「ヤツら……ゴッドオンしおった……!?」
「ったく、余計な刺激しやがって……!」
ゆたかを傷つけたランページへの、そしてむざむざとそれを許した自分自身への怒り――その想いからゴッドマスターへと覚醒、トランステクターへのゴッドオンを果たしたひよりとみなみの姿に、当事者のランページとノイズメイズは思わず一歩後ずさりし、警戒を強める。
「私達が……トランスフォーマーに……」
「これが、ゴッドオン……」
対し、みなみとひよりもまた、自身の身に起きた変化に戸惑いを見せていた――確かに自分達の無力を嘆き、力を欲したが、こうもいきなりでは歓喜よりも動揺の方が先に立つというものだ。
「とにかく、今は……」
「うん!」
しかし、それも過ぎれば頭は冷える――みなみの言葉にうなずき、ひよりは彼女と共にノイズメイズ、ランページへと向き直る。
「よくもみなみを蹴飛ばしてくれたね」
「私達、とってもご機嫌ナナメっスよ!」
口々に宣言すると同時、二人は一斉に地を蹴った。まっすぐノイズメイズ達に突撃し、
『たぁぁぁぁぁっ!』
渾身の力で放ったひよりの拳やみなみの蹴りが、ランページとノイズメイズを直撃する!
「ぐぅ…………っ!」
「ガードの上からでも、コレかい……!」
そのパワーはノイズメイズ達にとっても予想以上だった。ガードは間に合ったものの、防御の上から強烈な衝撃を叩きつけられ、ノイズメイズもランページも、ゆうに数メートルの距離を押し戻される。
「すごいパワーっス!
これなら!」
「いける……!」
そのパワー、単純な出力でいえば恐らくかがみ達のそれを上回る――そんなパワーに支えられた初弾は、みなみ達に自信を与えるには十分だった。気を良くして、ひよりとみなみは追撃を加えるべくノイズメイズ達を追うが、
「それなら――」
「受けなきゃえぇじゃろ!」
そんな二人に言い返すと同時、ノイズメイズ達もまた動いた。二人を十分に引きつけたところからサイドステップ。最小限の動きでみなみ達の攻撃を回避する。
「外した……!?」
「ぅわったたたぁっ!?」
攻撃を外し、みなみとひよりは自らの攻撃の勢いに引かれてバランスを崩し――
「やっぱりな!」
「パワーはすごいが――素人じゃのぉ!」
サイドステップからそのままターン。背後に回り込んだノイズメイズのウィングハルバードやランページのハサミが、みなみ達を弾き飛ばす!
「力任せにブン回しやがって!
どれだけパワーがすごかろうが、当たらなきゃ意味ないんだよ!」
「そうとわかりゃあ、怖ないわっ!」
そのまま、ノイズメイズとランページは間髪入れずにみなみ達へと襲いかかった。彼女達が体勢を立て直すのを許さず、好き放題に殴り、蹴り飛ばす。
そして――
「大振りの攻撃ってのは……」
「こうやって打つんじゃあっ!」
続くラッシュにたまらずふらついたところに渾身の一発――思いきり叩きつけられたノイズメイズの蹴りが、ランページのハサミが、みなみとひよりを吹っ飛ばす!
「きゃあぁぁぁぁぁっ!」
「あぁぁぁぁぁぁっ!」
打撃の勢いのまま、二人は結界によって無人となったビルへと叩きつけられた。衝撃でゴッドオンが解け、ひよりとみなみが路上に投げ出され、二人のトランステクターもまた、ビークルモードに戻ってその機能を停止させてしまう。
「やれやれ……
最初の一撃のパワーにはビビッたけど、所詮は覚醒したての素人だな」
「あちち……まだ腕がしびれとるわい」
みなみとひよりを戦闘不能に追い込み、後は“当初の目的”を果たすだけ――いつもの調子を取り戻し、告げるノイズメイズに対し、ランページは両手をブンブンと振りながらそう応える。
「ところで――あっちの嬢ちゃんはどうするんじゃ?」
「ほっとけ。あんなオマケ。
オレ達の目的はあくまでゴッドマスターの二人だ――トランステクターなんてオイシすぎるオマケもついちまったがな」
ランページが尋ねるのは終始気絶したままのゆたかについて――あっさりと答えると、ノイズメイズはランページの腰をヒジで小突き、回収を促す。
「なら、とりあえず……トランステクターよりも先に嬢ちゃん達かのぉ」
そんなノイズメイズに同意し、ランページはひよりに向けて手を伸ばし――
「ジャマ」
淡々とした声と共に炎が巻き起こった。渦を巻き、ランページを呑み込んで天高く吹き飛ばす。
「な、何だぁ!?」
空中できりもみ回転。頭から地面に落下する――ランページが一撃のもとに吹き飛ばされたその光景に、ノイズメイズが驚きの声を上げると、
「ったく……こっちは海鳴に行く途中にただ通りかかっただけだっつーのに、いらんところでいらん寄り道させやがって……」
今の炎によって巻き起こった粉塵の中から、ジュンイチは悠々とその姿を現した。
第57話
鋼の拳に想いを込めて
〜連結合体グラップライナー〜
「何だ、お前!?
今のは、お前の仕業か!?」
「そうに決まってんだろ、バーカ」
尋ねるノイズメイズだったが、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「話の流れからして、他に考えようがあるかよ? マヌケ。
もーちっと頭使え、ノータリン」
「き、貴様……!」
いちいち悪口を織り交ぜて告げるその言葉に、ノイズメイズは思わず怒りに声を震わせ、
「だ、だいたい、お前はそもそも何者だ!?
名を名乗れ、名を!」
そもそもジュンイチは一体何者なのか――その正体を問いただすノイズメイズだったが、
「ヤだ」
ジュンイチは迷わずそう答えた。
「なんだっててめぇなんぞにオレの名前を名乗らなきゃなんないんだよ?
オレの名前はそんなに安くねぇんだ。身の程をわきまえろや、このスカポンタン」
「………………っ!」
もはや声すら上がらない。ジュンイチの言葉に、ノイズメイズはプルプルと肩を震わせ――
「だらっしゃあぁぁぁぁぁっ!」
咆哮と共に、大地に叩きつけられていたランページが復活、勢いよくその場に立ち上がった。
「大丈夫か? ランページ」
「大丈夫なワケあるかい! ムチャクチャ熱かったわいっ!」
尋ねるノイズメイズに言い返すと、ランページはジュンイチへと向き直り、
「よくもやってくれたな!
この借りは倍にして返しちゃるけぇの!」
「返品お断り」
迷わずジュンイチは即答した。
「お前らみたいなバカの相手なんぞしてるヒマないんだよ、ホントならさ。
っつーワケで借りなんか返さなくていい。そのまま帰れ、回れ右して」
「こ、い、つ……!
