「せーのっ!」
咆哮と共に跳躍――カウンターとして繰り出された相手の拳を身をひねってかわし、ジュンイチは空中で身体をかたむけるように身をひるがえした。そのまま真上から打ち落とすかのごとく回し蹴りを放つが、マスターギガトロンもまた素早く拳を引いたその腕で受け止める。
「むんっ!」
常人離れした衝撃が右腕に叩きつけられるのを感じ、意図せずして顔をしかめるが――それも一瞬だけのこと。マスターギガトロンはそのまま力任せにジュンイチを押し返した。
弾かれ、ジュンイチは距離をとって着地――仕切り直しの形となり、マスターギガトロンは息をついてジュンイチへと視線を向け、
「…………なるほどな。
やはり、さすがの貴様もオレの“支配者の領域”の中では、いつもと勝手が違うと見える――以前のデータに比べて動きがぎこちないぞ」
「まぁな」
見抜かれるのも予測のうちだったのだろう。大して驚く様子もなく、ひょうひょうと聞き返すと、ジュンイチは肩をすくめ、
「まったく、迷惑なフィールドだよ。
放出するそばから吸収されちまうんじゃ、うかつに力場を強化することもできやしねぇ――まぁ、物理攻撃に対しちゃ元々紙切れ同然の力場だから関係ないけどさ、エネルギー攻撃に対しても防御が効かねぇっつーのはねぇ」
そうつぶやくと、ジュンイチは懐からそれを取り出した。
「しゃあねぇ。
もうちっとお前を追い込んでから使うつもりだったけど……」
首から提げられていた、漆黒の宝石――頭上に掲げ、告げる。
「揺らめけ――“蜃気楼”」
同時、漆黒の宝石から砂塵のような“何か”が解き放たれた。ジュンイチの周囲に放出され、その姿を覆い隠す。
そして――数秒の後、“何か”を振り払うかのように翼をはためかせ、ジュンイチは再びその姿を現した。
装着した“装重甲”は大部分が以前のまま――右腰と右腕、それぞれに“蜃気楼”のガントレットとポーチ状のカードホルダーが装着されているくらいだ。
「それが貴様のデバイスか……」
「正確には“デバイスの一部”だけどな」
つぶやくマスターギガトロンに答えると、ジュンイチは右腕のガントレットからカードトレイを引き出し、
「元々AMF対策として作ってたモンだったんだけどな……おかげでこのフィールドの中でも問題なく使うことができる。
まったく、世の中何が幸いするかわからないね」
続いて腰のカードホルダーから1枚のカードを取り出した。レイジングハートのイラストが描かれたそのカードをトレイにセット、トレイを元通り“蜃気楼”に押し込み、
〈レイジングハート・エクセリオン〉
“蜃気楼”が日本語的発音な英語で告げた。同時、ジュンイチの周囲にまき散らされていた“蜃気楼”の砂塵がジュンイチの右手に収束、漆黒のレイジングハートを作り出す。
「れ、レイジングハート……!?」
《色以外はそっくりだ……
デバイスのコピーを作る、デバイス……!?》
その光景に思わず“オリジナル”のパートナーがつぶやくが、ジュンイチはかまわず黒いレイジングハートをかまえた。まるで棒術のように両手で振り回すとマスターギガトロンへとその先端を向け、静かに告げた。
「とりあえず……まずはその厄介な“支配者の領域”からツブさせてもらおうか。
でないと――」
「お前、本気になってくれそうにないからさ」
第72話
“黒き暴君”、全力全潰!
〜歩く完全デバイス図鑑〜
同時刻、108部隊――
〈たーげっと、全機ろっくおん。
全砲門――斉射!〉
告げると同時、オメガスプリームの全身の火器が火を吹く――トランスフォーマーの中でも特に巨大なオメガスプリームから放たれる砲火は、瘴魔獣達を次々に捉え、火力任せに吹き飛ばしていく。
そして、そんなオメガスプリームの足元では――
「えいっ」
気合のまったく感じられないかけ声だが、それに伴い巻き起こされたのはそんなテンションとは似ても似つかない豪快な光景――片手一本で投げ飛ばされ、ビルボネックは顔面から大地に叩きつけられた。自らの重量に投げ飛ばされた勢いが加わり、鈍い音と共にその首がへし折れる。
もう何体犠牲になったか、数えるのもバカらしい。恐怖すら覚え、それでも自分を包囲する瘴魔獣達に対し、霞澄はため息まじりに肩をすくめて見せた。
「やれやれ……こっちが非戦闘員の避難で離れてるスキに、ずいぶんとやりたい放題やってくれちゃったみたいね。
さすがの私も、ちょこーっと頭に来ちゃったかな?」
言いながら、霞澄は一歩を踏み出す――能力も使わず、その技だけで同胞達を何体も屠ってみせたその姿に、瘴魔獣達が恐れおののき、思わず後退する。
「何? 怖いの?
それこそ今さらね――そんな怖がるくらいなら、最初から私を怒らせなきゃよかったのよ」
言って――そんな彼らを指さし、霞澄は告げた。
「キミ達……」
「少し……頭、砕こうか」
「そぉらっ!」
「く…………っ!」
気合一閃、振り下ろされる光刃を、イレインは右腕に装着したブレードで受け止める――刹那の拮抗の後、蹴りで反撃を狙うが、リュムナデスは後方に跳んで回避する。
グランジェノサイダーをスカイクェイクに、雑魚の瘴魔獣軍団をオメガスプリームと非戦闘員の避難を終えて戻ってきた霞澄に任せ、リュムナデスとの交戦に入ったイレインだったが、予想外の苦戦を強いられていた。
リュムナデスの主な攻撃は体術と、それを活かして繰り出される、鎧の四肢、ヒレ状の装飾から伸びる光刃――決して高いレベルではないものの、一撃一撃が思った以上に重く、一撃受けるだけで姿勢を大きくくずされてしまう。おかげで反撃しづらくてかなわない。
(何なのよ、コイツ……!
このパワー、間違いなく超瘴魔獣以上……!)
うめき、再びガードしたブレードに叩きつけられた光刃を押し返しつつ、イレインは一度体勢を立て直すべく後退し、
「なのに……」
他にも、彼女には気になることがあった――つぶやき、イレインは改めてリュムナデスの身体をサーチする。
結果は、やはり先ほどと一緒で――
(やっぱり……
アイツ自身は瘴魔力をまったく使ってない……瘴魔力は発生も制御も、全部アイツの鎧が担当してる……
普通に考えれば、アイツが瘴魔力を使えないのをあの鎧でフォローしてるってことだろうけど……そんなことあり得るの? 瘴魔に属してて、瘴魔力を使えないなんて……!)
「アンタ……ホントに何者なのよ?」
「お前が知る必要はないさ。
ここで死ぬ、お前にはな」
改めて尋ねるイレインに答え、リュムナデスは懐から一枚のデバイスカードを取り出した。
描かれているのはトカゲ――いや、彼の“称号”を考えるならイグアナだろうか。目の前にかざし、告げる。
「引き摺り下ろせ――」
「“嫉妬”」
宣言し、デバイスを発動――閃光が放たれた後、リュムナデスの手には拳銃型のデバイスが握られていた。
「いよいよ、そっちも本気ってワケだ……」
「あぁ。
そして――お前の最期だ!」
イレインにそう答え――リュムナデスは彼女に向けて引き金を引いた。“嫉妬”から放たれた多数の魔力弾が、一斉にイレインに向けて襲いかかる。
「ハンッ、何よそれ! 弾速遅すぎ!」
しかし、その魔力弾の動きはお世辞にもキレがいいとは言えなかった。余裕で叩き落とそうと、イレインは腕のブレードを振るい――
――“かわされた”。
ブレードの一撃が届くかと思われた瞬間、魔力弾の群れがその軌道を変えた――まるでイレインの迎撃をかわすかのように飛翔し、死角からイレインへと直撃、吹っ飛ばす!
「きゃあっ!?
何、こいつ……!?」
「そら――もういっちょいくぞ!」
それでも何とか受け身を取り、立ち上がるイレインに向け、リュムナデスはさらに魔力弾を放った。魔力弾の雨が再びイレインに向けて襲いかかる。
「く………………っ!」
うかつに迎撃すれば先ほどの二の舞だ。イレインは素直に防御しようとブレードをかまえ――
「――――――上っ!?」
まただ。イレインのブレードに激突する寸前、魔力弾の群れは突然軌道を変えた。ほぼ直角に近い角度で上方へと急上昇、そこからイレインに向けて襲いかかる!
「くっ、アイツがコントロールしてるワケ……!?
それなら!」
なんとか魔力弾をかわし、イレインはリュムナデスに向けて地を蹴った。一気に距離を詰め、リュムナデス本人を叩くつもりなのだ。
しかし――
「残念だな……
そいつぁ外れだ!」
リュムナデスはさらに魔力弾を連射――合計で50を超える魔力弾が、それぞれ独自の動きでイレインへと襲いかかる!
「ちょ――――――っ!?」
さすがにこれは予想していなかった。あわてて後退するイレインだが、魔力弾の群れはそんな彼女を執拗に追尾していく。
「何よ、コレ!?
あの高町なのはとデバイスコンビだって、こんな数の魔力弾の精密制御は――!?」
「それができるのが、オレの“嫉妬”なんだよ!」
驚き、声を上げるイレインに対し、リュムナデスは余裕の笑みと共にそう答えた。
「“嫉妬”は、単なる魔力銃として見るならただ弾を素早く連射するだけのシロモノだ――撃てる弾はお前を追いかけてる一種類だけ、その一種類の弾丸だって特殊効果を持っているワケじゃない。
コイツの真価は弾道制御――他の機能を最小限に絞り、浮いたシステム容量を全部弾道の制御に回した。そうすることで、コイツは相手の防御を“自動で”かわし、かいくぐって攻撃することが可能となったのさ!
