「よっしゃあっ!
 ガスケット様、ふっかぁつっ!」
 トランスフォーマー向けに何もかもが大きめに作られたマックスフリゲートの一室――ベッドから元気に飛び起き、ガッツポーズで雄叫びを上げるガスケットに、見舞いに訪れていたゆたかやヴィヴィオは「わーい」と素直に喜び、拍手してみせる。
「よかったね、ガスケット♪」
「私達を守るためにケガさせちゃって……ごめんなさい」
「いいってことよ。
 オレ達ゃそれが仕事なんだからさ」
 喜びの声を上げるヴィヴィオのとなりでゆたかが頭を下げる――そんな彼女に答えると、ガスケットはもう大丈夫とばかりに胸を張り、
「ところで……ひとつ聞きたいんだけど」
 ガスケットは不意に視線を二人に向けて落としてきた。胸を張ったその姿勢のまま、顔だけを彼女達に向けて尋ねる。
 すなわち――
「ここ………………どこ?」

 

 


 

第77話

夢の中へ
〜マスターコンボイ救出作戦〜

 


 

 

「はい。
 これ、頼まれてたデータね」
「ありがとうございます」
 告げるなのはにそう答えると、スバルは彼女から差し出されたデータチップを受け取った。
 場所はホスピタルタートル内のなのはの病室。彼女のお見舞いにやって来たスバルは局の制服姿で、付き添いのこなたも私服姿。つまり――
「えっと……すみません。
 なんか、私達だけ先に退院しちゃって……」
「いいよ、そんなこと気にしなくても」
 そう。スバルやこなたは隊長陣に先駆け先日無事退院――すでに退院していたティアナ達と共に、勤務への復帰を果たしていた。
 と言っても、はやて以下隊長陣が万全でないため機動六課も開店休業状態。新たな拠点となるノイエ・アースラの到着に備え、移動の準備を進めるくらいしかやることがないのが現状だ。
 だが、そのおかげでできることもあるワケで――
「キャリバー達……もう組み上がってるんだよね?」
「あ、はい……
 それで、あとは調整だけ、っていう段階で……」
「なるほど。
 だから私の持ってた、最新の訓練データが欲しかったんだ……」
 復帰してからというもの、スバルやこなたは手すき時間をフル活用。全損したマッハキャリバーの再生と、傷ついたマグナムキャリバーの修復に着手していた。
 しかも、修復ついでにシャリオも巻き込んでの大幅強化にも着手。無事本体が組み上がったため、調整のためになのはの持っている最新の運用データを必要として、本日のお見舞いとなったのである。
「それで……新しいマッハキャリバーとマグナムキャリバー、いけそう?
 シャーリーのことだから、あまりムリな強化はしてないと思うけど……」
「あ、はい。それはもう……」
「ちょっと本体が重くなったのと、必要になる魔力が増えた以外は。
 ただ……」
 尋ねるなのはにスバルと共に答えると、こなたはため息をつき、
自爆装置、みんなから止められちゃったんだよね。
 シャーリーさんもノリノリでGOサイン出してくれたのに……」
「自爆装置はメカニックのロマンなのにねー」
(…………みんな、グッジョブ)
 元々ヲタクであったらしいこなたはともかく、スバルまで“そっち系”だったとは。
 さりげに“師匠”兼“兄”と姉弟子に毒されつつあるスバルの将来に一抹の不安を感じつつ、なのはは暴走を止めた“張本人”達、今は外でリハビリを兼ねた自主訓練をしているはずのティアナ達に内心で賛辞を送り――
〈はいはーい、ちょっとお呼び出しさせてもらっちゃうねー♪〉
 艦内放送で気楽にそう宣言するのは霞澄の声だ。
 いくら艦内には身内しかいないと言っても“コレ”はないだろう。あまりにもお気楽な放送になのは達が苦笑する中、霞澄の声は続ける。
〈スバル、来てるんでしょ?
 この放送聞いたら格納庫のTF病室までいらっしゃい! 来てくんないと暴れちゃうぞ〜♪〉
「え…………?
 あたし……?」
「何だろうね……?」
 自分が来ていることにいつの間にか気づいているのはいいとして、一体何の用だろうか。思わず首をかしげ、スバルとこなたは顔を見合わせた。
 

「……説明してもらおうか。
 なんで……アイツの乗ってたあの機体が、マグマトロンにそっくりなのか」
「あら。
 現状からして興味持つどころじゃないだろう、って思ってたのに、意外に食いついてきたわね」
 深刻な面持ちで、セインがズイッ、と顔を寄せてくる――他の姉妹達を引き連れ、格納庫へとやって来た彼女に対し、イレインは動じることもなくウィンドウに向かっていた作業の手を止めた。
「そりゃ、気にもなるさ。
 ドクターと柾木ジュンイチが敵対してたのは明らかだってのに、扱ってる機体はどっちもそっくり。
 普通は考えるさ――作ったヤツが同じなんじゃないか、って」
 だが、そんな落ち着き払ったイレインの言葉にも感情を荒らげることもなく、セインは淡々とそう続ける。
「クア姉に、あたし達は捨てられて……そしたら、そのクア姉の“後ろ”にいる、ドクターの作ったものっぽい機体を柾木ジュンイチが使ってて……
 何がどうなってるんだよ? ワケわかんないよ」
「なるほどね。
 マグナブレイカーがマグマトロンにそっくりだったことで、ジュンイチとスカリエッティがつながってるんじゃないか、って勘ぐっちゃったワケか。
 さしずめ、今回の一件は全部スカリエッティとジュンイチの八百長なんじゃないか……ってところかしら?」
 セインの言葉に苦笑しつつ、イレインは作業を完全に中断すると彼女達へと向き直った。
 メンテナンスベッドに収められたロボットモードのマグナブレイカー、その蒼き鋼の巨体へチラリと視線を向けながら、セイン達に応える。
「ただね……アンタ達の考え、あながち間違ってるワケでもないのよ。
 アンタ達の考えた通り、マグナブレイカーは元々、スカリエッティの作ったものなんだから」
「ちょっと待てよ。
 何でドクターの作ったものを、アイツが使ってるんだよ!?」
 イレインの言葉にセインを押しのけ、ノーヴェが前に出てくる――そんな彼女の額を人さし指で軽く押さえ、イレインは彼女に聞き返した。
「落ち着きなさい。
 なら、逆に聞くけど……アンタ達は心当たりはないの?
 スカリエッティの作った機体が、あたし達の手に渡る――そんな心当たりが」
「はぁ? そんなのあるワケないだろ!」
 イレインの問いに対し、ノーヴェは思わず声を荒らげ――
「…………もしかして……」
 思い出したように口を開いたのはディードだった。
「ドクターの過去の記録……柾木ジュンイチの攻撃によって受けた被害の中に、マスターの開発した試作トランステクターの情報がありました。
 まさか……」
「はい、ディード大正解。
 あのマグナブレイカーはね。ジュンイチがスカリエッティのラボを叩いた際に回収した試作のトランステクターを、こっちでカスタマイズしたものなの。
 元々が試作品なんだもの――“完成品”にそっくりでも、おかしくないでしょ?」
「じゃあ、その試作品のトランステクターって……マグマトロンのプロトタイプ!?」
「そう。
 もっとも、中身はほとんど総取っ替え、ってぐらいにいじくり回したんだけどね――何しろ、ゴッドマスターじゃないジュンイチが使えるように改造しなきゃならなかったんだから」
 声を上げるセインにイレインが答えると、
「なるほど……そういうことっスか。
 これであのマグナブレイカーの出所についての疑問はスッキリ。納得したっスよ」
 腕組みしてウンウンとうなずくのはウェンディである。
「で……納得ついでにもひとつ質問っスけど……」
 言って、ウェンディの見つめる先へと全員が視線を向け――
「アレは、何の騒ぎっスか?」
 格納庫の一角に正座させられ、すずかから絶賛説教中のジュンイチを指さし、ウェンディはイレインにそう尋ねた。
 ジュンイチの頭にはマンガちっくな多段タンコブ――それが誰の手によるものか、状況からして推理するまでもなかった。
 と――
「あれれー? パパ、まだ怒られてるの?」
 そんな声を上げながら、ルーテシアを伴ってやってきたのはホクトである。
「ルーお嬢様……
 お嬢様は知ってるんですか? 柾木ジュンイチがどうしてあぁなってるのか」
「…………怒られてる」
 イレインに聞くよりも彼女に聞いた方がよさそうだ。尋ねるセインに対し、ルーテシアはそう答えた。
「前の戦いで……危ないことしたからって……『ムチャするな』って、ずっと怒られてる」
『あー……』
 「危ないこと」、その心当たりはノーヴェ達にはありすぎるほどにあった。
 先日の戦い、そこでのマグナブレイカーの強制起動である。
 あの戦いで、ジュンイチは暴走の危険のあるマグナブレイカーの起動を強行し、さらにはその暴走の危険性の“元凶”とも言える動力部を本来とは違う使い方でムリヤリ起動させるという暴挙に出たのだ。
 なるほど。開発者として、彼の身を案じる者として、二重の意味で怒り心頭というワケか――セインがそんなことを考えていると、
「ところで……みんなはこれからどうするの?」
 そう尋ねたのはホクトだった。
「どう……って?」
「だって……」