さっきから、ことごとく人をバカにしやがって……!」
「だって実際バカだし」
爆発寸前の怒りと共に告げるノイズメイズだったが、ジュンイチはやはりあっさりとそう答え――
「思いっきりブン投げられておいて、未だに“リミッターを”“ひとつも”外さないバカなんぞ、バカ以外の何だっつーの」
(――――――っ!?)
告げられたジュンイチのその言葉に、ノイズメイズの頭に上った血が一気に下がった。
(こいつ……ただ一撃入れただけで、オレ達が――ランページがかけてるリミッターを見抜きやがった……!?)
「そんなワケでさ……あんまり時間をかけたくないんだよねぇ……」
ジュンイチの言葉に戦慄するノイズメイズにかまわず、ジュンイチは頭をポリポリと頭をかき、
「…………ま、いっか。
こんなバカどもでも“実験台”くらいにはなるだろうし……せっかく介入するなら、有意義にやらないとね♪」
言って、ジュンイチはノイズメイズ達に向けてかまえると、懐から漆黒の宝石を取り出した。
「揺らめけ――蜃気楼」
静かに告げ――その瞬間、ジュンイチの周囲に渦が巻き起こった。砂塵のような“何か”がジュンイチを中心に渦を巻き、一気に周囲にばらまかれる!
「デバイスだと!?」
「アイツ……あんなもんまで持っとったんかい!?」
いきなりのデバイス発動に、ノイズメイズやランページが声を上げ――
「…………さて」
舞い散る“何か”の向こうから、ジュンイチの声が聞こえてきた。
「希望する“焼き具合”を申告しながら前に出ろ」
言いながら、手にした“それ”を頭上に掲げ――振り下ろし、視界をさえぎる“何か”を振り払った。
クリアになった視界の中央で、“装重甲”を身にまとったジュンイチは一歩を踏み出し――
「希望に一切関係なく――真っ黒焦げに焼いてやる」
漆黒に染め抜かれたレヴァンティンの切っ先をノイズメイズ達に向けた。
「はやて……本当なの?」
「うん……ほぼ間違いない」
手元の資料は先ほどイクトが見ていた、フォートレスからの報告書のコピーだった。目を通し、尋ねるフェイトに、はやては静かにうなずいた。
「4年前、ジャックプライムとジュンイチさんが見つけた、マスターコンボイの身体になったあのトランステクター……
あれが“レリック”のそばにあったんは、決して偶然なんかやなかった……」
言って、はやては自分の手元の、オリジナルの報告書に視線を落とした。
「フォートレスに長期調査であちこちの遺跡を調べ回ってもらった結果……“レリック”の見つかった遺跡のいくつかで、“レリック”とトランステクターとの関連性をにおわせる資料がいくつも見つかった。
さすがに完全に残ってるのはなかったらしいんやけど、それらを照らし合わせることでそれぞれの情報の抜けを補い合って……その結果浮かび上がってきた事実が……今みんなに配った資料の内容や」
そして――はやては息をつき、なのは達に告げた。
「“レリック”とトランステクターは二つでひとつ……
トランステクターは本来、“レリック”ひとつに対して1機ずつ割り当てられた……トランスフォーマーを模して作られた、“レリック”のガードシステムやったんよ」
「つまり……“レリック”のあるところ、トランステクターあり、ってワケね……」
はやての言葉につぶやきながら、ライカはボンヤリと資料をながめて――フェイトのとなりに座っていたジャックプライムがふとあることに気づいた。顔を上げ、はやてに尋ねる。
「でもでも、リニアレールの時とか、こないだの旧市街での戦いとか……ボクらが今まで回収してきた“レリック”の周りに、トランステクターなんてなかったじゃない。
“レリック”とトランステクターが対だとしたら、それらの“レリック”のトランステクターはどこに行っちゃったの?」
「それについては、私が説明しましょう」
そんなジャックプライムの問いには、はやての傍らに控えていたフォートレスが答えた。
「我々は、トランステクター、ひいてはゴッドマスターがゴッドオンし、トランスフォームしたその姿から、トランステクターの基本システムは我々トランスフォーマーと完全に同一だと考えていました。
しかし……それは単なる思い込みに過ぎませんでした」
「どういうこと?」
「トランステクターは、トランスフォーマーのみんなと同様にスキャニングすることでプロトフォームから活動形態になるけど……そのプロトフォームまで、トランスフォーマーと同じである必要はなかった、ってことだよ」
聞き返すなのはに答えると、アリシアはフォートレスへと向き直り、
「そもそも、“レリック”ひとつにトランステクターが1機、となると、プロトフォーム状態で一緒に管理するより、最初からトランステクターをスキャン後の形態で用意して、その中に“レリック”を放り込んでおけばいいじゃない」
「しかしそれでは、そのトランステクターに適さない状況で“レリック”に危機が迫った場合対応できない……」
「ジェット機のトランステクターが、海中を運ばれてる時に襲われたらさすがのトランステクターとゴッドマスターでも守りきれる保証はないもんなー」
「そう。
だから、状況に応じ適時最適な対象をスキャン、危機に対応するために、稼働前のトランステクターは絶対にプロトフォームである必要がある……」
スターセイバーとビクトリーレオのつぶやきに答えると、アリシアはフォートレスへと向き直り、
「つまり……トランステクターのベースとなるプロトフォームは、みんなのプロトフォームみたいな“トランスフォーム形態を持たないロボット”じゃなくて……何か“持ち運びまでを考慮した別の形態”として、“レリック”にくっついてきてた、ってことだよね?」
「その通りです」
アリシアの言葉にうなずくフォートレスの言葉に、なのは達は思わず顔を見合わせた。
フォートレスの言葉が真実なら、トランステクターの元となるプロトフォームとは常に“レリック”と共にあった――
「気づいたみたいだな。
お前達の推理……おそらくは正解だろう」
「ってことは……」
イクトの言葉にヴィータが緊張した面持ちでつぶやき、はやてが結論を告げる。
「せや。
トランステクターのプロトフォーム。それは私達も何度も目にしてきた……“レリック”のケースや」
「アレがトランステクターになったっての?」
はやての言葉に思わず聞き返し――ジャックプライムは気づいた。
かつて、自分達が空港火災の中でトランステクターを見つけたあの時――共に発見した“レリック”はケースにも収まっていない、裸の状態だった。
あの時は、てっきり“レリック”が暴発した際にケースが消し飛んだのだとばかり思っていたが、もしはやての言葉が事実なら――
「じゃあ……マスターコンボイのトランステクターは、元々は一緒に見つけた“レリック”のケースだった、ってこと?」
「せや。
あのトランステクターは、“レリック”の暴発という緊急事態に対して急きょ起動したトランステクターが、局の指揮車両をスキャンしたんやろうな」
改めて尋ねるジャックプライムに、はやてそう答えて息をつく。
「さ、さすが“古代遺物”……サイズの違いや質量保存の法則なんてガン無視ってワケ?」
そんなはやての言葉にライカがうめくと、
「そして……ここからはオレの推測だ」
そう口を開いたのはイクトだった。
「トランステクターが自動起動した場合、スキャニングと同時にゴッドマスターの登録システムが働く――という話だったな?
