「……どう思います?」
「フォートレスの見立ての通りだろうな」
尋ねるはやてに対し、イクトは手元のレポートから視線を外さずにそう答えた。
「というか……できればグラシア達に報告する前に見せてもらいたかったな。
専門家のフォートレスの目を疑うワケではないが……できるだけ多くの目で検証し、確実性を高めてから報告すべきだろう。
“こういう話”では特にな」
「あー、そこは勘弁していただきたいんですが。
フォートレスの方からの検証結果が上がってきたんが、割とギリギリだったもんで、イクトさんやユーノくんに見てもらう時間までは取れんかったんですよ。
で、報告した後、フォートレスにもう一度追跡調査してもらって、仕上がった正式な報告書が……」
「今オレが見ている、“これ”というワケか……」
はやての言葉に息をつき、イクトは改めてレポートへと視線を落とした。
「しかし……またとんでもない事実が出てきたな。
証拠物件なしにこのレポートを見せられても、信じられる人間は少ないと思うぞ」
「ですよねー」
告げるイクトの言葉に、はやてはデスクの上で頬杖をつき、
「私も、フォートレスに言われるまで気づけませんでしたし……」
「まぁ。それが当然だろう。
トランステクターの“正体”が、まさか……」
はやての言葉にイクトが答えかけた、その時――突然はやてのデスクの端末が通信の着信を知らせた。
「はい、部隊長室」
〈八神部隊長……少しよろしいですか?〉
応答するはやての正面にウィンドウが展開――そこに映し出されたのはグリフィスだった。
〈ガジェットの隠しプラントを追っていた、シグナム副隊長からの緊急連絡なのですが……〉
「んっ、んー……終わったぁ……」
終業を知らせるチャイムが鳴り響く陵桜学園――大きく背伸びし、かがみは安堵の息をついた。
さっそく帰ろうと、教科書や筆記具をカバンの中に放り込み――
「なーなー、柊ぃ!」
声を上げ、寄ってきたのはクラスメートの日下部みさおである。
「ヒマかー? ヒマだよなー?
たまには一緒にカラオケでもいこーぜー♪」
「あー、ゴメン。
今日もちょっと用事があるから……」
用件は遊びの誘い――かなり高めのテンションで誘いに来るみさおだったが、かがみはあっさりとそれを一蹴した。
むろん、かがみの言う『用事』が“カイザーズがらみ”であることは言うまでもないことだが――
「何だよ、柊ぃ。
最近ずっとそればっかじゃんかよぉ」
当然、そんな理由をそのものズバリ説明できるはずもない。明確でない理由で自分の誘いをのらりくらりとかわされているみさおは、かがみの言葉にぷぅと頬をふくらませてみせる。
「なーなー。“用事”って何なんだよぉ。
教えてくれたっていいじゃんかぁ」
「そ、それは、えっと……」
もう「教えてくれるまで放さないぞ」とでも言わんばかりに詰め寄ってくるみさおに、かがみは思わず返事に窮し――
「ダメだよ、みさちゃん」
そうみさおを止めたのはみさおの親友にして彼女と同様にかがみのクラスメートである峰岸あやのである。
「柊ちゃんも困ってるじゃない。
みさちゃんだって、秘密にしてることを根掘り葉掘り聞かれたらイヤでしょ?」
「あたしは隠し事なんかないから平気だよ!」
「そう?
こないだのみさちゃんのテストの点数とか……」
「いや、そうだな!
誰だって秘密にしたいことの10や20はあるよな?」
「そんなにあるの? アンタの隠したいことって……」
あやのの言葉にすかさず手のひらを反すみさお――180度ガラリと変わったその態度と発言の内容に、かがみは思わずツッコミを入れる。
「とにかく……ホントにゴメン。
その内時間作って、みんなで行こう。ね?」
「ったく、しょうがないなー。
今日は見逃してやっから、また今度ちゃんと付き合えよ!」
ともあれ、改めて頭を下げて教室を出ていくかがみの後ろ姿にみさおが念を押す――かがみの姿が廊下に消えた後、みさおはため息をついてあやのに告げる。
「うぅ〜、あやのはいっつも柊には甘いよなぁ〜……」
「みさちゃんだって」
だが、あやのは口をとがらせるみさおに対してあっさりとそう答えた。
「みさちゃん、ここのところ忙しそうにしてる柊ちゃんを見かねてたから、息抜きに、と思って誘ってあげたんでしょ?」
「む〜〜……」
あやのの指摘は図星だったらしい。どこか気まずそうに、みさおはぷいとそっぽを向く。
そんな彼女にクスリと苦笑し、あやのはかがみの出ていった廊下に視線を向けた。
「大丈夫だよ。
何をしてるかは知らないけど……柊ちゃん、すっごく充実した顔してたし」
「そーゆーもんか?」
「そういうものだよ」
イマイチピンとこないのか、首をかしげてみせるみさおに対し、あやのは優しく微笑みながらそう答えた。
第56話
新たなる絆
〜2ndライナーズ、出発進行!〜
「ごめん、お待たせ!」
「なんのなんの。気にしなくてもいいよ」
みさお達と別れ、校門で待っていた“仲間達”と合流。出遅れたことを謝罪するかがみに、つかさやみゆきと共に待っていたこなたは笑いながらそう答えた。
「私達も今来たばっかりだし……まだ全員そろったワケじゃないし」
言って、こなたが顔を上げる――その視線を追ってかがみが振り向くと、
「お姉ちゃん、ごめーん!」
「お待たせしましたー!」
ゆたかやひよりが声を上げ、みなみと共にパタパタと駆けてきた。
「ゆたかちゃん達……今日も?」
「はい。
アルテミスさんから、魔法とかトランスフォーマーのこととか……」
尋ねるかがみに、ゆたかは笑顔でそう答える――アルテミスによる魔法やトランスフォーマー、ゴッドマスターについての講義、通称“アルテミス教室(命名:こなた)”は、未知の世界を知ったばかりのゆたか達にはいい刺激になっているようだ。
「じゃ、みんなそろったことだし……行こうか♪」
場を取り仕切るこなたの言葉に一同がうなずき、彼女達は一路、アルテミスから指定された転送ポイントに向けて移動を開始した。
「ディセプティコンが、ガジェットのプラントを襲撃したやて!?」
〈はい〉
報告を受け、思わず声を上げるはやてに対し、シグナムは沈痛な面持ちでそう答えた。
〈プラントと共に破壊された、カモフラージュに使われた施設の監視システムに記録が残っていました。
間違いなく……ディセプティコンの仕業です〉
「そっか……
わかった。それじゃ、できるだけ詳細に調査して、詳しい報告を頼むな」
〈了解した〉
はやての指示にはスターセイバーが答える――通信を切ると、はやてはイクトに尋ねた。
「どういうことでしょうか? イクトさん」
「こちらの戦闘でも、ナンバーズがディセプティコンに襲撃されていたそうだ。
この間の旧市街での大規模戦闘をきっかけに、両者の対立は決定的なものになった――そう見て間違いはないだろう。
ただ……」
はやての問いに答え、イクトは自分の見ていた報告書をパシッ、と叩き、
「この事実をヤツらがどれだけ知っているかで、優劣関係は明らかに変わる。
どちらも知らなければよし、どちらかが知っていれば知っている方が有利。
だが、どちらも知っていた場合――」
「最近知ったばかりの……言い方を変えれば、明らかに出遅れている私らが明らかに不利ですね……」
答えるはやての言葉にうなずき、イクトはため息まじりに提案した。
「八神……テスタロッサ達を集めろ。
少なくとも、隊長格にはこの報告書のことは伝えておくべきだ」
「はい」
「……ジュンイチ」
光学迷彩を施した移動拠点を森に潜ませ、のんびりと休息中――少し離れた湖に釣り糸を垂らしていたジュンイチに、やってきたイレインが声をかけてきた。
「どうした?」
「前回の戦闘で出張ってきた、ナンバーズの新顔の子……あの子のデータのことなんだけど」
