「今日は、私達の呼びかけに応じて来てくれてありがとうな。
 機動六課、部隊長の八神はやてです」
「どもー♪
 カイザージェット、改めカイザーコンボイのゴッドマスター、泉こなたでーす♪
 こっち風に言うなら、“コナタ・イズミ”かなー?」
 彼女自身は初対面ということもあり、まずは部隊長としての顔で――落ち着いた口調で名乗り、手を差し出すはやてに軽いノリで答え、こなたは笑顔でその手に自らの手を伸ばし――
「――って、対外的な場で何イキナリ失礼ぶちかましてんのよ、あんたは!」
「あいたーっ!?」
 そんなこなたの後頭部をひっぱたき、たしなめるのはかがみだ。
「すみません! こんなリーダーで……!」
「あぁ、えぇよ、気にせんでも。
 キミ達は局員やないんやし、そうかしこまる理由はあらへんから」
 そのまま強引にこなたの頭を下げさせ、彼女の無礼を謝罪するかがみに答えると、はやてはあらためて彼女に尋ねた。
「それで……キミは?」
「あ、はい……
 ライトライナー、ライトフットのゴッドマスター、柊かがみです。
 それで、こっちが……」
 名乗り、話を振ってくるかがみの視線にうなずき、つかさは少しばかり緊張しながらかがみのとなりに進み出て、
「えっと……レンジャーライナーと、レンジャーライナーがトランスフォームしたレインジャーのゴッドマスターの、柊つかさです……」
「二人とも、“柊”……?」
「ひょっとして、かがみさんとつかささんって……」
「えぇ。姉妹よ」
「双子なんだよ、私達♪」
 つぶやくキャロやエリオに姉と共に答え、つかさは二人に対して微笑んでみせる。
 そして――
「私が、ロードライナー、及びロードキングのゴッドマスター、高良みゆきです」
 最後に名乗るのは、こなた達の後ろで一歩退いた形で控えていたみゆきである。
「ふぅん……」
 みゆきを最後にカイザーズ全員の自己紹介が終了。はやてはこなた達4人を改めて見回す。
 と――その動きがみゆきで止まった。視線が一点に集中し――
「…………もむなよ」
「――――はっ!?
 な、何言うんや、マスターコンボイ! そんなことあるはずないやないの!
 今はこの子達から話を聞くのが優先やないの!」
 学校の制服の上からでもわかるほどにスタイルのいいみゆきの姿に、アリサ曰く“もみ魔”の血が騒いでいた――みゆきの胸に視線をロックオンしていたところにマスターコンボイのツッコミに我に返り、はやてはあわてて弁明の声を上げ――
「後でしっかり楽しませてもらいます!」
「それじゃあ意味がないだろうが!」

 キッパリと言い切るはやてに、マスターコンボイは力いっぱい言い返す。
 が――
「ほほぉ……みゆきさんに目をつけましたか」
 そんなはやての言葉に反応し、こなたはニヤリと笑みを浮かべてやり取りに割り込んできた。
「部隊長さん、なかなかにお目が高いですなー♪」
「当然や。
 友達から同僚、部下に至るまで! みんなのバストアップに貢献してきたこのゴールドフィンガーはダテやないっ!」
「をををををっ!
 さすがは機動六課の部隊長! ソコにしびれる憧れる〜♪」
「………………」

 

 3秒後。

 

 マスターコンボイは迷わず二人を廊下に蹴り出した。

 

 


 

第49話

希望のカケラ
〜破滅への抗い〜

 


 

 

「“お前と同じ存在”、か……」
 ホクトの身体を調べた結果、浮かび上がってきたのは彼らにとってきわめて重大な事実――ジュンイチが明確に言葉にしたそれを聞き、ゲンヤは思わず顔をしかめた。
「まぁ、そのことについては、可能性のひとつとして考えちゃいたけどさ……
 で? ホクトがお前の“同類”として……やっぱ、お前と同じ能力を持ってるのか?」
「それについては、微妙なところだね……
 一時的に停止してるのか、そもそも働いてないのかはわからないけど、いくつかの能力が存在を確認できないんだ」
 尋ねるゲンヤに答え、ジュンイチは息をついてホクトの眠る検査カプセルを見据えた。
「今確かなのは、ホクトがオレの細胞を持ってるってこと。
 つまり、ホクトはスバル達と同じであり、同時にオレと同じ……」

 

 

 

「“遺伝子強化人間マトリクス・ブースター”でもあるってことさ」

 

 

