「フンッ、貴様もいよいよ本気、というワケか……」
ジュンイチの展開した“蜃気楼”のセカンドモード“夢幻蜃気楼”――無数に生み出されたコピーデバイスに取り囲まれた戦場の中、マスターギガトロンはジュンイチに向けてそう告げた。
「だが……貴様はひとつ、大事なことを忘れている」
「何………………?」
「それは!」
首をかしげるジュンイチに対し、マスターギガトロンはすかさず魔力砲を放った。巨大な魔力の奔流がジュンイチに向けて襲いかかる。
「そんなもん!」
だが、真っ向から撃ったところでジュンイチには通じない。難なくマスターギガトロンの魔力砲をかわすジュンイチだったが――同時、背後でひときわ大きな爆発が巻き起こった。
振り向けば、建物がひとつ、爆発、炎上している――ジュンイチのかわした今の魔力砲が、地上本部の施設のひとつを爆砕したのだ。
「どうだ?
貴様はかわせても、周りはあの通りだぞ。
地上本部を巻き込んででも、全力を出すことが貴様にできるか?」
炎上する建物を見つめるジュンイチに対し、余裕の態度で告げるマスターギガトロンだったが――
「………………」
ジュンイチは無言で爆天剣を傍らに突き立てた。同時、周囲のコピーデバイス群の中から、黒いレヴァンティンがジュンイチの前に舞い降り、ジュンイチはそれを先ほど装着した黒いリボルバーナックルを着けたまましっかりと握りしめる。
「フンッ、懸命だな。
砲撃はあきらめ、近接戦を選んだか」
そう告げるマスターギガトロンに対し、ジュンイチは静かに向き直り――
「…………バカか、てめぇ」
告げると同時――そんな彼の目の前に巨大なスフィアが出現した。魔力ではなく精霊力で作り上げられたそれに向け、おもむろにレヴァンティンを振り上げ、
「…………ブレイジング、バスター」
スフィアに向けて斬りつけた――同時、スフィアから解き放たれた巨大な炎の奔流が、渦となってマスターギガトロンに襲いかかる!
「何だと!?」
斬りかかってくると思っていたが、まさか“レヴァンティンで砲撃を撃つ”とは――驚愕しながらも身体は動いた。マスターギガトロンはあわてて上空に飛び立ち、炎の渦を回避して――
炎の渦は、地上本部ビルを取り囲む塔のひとつを真正面から撃ち抜いていた。
「な………………っ!?」
根元を撃ち抜かれ、塔は轟音と共に崩れ落ちていく――迷うことなく、自分の先の一撃を上回る破壊をもたらしたジュンイチの行動に、マスターギガトロンは思わず言葉を失い――
「甘かったな、ギガトロン」
そんなマスターギガトロンに対し、ジュンイチは静かに告げた。
「オレが助けに来たのは“地上本部”じゃない――オレはただ、“コイツらを”助けに来ただけだ」
言って、なのは達を――そしてナンバーズを見回した。改めてマスターギガトロンに向き直り、告げる。
「つまり――」
「この戦いで、地上本部がどうなろうが……オレの知ったことじゃない」
第73話
“始まり”の“終わり”
〜“勝利”という名の“敗北”〜
機動六課、本部隊舎前――
「イカヅチ!」
〈Vulcan mode!〉
あずさの言葉に応じ、イカヅチが射撃形態に――大量の魔力弾がばらまかれるが、
「そんなもの!」
やはりディードのゴッドオンしたマグマトロンには通じない。ものともせずに突撃し、振り下ろした光刃があずさの振るったレッコウと激突する。
重量差で分があっても、込められている“力”はそれ以上にあずさのレッコウが上――光刃が粉々に撃ち砕かれるが、ディードもそんなことは前提のうちだった。すかさず身をひるがえし、あずさを蹴り飛ばす!
「くぅ………………っ!」
さすがにこれは踏ん張りきれない――イスルギのフィールドと装甲に守られたものの、大きく跳ね飛ばされて大地に叩きつけられる。
「やっぱ、バルカンモードじゃ止まんないか……!」
「そんなことは先刻承知のはずですが」
もう何度もあずさの弾幕を突破しているのだ。あずさもそんなことはわかっているはず――うめくあずさに答え、ディードは再びあずさに向けて地を蹴り――
「あたしもそう思ってさ……」
告げて、あずさはイカヅチをディードに向け、
「設定変更で、もう一段上のモードを用意してあったりするのよね」
「え………………?」
その言葉に思わずディードが声を上げ――
「イカヅチ!」
〈Gatling mode!〉
「――――――っ!?」
あずさに答えるイカヅチの言葉は、これから待っている事態を予見させるにはあまりにもわかりやすすぎた――戦慄し、後退しようとするディードだったが、それよりも早く、先ほどとは比べ物にならない量の魔力弾がディードに、マグマトロンに向けて降り注ぐ!
“ヘタな鉄砲なんとやら”どころではない。むしろ“塵も積もればなんとやら”――ほとんど「壁」、もしくは「津波」と言ってもいいほどの密度で魔力弾をばらまかれ、ディードは立て続けに直撃を受け、吹っ飛ばされる。
「これがこの子の“射撃系”全開モード、ガトリングモード。
この子がその気になったらオーバーSクラスの砲撃が撃てるのは話したよね? そのパワーを全開にした状態で、かつ速射性のパラメータをMAXまで上げて撃つと――こうなるの」
言って、あずさは目の前でイカヅチを着けた左手をプラプラと振ってみせる。
「あたしの“四神”はあくまでオーバーSランク魔導師を圧倒する、そのためにある――そのことを、忘れないでよ!」
咆哮し、あずさはレッコウをかまえて突撃をかけた。対し、ディードも対抗すべくツインブレイズを発動、光刃をかまえ――
「イスルギ!」
「――――――っ!?」
あずざが、ディードに向けてイスルギのシールドビットを放った。展開した防壁を鈍器代わりにして襲いかかってくるビットの群れを、ディードは光刃で次々に弾き飛ばし――
「遅いっ!」
ビットに気を取られすぎた。迎撃にかかっている間に懐に飛び込んできたあずさが、レッコウの一撃をディードの――マグマトロンの左ヒジに叩きつける!
装甲部ではなく関節部に、しかもオーバーSランクのそれ匹敵するほどに強化された一撃を叩きつけられては、さすがのマグマトロンもたまったものではなかった――あっさりと叩き折られ、ちぎれ飛ぶ!
さらに、振り抜いた勢いで一回転、追撃の一撃をディードの左の側頭部に叩きつけた。ふらつくディードの胸に蹴りを叩き込むが、これは攻撃よりも距離を取るため。間合いを離して仕切り直すと、あずさは再びディードに向けて地を蹴った。
当然、反撃に出るディードだが――2本束ねて叩きつけたツインブレイズでも止められないのは過去の激突で証明済みで――しかも右手1本ではそれこそどうしようもなかった。あずさの一撃は難なく光刃を粉砕、ディードをまともに弾き飛ばす!
「きゃあぁぁぁぁぁっ!」
「ったく……押し負けるのがわかってるのに、なんでわざわざ正面から一撃もらいにいくのかなぁ?」
初めてあの子の悲鳴を聞いたかも――そんなことを考える一方で、あずさの脳裏は“呆れ”の感情が占めていた。ため息まじりにつぶやき、トンッ、とレッコウを肩に担ぐ。
「それに、さっきから見てると軌道の取り方とかオールレンジ武器を落とす際の回り込み方とか、いちいち機械的すぎるのよね。
能力は高いし、乗ってるトランステクターの性能がすごいせいで反則級の戦闘能力だけど……その使い方がちっともなってない。
もっとハッキリ言おうか? 要するに……」
開いている左手でディードをピッ、と指さし、告げる。
「キミ……ちょっとシャレにならないレベルで実戦経験なさすぎ」
「実戦経験が? 私が?」
だが、その言葉はディードにとって的外れなものとして捉えられたようだ。不服そうに声のトーンを落とし、ディードはあずさに答える。
「失礼ですが、そんなことはありません。
私は……いえ、私達ナンバーズは、“動作データ共有”という機能を持っています。
簡単に言えば、他の姉妹の経験が自分自身にも反映されるシステム――このシステムにより、私達は常に最新の戦闘データを……」
「あー、もういい」
しかし――あずさはいつもだったら最後まで言わせるところであるディードの説明を途中でバッサリと斬り捨てた。
「よーくわかったよ。
なんでキミが“そういう状態”なのか」
面倒くさそうに頭をかきながら、あずさはディードに対し堂々と告げる。
「要するに、ディードちゃんの主張としては、お姉ちゃん達からのデータをリアルタイムで受け継いで、それを自分の動きに反映させてるから、実戦経験が足りないなんてことはない……と、こういうことでしょ?
