ガッ!と平手打ちから発せられたにしてはあまりにも鈍い音が響き――ジュンイチの身体は客間の壁に勢いよく叩きつけられた。背後の壁にヒビが入り、ジュンイチはその壁に背を預ける形でズルズルとへたり込む。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫だから……ファリンちゃんは下がってな」
あわてて駆け寄ってくるファリンを手で制すると、ジュンイチは立ち上がることもせず、今自分を殴り飛ばした張本人――すなわちすずかへと視線を向けた。
「それに今回は……オレが悪い。
すずかはオレの事を心配して、反対してくれたってのに……その反対を押しきったんだからな」
「そうですよ……!」
告げるジュンイチの言葉に、すずかは静かにそう言葉を絞り出した。
「言いましたよね……
『“アレ”は絶対に使わないで』って……危険すぎるって!」
「……返す言葉もないよ。冗談ヌキで」
すずかの言葉に、ジュンイチもさすがに冗談を飛ばすことはない。素直に頭を下げてそう告げる。
「どうしてですか?
あんなに使わないでください、って念を押したのに……」
「…………他に、選択肢がなかったんだよ」
どうして“こんなこと”をしたのか――理由を尋ねるすずかに対し、ジュンイチは視線を落として答える。
「この先、生身で戦うだけじゃ、間違いなく限界がくる……どうしても、機動兵器系の戦力が必要になる。
でも、既存の動力システムじゃ、ナンバーズのトランステクターに対抗できるだけのパワーはどうしても出せない。古代ベルカ――“聖王王権時代”製ってのはダテじゃないんだ。
管理局系統から調達するって選択肢もナシだ。魔法文明系のシステムだから、AMFの影響をモロに受ける。
AMF系のマジックキャンセルをスルーして、その上でヤツらに対抗できるだけのパワーを“マグナ”に与える――それができる動力システムは、お前の作った“アレ”しかなかった」
「でも…………!」
告げるジュンイチの言葉に、すずかは自分の椅子に座り直した。うつむいて、ヒザの上で両手を強く握りしめる。
「ジュンイチさんも知ってるでしょう?
私がどうして、“アレ”の実機をすべて破壊して、設計データも厳重に封印したのか……」
「……わかってるよ」
そう答え、ジュンイチは頭をかきながら続ける。
「原因は出力の不安定――調整がピーキーで、ちょっとでもしくじればすぐに暴走、周囲一帯もろとも相転移爆発を引き起こす超危険物……
そんなモノを“マグナ”に積んで、もし暴走したら、まず真っ先に吹っ飛ぶのは間違いなくオレだわな」
「それがわかっていて、どうして……!」
ジュンイチの言葉に答えるすずかの声には、わずかではあるが嗚咽が混じり始めてていた。
「そうなってほしくないから、私は反対したのに……!」
「理由は……さっき言った通りだ」
「でも!」
ジュンイチの答えに、すずかはついに声を荒らげた。
「それで“もしものこと”があったら、スバルちゃんやギンガちゃんはどうなるの?
ううん。二人だけじゃない……私だって……!」
つぶやき、泣き崩れるすずかに対し、ジュンイチは改めてそう答えた。
「でも……オレには、“アレ”を使うしかないんだ。
だから、お前のところに来た――お前の言う“もしものこと”が起きる確率を、少しでも減らしてもらうために」
そして――ジュンイチはその場であぐらを組み直した。背筋をただし、両ひざの前あたりで両拳をついて頭を下げる――時代劇などで武士がやっている座礼と共に、改めてすずかに告げる。
「頼む、すずか。
“マグナ”の完成のために、お前の力を借りたい。
お前の手で仕上げてほしいんだ。“マグナ”の動力システムに使った、お前がかつて設計した――」
「“多段式相転移エンジン”を……」
第58話
嵐の予感
〜Sisters&Daughters〜
「さて……今日の朝連の前に、ひとつ連絡事項です」
ある日の早朝、訓練場前に整列したスバル達を前に、なのはは開口一番そう切り出した。
「“Bネット”技術部、柾木霞澄さんが、地上に用があるとのことで、しばらくの間六課に滞在となります」
「ま、何度も顔合わせてるし、こんなあいさつ、ホント『今さら』なんだけどねー」
告げるなのはのとなりで、霞澄は軽く手を挙げてそう付け加える。
「ま、これでも柾木流のマスタークラスだからね。能力戦はともかく、能力なしの徒手格闘ならバリバリ指導もできるし……訓練の方も、チョコチョコ見せてもらうからね♪」
『よろしくお願いします!』
告げる霞澄の言葉に、スバル達はそろって一礼する――そんな彼女達の姿にうなずき、ヴィータはスバル達に向けて口を開いた。
「よーし、じゃあ、あんまり必要もなかった気がする紹介も済んだところで……さっそく、今日も朝練イッとくか!」
『はい!』
ヴィータの言葉にスバル達がうなずき、それぞれが教官役のメンバーと合流する。
「キャロ、こっちに来て」
「はい!」
キャロの元にはフェイト。
「エリオ、お前はこっちだ。
高機動近接戦訓練の続きだ」
「はい!」
エリオにはイクト。
「ティアナは、今日もあたしとやるぞ。
突撃型のさばき方、第6章!」
「お願いします!」
ティアナにはヴィータ。
「じゃ、あたし達は……」
「いつも通り、ガッツリ模擬戦、いっときますか!」
アスカとアリシア。
「トランスデバイスどもはこっちだ。
全員まとめて、オレの模擬戦の相手をしてもらう」
「拙者達4人を相手にひとりで、とは……甘く見られたものでござるな」
「いや、マスターコンボイと我々の経験の差を考えれば妥当だ」
「おもしれぇ。ほえ面かかせてやろうじゃねぇか」
《やっちゃえ、クロちゃん!》
「えー? めんどくさいなー」
GLXナンバー4名にはマスターコンボイ。そして――
「霞澄さん」
スバル達の元には、霞澄を連れたなのはがやってきた。
「じゃあ、霞澄さんには……」
「えっと……私はどうしようかなー?」
「……って、あ、あの、霞澄さん……?」
「エリオくん達にはそれぞれ教官さんがついちゃってるし……」
「霞澄さん……?」
「今日はもう、このまま見学してようかなぁ?」
「…………霞澄“ちゃん”」
「んー? どしたの? なのはちゃん」
相変わらず、『ちゃん』付けで呼ばなければ反応する気はないらしい――『ちゃん』付けした瞬間反応してきた霞澄にため息をつき、なのはは改めて霞澄に告げた。
「えっと……スバルとギンガの出来を見てもらっても、いいでしょうか……?」
「二人の出来を?」
「はい」
聞き返す霞澄に、なのははうなずき、続けた。
「スバル達と、軽く模擬戦……
二人の成長、確かめてみてください」
「うん。いいよ。
ってゆーか……」
なのはの言葉にあっさりうなずくと、霞澄は脇に置いておいた自分のカバンをあさり、
「実は、ちょっぴりそーゆー展開を期待していたりもしてたしね♪」
取り出したのは頑強な作りの籠手だった。手早く身につけ、改めてスバル達の前に進み出る。
「じゃあ、どちらから先にします?