そこでゴッドマスターが見つからなければ“使い手”のパーソナルデータはブランクのままだが……マスターコンボイのトランステクターの登録データはブランクではなかったそうだ。
つまり……」
「あの場にいたゴッドマスターの誰かが、マスター登録されていたことになる……?」
聞き返すフェイトに、イクトは真剣な表情でうなずいてみせる。
「あの時、空港にいたゴッドマスターの適格者は、スバルとギンガの二人……オレ達の把握していない、未知のゴッドマスターがいない限りはな。
そして……あの時、スバルのいた中央エントランスは、ギンガのいたエリアよりも倉庫に近かった」
そこで一度言葉を区切ると、イクトはピッ、と人指し指を立て、
「そしてもうひとつ。
ジャックプライムからかつて聞いた話によれば……ディセプティコンが初めて姿を見せた戦いの際、まだマスターコンボイの宿っていなかったあのトランステクターは、ブラックアウトやジェノスクリームに襲われていたスバル達を救うために自動的に起動し、現場に向かっている」
「つまり……」
「せや」
尋ねるなのはに、はやてはイクトに代わってうなずいてみせた。
「このデータの通りなら……マスターコンボイの宿るあのトランステクターの、正ゴッドマスターは……」
「スバルの可能性がある」
「はぁぁぁぁぁっ!」
咆哮と共に愛刀を一線――目の前の結界面を、スカイクェイクは一撃のもとに打ち砕いた。
「田村ひより! 岩崎みなみ! 小早川ゆたか!」
この結界に囚われているはずの3人の姿を探し、スカイクェイクは周囲を見回し――
「――――そこか!」
見つけた。アームライナーやニトロライナーの突っ込んだビルのすぐそばに、ひよりやみなみが倒れているのを発見。そこから少し離れたところにゆたかの姿も確認する。
すぐにスキャナで状態を確認。3人とも気絶しているだけのようで、ホッと安堵の息をつき――
「…………しかし、ここで一体何が……?」
気を抜くのはそこまで。すぐに気を引き締め、ここで何があったのかを確かめようと周囲を見回す。
結界を張った犯人であるノイズメイズ達の姿はない。なぜ結界が維持されていたのかと“力”の発生源をたどってみれば、発生装置らしき小型の装置に行き着いた。どうやらこれで人工魔力を発生させ、結界を作り出すエネルギー源としていたらしい。おそらくは撤退の際に装置を放置したために、結果として結界だけが残される形になったのだろう。
と――
〈スカイクェイク!〉
「こなたか」
突然こなたから通信が入った。同時、ウィンドウが展開され、ゴッドオンを解いたこなたの姿が映し出された。
「その様子だと、そっちは問題なくようだな」
〈出てきたの、シャークトロンだけだったからね〉
告げるスカイクェイクに答えると、こなたは彼女にしては珍しく真剣な表情を見せた。
〈それより……ゆーちゃん達は?〉
「問題ない。
今しがた無事を確認した――気を失ってはいるが、目立ったケガもない」
〈よかった……〉
「心配なら早く戻って来い。
気がついた時、まだお前達が戻ってきていなければ、彼女も田村ひより達も心配するぞ」
〈うん!〉
勢いよくうなずき、こなたは通信を切り――息をつき、スカイクェイクは結界の発生装置を回収し、ゆたか達の元に降り立った。
「さて……とりあえずは彼女達を連れ帰るのが急務だろうが……」
つぶやき、転送魔法の術式を展開し――その一方で、“そちら”へと視線を向けた。
この一件によるものと思われる戦闘の爪痕だ。ただし――
「ノイズメイズ達のパワーで“こんなマネ”ができたとは思えん。
だが、アームライナーやニトロライナーでも、それは同じ……
一体、誰が“これ”をやった……?」
そう。その“爪痕”とは――
「これはどう見ても……砲撃の痕だ。
しかも、なのはに匹敵するほどの破壊力の……」
結界の端まで届くほどの、一直線にビルを薙ぎ払った砲撃痕だった。
「……気分はどうだ?」
「最悪だ」
異空間に潜むユニクロン軍の拠点“ユニクロンパレス”――再生カプセルから出てきたノイズメイズは、サウンドウェーブの問いにぶっきらぼうにそう答えた。
「ランページは?」
「ヤツももうすぐ再生が完了する――」
尋ねるノイズメイズにサウンドウェーブが答えかけたその瞬間、再生カプセルのひとつが轟音と共に爆散した。
そして――
「っ、らぁぁっ!
何度思いだしても腹立つのぉ!」
怒りの咆哮と共に、ランページは八つ当たりで破壊した再生カプセルの中からその姿を現した。
「…………こっちの機嫌も、最悪のようだな」
「当たり前じゃ!」
破壊された再生カプセルを見ながらため息をつき、つぶやくサウンドウェーブにランページは力いっぱいそう言い返した。
「何なんじゃ、アイツのデバイス!
あんなデバイス、アリかいっ! 人様のデバイスをサルマネしおって!」
「サルマネ……?」
「まぁ、な。
っていうのも……」
ランページの言葉に首をかしげるサウンドウェーブに、ノイズメイズは先ほどのジュンイチとの戦闘の顛末を説明し――
「…………それは貴様らが悪い」
だが、サウンドウェーブはあっさりとダメ出しを下した。
「今の話からするに、貴様ら、デバイスがレヴァンティンのサルマネだからとタカをくくっていたのだろう?
サルマネであることにすっかり油断して、使い手の実力に目が向かなかった――敗れるして敗れた敗北だろう」
「そ、それはそうだけどなぁ……」
「だからと言って、怒りが収まるもんでもないじゃろうが!」
サウンドウェーブの言葉に言葉を濁すノイズメイズのとなりで、ランページは地団太を踏みつつわめき散らす。
「あー、ムカつく。
この怒り……さっさとウサ晴らしでもせんと納まらんわ!」
「おい、どこに行く?」
「もっかい出撃じゃ!」
出て行こうとしたその背中に、サウンドウェーブが声をかける――対し、ランページは振り向きもせずにそう答えた。
「またあの小娘どもに襲撃かましちゃる!
