「………………え?」
 目の前の“それ”を見て、ディードは光刃を振り下ろしたそのままの姿勢で動きを止めた。
 意識を失い、横たわるティアナに向けて振り下ろされたその刃は、目標に届く前にその動きを“止められて”いた。
 突如ティアナと自分の間に出現したエネルギー壁が、自分の光刃を受け止めたのだ。
「これは……!?」
 つぶやくディードの声色には若干の驚愕の色が含まれていた。スバル以下六課フォワード陣とカイザーズをまとめて壊滅させた、自身の操るトランステクター“マグマトロン”の一撃を受け止めた防壁の強度、そして――
(AMFの中で、どうやって……?)
 一切の魔力の結合を阻み、精霊力や瘴魔力にも少なからず影響を与えるAMFの中で、これだけの強度の防壁を展開した、それ自体が異質だった。胸中でつぶやき、ディードはマグマトロンの“中”で眉をひそめ――防壁の向こうから声が聞こえた。
「“ゴウカ”」
〈Load cartridge!
 Boost Up, Full Power!〉

 何者かの声に電子的な音声が答え――同時、防壁の向こうからあふれ出した炎がまるで翼が羽ばたくかのように揺らめく。
 そして、やり取りは続く。
「“イカズチ”」
〈Burst Mode!〉
「――――――っ!」
 防壁の向こうに“誰か”がいて、“何か”をしている――半ば直感に従い、ディードは光刃を引き――
「……タイラント、スマッシャー!」
〈Fire!〉
 ディードが離脱するよりも速く閃光が放たれた。号令と共に解放された“力”の渦が防壁を“向こう側から”粉砕、ディードのゴッドオンしたマグマトロンを吹き飛ばす!
「な、何………………?」
 一体何が起きた――いや、“誰が助けてくれた”のか――自身の負傷による激痛も忘れ、スバルは呆然と声を上げ、
「今のは……?」
「とんでもねぇパワーだぞ、今の……!?」
 さらには、離れたところで戦っていた、ガリューを従えたルーテシアやバリケード――
「今の砲撃……AMFの中で……?」
「あのようなパワーの持ち主は、機動六課にはいなかったはず……」
「まさか、この期に及んで新メンバーがいたとか言うつもりか……!?」
 オットーやショックフリート、ブラックアウトもまた、突然ディードを――マグマトロンを吹き飛ばした一撃に驚き、動きを止める。
 そんな彼女の目の前で、砲撃によって巻き起こった土煙は徐々に晴れていき――
「…………遅くなってゴメンね、みんな」
 左腕に装着型の弓、背中には炎の翼――今まで使用してきた2基のデバイス、レッコウ、イスルギに加え、新たな装備を身につけたアスカがその姿を現した。

 

 


 

第69話

舞い降りる剣
〜“柾木一門”、怒りの大反撃!〜

 


 

 

「柾木……ジュンイチ、さん……!?」
「よっ♪」
 呆然と声を上げるなのはに対し、突如現れた乱入者――柾木ジュンイチはシュタッ、と手を挙げ、気軽にあいさつを返してきた。
「――――――ん?」
 だが――彼の興味はすぐになのはから外れた。彼から見てなのはのさらに向こう側――マスターギガトロンによって打ち倒され、意識を失い横たわるイクトに気づき、眉をひそめる。
「“力”の気配が消えたから、まさかとは思ってたけど……イクトのヤツ、また徹底的に叩かれてやがるな……
 それに……」
 つぶやき、ジュンイチは視線を動かしていき、ゼストやアリシア、ライカ、そしてはやて達を順に見回していく。
「オッサン……アリシア、ライカ……
 はやてや守護騎士のみんなまで……」
「へっ、仲間がやられちまってショックかよ?」
「言っとくけど、お前なんかが来たところで逆転できるとは思わねぇ方がいいぜ。
 マスターギガトロン様の能力者封じはカンペキだ。今のお前じゃ、オレ達にだって勝てるもんかよ」
 うめくジュンイチに対し、ブロウルやボーンクラッシャーが言い放つ――そんな中、ジュンイチは静かに彼らに向けて歩き出す。
「へっ、何だよ? やる気か?」
 ブロウルが告げるが、ジュンイチは歩みを止めない。そのまま彼らとの距離を詰めていく――そんなジュンイチの姿を、マスターギガトロンは一言も発することなく、注意深く観察している。
「今のオレ達の話が聞こえていなかったようだな。
 だったら身体でわからせてやるぜ!」
 だが、部下達はそんなマスターギガトロンの緊張には気づいていなかった。言い放ち、ボーンクラッシャーはジュンイチに向けて背中のクローアームを繰り出し――
「――――――なっ!?」
 次の瞬間、ジュンイチの姿はその場から消えていた。一瞬にして標的を見失い、ボーンクラッシャーは思わず声を上げ――
「…………シグナム」
 ジュンイチの姿は、身体を深々と斬り裂かれ、意識もないまま横たわるシグナムの前にあった。静かにしゃがみ込み、彼女の顔をのぞき込んで呼びかけるが、シグナムからの返事はない。
 そんな彼女の横顔に、ジュンイチは静かに自らの右手を触れさせ、
「……“情報体侵入能力データ・インベイション”、発動。
 守護騎士プログラム、メインフローにアクセス……」
 告げると同時、ジュンイチの右手に一瞬光が走り――まるでそれに呼応したかのように、シグナムの身体が一度だけピクリと反応する。
 そんなシグナムから手を放すと、ジュンイチは今度はヴィータの元へ。同じように彼女にも何らかの処置を施し、静かに立ち上がる。
「な、何を……?」
「二人の守護騎士プログラム“としての部分”に干渉した」
 思わず尋ねるはやてに、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「初代リインフォースから切り離されて10年――切り離された状態に適応しつつあるコイツらだけど、残念ながら未だに“プログラムである”っつー本質は変わってない。
 けど、それが今回は幸いした――コイツらのプログラムとしての部分を逆に利用して、コイツら専用の応急手当てを施したのさ。
 自我プログラムを一時的に休止させて、浮いた処理余力を自己治癒プログラムの稼動分にてる――これで、少なくとも命はつなげるはずだ」
 そう告げると、ジュンイチはきびすを返して再び歩き出した。先ほど攻撃をかわされた動きが見えなかったこともあり、今度こそ警戒しているブロウル達の間をあっさりと通り過ぎ、改めて倒れるなのはの前まで進み出る。
「…………高町なのは」
「は、はい…………?」
 真剣な表情で名を呼ぶジュンイチに、なのはは思わず声を震わせ――

 

 

「…………“初めまして”♪」

 

 ジュンイチは、なのはに向けて“笑顔で”頭を下げていた。

 

 