「あぁ、問題ないぜ。
ちゃんと蒐集済み――“蜃気楼”のデータ解析システム、問題なく動作してたぜ」
「いや、あたしが言ってるのは“蜃気楼”の蒐集テストの結果じゃなくて……こっちでも解析したいから、データを転送してくれって言ってんのよ」
「あー、そゆコト」
イレインの言葉に納得すると、ジュンイチは首から提げていた漆黒の宝石を取り出し、
「“蜃気楼”」
《了解いたしました、マスター》
日本語でジュンイチに答えると、“蜃気楼”はデータの更新を開始する――再び“蜃気楼”を懐にしまい、釣りを再開するジュンイチに、イレインは気を取り直して尋ねた。
「で……こっちはどうなの? 釣果のほどは」
「大漁」
答えるジュンイチに対し、イレインは彼の傍らのクーラーボックスをのぞき込み、
「……何よ、空っぽじゃない。
どこが大漁だってのよ?」
イレインのその問いに、ジュンイチは無言で右手を指し――その先では、湖岸に仕掛けられた魚獲り用のワナに大量の魚がかかっていた。
なるほど、確かに「大漁」というジュンイチの言葉に偽りはないが――
「……釣る意味、ないんじゃない?」
「オレもそー思う」
ツッコむイレインに答えると、ジュンイチは軽く肩をすくめ、
「ま、釣るために釣り糸垂らしてるワケじゃねーからな。
考え事をするために――集中するのにちょうどいいからやってるワケで」
「『考え事』……?」
ジュンイチの言葉に眉をひそめると、イレインはしばし考えた後にジュンイチに尋ねた。
「それって……こないだのV型改のこと?」
「あぁ」
あっさりと、しかし渋い顔でジュンイチはうなずいてみせた。
「あのスカ公が、『単なるサルマネ』なんてチャチな発想であんなのを作るとは思えない。必ず何かしらの意味があったはずだ。
あれが何かしらの目的で足をつけた結果の“偶然の類似”ならまだいいんだけどさ……もし、今まで以上に“オリジナル”の技術をフィードバックし始めた、その結果だとしたら……」
つぶやき、ジュンイチは頭上に広がる青空を見上げた。
しばし思考をめぐらせて――イレインに告げる。
「…………イレイン。
少しの間出てくる。留守を頼む。
“マグナ”の開発は一時凍結。“蜃気楼”のためのデータ収集と、ホクトのブレーキ役に徹してくれ」
「それはいいけど……どこいくのよ?」
そう聞き返すイレインに対し、ジュンイチは答えた。
「“マグナ”を仕上げるために……」
「ちょっと、“アイツ”に泣かれに行ってくる」
〈航路正常。
目的地到着まで、あと4時間25分です〉
〈時限流の乱れ、ありません〉
ブリッジクルーの報告が飛び交う、航行中のクラウディアのブリッジ――艦長として中央に陣取り、クロノはそれらの報告に耳を傾けていたが、
「艦長、通信が入ってますが……」
「そうか。ありがとう」
不意に、通信士が通信を取り次いできた。応え、クロノは通信をつなぐ。
「はい。艦船“クラウディア”艦長、クロノ・ハラオウンです」
〈やぁ、クロノくん。
アコースです♪〉
「ヴェロッサか……どうした?」
〈なに、いつもの世間話タイムだよ。
機動六課のアレコレとか含めて、ね〉
通信してきたのはヴェロッサ――聞き返すクロノに答え、ヴェロッサはさっそく本題に入った。
〈こっちにも話が来てた、高町なのはが保護責任者になった子供……ヴィヴィオだっけ?
あの子の引き取り手の件だけど……〉
「あぁ、どうだった?」
〈やっぱりダメだね〉
尋ねるクロノだったが、ヴェロッサは肩をすくめてそう答えた。
〈ユーノ先生にもうかがったりして、いろんなところをあたってみたんだけど……引き取り手はかすりもしない〉
「まぁ、そうだろうな……
普通の子供ですら、そうそう見つかるものじゃないしな……」
〈不幸な子供っていうのは、後を絶たないものなんだね……〉
「増して、“普通”と違う部分を持って生まれた子なら……余計に行き場をなくしやすい……」
そこまで言って――クロノは思わず動きを止めた。
目の前のヴェロッサの“家庭の事情”――彼とカリム達が“どういう関係”なのか――
「…………すまない。浅はかだった」
〈え…………?〉
頭を下げるクロノだったが、これにはむしろ、当のヴェロッサの方が困惑していた。クロノの言いたいことに気づけず、しばし視線をさまよわせるが、
〈…………あぁ、なんだ、ボクのことか〉
ようやく合点がいった。ポンと手を叩き、ヴェロッサは笑いながらクロノに告げる。
〈ボクもまぁ、不幸と言えば不幸な生まれだったけど……今の人生は実に充実しているんだ。
気を遣ってもらっても、キョトンとするばかりだよ〉
「…………あぁ」
本当になんとも思っていない。本当に今の自分に満足しているのが言葉を通じて伝わってくる――心からの充実感と共に告げるヴェロッサの言葉に、クロノは自分の気遣いが杞憂であったことに安堵の息をつく。
〈グラシア家に拾われて育ててもらって、家名も能力も捨てることなく、それなりの職につけて……今はこうして、心許せる友人やカワイイ妹分、さらに一緒にいても離れていても退屈しない、頼れる兄貴分までいる。
悩みの種といえば、“妹分”が生意気なのと、おっかない“教育係”がすぐに暴力を振るうことぐらいでね〉
「ハハハ……違いない」
相変わらず、ヴェロッサもあの二人もお互いに手を焼いているようだ――ヴェロッサの言葉に、クロノは思わず苦笑する。
そして――天井を見上げ、彼は心からの願いを言葉にして表した。
「ヴィヴィオにも……そんな“家族”ができるといいんだがな……」
〈本当に、ね……〉
「えっと、つまり……トランステクターって、最初から特定の適格者の専用、ってワケじゃないんですか?」
《はい。
プロトフォーム――つまりモチーフをスキャンする前の状態では、その設定はまったくのニュートラル。通常はスキャニングの際、最も近くにいるゴッドマスターに合わせて自動でシステムの調整が行われ、そこで初めて、そのゴッドマスターの専用トランステクターとして確定するんです。
こちらの使用するトランステクターで言えば……こなたさんのカイザージェットがそれにあたりますね》
今日の“アルテミス教室”はトランステクターについて――確認するひよりに対し、アルテミスは改めてそう説明する。
《しかし、人為的にスキャナを起動し、手動でスキャニングを行った場合、ゴッドマスターが近くにいるとは限らないため、システム調整は行われない場合があるんです。
その場にゴッドマスターがいれば先に挙げた例と同じく、すぐにそのゴッドマスターに合わせた調整が行われますが、そうでない場合は後日、ゴッドマスターとの接触が確認された際に、改めてシステム調整が行われることになります》
「それって……かがみさん達の?」
《はい。
かがみさんのライトライナー、つかささんのレンジャーライナー、みゆきさんのロードライナーの3機……すなわち“ライナーズ”の機体が、今説明した流れで適格者を得ています。
そして……》
ゆたかの問いにそう答えると、アルテミスは傍らにウィンドウを展開。その中に2機の列車型トランステクターの姿を映し出した。
SL型とN700系型――かつてかがみ達のトランステクターと共に回収されたものの、未だに主に巡り合えていない2機である。
《この2機、“アームライナー”と“ニトロライナー”がニュートラル状態。
スキャニング性能のテストのためにスキャンだけはしてあるんですけど……まだ適格者が見つかっていないんです》
「そういえば……ずっと探してるわよね?」
「ゴッドマスターのパーソナル情報がニュートラル状態……ってことは、ゴッドマスターを見つけて登録するだけでしょ?