でもね――」
その瞬間――あずさの表情が一変した。にらみつけるような鋭い視線を向け、告げる。
「それこそがおバカの元凶だよ。
確かに、そういうことなら常に最新のデータが手に入って便利だけどさ……」
「それだけじゃ……キミはそれをただ“知る”だけでしかない」
「――――――っ!」
その言葉に、あずさの言いたいことが理解できたようだ。ディードが思わず息を呑むのが、離れていてもわかった。
「“動作データの共有”だけじゃ、ディードちゃんはただ“お姉ちゃんがこういう経験をした”っていう情報を得るだけ――ただ理解しただけで、それを自分にどう活かすか、っていうところを、ディードちゃんはぜんぜん考えてない。
得られたデータを元にした戦闘はできるけど、得られたデータそのまま、その通りに動くだけ――どうりで動きがやたらと機械的なワケだよ。教わったことをそのままなぞってるだけだもん」
言って、あずさはレッコウをかまえ直し、
「もう一度、ハッキリ言う――ディードちゃんには何よりもまず、実戦で自分の力を、知識を発揮する経験が足りてない。
あたしは経験があっても自身の“力”が足りてない。ディードちゃんには“力”はあっても経験はない……
最初、あたしは『お互いに未熟者同士』って話をしたけど……一口に『未熟者』って言っても、そのあり方はいろいろ。
少なくとも――ディードちゃんの“未熟”は、あたしの“未熟”に対して、相性が悪すぎるんだよ!」
咆哮と同時、あずさが地を蹴る――対し、ツインブレイズで反撃に移るディードだったが、刃が届く直前、あずさの姿が視界からかき消える。
だが――ディードは捉えていた。
あずさの“移動”の際に一緒に飛んだであろう――宙に跳ねた土の粒を。
(おそらくブーツについていたもの――ということは!)
「上!」
ほぼ確信に近い想いで頭上を見上げるディードだったが――
「――いない!?」
そこにあずさの姿はなかった。思わずディードが声を上げ――
「残念でした、正反対!」
声と一撃は“真下”から――ディードの視界から逃げると同時にこっそり手に忍ばせていた土を宙に放り、離脱先を偽装した上で足元に飛び込んでいたあずさが、レッコウの一撃でディードのアゴを打ち上げる!
「だから言ったでしょ? 『経験が足りない』って。
つい数秒前までお姉ちゃん達のデータに頼りっきりだったディードちゃんが、自分の頭で考えてるあたしに、勝てるワケないでしょうが」
背を向け、あずさが告げて――軽く振り上げたレッコウが彼女の肩に担がれるのと、跳ね飛ばされたディードが轟音と共に大地に落下したのは、ほぼ同じタイミングだった。
「IS発動――レイストーム!」
宣言と同時に光が走る――オットーのゴッドオンしたクラウドウェーブの放った光の帯は、バインドとなって対峙するブロードサイドを縛り上げ、
「もう、一発!」
今度は攻撃として放った。今度は光弾として放ったそれがブロードサイドへと降り注ぎ――
「…………ゴメンね。
私のブロードサイドには、そんな攻撃じゃ効かないよ」
ブロードサイドはオットーの攻撃に耐えていた。爆炎の中から無事な姿を現すと、オットーのバインドを馬力任せに引きちぎる。
「ボクのレイストームのバインドを……!?」
予想を上回るブロードサイドのパワーに、オットーは思わず声を上げ――
「…………あ、でもね」
不意に、ブロードサイドが口をはさんできた。
「私が力強いワケじゃないからね?
あくまで、ブロードサイドがパワーが強いだけだから……」
「………………?」
念を押すように、ところどころを強調しながら告げるブロードサイドの言葉に、オットーは思わず首をかしげた。
「なんで、わざわざそれを言うの?」
「えっと……私も、女の子だから……
その、力持ちって思われちゃうと、その……」
「そういうものなんだ……」
「うん……
だから、納得しておいてね?」
「わかった」
ブロードサイドの言葉にうなずくと、オットーは彼女から距離を取り、両者は改めて仕切りなおす。
「じゃあ……今度はこっちの番だね。
みs……じゃない、オクトーンが心配だから、早く終わらせてもらうよ!」
言い放つと同時、ブロードサイドの攻撃――両腕、ビークルモードの船首底部にあたる部分から多数のミサイルが放たれ、オットーへと襲いかかるが、
「そんなもの……当たらない!」
ブロードサイドの攻撃もオットーには届かなかった。次々にかわし、かわしきれないものはレイストームで迎撃していく。
「キミは当たっても効かない……」
「あなたは効くけど当たらない……」
お互いに決定打に欠ける状況だ――互いにつぶやき、オットーとブロードサイド、両者は目の前の均衡を崩すべく、弾かれ合うようにその場から跳躍した。
「くらえ!」
狙いを定め、スタースクリームの放ったエネルギーミサイルは、狙いたがわず目標へ飛翔する――が、空間に溶け込んだショックフリートには届かない。閃光は虚しく彼の身体をすり抜け、
「今度はこっちの番だ!」
実体化したショックフリートの放ったエネルギーミサイルをスタースクリームも回避。両者は一度距離を取って対峙する。
「なかなか持ちこたえるな、スタースクリーム。
だが――わかったはずだ。何度オレに攻撃しようが、オレには届かな――」
「なるほどな」
「…………何?」
自信と共に告げるショックフリートだったが、その言葉をさえぎったのはスタースクリームだった。眉をひそめ、ショックフリートはスタースクリームへと訝しげな視線を向けた。
だが、スタースクリームはそんなショックフリートにかまうつもりはなかった。ピッ、と彼を指さし、告げる。
「貴様のその空間潜行術――量子飛躍の一種だな?
身体を量子レベルで分解し、ある種の次元エネルギー体となることで空間に溶け込み、一体化している。
貴様が攻撃の度に実体化しなければならないのもそれが原因だ。身体がエネルギー粒子と同質となってしまっているために、実体化してから攻撃しなければ自分の身体を構成しているエネルギーまでもが攻撃に巻き込まれてしまうから……違うか?」
「厳密に原理を追求しだすとキリがないが……おおむねその通りだ」
告げるスタースクリームに答えると、ショックフリートは空間に溶け込んだまま満足げにうなずいてみせる。
「だが……それがわかったところで、どうすることもできまい?
“潜行”したオレはまさにその空間そのもの――いかなる攻撃も、オレを傷つけることはできはしない。
貴様に、空間に溶け込んだオレを直接攻撃する手段があると言うなら、話は別だがな」
勝ち誇り、そう告げるショックフリートだったが――
「ある……と言ったら?」
「…………何?」
告げられたスタースクリームの言葉に、ショックフリートは思わず声を上げた。
「要するに……貴様のその能力は自分の身体を空間と同化させている、ということだ。
ならば――“その空間そのものに攻撃する”ことができれば、それはすなわち貴様への攻撃となる」
そう告げると、スタースクリームは頭上に両手をかざし――交差するようにかまえたその手に“力”が集中していくに伴い、彼の足元にも“力”が走り、図形が描き出される。
一見すると魔法陣にも見えるそれは――
「魔法陣……いや、術式陣だと!?」
そう。ショックフリートの驚愕したとおり、スタースクリームの足元に展開されたのはミッドチルダ式魔法でもベルカ式魔法でもなく、精霊術の術式陣だったのだ。
「バカな……貴様がなぜ、精霊術を使える!?」
「以前、ちょっとした事件でつるんだことがあってな……その際に、柾木ジュンイチから術式のデータを押し売りされたんだ」
驚愕し、声を上げるショックフリートに対し、スタースクリームは余裕の笑みと共にそう答える。
「フィアッセを守ってくれた借りがあるとはいえ……相手が相手だ。
正直、あの男に、しかもムリヤリ教えられた術など、使いたくはなかったのだがな……残念ながら、オレの手持ちで空間攻撃が可能な技はこれしかなかった」
告げるスタースクリームの言葉に伴い、彼の頭上の“力”が荒れ狂い始めた。周囲に対し、波紋のごとく光を断続的に放ち始める。
「く…………っそぉぉぉぉぉっ!」
このままではマズイ――なんとかして阻止しようと、ショックフリートは実体化、スタースクリームに向けてエネルギーミサイルを放つが、スタースクリームの周囲で渦巻く“力”の余波がすべての攻撃を阻んでしまう。
そして――
「見るがいい……星々の砕ける様を!
