「ま、マスターコンボイ……!?」
《フッ、久しぶり……とでも言えばいいか?》
 マグマトロンにゴッドオンしたギンガと戦う自分達の目の前に降り立ったのは、ずっと眠っていた自分達の仲間――呆然とつぶやくティアナに、マスターコンボイはスバルをゴッドオンさせたまま不敵な笑みと共にそう答え、
「ティアってば……あたし達だっているんだからね」
「まーまー、いいじゃないの。
 それだけティアちゃんがマスターコンボイにラブラブってことなんだから」
「違うわよ! 誰がラブラブ!?」
 横から口をはさむスバルやこなたの言葉に、ティアナは顔を真っ赤にして反論する。
《しかし……ずいぶんと手こずっているようだな。
 主役の登場を盛り上げる演出か?》
「そんなワケないでしょ!
 とはいえ……アンタ達の参戦は正直ありがたいわ」
 目の前のやり取りも気にせず続けるマスターコンボイの言葉に、ティアナは気を取り直してクロスミラージュをかまえ、
「これで思い切り反撃できるってものよ!
 一気にたたみかけるわよ!」
『了解!』
 そのティアナの宣言に、かがみ以下一同は力強くうなずいて――
「あー、ちょい待ち」
 そこに待ったをかけたのはこなただった。
「とりあえず……ギンガちゃんは私達でなんとかしてみるよ。
 みんなはガジェットを何とかして」
「って、アンタ達だけで!?
 大丈夫なの!?」
「大丈夫じゃないけど……ガジェットだってほっとけないでしょ。
 数だっているし、こっちもあっちに人数多めに割かないとやってらんないでしょ?」
 こなたの言葉に思わず声を上げるかがみだが、こなたは肩をすくめてそう答える。
「スバル……アンタはそれでいいの?」
「うん」
 日ごろの懐きぶりを考えれば、ギンガと戦うのはためらいがあるのでは――尋ねるティアナだったが、予想に反し、スバルはあっさりとうなずいた。
「ギン姉は絶対に止めなきゃいけない……
 だから止める。ギン姉の妹として、ひとりの魔導師として……
 きっと、お兄ちゃんもそう考えて、ギン姉と戦ったんだと思うから……」
 そう告げて、スバルは改めてかまえ直し、
「と、ゆーワケでガジェットはお願い!
 こっちはこっちで、なんとかしてみせるから!」
《そういうことだ。
 どうしても心配なら、さっさとガジェットを叩いてこっちに合流しろ》
「あ、スバルさん、兄さん!」
 スバルとマスターコンボイも異存はないようだ。キャロが上げた制止の声にもかまわず、ギンガの宿るマグマトロンと対峙する。
「いくよ、マスターコンボイさん! こなた!」
《あぁ!》
「おぅともよ!」
 スバルの言葉にマスターコンボイやこなたが答え、彼女達は跳躍、マグマトロンに向けて一気に突撃し――

 

 一撃の下に、大地に叩き伏せられた。

 

 


 

第78話

虹色の力
〜過激に無敵・カイザーマスターコンボイ〜

 


 

 

「えっ!?
 ち、ちょっと!?」
 勢いよく飛び込んでいったものの、結果はものの見事に撃沈――予想通りと言えば予想通り、予想外といえば予想外のその光景に、かがみは思わず声を上げた。
「な、何よ、アレ!? あっさりやられてるじゃない!
 何か勝算あってのあの自信じゃなかったの!?」
「さ、さぁ……」
 あまりにも自信タップリな態度だったから、てっきり秘策でもあるかと思っていたが――再び立ち上がり、マグマトロンへと立ち向かうスバル達の姿を見つめながら、みゆきはかがみの言葉に答えをにごすしかなく――
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
 そんな彼女達に言い放つのはティアナだ。
「あたし達も援護するわよ!
 ガジェットもほっとけないけど……スバル達だけじゃもたない!
 ジェットガンナー!」
「了解だ」
 告げるティアナの言葉に答え、ジェットガンナーは彼女の背後に降り立ち、
『フォースチップ、イグニッション!
 トライアングル、スパルタン!』

 フォースチップをイグニッション、二人の放った魔力弾は途中で弾け、無数の散弾と化してマグマトロンへと降り注ぎ――
「ぅわっとぉぉぉぉぉっ!?」
 こなたが巻き込まれかけた。
「ちょっとちょっと、ティアにゃん!
 いきなり何すんの!?」
「うっさい!
 アンタ達だけに任せておけないでしょ!
 それから『ティアにゃん』言うなーっ!」
 抗議の声を上げるこなたにティアナが言い返し――
「――って、こなた、危ない!」
「え――――?
 ――うわわわわっ!?」
 気づき、声を上げたティアナの言葉に反応し、跳躍――こなたはとっさにその場を飛びのき、爆煙の中から飛び出してきたマグマトロンの拳をかわす。
「こなたさん!」
「まったく、ちゃんと逃げなよ、めんどくさい!」
 そんなこなたを援護しようと突撃をかけるエリオとアイゼンアンカーだったが、マグマトロンはそんな二人の一撃を受け止め――弾き飛ばす!
 

「やってるっスねー」
「マスターコンボイ……復活したのか……」
 その光景は、マックスフリゲートからもモニターされていた――繰り広げられるその戦いの光景を、ウェンディとセインは興味深げに見つめながらそうつぶやいた。
「なのはママ……いない……」
「フェイトさんや、他の隊長格のみなさんも……
 どこか、よそで戦ってるんでしょうか……?」
 なのはの姿を探してつぶやくヴィヴィオにはゆたかが答える――先日の攻防戦の際、六課隊舎にいた二人は当然地上本部でなのは達が半殺しの目にあったことを知らない。他で戦っていると考えるのもムリのない話というものだ。
「ジュンイチ……手助けに行った方がよくない?」
「どうやって?」
 一方、声をかけるイレインだったが、ジュンイチはあっさりとそう答える。
「ここから聖王医療院までは距離がありすぎる。
 それにマグナブレイカーも起動には成功したけど、まだ本調子には遠いんだ。出られる状況じゃねぇよ。
 今回は、アイツらの底力に期待するしかない」
「で、でもよぉ……」
「『でも』もクソもねぇ。
 ここは、アイツらに任せる以外の選択肢はねぇ――おとなしく見てろ」
「冷静ですね」
「ハッ、冷たいだけだろ」
 ガスケットに答えるジュンイチの言葉にディードとノーヴェが告げ、言われたジュンイチはフンッ、と鼻を鳴らし――
(………………あれ?)
 二人の言葉にジュンイチへと視線を向けたウェンディは気づいた。
 腕組みしたままウィンドウに映し出された戦いの光景をジッと見つめるジュンイチ――その組まれた腕の中で、拳がうっ血しそうなほどに強く握りしめられていることに。
(なんだ……ただ強がってるだけっスか。
 ホントは、助けに行きたくてしょうがないクセに……素直じゃないっスね)
「………………?
 どうした?」
「何でもないっスよ」
 自分に向けられた視線に気づき、尋ねるジュンイチに答えると、ウェンディはウィンドウへと視線を戻した。
 