フリーのゴッドマスターさえ見つければOKなんだし……簡単に見つかりそうなものなんだけどねー」
《そうは言いますけど……私達はディセプティコンと違って、ゴッドマスターを見つけ出すための“手がかり”を何ひとつ持っていないんですよ。
増してや、トランステクターと出会っていない――すなわち未覚醒のゴッドマスターを見つける、となると……》
口をはさんでくるかがみやこなたに答えると、アルテミスは彼女達を見回し、
《まぁ、この2機については置いておくとして……今は稼働しているこなたさん達のトランステクターの話。
基本的に、トランステクターがそれぞれのゴッドマスターに合わせて自らのシステムを調整するのは、今説明したとおりなんですけど……そうなれば、当然それぞれの機体にもゴッドマスター各自の個性というものが機体特性として反映されてくるワケです。
そういった“個性”があるからこそ、作戦行動中にそれぞれの持ち味を生かしたフォーメーションが可能となる……と。
そこで……》
言って、アルテミスは両手をポンと打ち合わせ、
《ここからは、こなたさん達のトランステクターとそのゴッドオン形態について解説していく予定だったんですけど……ちょうどいいですから、みなさんのスタイルについてもまとめて説明していくことにしましょうか》
「え? 何? スタイル?」
「何やら目を輝かせているが……『身体の〜』ではないからな」
アルテミスの言葉に何やら期待を込めた視線を向けるこなたに対し、黙って“講義”を聞いていたスカイクェイクがツッコミを入れる。
「ここでアルテミスが言っているのは戦い方――戦闘のスタイルについてだ。
アルテミス……ついでだ。こいつらのフォーメーションにおけるポジションについても説明してやれ」
《はい。
じゃあ、まずは……》
スカイクェイクに答えると、アルテミスは目の前の空間パネルに指を走らせ――ウィンドウの映像がライトライナーのそれに切り替わった。さらに左右に画面が分割され、もう一方にはライトフットの姿が映し出される。
《かがみさんのトランステクター“ライトライナー”とゴッドオン形態“ライトフット”。
ビークルモード、ロボットモードを問わず、陸戦における加速力に重点を置いた地上高速型。素早い動きで相手の懐に飛び込み、専用銃“ライトショット”を撃ち込む近接射撃戦が主な戦闘スタイルですね。
必殺技は、ライトショットにフォースチップのパワーをすべて集めて発射する高出力エネルギー弾“ハウリングパルサー”……》
映像の中では、かがみのゴッドオンしたライトフットがガジェットの群れにハウリングパルサーを放つ――その光景に、みなみは思わず首をかしげた。
「これ……直撃を受けていないガジェットも爆発してませんか?」
「あー、ハウリングパルサーは、光弾の周りにもエネルギーをまき散らしてるから。
たとえ直撃は受けなくても、エネルギーに巻き込まれるだけでも、ガジェット程度じゃひとたまりもないワケよ」
「ま、ウィングガンダムのバスターライフルと似たようなもんだねー」
みなみに答えるかがみにこなたが付け加えるが――こなたの例えが通じたのは「あぁ」と手を叩くひよりのみ。他の面々は一様に首をかしげるばかりだ。
《ま、まぁ……こなたさんの趣味丸出しのたとえはともかくとして……》
そんなこなた達の姿に苦笑し、アルテミスが次に表示したのは先日の機動六課ライトニング分隊との共闘の際の、バリアジャケットを装着したかがみの姿だ。彼女の手もとの、拳銃型デバイスをズームアップし、
《かがみさんの使うデバイスは“クーガー”。拳銃型のインテリジェントデバイスです。
射程と威力を引き換えにして速射力、弾速を向上。さらにデフォルトで組み込んである身体強化魔法を速度強化に比重を振る形でセッティング。ライトフットへのゴッドオン時と変わらない高速地上戦闘を展開することを可能としています。
そのスピードを活かし、中堅から前線までを幅広くカバーする、GWがかがみさんのポジションですね》
「うんうん。日頃からあっちこっちでフォローに走り回ってるかがみらしいポジションだよねー」
「誰のせいよ!」
茶々を入れるこなたの額を、かがみはたしなめながら軽く小突く――その一方で、アルテミスは次のデータを読み出し、ウィンドウにはレンジャーライナーがレインジャーへとトランスフォームする光景が映し出された。
《つかささんのポジションはFB。
重火器を多数装備した重装型のトランステクター“レンジャーライナー”にゴッドオン。“レインジャー”となっての砲撃支援が主な役割ですね。
必殺技は、フォースチップの力を込めた全身の火器の一斉発射による広域爆撃“レンジャービッグバン”です》
「支援用……っていうことは、単独での運用とかって考えてないんですか?」
《いえ。もちろん単独での作戦行動も可能です》
手を挙げて尋ねるひよりに、アルテミスは首を左右に振って否定を示した。
《重装型のお約束――レインジャーのもうひとつの“ウリ”はその強靭な防御力です。
物理的な装甲だけでもガジェット程度の攻撃では傷ひとつつきませんし……》
そう説明しながら、アルテミスは画面を切り替え――ガジェット群と単身戦うレインジャーの映像へと切り替えた。
レインジャーに対し、次々にガジェットは人工魔力砲で攻撃をかける。つかさの生来の気弱さからか反撃に転じられないレインジャーはなすすべなくその装甲で攻撃を受け止めるしかない――が、やがてその映像に変化が起きた。
突如レインジャーが防壁を展開、ガジェットの攻撃はその防壁にぶつかるや否や、まるでかき消されるように消滅していく。
《これがレインジャーの防御力を支える自動調整防壁“アナライズフィールド”。
相手の攻撃を解析し、その都度もっとも適した形に防壁のエネルギー組成を変化させることができるんです。
もっとも――そのためのプログラムがかなりの大容量なせいで解析データの保存が利かず、以前解析したことのある攻撃でもその都度解析し直さなければならないのが欠点と言えば欠点ですか》
「そうなんですか?」
「そうなの……
いつもいつも、アナライズフィールドが動いてくれるまでは撃たれてもガマンするしかなくて……痛くはないけど、すっごく怖いんだよぉ」
聞き返すゆたかにはつかさ本人が答える――苦笑し、アルテミスはメイド服を思わせるデザインのバリアジャケットに身を包んだつかさへと映像を切り替えた。
《つかささんのデバイスは“ミラー”。腕輪と中継用のビットで構成された、戦闘よりも通信管制に特化したタイプのインテリジェントデバイスです。
通信によってみんなをつなぐ――いつもこなたさん達の中でそれぞれの間を取り持ってくれている、ムードメーカーのつかささんにピッタリのデバイスになってます》
「“ミラー”……ひょっとして、その名前って……」
「うん。お姉ちゃんの名前からとったんだよ♪」
尋ねるゆたかに答えるつかさの言葉に、かがみは頬を赤くしてそっぽを向く――こなたがそれを冷やかしにくるが、口を開くよりも先に額にデコピン。出鼻をくじくとアルテミスへと向き直り、
「アルテミス、次は……やっぱりみゆき?」
《まぁ……流れを考えれば、当然そうでしょうね。
