フェイトとエリオ達、そしてその間にはさまれたイクト――ライトニングの面々が互いに互いを思いやった結果生じたすれ違いも無事解決。そのまま、これ以上は何事もなく一日が終わるかと思われたが――
「マスターコンボイさん、どこ行っちゃったんだろ……」
 すでに日付も変わろうかという時間――スバルは宿舎の正面口でひとりつぶやいていた。
 アスカに指摘され、マスターコンボイの不在に気づいて早数時間。一度は「気にしなくてもいいだろう」という結論に落ち着き、こなた達も今夜の“宿”へと引き上げたのだが、それでもやはり気になり、ひとり探しに出たのだ。
 みんなには内緒で出てきたので、何も知らないティアナ達は明日に備えてすでに就寝。大声で探し回るワケにもいかず、こうして見回ることしかできずにいるのだが――
「………………あれ?」
 ふと気づいた。向けた視線の先――宿舎の正面の道路の真ん中を、こちらに向かって歩いてくる人物がいる。
 あれは――間違いない。
「マスターコンボイさん!
 どこ行ってたんでs――」
 声を上げ、駆け寄るスバルだったが――暗がりでよくわからなかった彼の姿を目の当たりにし、思わず言葉を失った。
「ど、どうしちゃったんですか!?
 血だらけじゃないですか!」
「待て。オレは人間じゃなくてトランスフォーマーだ。いくらヒューマンフォームでも血など流すか。
 こいつはヒューマンフォーム中、スパークの力を擬似血液に変換して体内を循環させている“スパークオイル”と呼ばれるもので――」
「そんなことは関係ないですよ!」
 動じることなどない、何でもないかのように答えるマスターコンボイに、スバルは思わず声を上げる――だがそれもムリはない。
 何しろ、マスターコンボイは全身が傷だらけ。そこからの出血で、スバルの言う通り、まさに血まみれの状態だったからだ。
「そんなになって……何があったんですか!?」
「大したことじゃない。
 ただ――」
 経緯を問いただそうとしたスバルに対し、マスターコンボイはごくごく平然と答えた。
「シスターマートの自動ドアにはさまっただけだ」

 

 


 

第54話

“一番”は誰?
〜勃発、ベストパートナー決定戦!?〜

 


 

 

 そんなやり取りから、しばし時間はさかのぼり――
 

「…………貴様……柾木、ジュンイチか……」
「おやおや、オレのこと、知ってんのかよ?」
「いろいろと聞いているさ。貴様の“伝説”はな」
 自分の前に姿を現したのは、六課どころか管理局そのものにその名を轟かせるあの男――目の前に立つジュンイチと対峙し、マスターコンボイはそう彼に答えた。
「ここにオレを呼び出したのは、貴様か?」
「そゆコト」
 今度はジュンイチがあっさりと答える――笑いながら肩をすくめ、
「お前がオレのこと知ってて助かったぜ。自己紹介の手間が省けt――」
 言いながら、ジュンイチはほんの半歩だけ、左にその身をずらした――次の瞬間、轟音と共に彼のいた場所に振り下ろされた刃がコンクリート製の地面を粉々に撃ち砕いた。
 パラパラと舞い散る破片をしばし眺め、ゆっくりと“犯人”へと視線を向け、尋ねる。
「…………いきなり何?」
「冷静にかわしておいて、よくも聞く!」
 間髪入れずに言い返し、マスターコンボイは手にしたオメガを振るった。今度は横薙ぎに一閃。刃は跳躍してかわしたジュンイチの真下を駆け抜け、放たれた余波がジュンイチの後方の壁を深々と斬り裂く。
 しかも、それで終わりではない。ジュンイチに向けて立て続けに斬撃を放ちながら、告げる。
「貴様が何か企んでいるのは、もはや疑う余地もない!
 姿を見せたのは好都合だ――ここで洗いざらい吐いてもらうぞ!」
「『オレを叩きのめして』ってか?」
 繰り出される斬撃をかわしながら、ジュンイチも返す――最後に大きく跳躍、マスターコンボイから距離を取り、
「普通、まずは話し合うところから始めないかな?
 平和的な方がいい……なんて奇麗事ほざく気はないけどさ、そっちの方が楽じゃん?」
「貴様はするか?」
「しないよ」
 あっさりとジュンイチは答えた。
「オレもお前さんと同じかな?
 相手の抵抗をひとつ残らず叩きつぶして、生きてきたことを後悔するぐらいじっくりジワジワ締め上げて、知ってること根こそぎ吐かせてやる。
 記憶走査すりゃ一発だけど、疲れるから絶対やんない」
 オレの記憶走査は魔法でもブレイカーの能力でもないから――と付け加え、ジュンイチは息をつき、
「…………でもさ、自分に対してそれやられるとやっぱムカつくワケよ。
 だから、やってほしくないんだよね――っつーかやるな」
「最低な人間の言い分だな」
「最低な人間ですから♪」
「貴様が師匠で、なぜナカジマ姉妹や泉こなたが正反対のクリーンファイターに育ったのかがイマイチ理解できん」
「反面教師になるよう仕込んだからな」
 相変わらずの軽口でマスターコンボイに答えると、ジュンイチは不意にかまえを解き、
「でもまぁ……いきなり襲ってきてくれて、今回は助かったかな?
 オレの今回の目的上、手っ取り早く戦いに持ち込みたかったし」
「何…………?」
「いやね、今回の用事のためには、ちょっとお前さんとバトんなきゃならんのよ。
 ただ……お前との接触を絶対に第三者にバレないようにしなきゃならん、っていう条件付で。
 だから、前フリも戦闘時間も最小限に済ます――と、そーゆーワケ」
「………………ほぉ」
 ジュンイチのその言葉に、マスターコンボイは思わず眉をひそめた。
「その口ぶりでは、『オレを最小限の時間で倒す』と聞こえるんだがな」
「『聞こえる』?
 バカ言っちゃいけないよ」
 怒りの混じり始めたマスターコンボイに、ジュンイチは不敵な笑みを浮かべて告げた。
「そう聞こえるように言ってんだ――そう聞こえてくれなきゃ困る。
 昔や、最近のアンタならいざ知らず――“今の”アンタが相手なら、オレに負ける要素はひとつもない」
 言って、ジュンイチは懐からそれを取り出した。
 ペンダントとして首から下げられていた、漆黒の宝石――
「…………デバイスか」
「そ。とっておきの新装備♪
 まだ実戦に出すには早いんだけど、お前さんを瞬殺するには、こいつを使うのが一番手っ取り早いから、持ってきた♪」
 つぶやくマスターコンボイに答え――ジュンイチは告げた。
「揺らめけ――」

 

「“蜃気楼”」

 