「みんな、お姉ちゃんとケンカしちゃったんでしょ?」

『………………っ』
 聞き返すセインに答えるホクトの言葉は彼女達にとって一番の“問題”をつくものだった――あっさりと返され、セイン達4人は思わず言葉を失ってしまう。
「…………そう……っスね……」
「私達に……帰る場所は、もう……」
 「自分達なんかいらない」――そう言い切ったクアットロの言葉が脳裏によみがえり、いつもの元気も失せてしまったウェンディにディードも静かに同意する。
「あたしら……どうすればいいんだよ?」
 ポツリ、とつぶやくようにノーヴェはイレインにそう尋ね――
「自分で考えろ」
 そう答えたのはすずかから説教を受けていたはずのジュンイチ――見れば、説教されていたその位置、その姿勢のまま、静かにこちらに向けて告げる。
「オレがあの戦いでお前らを助けたのは、あくまで“オレ自身の意思”によるものだ。
 そこにお前らの選択は含まれてないし――含めてもいけないと思う。
 お前らの“道”はお前らのもの。オレのものでも、誰のものでもないんだからな。
 幸い、時間ならタップリできたワケだし――」
 そして――ジュンイチは顔だけをセイン達に向け、告げた。
「どうしたいのかは――お前が決めろ」
 

「夢の中……ですか?」
「そう。夢の中」
 思わず聞き返すスバルに対し、霞澄はあっさりとそう答えた。
 どういうことなのかイマイチ理解が追いつかず、スバルはついてきたこなたと顔を見合わせる――そんな彼女達に答えるのは霞澄の傍らに控えていた、入院服姿のシャマルである。
「二人も……知ってるわよね?
 マスターコンボイのことは」
「…………はい」
 その言葉で、場の空気が一気に重くなった。シャマルの言葉にうなずき、スバルは自分達のいるホスピタルタートルの格納庫、そこに設置されたトランスフォーマー用の病室の一角――メンテナンスベッドにロボットモードで収まるマスターコンボイへと視線を向けた。
「まだ……目が覚めないんですよね?」
「身体の方に異常はないんでしょう?
 どうしてなんだろ……」
 つぶやくスバルの言葉にこなたもとなりで首をひねるが、二人のその反応は予想の内だったようだ。シャマルは落ち着いた口調で続ける。
「霞澄さんは、その原因は身体の問題じゃないんじゃないか、そう考えて私を呼んだの。
 そして……その判断は結果として大正解だったわ」
 言いながら、マスターコンボイへと視線を向け、続ける。
「原因はマスターコンボイの“心”の方にあったの。
 理由まではわからないけど……今、マスターコンボイの意識は深層心理のさらに奥の方にもぐり込んでしまっているの。
 その意識が“表”に戻ってきてくれないと、マスターコンボイはきっと目覚めない……」
「…………あー、ちょっといいですか?」
 と、そこでこなたが手を挙げた。シャマルに対して確認する。
「だんだん、話が見えてきたんですけど……
 まさか……スバルにマスターコンボイの深層心理……もっと言うなら“夢”の中にもぐり込んで、マスターコンボイの意識を連れ戻してこい、と?」
「その『まさか』よ」
 あっさりと霞澄はうなずいてくれた。
「シャマルちゃんに精神リンクをかけてもらって、スバルの意識をマスターコンボイの夢の中に送り込むの。
 そして、マスターコンボイの意識を見つけ出し、連れ戻してもらう――今のところ、マスターコンボイに目覚めてもらう方法はそれしかないわ」
「えっと……自然に目覚めてもらう、って選択肢は……?」
「選んでもかまわないけど……彼の“眠り”があまりにも深すぎる。
 最悪、事件解決までに目覚めないかもしれないわね」
 恐る恐る聞き返すスバルだが、霞澄の答えはあまりいいものではなかった。
「スバル……この役目を任せられるのはあなたしかいないのよ。
 最近のマスターコンボイと一番つながりが深かったのは、彼に名前で呼んでもらえてるなのはちゃんでもティアナでもない。あなたなんだから」
「………………」
 その言葉に、スバルは無言でうつむき、しばしの間黙考し――
「…………わかりました。
 やります……ううん、やらせてください!」
「そうこなくっちゃ♪」
 顔を上げた時には、スバルの決意は固まっていた。力強く告げられるその言葉に、霞澄は満足げにうなずいて――
「しょうがないなー。
 それじゃ、私も行こうかな?」
「え? こなた?」
「スバルだけじゃ心配だもん。姉弟子としては、やっぱりついていかないとね。
 それに、人の夢の中に入るなんて、めったにできる経験じゃないし♪」
 突然同行を申し出たのはこなただ。戸惑うスバルに対し、おどけるように肩をすくめてそう答える。
「と、ゆーワケで私も同行したいんだけど……霞澄ちゃん、大丈夫?」
「それはあたしより、ナビすることになるシャマルちゃんに聞くべきだと思うんだけど」
 こなたに答え、シャマルへと視線を向ける霞澄だが――シャマルは笑顔でうなずいてみせた。どうやらOKらしい。
「じゃあ、時間も惜しいし、さっそく始めようか」
「それはいいんですけど……『夢の中に入る』って、やっぱりあたし達も寝なきゃダメなんですか?」
「うーん、大して眠くないんだけどなぁ……」
 気を取り直して告げる霞澄にスバルやこなたが首をかしげる――が、
「あぁ、それなら大丈夫」
 対し、霞澄にはすでにその対策は考えていたようだった。あっさりとそう答えるとクルリと振り向き、
「それじゃ……“眠らせ役”の方、どうぞ♪」
『え………………?』
 続く霞澄の言葉に、スバル達が思わず首をかしげた。そんな二人の前に現れたのは――
「ヴィータ副隊長!?」
「ってゆーかアイゼン起動済み!?
 なんかすっごくイヤな予感がする構図なんだけど!?」
 そう。そこには入院服のまま、起動したグラーフアイゼンを肩に担いだヴィータ――思わず後ずさりし、救いを求めるように霞澄へと視線を向けるスバルとこなただったが、
「ん?
 まさに二人の考えてる通りの展開だけど?」
 むしろ「何を聞いてるの?」的なノリで答えられた。
「やっぱり『眠らせる』となればコレでしょう?
 そんなワケだから、ヴィータちゃん、スコーンッ、とやっちゃって♪ スコーンッ、と♪」
「おぅ。スコーンッ、と、だな」
「擬音だけスマートにしてもダメですから!
 普通にアウトですから!」
「や、やっぱナシ! 私は行かないってことでぇっ!」
 スバルとこなたがあわてて叫ぶが、かまわずヴィータはグラーフアイゼンを振り上げ――
 