私としては、ここであえて飛ばしてこなたさんに行ってもいいんですけど♪》
「普通にお願いします」
アルテミスにまで茶化され、かがみはため息をついてそう答える――クスリと笑みを浮かべ、アルテミスはウィンドウにバリアジャケットをまとったみゆきの姿を表示した。
《みゆきさんのポジションはCG。やや後衛よりの中衛で、チーム全体の指揮官も兼ねるポジションです。
使用デバイス“ブレイン”もその特性を受け継ぎ、指揮管制能力に重点を置いた魔導書型を採用しています》
「何て言うか……みゆきさんにはピッタリの形状ですね」
「そ、そうでしょうか……」
みなみの言葉に、戦闘時の自分の雄姿を上映されているみゆきは少しばかり照れ気味にそう答え――その一方で、アルテミスは映像をみゆきのトランステクター、ロードライナーへと切り替えた。
《トランステクターは“ロードライナー”、ゴッドオン形態は“ロードキング”。指揮管制能力に優れていて、みゆきさんの指揮能力を強力にサポートしてくれる他、ロードライフルによる狙撃で後方支援もOK。懐に飛び込まれてもロードアックスで対応……と、戦力面でもバランスの取れた、汎用性の高い安定した機体ですね。
必殺技も遠近両方備えていて、ロードライフルによる高威力狙撃“スナイピングポルト”とロードアックスによるエネルギー斬撃“アックスブレイク”の二つです》
「うーん……さすがは完璧超人……トランステクターも万能型ですか……
いつもいつも、みゆきさんは本当にスペック高いねー♪」
「い、いえ……そんなことは……」
口笛を吹いて絶賛する自分の言葉に、みゆきは真っ赤になって縮こまってしまう――そんなみゆきの姿にニヤニヤと笑みを浮かべ、こなたはゆたか達へと向き直り、
「とまぁ……かがみん達“ライナーズ”のトランステクターは今説明した3機。
でも……この3機には、もうひとつ、すっごい秘密があったりするんだよ♪」
「すごい、秘密……?」
こなたの言葉にゆたかが首をかしげると、
「フフフ……見えた。見えたっスよ、泉先輩!」
不敵な笑みを浮かべ、ひよりが会話に割り込んできた。ビシッ! とこなたに右の人指し指を突きつけ、
「ズバリ! 『先輩達のトランステクターは合体可能である』!
どうっスか? 泉先輩」
「ふぁいなるあんさー?」
「う゛…………っ」
自信タップリに尋ねるひよりだが、すかさず切り返されてはその自信も揺らぐ――背後にお昼にテレビで人生相談をやっていそうな、全日本的に有名なおじさんの姿を幻視させつつ尋ねるこなたに、ひよりは思わず気圧されてしまう。
「ふぁいなる……あんさー?」
「ふ……ファイナルアンサー!」
改めて尋ねるこなたに、ひよりは意を決してそう答える。
が――こなたはなかなか正否を明らかにしない。元ネタそのままに逆らいがたい威圧感をまといながらひよりをジッと凝視する。こなたがわずかに動くたび、ひよりはもちろん、ゆたかやみなみまでもがビクリと反応してしまう。
頼むから不意にあさっての方向を向いてため息をつくのはやめてほしい――元ネタが分かっていてもこれはキツイ。
答えた方がいいのかとオロオロするつかさやみゆき、「この子はまたバカをやらかして……」とため息をつくスカイクェイクとかがみ。ただ単に状況を楽しんで高みの見物を決め込んでいるアルテミス――“正解”を知る面々のそれぞれのリアクションをよそに、こなたは大きく息をつき――
「…………正解!」
「やったぁーっ!」
正解した喜びよりもプレッシャーから解放されたことの方が大きかった――大きくうなずきながら告げるこなたの言葉に、ひよりは思わず両手を挙げて歓喜の声を挙げる。
「今ひよりんが言ったとおり、ライトフット、レインジャー、ロードキングの3体は合体して1機の巨大ロボになれるの。
アルテミスさーん♪」
《わかってますよ♪》
声をかけてくるこなたの言葉に、アルテミスは手際よく映像データを呼び出し――ウィンドウの映像にはかがみ達のゴッドオンしたライトフット達の姿が映し出された。
「ライトフット!」
「レインジャー!」
「ロードキング!」
かがみが、つかさが、みゆきが――3人が名乗りを上げ、頭上に大きく跳躍し、
『ゴッド、リンク!』
咆哮と同時、3人がゴッドオンしたまま分離、変形を開始する。
かがみのゴッドオンしたライトフットは両足が分離、両腕を後方にたたんだライトフットの両側に合体し、より巨大な上半身へと変形する。
一方、つかさのレインジャー、みゆきのロードキングはそれぞれ上半身と下半身、さらにバックユニットの三つに分離、下半身は両足がビークルモード時のように合わさってより巨大な両足に。さらに二つの下半身が背中合わせに合体、下半身が完成する。
完成した下半身にライトフットの変形した上半身が合体、さらにそのボディの両横、右側にレインジャーの、左側にロードキングの上半身か合体、内部から二の腕がせり出し、両肩が形成される。
そして、現れた二の腕にレインジャーとロードキングのバックユニットが合体。拳がせり出し、両腕が完成する。
最後にライトフットの頭部により大型のヘルメットが被せられた。フェイスガードが閉じると、その瞳に輝きが生まれる。
すべてのシークエンスを完了。ひとつとなったかがみとつかさ、みゆきは高らかに名乗りを上げる。
『連結、合体! トリプルライナー!』
「……と、まぁ……これが私達が“連結合体”した合体戦士。名前は“トリプルライナー”。
私のスピード、つかさの火力と防御力、みゆきの情報力がひとつになった強力な形態で、必殺技はフォースチップのエネルギーで周囲に竜巻を発生。その勢いで身体を高速回転させてドリルキックを叩き込む“ライナートルネードスピン”よ」
映像の中ではちょうど、トリプルライナーが件の必殺技で巨大重機を貫くところだった――最初こそ乗り気ではなかったものの自分達の雄姿に気を良くしたか、意気揚揚と説明するかがみだったが、
「ちなみに最初の頃は、合体の度に勢い余ってジョイント部分を壊しちゃってたんだよねー♪」
「うっさいわね。いいところで横槍入れないでよ。
っつーか、さっきから事あるごとに好き勝手……アンタはいちいち茶々入れなきゃ話進められないワケ?」
口をはさんでくるこなたの言葉に頬を赤く染め、かがみはプイとそっぽを向くとため息まじりにツッコミを入れ――
《ともかく……3体合体で馬力も上がってますからね。かがみさん達の誰も持ち得ていなかったパワーまで獲得してます。
単純な性能だけで言えば、カイザーコンボイよりも上かもしれませんね》
「え゛………………?」
次の資料データを検索しながら告げるアルテミスの言葉に、こなたの表情が初めて強張った。
《トリプルライナーが飛べない、という点ではカイザーコンボイに分がありますが、それ以外では、ねぇ?》
「そ、そんなことはないよー。
私だって、マジメにやれば……」
「貴様のいつものノリから考えて、“マジメに”戦うのはむしろパワーダウンな気がするんだが」
アルテミスに対し反論の声を上げるこなただが、その言葉にはスカイクェイクがツッコんでくる。
「むー……じゃ、次はカイザーコンボイの紹介だよ!