スバルか、それともギンガ――」
「あー、いいよいいよ」
とりあえずどちらかと1対1で――そう提案しかけたなのはを制し、霞澄は自信に満ちた笑みと共にスバル達に告げた。
「さて、お嬢さん方。
“久しぶりに”――」
「二人まとめてかかってきなさい♪」
「ふんっ! たぁっ!」
「やぁっ! せいっ!」
スバルとギンガの咆哮が訓練場に響く中――模擬戦を見学していたなのは達は、信じがたい思いで目の前の光景を見つめていた。
「はぁぁぁぁぁっ!」
「たぁぁぁぁぁっ!」
気合いの入った咆哮と共に繰り出される激しい連打――スバルとギンガの猛攻を、霞澄はそのことごとくをさばいていく。
次々に、姉妹ならではの絶妙なコンビネーションから放たれる連続攻撃だが、あるいはかわし、あるいは止め、あるいは受け流し――霞澄は未だに1発のヒットも許していない。
そんな中――不意にスバルとギンガの姿が霞澄の前から消えた。ステップを駆使し、最小限の動きで霞澄の背後に回り込むが、
「――後ろ!」
「え――――っ!?」
「そんな――!?」
霞澄はそれを読んでいた。身を沈めて背後からの拳を回避。驚くスバルとギンガはそのまま霞澄の両サイドを駆け抜け、元通り霞澄の正面に戻ってきてしまう。
「スバル!」
「うん!」
それでも、すぐに身体は追撃に移った。ギンガの言葉にうなずき、スバルは姉と共に再び霞澄に向けて突撃をかけるが、
「なんの!」
霞澄もいつまでも付き合うつもりはなかった。大きく跳躍、スバルとギンガの突撃を回避する。
「――チャンス!」
〈Wing Road!〉
しかし、空中では移動手段のない霞澄に逃げ場はない。すかさずウィングロードを展開、スバルは今度こそ一撃を見舞おうと霞澄に迫る。
一気に間合いを詰め、拳を繰り出し――
「残、念♪」
一撃を受けたのは――スバルの方だった。
空中でスバルの拳に狙われた霞澄だったが、霞澄は難なくその拳を打ち払った――しかも、その拳を払った勢いを利用して身をひるがえし、スバルの脇腹にカウンターのヒジを叩き込んだのだ。
「きゃあぁっ!」
「いちいち突撃するまでもないところで突っ込まない。
今のは地上からリボルバーシュートで狙い撃ちすれば事足りたはずだよ、射程内だったんだから」
吹っ飛ばされるスバルに告げ、霞澄はそのまま地面に着地し――
「でもって――こっちは狙いが見え見え♪」
「きゃあっ!?」
そのまましゃがんで、着地の瞬間を狙っていたギンガの拳をかわした。ついでに足払いでギンガの足をひっかけ、つまずいたギンガは勢い余って転倒してしまう――
「す、すごいでござるな……」
「スバル達が、まるで子供扱いじゃねぇか……」
一方、他のメンバーは模擬戦を見学中――スバルとギンガが、二人がかりで手も足も出ないその光景に、シャープエッジとロードナックル・クロが感嘆の声を上げ、
「霞澄さん……あんなに強かったの……?」
「まぁ、な」
驚いているのは隊長陣も同じ――呆然とつぶやくなのはに対し、イクトはあっさりとうなずいてみせた。
「イクトさん……まさか、こうなるのがわかってたんですか?」
「だいたいな」
その落ち着いた様子に、なんとなく気づいたフェイトが尋ねる――対し、イクトは軽く肩をすくめてそう答えた。
「能力者戦には不向きなおかげで前線で戦うことこそないが……あれでも柾木流の師範だ。こと“技”に関しては、霞澄女史はおそらくこの場の誰よりも上だ。
オレ達ですら、能力を封じた状態では手も足も出ない――彼女に勝とうとするならルールもプライドも無視し、彼女の追ってこれない空中から広域爆撃で黙らせるしかない」
「い、イクトさんよりも強いんですか……?」
「“技だけ”だからな。一応言っておくが」
驚き、呆然とするフェイトに少しばかり強がりを込めてそう答える。
「非能力戦で彼女に比肩しうるのは……御神の剣士、その中でもマスタークラスである高町士郎、御神美沙斗……あとは高町恭也ぐらいか。
お前達とて、非能力戦ルールでは恭也達に勝てまい?」
『う゛…………っ』
イクトの言葉に、なのは以下隊長陣は一様に押し黙る――それを肯定と受け取り、イクトは再びスバル達の模擬戦の様子に視線を戻した。
スバル達はウィングロードを展開し、上空まで空間をいっぱいに使って霞澄をほんろうしようとしているが、逆に霞澄にウィングロードを足場として利用され、空間戦闘でも圧倒されている――そんな彼女達の様子をハラハラしながら見守っていたキャロだったが、
「………………あれ?」
ふと、スバル達の表情に気づいた。
「なんだか……」
「うん……」
となりのエリオも気づいたようだ。うなずく彼に同意する形で、キャロは改めてつぶやいた。
「スバルさんも、ギンガさんも……霞澄さんも、すごく楽しそう……」
「あぁ……そういうこと。
スバルとギンガにとって、霞澄ちゃんもお母さんみたいなものだから」
キャロにそう答えたのはアリシアだった。
「お母さんが亡くなる前から、ジュンイチさん達柾木家は家族ぐるみでナカジマ家と付き合ってきたから。
だから……スバル達にとって、お父さんはゲンヤさんと龍牙さん、お母さんはクイントさんと霞澄ちゃん……二人ずついるのよ」
言って、アリシアはスバル達へと視線を戻した。
「この模擬戦……当人達にとっては親子のじゃれ合いみたいなもんかもね。
なのはも、なかなか粋なことするじゃない――半ば狙ってたでしょ?」
「こ、こうまで歯が立たないとは、さすがに思わなかったけどね……」
アリシアの言葉になのはが思わず苦笑した、その時――轟音と共に、彼女達の目の前に“それ”が落下してきた。
『きゅう〜〜……』
完全に目を回したスバルとギンガだ。そして――
「はい、しゅーりょー♪」
そんなスバル達の前に降り立ち、霞澄は実にスッキリした笑顔を見せたのだった。
「なぐさめにしかなんねぇだろうけど……反応は悪くなかった。それは断言してやらぁ」
「は、はい……」
気がついたスバル達を待っていたのはヴィータによる講評――告げるヴィータの言葉に、ギンガは苦笑まじりにうなずいた。
「ただ……今回は相手が悪かった。あの人にゃあたしらも歯が立たねぇ。勝てなくてもしょうがねぇや」
「でも……やっぱり悔しいです。
うーっ、次こそ勝とう、ギン姉!」
続くヴィータの言葉に、スバルはそう答えてグッと拳を握りしめる――そんな彼女達の脇で、霞澄はなのは達からスバル達の出来について聞かれていた。
「どうでしたか? 霞澄さ……じゃない、霞澄ちゃん。
スバルとギンガの様子は」
「うん。すごくいいね」
尋ねるなのはに対し、霞澄はあっさりとそう答えた。
「六課での訓練は何回か見てたけど、実際に拳を交えてよくわかった――二人とも、ウチでバカ息子にしごかれてた頃よりも格段にレベルを上げてるよ」
「そう言っていただけて光栄です」
霞澄の言葉に若干照れながらそう答えるなのはだったが――不意に霞澄を見返し、告げる。
「でも……それも全部、ジュンイチさんの作ってくれた下地のおかげなんですよ」
「ジュンイチの?」
「はい」
聞き返す霞澄に答え、なのははその時のことを思い出すように空を見上げ、
「最初、スバルを指導した時に感じたんです……セオリーからは外れてたけど、すごくスバルらしい動きだって……
スバルのお師匠様……ジュンイチさんが、スバルに合わせて、スバルの一番戦いやすいように、あの子に合わせた土台を、ちゃんと作ってくれていたんです……
まぁ、一時期、私が未熟だったせいで、危うくその基礎をつぶしかけちゃったりもしたんですけど」
自嘲気味に付け加え、なのはは思わず苦笑する。
「ひょっとしたら……あの頃の私は、ジュンイチさんに嫉妬してたのかもしれません。
マンツーマンの指導だったとはいえ……後々スバルが伸びやすいように、これ以上ないってくらいベストな基礎の固め方をした、そんな“師匠”としてのジュンイチさんに……」
「あー、まぁ、気持ちはわかるけどね。
でも、あの子はもう、存在自体が反則みたいなもんだから。いちいち嫉妬してたら身が持たないわよ」
「かもしれませんね」
実の母親にまでここまで言わせるとは――クスリと笑みをもらして答えるなのはに霞澄がうなずくと、
「なーんか楽しそうにバトってやがると思ったら、てめぇか、柾木母」
「あれー? 何? もう終わっちゃってる?」
新たな声がかけられた――振り向くと、そこには先の模擬戦に興味を示したらしいブレードと少し遅れて朝練に顔を出すことになってたライカの姿があった。
「あー、いーわよいーわよ。
まだちょっと試してみたいことがあったし……ブレードくんも来てくれたのはありがたいわ。呼ぶ手間が省けちゃった♪」
『………………?』
その霞澄の言葉に、名前の挙がったブレードだけでなく全員が首をかしげる――そんな一同に対し、霞澄はどこか楽しそうに告げた。
「それじゃ、ちょうどいい具合に主力が顔をそろえたワケだし……今度は隊長さん達の訓練、いってみよっか?
