〈状況、アラート2.
市街地付近に未確認体出現。
隊長及びスプラング出動準備。待機中の隊員は準警戒態勢に入ってください。
現在は現場付近のフォワード隊が確認に向かっています……〉
「…………だってさ。
どうするの? パパ」
「『パパ』はやめい」
管理局地上部隊の通信は問答無用で傍受済み――ビルの屋上でそれを聞きながら尋ねるホクトに、傍受した張本人であるジュンイチはあっさりとそう答えた。
「今回は静観だ。
あの程度ならスバル達だけで片づけられる――5分しか出られないお前が出る理由はねぇよ」
気を取り直してそう告げ、ジュンイチは自分の周囲のウィンドウを操作しながら、
「オレ達はイレギュラーに備える。
ナンバーズの出る可能性はもちろん、他のヤツらにも備えないとな」
「うん!」
「動体反応確認!
やっぱりガジェット!」
機動六課指令室――ガジェットの反応を確認し、ルキノはすぐに報告の声を上げた。
「T型17機、V型2機! どちらも対人タイプです!」
そう報告するルキノのとなりで、シャリオは捉えたガジェットのデータを確認し、
「V型は……初めて見るタイプだ。
前線は注意して!」
言って、シャリオはそのV型の映像をメインモニターに出し――
「――――――っ!」
そこに映し出された、昆虫のような足を多数追加された、多足歩行型に改造されたV型の姿を目の当たりにして、指令室で待機していたヴィータは思わず目を見開いていた。
「な………………っ!?」
そのV型の姿は、ジュンイチもまた捉えていた――六課のそれとは別の視点から捉えた映像を前に、ジュンイチもまた言葉を失っていた。
「パパ…………?」
そんな彼の様子に、首をかしげて尋ねるホクトだが、ジュンイチは答えない。ただ鋭い視線で、映像の中のV型をにらみつけている――
「あれは……!
あの姿は、まるで……!」
機動六課で――
「あのクソスカが……!
悪趣味にもほどがあるだろうが……!
多少デブったぐらいで……!」
そしてビルの屋上で――
ジュンイチとヴィータ、二人は同時に、同じ結論に達していた。
『“あの時”のヤツに、そっくりじゃねぇか……!』
第55話
それぞれの“強さ”
〜合体しすぎ、暴れすぎ、代わりすぎ〜
〈フォワードチーム、こちらロングアーチ〉
『はいっ!』
現場に到着したスバル達には、早速ロングアーチからの指示が――はやてからの通信に、スバル達は声をそろえてそう応じた。
〈こっちからはライトニング1・2、それからブレイカー1が緊急出動する。
みんなはそっちの状況確認とガジェットの迅速な撃破――トランスデバイス組は地上警戒。他の勢力の乱入の可能性に備えてて。
現場では、108部隊や近隣の武装隊員も警戒にあたってくれてるし……スターズ1からは何か?〉
現状の説明の中、はやてはなのはに話を振る――わずかな沈黙の後、通信を代わったなのはがスバル達に告げる。
〈スターズ1からフォワードチームへ。
AMF戦に不慣れな他の武装隊員達に、ガジェットや危険対象をなるべく回さないように。
こんな時のための毎日の訓練だよ……みんなでしっかりやってみせて〉
『はいっ!』
なのはの言葉にスバル達は一様に力強くうなずき――
〈マスターコンボイさん〉
そんなスバル達の傍らに控えるマスターコンボイに、なのはは静かに声をかけた。
〈スバル達を……頼みます〉
「言われるまでもない」
淡々とマスターコンボイが答え、通信が切れる――息をつき、ティアナは一同を見回し、
「じゃ、行くわよ」
『おーっ!』
ティアナの言葉に答え、スバル達はそれぞれに待機状態のデバイスをかざし、
〈Stand by Ready, Set up!〉
デバイスを起動してバリアジャケットを装着。現場であるレールウェイの地下通路を目指して走り出した。
「あーらら、動き速いなぁ……」
そんなスバル達の動きは、すでに相手も捉えていた――ウィンドウに映し出したレーダー画面にスバル達の反応を確認し、セインは艦橋部を指揮所に展開したデプスマリナーの上でため息まじりにつぶやいた。
「機動六課……だっけ? 例の部隊が出てきちゃったよ。
どーしよ、クア姉?」
〈そ〜〜ねぇ……〉
尋ねるセインに対し、通信の向こうで考え込むのはクアットロである。
〈今ここでプチッとつぶしちゃってもいいんだけど……まだ不確定要素が多いしぃ〜、今回のミッションはV型改のテストとお披露目だけなんだし、もうほとんど済んだでしょう?〉
「まー、だいたいのところはね」
〈じゃあ、空から向こうの隊長格が飛んでくる前に、早めに退いて戻ってらっしゃい〉
「ほーい」
〈V型改も放っておいていいわ。
量産ラインに投入するかどうか、まだ決めてないし……〉
うなずくセインにクアットロが付け加えた、その時、
「はい!
はいはい、クア姉!」
〈なーに? ウェンディちゃん〉
いきなり手を挙げたのはウェンディだ――いきなり自己主張を始めた彼女に、クアットロは首をかしげて聞き返す。
「せっかくお外へ散歩に出られたのに、もう帰るのはつまんねーっス!
アイツらにちょっかい出したりしちゃ、ダメっスか?」
〈そうねぇ……〉
ねだるウェンディに対し、クアットロはしばし考え、
〈これから大事な“お祭り”が待ってるんだし、武装も未完成、トンステクターも地下での戦闘を想定していないあなたが損傷でもしたら大変だから、直接接触はしちゃダメよ。
その代わり、見学と遠隔ちょっかいくらいな良しとしましょ〉
「わーいっ!
クア姉、ありがとっス〜♪」
クアットロの言葉に、思わず喜びの声を上げるウェンディだったが――
〈でも〉
そんな彼女に、クアットロは唐突に付け加えた。
〈二人とも、出る前に言ったことは忘れてない?〉
「あぁ。
『柾木ジュンイチが出たら迷わず逃げろ』でしょ?
ちゃんとわかってるから、大丈夫だよ、クア姉」
念を押すクアットロにセインが答えると、そのとなりでウェンディが首をかしげた。
「でも……ホントにそんななりふりかまわず逃げなきゃならないほどの相手なんスか?
だって……ソイツって昔、クア姉達に殺されかけたんスよね?
非戦闘型のセイン姉ならともかく、あたしなら……」
〈あの男を甘く見るな〉
そうウェンディに答えたのは、クアットロと通信を代わったトーレだった。
〈確かにあの日、我々はあの男を半殺しにした……それは事実だ。
…………結果だけを、見たならな〉
「どういうコトっスか?」
聞き返すウェンディに、トーレは静かに答えた。
〈我々は、あの男を半殺しにした……しかし、そこに過程を加えた場合、その結果は大きく意味を変えてくる。
我々は“半殺しにした”んじゃない……“半殺しにするので精一杯だった”んだ〉
『え゛………………』
ナンバーズ初期メンバーの強さは、性能よりも経験の差によって自分達とは別次元の高みにある――そのひとりであるトーレの口から聞かされた予想外の事実に、ウェンディとセインは思わず顔を見合わせる。
〈あの戦い……我々はあの男を追い詰め――しかし、同時にあの男に追い詰められていた。
もしあの場で何かが違っていれば……我々はあの男に敗れていた、どころの騒ぎではない。
理性を失い、一個の怪物と化したヤツの手によって――〉
〈ひとり残らず……皆殺しにされていただろう〉
『おぉぉぉぉぉっ!』
咆哮と共に、スバルとエリオが突撃――スバルの拳がV型改を、エリオのストラーダの刃がT型の群れを斬り裂き、
「ティアさん!」
「そこっ!」
キャロのブーストを受けたティアナの魔力弾が難を逃れたガジェット群を次々に撃ち抜いていく。
そして――
「これで――」
「ラストぉっ!」
アスカのレッコウとマスターコンボイのオメガが、最後のガジェットV型を粉砕した。
「ま、こんなものか」
ガジェットごとき、もはや自分達の敵ではない。油断もクソもなく全力で叩きに行けばなおのこと――振り下ろしたオメガを引き戻したマスターコンボイがつぶやくと、
「はい、しゅーりょー」
「………………っ!?」
傍らでレッコウを肩に担いだアスカの言葉に、マスターコンボイは思わず肩を震わせた。
「………………?
どしたの? マスターコンボイ」
「いや……」
そんなこちらの反応に気づき、首をかしげるアスカだが、マスターコンボイはあっさりと答えてスバル達のもとに向かう。
(今のセリフ……オレを打ちのめした後に吐いた、柾木ジュンイチの勝ちゼリフ……
アスカ・アサギがそれを口にしたのは、果たして偶然か……?)