 とりあえず、被害は“気絶”に留まった。

 

「クアットロめ……!
 何を考えている! 柾木もろともセイン達まで襲うなど……!」
 一方、スカリエッティのアジト――妹を襲うというクアットロの暴挙に、チンクは先日のトーレとほぼ同様に怒りの声を上げていた。
「ドクターもドクターだ!
 あの人はどうもクアットロには甘い!」
「確かに、な……
 果たして、今回のこともどれだけ注意してくれたか……」
 チンクの言葉にうなずくトーレだが――二人は知らない。
 先日の襲撃は、クアットロのみならずスカリエッティも共犯であることを。
 セイン達に「捨てられた」と思い込ませるため――その“ウソ”に真実味を持たせるため、自分達にもその事実は伏せられているのだと言うことを。
 そして、そんな二人の企みは現在のところ筋書き通りに進んでいた。真意の見えないクアットロの行動に苛立ち、チンクとトーレは苛立ちもあらわに息をつき――
「それよりも、今は行方のわからない“聖王の器”かと」
 冷静にそう提案するのはセッテである。
「セイン姉様達については、柾木ジュンイチが守ったと聞きます。
 今のところは彼に預けておくのも、姉様達の安全を確保するには有効な手かと」
「…………そうだな。
 セイン達は柾木のところにいる――それだけで無事である保証には十分すぎる。
 セッテの言うとおり、今は安全の確かなセイン達よりも行方の知れない“聖王の器”を見つけ出すことの方が先決だろう」
 セッテの言葉に頭が冷えた。冷静さを取り戻してチンクはそう結論づけるが、
「しかし……具体的にはどうする?
 “聖王の器”も、ルーテシアお嬢様も……行方については、何の手がかりもないんだぞ」
「むぅ……」
 本当は“聖王の器”=ヴィヴィオやルーテシア達もジュンイチの元に保護されているのだが、そのことはトーレ達はもちろん、スカリエッティ達すら知らないこと――トーレの指摘に、チンクは思わず黙り込んでしまう。
 と――
「機動六課……」
 オットーが不意にそうつぶやいた。
「そっか……
 元々“聖王の器”は機動六課で保護されていた……当然、向こうもその行方は捜してる……」
「なるほど。
 機動六課が手がかりをつかんでいる可能性は皆無ではない……闇雲に探し回るよりも、少しは希望が持てるかもしれないな」
 オットーの意図に気づき、つぶやくディエチの言葉にうなずくと、トーレは立ち上がって一同に告げた。
「では、機動六課に攻撃をかけ、データを奪う――それでいいな?
 攻撃目標は――」
 

「ヤツらの入院している、聖王医療院だ」

 

「え、えっと……」
「着いた……のかな?」
 気がつけば、一面のゴーストタウンに二人きり――周囲を見回し、こなたとスバルはそれぞれにそうつぶやいた。
「ここがマスターコンボイさんの夢の中なのかな……?」
「状況からして、そう思うしかないでしょ?
 とにかく、マスターコンボイを探してみようよ――そもそもそのために、ヴィータちゃんに殴られてまでここに来たんだから」
 つぶやくスバルにこなたがそう答え、二人はゴーストタウンの中を歩き出す。
「にしても……どう見ても戦った跡だよね? コレ……
 夢の中でまでコレって、骨の髄までファイターなんだねぇ……」
 しかし、行けども行けども人っ子ひとり見えない。歩きながら周囲を見回し、こなたは感心したようにうなずいて――
「でも……寂しいよ、こんなの……」
 対し、スバルは命の気配の見えないこの風景に、どこか寂しげにそう答えた。
「夢見てる時も……眠ってる時も、頭の中は戦いのことばっかりなんて……
 あたし達よりも、戦いの方が大事みたいで……なんか、ヤだな……」
「うん……そうだね」
 そんなスバルのつぶやきに、こなたはうなずいて周囲を見回し、
「スバル的には、自分のことも夢に見てほしいんだもんね」
「うん」
 サラリと告げられた言葉に思わずうなずき――数秒の間をおいて、スバルの顔が真っ赤に染まった。
「ち、違うよ!
 あたしだけじゃなくて、こなたとか、ティアとか、なのはさんとか……」
「あはは、そんなにあわてなくてもわかってるよ。
 スバルが一番好きなのは先生だもんねー♪」
「そ、そういう納得のされ方も恥ずかしいんだけど……」
 からかうこなたの言葉に、スバルは顔を真っ赤にしたままうつむいて――そんなスバルの頭を(背伸びして)なでてやり、こなたは優しく笑いながら告げた。
「じゃあ……がんばろっか?
 次は、マスターコンボイにみんなの夢を見てもらえるように……さ?」
「うん!」
 こなたの言葉に、スバルは笑顔でうなずいて――次の瞬間、ガレキと化したビル街の向こうから爆音が響いてきた。
「爆発!?
 ――まさか!?」
「スバル!」
「うん!」
 その状況が示すのは――素早く状況を理解し、スバルはこなたにうなずいて走り出す。
 ビルとビルの間を抜け、ビル街の反対側へと飛び出して――
「マスターコンボイさん!?」
 見つけた。
 地面を転がってさらなる爆発から逃れ、立ち上がるマスターコンボイの姿を。
「一体、誰と……!?」
 しかし、マスターコンボイは誰と戦っているのか。つぶやき、こなたが周囲を警戒していると、“相手”の方から姿を現した。
 ドラゴンをビーストモードとした、ヒレを思わせる装飾に飾られた漆黒のボディ。
 両手に生み出された真紅の光刃。
 背中の翼を大きく広げ――
 