ルールはチーム戦、隊長さん達VSイクトくん、ブレードくん、ライカちゃんの3名、名づけて“チーム・THE・チート”……」
「ちょっと待て!」
言いかけた霞澄の言葉に、イクトは思わず待ったをかけた。
「何だ!? そのチーム名は!?」
「今さっき思いついたんだけど……なかなかよさげじゃない?」
「よくないですよ!
何で“チート”!? それはジュンイチの代名詞でしょう!?」
「楽しいチーム名だと思ったのに……」
「選択基準に『楽しそう』が入っている時点でアウトだろうが!」
「はーいはいはい。
わかったわよ。やめればいいんでしょ」
イクトとライカ、二人がかりでダメ出しを受け、霞澄は残念そうに肩をすくめ、改めて告げる。
「なのはちゃん達隊長格はリミッターかかってるんでしょ?
今後も、そのままの状態でリミッターのない全開バリバリの犯罪者を相手にする事態はあるだろうし……リミッターのかかったまま、出力で上回る連中を相手にどう戦うか、今からきっちり対策考えとかないとね。
そういうワケだから、イクトくん達はハナから全開でお願いね」
「へっ、言われるまでもねぇ。
オレはいつでも、全力でブッタ斬るまでさ」
「え、えっと……私達的には、ブレードさんには少なからずブレーキをかけてもらいたいんですけど……」
この男は“手加減”どころか訓練相手に対する安全面の配慮すらすっ飛ばすから始末に負えない。楽しそうに答えるブレードになのはは冷や汗まじりにそう答え――
「ふむ……全開か……
できれば、テスタロッサとは全開の状態でやり合ってみたかったのだが……まぁ、訓練の趣旨を考えれば仕方がないか」
「お手柔らかにお願いします」
「心配するな。
今の貴様らなら、実力を出し切ればリミッターのかかった状態でもいいところまでいけるはずだ。もっと自信を持て」
「はい!」
「うむ、いい返事だ」
「…………とりあえず、隊長さんズはイクトくんを、ライカちゃんとブレードくんはフェイトちゃんをまず狙おうか」
こっちのやり取りをそっちのけで仲良くしているイクトとフェイトの姿に、見せつけられた霞澄は迷わずなのは達にそう提案した。
「はぁぁぁぁぁっ!」
「たぁぁぁぁぁっ!」
気合い十分な咆哮と共に突っ込み、みなみのゴッドオンしたニトロスクリューが蹴りを、ひよりのゴッドオンしたブレイクアームが拳を繰り出すが、
「なんの!」
「甘い……!」
イリヤと美遊には届かない。それぞれの相棒、ルビーとサファイアが魔力を集中させて作りだした防壁が、二人の打撃を受け止め、弾き返す。
「まったく、こっちはゴッドオンしてるっていうのに、生身で防ぐなんてありっスか!?」
「重量差も完全無視……
……これが、トランスフォーマーや魔導師の戦い……!」
自分達の攻撃をあっさりと止められ、ひよりやみなみは困惑まじりにうめき――
《ほらほら、ボサッとしてるヒマはありませんよ!
私達が直接鍛えてあげてるんですから、もうちょっと踏ん張ってくださいよ!》
「中っくらいの――散弾!」
「ぅひゃあっ!?」
「く………………っ!」
ルビーとイリヤの放った魔力弾の雨から逃れるべく、みなみ達はあわてて後退し――
《撤退するのはいいですけど――なりふり、かまわなさすぎです!》
「狙撃――発射!」
サファイアと美遊の狙撃が、ひよりとみなみを次々に吹っ飛ばす!
「うっわー、容赦なー……」
「イリヤさん達、手加減なしねー……」
その光景を見てつぶやくこなたやかがみも模擬戦の真っ最中――カイザーコンボイにゴッドオンしたこなたのつぶやきに、トリプルライナーに合体したかがみが同意し――
「よそ見しているヒマが、果たしてあるのか!?」
「ぅわったぁっ!?」
そんな二人のスキをつき、スカイクェイクが襲いかかる――振り下ろされたブレードモードのデスシザースを、こなたはなんとか身をひねってかわすが、
「反応が――大きすぎる!」
スカイクェイクの攻撃は終わらない。続けて繰り出された蹴りが、こなたの腹をとらえ、蹴り飛ばす!
「こなた!
こんのぉっ!」
そんなこなたの姿に声を上げ、かがみがスカイクェイクへと殴りかかるが、
「貴様も、モーションにムダが多い!」
スカイクェイクはあっさりと左手一本でそれを弾いた。そのまま左手を引き、攻撃をさばかれてバランスを崩したかがみの顔面にヒジ打ちを叩き込む。
「ったーっ!?」
《お姉ちゃん、大丈夫!?》
《かがみさん!?》
「だ、大丈夫……!」
“裏”側から声を上げるつかさとみゆきに答え、かがみはこなたと合流してスカイクェイクと対峙する。
「ハデな一撃もらったねー、かがみん」
「おのれ、乙女の顔面に……!
ゴッドオンしてたからいいようなものを……」
「何を言っている?