眉をひそめたまま考え込むマスターコンボイの姿に、アスカはしばし首をかしげていたが、
「みんな!」
そんな彼らに、新たな声がかけられた――振り向けば、ギンガがこちらに向けてかけてくるところだった。
「あー! ギン姉!」
その姿を見たスバルが歓喜の声を上げる――が、マスターコンボイはそれを制止、ギンガに尋ねる。
「状況は?」
「別の区画に現れたガジェットは、私達の部隊でほぼ叩いたわ。
今は周辺警戒と他の部隊との指揮系統の調整に回ってる」
「ギンガさんの部隊が……?」
「大丈夫だったんですか?」
基本、“それ”用の対策をとっていない魔導師にとって、AMFを持つガジェットは相性の悪い相手だ――ギンガの属する108部隊が交戦したと聞き、彼らの身を案じるエリオとキャロだったが、
「大丈夫。
こっちと同じ――文句のつけようのない瞬殺よ」
対し、ギンガはそんな二人の不安を吹き飛ばすかのような笑顔でそう答えた。
「ウチの部隊は、みんなジュンイチさんが直々に鍛え上げてるから……魔法を封じてくる“だけ”のガジェットなんかじゃ、正直止められないわね」
「そ、そうですか……」
「さすがはジュンイチさん……って、言ってもいいんでしょうか……?」
何しろ相手は“あの”ジュンイチだ。素直に納得するにはどこか引っかかりを覚え、エリオとキャロは苦笑まじりにつぶやいて――
「………………」
その一方で、ティアナは今の話に別の引っかかりを覚えていた。
(まぁ、実際あの人に指導された身としては、あの人だったらそのくらいのことはできるとは思うけど……)
そう納得する一方で、決して見逃せない“ある事実”に、ティアナは気づいてしまっていた。
(でも……ガジェット対策ができてる、っていうのは明らかに事情が違う。
ガジェットと戦う、っていうのは、魔法が使えない状況で戦うこととほとんど同義――魔法を使わず戦う訓練なんて、魔導師の訓練内容からは明らかに逸脱してる。
それこそ、あたし達が六課でそうしてるみたいに、最初から“そういう状態”を想定して訓練しないと、とてもじゃないけど身につかない……
しかも、それをウチよりも実働要員の人数で上回る108部隊のみんなに仕込んでたとなると……)
間違いない。ジュンイチはかなり早い段階から対AMF戦闘の訓練を108部隊に課していたことになる。ということは――
(ジュンイチさんは、かなり前からこうして対AMF戦が必要とされる状況を見越してた……?)
眉をひそめ、ティアナはギンガと楽しそうに話しているスバルへと視線を向けた。
(考えてみれば、スバル達のシューティング・アーツは対AMF戦には最適の戦闘スタイルだ……
もし、ジュンイチさんが対AMF戦を想定してスバル達にシューティングアーツを仕込んでいたんだとしたら……)
「……あの人は間違いなく、この件に深く――しかもかなり前からからんでることになる……」
「ん? どーしたの、ティア?」
思わず口にしたつぶやきを聞きつけ、スバルがティアナに尋ねるが、
〈V型改の反応、新規に出現!
機動六課フォワードチーム、G12へ!〉
『了解!』
そんな彼女達のやり取りを断ち切ったのはシャリオからの新たな敵反応の連絡――意識を切り替え、スバル達は急ぎ指定されたブロックへと向かった。
「へぇ……
こんなに動けるんスね、この子達」
「まぁね。
こないだ接触した時もかなり動けてたし……」
一方、セインやウェンディはそんなスバル達の様子を観察中。今さっきの戦闘の光景をリピート再生しながらおさらいし、つぶやくウェンディにセインはそう答え、
「――って、なんだよ、ウェンディ。その楽しそうな顔」
「え?
楽しそうな顔してるっスか?」
「してるしてる」
今のウェンディの顔を見て「笑ってない」なんて言えるヤツがいたら今すぐ名乗り出てほしい。迷わずその狂った視覚をつぶしてやるから――思わずそんなことを考えながら、セインはあからさまにニコニコしているウェンディにそう答えた。
「で? 何楽しそうにしてるのさ?」
「いやね……こいつらの担当、あたしやナンバー9になるんスよね?」
「多分。
ま、向こうだってバカじゃないし……“こっちの思惑通りに動いてくれたら”って前提はつくけどね」
「そそ。
で、『こーゆー連中をどーやって叩きつぶそうかな』とか、『どうしたら攻撃を食らわずにすむかな』とか、考えるとなかなか楽しいんスよ」
「あー……そーゆーことか」
ウェンディの答えに納得し、セインは改めて彼女に尋ねた。
「なら聞くけど……ウェンディならどう戦う?」
「ふーん……
こいつら、単体でも魔導師ランクでAはありそうっスけど、それぞれの特化技能はAA級じゃないっスかね」
「ぽいね」
「で、別々の特化技能を連携させることで総合力を高めてる……
けど、それは逆に言えば、連携させなきゃ穴が開く、ってことでもある……まー、分断してブッ叩くのが適切っスね」
「正解だ」
「まー、連携戦だろうが単体戦だろうが、負ける気はねぇっスけどね」
うなずくセインに告げ、ウェンディはサーフボード型の自らの専用武装“ライディングボード”をかまえた。
「シッポつかませるとウー姉やトーレ姉に怒られっからなー。
一発撃ったらすぐ引っ込むよー」
「了解っス〜〜♪」
告げるセインに答え、ウェンディはライディングボードに自らの“力”をチャージしていく。
同時、彼女の意識から目標以外の一切が消え去る――与えられた能力ではない。訓練のみとはいえ、徹底的に叩き込まれた集中力をもって、ウェンディは“目標”へと狙いを定め――
「せー、のっ!」
咆哮と同時にレッコウを一閃。アスカの一撃がV型改の足元のコンクリートを粉砕、足場を切り崩し、
「こんっ!」
「のぉぉぉぉぉっ!」
スバルとギンガが追い打ち。二人のダブルパンチが、V型改を豪快に転がす。そして――
「アルケミック、チェーン!」
仕上げはキャロだ。彼女の操る桃色の魔力の鎖が、V型改をがんじがらめにしばり上げる。
なんとか脱出しようともがき、AMFを展開しようとするV型改だが――
「甘い」
その発生源は、マスターコンボイの突き込んできたオメガによって貫かれる。
「これで手足はもいだ。
カスタムタイプの貴様は貴重なサンプルになりそうだからな――できる限り完品のまま、シャリオ・フィニーノへの土産にさせてもらうぞ」
AMFの発生システムと共に中枢部を貫かれ、機能を停止していくV型改にマスターコンボイが言い放ち――
「――――――っ!?
マスターコンボイ、離れて!」
「何――――――っ!?」
いきなりのティアナの声に疑問の声を上げるが――同時に身体は動いていた。とっさにオメガを引き抜き、後退したマスターコンボイの目の前で、突然飛来したエネルギー弾がV型改へと撃ち込まれる!