その制御能力は、カタログスペックであのレイジングハート以上! 誘導弾の撃ち合いなら、あの“白い悪魔の魔杖”にすら勝てる力を持ってるのさ。
相手のスキをつき、出し抜き、追い落とす――“嫉妬”の名に相応しい能力だとは思わないか!?」
「受けるこっちにとっては、冗談じゃないわよ!」
リュムナデスに言い返し、ブレードを振るうイレインだが――やはり魔力弾を叩き落とすことはかなわない。こちらの斬撃をかわし、その軌道の外側から一斉にイレインへと降り注ぐ!
「く――――――っ!」
それでも、なんとか横っ飛びに回避し、イレインはかろうじて直撃を避けた。何発かは地面に直撃して爆発するが、それでも大多数が引き続き自分を追ってくる。
「――なら、これでどう!?」
思った以上に厄介なこの攻撃を前にしては、もはや手札を温存しておく気になどなりはしなかった。迷わず左手を振るい――そこから放たれたワイヤーが魔力弾に向けて襲いかかる。
イレインの“切り札”である、左手に仕込まれ電磁ムチ“静かなる蛇”だ――イレインの眼前で暴れ回るだけでなく、電撃をまき散らして魔力弾を誘爆させようとするが――
「――ウソでしょ!?」
通常ならこれでほとんどを迎撃できていたはず――にもかかわらず、リュムナデスの魔力弾はほぼすべてがイレインの迎撃網を回避した。しかも、迂回して襲ってくるのではなく、複雑な動きを見せているはずの“静かなる蛇”を正面から、その動きをことごとくかいくぐって正面から突破したのだ。驚き、声を上げるイレインへと降り注ぎ、大爆発を起こして吹っ飛ばす!
「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」
一発ごとの威力は大したことはないが、それでも多数のそれが一斉に襲い掛かってくれば、その破壊力は尋常ではない。イレインの身体はまるで風に舞う木の葉のように吹き飛ばされ、大地に叩きつけられる。
「くぅ…………っ!?」
衝撃でセンサー類が一時的にマヒ。人間で言う脳震盪のような状態に陥る――わずかな時間前後不覚に陥ったイレインだったが、現在の状況でそれは致命傷だった。次に彼女の認識が正常に戻った時には、すでにリュムナデスによって新たな魔力弾がばらまかれていた。
(かわせない――!?)
ちゃんと身がまえていたなら話は別だったろうが、倒れたままの現状では回避どころかそのほとんどが無条件で直撃することになる。迫り来る魔力弾を前に、さすがのイレインもダメージを覚悟し――
魔力弾が薙ぎ払われた。
突如自分の背後から放たれた、無数の魔力弾の雨がリュムナデスの魔力弾の群れに降り注いだのだ――回避しようにも滑り込める余白すら許さないほどに濃くばらまかれた弾幕により、イレインに迫っていた破壊の弾丸は瞬く間に一掃されてしまった。
そして――
「こちらの迎撃をかわす、と言っても、物理的にかわしきれないものはどうしようもないようですね」
そう告げると、イレインの背後から現れた“彼女”は手にしていたガトリングタイプの人造魔力砲を傍らに投げ捨てた。
「手当たり次第に手持ちの試作品をかき集めてきて正解でしたね。
私の標準武装では、今の攻撃に対処することは不可能でした」
そう告げて、自分のそれとはデザインの異なるアームブレードを装着する“彼女”の姿に、イレインは思わず声を上げた。
「…………ノエル、姉さん……!?」
自動人形と呼ばれる人造人間、その“最終機体”である自分に対する先発機であることから、“姉”として認識している“彼女”――ノエルの登場は、イレインにとって完全に予想外だった。呆然と彼女の名を呼び――
「苦戦してるみたいね、イレイン」
そう告げて、イレインの“主”もまた、ノエルの後に続いて戦場に姿を現した。
「そんなことじゃ“最終機体”の名が泣くし……後でジュンイチくんに思いっきりからかわれるわよ」
「な、何でアンタが……!?」
「そんなの、決まってるじゃない」
呆然とつぶやくイレインにあっさりと答え――
「あのジュンイチくんが、すずかを巻き込んだことを姉の私に謝りに来なかったとでも思ってるの?」
その時に大体の事情は聞かされたわよ――そう付け加え、月村忍は苦笑まじりに肩をすくめてみせた。
「おぉぉぉぉぉっ!」
「ぐぅ………………っ!」
咆哮と同時、交差させた腕に拳が叩きつけられる――何とか耐えしのぐものの、スカイクェイクの巨体はゆうに10メートル以上も押し返されていた。
「このオレを、腕力だけでここまで押し返すか……!
パワーだけならすでに大帝クラスに匹敵……いや、それ以上かもしれない……!」
「フンッ、どうした?
防御だけで精一杯か!?」
両腕に走るしびれに思わずうめき――そんなスカイクェイクに向け、彼を押し返したグランジェノサイダーは余裕の咆哮と共に肩の2連装キャノンを連射してくる。
「大帝と言えど、このオレ達の敵じゃないんだよ!」
さらに、キャノンの連射でけん制しつつ間合いを詰めると、グランジェノサイダーはすくい上げるように打ち上げた拳でスカイクェイクの身体を宙に浮かし、
「いい機会だ――象に踏みつぶされるアリの気分ってのを味わっておけ!」
そのまま身をひるがえし、回し蹴りでスカイクェイクを吹っ飛ばす!
「ぐおぉっ!?」
「くたばれぇっ!」
大帝達の中でも上位に数えられる自分をも上回るパワーで弾き飛ばされ、大地に叩きつけられるスカイクェイク――そんな彼らに追撃を叩き込むべく、グランジェノサイダーは勢いよく跳躍し――
「――――――っ!?」
突然空中でバランスを崩した――あわてて見下ろすと、自分の右足にバインドの魔力チェーンがからみついていた。そのまま、体勢を立て直すこともできずに大地に落下する。
「な、何だ、コイツは!?」
いきなりの不意打ちに思わず周囲を見回し、グランジェノサイダーが声を上げると、
《大丈夫ですか? スカイクェイク》
そんなスカイクェイクに対し、悠々と声をかけたのはアルテミスだ。
《あなたともあろう人が、ずいぶんと手こずらされたようですね》
「まぁ、な……
さすが、ディセプティコンの参謀クラス、しかも兄弟が合体した合体戦士なだけのことはある」
アルテミスに答えると、スカイクェイクはその場に身を起こし、
「それで……貴様の方はどうなんだ?」
《問題ありません。
すでに霞澄さんがある程度進めていてくれましたから……彼女から引き継いだ非戦闘員の完全避難と負傷者の回収、無事完了しましたよ》
「そうか」
そのアルテミスの答えにうなずき――スカイクェイクは静かにグランジェノサイダーへと向き直った。
「すまなかったな。
ようやく、こちらとしても全力でやれそうだ」
「何だと……?
今まで、手を抜いていたとでも言うつもりか?」
「そうじゃない――“オレ個人”としては全力で戦ったさ。
だが、オレ達の真の力は、オレとアルテミス、二人がそろって初めて発揮される」
言って、スカイクェイクはアルテミスとアイコンタクト――意図を正しく理解したアルテミスがうなずいたのを確認し、改めてグランジェノサイダーに告げる。
「それに……広域型のオレは、非戦闘員のいるところであまり全力を出すワケにはいかない――巻き込んでは元も子もないからな。
だが、その非戦闘員の避難も完了した――だから言ったんだ。『ようやく全力で戦えそうだ』とな」
そして――スカイクェイクとアルテミス、二人は声をそろえて咆哮する。
「《ユニゾン――イン!》」
その言葉と同時――アルテミスは光となってスカイクェイクと一体化。彼の全身が光に包まれ――
「《絆がもたらす敵への絶望!
“絆の果てに高みあり”――覇道大帝、デスザラス!》」
“真の力”を解放したこちらの迫力に思わずたじろぐグランジェノサイダーに対し、スカイクェイクがアルテミスとのユニゾンによって転生したデスザラスは、そう高らかに名乗りを上げた。
舞台は戻り、地上本部――
「オレの本気、か……
ここは、『力ずくでも出させてみろ』とでも答えておくのが貴様の好みか?」
「別にいーよー、オレの好みに合わせなくても」
“蜃気楼”によって作り出した黒いレイジングハートをかまえたジュンイチにマスターギガトロンが告げる――ジュンイチもあっさりと応じ、両者は静かににらみ合う。
「はやてちゃん……この戦い、どう見る?」
「あのジュンイチさんがからんどるんよ――読めるワケないよ」
一方、傷ついた身体でそんな二人を見守るなのはの問いに、はやてはジュンイチ達から視線を外さぬままそう答えた。
「発動の流れとあの黒いレイジングハート――ジュンイチさんのあのデバイスは、他の子のデバイスのコピーを作り出す能力を持ってるんやと思う。
使えるものは人のものでも遠慮なく使う、ジュンイチさんらしいデバイスやとは思うけど……せやからこそ、この状況でレイジングハートを選んだ理由がわからへん。
ジュンイチさんやったら接近戦もバッチリなんや。能力の使えない“支配者の領域”の中では、レヴァンティンやグラーフアイゼンをコピーした方がジュンイチさんとの相性はえぇと思うし――何より、ジュンイチさんがそのことに気づいてないとは思えへん」
「何か狙いがあって、レイジングハートを選んだってこと?」
「そう思ってえぇと思う」
なのはに答え、はやてはジュンイチの手の中のレイジングハートに視線を落とした。
「どっちにしても……もう戦える状態やない私達は信じるしかあらへん。
ジュンイチさんが、勝つって……」
「そのデバイス……高町なのはのレイジングハートか」
互いに戦闘態勢でにらみ合うことしばし――ジュンイチの手の黒いレイジングハートに視線を落とし、マスターギガトロンは静かにそうつぶやいた。
「確かに、火力の高い貴様には似合いのデバイスだが……状況が悪かったな。
現在この場はオレの展開した“支配者の領域”の真っ只中――いかに貴様といえど、砲撃などできようはずもない。
どうやら他のデバイスをコピーできるようだが――コピーする対象を誤ったな!」
余裕の笑みを浮かべ、そう告げるマスターギガトロンだったが――
「さぁて……そいつぁどうかな?」
そう答えると同時――ジュンイチの姿が消えた。一瞬にしてトップスピードまで加速し、マスターギガトロンの背後に回り込んで黒いレイジングハートをかまえる。
「死角から撃てばなんとかなるとでも思ったか!?