 マグマトロン(ディード・ゴッドオン態)は静かにスバル達やマスターコンボイと対峙した。

 

 その一方で――現実世界においても、六課に危機が迫ろうとしていた。

「ナンバーズが!?」
「はい!
 まっすぐ、こっちに向かってきてます!」
 ホスピタルタートルのブリッジに設置された仮設の機動六課司令部――車椅子に座った状態で声を上げるはやてに、ルキノが切羽詰った様子で声を上げる。
「こっちは隊長格がまだほとんど動けへん……!
 よりによってこんな時に……!」
 自分やイクト、ライカも含め、隊長格はまだ動けるコンディションではない。焦りもあらわにはやてがうめき――
「……霞澄女史の推理は、どうやら的中していたようだな」
 一方で、ビッグコンボイは冷静にそうつぶやいていた。
「決まりだ――スカリエッティ一味はヴィヴィオを確保してはいない。
 でなければ、満身創痍の六課に攻撃をしかける理由がない」
「トドメを刺しに……とかじゃないんですか?」
「だったら真っ先にやっているさ。アインヘリアルごときにちょっかいを出したりせずにな」
 聞き返すアルトに答えると、ビッグコンボイは改めて告げる。
「連中はヴィヴィオを探しているんだ。
 だからこそ六課を狙う――ヤツらと同じくヴィヴィオやゆたかを探しているオレ達なら、何か手がかりをつかんでいるんじゃないか、と考えてな」
「そんな……
 私達だって、手がかりなんか何もないのに……」
「そう。完全な言いがかりだな。
 だが――向こうはそう思っていないさ。何しろ、向こうはオレ達も手がかり0だとは知らないんだろうからな」
 つぶやくルキノにも、ビッグコンボイはため息まじりにそう答え、
「ともかく、このままにしてはおけん。
 ここで迎撃しては病院を巻き込む。こちらから打って出る」
 言って、ビッグコンボイはきびすを返し――
「はーい、ストップ♪」
 そんな彼の前に立ちはだかり、ストップをかけたのはファイだった。
「ビッグコンボイ達はお留守番。
 パートナーの子達が復帰してないじゃない」
「問題ない。
 これでもパートナー不在での単独戦闘くらい……」
「それだけじゃないんですよ」
 ファイに答えかけたビッグコンボイに、ジーナもまた反対の声を上げた。彼女のとなりで、鈴香がビッグコンボイに告げる。
「別働隊の可能性もあります。
 打って出ても、ここが襲撃を受けなくなる可能性は0にはならない――もし懸念が的中した場合に備えて、信頼できる戦力を残すべきです」
「ビッグコンボイ達なら、パートナーが入院してるだけに気合も入るだろうしね」
「では、ナンバーズの迎撃には誰が出る?
 フォワード陣だけでは……」
「わかっています」
 鈴香やファイに反論するビッグコンボイに、ジーナはうなずき、告げた。
「私達が出ます。
 ティアナさん達、お借りしますね」
「大丈夫なんですか?」
 思えば、彼女達の戦いぶりを見たことはない――思わず尋ねるアルトだったが、ジーナは笑顔でそう答えた。
「ジュンイチさんと10年間やってきた――これだけじゃ、信頼する理由にはなりませんか?」
 

「スバル!」
「こなた!」
 ナンバーズ襲来の報せは、すでにフォワード陣の元にも届いていた。あわてて二人を呼びに来たティアナとかがみだが、スバルとこなたはそろってベッドに横たわったまま静かに寝息を立てている。
「寝てる場合じゃないわよ!
 ナンバーズが来たっていうのに……」
「あー、ちょっと待った」
 そんなスバルを叩き起こそうとベッドに駆け寄るティアナだが、そんな彼女に霞澄が待ったをかけた。
 二人の“案内”のために魔法を展開。意識を集中させているシャマルへと視線を向け、ティアナ達に告げる。
「今二人を起こすのは危険よ。
 二人の精神は、今マスターコンボイの精神の中にいる――それを無理やり叩き起こそうとすれば、二人はもちろん、マスターコンボイの精神にまで影響を及ぼすわ。
 それもかなり深刻なレベルでね――ヘタすれば3人ともこのまま植物状態よ」
「し…………っ!?」
 霞澄の言葉に、かがみは思わず言葉を失う――そんな彼女やティアナに、霞澄は申し訳なさそうに顔をしかめながら告げる。
「申し訳ないけど、今回はこの子達抜きでいってくれないかな?
 FAがひよりちゃんひとりになるけど……ロードナックルも出られるし、後はエリオくんとアイゼンアンカー、みなみちゃんをフロントに出せば補えるはずだから」
「わかりました。
 それでなんとか、やってみます」
 霞澄に答えると、ティアナは一度だけ、ベッドで眠るスバルへと視線を向けた。
「こっちはあたし達でなんとかしてみせる。
 だから……絶対、マスターコンボイを連れ戻してきなさいよ……」
 

「病院を襲撃するとは、あまり気は進まないな……」
「言うな。
 私も同じ気持ちだ」
 ガジェットを伴い、聖王医療院に向かう道中――飛行するブラッドバットの上に立ち、ため息をつくチンクの言葉に、トーレもまた地上を走るマスタングドーベルの運転席でそう答えた。
「標的が病院にいるんだ。仕方あるまい。
 できることなら、被害は出さずに済ませたいが……」
「まったくだな……」
 トーレの言葉にチンクがうなずき――
「――――――っ!?
 攻撃!?」
 気づいた。とっさにブラッドバットを旋回させ、チンクは自分達を狙った“力”の弾丸を回避する。
「狙撃か……!
 さすがに、あちらもバカではないか……!」
 