「命中〜〜♪」
エネルギー弾は彼女の手によるものだった。V型改への着弾を確認し、ウェンディは満足げにそうつぶやいた。
「何だよ、貫通してないじゃん。
不発かー?」
「冗談。
これでも一応射撃型っスよ♪」
しかし、ウェンディの放ったエネルギー弾はV型改の中に撃ち込まれたままだ――尋ねるセインだったが、ウェンディは笑いながらライディングボードの銃口を下した。
「今のは反応炸裂弾。
チンク姉に教わった、狭所でのエネルギー運用理論――金属とエネルギーの塊であるV型に撃ち込んで、狭い通路内を一瞬で満たす爆散破片に変える……」
この理屈のもとに開発された兵器としては、いわゆる“手榴弾”が比較的有名である――世間一般的には爆発によって殺傷する兵器としてのイメージの強い手榴弾だが、実際には爆発よりもそれによって飛散する破片によって相手を殺傷するのが主なのである。
「これならあたしもディエチやチンク姉に匹敵する破壊力が出せる……ハズっス♪」
ウェンディが告げ、指をパチンと鳴らす――同時、映像の向こうでV型改が爆発を起こした。巻き起こった爆炎によって、映像は一時完全に途切れてしまった。
「えげつねーなぁ……
ちょっとやりすぎだぞ」
「えっへっへぇ〜〜♪」
だが、この攻撃方法、きっちりキマれば相手のミンチは確定というグロいことこの上ない攻撃でもある――思わずうめくセインに、ウェンディは自慢げに胸を張り、
「……ま、それでも……連中が総がかりなら、防いじゃうでしょーねー♪」
その言葉に伴い、映像が回復し――そこには確実に今の攻撃を防いだスバル達の姿があった。
が――
「……甘く見たな、ウェンディ」
その映像をよく観察し、気づいたセインはそうウェンディに告げた。
「総がかりじゃない――今の1発、向こうのFGがひとりで防いでる。
たぶん、ディエチの砲撃を防いだっつー、あの防壁だろうな」
そう。映像の中のスバル達の周囲には、アスカのイスルギが飛ばしたシールドビットが浮遊している――彼女の防壁が盾となり、スバル達を爆発から守ったのだ。
しかも――
「それに見ろ」
言って、セインがウェンディに見せた映像には、ストラーダで加速したエリオと加速魔法“アクセルダッシュ”で加速したマスターコンボイが、フリードやティアナの誘導弾と共に通路を爆走する様子が映し出されている。
「爆発直後にもうこっちの位置を特定――高速型の中盤とリベロが、こっちに向ってカッ飛んできてる。
ご丁寧に飛竜とオレンジ頭の誘導操作弾まで引き連れてるよ」
「あらら、こいつらもなかなかやるもんっスね」
あいさつがわりの一発だったとはいえ、こうも見事に対応されるとは――楽しげなウェンディの言葉に苦笑し、セインは息をつき、
「まー、ちゃんと遊んで満足したろ。
交戦しないウチに帰るよ」
「はーい♪」
告げるセインにウェンディが応え――
「その前に、オレとも遊んでもらおうか」
『――――――っ!?』
いきなりの第三者の声に二人が思わず身がまえ――相手の姿を確認する間もなく、二人は巻き起こった爆発に飲み込まれた。
「――――――っ!?」
《エリオ、どうしたの!?》
「わかりません!」
突然の攻撃の出所を特定、急行する最中、突然目的地のあたりで爆発――念話で尋ねてくるティアナに、警戒を強め、足を止めたエリオがそう答えた。
「少なくともオレ達の仕業じゃない。
オレ達が手を下すよりも早く、向こうで何かトラブったようだな」
《トラブル……?》
マスターコンボイの言葉に、ティアナは思わず眉をひそめ、
《とにかく、不測の事態が起きてるのは間違いないのね?
なら、二人はとりあえずそこで待機――うかつに突っ込まないで、一度合流しましょう。
この際速攻はあきらめるわ。イレギュラーだって言うなら、できるだけ万全の状態で対応したいから》
「はい!」
指示するティアナの言葉に迷わずうなずくエリオだったが、
「……お前らは合流してから来い」
言って、マスターコンボイはそのまま爆発のあった方へと一歩を踏み出す。
《ち、ちょっと、マスターコンボイ!?》
「先行して状況を確かめる。
どの道、確認は必要だろう?」
《だからって――!》
「心配するな」
反論しかけたティアナだったが、マスターコンボイはあっさりとそう答えた。
「オレとて、自分の限界は知っている――“できること”や“すべきこと”しかする気はない」
静かに言い放つと、マスターコンボイは念話を切り、そのまま地下通路の奥へと地を蹴った。
「まったく、アイツは……!」
一方的に主張され、一方的に念話を切られ――思わずこめかみをひきつらせ、ティアナは拳を握りしめてそううめいた。
《ど、どうしましょう、ティアさん……!》
「しょうがないわ。
あぁなったらマスターコンボイは鎖でつないだって止まりゃしないわよ――とりあえず、エリオだけでもこっちに合流して」
《わかりました!》
こちらは素直に応じてくれた。エリオが答え、念話が切られると、ティアナは改めてため息をついた。
「こっちも急ぐわよ。
最近調子がいいとはいえ、マスターコンボイはあたし達がいないと全開でやれないんだから」
「はい!」
告げるティアナにキャロが答えるが――
「……調子、いいのかな……?」
不意に、不安げにつぶやいたのはスバルだった。
「何言ってんのよ?
午前中だって、結局防壁こそ破れなかったけど、アスカさんを始終押しっぱなしだったじゃない」
「あのー、ティアちゃん?
『破れなかったけど』って、破られたら困るんだけどなー、イスルギのマスター的には」
スバルに答えるティアナの言葉に、思わずアスカがツッコみ――
「でも……ここのところ、なんだか元気なかったし……」
しかし、目の前のそんなやり取りにも、スバルの無表情は晴れなかった。しばし迷った末、ティアナへと向き直り、
「……とにかく急ごう、ティア!
早くエリオと合流して、マスターコンボイさんを追いかけなきゃ!」
「わかってるわよ!」
意を決して告げるスバルにティアナが答え、彼女達はマスターコンボイを追いかけるべく走り出した。
「っ、と………………っ!」
かろうじてゴッドオンが間に合った――愛機“デプスマリナー”とゴッドオン、デプスチャージへとトランスフォームしたセインは、ウェンディを抱えて爆煙の中から飛び出してきた。
「ったく、何だ、今の!?」
完全な不意打ちだった――センサー類をフル稼働させ、セインは今の攻撃の主の姿を探し、
「――――そこっ!」
センサーに反応を捉え、すかさず両肩の大型バインダーからミサイルを放つが、それらも新たに放たれたビームでまとめて薙ぎ払われ、
「いい反応だ。
少なくとも無能ではないらしい」
言って、不意打ちの犯人――ロボットモードのジェノスクリームは通路の奥からゆっくりと姿を現した。
「お前……ディセプティコンの!」
「何しに来たんスか!?」
「敵対する貴様らの前に現れたのだ――やることなど決まっている!」
驚くセインやウェンディに言い放つと、ジェノスクリームはビーストモードにトランスフォームし、
「フォースチップ、イグニッション!」
咆哮し、背中のチップスロットにフォースチップをイグニッション――両足をアンカーで固定し、大きく開いた口腔内にエネルギーを収束させていく。
「ち、ちょっと待て!
ここでンなモンをブッ放したりしたら――」
間違いない。彼の必殺技“ジェノサイドバスター”を放つつもりだ――しかし、あんな大火力、普通に考えれば地下で使うものではない。
ヘタをすればこのあたり一帯が崩落し、そろって生き埋めになってしまう可能性もある。あわててセインが声を上げるが、
「ジェノサイド――バスター!」
ジェノスクリームはかまわない。迷うことなく放たれたジェノサイドバスターの閃光が、セインやウェンディに襲いかかる!
「……地下の方は、どうなってるんだろうねー……」
「援護に向かおうにも、我々のサイズではせいぜいひとりが限界――マスターコンボイに任せるしかあるまい」
一方、こちらは地上を警戒するトランスデバイス達――つぶやくロードナックル・シロに、ジェットガンナーは真面目に周囲をサーチしながらそう答える。
「ま、地下の面倒事はマスターコンボイに任せておけばいいよ。
ボクらはボクらで、これ以上めんどうくさいのがエリオ達のところにいかないように、叩けるザコをお掃除しとくんだよ」
「言っていることはもっともでござるが……兄上の場合、『めんどうくさい』の一言がすべてをぶち壊しにするでござるな……」
「だって、実際めんどうくさいしー♪」
肩をすくめるシャープエッジにアイゼンアンカーはあっさりとそう答え――
「………………む?」
ジェットガンナーのセンサーに反応があった。
「シャープエッジ、アイゼンアンカー」
『ん………………?』
ジェットガンナーの言葉に、呼ばれた二人は思わず振り向き――
『って、どわぁっ!?』
「そこにいると危ない……と言おうとしたのだが……」
地下から噴き出した閃光が、二人の足元を豪快に吹き飛ばした――直撃こそしなかったものの、足元を崩されてひっくり返る二人の姿に、ジェットガンナーはどこか気まずそうにそう続ける。
「早く言ってよ、めんどうくさいから!」
「しかし、一体何が……!?」
ぶつけた頭をさすりつつジェットガンナーに言い返すアイゼンアンカーの傍らで、シャープエッジは今の一撃で口を開けた縦穴へと視線を向け――
「ったく、しつこいね!」
そうわめきながら飛び出してきたのは、ウェンディを背中に乗せたセインのデプスチャージである。
「アイツは……!?」
かつて、旧市街での戦闘でガジェットの背後にいた相手だ――セインの姿に、シロに代わって“表”に出てきたロードナックル・クロが声を上げると、
「逃がすか!」
そんな彼女達を追い、さらにジェノスクリームも縦穴から飛び出してきた。
「地上に出たぐらいで、このオレから逃げられるとでも思ってるのか!?」
「思ってないとでも、思ってるのか!?」
追ってくるジェノスクリームにその口調を真似て言い返し、セインは廃棄都市に降り立ち、
「そっちこそ、たったひとりであたしらとやるつもりかい!?」
「セイン姉とあたしのコンビの恐ろしさ、思い知らせてやるっスよ!」
告げるセインの背中から降り、ウェンディもライディングボードをかまえ――
「誰が、ジェノスクリームに獲物を譲るか!」
新たな声がセイン達に告げると同時――飛び込んできた巨体がセインを思い切り弾き飛ばす!