「あー、えっと……じゃあ、まず最初に言っておくべきことから」
 いきなりグダグダな感じで始まってしまったが、とりあえずはやてとこなたも復帰して本格的に会談を開始――が、未だみゆきの胸に視線をロックオンしている、狙い撃つ準備万端バッチコーイなはやてに議長は任せられんとその場に集まった(当事者を除く)全員の意見が一致。身内の恥に顔から火が出る思いをしながら、議長代理となったなのはは一同を前にそう切り出した。
 「勤務中にはやらないんじゃなかったのか!?」「あんな見事なモンを前に自重しろと!? 不可能や!」「もう一度叩き出すぞ、貴様っ!」などと背後では未だにボケツッコミの応酬が続く――それを極力意識の外に締め出しつつ、背後のやり取りを楽しそうに見物していたこなたへと向き直り、
「えっと……こなたちゃん、だっけ?
 まずは、帰ってきたノイズメイズ達から地球を守ってくれたことについて、お礼を言わせて。
 ありがとう。私達のふるさとを守ってくれて」
「私達にとっても地球はふるさとだもん。気にしなくていいよ♪」
 なのはの言葉に相変わらず軽いノリで答え、こなたは出されたコーヒーをすすり、
「…………あ。
 これ、“翠屋”のオリジナルブレンドだ……」
「わかるの?」
「クラナガン店の常連ですから♪」
 聞き返すなのはにこなたが答えると、なのはのとなりのフェイトが息をつき、彼女に尋ねた。
「じゃあ……本題に入ろうか。
 キミ達は、どんな経緯でトランステクターを手に入れたの?」
「それから……どうしてガジェット達と戦ってるの?
 ディセプティコンはゴッドマスターも狙ってるから、戦うことになってもおかしくはないけど……ノイズメイズ達から地球を守るために戦ってたんなら、少なくともガジェットと戦う理由はないわよね? 地球にはガジェットは現れてないんだから」
 そんなフェイトに続き、ティアナもまたこなたに、かがみ達に尋ねるが、
「んー……残念でしたー♪
 どっちの質問もアウト。答えられないね」
 対し、こなたはあっさりとそう答えた。
「じゃあ、アンタ達を指揮しているのは誰?
 まさか自分達だけであれだけのレベルのミッションをこなしてるワケじゃないでしょ?」
「はいはい、その質問もアウト〜♪」
 続けて尋ねるライカにも、こなたはやはりあっさりと答える。
「そっちに――管理局に作戦上の守秘義務があるように、私達にも守らなきゃいけない秘密、っていうのがあってね。
 で、今されたどの質問もその“秘密”に引っかかっちゃう……だから答えられない。おわかり?」
「あ、えっと……そういうことですから、その……ごめんなさい!」
 軽い口調で答えるこなたのとなりで、つかさが本当に申し訳なさそうに頭を下げる――ある意味両極端とも言える二人の姿にライカとフェイトは顔を見合わせて――
「なら……別の質問、いこか」
 気を取り直して尋ねるのは、ようやく“もみ魔モード”から復帰したはやてである。
「ガジェット達とも戦ってるってことは……“レリック”にもからんでる、って思ってえぇよね?
 当然、“レリック”に接触する機会も少なからずあったはず……そういう“レリック”は、どうしてるん?」
「手元には残していません」
 そう答えたのはこなたではなくかがみだった。
「私達でも調べてて、そのためのサンプルとしてキープしてる分は確かにあるけど……それ以外はとっくに手放してます」
「『手放してる』……? どうやって?」
 ただ単に捨てている、ということではないだろう。となるとどうやって――かがみの答えに眉をひそめ、フェイトが彼女に尋ねると、
「大丈夫ですよ――売り払ったりはもちろん、投棄などもしていませんから」
 そう答えたのはみゆきだった。
「それに……もうすでに、“そちらの別働隊が回収しているはず”ですし」
「“別働隊”って……ひょっとして、シグナム達の交代部隊?」
「はい」
 聞き返すフェイトにうなずくと、みゆきはコホンと咳払いした上で丁寧に説明を始めた。
「私達の回収した“レリック”は、私達の“上”がわざと密輸ルートに流し、その情報を管理局の捜査線上にリークしていました。
 そうすれば“レリック”対策を専門としている機動六課によって回収されることになる――この方法なら、多少危ない橋は渡りますが、私達が直接接触することなく、しかも私達の関与に気づかれることなく、回収した“レリック”をみなさんに引き渡すことができます。
 もちろん、密輸に伴う裏のお金の支払いは後払いということにして、密輸による収入が入る前に回収されるように手はずを整えてましたから、その辺りについても潔白を宣言させていただきます」
「ついでに、そのテの密輸ルートも片っ端からツブせて一石二鳥、ってね♪」
「……あ…………」
 そう告げるみゆきや付け加えるこなたの言葉に、なのははあることを思い出した。
「そういえば……初出動だったリニアレール戦の前後くらいの頃、『“レリック”の密輸情報がイヤに多くなってないか?』ってヴィータちゃんに相談されたことがあったけど……」
「なるほど……
 あの頃密輸情報が急増してたのは、そっちが密輸ルートに乗せた“レリック”の情報を流してたからだったんだね……」
「そういうこと♪」
 なのはやフェイトのつぶやきに、こなたはうんうんとうなずいてみせる。
「あとは……今回の事件について、どのくらいまで知ってるんですか?」
「スカ……ガジェットの裏に誰がいるか、わかってるんですか?」
 そう尋ねるのはエリオとキャロだ。危うく捜査情報、すなわちスカリエッティの名を出しかかるものの、なんとか当たり障りのない言い回しで尋ねるが、
「あー、スカリエッティのこと?
 アイツがガジェットの製作者、っていうのは、もう間違いないみたいだね」
 そんな二人の気遣いをあっさりとぶち壊し、こなたはハッキリとスカリエッティの名を挙げた上でそう答える。
「とりあえず……そっちの知らない情報、私達の側にいくつかあるのは確かだね。
 ただ、逆にそっちも私達の知らない情報をいくつか握ってると思うよ――結局、“情報の量”って意味じゃ、こっちもそっちも大して変わらないんじゃないかな?」
「まぁ、その辺りは、お互いに視点が違うからしょうがないね。
 さっきキミが言ったように、お互いに明かせない情報はあるけど……それ以外については、今度改めて情報をすり合わせる必要があるだろうね。
 じゃあ……」
 こなたに答え、なのはが次の質問に移ろうとして――
「…………あのー、なのはさん。
 ちょっと、いいですか?」
 そこへ、突然スバルが口をはさんできた――それだけで彼女の意図を読み取り、なのはがうなずくと、スバルはこなたへと向き直り、
「……こなた。
 キミは……“師匠”とは、どんな関係なの?」
「あぁ、ようやくその質問?」
「前に聞いた時には、はぐらかされちゃったからね」
 待ちくたびれたと言わんばかりのこなたにスバルが答え――対し、こなたはあっさりと答えた。
「昨日の戦闘の時に話した通り。
 同門――つまり、私も“先生”に鍛えてもらったひとり、ってワケ♪」
「兄弟弟子ならぬ、姉妹弟子……ということか?」
「そゆこと♪」
 マスターコンボイに答え、こなたはスバルへと視線を戻し、
「子供の頃、ちょっとしたきっかけで“先生”と出会って……それでちょこちょこっ、と。
 だいたい9年位前の話だから、スバルと比べたら姉弟子にあたるのかな?」
「今、“師匠”はこなたのところに?」
「ううん、いないよ。
 もう何年も会ってないからねー……今頃どこで何してるやら、って感じ。
 ってゆーか、あの人が何考えてどう動くか、なんてわかるわけないじゃない。そんな人がいたら神だよ、その人」
『確かに』
 スバルだけでなく、彼を直接知る全員がうなずいた。
「ま、まぁ、ともかく……」
 ジュンイチのことが話題に挙がるといつもこれだ――微妙な方向に流れかけた空気を、コホンと咳払いして元の軌道に戻すと、はやては気を取り直し、こなた達に尋ねる。
「とりあえず……最低限、これだけは聞かせてな。
 キミらは……ゴッドマスターとして、これからどうするつもりなん?」
「んー、やっぱり、当面はノイズメイズ達の撃退と“レリック事件”の解決かな?
 あとは、ちょっかいを出してくるディセプティコン退治……そんなところ」
「つまり……あたし達と一緒に戦ってくれるってこと?」
 答えるこなたの言葉に、顔を輝かせるスバルだったが――
「あー、それはないかな?」
 対し、こなたはあっさりとスバルの期待を否定した。
「その辺は、私達の“指揮官サマ”からキツ〜く念を押されてるんだよね。
 情報の交換はOK、同志として仲良くするのもかまわない……ただし共闘の約束だけは絶対にNG、ってね」
「共闘だけはナシ……?
 ずいぶんと限定された拒否ね」
「私達は、私達のルートから事件を追っていく――そういうことよ」
 眉をひそめるティアナに、かがみはあっさりとそう答えた。
「なんでですか?
 同じ目的のためにがんばってるんだし、一緒に戦った方が……」
「それじゃダメだから、言ってるんだよ」
 思わず声を上げたキャロに、こなたが答える――その言葉に、さらに説得しようと口を開きかけたキャロだったが、
「だ、っ、て♪」
「ぅわわっ!?」
 それよりも早くこなたが動いた――ニヤリと笑みを浮かべ、不意打ち気味にキャロを抱き寄せる。
「こ、こなたさん!?」
「んー♪ 思った通り、ナイス抱き心地♪」
 いきなりのことにあわてるキャロだったが、イタズラ成功とばかりに意地の悪い笑みを浮かべるこなたはかまわない。思う存分抱き心地を堪能しながら、なのは達に告げる。
「悪いけど……管理局に協力、なんてことになると、できなくなっちゃうこともありそうだからね。だからパス♪」
「『できなくなること』……?
 そんなことはないよ。局のバックアップがあれば……」
「確かに、いろいろ便利になりそうだよねー」
 反論しかけたフェイトだが、こなたはあっさりとそう答え――付け加えた。
「でもさ……」
 