『………………は?』
「いやー、一度あいさつに来なきゃなー、とは思ってたんだよね。
 こんなに遅くなっちゃってゴメンねー♪」
 いきなり彼のまとう空気が一変し、意識のあった誰もが間の抜けた声を上げずにはいられなかった――だが、そんな周囲の困惑はまったく無視し、ジュンイチは本当に楽しそうになのはに告げる。
「日ごろ、ウチのスバル達がお世話になってるみたいで……迷惑とかかけてないかな? 大丈夫?
 ……あ、これ、つまらないものだけど」
「え、えっと……どうもごていねいに……
 ……って、そうじゃなくて!」
 しかも、どこから出したのか土産の品まで差し出してきた。あまりにも自然体で話を進めるその態度に流され、なのはも呆然としたまま、無事な右手で思わずその土産を受け取ってしまう。
「わ、わかってるんですか!?
 今、大変な時なのに……!」
「わかった上でやってますけど何か?」
「確信犯!?」
 あっさりと聞き返すジュンイチの言葉に、なのはは思わず声を上げ――
「てめぇ……
 オレ達無視して、何和気あいあいやってやがる!」
 そんなジュンイチのひょうひょうとした態度に腹を立てたブロウルが、ジュンイチやなのはに向けて殴りかかってくる!
「じ、ジュンイc――」
 そんなブロウルの姿に、なのはがジュンイチに向けて声を上げ――

 

 次の瞬間――
 

「まったく……」
 

 ジュンイチの身体は宙を舞っていた。

 

 なのはをしっかりと抱きかかえ――ブロウルの拳をかわして。

 

「こちとら大事なごあいさつの最中なんだ――」
 そして、ジュンイチはつぶやきながら空中で身をひるがえし――
「てめぇらのいらん手出しなんぞ……」

「後にせぇやボケがぁっ!」

 真上から打ち落とされた蹴りが、ブロウルを脳天から地中に叩き込む!
『………………え?』
 ひょうひょうとした態度から一瞬にして放たれた壮絶な一撃――顔面から地面に叩き込まれるブロウルの姿に、一同が思わず自らの目を疑う中、ジュンイチはなのはを抱きかかえたまま、倒れたブロウルの上に悠々と着地した。
「大丈夫?」
「え? あ、はい……」
 平然と尋ねるジュンイチに答え――そこでようやく、なのはは自分が“どんな体勢”にあるのかを理解した。
 背中を、両足を抱えられた、いわゆる“お姫様抱っこ”である。
「……あ…………ぅ……」
「………………?
 どした?」
 異性を相手にこの体勢は――なのはが思わず顔を赤くするが、対するジュンイチはそんな彼女の内心に気づかず、ただ首をかしげるのみだ。
 と、その時――
「てめぇ! よくもブロウルを!」
 目の前でブロウルを撃破されたボーンクラッシャーが、そんな二人に向けて襲いかかる!
「くらいさらせぇっ!」
 ボーンクラッシャーが、ジュンイチ達に向けてクローアームを繰り出し――
「しょうがないなー」
「え? ――ひゃあっ!?」
 対し、ジュンイチは迷うことなくなのはの身体を頭上に放り投げた。なのはが思わず声を上げる中、クローアームをかわしてボーンクラッシャーの懐に飛び込んでいく。
 すぐ目の前のクローアームの関節部に手にした木刀“紅夜叉丸”で一撃――その一撃だけでクローアームは打撃を受けた関節部からへし折られ、
「ゴメンな。
 なのは、キャッチャしなきゃならんから――さっさとブッ飛べぇっ!」
 その顔面に回し蹴りを叩き込み、ブッ飛ばす!
 そして、ジュンイチは元いた場所に――すなわちブロウルの背中の上に着地、落ちてきたなのはをを再び“お姫様だっこ”で受け止めた。
「まったく、どいつもこいつも無粋だねぇ。
 落ち着いて、ゆっくりあいさつもできやしねぇ」
 肩をすくめてつぶやきながら、ジュンイチはなのはを抱きかかえたままブロウルの上から飛び降りた。そのまま倒れているはやての元へと向かうとはやてのとなりになのはを下ろし、
「あ、そうそう……
 はやて」
「は、はいっ!?」
 突然声をかけられ、驚いたはやての肩が震える――そんな彼女に向けて、ジュンイチはゆっくりと手を伸ばす。
 “お遊びモード”の彼は身内にすら容赦しない。実際に以前“いろいろ”されただけに、思わずはやてはその身を縮こまらせ――

「よくがんばったな」

 言って、ジュンイチは彼女の頭をなでてやった。
「え…………?」
「対応が遅れてゴメンな。
 今回ばかりはオレも読みが甘かった――まさか、ディセプティコンの親玉があのギガトロンだとは、さすがに予測しきれなかった。
 ホント、能力封じまで喰らった中で、よく持ちこたえてくれたよ」
 あっさりと頭をなでられ、思わず呆けるはやてにそう告げると、ジュンイチは静かに立ち上がり、マスターギガトロンへと向き直る。
「改めて……久しぶり、かな? ギガトロン」
「こちらとしては、半ば予測していた再会だったがな」
 不敵な視線と共に告げるジュンイチに対し、マスターギガトロンは余裕の態度でそう答える。
「あの小娘どもがからんでいたんだ。必ず貴様も動いていると思っていたぞ。
 これも因縁か……どうやらオレと貴様は、再び戦う運命にあったようだな」
「ふーん」
「その程度の反応か……
 相変わらず、人をとことんバカにした男だな」
 告げるマスターギガトロンだが、ジュンイチのリアクションはとことん薄い――ため息をつくマスターギガトロンだったが、すぐに気を取り直して告げる。
「しかし、このフィールドの中でそんな大きな態度が取れるのか?
 今オレが展開している“支配者の領域ドミニオン・テリトリー”は、生命体の発するあらゆるエネルギーが吸収され、オレの力となる――そしてそれは、貴様らの精霊力でも変わらない。
 貴様がオレに対して攻撃すればするほど、オレはさらに力を使うことができるんだよ」
「………………」
「わかるか? 貴様らが能力者である限り、オレをいくら攻撃しようがエネルギーを補給させるだけ。オレを倒すことなどできんのだ。
 10年前は貴様に好き勝手を許したために敗北を喫したが……能力そのものを封じられては、いかに貴様とてどうしようもあるまい」
 ジュンイチの返事はない。気を良くしてマスターギガトロンはジュンイチに向けて続ける。
「さぁ、どうする?
 ムダとわかっている戦いを仕掛けて、今度こそその命を散らすか?
 それとも、かなわないからとさっさと降参でもするか?」
「だ、誰が降参なんかするんや!
 ジュンイチさんが、お前なんかに従うワケないやろ!」
「とっくにノされた負け犬は黙っていろ!」
 完全にジュンイチをバカにした物言いに思わず声を上げるはやてだが、そんな彼女にマスターギガトロンは鋭く言い放つ。
「小細工の末とは言え、一度はオレを殺したその力……私怨を除けば、オレは今でも高く評価している。オレに従えば、命だけは助けてやらないこともない。
 ……そうだ。さらに貴様だけじゃない、ここにいる貴様の仲間達の命も助けてやろう。
 どうだ? 勝ち目のない現状では、もっとも現実的でもっとも魅力的な提案だろう?」
 その言葉に、ジュンイチは静かに息をつき、マスターギガトロンに向けて歩き出す。
「じ、ジュンイチさん!?」
「まさか……私達を助けるために、降伏するつもりじゃ……!?」
 一言も発することなくマスターギガトロンの前へと進み出るジュンイチの姿にそんな懸念を抱き、なのはやフェイトが思わず声を上げる。
「そうだ。それでいい。
 貴様の力なら、ディセプティコンの中でもたちまちのし上がれることだろうよ」
 対し、自分に向けて歩いてくるジュンイチに対し、余裕の態度で告げるマスターギガトロン――しかし、彼の身につけたパワードデバイス、ネメシスから伸びる触手はその先端をジュンイチに向け、いつでも襲いかかれるようにスタンバイしている。ジュンイチが降伏するフリをして襲いかかってくることを警戒しているのだ。
 そんなマスターギガトロンのすぐ目の前に、ジュンイチは無言のまま進み出て――
 