ゴッドオンしているからこそ――直接殴らんで済むからこそ遠慮なく殴れるんだろうが」
こなたの言葉にうめくかがみに対し、スカイクェイクは不敵な笑みと共にそう答え――
「そーゆーとこ、だんだん“先生”に似てきたねー」
「がはぁっ!?」
こなたの言葉がクリティカルヒット――「ジュンイチに似てきた」と指摘したその言葉は、スカイクェイクの心を容赦なくえぐり抜いた。
「はい、そこまで」
最後まで残っていたのは防御力に助けられていたなのは――しかし、そんな彼女もシールドの死角から一撃を叩き込まれてはどうしようもなかった。防御をすり抜けて打ち込まれたイクトの拳、そこに込められていた炎でなのはが吹っ飛ばされたのを合図に、霞澄は模擬戦の終了を宣告した。
「何度もいいところまでいくんだけどねー。
けど、その都度一撃、二撃でひっくり返される……出力の差で押し切られたわね」
「後少しだったわねー」
「『後少し』でも、勝てなければ意味はない……」
「くっそー、あたしらもスバル達を笑えねぇな、こりゃ」
それぞれの獲物をしまい、告げる霞澄とライカに、息を切らせたシグナムとヴィータは悔しげにそう答え、
「何だよ、もうちょっと斬らせろよ」
「ブレードくんがこれ以上やると冗談抜きでケガ人が出るからダメ」
物足りなさそうに告げるブレードを、霞澄はそう言ってたしなめる。
「大丈夫か? テスタロッサ」
「はい、なんとか……」
尋ねるイクトに答え、フェイトは彼の手を取って立ち上がり――
「ていっ」
「むっ?」
「きゃあっ!?」
つながれたその手に、霞澄は無造作に手刀を振り下ろした。その拍子にイクトは手を放してしまい、支えを失ったフェイトは再びひっくり返ってしまう。
「……いきなり何をする?」
「気にしないで。
旦那としばらく会えてない人妻が目の前でイチャつくカップルの姿にヘソを曲げただから」
尋ねるイクトに対し、霞澄はプイとそっぽを向いてそう答え――「『カップル』って誰のことだろう?」と顔を見合わせるイクトとフェイトの無自覚ぶりにため息をつく。
「それで……どう? 手合わせしてみた実感は」
「悪くない」
気を取り直して尋ねる霞澄の問いに、イクトは素直にそう答えた。
「リミッターをつけたままの状態で、ここまでオレ達3人に食い下がることができれば十分だろう」
「あたしも同意見ね……
少なくとも、なのは達のリミッターを外した状態で今の対戦を繰り返したなら……負けないまでも、勝てる気は全然しないわね」
「関係ねぇ。ブッタ斬る」
「『勝つ』でもなく『負ける』でもなく『斬る』しか出てこないのはどうかと思うよ、ブレードくん」
イクトやライカに続くブレードの言葉に苦笑し、霞澄は一同を見回し、
「じゃあ、そろそろ上がらないと朝ご飯前に汗を流すヒマがなくなっちゃうし……もうクールダウンして終わりにしようか?」
『はい!』
霞澄のその提案になのは達がうなずき、各自で訓練後のストレッチに入る。
「しっかし……朝からガチで模擬戦って、けっこうキツイ訓練してるのねー、みんな」
「模擬戦までやるのは、たまにだけど……」
「だいたい、こんな感じです」
「出動があっても大丈夫な程度には……限界ギリギリまで、ですね」
「密度濃いんです」
自らもアキレス腱を伸ばしながら、今の朝練の率直な感想を述べる霞澄に対し、ギンガやエリオ、ティアナやキャロもストレッチをしながらそう答える。
「で、練習後はガッツリ食べて、しっかり休んで、バッチリ回復♪」
「なるほどねー」
締めくくるスバルの言葉にうなずくと、霞澄は不意に立ち上がり、
「……で、キミはストレッチもしないで何してんの?」
座り込んで何やら物思いにふけっていたマスターコンボイの元へと歩み寄り、霞澄は彼の頭を軽くはたく。
「ダメでしょ。訓練の後はちゃんとストレッチしておかないと」
「人間の姿をしていても、オレの本質はトランスフォーマーだ。ストレッチなど必要ない」
「あれ? そうなの?」
「そうだ。
ヤツらが身体をほぐしている時間に、今の模擬戦の内容を自分にあてはめてシミュレーションをしておいた方が有意義というものだ」
自分の答えに首をかしげる霞澄にため息をつき、マスターコンボイははたかれた頭をかき、
「まったく……貴様といい息子といい、つくづく言葉と一緒に手が出る人種だな」
「あなたには言われたくないんだけど」
つぶやくマスターコンボイにムッとしながらそう答え――ふと気づいた。
「………………?
何でウチの子の名前が出てくるの? マスターコンボイ、面識ないでしょ?」
「ところがそうでもない――」
尋ねる霞澄にマスターコンボイが答え――彼もまた眉をひそめた。
「…………待て。
貴様、息子が何をしているのか、把握していないのか?」
「もう26にもなる子を、何でいちいち面倒見なきゃならないの?
立派に独り立ちしてるんだから、見守る必要なんかないでしょ?」
「思いきり悪い方向に独り立ちしている気がするんだが……」
霞澄の言葉にマスターコンボイがうめくと、
「…………あら?」
そんなマスターコンボイをよそに、霞澄が何かに気づいたようだ。彼女の視線を追っていくと、こちらに向かってくるひとりの少女の姿があった。
「おはようございます!」
「え? えっと……おはよう」
やってきたのはヴィヴィオだった――こちらに気づき、あいさつするヴィヴィオに対し、初対面の霞澄は戸惑いながらもあいさつを返す。
「失礼します!」
そんな困惑する霞澄にもう一度頭を下げ、ヴィヴィオはなのは達の元に向かう――その後ろ姿を見送り、霞澄はマスターコンボイに尋ねた。
「…………誰?」
「あぁ、アイツは……」
答えかけるマスターコンボイだったが、その答えは当のヴィヴィオから放たれた。
「なのはママ! フェイトママ!」
「『ママ』…………?」
なのは達に向けて上げたヴィヴィオの声に、霞澄は思わず首をかしげた。
「なのは『ママ』に、フェイト『ママ』?」
「……まぁ、そういうことだ」
ヴィヴィオの言葉を反芻する霞澄にうなずくマスターコンボイだったが、
「ふーん」
「……って、あっさり納得したな」
「当然でしょ」
もっと困惑するかと思っていた――拍子抜けするほどあっさりと納得され、肩すかしを食った形のマスターコンボイに、霞澄はあっさりうなずいてみせた。
「私達柾木家とギンガ達ナカジマ家の関係だって、十分特殊な家族構成よ。なんたって、両家の親が両家の子供達を一緒に面倒見てきたんだから。カーシェアとかルームシェアとかはあっても、ファミリーシェアなんて聞かないでしょ、フツー。
人の数だけ家族の形がある――ヴィヴィオのママが二人もいたって、驚くほどのことでもないでしょ?」
「なるほどな……」
納得したマスターコンボイの戻した視線の先で、ヴィヴィオはパタパタとなのは達に向けて駆けていく。
「ヴィヴィオ!」
「危ないよー! 転ばないでね!」
声を上げ、駆けてくるヴィヴィオの姿になのはとフェイトが気づいた。口々にヴィヴィオに告げるが、そんな二人の前で、ヴィヴィオは足をもつれさせ、転んでしまう。
「あぁ! 大変!」
そんなヴィヴィオの姿に、あわててフェイトが駆け出すが、
「大丈夫!」
なのはがそれを押しとどめた。
「地面、柔らかいし、きれいに転んだ――ケガはしてないよ」
「それは、そうだけど……」
納得しかねる様子のフェイトだったが、なのははその場にかがみ込むとヴィヴィオに呼びかける。
「ヴィヴィオ……大丈夫?」
「…………ふぇ……」
なのはのその呼びかけに、ヴィヴィオは今にも泣き出しそうな顔でなのはを見返してきた。やはりケガはしていないようだ。
「ケガ、してないよね?
