「おぉぉぉぉぉっ!」
《だぁりゃあぁぁぁぁぁっ!》
「――――――っ!」
 ゼストとアギトが咆哮――迫りくる、炎をまとった槍の一撃を、イクトは凱竜剣で弾き、受け流す。
 両者が交錯し、再び距離をとる――改めて対峙し、イクトは凱竜剣をかまえ直した。
 意識を向けるのは、その手に残る、受け止めた一撃の感触――
(ヤツらのユニゾンアタック――微妙に同調のタイミングにズレがある。
 同調が完全でないのか、相性自体がよくないのか……)
 しかし、そんな思考も一瞬――イクトは意識を切り替え、前方のゼストとアギトをにらみつける。
 対し、ゼストとアギトも――
《あんにゃろ――あたしと旦那のユニゾンを相手に、きっちり対応してきやがる……!》
「真っ向勝負では、柾木以上にオレと互角に渡り合えるほどの使い手だからな……そう簡単にはいくまい」
 自身にユニゾンしたままうめくアギトに答えると、ゼストは静かにアギトに告げた。
「アギト……お前は下がっていろ。
 フルドライヴで、一気に落とす」
《む、ムチャだ!
 そりゃ、フルドライヴならあたし抜きでもアイツに勝てるだろうけど……代わりに旦那が!》
 反論すると同時――アギトはゼストとのユニゾンの結びつきを強めた。ゼスト側からユニゾンを解除しようとしても抵抗するためだ。
《旦那は、絶対にあたしが守ってみせる!
 あのヤローに、目に物見せてやろうぜ!》
「…………あぁ。そうだな」
 アギトの決意に満ちたその言葉に、ゼストは静かにうなずくと自らの槍をイクトに向けてかまえた。

 

 


 

第67話

現れずる復讐者リベンジャー
〜絶望へのカウントダウン〜

 


 

 

 外部から急襲をかけたスカリエッティ一味、そして内部に潜入していたディセプティコン――内と外から攻撃を受け、混乱に陥る地上本部で、なのは達やスバル達はそれぞれに動き出す。
 一方、戦力が地上本部に集中する中、スカリエッティ一味の別動隊が機動六課を急襲――その迎撃のため、こなた達カイザーズも出撃、戦力を展開する。
 そんな中――

 

 静かに混乱する地上を見下ろす存在があった。

 

「…………さて、そろそろ始めるか……」
 地上本部の、はるか上空――戦況を見定めながら、彼は静かにつぶやいた。
「手始めに、誰から叩いてやろうか……」
 最初に叩き落としてやる“獲物”は誰にしようか、楽しそうに戦場を見渡し――
「…………ほぉ」
 それを見つけた。
 真紅の炎と青い炎が、幾度となくぶつかり合っている光景を。
「……これまたちょうどよく……」

 

 

“あの時”の関係者がつぶし合っているじゃないか」

 

 

『――――――っ!?』
 幾度となく刃が、炎がぶつかり合う――激しい空中戦の最中、イクトとゼストは“それ”に気づいて動きを止めた。
《だ、旦那!?》
「静かにしてくれ、アギト」
 思わず声を上げるアギトに答え、ゼストはイクトと二人で周辺を探る。
「何だ? この“力”……!?」
「大きい……!
 それに、この“力”……初めて感じる気がしない……!?」
 自分達の戦いの中、突然出現した新たな、そして強大な“力”の気配に、イクトとゼストがうめき――
「――――――っ!?
 上か!」
 最初に位置の特定に至ったのはイクトだった。彼の見上げた先には、確かに何者かの影があった。
 サイズからしてトランスフォーマー、それも大型の部類に入る。月を背にしているため、逆光でその姿を完全に捉えることは難しかったが――
「な…………っ!?」
「ヤツは…………!?」
 それでも、彼らはその影の正体に気づいていた。
 同時、影の“力”に覚えがあった理由にも思い至る――自分達は確かに、その“力”の主に、目の前の影の主に出会ったことがあったのだ。
 そう。“10年前”の、“あの事件”の時に――
「ヤツは、まさか……!」
 驚愕するイクトの前で、影は静かに手をかざした。
「ちぃっ!」
「来る――っ!」
 対し、イクトとゼスト・アギト組も目の前に防壁を展開し――双方の防壁が分解され、かき消える!
「バカな!?」
「何だと……!?」
《ウソだろ!?》
 魔法によって防壁を構築したであろうゼスト達はともかく、AMFをやり過ごせる、瘴魔力でできた防壁まで打ち消されるとは思わなかった。イクトを始め、3人が驚愕の声を上げ――
「ぐわっ!? ぐぅっ!? がはぁっ!?」
「ぬぅ……っ!?」
《ぅわぁぁぁぁぁっ!?》
 無防備なイクト達に向けて、影の放ったエネルギー弾が立て続けに降り注ぐ!
 

「――――――っ!?」
 “それ”を感じ取り、ジュンイチは思わず顔を上げた。
(イクトと、ゼストのオッサンの“力”が……!?)
「すずか! イクトとゼストのオッサンの反応はあるか!? 何かあった可能性が高い!」
〈それが……いきなり二人のいた辺りのサーチがダウンして……!〉
 尋ねるジュンイチに答え――すずかの操作によってジュンイチの眼前にウィンドウが展開された。
〈とりあえず……ダウンする寸前に捉えた映像がコレです〉
「誰かの影、か……?」
 そこに映し出された映像には、イクト達の見たトランスフォーマーの姿があった。シルエットでしかわからないその姿に、ジュンイチは眉をひそめて映像を凝視し――
「――――――っ!?」
 その正体に気づいた瞬間、背筋に寒気が走った。
「こいつ……まさか!?」
 その脳裏によぎるのは、“絶対の確信”に近い予感――
「――ヤバい!
 すずか、プラン変更だ!」
 そして、その“結論”に至ると同時、ジュンイチは迷うことなく決断していた。
「六課と地上本部――ミッション担当を入れ替える!
 地上本部には、オレが向かう!」
〈え!? ジュンイチさん!?〉
「コイツは、それぐらいヤバい相手だってことだ!
 “ウチのバカ”には六課を任す――今すぐ六課方面にUターンさせろ!」
 思わず声を上げるすずかに告げると同時、ジュンイチは“装重甲メタル・ブレスト”を着装。背中のゴッドウィングを広げるとビルの上から飛び立ち、地上本部に向けて飛翔する。
「うかつだった……! まさか、“アイツ”が生きてたなんて……!」
 しかし――その表情からは、先ほどまでの余裕が完全に消し飛んでいた。
(もし本当に“アイツ”だとしたら、絶対に中途半端はしない。必ず、万全の態勢で出てきたと思っていい。
 だとすれば、魔法対策――ヘタをすれば、能力者全般に対する対策を施してきてる可能性もある)
「最悪の場合――」

 

「皆殺しになるぞ……なのは達も、あっちを担当してるナンバーズ達も……!」

 

 

「はい、これで大丈夫ですよ」
「あ、ありがとう……」
 手当てを終え、告げるゆたかに、管理局の制服を着た青年は――怪我をしていた六課のバックヤードスタッフのひとりはそう礼を告げる。
 早急に基地モードのマキシマスへと避難したとはいえ、攻撃はすでにそのマキシマスにも及んでいる。当然、被弾すれば被害は出る――そうした“被害”に居合わせてしまい、ケガをした彼に、六課の防衛に駆けつけたこなた達に救護要員として同行していたゆたかが手当てをしてあげていたのだ。
「他にケガをした人は?」
「フォートレス教授を手伝って防衛に参加していた局員が何人か……こっちだ」
 尋ねるゆたかに青年が答え、彼女を先導して歩きだす――その後に続き、ゆたかも腰を上げるが、駆けだす前に一瞬だけ外の戦場に意識を向けた。
(お姉ちゃん……がんばって……!)
 

