーは気づいた。
(剣の部分が――なくなってる!?)
そう。こなたの左腕のアイギスからは、先端についていたはずの刃が姿を消している――見れば、こなたの右手の剣は握りの部分こそ初見だが、刀身自体は姿を消したはずのアイギスの刃と同じ意匠に仕上げられている。
つまり、こなたの振るった刃は――
「あちゃー、かわされちゃったか。
今ので顔面ぶった斬ってあげるつもりだったのに」
「やれやれ、よく言うな」
不意打ちのカウンターが失敗に終わっても、こなたはまったく気にする様子を見せなかった。余裕の態度を崩さない彼女に、“カラクリ”を見抜いたジェノスラッシャーは不敵な笑みと共にそう答える。
「すっかりだまされたぜ――そのデバイス、楯と剣が分離するのかよ」
「まぁね。
私、基本両利きだから♪」
ジェノスラッシャーに答え、こなたは右手の剣と左手の楯、二つに分かれたアイギスをかまえ、
「そんじゃ――続きといくよ!
カイザーコンボイ――目標を、駆逐する!」
宣言すると同時、ジェノスラッシャーに向けて飛翔した。
そして、地上でも――
「逃げんな! 当たれぇっ!」
「誰が!」
《願い下げに決まってるだろうが!》
ビーストモードで背中のキャノン砲を連射するジェノスクリームに言い返し、スバルとマスターコンボイはゴッドオンし、レッグダッシャーを展開した状態でウィングロードの上を疾走、迫り来る砲撃をかいくぐる。
一瞬の間隙をついて反転、突撃――怒涛の勢いで間合いを詰め、繰り出した拳はカウンターを狙ったジェノスクリームの尾と激突。両者は一旦間合いを取って場を仕切り直す。
「ジェノスクリーム……あなたには聞きたいことがあるからね、逃がさないよ!」
以前、スピーディアで対峙した時にジェノスクリームは言っていた――「ジュンイチは自分達の主の敵だ」と。
その言葉の意味を問いただすべく、スバルはジェノスクリームに向けてかまえるが、
「誰が素直に答えてやるか!
聞き出したいなら、力ずくで聞き出してみろ!」
《心配するな!
最初からそのつもりだ!》
当然のことではあるが、ジェノスクリームはまだまだ戦闘意欲を失っていない――言い放たれたその言葉にマスターコンボイが答え、両者は再び激突すべく地を蹴った。
「アイゼン!」
〈Gigant form!〉
ヴィータの咆哮に答え、“鉄の伯爵”がその姿を変える――ハンマー部を再構築、より巨大な鉄槌へと姿を変えたそれを、ヴィータは大きく振りかぶり、
「いっけぇぇぇぇぇっ!」
渾身の力で振り下ろした。並の相手なら一撃で粉々に打ち砕けるほどの威力を込めた巨大鉄槌が、勢いよくノイズメイズ達へと落下していく。
「へっ、そんなの!」
「受けられないなら、かわすまで!」
しかし、ノイズメイズとサウンドウェーブがその鉄槌に叩き伏せられることはなかった。ワープによってたやすく回避し、ヴィータの左右に回り込む。
が――
「ヴィータ、どきなさい!」
「わぁってるよ!」
頭上からかかるライカの声――気づき、動きを止めたノイズメイズ達のスキをついてヴィータはその場から離脱し、
「オールウェポン――フルオープン!」
上空で控えていたライカが叫ぶと同時、両肩、両足、両腕に両腰――彼女の装重甲(メタル・ブレスト)に装備されたすべての武装が展開し、
「カイザー、ヴァニッシャー!」
さらにカイザーブロウニングともうひとつの専用銃“カイザーショット”を合体させ、必殺ツール“カイザーヴァニッシャー”が完成する。
「ターゲット、ロック!」
そして、額のバイザーから照準デバイスが右目にセットされ、すべての武装がノイズメイズ達へと照準を定め、
「凰雅――束弾!
カイザー、スパルタン!」
叫んで、ライカがカイザーヴァニッシャーのトリガーを引き――全身から放たれた精霊力の閃光やエネルギー弾が、一斉にノイズメイズ達に降り注ぐ!
「くそっ、またこれかよ!」
「しかし、そう何度も――!」
だが、ノイズメイズ達にとって、その攻撃はすでに本日二度目――しかも先ほどと違い開けた空の上では、回避は比較的容易だった。口々に声を上げ、ノイズメイズとサウンドウェーブは散開してライカの集中砲火を回避する。
今度はノイズメイズ達の反撃だ。ライカを狙うノイズメイズのブラインドアロー、ヴィータを狙ったサウンドウェーブのブラスターガンに光が生まれ――
「――死nぁがぁっ!?」
ヴィータに向けて引き金を引こうとした瞬間、サウンドウェーブ自身が大爆発に包まれた。黒焦げになった状態で、爆煙の中から地上に向けて落下していく。
「サウンドウェーブ!?」
いきなりの異変にノイズメイズが声を上げ――彼にも攻撃は襲いかかった。突如周囲に出現した、氷でできた短剣群。それが一斉に彼に向けて叩きつけられる!