がんばって、自分で立ってみようか」
「……ママ…………!」
「うん。
なのはママはここにいるから、おいで」
「…………うぅっ……」
告げるなのはだが、ヴィヴィオは泣きじゃくるばかりで――
「だ、ダメだよ、なのは。
ヴィヴィオ、まだ小さいんだから!」
そんなヴィヴィオを見かねて、フェイトは改めてヴィヴィオに駆け寄り、助け起こしてしまう。
「フェイトママ……」
「気をつけなきゃダメだよ、ヴィヴィオ。
ヴィヴィオがケガなんかしたら、なのはママもフェイトママも、きっと泣いちゃうよ」
「ごめんなさい……」
謝るヴィヴィオにうなずき、フェイトはヴィヴィオを抱き上げてやる。
「もう……フェイトママ、ちょっと甘いよ」
「なのはママは厳しすぎです」
ため息まじりに告げるなのはにフェイトが答え――
「別に厳しすぎ、ってことはないんじゃない?」
そんなフェイトに告げるのは霞澄だ。
「ウチだったら迷わず追撃いくよ、今のシチュだと。
それ考えたら、なのはママなんてまだ甘い甘い」
「…………柾木家を基準に考えないでください」
苦笑まじりになのはがツッコんでくるが、かまわず霞澄はフェイトの手からヴィヴィオを取り上げ、地面に下ろしてやり、
「ヴィヴィオ。あなたもがんばらなきゃダメじゃない。
あなたがしっかりしなきゃ、なのはママ達も安心できないし――フェイトママの過保護が治らないじゃない」
「あれ!? 私にも飛び火してきた!?」
霞澄のその言葉に、フェイトが思わず声を上げる――そんな彼女達のやり取りに、一同の間から笑い声が上がるまで、そう時間はかからなかった。
それからは手早くシャワーで朝練の汗を流し、みんなで朝食である。
「そっか……保護児童なワケね」
「はい。
ボクの時と同じような感じです」
「なのはさんが保護責任者で、フェイトさんが後見人で……」
それぞれの朝食を用意しながら、霞澄は改めてヴィヴィオについての事情を聞いていた。自分の頼んだ朝食が出来上がるのを待ちながらつぶやく霞澄に、エリオやキャロもサラダのボウルを受け取りながらそう答える。
「ま、二人ならしっかりしてるし……不安と言えばなのはちゃんの育児経験の不足くらいか。
うん、問題ないんじゃない?」
「またあっさり納得しますね……」
「だって実際問題感じないし」
あっさりうなずかれ、思わず苦笑するティアナだったが、霞澄はまたしてもあっさりそう答える。
「何て言うか……“柾木一門”ってそういうところすごい割り切ってますよね。
すごくスパっと『何でもない』的なこと言いますけど、だからって冷たい、っていうワケじゃなくて……そういう、人と人のつながり、みたいなものに対してすごくあっさりしてるというか、迷いがないって言うか……」
言って、ティアナがチラリと視線を向けるのはアスカだ。内容が内容なだけに、小声で霞澄に告げる。
「霞澄さんは知ってるんですよね? その……スバル達の身体の事。
アスカさんも、そのこと知ってた上で『だから何?』で片づけちゃったんですよ」
「だって……どんな身の上でも、スバルはスバル、ギンガはギンガじゃない」
霞澄に告げるティアナの言葉を耳ざとく聞きつけたか、アスカはそう口をはさんでくる。
「ついでだからぶっちゃけようか?
これでも副隊長だもん。それぞれの身の上については大体把握してるよ。
スバル達だけじゃない――エリオくんとフェイトちゃん、それからヴォルケンズについても。
そういうのを全部ひっくるめて、『だから何?』なんだよ。
身体の違いだとか、そんなくっだらないことで付き合い方選ぶような、そんなやわっちい絆を育んだ覚えはないわよ、あたしは」
「…………っていうのが、ウチの考えだからね」
言いたいことはだいたいアスカが言ってしまった――言い切る彼女の言葉に、霞澄は苦笑まじりにそう締めくくる。
「種族の違いなんて些細なもんよ。要はその相手が好きかどうか、そこでしょ?
だから、私としてはこっちの世界でたまに聞く、“人間とトランスフォーマーの恋愛関係”とか“一夫多妻”とかも割とOKよ。むしろ全力で応援しちゃうわよ」
言って、霞澄は食堂と厨房をはさんだカウンターへと視線を向け、
「そんなワケだから、晶ちゃんにはぜひともがんばってほしいんだけど」
「ヤですよー、霞澄さん」
告げる霞澄に対し、厨房から顔を出してきた晶は笑いながらそう答える。
「オレとブリッツクラッカーはそんな関係じゃないですよ。
そりゃ、大事なパートナーではありますけど……そんだけですから」
「シクシクシク……」
「厨房の奥で、ブリッツクラッカーが泣いてるんだが」
キッパリと言い切る晶の言葉は、ヒューマンフォームで厨房に入っている彼の心を的確にえぐり抜いた――味噌汁を煮込んでいた大鍋の前で泣き崩れるブリッツクラッカーの姿をカウンター越しに確認し、マスターコンボイはため息まじりにツッコミを入れた。
ともあれ、みんなの食事の準備も終わり、そろって朝食である。
「しっかし、まぁ……子供って泣いたり笑ったりの切り替えが早いわよねぇ」
訓練場では転んで泣いていたのが、今ではすっかりご機嫌――満面の笑みと共にオムライスをほおばるヴィヴィオの姿を眺めながら、ティアナはしみじみとそうつぶやいた。
「スバルの小っちゃな頃も、あんな感じだったわね」
「え? そ、そうかな……?」
ティアナに同意し、話を振ってくるギンガにスバルは顔を赤くしてそうつぶやき――
「だったらギンガはどうだったんだろ? よし、ゲンちゃんに電話して聞いてみよーっと♪」
「か、霞澄おばさま、それだけは……」
「『霞澄“おばさま”』なんて人は知らないもーん♪」
「あああああっ!」
端末をダイヤルし始めた霞澄をあわてて止めるギンガだが、あわてたせいか“地雷”を踏んだ。かまわずダイヤルし続ける霞澄をなんとか止めようとするギンガだが、霞澄は先の模擬戦のようにギンガをのらりくらりとかわしていき、
「リインちゃんもね」
《えぇー?
リインは始めっから割と大人でしたー!》
「始めっから割と大人だった子は、今この場で顔中クリームまみれにしないと思うけど?」
その場には八神家メンバーの姿も――ショートケーキを食べる手を休めてシャマルに答えるリインの額を、ライカはデコピンで軽く弾いてそうツッコむ。
そんなそれぞれのやり取りに苦笑し、なのははヴィヴィオに視線を戻し――
「…………あれ?
ヴィヴィオ、ダメだよ。ピーマン残しちゃ」
「あぅ〜……苦いのきらーい」
ピーマンだけをより分けているヴィヴィオに気づいた。たしなめるなのはの言葉に対し、実に子供じみた主張をしてくるヴィヴィオだったが、
「あかんよー、ヴィヴィオ」
そんなヴィヴィオに答えるのははやてだ。
「そうやって好き嫌い多いと――マスターコンボイみたいにちびっちゃいまんまになってまうよ」
「ちょっと待て! オレのこのヒューマンフォームは貴様のところのチビスケの仕業だろうが!」
《何言ってるんですか!