銀河大爆砕陣!」
咆哮と同時――空間が“弾けた”。空間に走った波紋が破壊の渦へと変化し、範囲内のすべてを薙ぎ払う!
時間にして数秒――すべての破壊の収まった後、スタースクリームの周囲はすべてのものが沈黙していて――轟音と共に、黒焦げになったショックフリートが大地に落下した。
「戦場に安全な場所などありはしない。
自らが傷つくことを恐れた貴様に、最初から勝ち目などありはしなかったのだ」
倒れるショックフリートにそう告げて――スタースクリームは自らの両手に視線を落とした。
しばし、今の自分の術の手応えを思い返し――つぶやく。
「……しかし……あの男が教えた術だからな……
何か、元ネタがあるような気がしてしょうがないんだが……」
自分の放った術が某少年漫画に登場する必殺技を模したものだということに、漫画を読まないスタースクリームが気づくことはない――そんな彼だからこそ、ジュンイチが嬉々として教えたのだろうが、そんなことを知る由もないスタースクリームはしばし首をかしげて考え込むのだった。
「こん、のぉっ!」
気合の入った叫びと共に拳を繰り出すが、その一撃はむなしく虚空を貫いた――オクトーンの拳をかわし、ブラックアウトはその背後へと回り込み、
「そらよ――お返しだ!」
攻撃をかわされ、バランスを崩すオクトーンに、エネルギーミサイルを雨アラレと降り注がせる!
「っ、てぇっ!
何すんだ! ちゃんとあたしの攻撃くらえってヴァ!」
「はんっ、『くらえ』と言われて素直にくらうバカがどこにいる!?」
「バカって言うなぁーっ!」
しかし、オクトーンはその頑強な装甲でその攻撃を強引に耐えしのぐ――自分の抗議に言い返してくるブラックアウトへとさらに言い返し、自身もエネルギーミサイルを放つが、
「はんっ! やっぱり素人だな――反応は速いが狙いが甘い!」
空戦にかけては百戦錬磨のブラックアウトには通じない。そのすべてをかわされ、逆に懐に飛び込まれ、思い切り蹴り飛ばされる!
「貴様こそ――いい加減、死ねよ!」
そして、ブラックアウトは全身の火器を斉射――降り注いだエネルギー弾が、狙いたがわずオクトーンを直撃、大爆発を巻き起こす!
「……とはいえ、装甲バカ硬いからなぁ、アイツ……
生きてる……と思っておいていいか」
それでも、ブラックアウトは決して油断していなかった。飛び出してきたらお見舞いしてやろうと、腹部のプラズマキャノンをチャージし――
「――――――っ!?」
背後に熱源反応――とっさに身をひるがえしたブラックアウトのすぐ脇を、マキシマスから放たれたビームがかすめていく。
「くそ…………っ! フォートレスか!」
うめき、ブラックアウトはマキシマスへと――そのブリッジにいるであろうフォートレスへと向き直り、
「だったら――先にお前が死ねよ!」
告げると同時にプラズマキャノンを発射しようとした――その時、
「タービンボンバー!」
爆煙の中から咆哮が響き――飛び出してきた、ジャンボジェット機のエンジンユニットが、ミサイルとなってブラックアウトの背中を痛打する!
「ぐおぉっ!?」
完全に不意を突かれ、プラズマキャノンも暴発。あさっての咆哮に力を解放したブラックアウトがバランスを崩し――
「つっかまえたぁーっ!」
そんなブラックアウトを、爆炎の中から飛び出してきたオクトーンが捕まえる!
「フラフラと逃げ回りやがって!
けど――これで終わりだ! 覚悟しろぉーっ!」
言い放ち、オクトーンはブラックアウトを捕まえたまま地面に向けて急降下していき――
「プロレス名物――パイルドライヴァーだぁっ!」
しっかりと捕まえたブラックアウトを、そのまま頭から地面に叩きつける!
「が…………ぁ……っ!?」
頭脳回路を揺さぶる強烈な衝撃に、ブラックアウトの意識が一瞬だけ途切れ――
「とどめだ!」
オクトーンの“本命”はむしろここから――上下逆に地面に叩き込まれているブラックアウトを抱きしめるように捕まえ、
「いくぜ!
ちびっことやってた格ゲーの……えっと、『ストゼロ』……だっけか。
そいつで見かけた超必殺技!」
告げると同時、ブラックアウトの身体を持ち上げ――
「ファイナル!」
バックドロップの要領でブラックアウトを背後の地面に叩きつけた。そのまま再び元の体勢に復帰し――
「アトミック!」
バックドロップ2発目。もはや意識の途切れる寸前のブラックアウトにかまわず、体勢を立て直すと大きく跳躍し――
「ヴァスタァァァァァッ!」
仕上げとばかりに、スクリューパイルドライバーを叩き込む!
意識を完全に刈り取られ、解放されたブラックアウトの身体がその場に力なく倒れ込み――
「ヴァアァァァァァァァァァァッ!」
ガッツポーズを決めたオクトーンの勝どきの雄叫びが響き渡った。
「オラオラ、いっくぜぇっ!」
咆哮し、ジュンイチの周囲で炎が渦を巻く――その中から放たれた多数の炎の弾丸が、一斉にマスターギガトロンへと襲いかかる。
対し、マスターギガトロンは防壁を全方位展開して防御する――そのスキにジュンイチはコピーした黒いレヴァンティンをかまえて飛翔、一気にマスターギガトロンへの距離を詰め、
「とりあえず――貫けぇっ!」
突撃の勢いそのままに、マスターギガトロンの力場に突き立てた。迷わず黒いレヴァンティンを手放すと、続いて黒いグラーフアイゼンを手にし、
「名づけて――杭打ちコンビネーション!」
レヴァンティンの柄尻に一撃。力場に突き立てられた黒いレヴァンティンはさらに奥へと叩き込まれ――マスターギガトロンの防壁を打ち砕く!
「お次っ!」
続けてジュンイチが手にするのは黒いクロスミラージュだ。防壁を打ち砕かれたマスターギガトロンが防御を固めるよりも早く引き金を引き、連射モードで無数の魔力弾を叩き込む!
「ちぃ…………っ!
なめるなぁっ!」
咆哮し、マスターギガトロンも反撃に出た。ネメシスの触手を一斉に繰り出し、ジュンイチを狙うが――
「にゃろうっ!」
ジュンイチの意思に従い、コピーされたウェンディのライディングボードが目の前に飛び込んできた。楯となってマスターギガトロンの触手を受け止め、そのスキにジュンイチは後退、距離をとって着地し、
「これでもくらって――とっとと寝てろ!」
イノーメスカノンを手に砲撃一発。放たれた大型の魔力弾はマスターギガトロンのネメシスの触手によって受け止められたものの、その巨体を大きく押し戻す。
「やってくれる……だが!」
しかし、距離が取れたのはマスターギガトロンにとっても幸いだった。ネメシスの触手をジュンイチに向け――その触手のひとつひとつが巨大な魔力スフィアを作り出す。
「まさか……!
あのデバイス……」
「あの触手ひとつひとつが、砲撃を撃てるの!?」
その攻撃に、フェイトやなのはが思わず声を上げ――閃光が放たれた。触手のひとつが放った魔力の奔流が、ジュンイチに向けて襲いかかる!
「ちぃっ!」
対し、ジュンイチは舌打ちまじりに跳躍、それをかわす――同時、背中のゴッドウィングを広げて飛び立つが、そんなジュンイチに触手達が次々に砲撃を放つ。
しかも、一度にではない――時間差で次々に撃つことで、ジュンイチへの間断ない攻撃を可能としているのだ。
「くそっ、オレに反撃させないつもりか……!