砕け散った短剣からは凍結系の魔力が解放され、瞬く間にノイズメイズは強固な氷塊の中に閉じ込められて――
《……リイン達を完璧に忘れてたですね》
「ヴィータ達があんなかわされやすい攻撃を無造作に連発するワケないだろ。オトリだ、オトリ。
やっぱバカだわ、お前ら」
氷づけでは当然飛行もできず、落下していくノイズメイズを見送りながら、サウンドウェーブとノイズメイズを撃墜した張本人――リインとビクトリーレオはため息まじりに肩をすくめてみせた。
「なめんなや、ゴラァッ!」
ドスの聞いた声でわめき、発砲――ランページのばらまいたミサイルが、対峙するアリシアやギンガへと襲いかかる。
が――
「そんなの――なのはさんのシューターに比べたら!」
〈Variable Bullet!〉
さらに後方からアリシア達二人を援護するティアナがすかさず迎撃に移る――クロスミラージュのサポートの元、放たれた魔力弾がミサイルを次々に撃ち落していく。
「ちぃっ!
ジャマすんなぁっ!」
そんなティアナにいらだち、今度は彼女を狙うランページだが、
「私達を――」
「忘れないでよ!」
今度はアリシアとギンガがそれを阻む――アリシアのロンギヌスとギンガのリボルバーナックルが、自分達を避けてティアナのもとに向かおうとするミサイルを片っ端から叩き落した。彼女達の周囲で撃墜されたミサイルが爆発し、爆煙の向こうから二人が悠々と姿を現す。
「二兎追うものは一兎も得ず、ってね!」
「なら、先に貴様らから落としたらぁっ!」
ロンギヌスをかまえて言い放つアリシアに言い返し、ランページが彼女やギンガにミサイルランチャーを向け――
「――って、なぁっ!?」
アリシアの、そしてギンガの姿が消えた。何が起きたのかとランページが目を見張って声を上げると、
「残念無念、大ハズレ!」
「私達は、こっちですよ!」
気合の入った声は背後から――振り向くよりも早く、アリシアの振るったロンギヌスとギンガの鉄拳がランページを容赦なくブッ飛ばす!
何度も地面でバウンドしながらブッ飛び、ランページはビクトリーレオの砲撃で撃墜され、黒こげになって地面に叩きつけられたサウンドウェーブに激突。さらにリインによって氷づけにされ、落下してきたノイズメイズがその上に落下する。
そして、ギンガはティアナへと向き直り、
「ありがとう、ティアナ。
幻術、さらに磨きがかかってるみたいね」
「い、いえ……」
アリシア達がランページの背後に回り込めたのは彼女達のおかげ――オプティックハイドとフェイクシルエットを駆使してサポートしてくれたティアナだったが、やはり二人分の幻術による消耗は大きかったようだ。ギンガに答えると同時にその場にへたり込む彼女の姿に、ギンガとアリシアは肩をすくめて苦笑した。
「キャロ……どう?」
「なんとか、危険な状態からは回復したけど……」
目の前には、先ほどよりはマシだがそれでも苦しそうな顔を浮かべたホクトが横たわっている――尋ねるエリオに、キャロはヒーリングの手を止めないままそう答える。
「けど……痛みが和らいだだけで、症状は少しも良くなってない……
何が原因なのかもわからないし……!」
自分が懸命に治療を施しても、ホクトの苦しみを和らげるだけで彼女を救ってやることもできない――自分が無力だと言われているようで、キャロは悔しげに視線を伏せた。
そんな彼女に対して何を言えばいいのか、エリオは沈痛な面持ちで唇をかみ――
「…………グル……」
そんな彼女達の様子を静かに見下ろしていたホクトのトランステクター、ギルティドラゴンが顔を上げた。どうしたのかと見上げるエリオにかまわず一声、高らかに雄たけびを上げる。
同時、広げたその翼から膨大な熱量が放たれる――体内を駆け巡る余剰エネルギーを放出しつつ、ギルティドラゴンは天を仰ぐように大きく身をそらした。
その口腔内に集まるのは収束された熱エネルギー。閉じられた口、その牙のすき間から光がもれ出し――解き放った。廃棄都市の一角に向け、強烈な熱線として吐き放つ!
傍で見ているエリオ達には何が起きたか理解できなかったが――“答え”はすぐに出た。ギルティドラゴンが熱線を放った一瞬後、廃棄都市からも閃光が放たれ、ギルティドラゴンの熱線と激突する!
だが、その威力は相手の方が上――ジリジリと押され、ギルティドラゴンはたまらず一歩後ずさりするが、完全に押し切られる前に互いのエネルギーが臨界点を超えた。炸裂し、大爆発を巻き起こす。
エリオ達の視界一面を覆う爆炎、その向こうに見えるのは――
「止められた……!?