「セイン姉!?」
いきなりの襲撃に、ウェンディが思わず声を上げると、
「貴様らを叩くのは、このオレだ」
そう言い放ち、セインを体当たりで吹き飛ばしたビーストモードのジェノスラッシャーがウェンディの前に舞い降りた。
「アンタ……確か、こないだの戦いで!」
「そうさ。
貴様らに部下を軒並み叩き伏せられた恨み、まずは貴様で晴らさせてもらうぞ!
ジェノスラッシャー、トランスフォーム!」
声を上げるウェンディに言い返すと、ジェノスラッシャーはロボットモードへとトランスフォームし、その翼からエネルギーミサイルをまき散らす!
「ち、ちょっと!
あたしは別に、アンタの仲間なんか倒してないっスよ!」
「それでも、仲間には違いあるまい!」
宙に浮かせたライディングボードに飛び乗り、エネルギーミサイルを避けて上空へと逃れるウェンディだが、ジェノスラッシャーはあっさりとそう言い返してくる。
「貴様らを叩けば、オレの部下を倒したヤツらに対する格好のデモンストレーションになる!
リベンジへの景気づけだ! 思い切り叩かせてもらうぞ!」
「そんなの、お断りっスよ!」
「ウェンディ!」
ジェノスラッシャーに言い返し、空中戦に転じるウェンディの姿に、地上でセインが声を上げ――
「悪いな――ジャマをさせてもらうぞ!」
そんなセインを、飛び込んできたジェノスクリームが尻尾の一撃で吹っ飛ばす!
《なんか……つぶし合ってるね……》
「あぁ……」
その様子は、危うく巻き込まれるところだったトランスデバイス達も見ていた――つぶやくシロに、ロードナックル・クロは困惑もあらわにそう答えた。
「どうするでござるか?」
「両方とも確保対象ではあるが……」
「一気に両方、っていうのは、めんどくさいよねー」
尋ねるシャープエッジとジェットガンナーの問いに、アイゼンアンカーは肩をすくめてそう答え――
「みんな!?」
「なんでここに!?」
驚きの声は背後から――振り向くと、先ほどセイン達が飛び出してきた縦穴から、スバルやティアナが顔を出してきたところだった。
「スバル!? それにみんなもいるのか!?」
「そっちこそ、どうして!?」
「アイツらを追ってきたのよ」
驚き、声を上げるロードナックル・クロとアイゼンアンカーの問いにティアナが答えると、
「それより……みんな、マスターコンボイさん知らない?」
エリオやキャロを引き上げてやりながら、スバルが彼らにそう尋ねる。
「マスターコンボイ……でござるか?」
「うん。
先行してるはずなんだけど……」
聞き返すシャープエッジにスバルが答え、一同は周囲を見回すが――マスターコンボイの姿はどこにも見えなかった。
「ちょこまかすんな!」
「するに決まってるっスよ!」
咆哮しながらも、攻撃の手は休めない――エネルギーミサイルをばらまくジェノスラッシャーに言い返し、ウェンディは空中で身をひるがえし、かまえたライディングボードからエネルギー弾を放つが、
「そんなのが――通じるかよ!」
ジェノスラッシャーの翼が光に包まれた。質量を伴った光刃となったその翼を振るい、ウェンディの放った光弾をまとめて斬り捨てる。
「それで射撃のつもりか!? ぜんぜん大したことないな!」
「ムッカーッ! それは射撃型のあたしに対する挑戦と見たっス!」
言い放つジェノスクリームの言葉に向きになり、再びライディングボードに飛び乗って飛翔するウェンディは素早くジェノスクリームの背後に回り込む。
「もらったっス!」
そのまま一気に接近。背後、しかも至近距離からジェノスラッシャーを狙い――
ジェノスラッシャーが消えた。
「え………………?」
文字通り、一瞬にして視界からジェノスラッシャーの巨体が消えた――思わず目を見張るウェンディだったが、
「もらった!」
「ぅひゃあっ!?」
突如のその頭が背後からつかまれた――いつの間にか回り込んでいたジェノスラッシャーが、彼女を後ろから捕まえたのだ。
「い、いつの間に!?」
「貴様が見失った、その瞬間だよ」
驚き、声を上げるウェンディに対し、ジェノスクリームは勢いあまって飛び去りかけ、ウェンディの遠隔操作で戻ってきたライディングボードを蹴り飛ばしながらそう答える。
「仕掛けは簡単だ――貴様に接近させ、間合いが可能な限り詰まったところでバック宙返り。これだけで、回ってる間に貴様はオレの真下を通り過ぎ、あっさりと背後に回り込むことができる。
直前に貴様の射撃をバカにしたのもそのためだ――プライドを傷つけられれば、ムキになって確実に当てられる状況で文句のつけようのない一撃を放とうとするだろうからな。
よく訓練されていたのだろう。動きも……射撃も実際には悪くなかった。
だが、実の体験としての経験が足りていない。知識だけでは、駆け引きは乗り切れないぞ」
言って――ジェノスラッシャーはウェンディの頭をつかむ右手に力を込めた。強烈な力で圧迫され、ウェンディの骨格がミシリと音を立てる。
「…………ぁ……が……っ!?」
「さぁ、宣言通り――復讐ののろし代わりに、その頭をつぶれたザクロにしてやるよ!」
たまらず苦悶の声を上げるウェンディに答え、ジェノスラッシャーは彼女の頭を一気に握りつぶs――
その瞬間――
ロボットモード――プランクフォームとなって飛び込んできたマスターコンボイが、渾身の蹴りでジェノスラッシャーを蹴り飛ばしていた。
「え………………?」
いきなりの、しかも意外な展開に、ウェンディは思わず声を上げ――そんな彼女の頭を先ほどのジェノスラッシャーのようにつかむと、マスターコンボイはそのまま重力に従い落下し、
「ジェノスラッばはぁっ!?」
異変に気づき、相棒の名を叫びかかったジェノスクリームの顔面を、右足で思い切り踏みつけた。そのまま左足でジェノスクリームのアゴを思い切り蹴り上げ、その巨体を
蹴飛ばしたマスターコンボイはセインの目の前に降り立ち、
「そらよ」
つかんでいたウェンディをずいっ、と突き出した。
「ま、マスターコンボイさん……!?」
「アイツ……! 独断先行したあげくに何やってんの!?」
突然現れたかと思えば、敵であるはずのナンバーズを助ける――そのいきなりのマスターコンボイの行動は、スバル達を困惑させるには十分すぎた。驚くスバルのとなりで、アスカもまたその真意を測りかねて声を上げる。
一方、マスターコンボイはセインにウェンディを押し付けるかのように引き渡すと、クルリと振り向いてジェノスクリームやジェノスラッシャーに対してオメガを突きつけ、
「いきなり何をしてくれる、貴様」
『アンタが言うなぁぁぁぁぁっ!』
ディセプティコン、ナンバーズ、そしてフォワードチーム――全勢力からツッコミの声が上がった。
「何考えてるのよ!?