「管理局の施設に擬装したガジェットのプラント、キミ達につぶせた?」
 

「………………っ!」
「まぁ、そもそも気づいてなかったみたいだし、そういう意味じゃあくまで『if』の話になるんだけどさ。
 もし気づけてたとしても、簡単には手を出せなかったんじゃない? 何しろ形の上とはいえ身内に手ェ出すワケだからね。そっちはともかく、周りがまず黙っちゃいないよ」
 痛いところを突かれ、思わず言葉を失うフェイトに、こなたはさらに畳みかける――相変わらず軽い口調だし、キャロの抱き心地を楽しむその行動も続いているが、そんな一方で、彼女の言葉には形容しがたいプレッシャーが込められていた。
「管理局も万能じゃない――管理局にいるからこそ、逆にできなくなることもあるんだよ。違う?」
「だからって……」
 あっさりと答えるこなただが、なのはは困惑を隠しきれない。
 だが、それもムリのない話だ――理由はどうあれ、こなた達は擬装されたガジェットのプラントを叩くために、その地上に建てられた管理局の施設に攻撃を仕掛けているのだ。
 当然、管理局から見れば、こなた達の立場は明らかに悪い。ヘタをすれば最前線の自分達にカイザーズ逮捕の命令が下る可能性も――他に方法はないのかと思案するなのはだったが、
「…………わかった」
「はやて!?」
 その沈黙を破り、うなずいたのははやてだった。思わず声を上げるフェイトを手で制し、こなたに告げる。
「そこまで言うんなら、ここで私達が何言ってもムダやろうね。
 とりあえず……この場はキミ達を信じよか」
「ありがと♪」
「できれば、お互いがぶつかり合うことがないように願いたいんやけどね……」
 あっさりと答えるこなたに、はやては苦笑まじりにそうつぶやく――そんな彼女に、こなたはようやくキャロを放してあげると不敵な笑みを浮かべて告げた。
「それは、これからの展開次第……でしょ?」
 

「ったく、結局言いたいことだけ言って帰ってったわね……」
 ミッドチルダでの滞在はどうするのか。何なら隊舎に泊まっていってもかまわないが――そう提案したはやてだったが、こなたは「あてならあるから」と断ってくれた。こちらの見送りもそこそこに六課を後にした彼女達のことを思い出し、ライカは軽くため息をついた。
「肝心なところは守秘義務を楯にしたり茶化してぼかしたり……本当の意味で聞きたいところは、ちっとも聞き出せなかったね……」
「せやね。
 せめて、裏でこなた達を指揮してる人達だけでも突き止めたかったんやけど……」
 フェイトのつぶやきに答え、はやてもまたため息をつく――そんな彼女達はもちろん、実際に何度も対峙してきたスバル達もまた複雑な想いを抱かずにはいられなかった。
「こなた……あたし達と一緒に戦ってくれないのかな……?」
「まぁ、あの子達の方からそう宣言してくれたしね……」
 つぶやき、うつむくスバルにティアナが答え――
「んー……たぶん、心配はないと思うなー」
 しかし、そんな彼女達のやり取りをあっさりと否定したのはアスカである。
「どうしてですか?
 あたし達と一緒に戦うつもりがないって言い出したのは向こうですよ?」
「確かにね」
 聞き返すティアナに対し、アスカはそううなずき、
「けどさ……ちょっとあの子達の言ってたことを思い出してみようか。
 確かに、あの子達はあたし達と一緒に戦う可能性は否定したけど……」
 

「あたし達の“仲間”であることを、一度でも否定したっけ?」
 

「あ………………」
 アスカの言葉に、ティアナは思わず間の抜けた声を上げた――苦笑し、アスカは続ける。
「それどころか……さりげなく、だけど、ちゃんとこっちのことを“同志”だって明言してる。
 “共闘は望むところだけど、できない理由があるからやらない”――それが、あの子達の主張の要約。
 ちゃんと“お仲間”宣言した上で、その上から思いっきり“お別れ”宣言することで、うまくそのことを隠してくれた……ホント、イイ性格してるよ」
「そう言われてみれば、確かに……」
「ぜんぜん気づきませんでした……」
「これからも、あの子達には苦労させられそうよねー。今までとは別の意味で」
 気づいたエリオやキャロがつぶやき、アスカが肩をすくめてそうまとめると、
「アスカちゃん」
 そんなアスカに、なのはが声をかけてきた。
「私達、もう出かけなきゃだけど……スバル達やヴィヴィオのこと、お願いね」
「はーい、任されましょう♪
 一応副隊長だし、そのくらいのことはしてあげるよ」
 笑顔でうなずくアスカに微笑みを返し、なのはは準備を整えたはやて達と共にオフィスを後にしていく。
「……なのはさん達、これから聖王教会、なんですよね?」
「まーね。
 さっきのこなたちゃん達との会談の内容やら昨日の事件の経過やら、とりあえずは後見人のみなさんの中でも一番近場にいるカリムちゃんに報告に行くんだってさ」
 確か、マスターコンボイも同席するんだっけか――この場にいない、すでに集合場所に向かったのであろう彼のことを思い出しながら、アスカはスバルにそう答え、
「で、あたし達はその間に書類関係。
 昨日の事件の詳細な報告。さっさと報告書にまとめないとね」
「あぅ……
 書類仕事は苦手なんだけどなー……」
「はいはい、ボヤかないの」
 肩を落とすスバルに告げるのはティアナだ。
「せっかくまとまった時間ができたんだから、後に残さずキッチリ仕上げるわよ」
「うえぇ〜……」
 ティアナの言葉にますます肩を落とすスバルの姿に、アスカは改めて肩をすくめ、苦笑するのだった。
 