 瞬間――ジュンイチの周囲に渦が巻き起こった。砂塵のような“何か”がジュンイチを中心に渦を巻き、一気に周囲にばらまかれる!
「な、なんだ……!?」
 そしてそれは、マスターコンボイの視界を一瞬にして覆い尽くした。不意打ちを警戒し、オメガをかまえてマスターコンボイがうめき――
「…………“始める”前にちょっと言っとく」
 舞い散る“何か”の向こうから、ジュンイチの声が聞こえてきた。
「これからオレは、お前の“今まで”を踏みにじる。
 怒ってくれても、恨んでくれてもかまわねぇ――お前を怒らせるためにするんだからな」
「わざわざ断るほどのことでもあるまい。
 日頃からしていることだろう――八神はやて達にしたこと、聞いているぞ」
「いやー、そーなんだけどね。
 お前の“今まで”を考えたら、謝らずにはいられない、っつーか……」
 返すマスターコンボイにジュンイチの声が答える中、視界をふさいでいた“何か”は徐々に晴れていき――
「――――――っ!?」
 そこに現れたジュンイチ――彼の姿を見て、マスターコンボイは言葉を失った。
 服装は先ほどまでの武道着と変わらない――しかし、外見上が同じであるだけで、素材はバリアジャケットのそれへと変わっている。おそらく武道着と同じデザインのバリアジャケットを設定していたのだろう。
 それ以外、外見上ジュンイチの姿にほとんど変化はない――左腕にガントレットのようなものが、そして腰に何かポーチのようなものを下げたベルトが追加されたくらいだ。
 そして、マスターコンボイを言葉を失うほど驚かせたのは、彼が手にしている“モノ”だった。
 今までの流れからすれば、それこそが彼の言う“蜃気楼”とかいうデバイスなのだろうが――
「あぁ、それからもうひとつ」
 しかし、そんなマスターコンボイにかまわず、ジュンイチは手にしたそれを肩に担ぎ、
「“コイツ”のカラーリングについての文句は一切受け付けないからな。
 オリジナルのカラーリングは、オレの好みじゃなかったんでな」
 何でもないように告げるジュンイチの言葉を聞きながら、マスターコンボイは納得していた。
 どうして、ジュンイチが先ほどの前置きで「お前の“今まで”を踏みにじる」という言い回しをしたのか。
 なぜなら、それはかつて自分の“道”を変えた、自分の今までの生涯の中でもっとも大きな割合を占める“彼女”――そんな“彼女”の半身とも言える“相棒”の姿、そのものだったのだから。
 呆然と、その姿を言い表すのに適切すぎる言葉をつぶやく。
「黒い……」

 

 

 

 

 

 

「レイジングハートだと……!?」

 

 

 

 

 そして時間はスバルとの対面に戻る――

 

 

 ――どころか思い切りすっ飛ばし、数日後――

 

「おぉぉぉぉぉっ!」
「わっ!? ととっ!? とぉっ!?」
 機動六課、訓練場。フィールド設定は旧市街――ヒューマンフォームのまま、マスターコンボイが怒涛の勢いで繰り出すオメガを、アスカは手にしたレッコウで次々に受けていく。
 だが――止めきれない。直撃こそ許さないが、小柄なヒューマンフォームの体格をまったくものともしていないそのパワー、その気迫が、アスカを一気に追い込んでいく。
「っ、のぉっ!
 イスルギ!」
〈Yes,ser!〉
 これにはさすがのアスカも本気で返すしかなかった。自分のもうひとつの相棒、イスルギを起動。彼女の頭上に出現したカメ型の支援メカが結界を展開し、マスターコンボイの刃を阻む。
 そして――イスルギが分離、アスカの身体に鎧として装着され完全稼動状態へ。すかさずアスカは両肩の甲羅上のプレート群を分離させ、
「シールドビット! 防御ついでにぶん殴っちゃいなさい!」
 アスカの指示でシールドビットが一斉に飛翔。マスターコンボイの前に立ちふさがるが――
「ジャマだ!」
 マスターコンボイはそれらを片っ端から打ち返した。弾き飛ばされたそれらは廃ビルや地面に突き刺さるように叩き込まれ、動きを封じられてしまう。
「何よ何よ!?
 ここんトコ、ムチャクチャ気合入ってない!?」
「こっちにも、いろいろと思うところがあってな!」
 うめくアスカに言い返し、マスターコンボイは大きく身をひるがえし、
「そういうワケで――せいぜいあがいて、練習台になってもらおうか!」
「じ、冗談じゃないわよ!」
 遠心力も加えた強烈な斬撃を放つマスターコンボイに言い返し、アスカは地面を転がってその斬撃をかわし、
「イスルギ! シールドビット!」
 身にまとうイスルギに命じてシールドビットを呼び戻した。一ヶ所に集中させ、集中的に発生させた防壁がマスターコンボイの斬撃を受け止める!
 

「マスターコンボイさん、気合入ってるなー……」
 そんな二人の模擬戦の様子を、他の面々は待機スペースで見学していた。アスカのイスルギが展開した機動六課最硬を誇る防壁に向けて怒涛の斬撃を叩きつけるマスターコンボイの姿に、なのはは思わず感嘆の声を上げた。
「なんつーか……ここんトコのアイツ、すげぇやる気だよな。
 模擬戦だけとはいえ、きちんと訓練に顔出しやがるし」
「そうだね。
 何があったのかは知らないけど、これで少しはみんなと連携しやすくなってくれればいいんだけど……」
 つぶやくヴィータに答え、なのははマスターコンボイへと期待に満ちた視線を向けて――
(マスターコンボイさん……)
 その一方で、スバルの向ける視線は不安げなものだった。
 原因は――言うまでもない。
 先日の、傷ついて戻ってきたマスターコンボイを出迎えたあの夜の出来事だ。

 

「じ、自動ドア、って……そんなひどいケガしておいて、何言ってるんですか!」
 足取りはしっかりしているものの全身傷だらけ、血まみれ同然の姿のマスターコンボイのヘタなごまかしに対し、スバルは思わず声を上げた。
「早く手当てしなきゃ!
 フォートレス教授がいてくれてよかったよ!」
 ともかく、一刻も早く手当てしなければ――言って、マスターコンボイの手をとるスバルだったが、
「必要ない」
 言って、マスターコンボイはスバルの手をあっさりと振り払った。
「自己診断プログラムを走らせて、すでに状態は把握している。
 中枢部にダメージはなし。この程度なら自室に備え付けの再生カプセルで十分だ」
「で、でも……」
 なおもしぶるスバルだったが、マスターコンボイはそんな彼女にかまわず宿舎へと向かい、
「…………スバル・ナカジマ」
 不意に振り向き、スバルへと告げた。
「このことは……誰にも言うな」

 

(一体、あの晩何があったんだろう……)
 聞いたところで、きっとマスターコンボイは答えてくれまい――そのことに一抹の寂しさを感じ、スバルはアスカと対峙するマスターコンボイへと視線を向けた。
 頑強なイスルギの防壁を破るのは難しいと判断し、マスターコンボイはハウンドシューターを全方位にばらまき、全方位から強襲をかけている。
 防御を突破するスキを見出せそうとしているのだが、ダテに“防御しかできない”デバイスとして生まれたワケではない。イスルギは自分達の周囲を防壁でガッチリと固め、飛来する魔力弾の嵐をものともしていない。
(なんで……話してくれないんだろう……
 あたし達……そんな頼りないのかな……?)
 相手が相手だけに“そういう可能性”がある、ということが冗談ではすまない――抑えきれない不安を抱き、スバルは自らも気づかぬうちに胸の前で拳を握り締めていた。
 どうすればいいか、しばし目を閉じて思考をめぐらせ――
「………………よし」
 決意を固め、静かにうなずいた。
 