その姿はリインのデザインした傑作ですよ! そんなにかわいく仕上がったのに!》
「かわいく仕上げなくてよかったんだ!」
聞き捨てならないその発言に、すかさずマスターコンボイが口をはさむ――さらに乱入してくるリインにマスターコンボイを任せ、はやてはヴィヴィオの頭をなでてやり、
「それになー、好き嫌い多いと、ママ達みたいに美人になれへんよ」
その言葉に、ピタリ、と動きを止めた者がいた。
今まさにエリオのスープに自分の苦手なニンジンを移そうとしていたキャロである。
「だそうだよ。
どうする?」
「…………いただきます」
尋ねるエリオに答え、キャロは観念してニンジンを口に運び――
「その理屈なら、オレは大きくなる気も美形になる気もないからかまわねぇよな?」
「って、なんでアンタはそーやって話の流れをぶち壊してくれるのかしらね?」
そう言いながらとろろ芋をスバルに押しつけるブレードの姿に、ライカはため息まじりにツッコミを入れた。
「じゃあ……ゴメンね、なのはちゃん。
ちょっとスバルとギンガ、借りるわね」
「はい。よろしくお願いします」
食事も終わり、仕事開始――だが、スバルとギンガはそのままデスクワーク、というワケではなかった。ギンガを伴い、告げる霞澄に対し、なのはは笑顔でうなずいてみせる。
「……スバルとギンガは霞澄さんと外出か?」
「いつもの“健康診断”よ。
マリエル技官にお願いして、クラナガンの医療センターまで」
「…………ふーん……」
その様子を見つけ、尋ねるシグナムにシャマルが答えるのを、その後ろを歩いてたアスカは何の気なしに聞いていて――不意に思い立ち、自分の予定を確認。問題はないと判断するときびすを返し、ギンガに声をかける。
「ねーねー、ギンガ。
その健康診断……差し支えなければ、あたしも同行していいかな?」
「アスカさんも?」
「ほら……あたしも、二人の身体の事は知ってて、その上ある程度、だけど“そっち方面”の技術も持ってるでしょ?
だから、二人の身体のこと、もっと詳しい状態を知っておけば、もしこれからの任務、出先で二人に何かあっても、手早い処置とかできるようになるんじゃないかなー、って」
「でも……申し訳ないですよ。
アスカさんの仕事、増やしちゃうワケですし……」
「ノンノン、そういうのはナシだよ、ギンガ」
自分の身体のことについてはすでにアスカとの間でわだかまりはない。そのことよりも、アスカの手間を増やしてしまうことを申し訳なく思うギンガだったが、アスカはピッ、と人さし指を突きつけて反論を封じ込めた。
「あたしのポジション、FGは“そういうの”がお仕事なんだから。
前線、前衛の子達を守るための仕事なら、全然歓迎、バッチコイよ♪」
「…………じゃあ、お願いします」
「そうこなくっちゃね♪」
「機動六課からは、“材料”は出ませんでした」
「そうか……」
同じ頃、地上本部ではレジアスがオーリスから報告を受けていた。告げるオーリスの言葉に、レジアスは深々と息をつく。
「公開陳述会まで間もない。より有利な交渉材料を押さえておかねば……」
「引き続き、こちらの査察部を動かします。
ただ……」
レジアスに答え、オーリスはレジアスの目の前にウィンドウを展開し、いくつかのデータを表示し、
「それよりも、本局査察部や一部の部隊が、こちらを調べて回っているようです」
「いつものことだ。“いつものように”こなせ」
「本局査察官にひとり、厄介な希少技能保有者がいます。
本腰を入れられたら、かなり深いところまで探られる可能性もありますが」
「チッ、いまいましい……」
オーリスの言葉に舌打ちし、レジアスは改めて彼女に告げた。
「すべては必要あってのことだ――連中に理解させるには、まだ時間と実績がいる」
「最高評議会からの支援は、いただけないのでしょうか?」
「それについてはワシが問い合わせる。
それより……“アインヘリアル”はどうなっている?」
「3号機の最終確認が遅れていますが、順調です」
「遅らせるな。
陳述会前に終わらせておけ」
「わかりました。
これから視察に行く予定ですので――そう伝えます」
そうレジアスに伝えると、オーリスは彼のオフィスを持し、エレベータへと乗り込んだ。
エレベータ内から望めるクラナガンの街並みを見つめ――つぶやく。
「……アインヘリアル、か……
“例のプラン”といい、過ぎた力と思わなくもないが……あの方の、選んだ道だからな……」
オーリスの退室後、レジアスはさっそく最高評議会に連絡をとった――三つ並んだ最高評議会員の通信ウィンドウ(ただし、サウンドオンリーで素顔は見えない)の並ぶ中央会議室に、通信越しで報告するレジアスの姿が立体映像で映し出された。
〈報告は以上です。
教会のみならず、本局のご老人方も、何事か、動かれているようです〉
《三提督か……気にせずともよかろう》
《その通り》
《彼らにはもう、人も世界も動かせはせんよ》
告げるレジアスに対し、評議員、書記、評議長が順にそう答える――通信システムの仕様かはたまた評議員の素顔を隠す関係か、声がくぐもった感じがするが、いつものことなのでレジアスは気にしない。
《陳述会はお前に任せる。
これまで通りでよい》
〈はっ〉
評議長に答え、レジアスは通信を終える――彼の立体映像が消えるのを待ち、評議長はもう一度つぶやいた。
《そう……
何も、問題は……ない……》
「うぅ……検査きらーい」
「ワガママ言わないの。
5分しか戦えない身体で、健康状態に気を遣うなって方がムリな相談よ」
首都クラナガン、先端技術医療センターの廊下を歩きながら、イレインは不満をもらすホクトをそうたしなめた。
今イレインが述べたとおり、ホクトの身体は5分以上の戦闘行動には耐えられない。その5分間を万全の状態で迎えるためにも、健康状態には常に気を配っておく必要がある。
彼女と“同類”であるジュンイチがいればその心配もないのだろうが、いつも一緒にいられるとは限らない――そこで、事情を知るマリエルを頼ってこうして検査に訪れていたのだ。
「とにかく帰るわよ。
ジュンイチが戻ったら、一旦“ベース”に戻る予定だし……早めに帰らなきゃね」
「“ベース”……?」
「そ。あたし達の秘密基地……っていうか……」
ホクトの言葉にそう答えると、イレインはしばし視線をさまよわせ――より適切と判断したその表現を伝えた。
「……母艦、かな?」
「二人とも、ハードワークだと思うけど……調子の悪い所とかない?」
〈ありませーん。
もうめっきり好調で♪〉
〈私もです〉
そんなイレイン達がついさっきまでいた検査室には、入れ違いでスバル達がやってきていた。検査装置の操作室から尋ねるマリエルに、検査室のスバルとギンガは上着を脱ぎながらそう答える。
「じゃあ……定期健診、始めようか?」
<<はい>>
告げるマリエルに答え、検査台に横たわったスバルとギンガを検査ポッドが覆っていく――二人が完全にポッドに収まったのを確認し、マリエルは検査システムのスイッチを入れると背後に控えていた霞澄とアスカへと向き直った。
「……残念でしたね。
ついさっきまで、ホクトちゃんが検診に来てたんですけど」
「あれ、そなの?