この距離じゃ、シューター系を撃っても途中で砲撃に薙ぎ払われるのがオチだし……」
うめき、ジュンイチはさらに迫る砲撃を回避し、
「オレのゼロブラックといい、レイジングハートやイノーメスカノンといい……今こっちが撃てる砲撃は、全部足を止めて撃つのが前提だからなぁ……
これじゃ、撃つヒマも、接近する余地もありゃしねぇ!」
毒づくと、ジュンイチはひときわ集中して放たれた砲撃をかわし、次に備えながら策を考える。
と言っても、さすがのジュンイチも現状でできることは限られている。こうなったら――
「仕方ない……
できることなら、コイツは使いたくなかったんだけど……」
うめき、ジュンイチは不意に機動を変えた。一度マスターギガトロンから距離を取り、着地したのは先刻自分が一ヵ所に集めたナンバーズの面々のところだ。
「な、何よ?
今になって『手伝え』とか泣き言?」
「言ってろ、バカメガネ」
憎まれ口を叩くクアットロにそう答えると、ジュンイチはおもむろに彼女のえり首を捕まえた。
「え………………?」
突然の行動に思考が追いつかず、クアットロが呆然と声を上げ――それとマスターギガトロンが次の砲撃の体勢に入ったのはほぼ同時だった。
「く、来るっスよ!」
「てめぇ、どっか行けよ!
巻き添えはゴメンだぞ!」
「心配するな! 手はある!」
あわてるウェンディやノーヴェにジュンイチが答えると、マスターギガトロンが彼らに向けて砲撃を放ち――同時、ジュンイチが動いた。
「数の子バリア――“4番”!」
「へ――――――?」
再び上がる声にかまわず、ジュンイチは手にしたそれを投げつけ――
マスターギガトロンの砲撃は、ジュンイチの投げつけた“クアットロを”直撃していた。
巻き起こる爆発、響き渡る悲鳴――それが収まった後、ぼてっ、と情けない音を立てて黒焦げになった“バリア”がその場に落下した。
場の空気が硬直する中、ただひとり、ジュンイチはマスターギガトロンをビシッ!と指さし、
「そんな攻撃、このオレには通用しないぜ!」
「こらこらこらこらぁーっ!」
何事もなく言い放つジュンイチの言葉に、マスターギガトロンは思わず声を上げた。
「き、貴様、女を楯にするとは!?」
「男女平等ぉーっ!」
「今の行動の後に言っても危険思想にしか聞こえんわ、このバカタレ!」
キッパリとと言い切るジュンイチにマスターギガトロンが言い返し――ジュンイチの背後からも抗議の声が上がる。
「く、クア姉に何してるっスか!? お前!」
「楯にした」
「サラッと何事もないかのように答えた!?」
即答するジュンイチの態度に一瞬めまいを覚えるが――それでもなんとか踏みとどまり、ウェンディはジュンイチに告げる。
「と、とにかく! 『女を楯に』云々はさっき『男女平等』とか言い切ってくれたから追求しないっスけど、それ以前に人を楯にしちゃダメっスよ!
お前、それでも管理局の味方っスか!?」
「は、犯罪者側から説教されとる……」
「どれだけヒール思考なのよ、アイツわ……」
傷ついて動けない身体でも口なら動く――ジュンイチに対してもっともなことを説教するウェンディの姿に、はやてやライカは思わず頭を抱えるが、
「あー、もう、グダグダうるせぇなぁ……」
当のジュンイチはまったく答えていなかった。面倒くさそうに頭をかき、
「そんなに言うなら……
……次の“バリア”は11番で」
「ゴメンナサイスミマセン私ガ悪ウゴザイマシタ」
次は誰を楯にするか――言外に指名してくるジュンイチの言葉に、ウェンディは迷わず屈する方を選んだ。まだ傷が痛むだろうに、よどみのない動作で土下座する――どこかで間違って知識を仕入れたか、“三つ指ついて”頭を下げているが、幸か不幸か気づく
者はいない。
「ま、安心しろ。
今のは脅しだ。ホントにお前らを楯に使ったりしねぇよ――楯にするのはクソメガネだけだ」
「クア姉だけ!?」
「そんなに嫌いか!? クア姉が!」
さらにキッパリと言い切るジュンイチに対し、セインやノーヴェが思わず声を上げるが――
「はぁ? 『嫌い』?」
そんな二人の――正確にはノーヴェの――言葉に、ジュンイチは首をかしげてみせた。
「別にそんな個人的な感情で楯にしたりするかよ。
ちゃんと、クソメガネ“だからこそ”楯にした理由があるっつーの」
「…………と、言うと?」
そう尋ねるのはセッテである――対し、ジュンイチはあっさりと答えた。
「だってコイツ……わが身可愛さに力場のセッティング、ほとんど防御力に割り振ってるじゃねぇか。
実際、今転がってるコイツのダメージなんて、今楯にされたのを除けばブラックシャドーを墜とされた時のフィードバックダメージだけじゃん?
楯にしたって大丈夫なくらい頑丈だ――ってな具合に、コイツの防御力を信頼してるから、迷わず楯にできるんじゃねぇか」
「うれしくない……!
ほめられてるはずなのにうれしくない……!」
地面に転がっている“バリア”からシクシクと泣き声が聞こえてくるが、ジュンイチは意図的にそれを無視して――
「あー、それからもうひとつ」
不意に思い立ち、そう告げた。戦闘を再開すべくマスターギガトロンへと向き直り、
「クソサーファー、お前……さっき『それでも管理局の味方か?』って聞いたよな?
言ったはずだぜ、オレは――『地上本部を守りにきたワケじゃない』って」
マスターギガトロンに向けて歩を進め――その手に黒いレイジングハートが舞い降りてきた。爆天剣と二刀流の要領でマスターギガトロンと対峙し、背後のなのは達やナンバーズの面々に告げる。
「覚えとけ。オレは管理局の味方でも、増してや正義の味方でもねぇ。
もう一度言う。オレは――」
「お前らを守りに来てるんだ」
機動六課・マキシマス艦内――
「ブレードの旦那は、勝ったみたいだな……」
シャマル達がブレード達を追って出ていって、かなりの時間が経った――トーレ達が勝利していれば姿を見せている頃合だと考え、ブレードが勝ったと判断したガスケットは、未だ身体を動かせないながらも安堵の息をつき、つぶやいた。
「というか……あの人が負ける光景なんか想像がつかないんだけど」
「リミッター付とはいえ、フェイトさんのザンバーとシグナムさんの紫電一閃のコンボをまともにくらって、あげくなのはさんのバスターで追い討ちをくらった時だって、3秒後には平然と起き上がってたものね……
“勝てない”ことはあっても、“負ける”ことなんてあるの? あの人」
「たまに思うよなー。ホントはターミネーターなんじゃないかって」
そんなガスケットに同意するのはアルトとシャリオだ。苦笑まじりに答え、ガスケットが肩をすくめると、
「なのはママ……フェイトママ……大丈夫かな……?」
「だ、大丈夫だって。
あのなのは達が、そう簡単にやられるもんかよ!」
不安げにつぶやくヴィヴィオに、ガスケットはあわててそう答える――地上本部の激戦のことを知らないこともあり、本気でなのは達の無事を信じつつ、ガスケットはヴィヴィオを励まそうと声を上げる。
「そうよ、ヴィヴィオ。
なのはさん達なら大丈夫だから」
そして、アイナもまたヴィヴィオをなだめるようにそう告げて――
「でも……こっちはもうボロボロ」
『――――――っ!?』
告げられた声に、一同の間に緊張が走る――そんな彼女達にかまわず、ガリューを連れたルーテシアはその場に姿を現した。
「て、てめぇ……!
スカリエッティのトコの召喚師か……!」
だとしたら、戦えるのは自分しかいない――うめき、傷ついた身体でなんとか身を起こすガスケットだったが、
「ジャマ」
ルーテシアが告げたとたん、ガリューが動いた。一瞬にして距離を詰め、腕の爪の一撃でガスケットを吹っ飛ばす!