 そのまま通り過ぎた。
 

『………………え?』
 本当に自然な動きで、ジュンイチは一切歩みを止めることなく、マスターギガトロンのとなりを通り過ぎたジュンイチの姿に、シカトされたマスターギガトロン当人だけでなく、なのは達からも一様に驚きの声が上がる。
 そんな彼らにかまわず、ジュンイチは目的の相手を前にして足を止めた。
 なのは達と同じようにマスターギガトロンに打ち倒され、ゴッドオンも解けてその場に横たわっていたノーヴェの目の前で。
「……な、何だよ?」
 先ほどまでの軽口がウソのように黙り込んでいるジュンイチに、ノーヴェは痛みに顔をしかめながらも気丈に声を上げ――
「…………よっ、と」
 ジュンイチはかまうことなくその場にかがみ込み、ノーヴェを“お姫様だっこ”で抱き上げた。
「な…………っ!?
 い、いきなり何すんだよ!?」
 突然抱き上げられ、ノーヴェは羞恥と怒りで顔を真っ赤にして声を上げる――が、ダメージが深くて抵抗できない。ぎゃあぎゃあと騒ぐノーヴェにかまわず、ジュンイチは彼女を別の場所で倒れているディエチの元へと向かい、彼女のとなりにノーヴェを下ろしてやる。
 そのまますぐにきびすを返すと、同様にウェンディ、セイン、セッテもディエチ達の元に集めると、ジュンイチは残るひとり、クアットロの前に立った。
「何よ?
 1ヶ所にまとめておいて、後で機動六課にまとめて逮捕させよう、ってハラかしら?」
「バラバラに転がっていられたらジャマなんだよ」
 やはりダメージが深くて動くことができず、軽口で精一杯の抵抗を示すクアットロにそう答えると、ジュンイチは彼女もディエチ達の元へと運ぶ――

 

 彼女の左足をつかんで引きずって。

 

「なんで私だけ扱いがひどいの!?」
「るせぇ、クソメガネ!
 8年前の大黒星、今でも根に持ってんだからな、オレは! 避難させてやるだけありがたいと思いやがれ!」
 運ばれ終えてからガバッ!と顔を上げ、ホコリまみれの顔で抗議するクアットロにジュンイチが言い返し――
「………………『避難』か」
 ポツリ、とつぶやいたのはマスターギガトロンだった。
「それは何のためだ?
 まさか、『オレと戦うのにジャマだから』などと、つまらん冗談を言うためではあるまいな?」
 尋ねるマスターギガトロンに、ジュンイチは答えない――面倒くさそうに頭をかきながら、ゆっくりと彼に向き直る。
「愚かだな。
 そうやってありもしない希望にすがって、せっかくの生き延びる道を自ら閉ざすか?
 素直にオレに従っていればいいものを……バカなヤツだ」
 告げられたその言葉に、ジュンイチは深々と息をつき――

「ふざけたことを……」

 頭をかいていた手を下ろし――
 

「ぬかしてんじゃ……」
 

 大きく身をそらし、思いきり息を吸い込んで――

 

「ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 渾身の咆哮が響き渡った。ダンッ!という轟音と共に一歩を踏み出し、マスターギガトロンをにらみつける。
「『運命』だ!? 『因縁』だぁ!?
 何も知らねぇで脇から首突っ込んでるだけのドサンピンの親玉の分際で、黙って聞いてりゃ好き勝手放題ほざいてくれやがって! バっカじゃねぇの!?
 『オレに従え』だぁ!? ふざけんな! てめぇらのためなんぞに使ってやる精霊力なんぞ粒子一粒分もありゃしねぇし、白星のひとつだってくれてやるいわれはねぇ!
 てめぇらはボコる! 壊す! へし折る! 蹴倒す! もひとつオマケに、踏みにじる!
 オレの身内に手ェ出すヤツぁ――」

 

「ひとり残らず、叩きつぶす!」

 

「…………予想通りの、交渉決裂か」
 ビシィッ!と自分を指さして言い放つジュンイチだったが、そんな彼の反応はすでに予想の範囲内だった。落ち着いた様子で、マスターギガトロンは肩をすくめて見せる。
「だが……その心意気もムダに終わる。
 貴様は結局、オレに勝つことなどできんのだ」
「確か10年前も、同じようなコト言ってオレに負けてなかったか?
 そこまで歴史を繰り返すつもりかよ? ムダに律儀だねぇ、お前って」
 今にも飛びかからんばかりに獰猛な笑みを浮かべて告げるジュンイチだったが、マスターギガトロンは余裕の態度を崩すことなく彼に聞き返す。
「だが、今回は10年前とは状況が違う。それは貴様もわかっているだろう?
 ここにディセプティコンが勢ぞろいしていない――貴様ならばその意味にも気づいているはずだがな」
「そ、そうだ……!
 ジュンイチさん! 他の場所にも敵が!
 それで、スバル達が、対応に向かって……!」
 マスターギガトロンのその言葉に、スバル達が六課に戻ったことを思い出したなのはは思わずジュンイチに向けて叫ぶが、
「だろうね」
 対し、ジュンイチは先ほどまで見せていた怒りをあっさりと引っ込め、これまたあっさりとそう答えた。
「だ、『だろうね』って……!
 わかっとるの!? スバル達が危ないんよ!」
《それなのに、何落ち着いてるですか!》
 そんなジュンイチの落ち着いた態度に、さらに言葉を重ねるはやてとリインだったが――
「心配いらねぇよ」
 しかし、ジュンイチはあくまで落ち着いた様子でそう答えた。
「アイツらなら心配いらない――」
 

「“みんな”が、いるからな」

 

 陸士108部隊本部――

「く、くそ……っ!」
 打ちつけた肩を押さえ、ゲンヤはヨロヨロと身を起こし――すでに崩壊した後の防衛ラインを見渡した。
 突如襲撃してきたジェノスラッシャー、ジェノスクリームを相手には善戦していたゲンヤ達だったが、二人の合体したグランジェノサイダーによって均衡は破られ、さらに瘴魔軍のリュムナデス隊の乱入により、完全に押し切られてしまった。バリケードは崩され、隊員達は押し寄せる瘴魔獣達によって次々に打ち倒されていく。
 敵の一番の主力であるグランジェノサイダーとリュムナデスが互いにぶつかり合い、こちらに向かってこないのが不幸中の幸い――しかし、その“不幸中の幸い”の状況ですら、ゲンヤ達は絶体絶命の危機に立たされていた。
 と――そんな彼の前に、1体のビルボネックが立ちはだかった。ゆっくりと、彼に向けて拳を振り上げる。
「くそっ、ここまでか……!」
 うめくゲンヤに対し、ビルボネックは思い切り拳を振り下ろし――