「じゃあ、午前の訓練はここまで。
 お昼休みにしようか」
『ありがとうございました!』
 千日手となりつつあった模擬戦は「みんなの訓練の時間までつぶすつもりか」と乱入したヴィータによって強制終了。その後も一通り訓練をこなし、締めくくるなのはに、スバル達やジェットガンナー達は声をそろえて元気にそう答える。
「午後からはみんなは108部隊に出向研修だから、それまでは各自待機、ってことで」
『はい!』
 なのはの言葉に一同が答え、とりあえずその場は解散となり――
「マスターコンボイさん!」
 ひとりだけ勝手に隊舎に戻ろうとしていたマスターコンボイの手をつかみ、スバルが彼を制止した。
「…………何だ?」
「ひとりで行こうとしてたでしょ?」
 怪訝な顔をして尋ねるマスターコンボイに、スバルはあっさりとそう答える。
「ひとりでご飯食べてもつまらないでしょ?
 いつもみたいにみんなで食べよ。ね?」
「断る。
 そういう気分じゃn――」
「いいからいいから♪」
「って、おいっ! 話を聞け!」
 声を上げるマスターコンボイだが、ヒューマンフォームの子供の身体では大した抵抗もできず、スバルはかまわずマスターコンボイの手を引いていく――表立って抵抗するワケにもいかず、マスターコンボイは念話でスバルに抗議の声を上げる。
《おい……貴様、どういうつもりだ!?》
《どうって?》
《いきなり人を捕まえて、何がしたいんだ!?
 アレか!? この間の晩のことを話さないオレへの嫌がらせか!?》
《あ、やっぱり何かあったんだ♪
 『何もなかった』なんて言ってたのにねー♪》
《………………》
 思わぬ形でボロが出た――鬼の首を取ったかのように勝ち誇るスバルに対し、マスターコンボイは思わず顔をしかめるが、
《でも……いいよ、話さなくて》
《………………何?》
 てっきり、そのまま怒涛の追求が始まると思っていた――あっさりと矛を収めたスバルに対し、マスターコンボイは先ほどとは違った意味で眉をひそめた。
《マスターコンボイさん、ガンコだもん。
 『話さない』って決めたら、絶対話してくれない……でしょ?》
《………………》
《だから……決めたの。
 今は話してくれる気がなくても……いつか、話してくれる気になってもらおうって。
 話してもらえるように……信じてもらえるくらい、仲良くなろうって》
 マスターコンボイに答え、スバルはつないだ彼の手をしっかりと握りしめた。
 念話ではなく――肉声で告げる。
「あたし……しつこいからね?
 たぶん、マスターコンボイさんにも負けないくらい」
「…………好きにしろ」
 ハッキリと告げるスバルに答え――マスターコンボイは「厄介なことになった」とばかりにため息をついてみせた。
 

 そんなやり取りが二人の間であったことに、幸いなのは達は気づいていない――彼女達と共に、スバルとマスターコンボイは食事にしようと宿舎へと戻ってきた。
 と――
「ママ!」
 そんな彼女達の姿を見つけ、元気な声と共に駆けてきたのはヴィヴィオだ。どうやら来客用のエントランスホールでビデオを見ながらなのはを待っていたらしい。
「もうお昼休み?」
「うん。
 一緒にお昼を食べようねー♪」
 尋ねるヴィヴィオになのはが笑顔で答えると、
「どれどれ……? ヴィヴィオは何を見てなのはママを待ってたのかなー?」
 一方、ヴィヴィオの見ていたビデオに興味を示したのはアスカだ。ヴィヴィオが開きっぱなしにしていたウィンドウをのぞき込むと、
〈このように、空戦機動においては――〉
「あれ?
 これ……なのはちゃん?」
「え…………?」
 つぶやくアスカの声になのはが映像をのぞき込むと、そこには確かにバリアジャケットのなのはの姿があった。
 続く映像にはフェイトの姿も――以前教材のひとつとして製作した映像テキストである。
「そっか……ママ達のビデオを見てたんだ……」
「なのはママもフェイトママも、カッコイイもんねー♪」
「うん!」
 エリオやキャロの言葉に笑顔でうなずくと、ヴィヴィオは自分を抱き上げてくれたなのはに尋ねた。
「ねぇねぇ、なのはママ」
「ん?」
「なのはママとフェイトママ、どっちが強いの?」
「うーん……どうだろ。
 魔導師としてはフェイトママの方が先輩だけど……比べたりしないからわかんないかな」
「そっか……」
 答えるなのはの言葉に、ヴィヴィオは納得してつぶやく――しかし、今しがたヴィヴィオの放った一言に、スバル達は思わず顔を見合わせた。
 すなわち――

 

 ――なのはさんとフェイトさん どっちが強いの?――

 

「やっぱなのはさんじゃない?
 航空戦技教導隊の教導官で、負傷ブランクがあったとはいえ10年飛び続けた歴戦の勇士なんだし」
「“エースオブエース”の二つ名はダテじゃないだろうしね」
「でも、フェイトさんだって事件の現場に向かい続けて、手荒な現場でも陣頭に立って解決してきた一線級の魔導師ですよ!」
「空戦ランクはなのはさんもフェイトさんも同じS+ですし、ジャックプライムさんとのコンビネーションだってあります!」
「きゅくるー!」
 その疑問に対しそれぞれの意見を持ち寄ってみれば、やはりそれぞれがそれぞれの“恩師”を推す展開――なのはを推し、スバルとティアナが主張すれば、負けじとエリオとキャロ、フリードもフェイトを推してくる。
「ふむふむ……
 つまり、どっちも“上だ”って主張するに足るものはある、と……」
 そして、両者の意見を取りまとめるのはどちらの味方でもないアスカである。
「いやー、なのはちゃんもフェイトちゃんも愛されてるねー。
 当人としてはそこんトコどう?」
「え、えっと……」
 ほめられて悪い気はしないが、目の前でここまで持ち上げられては――尋ねるアスカに対し、ヴィヴィオを抱いたなのはは少々顔を赤くしながらそう答える。
「そう言うアスカさん的にはどうなんですか?」
「ってねぇ、今の会話の流れでそういうこと聞く?」
 尋ねるエリオだったが、アスカは苦笑まじりに肩をすくめ、
「みんながみんな自分トコの隊長を持ち上げるんなら、あたしだって同じことするに決まってるでしょ?」
「つまり……第三勢力でアリシアさん台頭、ですか?」
「そゆコト」
 聞き返すスバルにうなずき、アスカはクルリと振り返り、
「でも……」
 不意につぶやいたのはティアナだった。
「そうやって考えると……六課で一番強いのって誰なのかしらね?
 八神部隊長や副隊長達もかなりのもんなんだし」
『あー…………』
 そのティアナの言葉に、スバル達が思わず声を上げると、
「そういうことなら、オレはヴィータ副隊長とビクトリーレオだな。
 あの打撃力はまさに一級品だぜ」
《勉強になるよねー》
「いやいや、やはりシグナム副隊長とスターセイバー殿でござろう。
 あの剣技は実にほれぼれするでござる」
 さっそく副隊長達を挙げるのは同じ打撃系、剣術系のロードナックル兄弟とシャープエッジだ。
「私は八神部隊長とビッグコンボイ副隊長か。
 執務官を目指す相棒を持つ者としては、特別捜査官である彼女達を推したいところだ」
「魔導師としても、二人とも優秀だしね。
 遠くからドカーンッ!って、めんどくさくなくていいよねー♪」
 ジェットガンナーの言葉に、アイゼンアンカーも(あまりほめられたものじゃない理由で)同意して――
「…………くだらんな」
 そう言い放ったのはマスターコンボイだ。スバルが抜け目なく目を光らせているためこっそり抜け出すこともできず、憮然として控えていたそのままの姿勢で告げる。
「貴様ら……肝心なことを忘れてはいないか?」
「肝心なこと……?」
 思わず疑問の声を上げるのは、兄に代わって“表”に出てきたロードナックル・シロだ――対し、マスターコンボイは不敵な笑みを浮かべ、自信タップリに胸を張って言い放つ。
「このオレがいるだろうが! このオレが!
 10年前、なのはを半殺しにしたのはダテではないぞ!」
「は、半殺し、って……」
 いくら“抱えているもの”があろうと、こういう話題を前にしてはやはり戦士としての血がうずくのか、拳を握りしめて力説するマスターコンボイに、なのはは思わず苦笑して――
 