「逃がすな――ブラッドファング!」
「そこは『行けよ、ファング!』でしょう!?」
「柾木と同じようなことを言うな!」
 自分の放つブラッドファングに対し、対峙するこなたは以前にもジュンイチから言われたようなツッコミを入れてくる――言い返し、さらに攻撃を加えるチンクだが、こなたのゴッドオンしたカイザーコンボイは襲いくるブラッドファングをひとつひとつ確実にかわしていく。
「さすが、コンボイを名乗るだけのことはある!」
「おほめに預かり、恐縮至極!」
 うめくチンクに言い返し、こなたはアイギスをかまえて強襲――思いきり振り上げた刃にチンクの意識を向けさせ、不意打ちの蹴りを放つが、それを読んでいたチンクは難なく回避し、
「だが――貴様はともかく、他は危ないようだな!」
「く………………っ!」
 そう告げるチンクの言葉に、こなたの余裕はたちまち吹っ飛んだ。うめき、こなたが視線だけを向けた先では――
「IS発動――“ライドインパルス”!」
「ま、また来た!」
「わかってるわよ!」
 トーレのゴッドオンしたマスタングがISを発動――声を上げる、レインジャーにゴッドオンしているつかさに答えるかがみだが、まさに“目にもとまらぬ速さ”で迫りくるトーレを前に反応もできず、彼女のゴッドオンしたライトフットが一撃を受けて弾き飛ばされる!
「かがみさん!
 ――――――くっ!」
 声を上げ、ロードキングにゴッドオンしたみゆきがトーレの姿を追うが、そのスピードの前には捕捉すらままならない。
 そして、新人の二人も――
「くらうっスよ!」
「はぁぁぁぁぁっ!」
「…………ムダ」
 気合を入れ、ひよりのゴッドオンしたブレイクアームとみなみのゴッドオンしたニトロスクリューが突撃するが――水深が浅いとはいえ海上に誘い出されては、自慢の突進力も半減してしまっていた。淡々と答え、オットーは自身のトランステクターである高速戦闘艇を操って二人の攻撃をかわし、
「IS発動――“レイストーム”」
『ぅわぁあっ!?』
 放たれた光弾が、ひよりとみなみを吹っ飛ばす!
「ったく、総合能力は向こうが上か……!
 つかさ! みゆき!」
「うん!」
「はい!」
 このままでは押し切られる――決断したかがみの言葉に、つかさとみゆきがうなずき、
「みなみさん!」
「うん!」
 ひよりとみなみもまた、同様の結論に達していた。

「ライトフット!」
「レインジャー!」
「ロードキング!」

 かがみが、つかさが、みゆきが――3人が名乗りを上げ、頭上に大きく跳躍し、
『ゴッド、リンク!』
 咆哮と同時、3人がゴッドオンしたまま分離、変形を開始する。
 かがみのゴッドオンしたライトフットは両足が分離、両腕を後方にたたんだライトフットの両側に合体し、より巨大な上半身へと変形する。
 一方、つかさのレインジャー、みゆきのロードキングはそれぞれ上半身と下半身、さらにバックユニットの三つに分離、下半身は両足がビークルモード時のように合わさってより巨大な両足に。さらに二つの下半身が背中合わせに合体、下半身が完成する。
 完成した下半身にライトフットの変形した上半身が合体、さらにそのボディの両横、右側にレインジャーの、左側にロードキングの上半身か合体、内部から二の腕がせり出し、両肩が形成される。
 そして、現れた二の腕にレインジャーとロードキングのバックユニットが合体。拳がせり出し、両腕が完成する。
 最後にライトフットの頭部により大型のヘルメットが被せられた。フェイスガードが閉じると、その瞳に輝きが生まれる。
 すべてのシークエンスを完了。ひとつとなったかがみとつかさ、みゆきは高らかに名乗りを上げる。
『連結、合体! トリプルライナー!』

「ニトロスクリュー!」
「ブレイクアーム!」

 みなみが、そしてそれに続いてひよりが――二人が名乗りを上げ、頭上に大きく跳躍し、
『ゴッド、リンク!』
 咆哮と同時、二人がゴッドオンしたまま分離、変形を開始する。
 同時にビークルモードへとトランスフォーム。ロボットモード時にボディを形成する先頭部分を車体上方に90度起こすと、前方を向いている底部を180度回転することで車体後方に向ける。
 さらに車体後方が数ヶ所に渡ってスライド式に延長。内部に隠されていた関節部が露出し、それぞれ左半身、右半身への変形が完了する。
 互いに変形を完了し――二人は向かい合うように合体、ひよりのブレイクアームを右半身、みなみのニトロスクリューを左半身としたひとつのボディとなる。
 両肩となった先頭部分の下部からジョイント部分が露出、ブレイクアームのカーボンフィストが連結するように合体し、両腕が完成する。
 最後にブレイクアームの変形した右肩が開くと中からロボットモード時の頭部が射出され、二人が合体して形成されたボディに改めて合体する。
 すべてのシステムが問題なく起動し――ひとつとなったひよりとみなみは高らかに名乗りを上げる。
『連結、合体! グラップライナー!』

「ほぉ……合体したか」
「みたいだね」
「これで、スピードはともかくパワーは上!」
「そう簡単には、やらせない!」
 かがみ達が合体したのを見て、トーレとオットーも合流――二人に答え、かがみとみなみがかまえるが、
「いいだろう。
 その自信――粉々にしてくれる!
 いくぞ、オットー!」
「うん」
 そんな彼女達を前にしても、トーレ達は動じなかった。トーレの指示にオットーがうなずき、
「ゴッド――オン」
 静かに宣言し、オットーが自らのトランステクターである高速戦闘艇と一体化し、
「トランス、フォーム」
 再度の宣言により、戦闘艇の外装が展開、中から姿を現した、手足を折りたたんでいたロボットモードのボディが四肢を伸ばし、外装部は背中にまとめられ、バックパックの姿勢制御ウィングとなる。
第八機人エイス・ナンバーズ、“閃光の術士”オットーとトランステクター、クラウドフリート。
 海上攻撃兵クラウドウェーブ――撃ち砕く!」
 

「くそっ、アイツら……!」
「コイツらさえいなければ、助けに行けるのに……ジャマすぎるんだな!」
 口々にうめき、苦戦するこなた達の援護に向かおうとするガスケットやアームバレットだが、そんな彼らを始めとした六課防衛戦力組の前にはガジェットの大群が立ちはだかった。次々に撃破していくものの、物量にものを言わせた波状攻撃に、元サイバトロン軍総司令官であるダイアトラスを擁する彼らもジリジリと後退を余儀なくされている。
「あぁ、もうっ!
 ダイアトラス! 大技で一気に蹴散らしちまえ!」
「バカか!
 ダイアトラスにそんなことをさせたら、六課の隊舎にまで被害が及ぶぞ!」
 次第に焦れてきたガスケットがダイアトラスをけしかけるが、そんな彼をシグナルランサーが制止する――が、そうでもしなければ状況はひっくり返りそうにないほどに悪化している。
 と――――
「抵抗は無意味です」
 そんな彼らの前に進み出てきたのはディードである。
「抵抗しなければ、あなた達に危害は加えません。
 おとなしく、撤退してください」
「逃げろ、だぁ?
 “降伏”じゃないのかよ?
 それとも、オレ達は降伏させる価値もないってか?」
 告げるディードの言葉に、ガスケットは軽口を叩きながらエグゾーストショットをかまえ、
「戦闘機人だからって、ゴッドオンもしてない相手に負けるはずないんだな!
 あんまり偉そうなこと言ってると、ブッ飛ばしてやるんだな!」
 アームバレットもまた、ディードに対して拳を振り上げて見せる。
「…………わかりました。
 あなた達のようなことを言う方にはこう言え、とチンクお姉様から教わった言葉があります。
 その言葉を今、あなた達に贈ります」
 そんな二人に対し、ディードは静かに両腕の光刃をかまえ、告げる。
「『そう思うなら、本気にさせてみろ』だそうです」
 

「とぉりゃあぁぁぁぁぁっ!」
 気合と共に勢いよく跳躍――渾身の力で跳び蹴りを叩き込むジャックプライムだが、自分達のいる部屋と廊下を隔てる隔壁はビクともしない。
「あー、もうっ!
 本来人間用の施設の隔壁なのに、何なのさ、この頑丈さ!?」
「トランスフォーマーの社会進出に伴い、この地上本部も対TFテロや局所属のTFの保護のためにと全面改修を行われている。
 当然、トランスフォーマーの攻撃にも耐えられるようになっているさ」
「今のオレ達には何もできん。
 今は外のはやて達を信じるしかない」
「だけど…………!」
 そんなジャックプライムをたしなめるのはスターセイバーとビッグコンボイだ。「今は体力を温存しておけ」という二人に、ジャックプライムは焦りを隠しきれず――
〈みんな! 聞こえる!?〉
 隔壁の脇のインターホンが作動した。非常電源によってかろうじて維持されているそのスピーカーから聞こえるのはライカの声である。
「ライカ!?
 みんなはいるの!?」
〈なのは達はイクトが地下の合流ポイントに送っていったわ!
 はやて達はあたしが扉を開けてなんとか救出完了! 今、指揮系統を安定させようとお偉方とお話し中!〉
 声を上げるジャックプライムに答えると、ライカは改めて彼らに告げる。
〈こっちも今こじ開けるから、扉から離れて!〉
「わかった!
 ジャックプライム!」
「う、うん!」
 ライカの言葉にうなずくビッグコンボイに呼ばれ、隔壁の正面にいたジャックプライムはあわてて後退し――
〈あ、それから〉
 不意に、ライカが付け加えた。
〈『離れろ』とは言ったけど……正面にいたらダメよ〉
「え………………?」
 その言葉に、隔壁の前からまっすぐ後退しただけ、すなわち未だ正面に位置したままのジャックプライムが声を上げ――
〈鋼鉄――突破!
 ディバイディング、スパルタン!」