「ガスケット――きゃあっ!?」
「ぅわぁっ!?」
「くぅっ!?」
そして、シャリオ、アルト、アイナまでもが吹っ飛ばされる――3人を自ら放った魔力弾で蹴散らし、ルーテシアはヴィヴィオの前に立った。
「だ、誰……?」
「キミは……知らなくていい」
そう告げると、ルーテシアはヴィヴィオの目の前に魔力を込めた右手をかざした。何らかの催眠魔法だったのか、意識を失い崩れ落ちかかるヴィヴィオの身体を優しく支える。
「…………用事はおしまい。
一度外に転送して……そこから長距離転送で帰るよ、ガリュー」
その気になればここからでも長距離転送は可能だが、魔導系の機械の多数使用されているこのマキシマスの艦内では何がノイズとして作用するかわからない――ガリューに告げ、ルーテシアは転送魔法陣を展開した。
先のトーレ達の乱入と今のガリューの強襲により、それを阻止できる者はもう残されてはいなかった。マキシマスの主であるフォートレスも艦外のガジェットへの対応でブリッジに釘付け。もはやルーテシアを止められる者は誰もいない――
――かと思われた。
「ダメぇっ!」
いや、ひとりだけ残っていた――自分をかばって倒れたバックヤードスタッフの局員の影から飛び出してきたゆたかが、今まさに転送しようとしていたルーテシアに飛びついたのだ。
「ヴィヴィオちゃんを連れてっちゃダメだよ!」
「……放して」
自分にしがみついて叫ぶゆたかに、ルーテシアが静かに告げると、そんな主の異変に気づいたガリューがゆたかに向けて跳び――
「タックルの基本は腰から下ぁっ!」
そんなガリューに、ガスケットが体当たりを敢行した。地面スレスレに飛んだガスケットのタックルは叫んだ通りガリューの下半身に。重心を崩され、ガリューはガスケットと共にルーテシアの足元、転送魔法陣の中に倒れ込む。
と、今の衝撃が魔法陣に伝わった――自分の展開した魔法陣が波紋が走るかのように揺れたのに気づいて、ルーテシアの顔に初めて動揺の色が浮かんだ。
「…………いけない……!」
いや、動揺というより焦りの色が強い。衝撃によっておかしな形で“力”が乱れ、光を強める魔法陣を見下ろし、ルーテシアが声を上げ――
次の瞬間、彼女達の姿は消えていた。
ルーテシアやガリューだけでなく、ヴィヴィオやゆたか、そしてガスケットの姿も……
「…………ん……」
意識が浮上してくるに伴い、周囲の熱さがだんだんと強く感じられてくる――炎に包まれた指令室で、ウーノはゆっくりと目を開けた。
「一体、どうなったの……?」
自分の上に何かがのしかかってきていて、身動きが取れない――頭だけを動かし、周囲を確認するとと、すぐ近くにルキノが倒れていた。肩が上下しているところを見ると、意識はないが命はある、といったところか。
「グリフィス・ロウランは……?」
しかし、グリフィスの姿は今のところ確認できない。もっとよく探すために身を起こそうと、ウーノは自分にのしかかってきているそれをどかそうと手をかけ――
「――――――っ!」
気づいた。
自分の上にのしかかってきていたのが何――いや、“誰”なのか。
「…………グリフィス、くん……!?」
それは、まさに今時分が探していたグリフィス本人――そして同時にウーノは理解した。
レッケージの攻撃で指令室が吹き飛ばされたあの瞬間、自分の身に何が起きたのか――
「まさか……私を、かばって……!?
そんな! グリフィスくん!」
触れた限りでの簡易サーチとはいえ、脈拍は確認できたが――彼の意識がない以上、楽観できる状況とは言い切れない。あわてて身を起こし、グリフィスの様子を診ようとするウーノだったが――
「――――――っ!」
彼を寝かそうとした瞬間、後頭部に添えた自分の手が瞬く間に真っ赤に染まったのを見て、否応なく状況を認識させられた。
「そんな……!
どうして、私なんか……!」
そして、それは同時に彼女の中に大きな混乱を招いていた。つぶやき、ウーノはグリフィスの胸に添えた手を強く握り締める。
「私は……あなたを、殺そうとしたのに……!」
そうつぶやいた瞬間、ウーノは握りしめた自分の手に一粒の雫が落ちたことに気づいた。
その雫の“出所”は――
「私の……涙……!?」
そう、それはウーノ自身の涙――あわててぬぐうが、涙は後から後からあふれてくる。
「そんな……どうして……!?
なんで、涙なんか……!?」
自分の感情が理解できない。自分は彼を殺すためにここへ来たのだ。その彼がこうして死にかけている――自分にとっては好都合のはずなのに、この胸を締めつけられる感覚は何なのだろうか。
自分の手で仕留められなかったから?――違う。
殺すはずの相手にかばわれたから?――違う。
――そうだ。
この感情は――
(…………そうだ……
私は……)
「グリフィスくんに……死んで、ほしく……なかったんだ……!」
ようやく見えた自分の本当の感情――しかし、それを知るにはあまりにも遅すぎたのかもしれない。仰向けに寝かせたグリフィスを前に、ウーノはひとり泣き崩れ――
「まだ生きているヤツがいたか」
そこに、無粋な乱入者が現れた。跳躍、指令室に降り立ちレッケージがウーノを見下ろして告げる。
「………………ん?
貴様のその反応……ゴッドマスター……いや、戦闘機人か……」
そのセンサーからのデータが、ウーノが戦闘機人であることを彼に伝える――満足げにうなずくと、レッケージはウーノに告げる
「ちょうどいい。貴様がゴッドマスターだというのなら、連れ帰れば何かしらの役には立つだろう。
女――オレと一緒に来てもらおうか」
言って、レッケージはウーノに向けて手を伸ばし――
「………………あなたが……」
静かに、ウーノが声を絞り出した。
「あなたが……ここを撃ったのよね……?」
「ん? そうだが?
それがどうかしたか?」
彼女の中に渦巻く想いなど、レッケージには知る由もない。尋ねられたその問いに、特に警戒することもなくそう答え――
「………………そう」
静かに――いや、感情のこもっていない声色で、ウーノは静かにうなずいた。
グリフィスを抱き上げ、ゆっくりと立ち上がり――叫んだ。
「アグリッサァァァァァァァァァァッ!」
『………………っ!?』
その異変には、その場の全員が気づいた。
未だ戦闘の続くあずさとディード、オットーとブロードサイドの2組――
意気揚々と引き上げてきたオクトーンと、その合流を待っていたスタースクリーム――
自分の戦っていた場から何階層か下まで降りて、そこでシャマルから手当てを受けているブレードとザフィーラ――
そして、傷ついた身体で身動きもままならず、ただ戦いを見守るしかなかったスバル――
その場で戦い、意識のあった全員が、上空に発生した強大な“力”の渦に気づいていた。
「な、何よ……アレ……!?」
頭上で渦巻く、紫色の渦を見上げ、あずさが呆然とつぶやくと、
「まさか……!?」
となりでディードもまた呆然と口を開いた。
「ウーノ姉様……アグリッサを……!?」
「“アグリッサ”……!?」
ディードの口にしたその名にあずさが眉をひそめた、その時――
「ゴッド、オン!」
六課本部隊舎から響いたのはゴッドオンの宣言――同時、隊舎から飛び出した光の塊が、上空のエネルギーの渦へと飛び込んでいく。
それと同時――渦が弾け飛んだ。その中心部から、宙に浮かぶ巨大な城がその姿を現した。
まるで地上に立つ城がそのまま宙に浮かんでいるような、そんな城――もっとも適切な言葉を当てはめるとすれば、“西洋風の意匠を施された日本の平城”とでも言えばいいだろうか。
「空中、要塞……!?」
その正体を推し測り、ブロードサイドがつぶやき――
「アグリッサ、トランスフォーム!」
ウーノの宣言が響き――城が変形を始めた。
大きく前方に張り出していた二基の出丸(砦)が両足に変形。次いで、本丸にあたる部分に併設された二の丸、三の丸もまた変形を開始し、その内部から両腕が姿を現す。
まるで立ち上がるかのように両足が下方に倒されると、天守が左右に分かれた。それぞれ両肩を守るアーマーとなり、天守のあった場所にはロボットモードの頭部が姿を現す。
ロボットモードへのトランスフォームを完了し――超大型トランスフォーマーとなったアグリッサは、轟音と共に六課隊舎の前に降り立った。
「な、何だぁ!? アイツ!?」
「マキシマスと同じ……敵の城砦型戦力ということだろうな……!」
突然現れたアグリッサの巨体を前にあわてふためくオクトーンにスタースクリームが答える中、アグリッサはゆっくりと顔を上げ――
撃った。
元々城砦である身体に装備されていた砲塔のひとつが火を吹いたのだ。強烈なビームが降り注ぎ、六課隊舎の一角――指令室のあった辺りを根こそぎ吹き飛ばす!
「――――――っ!?