アイツが出てきたら今度こそブッ飛ばせばえぇし、出てこんくても小娘しばき倒して連れ帰ってくればえぇ。
問題ないじゃろ!?」
「そういうことならオレも行くぜ!
オレだってアイツにゃムシャクシャしてんだ! 仕返ししてやんないとな!」
ランページの言葉にノイズメイズも同意し、二人は連れ立って再生カプセルルームを出ていく――その後ろ姿を見送り、サウンドウェーブはつぶやいた。
「…………黒星増やして帰ってくるオチしか思いつかないのは、オレだけか……?」
《打ち身がいくつか、擦り傷も何ヶ所か……それだけ。
この程度ですんでよかったです》
「ありがとうございます」
その一方で、みなみとひよりはスカイクェイクや戻ってきたこなた達に自分達の身に起きたことを説明していた。
「つまり……お前達は早々にやられてしまったワケだな?」
「はい……」
「やっぱり、そう簡単にはいかないっスねー」
尋ねるスカイクェイクにみなみとひよりが答えると、スカイクェイクは腕組みして考え込む。
(やはり、あの砲撃の痕はこの二人のものではなかったか……
トランステクターにそこまでの火力はなくても、“力”の方に適性があればあるいは、とも思っていたんだが……)
「でも、まさかひよりん達までゴッドマスターになっちゃうなんてねー」
「自分でも驚きっスよ。
でも、これで先輩達のお手伝いもできますし。今回の負け分も、すぐに取り戻してみせるっスよ!」
思考を巡らせるスカイクェイクのとなりで、感心してつぶやくのはこなただ。そんな彼女に、ひよりはガッツポーズと共にそう告げて――
《ちょーしに乗らないでください》
「あいたっ!?」
いきなり背後から告げられ――同時、ひよりの頭がはたかれた。
ひよりが振り向くと、そこにふよふよと浮いていたのは――
「ルビー……?」
《お久しぶり……と言うほど離れてたワケでもありませんが、一応久し振りですね》
気づき、声を上げるつかさに、そう答えたルビーは右の羽をシュタッ、と立ててあいさつする。
「ちょっと待って。
ルビーがここにいるってことは……」
そんな彼女の登場にかがみが声を上げると、同時に指令室の扉が開き、
「ただいまー♪」
「ただいま……」
テンションの高い声と落ち着いた声、両極端なあいさつと共にイリヤが、そしてサファイアを連れた美遊が入ってきた。
「……あの人達は?」
「んー、私の“先生”の知り合い。
今回の戦いにも、その縁で協力してくれてるんだよ」
尋ねるひよりにこなたが答えると、イリヤはひよりに向けて手を差し出し、
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン――イリヤでいいよ」
「あぁ、田村ひよりです……」
名乗るイリヤに応えてひよりが握手を交わすと、イリヤは傍らのルビーに視線を向け、
「で、今さっきキミにツッコミを入れたこの子が――」
《魔術礼装“カレイドステッキ”が1基、ルビーと申します。
かわいく“ルビー様♪”とお呼びください》
「いや、それのどこがカワイイの?」
《“♪”のところが》
「だけだよね、間違いなく……」
平然と言い切るルビーにイリヤがため息をつくと、今度は美遊が進み出て、
「美遊・エーデルフェルト。よろしくね」
《“カレイドステッキ”が1基、サファイアです。
先ほどは姉がツッコミの一撃を……失礼いたしました》
「あ、いえ、おかまいなく……
……っていうか、姉妹なんスね」
《はい。私が“妹”になります》
自分達の名乗りにつぶやくひよりにサファイアが答えると、
《何を言ってるんですか。
私はこの子が油断しないよう戒めたというのに》
妹が頭を下げているのが気に入らないのだろう。サファイアの周りをフヨフヨと飛び回りながら、ルビーが彼女にそう答える。
「まぁ……とりあえずはルビーの言う通りかな?」
そんな、自分達のステッキのやり取りに苦笑しつつ、イリヤはひよりにそう告げた。
「事情は、ここに来るまでにスカイクェイクから通信で聞かされてるから、だいたいのことはわかってる。
ゴッドマスターになって、張り切るのはいいけど……まだ覚醒したばっかりで、自分達がどういう能力を持ってるのかもわからないんだから。
焦らず、ゆっくり強くなっていけばいいよ」
「はい……」
イリヤのその言葉にひよりがうなずくと、
「…………ダメなんです」
不意にひよりのとなりから声が上がった。
声の主は今まで沈黙を保っていたみなみだ。だが――
「このままじゃ、ダメなんです……
せっかく力を手に入れても……今のままじゃ、ゆたかを守れない……!」
「…………あのね――」
そんなみなみのつぶやきに、イリヤはため息まじりに口を開き――その瞬間、アラートが鳴り響いた。
「どうした!?」
《ちょっと待ってください!
……大変です! ユニクロン軍が、街に!》
声を上げるスカイクェイクに、アルテミスは入ってきたばかりの情報を確認し、報告する。
《シャークトロンを引き連れて、無差別に街を攻撃中!
指揮をとっているのは――ノイズメイズとランページ!》
「アイツら……しょうこりもなくまた出てきて!」
「だが――今回は貴様らもいる。遅れをとる理由はない」
アルテミスの報告に声を上げるかがみに答えると、スカイクェイクは一同を見回し、
「全員出動だ。
真っ向勝負なら恐れることはない――さっさと叩き落としてしまえ。
イリヤ、美遊。戻ってきたばかりですまないが、新人二人のサポートを頼む。
田村ひより、岩崎みなみ。お前達は決してムリをせず、イリヤ達のサポートの元――」
そこまで言って――スカイクェイクは気づいた。
「…………おい。
岩崎みなみはどこへ消えた?」
『え………………?』
スカイクェイクの言葉にあわてて一同は周囲を見回すが、指令室の中にみなみの姿はない。
と――
《………………っ!?》
次々に届く情報をまとめていたアルテミスがそれに気づいた。顔を上げ、スカイクェイクに告げる。
《大変です!
ニトロライナーが起動! 発進体制に入っています!》
「何だと!?
岩崎みなみは!?」
《まだ乗り込んでいないようですが……
……格納庫への直通エレベータの中です!》
スカイクェイクに答え、アルテミスは基地内の3Dマップを表示――そこには、みなみの現在位置を示す光点が格納庫へと続くエレベータの中にハッキリと表示されていた。
「みなみちゃん……!?」
「ちょっ、行動早すぎでしょ!?
アラート鳴った瞬間に動いてなきゃ、こんな短時間であそこまで……!」
「どうしたんスか!?