残念ながら――この“支配者の領域”はフィールド展開なんだよ!」
そんなジュンイチに向け、マスターギガトロンは身にまとったパワードデバイス、ネメシスの触手を飛ばした。先端の鋭利な刃がジュンイチへと襲いかかり――
「誰が『“撃”つ』って言ったよ?」
再びジュンイチの姿が消え――そう告げた時には、ジュンイチの姿はマスターギガトロンの正面、すぐ目の前にあった。
ただし――レイジングハートを大きく後ろに振りかぶって。
「え………………?」
どう考えてもレイジングハートの主力である“砲撃”のかまえではない。予想外の体勢に思わず戸惑うマスターギガトロンの目の前で、ジュンイチは身をひるがえし――
殴った。
水平に振るわれたレイジングハートの本体部分がマスターギガトロンの顔面にヒット――豪快な一撃をまともにくらい、マスターギガトロンは地面のアスファルトを深々と削りながら吹っ飛ばされる。
やがて、後方のガレキの山に背中をしたたかに打ちつける形で、ようやくその巨体が止まった――ジュンイチが静かに着地し、黒いレイジングハートを肩に担ぐのを、なのは達やナンバーズ、意識のある面々は呆然と見つめ――
『………………“打”ったぁぁぁぁぁっ!?』
「別に驚くようなモンでもねぇだろ」
一同の声が唱和するが――ジュンイチは気にすることもなく、頬をかきながらそう答える。
「別に、砲撃戦用のデバイスは砲撃戦にしか使っちゃダメ、なんてルールがあるワケでもねぇんだぜ。
せっかく砲撃の負荷に耐えられるように頑丈に作ってあるんだ――砲撃にしか使わないなんて、逆にもったいないだろ」
「いや、それはそうなんですけど……」
あっさりと告げるジュンイチの言葉にうめくなのはだったが、ジュンイチはかまわず身を起こすマスターギガトロンへと向き直り、
「言ったろ? 『まずは“支配者の領域”をツブす』って。
“支配者の領域”の弱点その1――AMF同様、物理的な攻撃には何の意味もない。
元々魔導師やブレイカーみたいな“能力者”の能力を封じるためのものだからな――普通にブン殴る分には、何の問題もないんだよ」
そして――背後のなのは達に一瞬だけ視線を戻し、
「ま、これは他のみんなも気づいてたみたいだけどね。
そして……お前もそうやってみんなが接近戦を選んでくるだろうことは予見してた。
だから、真っ先にイクトやゼストのオッサンを叩いて、デバイス発動と共にシグナムを叩いたんだろう?
この3人は接近戦において特にズバ抜けてるメンバーだからな……その3人をまとめて叩くことで、お前はこの場にいる全員に“接近戦はヤバイ”という認識を植えつけたんだ」
「ぐ………………っ!」
ジュンイチの指摘はまさに正鵠を射ていた。告げられた言葉に、マスターギガトロンは思わず歯噛みし――
「そして、今挙げた3人を瞬殺したのには、もうひとつ理由がある。
今言ったとおり、なのは達から接近戦という選択肢を奪うことで――“二つ目の弱点”に気づかれる可能性を減らす必要があった」
「二つ目の……弱点、だと……!?」
続くジュンイチの言葉に、マスターギガトロンは思わず顔をしかめた。
「そんなものがあってたまるか。
物理攻撃に対し無力なのはAMF系能力の宿命としても……そんな弱点がゴロゴロしているほど、“支配者の領域”は甘くはない!」
「ありゃ、否定する?
ホントに気づいてない? それとも気づいてないフリ?」
ムキになって反論してくるマスターギガトロンに対し、ジュンイチは余裕の笑みと共にそう答え、
「ま、どっちでもいいけどね。
少なくとも、“支配者の領域”がオレには通じないってわかってもらえてないみたいだし……弱点、“全部”ツッコんでやるとしましょうか」
告げて、ジュンイチは自分の手の中のレイジングハートに意識を向け――同時、それは元通り砂塵状の“何か”となって消滅していく。
続いて、ジュンイチは右腕のガントレットのトレイを再び展開すると腰のカードホルダーに右手を伸ばした。
そして取り出すのは新たなカード。トレイにセットし、装填したそのカードは――
〈リボルバーナックル〉
左右一対のリボルバーナックルだった。両腕に砂塵が収束、リボルバーナックルが生成され、ジュンイチはそれを力強く打ち合わせてマスターギガトロンに向けて地を蹴る。
「フンッ、『別の弱点を突く』などと言っておいて、やることは再び接近戦か!?
シューティングアーツのモノマネのようだが――再現が甘いな! ローラーブーツはどうした!?」
「ちゃんとブーツもセットで出せるカードもあるよ。
今回はいらないからナックル単独――それだけの話さ」
対し、ネメシスの触手で反撃に出るマスターギガトロンだったが、ジュンイチはあっさりとそれをかいくぐりながらそう答える。
「こんな全方位からの攻撃、ローラーブーツで加速した状態でいちいち相手してられるか。
高速度で飛び込んでの一撃必殺がシューティングアーツの原則なんだ――ソイツを相手にするにゃ、あからさまに相性悪いんだよ」
言いながら、ジュンイチはマスターギガトロンの懐に飛び込んだ。ナックルによる打撃が来ると判断し、マスターギガトロンがガードを固め――
「…………やっぱり、そう“思い込んだ”か」
ジュンイチの口元に笑みが浮かび――その瞬間、ジュンイチの目の前に“スフィアが形成される”!
「何だと!?」
「“支配者の領域”の中で――“力”を!?」
マスターギガトロンとなのはから驚きの声が上がり――ジュンイチはかまわず両の拳を引いた。
「いくぜ――スバル版ディバインバスターのバリエーション!」
同時、リボルバーナックルのナックルスピナーが高速で回転を始め、
「ディバインバスター・ブレイズ!」
諸手突きの要領で目の前のスフィアへと叩きつけた。魔力ではなくジュンイチの精霊力によって作り上げられたスフィアはその一撃を引き金にして一気に燃焼。炎の奔流となってマスターギガトロンを吹き飛ばす!
「ば、バカな……!?
オレの“支配者の領域”の効果の中で、“力”を行使するだと……!?」
再び大地に叩きつけられ、マスターギガトロンがうめく――そんな彼を真っ向から指さし、ジュンイチは余裕の笑みと共に告げた。
「簡単な話さ。
あらゆる生命エネルギーを吸収する“支配者の領域”だけど……」
と、そこで言葉を切り、ジュンイチはなのはと、離れたところで倒れているディエチを交互に見て、
「お前ら……覚えてるか?
自分達の砲撃が“支配者の領域”に吸収された時のこと」
「は、はい……」
「私のヘヴィバレルも、高町なのはの砲撃も、どちらもマスターギガトロンに届く前に……」
「そう。
お前らの砲撃は、マスターギガトロンに届く前に消滅した。
けど……」
そして再び言葉を切り、改めて二人に尋ねる。
「もし、あの砲撃が“もっと近くで撃たれていたら”、どうなってたと思う?」
『あ………………』
「それが、“支配者の領域”の弱点その2。
確かに生命エネルギーであれば何であれ問答無用で吸収できるけど……その対価として、エネルギーの即時吸収はできないんだ」
言って、ジュンイチは身を起こし、それでもこちらを警戒し慎重に出方をうかがっているマスターギガトロンへと視線を向けた。
「なのはのディバインバスターを例に挙げようか。
あの時、なのはが撃ってから効果が現れるまで0.5秒。そこから完全に火線が消滅するまでさらに2.04秒かかってる――すなわち、合計で2.54秒。
それはつまり、“ディバインバスターを吸収するのにそれだけの時間が必要だ”ってこと――射撃系なら魔力量も少ないからすぐに消せるんだろうけど、エネルギー量の多い砲撃クラスになると、完全に無効化するまでそれなりの時間がかかっちまうってことだよ」
言って、ジュンイチは笑みを浮かべ、
「何でもかんでも、全部の生命エネルギーを取り込んだ上に、自分の“力”として還元する――効果そのものはシンプルだけど、実際にやろうとすればその術式はとんでもなく複雑になる。
何しろ、質のまったく違うエネルギーを全部まとめて吸収しなきゃならないんだからな。そのプログラムは際限なく複雑化し、処理も重くなる。
ギガトロンの使う魔法はミッドチルダ・ベルカ式の両魔法を“古代遺物”から解析し、自分なりに“イイトコ取り”して作り上げたものだ。
言ってみれば“ディセプティコン式”ってトコだろうが――ミッドやベルカの魔法をベースにした、プログラム方式の魔法である点は変わらない。当然、術式のプログラムが複雑化すれば処理が重くなるのもそれらの魔法と同じだ。
だから、コイツはAMFみたいに相手の攻撃を一瞬で無効化することができない――至近距離からの攻撃なら、ギガトロンに一撃入れるのは可能なんだ」
そして――ジュンイチは倒れているイクト達へと視線を向けた。
「そんなワケで……さっき言った“近接要員速攻つぶし”が活きてくる」
「そうか……イクトさん達がやられたことで、私達はみんな、マスターギガトロンへの接近を警戒してたから……」
「そういうこと」
納得し、つぶやくフェイトに、ジュンイチは笑顔でうなずいた。
「マスターギガトロンがお前らに“接近戦が危険だ”って思わせたのは、そういう理由もあったんだよ。
接近戦を阻めば、唯一無効化できない物理打撃を封じられるし、同時に近距離なら砲撃も通せるってことを悟られないで済む。
でもって……弱点その3」
そして――ジュンイチは今度はナンバーズ側へと視線を向けた。憮然とした表情でこちらを見ているクアットロへと尋ねる。
「おい、クソメガネ。
ガジェットのAMF……どうなってる?」
「は? いきなり何?」
「いいから答えろ。
AMFは効いてるか?」
「もちろんよ。
ガジェットのAMFは生命エネルギーじゃ……ないん……だ、か、ら……」
ジュンイチに答え――クアットロは動きを止めた。どうやら彼の言いたいことを察したらしい。
「そういうこと。つまり……」