「ティアナさん、ジェットガンナー!」
「はい!
 クロスファイア――シュート!」
「ジェットショット!」
 ウォーターボウガンをかまえる鈴香に答え、彼女と共にティアナとジェットガンナーが魔力弾の雨を放つ――しかし、ギンガのゴッドオンしたマグマトロンは降り注ぐ攻撃をものともせずに突撃し、
「ギンガ殿――もうやめるでござる!」
「止まってよね――面倒くさいから!」
 そんな彼女に、シャープエッジとアイゼンアンカーが仕掛けた。左右からそれぞれの獲物を手に襲いかかるが、ギンガも両手に展開したトライシールドで受け止め、シールドを炸裂させて二人を吹き飛ばす!
「アイゼンアンカー!」
「シャープエッジ!
 フリード!」
 自分達の相棒が吹き飛ばされる光景にエリオと共に声を上げ――キャロは自らの騎乗する覚醒状態のフリードに攻撃を指示した。応え、ブラストレイを放つフリードだが、ギンガは素早く後退、飛来した魔力の炎を回避する。
 そして次なる狙いをキャロに定める――上空のキャロに向け、マグマトロンの右手に魔力弾を生み出し――
「たぁぁぁぁぁっ!」
 そんな彼女に、エリオが背後から奇襲をかけた。高速で飛び込み、ストラーダを振り下ろす。
 だが、ギンガはそんなエリオの奇襲に直前で気づいていた。身をひるがえしてエリオの斬撃をかわすと、生み出していた魔力弾を振り向きざまにエリオに向けて――
「させるかぁぁぁぁぁっ!」
「このぉっ!」
 放とうとしたところでかがみとひよりがそれを阻んだ。左右から組みつき、ギンガの動きを押さえ込む。
「スバル! こなた!」
「今だよ!」
「うん!」
「いくよ、マスターコンボイさん!」
《おぅっ!》
 かがみとひよりの言葉に答え、飛び込んでいくこなたとスバル、マスターコンボイだが――ギンガも黙って押さえ込まれてはいなかった。力任せにかがみ達を振りほどき、投げ飛ばす!
「脱出された!?」
《かまわん! このまま!》
「は、はい!」
 声を上げるこなたにマスターコンボイが答え、スバルがうなずく――振りほどいたまま体勢を立て直せていないギンガに向け、渾身の蹴りと拳を叩き込む!
 が――
「ウソ……!?」
「そんな……!?」
 ガードは間に合わないと思われたその一撃すら、ギンガの、マグマトロンの反応は追いついてみせた。素早く引き戻した両腕でそれぞれの一撃を受け止め、投げ飛ばす!
《スバル!
 ――シロ!》
「うん!」
 宙を飛ばされ、大地に叩きつけられるスバル達――声を上げ、ロードナックル・シロは兄クロと交代。主人格を入れ替えたロードナックル・クロはスバルへと駆け寄り、
「スバル!
 マスターコンボイ!」
「うん!
 マスターコンボイさん、ゴッドリンク!」
《わかっている!》

「《マスター、コンボイ!》」
 スバルとマスターコンボイの叫びが響き、大きく跳躍した彼の右腕からアームブレードモードのオメガが分離、その右腕が肩アーマー内に収納され、露出している部分の腕の装甲の一角が開き、中から合体用のジョイントが現れる。
「ロード、ナックル!」
 次いでロードナックル・クロが叫んでビークルモードにトランスフォーム。車体脇のアームに導かれる形で後輪が前輪側に移動、前輪を含めた4つのタイヤが整列し、車体後尾には合体用のジョイントが露出する。
 そして、両者が交錯し――
『《ゴッド、リンク》!』
 3人の叫びと共に、マスターコンボイの右肩に連結する形で、右腕に変形したロードナックル・クロが合体する!
 左手にブレードモードに戻ったオメガを握りしめ、拳が異様に巨大な右腕を振るい、3人が高らかに名乗りを上げる。
『《ナックル、コンボイ!》』

「いくよ――ギン姉!」
 合体を完了すると同時に突撃――素早く間合いを詰め、ギンガに向けて拳を繰り出すスバルだが、ギンガはいともたやすく反応してみせた。受け止めず、受け流してスバルの姿勢を崩し、背後から思い切り殴り倒す!
 そして、ギンガは握っていた左の拳を手刀へと切り替え、
「……IS、発動」
 静かに告げて――その手刀が回転を始めた。高速で回転し、さらにギンガの魔力によってコーティングされ、ドリルのごとくうなりを上げる。
「あ、IS……!?」
《呆けている場合か!》
「こっちも大技、いくぜ!」
「う、うん!」
 驚くスバルにロードナックル・クロとナックルコンボイが告げる――うなずき、スバルはギンガから距離を取り、
《フォースチップ、イグニッション!》』
 ナックルコンボイとスバル、そしてロードナックル・クロの叫びが交錯し――セイバートロン星のフォースチップが飛来した。そのまま、ナックルコンボイのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
 それに伴い、ナックルコンボイの両足と右肩、そして右腕となったロードナックルの装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
 そう告げるのはナックルコンボイのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
 Final break Stand by Ready!〉

 再び制御OSが告げる中、スバルは右拳をかまえ、
「いっけぇっ!」
 思い切り地を蹴った。レッグダッシャーのホイールが唸りを上げ、一直線にギンガへと突っ込んでいく。
 対し、ギンガもまたそんなスバル達に向けて地を蹴り――
「鉄拳――」
《爆走!》

「マグナム、テンペスト!」

「“リボルバーギムレット”!」
 スバルの右拳とギンガの左拳が、轟音と共に激突する!
 だが――
「ぐあぁぁぁぁぁっ!?」
「クロ!?」
 悲鳴は自らの右腕となった相棒のもの――驚愕するスバルの目の前で、ナックルコンボイの巨大な右拳がギンガの繰り出した螺旋によって粉砕される!
 さらにその衝撃はスバル達にも及ぶ――拳を失ったロードナックル・クロを弾き飛ばされ、ゴッドリンクの解除されたスバルとマスターコンボイがはね飛ばされ、大地に叩きつけられる!
「スバル!
 こんのぉっ!」
 そんなスバルに追撃を加えるべく、ギンガが一歩を踏み出す――それを阻むべく、レッコウをかまえて飛びかかるあずさだが、ギンガもまた、そんなあずさの振り下ろした一撃をかわして距離を取る。
「イカヅチ!」
 しかし、あずさも逃がすつもりはない。イカヅチをかまえ、ギンガに向けて魔力弾を連射し、ギンガをさらに後退させる。
 だが――接近戦は難しいと判断したのだろうか、ギンガはマグマトロンの翼を広げると背中のバーニアを噴射。その推進力で、ゆっくりと上空へと舞い上がる。
「飛んだ……!?
 ギン姉、飛行適正ないのに!?」
《マグマトロン自体の飛行ユニットだろうよ!》
 驚くスバルにマスターコンボイが答える一方で、ギンガは静かにかざした右手の上に魔力弾を形成――さらに、その魔力弾をさらに巨大化させていくのを見て、マスターコンボイの背筋を寒気が走った。
《いかん!
 全員固まれ! 総出で結界だ!》
「え? でも……」
「デカイのが来るのはわかるけど、だったら散開してかわせば……」
《違う!
 言われたとおりにしろ!》
 警告の声に戸惑うスバルとこなただったが、マスターコンボイはなおも声を荒らげる。
《エネルギーの結合が粗い――アレは単発じゃない!》
 頭上で、ギンガの生み出したエネルギー弾がふくれ上がり――
《爆撃だ!》
 その言葉と同時に弾け、無数の魔力弾へと姿を変える!
 単発の大技だと思っていただけに、驚きで一同の動きが一瞬止まり――その一瞬が致命傷となった。ギンガが右手を振り下ろし、それを合図に魔力弾の雨が降り注ぐ!
 