私の砲撃が、また……!」
廃棄都市の一角――フルチャージの上で放たれた砲撃を後一歩のところでしのがれ、うめくのは今回のミッションですでに何度も砲撃を防がれ、若干プライドが傷ついているアイアンハイド――ディエチだ。
「かまうまい。
もはや、簡単に勝負を決められる相手でないのはわかりきっている――“こちらに砲撃がある”と理解させ、警戒させることができただけで十分だ」
そして、そんな彼女をなだめるのはマスタングにゴッドオンしたトーレだ。
「私はこのまま突撃。敵を蹴散らして“レリック”を回収する。
お前はこの場から援護を頼む」
「でも、セインもお嬢様達と“レリック”の回収に動いてるみたいだよ。
連携しなくていいの?」
「作戦を立てる役どころのクアットロが、それどころではなさそうだからな」
クアットロはすでに、アスカに撃墜されて撤退済み――息をつき、トーレはディエチにそう答える。
「私達で中途半端な作戦を立てるよりは、それぞれができることをすればいい――結果的に二面作戦になり、敵の目も分散させられる」
ディエチにそう答え、トーレは地を蹴り、空中へとその身を躍らせた。トランステクターのシステムではなく、自らの能力によって大空へと舞い上がり、
「IS発動――“ライドインパルス”!」
その言葉と同時、トーレの姿が消え――次の瞬間には、すさまじい加速を見せた彼女は、すれ違いざまにギルティドラゴンを弾き飛ばしていた。
「な、何っ!?」
ブッ飛ばされた者、黒こげにされた者、氷づけにされた者――すっかりのびているノイズメイズ達を逮捕しようとしていたところに響いた突然の衝撃音に、ティアナは思わず驚き、轟音の出所へと振り向いた。
そんな彼女の前で宙を舞い、大地に叩きつけられるのは、トーレに吹っ飛ばされたギルティドラゴンだ。
「どうしたの、エリオくん!?」
「わ、わかりません!
何かが飛び込んできたのはわかったんですけど、速すぎて……!」
ギンガに答えるエリオの言葉は要領を得ない――しかし、それでも必要な情報を読み取り、ティアナは表情をこわばらせた。
フェイト達隊長格ほどではないが、エリオは六課フォワード陣最速のスピードスターなのだ。そのエリオでも気づくのが精一杯のスピードなど、シャレにならないにもほどがある――
「――――っ! ティアさん!」
だが、その猛威はよりにもよって自分のもとへ――気づいたエリオの叫びと、ティアナの背後に気配が生まれたのはまったくの同時だった。
振り向こうとするティアナの動きを待たず、マスタングにゴッドオンした状態で彼女の背後に回り込んだトーレは容赦なくその拳を振り下ろし――
「――――――っ!?」
その拳が止まった。間髪入れずにトーレはその場から後退し――次の瞬間、ティアナの背後を桃色の閃光が駆け抜ける!
「こ、これって……!?」
思わず声が上がるが――その閃光の主は容易に想像がついた。アリシアは閃光の飛来した方角へと視線を向け、
「なんとか……間に合ったかな?」
「ホントに『なんとか』だけどね……」
上空でレイジングハートをかまえ、つぶやくなのは(withプリムラ)のつぶやきに、アリシアはため息まじりにそう答えた。
「くっ、隊長格が戻ってきたか……!」
正直、なのはの参戦はマイナス要素でしかない――放たれたディバインバスターを高速移動能力“ライドインパルス”で回避し、トーレは思わず舌打ちした。
だが――
「逃がさないっ!」
「――――――ちぃっ!」
自分の姿はなおも捕捉されていた。高速で飛び込んできた、ジンジャーを装着したフェイトの振るったバルディッシュを、トーレは右腕に生み出した刃を兼ねた光翼“インパルスブレード”で受け止める。
「く…………っ!
ディエチ!」
「了解!」
自分と同じ高速タイプのフェイトが相手では、簡単な離脱は許してもらえそうにない。トーレの呼びかけに応え、砲撃体勢に入るディエチだったが、
「はい、そこまでなんだな♪」
「下っ端にも五分の魂、ってな♪」
ディエチの位置もまた、いつの間にか姿を消していた“彼ら”によって抑えられていた――唐突に左右から銃口を突きつけられ、ディエチはアームバレットやガスケットの言葉に動きを止める。
「ここまでです。
市街地での危険能力の行使、局員に対する障害行為などにより、逮捕します!」
彼女達についてはこれで“詰み”だ。つばぜり合いの体勢から、フェイトはトーレにそう告げて――
「――――――っ!?