「スバル達とゴッドオンしなきゃ全力出せないのに?」
 

「ぐぅっ!?」
 瞬間、スバル達はグサァッ!という擬音を聞いたような気がした――アスカが放った、痛いところをついたその言葉は、言葉のナイフ、どころかザンバー並の大剣となってマスターコンボイの心を豪快にえぐり抜いてくれた。
「ブランクフォームじゃ、本来のパワーの5割程度が平均。7割も出せればいいトコじゃない。
 それで『最強』って言われてもねぇ」
「貴様……! 人が気にしていることを……!」
 やれやれとばかりに肩をすくめ、告げるアスカにマスターコンボイがうめき――
「………………?」
 その言葉に、ヴィヴィオは不思議そうに首をかしげた。なのはとマスターコンボイを交互に見て、尋ねる。
「ねぇ、なのはママ。
 マスターコンボイ……スバルねぇ達と何するの?」
「あぁ、ヴィヴィオは知らなかったんだよね」
 そういえばヴィヴィオはマスターコンボイのゴッドオンのことを知らない――そのことを思い出したなのはがつぶやくと、アスカがヴィヴィオの前にしゃがみ込み、ピッ、と人差し指を立てて説明する。
「あのね、ヴィヴィオ。
 マスターコンボイってね、スバル達と合体して、いろんな力が出せるんだよ」
「『合体』と言うな。意味が変わってくる。
 強いて言うなら『融合』だろうが」
 マスターコンボイが細かいところまでツッコんでくるが――とりあえずは気にしない。アスカは笑顔でうなずくとなのはへと向き直り、
「ねぇ、なのはちゃん……」
「うん」
 アスカの言いたいことはなんとなく察しがついた。うなずくと、なのははスバル達に対して告げる。
「ちょうどいいし……ここでちょっとおさらい、いってみようか。
 4人とも。自分達のゴッドオンのことを、自分達の解釈でヴィヴィオに説明してみよう」
「い、今すぐですか?」
「そう」
 いきなりすぎるなのはの提案に思わず声を上げるスバルだったが、なのははあっさりとうなずいてみせる。
「自分達の力のことを知っておくのも大事だからね。
 だから、ちゃんと自分の言葉でヴィヴィオに説明することで、自分の中の理解も深めよう、ってこと」
「そういうこと♪
 じゃあ……誰からいく?」
 告げるなのはのとなりで、アスカもどこか楽しげにスバル達に告げ――
「…………え、えっと……」
 気まずい空気の中、手を上げたのはキャロだった。
「じゃあ、まずはわたしから……」
 言って――キャロは目の前にウィンドウを展開。ヴィヴィオに戦闘記録の中の自分やマスターコンボイの姿を映し出した。
 自分達が初めてゴッドオンした、海鳴への出張任務の時の映像である。

『ゴッド――オン!』
 その瞬間――キャロの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてキャロの姿を形作り――そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
 同時、マスターコンボイの意識が身体の奥底へともぐり込んだ。代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化したキャロの意識だ。
〈Water form!〉
 トランステクターのメインシステムが告げ、マスターメガトロンのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのように桃色に変化していく。
 そして――マスターコンボイの手の中で、オメガが握りを長く伸ばし、ランサーモードへとその形を変えるとさらに変形、両刃の刃が峰を境に二つに分かれると、刃を内側に向けるようにそれぞれの刃が回転、ワンドモードへと変形する。
 大剣から魔杖へと姿を変えたオメガをかまえ、ひとつとなったキャロとマスターコンボイ、二人が高らかに名乗りを挙げる。

《双つの絆をひとつに重ね!》
「みんなを守る優しき水面みなも!」

「《マスターコンボイ――Stand by Ready!》」

「わたしと兄さんがゴッドオンして変身するのが、この“ウォーターフォーム”。
 “水”の属性を持っていて、ワンドモードになった兄さんのオメガで、水を自在に操って戦える――距離を取っての戦いが得意な形態なんだよ」
「うん。
 フルバックのキャロらしい能力だよね」
「さすがは姫!
 それでこそ拙者が君主と定めた御方でござる!」
 映像の中では、キャロのゴッドオンしたマスターコンボイが水竜巻を操り、エルファオルファを打ちのめしている――ヴィヴィオに説明するキャロの言葉に笑顔で同意するのは、コンビパートナーであるエリオとシャープエッジである。
「しかも! ゴッドオンしたマスターコンボイとキャロちゃん達には、カッコイイ必殺技もあるんだよー♪
 ちなみにキャロちゃんの場合は――」
 そして、アスカもまた、そう言いながら映像を切り換えて――キャロとマスターコンボイがエルファオルファに必殺技を繰り出す光景が映し出された。

「《フォースチップ、イグニッション!》」
 マスターコンボイとキャロ、二人の叫びが交錯し――セイバートロン星のフォースチップが飛来した。そのまま、マスターコンボイのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
 それに伴い、マスターコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
 そう告げるのはマスターコンボイのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
 Final break Stand by Ready!〉

 再び制御OSが告げる中、キャロはワンドモードのオメガをかまえ、
「いっけぇっ!」
 それを振るうと同時、エルファオルファの周囲に巨大な水竜巻が発生、その動きを封じ込める。
 さらに、キャロはそんなエルファオルファの頭上にも水を集結させた。水竜巻とは別に巨大な水の塊を作り出し――
《凍てつけ!》
〈Icebarg!〉
 マスターコンボイの指示でオメガが凍結魔法を発動、水の塊を巨大な氷塊へと作り変える!
 そして、マスターコンボイとキャロはオメガを振り上げ――
「氷結――」
《圧砕!》

「《アイスバーグ、プレッシャー!》」

 振り下ろすと同時、氷塊はものすごい勢いでエルファオルファに向けて落下し――水竜巻で身動きの取れないその身体を押しつぶす!
 そして、マスターコンボイはクルリときびすをかえし、
「《成、敗!》」
 その宣告を合図に、背後の氷塊が砕け散り――そこには、氷塊の重量で四肢を完全に粉砕されたエルファオルファが息も絶え絶えといった状態で残されていた。

「これがキャロちゃんの必殺技――“水”の力で作った氷の塊を相手に向けて落っことす“アイスバーグプレッシャー”!
 スゴイでしょ?」
「うん! スゴイー♪」
 もはやキャロ本人はそっちのけ。笑顔で自分の“妹”分を自慢するアスカに、ヴィヴィオも笑顔でそう答える。
「えっと……私と兄さんのゴッドオンは、こんな感じかな?」
「じゃあ、次はやっぱり、コンビパートナーのボクかな?
 形態と、特性と……必殺技の説明か。うん」
 そして、説明を締めくくったキャロが下がり、代わりに出てきたのはエリオだった。今のキャロの説明を振り返り、手順を確認してうなずくと、ヴィヴィオの前に自分達の戦闘記録の映像を表示した。

『ゴッド――オン!』
 その瞬間――エリオの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてエリオの姿を形作り――そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
 同時、マスターコンボイの意識が身体の奥底へともぐり込んだ。代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化したエリオの意識だ。
〈Thunder form!〉
 トランステクターのメインシステムが告げ、マスターメガトロンのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのように金色に変化していく。
 そして――マスターコンボイの手の中で、オメガが握りを長く伸ばし、ランサーモードへとその形を変える。
 大剣から槍へと姿を変えたオメガをかまえ、ひとつとなったエリオとマスターコンボイ、二人が高らかに名乗りを挙げる。

《双つの絆をひとつに重ね!》
「みんなを守って突き進む!」

「《マスターコンボイ――Stand by Ready!》」

「これがボクとマスターコンボイ兄さんのゴッドオン、“サンダーフォーム”。
 “雷”の属性を持っててね――ボクの電気資質を攻撃に上乗せできる、クロスレンジ用の形態だよ」
「オメガは槍型のランサーフォームに変形するんだ。
 まだ実戦では試したことないけど、ボクのアンカーロッドと合わせてコンビ組んだら、楽しそうだよねー♪」
 映像の舞台は山岳地帯を疾走するリニアレールの上――初出動の時の映像だ。自分達がバリケードを叩き伏せる光景をバックに、エリオとアイゼンアンカーがヴィヴィオに説明する。
「で、必殺技が――」

「《フォースチップ、イグニッション!》」
 エリオとマスターコンボイの咆哮が交錯し――二人のもとにセイバートロン星のフォースチップが飛来した。そのまま、マスターコンボイのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
 それに伴い、マスターコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
 二人に告げるのはトランステクターのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
 Final break Stand by Ready!〉