「お姉ちゃん! みんな!」
 マックスフリゲートのブリッジ――スバル達が爆炎の向こうに消えたのを目の当たりにして、ゆたかは思わず声を上げた。
「もうガマンできない……!
 あたし、行くよ!」
 このままではスバル達が――きびすを返し、ブリッジを飛び出していこうとするホクトだったが、
「やめておけ」
 それを止めたのはジュンイチだった。
「お前だって、マグマトロンには手も足も出なかったんだろうが。
 足手まといになるのが関の山だ」
「でも!」
「アイツらなら勝つ。信じて待て」
 反論の声を上げたホクトに答え、ジュンイチはウィンドウに映し出された戦いの光景へと視線を戻した。
(そうだ。
 アイツらなら、きっと届く……
 ゴッドマスターの持つ力……その真髄、さらなる高みへ……!)
 

「…………ぅ……っ、く…………っ!」
 爆発の嵐が収まり、しばしの沈黙――うめき、ティアナは痛みに顔をしかめながらも目を開けた。
 なんとか身を起こそうとするが、ダメージが深い。支えにしようとした右腕に激痛が走り、再びその場に崩れ落ちてしまう。
「ごめん……!
 ガード、間に合わなかった……!」
 あずさもまた、とっさのことで今の一撃を防ぐことはできなかったようだ。みんなを守るための防壁を展開することもできないまま魔力弾の雨を浴びてしまい、身にまとうイスルギの装甲にも亀裂が走っている。
「ダメだ……!
 やっぱり、パワーが違いすぎる……!」
「強さがすごいのはわかりきってたけど……私達全員を相手にして、疲れた様子もないなんて……!」
 この中でもっともパワーのあるライナーズの合体戦士もボロボロだ。肩で大きく意気を切らせ、かがみとひよりがうめくようにつぶやく。
 他のみんなも今の爆撃で一様に打ちのめされている。エリオやキャロも、トランスデバイス達も、かろうじて意識はあるようだが、ダメージで立ち上がることも難しい状態だ。
 だが――
「ま、まだだよ……!」
「とー、ぜん……!」
 スバルとこなたの声が、戦いの続行を告げた――ゆっくりと身を起こし、共にギンガと対峙する。
「いけるよね? マスターコンボイさん」
《当然だ!》
 尋ねるスバルにマスターコンボイがうなずき、その言葉を合図にギンガへと突撃する。
 スバルとマスターコンボイの拳が、こなたの蹴りがマグマトロンを狙うが、ギンガはそれらをたやすく受け止め、
「アイギス!」
 こなたが横薙ぎに振るった楯剣型デバイス、アイギスの斬撃も身を沈めて回避する。
 そして――スバル達に対し、零距離から魔力砲撃。全員まとめて吹っ飛ばす!
『《ぅわぁぁぁぁぁっ!》』
 強烈な一撃を受け、ゴッドオンも強制解除――スバル、マスターコンボイ、こなた、そしてカイザージェットはなす術もなく大地に叩きつけられる。
「スバル!」
「こなた!」
「兄さん!」
 戦闘態勢すら取れなくなった3人の姿に、ティアナ、かがみ、キャロの叫びが響くが――
「……大、丈夫だよ……ティア……!」
 答えて、スバルはなおもその場に立ち上がった。
「あたし達なら……まだ、戦えるから……!」
「そう、だよ……!」
 告げるスバルに同意し、こなたもまたスバルのとなりで立ち上がる。
「まだまだ、行けるんだから……!
 さぁ、ギンガちゃん、続きやろうか?」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!
 ゴッドオンだって解けちゃったのに!」
 こなたの言葉に声を上げるかがみだが、こなたも、スバルもかまわずギンガに向けてかまえる。
《ムチャだよ! もうやめて!》
《スバルさん! 泉さん!》
「…………ムダです」
 それでもスバル達を止めようと、トリプルライナーの“中”から声を上げるつかさとみゆきだが、そんな二人には鈴香が答えた。 一方で、あずさもまたそんな鈴香にうなずき、告げる。
「スバルも、こなたも……あの二人は、そんなことじゃ止まらない。
 だって……」
 

「それが……あの柾木ジュンイチの教えだから、だろう?」
 

「そうそう……って、え?」
 その答えを告げたのはあずさではなく、意外な人物――驚き、顔を上げたあずさの視線の先で、マスターコンボイがスバルとこなたの背後で立ち上がる。
「ずっと、気にはなっていた……
 “師弟”だと言う割には、コイツらの戦い方はクリーンすぎて、柾木ジュンイチの戦い方はダーティすぎる……
 “師弟”と定義するには、コイツらの戦い方はあまりにも違いすぎる」
 そうあずさに告げると、マスターコンボイはスバルとこなたへと視線を戻し、
「なら、柾木ジュンイチはコイツらに一体何を伝えたのか……
 何をもって、お前達を“師弟”たらしめているのか……それがわからなかった。
 だが……最近になって、その答えがおぼろげながら見えてきた」
 つぶやき――マスターコンボイは思い返した。
 かつて、一度だけあの男と出会い――打ちのめされた、あの時のことを。

 

「じゃ、オレは帰るわ」
「ま、待て……!」
 もう用事は終わりとばかりに、マスターコンボイへと背を向ける――そんなジュンイチを、ヒューマンフォームのマスターコンボイは打ちのめされたダメージに顔をしかめながら呼び止めた。
「貴様の用事は済んだのだろうが……オレの用事は、まだだ……!
 まだ……オレは負けてはいない!」
「負けだよ。誰がどう見てもな」
 声を上げるマスターコンボイに、ジュンイチはため息まじりにそう答え――次の瞬間、マスターコンボイの身体を衝撃が貫いた。
 一瞬にして間合いを詰めたジュンイチが、マスターコンボイを蹴り飛ばしたからだ。ヒューマンフォームの少年の身体ではその衝撃を受け止めきれず、勢いよく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「まだだ……!
 まだ……終わって、いない……!」
 それでも、マスターコンボイの目から闘志の炎は消えていなかった。うめき、なおもジュンイチに向けて立ち上がる。
 そんなマスターコンボイの姿に、ジュンイチはしばし目を閉じて息をつき、

「…………それでいい」

「な、何………………っ!?」
 突然告げられたその言葉は、直前のやり取りとは何らつながりのないものだった。思わず動きを止め、マスターコンボイは声を上げ――そんな彼に、ジュンイチは続けた。
「それでいい――最後の最後まで、絶対にあきらめるな。
 力があっても、技があっても、経験があっても……あきらめちまったらそこで終わりだ。
 どれだけぶちのめされようが、どれだけ力の差があろうが……それでもあきらめない不屈の心。オレは、それが戦う“力”の中でももっとも根本にあるものだと思ってる。
 “不屈の果てに高みあり”――それがオレの教えの原点だ」

 