「……ったく、お前にハッキリ言われると、信じたくないっつー想いまでしっかりきっちり砕かれちまうな」
「しゃーないでしょ。
 “同類”である以上、どうしてもわかっちまうんだからさ」
 他ならぬ当事者ジュンイチにハッキリと断言されては、もう認めるしかない――ため息をつくゲンヤに、ジュンイチは肩をすくめてそう答える。
「間違いなく、ホクトはオレの細胞を埋め込まれたことで、オレと同じタイプの“遺伝子強化人間マトリクス・ブースター”になってる。
 ……でしょ? マリーさん」
「うん……
 ナカジマ三佐、レティ提督、これを見てください」
 話を振ってくるジュンイチにうなずき、マリエルは目の前に展開したウィンドウにホクトの身体のスキャン映像を表示した。
 部位は限定され、両手足の先端部分と腹部だけ――しかし、そこには明らかに普通は存在しないものが存在した。
 普通の人間はもちろん、“姉妹”であるスバル達ですら持たない“それ”は、両手首、両足首、そして腹部に埋め込まれた小さな8面体の結晶体――次いでその結晶体のみがクローズアップされ、3D画像化、着色されて緑色の結晶体として表示される。
 それは、ゲンヤ達にとって――そして、誰よりもジュンイチにとって馴染みのあるものだった。顔をしかめ、ゲンヤがつぶやく。
「……“生体核バイオ・コア”か……」
「あぁ。
 オレが“遺伝子強化人間マトリクス・ブースター”になった時、オレの身体自体が作り出した、分散リンク型の生体中枢核……」
 あっさりとジュンイチはうなずいてみせた。
「ミッドチルダ広しと言えど、これを持ってるのはオレだけのはずだったんだけどね……」
「今ミッドチルダにいる“遺伝子強化人間マトリクス・ブースター”は、お前だけのはずだからな……
 だからこそ、ホクトがお前の細胞で“遺伝子強化人間マトリクス・ブースター”になった、何よりの根拠になる、か……」
 ジュンイチの言葉にゲンヤがつぶやくと、
「あー、ちょっといい?」
 そんな彼らのやり取りに、レティが難しい顔でこめかみを押さえながら割り込んできた。
「どうして断言できるの?
 “遺伝子強化人間マトリクス・ブースター”がジュンイチくんしかいない、って……」
「あれ…………?
 レティさんには、その辺の事情って話してなかったっけ?」
「聞いてないわよ。
 私が聞いてるのは、キミの現在の身体の状態と能力の内容、あとは……キミが“遺伝子強化人間マトリクス・ブースター”になった、その経緯だけだもの」
「そっか……じゃ、わかんなくてもしょうがないね」
 レティの答えに納得し……ジュンイチは告げた。
「じゃあ、おさらいも兼ねて最初から説明しようか。
 オレが“遺伝子強化人間マトリクス・ブースター”にされちまったのは今から18年前……当時8歳のオレが、とある紛争地域で拉致られて、兵器開発実験のモルモットにされたせい……と、ここまでは話してるよね?」
 無言でレティとマリエルがうなずくのを確認し、ジュンイチは続ける。
「けどね……実はその改造、ぶっちゃけ言って失敗だったんだよ。
 強化してるつもりでも、実際にやってることはただ遺伝情報を無遠慮に書き換えて、いろんな要素を無闇に強めただけのシロモノでね……当然、ンなコトされて生きてられるワケがない。他の実験台の皆さんはバタバタ死んでったよ。
 けど……運がいいのか悪いのか、オレには他のヤツらにはない“力”があった」
「ブレイカーとしての“力”、だね?」
「そゆコト」
 確認するマリエルに、ジュンイチはあっさりとうなずいた。
「当時はまだ目覚めてなかった、オレのブレイカーとしての“力”……それが、オレの命をムリヤリ生かしちまった。
 結果、オレは見事に生き残り……しかも闇雲な遺伝子強化のおかげで暴走クラスにまで高められた環境適応能力が自己進化能力に変化しちまってね。遺伝子強化のムチャクチャだった部分をきちんと修復しちまう始末。
 おかげで、オレは晴れて(?)超激レアな“遺伝子強化人間マトリクス・ブースター”の生存個体に。その上生存が確定した後も残っちまった自己進化能力のせいでムダに強化され続けて……さらに10年前にブレイカーの“力”が覚醒。
 そんなこんなで、最終的に“黒き暴君”なんて言われるような、べらぼうな戦闘能力を手にするに至った……と、まぁ、そういうワケ。
 いやー、我ながら『一体どこの厨設定だ、えーかげんにせーやワレぇっ!』なんてツッコみたくなるようなてんこ盛りっぷりだよねー」
「なるほど、ね……
 本来なら被験者を確実に殺してしまうような技術。自分は偶然――本当に偶然、それに対抗できる条件が整っていたから生き残ることができたに過ぎない。
 だからこそ、他にその“力”を持っている人間がいるはずがない……そういうことね?」
 あっさりと説明しているが、語られる内容は事実であると知らないものからすれば荒唐無稽もいいところの内容――それでも、その説明から自分の知りたい答えにたどり着き、レティはつぶやいてため息をついた。
 その一方で、同時に納得する――時折ジュンイチが自らのことを“バケモノ”だの“存在してはならない存在”だのと言って自己否定のような言動に走るのは、決してその身体の異常性だけが原因ではなかったのだということに。
 文字通り、“本来ならば存在しないはずの存在”なのだ。何しろ死んでいる方が当たり前の存在なのだから。
 そして――だからこそ、自分と“同じ”にされてしまったホクトのことを、彼が心から心配しているのだとわかる。
 自分のように生き残れるかわからない、生き残れたとしても、自分と同じような身の上で生きていかなければならない――そんなホクトを、ジュンイチは本当に心配しているのがわかる。
 そんなことをレティが考えているのを気づいているのかいないのか、ジュンイチはこの件に対する説明はこれで終わりだとばかりに次の話題に移ることにした。
 すなわち――
「で……今回の“根本”。
 ホクトを苦しめてたのは、ぶっちゃけ言えば“生体核バイオ・コア”の過剰稼動オーバードライブが原因。
 “生体核バイオ・コア”は魔導師で言うところのリンカーコア。オレ達“遺伝子強化人間マトリクス・ブースター”の中枢核であると同時、優れた生体エネルギー発生器官でもある。
 これがあるおかげで、オレ達は人外的な馬力を出せるんだけど……ホクトの場合、純粋な“遺伝子強化人間マトリクス・ブースター”ってワケじゃないせいか、その働きが少しやんちゃすぎるんだよ。
 だから、一定以上の時間、戦闘レベルでの稼動を続けると、出力が制御できる臨界を超えて、暴走しちまう……全身を襲う激痛はその反動だね」
「なるほど。
 お前が手の一振りでホクトを治してみせたのは……」
「そ。
 オレも同じ“生体核バイオ・コア”を持ってるからね――強引にリンクさせて、オレの方から出力を安定させたんだよ」
 つぶやくゲンヤにジュンイチがそう答えた――その時、
「………………で?」
 不意に口を開いたのは、それまで沈黙を保っていたブレインジャッカーだった。
「今の説明でわかったのは、ホクトの身体についてだけではないか。
 結局、彼女は何者なんだ?」
「だよねー。
 偉そうに長々と説明した後で何だけど……今まで語ったのは“オリジナル”としての実体験とそこからくる推測でしかないんだよね」
 ブレインジャッカーの指摘は予想していたのか、ジュンイチは動揺することもなくあっさりとそう答える。
「結局肝心なところは何ひとつわかってない――ギルティドラゴンとはどこで出会ったのか? ニーズヘグはどこで手に入れたのか?
 でもって、どうしてあの場に現れたのか? スバル達を探してたにしても、どうしてあの場にスバル達がいるってわかったんだ?
 そして何より――何のためにあの場に現れたのか?」
 ジュンイチの挙げた“疑問点”に、当然ながらゲンヤ達は答えることができない。レティ達と互いに顔を見合わせて――
「とはいえ、ぶっちゃけどーでもいいんだけどねー、ンなもんわ」
 そんな彼らの間の空気を、ジュンイチは一言でぶち壊しにしてくれた。
「って、いいのかよ?」
「ンなの、本人から聞けばいいんだし。
 ここでいちいちオレ達で勝手に推理してたってしょうがないでしょ?」
「いや、まぁ……それはそうなんだけど……」
 だったら話題を振って困惑させるな――そんなツッコミをグッと呑み込み、答えるレティだったが、ジュンイチはそんなことを気にも留めない。
「とにかく、今言えるのは、ホクトはオレやギンガ達と血がつながってる、ってこと。
 そして――」
 言って、ジュンイチはホクトの眠る検査カプセルへと視線を向け、告げた。
「だからこそ、ホクトも“レリック事件”に関わっていくことは避けられない……ってことだよ」
 