「グギャァッ!?」

 吹っ飛んだのはビルボネックの方だ――たった一撃で甲羅を粉砕され、きりもみ回転しながら“車田落ち”で落下。その衝撃で首の骨も折れ、完全に沈黙する。
 そして――
「助けたついでに、肩もお貸ししましょうか? パパ上様?」
 動けないゲンヤの前に降り立ち、右腕に装着型の大型ブレードを装備したイレインは悠々とそう声をかけてきた。
「い、イレイン……!?」
「危ないところだったわねー。
 ジュンイチがこの展開を読んでてくれて助かったわ」
 驚くゲンヤにイレインが答えると、そんな彼女に向けて別個体のビルボネックやピラセイバーが襲いかかり――
「はい、やっちゃえ♪」
 そうイレインが告げると同時――上空からの砲撃が、イレインに迫った瘴魔獣達を薙ぎ払う。
 イレインの頭上で光学迷彩を解除し、姿を見せたのはジュンイチ達が移動拠点として使っていた次元航行艇で――
〈おめがすぷりーむ、とらんすふぉーむ!〉
 咆哮と共に次元航行艇がロボットモードへとトランスフォーム。大型トランスフォーマー、オメガスプリームとなって戦場に降り立った。
 

「何だ? ずいぶんデカイのが出てきやがったな……」
 そんなオメガスプリームの登場には、当然108部隊の隊舎前で戦っていた彼らも気づいていた。眉をひそめ、グランジェノサイダーがつぶやき――
「よそ見をしているヒマがあるのか!?」
「ちぃっ!」
 そこへリュムナデスが飛び込んできた。腕の鎧のヒレ状の装飾から伸びた光刃で斬りつけてくるリュムナデスに対し、グランジェノサイダーは腕の装甲でその斬撃を受け止める。
「チョコマカチョコマカ、チクチクチクチクとうっとうしい!
 もうちっとハデな技はないのかよ!? みみっちくてイライラするぜ!」
「悪いな、改めるつもりはない。
 貴様をイラつかせることができているなら、精神的にも優位に立てるというものだからな」
 うめくグランジェノサイダーに答え、リュムナデスは再び光刃をかまえた。地を蹴る彼に対し、グランジェノサイダーも迎撃に動き――

「デアボリック、エミッション」

 突如として周囲を“満たした”漆黒の魔力が、二人を思い切り打ちすえる!
「な…………っ!?」
「こ、これは……!?」
 突然の不意打ちで大地に叩きつけられ、グランジェノサイダーとリュムナデスがそれぞれにうめき――
「『卑怯』などと言うなよ。
 戦闘の場で、目の前の敵にしか注意を向けていなかった貴様らの油断が原因と知れ」
 そう告げて――スカイクェイクはアルテミスを伴い、彼らの前に降り立った。

 

 時空管理局・本局――

「やっちゃえ! ベロちゃんズ!」
「させるか!」
「なめんなやぁっ!」
 セイレーンの指示で、彼女の連れた瘴魔獣、ベロクロニア達の一部が一斉に生体ミサイルを発射――対し、ノイズメイズやランページもまた、自身や配下のシャークトロン達の火器を総動員して飛来するミサイルを叩き落とす。
「今度はこっちの番だ!」
「死にさらせやぁっ!」
 今度はノイズメイズ達の番――彼らの指示でビームを斉射したシャークトロン達の攻撃がセイレーン達に迫るが、
「なんの!
 ベロちゃんズバリヤー!」
 セイレーンの号令でベロクロニア達は彼女の前面に集結。それぞれの力場を重ね合わせ、より強力な防壁に変えてシャークトロンの斉射を受け止める。
「くそっ、厄介なモンだな、てめぇらのその力場ってヤツはよぉ!」
「ふふんっ! 悔しかったら精霊力でも瘴魔力でも使ってみろー♪」
 こちらの攻撃を受け止められ、歯噛みするノイズメイズにセイレーンが答え――

「そこまでだ!」

 放たれた言葉と同時――周囲の空間が一斉に揺らいだ。
 その中から現れたのは、限定的に展開して結界で気配を隠ぺいしていた本局武装隊の魔導師達だ。迷彩を解除し、一斉にデバイスをノイズメイズ達やセイレーン達に向ける。
 そして――
「全員武装を解除しろ。
 本局に対するテロ行為と局員への傷害容疑で、全員逮捕させてもらう」
 魔導師達の前に進み出たクロノが、愛用のデバイス、S2Uとデュランダルを手に二組の敵対者達と対峙した。
 

 一方、本局の外では――
「あらかた片づいたか……」
「そのようだな!」
 つぶやくサウンドウェーブに相変わらずの大声で答え、サウンドブラスターは間合いの中に残っていた最後の砲台をブラスターガンで破壊する。
「中に入ったノイズメイズ達からの連絡がない。
 どうやら中で戦闘中のようだ――援護に向かうぞ」
「あぁ!」
 サウンドウェーブの言葉にサウンドブラスターがうなずき――
「――――――っ!
 待て、サウンドブラスター!」
 気づいたサウンドウェーブがサウンドブラスターを引き留め――今まさにサウンドブラスターが踏み出そうとしていた場所を上空からの雷光が薙ぎ払う!
 そして――
「残念ながら……貴様らは本局には出入り禁止でな」
 その言葉と共に、雷光を放った張本人はサウンドウェーブ達の前に降り立った。
「まったく……よくもまぁ、ここまで壊してくれたな。
 修理にはウチからも人手が持っていかれるんだ。かんべんしてくれ」
 周囲の破壊された砲台の残骸を見回し、そうつぶやいて――
「………………そうだな。
 壊した貴様らに、直接責任を取って直してもらうのも、悪くはないかもな」
 サウンドウェーブ達に告げて――ザラックコンボイは手にした槍型デバイス、ブリューナクをかまえた。

 

 ベルカ自治領、聖王教会――

「さて……これで、最後だ」
 言って――ドランクロンは、自分の手の中の、ついさっきまでピラセイバーだった肉塊をスキュラの前に放り出した。
「オレ達を甘く見ていたみたいだな」
「これで貴様は丸裸――たったひとりで、オレ達3人を相手にするつもりか?」
「気にすんなよ。
 ちょうどいいハンデだ」
 ドランクロンの左右で告げるラートラータやエルファオルファの言葉に、スキュラは笑みを浮かべてそう答え――

「3対1ではない」

 上空からの声がそう告げた。
「正確には3対1対1だ」
 そう続けると、声の主は静かにドランクロン達とスキュラ、双方の間に降り立った。周囲を――瘴魔獣によっていたぶられ、苦悶の声を上げる人々を見回し、
「……やはり、先ほどから感じ取っていた耳障りな思念の出所はここだったか……
 まったく、余計なことをしてくれる」
 言って、彼は――ブレインジャッカーはドランクロン達に、そしてスキュラにも言い放った。
「この状況……」

「貴様らを倒せば、この思念は止むと結論づけていいのか?」

 

 機動六課、本部隊舎――

「ディード……!?」
 自分達の有するトランステクターの中でも最高の戦闘能力を誇るマグマトロンが、ただ一発の砲撃で吹き飛ばされた――その一撃を放ったアスカの姿に、オットーは警戒もあらわに声を上げた。
「新装備か……
 油断しない方がいいかもね……」
 マグマトロンがあればディードひとりでも大丈夫だろうが、相手の戦力を把握しきれていない内は油断は禁物だ。姉妹の救援に向かおうと、オットーはディードの元へと飛翔し――
「どこを見ている!」
「お前の相手はオレ達だろうが!」
 そんな彼女のゴッドオンしたクラウドウェーブに向け、ブラックアウトとショックフリートが襲いかかった。ディードに気を取られたオットーに向け、一斉にエネルギーミサイルを撃ち放つ!
「――――――っ!?」
 ディードを気遣うあまりに反応が遅れた。防御も回避も間に合わず、息を呑むオットーへとエネルギーミサイルが殺到し――