「絶対にあきらめないこと……その想いの強さが、自身の限界を超える力を引きずり出す。
 それが、あの男の教え……あの男がコイツらに伝えたことだ」
 言って、マスターコンボイはスバルへと視線を向けた。
 その脳裏に思い浮かぶのは、同じ“不屈”の力を持つもうひとりの人物――
「まったく……偶然とは恐ろしいな。
 10年前になのはがオレを打ち倒したのも、オレを救うことをあきらめなかった、なのはの“あきらめない心”だったんだからな。
 新旧そろって同じ“力”を持つ者を師に持つとは、貴様も奇妙な星の元に生まれたものだな」
「そ、そう……かな……?」
 思わず照れて頬をかくスバルだが、マスターコンボイは苦笑まじりに肩をすくめ、
「そして……だからこそ、オレもあきらめることはできない。
 あきらめないことがコイツらの強さの根源ならば……共に戦うオレが、一足先にあきらめるワケにはいかない」
「マスターコンボイさん……!」
 笑顔を向けてくるスバルに対してマスターコンボイがうなずき返すと、
「ま、そういうことで、仕切り直しといこうかね、お二人さん♪」
「うん!」
「そうだな」
 そんな二人に告げるのはこなただ。スバル達もうなずき、 3人で改めてギンガと対峙する。
「すまんな、ギンガ・ナカジマ。
 オレ達は、そう簡単に終わってやるワケにはいかないらしい」
「私達は負けない。
 何度ブッ飛ばされても、何回叩き落とされても……」
「あたし達は……ギン姉に勝つ。
 ギン姉に勝って……ギン姉を守る!
 そのためだったら……」

 

 

 

 

 

 

 

『今よりもっと、強くなる!』

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と同時――吹き出した。
 スバル、マスターコンボイ、こなた――3人の身体から、今までとは比べ物にならないほどの魔力が。
 だが、その魔力はいつもの彼女達のものとは違っていた。
 単純に言えば、色が変わっていた。
 いつもなら、今までなら、スバルは空色、マスターコンボイは紫色、こなたは赤色の魔力光を発していた――しかし、今は3人ともその色が変化し、まったく違う色となっていたのだ。
「な、何よ……アレ……!?」
 一体何が起きたのか――痛む身体を起こし、かがみは呆然とつぶやいた。
 同様に身を起こし、ティアナもつぶやく。
「あの3人の……」

 

 

「魔力光が……虹色に……!?」

 

 

 

 その光景を見ていたのは、ジュンイチ達だけではない。ケガによって戦線を離脱していたなのは達もまた、戦いの様子を見守っていた。
 ギンガのゴッドオンしたマグマトロンにスバル達がなす術もなく打ちのめされる光景に、何もできない自分達の無力が悔しくて、室内は沈黙で満たされていた――が、それもついさっきまでのこと。
「え………………っ!?」
 今は、ウィンドウの中で巻き起こった光景に誰もが言葉を失ったがための沈黙――呆然と発したなのはの声もハッキリと聞こえるくらいに、その場は静寂に包まれていた。
「シグナム……アレ……」
「はい……」
 そんな中、はやては追いつかない思考の中でもなんとか確認に動く――尋ねる彼女の問いに、シグナムは静かにうなずいた。
「虹色の魔力光……
 間違いありません。あれは“カイゼル・ファルベ”です」
「そんな……!?」
 シグナムの肯定は、その場にさらなる混乱を呼び込んだ。かつて古代ベルカについて学んだ際に得た知識を思い返し、なのはは呆然とつぶやいた。
「どういうこと……!?
 なんで、あの3人が……」

 

 

「ベルカの“聖王”と、同じ魔力光を……!?」

 

 

「あ、あれは……!?」
「虹色の魔力光……!?」
 そして、モニターしているのはスカリエッティ達もまた同様――呆然とつぶやくクアットロに、となりで映像を見つめるディエチもまた、困惑と共に首を左右に振ってみせる。
「ドクター、あれは……!?」
「ふむ…………」
 尋ねるセッテの問いに、スカリエッティはしばし考え、
「これは仮説だが……見たまえ」
 言って、スカリエッティはウィンドウの映像を操作――視点が変わり、スバル達とは別のものが映し出され、
「カイザーコンボイの、トランステクターも……!?」
 そこに映し出されたのはカイザージェット――しかし、そのカイザージェットもまた、スバル達と同じく虹色の魔力を発しているのを見て、オットーが声を上げる。
「彼女達だけではなく、トランステクターもまた同様の現象を起こしている。
 つまり……アレは、“聖王”のような元々生まれ持った魔力の光ではなく、ゴッドオンに関する何らかの影響によるもの、ということだよ」
「何らかの……!?」
「ひょっとしたら……これが、トランステクターの持つ本当の力なのかもしれないね……」
 眉をひそめるクアットロにかまわず、スカリエッティはそうつぶやくと再びスバル達へと映像を戻した。
 

「何? これ……」
「魔力の光が……!?」
 突然の変化は、当事者達にも予想外――いきなり自分達の身体を包み込んだ虹色の輝きに、スバルやこなたが呆然とつぶやくが、
「だからどうした」
 一方、自分自身にも同様の変化が起きているのに、マスターコンボイは落ち着いたものだった。あっさりと一言で切り捨てる。
「わかっているはずだ。
 自分達の魔力が今まで以上に出力を上げ、且つ安定していることを。
 使う分には何の問題もない――なら、この力でさっさとギンガ・ナカジマの目を覚まさせてやるまでだ」
「あぅ……考えナシというか結果オーライ主義というか……」
「ぶっつけ本番、好きだよねぇ……」
 あっさりと告げるマスターコンボイの言葉に苦笑するが、スバルもこなたも彼の意見には賛成だった。それぞれにうなずき、咆哮する。
 自分達を、“魔導師”から“トランスフォーマー”へと変える宣言を。

 

 

『ハイパー、ゴッドオン!』

 

 

 その瞬間――スバルの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてスバルの姿を形作り、そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
 同時、マスターコンボイの意識が身体の奥底へともぐり込んだ。代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化したスバルの意識だ。
〈Hyper Wind form!〉
 トランステクターのメインシステムが告げ、マスターメガトロンのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、従来のウィンドフォームと同様に空色に変化するが、周囲に渦巻く虹色の魔力光に照らし出され、それ自体もまた七色に変化しているように見える。
 そんな中でオメガが分離――巨大な両刃の剣が真ん中から別れ、両腕の甲に合体。両腕と一体化した可動式のブレードとなる。
 両腕に装着されたオメガをかまえ、ひとつとなったスバルとマスターコンボイ、二人が高らかに名乗りを挙げる。
「双つの絆をひとつに重ね!」
「限界超えて、みんなを守る!」

『マスターコンボイ――Stand by Ready!』

 スバルとマスターコンボイがひとつになる一方で、こなたの身体もまた光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてこなたの姿を形作り、そのままカイザージェットと同等の大きさまで巨大化すると、その機体に重なり、溶け込んでいく。
「トランスフォーム!」
 こなたの咆哮が響き、それに伴い、大空を飛翔するジェットが変形トランスフォームを開始する。
 まず、後方の推進システムが後ろへスライド、左右に分かれ、尾翼類が折りたたまれると爪先が起き上がって人型の両足となり、さらにその根元、腹部全体が180度回転し、機体下部を正面にするように反転する。
 続けて、機体両横、翼の下の冷却システムが変形。後方の排気口がボディから切り離されると内部から拳がせり出し両腕に。両肩となる吸気部は、両サイドのカバーが吸気口を覆うように起き上がり、カバー全体が肩アーマーとなる。
 最後に機首が機体上部、背中側に倒れるとその内部からロボットモードの頭部が現れ、カメラアイに光が宿る。
〈Hyper form!〉
 トランステクターのメインシステムが告げ、背中の翼が上方へと起き上がり、ゴッドオンを終えたこなたは虹色の魔力が渦巻く中で高らかに名乗りを上げる。
「熱き勇気と絆の力!
 翼に宿して限界突破!