「はい、終わり♪」
「早っ!?」
「あたしも終わりー♪」
「こっちも早っ!?」
 一方、スバル達はオフィスでデスクワークの真っ最中――自分の両どなりで次々に自分達の書類を仕上げるティアナやアスカに、スバルは思わず声を上げた。
「ふ、二人とも、すごいなぁ……」
「こういうのは、ツッコむべき要点さえわかってれば、後はそれをまとめるだけだからねー。
 要は慣れよ、慣れ」
「そ、そういうものかなぁ……?」
 あっさりと答えるアスカだが、スバルは思わず首をかしげる――まぁ、“慣れ”とあっさり言われても、同期であるはずのティアナと見ての通りの差が開いていれば、彼女の言葉が素直に信じられないのもムリはないのだが。
「まったく……少し回しなさい。やったげるから」
「あぅ……ティア、ありがとう……」
「まったく……優しいねー、ティアちゃんって」
 ため息まじりに書類を引き受けてくれるティアナの姿に、アスカは軽く肩をすくめてそう軽口を叩いてみせる。
「あんまりかまうと、スバルのことだからまた調子に乗るよ?」
「あぁ、気にしなくてもいいですよ。
 その辺はもうとっくに手遅れでしょうから」
「あぁ、なるほど」
「二人ともひどっ!?」
 アスカとティアナの会話に、スバルが思わず声を上げる――が、結局はツッコんできたアスカも書類を一部引き受けてくれた。3人は改めて書類に取りかかり――
「………………っ」
 さっそく書類を1枚仕上げ、アスカが次に取りかかったのは昨日の戦闘で自分達の目の前に現れた“ナンバーズ”や、ホクトについての分析報告書――アスカの端末に表示されたナンバーズの面々の映像が視界に入り、スバルは思わず動きを止めた。
「あぁ……それ、昨日の?」
「うん。
 あたしのレッコウのデータ、さらにアルトちゃんが記録しててくれた分析データ付……」
 スバルの異変からこちらに気づいたティアナのつぶやきに、当のアスカはそう答えてうなずいてみせる。
「引き受けて正解だったわ、コレ。
 スバルだったらいつまで経ってもまとめきれないわよ、こんなの」
「アスカさん……なんかさっきから、微妙に発言がキツくないですか?」
「気にしない気にしない♪
 いつもその辺ビシバシとツッコんでくれるマスターコンボイがお出かけしちゃってるワケだし、代わりにツッコまなきゃダメかなー? とか思ってるだけだから」
「代行しないでください!」
「別に、スバルをいぢるのが楽しくてしょうがない、とか、そういうことはちっともないから♪」
「しかも本音がだだ漏れだし!?」
 アスカの言葉に、思わず声を上げるスバルだったが――
「それより、今はこの子達の話、でしょ?」
「あ、はい……」
 告げるアスカの言葉に、我に返ったスバルは改めてナンバーズの映像へと視線を向けた。
「あれだけのことをしておいて……使っていたのは魔力じゃなくて、それを変換したと思われる別系統のエネルギー……
 そんなのを、身体の中に内包してる、ってことは……」
「…………やっぱり、“そう”思っちゃうか」
「はい…………」
 アスカの言葉に、スバルは視線を伏せてうなずいて――
「――――って、アスカさん!?
 まさか、あたしのこと……」
「うん。知ってるよー。
 これでも、一応は“副隊長”だからね♪……分隊違うけど」
 気づき、声を上げるスバルに答え――最後に不要なツッコミを付け加え、アスカは軽く苦笑する。
「でも……スバルが気にすることないと思うよ。
 そういうことを考えるのは、ロングアーチと隊長格ご一同の仕事だし……たとえスバルの考えてる通りだったとしても、あたしに言わせれば『だから何?』だもん」
 そう答えると、アスカは問題のデータをまとめ、報告書に仕上げ始め、
「こいつらがどんな存在であろうと……あたし達にケンカを売ってきてる、ってことは変わらない。
 でもって、スバルがあたし達の仲間で……“家族”だってのも、変わらないでしょ?」
「“家族”……?」
「違う?
 少なくとも、あたしはそう思ってるんだけど」
 思わず声を上げるスバルだったが、アスカはごくごく当たり前のようにそう答え、
「家族っていうのは……血のつながりでしかつながらないものじゃないでしょ?
 家族のつながりっていうのは、心と心でつながるもの……って、あたしはそう思ってるから」
「え………………?」
 続けて告げられたアスカの言葉に、スバルは思わず動きを止めた。
「………………?
 何? あたし変なコト言った?」
「あ、いえ……
 前に、同じことを“師匠”が言ってたことがあったから……」
 そんなスバルの姿に、アスカは首をかしげて尋ねる――あわててパタパタと手を振り、スバルは彼女にそう説明する。
「そっか……
 知らず知らずに、スバルの“師匠語録”を引用しちゃったかな?」
「あ、いや……そんな“語録”っていうほどじゃ……」
「そう?
 “お師匠様”について話すスバル、とっても楽しそうじゃない。
 すっごく大好きなんだなー、って、見ててよくわかるんだよね」
「す、『好き』って!?
 あ、いや、確かに大好きですけど、師匠はお兄ちゃんで、えっと……」
「アハハ、パニクらない、、パニクらない♪」
 「大好き」という言葉に反応し、顔を真っ赤にして声を上げるスバルを、アスカは笑いながらそうなだめると、彼女の頭をぽんぽんと軽くなでてやる。
「とにかく、そんなワケだから、スバルはナンバーズのことなんか気にしなくていいの。
 倒さなきゃならない、捕まえなきゃならない相手――それが結論なんだから」
「そうね。
 結局、突き詰めればそこに行きつくんだし」
「あ、うん……」
 ともあれ、話をまとめるアスカや後に続くティアナの言葉に、スバルも気を取り直してうなずいて――
「そ、れ、に♪」
 そんなやり取りに、アスカは不意に付け加えた。とたん、彼女の周囲の空気が一変し、
「コイツら、よりによってスプラングを……っつーかヴァイスくんを狙ってくれたからね。
 ぶっちゃけ、許す気なんてまだまだ、ぜんぜん、毛筋ほども持ててないからねー。じっくりタップリ、ヴァイスくんに手ェ出したことを心ゆくまで後悔してもらおうかな? ククククク……」
『ヒ、ヒィィィィィッ!?』
 彼女の全身から放たれるのはどす黒いオーラの奔流――未だ当人に自覚はないものの、もっとも“恋人”に近い相手を狙われた怒りから邪悪きわまりない笑みを浮かべ、手にしたペンを難なく握りつぶすアスカの姿に、スバルだけでなくティアナまでもが底知れぬ恐怖に震え上がるのだった。
 

 そんな真っ黒な空気に機動六課のオフィスが汚染されつつある一方、ベルカ自治領、聖王教会では――
「失礼します。
 高町なのは、一等空尉相当官であります」
「フェイト・T・高町一等海尉相当官であります」
「民間協力者の、ライカ・グラン・光凰院です」
「いらっしゃい――そして初めまして。
 聖王教会、教会騎士団の騎士、カリム・グラシアといいます」
 初対面の面々があいさつの最中――敬礼し、名乗るなのはとフェイト、ライカの3人に対し、カリムは笑顔でそう答える。
「マスターコンボイも、久しぶりですね。
 以前の迷いは晴れましたか?」
「あれからどれだけ経ってると思ってるんだ?
 とっくに解決済みだ――貴様が気にすることじゃない」
 一方、こちらはすでに対面済みということもあってか遠慮などカケラもなし――尋ねるカリムに対し、マスターコンボイはぶっきらぼうにそう答える。
 そして、彼女達ははやてやアリシア、そしてイクトと共に、窓際に用意されたテーブルに――そこには、先日から教会に滞在していたクロノがすでに席についていた。
 しかし――そこにいたのは彼だけではなく、
「やふー、みんな♪」
「か、霞澄さん!?」
「ノンノン。“霞澄ちゃん”だよ、なのはちゃん♪」
 気楽にあいさつをしてくれる“彼女”に、なのはが思わず声を上げる――笑顔で訂正し、霞澄は先にいれてもらっていた紅茶をすする。
 場所が場所だけに、ざっくばらん、といった様子の彼女に困惑を隠せないなのはとフェイトだったが、
「そんなに硬くならないでも大丈夫よ。
 私達は、個人的にも友人だから」
「あ、はい……」
「そういうことなら……」
 暗に“いつも通りの態度でもかまわないから”と告げるカリムの言葉に、初対面であることも手伝ってかしこまった空気の抜けずにいたなのはとフェイトは息をつき――
「そうそう。
 特にあたしとカリムはスールの誓いを交わした中で――」
「そんなことはどうでもいい」
 笑顔で告げようとしたアリシアはマスターコンボイが一刀両断。あっさりと告げると彼女の目の前を横切り、適当に席につく。
 せっかくのネタをつぶされ、アリシアは口をとがらせながらも同様に席につく――苦笑まじりになのはやフェイトも後に続き、全員が席につくのを待ってから、はやては静かに口を開いた。
「それじゃあ……昨日の動きや今日のこなた達との会談のまとめと、改めて、機動六課設立の裏表について。
 それから……今後の話を」
 その言葉に、一同の表情が引き締まる――自らも気を引きしめ、はやてはクロノへと向き直り、告げた。
「……クロノくん。説明を」
「わかった」
 