ソイツらが何者か知ってるでしょ!? 敵よ、敵!」
「知っているが?」
詰め寄り、声を上げるティアナだったが、マスターコンボイはあっさりとそう答える。
「こいつらナンバーズも、ディセプティコンも、オレ達の敵だ。
言われなくても、そんなことはわかっている」
「だったら――」
それがわかっていて、なぜウェンディ達を助けたのか――思わず声を挙げとするティアナだったが、
「だからと言って、目の前で死なれたりしたら貴様らの寝覚めが悪かろう」
対し、マスターコンボイはあっさりとそう答えた。
「こいつらは逮捕すべき容疑者だ。殺すべき、死なせるべき相手じゃない。
いくらオレが元デストロンの破壊大帝だろうが、殺すべき相手とそうじゃない相手の線引きくらいはするさ」
いきなりの指摘に、ティアナ達は思わず顔を見合わせる――そんな彼女達にかまわず、マスターコンボイがそう告げると、
「…………あたし達を助けて、恩を売ったとでも思ってるのか?」
「オレの意図は今コイツに告げた通りだ。
オレはオレの仕事をしただけにすぎん。恩も礼も必要ない」
ウェンディをかばい、告げるセインに答えると、マスターコンボイは改めてジェノスラッシャーとジェノスクリームへと向き直り、
「そういうコトだ。
ここからはオレ達が貴様の相手だ」
「フンッ、調子に乗りおって……!」
告げるマスターコンボイの言葉に、ジェノスクリームは苛立ちもあらわにそううめき――
「ジャマをするなら、かまうことはない」
そんなジェノスクリームに、ジェノスラッシャーが静かに告げた。
「オレ達のジャマをするなら、どいつもこいつもオレ達の敵だ。
ひとり残らず、叩きつぶしてやる!」
「やれやれ……これは止めても聞きそうにないな」
言っていることは勇ましいが、やっていることはただの手当たりしだい――わめき散らすことこそないが明らかに怒りに燃えているジェノスラッシャーの言葉に、ジェノスクリームは軽くため息をつき、
「そういうワケだ。悪いがこっちは本気でいかせてもらうぞ。
恨むなら、ジェノスラッシャーの機嫌が悪い時に現れた、自分達のタイミングの悪さを恨むんだな」
「残念ながら、恨みを抱く予定は今のところないんだがな」
告げるジェノスクリームに対し、マスターコンボイはあっさりとそう答えた。
「恨みを抱くとすれば、むしろ貴様らだと思うがな。
何しろ、これからハデにブチのめされることになるんだからな」
「言ってくれるな。
貴様ひとりで、オレ達を相手に勝てるもんかよ」
マスターコンボイの言葉に苛立ちを強め、ジェノスラッシャーが言い返し――
「だぁれが、マスターコンボイがひとりで戦うっつったよ?」
マスターコンボイの脇に進み出て、ロードナックル・クロがそう言い放った。そのまま自信タップリに胸を張り、
「そうさ……マスターコンボイにはな、このオレとスバルがいるんだってことを、忘れてもらっちゃこまるな!」
「って、ちょっと待つでござる!」
力強く宣言するロードナックル・クロの言葉に、あわてて待ったをかけるのはシャープエッジだ。
「何をちゃっかり抜け駆けしようとしているでござるか!
マスターコンボイは姫とゴッドオンするのでござる! 他の皆は引っ込むでござるよ!」
「何でそんなめんどくさいことしなきゃなんないのさ!
エリオとのゴッドオンが一番なんだから、エリオがゴッドオンするのが一番じゃないか!」
「何を言っている。
ジェノスクリームにはジェノサイドバスターがある――対抗するにはランスター二等陸士の火力が必要不可欠だろう」
シャープエッジだけではない。アイゼンアンカーやジェットガンナーまでもが反論の声を上げ、トランスデバイスの4名はぎゃあぎゃあと言い争いを始めてしまう。これでは出動前のにらみ合いの繰り返しである。
「ち、ちょっと、何やってるんスか!?
敵はあっちっスよ!?」
「言うな。オレも激しく同感なんだ」
さっそうと出てきておいて何を言い争っているのか――敵対関係も忘れてツッコミを入れてくるウェンディに、マスターコンボイはため息まじりにそう答える。
「とりあえず……経緯は説明するだけで疲れそうだ。とりあえず『こっちにもいろいろある』ということで納得しておいてくれ」
「何だよ、自信タップリに出てきておいて結局コレ!?」
とはいえ、マジメにやってほしいのもまた事実。思わずセインがマスターコンボイに詰め寄るのも仕方のないことかもしれないが――
「まったく、役に立たないヤツらだね!」
「前回からずっとイイトコなしのヤツは黙ってろ!」
間。
「……いーんだいーんだ。
どーせあたしなんか……」
「…………あー、すまん。
さすがに今のはオレが悪かった」
前回はルーテシアとガリューに見せ場を持っていかれ、今回も目立った活躍のできないまま――痛恨の一言に思い切り胸中をえぐられ、ヒザを抱えていじけるセインの姿に、さすがにいたたまれなくなったマスターコンボイは思わず謝罪の声を上げる。
「ゴッドオンするのは姫でござる!」
「いーや、エリオだね!」
「ランスター二等陸士をおいて他にはない」
「スバルだ!」
《ギンガお姉ちゃんだよ!》
「み、みんな、落ち着いて!」
「ケンカしないでください!」
一方、ジェットガンナー達の意地の張り合いはますますヒートアップ。ギンガやキャロの制止の声も届かず――
「き、貴様、ら……!」
一方、そんなドタバタで完全に無視されているのはディセプティコンの二人だ――自分達をカヤの外に放り出して騒ぐ一同に、ジェノスラッシャーは静かに肩を震わせ、
「このオレをシカトするとは、いい度胸だ!」
元々怒りに燃えていた彼が“爆発”するのは必然か――怒りの咆哮と共に地を蹴り、ジェノスラッシャーはスバル達へと襲いかかる。
「ちぃっ!」
ジェットガンナー達は好き勝手に騒いでばかりで、スバル達はそれを止めようと必死。自分が対応するしかないと、マスターコンボイはオメガをかまえ――
『《ジャマ(でござる)!》』
ジェットガンナー達の声が唱和し――次の瞬間、全員が動いていた。ジェットガンナーの射撃がジェノスラッシャーの鼻先を叩き、ひるんだところへアイゼンアンカーのアンカーロッドが彼の身体を打ち上げ、飛び込んできたロードナックル・クロの拳とシャープエッジの斬撃が、トドメの一撃となってジェノスラッシャーを大地に叩きつける。
「…………あ、あれ?」
一方、肩透かしを食らったのがマスターコンボイだ。反応できないだろうと思っていたジェットガンナー達の素早い反応――しかもつい今までにらみ合っていたとは思えない見事なコンビネーションに、思わず間の抜けた声を上げてしまう。
「アイツら……何で……?」
ワケがからず、呆然とマスターコンボイがつぶやくと、
「結局、兄弟なのよねー、アイツら」
そんなマスターコンボイのとなりで、アスカは独り言でもつぶやくかのようにそう告げた。
「個性がそれぞれ強すぎて、何かにつけてぶつかってばっかりのアイツらだけど、結局のところ想いはひとつ――“大事な人達のために”。それだけなのよ。
根本的に同じ想いで動いてるから、いざって時はすぐに意識を合わせられる――なんだかんだで、“5人一緒に”戦ってるのよ、アイツらは」
「5人、一緒に……」
アスカの言葉に、マスターコンボイは改めてジェットガンナー達に視線を向けた。
論争再開とばかりににらみ合う彼らの姿に、しばし考え――決断する。
「…………おい、貴様ら」
「ん? 何?」
「めんどうくさいこと言うなら後にしてくれない?
今大事な話の最中だから」
声をかけるマスターコンボイに対し、ロードナックル・クロとアイゼンアンカーが聞き返し――
「貴様らの要望に応えてやる」
『………………?』
いきなりのその言葉に、思わずジェットガンナー達は顔を見合わせるが、そんな彼らにかまわず、マスターコンボイは彼らの脇を抜けて陣形の先頭に立つ。
「やってくれたな、貴様ら……!」
その視線の先には、うめきながら身を起こすジェノスラッシャーや彼を助け起こすジェノスクリーム――彼らが反撃の態勢を整えるのを待たず、背後に向けて声をかける。
「ギンガ・ナカジマ」
「は、はい!」
「ゴッドオンするぞ」
「え…………?
あ、はい!」
いきなりの提案に、一瞬思考が停止――しかし、すぐに再起動し、ギンガは力強くそううなずき、
『ゴッド、オン!』
〈Storm form!〉
咆哮と共に一体化。藍色に染め抜かれたストームフォームとなってジェノスラッシャー達と対峙する。
《やったやったぁ!
やっぱりギンガお姉ちゃんが一番なんだ!》
「ち、ちょっと……マジ?」
そんなマスターコンボイとギンガの姿に、大喜びのシロやアイゼンアンカーが声を上げ――
「何を言っている?」
対し、マスターコンボイは“表”に出てきてそう尋ねた。
「オレは言ったはずだぞ――『“貴様らの”要望に応えてやる』とな」
「え………………?」
「マスターコンボイ、それは、まさか……」
マスターコンボイの言葉に、シャープエッジやジェットガンナーもまた声を上げ――かまわず、マスターコンボイは続ける。
「チビスケ! 兄と代わって“表”に出ろ!
まずは貴様とギンガ・ナカジマだ!」
《うん!」
マスターコンボイの言葉にうなずくと、シロは兄と交代して人格を表面化。ロードナックル・シロとなってマスターコンボイ達と並び立つ!
「《マスター、コンボイ!》」
ギンガとマスターコンボイの叫びが響き、大きく跳躍した彼の左腕からアームブレードモードのオメガが分離、その左腕が肩アーマー内に収納され、露出している部分の腕の装甲の一角が開き、中から合体用のジョイントが現れる。
「ロード、ナックル!」
次いでロードナックル・シロが叫んでビークルモードにトランスフォーム。車体脇のアームに導かれる形で後輪が前輪側に移動、前輪を含めた4つのタイヤが整列し、車体後尾には合体用のジョイントが露出する。
そして、両者が交錯し――
『《ゴッド、リンク》!』
3人の叫びと共に、マスターコンボイの左肩に連結する形で、左腕に変形したロードナックル・シロが合体する!