そんなクアットロの心中を読み取り、ジュンイチは手元にバーチャルキーボードを展開した。早速操作しようと手を伸ばし――自分がリボルバーナックルを装着したままなのを思い出した。そのままではグローブ越しで指が太く作業しづらいので一度ナックルを消し、作業にとりかかる。
ジュンイチがキーボードに素早く指を走らせ――破壊され、近くに放棄されていたガジェットV型が再起動する。
「な、何を……!?」
「何、ただのハッキングだよ」
うめくマスターギガトロンの言葉にあっさりと答え、ジュンイチはキーボードに指を走らせ続け、
「今クソメガネが言ったとおり、ガジェットの展開したAMFは未だ健在。理由は生命エネルギーじゃないから。
つまり――」
そして、ジュンイチがキーボードのエンターキーを叩き――
「機械の発したエネルギーなら、魔力もオッケーってことだよね♪」
「ごはぁっ!?」
V型に装備されていた人造魔力砲が火を吹いた。スカリエッティによってAMF影響下でも発生を可能とした人造魔力の弾丸が、マスターギガトロンを直撃する。
「これが、“支配者の領域”の弱点その3。
AMFにも言えることだけど、“人造的なエネルギー”には干渉できない。ガジェットの魔力砲なんかはその典型だな」
「そういえば……さっきガジェットがあたし達を守ろうと総攻撃をかけてたけど……」
「通ってたな、攻撃……」
ジュンイチの言葉に気づき、ウェンディやノーヴェもまたつぶやく――うなずき、ジュンイチは右手のガントレットを見せ、
「この“蜃気楼”にも、AMF対策としてその辺の理屈を考慮したシステムを組み込んである。
“蜃気楼”の正体はこの、カードリーダや分析システムを含めた情報ターミナルユニットであるガントレットと、ガントレットからの情報を元にデバイスのデータを記録したカードを管理する腰のカードホルダー、そして……」
言って、ジュンイチはガントレットを見せるために掲げていた右手、その拳を開いた。それに伴い、彼の右手に周囲に撒き散らされた“蜃気楼”の塵の一部が収束していく。
「コピーデバイスを生み出すナノマシン。その3つの要素によって構成されている」
「ナノマシン……!?」
「そう。
通常のデバイス形成と違って、魔力ではなくコイツらが収束することで、オレのコピーデバイスは作り出される」
なのはに答え、ジュンイチは再び塵を――ナノマシンの群れを霧散させ、
「そして、そのナノマシンを稼動させるためのエネルギーは、本体であるガントレットがオレの精霊力を電力に変換、無線送電することで供給、維持される。
この、あらゆる生命エネルギーの放出を許さない“支配者の領域”の中で自在に使えているのもそれが原因さ――何せ、最初の発動時の形成以外は、一切“力”を放出せずに使ってるんだから」
そう告げ、ジュンイチはマスターギガトロンへと向き直り、
「で……そちらの元負け犬は、ここまでやられてもまだ“支配者の領域”が通じないってことがわからないのかな?」
「……ふ、フンッ、確かに、攻略の余地があるようだが……それをいちいち説明するのが貴様の悪いクセだ。
付け入る余地があるというのなら、そこに気をつけて付け入られないようにするなり、付け入ってきたところにワナを張って叩くなり、やりようというものはあるんだよ!」
「ふーん……」
ここまでいいように遊ばれてもなお“支配者の領域”の優位を信じて疑わないマスターギガトロンの言葉にジュンイチはあっさりとうなずき――
クルリと彼に背を向けた。
「………………何?」
突然自分に背を向けたジュンイチの行動に思わず声がもれる――普通ならこれは絶好のチャンスなのだろうが、ジュンイチの場合当たり前のようにワナが待っていたりするから油断はできない。
結局、マスターギガトロンはジュンイチに一切手が出せず、その行動を見送るしかない――かなりの距離を取ったところで、ジュンイチはクルリと振り向き、カードホルダーから一枚のカードを取り出す。
ガントレットのトレイにセット、読み込ませたそのカードは――
〈イノーメスカノン〉
「な………………っ!?」
“蜃気楼”はデバイスだけでなく、自分達の固有武装まで作り出せるのか――“オリジナル”の持ち主であるディエチが驚きの声を上げるが、そんな彼女にかまわず、ジュンイチは自らの作り出した黒いイノーメスカノンをマスターギガトロンに向けた。
「さて……マスターギガトロン。
オレとしちゃ、お前をそこから近づけるつもりはない――そのためのイノーメスカノンだ。
さぁ、どう反撃する?」
言うと同時――威嚇とばかりにジュンイチはイノーメスカノンの引き金を引いた。マスターギガトロンのすぐ脇にエネルギーの奔流が叩きつけられる――ガジェットの人造魔力砲のようにエネルギー変換をかけたのだろう。“支配者の領域”の中でもその威力はいささかの曇りもない。
とはいえ――ジュンイチの作り出した状況は単なる1対1、遮蔽物のないオープンエリアでの砲狙撃戦でしかない。それならマスターギガトロンも砲撃で応じればいいだけの話だ。
それだけに意図が読めず、リインと顔を見合わせるはやてだったが――
「ぐ………………っ!」
マスターギガトロンの口からもれたのは悔しそうなうめき声だった。
見れば、マスターギガトロンはジュンイチの挑発に対し何の攻撃態勢も取らないでいる――否、“取れずにいる”ようだ。悔しげにジュンイチの砲撃に対する反応にだけ意識を集中させている。
「どうした? 撃ってこないのか?」
そんなマスターギガトロンの様子には当然気づいているはず――いや、こうなることをわかっていたからこそこの状況を作ったのだろう。ジュンイチは口元に余裕の笑みを浮かべ、マスターギガトロンに対しけん制の砲撃を放つ。
「そうだよなー。撃てないよなー。
何しろ――」
「“撃てるだけの力が残ってない”んだもんな♪」
「ぐ………………っ!」
「ど、どういうことですか……?」
ジュンイチの言葉に、マスターギガトロンが思わずうめく――その姿にジュンイチの指摘が正しかったと察して、なのはは思わずジュンイチに問いかける。
が――ジュンイチはそんななのはに対し「まだわかんねぇのか」とばかりにため息をつき、
「あのなぁ……よく考えて見ろよ。
さっきも言ったが、“支配者の領域”はやたらと術式が複雑で処理が重い。
そんなモンを長々と展開して、パワーがもつワケなかろうが」
「あ………………」
「最初の頃はそれでもよかったのさ。
“支配者の領域”の特性に気づいてなかったお前らが、撃墜されまいと必死に抵抗して、魔力バカスカ放出しまくってたから、いくらでも補充できたんだから。
でも、今は違う――お前らは軒並み倒れ、オレも“支配者の領域”の特性を見抜いて対策全開。
それでも、オレ達の力を封じる最大の切り札である点は変わらないから、そうおいそれと解除するワケにもいかない。
結果として、ギガトロンのヤツは補充も解除もできず、ただズルズルと魔力を消費し続けていくしかなかった。
“支配者の領域”の最後の弱点――“エネルギーコストの問題”だ」
言って――ジュンイチは再びイノーメスカノンの引き金を引いた。放たれた砲撃は先ほどまでよりもマスターギガトロンのすぐ脇、ギリギリのところをかすめていく。
「もういい加減、ンなハリボテの切り札に頼るのやめろよ。
今のままじゃ、オレに勝つなんて1万年早いぜ」
そして――ジュンイチはイノーメスカノンを消滅させた。マスターギガトロンを正面からにらみつけ、告げる。
「10年前と同じだ――てめぇの力、全部引っ張り出してかかって来い。
今度こそ――てめぇが心の底からあきらめるぐらい、徹底的にブチのめしてやるよ」
「言ってくれるな……このクソガキが」
ジュンイチの言葉に舌打ちし、マスターギガトロンはその場に立ち上がり――
「………………え?」
不意に、なのはは自分の身体にのしかかっていた負荷が軽くなったかのような空気の変化を感じた。これは――
《なの姉! 大気中の魔力濃度が元に戻ってく!》
《リインも“力”が戻ってきたですよーっ!》
「マスターギガトロンが……“支配者の領域”を解除した……?」
プリムラやリインの言葉が、この状況の意味するところを伝えていた――はやてがつぶやく中、ジュンイチとマスターギガトロンは距離を取ったそのままで対峙する。
「オレの“支配者の領域”を封じ込めたのはほめてやる。
だが……残念だったな。オレ自身の戦闘能力も、10年前とは比べ物にならないほど増しているんだ!」
「へぇ。
そいつぁすげぇ」
告げるマスターギガトロンの言葉に笑みを浮かべ――ジュンイチは告げた。
「それでも……9999年早い」
息をつき、改めてマスターギガトロンへとかまえ、ジュンイチは意識を目の前の敵に集中させる。
「それじゃ、ギガトロンもいよいよ本気になってくれたところで……」
「いっちょ、“オシオキタイム”とまいろーか♪」
「フンッ、新手か……」
思わぬ敵のデバイスの能力に危機に陥ったイレインを救ったのはノエルと忍――現れた援軍に対し、リュムナデスはそうつぶやきながら“嫉妬”をかまえた。
「ま、関係ねぇけどな。
オレの“嫉妬”が相手ってのは、運がなかったな」
言いながら、リュムナデスは“嫉妬”の銃口を忍に向け、
「コイツの“防御自動回避”は完璧だ。
防ごうとしようが逃げようが、こいつから逃げることはできないんだよ!」
そう告げ、引き金を引いた。放たれた魔力弾の群れが一斉にノエルと忍、彼女達の背後に倒れるイレインへと襲いかかり――
そのすべてが弾け飛んだ。
「何――――――っ!?」
予想外の結果に、リュムナデスはそれでも再び引き金を引く――が、放たれた魔力弾は再びそのすべてが撃ち砕かれる。
「き、貴様……何をした!?」
「何も」
思わず声を上げるリュムナデスだったが、忍はあっさりと答える。
「私もノエルも、もちろんイレインも何もしてないわよ」
「ウソをつくな!