「ぐっすり、お休みみたいだね」
「うん……」
 なんとか書類を仕上げ、様子を見ようとなのは達の私室に来てみれば、ヴィヴィオはベッドで寝息を立てていた――リアルギアの3名ががんばってシーツをかけ直してあげる光景を微笑ましく見守り、エリオはキャロのつぶやきにそううなずいた。
「何て言うか……本当に普通の子供だよね……」
「だね」
 素直な感想を述べるキャロにエリオが同意する――アスカがいれば『二人がそれを言うな』とツッコんでくれることだろうが、残念ながら彼女はオフィスで殺意の波動を大絶賛放出中である。
 だが、二人がそんな感想を抱いてしまうほどに、ヴィヴィオは本当に“普通の女の子”で――
(でも……)
 だからこそ、エリオには気になることがあった。
(この子が人造魔導師の素体だとしたら、知識も言動もハッキリしすぎてる……
 人工授精児なら、こうはならない……)
 考えられることは二つ。
 生み出されてから“それなりの期間”を生きて経験を積んできたか、もしくは――
(…………たぶん、記憶があるんだ。
 元になった人物の――)
「……エリオくん?」
 そんなエリオの思考を中断したのは、心配そうに彼のことをのぞき込んでくるキャロだった。
「どうかしたの?」
「あ、いや……なんでもないから」
 首をかしげるキャロにそう答え――エリオは彼女に笑顔を向けながらも心の中でつぶやいた。
(どちらにしても……続いてるんだ……
 “プロジェクトF”は、まだ、どこかで……)
 

「六課設立の表向きの理由は、“古代遺物ロストロギア”――“レリック”の対策と、独立性の高い、小数部隊の実験例……」
 言って、クロノは一同の前にウィンドウを展開し、
「知っての通り、六課の後見人はボクと騎士カリム、それからボクの母親で上官の、リンディ・ハラオウンだ。
 トランスフォーマーからは、ミッドチルダの現リーダー、ザラックコンボイと、セイバートロン星のスタースクリーム……
 それから、非公式ではあるが、霞澄さ……ちゃんを通じて“Bネット”も技術提携という形でGLXナンバーを始めとした各種の新型デバイス開発に協力。さらには彼の三提督も設立を認め、協力の約束をしてくれている」
「あのジジババどもが……?」
「こら、マスターコンボイ」
 相変わらず失礼な物言いのマスターコンボイをライカがたしなめ、クロノは思わず苦笑するが――
「ずいぶんと豪華メンバーじゃないか」
 その一方で、イクトはクロノに鋭い視線を向けた。
「これだけのメンバーがそろって背中を押していれば、確かに生半可な口出しはできまい……
 だが、だからこそ引っかかる――六課を設立するのに、なぜそこまでの体制を整える必要があったんだ?」
「それは……」
 イクトの問いに答えようとクロノが口を開きかけ――そんな彼を、カリムは手で制し、彼に代わり答えた。
「その理由は……私の能力と関係があります」
「貴様の……?
 確か、貴様の能力は……」
 個人的にも付き合いがある手前、その辺りはイクトも知っている――つぶやく彼にうなずき、カリムはそれを取り出した。
 羊皮紙の束だ――つづり紐を解くと、それらは一枚一枚が浮き上がり、カリムの周囲に配置される。
「私の能力“プロフェーティン・シュリフテン”……
 これは、最短で半年、最長で数年先の未来、それを詩文形式で書き出した、予言書の作成を行なうことができます」
「予知能力……ってヤツ?」
「確かに、そう分類される能力ですが……いろいろと制約があります」
 聞き返すライカに、カリムはそう答えると周囲の羊皮紙に干渉。何枚かをなのは達の眼前に飛ばし、説明を続ける。
「二つの月の魔力がうまくそろわないと発動できませんから、頁の作成は年に一度しかできません。
 また、その予言の中身も古代ベルカ語で、解釈によって意味が変わることもある難解な文章――その上、世界に起きる事象をランダムに書き出すだけで、解釈ミスも含めれば、的中率や実用性は“割とよく当たる占い”程度。
 つまりはあまり便利な能力ではないんですが……」
「聖王教会はもちろん、次元航行部隊のトップも、この予言には目を通す。
 信用するかどうかは別にして、“有識者による予想情報のひとつ”としてな」
 クロノがそう補足する一方で、はやてもまたなのは達へと向き直り、
「ちなみに地上部隊はこの予言がお嫌いや。
 実質のトップがこの手の希少技能レアスキルとかお嫌いやからな」
「レジアス・ゲイズ中将、だね……」
「せや」
 つぶやくなのはにうなずき、はやては思わず苦笑し、
「まったく、あの人の希少技能レアスキル嫌いにも困ったもんや。
 きっと……」
 

「ジュンイチさんひとりに部隊丸ごと壊滅させられたんが、今でもお気に召さないんやねぇ……」

 

 ………………
 …………
 ……

 

「って、ちょっと待ったぁっ!」
 その場に落ちた沈黙を打ち破り、声を上げたのはライカだった。
「はやて! 今アンタ何つった!?
 あのバカが何かやらかした、的なこと言わなかった!?」
「言ったよー、ハッキリとね」
 驚くライカに答えたのは霞澄である。
「なのはちゃん達は聞いてるのよね?――ウチの“バカ息子”が能力限定かました状態で、演習で本局直属部隊を壊滅させた、って話」
 霞澄の言葉に、なのはは無言でうなずく――かつてマッハキャリバーを始めとしたスバル達の新デバイスのお披露目の際、スバルの口から語られた詳細は今でも強烈な印象として脳裏に焼きついている。
「その時に部隊の指揮を執っていたのが、他ならぬレジアスくん。
 それ以前にも、あの子がことあるごとに能力全開で暴れ回って、その後始末で振り回されまくっててね……そのせいで、かーなーり、うっぷんが溜まってたみたい。
 それが、その一件を機に一気に爆発しちゃったのよ」
「つまり……地上部隊の希少技能レアスキル嫌いの、根本の原因って……」
「……まぢで何やってんのよ、あのバカは……!」
 相変わらず、どこで何やっても結果的に大きな騒ぎを引き起こす男だ――頬を引きつらせるフェイトのとなりで、ライカは思わず頭を抱える。
「ま、まぁ……今は彼のことは置いておくとして、だ……」
 しかし、今の話題はジュンイチについてではない――多少強引に話題を軌道修正し、クロノは本題に入った。
「今説明のあった、騎士カリムの予言能力――その予言に、数年前から、少しずつ、“ある事件”が書き出されているんだ」
「“ある事件”、だと……?」
 眉をひそめるマスターコンボイにうなずき、カリムは羊皮紙の一枚を目の前に呼び出し、その内容を読み上げた。
 