 
カイザーコンボイ――Stand by Ready!」

 

「あ、アレって……!?」
「ハイパー、ゴッドオンだって……!?」
 新たなる力を手にし、新たな姿へとゴッドオンしたスバル達――その姿を映像越しに見つめ、セインとノーヴェは呆然とつぶやいた。
「お姉ちゃん……!」
「きれー……」
 一方、ゆたかやヴィヴィオはその力強さよりも、彼女達の放つ虹色の魔力光の輝きに魅入られていて――
「ジュンイチさん……あれ……!」
「あぁ」
 そんな彼女達の後ろで、ジュンイチは耳打ちしてくるすずかにうなずいた。
「じゃあ、あれが……?」
「そういうこと」
 それだけで、彼女達には意味が伝わった――イレインにもそう答え、ジュンイチは改めてウィンドウの映像に視線を戻した。
「あいつら、やりやがった。
 限界の壁をぶち壊して……その先の領域へとたどり着きやがった」
 

 “限界の壁の向こう側”――その結論に至ったのは、ジュンイチだけではなかった。
 マックスフリゲートの格納庫。メンテナンスベッドに収まった、ロボットモードのマグナブレイカーのコックピットの中に、対面するように二つのウィンドウが展開されていた。
 一方は、ジュンイチ達の見ているものと同じ、ハイパーゴッドオンを遂げたスバル達を映し出したもの。
 そしてもう一方は――
《……ハイパー、ゴッドオン……》
 そうつぶやく、マグナブレイカーの管制人格――ジュンイチ達が“マグナ”と呼ぶそれが、女性の姿として自らを投影したものだった。
 彼女はマグナブレイカーそのもののはず。戦いの様子も、自らの姿も、わざわざウィンドウに投影する理由はないのかもしれないが――そんなことは、今の彼女にとってはどうでもいいことだった。
 重要なのは、今彼女の目の前で起きていること――
《……この輝き……この力……
 まさか再び、見る時が来るとは……》
 以前からこの現象のことを知っているような口ぶりだが――その声に宿る感情は、懐かしさとはかけ離れたものだった。
 すなわち――
《……あなたがこれを見たら、どう思うのでしょうね。
 世界に私達を“引き離させた”この輝きを……
 ねぇ?――》
 

《“オリヴィエ”……》
 

 寂しさ、だった。

 

「す、すごい……!」
「ここから見ていても、今までよりもすごいパワーだってわかる……!」
 ハイパーゴッドオンを遂げたスバル達のパワーは、今までのそれとは比べ物にならないほどにすさまじいものだった――吹き荒れる魔力の奔流の中、エリオやキャロは思わず感嘆の声を上げた。
 一方、マグマトロンにゴッドオンしたギンガもまた、突然のスバル達の変化に警戒もあらわに身がまえるが、当のスバル達はこの新たな力の感触を味わうかのように自分の拳を握り、開き、その感触を確かめている。
 だが、何よりも困惑しているのは――
「ねぇ……マスターコンボイさん」
「あぁ」
 スバルとマスターコンボイの“現状”だった。尋ねるスバルに、マスターコンボイは彼女と同じく肉声で答えてみせる。
 今までのゴッドオンでは、どちらか一方、“表”に出ている方だけが肉声で話せていた。ということは――
「これって……」
「二人とも、“表”に出ている……!?」
「つまり……“二人でひとりのコンボイ”ってこと?」
 呆然とつぶやくスバルとマスターコンボイに口をはさんでくるのはこなただ。
「まぁ、どうでもいいけどさ、その辺のことは後で考えればいいんじゃない?
 何せ――あちらさんがお待ちかねみたいだし」
 言って、こなたはこちらに対して警戒を強めるギンガを指さしてみせる。うなずき、スバルとマスターコンボイもそんなこなたに並び立ち、
「なら……反撃開始と行くか」
「いくよ――ギン姉!」
 マスターコンボイと共にそう告げて――次の瞬間、二人はすでに地を蹴っていた。すさまじい加速で距離を詰め、ギンガに、マグマトロンに向けて拳を繰り出す。
 対し、ギンガはこの拳をガード、受け止める――だが、その動きは今までのような余裕に満ちたそれではなかった。
 明らかに焦りに満ちた、ギリギリのもの。文字通り“とっさの”防御だった。
 さらに――かろうじてスバル達の拳を止めたギンガの背後になたが回り込んでいた。自分の後頭部を狙って繰り出された回し蹴りを、ギンガはスバル達の拳を放り出し、身を沈めることでギリギリ回避する。
 そして、反撃とばかりにスバルへと拳を放つが――捉えられない。スバルは難なくその拳を受け流し、逆にヒジ打ちでギンガを押し戻す!
 だが――ギンガもすぐに反撃に移った。左手に魔力弾を生み出し、スバルに向けて繰り出すが、
「私だっているんだよ!」
 こなたが対応した。放たれた魔力弾を、渾身の力で真上に向けて蹴り上げる!
「こなた、ありがと!」
「どういたしまして!
 ……って言いたいところだけど……うぅ、足シビレた……!」
 例を言うスバルに答え、着地したこなたは魔力弾を蹴り飛ばした右足をプラプラと振ってみせる。
「けど……ようやくこれで互角か……」
「いいんじゃないか?
 今まで総出でかかっていっても歯が立たなかったことを考えれば劇的な進歩だ」
 改めてギンガと対峙し、つぶやくスバルにマスターコンボイが答え、
「そうそう。
 そんな、マンガとかみたいにいきなり相手を圧倒できるだけのパワーアップなんてうまくいかないよ」
 そうマスターコンボイに同意するこなただったが――続きがあった。ニヤリと笑い、スバル達に告げる。
「っていうか……むしろそういうパワーアップは“これから”でしょう?」
「そうだな」
「待ってました!」
 その言葉だけで、スバル達にはこなたの意図が読み取れた。マスターコンボイがうなずき、スバルも元気に同意する。
 そして、スバルがギンガへと向き直り、宣言する。
「見せてあげる、ギン姉。
 あたしの、こなたの、マスターコンボイさんの……」
 

「あたし達の、全力全開を!」

 

『マスターコンボイ!』
 スバルとマスターコンボイの咆哮が響き、二人は頭上へと大きく跳躍し、
「カイザーコンボイ!」
 こなたはゴッドオンしたままカイザージェットへとトランスフォーム。上空へと跳んだスバル達を背中に乗せ、一気に上空へと急上昇していく。
 そして、二人は上空の雲海の上まで上昇し、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
 宣言と同時、カイザージェットが複数のパーツに分離。それぞれのパーツが空中に放り出されたマスターコンボイの周囲へと飛翔する。
 最初に変形を始めたのはカイザーコンボイの両足だ。大腿部をスライド式に内部へ収納。つま先を下方にたたんだマスターコンボイの両脚に連結するように合体。より大きな両足を形成する。
 続いて左右に分離し、マスターコンボイの両側に配置されたカイザーコンボイのボディが変形。両腕を側面に固定すると断面部のシャッターが開き、口を開けた内部の空間にマスターコンボイの両腕を収めるように合体。内部に収められていた新たな拳がせり出し、両腕の合体が完了する。
 カイザージェットの機首と翼からなるカイザーコンボイのバックパックはそのままマスターコンボイのバックパックに重なるように合体。折りたたまれていたその翼が大きく展開される。
 最後にバックパック、カイザージェットの機首の根元部分に収納されていた新たなヘッドギアがマスターコンボイの頭部に装着。各システムが起動し、新たな姿となった3人が高らかに名乗りを上げる。
 その名も――