 そのすべてが撃ち砕かれた。

「何だ!?」
「ヤツらの援軍か!?」
 完璧に捉えたと思った自分達のエネルギーミサイルが、突如上空から降り注いだビームによって一掃されたのだ。驚愕し、周囲を警戒するブラックアウトだったが、
「だ、誰が……!?」
 助けられたはずのオットーもまた、事態を呑み込めてはいなかった。
 ディードは目の前。ウーノは六課隊舎。トーレとチンクはマキシマスの中。ルーテシアとガリューはすぐ真下で戦っており、“真上から”エネルギーミサイルを迎撃することは物理的に不可能――この場に参戦した自分達の戦力で、今この瞬間に自分を助けられる者などいはしなかったからだ。
 と――
「悪いが、無益なつぶし合いはそこまでにしてもらおうか」
 上空からブラックアウト達、そしてオットーにもそう告げ、オットーを助けた張本人は3人の前に降り立った。
「戦略的に見れば、漁夫の利を狙うのが正しいのだろうが――貴様らが罪人である以上、こちらとしては3人とも捕えなければならん。
 無闇につぶし合いを黙認し、万一誰かが死ぬようなことがあっては元も子もない」
「き、貴様……!?」
「どうして、貴様がここに……!?」
 告げるその言葉に、ブラックアウトとショックフリートが驚愕の声を上げ、
「その問いに……答える必要があるのか?」
 そんな彼らに、乱入者は淡々とそう聞き返した。
「オレ“達”と貴様らの関係を考えれば、理由など考えるまでもない」
 淡々と告げ、一歩を踏み出し、ブラックアウトらに告げる――その姿を前に、オットーは絞り出すように乱入者の名を口にした。
「…………まさか……!」
 

「……スター、スクリーム……!?」

 

 ギィンッ!と甲高い音が響き、次いで轟音――ガスケットに向けて振り下ろされたはずの一撃を弾いた“何か”は、向かい側の壁に巨大な斬撃の痕を刻んでいた。
「何だ……!?」
「援軍か……!?」
 いきなりの一撃に対し、ガスケットにとどめを刺そうとしていたトーレやチンクが警戒の色を強める――二人のゴッドオンしたマスタングが、ブラッドサッカーが一旦後退し、周囲を探る。
「な、何が……!?」
 一方、事態がつかめていないのは難を逃れたガスケットも同じだった。後退したトーレ達と壁に刻まれた斬撃の痕、双方を交互に見ながらつぶやいて――
「…………ったく、何してやがるかねぇ」
 そんなガスケットに告げ、彼は通路の奥からゆっくりと姿を現した。
「ぜんぜん一方的じゃねぇか。
 ンな戦いやってて楽しいのかよ? お前ら」
 言いながら、ガスケットの前に進み出ると、手にしていた身の丈ほどの大剣を肩に担ぐ。
「でもよ――」
 と、そこで彼は一度だけガスケットを一瞥し、
「何度ブッ飛ばされてもくらいつく――コイツみたいなヤツは嫌いじゃねぇ」
 言って――ブレードはトーレ達に対し獰猛な笑みを浮かべた。
 

「あ、アスカ、さん……!?」
「ん。お待たせ♪」
 絶体絶命の状況の中、現れたのはフォワードメンバー最後のひとり。倒れたまま声を上げるスバルに応えると、アスカは「もう大丈夫だから」と安心させるかのように微笑んで――
「………………あなたでしたか」
 ゆっくりと身を起したのはマグマトロン――ディードだ。先の砲撃のダメージなどみじんも感じさせず、淀みのない動作で立ち上がる。
「……やっぱり、効いてないか……」
「当然です」
 しかし、アスカはディードが立ち上がってもさして驚く様子はなかった。平然とつぶやく彼女に、ディードは迷わず即答する。
「姿がないので、おかしいとは思っていましたが……やはり現れましたか」
「ちょっと遅刻しちゃってね」
 告げるディードにアスカは平然とそう答えるが――
「しかし、ちょうどよかった。
 あなたには、“聞きたいこと”がありましたので」
「…………へ?」
 後に続いた言葉はさすがに予想外だった。思わず目を丸くするアスカに対し、ディードは静かに尋ねた。
「一番上の姉が不思議がっていました……」

 

「あなたは……誰ですか?」

 

「だ、誰、って……?」
 一体何を言い出すのか――ディードの質問の意図がわからず、スバルは思わずアスカへと視線を向けた。
「いきなり何?
 あたしはあたし。他の誰でもない――」
「アスカ・アサギ。
 クラナガン大学、考古学研究室所属。
 5年前に大学に入学し、卒業後も研究員として研究室に在籍……」
 同様に首をかしげ、告げるアスカだったが、そんな彼女に対し、ディードはスラスラと彼女のプロフィールを述べていく。
「クラナガンでの戸籍も、大学の登録書類も正規のもので、不審な点は何ひとつとしてありませんでした。
 …………“ミッドチルダでの経歴は”」
「………………っ」
 そのディードの言葉に、アスカはわずかに動きを止めた。
「しかし、それ以前――ミッドチルダに移住する前の、あなたの出身世界である第108管理外世界での経歴が、いくら探しても出てきません。
 いえ……正確には、戸籍や、あちらの世界での住民票などはちゃんと存在していました。しかし、それらのデータはすべて、追跡調査の結果架空のものだとわかりました。
 まるで、“アスカ・アサギ”という存在すべてが仮初のものであるかのように……」
 そう続け――ディードは改めて尋ねた。
「もう一度聞きます。
 あなたは……何者ですか?」
「あ、アスカさん……!?」
 ディードの言葉が事実なら、アスカは――不安げにアスカに視線を向けるスバルだったが、
「……そっか。
 そこまで突っ込んで調べてたんだ……」
 そんなスバルの心配をよそに、アスカは深々とため息をついた。
「大学とか管理局とかは、書類がきちんとそろってただけであっさり信じてくれたからなぁ……ちょっと油断してたかな?
 それとも、『さすがはスカリエッティ』ってほめた方がいい?」
「お好きな方で」
「あ、アスカさん!?」
 あっさりと言葉を交わす二人のやり取りに、スバルは思わず声を上げた。
「どういうことなんですか!?
 説明してください!」
「そうがっつかないの。
 こんな、みんなの目の前でバラされちゃったんだもん。ちゃんと説明してあげるよ」
 アスカに対し問いかけるスバルだったが、アスカは気にすることもなくあっさりとそう答える。
「まぁ……安心していいよ。別に敵のスパイとかじゃないから。
 ……あ、でもでも、“敵の”じゃなくて“味方の”って意味じゃ、スパイって言えないこともないのか……」
 そう告げると、アスカは自らの顔に手を伸ばした。かけていたメガネをゆっくりと外し――
「――――――っ!?」
 スバルは驚愕し、目を見開いていた。
 アスカがメガネを外したとたん、彼女の“見え方”が変わった。
 目の前の彼女に対する認識が変化していく。まるで、パズルが別の形に組み変わるかのように――
 そうして明らかとなったアスカの“正体”――呆然と、スバルはつぶやいた。