ゆーちゃん達、私のカイザーコンボイがかがみ達のトリプルライナーにも負けてないってことを教えてあげるよ!」
「トランスフォーム!」
こなたの咆哮が響き、それに伴い、大空を飛翔するジェットが変形を開始する。
まず、後方の推進システムが後ろへスライド、左右に分かれ、尾翼類が折りたたまれると爪先が起き上がって人型の両足となり、さらにその根元、腹部全体が180度回転し、機体下部を正面にするように反転する。
続けて、機体両横、翼の下の冷却システムが変形。後方の排気口がボディから切り離されると内部から拳がせり出し両腕に。両肩となる吸気部は、両サイドのカバーが吸気口を覆うように起き上がり、カバー全体が肩アーマーとなる。
最後に機首が機体上部、背中側に倒れるとその内部からロボットモードの頭部が現れ、カメラアイに光が宿る。
「ゴッド、オン!」
そして、こなたが再び咆哮。同時にこなたの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてこなたの姿を形作り――そのままカイザージェットの変形したボディと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
背中の翼が上方へと起き上がり、ゴッドオンを終えたこなたは高らかに名乗りを上げる。
「熱き勇気と絆の力!
翼に宿して悪を討つ!
カイザーコンボイ――Stand by Ready!」
「これが私のゴッドオン! “カイザージェット”のトランスフォームした“カイザーコンボイ”!
スピード! パワー! 火力……はないけどその代わりに格闘能力! いろいろ備えた万能型!
まともに組み合えばトリプルライナーには譲るけど……合体前のかがみ達ならまとめて相手してあげてもいいくらい強いんだから!」
「とか言うけどねぇ……
さっき私達に偉そうに言ってたアンタだって、結局のところカイザーコンボイをフルパフォーマンスで使いきれてないじゃないの」
「パフォーマンスを発揮する以前の段階でコケてるかがみんには言われたくないもんねー♪」
ツッコんでくるかがみだが、こなたは笑いながらプイとそっぽを向いてやりすごし、
「で、必殺技は……」
「フォースチップ、イグニッション!」
こなたの咆哮が響き――ミッドチルダのフォースチップが飛来した。そのまま、カイザーコンボイのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
それに伴い、カイザーコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
カイザーコンボイのメイン制御OSがフルドライブモードへの移行を告げ――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出、さらにバックパックの推進部からも炎が噴出し、炎の翼となる。
頭上に掲げた右手、反対方向、真下に向けて伸ばした左手――それぞれの手を大きく半回転、描かれた円の軌道に“力”が流れて燃焼、発生した炎の輪が一気に火勢を増し、こなたの目の前で巨大な炎の塊となった。さらに勢いを増すと形を変え、巨大な鳳凰を形作る。
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
制御OSが告げる中、炎の翼を広げて飛び立ち、炎の鳳凰の頭部へと後ろから飛び込んで――
「いっ、けぇぇぇぇぇっ!」
鳳凰の口から、ランページに向けて強烈な勢いで撃ち出された。鳳凰を形作っていた炎を全身にまとい、自身の飛翔速度をはるかに上回る速さで身を起こしたランページへと突っ込み――
「紅蓮――蹴撃!
クリムゾン、ブレイク!」
ランページに向け、渾身の飛び蹴りを叩き込む!
同時、こなたの導いた炎の渦が襲いかかった。こなたの蹴りを受けたランページを飲み込み、その身体をブレイズケージの外壁をブチ抜いて外へと放り出し――
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
周囲でくすぶっていた残留エネルギーが大爆発を起こし、ランページは天高く吹き飛ばされていった。
「フォースチップのエネルギーを炎熱変換。足先に込めて飛び蹴りをお見舞いする“クリムゾンブレイク”!
“先生”の必殺技をちょっとアレンジしてみたんだけど……ちょっとひねりが足りなかったかな?」
自分がランページを蹴り飛ばす映像を背にし、こなたはゆたか達に対し、肩をすくめながら説明する。
「でもって、デバイスは楯と剣が一体化した楯剣型アームドデバイス“アイギス”と、高速機動用のローラーブレード型アームドデバイス“マグナムキャリバー”。
特にアイギスはサイズシフト機能を組み込んで、カイザーコンボイにゴッドオンしてる状態でも使えるようにしてあるから、何かと重宝させてもらってるんだよ」
《重宝してもらわなくては困りますよ。
私が作った、最高傑作のひとりなんですから》
説明するこなたに、アルテミスは苦笑まじりにそう告げる――その言葉に、ゆたかは思わず声を上げた。
「ひょっとして、お姉ちゃん達の……その、デバイスって言うんですか? それを作ったのって……」
《はい、私です》
尋ねるゆたかに対し、アルテミスは笑顔でうなずいてみせる。
「アルテミスさん、そういうのもできるんですか……?」
《えぇ。
こなたさんの“先生”――ジュンイチさんからいろいろと教わっていましたから》
ひよりの問いにアルテミスがそう答えると、
「あの…………」
不意に手を上げ、口をはさんできたのはみなみだ。
「アルテミスさんのデバイスのことに話が移ってしまってますけど……泉先輩のスタイルの解説が、まだ……」
「っと、そうだったね。
私は……」
みなみの言葉にうなずくと、こなたは腕組みしてしばし考え込み、
「…………ふーん……やっぱりFAかな? 前線に突っ込んで大暴れするの、何となく性に合ってるし。
こんな答えでいいかな?」
「あ、はい……」
説明するこなたにみなみがうなずくと、
「…………果たして、そうかな?」
そう口をはさんできたのはスカイクェイクである。
「どういうこと? スカイクェイク」
「貴様のポジションは確かにFAだが……その中でも、特殊な部類に入るFAだ、ということだ」
尋ねるこなたに答えると、スカイクェイクはコホンとせき払いすると具体的に説明してやる。
「まず……こなたが戦いやすいように前線に配置する――そのことに異存はない。
だが貴様の師……貴様が“先生”と呼ぶあのバカの指導のたまものか、状況に対する選択肢の幅が、貴様の場合かなり広い」
言って、スカイクェイクはゆたか達へと向き直り、
「こなたの真価は、柔軟な発想から来る臨機応変な奇策にあるとオレは考えている。
指揮参謀、ないし遊撃に高い能力を発揮できるタイプだ」
「泉先輩の“先生”の教え、ですか……
すごい人なんですね……」
「まぁ……“すごいヤツ”という点には同意するが……」
この子達が“あのバカ”の本性を知った時、果たしてどんな反応を見せたのか――聞き返すみなみにスカイクェイクが答えると、
「にしても……」
不意にこなたの口調が変わった。スカイクェイクに対し、首をかしげながら尋ねる。
「ポジションの話が出たついでに聞くけど……“先生”のポジションってどこなの?