おっしーなぁ……」
「そうね。私は会ったことないし、一度くらいは顔を見てみたいんだけど……
確か……今は、ウチのバカ息子のところにいるのよね?」
「はい。
あの子のオーバーヒートを止められるのは、ジュンイチさんだけですから」
肩をすくめるアスカのとなりから聞き返してくる霞澄に答え、マリエルは息をついてイスに腰かける。
「それで……あの子も来てたの?」
「いえ。
なんでも、海鳴の方に行ってるとかで、イレインが代理で。
ついでにイレインも検査しましたけど、健康そのものでしたよ」
「……だけじゃないでしょ? 仕入れた情報は」
「えぇ♪」
マリエルの言葉に意味深な返しを入れるアスカに、マリエルは笑顔でうなずいた。
「向こうの“開発状況”、ちゃんと聞いておきましたよ。
蜃気楼はすでにロールアウト。今はデータ蒐集を継続しつつ、“ファーストモード”の実働テストの段階だそうです。
ただ、“マグナ”の方が遅れてて……今ジュンイチさんが海鳴に行ってるのも、そのからみみたいで……」
「“マグナ”が遅れてて、海鳴に……」
マリエルの言葉を反芻しながら考え込み――アスカはすぐにジュンイチの意図に気がついた。
「そっか。
手こずってるのはエンジン周りか」
「とうとう自分達の手に負えなくなって、開発者のすずかちゃんを頼りにした、ってところでしょうね」
となりで霞澄も同意する――苦笑し、アスカはマリエルへと視線を戻し、
「でも……ムリもないよ。
相転移エンジンの二つの欠点、“真空を相転移させる手前、空気のあるところでは効率が落ちる”、“炉の大きさが出力に直結するせいで、高出力と小型化が両立できない”――それを多段式にすることでクリアした、すずかちゃんの多段式相転移エンジン……
単純な相転移エンジンですら、今のミッドの技術でも扱いに難儀してるってのに、さらにその多段式……開発者のすずかちゃん以外の人間に手に負える代物じゃないよ。
結局扱い切れずに封印したとはいえ、あれを一度は試作できたすずかちゃんは本当に天才だよ」
「だよねー。
なんだか、同じエンジニアとして嫉妬しちゃうよね」
アスカの言葉に答え、マリエルは苦笑してみせて――すぐに表情を引き締めた。
「でも……本当にあんなバケモノエンジンを持ち出す必要があるんですか?
既存の非魔力動力型じゃ……」
「それじゃ足りないのよ、あの子が要求するスペックには」
尋ねるマリエルだったが、霞澄はあっさりとそう答えた。
「非魔力動力型のエンジンでゴッドマスター・トランスフォーマーに対抗できるパワーを得るには、確かに多段式相転移エンジンしかない……それは私も同意見よ。
親としてのひいき目以前に……8年前、あの子を半殺しにしたナンバーズの戦闘能力はナメてかかれるもんじゃない」
そう告げると、霞澄はしばし考えた末にアスカに告げた。
「とりあえず……こっちも早めに戦力を整えてった方がいいわね。
“イカヅチ”と“ゴウカ”、できるだけ早く仕上げられるようにがんばってみるわ」
「うん、お願い」
霞澄の言葉にうなずくと、アスカは息をつき、つぶやいた。
「今度の戦いは、絶対に負けられないもんね……
守りたいものがあるのは、あたし達だって同じなんだから……」
「ただいまー♪」
「ただいまー」
元気な声と共にホクトがブリッジに現れ、次いでイレインも――二人が移動拠点に戻ると、すでにジュンイチは戻ってきていた。
そして、そんなジュンイチの傍らで、彼と共にイレイン達を出迎えたのは――
「お帰り、イレイン。
久しぶりだね」
「すずか……
結局、ジュンイチの口車に乗っちゃったワケね」
「『口車』とかゆーな」
ジュンイチに同行してきたすずかだった。笑顔で告げる彼女に告げるイレインの言葉に、ジュンイチはムッと口をとがらせてそう答える。
そんなジュンイチに苦笑すると、すずかはホクトの前にしゃがみ込み、
「キミがホクトちゃんだね? ジュンイチさんから聞いてるよ。
私は月村すずか――ジュンイチさんの古い知り合い、ってところかな?」
「そうなんだ……
初めまして、ホクトです!」
自己紹介するすずかに対し、ホクトは自分もまた自己紹介するとペコリと一礼する。
そんな二人を微笑ましく見守っていたイレインはジュンイチへと視線を戻し――彼の左の頬が真っ赤にはれているのを確認した。大体の事情を察し、すずかに尋ねる。
「とりあえず、“お仕置き”はしたみたいね。
グー?」
「一応……パーで」
「グーでやっちゃえばよかったのに。
コイツが自分の行いを反省するなんてめったにないんだから。せっかく気がねなくぶん殴れるチャンスだったのに何してんのよ」
「お前が日ごろオレをどうしたいと思ってるか、今ハッキリと確信したからな」
背後から、ジュンイチがあっさりと告げる――コホンッ、と咳ばらいしてごまかすと、イレインはジュンイチ達の展開していたウィンドウに映るそれに気づいた。
「これ……アインヘリアル?」
「あぁ。
レジアスのおっさん、とうとう完成までこぎつけやがった」
「ふーん……」
ジュンイチの言葉にイレインがうなずく傍らで、すずかは空中に展開したキーボードに指を走らせ――ウィンドウに表示されたアインヘリアルの映像に次々に分析データが追加されていく。
「おぉ……さすがはすずか。見事な手際だわ」
「で……どう思う? お前は」
すずかの手並みに感心するイレインに、ジュンイチが意見を求める――「うーん」としばし考え、イレインはピッ、と人さし指を立てた。
「射程外、もしくは射撃可能範囲外からアンタの砲撃1発――これで十分カタがつくでしょうね」
「言い切るねぇ」
「アンタのバカ火力を知ってれば誰でも同じこと考えると思うわよ」
まさか自分を引き合いに出すとは思わなかった――苦笑するジュンイチに、イレインはあっさりとそう答える。
「パパ、そんなにすごいの?」
「そうよー。
アンタはコイツの全開戦闘を知らないから、わからなくてもしょうがないと思うけど」
尋ねるホクトに対し、イレインは肩をすくめてそう答えるとジュンイチに視線を戻し、
「…………で、ジュンイチはこれをどう利用するつもり?」
「さて、ね……オトリくらいにはなるんじゃね?
ま、どっちにしてもあのオッサンの思惑通りには絶対ならねぇと思うがな」
完全にアインヘリアルを戦力外としてしか見ていないジュンイチに苦笑し、イレインはすずかが分析を続けるアインヘリアルの映像へと視線を戻した。
「はい、お待たせしました」
「ありがとうございます」
“健康診断”も終わり、あとは帰るだけ――マリエルと話し込んでいる霞澄を待つ間に、スバルとギンガ、アスカは部隊のみんなのお土産に、とスバルのおススメのお菓子屋に来ていた。スバルが店員から包みを受け取り、アスカが代金を支払い、
「あ、それと……すぐ食べる分、4つください」
「はい、少々お待ちください」
スバルの追加注文に店員は快くうなずき、新たにお菓子を買った二人は店の外で待っていたギンガの元に向かう。
「ギン姉、お待たせー」
「今日はまたずいぶんたくさん買ったわね」
「みんなの分だよ」
ギンガにそう答えると、スバルは「すぐ食べる分」として買った菓子のうち一袋をギンガに手渡した。
もう一袋はアスカの手に――残り一袋はもうすぐ迎えに来てくれるはずの霞澄の分として残し、三人で菓子を食べながら霞澄の到着を待つ。
「おいしー♪
“チョコポット”……だっけ? コレ。
けっこういけるじゃない」
「でしょ?