 

 

『カイザー、マスター、コンボイ!』

 

 

「ま、マスターコンボイと……」
「カイザーコンボイが……」
「ゴッドリンク、した……!?」
 目の前で完成したのは、今まで見たことのない新たなる合体――呆然とティアナが、みなみが、エリオがつぶやく中、スバル達が一体となったカイザーマスターコンボイはゆっくりとギンガへと向き直った。
「3つの絆を――」
 マスターコンボイの言葉と共に右手を頭上にかざし――人さし指、中指、薬指のみを立てて『3』を示し、
「ひとつに束ね!」
 その右手を90度回転。3本の指が重なり合って1本に見えるようにかまえると眼前に引き戻し、
「限界突破で――」
 スバルが一歩を踏み出し、
「過激に無敵!」
 こなたが左拳を握りしめて続ける。
 そして、彼女達は改めて自らの名を名乗る。
『カイザーマスターコンボイ――全力全開、Stand by Ready!』
 名乗りと同時、彼女達のテンションの上昇に伴って勢いを増した“力”の渦が荒れ狂う――それでも、ギンガはあくまで戦闘態勢を崩すことはなかった。マグマトロンにゴッドオンしたまま、静かにカイザーマスターコンボイへとかまえる。
 対し、スバル達もギンガに対し真っ向からかまえを取り――
 

 次の瞬間、衝撃が巻き起こった。
 

 地を蹴り、一瞬にして襲いかかってきたギンガの拳を、スバル達が受け止めたのだ。拳と共に両者の“力”がぶつかり合い、周囲で荒れ狂う。
「………………っ!」
 止められるとは思っていなかった――自分達の合体がここまでのパワーアップをもたらすとは思っていなかったのだろう。一撃を止められたギンガが無言の内に動揺するのが気配でわかったが、カイザーマスターコンボイは そんなギンガをスバルの意思によって投げ飛ばす!
「逃がすか!」
 さらに、マスターコンボイの意思で地を蹴り、飛ばされるギンガを追う――マグマトロンの胸部を思い切り殴りつけるとこなたがその身体をさらに走らせた。ギンガの吹っ飛ぶ先へと回り込み、思い切り上空へと蹴り上げる!
「スバル――初めての空中戦、いける!?」
「もちろんいくよ!」
「上等!」
 さらに追撃は続く――スバルとこなたが素早く確認を交わし、カイザーマスターコンボイは背中の翼を広げて上空に飛ばされたギンガを追う。
 対し、ギンガは右手の魔力砲をかまえる――が、スバル達は素早く機動を変えてギンガの狙いから逃れた。その後を追いながらもギンガは魔力砲を放つが、スバル達を捉えるには遅すぎた。いともたやすく回避され、こなたの放った蹴りがギンガをブッ飛ばす!
「………………っ!」
 それでも、ギンガはなんとか体勢を立て直した。追ってくるスバル達に向けてカウンターの拳を放ち――その瞬間、スバル達の姿が視界から消えた。
 ギンガのカウンターを、スバルが読んでいたのだ。彼女の意図を察したマスターコンボイの操作でマグマトロンの背後に回り込み、その背中を蹴り飛ばす!
 大きく吹っ飛ばされ、ギンガが大地に叩きつけられ――カイザーマスターコンボイは静かに大地に降り立った。
 

「す、すごい……!」
「パワーも、スピードも、今までとぜんぜん違う……」
 その戦いぶりは、ホスピタルタートルで戦いを見守るなのは達も目の当たりにしていた。劇的なパワーアップを遂げたスバル達、カイザーマスターコンボイの戦いぶりに、フェイトやはやてが呆然とつぶやくと、
「それだけじゃない」
 そう訂正の声を上げたのはイクトだった。
「3人が文字通り一体となって戦っているのも大きい。
 ひとりでは追いつかない反応も、他のヤツが気づき、フォローできる……
 今までの、マスターコンボイが“裏”からフォローするゴッドオンとは違う――あの機体からだに宿る3人が真に力を、心をひとつにしているから、あれだけの戦闘能力が引き出せるんだ」
「うん……イクトさんの言う通りだよ」
 イクトの言葉にうなずいたのはなのはだ。ウィンドウへと視線を戻し、つぶやく。
「スバルが、こなたが、マスターコンボイさんが……
 3人がひとつになって戦ってるからこそ、あそこまでのパワーが出せるんだね……」
 

「………………っ!」
 スバル達の猛反撃により、思った以上のダメージを受けたものの、それでも戦闘能力を奪い去るには至らなかった。ゆっくりと身を起こし、ギンガはカイザーマスターコンボイに対し再びかまえをとる。
「残念だったな――もう、貴様の独壇場はおしまいだ」
 そんなギンガに告げるのはマスターコンボイだ。スバルやこなたと共にかまえ、ギンガに告げる。
「今のオレ達は、ただ力を合わせているワケじゃない。
 文字通りの一心同体――さっきの泉こなたの言葉を借りるなら、“3人でひとりのコンボイ”だ。
 オレ達から離れ、スカリエッティの操り人形となり……ひとりで戦う貴様に、勝てる道理などありはしない!」
 告げるマスターコンボイの言葉に対し、ギンガからの答えはない――無言でかまえ、左手の手刀を高速で回転させる。
「……フォースチップ、イグニッション」
 さらに、フォースチップをイグニッション。マグマトロンの背中のチップスロットにミッドチルダのフォースチップが飛び込み、
「戦姫――召来」
〈Full drive mode, set up!〉
 フルドライブモードを発動。マグマトロンが今まで以上の――それこそカイザーマスターコンボイに匹敵するほどのエネルギーの渦に包まれる。
「こなた……マスターコンボイさん……デバイスのみんな。
 大きいの来るよ。いける?」
「もちろん!」
〈No Problem.〉
〈All right.〉
〈Don't Worry.〉
〈Let's Go!〉

「むしろ、どうしてここでいちいち確認を取るのかが理解できん」
 尋ねるスバルの問いにこなたが、マッハキャリバー、マグナムキャリバー、アイギスにオメガが答える――最後にマスターコンボイにツッコまれ、スバルはクスリと苦笑する。
 だが、笑いは一瞬――すぐに意識を引き締め、ドリルと化した左手をかまえるギンガと対峙する。
 しばし、重苦しい沈黙が辺りを支配し――
『………………っ!』
 両者は同時に地を蹴った。
 一瞬にして距離が縮まり――零となる。
 その瞬間にはすでに、ギンガはスバル達に向けて一撃を繰り出していて――
 

「…………ゴメンね、ギン姉」
 

 スバル達はそれをかわし、背後に回り込んでいた。
「私達は、ギンガちゃんを止めるためにここにいる」
「貴様と勝負するためにここにいるワケではない。
 したがって――」
 こなたが、マスターコンボイが告げる中、かまえた右拳に“力”が集中していき――
「ギン姉のその一撃に、真正面から付き合ってあげるワケにはいかないんだ!」
 スバルが一撃を放つ。振り向いたギンガの胸に拳が打ち込まれ、叩き込んだ“力”が炸裂、ギンガを吹き飛ばす!
 放物線を描き、ギンガの宿るマグマトロンが轟音と共に大地に落下する――ヨロヨロと身を起こすギンガを前に、スバル達はオメガとアイギスを起動させた。
 楯剣のアイギスを左手に装着、オメガを右手で握りしめる――現れた二振りの剣を二刀流にかまえ、スバルが言い放つ。
「マグマトロン。
 ギン姉は――返してもらうよ!」
 