フェイト、危ない!」
飛び込んできたキングコンボイが、フェイトに迫った“それ”を弾いた。
牙にも似た形状の、鋭い刃をそなえた飛翔体だ。さらに同じものが多数飛来し、キングコンボイやフェイト、さらにはディエチを抑えていたガスケット達にもに襲いかかる。
さすがにこれは無視できず、後退するフェイト達の前でトーレもまた後退、ディエチと合流し――
「無事のようだな」
「チンク!?」
上空から急降下、ブラッドサッカーへとゴッドオンした状態ですぐ目の前に舞い降りたチンクの姿に、トーレは思わず声を上げる。
「柾木ジュンイチはどうした?」
「逃げられた」
小声で尋ねるトーレに対し、チンクはあっさりとそう答えた。
「まったく、あの男ときたら……相変わらず、こちらをのらりくらりとかわしてくれる。
こちらの本気に応えたと思ったら、互いの一撃をぶつけ合わせた衝撃にまぎれて離脱してくれた。
クアットロの方に向かったようにも見えなくてな――とりあえずこちらに合流したのだが……」
告げて、チンクはなのは達をにらみつけ、
「どうやら、状況はあまりよくないようだな」
「フッ、だからと言って、退くワケにもいかないだろう?」
「そうだな」
応えるトーレに苦笑し、チンクは彼女と共になのは達と対峙した。
「…………予想通り、他のお仲間の救援に向かったか……」
姿を消し、戦いをムリヤリ終わらせれば絶対に救援に動くと確信していた――チンクの気配を地上に感じ、ジュンイチは雲海の中で満足げにうなずいていた。
「ったく、アイツらが心配なら、さっさと動けばいいモンをさ。
なんだって、オレがこういう気の使い方をしてやんなきゃならないんだか」
まったく、融通の利かない相手だ――思わず苦笑するが、
「けど……そういうお前だからこそ、“信頼できる”」
つぶやき――ジュンイチは息をつき、ひとりつぶやいた。
「こんなところで落ちるんじゃねぇぞ。
お前らがこの場を切り抜けることだって、計画には入ってるんだし……」
「お前との決着をつけたいのは、オレだって同じなんだからさ……」
「《フォースチップ、イグニッション!》」
スバルとマスターコンボイの咆哮が交錯し――二人のもとにセイバートロン星のフォースチップが飛来した。そのまま、マスターコンボイのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
それに伴い、マスターコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
二人に告げるのはトランステクターのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
強烈なエネルギーが周囲で渦巻く中、制御OSが告げる――身がまえた二人の目の前に環状魔法陣が展開され、その中央、そして同時に右拳にも魔力スフィアが形成される。
そして、右腕のエネルギー加速リング“アクセルギア”が装着されたオメガのブレードもろとも高速回転、発生したエネルギーが右拳のスフィアにまとわりつき、その周囲で渦を巻いていく。
そして、スバルは右拳を大きく振りかぶり――
《猛撃――》
「必倒ぉっ!」
「《ディバイン、テンペスト!》」
右拳を環状魔法陣中央のスフィアに叩きつけた。二つのスフィアの魔力エネルギーが炸裂、強大な魔力の奔流となってジェノスクリームに襲いかかり――爆裂する!
爆煙の中、ジェノスクリームはゆっくりと大地へと崩れ落ち――
「二人の拳に――」
《撃ち砕けぬものなし!》
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
スバルとマスターコンボイの言葉と同時、絶叫と共に巻き起こる大爆発――周囲でくすぶっていた残留エネルギーが大爆発を起こし、ジェノスクリームを吹き飛ばす!
「フォースチップ、イグニッション!」
こなたの咆哮が響き――ミッドチルダのフォースチップが飛来した。そのまま、カイザーコンボイのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
それに伴い、カイザーコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
カイザーコンボイのメイン制御OSがフルドライブモードへの移行を告げ――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出、さらにバックパックの推進部からも炎が噴出し、炎の翼となる。
頭上に掲げた右手、反対方向、真下に向けて伸ばした左手――それぞれの手を大きく半回転、描かれた円の軌道に“力”が流れて燃焼、発生した炎の輪が一気に火勢を増し、こなたの目の前で巨大な炎の塊となった。さらに勢いを増すと形を変え、巨大な鳳凰を形作る。
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
カイザーコンボイの制御OSが告げる中、こなたは炎の翼を広げて飛び立ち、炎の鳳凰の頭部へと後ろから飛び込んで――
「いっ、けぇぇぇぇぇっ!」
鳳凰の口から、ジェノスラッシャーに向けて強烈な勢いで撃ち出された。鳳凰を形作っていた炎を全身にまとい、自身の飛翔速度をはるかに上回る速さでジェノスラッシャーへと突っ込み――
「紅蓮――蹴撃!
クリムゾン、ブレイク!」
ジェノスラッシャーに向け、渾身の飛び蹴りを叩き込む!
同時、こなたの導いた炎の渦が襲いかかった。蹴りを受けたジェノスラッシャーを飲み込み、吹き飛ばす!
