ノイエ・アースラには、普通艦内にはないものがある。
それは、最初からこの艦を運用することになる部隊として想定されていた、機動六課だからこそ必要とされた施設――
それは、機動六課の一員として隊舎に居をかまえていた彼らのために、スカイクェイクが気を利かせて設置させた施設――
それは、キャロの使役竜であるフリード、そして彼女のパートナー・トランスデバイス、シャープエッジの“家族”である巨大ヒナ鳥、ウミとカイ、彼らのためだけに設置された施設――
もう、察しのついた方もいることだろう。
そう――
ノイエ・アースラには、“森”があるのだ。
「ウミー、カイー」
レクルームのすぐとなりに併設されていることから、クルー達の休憩の場としてもよく利用されているその森の中を、シャープエッジは家族の姿を探して歩き回っていた。
「まったく……この森、少し深すぎるでござるよ……
スカイクェイク殿、やりすぎでござるよ……さすがはなのは殿の師匠ということでござるか……」
結局彼も教え子と同じ“全力全壊”の人だったか――全力の向けどころを思い切り間違ったとしか思えないほどにうっそうと木々の生い茂った森の中で、シャープエッジは思わずため息をつく。
これでは彼らを探すのも一苦労だ。気を取り直し、シャープエッジはサーチシステムを起動させる。
と言っても、探すのはウミでもカイでもない。二人は魔力を行使する生態を持たないため、魔法の行使を前提とした彼のシステムではサーチできないからだ。
では、何を探すのか――答えは簡単。
彼らとよく一緒にいる、そんな人物を探せばいい。
そんな彼の読みどおり、“彼女”の反応を捉える――満足げにうなずくと、シャープエッジは反応のあったところへと向かう。
そして――“彼女”の姿を視界に収め、シャープエッジはため息まじりにつげた。
「……ウミ達の相手をしてくれることには素直に感謝するでござるが……訓練の疲れを抜く方が大切なのではないでござるか? つかさ殿」
「いいんだよ〜♪
ここで十分休憩させてもらってるから〜♪」
肩をすくめるシャープエッジに対し、つかさはウミのフカフカの羽毛の中に顔をうずめ、幸せそうにそう答える。
「姫やフリードは来ていないのでござるか?」
「んー…………」
迫り来る眠気に対し白旗を揚げつつあるのか、シャープエッジの問いにつかさはどこかまどろみながら傍らを指さし、
「うんしょ、うんしょ……」
「きゅっ、きゅっ……」
ウミ達の食事だろう。肉の入ったバケツを抱えたキャロと、同様に肉を入れたトレイを首から提げたフリードがその姿を現した。
キャロの習慣であるウミ達のエサやり――当初はつかさも手伝いを申し出ていたのだが、最近は元通りキャロが担当する形で落ち着いている。
むろん、キャロを主とあがめるシャープエッジは「姫ばかりに働かせるとは」とつかさに苦言を呈したのだが、それをかばったのもまたキャロだった。
曰く「だって、気持ちよさそうに休んでるつかささんを起こすのもかわいそうじゃないですか」とのこと――主にそう言われては、シャープエッジも現状を受け入れるしかなかった。もっとも、受け入れたと言っても納得はしていないが。
「まったく、どうせ、エサやりはつかさ殿が起きてからでござろう?
そんなにあわてて支度をせずとも……」
「でも、つかささんも楽しみにしてるし……」
ため息をつくシャープエッジに答えるキャロは本当に楽しそうだ。臣下を自負する身としては、この笑顔を前にしては何も言えなくて――
「それに……ウミやカイも、つかささんと一緒の方がいいと思うの。
とっても仲良しだから……」
「そうでござるな……
なんだか、意思の疎通すらできているような時もあるでござるしな……」
「そうなの?」
「先日言っていたのでござるよ。
『ウミ達の気持ちがなんとなくわかる』と……」
結局、自分が折れるしかないのだ。苦笑しながらキャロに答え、シャープエッジは肩をすくめ――
(………………ん?)