アイスと同じく、あたしのお気に入りなんだー♪」
中身はチョコレートスナック――舌鼓を打つアスカにスバルが笑顔でうなずくと、
「…………ねぇ、スバル」
そんな二人――正確にはスバルに、ギンガが声をかけた。
「この先、たぶん戦闘機人戦があると思うけど……
……しっかりやろうね」
「うん」
その言葉に込められた想いは確認するまでもない。迷うことなくスバルはギンガにうなずき――
「ちょっとちょっとー、あたしはノケモノー?」
そんな二人のやり取りに口をとがらせるのはアスカだ。
「あたしだって“事情”は知ってるんだよ。気ィ使って表現ぼかす必要なんかないでしょうに。
まったく、距離感感じちゃうなー」
「そ、そういうワケじゃ……ないんですけど……」
「ふーんだ。どーせあたしは部外者ですよー、だ」
「あ、アスカさん……」
プイとそっぽを向いてしまうアスカに、ギンガはあわててフォローの声を上げ――
「大丈夫だよ」
のらりくらりとかわしていたところから一転、アスカは優しく微笑みながらギンガの頭をなでてやる。
「相手が相手だからって、そんなに気負わなくても大丈夫。
二人には、クイントさんから受け継いだシューティングアーツがある。柾木流を学んで、さらになのはちゃんにも鍛えられた、正真正銘の実力もある。
それに……二人には、頼れるパートナーがいるじゃない」
「そうだよ、ギン姉」
不意を突かれ、ただアスカに頭をなでられるままになっていたギンガに、スバルもまた笑顔で告げる。
「あたし達には、母さんが残してくれたリボルバーナックルがあるし……今は“キャリバーズ”も一緒だし」
〈“Caliburs”?〉
「うん。“マッハ”と“ブリッツ”……それからこなたの“マグナム”でキャリバーズ」
初めての呼び名に、待機状態のまま聞き返すマッハキャリバーに、スバルは笑顔でうなずいた。
「マッハキャリバー。ブリッツやマグナムのお姉さんなんだから、がんばらなきゃね」
〈…………Yes.〉
“姉”と言われたことに困惑したのか、しばしの間を経てマッハキャリバーがうなずく――そんな妹達の姿にギンガがクスリと笑みをもらすと、霞澄の運転する4WD車のクラクションが聞こえてきた。
「新しい身体、どう?」
「いいに決まってるわ」
舞台は移り、スカリエッティのアジトの一角――尋ねるディエチに対し、自らの身体の“調整”を終えたウーノはあっさりとそう答えた。
「だって、あなた達の動作データが活きてるんだもの」
「“妹”達もみんな順調です♪」
告げるウーノにそう答えるのはクアットロである。
「ナンバー7、セッテ。
ナンバー8、オットー。
ナンバー12、ディード。
みんな、基本ベースとIS動作までは完成です」
「9番ノーヴェと、11番ウェンディの固有武装とトランステクターも無事完成」
「2番ドゥーエ、5番チンクはすでに任務中……いいペースね」
ディエチとクアットロの言葉につぶやき――ウーノは二人を連れ、スカリエッティのいるガジェットの格納庫へと向かった。
「この鉄くず連中も、予定生産量は余裕でクリアだってさ」
指しているのはガジェット達――ガジェットの格納庫を歩きながら、セインは共に歩くトーレにそう告げた。
「これ、ガジェットドローンって名前なんだって?」
「管理局の連中が、そう名付けたそうだ。
以来ドクターやウーノも、そう呼ぶようになったと聞いた」
「うわ、てきとー」
「名称など、どうでもいいからな」
苦笑するセインに対し、トーレはあっさりとそう言い放った。
「我々の名も、ただの数字だ」
「ふーん……
あたしはけっこう好きだけどな。自分の名前とか、能力名とか……」
「そうか……」
自分にとってはどうでもよくても、妹達はまんざらではないようだ――それを否定するつもりはないトーレはあっさりとうなずき、二人は格納庫の中央部へとやってきた。
そこには、彼女達の創造主、スカリエッティの姿があった。出撃を待つガジェット群を見渡し、満足げにうなずいている。
「“祭り”の日は近い……
キミ達も楽しみだろう?」
「あー、そうっスねー。
武装も完成したし、こないだのリベンジも込みでドカンと暴れてみたいっスね」
尋ねるスカリエッティに答えるのは、受け取ったばかりの完成版ライディングボードを携えたウェンディである。
「キミ達は最前衛用の能力だ。
存分に暴れられるよ」
「だって。
楽しみだねー、ノーヴェ」
「別に」
スカリエッティの言葉に、楽しそうに話を振るウェンディだったが、ノーヴェはそれをあっさりと切り捨てた。
「あたしは、確かめたいことがあるだけだし。
あたし達の“王様”はどんなヤツか……そいつは本当に、あたし達の上に立つのに、ふさわしいヤツなのかどうか……」
「まぁ、よくわかんないけど……それ、すぐわかるんスよね?」
「そうとも」
ノーヴェの言葉に首をかしげ、尋ねるウェンディに答えると、スカリエッティはすぐ脇の端末を操作し、目の前のケースが音もなく開いた。
その中に収められているのは大量の“レリック”――今まで彼の放ったガジェットドローンが集めてきたものだ。
「準備は整いつつある――ひとつ大きな花火を、撃ち上げようじゃないか。
間違いなく、素晴らしく楽しい一時になる! フハハハハっ!」
そう告げて、高らかに笑い声を上げるスカリエッティの見上げるその先には――
巨大な、青いドラゴン型のロボットがその機能を停止し、鎖によって吊るされていた。
スカリエッティ | 「さぁ、ひとつ大きな花火を、撃ち上げようじゃないか」 |
ウェンディ | 「とか言ってるトコ悪いっスけど、まだまだ日常編、続くみたいっスよ」 |
スカリエッティ | 「そうなのかい? まったく、機動六課も騒動が絶えないね」 |
ジュンイチ | 「何言ってんだよ? 次の騒動はお前らんトコが発端だぞ」 |
スカリエッティ | 「おや、そうなのかい?」 |
ノイズメイズ | 「やれやれ、何やってるんだか」 |
ジェノスクリーム | 「もう少しマジメにやれないのか? 貴様らは……」 |
ジュンイチ | 「あー、そこのバカ二人。 次のエピソードも“吹っ飛び要員”が要ると思うから」 |
ウェンディ | 「あぁ、『人員の差し出しヨロシク♪』ってコトっスか?」 |
ジュンイチ | 「そ。 具体的には完結話あたりで♪」 |
ジェノスクリーム&ノイズメイズ | 『またオレ達かよ!?』 |
ノイズメイズ | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第59話『一筆奏上! 〜春が来た来た文が来た?〜』に――」 |
5人 | 『ゴッド、オン!』 |
(初版:2009/05/09)