強烈な衝撃によって宙を舞い、ジェノスラッシャーはゆっくりと大地へと落下し――
「私の蹴りに――撃ち砕けぬものなし!」
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
こなたの言葉と同時、絶叫と共に巻き起こる大爆発――周囲でくすぶっていた残留エネルギーが大爆発を起こし、ジェノスラッシャーを吹き飛ばした。
「さぁ、もう終わりだよ!」
こちらの戦いも最終局面――それぞれの大技を受け、大地に叩きつけられるジェノスクリームとジェノスラッシャーに対し、こないはスバルがゴッドオンし、ウィンドフォームとなっているマスターコンボイのとなりに舞い降りてそう言い放った。
「観念して、スバル達に逮捕されなさいっ!」
「自分達でしないんだ……」
「だって私達局員じゃないし♪」
思わずツッコむスバルにあっさりと答え、こなたはおどけて肩をすくめて見せるが、
「……なめるなよ……」
「あ、抵抗ムード?
まぁ、そんなことだろうとは思ってたけどさ」
怒りの空気を漂わせながら、ジェノスラッシャーが立ち上がった。未だ白旗を揚げそうにないその姿に、こなたは改めてアイギスをかまえる。
「ほら、二人も。
あちらさん、まだまだやる気みたいだからさ」
「うん!」
《言われなくても、やってやるさ!》
告げるこなたにスバルとマスターコンボイが答え、彼女達もまたかまえを取った。対し、ジェノスクリームも立ち上がり、ジェノスラッシャーと共にスバル達と対峙し――
「…………フェイトさん……!
スバルさん達も……!」
なのは達VSトーレ達、スバル達VSジェノスクリーム達――あちこちで繰り広げられた戦いの行く末は、今やこの場に集約されていた。その光景を見守り、キャロはホクトを治療しながら心配そうに声を上げる。
「大丈夫だよ、キャロ。
フェイトさん達もスバルさん達も、きっと勝てる……!」
「うん、そうだね……」
そんな彼女を励ますのはエリオだ。彼の言葉にうなずき――キャロは気づいた。
“レリック”のケースを守り、抱えるエリオの足元の地面が、不自然に揺らめいていることに。
「――エリオくん、足元!」
「え…………?」
キャロの声に異変に気づくエリオだったが――遅かった。
「スキありぃっ!」
「ぅわぁっ!」
地面の中から飛び出してきたのは、セインのゴッドオンしたデプスチャージ――飛び出しざまに腕に生み出した光刃で一撃。かろうじて直撃は避けたものの、エリオは腕を斬られ、その拍子に“レリック”のケースを取り落としてしまう。
「もらいっ!」
「しまった!」
そして、それをすかさずセインが奪い取る――あわててエリオが追うが、それよりも早くセインは無機物潜行能力“ディープダイバー”でハイウェイをすり抜け、その下の地上で待機していたルーテシアやアギトと合流する。
「お待たせしました、お嬢様。
離脱しますよ」
「うん……」
「アギト様も」
「はいよ!」
告げるセインにルーテシアとアギトがうなずき――二人を抱え、セインは再び“ディープダイバー”で地中へと潜り込んでいった。
「しまった!
“レリック”が!」
「えぇっ!?」
セインによる“レリック”強奪には隊長達も気づいた。フェイトの言葉にキングコンボイが声を上げると、
「……どうやら、決戦を挑む必要はなくなったようだな」
チンクと共に並び立つトーレがかまえを解いた。息をつき、そうつぶやく。
「退くか」
「だね」
同様に、撤退を提案したチンクにディエチも同意し――
「逃がさないよ!」
そんな彼女達に向け、フェイトがバルディッシュをかまえて突撃し――
「IS発動――ライドインパルス!」
トーレの咆哮と同時、彼女のスピードが極限まで研ぎ澄まされた。チンクとディエチを抱え、一瞬にしてその場から離脱――さすがに目前での急加速には反応が追いつかず、フェイトはトーレ達の姿を見失ってしまう。
「なのは、アイツらは!?」
「ご、ごめん!
速すぎて、サーチが……!」
「ボクらのセンサーでも追いきれないなんて……なんて速さだよ、アイツら……」
振り向き、尋ねるフェイトだが、答えるなのはとキングコンボイの言葉も芳しくない。
そして――
「チッ、“レリック”は持ち逃げされたか……」
スバル達とぶつかり合い、改めて間合いを取ったジェノスクリームもまた、その様子に気づいてつぶやいた。
ジェノスラッシャーが傍らに舞い降りてくるのを気配で感じながらしばし考え、告げる。
「退くぞ、ジェノスラッシャー」
「何だと!?」
あっさりと結論を出したジェノスクリームの言葉に、ジェノスラッシャーは思わず声を上げた。
「オレの部下が壊滅させられたんだぞ――部下だけじゃない! ブラックアウトはすでに離脱し、ショックフリートも落とされた!