その思考の片隅に何かが引っかかった。
今の自分のセリフにどこか違和感を覚える。しばし首をかしげて考え込み――
(…………まぁ、気のせいでござろう)
しかし結局答えは出なかった。自分の考えすぎと結論づけるとシャープエッジはキャロを手伝うべく彼女に向けて手を伸ばし――ガサリッ、と茂みの一角で音がした。
「――――――っ!?
何奴!?」
何かがいる――とっさにキャロをかばい、誰何するシャープエッジだが、茂みからの返事はない。
――否。
よく見ると、茂みの奥に揺れているものがある。
髪の毛だ――意図して見せているワケではないだろうが、漆黒の、ロクに整えられてもいない乱雑な髪が、茂みの奥からチラチラと見え隠れしている。
あの髪型は――
「…………兄さん……?」
「……お、おぅ……」
気づいたキャロの声に、隠れ続けるのは観念したらしい。ぎこちないあいさつと共に、ヒューマンフォームのマスターコンボイは茂みの中から顔を出した。
第81話
鋼鉄の騎士、守護の侍
〜Wライナー、Wで全開!〜
「ひょっとして……スバルさんとこなたさんから逃げてたんですか?」
「他にオレが隠れる理由があると思うか?」
「えっと……」
完全に茂みの中から出てきたマスターコンボイが近くにあった座るのにちょうどいい大きさの岩に腰かけるのを待って、キャロは彼にここにいた理由を問いかけた。
真っ先に思いついたのは、最近彼と仲良くなろうと躍起になっている二人のこと――対し、憮然とした顔で答えるマスターコンボイだが、そんな彼に対し、キャロは右手で指折り数え、
「自爆装置をつけたがるシャーリーさんから逃げてたり、いろいろ着せ替えしたがる霞澄さんから逃げてたり、あとは……」
「すまん。オレが悪かった」
迷うことなくマスターコンボイはキャロを止める――自分が六課の中で意外と立場が低いことに内心で涙しつつ。
「そういう貴様らは、ウミとカイ……と柊つかさの食事か?」
「え、えっと、つかささんは“あげる側”なんですけど……」
「気にするな。
ひとりのん気に寝ているコイツへのイヤミだ」
苦笑するキャロに答え、マスターコンボイはつかさをジロリとにらみつける――が、当のつかさはそんな視線に気づくことなく、ウミを枕に夢の中だ。
まったくもってのん気なつかさに、マスターコンボイは軽くため息をつき――
〈ぴんぽんぱんぽ〜ん♪〉
突然の艦内放送から聞こえたのは霞澄の声だった。
〈ライトニング分隊のキャロ・ル・ルシエちゃん、キャロ・ル・ルシエちゃん。
お電話が入ってますので、ブリッジまでお越しくださ〜い♪〉
「電話……?」
「姫宛に通信が入った、ということでござろうな」
相変わらず遊び半分の霞澄の呼び出しに対し、首をかしげるキャロにシャープエッジが答え――
「それより、早く行かなくていいのか?」
そんな二人に告げるのはマスターコンボイである。
「早くせんと――」
〈早く来ないと、私が電話の相手にあることないこといろいろ吹き込んじゃうよ〜♪〉
「…………本気で実行するぞ、あの女は」
何しろ相手“あの柾木霞澄”なのだから――言外にそう告げるマスターコンボイに、キャロとシャープエッジは苦笑するしかなかった。
「すみません!