いつもの岩崎さんなら、あんなこと絶対しないのに……!」
いつも自分達によりそい、フォローに回ってくれるみなみがこんな先走った行動に出るとは――普段の彼女を知るだけに信じられず、ゆたかやかがみ、ひよりが声を上げると、
「何をしている。
出撃メンバーはすぐに出ろ!」
そんな彼女達に対し、スカイクェイクが鋭く告げた。
「このまま彼女をたったひとりで接敵させるつもりか!?
急げ!」
『は、はいっ!』
「ミサイル、ばーんじゃあっ!」
咆哮と共に、ランページはミサイルを乱射――放たれたミサイルがビル街を次々に火の海に変えていく。
さらに、彼らの率いるシャークトロン達も街を攻撃――その勢いを前に、駐在しているトランスフォーマー達の抵抗も押し切られていく。
「オラオラ! 出てこいよ――オレ達をブッ倒したヤツ!
早く出てこないと、この辺り一帯焼け野原にしてやるぞ!」
さらに、ノイズメイズもまた、上空からランページと同じようにエネルギー弾をばらまきつつそう声を張り上げる。
彼らが狙うのは自分達を片手間同然であしらったジュンイチへの復讐が第一。こうして街を破壊していれば、自分達を迎え撃とうと現れると踏んだのだが――
「………………?」
レーダーに反応――振り向いたその先にこちらへと向かってくる土煙に気づき、ランページが顔を上げた。
「来たか!? 来たんか!?」
いよいよジュンイチのお出ましか――いざ復讐の時とばかりに張り切るランページだったが、
「ゴッドオン!
ニトロスクリュー、トランスフォーム!」
現れたのはみなみだった。ニトロライナーにゴッドオン。ニトロスクリューへとトランスフォームしてランページ達の前に立ちふさがる。
「何じゃ……誰かと思ったらさっきのシロートかい」
「またやられに来たのか?」
「言っていればいい……!
今度は、負けない!」
相手が自分だとわかったとたん、ランページやノイズメイズの緊張がゆるむ――余裕の態度で告げるランページ達に言い放ち、みなみは迷わず地を蹴り、彼らに向けて突撃をかける。
当然、シャークトロンがそれを阻もうと割り込んでくるが――
「ジャマ!」
今のみなみを止めるには力不足だった。間髪入れずに繰り出した蹴りが先頭の1体を弾き飛ばし、後続を巻き込んで転がっていく中を一直線にランページへと突撃し――
「オラァッ!」
「――――――っ!?」
気づき、サイドに跳躍――上空から襲いかかってきたノイズメイズのウィングハルバードを回避する。
「そらそらぁっ!」
さらに、ランページもまたミサイルを乱射。バックステップとサイドステップを駆使し、みなみはミサイルを回避して距離を取る。
「その程度で……!」
うめくように言い放ち、再度突撃をかけようとするみなみだったが――そんな彼女とランページ達の間にシャークトロン達が次々に割って入り、分厚い防衛ラインを構築する。
それだけではない――防衛ラインに加わらなかったシャークトロン達はみなみの周りをグルリと包囲する。
「バカが! たったひとりで出てきやがって!
とっ捕まえて戦力にするついでに、さっきのヤツをおびき出すためのエサにしてやるぜ!」
「勝手なことを……!」
ノイズメイズの言葉に歯噛みしながら、みなみは再び彼らに向けて地を蹴るが――
「――って、きゃあっ!?」
そんなみなみの背後から、シャークトロン達が一斉に襲いかかってきた。何体かが一斉にのしかかり、みなみの身体を押さえつける。
「司令塔のオレ達を倒せば何とかなると思ったか?
確かに、数で劣ってるお前が勝つにはそれしかないが……それすらできない戦力差だってこともわからないバカなのか、わからなくなるくらい頭に血が上ってんのか……
ま、どっちにしてもオレ達には関係ないけどな」
「く…………っ!」
地面に押さえつけられた自分を見下ろし、悠々と告げるノイズメイズに、みなみは悔しげに歯噛みし、何とか脱出しようとするが――ダメだ。何体ものシャークトロンにのしかかられ、その重量で完全に動きを封じられている。
「はっ、ざまぁないのぉ。
結局、最後に勝つのはワシらじゃったっちゅうことじゃのぉ」
何もできず、もがくしかないみなみに言い放つと、ランページは彼女を踏みつけてやろうと右足を振り上げ――
「ぶべっ!?」
その顔面を、飛来したエネルギー弾が痛打した。
さらに、多数の光弾が飛来――みなみの上にのしかかったシャークトロンを次々に撃ち抜いていく。
ロードキング――みゆきの長距離狙撃である。
「狙撃――っ!?
くそっ、もう後続が来やがったか!」
自分を狙った光弾をかわし、上空に逃れながらノイズメイズがうめき――
「そういう――」
「――――――っ!?」
「ことっ!」
そんなノイズメイズに言い放ち、飛び込んできたこなたがアイギスで斬りかかる!
「ジャマよ、アンタ達!」
「どっかいっちゃえぇっ!」
続いて参戦するのはかがみとつかさ――敵の真っただ中に飛び込んだかがみが至近距離からシャークトロンを撃ち抜き、さらにつかさが砲撃による援護に入る。
そして――
「岩崎さんから、離れろぉっ!」
咆哮し、ひよりのゴッドオンしたブレイクアームが、みなみの上にのしかかっていたシャークトロン達を殴り飛ばし、みなみを救出する。
「大丈夫!? 岩崎さん!」
障害を排除し、みなみを助け起こしながら尋ねるひよりだったが――
「…………ダメなんだ……!」
自分を助け起こしたひよりに対し、みなみは歯噛みしながらそう告げた。
「私は……ゆたかを守らなきゃいけないのに……!
そのために、欲しいと思った力なのに……!
こんなことじゃ……私はゆたかを守れない!」
最後の方はほとんど悲鳴に近かった。吐き捨てるようにみなみが叫び――
「そんなことない!」
みなみに対し、ひよりは力強く言い切った。
「岩崎さんは、ちゃんと小早川さんを守ってる。
岩崎さんがいるから、小早川さんは笑顔でいられる。
けど……」
そう告げながら、ひよりはみなみの――ニトロスクリューの頭部をガッシリとつかんだ。そのまま自分の方へと向き直らせ、
「岩崎さんは忘れてる。
小早川さんを守りたいのは――岩崎さんだけじゃないってこと。
泉先輩達はもちろん……私だって小早川さんを守りたい」
「みんなも……」
つぶやくみなみにうなずき、ひよりは続ける。
「みんなで一緒に守ればいいんだよ。
泉先輩達と……私と、岩崎さんで。
もし、譲れない、って部分があっても……」
そして、ひよりはみなみの顔から手を放すと、彼女に向けて右手を差し出し、
「せめて、私ぐらいには肩代わりさせてほしい。
だって……私達、一緒にゴッドマスターに覚醒した、言ってみれば同期だし」
言って、ブレイクアームの“中”で苦笑して見せるひよりに対し、みなみはしばしうつむいていたが、
「…………うん」
うなずき、差し出されたままになっていたひよりの手を取った。彼女に支えられて立ち上がり、
「一緒に戦おう。
ゆたかを、守るために」
「もちろん!」
「それから……」
うなずくひよりに対し、みなみは少し照れ気味に続けた。
「……同期なら……『みなみ』でいい」
「え…………?」
「私も、『ひより』って呼ぶから……」
いきなりの提案に目がテンになるひよりだったが、続くみなみの言葉に、ようやくその意図を理解した。
「も、もちろん!