ここまでやられて、何の成果もないまま引き下がれってのか!?」
「それしかあるまい。
どの道、ここまで被害を受けた以上、多少の成果では帳尻が合わん――せめて、被害の少ないうちに離脱するのが最善だ」
「…………チッ」
答えるジェノスクリームの言葉に、ジェノスラッシャーは舌打ちし、
「……わかった。
今は貴様に従い、退いてやる……!」
「あぁっ! こら!」
「待て!」
告げると同時――彼らの足元に魔法陣が展開された。気づいたスバルが、こなたが突っ込むが、それよりも早く二人はその場から姿を消してしまった。
「まったく……少しでも早く合流しようと、急いでディセプティコンを片づけてきてみれば……」
「いやー、結局ひとり残らず逃げられちゃったねー」
ジェットガンナー達と共に合流、状況の報告を受け――ゴッドオンを解き、ため息をつくかがみに、同じくゴッドオンを解いたこなたはカラカラと笑いながらそう答える。
「…………そう……
うん、わかった……戻ってきて」
一方、なのはは別行動のアスカと交信中――念話を終えるとフェイトに向き直り、
「アスカちゃんも、敵の指揮官らしき人、逃がしちゃったって。
とりあえず、詳しい報告は帰ってからで、ってことで」
「うん……」
なのはの報告にフェイトがうなずくと、
「……悪い、なのは、フェイト……」
そんな二人に申し訳なさそうに告げるのはヴィータだ。
「敵はもちろん、“レリック”まで……」
「ヴィータちゃんひとりの責任じゃないよ」
「そうだよ。
私達だって……その時には、もうこっちに合流してたんだから」
彼女が言っているのはセインに奪われた“レリック”のこと――謝罪するヴィータになのはとフェイトが答えると、
「…………あー、ちょっといい?」
そこへ、突然こなたが口をはさんできた。
「どうしたの? えっと……」
「こなた、だよ。泉こなた」
聞き返すフェイトに答えると、こなたは息をつき、
「その、取られちゃった“レリック”だけど……」
言って、こなたはスバル達へと視線を向け、
「そっちの新人ズが、ちょいと“おもしろい小細工”をしてくれてたんだけど?」
「え……?
どういうこと? スバル」
「あ、はい……
なんか、口をはさめる状況じゃなかったんで、報告が遅れたんですけど……“レリック”には、あたし達の方で、ちょっと一工夫してまして……」
「まぁ、本当に『小細工』としか言いようのない程度だが、な……」
『………………?』
なのはに答えるスバルや、そこへ付け加えるマスターコンボイの言葉に、なのは達は思わず顔を見合わせた。
「はぁ……やっと戻ってこれた……」
その頃、“彼女達”のアジト――帰還し、それぞれのトランステクターを格納庫に預け、ディエチは他の面々と共に廊下を歩きながら安堵の息をついた。
「お嬢の集団転送のおかげですね……ありがとうございます」
「ん…………」
礼を言うトーレにルーテシアがうなずくと、チンクは傍らに視線を向け、
「で……大丈夫か?
ひとりだけ見事に落とされたが」
「私は大丈夫だけど……私のシャドーウィングがボロボロよぉ……
後でお姉さまに起こられるわぁ……」
なんとか離脱には成功したものの、結局収集できたデータはほんのわずか――成果も出せなかった上に愛機までボロボロにされ、今回一番ロクな目にあわなかったクアットロはチンクの問いにガックリと肩を落とす。
そんなクアットロの姿に苦笑し、チンクは“レリック”のケースを抱えたセインに告げる。
「セイン、ケースの中身の確認を」
「はーい♪」
笑顔でチンクに答えると、セインは手近なところにケースを置くとセキュリティにアクセス、ケースのロックを外し、
「じゃじゃーん♪」
景気よくフタを開け、中の“レリック”とご対面――となるはずだったが、
「…………って、あれ?」
そこに、“レリック”は影も形もなかった。代わりに、何か折りたたまれたメモ用紙のようなものが入れられている。
「何々……?」
眉をひそめ、セインはメモ用紙を開き――そこには一言。
『バカが見る♪』
「ケースは、シルエットじゃなくて本物です……
あたしのシルエットは衝撃に弱いんで、奪われた時点でバレちゃいますから……」
セイン達が“引っ掛け”に気づいた、ちょうど同じ頃、廃棄都市ではティアナを筆頭としたフォワード陣が隊長陣にそのカラクリを説明していた。
「だから、ケースを開封して、キャロが“レリック”に直接厳重封印をしてくれて……」
「ドサクサ紛れに、安全なところにきっちり退避させておいた、ってワケ♪」
「それはわかったけど……肝心の“レリック”は?」
説明を引き継いだのはスバルと、戻ってきたアスカ――なのはが聞き返すと、アスカはニヤリと笑い、
「何ナニ? 気づかないの?」
「………………?」
「あたしの“相方”、レッコウとイスルギだけだったっけ?」
《………………あぁっ!