FAはもちろん、GWもCGも、FBすらこなせそうな気がするんだけど、あの人の場合」
「ホントに何でもありだからな、ヤツは……」
こなたの言葉に苦笑し――スカイクェイクは彼女の問いに答えた。
「貴様と同じだ。遊撃強襲型のFA……
しかし、“できること”の幅が貴様よりもはるかに上だ。自分で作戦を立案できるし、指揮官としての視点も的確。さらにアルテミスにデバイス開発の基礎を教えてやれるほどにメカニック方面にも力を発揮するなどその才覚は多岐に渡る。
戦闘も指揮も開発もできる――そういう意味では、ヤツはまさしくジェネラリストと言える。
実際問題、柾木については、“戦い”においては相当厳しいハンデを背負わない限りは負けなしの最“凶”だとオレは考えている。
“試合”であればオレや機動六課の高町なのは達にも勝てないだろうに……な」
「どういうことですか?
“試合”じゃ勝てないのに、戦いじゃ最“強”って……」
「小早川ゆたか。
『最“強”』ではない。『最“凶”』だ」
ゆたかの言葉をそう訂正すると、スカイクェイクは静かにため息をつき、
「ヤツは、相手を追い込む、という行為に関してはかなりのキレを発揮する。
相手を挑発し、戦略的撤退で自分の領域まで連れて行き、相手から逃げ場を奪った上でワナにはめる。
そして、そうした状況にいつでも持ち込めるように、あの男は基本的にはマジメに戦おうとしない――相手を油断させるためには不戦敗ですらも平気で選ぶことのできる、ある種“昼行燈”の究極系とも言える男だ。
当然、相手はもちろん、仲間からの評価もすこぶる悪いが……その対価として、戦う以上はどんな手段を使っても目標を達成し、自分の守りたい人達を確実に守り切る――柾木ジュンイチとはそういう男だ。
そして……あの男の指導によって、こなたもそんなスタイルを着実に身につけている。
こちらとしては、一番似てほしくなかったところなんだがな……」
「残念でしたー♪」
ため息まじりに告げるスカイクェイクにこなたが答え――不意に指令室にアラートが鳴り響いた。
「どうした?」
《別世界で、ガジェット群の反応です》
すぐに意識を切り替え、尋ねるスカイクェイクに対し、アルテミスは端末に表示されたデータに目を通しながらそう答えた。
《“レリック”反応はなし……“レリック”を発見して動いているワケではなさそうですね。探索隊のようなものでしょうか……
ただ……V型、それも対TF型ばかりというのが気になりますね。いつもならもっとバリエーションを利かせてくるのに……》
「まぁ、いずれにせよ放ってもおけまい」
告げるアルテミスにそう答えると、スカイクェイクはこなた達へと向き直り、
「緊急ですまんが、“勉強会”はこれでお開きだ。
出撃し、当該ガジェット部隊を撃破――併せて、ヤツらが何らかの反応を追っていたのかどうか、周辺の調査を頼む」
『はいっ!』
「はーい♪」
《カイザーズ発進スタンバイ!
ワークボットはタラップ設置後、全機待機スペースへ退避してください。繰り返します――》
格納庫内にアルテミスのアナウンスが響く中、トランステクターの整備を行っていた自動端末が動く――カイザージェット以下各トランステクターにこなた達が乗り込むためのタラップを設置するといそいそと格納庫の隅へと退避してい
き、パイロットスーツ代わりにバリアジャケットを装着したこなた達がタラップを駆け抜け、それぞれのトランステクターへと乗り込んでいく。
各自が機体のシステムを立ち上げ――その動きと連動し、格納庫の発進システムが起動。それぞれの機体の前に大型の転送魔法陣が展開される。
《発進準備完了!
各機発進、どうぞ!》
「了解!
カイザージェット――泉こなた、Get Ready, Go!」
アルテミスの管制に答え、こなたはカイザージェットを発進させた。カタパルトに乗せられたカイザージェットが勢いよく加速、そのまま正面の転送魔法陣に飛び込み、現場へと転送される。
「ライトライナー、柊かがみ、出る!」
「えっと……レンジャーライナー、柊つかさ、いきまーす!」
「ロードライナー、高良みゆき、発進します!」
続いて、かがみ達も次々に発進――自分達に割り当てられた転送魔法陣に次々に飛び込んでいく彼女達を見送ると、スカイクェイクはゆたか達へと振り向いた。こなた達の身を案じているのか、不安げな様子のゆたかに告げる。
「大丈夫だ。
こなた達も、まだ未熟ながら、かなりの実力を身につけつつある――今さらガジェットごとき、いつもの実力が発揮できれば何の脅威にもなりはしない」
「はい……」
ゆたかを安心させるようにそう告げるスカイクェイクだったが――ゆたかの表情は晴れなかった。
「ハウリング、パルサー!」
咆哮と共にトリガーを引き――ライトフットの放った光弾が砂漠を駆け抜け、進路上のガジェットV型の群れをまとめて薙ぎ払い、
「つかさ!」
「うん!
レンジャー、ビッグバン!」
かがみの合図で、レインジャーがチャージしていた必殺技を解き放つ――エネルギー弾の雨が残存のガジェット群に降り注ぎ、辺り一帯で爆発の嵐を巻き起こす。
「……全機撃破を確認。
後続……ありません」
「あららー、私達出番なし?」
サーチの結果、ガジェットの生き残りはなし――ロードキングにゴッドオンし、告げるみゆきの言葉に、カイザーコンボイにゴッドオンしていたこなたは肩をすくめてそうつぶやく。
「さすがはかがみんとつかさのゴールデン姉妹。ナイスなコンビネーションだねー♪」
「茶化すんじゃないわよ。
っつーか、『ゴールデン姉妹』って何よ?」
はやし立てるこなたにため息をつき、かがみは周囲を見回し、
「ともかく、次はガジェットの目的の確認でしょ?
近くに“レリック”か、誤認するような“古代遺物”があるのかもしれないし……」
言って、かがみはこなた達と合流しようときびすを返し――
「………………え?」
気づいた。
「こなた、みゆき!