だったら――なぜ!」
言い返し、リュムナデスは“嫉妬”を連射、魔力弾をばらまくが、やはりそのすべてが吹き飛ばされていく。
「なぜだ!?
オレの“嫉妬”の能力は絶対のはず! 一体何の能力だ!?」
「うるさいわねー。
だから、何もしてないって言ってるじゃない」
状況が理解できず、声を荒らげるリュムナデスに対し、忍はため息まじりにそう答え、
「まぁ、強いて何かしたとするなら――」
そう忍が告げると同時――リュムナデスの手から“嫉妬”が消えた。
「え………………?」
突然横から伸びた手が、“嫉妬”を取り上げたのだ。呆然とリュムナデスがその手の主へと振り返り――
「隠れてる恭也に気づかれないように注意を引きつけてた、ぐらいかな?」
繰り出された恭也の小太刀がリュムナデスを力場越しに痛打――宙を舞うリュムナデスに忍は笑顔でそう告げた。
「くそっ、仲間がいたのか……!?」
「そういうこと。
言ったでしょ? 『“私達は”何もしてない』って」
体勢を立て直し、うめくリュムナデスに答えると、忍は足元に突き刺さっていたそれを引き抜いた。
漆黒の針――恭也の投げつけた飛針である。
「忘れた? 私達、この場に現れたばっかりだったのよ。
確かに恭也は強いけど……それでも、能力者じゃないってのはけっこう痛いハンデだからね。相手の能力もわからないうちから、いきなり真っ向からぶつけたりしたら、後でシグナムや知佳さんに怒られるに決まってるでしょ。
だから私達が前に出た――私達を甘く見たあなたが、自分の能力を自慢してくれることを期待してね。
まさか、ご丁寧に能力を教えてくれるとは思わなかったけど――自分の能力への自信が仇になったわね」
拾い上げた飛針を弄びながら告げ、忍はさらに続ける。
「いくら自動で防御をかいくぐってくれるって言っても、それだって相手の防御や回避を感知できなきゃ発動のしようがない。
さすがに、持ち主に気づかれてない相手からの援護には対応できなかったみたいね」
「ちぃっ…………!」
忍の言葉に舌打ちするが――リュムナデスはそれでも自分の優位が失われたとは思っていなかった。
「だ、だが……“嫉妬”を破ったぐらいで勝ち誇るには早いんじゃないのか!?
オレにはまだ、瘴魔力で展開される力場がある! 能力者でもない貴様らにこれを破るだけの攻撃力は――」
「御神流――“虎切”」
淡々と言い放つと同時に一閃――恭也の一撃は、難なくリュムナデスの力場を斬り裂き、彼の鎧に斬撃の痕を刻んでいた。
「………………え?」
「ふむ……さすがはジュンイチ直々の属性付加だな。
万全の体勢から打ち込めば、力場を斬り裂くくらいは造作もないか」
予想外の一撃に、リュムナデスが思わず声を上げ――そんな彼にかまわず、恭也は自分の愛刀“八景”を眺めながらそうつぶやき――
「ちなみに――」
「あたし達のブレードも、同類だから!」
「――――――っ!?」
続けて、ノエルやイレインもまたリュムナデスに襲いかかる――高速で懐に飛び込んでくる二人に反応し、リュムナデスは両腕の鎧から光刃を生み出し、斬撃を受け止める。
「ぐ………………っ!」
先ほどイレインを追い込んでいたリュムナデスの腕力も、ノエルが加わり二人がかりとなられては分が悪かった。懸命に耐えるものの、そこに二人が同時に蹴りを叩き込んだ。強烈な同時攻撃を腹にくらい、リュムナデスはたまらず後退し――
「逃がさん!」
そこに恭也が飛び込んできた。繰り出された一撃が力場を斬り裂き、リュムナデスの右腕、鎧のすき間からのぞいていた二の腕を斬り裂く!
「やった!」
その光景に、忍は思わず声を上げ――しかし、次の瞬間、その表情が強張った。
なぜなら――見えてしまったから。
斬り裂かれたリュムナデスの二の腕――その肉の内側に通っていた、“ケーブル”や“金属の骨格”を。
「自動、人形……?」
それは、他の面々もまた気づいていた。リュムナデスの腕の傷を見て、ノエルがつぶやき――
「…………たぶん、違う……」
それを否定したのはイレインだった。予想外の相手の正体に、苦虫をかみつぶしたかのような顔でリュムナデスへと告げる。
「まさか、アンタ……」
「戦闘、機人……!?」
イレインのその言葉に、恭也や忍が息を呑み――そんな彼女達に対し、リュムナデスは大きく跳躍、後退し、
「オレを戦闘機人“なんか”と一緒にされたら困るな。
確かに起源は同じだが――オレ達は戦闘機人とは別次元の存在なんだよ」
「別次元……?」
リュムナデスの言葉に恭也が眉をひそめ――しかし、その真意を問うことはできなかった。
突如、リュムナデスの足元に転送の術式を刻んだ術式陣が展開されたのだ。
「ザイン様か……」
異変の原因が誰にあるか、考えるまでもなかった――つぶやき、リュムナデスは恭也達へと視線を戻し、
「残念ながら、質問に答えてやる時間は残ってないらしい。
次に会う時まで、お前らが生きてたら少しは答えてやるよ。
もっとも……」
「ま、待て!」
逃がすまいと地を蹴り、八景を振り下ろす恭也だったが――その刃が届くよりも早く、リュムナデスは光となってその姿を消していった。
「…………恭也。
アイツは、最後に何て?」
獲物を取り逃がし、息をつく恭也に忍が尋ねる――八景を鞘に収め、恭也は答えた。
「『その時には、とっくに洗いざらいバレているだろうが』……だそうだ」
「くらえぇっ!」
咆哮し、グランジェノサイダーが右肩のキャノン砲を向けた。デスザラスに向けて連射するが――
《私達を――》
「なめるなぁっ!」
咆哮し、アルテミスとデスザラスが閃光を放つ――放たれた砲撃が自分達に迫るビームを弾き飛ばし、グランジェノサイダーの足元を吹き飛ばす!
「ちぃっ!」
しかし、グランジェノサイダーもそれを上方に跳躍して回避。ジェノスラッシャーの翼でそのまま飛翔し、上空からデスザラスを狙うが、
「穿て――ブラッディダガー!」
「――――――っ!?」
デスザラスが告げると同時、グランジェノサイダーの行く手に無数の刃が出現した。とっさに回避しようとするが、そんなグランジェノサイダーにデスザラスの展開したブラッディダガーが降り注ぐ!
「どうした!?
先ほどまでの大口はどうした!?」
「ほ、ほざくな!」
スカイクェイクに言い返し、グランジェノサイダーはデスザラスから距離を取り、
「フォースチップ、イグニッション!」
背中に備えられたチップスロットへとフォースチップをイグニッション。胸部のジェノスクリーム、ビーストモードの頭部が口を開けた。露出した砲門にすさまじいエネルギーが収束していく。
「グランド――ジェノサイドバスター!」
咆哮と共に、グランジェノサイダーが閃光を解き放った。すさまじいエネルギーの奔流がデスザラスへと襲いかかり――
「シュベルトノワール!」
デスザラスが叫ぶと同時、その手の中に光が生まれた――光刃型アームドデバイス“シュベルトノワール”を一閃、デスザラスは自身に襲いかかってきた破壊の閃光を真っ二つに両断する!
「何だと!?」
「エネルギーの収束が甘い。
貴様らのようなベテランにしてはお粗末なミスだな――その形態を温存するあまり、制御の感覚が鈍っていたようだな」
必殺のはずの一撃を薙ぎ払われ、驚愕するグランジェノサイダーに、デスザラスはそう答えてシュベルトノワールの光刃、その切っ先を突きつけた。
「戦力温存、大いに結構。
だが、どんな刃も保管しておくだけではやがて腐食し、斬れ味を鈍らせる――もっとも大事なのは大切にしまっておくことではなく、確かな手入れを欠かさぬことだ」
告げて、デスザラスはシュベルトノワールをかまえ、
「見せてやる。
大事に飾られた宝剣と――戦いの中で磨き続けられた戦刀の違いを!」
「ぐ…………ぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
言い放つデスザラスの言葉に、グランジェノサイダーはのしかかるプレッシャーを振り払うかのようにデスザラスへと襲いかかり――
「フォースチップ、イグニッション!
デス、テイラー!」
デスザラスがフォースチップをイグニッション。分離した胸部装甲が変形した鉤爪型の必殺武器“デステイラー”を、デスザラスは迷うことなく投げつけた。鋭い爪がとっさにガードを固めたグランジェノサイダーの右腕に突き刺さり、
「貴様――先ほど自分を象、オレをアリにたとえたな?」
そう告げるデスザラスは、グランジェノサイダーの胸部にシュベルトノワールの刃を押し当てていた。
「いい機会だ。
アリに踏みつぶされる象の気分とやらを、味わうがいい!」
〈Explosion!〉
デスザラスが告げると同時、シュベルトノワールがカートリッジをロード。解放された魔力がシュベルトノワールの光刃をさらに強化し――
「デススラッシュ――ゼロ!」
刃を思い切り引き下ろした。その名の通り零距離から斬りつけられ、デスザラスの魔力が余すことなくグランジェノサイダーに打ち込まれる!