「かわされた!?」
「問題ないです! けん制ですから!」
 相手が今の攻撃をかわしたのを確認し、声を上げるファイだが、射撃の主――専用のボウガン型兵装“ウォーターボウガン”をかまえた鈴香は動じることもなくそう答える。
 彼女達がいるのは聖王医療院を守るべく、展開された防衛ラインの最前線――3人とも“装重甲メタル・ブレスト”を着装。けん制の狙撃を放った鈴香を始め、全員が戦闘準備を完了している。
 ティアナ達やかがみ達の姿はない――彼女達は修復の完了したジェットガンナー達と共にやや後方で第二防衛ラインを展開してもらっている。
 ここでナンバーズのメンバーを自分達で足止め。ガジェット群は素通しし、ティアナ達に叩き落としてもらおうというのだ。退院したてのティアナ達に強敵であるナンバーズをぶつけられないという鈴香の提案による布陣である。
 そして――
「……来ました!」
 このメンバー中唯一飛行能力を持たず、地上に布陣していたジーナが声を上げると同時――森の奥から、トーレの乗るマスタングドーベルが飛び出してくる!
「ゴッドオン!
 マスタング、トランスフォーム!」

 そのままゴッドオン、ロボットモードへとトランスフォームしたトーレはジーナに向けて襲いかかる。対し、ジーナも迎撃しようと身がまえるが、
「IS発動、“ライドインパルス”!」
 ジーナが迎撃に動いたタイミングでトーレがISを発動――高速機動状態に突入し、一瞬にしてジーナの背後に回り込む!
 ジーナの反応は間に合わない。そのままトーレは一撃を繰り出し――
「なんのっ!」
 それを防いだのはファイだった。手にした短剣、ハウリングダガーでトーレの、マスタングの振り下ろした拳を受け止める。
「貴様……私の動きに追いついた……!?」
「ライカお姉ちゃんに最高速度では負けるけど、“小回り込み”なら“Bネット”最速なんだから!」
 驚き、うめくトーレにファイが答え、二人はそのまま高速で何度もぶつかり合う。
「となると……私達の相手は」
「彼女……ですね」
 残されたのはジーナと鈴香の二人――つぶやき、油断なく身がまえる二人の目の前に、ブラッドバッドに乗ったチンクが舞い降りてきた。
 

「来るわよ――ガジェット!」
「上等!
 リハビリがてら、まとめて叩き落としてあげるわよ!」
 そして第二防衛ライン――鈴香達が素通りさせたガジェット群の接近を確認、クロスミラージュをかまえるティアナの言葉に、かがみはライトフットへのゴッドオンを完了してそう答える。
「うぅっ、大丈夫かなぁ……?」
《ビビんなよ、シロ!
 そうそう何回も落とされてたまるかよ!》
「クロ殿の言う通りでござる。
 今回はこちらが待ち受ける形。万全とは言えずとも現状で最善の布陣なのでござるから」
「そーそー。
 めんどうくさいからさっさとガジェット片づけて、ナンバーズのお姉さん達をフクロにしちゃおうかね」
 自分達の修理もようやく終わったばかりで、不安を覚えるロードナックル・シロ――そんな彼をクロやシャープエッジ、アイゼンアンカーが励ましていると、
「………………」
「あずささん……大丈夫ですか?」
 それぞれが戦闘態勢に入る中、あずさは“四神”を起動させたまではいいがジッと何かを考え込んでいる――そんな彼女に気づき、キャロは不安げに声をかけた。
「ひょっとして、ヴァイスさんのこと……?」
「……う、うん……
 まだ意識戻らないし、気にならないって言ったらウソになるけど……」
 キャロの頭上から、レインジャーにゴッドオンしたつかさが尋ねる――答えて、アスカは自分の頬をパシンッ、と叩き、
「…………ゴメン、とりあえず大丈夫。
 ヴァイスくんのことを考えるなら、なおさらここを守らないといけないもんね、うん」
 ここを守ることがヴァイスを守ることにつながる。だから全力でここを守る――自らに対して気合を入れ、あずさはキャロやつかさに笑顔を見せ――
「――――待ってください!」
 “それ”に気づき、ロードキングにゴッドオンしたみゆきがあわてて声を上げた。
「みゆきさん……?」
「レーダーに反応――こちらに向けて、上空から急速に接近する物体があります!」
 聞き返すみなみにみゆきが答え――彼女の前に漆黒の巨体が舞い降りた。
 漆黒の鋼の竜――マグマドラゴンだ。
 そして――
「…………ゴッド、オン。
 マグマトロン、トランス、フォーム」

 淡々とそう告げて――ギンガはマグマドラゴンとゴッドオン。マグマトロンとなってティアナ達の前に降り立った。
 

「――――――っ!?
 ジーナさん!」
「はい!」
 第二防衛ラインに現れた巨大な“力”を、彼女達は敏感に感じ取った――声を上げる鈴香に、ジーナは迷わずうなずいてみせた。
「マグマトロン……また出てきたんですか!?」
「どうやら、またギンガちゃんで出てきたみたいですね……
 ジュンイチさんに撃墜されかけて、しばらくは控えるかと思っていたんですけど……希望的観測だったみたいですね……!」
「そういうことだ!
 柾木ジュンイチならば読んできただろうが――やはり貴様らではヤツには及ばんか!」
 うめく鈴香とジーナに答え、ブラッドバットとゴッドオン、ブラッドサッカーとなったチンクがブラッドファングを放ち――
「ランドトンファー!」
 その一撃を、ジーナは両手にかまえたトンファー、ランドトンファーでまとめて弾き飛ばした。
「鈴香さん、行ってください!
 ティアナちゃん達だけじゃ荷が重い!」
「で、でも……!」
「元々のスペック差からして、“工夫”で補える領域超えてるんですよ!
 その上ギンガちゃんがマスターじゃ、ティアナちゃん達も本気になれない――あずさちゃんと“四神”だけじゃきっとフォローが追いつかない!
 私達の誰かがいかないと!」
 ファイはトーレの相手から外せないし、“地”属性ゆえに空を飛べないジーナではどうがんばったって間に合わない。鈴香を向かわせようとするジーナの人選は決して間違ったものではなかった。
 そして、鈴香もそれを理解しているから多くは言わない――すぐにきびすを返し、第二防衛ラインへと向かう。
「いかせるか!」
 そんな彼女に向けて、チンクがブラッドファングを飛ばし――
「させません!
 ランド、スラッシャー!」
 ジーナがそれを阻んだ。ランドトンファーに溜めた力をブレードの光刃のように飛ばし、ブラッドファングを叩き落とす。
「あなたの相手は私です!」
「そうか……
 その意気や良し、と言いたいところだが――!」
 言い放つジーナに対し、チンクは一斉にブラッドファングを飛ばした。とっさに後退したジーナの目の前の地面を、無数の鋼の牙が深々と抉り抜く。
「残念ながら、あなたでは役不足だ。
 見たところ、柾木ジュンイチと同じブレイカーのようだが……彼に比べれば何の脅威にも感じない」
「いや、あの人と比べたらたいていの人はそうでしょう」
 チンクの言葉に思わずツッコみ――
「…………けど」
 ジーナは笑みを浮かべてチンクに告げた。
「私も、あの人のムチャクチャぶりを少しは学習してますからね――甘く見ない方がいいですよ。
 ジュンイチさんとの付き合いが一番長いのは、ダテじゃないんですから」
「………………何?」
 そこで初めて、チンクの声色から余裕が消えた――ジーナへと改めて向き直り、上空から見下ろしつつ尋ねる。
「説明してもらおうか。
 ヤツとの付き合いが一番長い、とは……」
「そのままの意味ですよ。
 ジュンイチさんがブレイカーに覚醒した時から、私はずっと一緒に戦ってきたんd――」
 しかし、ジーナが最後まで答えることはできなかった。
 話の途中で、チンクがブラッドファングを飛ばしたからだ――回避、後退するジーナに対し、チンクは静かに告げる。
「……もういい。事情は飲み込めた」
 自分が同時に制御できる最大数までブラッドファングを射出し――そのすべての狙いをジーナに定める。
「すまないが……」
 そして――