よぅし、やる気出てきたっスよーっ!」
テンションの上がるひよりにみなみがうなずき、二人は間合いの外から自分達を狙う狙撃を懸命にかわしているランページへと向き直る。
「高良先輩――狙撃はもういいっスよ」
〈え………………?〉
「大丈夫。
あとは……私“達”でやるから」
ひよりの言葉に声を上げるのは、遠距離狙撃でランページをけん制していたみゆき――答えて、みなみは改めてひよりに告げた。
「いくよ――ひより!」
「OK! みなm――」
みなみの言葉に答え――ひよりは不意に動きを止めた。何度か首をかしげた後、言い直す。
「えっと……みなみ、ちゃん……」
「…………何で言い直すの?」
「えっと……呼び捨てしようとしたんスけど、やっぱ照れくさくて……
とりあえず、『さん』付けよりはいいかな、と思うんスけど……」
尋ねるみなみに頭をかきながら答えると、ひよりは気を取り直してランページへとかまえ直し、
「そんじゃ、改めて……いくっスよ、みなみちゃん!」
「うん!」
「かかってこいやぁっ!」
互いにうなずき、地を蹴るみなみとひよりに言い返し、迎え撃とうとランページは背中のハサミを次々に繰り出すが、
「させないよ!」
ひより――ブレイクアームがそれを阻んだ。繰り出された左右のハサミの間に飛び込むとそのアームをつかんで動きを封じ、
「はぁぁぁぁぁっ!」
「ぶぎゃっ!?」
そんなひよりの頭上を飛び越えた、みなみのゴッドオンしたニトロスクリューが、ランページの顔面に強烈な飛び蹴りを叩き込む!
さらに、蹴りを受けて体制の崩れたランページにひよりが肉迫し、
「たぁぁぁぁぁぁぁっ!」
その腹に左右の拳を連打。猛烈なラッシュをお見舞いする。
「これで――どうっスか!?」
仕上げの一撃は全身のバネを総動員したアッパーカット。ひよりの強烈なアッパーカットがランページを跳ね飛ばす。
さすがのランページもこれは効いた。たたらを踏んで後退するが、
「その、程度で……このオレ様が倒せるワケあるかぁっ!」
それでも倒れない。なんとか踏みとどまり、咆哮と共に持ち直し――
「そうだろうと思って――」
「とっくに追撃に入ってんスけど」
「へ………………?」
みなみとひよりの言葉に間の抜けた声を上げ――そんな彼の視界を埋め尽くしたのは鋼の拳と足の裏で――
「ぶぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」
次の瞬間、それはランページの顔面に叩き込まれた。豪快に宙を舞い、頭から大地に叩きつけられる。
「みなみちゃん!」
「うん!」
まだまだ彼女達のターンは続く――ひよりにうながされ、みなみは一歩前に出て、
「ドライヴレッグ――アクティブ!」
その彼女の号令に応じ、両足に内蔵されたビークルモードの車輪が高速で回転を始めた。発電モーターのごとき動力発生機関となったそれが生み出したエネルギーが両足先に集められていく。
そして、みなみは身をひるがえし、
「スパイラル――シュート!」
両足に集められたエネルギーを回し蹴りの要領で撃ち放った。放たれた光弾はまるでライフルの弾丸のように高速回転。光のドリルとなってランページに襲いかかる!
「ちぃっ!」
うめき、左右のハサミで防御しようとするランページだったが――止まらない。ハサミに突き刺さった光の螺旋はなおも回転を続け、ランページのハサミを抉っていく。
このままでは危険だと判断し、振り払おうとするランページだが、時すでに遅く、みなみの光のドリルがランページのハサミを粉砕する!
「ひより――今!」
「了解っス!
カーボンフィスト!」
みなみに答え、前に出たひよりが咆哮。それに答え、彼女の――ブレイクアームの背中に背負った炭水車ユニットが分離した。左右に分割、頑強な追加装甲として両腕に装着される。
「さぁ、いくっスよ!」
言って、より巨大になった拳でガッツポーズしてみせるひよりだったが――その姿からランページは不意にあるものを連想した。
SLをビークルモードとしているが故の漆黒のボディに、カーボンフィストを装備したことによって巨大になった両腕のシルエット。これは――
「………………ゴリラ?」
「ご…………っ!?」
思わずランページが口にしたその言葉に、ひよりは思わず硬直する――が、それもムリのない話だ。思春期の女の子にとって、ゴリラ呼ばわりはかなり辛い。
「そ、それは女の子として激しく屈辱っス!
全力で撤回を要求するっス!」
「うっさいわ!
そう見えたんじゃからしょうがないじゃろ!」
「それでも撤回するっスよ!」
開き直るランページに言い返し、ひよりは拳を振り上げてランページへと殴りかかった。何発も拳を叩きつけ、
「私はゴリラじゃ――ないっスよ!」
トドメとばかりに放った渾身の一撃で、ランページを殴り飛ばす!
「みなみちゃん! 一気に行くっス!
このままボコボコにしてやるっスよーっ!」
「え、えっと……」
さっきまでは自分がヒートアップしてひよりにいさめられていたはずなのに、今のこの空気は何だろう――すっかりエキサイトしているひよりに気圧され、みなみは思わず後ずさりし――
「……き、さ、まらぁっ!」
怒りの咆哮と共に、身を起こしたランページが二人をにらみつけた。
「もー許さん!
ギッタンギッタンのボコボコにしちゃらぁっ!」
「じょーとーっスよ!
返り討ちにしてやるっス! かかって来いっスよ!」
「ひ、ひより、落ち着いて……」
ランページに言い返し、今にも殴りかかろうとするひよりをみなみがなんとかなだめていると、
「おぅともよ、いったらぁっ!」
ランページの咆哮と同時、彼の頭上にワープゲートが展開された。
しかし、いつも彼らが移動に使っているような、トランスフォーマー1体分程度のサイズではない。もっと大きな――より巨大な何かが通るためのものだ。
「試しに作ってたのが、こんなところで役に立つとはのぉ!