右手にブレードモードに戻ったオメガを握りしめ、拳が異様に巨大な左腕を振るい、3人が高らかに名乗りを上げる。
『《ナックル、コンボイ!》』
「いきます!
シロくん、援護はお願い!」
「りょーかい!」
「マスターコンボイさんも!」
《わかっている!》
ギンガの言葉にロードナックル・シロやナックルコンボイが答える――同時、彼女達は思い切り地を蹴った。勢いよくジェノスラッシャー達に向けて突撃をかける。
「フンッ! 素直に相手してたまるかよ!」
対し、迷わずビーストモードへとトランスフォーム。上空へと逃れるジェノスラッシャーだったが、
「逃がしません!」
〈Wing Road!〉
ギンガの叫びに伴い、脚部のレッグダッシャーが展開。システムを連動させたブリッツキャリバーがウィングロードを展開した。まるで襲いかかるかのようにジェノスラッシャーの後を追い、
「いっけぇっ!」
追突されそうになり、回避行動を取ったジェノスラッシャーを、ウィングロードの上を駆け抜けて追ってきたギンガが殴り飛ばす!
さらに、ウィングロードの上から跳躍、吹っ飛ぶジェノスラッシャーへと追撃の蹴りを叩き込む!
「ジェノスラッシャー!
貴様、よくも!」
大地に墜落するジェノスラッシャーの姿に声を上げ、ジェノスクリームが背中の2連装キャノンで着地したギンガ達を狙うが、
《殴る、蹴るだけが、戦いじゃないんだよ!」
それにはナックルコンボイが“表”に出て対応した。右手のオメガを振るって飛来するビームを叩き落とす。
「よく反応する!
だが――その形態に強力な遠距離攻撃がないのは把握済みだ!」
しかし、ジェノスクリームは攻撃をやめない。ギンガ達の間合いの外からキャノンを連射。ナックルコンボイもそれを次々に叩き落としていくが、足元に着弾したビームの爆発で土煙が舞い上がり、彼らの姿を完全に隠してしまう。
「フンッ! それでは次の射撃の軌道も見切れまい!」
そんな彼らに対して言い放ち、ジェノスクリームは今度こそ直撃させるべき、予想される彼らの位置にキャノンの狙いを定め――
〈Earth form!〉
爆煙の中から電子音声が響き――次の瞬間、煙の中から飛び出してきた“オレンジ色”の魔力弾の数々が、ジェノスクリームを直撃、吹き飛ばす!
そして――吹き飛んだ煙の中から、ロードナックル・シロやギンガと分離し、ティアナとゴッドオンし直したマスターコンボイが姿を現す。
「ジェットガンナー!」
「わかっている!」
マスターコンボイにゴッドオンしたまま、告げるティアナにジェットガンナーが応えた。跳躍する勢いで飛び立ち、そのまま彼女達のもとへと飛翔する!
「《マスター、コンボイ!》」
ティアナとマスターコンボイの叫びが響き、大きく跳躍した二人はさらに背中のバックパックのバーニアによる噴射でさらに高く跳び上がり、
「ジェットガンナー!」
次いでジェットガンナーが叫び、ビークルモードへとトランスフォーム。そこから機首を後方にたたみ、機体下部の装甲を展開して合体ジョイントを露出させる。
そして、両者が交錯し――
『《ゴッド、リンク》!』
3人の叫びと共に、バックユニットとなったジェットガンナーがマスターコンボイの背中に合体する!
最後にジェットガンナーの後部――ロボットモード時に両足となる2基のメインブースターが分離するとツインガンモードのオメガに合体し、ガンナーショットに変形。ティアナがそれをかまえ、3人が高らかに名乗りを上げる。
『《ガンナァァァァァッ、コンボイ!》』
「ターゲット確認。
これより排除行動に入る」
「いちいち言わなくても、わかってるわよ!」
背中に合体したジェットガンナーの言葉にティアナが答え、両手に握るガンナーショットの引き金を引いた。放たれた強大な魔力弾の群れが、一斉にジェノスクリームへと襲いかかる!
「なめるな!」
対し、ジェノスクリームも自らの火器をフル回転して対応。ティアナの魔力弾を片っ端から撃ち落としていくが、
「なかなかやるじゃないの!」
《だが……いつまでもつかな!?》
ティアナとガンナーコンボイが言い放ち――放たれる魔力弾がその数を増した。一気にジェノスクリームの迎撃を押し切り、吹き飛ばす!
「さぁて、サクサクいくわよ!
マスターコンボイ、次のセレクト、任せるわよ!」
「何?
待て、ランスター二等陸士。まだまだいけるが……」
《了解だ!」
自分はもともと“ナンバー1パートナー”とやらには興味はない。あっさり告げるティアナにジェットガンナーが声を上げるが、ガンナーコンボイはジェットガンナーとティアナを分離させ、マスターコンボイへと戻り、
「次! キャロ・ル・ルシエ! シャープエッジ!」
「はい!」
「心得たでござる!」
「《マスター、コンボイ!》」
キャロとマスターコンボイの叫びが響き、大きく跳躍したその背中のバックパックが起き上がると、折りたたんだ左腕を空いたスペースに折り込ませ、
「シャープエッジ!」
次いでシャープエッジが叫び、ビーストモードへとトランスフォーム。喉元にあたる部分に合体用のジョイントを露出させる。
そして、両者が交錯し――
『《ゴッド、リンク》!』
3人の叫びと共に、折りたたまれたマスターコンボイの左腕に代わりシャープエッジが合体する!
右手にワンドモードのオメガを握りしめ、合体したシャープエッジの尾びれを刃とした左腕をかまえ、3人が高らかに名乗りを上げる。
『《シャープ、コンボイ!》』
「いきます!」
「御意!
我が姫の前にひれ伏せ!」
キャロの言葉にシャープエッジが答え、シャープコンボイは地を蹴り、ジェノスラッシャーへと突撃をかける。
「なめんな!」
対し、ジェノスラッシャーもロボットモードにトランスフォーム。光刃に変えた自らの翼で反撃に転じるが、
「わたしだって――少しは!」
シャープエッジやシャープコンボイがシステム側からサポートし、キャロがテールカッターでジェノスクリームの斬撃を受け止め、
「接近戦も!」
続けて繰り出されたもう一方の翼も受け止めると、キャロはそのまま身をひるがえし、
「できるんです!」
両の翼を弾かれ、ガラ空きとなったジェノスラッシャーの身体を、テールカッターで思い切り斬りつける!
「姫、今度は拙者が!」
「お願いします!」
そして、今度はシャープエッジがメインコートロールを担当。キャロの一撃でよろめくジェノスラッシャーの懐に飛び込み、
「拙者、“水”属性でござるワケで……こういう趣向はいかがでござるか!」
自らの身体を高速回転。その勢いでジェノスラッシャーへと連続斬りをお見舞いする!
「ふむ……この技、“渦巻き斬り”という名が妥当でござるかな?」
連続斬りの衝撃で跳ね飛ばされ、ジェノスクリームに激突するジェノスラッシャーを尻目にシャープエッジが告げ、
「はいはい、お侍さんはそろそろ下がってくれないかな?
何しろ、後がつかえてるんでね」
「仕方がないでござるな。
姫」
「はい!」
そんなシャープエッジに告げるのはアイゼンアンカーだ。シャープエッジが応じ、キャロと共に分離し、アイゼンアンカーはエリオへと振り向き、告げる。
「ようやく出番だね。
いこう、エリオ!」
「うん!」
「《マスター、コンボイ!》」
エリオとマスターコンボイの叫びが響き、大きく跳躍したその両足がビークルモードのそれに変形。そのまま背後に折りたたまれ、バックパックをカバーする形で固定される。
「アイゼン、アンカー!」
次いでアイゼンアンカーが叫んで分離。運転席側をジョイントとして合体していた2台のビークルは今度は車体後尾をジョイントとして合体。小型クレーンにトランスフォームしたアイゼンアンカー自身は背面側に合体し、起き上がった運転席部分を爪先とした下半身へと変形する。
そして、両者が交錯し――
『《ゴッド、リンク》!』
3人の叫びと共に、折りたたまれたマスターコンボイの下半身に代わりアイゼンアンカーが合体する!