ちょっと来て!」
「はい…………?」
「何ナニー? どしたの?」
呼びかけるかがみの言葉に、みゆきやこなたが駆け寄ってくる――集まってくる一同に対し、かがみは無言で足元のガジェットの残骸を指さした。
破壊され、ズタズタになったガジェットの装甲、その奥に見えるのは――
「これ……シャークトロン?」
「ガジェットの装甲をかぶって、化けてたっての……?」
そう。ガジェットなのは一部の装甲だけ。その中身はシャークトロンがそのまま収まっていた。自分たちが相手をしていた“モノ”の正体に気づき、つかさとこなたは思わず顔を見合わせる。
しかし、これで少なくとも、なぜガジェットが対TFV型しかいなかったのかはわかった。いくら大型の対TF型でも、T型やU型のボディにシャークトロンが収まるのは難しい。最初からV型しか選択肢がなかったのだ。
問題は、地球でユニクロン軍に統率されているはずのシャークトロンがなぜこんな異世界で、しかもガジェットに偽装して行軍していたのか、ということで――
「――――まさか!?」
気づき、声を上げるかがみだったが――遅かった。突然飛来したエネルギー弾の雨が周囲に着弾。爆発を巻き起こし、砂塵を巻き上げる。
「え? え? えぇっ!?
ど、どうしたの!?」
「ワナだったのよ――コイツら!」
驚き、混乱するつかさに対し、かがみはライトショットをかまえつつそう答えた。
「ガジェットの出現に見せかけて……ユニクロン軍の仕業と気づかせないまま、私達をおびき出すのが目的だったのよ!」
「でも、なんでわざわざガジェットに化けて?
シャークトロンのまま出てくればいいのに」
「ガジェットの出現、となれば……作戦行動の上で、とは思いませんからね、私達は……」
首をかしげるこなたに、みゆきは周辺をサーチしながらそう答え、
「たぶん、みゆきの言うとおりね……」
かがみもまた、そんなみゆきの意見に同意する。
「ガジェットは基本的に自動で動く……こないだの“ナンバーズ”とかいう連中が出てこない限りは、ね。
だから、私達は『ガジェット“だけが”出てきてる』って話を聞いて……ノコノコ出てきて、こうしてワナに引っかかった、ってワケよ」
「やっぱり……私達をやっつけるために?」
「そーゆー、単純な話で終わってほしいところだけど……」
つかさに答えると、かがみは息をつき――
「“こいつら”しか出てこないところを見ると、残念ながら本命は別と見るべきでしょうね」
そう告げるかがみの言葉と同時――砂の中からシャークトロンが次々に姿を現した。
「泉先輩達なら、きっと大丈夫っスよ」
「大帝のスカイクェイクさんのお墨付きもある――信用しても、いいと思う」
「うん……」
できることならこなた達の帰りを待っていたかったが、すでに日が沈むか沈まないか、という時間になっては、身体が弱くただでさえ周囲に気を遣わせてしまうゆたかを長々と引き留めてはおけない――仕方なくクラウドキャッスルから帰され、夕暮れの道をトボトボと歩きながら、ひよりとみなみはこなた達の身を案じるゆたかを励ましていた。
だが、当のゆたかは相変わらず不安げなまま――どうしたものかと対応に困り、ひよりとみなみは顔を見合わせる。
「うーん……どうしたもんかなぁ……」
「みゆきさん達の手伝いとかして、少しでも負担を軽くできれば、ひょっとしたら……とは思うけど……」
「何もできないもんねー、私達……」
みなみの言葉に、ひよりは思わずため息をつき――
「………………?」
その時、みなみは何かに気づいて顔を上げた。
「どうしたの、岩崎さん?」
「……何か変だ」
「変…………?」
答えるみなみの言葉に、ひよりは思わず周囲を見回し――
「そういえば……何だか、異様に静かだね?」
そう。時刻はすでに夕暮れ時。自分達がいるのは住宅街――普通に考えれば、夕飯の支度に追われる家庭の団欒の声がそこかしこから聞こえてくる時間帯のはずなのだ。
なのに、それらの喧騒がまったく聞こえない。これではまるでゴーストタウンだ。
「一体、何が……?」
周囲の異様な状況に、ひよりは思わず不安げに声を上げ――
「何、簡単な話さ」
そんな彼女に答える人物がいた。ゆたか達が声のした方へと振り向くと――
「オレ達が結界を張ったからな」
そこにはロボットモードのノイズメイズが佇んでいた。
「結界だと!?」
《はい!
ちょうど、こなたさん達の自宅のあるあたりで……!》
こなた達がシャークトロンの大群に囲まれ、対策をとろうとした矢先に更なる急報――声を上げるスカイクェイクに、アルテミスは分析を続けながらそう答えた。
「こなたの家の近所だと……!?
おい、確か……」
《えぇ……ゆたかさん達が、ちょうどいる頃合いです……!
まさかとは思いますが……》
「狙いは、アイツらだと言うのか……!?」
アルテミスの言葉にスカイクェイクがうめき――
《………………あら?》
不意に、ウィンドウ画面の一角に新たな知らせが――その内容に目を通し、アルテミスは思わず声を上げた。
《そんな……どうして!?》
「今度はどうした!?」
《アームライナーとニトロライナーが、起動準備状態に入っています!》
「なんだと!?」
度重なる事態の急変に、思わずスカイクェイクが声を上げる――急ぎ状況を確認し、アルテミスは驚愕し、目を見開いた。
《どういうこと……!?
どちらの機体も、ゴッドマスターのパーソナル情報が登録されてる……!?
じゃあ、この起動はマスターの危機に対する自動護衛プログラム……》
つまりそれは、彼らがすでに自らを扱うことになるゴッドマスターを見つけていたことに他ならないが――そうすると、今度は別の疑問が出てくる。
《確かに、ゴッドマスターと接触すれば自動で登録される仕組みである以上、気づかない間に登録されていてもおかしくはありませんけど……
でも……そもそもずっと格納庫にしまってあったこの2機が、新たなゴッドマスターと接触する機会なんて……!?》
「ゆたか、田村さん、こっち!」
「うん!」
「了解っス!」
ゆたかの手をみなみが引き、ひよりがその後に続く――結界によって無人となった住宅街を、3人はノイズメイズから逃げ回っていた。
「なんでっスか!?
どうして私達が!?」
「わからないけど、今は……!」
突然の事態に混乱するひよりに答え、みなみはとにかくノイズメイズの手から逃れようと走るが、
「どこへ行くつもりだ?」
ダメだ。ノイズメイズはワープでみなみ達の行く手に回り込んでくる。
すぐにきびすを返し、みなみは別の道へと逃走ルートを変更するが、先ほどからこの繰り返しだ。一向に逃げ切れる気配がない。
「み、みなみちゃん……!」
「大丈夫だよ、ゆたか」
不安げに声を上げるゆたかに、みなみは安心させるように優しく告げた。
「こうして逃げ回ってるだけでも、意味はある……!
こんな大きな結界、きっとスカイクェイクさん達の方でも気づいてる。こうして時間を稼いでいれば、きっと……」
「あ、そっか……」
「後は、スカイクェイクさんが思いきり戦えるように、できるだけ広いところに逃げられれば……!」
「だったら駅前は!?