「なぜか、あなただけは全力で叩きたくなった」

 その言葉と同時――ブラッドファングが一斉にジーナへと襲いかかった。

 

「ぐわぁっ!」
 一方、こちらは夢の世界――マグマトロンに弾き飛ばされ、ロボットモード、ブランクフォームのマスターコンボイは廃ビルのひとつに叩き込まれた。
「ぐ…………っ!
 おのれ……!」
 それでも、マスターコンボイは戦意を失ってはいなかった。ダメージに顔をしかめながらもなんとか立ち上がり――
「マスターコンボイさん!」
「ちょっとちょっと! 何してるカナ!?」
 そんな彼の元に、スバルとこなたはあわてて駆け寄った。
「貴様ら!?
 ちょうどいい! 力を貸せ!」
「え…………?」
「何を呆けている!
 アイツを倒すんだろうが!」
 いきなり助力を求められ、思わず止まるスバルに答えると、マスターコンボイは目の前のマグマトロンをにらみつける。
「ち、ちょっと待ってよ、マスターコンボイ!」
「こんなところでそんなことしてても意味ないよ!
 みんな待ってる――早く帰ろうよ!」
「『帰る』!?
 敵を目の前にして、何を言っている!?」
 あわてて待ったをかけるこなたとスバルだが、マスターコンボイはそんな二人の言葉に聞く耳を持とうとしない。
「アイツを倒さなければ、六課がやられるんだぞ!
 それがわかっていて――退けるか!」
「そんなことにはならないから!
 これ、マスターコンボイの夢なんだよ!」
「夢だと!? そんなはずがあるか!
 もういい! 貴様らはそこで黙って見ていろ!」
「マスターコンボイさん!」
 説得しようとするこなただが、マスターコンボイはこれが夢だと認めようとしない――スバルが止めるのも聞かず、立ち上がってマグマトロンと対峙する。
 対し、マグマトロンはそんな彼らに向けて光刃を振るった。放たれた“力”の刃が飛翔し、マスターコンボイへと襲いかかり――
「なんの――っ!」
 マスターコンボイはかまえたオメガでそれを受け止めた。なんとか後方に受け流し、改めてオメガをかまえ直す。
「貴様はここで必ず倒す……!
 六課のヤツらには……コイツらには、指一本触れさせん!」

「まったく、ガンコなんだから……!」
 自分達の説得に耳を貸さず、一心不乱にマグマトロンへと襲いかかるマスターコンボイ――その姿に、こなたはスバルのとなりで思わずため息をついた。
 と――
「マスターコンボイさん……この夢の中で、ずっとマグマトロンと戦ってたんだ……」
 ポツリ、とつぶやいたのはスバルである。
「よっぽど悔しかったんだ……負けちゃったのが……」
「というより……“スバル達を守れなかったのが”だと思うよ」
 つぶやくスバルに、こなたは静かにそう答えた。
「夢から出てこれなくなるはずだよ……
 マスターコンボイ、“みんなを守れる自分”になろうって、今まで自分なりにがんばってきたんだから……
 その今までの努力を、全部力任せに叩き壊されちゃったんだから……」
「でも……」
「うん。わかってる」
 不安げに声を上げるスバルに、こなたは力強くうなずいてみせた。
「結果的に、マスターコンボイのみんなへの想いが、今は思いっきりマイナスに働いちゃってる。
 こんなところでマグマトロンに勝ったって現実は変わらない。何の意味もないのに、“みんなを守る”って決意に夢中でそれがわかってない。
 もっとも、そもそもこれが夢だってことにすら気づいてないんだから、無意味さに気づく余地なんて最初からないんだけどね」
 そう告げ、こなたはスバルへと向き直り、
「だから……止めよう。
 マスターコンボイにこれが夢だってわかってもらって、みんなで現実に帰ろう」
「うん!」
 こなたの言葉に、スバルは力強くうなずいて――
「って、のわぁぁぁぁぁっ!?」
「にゃあぁぁぁぁぁっ!?」
 しかし、二人がカッコつけられたのはそこまでだった。マグマトロンに吹っ飛ばされてきたマスターコンボイが自分達のいた場所に落下。二人はあわててその場を離れ、落ちてくる巨大な鋼の身体から逃げ惑う。
 さらに、マグマトロンがそこに光刃を飛ばしてくる――攻撃に巻き込まれ、こなたもスバルもマスターコンボイを説得するどころではない。
「こ、こなた、どうしよう!?」
「こっちが聞きたい……って、また来たぁっ!」
 声を上げるスバルに答えかけ――そこへ新たな光刃が飛来した。あわてて飛びのいたこなたの目の前で、駆け抜けた光刃が大地を深々と斬り裂いていく。
「これじゃ、マスターコンボイを説得する前に、私達もオダブツだよ!」
「で、でも、夢の中で、いったいどうすれば……!」
 声を上げるこなたにスバルが答え――
(………………?)
 不意に気づいた。思考が一瞬停止し、スバルは思わずその場で足を止めてしまう。
(……ここは……マスターコンボイさんの夢の中……
 でも、あたし達も眠って(眠らされて?)ここにいる……そういう意味じゃ、ここは“あたし達の夢”の中でもある……)
「………………そうか!」
 その瞬間、スバルの頭の中で閃いたものがあった。声を上げ、スバルは攻撃をかわしながらマスターコンボイへと駆け寄り、
「マスターコンボイさん!」
「何だ!?
 今はムダ話などしているヒマは――」
「あたしが勝ったら……認めてくれる!?」
「何……?」
「あたしがマグマトロンに勝ったら、ここが夢だって認めてくれる!?」
「バカを言うな!
 貴様ひとりで勝てる相手か! それこそ夢物語もいいところだ――」
「でしょ?
 だから……ホントにあたしが勝ったら、ここが夢の中だって認めるしかないよね!?」
 マスターコンボイにそう答えると、スバルは彼の前に進み出て、
「そうだよ……ここは夢の中なんだ!
 現実じゃないんだから――信じれば、何だってできるはずだよ!」
 そう告げて――スバルはこなたへと視線だけを向け、声をかけた。
「こなた!」
「はい!?」
「借りるよ!」
「何を!?」
 こなたが声を上げるが――百聞は一見にしかずだ。スバルは大きく息を吸い込み、叫んだ。
「カイザージェット!」