 強烈なエネルギーが周囲で渦巻く中、制御OSが告げる――そのまま、マスターコンボイはオメガを振りかぶり、
「どっ、せぇいっ!」
 投げつけた。一直線に飛翔したオメガは、V型(大)の展開したAMFの防壁も難なく突破。その装甲に深々と突き立てられる。
 しかし、まだマスターコンボイとエリオの攻撃は終わらない。腰を落とし、身がまえた二人の目の前に自分達がくぐれそうなほどに大きな環状魔法陣が展開される。
 そして、右腕の“アクセルギア”が高速回転、発生したエネルギー光となってが拳を包んでいく。
 そのまま拳をかまえ、突撃。環状魔法陣へと飛び込み――発射台としての役割を与えられていた魔法陣が彼らを打ち出した。さらに背中のバーニアで加速し、マスターコンボイとエリオは一直線にオメガを突き立てられたV型(大)へと襲いかかり、
「我が敵を討て――炎の刃!」
《すべてを貫け――雷の刃!》

「《サンダー、フレア!》」

 右腕をオメガの石突に叩きつけた。拳を通じて叩き込まれた新たな魔力を起爆剤とし、オメガの刃に宿っていた魔力エネルギーが炸裂、強大な魔力の奔流となってV型(大)の内部で荒れ狂い、爆裂する!
 内部から炎を吹き出し、大型ガジェットはゆっくりとリニアレールの屋根の上へと崩れ落ち――
《撃破――》
「確認!」

 エリオとマスターコンボイの言葉と同時、巻き起こる大爆発――周囲でくすぶっていた残留エネルギーが大爆発を起こし、ガジェットV型(大)は内部から爆発、四散した。

「フォースチップで強化したボクの雷撃を込めたオメガを投げつけてまず一撃。
 そこにもう一回打撃を打ち込んで、その衝撃でオメガに込めた魔力を爆発させて、相手を内側から吹き飛ばす“サンダーフレア”」
「先の一撃は、相手の動きを止めるホールドの役目も果たしてるね。
 武器を投げたり思いっきり突撃したりと豪快に見える技だけど、ちゃんと考えられてるからスゴイよねー」
 映像の中では、対TFV型のガジェットが内部からあふれ出した雷光に機体を食い破られている――説明するエリオに、アスカは次の説明に備え、資料になりそうなデータを用意しながらそう答える。
「じゃサクサクいくよー。
 次は……ティアちゃん、いってみようか!」
「はい!」

『ゴッド――オン!』
 その瞬間――ティアナの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてティアナの姿を形作り――そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
 同時、マスターコンボイの意識が身体の奥底へともぐり込んだ。代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化したティアナの意識だ。
〈Earth form!〉
 トランステクターのメインシステムが告げ、マスターメガトロンのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのようにオレンジ色に変化していく。
 そして――マスターコンボイの手の中でオメガが変形を開始。両刃の刃、その峰を境に全体が二つに分離すると、刃と共に二つに分かれた握りが倒れてつば飾りと重なりグリップに変形。二丁拳銃“ツインガンモード”となる。
 大剣から銃へと姿を変えたオメガを両手にかまえ、ひとつとなったティアナとマスターコンボイ、二人が高らかに名乗りを挙げる。

《双つの絆をひとつに重ね!》
「信じる夢を貫き通す!」

「《マスターコンボイ――Stand by Ready!》」

「あたしの“アースフォーム”は“地”属性を持つロングレンジ戦用の形態。
 走る能力が大きく強化されてて……まぁ、要は速く走れるってこと。その能力で素早く攻撃しやすい場所に移動して……」
「ツインガンモードのオメガを使い、マグマを思わせる強烈な火力で一撃、というのが理想的な攻撃パターンだな。
 飛べないために対空戦はどうしても苦手ではあるが、地上での戦闘に関してはスピードと火力を併せ持つ、バランスの取れた形態だ」
「走るの速いの?」
 説明するティアナとジェットガンナーだったが、その言葉にヴィヴィオはかわいらしい仕草で首をかしげた。映像の中のマスターコンボイ・アースフォーム――アグスタでカイザーコンボイと激突する光景を見て、
「でも……走ってないよ?」
「あー、そうね……」
 映像の中で、自分達は足を止めての射撃に終始している――ヴィヴィオの言葉にうなずき、ティアナは思わず苦笑する。
「この形態には、ひとつだけ問題があるの。
 とにかくパワーが大きすぎてね――それも、あたし達自身が耐え切れないくらい。
 だから、走り回っていい場所を探してるヒマがあったら、とにかく撃ちまくって力を使わないと、あっと言う間に自分の力でパンクしちゃうのよ」
「そういえば……アスカちゃん。
 アースフォームの魔力暴走の原因、まだわかんないんだよね?」
「うん……
 知ってそうな人には相談してみたんだけど……イマイチ」
 ティアナの説明にそのことを思い出し、尋ねるなのはに対し、アスカは苦笑まじりに肩をすくめてみせるが――
(ただ……あの時、どうも渋い顔してたんだよねー……)
 “相談した相手”とはもちろんジュンイチのこと――その時、自分から相談を受けたジュンイチが思い切りイヤそうな顔をしていたことを思い出し、アスカは内心で眉をひそめる。
(間違いなく、何か知ってる感じだったね……
 まったく、あたしにくらいは話してくれても……)
 “他ならぬ自分”にも話さないとは、水臭いにもほどがある――軽くため息をつくが、なのは達に自分達のことを気取られるのはマズイ。すぐに気を取り直し、アスカは映像を切り換え、
「で……ティアちゃんとマスターコンボイが使う必殺技。
 もちろん砲撃型の必殺技で――」

「《フォースチップ、イグニッション!》」
 マスターコンボイとティアナ、二人の叫びが交錯し――セイバートロン星のフォースチップが飛来した。そのまま、マスターコンボイのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
 それに伴い、マスターコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
 そう告げるのはマスターコンボイのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
 Final break Stand by Ready!〉

 再び制御OSが告げる中、ティアナはマスターコンボイが空中に生み出したフローターフィールドの上に飛び乗った。マスターコンボイの制御でフローターフィールドが上昇する中ツインガンモードのオメガをかまえ――その正面に作り出した魔力弾が見る見るうちに巨大化していく。
 そして、ティアナはスカイクェイクへとオメガの銃口を向け――
「一発――」
《必倒ぉっ!》

「《カタストロフ、シュート!》」

 放たれた巨大魔力弾が、スカイクェイクに向けて撃ち出される!
 そして――
「《……皆、中》」
 ティアナとマスターコンボイが告げ――魔力弾が直撃、大爆発を起こした。

「シンプル・イズ・ザ・ベスト――バカでっかい魔力を力任せにぶっ放す“カタストロフシュート”。
 当然、破壊力だけで言えば全フォーム中最大火力――“カタストロフ”とはよく言ったもんよ」
「というか……このくらいの攻撃でも撃って魔力を減らさないと、魔力負荷でトンデモナイことになっちゃうのよねー……」
「実際、一度兄さんが倒れちゃったこともあったし……」
 アスカやティアナの説明にキャロがつぶやき――全員の視線が黙ってことの成り行きを見守っていた(「会話に置いてかれていた」とも言う)マスターコンボイに集まる。
「……マスターコンボイ……大丈夫だったの?」
「大丈夫だったから、今こうしてここにいられる」
 心配そうに尋ねてくるヴィヴィオに、マスターコンボイはあっさりとそう答え――
「だよねー♪
 マスターコンボイさん、とっても強いんだから♪」
「こ、こら!」
 そんなマスターコンボイに、スバルが後ろから抱きついてきた。驚き、声を上げるマスターコンボイだが、かまわずヴィヴィオに告げる。
「マスターコンボイさんと一番ゴッドオンしてるあたしが言うんだから大丈夫!
 だから心配しないで。ね?」
「うん!」
 告げるスバルに、ヴィヴィオも笑顔でうなずいてみせた。満足げにうなずくと、スバルはアスカに目配せし、それを受けたアスカは彼女の意図に従って映像を切り替える。
 そして表示された映像は二つ。
 ひとつはスバルとマスターコンボイ――そしてもうひとつはギンガとマスターコンボイの映像だ。
「実は、あたしのお姉ちゃん、ギン姉もマスターコンボイさんとゴッドオンできるんだけど、午後からの出向準備でいないからね。
 属性もそっくりなあたしが、一緒に説明しちゃうね♪」