 響き渡るのはどう考えても攻撃の咆哮――同時、隔壁に波紋が走ったかと思うと、波紋の中心から隔壁に穴が開き、広がっていく。
 頑強な隔壁を“かき分け”、サーベルをかまえたライカは隔壁を突破して室内に飛び込んできて――
「ふぎゃあっ!?」
 正面にいたジャックプライムがねられた。
 きりもみ回転しながら顔面から落下――いわゆる“車田落ち”を披露するジャックプライムの姿に、ビッグコンボイやスターセイバーを始めとした、その場のすべてのトランスフォーマー達が沈黙し――かまえを解き、ライカはジャックプライムへと向き直り、
「……『正面にいちゃダメ』って言ったじゃない」
「逃げるヒマを与えてよ!」
 平然と告げるライカに対し、ジャックプライムはガバッ!と身を起して抗議の声を上げる。
「だいたい、ここの隔壁を突破してもなおそのスピードって、どういう突進……力、で……」
 なおもライカに抗議するジャックプライムだが――隔壁に視線を向けたとたんにその声のトーンが落ちた。“かき分け”られた隔壁の穴を不思議そうに眺め、
「…………何コレ?
 対魔法防御に加えて、トランスフォーマーの打撃にも耐えられる隔壁だってのに、何をどうやったらこんなのができるの?」
「あぁ、それ?
 防御関係一切合切、全部まとめて“空間ごと押し広げた”のよ」
 尋ねるジャックプライムに答え、ライカは自らの手のサーベルを彼に見せ、
「あたしの精霊器“光天刃”――その能力は“空間湾曲”。その名の通り空間を歪めたり、圧縮したりすることができるのよ。
 今のはその応用。隔壁に突き立てた切っ先から精霊力を送り込んで、隔壁の部分の空間を圧縮、同時に光天刃と隔壁の間にできたわずかな空間を展開して、見ての通りの穴をこじ開けた、と、そういうワケ」
「あぁ……なるほど。
 ディバイディングドライバーと同じことしたワケだ」
「あー、ツッコミ期待してんだろうけど、技の命名者ジュンイチにその辺さんざんからかわれてるからムダだからね」
 ポンッ、と手を叩いて納得するジャックプライムにライカが答えると、
「だが、飛び込んでくることはないだろう」
 そんな彼女に苦言を呈するのはスターセイバーだった。
「貴様の今の理屈だと、別にさっきのような勢いは……」
「いるのよ、残念ながら。
 ただ突き刺しただけじゃ切っ先の一点を中心に、“奥側”にも広がっちゃうからね――勢いよく力をぶつけて、一瞬で奥の方にまで“力”を伝搬させる必要があったのよ」
「とはいえ、なぁ……」
 答えるライカの言葉に、ビッグコンボイもまたため息をつき、
「ひょっとして、はやて達を助けた時にもやったんじゃないだろうな?」
「………………」
「……って、おい? なぜ黙る?」
 沈黙したライカの姿に、“イヤな予感”にとらわれたビッグコンボイが問いを重ねる――と、ライカはクルリとスターセイバーへと向き直り、
「あー、スターセイバー……
 …………ゴメン」
((シグナムが“喰らった”か……))
 なんとなくそう確信し――ビッグコンボイとジャックプライム、スターセイバーはそれどころではないとわかっていてもため息をつかずにはいられなかった。

 

「ここから先へは、行かせないっスよ。
 こないだは助けてもらった形っスけど、悪く思わないでほしいっスね」
「言ってくれるな。
 ついこないだナンバーズに加わったばかりの新兵に、オレの相手が務まるとでも思っているのか?」
 地上本部の地下――なのは達の待つロータリーホールに向かう道中、自分達の前に立ちはだかったウェンディと対峙し、マスターコンボイは不敵に笑いながらオメガをかまえる。
「って、挑発してる場合じゃないでしょ!
 スバルの読みの通りなら、六課が攻撃を受けてるってことでしょう!?」
「わかっているさ」
 そんなマスターコンボイに向けて声を上げるのは、エリオ達やジェットガンナー達共々ウェンディの生み出した光弾に包囲されたティアナだ――しかし、マスターコンボイは焦る彼女に対しても落ち着いた口調でそう答えた。
「マスターコンボイさん……」
「あわてるな。
 “我に策有り”だ」
 となりでうめくスバルに答え、マスターコンボイはティアナ達に告げた。
「とりあえず、貴様らは先に機動六課に向かえ。
 ここと、なのは達についてはオレとスバル・ナカジマに任せろ」
「兄さん!?」
 マスターコンボイの言葉に思わず声を上げるキャロだったが、
「ティアナ・ランスター、ジェットガンナー。
 貴様らなら、オレの意図は理解できるはずだ」
「…………わかったわよ」
「了解した」
 マスターコンボイが決断を求めたのは声を上げたキャロではなく、ティアナとその相棒――告げられたその言葉に、マスターコンボイの読みの通り彼の真意を見抜いたティアナ達は静かにうなずいてみせる。
「へぇ……あたし達3人を、お前らだけで相手するってのか?」
「心配するな。
 貴様らのためでは絶対にない」
「当然ですね」
 一方、マスターコンボイの余裕の態度が気に食わなかったか、ノーヴェが機嫌を損ねるが、そんな彼女にもマスターコンボイはあっさりとそう答え、セッテもまたその言葉に同意する。
「……でも、ちょっと考えが甘くないっスか?
 今、そっちのお嬢さん達はあたしが包囲して……」
「貴様こそ、認識が足りないな」
 しかし、ウェンディもティアナ達を行かせてたまるかとばかりに光弾の包囲を狭めてけん制してくる――告げるウェンディだったが、マスターコンボイはあっさりとそう答えた。
「こうして無駄口を叩いている間――」
 

「オレが何も仕掛けていなかったとでも思っているのか?」
 

『え………………?』
 マスターコンボイの言葉に、ウェンディ達は思わず眉をひそめ――
「――――――っ!」
 ノーヴェは気づいた。
 マスターコンボイの足元にいくつもできている、不自然なふくらみに。
「こいつ――!
 気をつけろ! “足元からくる”!」
「遅い!
 オメガ!」
〈Hound Shooter!〉
 “仕掛け”に気づいたノーヴェの言葉に警戒するウェンディ達だが、反応を許すつもりはない――マスターコンボイの言葉にオメガが答え、同時、紫色の魔力弾が地面のふくらみの中から次々に飛び出した。ウェンディの光弾群に向けて襲いかかり、そのことごとくを粉砕する!
「何!?」
「AMFの中なのに、どうやって!?」
「特性を考えれば簡単なことさ!」
 いきなりの、予想外の奇襲にセッテとウェンディが声を上げる――対し、マスターコンボイはオメガを介して魔力弾をコントロールしながらそう答えた。
「AMFの効果自体は、ティアナ・ランスターお得意の多重弾殻射撃をマネさせてもらえば対応が可能だ。
 残る問題はその前段階。魔力弾の生成だが――AMFは“大気中の”魔力結合を阻害する。ならば“大気中で作らなければ”それで解決だ!」
「そうか――だから、地中から!」
 マスターコンボイの言葉に、ウェンディは彼の仕組んだトリックに気づいて歯噛みする――

 マスターコンボイの指摘した通り、AMFは大気中の魔力結合を阻害するエネルギーフィールドを展開する。
 ここでポイントとなるのは“大気中の魔力の結合を阻害する”ということ、そして“それ自体がエネルギーフィールドである”ということ――すなわち、エネルギーを放出することで空間内に展開するフィールドでもあるから、物質の中や、完璧に密閉された空間の中にまでその効果を及ぼすことはできないのだ。
 はやて達やビッグコンボイ達が隔壁で隔離されながらもAMFに干渉されていたため、密閉空間にも届くものだと誤解されそうなものだが、それもダクトなどを通じてAMFの効果が届いたからにすぎない。 あくまで“エネルギーを行き渡らせることで展開するフィールド”なのだ。

 そういった特性を、マスターコンボイは利用した――電流がアースを伝って大地に流れるように足元を介して自らの魔力を地中に流し込み、AMFの届かない地中で魔力弾を作り出したのだ。
 ノーヴェが気づいた、マスターコンボイの足元のふくらみは、作り出された魔力弾が地面のコンクリートを押し分け、押し上げたものだったのである。