「トランスフォーム!」
 スバルの咆哮が響き、それに伴い、大空を飛翔するジェットが変形トランスフォームを開始する。
 まず、後方の推進システムが後ろへスライド、左右に分かれ、尾翼類が折りたたまれると爪先が起き上がって人型の両足となり、さらにその根元、腹部全体が180度回転し、機体下部を正面にするように反転する。
 続けて、機体両横、翼の下の冷却システムが変形。後方の排気口がボディから切り離されると内部から拳がせり出し両腕に。両肩となる吸気部は、両サイドのカバーが吸気口を覆うように起き上がり、カバー全体が肩アーマーとなる。
 最後に機首が機体上部、背中側に倒れるとその内部からロボットモードの頭部が現れ、カメラアイに光が宿る。
「ゴッド、オン!」
 そして、スバルが再び咆哮。同時にスバルの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてスバルの姿を形作り――そのままカイザージェットの変形したボディと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
 背中の翼が上方へと起き上がり、ゴッドオンを終えたスバルは高らかに名乗りを上げる。
「熱き勇気と絆の力!
 翼に宿して悪を討つ!

 
カイザーコンボイ――Stand by Ready!」

「何だと……!?」
「す、スバルが、カイザーコンボイに……!?」
 マスターコンボイやこなたの驚きの声は、決して大げさなものではなかっただろう。
 なぜなら、自分達の目の前で繰り広げられたのは、普通なら絶対に“あり得ない”光景――
 無意識下で調整を行い、ゴッドマスターとなら誰とでもゴッドオンできるマスターコンボイや、元々不特定多数のゴッドマスターとゴッドオンできるように作られているマグマトロンとは事情が違う、こなたしかゴッドオンできないはずのカイザージェットとゴッドオンし、スバルはカイザーコンボイとなってその場に降り立った のだから。
 その姿に、こちらと対峙しているマグマトロンもまた動揺の気配を見せ――
「いっ、けぇぇぇぇぇっ!」
 一瞬にして間合いを詰め、スバルはマグマトロンを力任せに殴り倒す!
 いきなりの反撃にたまらずたたらを踏むが――それでもさすがはマグマトロン。すぐに立て直して反撃に移った。両手に光刃を生み出し、スバルのゴッドオンしたカイザーコンボイに向けて振り下ろすが、
「そんなの!」
 スバルには通じない。光刃に対し真っ向から拳を叩きつけ、打ち砕く!
「ゴメンね。
 時間をかけるつもりはないから……一気に叩かせてもらうよ!」

「フォースチップ、イグニッション!」
 スバルの咆哮が響き――ミッドチルダのフォースチップが飛来した。そのまま、カイザーコンボイの背中のチップスロットに飛び込んでいく。
 それに伴い、カイザーコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開、内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
 カイザーコンボイのメイン制御OSがフルドライブモードへの移行を告げ――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出、さらにバックパックの推進部からも旋風が噴き出し、風の翼となる。
 頭上に掲げた右手、反対方向、真下に向けて伸ばした左手――それぞれの手を大きく半回転、描かれた円の軌道に“力”が流れて渦を巻き、発生した風の輪が一気に勢いを増し、スバルの目の前で巨大な風の塊となった。さらに勢いを増すと形を変え、巨大な獅子を形作る。
〈Charge up!
 Final break Stand by Ready!〉

 カイザーコンボイの制御OSが告げる中、スバルは風の翼を広げて飛び立ち、風の獅子の頭部へと後ろから飛び込んで――
「いっ、けぇぇぇぇぇっ!」
 獅子の口から、マグマトロンに向けて強烈な勢いで撃ち出された。獅子を形作っていた風の渦を全身にまとい、自身のスピードをはるかに上回る速さでマグマトロンへと突っ込み――
「旋風――螺旋!
 スカイブルー、ストライク!」

 マグマトロンに向け、渾身の右ストレートを叩き込む!
 同時、スバルの導いた風の渦――もはや竜巻と言ってもいいそれが襲いかかった。拳を受けたマグマトロンを飲み込み、吹き飛ばす!
 強烈な嵐に四肢をズタズタに引きちぎられ、マグマトロンが大地へと落下し――
「あたしの拳に――撃ち砕けぬものなし!」
 スバルの言葉と同時、巻き起こる大爆発――周囲でくすぶっていた残留エネルギーが大爆発を起こし、マグマトロンは四散、焼滅した。

「バカな……!?」
 絶対にゴッドオンできないはずの機体とゴッドオンし、しかもつい先日、自分達がまるで歯が立たなかったマグマトロンにも圧勝――信じられない戦いぶりをみせたスバルの姿に、マスターコンボイは呆然と声をしぼり出し――
「わかったでしょう? これで」
 そんなマスターコンボイに、こなたが声をかけてきた。
「絶対にありえないことが目の前で起きた――これが夢でなくて何なの?」
「むぅ…………」
 こなたの言葉に、マスターコンボイは返す言葉もない。気まずそうに視線を泳がせ――
「マスターコンボイさん」
 そんな彼に、スバルが声をかけてきた。カイザーコンボイの姿が光に包まれて四散。スバルの姿に戻ってマスターコンボイと向き合う。
 対し、マスターコンボイもヒューマンフォームに変身。どこか困った様子で頭をかきながら、スバルに告げる。
「…………あー、何だ……
 ……どうやら、貴様の言うとおりここは夢の中のようだな。
 でなければ、貴様がオレの勝てなかった相手に勝つことなどできるものか」
「まったく……素直に『夢だとわからず突っ走ってゴメンナサイ』くらい言えばいいのに」
 プイとそっぽを向いて告げるマスターコンボイに、こなたは苦笑まじりに肩をすくめてみせる。
 だが、そんな素直になれないマスターコンボイの言葉にも、スバルは優しく笑いながら答える。
「帰ろう……マスターコンボイさん。
 みんなのところに帰って……今度は現実で、みんなと一緒に勝とう!」
「……フッ、そうだな。
 貴様の言う通り、現実で勝てなければ何の意味もない」
 そのスバルの言葉に、マスターコンボイの口元にようやくいつもの笑みが浮かんだ。差し出されたスバルの右手を自らの右手で握り返し――
「ちょっとちょっと、私のこと忘れないでよねー」
 そんな二人の手に、こなたも自らの右手を重ねた。
「みんなで勝つんでしょ? いきなり他の子忘れてどうするの?」
「フンッ、ここまでついて来ておいて、わめくばかりで何もしなかったヤツがよくも言う」
「あぅ……それを言わないでよぉ」
 返すマスターコンボイの言葉にこなたが肩をこけさせ、スバルもそんな二人のやり取りに笑い声を上げる。
「……まぁ、バカ話はこのくらいでいいだろう。
 さっさと目覚めて――借りを返しに行くぞ!」
「うん!
 やっぱり、マスターコンボイさんはそうじゃなきゃ!」
「でないと、こっちとしても張り合いないもんね!」
 気を取り直して告げるマスターコンボイの言葉にスバルとこなたは力強くうなずいた。3人の意識は覚醒に向かい、光に包まれ――
 