「ぐぁあぁぁぁぁぁっ!」
「大帝として――貴様に裁きを下す」
傷口から体内に侵入し、荒れ狂う破壊の魔力に、グランジェノサイダーがたまらず絶叫――そんな彼に告げ、デスザラスはクルリときびすを返し、
「判決――死刑!」
宣告と同時――打ち込まれた魔力のすべてが炸裂、グランジェノサイダーは紅蓮の炎に包まれていった。
「オシオキ、か……相変わらず、下らん物言いで場を茶化す男だ」
戦闘態勢に入っても、その態度は相変わらず――笑みを浮かべて告げるジュンイチの言葉に、マスターギガトロンは両足をわずかに開き、正面から向き合うかまえでジュンイチと対峙する。
「今の貴様に、そんな余裕などあるものか。
“支配者の領域”の弱点を暴くその過程で、一気にオレを仕留めておけばよかったものを……」
そう告げるマスターギガトロンの言葉に伴い、彼の魔力が周囲で渦巻き始めた。荒れ狂う魔力が火花を散らし、まるでムチのように鋭い音を立てて大地を叩く。
「後悔するんだな、柾木ジュンイチ。
貴様は最大にして唯一の勝機を失った!」
「そういうゴタクは――勝ってから言いやがれ!」
言い返すと同時、ジュンイチは力強く大地を蹴った。大きく開いていた両者の距離が一瞬にして0となり、ジュンイチはマスターギガトロンに向けて拳を繰り出し――
「そうさせてもらおう」
その拳がマスターギガトロンに届くことはなかった。
ジュンイチの動きを正しく視界に捉え、脇に半歩身をずらすだけで回避――必殺を確信していた一撃をかわされ、驚愕するジュンイチを、ネメシスの触手の1本が弾き飛ばす!
「ぐぅ………………っ!?」
「今回ばかりは、読み違ったな、柾木ジュンイチ」
“装重甲”越しとはいえ強烈な一撃を受け、弾き飛ばされるジュンイチの姿に、マスターギガトロンは余裕の笑みと共にそう告げた。
「確かに、オレは“支配者の領域”に力の配分の大部分を割いていた。
だが――それは逆に言えば、先ほどまでのオレは“支配者の領域”に力の大部分を持っていかれ、全力を出せない状態にあった、ということでもある。
先ほどまでのオレの戦闘能力が正しく全力だったと考えていたのなら、それはとんだお門違い――“支配者の領域”を解除し、すべての力を戦闘に回せるようになったこのオレの力が、あの程度だとは思わないことだ!」
告げると同時――マスターギガトロンが再びネメシスの触手を繰り出した。対し、かまえた“紅夜叉丸”を爆天剣に“再構成”、触手を受け止めるジュンイチだが――
「………………っ!?」
同時、別方向から迫る別の触手に気づくが、すでに遅かった――ジュンイチの反応すら許さないほどのスピードで飛び込んできた新たな触手がジュンイチを打ち据え、弾き飛ばす!
「――にゃ、ろうっ!」
それでも、ジュンイチは体勢を立て直した。大地を数度跳ねた末になんとか受け身を取って大地に降り立ち――
「甘い」
「――――――っ!?」
マスターギガトロンの言葉に息を呑み――上から襲いかかってきた多数の触手が、ジュンイチに向けて降り注ぐ!
「残念だったな。
“支配者の領域”に回していた力も戦闘に使えるようになった、ということは、それはすなわち、デバイスに回せる魔力も増えたということだ。
当然、ネメシスのキレも攻撃力も、それ相応に跳ね上がる!」
「あぁ――そうかい!」
言い返すと同時――頭上からの一撃で舞い上がった粉塵の中からジュンイチが飛び出してきた。爆天剣を手に、マスターギガトロンに向けて一気に距離を詰めていく。
対し、マスターギガトロンもネメシスの触手で迎撃――しかし、ジュンイチもそうそう何度もやられてばかりでは終わらない。マスターギガトロンの言葉どおり明らかにキレの増した触手の動きにも着実に対応し、回避していく。
そのまま、一気にマスターギガトロンを間合いに捉えた。渾身の力で爆天剣を大上段から振り下ろし――
「残念だったな」
しかし、その一撃もまたマスターギガトロン自身によって止められた――マスターギガトロンが展開した防壁が、ジュンイチの斬撃を受け止める。
「ネメシスを防いでも、まだオレ自身がいる。
どれだけあがこうが――貴様はオレには勝てないんだよ!」
そして――マスターギガトロンがジュンイチを殴り飛ばした。成す術なく鋼の拳を受け、ジュンイチが吹っ飛ばされる!
「ジュンイチさん!」
思わずはやてが声を上げる中、ジュンイチはなんとか距離を取って着地する――が、口元の血をぬぐって立ち上がる彼の姿は、度重なるマスターギガトロンの攻撃で、すでに激しく傷ついている。
情勢はかなり悪い――だが、彼以上に深いダメージを受けている自分達には彼を援護するすべがない。自分の無力を突きつけられ、はやては悔しさに耐えかねて視線を落とし――
――だからこそ、彼女は聞き逃していた。
「…………4回、か……」
ポツリ、とつぶやいた、ジュンイチのその言葉を。
時空管理局・本局、廃艦ドック――
「ビルドキラーズ、GO!」
その言葉と同時――ダブルフェイスのかざしたデバイスカードから光があふれ、その中から4機のパワードデバイスが姿を現した。
ドリル削岩車、ブルドーザー、ダンプカー、ハンマークレーン――『ビルド』の名が示す通り、建築車両型のパワードデバイスである。
そして、ダブルフェイスがビークルモードにトランスフォーム。荷台ミサイル発射台が後方に展開され、その先端に荷台を起こして合体ジョイントを露出させたダンプとハンマークレーンがまるでゲタでもはくかのような配置で合体、両足となる。
一方ドリルとブルドーザーは車体下方から両腕を出現させ、両腕となってダブルフェイスに合体する。
ボディ内部から新たな頭部がせり出し、ハンマークレーンのアームの基部から分離したヘッドギアが装着される。
最後に胸部に出現するのはデストロンのエンブレム――新たな姿となったダブルフェイスはノイズメイズ達に向けて蹴った。
ダブルフェイスのパワードクロス形態のひとつ、キラーパンチだ――飛び込んできたその巨体から繰り出される一撃をかわし、ノイズメイズとランページはそれぞれの武器をかまえ、
「これで――」
「どうじゃあっ!?」
同時に引き金を引き、キラーパンチに攻撃を叩き込むが――
「そんな――もんでぇっ!」
とっさに防壁を展開し、キラーパンチもそれを耐えていた。防壁を解除すると同時に両腕を振り回し、ノイズメイズ達を弾き飛ばす!
「くそっ、やってくれるのぉ!
ノイズメイズ、どうするんじゃ!?」
「あわてるな!」
声を上げるランページに対し、ノイズメイズは冷静にそう答えた。
「あと少し……もう少しで、こっちの準備は整う……!」
「くらえ!」
〈Blaze cannon!〉
「ぅひゃあっ!?」
放たれるのは、二振りある愛杖のひとつ“S2U”から放たれる熱線魔法――クロノの砲撃を、セイレーンはあわてて飛びのいてかわすが、
「逃がさないよ!」
「くらえぇっ!」
リーゼ姉妹がさらに追撃――襲い来るバインドと打撃をかいくぐり、セイレーンは彼女達からも距離を取り、改めて対峙する。
「何よ何よ! よってたかって!
可愛いネコミミつけてるからって調子に乗るなぁーっ!」
ムキになってそう言い放つと、セイレーンは自身の笛型デバイス、“淫欲”をかまえ、
「こうなったら、アンタ達も操ってあげる!」
言って、セイレーンは“淫欲”を口にあて――
「させるか!」
〈Stinger snipe!〉
それをクロノが阻んだ。もうひとつの相棒、“デュランダル”から放たれた魔力弾の雨が、“淫欲”を演奏しようとしたセイレーンを阻む。
「調子に乗ってクロ助を操らずに残したのは失敗だったね!」
「厄介な能力だけど――だったら使わせなきゃいいだけの話さ!」
「く………………っ!」
迫るリーゼ姉妹の爪をかわし、距離を取るが――元々セイレーンは直接戦闘を行うタイプではない。距離を取ったところで、“淫欲”を使えなければ状況を好転させる手はないに等しい。
だが、自分に与えられた使命はあくまで“アースラ奪取”。なんとかコイツらから身を隠し、アースラを見つけ出すことができれば――かなり甘い計算な気もするが、こうなってはその“甘い計算”を現実にするしかない。意識を集中し、セイレーンは目の前の敵のスキをうかがい――
爆発が巻き起こった。
「な、何………………っ!?」
突然、廃艦ドックのあちこちで、立て続けに爆発が発生――突然の異変に驚き、クロノが声を上げると、
「へへんっ、どんなもんだ!
作戦成功だぜ!」
勝ち誇ってそう告げるのは、この爆発にまぎれ、ランページと共にキラーパンチから逃れてきたノイズメイズである。
「幸いっつーか何つーか、そこの瘴魔の嬢ちゃんに操られずに済んだシャークトロンがいたんでな!
そいつらを操って、爆弾シコタマ仕掛けさせてもらったのさ!」
「ワシらの目的は、最初からアースラの破壊じゃったからのぉ!
そのための爆薬がたんまりあったから、仕掛けには苦労せんかったわ!」
「えぇっ!?」
「それじゃあ、アースラは……!?」
ノイズメイズやランページの言葉に、アリアやロッテは周囲の、もはや“惨状”と言ってもいいその光景を見渡した。
彼らが『アースラの破壊用に持ち出してきた』と豪語するだけあって、爆弾の威力はかなりのものだったようだ。爆弾を仕掛けられたらしい近くの艦は船体がへし折れかねないほどの大穴が開けられている。
しかも、首尾よくいけばアースラを完全破壊するつもりだったのだろう。そんな威力の爆薬を、ノイズメイズ達は大量に持ち込んでいた。ほとんどの艦船が中破以上の損害を受けている。中にはほぼ完全に大破しているものもある。
「ここまでやっとれば、この中にあるはずのアースラにもきっと仕掛けられたはずじゃ!