「なるほどね……やってくれるじゃない!」
「こういった応用は、“柾木一門”だけの特権じゃないということだ」
 光弾の包囲から解放され、マスターコンボイのファインプレーに声を上げるティアナに対し、マスターコンボイは不敵な笑みと共にそう答え、
「ともかく、これで貴様らも動けるだろう。
 さっき言った通り、六課に向かえ」
「し、しかし、マスターコンボイ殿達は……」
「大丈夫だよ!
 あたし達が、そう簡単にやられるワケないんだから!」
 気を取り直し、告げるマスターコンボイに対し、彼の身を案じるシャープエッジにはスバルが答えた。
「まぁ、そういうことだ。
 この程度のヤツら、“3人”がかりでも――ゴッドオンして“3体”がかりになろうと問題はない」
「とりあえず信用するわよ。
 ほら、みんな、行くわよ!」
「は、はい!」
「兄さん、スバルさん、気をつけてください!」
 改めて告げるマスターコンボイにティアナが答え、エリオ、キャロもそんな彼女に従ってその場を離れる――そんなティアナ達の背を守る形で、マスターコンボイとスバルはウェンディ達と対峙した。
「さて、続きだ」
「拒否する理由、ないよね?
 キミ達の狙いは、あたし達みたいだし」
「…………っスね」
「確かに、彼女達を追跡することよりも、あなた達の相手の方が作業の優先度は高い……」
「だから、あたし達がお仲間を追うことはないから、安心して先に行かせられる、か……
 こっち的に、ひとつも否定できる要素がないのがまたムカつくな」
 告げるマスターコンボイとスバルに対し、ウェンディ達もまたそれぞれに答え、各々戦闘態勢に入る。
「なら……始めてもかまわんな?」
 そんな彼女達に告げると、マスターコンボイは静かにオメガを振りかざし、
「――いくぞ!」
 渾身の力で――“足元に向けて”振り下ろした。粉々に砕けたコンクリートが粉塵となり、一同の視界を覆い隠す。
「くそっ、煙幕っスか!」
「全員固まれ! 不意打ちが来る!」
「了解です」
 いきなり視界を奪いにかかったマスターコンボイの行動に、ノーヴェは素早く判断を下した。セッテがうなずき、3人は1ヶ所に固まって攻撃に備える。
 巻き起こる粉じんの中、意識を研ぎ澄ませ――
 

 ………………
 …………
 ……
 

「………………あれ?」
「攻めて…………こないっスね?」
 未だ粉じんは晴れないが、マスターコンボイやスバルが仕掛けてくる様子はない。沈黙の中、ノーヴェとウェンディは思わず間の抜けた声を上げる。
「……い、いや! きっとそうやって、あたしらが気を抜く瞬間を狙ってやがるんだ!
 みんな、気を抜くんじゃねぇぞ!」
 しかし、まだ油断はできない。気合を入れ直し、ノーヴェは周囲を探り――
 

 ………………
 …………
 ……
 

「…………これ……もう、アイツらいないじゃないっスか?」
「………………」
 つぶやくウェンディの言葉に、さすがのノーヴェの反論できずに黙るしかなく――
「…………よろしいですか?」
 口を開いたのはセッテだった。
「どうしたっスか?」
「先ほどのマスターコンボイの言動に、この状況を示唆するものがあったかと」
 尋ねるウェンディにそう答えると、セッテは改めてマスターコンボイの言葉を思い出しながら告げた。
「確かに、彼は『自分達に任せろ』、『自分達だけで問題はない』、『続きをしよう』と言いましたが……『私達と戦う』とは一言も言っていませんでしたが」
『………………あ』
 

「フンッ、さすがのアイツらもそろそろ気づいた頃だろう。
 悔しがっている顔が目に浮かぶ。ククク……」
「マスターコンボイさん……楽しそうですね……」
 ニヤリと笑みを浮かべるマスターコンボイの言葉に、となりを走るスバルは思わず苦笑する――現在、二人は粉塵に紛れてあの場を離れ、なのはやフェイトのいるロータリーホールを目指していた。
「でも……良かったんですか? 放っておいて」
「“勝つ”“負ける”の問題じゃない。
 “戦うべき”か“戦うべきじゃない”かを考えれば、あそこは戦うべき場面じゃなかった」
 しかし、あの3人の戦闘機人を放っておいてもよかったのか――尋ねるスバルに対し、マスターコンボイはあっさりとそう答えた。
「確かに、オレ達の役目はヤツらを叩き落とし、この公開陳述会を防衛することだ――だが、それは最終目的にすぎん。
 今のオレ達が、なのは達にデバイスを渡すために動いているのだということを忘れるな」
「は、はい!」
 うなずくスバルに自らもうなずき返し――マスターコンボイは行く手に広がる地下通路の暗闇へと視線を向けた。
(しかし……)
 そんな彼の脳裏によぎるのは、先ほど対峙したノーヴェの姿――チラリと、視線だけをマスターコンボイに向ける。
(あの小娘……コイツに似すぎていた。
 顔や姿ではない。その身にまとう、“本質”のようなものが……
 あまり、考えたくはないが……)
「…………ヤツは……まさか……」
「………………?
 マスターコンボイさん?」
「気にするな。ただのひとりごとだ」
 首をかしげるスバルにそう答えると、マスターコンボイはそれ以上の詮索をやめ、なのは達との合流を第一に思考を切り替えるのだった。
 

「アイツら……!
 ふざけたマネしやがって!」
 粉塵が晴れると、本当にスバル達は姿を消していた――みすみすターゲットを取り逃がした形となり、ノーヴェは苛立ちもあらわに近くの柱を殴り、叩き折る。
「まんまとしてやられたっスねー……」
「敵の方が上手だったと、この場は次に活かすことを考えるべきでしょう」
 そんなウェンディをなだめるようにウェンディとセッテが告げると、
〈セッテ、ウェンディ、ノーヴェ〉
 そこへ、ディエチからの通信が入った。
 

「3人とも、ちょっと地上を手伝ってくれる!?」
 そのディエチは、地上で対空戦闘中――彼女のゴッドオンしたアイアンハイドが、ホバリング走行で上空からの攻撃をすべるようにしてかわしていく。
 攻撃を仕掛けているのは――
「オラオラオラぁっ!
 反撃の余裕なんか、与えてたまるかよ!」
「ブリッツクラッカー、逃がすなよ!」
「例の“柾木一門”のひとり――ブリッツクラッカーと交戦中なんだ!
 空戦特化のヤツが相手じゃ、地上中心の私じゃ分が悪い……!」
 自身のライドスペースに座る晶の声援を受け、ブリッツクラッカーはディエチに向けてエネルギーミサイルを放つ――AMFによってエネルギーを削られてはいるものの、多数の光弾に狙われては無視もできず、ディエチは素早く光弾を回避、ないしは迎撃していく。
「それに、クアットロも……!」

「まったく、しつこい子達ね!」
「それがお役目ですから!」
「今度こそ、逃がさない!」
 クアットロを狙うのは、六課隊舎をこなた達に任せ、こちらの戦場に駆けつけたイリヤと美遊だ――“カレイドの魔法少女”へと変身した二人の放つ、AMFをものともしない魔力弾の連射をかいくぐり、ブラックシャドーにゴッドオンしているクアットロは思わず舌打ちする。
「IS発動――シルバーカーテン!」
 ガジェット達を連れてきていない手前、AMFはあてにできない。こうなったら逃げるが勝ちだ――自身のISで幻覚効果を発動。クアットロの、ブラックシャドーの姿が夜空に溶け込むように消えていくが、
「させないっつーの!
 とびっきりの――散弾!」
 それを許すイリヤではなかった。広範囲に、回避の余地も許さないほどに密度を高めた魔力弾の雨が、まだ姿を消しただけで離脱には至っていなかったクアットロをとらえ、
「ミユ!」
「うん!
 砲撃バスター――発射シュート!」
 イリヤの散弾によって標的の位置を見極めた美遊の砲撃がブラックシャドーを直撃。撃墜には至らないものの、大きく吹き飛ばす!
 

〈セインをそっちへ迎えに行かせた――急いで!〉
「了解っス!」
 ディエチの言葉にはウェンディが代表してうなずいた――通信が切れ、ウェンディは振り向き、ノーヴェとセッテに告げる。
「さて、と……
 それじゃ、意識を切り替えて、次のお仕事にいくっスよ!」
「おぅよ!」
「了解しました」
 ノーヴェと共にうなずき――セッテはふと、背後へと視線を向けた。
 そこは、先ほどまでマスターコンボイが自分達と対峙していた場所――
(状況を冷静に見極める判断力と、それを最大限に活かす知略、そして目の前の敵に固執せず、目的の完遂に動けるいさぎよさ――
 力だけの戦士では、ないということか……彼の捕獲は、手間取りそうだな……)
 マスターコンボイの力をはかり、冷静にそう判断する――が、すぐに意識を切り替え、セッテはウェンディ達と共にセインとの合流を目指して移動を開始した。
 

「ノーヴェ達と連絡が取れた!
 セインと合流次第、すぐにこっちにくる!」
〈了解!〉
 ノーヴェ達との通信を終え、告げるディエチの言葉にもクアットロは上空でイリヤ達から逃げ回りながらそう答えた。
〈まったく、もう少しかき回す予定だったのに、こんなに早い段階で集合するハメになるなんて!〉
「コイツらの反応が早すぎたんだ……!」
 クアットロに答え、ディエチは上空からこちらを狙うブリッツクラッカーをにらみつけた。
「コイツら、初撃は許したとはいえ、私達の襲撃にすぐに反応した……
 読んでたんだ。私達が襲ってくるのを……!」
〈例の予言ってヤツ?
 でも、それだけでこんな……〉
「コイツらは“柾木一門”だよ――あの男なら、襲撃に加えてこっちの手口まで読んでいてもおかしくない」
 聞き返してくるクアットロにディエチが答えた、その時――新たな閃光が茂みの向こうから飛び出してきた。地上本部施設に向けて一直線に飛翔し、施設の防壁に取りついているガジェット群を次々に薙ぎ払っていく!
「新手――!?」
 管理局の援軍か――突然の攻撃にそう考えるディエチだったが、
「オラオラオラぁっ!」
 茂みから飛び出してきたのは、ディエチの予想とはまったく違う相手――ビークルモードのブロウルだった。
「てめぇらばっかりにオイシイところはやらねぇぜ――どいつもこいつも、ブッ飛ばしてやる!
 ブロウル、トランスフォーム!」
 咆哮すると同時にロボットモードへとトランスフォームし――ブロウルは両腕の小型砲をブリッツクラッカーに、腕から外し、背中にマウントしていた主砲をディエチに向け、一斉に撃ち放つ!
 