『ゴッド――オン!』
 その瞬間――スバルの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてスバルの姿を形作り――そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
 同時、マスターコンボイの意識が身体の奥底へともぐり込んだ。代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化したスバルの意識だ。
〈Wind form!〉
 トランステクターのメインシステムが告げ、マスターメガトロンのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのように空色に変化していく。
 それに伴い、オメガが分離――巨大な両刃の剣が真ん中から別れ、両腕の甲に合体。両腕と一体化した可動式のブレードとなる。
 両腕に装着されたオメガをかまえ、ひとつとなったスバルとマスターコンボイ、二人が高らかに名乗りを挙げる。

《双つの絆をひとつに重ね!》
「勇気の魔法でみんなを守る!」

「《マスターコンボイ――Stand by Ready!》」

『ゴッド――オン!』
 その瞬間――ギンガの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてギンガの姿を形作り――そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
 同時、マスターコンボイの意識が身体の奥底へともぐり込んだ。代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化したギンガの意識だ。
〈Storm form!〉
 トランステクターのメインシステムが告げ、マスターメガトロンのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのように藍色に変化していく。
 それに伴い、オメガが分離――巨大な両刃の剣が真ん中から別れ、両腕の甲に合体。両腕と一体化した可動式のブレードとなる。
 両腕に装着されたオメガをかまえ、ひとつとなったギンガとマスターコンボイ、二人が高らかに名乗りを挙げる。

《双つの絆をひとつに重ね!》
「想いの魔法を拳に込めて!」

「《マスターコンボイ――Stand by Ready!》」

「これがあたしやギン姉がゴッドオンした姿――“風”属性の“ウィンドフォーム”と“ストームフォーム”!
 どっちも突撃戦用の形態でね、あたしがダッシュ力に、ギン姉が小回りに特化してるんだよ」
「でもって、相手の懐に飛び込んだらアームブレードモードのオメガでボコ殴り、ってワケだ」
《ショートレンジからクロスレンジの間合いでの殴り合いが得意なフォームだね》
 二つのウィンドウに映るのは空色と藍色、似て非なる二つのカラーに彩られたマスターコンボイの姿――マスターコンボイを捕獲したまま説明するスバルに対し、ロードナックル・クロとシロがそう補足する。
「二人とも姉妹で、属性も同じ。その上シューティングアーツ使いって点まで一緒だもの。やっぱりゴッドオンしてからの戦い方も似通ってくるみたいなのよねー」
 そして、そう続けるのはアスカだ。手早くデータを読み出し、次の映像を表示する。
「で、そんなワケだから二人の必殺技も似通ってて――」

「《フォースチップ、イグニッション!》」
 スバルとマスターコンボイの咆哮が交錯し――二人のもとにセイバートロン星のフォースチップが飛来した。そのまま、マスターコンボイのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
 それに伴い、マスターコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
 二人に告げるのはトランステクターのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
 Final break Stand by Ready!〉

 強烈なエネルギーが周囲で渦巻く中、制御OSが告げる――身がまえた二人の目の前に環状魔法陣が展開され、その中央、そして同時に右拳にも魔力スフィアが形成される。
 そして、右腕のエネルギー加速リング“アクセルギア”が装着されたオメガのブレードもろとも高速回転、発生したエネルギーが右拳のスフィアにまとわりつき、その周囲で渦を巻いていく。
 そして、スバルは右拳を大きく振りかぶり――
《猛撃――》
「必倒ぉっ!」

「《ディバイン、テンペスト!》」

 右拳を環状魔法陣中央のスフィアに叩きつけた。二つのスフィアの魔力エネルギーが炸裂、強大な魔力の奔流となってブラックアウトに襲いかかり――爆裂する!
 爆煙の中、ブラックアウトはゆっくりと大地へと崩れ落ち――
「二人の拳に――」
《撃ち砕けぬものなし!》

「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
 スバルとマスターコンボイの言葉と同時、絶叫と共に巻き起こる大爆発――周囲でくすぶっていた残留エネルギーが大爆発を起こし、ブラックアウトは天高く吹き飛ばされていった。

「《フォースチップ、イグニッション!》」
 ギンガとマスターコンボイの咆哮が交錯し――二人のもとにセイバートロン星のフォースチップが飛来した。そのまま、マスターコンボイのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
 それに伴い、マスターコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
 二人に告げるのはトランステクターのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
 Final break Stand by Ready!〉

 強烈なエネルギーが周囲で渦巻く中、制御OSが告げる――身がまえた二人の目の前に環状魔法陣が展開され、その中央、そして同時に左拳にも魔力スフィアが形成される。
 そして、左腕のエネルギー加速リング“アクセルギア”が装着されたオメガのブレードもろとも高速回転、発生したエネルギーが左拳のスフィアにまとわりつき、その周囲で渦を巻いていく。
 しかも、それで終わりではない。アクセルギアによって高められた魔力がその渦に加わり、より強烈な熱量を伴った光の渦へと変質していく。
 そして、ギンガは左拳を大きく振りかぶり――
《爆熱――》
「必倒ぉっ!」

「《カラミティ、テンペスト!》」

 左拳を環状魔法陣中央のスフィアに叩きつけた。二つのスフィアの魔力エネルギーが炸裂、強大な魔力の奔流となってブラックアウトに襲いかかり――爆裂する!
 爆煙の中、ブラックアウトはゆっくりと大地へと崩れ落ち――
「鉄拳――」
《制裁!》

「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
 ギンガとマスターコンボイの言葉と同時、絶叫と共に巻き起こる大爆発――周囲でくすぶっていた残留エネルギーが大爆発を起こし、ブラックアウトは天高く吹き飛ばされていった。