「フォース――」
 スバルはミッドチルダの――
「チップ!」
 こなたは地球の――
「トリプル――」
 カイザーマスターコンボイがセイバートロン星の――
『イグニッション!』
 3人の叫びに答え、それぞれの星のフォースチップが飛来した。カイザーマスターコンボイの背中のチップスロットに次々に飛び込み、
〈Full drive mode, set up!〉
 それに伴い四肢と両肩の装甲が展開。放熱デバイスが起動し、“フルドライブモード”へと移行する。
〈Charge up!
 Final break Stand by Ready!〉

 メインシステムが告げると同時――カイザーマスターコンボイの両腕を通じ、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが手にしたオメガとアイギスに注ぎ込まれていき、その刃が“力”の輝きに包み込まれる。
〈Wing road!〉
〈Blaze road!〉

 そして、スバルのマッハキャリバーがウィングロードを、こなたのマグナムキャリバーがブレイズロードを展開。カイザーマスターコンボイはその上に飛び乗り、二つの“道”が伸びていく勢いそのままに、一直線にマグマトロンへと突撃し――
『絆の剣よ!』
 飛び込むと同時、アイギスで一撃を叩き込む!
『灼熱の嵐を呼べ!』
 続けざまにオメガによる追撃が加えられ――カイザーマスターコンボイは頭上に双剣をかざしながら身をひるがえし、
『ブレイジング、ストーム!』
 フィニッシュとばかりに、そろえた二振りの剣を振り下ろし、マグマトロンを斬り飛ばす!
 大地に叩きつけられ、なんとか身を起こすマグマトロンに対し、カイザーマスターコンボイは背を向け、
任務Mission――完了Complete
 3人の言葉と同時――マグマトロンの周りでくすぶるエネルギーがとどめの大爆発を巻き起こした。
 

「――――――っ!?」
 それを感じ取り、動きが止まる――顔を上げ、チンクはもうひとつの戦場へと視線を向けた。
「マグマトロンが……破壊された……!?」
「みたいですね」
 そして、同じものをジーナもまた感じ取っていた。かまえを解き、チンクの見ているのと同じ方向へと視線を向ける。
「どうしますか?
 これで、そちらの目的の達成はかなり困難になったと思いますけど……せめてギンガちゃんだけでも回収しますか?」
「…………確かに、ここは退くしかあるまいな。
 トーレ!」
 尋ねるジーナにそう答えると、チンクはトーレに声をかけた。同様に事態を察していたトーレは素直にファイとの対峙を解き、彼女と合流する。
「しかし……意外だな。
 私達を素直に帰すつもりか?」
「私達だって、捕まえられるならそうしたいですよ」
 こちらへの警戒を解かないままにそう告げるトーレに、ジーナはあっさりとそう答えた。
「私達だってバカじゃない。
 今の今まで互角に戦われて、この期に及んで捕まえられるとかうぬぼれるつもりはないですよ」
「捜査官としては、キミ達を放っておくのは反対だよ、正直言って。
 でも……だからって、ムリにキミ達を捕まえようとして返り討ちにあっても意味ないでしょ?」
 そうジーナに付け加えるのは合流してきたファイである。
「私達を逃がしたこと……後悔するかも知れんぞ?」
「後悔ならもうしてますよ」
 ゴッドオンを解き、尋ねるチンクだが、その問いにもジーナはあっさりと答えた。
「『管理局の問題だから』と干渉をためらっていたせいで……今現在、ジュンイチさんに好き勝手やられているんですから」
「……そういうことか」
「そういうことです」
 チンクに答え、ジーナは苦笑まじりに肩をすくめてみせた。
「では……またいずれ決着を」
「えぇ」
 チンクとジーナが最後にそう言葉を交え、チンク達はガジェットを殿しんがりに離脱していく――それを見送ると、ファイはジーナに尋ねた。
「ねぇ……ジーナお姉ちゃん」
「はい?」
「あのチンクって子と何かあった?
 なんだか……最後の辺り、通じ合ってたような感じがしたけど」
「大したことじゃないですよ」
 尋ねるファイに答えると、ジーナはクスリと笑って告げた。
「ただ……ジュンイチさんに振り回されている者同士、気が合っただけですよ」
 

「ギン、姉……!」
 ブレイジングストームを受け、マグマトロンは完全に大破――脱出装置にあたる保護システムによって直前で機外に放り出され、炎上する残骸を背に佇むギンガに対し、ハイパーゴッドオンを解き、生身で大地に降り立つスバルは静かにその名を呼んだ。
 対し、ギンガの反応はない――かと思われたが、
「…………IS、発動」
 静かにギンガが告げた。スカリエッティの元で改造されたのか、左手がゴッドオンしていた時と同様に高速回転。さらに手首から先が隠しアームによって伸ばされ、左手全体がドリルアームへと姿を変える。
「そんな……ギンガちゃん……!」
「あれだけ叩いて、まだ洗脳が解けんか……」
 そんなギンガの姿に、こなたとマスターコンボイがうめく――やむを得ずかまえるスバルに向け、ギンガは地を蹴って一気に距離を詰め、
「リボリバー、ギムレット!」
 咆哮と共に、その一撃が繰り出された。ギンガの繰り出した左手のドリル、そこに宿っていた魔力が光の螺旋となって撃ち出されて――

 

 スバルの脇を駆け抜けた。

 

「え――――――?」
 魔力の螺旋はスバルを捉えず、こなたやマスターコンボイの間を貫きさらに後方へ。呆然とスバルが声を上げ――同時、彼女達の背後で爆発が起きた。
 振り向けば、そこには破壊され、墜落していたと思われていたガジェットV型――再起動し、スバル達を狙っていたのか、チャージしていた人工魔力砲を爆発させながらその場に崩れ落ちた。
「…………ギン、姉……!?」
 つまり、今ギンガの一撃が狙っていたのは――ゆっくりとスバルが振り向くと、

「まったく……油断大敵よ」

 久方ぶりに見る――ずっと取り戻したかった笑顔がそこにあった。
「せっかくの限界突破も、それじゃ宝の持ち腐れよ」
「…………ギン姉!」
 告げるギンガだったが――そんな言葉はすでにスバルの耳には入っていなかった。歓喜の叫びと共に、スバルはギンガの胸の中に飛び込んでいた。
「ギン姉! ギン姉! ギン姉!」
「うん……大丈夫。
 私は、ここにいるよ」
 何度も名を呼びながら、自分の胸の中で泣きじゃくるスバルに対し、ギンガは優しくその頭をなでてやる。
「ありがとう、スバル。
 私を、止めてくれて……」
「うん、うん……!」
 告げるギンガの言葉に、スバルは泣きながら何度もうなずいて――
 