「だぁりゃあぁぁぁぁぁっ!」
「おぉぉぉぉぉっ!」
 咆哮と共にハンマーが、拳がうなりを上げる――ヴィータとビクトリーレオは現在、地上本部施設に取りついていたガジェットを撃破しにかかっていた。
「ブリッツクラッカーと晶が、敵をうまく抑えてくれてるみたいだな!」
「あぁ。
 今のうちにガジェットを減らして、AMFを弱めるんだ!」
 その目的は、中にいる面々の力を削いでいるAMFの軽減――ビクトリーレオの言葉にうなずくヴィータだったが、
「――――何だ!?」
 そんな彼女の目の前で、突然ガジェットが閃光の直撃を受け、破壊された。
 何事かと見下ろしてみれば、戦場のド真ん中に飛び出してきたブロウルが、ディエチのゴッドオンしたアイアンハイドやブリッツクラッカーに向けて全身の火器を乱射している――今の砲撃は、その流れ弾だったようだ。
「アイツら……ムチャクチャやりやがって!」
「まぁ、連中にしてみればここで手加減する理由なんかないんだろうがな」
 一歩間違えば自分達まで巻きぞえだ。うめくヴィータにビクトリーレオがそう答え――

「だらっしゃあっ!」

 響いた咆哮と同時――突然地上本部ビルの外壁の一部が吹き飛んだ。ちょうどそこにいたガジェットを巻き込み、さらなる爆発を巻き起こす。
「な、何だ!?」
 いきなりのことにヴィータが声を上げると、
「フフフ……ようやく回ってきました、あたしの出番!」
 もうもうと立ち込める煙の中、彼女は静かにそう告げる。
「規則なんてなんのその。こっそりロンギヌスを預けずに持ち込んでて正解だったね……
 しかも、誰かは知らないけど近くのがジェットを叩き落として、AMFを弱めてくれたし♪」
 そして、手にした槍で目の前の煙を振り払い、
「そんなワケで、ここからはこのあたし、アリシア・T・高町のオンステージだよ!」
 吹き飛んだ壁の穴から飛び出し、アリシアが、愛用の槍型デバイス“ロンギヌス”で迫りくるガジェットを打ち貫く!
 

 一方、イクトによって一足先にロータリーホールへと送り届けられたなのは達だったが――
「高町一尉! ハラオウン一尉!」
「シスター・シャッハ……?」
 声をかけられ、振り向くと、シャッハがちょうどこのフロアに姿を見せたところだった。少し離れた所の階段から、こちらに向けて駆けてくる。
「陳述会に出席された騎士カリムと、会場にいらっしゃったんじゃ……?」
「会議室のドアは、ライカさんが突破してくれたおかげで、なんとか……
 それで私も、急ぎお二人を追って……」
 エレベータも使えず、魔法も封じられ――ここまで走ってきたのだろう。シャッハは尋ねるフェイトの言葉に、息を切らせながらそう答える。
「はやてちゃん達は?」
「騎士カリムと共に、まだ会場に……ガジェットや襲撃者について、現場に説明を――」
 なのはの問いにそう答え――気づいたシャッハが顔を上げた。振り向くと、ウェンディ達を振り切ったスバルとマスターコンボイがこちらに向けて駆けてくるところだった。
「なのは! フェイト・T・高町!」
「お届けものです!」
「うん!」
「ありがとう、二人とも!」
 告げるマスターコンボイとスバルが差し出したのは内部警備につく際に預けられていたなのは達のデバイス――礼を言い、なのはとフェイトはレイジングハートとバルディッシュを受け取り、
「これは、私がお届けにあがります」
 はやて達の分については、シャッハが代わりに受け取ってくれた。
「他のみんなは?」
「あ…………
 それが……」
 しかし、スバル達だけというのはどういうことか――尋ねるなのはの問いに、スバルは思わず視線を泳がせるが、
「六課に戻した。
 別動隊によって、襲われている可能性がある」
「えぇっ!?」
 そんな彼女に代わり、マスターコンボイが答えた。淡々と事実を告げる彼の言葉に、なのはは思わず声を上げる。
「そんな……!
 六課にはヴィヴィオが!」
「おそらく……狙いはそのヴィヴィオだ」
 フェイトの声にもそう答えると、マスターコンボイは悔しげに舌打ちしてみせる。
「オレもうかつだった。
 ヴィヴィオも関係者のひとりだということは間違いなかったんだ。何らかの形で事件に関わっている以上、ヤツが狙われる可能性は当然あったというのに……防衛戦力としてガスケット達を残してきたとはいえ、あまりに注意を払わなさすぎた」
 うめくなのはに答えると、マスターコンボイは改めて彼女達に告げる。
「オレとスバル・ナカジマも今すぐ戻る。
 貴様はフェイト・T・高町と共にここの敵を片づけろ」
 そうなのは達に告げると、今度はシャッハへと向き直り、
「シャッハ・ヌエラ。八神はやてとシグナム・高町を、デバイスを渡し次第現場に出させろ。状況からして、今はひとりでも手が欲しい。
 なのは達周りのヤツらで数を減らし、八神はやての広域攻撃で一掃――ここまで攻め込まれた状況からひっくり返すにはそれしかない」
「ですが、他の指揮官の方達への説明は……?」
「カリム・グラシアがいるだろうが。
 今までも六課関係で交渉やら調整やらに明け暮れていたんだろう? 連中との交渉には、ヤツひとりで事足りるはずだ」
 聞き返すシャッハに答え、マスターコンボイは指示を続ける。
「それと……貴様とカリム・グラシアで、八神はやて達の出撃後、要人達を避難させろ。
 避難先には地下シェルターを使え――屋内にいさせるべきだろうが、だからと言って今のまま会場にいたのでは、なのは達はともかく、八神はやての広域攻撃に巻き込みかねん。むしろジャマだ」
「わ、私も六課に――」
「戦闘機動はともかく、移動速度ではオレ達の方が上だ。
 貴様の巡航速度ではオレ達にはついてこれん」
 ヴィヴィオの身を案じ、自身も六課に戻ろうと提案するなのはだが、指示を下していたマスターコンボイはあっさりとそう言い放った。
「貴様はここで暴れる役だ――そうすれば、少なくとも敵がここの戦力を六課に追加で回すことはできなくなる。
 それも、アイツを守るためにできることのひとつだと思って、しっかり働け。
 それから……」
 テキパキとなのは達に指示を与え――マスターコンボイはクルリと振り向き、
「スバル・ナカジマ――貴様は何を呆けている?」
「い、いや……」
 尋ねるマスターコンボイに対し、スバルは困惑しながら首をひねり、
「マスターコンボイさんがこういう場でなのはさん達を仕切ってる、っていうことに、どうにも違和感が……
 だって、いつもはその辺全部なのはさん達に丸投げじゃないですか」
「当たり前だ。
 戦略レベルの低いいつもの戦いで、なぜオレがいちいち指揮を執らねばならん」
 スバルの言葉に、マスターコンボイは「何を聞いてるんだ、コイツわ」と言わんばかりにそう答える。
「オレだって戦況は見えている。
 勝つためにオレが指揮を執ることが必要だと判断したなら、遠慮なく口をはさむさ」
「そうなんですか……
 ごめんなさい! あたし、てっきり何も考えてないから口をはさまないんだと思ってました!」
「よーし、ナンバーズやディセプティコンの前にまずは貴様をブッ飛ばそうか」
「なんで!? 素直に謝ったのに!?」
 迷うことなくオメガをかまえるマスターコンボイの言葉にスバルが声を上げ――
「………………わかった。
 マスターコンボイさんの指示が一番適切だね」
 そんな彼女達を完全に無視して状況の把握に努めていたなのはがそう口を開いた。スバルとのやり取りを切り上げたマスターコンボイへと向き直り、“高町なのは一等空尉”としての顔で告げる。
「マスターコンボイさん。
 スバル達と……六課を、お願いします」
「あぁ。
 こいつらと、六課と……ヴィヴィオのことは、任されてやる」
 あえてなのはが口にしなかったヴィヴィオの名を出してそう答え、マスターコンボイはスバルと共に六課を目指して移動を開始する。
「マスターコンボイさん……
 ギン姉は、どうします?」
「連絡の必要はない」
 一方、スバルが気にかけるのは唯一連絡の取れていないギンガのこと――しかし、マスターコンボイはあっさりとそう答えた。
「ギンガ・ナカジマは、貴様と同じく柾木ジュンイチの教えを受けたのだろう?
 なら、貴様が気づいたことに気づかないはずがない――この手の攻め方は、あの男が好みそうな手だからなおさら、な。
 大方、すでに状況を把握して六課に向かっているだろう」
「………………はい……!」
 マスターコンボイの言葉にうなずき、スバルは前方に視線を戻した。
(ギン姉……みんな……
 あたし達も、すぐに行くから!)
 