出てこいや! 今週の、ドッキリビックリメカぁっ!」
そのランページの言葉と同時――それはワープゲートの向こうから姿を現した。
通常のそれよりもさらに巨大なシャークトロンだ。身長だけでも通常の3倍はゆうにある。
「これぞ大規模殲滅戦を想定したサウンドブラスターが試作した、メガサイズシャークトロンじゃ!
ビビれ、ビビれ! 存分にのぉ!」
そんな巨大なシャークトロンの上によじ登り、自分が優位に立ったと勝ち誇るランページだったが――
「それがどうしたっスか?」
対し、ひよりはあっさりとそう言い放った。
「私達二人に、そんな大きくなっただけのシャークトロンが相手になるとでも思ってるの?」
「ボッコボコの返り討ちにしてやるっスよ!」
ひよりだけではない。みなみも自信タップリに言い放つ――そんな彼女に同意し、ひよりは彼女に告げる。
「みなみちゃん、一気に行くっスよ!」
「うん!」
「ニトロスクリュー!」
「ブレイクアーム!」
みなみが、そしてそれに続いてひよりが――二人が名乗りを上げ、頭上に大きく跳躍し、
『ゴッド、リンク!』
咆哮と同時、二人がゴッドオンしたまま分離、変形を開始する。
同時にビークルモードへとトランスフォーム。ロボットモード時にボディを形成する先頭部分を車体上方に90度起こすと、前方を向いている底部を180度回転することで車体後方に向ける。
さらに車体後方が数ヶ所に渡ってスライド式に延長。内部に隠されていた関節部が露出し、それぞれ左半身、右半身への変形が完了する。
互いに変形を完了し――二人は向かい合うように合体、ひよりのブレイクアームを右半身、みなみのニトロスクリューを左半身としたひとつのボディとなる。
両肩となった先頭部分の下部からジョイント部分が露出、ブレイクアームのカーボンフィストが連結するように合体し、両腕が完成する。
最後にブレイクアームの変形した右肩が開くと中からロボットモード時の頭部が射出され、二人が合体して形成されたボディに改めて合体する。
すべてのシステムが問題なく起動し――ひとつとなったひよりとみなみは高らかに名乗りを上げる。
『連結、合体! グラップライナー!』
「な、何じゃと!?
貴様らのトランステクターも、合体できたんか!?」
「柊先輩達のトランステクターも合体できたんスよ!
“列車型”って共通点があるのに、どうしてそこに思い当たらないっスかね!」
まさか彼女達の機体まで合体できるとは――驚愕し、声を上げるランページだが、そんな彼に対し“表”に出ているひよりがそう答える。
《ひより》
「わかってるっスよ!
向こうに見せ場なんか渡さないっス! このまま、ずっと私達のターンっスよ!」
“裏”側から告げるみなみに答え、ひよりは地を蹴り、巨大シャークトロンへと突撃をかけた。
対し、モンスターモードのままそれを迎え撃とうと両手を伸ばしてくる巨大シャークトロンだったが――
「誰が――バカ正直に組み合うもんっスか!」
ひよりはそれに付き合うつもりはなかった。巨大シャークトロンの両手をさばきながらその懐に飛び込み、左右の拳で立て続けに連打を叩き込み、
「みなみちゃん!》
《うん!」
素早くみなみに交代した。コントロールを引き継いだみなみは巨大シャークトロンに足払い。その巨体をひっくり返す!
「どわぁっ!?
な、何しとるんじゃ! 早いトコ起きんかいっ!」
一方、たまらないのが巨大シャークトロンの上に乗っていたランページだ。振り落とされた上に巨大シャークトロンの下敷きとなり、巨体の下でジタバタともがいてみせる。
「ひより――このまま一気に!」
《了解っス!》
“裏”側からうなずいてくるひよりにうなずき返し、ひよりは素早く後退、間合いを取る。
《フィニッシュ技のネタならとっくに準備完了!
まずは私が!》
「うん――お願い!」
ひよりの提案にうなずくと、みなみは彼女と“表裏”を交代。コントロールを取り戻したひよりがランページ達へとかまえる。
「さぁ……フィニッシュいくっスよ!
大事なものを踏みにじったお前らなんか、ケチョンケチョンにしてやるっスよ!」
「はんっ! いったい何を踏みにじったっちゅうんじゃ!
お前らのプライドか!? それともお前らが前の戦いで守ろうとしとった、あの小娘か!?」
巨大シャークトロンの下敷きになったまま、それでも言い返してくるランページだったが――ひよりはキッパリと答えた。
「ゴリラ呼ばわりされた――乙女の純情っス!」
《…………うん、同情の余地なしだね》
「当然っス!
覚悟するっスよ! えーっと……カニの人!」
「そもそも名前覚えとらんかったんかいっ!」
ランページのツッコミの声が上がった。
「《フォースチップ、イグニッション!》」
ひよりとみなみが咆哮すると同時、彼女の元に飛来したのはミッドチルダのフォースチップ――右肩の、ブレイクアームのチップスロットへと飛び込むと四肢の装甲が展開。放熱デバイスが起動し、“フルドライブモード”へと移行する。
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
グラップライナーのメインシステムが告げる中、フォースチップのエネルギーはグラップライナーの四肢に集中。両拳、そして両つま先に収束されていく。
「いっけぇっ!」
そして、ひよりは巨大シャークトロンに向けてダッシュをかけた。右腕をブンブンと振り回しながら巨大シャークトロンへと突撃し、
「爆熱――激走!」
仕掛けるのは“表”に出たみなみだ。左足に集めたエネルギーを回し蹴りの要領で叩きつけると、右足のエネルギーを叩き込むついでに巨大シャークトロンの巨体を蹴り上げる。
そして、みなみは間髪入れずひよりと交代。一気に跳躍し、跳ね上げられた巨大シャークトロンへと追いつき、
「ライナー、ブラストブレイク!」
両手を合わせ――叩きつけた。フォースチップのエネルギー、その残りすべてを込めた一撃が、巨大シャークトロンを大地に叩きつける!
そして、グラップライナーは大地に突っ込んだ巨大シャークトロンに背を向ける形で着地し、
「《終点――到着!》」
かがみ達のそれを真似た勝ち鬨の声と共に、巨大シャークトロンは大爆発を起こして大破した。
「ほんぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」
「ランページ!?」
巨大シャークトロンを完全に破壊され、吹っ飛ばされるランページ――声を上げ、こなたに足止めされていたノイズメイズがあわてて彼を拾いに行った。落下する前になんとか彼を捕まえることに成功するが、
「どうやら――そこまでのようね」
「どうするの?