 そのヒザがガクリと落ちた。
 

「え!?
 ちょっ、スバル!?」
 突然スバルが、ギンガに抱きついたまま崩れ落ちた――あわててこなたが駆け寄ると、
「…………すぅ……」
 スバルから聞こえてきたのは寝息だった。
「………………寝てる……」
「安心して、一気に気が抜けたんだろう」
 思わずつぶやくこなたの言葉に、マスターコンボイは肩をすくめてそう答える。
「まったく、驚かせおって……」
「しょうがないよ。
 私ももうクタクタ……早く帰って寝たいよ」
 ため息まじりにつぶやくマスターコンボイに答えると、こなたはスバルが何ともなかったこともあり、安心してその場にへたり込む。
「ともあれ、これでギンガは無事連れ戻すことができたワケだ。
 あとはヴィヴィオ達行方不明の連中だが……こちらは今ここで考えても始まらん。
 とりあえず、帰還するとしようか」
「そうね」
 告げるマスターコンボイに答えるのは後方に下がっていたはずのティアナの声だった。振り向けば、すぐとなりで「今まで気づかなかったのか」とでも言いたげな、不満げな視線を向けてきている。
「ギンガさん、立てますか?」
「わ、私は大丈夫なんだけど……」
 尋ねるエリオに答え、ギンガは自分に抱きついたまま眠るスバルの腕に手を伸ばす――振りほどこうと力を込めてみるが、スバルの腕はしっかりとギンガを抱きしめたままだ。ギンガの抵抗などものともしない。
「…………もうしばらく、このままじゃダメかな?」
「……仕方ないわね。
 こうまでしっかり抱きつかれちゃ、ね……」
「まったくだ」
 ギンガの提案にため息をつくティアナの言葉にうなずき、マスターコンボイはスバルへと視線を向けた。
「のんきに寝てるクセに……力ずくでもむしり取れそうにないな」
 その言葉に、一同の口から笑い声がもれる――久しぶりにこぼれる仲間達の笑顔の中、スバルはそれからしばらくの間、幸せそうな顔で眠り続けるのだった。
 

「…………今回は、機動六課の勝利か……」
「はっ、お互いつぶれてくれればいいものをよ」
 ところ変わって、ここはディセプティコンのアジト――戦いの一部始終をウィンドウに映し出したホールで、つぶやくショックフリートにバリケードが舌打ちまじりにそう答える。
「柾木ジュンイチに連敗し、ここで機動六課のフォワード陣にも敗れた……
 これで、スカリエッティの切り札だったマグマトロンはその優位性を完全に失ったことになるな」
「戦線は、間違いなくこう着する……
 どうするんだ? ジェノスクリーム」
 息をつき、つぶやくジェノスクリームにブラックアウトが尋ねると、
「…………決まっている」
 そう答えたのは彼らの後方――再生カプセルの中にその身を収めたマスターギガトロンだった。
「この戦いの“切り札”はあのマグマトロンではない。
 これから我々は、総力を上げてその“切り札”を手に入れる」
「…………というと?」
「この娘だ」
 聞き返すレッケージに答え、マスターギガトロンが画面に表示したのはひとりの少女――
「これ……高町なのはが保護したっつーガキじゃねぇっスか。
 こいつがどうかしたんですか?」
「先日の隊舎襲撃の際、連中はこの小娘を確保しようとしている」
 そう。そこに映し出されたのはヴィヴィオの姿――首をかしげ、尋ねるジェノスラッシャーにマスターギガトロンはそう答える。
「あのスカリエッティが意味もなくこんな小娘を手に入れようとしたとは思えない。
 そして今回の再度の襲撃――行方不明になったというこの小娘の手がかりを求めてのことと思っていい。
 そこまでして手に入れようとするこの小娘……間違いなく、何らかの鍵を握っているはず。
 それだけではなく、身柄を確保することでこの小娘を求めている六課やスカリエッティに対する牽制にもなる」
 そう告げて――マスターギガトロンは再生カプセルの中から一同を見渡し、告げた。
「改めて命ずる。
 この小娘を見つけ出せ――そして必ず、生きたまま手に入れるのだ」
『はっ!』
 

《……スカリエッティは、少々やりすぎた》
《柾木ジュンイチもだ。
 あの男の力……個人が持つには危険すぎる》
《我らが世界のために“管理”するのが妥当と機をうかがっていたが、どちらもこのまま放置しておけば機会が訪れるよりも先に最大の脅威となる》
 漆黒の闇に包まれた室内に、別々の声が響き渡る――だが、生身でその場にいる者は誰もいない。
 唯一姿を見せているザインも通信による立体映像でしかなく、残りの3名、先ほどから言葉を交わしている者達にいたってはそれぞれがウィンドウを展開しているものの、音声のみのモードで姿を見せずにやり取りしている。
《この際、処分もやむを得まい》
《だが、どちらも貴重なサンプルだ。始末するには惜しい》
《そうやって欲をかいたからこその現状だ。
 私も処分に賛成だ》
 ウィンドウの中の3人はそう言葉を交わし――黙って話を聞いていたザインは、彼らの意識が自分に向いたのを感じていた。
《ザインよ……その役目、貴様に任せよう》
《お前ならば柾木ジュンイチとの戦闘経験もある。対処の仕方も心得ていよう》
《我らの期待に見事応えてみせよ》
「お任せください」
 ウィンドウの向こうの“主”達の言葉に、ザインはうやうやしく一礼した。
「では、私はさっそく準備にとりかかりますので」
《うむ》
 告げるザインに中央のウィンドウがうなずき――ザインの姿が消えた。通信回線が切られ、彼の姿が消えるのを見計らい、“主”達は言葉を交わす。
《あの男も、果たしていつまで我らに従っているか……》
《やはり今までの“失敗作”どものように裏切ると見るべきか》
《新たな“人形”が必要となるやもしれん》
 それぞれが自らの意見を述べ――中央のウィンドウの主が告げる。
《だが……利用価値のある内は利用するまで。
 役目を果たせばよし。果たせなくても敵に討たれ、我らが手を下す手間も省ける》
《異議なし》
《異議なし》
《すべては、我らが管理する世界のために……》
 

「やれやれ……彼らとのやり取りは疲れますね」
 一方、通信を終えたザインは自分達が拠点として確保した廃棄軌道ステーションの一室でため息をついた。
「まぁ……ここのことがバレたワケではないようですし、現状はまずまずといったところですか」
 自身を納得させるようにそうつぶやくと、ザインはその口元に笑みを浮かべ、
「言われなくても、どの道彼らは討ちますよ。
 言うまでもなく柾木ジュンイチは我々にとっても最大の障害ですし……スカリエッティの“成果”も、どの道いただくつもりでしたからね。
 あなた方のためではなく……我らが瘴魔のため、彼らは討たせていただきますよ。
 差しあたって……」
 つぶやき、ザインは端末を操作し、ウィンドウにその写真を映し出した。
 そこには――
「スカリエッティの求める“聖王の器”から、いただくとしましょうか」
 ヴィヴィオの姿が映し出されていた。


次回予告
 
スバル 「ギン姉……本当に大丈夫?」
ギンガ 「大丈夫よ。
 こればっかりはスカリエッティに感謝ね……向こうでも快適に過ごせたし」
スバル 「そうなの?」
ギンガ 「えぇ。
 ベッドはフカフカだったし、お風呂は広かったし……食事で出たアイスも絶品だったわ」
スバル 「今すぐスカリエッティに捕まりに行ってきます!」
マスターコンボイ 「バカか貴様っ!?」
ギンガ 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第79話『最高のキセキ〜鉄拳爆走・ナックルライナー〜』に――」
3人 『ハイパー、ゴッド、オン!』

 

(初版:2009/09/26)