右手にランサーモードのオメガを握りしめ、左手には2本のクレーンアームが連結されたアンカーロッドをかまえ、3人が高らかに名乗りを上げる。
『《アンカァァァァァッ、コンボイ!》』
「エリオ……
アイツらにちょっと言いたいことがあるから、少し代わってくれる?」
「え…………?」
合体を完了するなり、アイゼンアンカーからいきなりの提案――戸惑いながらもエリオがコントロールを渡すと、アイゼンアンカーはアンカーコンボイの身体を操り、左手のアンカーロッドを肩に担いだかまえでジェノスクリーム達の前に進み出て、
「お前らさぁ……」
言いながら、その場でクルリと軽快にターン。改めてランサーモードのオメガの切っ先で二人を指し、
「めんどうくさいし、さっさとやられてくれる?」
「ふざけるな!」
「貴様らごときに!」
そのアイゼンアンカーの言葉は、二人の怒りをあおるには十分すぎた。咆哮し、それぞれの火器でエリオ達を狙うが、
「その程度の、攻撃で!」
主導権を返してもらったエリオはかまわず正面から突っ込んだ。トランスデバイス中最大出力を誇るアイゼンアンカーのパワーが両足を通じて大地に伝わり、脚力だけで爆発的な加速を見せたアンカーコンボイはすさまじいスピードでジェノスクリーム達へと突撃する。
しかも、ジェノスクリーム達の攻撃をものともせず、強化された装甲で真っ向から弾き飛ばしながら――あっという間に間合いを詰めると、オメガとアンカーロッドでジェノスクリームを、ジェノスラッシャーを力任せにブッ飛ばす!
さらに、倒れたジェノスラッシャーをアンカーロッドで何発も叩き、すくい上げる軌道の一撃で再度ブッ飛ばすと、今度はジェノスクリームへと向き直り、
「こいつ!」
「間合い遠すぎ♪」
《槍を警戒しすぎだ!》
反撃とばかりにジェノスクリームが尻尾を振るうが、アイゼンアンカーとアンカーコンボイはスウェーバックでそれをかわし、
「エリオ!」
「うん!」
アイゼンアンカーの言葉に、エリオはアンカーロッドを放り出して両手でオメガを操る――薙ぎ、突きを駆使した連撃でジェノスクリームを打ち据える!
「マスターコンボイ兄さん、そろそろ……」
《あぁ。
そろそろ決めるとするか!》
そして、提案するエリオにうなずくと、アンカーコンボイはアイゼンアンカーとエリオを分離させ、
「スバル・ナカジマ! ロードナックル・クロ!」
「はい!」
「待ちくたびれたぜ!」
マスターコンボイに名を呼ばれ、スバルとロードナックル・クロが力強くうなずいた。
「《マスター、コンボイ!》」
スバルとマスターコンボイの叫びが響き、大きく跳躍した彼の右腕からアームブレードモードのオメガが分離、その右腕が肩アーマー内に収納され、露出している部分の腕の装甲の一角が開き、中から合体用のジョイントが現れる。
「ロード、ナックル!」
次いでロードナックル・クロが叫んでビークルモードにトランスフォーム。車体脇のアームに導かれる形で後輪が前輪側に移動、前輪を含めた4つのタイヤが整列し、車体後尾には合体用のジョイントが露出する。
そして、両者が交錯し――
『《ゴッド、リンク》!』
3人の叫びと共に、マスターコンボイの右肩に連結する形で、右腕に変形したロードナックル・クロが合体する!
左手にブレードモードに戻ったオメガを握りしめ、拳が異様に巨大な右腕を振るい、3人が高らかに名乗りを上げる。
『《ナックル、コンボイ!》』
「またその形態か!
二番煎じは、芸がないぞ!」
スバルやロードナックル・クロと合体し、姿を現すのは先ほどとは左右が逆転したナックルコンボイ――言い放ち、ジェノスラッシャーがスバル達に襲いかかるが、
「ただの二番煎じと――」
「思わないでよ!」
そんな彼に、ロードナックル・クロが右手の巨大な拳で一撃。さらにスバルが渾身の蹴りで追撃を加える。
さらに、素早く背後へと振り返り、
《少しくらいは――オレも暴れさせてもらおうか!」
ナックルコンボイが“表”に出てきた。左手のオメガで、不意打ちを狙っていたジェノスクリームを弾き飛ばす!
《マスターコンボイさん、やるー♪》
「当然だ。
オレを誰だと思っている?」
はやし立てるスバルに笑みを浮かべてそう答え、ナックルコンボイは再度地を蹴り、ジェノスラッシャーやジェノスクリームへと襲いかかっていく。
もはや戦いはスバル達の独壇場だ。めまぐるしく主人格を、スタイルを入れ替えてくるスバル達に、ジェノスクリーム達は完全に翻弄されている。拳が、蹴りが、斬撃が、次々に相手に叩きこまれていく――
(なるほどな……)
そんな中、ナックルコンボイは内心でひそかにほくそ笑んでいた。
(思っていた通りだ……
今までよりも格段に戦いやすい……おもしろいように攻撃が決まる……)
そんな彼が思い出すのは、屈辱的な敗北を喫した“あの晩”の出来事。そして――その際にジュンイチに言われた言葉だ。
『“お前はコンボイだ”――そのことと、今のこの状況。二つのつながりが何を意味するのかを、もう一度よく考えろ』
(ようやくわかった……ヤツの言いたかったことが)
スバルのコントロールで振るわれた拳が、ジェノスクリームを吹っ飛ばす――その光景をどこか他人事のように眺めながら、ナックルコンボイはひとり納得していた。
(そうだ……オレはコンボイになった……守るために戦う戦士となった。
だが、オレは……ヤツらと共に戦っていることを、見落としていた……!
スバル・ナカジマ達とのゴッドオンも……アイツらを守るための力としか見ていなかった……
共に戦っていたというのに……オレは、アイツらを守って、ひとりで戦っている気になっていた……!
かつてなのはに対して偉そうに説教していながら、オレもまた、アイツらを“仲間”として見ていなかった……)
間合いが斬撃に最適な距離になった――意識を切り替えると素早く主導権を受け取り、ジェノスラッシャーにオメガで一撃。今度はロードナックル・クロに主人格を譲り、思考を再開する。
(仲間を守り、仲間と共に戦う……それが“守る者”であるコンボイの姿……
ゴッドオンしなければ全力を出せないオレは、その姿勢をもっとも強く体現する存在とも言える。
そんなオレが、たったひとりでノコノコ出ていったのでは……当然、負けるに決まっているか。相手があの柾木ジュンイチでなかったとしても。
“仲間と共に戦い、仲間と共に強くなれ”――それを伝えるために、ヤツはあの茶番を仕組んだワケか)
正直、ジュンイチの掌の上で踊らされた感があるのは否めない――さらにその思惑に乗るしかないとくればなおさら気に入らない。
だが、それでも――
(いいだろう……)
「強くなって、やろうじゃないか!」
ロードナックル・クロから主導権を受け取りながら声に出し、ナックルコンボイはジェノスクリームを蹴り飛ばす。
《マスターコンボイさん?》
「気にするな。
単に、自分の中で問題がひとつ決着しただけだ」
尋ねるスバルに答え、ナックルコンボイは彼女と交代。主導権を得たスバルは打ちのめされたジェノスクリーム達へと向き直る。
《さぁ……とどめといこうじゃないか!》
「おぅよ!」
「はい!」
『《フォースチップ、イグニッション!》』
ナックルコンボイとスバル、そしてロードナックル・クロの叫びが交錯し――セイバートロン星のフォースチップが飛来した。そのまま、ナックルコンボイのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
それに伴い、ナックルコンボイの両足と右肩、そして右腕となったロードナックルの装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
そう告げるのはナックルコンボイのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
再び制御OSが告げる中、スバルは右拳をかまえ、
「いっけぇっ!」
思い切り地を蹴った。レッグダッシャーのホイールが唸りを上げ、一直線にジェノスクリームへと突っ込んでいく。
そして――
「鉄拳――」
《爆走!》
「マグナム、テンペスト!」
渾身の力で、その右拳をに向けて叩きつけ――はね飛ばす!
すぐ脇を駆け抜け、急停止したスバル達の背後で、大地に叩きつけられたジェノスクリームはなんとか身を起こすが――
『みんなの拳に――』
《撃ち砕けぬものなし!》
スバルとナックルコンボイ、そしてロードナックル・クロの言葉と同時、絶叫と共に巻き起こる大爆発――周囲でくすぶっていた残留エネルギーが大爆発を起こし、ジェノスクリームは空の彼方まで吹き飛ばされる!