あそこには……グリフィス補佐官達が……!」
指令室にはグリフィスとルキノがいたはずだ――思わずスバルが声を上げると、
《大丈夫だよ》
届いた念話はあずさからのものだった。
「とりあえず……ルキノちゃんは無事。
なんとかガードできたよ」
巻き起こる爆発はすぐ目の前――間一髪で救出したルキノを抱きかかえ、ディードを無視して彼女の救出に走っていたあずさはスバルにそう告げた。
「ただ……グリフィスくんがあの場にいなかった。
ひょっとしたら……」
そう。彼女が助け出したのはルキノのみ――告げながら、あずさはそびえ立つアグリッサの巨体を見上げた。
(アイツがウーノちゃんのゴッドオンしたトランスフォーマーだとしたら……きっと、グリフィスくんは……)
だが、そんなことを考えていられるのもそこまでだった――なぜなら、アグリッサの全身の砲塔が一斉にエネルギーチャージを始めたからだ。
「ち、ちょっと――冗談でしょ!?」
疑う余地もなく無差別攻撃の態勢だ。ディード達もいるというのに――あわてて声を上げ、あずさはとっさに離脱。スバルの元へと合流する。
「あず姉……!」
「わかってる!
イスルギ!」
〈Yes,sir!〉
スバルに答えたあずさの言葉にイスルギが動く――射出したシールドビットがタンカの要領でティアナ、エリオ、キャロを回収。それが終わると今度はゴッドオンしたまま倒れるこなた達やジェットガンナー達の元へと飛び、それぞれに防壁を展開する。申し訳ないが、敵の皆さんや意識のある仲間の方々はそれぞれ自分達でなんとかしてもらうしかない。
「…………消えてしまえ……」
そんな中――ウーノは静かにつぶやいた。
「こんな……場所があるから……私達は……!」
アグリッサの中で――自分と共にこの中に溶け込んだ、今にも消えてしまいそうな“命”の灯火を感じながら。
そして――
「何もかも……」
「消えてしまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
絶叫が響き渡り――砲撃が始まった。アグリッサから放たれた無数の閃光が周囲に降り注ぎ、爆発と共にすべてを薙ぎ払っていく!
「ちょっ、まっ、待ってってヴァぁっ!」
「騒ぐな! ジッとしていろ!」
降り注ぐ砲火の雨にあわてふためくオクトーンを一喝するのはスタースクリームだ。周囲に防壁を展開し、アグリッサからの砲火から身を守る。
「ウーノ姉様、どうして……!?」
一方、無差別とも言える砲火の雨にさらされているのは彼女達も同じだった――懸命に閃光をかいくぐり、ディードがそうつぶやくと、
「ディード!」
同じく砲撃をやりすごしてきたオットーがディードに合流して来た。
「オットー……?」
「ルーテシアお嬢様と、連絡がつかなくなった」
「………………っ!」
それは、ディードに衝撃を与えるには十分すぎる内容だった。
「マキシマスの艦内で“聖王の器”を確保したところまでは捉えてたけど……そこから先が……」
「何かあった……そう見るのが妥当ですね……」
オットーの言葉に、ディードはそう判断した。確認に向かおうとするが、ウーノの無差別砲撃は激しさを増すばかりだ。とてもではないがそんな余裕はない。
「どうしよう? ディード……」
「…………確認のしようがない以上、ここは撤退するしかないでしょう」
尋ねるオットーに対し、ディードはしばしの思案の後にそう答えた。
「私達では……マグマトロンの戦闘能力をもってしても、この状況でお嬢様の安否を確認する方法はないから……
ここは、お嬢様の無事を信じて、退くしかない……」
「……うん。そうだね……」
ディードの言葉にうなずき、オットーはマキシマスに向けて“力”を放った――自身のIS、レイストームのバインドにより、ブレードに敗れ、倒れているチンクとトーレを機体と共に回収する。
「…………いいよ、ディード」
「はい。
マグマトロン……自動転送回収、システム作動」
オットーの言葉にうなずき、ディードはマグマトロンに備えつけられた転送システムを作動。その場から姿を消していく。
「ルーテシアお嬢様……どうか、ご無事で……」
そうつぶやく、ディードの声だけを残して――
「まったく……なんてムチャクチャしてくれるのよ……!」
一方――あずさ達はアグリッサの砲火の中に取り残されていた。懸命に防壁を維持しながら、あずさは舌打ちまじりにそうつぶやく。
「みんなは……!?」
「今のところは……たぶん、大丈夫だと思う……
マキシマスはシャマルちゃんがいる。マキシマスにも、まだ生きてる防御システムがあると思うし、それと協力すれば……」
スバルのつぶやきにそう答えるあずさだが――その表情は険しい。
「問題があるとすれば……こなた達だよ……
イスルギのシールドビットが、どこまで持ちこたえてくれるか……!」
少なくとも、この砲撃が収まる気配がない以上、最悪の事態も覚悟しなければならないか――そんなことをあずさが考えていると、
「…………ん……!」
「あ、キャロ……!」
不意に、キャロが目を覚ました。スバルが声を上げる中、ゆっくりと顔を上げ――
「――す、スバルさん!
ひどいケガじゃないですか……!」
真っ先に目に入ったのは両足をつぶされ、右腕も肩から千切れそうになっているスバルの姿――あわてて声を上げ、駆け寄ろうとするが――
「………………っ!」
立ち上がった拍子に、爆撃を受ける六課施設の光景を目撃してしまった、息を呑み、その場に立ち尽くしてしまう。
「そ……そん、な……!?」
「キャロちちゃん、下がってて!
そんなボケッと立ってたら危ないよ!」
呆然とつぶやくキャロに告げるあずさだったが――
「なんで……こんな……!」
キャロの耳には届いていなかった。静かにつぶやき――
「――――――っ!?
キャロちゃん……!?」
あずさの感覚が、キャロの“力”の上昇を捉えた。振り向く彼女の視線の先で、キャロの頬を涙が流れる。
「き、キャロ……!?」
スバルもまた、そんなキャロの異変に気づき――同時、キャロの足元に、彼女の召喚魔法陣が展開された。
「竜騎……召喚……!」
告げるキャロの言葉に、“力”はその強さを増していき――
「ヴォルテェェェェェェェェェェルッ!」
絶叫と共にその名が呼ばれ――現れた。
キャロの背後に立ち上った巨大な火柱の中から――巨大な漆黒の火竜が。
「な………………っ!?」
「あれが……キャロの使役する、もう一騎の竜……!?」
猛威を振るうアグリッサに勝るとも劣らぬ体躯をそびえ立たせたヴォルテールを見上げ、あずさとスバルが呆然とつぶやく――見れば、さすがにこれには気がついたか、アグリッサは砲撃をやめ、ゆっくりとヴォルテールへと向き直る。
「壊さないで……!」
「消えてしまえ……!」
キャロとウーノ、二人の悲しいつぶやきが交錯し――
「私達の居場所を……!」
「こんな場所……」
「壊さないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「消えてしまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
咆哮がぶつかり合い――
巨大な“力”が激突した。
「どぉりゃあっ!」
咆哮と共に黒いレイジングハートを一閃――マスターギガトロンの正面に形成していた魔力スフィアを殴りつけ、その一撃をトリガーとして解放された魔力がマスターギガトロン吹っ飛ばす!
「ちぃ…………っ!」
うめき、マスターギガトロンが周囲に魔力を解放――同時、ジュンイチの周囲に展開されていた力場が消滅した。
マスターギガトロンが再び“支配者の領域”を展開したのだ。
だが――
「そう来るんなら――コイツだ!」
ジュンイチはかまわず次の攻撃に移った。手にしたのは、独特の形状のスローイングナイフで――
「スティンガーwith――ランブルデトネイター!」
マスターギガトロンに向けて投げつけた。彼自身や周囲に突き刺さったそれが次々に爆発し、マスターギガトロンを吹き飛ばす。
「残念だったな、ギガトロン。
今回は、最初から最後まで、ずっとオレのターンだ」
そして、ジュンイチは爆天剣を肩に担ぎ、
「“支配者の領域”も、てめぇの体裁きも、そしてそのネメシスとかいうパワードデバイスの触手の機動パターンも……こちとらきっちり分析した上でバトってんだ。
手の内を知られた状態じゃ、いくらてめぇでも分が悪いって」
「……どういう、ことだ……!?」
告げるジュンイチに対し、マスターギガトロンはジュンイチに対してそう問いかけた。
「貴様が参戦した時には、すでにオレは“支配者の領域”の展開も、ネメシスの起動も済ませていた――さらに言えば、高町なのは達はすでに戦闘不能寸前の状態だった。
貴様の前で、大して“力”を振るって見せるようなことはなかったはず……なのにどうして、そうまでオレの戦力を正しく分析できた……!?