もし外れでも、この中にあったんなら確実に巻き添えはくっとる! 使いモンになんかなるはずないわ!」
胸を張ってそう告げると、ノイズメイズとランページは顔を見合わせ、
「そんなワケで――」
「ワシらの用事はおしまいじゃーっ!」
「あーっ! 逃げた!」
迷わず逃げに転じた。クルリときびすを返して逃げていく二人の姿に、ロッテが思わず声を上げる。
と――
「あぁ〜あ、結局ミッション失敗か」
今の爆発にまぎれて距離を取ったのだろう。セイレーンもまた、肩をすくめてそうつぶやいていた。
「じゃ、私も帰るわ。
残ってる瘴魔獣は好きにしていいよ。あなた達くらいのレベルなら、あの程度はなんとかなるでしょ?」
「逃がすもんか!」
告げるセイレーンに言い返し、アリアが一気に距離を詰めた。セイレーンに向けて右手の爪を繰り出し――
「誤解がないように説明しとくけど」
「な………………っ!?」
セイレーンは、そんなアリアの一撃を“片手で”受け止めていた。
「確かに私は、私達“瘴魔獣将”の中で唯一戦闘タイプじゃないけどね……」
そのまま、アリアの手を組み合うように握りしめ――
「私達共通の身体能力の高さは、ちゃんと持ってるのよ!」
力任せに振り回し――足場にしていた艦船の甲板に、アリアを叩きつける!
「要は、持ってる力を使いこなせる子かそうじゃないか、ってことで――私が“使いこなせない子”ってこと。
直接戦わないからって、非力と決めつけるべきじゃなかったわね」
そう告げると、セイレーンは改めて足元に術式陣を展開し、
「じゃ、また改めて会いましょう。
ただし……“淫欲”の能力が知られた以上、私もそっちの妨害を考慮して相応に作戦を立てさせてもらうから。
楽に勝てるとは……思わないことね」
そう告げて――セイレーンはその場から完全に姿を消していった。
「雷光――砕斬!」
咆哮と共に手にした雷槍を一閃――ブラックザラックの放った雷撃の刃を、サウンドウェーブとサウンドブラスターは散開して回避するが、
「逃がしません!」
リニスが動いた。チェーンバインドでサウンドウェーブらを捕獲し、
「どぉりゃあっ!」
レオザックが追撃をかけた。エネルギーミサイルをばらまき、動きを止められたサウンドウェーブ達にまとめて叩き込む!
「残念だったな。
シャークトロンも壊滅し、あとは貴様らだけ――数の差でつぶされるのは、お前らの方だ!」
「く………………っ!」
ブラックザラックの言葉に、サウンドウェーブは言い返す余裕もなくうめき――
「どわぁっ!?」
突如、二人の足元――管理局本局の甲板が爆発した。サウンドブラスターが声を上げ、彼らが爆炎に飲み込まれる。
「何だ!?」
「誰かが援護してくれた……?」
突然の異変にレオザックとリニスが声を上げ――
「ケホッ、ケホッ……!」
「この……バカ!
あんな狭い廊下でグレネードなんか使いやがって!」
爆煙にせき込みながら姿を現したのは、局内から脱出してきたランページとノイズメイズである。
「お、お前ら……何をする!?」
「悪かったのぉ。
お前らがそこにいるとは思っとらんかったわ」
声を上げるサウンドウェーブに対し、悪びれる様子もなくランページが答えると、そんなランページを押しのけ、ノイズメイズがサウンドウェーブらに告げる。
「それより……こっちはミッション完了だ。
とっとと引き上げるぜ!」
「おぅ!」
「何――――――っ!?
逃がすか!」
ノイズメイズの言葉にサウンドブラスターがうなずく――そうはさせじと、ブラックザラックも“雷光砕斬”を放ち――
「そんじゃ、あばよ!」
「ばいばいき〜んっ♪」
ノイズメイズ達が告げると同時、ワープで姿を消す――ブラックザラックの放った一撃は、目標を捉えることなく虚空へと消えていった。
「…………ブラックザラック……」
「わかっている」
リニスに答え、ブラックザラックは合体を解除――ザラックコンボイに戻り、その場に降り立った。
「ヤツらの作戦が成功したということは……やられたようだな、ドックが……」
一瞬思考が暗くなるが――すぐに気を引き締め、ザラックコンボイはブリューナクを肩に担ぐとリニスやレオザックに告げる。
「とにかく……オレ達も局内に入るぞ。
まだ敵が残っているようだ――“掃除”にかかるぞ」
「はい!」
「了解!」
「…………っ……」
「ライカさん……気がつきましたか?」
意識を取り戻し、開かれた視界に映るのは黒煙で曇った星空――意識を取り戻したライカに気づき、なのはが声をかけてくる。
「なのは……?」
未だ覚醒しきらない頭で彼女の姿を確認し――なのはのボロボロのバリアジャケット姿を見た瞬間、ぼやけていた意識が一気に覚醒した。
「な、なのは、そのケガ!?
そういえば戦いは……!? どうなったの!?」
「まだ……続いてます」
あわてて声を上げ――全身に走った痛みに顔をしかめながら尋ねるライカにそう答えるなのはだが、その表情は暗い。
「ただ――かなり、悪い状況で」
なぜなら、状況は決して楽観視できるものではなかったから――つぶやき、視線を動かしたなのはの見ているものへとライカも意識を向け――
「ぐぁ…………っ!」
再び、突撃が失敗に終わったジュンイチをマスターギガトロンが殴り飛ばす――もう何度目になるかもわからない光景が繰り返され、ジュンイチはそれでも何とか受け身を取って頭上に跳ぶ。
「く………………っ!」
そして、腰のカードホルダーに右手を伸ばし、カードを引き出し――
「コピーデバイスなど――使わせるものか!」
それを許すマスターギガトロンではなかった。すかさず伸ばしたネメシスの触手が、カードをセットしようとしたジュンイチを打ち据え、叩き落とす!
「そのデバイス……確かにコピーを次々に作り出される点は厄介だが――カードを装填しなければ使えないシステムにしたのは失敗だったな!
カードにデータを組み込み、本体の処理を軽くするための処置だろうが――だからこそ、こちらはカードの装填を阻止するだけで“力”の行使を阻害できる!」
言い放ち――マスターギガトロンは再び触手を振るった。ジュンイチはまともに攻撃を喰らって跳ね飛ばされ、再びガレキの山の中に叩き込まれる。
「じ、ジュンイチ……!?
アイツ……ひとりでマスターギガトロンと……!?」
「だ、ダメですよ……その身体じゃ……!」
ジュンイチの姿を確認し、彼女は大体の状況を察した。なんとか立ち上がろうとするライカを、なのははなんとか動かせる右腕で引き止める。
「ライカさんだって、ダメージは軽くないんですから……」
「だ、大丈夫よ……!
このくらいのケガで……!」
《アバラ8本と左の鎖骨の折れた状態のどこが“このくらい”!?》
なのはに答えるライカだが――彼女の状態はすでに診断済みだったようだ。なのはに装着されたままのプリムラに自分のケガの具合を知らされ、ライカは思わず歯噛みする。
そんな彼女達の目の前で、ジュンイチがネメシスの触手による猛攻にさらされる――なんとかかわしていくが、そのスキに間合いを詰めてきたマスターギガトロンがジュンイチを蹴り飛ばす!
「あかん……!
マスターギガトロンとジュンイチさんとじゃ、基本能力は圧倒的にマスターギガトロンが上……!
あぁも真っ向勝負で猛攻をかけられたら、ジュンイチさんも得意の奇策を仕込む余裕はあらへん……このままじゃ……!」
今でこそなんとか持ちこたえているが、このままではいずれジュンイチも――フラフラと身を起こすジュンイチの姿を見ながらはやてがつぶやき――
「………………」
「……え…………?」
ジュンイチが何かをつぶやいた――自分の“装重甲”の集音マイクでそのつぶやきを拾い、ライカは思わず眉をひそめた。
「ねぇ……みんな」
「はい?」
静かに声をかけるライカに、はやてが顔を上げる――そんな彼女に、ライカは尋ねた。
「ジュンイチ……“何を数えてる”の?」
「え………………?」
「今、アイツがつぶやいたのよ。
『22回』って」
まったく予想だにしなかった問いに、はやてが思わず呆け――ライカはそう説明する。
「ジュンイチさんは、何かを数えてる……?
でも、何を……?」
もしそうだとして、そもそも彼は何を数えているのか――疑問の声を上げるフェイトの視線の先で、ジュンイチは再びネメシスの触手に吹き飛ばされる!
「これで……23回か……」
ライカの指摘したとおり、ジュンイチは確かに何かを数えていた――叩き込まれたガレキの中からゆっくりと身を起こし、ポツリ、とつぶやく。
「貴様……さっきから何を数えている……?」
「さてね」
一方、直に対峙しているマスターギガトロンも、カウントが10を越えたあたりでジュンイチが何かを数えているのに気づいていた。先ほどから繰り返している質問を再び放つが、ジュンイチはやはり答えようとしない。
少なくとも、ジュンイチが何かを企んでいるのは間違いない。だからこうして小細工を仕込む間もないほどに攻め続けているのだが――それでも一向にカウントが止む気配がないのが不気味だった。
「…………まぁ、いい。
何か企んでいるとしても――カウントが続いている以上、それはまだ成就には至らないということ。
貴様の企みが形となる前に、叩きつぶしてやる!
ジュンイチの策が一度でもハマれば、それだけで主導権を持っていかれることになる――策が成る前に叩くしかないと判断し、マスターギガトロンは一気にジュンイチへと襲いかかった。とっさに距離を取ろうと背後に飛ぶジュンイチを、あらかじめ彼の後方の地中に潜めておいたネメシスの触手で打ち据える!
「が………………っ!?」
勢いよく後退したところに背中からの一撃を受け、ジュンイチがうめき――そんなジュンイチを、マスターギガトロンは渾身の力で殴り飛ばす。
「とどめだ!」
そして、大地に叩きつけられたジュンイチに肉迫、彼の命を刈り取るべく拳を繰り出し――
「今ので……25回」
その言葉と同時――ジュンイチの姿がその場から消えた。
「何………………っ!?」
突然動きの変わったジュンイチの姿を見失い、マスターギガトロンが声を上げ――
「はい、オシオキタイムしゅーりょー」
ジュンイチの姿はマスターギガトロンの背後にあった。首筋をコキコキと鳴らしながら、誰に告げるでもなくそうつぶやく。
「終了、だと……?