あそこなら道路も広いし……」
告げるひよりにうなずき、みなみは駅前へと続く道を、ワープを駆使して回り込んでくるノイズメイズを避けて駆けていく。
幸い、地の利は地元である自分達に分がある。このままいけば、無事駅前まで出られるだろう。
そして――その時は来た。みなみ達は駅前の大通りに出るための最後の路地を抜け――
「はーい、3名様ご案内じゃあ!」
そこにはランページが待ち受けていた。
自分達の考えは読まれていた――あわてて逃げようとするみなみだったが、それよりも早く、ランページは手を伸ばし、みなみを捕まえてしまう。
「みなみちゃん!」
「岩崎さん!」
奮闘むなしく捕まってしまったみなみの姿に、ゆたかやひよりが声を上げ――
「そっちもゲットじゃあっ!」
そんな彼女達に、ランページはさらに手を伸ばしてきた。ひよりをも捕まえてしまう。
「ちょっ、放して! 放すっスよ!」
「みなみちゃん! 田村さん!」
ランページに抱えられ、もがくひよりの声に我に返り、ゆたかは思わずランページに向けて走り出す。
それは純粋に捕まってしまったみなみとひよりを案じてのことだったが――それはあまりにも軽率な行動だった。
「ジャマじゃあっ!」
足もとに駆け寄ってくるゆたかに対し、ランページは無造作に右足を振りまわし――ゆたかを蹴り飛ばす!
「ゆたか!」
「小早川さん!」
「フンッ、用もないのにノコノコ出てくるからじゃ」
本気でなかったのは幸いであったが、ランページの蹴りはゆたかを跳ね飛ばすには十分すぎた。地面を軽く数回バウンドし、倒れるゆたかに対し、ランページは悲鳴を上げるみなみやひよりにかまわずそう言い放つ。
「ワシらの狙いはこっちの二人じゃ。
お前みたいな、何の能力もないチビは引っ込んd――」
ゆたかに向けてそう言いかけて――ランページは気づいた。
「……ゆたか……!」
「小早川さん……!」
倒れたゆたかの姿を凝視し、悔しげにつぶやくみなみやひよりの様子に。
「何じゃ、悔しいんか?
恨むんじゃったら、何もできん自分の無力を恨むんじゃな」
そんな二人を脇に抱え、余裕綽々といった様子でランページが告げるが――二人からの返事はない。
二人の中で渦巻くのは、抑えることのできない怒り――しかし、それはランページに対してのものだけではなかった。
(ゆたかがやられても……何もできないなんて……!)
(泉先輩達みたいな、力があれば……!)
親友がやられても何もできず、こうして捕まっていることしかできない自分に対しての怒り――それがランページに対する怒りと混じり合い、同時に強い“想い”へとつながっていく。
(強くなりたい……!)
(力が、欲しい……!)
そして――二人は渇望する。
(強くなって……)
(力を手に入れて……)
(ゆたかを……)
(小早川さんを……)
((この手で、守りたい!))
突如発生し、住宅街から駅前の商店型までを覆ったノイズメイズ達の結界――その影響か、周囲には人気は全くない。
――ないはずだったが、
「ふーん……」
その結界面を前に、ひとりの青年が佇んでいた。
「地球に来たのは、こんなのに対処するためじゃなかったんだけどなぁ……」
この場に降り立つなり、こういう事態になっているのはどういう巡り合わせだろうか――とことんトラブルに好かれているらしい自分の境遇にため息をつき、ジュンイチはため息まじりに頬をかく。
「中にいるのは……こなた達じゃねぇな。
…………? ゆたかのヤツがいるじゃねぇか。何で巻き込まれてんだよ?」
“力”を感じ取ることで中の様子を把握したが、何が起きているか、までは把握しきれない。思わず首をかしげるが、ともかくジュンイチは対応を考える。
「さて……どうするか……
この結界をぶち破って、ゆたか達を助けるのは簡単だけど……あまり、アイツらの前に姿はさらしたくないしなぁ……」
どうしたものかとジュンイチは思考を巡らせ――
「――――ん?」
気づいた。自分の後方から、大型の何かがこっちに向かってくる。
「あれは……?」
「…………? 何じゃ?」
ジュンイチの見つけた“それ”は、迷うことなく結界の中に突入した――その反応に気付き、ランページは顔を上げた。
「何じゃい、ありゃあ……」
つぶやき、ランページが見つけたのは2台の列車型ビークルだった。
N700系型と、SL型。すなわち――
「アームライナー!?」
「ニトロライナーも……!?」
現れたのは未だ持ち主の決まらないはずの2機のトランステクターだった。予想外の乱入者にひよりやみなみが声を上げるが、2機はかまわずこちらに向けて突っ込んでくる。
「ち、ちょう待ち!
来んな、来んなぁっ!」
このままでは間違いなく激突する――思わず声を上げるランページだったが、2機はそのまま突っ込んできて――
「ぶぎゃあっ!?」
撥ねた。
ランページを、それはもう豪快に。
それでも捕獲対象は無事に……という意識が働いたのか、ひよりとみなみは無事だった。吹っ飛ぶランページの腕から二人がこぼれ――そんな二人を、トランステクター達はその屋根の上に受け止める。
「わ、私達を……助けてくれた……?」
事態が飲み込めず、みなみがつぶやくが、そんな彼女達に向けて、トランステクター達はしきりに自らのライトを明滅させる。
それはまるで、自分達に何かを呼びかけているかのようで――
「自分達を……使えって言ってる……?」
なぜか、その意図は理解できた。ひよりが思わずつぶやき――みなみと顔を見合わせ、二人は力強くうなずいた。
今までの一連の流れを考えれば、今すべきことなど考えるまでもない。決意と共に、その言葉を口にする。
『ゴッド、オン!』
その瞬間――二人の身体が光となって霧散した。無数の光の粒子となった二人は、アームライナーに、そしてニトロライナーに溶け込むように消えていく。
「あ、アイツら……覚醒したっちゅうんか!?」
「お前が刺激するようなコトするからだろうが!」
「ワシのせいだっちゅうんかい!?」
「疑う余地なんぞこれっぽっちもないだろうが!」
その様子にランページやノイズメイズが言い争いを始めるが――かまわない。ひよりもみなみも、続けて咆哮する。
「ブレイクアーム!」
「ニトロスクリュー!」
『トランスフォーム!』
同時――2機のトランステクターが変形する――SL型のアームライナーの後部に連結された炭水車が分離すると、2機は車体下部の推進器で浮上、下部に折りたたまれていた両腕が展開され、空いたスペースにフタをするように車体後部が下方に折りたたまれた。後端部が左右に別れて人型の両足に変形する。
アームライナーの背中に炭水車が背負わされるように合体するとロボットの頭部がボディ内部からせり出してくる。
意識が全身に通い、アームライナーにゴッドオンしたひより、ニトロライナーにゴッドオンしたみなみは、気を失ったままのゆたかを守るようにノイズメイズ達と対峙した。
ひより | 「やってくれたね、本当に……! でも、ここからは私も本気でいくよ! 泣いて謝ったってもう遅いんだから!」 |
ランページ | 「言ってくれるのぉ! 返り討ちにしたるわいっ!」 |
ひより | 「……いきます!」 |
ランページ | 「来いやぁっ!」 |
ひより&ランページ | 『叩いてかぶってじゃんけんぽんっ!』 |
みなみ | 「あ、あれ……?」 |
ノイズメイズ | 「この後のタイトルコール権の争奪戦だとよ」 |
みなみ | 「え、えっと……?」 |
ひより | 「やった! 勝ったぁーっ!」 |
ランページ | 「負けたぁーっ!?」 |
ひより | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第57話『鋼の拳に想いを込めて 〜連結合体グラップライナー〜』に――」 |
4人 | 『ゴッド、オン!』 |
(初版:2009/04/25)