そういえば、いつの間にかリアルギアの3人がいないですぅ!》
なのはに告げるアスカの言葉にリインが声を上げ――ちょうどそのとき、隊舎から通信が入り、
〈あのー……こちら、シャマルですけど……〉
「シャマル……?
どうしたんだよ?」
〈実は……“この子達”が、“こんなもの”を持ってたんだけど……〉
ヴィータに見せて、シャマルが展開したサブウィンドウに映し出されたのは、みんなで“レリック”を神輿のように担いだスピードダイヤル達だ。
つまり、“レリック”はすでに、彼女達と共に六課本部にある、ということで――
「い、いつの間に……」
「ホントは、地上に出た後どこかに隠れててもらおう、って手はずだったんだけど……あのヴァイスくん達を狙った砲撃があったでしょ?
だから、あたしが守ったあの時に、ジ○ームズ・ボ○ド真っ青のアクションでスプラングに飛び移ってもらったの。
で、後はランディングギアのスペースに潜り込んでもらえば、隊舎まで無事搬送していただける、と♪」
まったくもって抜け目ない――フェイトに答えるアスカの言葉になのはは思わず苦笑し、
「まぁ、みんな無事でよかった、ってことかな?」
ともあれ、任務は無事完了だ。気を取り直してアリシアが告げるが――
「『みんな』ではあるまい」
そこに口をはさんできたのはマスターコンボイだ。
「若干1名、マズイのがいるだろうが」
「そうだよ――ホクト!」
マスターコンボイの言葉に、それまでは報告などの手前ガマンしていたスバルがあわてて駆け出した。キャロの治療を受け続けているホクトの元へと走る。
「キャロ、ホクトの様子は?」
「身体のダメージは、ほぼ治ってると思います」
尋ねるスバルに、キャロは長時間のヒーリングで疲れを見せながらもなんとかそう答える。
「けど……高負荷状態が相変わらずで……」
「負荷の原因はわからないの?」
「体内で、すごい量の“力”が発生してるんです。
ただ……それが魔力とは違うものみたいで……」
「精霊力……ってワケでもないわね、この感じは」
フェイトに答えるキャロのつぶやきには、彼女の“力”を感じ取ったライカがつぶやく。
「この“力”……魔力でもなければ、霊力でも気でもない……
強いて言うなら……」
「『強いて言うなら』……何ですか?」
つぶやくライカになのはが尋ねた、その時――
「――――――っ!?
みんな、散開!」
気づいたアリシアが叫んだ瞬間――頭上からビームが降り注いだ。とっさに散った一同のいた場所、すなわちホクトや彼女を治療していたホクトの周囲の地面を叩き、爆発を起こす。
「何ナニ!?
まだ敵が残ってたの!?」
いきなりの攻撃に驚き、こなたが待機状態に戻していたアイギスのデバイスカードを取り出して――
「悪いな――着地したい場所が埋まっていたので、強引にどいてもらった」
あっさりと告げ、攻撃の主――ブレインジャッカーはキャロの目の前に降り立った。
「ブレインジャッカー!?」
「どうしちゃったの!?
いきなり攻撃なんて――あたし達の仲間として、一緒に戦ってくれたのに!」
「…………誤解があるようだな。
確かに今回、オレはお前達に味方したが、別に仲間になった覚えはない」
驚き、声を上げるこなたやスバルに答えると、ブレインジャッカーはキャロの目の前に横たわるホクトを丁寧に抱きかかえる。
「ホクトを、どうするつもり!?」
「安心しろ。危害を加えるつもりはない」
まだ幼い、しかも現在進行形で苦しんでいる彼女をどうするつもりなのか――声を上げるギンガにも、ブレインジャッカーは淡々と答える。
「おそらく……お前達では、今問題に挙げていた“高負荷状態”を治してやることはできない。
だからオレが、“治せるヤツ”のところに連れて行く」
「待ちなさいよ!