「たぁぁぁぁぁっ!」
「なめんな!」
 咆哮するアリシアに、ボーンクラッシャーが応じる――交錯する瞬間、アリシアのロンギヌスとボーンクラッシャーのクローアームが激突し、火花を散らす。
「いつまでも……調子に、乗るな!」
「おっと!」
 一方で、ディエチがブロウルに反撃――彼女が振り向きざまに放った砲撃を、ブロウルは余裕のサイドステップでかわすが、
「脳天ガラ空き!」
「あたしらもいるんだっつーの!」
「どわぁっ!?」
 そこにブリッツクラッカーと晶が便乗した。上空から襲いかかり、急降下の勢いもプラスされたカカト落としをブロウルは何とか回避。かわされた一撃は大地を粉々に粉砕する。
 と――
「ちょっとちょっと! いい加減にしてよ!」
「そういうワケにもいかないんだよ!」
「あなたを落とすのが、私達の役目だから!」
 上空から舞い降りてくるのはクアットロのゴッドオンしたブラックシャドーだ。次いで、彼女を追ってイリヤや美遊も急降下してくる。
「い、イリヤ!? 美遊!?」
「二人とも、来てたのか!?」
「ま、いろいろあってね!」
「私達も、お手伝いします!」
 ジュンイチはともかく、彼女達までこの戦いに首を突っ込んでくるとは思わなかった――驚く晶やブリッツクラッカーにイリヤと美遊が答えた、ちょうどその時――
「だぁらぁっ!」
 咆哮や轟音と共に、大地が爆発する――巻き起こる炎の中、自分のトランステクターである大型バイクに乗ったノーヴェが地上へと飛び出してきた。
「てめぇら――調子に乗ってんじゃねぇぞ!
 ゴッドオン!」
 彼女がまず狙うのは、ディエチと対峙しているブロウルやブリッツクラッカーだ。宣言と共に光となってバイクと一体化し、
「ロードロケット、トランスフォーム!」
 ロボットモードへとトランスフォーム――バックパックに支柱ごと配置され、両肩をカバーするアーマーとなった2基のタイヤをうならせながら、ノーヴェはその場に降り立った。
第九機人ナインス・ナンバーズ――“破壊する突撃者”ノーヴェ! トランステクターはロードレーサー!
 高速突破兵ロードロケット! 目標を、ブチ砕く!」
 

「ありゃりゃー、ノーヴェってば、やる気マンマンっスねー」
「のん気に言ってる場合か?
 あたしらも行くよ!」
 そんなノーヴェの様子に苦笑するのはウェンディだ――無機物潜航によって移動し、少し離れた位置に浮上したセインのデプスマリナーに同乗していた彼女の言葉に、セインはため息まじりにそうツッコむ。
「地上なら、お前らもトランステクターで出られるだろ。
 ほら、早く」
「わかってるっスよ。
 セッテ!」
「はい」
 セインの言葉にうなずき、ウェンディとセッテも跳躍――飛行能力を有する二人が狙うのは、クアットロを追いかけ回しているイリヤと美遊だ。
「――――――っ!?」
「ミユ、気をつけて! 新手!」
「そういうコトっス!」
「あなた達の相手は――私達だ!」
 気づいたイリヤ達に答え、ウェンディが自身の乗るライディングボードから光弾を放ち、セッテが自身の手にしたブーメラン状のブレードを投げつける――回避し、イリヤと美遊はクアットロの追撃をあきらめてウェンディらと対峙した。
「見ない顔だね……新人さん?」
《まだ経験値も少ないでしょうに、私達に挑もうとは身の程知らずですねー》
「…………問題ない。
 伊達に、遅く生まれてはいないということだ」
 淡々と――姉妹達に向けるものとはまったく真逆の冷たい口調でイリヤとルビーに答えると、セッテは手元に戻ってきたものも含めた、ブーメラン状の2本のブレードをかまえる。
「それに、私達だってトランステクター持ちっスからねー。
 本領発揮は、これからっス!」
 そして、ウェンディもまたセッテに同意する形でそう告げて――彼女達のもとにそれは飛来した。
 高速戦闘ヘリとジェット戦闘機だ――ウェンディが戦闘機の上に降り立ち、セッテも戦闘ヘリと合流し、
『ゴッド、オン!
 トランスフォーム!』

 二人同時にそれぞれの機体にゴッドオン。そのままの流れでロボットモードへとトランスフォームする。
第七機人セブンス・ナンバーズ、“空の殲滅者”セッテ。トランステクターはサンドローター。
 高機動剣士サンドストーム――戦闘、開始」
第十一機人イレヴンス・ナンバーズ、“守護する滑空者”ウェンディ! トランステクターはジェットイーグル!
 天空機動兵ジェットスライダー、暴れちゃうっスよー♪」
 

「でやぁぁぁぁぁっ!」
「だぁぁぁぁぁぁっ! なんだ、なぁっ!」
 咆哮と共にガスケットが蹴りを、アームバレットが拳を繰り出す――しかし、ディードはそんな二人の攻撃を、最小限の動きで、紙一重でかわしていき、
「これで!」
「ムダです」
 そんな彼女を狙うのはシグナルランサーだ。一直線に愛用の槍を繰り出すが、ディードも両手の剣でそれを受け流す。
「なかなかやりますね……
 しかし、まだ1発も私には当てられていませんが」
「お前がちっこいのが悪いんだな!」
「とっととトランステクターを呼び出してゴッドオンしやがれ!
 的が小さくて、当てづらくってしょうがねぇ!」
 静かに告げるディードに対し、向きになったアームバレットとガスケットが言い返し、
「そう言うそちらも、ずいぶんとこちらを警戒しているじゃないか。
 さっきから防戦一方だし、ダイアトラスはガジェットで足止めか?」
 そうディードに告げ、シグナルランサーは大量のガジェットをたったひとりで蹴散らしている――しかし、そのせいで足を止められてしまっているダイアトラスへと視線を向ける。
「一応、こっちをそれなりに評価している、と受け取っておこうか」
「確かに、彼は私と戦う上では脅威です。
 しかし――あなた達はまだ、その域には達していません」
「言ってくれるんだな!」
「どうやら、まだまだこっちをナメてるみたいだな!
 見てろ! すぐにその余裕のポーカーフェイスを引っぺがしてやるぜ!」
 シグナルランサーに答えるディードの言葉に、ガスケットとアームバレットはますますムキになり――
「そこで感情を乱すから――私に脅威と思われないのがわかりませんか?」
 そうディードが告げた、その瞬間――彼らの背後に出現した対TFガジェットV型が、数体がかりでガスケットとアームバレットを押さえつける!
「ガスケット! アームバレット!」
「やはり、あなた達はこの程度のレベルでしたか……」
 思わず声を上げるシグナルランサーとは対照的に、ディードは淡々と告げて両手の光刃をかまえる。
「やはり、トランステクターを使わず正解でした。
 本来の私の機体ならともかく、今回使えと言われた“13番機”では、少々“やりすぎて”しまっていたでしょう」
「何…………!?」
 その言葉に思わずうめくシグナルランサーに対し、ディードは話は終わりだと言わんばかりに彼を狙って地を蹴り――
 

「みんな!」
「助けに来たよーっ!」
 

 新たな声が乱入――同時、ガジェットの布陣の一角が轟音と共に吹き飛ばされた。そのまま飛び込んできた影が、ディードに一撃を見舞い、弾き飛ばす!
 ギンガとロードナックル・シロである。ロードナックル・シロがガスケット達を抑えていたガジェットを粉砕し、ギンガと共に合流する。
「お、お前ら……どうして!?」
「ギンガお姉ちゃんのおかげだよ!
 敵の攻撃が、こっちにもあるんじゃないかって!」
 地上本部の防衛についていたはずの彼女達がどうして――声を上げるシグナルランサーにロードナックル・シロが答えると、
「……そうですか……
 あなた達も、来たのですか……」
 そんな彼ら――正確にはギンガを見つめ、身を起こしたディードは静かにつぶやいた。
「タイプゼロ・ファースト……あなた達にはこちらへ来てほしくはなかったのですが……
 できれば、私も全力を出したくはなかったので」
「え………………?」
 そのディードの言葉に、ギンガは思わず声を上げるが――
「しかし……“捕獲対象”であるあなたを前にしてしまった以上、私も手加減するワケにはいきません。
 今回割り当てられた最大戦力によって、全力で叩かせていただきます」
 かまわずそうディードが告げた次の瞬間――それは彼女の頭上に飛来した。
 1体の、ドラゴン型の機動メカだ。しかし――
「――――――っ!」
 そのドラゴンの威容を目の当たりにし、ギンガは思わず目を見開いた。
 サイズこそ小さいが、その姿はまさしく――