「…………あず、姉……!?」

「そゆこと♪」
 驚くスバルにそう答え――柾木あずさは悠々とレッコウを肩に担いでみせた。
 

「『みんながいる』か……
 仲間を差し向けた、ということか?」
「全員が全員、ってワケじゃねぇよ。
 オレがミッションプランを送ったのはあずさとイレイン達ぐらいだよ――スカイクェイクにも『今回は自分の判断で動け』ぐらいにしか言ってないし」
 尋ねるマスターマグマトロンだが、ジュンイチはあっさりとそれを否定した。
「ただ……高町なのはの周りは、どうしようもなくお人よしなヤツらばっかりだからな。事態が動けば首を突っ込んでくるのは簡単に読める。
 後手に回ったとしても――事態に気づいてから動き出したとしても、そろそろ向かった先の現場に到着してる頃じゃないかな?
 つまり――心配する必要はナッシング。残念だったなー、目論見が外れたみたいだぜ」
 マスターギガトロンに告げ、ジュンイチは“紅夜叉丸”を肩に担ぎ、マスターギガトロンへと告げる。
「そんなワケで……オレは心置きなくお前をブッ飛ばせるワケだ。
 てめぇの自慢の部下があちこちでボコられてくこと確定なんだし……」
 言いながら、ジュンイチは右の縦拳を突き出し、親指を立てた。マスターギガトロンに対しサムズアップしてみせて――

「てめぇも仲良くボコられやがれ」

 その拳の向きを反転。親指をまっすぐ真下に突き下げた。

 

 マキシマスの甲板上、内側から爆発が巻き起こり、その中からトーレのマスタングが、チンクのブラッドサッカーが飛び出してくる――そんな彼女達を追って、ブレードもまた、マキシマスの甲板上に降り立った。
「おいおい、オレを見るなり逃げの一手かよ?
 ずいぶんとビビってねぇか?」
「我々にとっても傷つけたくない相手が、あの場にいたのでな。
 ディエチから、以前の貴様の戦いのデータは見せてもらった――あの時のような無茶苦茶な戦い方を、あの場でしてもらうワケにはいかない」
 構図的には“逃げるトーレ達”と“追うブレード”――いきなり離脱を図った相手に対して告げるプレートだったが、対するトーレも挑発に乗ることなくそう答える。
「だが、それももう終わりだ。
 私もチンクも、こうした開けた場所の方が本領を発揮できる――貴様に勝機はないと思え」
「なるほどねぇ……
 てめぇらの獲物を巻き込まないと同時、自分達に有利なフィールドで戦えるように誘い出したってワケか」
 告げるトーレの言葉に、ブレードは笑みを浮かべてそうつぶやき――
「けどよ……残念だったな。
 場所を移した方が都合がよかったのは、こっちも同じなんだよ」
 そう告げると、ブレードは肩に担いでいた斬天刀をかまえ、トーレ達に向けて告げた。
「お互い都合のいい場所に出てきたところで……改めて始めようじゃねぇか!
 オレとてめぇら――真っ向勝負の大ゲンカころしあいをよぉ!」
 

「あ、あず姉、なの……!?」
「うん。そうだよ。
 今まで黙っててゴメンね」
 明らかとなったアスカの“正体”は自分の“姉”のひとり――呆然とつぶやくスバルに歩み寄り、アスカ・アサギ改め柾木あずさはそう答えてスバルの頬を撫でてやる。
「あたしとしては、さっさと正体バラしてもよかったんだけど……そうすると、いろいろややこしいことになるってお兄ちゃんも言ってたし」
「『お兄ちゃん』……柾木ジュンイチですか」
 スバルに告げるあずさに答えたのはディードだった。
「つまり……あなたが正体を隠して機動六課に潜入したのは、柾木ジュンイチの指示ということでいいのですか?」
「まぁ……そういうこと」
 ディードに答え、アスカはスバルをかばうようにディードと対峙し、
「あたしがお兄ちゃんから言われたのは、“スバル達を影から護衛すること”――
 ホントならお兄ちゃんが直接護衛につきたかったみたいなんだけどね……お兄ちゃん自身が“8年前”にそっちと思いっきりバトったせいで、要注意人物としてガッチリとマークされてる可能性があった。
 そんなお兄ちゃんが直接表に出てきたら、そっちだってハナからマヂモード突入でしょ? 自分が出ていってヘタに気合を入れられるより、六課とはぜんぜん別方向からそっちにちょっかい出した方が、キミ達の目を六課に集中させずにすむ――そうした方がスバル達の危険が少ないってコトで、お兄ちゃんは自ら遊撃に回ることにしたんだよ。
 そして、スバル達の護衛には、あたしを自分の代わりに六課に潜り込ませたの――お兄ちゃんと個人的に付き合いのあった、レティ提督のコネでね」
「で、でも……あたし、ぜんぜんわからなかった……!
 アスカさんがあず姉だって、ちっとも……!」
「仕方ないよ。
 “コレ”の仕掛けが特別なんだから」
 そんなあずさに告げるのは、半年近くも共にいながら正体にまったく気づかなかったスバル――答えて、あずさは先ほど外したメガネを指先でもてあそんでみせる。
「これ、見た目は度も入ってないただの伊達メガネなんだけどね……ひとつだけ、ある術式を組み込んであるの。
 その効果は“暗示”――このメガネをかけた人間、仮に“Aさん”とするけど、そのAさんを見る人に対して、たったひとつ、ある暗示をかけることができるの。
 『自分が見ているのはAさん“ではない”』っていう暗示を、ね。
 その暗示によって、このメガネをかけたあたしを見た相手の頭からは“目の前にいるのは柾木あずさだ”って認識がスッポリと欠けることになる――その結果、あらかじめ用意してあった“アスカ・アサギ”としての素性を疑うことなく信じてしまうことになるんだよ」
「それで、あたしも、ギン姉も……八神部隊長達もあず姉だって気づかなかったんだ……」
「そういうこと」
 言って、あずさは自分の手の中のメガネに視線を落とし、
「ただ見た相手を、見たそのままの存在じゃない、って思わせるだけ――“ただそれだけ”だけど、“ただそれだけ”だからこそ、その暗示は強力だよ。あまりに強力すぎて、映像越しでも、写真でも効果が現れるくらいにね。
 この暗示の効果から逃れられるのは、メガネをかけたあたしが柾木あずさだってことを元々知っている人と、土台である“あたしが柾木あずさだ”って認識を持たない人――つまり、“柾木あずさ”って人物のことを知らない人。
 たとえばキャロちゃん。部屋が同じなんだもん、当然あたしの素顔を知ってる――でも、メガネをかけたあたしを見て何とも不思議がってなかったでしょ?」
「そういえば……」
「だから、気づかなくてもスバルは気にすることなんてない。
 “あたし”が“あたし”だって認識を根本から否定させるから、柾木あずさとしてのあたしを知っていれば知っているほど惑わされる……スバル達が気づかなかったのは、それだけあたしのことを知ってるってことだから」
 つぶやくスバルに答えると、あずさはディードへと向き直り、
「そういうことだけど……理解できた?」
「問題ありません。
 私達にとって重要なのは、あなたの正体があの柾木ジュンイチの妹だった、ということだけです」
 尋ねるあずさに対し、ディードは淡々とそう答え――
「じゃあ、納得してもらえたところで、あたしからも質問、いいかな?」
 と、今度はあずさがディードにそう尋ねていた。
「何でしょうか?
 我々の目的でしたら――」
「あー、そんなのはどうでもいいよ」
 答えかけるディードだったが、あずさはあっさりとそう言い放った。視線を落とし、右手に握られたレッコウに呼びかける。
「…………レッコウ」
〈Elment-Install!
 “Mach”!〉