『連れてく』……って、あてはあるワケ!?」
「あるから、言っている」
呼び止めるティアナに告げると、ブレインジャッカーはクルリときびすを返し――
「……信じて、いいんですか?」
「貴様らが信じようと信じまいと関係ない。
オレはコイツを治すため、最善の手を取る――それだけだ」
静かに声をかけるなのはに対しても、ブレインジャッカーは突き放すようにそう答え、ギルティドラゴンへと視線を向けた。
ギルティドラゴンは特に行動を起こすこともなく、じっとブレインジャッカーを見つめている――彼がホクトに危害を加えるつもりがないことを悟っているのだろう。
別に何かしなくても、このまま素直についてくるだろう――飛び立とうとしたところでふと思い直した。ブレインジャッカーは少しだけ振り向き、スバルとギンガに声をかけた。
「スバル・ナカジマ。
ギンガ・ナカジマ」
「え………………?」
「何ですか?」
今までのことがあるから、彼女の治療については任せても大丈夫だろう。だが、逆に今までのことがあるからこそ、治った後であっさり放り出しそうな気がしてしょうがない――困惑しながらも答える二人に対し、ブレインジャッカーは告げた。
「『たまには会いに来い』と言っておいてやる。
貴様らの……“義兄”にな」
『………………っ!?』
その言葉に、スバルとギンガが目を見張る――だが、それ以上彼女達にかまうつもりはなかった。ブレインジャッカーはホクトを抱えたまま飛び立ち、ギルティドラゴンもまた、彼やホクトを追って飛び立っていった。
しばし、誰もが動けず、ブレインジャッカー達を見送る中――最初に動いたのはなのはだった。
「…………スバル。
ブレインジャッカーの、最後の言葉……」
「………………はい……」
静かにうなずき――スバルはなのはに告げた。
「ブレインジャッカーも、仮説の域を出てないみたいだったけど……
きっと、ブレインジャッカーがホクトのために会おうとしてる人っていうのは、あたしの“師匠”……
つまり……」
「柾木ジュンイチ――あたしとギン姉の、“お義兄ちゃん”です」
「………………え?」
一瞬の出来事に思考が追いつかなかった――目の前の事実を認識し、しかし一瞬前の光景とのつながりが理解できず、ゆたかは思わず声を上げた。
自分達の姿を確認したシャークトロンの1体が、近くのビルを通りすがりに破壊しながらこちらに向かってきた。逃げ切れないと悟ったみなみが、かばうように自分を抱きしめた――そこまでは理解している。
だが、その次の瞬間、轟音と共にシャークトロンの姿が消え――今目の前は、シャークトロンによって破壊されたばかりのビルからもうもうと上がる土煙によって視界がほぼ完全にさえぎられている。
いったい何があったのか――なんとか状況を理解しようとしているゆたかの目の前で、土煙は少しずつ晴れていき、
「………………剣?」
つぶやくのは、となりで腰を抜かしているひよりだ――確かに彼女の言うとおり、目の前のビルには巨大な剣が突き刺さっている。
いや、『ビルに』というのは正確ではない。正しくは、“ビルの中に叩き込まれたシャークトロンに”だ。
「これって……?」
ゆたか、ひよりに続き状況に気づき、みなみは巨大なその剣を見上げてつぶやき――
「間一髪だったな」
そんな彼女達に対し、独自の飛翔魔法“シュウェーベン・フリューゲル”で飛来したスカイクェイクが上空からそう声をかけてきた。
「まったく、こんなところで何をモタモタしている?
避難勧告はずいぶん前から出ていたはずだが」
「す、すみません……
この子が、体調を崩してしまって……」
機能を停止したシャークトロンから自慢の愛刀――ブレードモードへと変形させ、投げつけたデスシザースを引き抜き、尋ねるスカイクェイクにはゆたかを支えるみなみが答える。
そんな彼女の視線を追い、スカイクェイクもゆたかへと視線を向け――
「………………?」
ゆたかのその顔を見て、あることに気づいた。
見覚えがある。
以前、自分の“現在の教え子”のひとりが「私の妹分自慢〜♪」などと言いながら、携帯のカメラで撮影したその写真を見せてきたことがあった――その時の写真の少女だ。
「…………小早川……ゆたか……?」
自然と、その名が彼の口からもれるが――
「え…………?
私を……知ってるんですか……?」
「………………あ」
それが墓穴であることに気づいたのは、ゆたかのその疑問の声を聞いた後のことだった。
「………………」
そんな彼らのやり取りが交わされている、はるか頭上――サウンドブラスターはひとり静かにたたずんでいた。
いつもはマイクを片手に、すべてのセリフを最大音量でわめき散らすサウンドブラスターだが、今は会話を交わす相手もいないためか静かなものだ。
そんな彼は、眼下でゆたか達と対面しているスカイクェイクや、別の場所でほぼ壊滅状態となったシャークトロンの生き残りを片付けているブロードキャストにもかまわず、ただ手元の端末をじっと見つめている。
そこに表示されたのはいくつかの光点――その画面を見て満足げにうなずくと、サウンドブラスターはビークルモードのジェット機形態にトランスフォーム。その場から飛び去っていた。
ティアナ | 「アスカさん。 あたし達やトランスフォーマー、ナンバーズの魔力を感じ分けてるみたいですけど……」 |
アスカ | 「あぁ、風味が違うのよ。 魔導師の魔力はスッキリ、トランスフォーマーの魔力はまったり、ナンバーズの魔力は濃いめ! って感じ。 わかる?」 |
ティアナ | 「…………サッパリ」 |
アスカ | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第48話『交錯する“道”〜つながる絆、つなげられた絆〜』に――」 |
二人 | 『ゴッド、オン!』 |
(初版:2009/02/21)