「黒い……ゴッドドラゴン……!?」

「ご、ゴッドドラゴン……?」
「それって、確か……」
「“黒き暴君”――柾木ジュンイチの乗機だ」
 そんなギンガの言葉に首をかしげるのはガスケットとアームバレット――二人のつぶやきには、シグナルランサーが答えた。
「だが……その名が彼の“武勇伝”の中にあるのは、彼がミッドチルダに現れたばかりの頃、ほんの1、2年の間に過ぎない……
 ダイアトラスも見たことはないんだよな?」
「肯定」
 尋ねるシグナルランサーにダイアトラスがうなずくと、
「そうです」
 そんなギンガ達の動揺にもかまわず、ディードは淡々とそう答えた。
「そっくりなのは無理のない話というものです。
 何しろ、この機体はあなたの言うところの“ゴッドドラゴン”をスキャンしたものをベースとしていますので」
《なるほど……
 つまり、ゴッドドラゴンは、今はお前達のところにあるってことか》
 ディードの言葉にその意味するところを読み取り、クロがそうつぶやくと、
「そんなの関係ないよ!」
「そうよ。
 いくらあなたのトランステクターがゴッドドラゴンをスキャンしていようと、だからって負ける理由にはならない!」
 一方で闘志を燃やすのはロードナックル・シロとギンガだ。それぞれにかまえてディードに告げるが、
「…………ひとつ、訂正があります」
 そんな彼女達に向け、ディードは静かに告げた。
「このトランステクターは……『私の機体』ではありません。
 私の機体は別にあります。今回の作業では私がこれを使うことが適切と判断されたため、投入されなかった――それだけのこと」
「お前の機体じゃない……?
 そんなものを持ち出して、どうするつもりだ?」
 告げるディードに尋ねるシグナルランサーだったが――
「使えないワケではありませんので」
 そんな彼にも、ディードはやはり淡々とそう答えた。静かに目を伏せ――告げる。
「……ゴッド、オン」
 その言葉と同時、ディードの身体は光に包まれ、ドラゴン型トランステクターへと融合していく。そして――
「トランス、フォーム!」
 宣言と同時――その巨体がトランスフォーム。ロボットモードとなってギンガ達の前に降り立つ。
「ロボットモードまで、そっくり……!」
「手を加えたとはいえ、やはり“オリジナル”の面影は残っていますので」
 その姿はゴッドドラゴンのロボット形態、ゴッドブレイカーにそっくり――うめくギンガに答え、ディードは静かにかまえ、
第十二機人トゥエルヴス・ナンバーズ、“瞬殺の双剣士”ディード……トランステクターは13番機“マグマドラゴン”。
 超越大帝マグマトロン――蹂躙します。すべてを」
「大帝、だと……!?」
 あくまで淡々と、静かに名乗りを上げるディードに対し、シグナルランサーが思わずうめくが、
「てめぇが“大帝”だと……!? なめやがって!」
 そんな彼のとなりで、ガスケットはその威容に呑まれまいと勢い込んで声を上げた。
「“大帝”なんてのはな、お前みたいな小娘が名乗っていい名前じゃねぇんだよ!」
「マスターコンボイ様みたいな、すんごいトランスフォーマーしか、名乗っちゃダメなんだな!」
 しかも、エキサイトしているのはガスケットだけではない。アームバレットもまた、口をとがらせて抗議の声を上げる――かつて“大帝”を名乗っていた頃、まだマスターメガトロンだった頃からマスターコンボイにつき従っていた彼らにとって、ディードが自らのゴッドオンした姿に“大帝”の名を冠するのはガマンがならないのだろう。
「お前なんかハリボテの大帝なんだって教えてやるぜ!
 いくぜ、アームバレット!」
「おー! なんだな!」
 そんな彼らが、いつまでもマグマトロンの威容に黙って気圧されているはずがない。口々に声を上げ、ディードに向けて襲いかかる!
「くらえぇっ!」
「だなぁっ!」
 そのまま、突撃の勢いを存分に込めた蹴りが、拳がディードに叩きつけられ――
「…………ひとつ、訂正があります」
「な………………!?」
「ウソだな……!?」
 二人の渾身の一撃を受けても、マグマトロンはビクともしなかった――淡々と告げ、ディードは驚愕するガスケット達の頭をつかみ、
“私が”大帝なのではなく――“この機体が”大帝なのです」
 軽々と二人を宙に放り投げ、腕のひと振りで殴り飛ばす!
「でぇぇぇぇぇっ!?」
「だなぁぁぁぁぁっ!?」
 強烈な一撃を受け、ガスケットはマキシマスの外装すら突き破って内部に叩きこまれた。そしてアームバレットはさらにその先、機動六課本部隊舎に轟音と共に叩き込まれる!
「ガスケット! アームバレット!」
「我、行く!」
 いつもの“やられ役”の吹っ飛ばされ方ではない。彼らが捨て台詞を“残せない”ほどの、明らかに一歩間違えば命にかかわるほどの一撃で吹っ飛ばされた――二人の姿を視線で追いながらシグナルランサーが声を上げる中、ガジェットを振り切ったダイアトラスがディードに向けて地を蹴った。
 ディードの回避は間に合わない――否、彼女は回避しようとすらしなかった。両者は両腕でガッシリと組み合い、真っ正面から力比べに入る。
「剛力、不敗……!」
 ヴォルケンリッター・トランスフォーマーの中でも格闘戦随一の肩書はダテではない。一気に押さえ込もうと、ダイアトラスは全身の駆動機関をフル稼働させるが――
「…………そうですか」
 あっさりと――本当にあっさりとディードは答えた。同時、マグマトロンの全身の駆動機関がダイアトラスのそれを上回る轟音をかき立て始め、彼女はダイアトラス以上のパワーで、逆に彼を押さえ込みにかかる!
「……き、驚愕……!」
「性能差を考えれば、当然の結果です」
 うめき、懸命に踏ん張るダイアトラスに答え――ディードは唐突に力を抜いた。一気に押し返す形となり、不意を突かれたダイアトラスは勢い余ってバランスを崩し、
「これで――沈黙してください」
 その勢いを利用し、ディードはダイアトラスを思いきり投げ飛ばした。頭から大地に叩きつけられ、頭脳回路を思いきり揺さぶられたダイアトラスは思考を停止し、沈黙する。
 元サイバトロン総司令官をその性能だけで討ち伏せると、ディードはマグマトロンにゴッドオンしたままギンガへと向き直った。
「タイプゼロ・ファースト。
 あなたには捕獲命令が出ています」
 ギンガ達に向けて一歩を踏み出し――先のダイアトラスとの対峙で駆動部を酷使し、過熱した足がアスファルトを焦がし、煙を上げる。
「おとなしく投降してください。
 抵抗は……無意味です」
 そう告げて、ディードはさらに一歩踏み出し――
「誰が、お前らなんかにギンガお姉ちゃんを渡すもんか!」
「――――――っ!?
 シロくん、ダメ!」
 言い返し、ロードナックル・シロが地を蹴った。ギンガの制止も聞かず、ディードのゴッドオンしたマグマトロンに向けて拳を繰り出し――

 

 

 ――――――トンッ。

 

 

 そんな音を聞いた気がした。
 

 それほどまでにあっけなく――

 

 ロードナックル・シロの拳は、マグマトロンディードの左手に受け止められていた。

 

「………………え?」
 一瞬、何が起きたのか理解できず、ロードナックル・シロは呆然と声を上げ――
「…………IS発動、“ツインブレイズ”」
 静かにディードが告げ――彼女の右手に光刃が生まれた。
《バカ! 逃げろ、シロ!》
「――――――っ!」
 生まれた光刃を、ディードは流れるような整った仕草で振り上げた。クロの警告に、我に返ったシロがバネ仕掛けのように跳躍した、次の瞬間――

 

 離脱の間に合わなかったシロの身体を、ディードの振り下ろした光刃が叩き斬っていた。

 

「シロくん!」
 ディードの光刃は、一撃のもとにロードナックル・シロの身体は袈裟斬りに真っ二つ――そんなロードナックル・シロに向け、ディードが左手にも光刃を生み出すのを見て、地を蹴ったギンガが彼を救うべく拳を打ち放つ――しかし、ディードは光刃を消し去り、無造作に掲げた右手を中心に展開された防壁でその一撃を受け止める。
 と、防壁に変化が生じた。ディードの正面全体をカバーするように展開されていた防壁が、ギンガの左拳を受け止めているその一点に収束していく。
「――――いけない!」
 その変化が意味するものに気づき、離脱しようとするギンガだが――
「……遅い」
 静かにディードが告げると同時――防壁“だった”エネルギーが炸裂した。光の渦となり、ギンガを呑み込んでいく。
 光が広がり、視界が覆い尽くされる寸前、ギンガが目にしたのは――

 

 

 

 

 

 ヒジのところであり得ない方向にねじ曲がり、千切れ飛ぶ自らの左腕だった。

 

 

 

 

 