「スバル版ディバインバスターをベースにした近距離魔力砲撃。
 まぁ……どうしてもスキが大きくなっちゃうし、相手を確実に撃墜させるためのトドメ技。言葉そのままの意味での必殺技だね」
「というか……今の映像、どっちもやられたのはブラックアウトだったような……」
「ホント、あの姉妹にはロクな目にあわされてないわね、アイツも……」
 説明するアスカだが――よりによって同じ相手がブチのめされる映像が続いたのはツッコみどころ満載だ。アスカの背後で、エリオとティアナが思わず苦笑する。
「とまぁ……これでスバル達のゴッドオン、全部のフォームの説明はおしまい。
 ヴィヴィオ、わかったかな?」
「うん!
 でも……」
 告げるアスカの言葉にうなずくが――ヴィヴィオには、今の話とは別に気になるところがあった。アスカの顔を見返し、尋ねる。
「アスカねぇは?」
「あ、あたし?」
「うん。
 ゴッドオンっていうの……できないの?」
「あー、うん、残念ながら。
 ほら、あたしってゴッドマスターじゃないから」
「ふーん……
 スバルねぇ達はできるのに……仲間はずれみたいで、なんだかかわいそう……」
「うぅ……そう言ってくれるのはヴィヴィオだけだよぉ……
 一度なんか、『歳とってるからゴッドオンできないんだ』なんて言われたこともあったし……けっこう気にしてたんだよぉ……」
 ヴィヴィオの言葉に、アスカは彼女の頭をなでてやりながらそう答え――
「………………」
 その一方で、マスターコンボイは自分の右手に視線を落とした。
 気になるのは、先日の模擬戦でスバルとゴッドオンした時のかすかな異変――
(あの時、魔力光が虹色に変化した……
 あれは一体……?)
「…………おい、スバル・ナカジマ」
「はい?」
 唐突に声をかけられ、自分を捕まえたままのスバルは不思議そうな顔で見下ろしてくる――どうやら何も気づいていない様子のスバルに、マスターコンボイは息をつき、尋ねた。
「貴様……最近、ゴッドオンした際に何かおかしなことはなかったか?」
「おかしなこと……?」
 尋ねるマスターコンボイの言葉に思わず首をかしげ、スバルはしばし考え込み――
「――――ま、まさか!?
 何か危ないことになってるんですか!? 大丈夫なんですか!?」
「えぇい、あわてるな!
 危険だとかそういうことじゃない! だから少しは落ち着け――そしてオレを振り回すのをやめろ!」
 何か危ないことになっているのでは――そんな考えに至ったのか、スバルはあわててマスターコンボイを問い詰めにかかった。自分の肩をつかみ、ガクガクと力いっぱい揺すってくるスバルに、マスターコンボイは懸命の抵抗を試みながらそう答える。
 そんな二人の様子に苦笑すると、アスカはヴィヴィオへと向き直り、
「で、最初の話に戻るけど……マスターコンボイは、今話した5つのフォームを使い分けて戦うタイプの戦士なの。
 だから、スバル達がいないとどうしても全力が出せないの」
「ふーん……」
 アスカの言葉にうなずくと、ヴィヴィオはスバル達を順に見回し――尋ねた。
「じゃあ……」
 

「みんなの中で、誰とゴッドオンしたのが一番強いの?」
 

『………………え?』
 その想いもよらない質問は、スバル達の動きを止めるには十分すぎた。ヴィヴィオの問いに、スバル達は思わず動きを止めた。
「誰と、って……」
「それこそ……さっきのなのはさんとフェイトさんの話みたいに、比べたことなんかないものね……」
 そもそもマスターコンボイとしかゴッドオンできないのだ。力比べもやりようがない――顔を見合わせ、キャロとティアナがつぶやくと、
「そんなもの、姫が一番に決まっているでござろう!」
 困惑した一同の間に割って入り、息巻いて告げるのはシャープエッジである。
「心優しく、されどその心は気高く強く!
 戦闘能力についても、我が盟友フリードがいる――誰がなんと言おうと、姫こそ最高のゴッドマスターでござろう!」
 拳を握りしめ、力説するシャープエッジだったが、
「ちょっとちょっと、何面倒くさいこと言ってるのさ?」
 肩をすくめて口をはさむのはアイゼンアンカーである。
「ウチのエリオが最高に決まってるじゃないか。
 スピードは一級品、打撃力も申し分なし! 加えて電気資質である程度なら範囲攻撃もバッチリ!」
「ほほぉ……言うでござるな」
「ち、ちょっと、二人とも!」
「シャープエッジ、落ち着いて……!」
 自分と同様に自らのパートナーを推すアイゼンアンカーの言葉に、シャープエッジがうめく――にらみ合う二人に、エリオとキャロがあわてて制止に入るが、
「何ほざいてやがる!
 そういうことならスバルとギンガだろうが!」
《拳の勝負はマスターコンボイとも相性バッチリだもんねー♪》
「アースフォームの破壊力を忘れてもらっては困る。
 最強はランスター二等陸士で決まりだろう」
「く、クロ!? シロまで!?」
「ジェットガンナーまで何言い出すの!?」
 さらにロードナックル兄弟やジェットガンナーまでもが乱入した。スバルやティアナが制止に入るが、彼らもまたにらみ合いを始めてしまう。
「なのはママ……」
「もう、しょうがないなー、みんな……」
 まさに一触即発といった様子のトランスデバイス達の姿に、ケンカが始まるのではと思ってしまうのもムリはない――不安げにこちらを見上げるヴィヴィオだったが、なのはは苦笑まじりにつぶやくだけだ。
「大丈夫だよ、ヴィヴィオ。
 みんな、スバル達のことが大好きだから……だから、自分のパートナーが一番じゃなきゃヤだ、って、ちょっと意地張っちゃってるんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。
 他の子達が嫌い、っていうワケじゃないから、きっとすぐに仲直りできるよ♪」
 聞き返すヴィヴィオになのはが答えると、
「貴様ら、いい加減にしろ!」
 彼らのやり取りにいらついてきたか、スバルを振りほどいたマスターコンボイが彼らの間に割って入った。
「黙って聞いていればごちゃごちゃと……!
 『誰が一番か』だと……? そんなもの、決めるのは貴様らではあるまい!」
 貴様らが騒いでも意味がない――告げるマスターコンボイに、ジェットガンナー達は互いに顔を見合わせる。
「……なるほど。
 マスターコンボイの言う通りだな」
「拙者達で決める話ではござらんな、確かに」
「そういうことだ。
 わかったらとっととこんなバカ話――」
 ジェットガンナーとシャープエッジの言葉に、マスターコンボイは満足げにうなずいて――気づいた。
 いつの間にか、自分が4体のトランスデバイスに取り囲まれていることに。
「…………おい、何のつもりだ?」
 自体が飲み込めず、思わず尋ねるマスターコンボイだったが、そんな彼の肩をアイゼンアンカーがつかみ、
「と、ゆーワケで♪
 もう面倒くさいから、マスターコンボイが決めちゃって♪」
「はぁっ!?
 ちょっと待て! なぜそんな話になる!?」
「『なぜ』って……『外野がわめいたって意味がない』っつったのはマスターコンボイだろうが」
《だったら、実際スバル達とゴッドオンするマスターコンボイに、直接決めてもらえばいいよねー♪》
 意外な展開に思わず声を上げるマスターコンボイだったが、ロードナックル・クロやシロがあっさりとそう答える。
「さぁ、決めてもらおうか」
「当然姫でござろうな!?」
「ち、ちょっと待て!」
 ジェットガンナーやシャープエッジにまで詰め寄られ、マスターコンボイは得体の知れないプレッシャーに圧され、思わず一歩後退する。
 今のジェットガンナー達にうかつなことは言えない。打開策を探り、なのは達へと視線を向けるが――
「さーさー、スバル達は108部隊への出向、先行するんだから早く準備しないとね♪」
『はい!』
「みんな、がんばってー♪」
「逃げるなぁぁぁぁぁっ!」
 午後の訓練のために準備を促すなのはにスバル達が答え、ヴィヴィオがエールを送る――巻き込まれてたまるかとばかりにそそくさとその場を後にするなのは達に、マスターコンボイは思わず声を張り上げた。
 

「機動六課のフォワードメンバーは、もうこっちに向かってるみたいだぞ。
 姉としては、妹達の自慢のいい機会かもな」
「そ、そんなことないですよ……」
 その頃、陸士108部隊――六課との出向訓練の打ち合わせを済ませ、通信を終えたカルタスの言葉に、準備のために先行して戻ってきていたギンガは少しばかり照れながらそう答える。
「まぁ、ウチの連中が張り切ってるのは事実だけどな。
 六課が重点的に訓練してる対AMF戦のノウハウを盗むいい機会だし――」
 自分としても訓練が楽しみだ――そんなことを考えながら告げるカルタスだったが、そんな彼らの他愛のないやり取りは、突然のアラートによって中断されることとなった。すぐに気を引きしめ、カルタスは緊急通信に応答する。
「こちらカルタス」
《こちらサードアベニュー警邏けいら隊。近隣の武装捜査員、応答願います。
 E37地下道に、不審な反応を発見しました。
 識別コードは未確認アンノウン――確認処理をお願いします》
 