分析できるほどオレの力を見ていなかった貴様が……なぜだ!?」
「何、簡単な話さ」
だが――マスターギガトロンの問いに対し、ジュンイチはあっさりと答えた。
「だって――ほとんど最初から見てたし」
「何、だと……!?」
「不思議に思わなかったのか?
さっき“支配者の領域”をつぶした時――オレは説明のために“オレが到着する前の”戦場の様子を例に挙げたんだぜ。
具体的には、なのは達の砲撃が消された時の例を挙げた時とか、な」
そう告げて――ジュンイチは笑みを浮かべて続けた。
「つまり――お前がコイツらの前で、最初に“支配者の領域”使ってみせたあの時から、オレはずっとそれを観察し続けていたのさ。
“アレ”を使ってね」
言って、ジュンイチが指さしたのは施設警備用の監視カメラだ。
「オレの人外スキルのひとつ“情報体侵入能力”――意識体の一部を電子システムの中に潜り込ませたり、生体情報を読み取ったり干渉したりできる力だ。
襲撃に合わせて通信遮断をかけるのは定石だからな――クソメガネがやらなくても絶対誰かがやると思ってた。だから、そうなる前に事前にオレの意識の一部を切り取って、監視ネットワークの中に潜り込ませておいたんだよ。オレの分体との精神リンクを利用して、オレ達のミッション用のネットワークを構築するためにね。
けど、そこにお前が出てきてトンデモ能力を披露し始めただろ? こりゃ無策じゃヤバいと思って、駆けつける道中にそのリンクを使って、さっきまでの戦いをじっくり観察させてもらった。
なのは達がしこたまがんばって、長々とあがいてくれたからな――お前がちっとも“支配者の領域”を解除しなかったおかげで、分析するための映像資料はまったく不自由しなかったぜ。
切り札を長々とさらしすぎたのは失敗だったな、ギガトロン」
言って、ジュンイチは爆天剣の切っ先をマスターギガトロンに向け、
「なのは達は、決して何もできずにボコられていたワケじゃねぇ。
コイツらがあがいてくれたからこそ、オレはそれを見て対策を見出すことができた。
コイツらのがんばりがあったから――オレはお前と戦える!」
「ぐ………………っ!」
うめくマスターギガトロンに対し、ジュンイチは改めてかまえた。爆天剣を握る右手を大きく後方に引き、右半身体の姿勢からマスターギガトロンに向けて地を蹴――
〈ジュンイチさん!〉
――ろうとした瞬間、通信が入った。
作戦本部となっている自分達の“拠点”に残してきたすずかからの緊急通信だ。
「どうした?」
〈大変なんです……六課本部が!〉
「何があった?
あずさが行ってるだろ――“四神”を完成させたアイツなら多少使いこなせない状態でも……」
〈あずささんじゃなくて……マークしてろって言われてた子……ヴィヴィオちゃんが!〉
その言葉に、初めてジュンイチの表情がこわばった――そのまますずかから状況の説明を受け、
「…………わかった。
とりあえず……なんとかしてみる」
そう告げて、ジュンイチはすずかとの通信を切り、
「悪いなぁ、ギガトロン。
懇切丁寧にシバキ倒して逮捕、とか思ってたけど……事情が変わった」
そうマスターギガトロンに告げて――
『――――――っ!』
その場の全員が息を呑んだ。
ジュンイチのまとう空気が一変――すさまじいプレッシャーが一同にのしかかってきたからだ。
「この場でとっ捕まえてるような余裕がなくなっちまったみたいなんでな――」
同時、ジュンイチがすさまじい勢いで“力”を集中させていき――
「“蜃気楼”の他にも、切り札をもうひとつ……見せてやるからとっとと沈め!」
解放した。周囲にあふれ出した精霊力が渦を巻く中、告げる。
「フォースチップ、“アニマトロス”!」
ジュンイチのその叫びに答え――フォースチップが飛来した。宣言の通り、アニマトロスのそれがジュンイチの目の前に舞い降り、その場で静止する。
そして、ジュンイチは爆天剣を水平に、刺突の形でかまえ、
「イグニッション!」
その切っ先をフォースチップに突き刺した。物質としての結合を解かれ、純粋な“力”の塊となったフォースチップのエネルギーはジュンイチの周囲で荒れ狂い、一時その姿を完全に覆い隠してしまう。
「あ、あれは……!?」
その光景に、なのはが思わず声を上げると、
「イグニッションフォームや……」
そう答えたのははやてだった。
「フォースチップはそれぞれの惑星ごとに特性が違う――ジュンイチさんはそれに目をつけて、フォースチップの力を利用した自分の“装重甲”のフォームチェンジを考えついた。
イグニッションして変身するフォーム――すなわち、イグニッションフォームや」
「はい、はやて、説明ご苦労♪」
“力”の渦の中、ジュンイチがはやてに告げる――同時、渦が勢いを弱めた。ゆっくりと薄れていき――
「そして――これがそのイグニッションフォームのひとつ……」
そう告げるジュンイチの“装重甲”は、全体が緑を基本にしたカラーリングに変化。形状も、より曲線的な――生物的なデザインに変化していた。
そして何より目を引くのは両腕の巨大な爪――背中に存在していたゴッドウィングが形状を変え、固有の武器として装着されているのだ。
「ウィング・オブ・ゴッド……ビーストリィフォーム」
そう告げると同時、ジュンイチの姿がその場から消え――
「ぐほぉっ!?」
一撃がマスターギガトロンの腹部に叩き込まれていた。ジュンイチの拳、そこに装着されている巨大な爪を腹部に打ち込まれ、マスターギガトロンの身体が「く」の字に折れ曲がり――
「だぁりゃあっ!」
繰り出された蹴りが、マスターギガトロンのアゴを蹴り上げる!
「す、すごい……!」
「マスターギガトロンを、今まで以上に圧倒してる……!」
その光景に、なのはやフェイトが声を上げるが――
「圧倒している……ものか……!」
「………………っ!?
イクトさん!?」
背後から上がった声は、新たに気がついた彼のもの――気づき、声を上げるフェイトだが、イクトは真剣な表情でジュンイチを見つめている。
「何か……あのフォームに問題があるんですか?」
「“問題”と言えるかどうかは、微妙だがな……!」
なのはの問いに、イクトは傷の痛みに顔をしかめながらそう答え、
「イグニッションフォームは、あのビーストリィフォームを始めとしたいくつかを、かつて“擬装の一族事件”の時にも見せているが……そのどれもが、あまりにも“一芸特化すぎる”んだ」
「つまり……何かひとつの特性に偏りすぎてる……?」
「せや」
聞き返すフェイトの言葉に答えたのははやてだ。
「あのビーストリィフォームは、アニマトロスのフォースチップを使った格闘戦“専用”フォーム……
空も飛べへんようになってるし、飛び道具も全部つぶしてる……ホントに格闘戦“しか”できへんのよ。
まぁ、せやからこそのあのパワーなんやけど……逆に言えば、距離を取られたら手も足も出ぇへん。
それに……」
そこで言葉を止め、はやてはジュンイチへと視線を向けた。なのは達も同様に視線を向け――気づいた。
「な、何……!?」
「ジュンイチさん……ものすごい汗……!」
そう――圧倒しているのはジュンイチの方のはずなのに、そのジュンイチはこの数秒の攻防ですでに汗だくになってしまっていたのだ。
「あれがイグニッションフォームの代償……パワーがでかすぎる分、あのジュンイチさんですら、制御のために大きく体力を消耗する……
事実上、一回の戦闘でイグニッションフォームの使用は一度、それも1分程度がせいぜい――うまくやりくりしても二回が限界や。ジュンイチさんの体力をもってしてもな」
「状況に見合わないフォームを選んじゃっても、やり直しがきかないってことだね……」
つぶやくなのはにうなずき、はやては告げた。
「能力とか、技だけやない――使いどころを見極める判断能力にまで、使い手に平気で限界を要求する――それが、イグニッションフォームなんよ」
「ぐわぁっ!?」
装甲が凹むほどの打撃を受け、大地に叩きつけられる――突然極端に上がったジュンイチのパワーに対応しきれず、マスターギガトロンは成す術なく吹っ飛ばされていた。
「悪いな、ギガトロン。
コレ、こっちも相当疲れるんだ――速攻で決めさせてもらうぜ!」
そんなマスターギガトロンに対し、ジュンイチも汗をぬぐいながらそう告げた。改めてマスターギガトロンへとかまえ、
「フォースチップ――フルバースト!」
咆哮すると同時、ジュンイチが“力”の奔流に包まれる――自分の中に宿る、フォースチップのパワーを全面解放したのだ。
「く――――――っ!」
「いくぜ!」
とっさに身がまえるマスターギガトロンだったが――ジュンイチも逃がさない。一気に地を蹴り、拳の、蹴りの雨を降らせる。
マスターギガトロンがガードしようがおかまいなしだ。ガードの上から乱打の雨を叩き込み、運良くガードを抜けた一撃をきっかけに、防御の崩れたマスターギガトロンを滅多打ちに打ち据える。
強烈な打撃を、しかも立て続けに打ち込まれ、防御を粉砕されたマスターギガトロンにはもはや抵抗の術は残されていなかった。打ちのめされるマスターギガトロンに対し、ジュンイチはあらかたの“力”を打ち込み終え――仕上げに残ったフォースチップのエネルギーを右の拳に集中される。
「これが、ビーストリィフォームの必殺技――」
そのまま、崩れ落ちるマスターギガトロンに向けて拳を振りかぶり――
「ウルティメイト――ビースト!」
思い切り叩きつけた。顔面にトドメの一撃を受け、吹っ飛ばされたマスターギガトロンは一直線に宙を貫き、地上本部ビルの外壁に叩きつけられる!