続けるというなら、相手をするけど」
「げ…………っ!?」
さらにイリヤや美遊まで現れた――変身し、カレイドステッキを手に告げる二人の姿に、ノイズメイズは思わずうめき声を上げる。
「さぁ、どうするの!?」
「ぐ…………っ!
てめぇらなんかに、やられてたまるかよ!」
告げるイリヤに言い返し、ノイズメイズは目の前でエネルギー弾を炸裂させた――ほんの一瞬視界を埋め尽くした光にイリヤ達が目を背け、再び視線を戻した時には、すでにそこにノイズメイズ達の姿はなかった。
「みなみちゃん!」
「ごめん……ゆたか。
心配、かけちゃったね……」
クラウドキャッスルに戻った彼女達真っ先に出迎えたのはやはりゆたか――飛びついてくる彼女に、みなみは申し訳なさそうにそう謝罪した。
「でも……大丈夫。
私はひとりじゃない……ひよりが、そう教えてくれたから……」
「ふぇ…………?」
そう答えるみなみの言葉……その中にあった、今までとの違いにゆたかはすぐに気づいた。みなみを見上げ、尋ねる。
「みなみちゃん、今……田村さんのこと、名前で……」
「うん。
一緒に戦う、パートナーだから……」
「そういうことっスよ。
まぁ……私はまだ照れくさくて、『ちゃん』付けだけど……」
「そうなんだ……」
みなみや、彼女に付け加えるひよりの言葉に納得すると、ゆたかはひよりへと視線を向け、
「じゃあ……私も、『田村さん』じゃなくて、『ひよりちゃん』って呼んでも……?」
「もちろん、大歓迎っスよ♪」
答えて、ひよりはゆたかに微笑み返す――そんな彼女達の微笑ましいやり取りを、こなた達と共に遠巻きに眺めていたイリヤに、スカイクェイクは小声で尋ねた。
「ところで……イリヤスフィール。
敵の出現でうやむやになっていたが……」
「あぁ、そういえば報告してなかったね」
思えば、帰ってくるなりノイズメイズ達の再出現があったせいでその辺りがおざなりになっていた――うなずき、イリヤは自分のミニスカートのポケットを探り、
「凛さん達の呼び出しって……“これ”だよ」
言って、ポケットから取り出したケースを見て、スカイクェイクは眉をひそめた。
「おい……
それは、まさか……」
「はい……
ジュンイチさんの指示で、ルヴィアさん達が“時計塔”から使用許可を取り付けて、借りてきてくれたみたいで……」
スカイクェイクには美遊が答え、イリヤはケースからそれを取り出した。
タロットカードを思わせる、長めのカードだ――見たことのないそのカードにこなた達は顔を見合わせるが、この“正体”を知るイリヤ達の表情は真剣そのものだ。
「つまり……柾木は“これ”の力が必要になるかもしれない――そういう事態も、想定している、ということか……」
「だと、思います……」
それはつまり、彼女達も“本気”を出さなければならない、そんな局面もあり得る、ということだ――スカイクェイクの言葉が、今回ばかりはイリヤ達の肩にも重くのしかかってくる気がした。
「凛さん達、あちこちで頭下げたみたいで……『すり減らしたプライドをムダにするな! 減ったプライドの分だけ使え! 元を取れ!』とか息巻いてたけど……やっぱり、使わずに済めばいいんだけどね。
こんな……」
「“クラスカード”なんか……」
「また……関東の方でカイザーズとユニクロン軍がぶつかったんだ……」
こなた達の今回の戦いは、すでに彼女の知るところとなっていた――端末に届いた情報に目を通し、月村すずかは小さくため息をついた。
映像に映っているのは新たなライナーズ――ひよりのブレイクアームやみなみのニトロスクリューだ。普段なら新たなメカの登場にエンジニアとしての血が騒ぐのだが――さすがに“この問題”ではそんな気にもならない。
「また……戦いが大きくなってきてる……
このまま……今までの事件みたいに、大きなことにならなきゃいいけど……」
つぶやき、すずかはもう一度ため息をつき――
「ところが、そううまくはいかないんだよねー、実際のトコ」
「――――――っ!?」
無人と思われた部屋の外からの声が自分のつぶやきに答えた――廊下から聞こえた声に、すずかは思わず息を呑んだ。
自分に使えるメイド、ファリンの声ではない。セキュリティの万全なこの屋敷に、どうやって入ってきたのかと考えるが――すずかはすぐにその思考を止めた。
この屋敷に縦横無尽に張り巡らせたセキュリティを一切作動させることなく突破する――そんな芸当ができるのはひとりしかいなくて、さらにその人物が自分に危害を加えることは“絶対に”あり得ないからだ。
ただ――
「………………何で入ってこないんですか?」
「さすがのオレも、夜中にいきなり女の子の部屋に上がり込むほどデリカシー欠けちゃいないんだよ」
「男女云々以前に、こんな時間にいきなり訪ねてくる時点でアウトだと思うんですけど」
答える声の主に、すずかは苦笑まじりにツッコんで――いずれにせよ、中に入ってきてもらった方が話しやすいと判断し、彼を招き入れることにした。
「……大丈夫ですから、入ってきてもいいですよ」
「そっか? じゃ、お邪魔するよ」
そう答える声と共に、自室のドアが開かれる――姿を見せた予想通りの人物に、すずかは息をつき、尋ねた。
「それで……今日は一体どんな用件ですか?――ジュンイチさん」
「ちょいと、お前さんに叱られに、ね」
すずかの問いにそう答え、ジュンイチは軽く肩をすくめてみせた。
スカイクェイク | 「そういえば……最近、ユニクロン軍の中にサウンドブラスターの姿を見ないな…… 出てきてもセリフがないのがほとんどだし」 |
ノイズメイズ | 「あぁ……アイツなら今、よそで動いてもらってるからな」 |
スカイクェイク | 「何? また何か悪だくみを……」 |
ノイズメイズ | 「あー、それもあるんだけどさぁ……」 |
スカイクェイク | 「………………?」 |
ノイズメイズ | 「ほら、アイツの大声ってすさまじいだろ。マイクまで使ってボリュームアップしやがるから…… あんまりうるさいから、かたっぱしからよそでの任務をあてがって、できるだけユニクロンパレスに寄り付かないようにしてるんだよ」 |
スカイクェイク | 「それ……『左遷』って言わないか……?」 |
ノイズメイズ | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第58話『嵐の予感〜Sisters&Daughters〜』に――」 |
二人 | 『ゴッド、オン!』 |
(初版:2009/05/02)