『――――――っ!?』
 その瞬間、あずさの姿が一同の視界から消えた。
 次にディード達が気づいた時には、すでにあずさはマキシマスの一角――打ち倒されたヴァイスの元へ降り立っていた。
「な………………っ!?」
「いつの間に……!?」
(速い…………!?
 AMFの中でも発動したということは、効果付与による加速じゃない――身体強化による物理的な加速か……?)
 いつの間にか自分達の頭上に降り立ったあずさの姿に、マキシマスの目の前で戦っていた二人――バリケードはもちろん、いつもは物静かなルーテシアさえも驚きの声を上げる――その一方でディードが冷静に分析している中、あずさはヴァイスのケガの具合を確認。命に別状はなかったのか、安堵の息をついて立ち上がった。
 軽々と跳躍し、マキシマスの外壁から跳び下りると、あずさはバリケードやルーテシア達を前にしてピッ、と人さし指を立てて尋ねた。
あの子ディードだけじゃなくて、キミ達にも聞きたいんだけど……
 ……ヴァイスくんやったの、誰?」
「オレだよ」
 そう言って歩み出てきたのはバリケードだ。背中に装備したヘカトンケイルの巨腕や周囲を漂うフライングフィストを、あずさに対し威嚇するように見せつけ、
「だが、それも当然だな。
 なんたって、そいつはオレの鼻先に狙撃なんぞ――」
 

 その瞬間――

 

 

 一瞬にして間合いを詰めたあずさのレッコウが、バリケードの顔面に叩きつけられていた。

 

 

 無造作に、しかし強烈な勢いで叩きつけられた一撃に、たまらずバリケードのヒザが崩れ――しかし、彼の身体が倒れることはなかった。それよりも早く、あずさのバインドが彼の身体をからめ取り、立ったままの姿勢でその場に留める。
 そして、再度一撃を叩き込む――バリケードの顔面を横向きに振るったレッコウがはり飛ばし、さらに返す刃でもう一撃お見舞い。そのまま同じことを繰り返し、バリケードに打撃を叩き込み続ける。
 右へ、左へ――しばし規則的なリズムで轟音を響かせた後、あずさはレッコウを振る手を止め――同時、あずさのバインドが解除され、バリケードはその場にヒザをついた。
「…………鼻が、どうしたって?」
「……は……な、が……!?」
 あずさの言葉に答えることもできず、そううめくバリケードの顔面は、鼻の部分が完全に叩きつぶされていた。「鼻がどうの」と言い放ったバリケードに対する、あずさによる最大級の“お返し”である。
 そして――
「当分スギ花粉吸わなくて済む礼ならいらないよ」
 言い放ち――あずさはトドメとばかりにバリケードの顔面にレッコウを叩きつけた。意識を完全に刈り取られ、バリケードは今度こそその場に崩れ落ちた。同時、ヘカトンケイルの一部であるフライングフィストの群れも力を失い、ボタボタと地面に落下する。
 そんなバリケードを冷たく一瞥した後、あずさはレッコウを肩に担いでルーテシアやディード、オットー、ブラックアウト達――敵対者達を一様に見渡し、告げる。
「スバル達といい、ヴァイスくんといい……キミ達、ちょっとやりすぎたみたいだね。
 だから……」

 

「少し……頭、冷やそうか」

 

 

「『仲良くボコられろ』か……
 なんともイヤな連帯責任もあったものだな」
「連帯責任なんてたいていヤなもんだろ。
 言い方きれいにしてごまかしてるだけで、ぶっちゃけ周りのヤツらを人質にして言うこと聞かせてるだけじゃんか」
 ジュンイチの放った『部下と一緒にボコられろ』宣言――苦笑し、軽口を叩くマスターギガトロンに対し、ジュンイチもまた不敵な笑みと共に軽口を返す。
「っつーワケで、とっととかかってきて、甘んじてその“連帯責任”を受け入れやがれ。
 何なら、とうの昔に瞬殺くらったてめぇの部下2名と同じ目にあわしたろかコラ」
「『瞬殺』ねぇ……」
 凄みの効いた視線と声色で告げるが――マスターギガトロンはそんなジュンイチを前にわざとらしく肩をすくめ、
「貴様、アイツらがあの程度で沈むと、本気で思っているのか?」
 その言葉が放たれた、次の瞬間――
 

 ジュンイチ“のいた場所”には、ブロウルの拳とボーンクラッシャーの踏みつけが撃ち込まれていた。
 

「…………ありゃ、まだ起きてた?」
 しかし、ジュンイチには当たらない――難なく二人の攻撃をかわし、少し離れたところで二人の姿を確認して声を上げる。
「当たり前だ……
 こちとらマスターギガトロン様の下に集った、最強集団ディセプティコンだぜ!」
「お前ごときに、やられてたまるか!」
 そんなジュンイチに言い返し――完全にムキになり、怒りで目の据わったブロウルとボーンクラッシャーはそれを取り出した。
 車輪と、サソリを模したエンブレムだ。頭上に掲げて――叫ぶ。

「ひきつぶせ――“チャリオッツ”!」

「ぶち殺せ――“アンタレス”!」

 その瞬間――彼らの背後にそれは姿を現した。
 馬の代わりにバイクに引かれた騎馬戦車と、巨大なサソリ――それらは出現してすぐに分離、ブロウルの、ボーンクラッシャーの全身に装着されていく。
 合体を完了すると、バイクの変形した巨大砲を右肩に装備したバリケードと両肩に巨大ハサミ、背中に巨大なクローテールを装備したボーンクラッシャーはジュンイチへと向き直った。
「どうだ? 初めて見る、ディセプティコンのデバイス発動は?」
「………………」
「ビビって声も出ねぇか?
 威勢よく出てきておいて、そんなもんかよ! あぁ!?」
 告げるブロウルだが、ジュンイチは答えない――そんな彼の態度に、ボーンクラッシャーがさらに声を上げる。
「てめぇなんぞ、マスターギガトロン様が相手をするまでもない!
 このオレ達が、一瞬でミンチにしてやるぞ!」
 告げると同時、ブロウルはバックステップでジュンイチから距離をとった。右肩のキャノン砲をかまえ――ジュンイチに向けて鋼鉄の砲弾を撃ち放つ!
《実体弾!?》
「ジュンイチさん!」
 実体を持つ砲弾は、“支配者の領域ドミニオン・テリトリー”の中でもその力を失うことなくジュンイチへと襲いかかっていく。思わずプリムラやなのはが声を上げ――