「この…………っ!」
 うめき、精霊力の矢を次々に放つ鈴香だが――ギンガのゴッドオンしたマグマトロンは止まらない。直撃にもかまわず距離を詰め、かがみ達の合体したトリプルライナーとガッチリと組み合う。
「ギンガさん! 目を覚まして!」
 できることなら戦いたくはない――懸命に呼びかけるかがみだが、ギンガはかまわず彼女達を組み伏せにかかった。力任せにトリプルライナーを振り回し、投げ飛ばした。
 豪快に宙を舞い、トリプルライナーは大地に倒れ込む。このメンバー中もっとも出力の高いトリプルライナーですら、マグマトロンの前には足止めにすらならないとは――
「ダメだ……!
 やはり、基本性能が違いすぎる!」
「弱音吐くヒマがあったら撃ちまくりなさい!」
 思わず声を上げるジェットガンナーだが、そんな彼にティアナはせめて足だけでも止めようと射撃を繰り返しながらそう言い返す。
「このままギンガにスカリエッティの手先でいてほしいの!?
 何が何でも、ここでギンガさんを止めないと!」
 言って、ティアナはさらに魔力弾を撃ち放ち――
「ティアの言うとおりだよ!」
「はい!」
 彼女の魔力弾の援護を受け、マグマトロンへと襲いかかるのはあずさとエリオだ――あずさのレッコウとエリオのストラーダが、ギンガの展開したトライシールドと激突する!
「ギンガにこれ以上罪を重ねさせるワケにはいかないよ!」
「だから――ボク達でギンガさんを止めるんだ!」
「うん!
 ボク達だって!」
「めんどうくさいけど、知り合いが敵っていうのも寝覚めが悪いしね!」
 あずさとエリオの言葉に答え、ロードナックル・シロとアイゼンアンカーも突撃――あずさ達の頭上からそれぞれの攻撃をトライシールドに叩きつける!
 これには、さすがのマグマトロンもたまらない。トライシールドを破られこそしないが、勢いに負けて押し戻され――
「もらったっスよ!」
「そこまでされれば……動きは止めざるを得ない!」
 ひよりとみなみの咆哮が響いた。二人の合体したグラップライナーがマグマトロンの背後に飛び出し、拳を振り下ろす!
 が――
「………………っ!」
 動きを止められたかに見えたギンガは強引に身をひねった。トライシールドに叩きつけられているプレッシャーを受け流しつつ反転、そのままの勢いで繰り出した裏拳でグラップライナーを殴り飛ばす!
 さらに、攻撃を受け流されてバランスを崩したあずさ達に一撃――振り回すように繰り出された蹴りが、彼女達をまとめて薙ぎ払う!
「エリオくん! あずささん!」
「大丈夫でござるか!?」
「きゅくるーっ!?」
「大丈夫――この程度!」
「ボクも!」
 後方で援護に徹しているキャロや彼女のガードについているシャープエッジ、フリードが声を上げる――答えて、あずさやエリオはすぐに身を起こした。
 見れば、アイゼンアンカーやロードナックル・シロもまだ戦えるようだ。それぞれに立ち上がり、再びギンガと対峙する。
「とはいえ……これじゃジリ貧かな……?」
 しかし、「最悪ではない」というだけで、状況は決して良くはない――うめき、あずさはギンガの動きに注意を払いながらレッコウをかまえ直した。
「実戦経験不足で駆け引き慣れしてなかったディードちゃんとは明らかに違う……!
 自我をなくしても、操られててもお兄ちゃんに叩き込まれた戦い方は忘れてない。
 おかげでこっちの攻めにもいちいち的確に返してくる――厄介だよ、ホントに。
 まったく、お兄ちゃんの優秀さをこんな形で実感するなんてね……」
「でも……勝つしかない、ですね?」
 となりでつぶやくように告げるエリオに、あずさは無言で、しかし笑顔でうなずいてみせる。
「そうよ……!
 私達だって、このままやられっぱなしじゃ終わらないわよ!」
「ギンガさんは、何がなんでも取り戻すんだから!」
「その通りです!」
 かがみやつかさ、みゆきも口々に答え、トリプルライナーがゆっくりと身を起こす――すぐとなりで同じく立ち上がったひより達、グラップライナーと並び立ち、一同はフォーメーションを組み直しながら改めてギンガと対峙する。
 対し、ギンガも重心を落として再び攻撃態勢に。両者の間で緊張が高まる。
 静かに、しかし力強く、ギンガがティアナ達に向けて一歩を踏み出し――
 

「ちょおっと待ったぁっ!」
 

 高らかに告げられたその言葉と同時――轟音と共にそれは両者のちょうど中間に降り立った。
 舞い上がる土煙がその姿を覆い隠す中、ゆっくりと立ち上がる――直後、自ら土煙を吹き飛ばし、その姿を現した。
 ティアナ達が思わず息を呑む中、ギンガに――マグマトロンに向けて同時に一歩を踏み出して――

 

 

「ギン姉。
 ここからは――あたしが相手だよ!」
《『達』をつけろ、『達』を》
「ホントだよねー♪」
 

 マスターコンボイ、こなた――そしてスバル。
 ゴッドオンを遂げ、戦闘態勢に入った3人は、堂々とギンガと対峙した。


次回予告
 
チンク 「ジーナ・ハイングラム、だったか……
 柾木ジュンイチとの付き合いが長いと自負するだけのものはあるんだろうな?」
ジーナ 「当然です。
 手取り足取り、何もわからない私をリードして、共に朝を迎えたことも数え上げたらキリがないくらい……」
チンク 「な、何……!?」
ジーナ 「…………それがあなたの想像したような“艶事”であったならどれだけよかったか……!」
チンク 「………………は?」
ジーナ 「今の話……徹夜で同人誌の原稿仕上げた時の話なんですよ……
 ちなみにライカさんも巻き込まれました」
チンク 「まぎらわしいわっ!」
ジーナ 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第78話『虹色の力〜過激に無敵・カイザーマスターコンボイ〜』に――」
二人 『ハイパー、ゴッド、オン!』

 

(初版:2009/09/19)