何をバカなことを。貴様はその“オシオキタイム”とやらを宣言してから、ただの一発もオレには入れられていないんだぞ。
それとも、オレを相手に“オシオキ”は不可能と悟って、あきらめての終了か?」
「んにゃ。
オシオキはきっちり遂行されたさ」
突然の異変に警戒し――それでもそれを悟られまいと余裕を装いながら尋ねるマスターギガトロンだが、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「ちゃんとオシオキされたよ。
きっちり、25発――“お前が”“オレに”かましたじゃねぇか」
「何、だと……!?」
それがなぜ“オシオキ”につながるのか――ますますジュンイチの意図がわからず、マスターギガトロンは眉をひそめる。
「どういうことっスか? クア姉」
「私に聞かれてもわからないわよ」
一方、彼の行動の意味がわからないのはなのは達も、そしてナンバーズも同様だった。尋ねるウェンディだが、クアットロは痛みのぶり返さない範囲内で肩をすくめてみせる。
「今の口ぶりからすると、25発って言うのは、“オシオキタイム”開始からマスターギガトロンが柾木ジュンイチに叩き込んだ攻撃の回数だ、ってことはわかるけど……それのどこがオシオキなの?
ただ柾木ジュンイチが痛い思いしただけじゃない。どこがマスターギガトロンへのオシオキになってるっていうの?」
「そうだよね……」
クアットロの言葉にディエチが同意すると、
「何だ、お前らもわからない?」
そんな彼らの言葉を聞きつけ、ジュンイチは苦笑まじりにそう声をかけてきた。
「なら、言い方変えようか?
“17発”と“8発”――ここまで言えば、ヒントくらいにはなると思うけど」
「だから、それのどこが……!」
ジュンイチが告げるが、やはりワケがわからない。クアットロがジュンイチに向けて声を上げ――
「…………“人数”……」
ポツリ、とそうつぶやいたのはセッテだった。
「人数……?」
「はい」
思わず聞き返すセインに答え、セッテはジュンイチへと視線を戻し、
「こちらが私達6名とゼスト・グランガイツ、アギト……計8名。
そして――機動六課側がカイザーズの協力者だったイリヤスフィール・フォン・アインツベルン、美遊・エーデルフェルト……ブリッツクラッカーとそのパートナーを加えて17名。
つまり……」
「柾木ジュンイチのカウントは、マスターギガトロンに打ちのめされた我々の人数と一致します」
「まさか、貴様……!?」
「ま、そーゆーコトだね」
セッテの言葉により、ジュンイチの意図が明らかになった――思わずうめくマスターギガトロンに対し、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「正直、オレとしてはお前の登場は完全に予想外だったからな。
そもそも、ディセプティコンの参謀どもはとっとと退場、ナンバーズと機動六課で痛み分け……ってな感じになると予想してたんだけど、お前が介入してくれたおかげで全部パー。
お前が用意してた“支配者の領域”のおかげで、なのは達もナンバーズも大した抵抗もできずに壊滅。イクトやゼストのオッサン達が墜とされただけでも予定外だっつーのに、なのはなんか利き腕つぶされちまったし。
オレがきっちりお前の登場まで読んで、対策とってりゃ防げたはずの事態なんだ――それを防げなかった以上、落とし前はつけとかないとな」
「だから……“そう”なった最大原因である“支配者の領域”をつぶし、さらにオレを全開戦闘の場に引きずり出し、あえてその攻撃を喰らったというのか……!?
オレの本気の攻撃を、きっちり25発、オレの撃墜した人数分……!」
「オレのせいでこうなったんだ。
だから、せめて……こいつらの味わった痛みの何割かぐらいは味わっとかないと、オレの気が済まねぇんだよ」
「そうか……
さっきジュンイチさんが言ってた『オシオキタイム』って……!」
「“マスターギガトロンへの”じゃなくて……“マスターギガトロンを止められなかった自分への”……!?」
マスターギガトロンに答えるジュンイチの言葉に、なのはとフェイトは思わず息を呑んだ。
あの場でのマスターギガトロンの参戦など、誰が予想できただろう――ハッキリ言ってしまえば、自分達のこの負傷は誰のせいでもない――少なくとも、ジュンイチのせいでは絶対にない。
それでも、ジュンイチはこの事態を防げなかったことを自分の責任と断じ、下手をすればそのまま命を落としていたかもしれない攻撃に身をさらし、自らに対する罰とした――ある種自らに対してすら“冷徹”と言えるその徹底ぶりにはある種の戦慄すら感じられる。
だが――そんな彼女達にかまわず、ジュンイチはマスターギガトロンに向けて告げる。
「本音としちゃ、最初の最初、真っ先に“オシオキ”は済ませておきたかったんだけどな……“支配者の領域”の恩恵でテングになってるてめぇの攻撃なんか、いくら喰らったところで“オシオキ”になんかなりゃしねぇ。
だから、てめぇに本気を出させるために真っ先に“支配者の領域”を叩かせてもらったんだ……てめぇのことだ。そうすりゃ必ずムキになってかかってくると思ったよ」
「なるほどな……
抵抗していたのもあくまで芝居――マジメに戦っているように見せかけ、オレに何の疑問も持たず本気で攻撃するように仕向けるため……
オレは貴様が自らに“ケジメ”をつけるためのダシとして、まんまと踊らされたというワケか」
そうつぶやくが――マスターギガトロンの言葉に、悔しげな感情は一切宿っていなかった。
なぜなら――
「だが……その代償は高くついたようだな。
オレの全力の攻撃を25発――それも、不自然にならない範囲内で、とはいえほぼすべてがクリーンヒット。
実際、貴様のダメージは決して軽いものではあるまい」
そう。理由はどうあれ、マスターギガトロンの攻撃をまともに受け続けていたジュンイチの身体には、すでに尋常ではないほどのダメージが蓄積されていた。
今の彼に、全開での戦闘などとうてい不可能――そんな確信が、マスターギガトロンの中に余裕の感情を生み出していたのだ。
「戦士として自分に厳しいのはいいが、それも度が過ぎると足かせにしかなるまい。
いつもふざけてばかりの貴様が、らしくもないことをするからそういうこt――」
「うっさい」
その瞬間――マスターギガトロンは悟っていた。
距離を詰められ、その拳を顔面に叩きつけられ――ほんの一瞬でガレキの山に叩き込まれて、ようやく自分の見立てが間違っていたことに気づいていた。
「黙って聞いてりゃ、阿呆なことをグダグダと……
どんだけケガしてようが関係ねぇんだよ」
言って、ジュンイチはガレキの山の下から身を起こすマスターギガトロンへと鋭い視線を向け、
「悪いけどさ……こう見えて、こちとらハラワタの中、そりゃもうグツグツと煮えくり返ってるんだよね」
言いながら、ジュンイチは腰のカードホルダーからカードを引き出した。
「オレの目の前で“もう一度”なのはをズタボロにしやがって――いくら“一度目”の犯人がてめぇじゃなかったからって、こっちとしちゃガマンにも限度があるんだよ」
そのカードには絵柄はなく、代わりに“U”と大きく書き込まれている――それを右腕のガントレットのトレイにセットし、
「悪いが……遠慮なく、八つ当たり風味にブチギレさせてもらうぞゴラァッ!」
〈セカンドモード、スタンバイ〉
宣言すると同時にカードを装填した。“蜃気楼”が淡々と告げ――
デバイスが無数に出現した。
レイジングハート、バルディッシュ、シュベルトクロイツ、レヴァンティン、グラーフアイゼン――その他、なのは達が知っているもの、知らないもの……とにかく無数に近い数のコピーデバイスが作り出され、戦場を取り囲むようにズラリと並べられたのだ。
「こ、こいつは……!?」
「こいつが、“蜃気楼”の卍か……もとい、セカンドモードさ」
予想だにしなかった光景に、思わずうめくマスターギガトロンにはこの光景を作り出した張本人、すなわちジュンイチが答えた。
「名づけて……」
――“夢幻蜃気楼”――
ジュンイチがその名を名乗ると同時、周囲のデバイス達が“奮えた”。まるで歓喜の叫びを上げるかのように、ひときわ強く“力”を震わせ、その存在を誇示してみせる。
「オレのガントレットはナノマシンの補充のための製造機も兼ねててね。
オレの精霊力を材料に、力の続く限りナノマシンを作り続けることができる――もちろんガントレット内で作るからAMFや“支配者の領域”の影響は受けないのであしからず。
で、その力を全開にして、デバイスを片っ端から、作れるだけ作り出し、常時展開状態にしたのが、この“夢幻蜃気楼”――ちょっとしたネタに、『夢幻』と『無限』をかけてみました♪」
そう告げると同時――爆天剣を足元に突き立てたジュンイチの元に、デバイス群の中から一対のリボルバーナックルが飛び出してきた。頭上に掲げたジュンイチの両手に、まるで狙い済ましたかのようにスッポリと装着される。
改めて爆天剣を引き抜き、その切っ先をマスターギガトロンに向け――
「んじゃば、オレとしても戦闘準備は整ったワケで――ギガトロン」
改めて仇敵の名を呼び――告げる。
「さぁ……“始めようか”」
ジュンイチ | 「今、お前の見ているパソコンにウィルスを感染させた。 もうお前は、すでに更新されている次の話を読み終わるまで他の操作をすることができな――あ痛っ!?」 |
なのは | 「一体何してるんですか、ジュンイチさん!?」 |
ジュンイチ | 「いや、次の話への誘導を……」 |
なのは | 「合法的にやりましょうよ! ……と、ゆーワケで、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 決着、陳述会攻防戦!真夏の2本立て・大決戦スペシャル 〜お盆進行なんて言わないで〜 まだまだ続きます!」 |
ジュンイチ | 「長いタイトルだなぁ……」 |
なのは | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第73話『“始まり”の“終わり”〜“勝利”という名の“敗北”〜』に――」 |
二人 | 『ゴッド、オン!』 |
(初版:2009/08/15)