「ぐ…………くっ、そぉっ!」
それでも、ジェノスラッシャーはなんとか意識を保っていた――ビーストモードでジェノスクリームの背中をつかみ、そのまま空の彼方に離脱していく。
「逃げたか……」
そんな彼らの後ろ姿を確認してつぶやき――ナックルコンボイは自分の右手に視線を落とし、
「…………またか……」
右腕で、虹色の魔力光がパチパチとくすぶっているのを見て、誰に告げるでもなくそうつぶやいた。
「よし、撃破!」
「逃げられちまったみたいだけど……ま、こんなもんかな?」
離脱を許してしまったが、文句なしの圧勝だ。ロードナックル・クロと共に満足げにうなずきながら、スバルは周囲を見回した。
しかし、探している相手の姿はすでになく――
「やっぱり……ナンバーズにも逃げられちゃったね」
「まぁ……ヘタに欲出してたらジェノスクリーム達に付け込まれてただろうし、最初からあきらめるしかなかったんじゃね?」
告げるスバルにそう答えると、ロードナックル・クロはナックルコンボイから分離。次いでスバルもゴッドオンを解除し、マスターコンボイの前に降り立つ。
「やはり……自分の“身の上”からして、ヤツらと戦うのは気が引けるか?」
「うん……やっぱり、ね」
尋ねるマスターコンボイに対し、スバルは思わず視線を落とすが――
「だが……止めたいんだろう?」
「え………………?」
「なら、止めればいい」
思わず顔を上げるスバルに対し、マスターコンボイは背を向け、告げた。
「貴様がそうしたいなら――力を貸してくれるヤツはいる。
そいつらと進めばいい。ティアナ・ランスターや、エリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエに、アスカ・アサギ――」
「それに……オレもいる」
「え………………?」
その言葉に、一瞬自分の耳を疑う――スバルが顔を上げると、マスターコンボイはこちらに背を向けたまま、
「行くぞ。
出番のなかった隊長どもに、今回の報告をしなければなるまい」
「…………はい!」
「なんつーか……間近で強さを見せつけられた感じだな」
「見立て、大幅修正っスねー」
立ち去るマスターコンボイに、スバルを先頭にフォワード陣が続く――その後ろ姿を、気配を隠しつつ廃ビルの上から眺め、ウェンディはゴッドオンを解いたセインにそう答えた。
「分断して叩くっつー、さっきのウェンディの対抗策案、本気で煮詰めた方がいいかもな。
連携どころか、合体してひとつになられちゃ、分断もクソもないからな……」
「そうっスね」
つぶやくセインにウェンディがつぶやき――二人はセインの“ディープダイバー”によってビルのコンクリートの中へとその身を沈めていった。
「んー……報告もこれで終わり、と……」
「ご飯食べて、お風呂に入って♪」
「相棒の手入れして、寝よっか?」
『はい!』
今回の出動に対する報告書の提出も完了。背伸びしてつぶやくティアナの脇で、スバルとアスカの提案にエリオやキャロが元気にうなずく。
と――
「先に戻らせてもらうぞ」
そんな彼女達の脇を、ヒューマンフォームのマスターコンボイはスタスタと通り抜けていく。
「あれ?
マスターコンボイさん、晩御飯はいらないんですか?」
「今日は食物摂取ではなくエネルゴンチャージで済ませる」
せっかく距離が縮まったと思ったのに――残念そうに尋ねるスバルに対し、マスターコンボイはそう答え、付け加える。
「ひとり……早めに伝えなければならないことがあるヤツがいるんでな」
「はーい……って、マスターコンボイさん?」
「おぅ」
自室のドアをいきなり誰かがノックして、「インターホンを使えばいいのに」などと思いながら出てみればそこにいたのは意外な相手――首をかしげるなのはに対し、マスターコンボイはあっさりとそう応じた。
「どうしたんですか?」
「ヴィヴィオはいるか?」
「なーにー?」
尋ねるなのはにマスターコンボイが聞き返すと、その声を聞き取ったのか、当の本人が姿を見せた。
「どうしたの?」
「貴様の疑問に、答えてやろうと思ってな」
ヴィヴィオの問いに答えると、マスターコンボイは彼女の前に屈みこんで目線の高さを合わせ、
「出かける前に聞いていただろう。『誰とゴッドオンした姿が一番強いのか』とな。
その答えが出た」
「誰なんですか?」
これには彼女も興味をひかれたか、ヴィヴィオよりもなのはが食いついてきた――苦笑しながらも、マスターコンボイは告げた。
「全員だ」
「全員……?」
しかし、出てきた答えはスバル達の誰の名でもなかった。首をかしげるなのはに、マスターコンボイはそう答える。
「ゴッドオンしていようがしてなかろうが、誰とゴッドオンしていようが関係ない。
アイツらみんなと共に戦うオレが、最強なんだ――アイツらの誰が欠けても、今のオレは最強になれない」
「………………?」
「やはりすぐには意味を理解できんか。
だが、そのうちわかるさ。貴様に仲間ができればな」
首をかしげるヴィヴィオに答えると、マスターコンボイは息をついて立ち上がり、
「で……貴様はなぜにフリーズしている?」
「だ、だって……
言いたくないですけど……マスターコンボイさんが、絶対に言いそうにないセリフだったから……」
「『絶対に』とまで言うか、貴様……」
まぁ、その気持ちは自分でもよくわかるのだが――なのはの言葉にため息をつき、マスターコンボイは軽くこめかみを押さえ、
「一応言っておくが……本気で言ってるからな? オレは」
「本気、ですか……?」
「本気、だ。
ついでに言えば正気でもある」
「………………」
マスターコンボイの言葉に、なのははしばし沈黙し――突如再起動すると通信をつなぎ、
「フェイトちゃん!
大変だよ! お赤飯炊いて! 祝賀会の準備して!」
〈ど、どうしたの!? なのは!?〉
「マスターコンボイさんが……マスターコンボイさんが……
ついに、ついに……仲間の大切さに気づいてくれたの!」
〈ホントに!?
わかった! すぐに準備するよ!〉
「みんなにも連絡して! 大々的にお祝いしなきゃ!」
「な、なのはママ? フェイトママ……?」
「どうせロクなリアクションしないだろうとは思っていたが……予想以上だな」
なのはのその言動に、フェイトもまた何の迷いもなく乗ってきた――大げさに騒ぐ二人の母親を前に戸惑うヴィヴィオの脇で、マスターコンボイは処置なしといった様子で首を左右に振ってみせる。
「そんなに大事か。オレが仲間というものを学習したことが……
それなりに認めるところがあれば、オレとて受け入れないこともないというのに……」
つぶやき――不意にマスターコンボイは窓の外へ、すでにすっかり日の落ちた夜空を見上げた。
(しかし……“学習”か……
やれやれ。ここに来て、オレも学ぶことになるとはな……)
胸中で苦笑するが――悪い気はしない。
(確かに、今のオレでは“ヤツ”には遠く及ぶまい。
だが――)
なぜなら、それ以上に――
(いつか、超えてやるさ。
スバル・ナカジマ達と共に、さらなる高みに至って、な……
その時こそ、改めて貴様を墜とす。覚悟していろ、柾木ジュンイチ……)
見えてきた“目指すべき目標”に対する、血潮のたぎりを感じていたから――
「ジェノスクリーム達がやられたそうだ」
「まぁ……予想はしていたがな……」
作戦も何もなく、ただ私怨に駆られての出撃だ。それでは勝てる戦も勝てるものではない――告げるショックフリートに、ブラックアウトはため息まじりに肩をすくめてみせた。
「“アレ”は使ったのか?」
「使わなかったようだ。
幸いと言えば幸いか……あの二人の“アレ”は、こちらの切り札のひとつだからな」
「そうだな。
それに……」
答えるショックフリートの言葉に満足げにうなずき、ブラックアウトは視線を下に向け、
「あの二人が派手に動いて、敵の目を引き付けてくれたおかげで、こちらはスムーズにいったワケだしな」
「あぁ。
おかげでいい“サンプル”も手に入った」
ブラックアウトにそう答えると、ショックフリートもまた眼下のそれへと視線を向けた。
彼らが見つめるその先には――
レッケージらディセプティコン前線メンバーによって破壊された、ガジェットの隠しプラントの残骸が広がっていた。
マスターコンボイ | 「覚悟していろ、柾木ジュンイチ…… オレは必ず貴様を倒す!」 |
はやて | 「って、それ、典型的なライバルフラグやと思うんよね、私」 |
マスターコンボイ | 「は?」 |
スバル | 「あー、なんかそんな感じしますよね」 |
マスターコンボイ | 「何?」 |
はやて | 「で、なんやかんやと意地張ってるうちに友情とか芽生えて……」 |
マスターコンボイ | 「ちょっと待て?」 |
スバル | 「最後には二人で強大な敵に立ち向かう! 燃える展開ですよね!」 |
はやて | 「せやろせやろ!」 |
マスターコンボイ | 「何の話をしている、貴様ら!?」 |
スバル | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第56話『新たなる絆〜2ndライナーズ、出発進行!〜』に――」 |
3人 | 『ゴッド、オン!』 |
(初版:2009/04/18)