「ぐ………………っ!」
同時、ジュンイチもその場に崩れ落ちた――フォースチップの“力”の制御と最後の“必殺技”で、体力のほとんどを使い果たしたのだ。
そして、フォースチップの“力”を使い切ったことで、フォームチェンジもまた解除された。“装重甲”が元の姿に戻り、ジュンイチはヨロヨロと身を起こし――つぶやく。
「さて……“最後の一手”だ」
「ぐ………………っ!
おのれ……!」
一方――ジュンイチの乱撃をまともにくらいながら、マスターギガトロンはそれでもまだ仕留めきれていなかった。苦痛に顔を歪めながらも、なんとか叩き込まれた地上本部ビルの外壁からその身を引き抜き、地面に降り立つ。
「思った以上に、ダメージがデカイ……!
さすがに、これは出直すべきか……!」
自己診断プログラムを走らせるが、その結果は芳しくない――舌打ちし、マスターギガトロンがうめくが、
「悪いな……終わらせてもらうよ」
「………………っ!?」
その声は頭上から――見上げると、自分のほぼ直上にあたる位置に、元の姿に戻ったジュンイチが滞空していた。
「しつこいヤツだ……!
だが、貴様もさっきの状態はかなりの負担だったようだな! 見るからに消耗しているじゃないか!
残念だが……そんなザマでは、まだオレの方が余力を残しているぞ!」
しかし、ジュンイチは肩を大きく上下させて呼吸しており、上空での姿勢も安定していない。そんな彼の姿に、マスターギガトロンが言い放ち――
「そうだな」
対し、ジュンイチはあっさりとそううなずいてみせた。
「けどな……トドメの一撃……その“引き金を引く”くらいの力は、残してるつもりだぜ」
その言葉と同時――彼の手にしている爆天剣が炎に包まれた。それは炎の刃となってその長さをぐんぐんと伸ばしていく。
その長さは数十メートル――いや、100メートルを超えたのではないか、というところまで伸ばされていく。そんなもので、ジュンイチは一体何を斬るというのか――
「――って、まさか!?」
だが――その光景を前にして、その後の展開を予見できた者がいた。ジュンイチのその行動に、はやては思わず声を上げる。
ビルの前に叩きつけられたターゲット――
その頭上でビルに寄り添うジュンイチ――
極限まで伸ばされた爆天剣の炎の刃――
――すべての条件が、“あの時”のそれと重なる。
「ジュンイチん……まさかここで“アレ”をやる気なん!?」
ここに至り――はやてもようやく気づいた。
予言によって記されていた、管理局崩壊の引き金となる、地上本部の壊滅――しかし、実際にそれを引き起こすのがスカリエッティだとは、予言では一言も断言されていなかったということに。
もし、ジュンイチがこれからやろうとしていることが、自分の想像の通りだとしたら、地上本部を壊滅させるのは――
「あかん!
ジュンイチさん……それを今使ったら!」
はやてが懸命にジュンイチへと呼びかけるが――すべては遅かった。ジュンイチの振るった巨大な光刃が、一撃のもとに地上本部ビル群を叩き斬る!
「………………オレ的“超”最終奥義……」
ジュンイチが告げ――地上本部ビルが“動いた”。断ち切られた切断面から、轟音と共にその巨体をすべらせてゆく。
だが――倒れない。“倒れる”のではなく、目標の真上に“落ちる”よう、計算し尽くされた角度でつけられた切断面に沿って、バランスを保ったまま横へとずれていく。
そして――ついにビルの上部は足場を失った。完全に切断面からすべり落ち、地面へと――そこにいたマスターギガトロンに向けて落下していく。
「く、くそ…………っ!」
うめき、なんとか離脱しようとするマスターギガトロンだったが――傷ついた身体ではそれもかなわず、
「“びるでいんぐ、はんまあ”――“はいぱあ”」
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
ジュンイチのつぶやきと、マスターギガトロンの絶叫が交錯し――
地上本部“だったもの”が、マスターギガトロンを押しつぶした。
ビルの発破解体と同じだ――計算し尽くされた人為的な崩壊により、あれだけの大きさのビルが崩壊したというのに、自分達のもとには破片はほとんど飛んでこなかった。
しかし――その場の誰もが、そんな破片などとは比べ物にならないほどの衝撃を受けていた。
「そんな……!」
「地上本部が……!」
カリムによって示された予言の通り――それこそ文字通り、地上本部は“崩壊”した――呆然とフェイトやはやてがつぶやくと、
「………………お前ら」
そんな彼女達に声をかけ――もうもうと舞い上がる土煙の中から、ジュンイチがゆっくりとその姿を現した。
「…………あなた……自分が何をしたか、わかってるんですか!?」
「あぁ」
思わず声を荒らげるフェイトだったが――ジュンイチはあっさりとそう答えた。
なのはへと視線を向け――ふと気づいてしゃがみ込むと彼女の頬についていたすす汚れをぬぐってやり――改めて立ち上がり、告げる。
「…………これが……“始まり”だ」
「え………………?」
「意味は自分達で考えろ」
思わず声を上げるはやてに答えると、ジュンイチはクルリときびすを返した。
「オレのやり方をわかってもらおうとは思わない。間違ってると思うなら、全力で止めに来い。
けど……その前に、お前達が何のために戦うのか……その意味を、もう一度よく考えてみるんだな。
オレと同じにはならんと思うが……それでも、どう進むべきかは、見えてくるはずだ」
こちらに顔を向けることもなくそう告げると、ジュンイチは再び舞い上がる土煙の中へと消えていく――その姿を、傷ついたなのは達は追う事もできず、ただ呆然と見送ることしかできなかった。
「…………地上本部の、崩壊……
予言は……覆らなかった……」
「それも……ある意味、最悪の形でね……」
いずれにせよ、戦いは終わった――地上本部を襲う敵に“勝利”し、地上本部を守りきれず“敗北”した。息をつき、フェイトとライカがつぶやき――
「…………終わってへん……」
そんな彼女達に、はやては静かにそう告げた。
「……まだ……事件は、終わってへん……
私達、機動六課は……まだ、終わってへん……」
つぶやき、はやては頭上を見上げ――ミッドチルダの月は、立ち込める土煙の向こうからそんな彼女達を静かに照らし出していた。
ジュンイチ | 「柾木ジュンイチの、必殺技解説〜♪ 今回紹介するのは“びるでぃんぐ・はんまあ”! ビルをぶった斬って崩壊させて、相手にぶつける荒技で、高さ200m以上のビルでやる時は“びるでぃんぐ・はんまあ・はいぱあ”になるんだ!」 |
はやて | 「私もやられたんやったなぁ、昔……」 |
ジュンイチ | 「ちなみに、ひらがな表記がチャームポイントだ」 |
はやて | 「いらんから、チャームポイントなんて」 |
ジュンイチ | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第74話『傷〜戦いの爪痕〜』に――」 |
二人 | 『ゴッド、オン!』 |
(初版:2009/08/15)