「そこに転がってるクソ砲手の砲撃より断然チャチい」

 そう告げて――ジュンイチは砲弾を“左手一本で”“無造作に”弾き飛ばした。いともたやすく軌道を変えられた砲弾はジュンイチから見て左後方へと飛び去って行き――空の彼方で爆発を起こし、夜空をこうこうと照らし出す。
「な…………っ!?」
「ウソだろ!?」
 あまりにも予想外の反撃に、ブロウルとボーンクラッシャーが声を上げ――
「そちらさんがヘタレなだけじゃ」
 告げると同時――すでに間合いを詰めていたジュンイチは迷うことなく“紅夜叉丸”を振り下ろした。強烈な一撃がブロウルの脳天をとらえ、地面に叩きつける!
「弾速がトロい、狙いも甘い、発射のタイミングもダメダメ――挙句に砲弾ただ撃ち出しただけかよ。弾に回転かけるだけでも威力は上がるし、少なくともあんな無様に弾かれることぁなかったんだぞ。
 まったく、火力にしか頼ってねぇじゃねぇか――デバイス使ったからって調子に乗ってないか?
 辞書で『砲撃』って引いて、その意味10回ほど書き取りしてから出直して来い」
 まるで説教でもするかのようにそう告げるジュンイチの目の前で、先の一撃で舞い上がった土煙は徐々に晴れていき――
「…………なるほど。
 それでも、重装備になっただけのことはありやがったワケか」
 姿を現したブロウルの姿にうんうんとうなずいて――

「重くなってるから、さっきよりもよく埋まる」

 上半身を丸ごと地面にうずめたブロウルの姿に、 ジュンイチは不敵な笑みを浮かべてそう告げた。
「て、てめぇ!
 よくもブロウルを!」
 一方、ボーンクラッシャーはそんなジュンイチに対し明らかな怯えを見せていた。バックステップで距離をとり、油断なくジュンイチをにらみつける。
「何なんだ、てめぇ……!
 オレ達は最強のディセプティコンだ! 今の管理局の地上部隊じゃ最強の戦力を集めてる、機動六課のヤツらにだって簡単には負けねぇんだ!
 そのオレ達が、マスターギガトロン様に作っていただいた最高のデバイスまで使って……なんで能力ひとつ使ってねぇてめぇn――」

「うっさい」

 次の瞬間――認めがたい現実を前にわめき散らすボーンクラッシャーの腹に、ジュンイチのヒジが打ち込まれていた。
「『簡単には負けねぇ』って、要は最後にゃ負けてるってことだろうが。
 あんまり自慢にならねぇぞ、それ」
「て、てめぇ……!」
 装甲を豪快にへこませたヒジを引き、ジュンイチは静かに告げる――人間で言うみぞおちを痛打され、ボーンクラッシャーはたまらず腹を抱えて数歩後ずさり――
「……ぅ、おぉぉぉぉぉっ!」
 それでも、ジュンイチに向けて懸命の反撃に出た。両肩のハサミが、背中の尾に備えられた鋭い針が一斉にジュンイチを狙い――
「顔面ガラ空き」
 ジュンイチは迷わず踏み込んだ。ボーンクラッシャーのアンタレスによる攻撃の内側へと入り込むと身をひるがえし――放たれた回し蹴りが、両手でみぞおちを抱えていたために無防備だったボーンクラッシャーの顔面を思い切り蹴り飛ばす!
「んぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」
 無様な断末魔と共に、ボーンクラッシャーは宙を舞い――すでに破壊されていた地上部隊のヘリの残骸の上に落下した。その衝撃でヘリが爆発、ボーンクラッシャーが炎の中に消えるのを見届けると、ジュンイチはすでに何も聞こえていないであろう彼に告げた。
「そういや、さっき聞いてたな?
 『そんなもんか?』ってさ……」
 正面から立ちのぼる炎を見据え――胸を張り、告げる。

「こんなもんだ」

 

「す、すごい……!」
 瞬く間にディセプティコン戦士2名を撃破。彼らが立ち上がっても再度瞬殺――ジュンイチの見せるすさまじい戦いぶりに、なのはは思わず声を上げた。
「た、体格差が……まったく問題になってない……!?」
「“力”を使わずに、こんな戦闘能力……!」
 一方、驚いているのは彼女の親友も同様だった。なのはのつぶやきに、フェイトもまた驚きの声を上げ――
「……使っている、はずだ……!」
 傷の痛みにうめくようにそう答えたのはビッグコンボイだった。
「いかに柾木と言えど、素の身体能力ではあそこまでのパワーは出せんはず……
 必ず、何らかの小細工をしているはず……!」
「身体強化をかけてるってこと?」
《でも、このフィールドの中で、どうやって……?》
 聞き返すフェイトやジンジャーに答えると、ビッグコンボイはマスターギガトロンへと向き直るジュンイチへと視線を向けた。
「ひょっとしたら……柾木は気づいたのかもしれん。
 あの“支配者の領域ドミニオン・テリトリー”の崩し方を……」
 

「さて……これで今度こそ正真正銘、“お掃除”完了だ」
 上半身を地中に埋めたブロウル、黒こげになり、未だ燃え盛るヘリの燃料の中でプスプスと煙を上げているボーンクラッシャーをそれぞれ一瞥。今度こそ反応がないのを確かめ、ジュンイチはマスターギガトロンへと視線を戻した。
「そろそろてめぇが出て来いよ。
 のん気にこっちの手の内を観察してるヒマはねぇはずだぜ」
「そうでもないさ。
 のん気に観察していたおかげで、わかったこともある」
 告げるジュンイチだったが――マスターギガトロンはあっさりとそう返してきた。
「貴様にしては詰めが甘いと思ったが――やはり、最初の一撃はあえて加減したようだな。
 大方、このフィールドの中でどれだけ戦えるかを測るための実験台、といったところか――オレと戦う前に、自身の状態を確かめるために利用したな?
 一撃で仕留めなかったのはテストのための攻撃の回数の確保と――オレの作ったデバイスを使わせ、その性能を見極めるため。違うか?」
「……やれやれ。
 お前には隠し事ができねぇな」
 告げるマスターギガトロンに対し、ジュンイチはごまかすこともしないで肩をすくめてみせる。
「まったく、相変わらずふざけているようで抜け目のない男だ。
 だが……そうやって確かめたのならばわかるはずだ。オレの“支配者の領域ドミニオン・テリトリー”は完璧だということが。
 誰にも破ることはできん――もちろん、貴様にも。
 わざわざ絶望を確かめるために、ご苦労なことd――」
「ンなゴタクはどーでもいい」
 言いかけたマスターギガトロンの言葉をあっさりとさえぎり、ジュンイチはそう告げて“紅夜叉丸”を肩に担いだ。
「どういう状況だろうが、やることなんざ変わんねぇんだよ。
 くっだらねぇ自慢話とイヤミはさっさと切り上げて、かかって来てくれませんかねぇ? バカ大帝さん?」
「…………口の減らないガキd――」
「人間の26歳はもうガキじゃねぇぞ」
「……とことん口の減らない男だな」
 完全にこちらをコケにした言動に、マスターギガトロンは自らを落ち着けるように息をつき――
「いいだろう。
 このオレを未だに見くびるその不遜……骨の髄まで後悔させてくれる!」
「かかってらっしゃい♪」
 告げるマスターギガトロンと応じるジュンイチ――それ以上言葉を交わすことなく、二人は同時に地を蹴った。


次回予告
 
はやて 「ところでなのはちゃん。
 ジュンイチさんにもらった“お土産”、何が入ってるん?」
なのは 「そういえば……」
リイン 《リインが開けてあげるですよ〜♪
 ……こ、これは!?》
はやて 「何やったの?」
リイン 《救急キットの詰め合わせです!》
なのは 「私達の手当ては自分達でやれと!?」
はやて 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第70話『最凶VS最速〜それぞれの武器〜』に――」
3人 『《ゴッド、オン!》』

 

(初版:2009/07/25)