―― “古い結晶”と“無限の欲望”が集い交わる地
死せる王のもと 聖地より 彼の翼が甦る
死者達は踊り 中ツ大地の法の塔は虚しく焼け落ち
それを先駆けに数多の海を守る法の船も砕け落ちる――


「…………そ、それって……!?」
「まさか……!?」
 読み上げられたカリムの“予言”――断片的に理解できた単語からそのだいたいの内容は読み取れた。“衝撃的な内容”に、なのはとフェイトの間に戦慄が走る。
 そんな彼女達の傍らで、ライカは読み取れたその内容を口にした。
「つまり……こういうこと?
 その予言が示しているのは、“古代遺物ロストロギア”をきっかけに始まる、管理局地上本部の壊滅と……」
 

「管理局システムの、崩壊……」

 

「査察の日程は決まったのか?」
「はい。
 人員の選定は終わりました――週明けにでも査察に入れます」
 その頃、地上本部――尋ねるレジアスに、オーリスは淡々とそう答えた。
「連中が何を企んでいるやらしれんが……土にまみれ、血を流して地上の平和を守ってきたのは我々だ。
 それを軽んじる“海”の連中や教会連中に、いいようにされてたまるものか……!」
 苛立たしげにそうつぶやくと、レジアスはオーリスへと振り向き、
「幸い、“最高評議会”は私の味方だ。
 公開陳述会も近い――査察では、教会や本局連中を叩けそうな材料を探してこい」
「その件ですが……機動六課について、事前調査をしましたが、アレはなかなか巧妙にできています」
 告げるレジアスだったが、オーリスの答えは彼の望むものではなかった。そう言いながら、彼の前にウィンドウを展開。六課の部隊編成についてのデータを表示する。
「部隊長研修を終えたばかりの新米部隊長を頭に据え、主力メンバーも移籍ではなく、本局やサイバトロンからの貸し出し扱い。
 部隊長の身内である固有戦力を除けば、後は皆新人やその域をようやく抜け出してきた、といったレベルの者ばかりで、後に加わった補充戦力も、そのすべてが局外からの民間協力……
 そして何より、期間限定の実験部隊扱い……」
「フンッ、つまりは使い捨てか……」
「はい。
 本局に問題提起が起きるようなトラブルがあれば、簡単に切り捨てるでしょう――そういう編成です」
「なるほど、な……」
 オーリスの答えにうなずき、レジアスはウィンドウの一角、はやての写真に視線を向けた。
「小娘は生贄、か……
 “元犯罪者”にはうってつけの役割、か……」
「………………」
 レジアスの乱暴な物言いに眉をひそめるが――オーリスはそれを表に出さず、ウィンドウに視線を向けた。
 彼女が見ている写真、それはレジアスの見ているはやてではなく――
(…………イクト・エンノウジ……
 やはり、あなたもいるのですか……)
 

「ほな……みんな」
「うん。大丈夫」
「情報は十分。査察対策は任せて」
 カリム達との会談を終え、六課に帰隊――声をかけるはやてに、なのはとフェイトは一同を代表してうなずいてみせる。
「マスターコンボイさんも」
「わかっている。
 六課がつぶされるワケにはいかない――その理由を理解したからには、査察の間くらいはスバル・ナカジマ達の“よき先輩”とやらを演じてやるし……ガスケット達もフォローしてやるさ」
 ある意味で“一番の懸念”であるマスターコンボイも、事態が事態なだけに協力を拒むつもりはなかった。尋ねるはやてにぶっきらぼうな口調ながら協力を約束する。
 そして、一同は解散、その場を散っていくが――
「…………みんな!」
 そんな彼女達に、はやては改めて声をかけた。どうしたのかと振り向くなのは達に、はやてはしばしためらいながらも、ゆっくりと告げる。
「なのはちゃんも、フェイトちゃんも、アリシアちゃんも……私にとって、命の恩人で、大切な友達で……マスターコンボイさんかて、“GBH戦役”では最後の最後で助けてくれた。
 イクトさんも、“擬装の一族ディスガイザー事件”の時から助けられてばっかりで、ライカさんも……
 六課がどんな展開と結末になるかは、まだわからへんけど……」
 告げる内に、はやての声はどんどん勢いを失っていく――そんな彼女の姿に、なのは達は互いに顔を見合わせた。
 はやてのこの態度は、たいてい周りに対し申し訳なさを抱いてのものだ――普段はそれが関西人の証とばかりにノリを前面に押し出した明るい態度を見せているはやてだが、その裏に隠された優しさという本質は、その場の誰もが理解していた。
 だから――
「バカか貴様は」
 いつもの勢いを失ったはやてに対し、マスターコンボイはいつもの調子でそう言い放った。
「こっちは最初から自分の意志で機動六課に参加しているんだ。
 貴様の都合なんか知るか――オレはオレの都合で、好きに首を突っ込ませてもらうまでだ」
 言って、マスターコンボイは話は終わりだとばかりにそっぽを向いてしまう――それでも立ち去ろうとしない彼に苦笑しつつ、なのはもまたはやてに告げる。
「……ちょっと乱暴な言い方だったけど、マスターコンボイさんの言う通りだよ。
 私達は皆、ちゃんと納得してここにいる……」
「ま、そういうことね。
 そりゃ、あたしは他のみんなに比べれば短い付き合いだけどさ……それでも、アンタが何を思ってここにいるのか……あたしなりにちゃんと認める部分があるからこそ、自分の意志で力を貸してる。
 それに……もし仮に、この先アンタが間違うことがあっても、きっと周りが止めてくれるし、軌道修正だってしてくれる――そういう連中の集まりじゃない、ここは。
 だから大丈夫。アンタは自分の選んだ道に自信を持って、堂々と命令してりゃいいのよ」
「………………うん!」
 なのはや、ライカの言葉に笑顔を取り戻し、はやては元気にうなずいた。そして、あらためて一同は解散し――
「………………?」
 ふと、深刻な表情でマスターコンボイがはやてを見送っているのに気づいた。
「どうした? マスターコンボイ。そんな難しい顔をして」
 尋ねるイクトに対し、マスターコンボイはしばらく憮然としたまま黙り込んでいたが――やがて、静かに切り出した。
「…………炎皇寺往人。
 少し、いいか?」
 

「機動六課設立の真の理由……貴様は聞いていたか?」
「いや。今日のあの対談が初耳だ」
 向かったのは隊舎の屋上――誰も聞き耳を立てているものがいないことを確認し、切り出したマスターコンボイに対し、イクトはあっさりとそう答えた。
「そうか……」
「それがどうかしたのか?」
 聞き返すイクトに対し、マスターコンボイは息をつき、
「例の“予言”について……果たして、柾木ジュンイチは知っていたのか――そう思ってな」
「………………っ」
 そのマスターコンボイの指摘に、イクトは思わず息を呑んだ。
「ヤツについてよく知る貴様に聞く。
 現在の状況から、柾木ジュンイチは“予言”について知っているのか否か……貴様はどう見る?」
「…………正直、断定はできない」
 しばしの思考の末、イクトは静かにそう答えた。
「管理局の崩壊の危機……そんなことになれば、当然局にいるスバルやギンガ、はやて達にも危険が及ぶ……“身内”を守ることに冗談抜きで命をかけているあの男が、それを見過ごすとは思えない。
 必ず、自分の“身内”を守るために行動を起こす――となれば、その場合ヤツが張りつくのは最前線である、この機動六課のはずだ。
 しかし、現時点でヤツが姿を見せている気配はない。おそらくはこなた達の背後にいるのがヤツだろうが……もしあんな内容の“予言”のことを知っていたとしたら、そもそも悠長にこなた達に任せているとは思えない」
「だから、“知らない”と見ることができる……か?」
「あぁ」
 確認するマスターコンボイにうなずくイクトだったが――その表情はそんな自分の仮説にいまいち納得できていないように見える。
「……何か、気になることがあるようだな」
「あぁ。
 今言ったとおり、柾木が“予言”について知っていたとすれば、必ずスバル達を守るために姿を見せるはずだ。
 ただ……」