「ん? 見つかっちゃった?」
「ありまー……」
 一方、問題の地下道――地上の動きをキャッチしてつぶやくセインの言葉に、前回の戦いでは姿を見せなかった新たな“仲間”は気楽な口調でそう答えた。
 セインと同様のボディスーツに身を包んだ、赤い髪を後ろでピョコンとはねさせた、快活そうな感じの少女だ――サーフボードのような専用の装備を脇に抱え、セインに尋ねる。
「どうするっスか? セイン姉」
「今んトコは静観でいいだろ。
 やり過ごせればよし、さもなきゃ……みたいな感じでさ」
 尋ねる少女に答え、セインは息をつき、
「ま、当面はバトらず済めばよし、ってことで。
 特にお前はそのボードも未完成だし、卸したてのトランステクターも、こーゆー場所で使うのを想定したシロモノじゃないだろ?
 つまんないのはわかるけど、飛び出すんじゃないぞ――ウェンディ」
「はーいっス♪」
 

「機動六課が動いたようだな……」
「相手は?」
「例のガジェットが、また出たようだ」
 いつもブリーフィングに使われる、アジトの大広間――聞き返すショックフリートに、ブラックアウトはあっさりとそう答える。
「どうする?
 ゴッドマスターの小娘達が先行しているようだ――捕獲するスキは、十分にあるが」
「しかし、我らは別の作戦行動中だ。
 レッケージ達も全員、すでに現地に向かわせている。そちらに回せるほどの戦力は……」
 尋ねるブラックアウトにショックフリートが答えると、
「…………オレがく」
 静かに口を開いたのはジェノスラッシャーだった。
「機動六課の相手はガジェットなんだろう?
 となれば、当然その背後にいる、例のゴッドマスターどもも……」
「ジェノスラッシャー……
 部下の仇討ちでもするつもりか?」
「当然だ!
 オレの部下は、そのほとんどがヤツらに倒されたんだぞ!」
 ブラックアウトの言葉に、声を荒らげてジェノスラッシャーが言い返すと、
「……仕方ない。
 ここで止めても、止まるようなヤツではないしな」
 ジェノスクリームがそう口をはさんできた。ジェノスラッシャーに並び立ち、ショックフリートやブラックアウトに告げる。
「オレ達が必要としているのはあくまでゴッドマスター……それが機動六課とガジェット側、どちらの所属かはあまり問題ではない。
 オレが補佐について、ガジェット側のゴッドマスターを叩き、捕獲する――そちらは、貴様らに任せる」
「……わかった。
 だが、ジェノスクリーム、ジェノスラッシャー」
「『まだデバイスは使うな』っつーんだろ?
 どうせ置いていくさ――完成もしてないモンを持ってくつもりもないしな」
 ショックフリートに答え、ジェノスラッシャーはそのまま広間を出ていく――それを見送るブラックアウト達だったが、
「……まぁ、心配するな」
 そんな彼らに、ジェノスクリームはあっさりと答えた。
「どうせ、デバイスを使うような事態にもなるまい。
 オレとヤツがそろったなら……」

 

「“アレ”が使えるからな」
 

〈みんなは先行してガジェットの対処。
 こっちからもすぐに応援が行くから!〉
『了解!』
 ビークルモードで現場に向かうマスターコンボイの車内指揮所スペース――告げるなのはに対し、スバル達は一様にそう答える。
「ちょうどいいや。
 今回の戦闘で白黒つけよう。このままズルズル引きずっても面倒くさいし」
「いいだろう」
「そうでござるな」
「スバル達がマスターコンボイの一番のパートナーだってこと、ハッキリさせてやろうじゃねぇか!」
《みんなしてほえ面かいちゃえーっ!》
 そして、マスターコンボイの周囲にはビークルモードのロードナックル兄弟やジェットガンナー。マイクロンボディでブルーアンカーを運転するアイゼンアンカーにグリーンアンカーの荷台に乗るシャープエッジ――自分のパートナーこそがマスターコンボイの一番のゴッドオン相手だと互いに譲らない彼らだったが、
「………………」
「…………?
 マスターコンボイさん……?」
 騒ぎの渦中のマスターコンボイは黙り込んだまま走り続けるのみ――首をかしげ、スバルはマスターコンボイに声をかける。
「大丈夫ですか?
 まさか、こないだの……」
「そのことについては、オレが話すのを待つんじゃなかったのか?」
 あっさりとスバルに答え、マスターコンボイは再び黙り込み――
(話せるものか……)
 未だスバルが心配そうな顔をしているのを車内カメラで把握しつつ、マスターコンボイは胸中で付け加えると“あの晩”のことを思い返した。

 

「はい、しゅーりょー」
 言って、ジュンイチはデバイスのシステムを落とし、大地に倒れ伏したマスターコンボイへと向き直った。
 屋内での戦闘であったため、彼は終始ヒューマンフォームのまま――しかし、そのことを抜きにしても一方的な戦いであった。
 何しろ――自分がここまで打ちのめされたのに対し、ジュンイチは一発のクリーンヒットも許さなかったのだから。
「ば、バカな……!
 ヒューマンフォームのままとはいえ、この、オレが……!」
「『“今の”アンタが相手なら、オレに負ける要素はひとつもない』――そう言ったろ?」
 刃こぼれだらけになった、ブレードモードのオメガを支えにして立ち上がるマスターコンボイに対し、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「それに……お前は“蜃気楼”を前にして完全に冷静さを失った。
 力を発揮できず、冷静に戦うこともできなくなったお前に、勝ち目がある方がありえねぇ」
「なん、だと……!?」
 言いたい放題のジュンイチに対し、マスターコンボイはうめくように言葉をしぼり出し――
「何度だって言ってやるよ。
 マスターコンボイに新生して……スバル達とのゴッドオンを可能として……お前は着実にかつての力を取り戻しつつある。
 でも……今のままじゃ、お前は絶対に“この先”にはいけない」
「どういう……ことだ……!?」
「教えるワケにはいかないな」
 聞き返すマスターコンボイを、ジュンイチはあっさりと突き放した。
「お前には、自力で気づいてもらわなきゃならない。
 でなきゃ、今言ったとおりお前は“この先”のレベルにはたどりつけない。
 それどころか……スバル達の足すら引っ張ることになる」
「言わせて……おけば!」
 ジュンイチに言い返し、斬りかかるマスターコンボイだったが――
「それが事実だ」
 ジュンイチは“自らの腕で”オメガの刃を受け止めた。かまえた右腕に刃が食い込み――骨で止められ、刃が停止する。
 流れ出た血がオメガの刃を伝う中――ジュンイチは静かに告げた。
「お前だって気づいてるはずだ――これから、戦いはますます激しくなっていく。
 そして、それに対するスバル達は、これからさらに力を増していく。
 スバル達と一緒じゃなきゃ力を発揮できないお前に、いつまでもバカやっててもらうワケにはいかないんだよ」
 言い放ち――ジュンイチはオメガを振り払った。勢いに圧され、足をもつれさせて倒れるマスターコンボイに背を向け、
「ひとつだけ、ヒントをやる。
 “お前はコンボイだ”――そのことと、今のこの状況。二つのつながりが何を意味するのかを、もう一度よく考えろ。
 でなきゃ……」

 

 

 

 

「お前は、誰も守れずに死ぬことになる」


次回予告
 
なのは 「今回の話は総集編っぽい感じだったねー」
スバル 「ですね。あちこちでゴッドオンのシーンとか必殺技のシーンとか使い回してますし。
 なんでも『連載1周年だし、ちょうどいいだろう』ってことで、こういう話にすることが決まったらしいですよ」
なのは 「なるほど……
 ……でもね、スバル」
スバル 「はい?」
なのは 「その気になればいつでも読み返せる小説媒体で……総集編って要るのかな?」
スバル 「………………」
なのは 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第55話『それぞれの“強さ”
 合体しつきすぎ、暴れやりすぎ、代わりすぎ〜』に――」
二人 『ゴッド、オン!』

 

(初版:2009/04/11)