「…………出た! 外だ!」
「よかった……みんな健在だね!」
 AMFがどこまで及んでいるかわからない以上、砲撃で進路を切り開こうとしても途中で力尽きる可能性が高い――素直にダクトを駆け抜けて地上に飛び出し、レイジングハートとバルディッシュを起動、さらにプリムラとジンジャーを装着したなのはとフェイトは、戦っている面々が皆健在なのを見て声を上げる。
 敵まで皆健在なのは決して“いい状態”とは言えないが、逆に言えば“悪い状態”とも言えない――これからが本番、と、なのはは自らに気合を入れ直し――
「なのはちゃん、フェイトちゃん!」
「はやて!」
「お前達も無事だったか……」
 さらに、頭上からはシャッハからデバイスを受け取ったはやてやシグナム、ライカ、そしてビッグコンボイ達も――先頭に立って降下してきた、すでにリインと合流し、彼女とのユニゾンを完了しているはやての姿にフェイトが声を上げ、シグナムもまた安堵の息をつく。
「さぁ、状況は良くないけど、ここから巻き返しや。
 一気にみんな叩き落として、六課の方に出たっていう敵も叩かんとな!」
「うん!」
 六課で自分の帰りを待っているヴィヴィオのためにも、ここであまり時間はかけられない。はやての言葉に、なのはは決意と共にうなずいて――

 

 

「それじゃあ困るんだよ」

 

 

『――――――っ!?』
 その声は、彼女達だけではなくその場にいる全員に向けられていた――落ち着いた口調で、しかしハッキリと響き渡ったその声に、戦いを繰り広げていた者達――意志を持たないガジェットを除く全員が驚き、動きを止めた。
 ――いや、まるで“その声のことを知っていたかのように”動揺を見せない者もいた。
「いよいよか……」
「待ってましたと目に涙!」
「『いよいよ』……? 『待ってた』……?
 どういうことよ!?」
 驚くどころか、むしろ歓喜の声を上げるブロウルやボーンクラッシャーの言葉に、ライカは二人に対し声を上げ――
「静かになさい」
 そう答えたのは、イリヤや美遊をウェンディ達に押しつけ、安全圏での指揮に戻ろうとしていたクアットロだった。
「動揺が丸見えよ。
 もう少し、先輩風を吹かせたらどうなの? この小娘ちゃんが」
「こ……っ!?
 ナマ言ってくれるじゃない! 身体的にはともかく、経験値的にはアンタなんかよりよほど――」
 クアットロの言葉に反論しかけ――そんなライカの背筋を寒気が走った。
 対するクアットロも、いつもの余裕は完全に消え失せている――じっと、上空に立ち込めた、戦闘で巻き起こった黒煙の向こうをにらみつけている。
「あの向こうに……何かいる……!?」
《パワーとか、ジャミングで全然感知できないのに……!》
《デバイスの私達ですら“感じ取れる”って……それだけすごいプレッシャーってことですよね……!》
「一体、何が……!?」
 黒煙の向こうからは、先ほどから得体の知れない、強烈なプレッシャーがガンガンと放たれている――警戒を強め、なのはやプリムラ、ジンジャーの言葉にフェイトがうめくと、
「――――――っ!
 全員、散れ!」
 気づいたシグナムの言葉は敵味方問わず、その場の全員への警告の役割を果たし――同時、黒煙の向こうから無数のビームが飛び出してきた。とっさに回避行動に入った一同の間を駆け抜け、周辺一帯のガジェットを次々に撃ち抜き、薙ぎ払う!
「な、何スか…………!?」
「AMF影響下で、これだけの攻撃を……!?」
 破壊されたガジェットの爆発で眼下が瞬く間に火の海となってゆくのを見下ろし、ウェンディとセッテがつぶやくと、
「すまないな――AMFはオレにとっても厄介でな」
 黒煙の中からの声が、そう二人に答えた。
「しかし……このオレ様の復活の狼煙にしては、これでも少しばかり派手さが足りなかったか?」
 声の主がそう告げて――同時、一陣の風がその場を吹き抜けた。黒煙を押し流し、その中にいた、1体のトランスフォーマーの姿を一同の目の前にさらし――
「――――――っ!?
 イクトさん!?」
「ゼスト、グランガイツ……!?」
 そのトランスフォーマーは、両手に血まみれになった二人の人間を捕まえていた――トランスフォーマーにえり首をつかまれ、力なくうつむいているイクトやゼストの姿に、フェイトやディエチが声を上げる。
 二人とも、全身に光弾を浴びたのか、戦闘服のあちこちが焼け焦げ、皮膚が重度の火傷によって炭化している部分すらある。ゼストに至ってはアギトとのユニゾンが解けていないのか、未だその髪は金髪のままだ。ユニゾンを解く間もなく、ユニゾンを“解く余力も残せずに”倒されたか――
「そんな……!?
 イクトさんが、あんなにやられるなんて……!?」
「ゼストって……確か、トーレ姉とも互角張れるくらい強かったよな……
 それを、あそこまで叩きつぶしたってのかよ……!?」
 どちらも、それぞれの相手の実力を知るからこそ信じられない――血まみれの二人の姿に、なのはやノーヴェは呆然とつぶやくが、
「…………アイツ……!?」
 別の事実に驚愕している者もいた。イクトやゼストを討ち倒したと思われるトランスフォーマーのその姿に、ボーンクラッシャーと対峙していたアリシアは驚愕し、目を見開いた。
「そんな……ウソだろ……!?」
「ブリッツクラッカー……?」
「ヤツは、まさか……!?」
「ビッグコンボイ?」
 見れば、驚いているのは彼女だけではない――声を絞り出すブリッツクラッカーやビッグコンボイに対し、ライドスペース内から晶が、ビッグコンボイのとなりではやてが声をかける。
「アリシアちゃん、あの人、知ってるの?」
「知ってるどころの騒ぎじゃないよ……!」
 尋ねるなのはにそう答えると、アリシアは上空に佇む、生物的なシルエットを持つ1体のトランスフォーマーをにらみつけた。
 かつて顔を合わせた時には漆黒に染め抜かれていたボディが白銀に変化している以外、外見的には“あの頃”のままだ――だが、そこから感じられるプレッシャーは格段にその強さを増している。
「なんたって……あたしは10年前、アイツがジュンイチさんに倒されたところを見てるんだから……!」
「ジュンイチさんが……!?」
 思わずはやてが声を上げ――
「オレにとっても、よく知った顔だ」
 そんな彼女のとなりで答えるのはビッグコンボイだ。
「何しろ……かつて、サイバトロン総司令官として戦っていた頃、幾度となくぶつかった相手だからな」
「あー、そうだったよね。
 ビッグコンボイは、あたし達とは別に会ってても不思議じゃなかったね」
 はやてに告げるビッグコンボイの言葉にうなずき、アリシアはそのトランスフォーマーに告げる。
「でも……やっとわかったよ。
 前に、ジェノスクリームが言ってたっけ。『ジュンイチさんは、自分達の主人の仇だ』って。
 “ジュンイチさんに倒されたトランスフォーマー”で、“ジュンイチさんとスバル達の関係を知ってるトランスフォーマー”……死んだとばっかり思ってたから対象から除外してたけど、当てはまるのはアンタ以外にはいなかったよね」
 言いながら、アリシアはロンギヌスをかまえ、
「まさか……ディセプティコンの大ボスがアンタだったとはね。
 あたし達を驚かせられて満足かしら? “元”破壊大帝――」

 

「ギガトロンさん?」

 

「『元』は余計だ。身の程知らずの小娘が」
 しかし、アリシアの皮肉に対しても、彼は――ギガトロンは動じることなく、不敵な笑みと共にそう答える。
「今のオレは、あの頃のオレではない。
 あの男の――柾木ジュンイチの手によって敗れたオレは、新たな力を得て、生まれ変わったのだ。
 そう、オレの名は――」

 

 

 

「真破壊大帝、マスターギガトロンだ!」


次回予告
 
はやて 「マスターギガトロン……!?
 アリシアちゃん、どんなヤツやったん?」
アリシア 「んっとね……
 ジュンイチさんにケンカ売って、まだ小さかったスバルとギンガをさらって、怒りを買ってブッ飛ばされた人」
はやて 「なるほど……
 まだ小さかったスバルとギンガを誘拐した……つまりロリコンってことやね?」
マスターギガトロン 「ちょっと待て!
 なんで『誘拐』にだけくいついて、どうしてそういう結論になる!?
 常識的に考えればもっといろいろあるだろ! たとえば営利誘拐とか!」
はやて 「マスターコンボイも10年前からなのはちゃん一筋やし……
 セイバートロン星の大帝の任命基準に、“ロリコンであること”とかあるんかね?」
マスターコンボイ 「オレまで巻き込むんじゃない!
 それと、そんな任命基準は存在しない!」
はやて 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第68話『支配者の領域〜マスターコンボイ月下に散る〜』に――」
4人 『ゴッド、オン!』
マスターコンボイ 「――って、ちょっと待て!
 何だ、この次回のサブタイトル! 死ぬのか!? オレ死ぬのか!?」

 

(初版:2009/07/11)