 

「ヤツが知っているのが、“予言”についてだけではなかったとしたら?」

 

「何…………?」
「もし、ヤツが“予言”以外にもこの件に関わる重要な“何か”をつかんでいて……
 しかもそれが、スバル達との合流を危険視させるものだったとしたら……」
 眉をひそめるマスターコンボイに答えると、イクトはそこで一度言葉を切り、
「もしそうだとしたら、ヤツは……逆に、絶対に姿を見せない。
 それどころか、裏に姿を潜めていろいろと画策している現状にも、すんなりと筋が通ってしまう」
「なるほど、な……」
 イクトの言葉にうなずき、マスターコンボイは息をつき、
「つまり……この一件、目の前の問題を防ぐだけで片づく問題ではない、ということか……」
「あぁ……」
 マスターコンボイに答え、イクトが視線を向けるのは敷地の一角、隊員宿舎だ。
(エリオの両親とルシエの里……どちらもガジェットに襲われた結果……
 だが、どちらも“レリック”が関係した形跡はない――その件ひとつをとっても、ガジェットの動きには“レリック”関係だけでは説明のつかない部分が見え隠れしているのがわかる。
 となれば、これから状況はますます複雑になっていくのは、間違いない……状況を見誤れば、エリオ達を危機にさらすことにもつながりかねない)
 改めてその事実を思い出し――胸中でわき上がるのは強い決意。
(…………いや。そんなものは建前か。
 そもそも“レリック”など関係ない。オレはエリオとキャロの“義兄”。たとえいつまでも一緒にいられるワケではないとしても……守ってやるさ。
 アイツらがオレやテスタロッサの手を離れる、その時まで……)
 

「…………やれやれ。
 まさか、こんなところでホクトみたいなのが出てくるとはなぁ……」
 アジトの外で何の気なしに夜空を見上げ、ジュンイチはため息まじりにそうつぶやいた。
「六課の方は六課の方で、なんか査察の話が浮上してるっぽいし……
 あの筋肉ダルマもいらんことしてくれるぜ」
 豪華メンバーが後見人に名を連ねる機動六課に査察を仕掛けるような強硬派は、自分の知る限り彼しかいない――レジアスに対し毒づきながら、ジュンイチは大きく背伸びして、
「まぁ、そういう事態になれば、なのは達も六課設立の舞台裏を知ることになるだろうし、ある意味では好都合だったんだけど……それでもプラスマイナスで言えばマイナスなんだよなぁ……」
 わざわざ声に出してつぶやくが――それにはちゃんとした理由があった。
「そうは思わないか? ブレインジャッカー」
「ノーコメントだ。
 彼女達の都合など、オレには関係ない」
 尋ねるジュンイチの言葉に、木々の生い茂るその奥に潜んでいたブレインジャッカーが姿を現し、そう答える。
「しかし、結果的に今回の件で事態が大きく動くことは間違いない。
 事態が停滞しているよりは、マシではないのか?」
「どーせならプラス方向に動けっつーんだ」
 ブレインジャッカーの言葉に、ジュンイチはため息まじりに頭をかいた。
「だいたい、はやてもカリムも甘いんだよ。
 予言の解読は正解。内容の解釈も満点だけど……そこで安心してその裏まで読もうとはしていない」
「予言……?」
「“レリック”と“無限の欲望”……つまりジェイル・スカリエッティの接触を引き金にして、管理局が崩壊を起こすかもしれない……そういう予言があるんだよ」
 ブレインジャッカーに答えると、ジュンイチはため息をつき、
「アイツらは気づけてない。
 あの予言で語られているのは、スカリエッティと“レリック”の接触がきっかけになって管理局のシステムが崩壊する……それだけでしかないっつーことに」
「それのどこがマズイと言うのだ?
 そういう話なら、スカリエッティを叩けば……」
「そういう発想に行くから、『わかってない』って言ってるんだ」
 首をかしげるブレインジャッカーに、ジュンイチは少しばかり語気を強めてそう答えた。
「さっきオレが語った予言の概要、よく思い出してみやがれ。
 『“レリック”とヤツの接触が引き金になって管理局が崩壊する』……さて、ここで少し考えてみよう。
 今語った概要の中で、スカリエッティは何をした?」
「何、と言われても……
 ジェイル・スカリエッティが“レリック”と接触して……」
 ジュンイチに答えかけ――ブレインジャッカーは動きを止めた。そのまましばし思考をめぐらせ、ジュンイチに告げる。
「…………接触しただけだな」
「そ。
 予言の内容は、確かにスカリエッティと“レリック”が引き金になって管理局が崩壊することを示してるけど……具体的にスカリエッティの行動について触れられているのは、ヤツと“レリック”の接触だけ。
 アイツが管理局を滅ぼす、なんて、予言の中じゃ一言も言ってないんだよ」
 気づいたブレインジャッカーの言葉に、ジュンイチはうなずいてそう告げる。
「スカリエッティと“レリック”の接触は、ただのきっかけでしかないかもしれない――引き金を引くのがヤツらだったとしても、実際に管理局を崩壊させるのは、スカリエッティとは限らないんだ」
「なら、管理局を滅ぼすのは一体誰だというんだ?」
「ンなのオレが知るかよ。オレはカリムと違って予言はできねぇんだからさ」
 聞き返すブレインジャッカーだったが、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「今の戦いに参戦してる勢力なんてゴロゴロしてるだろ。
 スカリエッティ組にディセプティコン、そしてユニクロン軍……どういうワケか生きてたザインも、瘴魔軍の再編に動いてるみたいだし。
 これだけ厄介なヤツらがガン首そろえてりゃ、誰が“実行犯”になったって不思議じゃねぇよ」
 ブレインジャッカーにそう答えると、ジュンイチはクルリときびすを返した。ブレインジャッカーに背を向け、アジトの中へと戻っていく。
「そう……誰が滅ぼしたっておかしくない」
 と――その足が不意に止まった。少しだけ振り向き、ブレインジャッカーに告げる。
「意外と……“身内”によって滅ぼされる、なんて展開もあったりしてな♪」
「何………………?
 柾木ジュンイチ、それはどういう……」
 思っても見なかったその言葉に顔を上げるブレインジャッカーだったが――それ以上答えることもなく、ジュンイチは彼に向けてパタパタと手を振りながら、さっさとアジトの中に戻っていってしまうのだった。


次回予告
 
はやて 「よっしゃぁっ!
 次回はいよいよ、私達ヴォルケンズのお話や!」
ギンガ 「なんでも、八神二佐達の昔のお話だそうですね!」
スバル 「……あれ?
 ねぇ、ギン姉……なんか“師匠”の出番もあるみたいだよ?」
アスカ 「はやてちゃん、苦労させられたみたいだねー」
イクト 「人は苦労を乗り越えてこそ成長する。
 まぁ、その……がんばれ」
はやて 「え? 何?
 ひょっとして、“そういう話”なん?」
アスカ 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第50話『(知りたくなかった)師の足跡
 〜ヴォルケンリッター壊滅事件〜』に――」
5人 『ゴッド、オン!』

 

(初版:2009/03/07)