キャロ・ル・ルシエ、到着しました!」
方法はともかく、呼び出されたことには変わりない。シャープエッジと、同行することにしたマスターコンボイと共に、キャロはノイエ・アースラのブリッジへとやってきた。
「あぁ、来た来た。
待ってたよ、キャロちゃん♪」
そんなキャロを出迎えたのは霞澄。そして――
『待ってたよー、マスターコンボイ(さん)♪』
「ここにいやがったぁぁぁぁぁっ!?」
スバルとこなただった。迷わず回れ右して逃げ出そうとするマスターコンボイだが、元々待ちかまえていた彼女達の方が速かった。マスターコンボイが逃げ出す前に二人でガッチリと捕獲してしまう。
「き、貴様ら、どうしてここに!?」
「『どうして』って……マスターコンボイさん見失っちゃって、探してたところにキャロを呼び出す放送がかかったから……」
「マスターコンボイって、なんだかんだで『お兄ちゃん』扱いしてくれるエリキャロには甘いからねー。
あの放送聞いたら、キャロちゃんのために顔を出すと踏んだワケですよー♪」
それでもなんとか逃げようともがき、わめくマスターコンボイにスバルとこなたが答えると、
「何よ……まだやってるワケ? あんた達」
「あ、ティア。かがみさんやみんなも……」
そこにやってきたのはかがみを始めとしたフォワードチーム一同を連れたティアナだ――スバルが声を上げる中、マスターコンボイとスバル達を交互に見比べ、だいたいの事情を察してため息をつく。
「いいかげん、どっちかあきらめればいいと思うのは私だけかしらね……?」
一方、かがみはそんな彼女達の姿に率直な感想をもらす――その言葉に、スバル達は互いに顔を見合わせ、
『マスターコンボイ(さん)/こいつらがあきらめればいい』
「そうやってお互い意地張り合ってるからこその泥沼だって気づけぇぇぇぇぇっ!」
それぞれに相手を指さして告げる両者に、かがみは思わずツッコミの声を上げ――
「えっと……それで連絡を入れてきたのは……?」
「あぁ、キャロちゃんにとって懐かしい顔よ」
一方、この光景にすっかり慣れてしまっている外野は落ち着いたものだ。尋ねるキャロに、霞澄は笑顔でそう答える。
そして、霞澄が通信をつなぎ、ブリッジのメインモニターに映し出されたのは――
〈ヤッホー、キャロ♪〉
〈久しぶりだな〉
「ミラさん! タントさん!」
それは、霞澄の言う通りキャロにとって“懐かしい顔”――開口一番、笑顔であいさつしてきた二人に、キャロの表情が一瞬にして明るくなる。
「えっと……ミラさんとタントさん、っていうと……」
「キャロの前の職場……自然保護区での先輩ですよ」
記憶のどこかに引っかかっていたその名前を掘り起こそうとする通信士席のアルトに答えたのはエリオである。ライトニングFのコンビパートナーということもあり、キャロから他の面々よりは詳しく話を聞いていたのだろう。
〈元気か……って聞くのは失礼か。
そっち、こないだの襲撃でさんざんな目にあったらしいし……〉
〈キャロ、大丈夫?
ケガとかしてない?〉
「だ、大丈夫ですよ。
確かにちょっとケガしましたけど、もうすっかり平気で……」
〈って、ケガしたの!?
ホントに大丈夫!? キャロ、少しくらい辛くてもすぐガマンしちゃうから心配だよ……〉
近況を尋ねる二人に答えるキャロだが、うっかり六課隊舎攻防戦の際の撃墜について口を滑らせて、二人をますます心配させてしまう――そんな感じでお互いの近況を伝え合うことしばし――
「………………で?
結局のところ、貴様らは世間話がしたいがためにこんな情勢の中通信してきたのか?」
〈っと、そうだった……〉
〈懐かしさで用件を忘れるところだったわ〉
なかなか本題に入らないやり取りにしびれを切らしたマスターコンボイ(ちなみにスバルによる捕獲は継続中)の言葉に、タントとミラはようやく用件を思い出した。コホンッ、と咳払いし、告げる。
〈キャロは当然知ってるし、みんなもキャロから聞いてないかな?
私達自然保護区に勤める局員の仕事〉
「えっと……確か、“希少動物の保護”をテーマに、いろいろな活動をしてるんですよね……?
保護された動物を世話したり、珍しい動物は生態調査とかもしたり……」
〈うん、おおむねそんな感じ〉
答えるギンガにうなずくと、ミラは軽くため息をつき、
〈で、その中に“密猟者の取り締まり”ってのもあるのよ〉
「あぁ、やっぱりそーゆーバカはいますか……」
告げるミラに霞澄が苦笑すると、ふと気づいたみゆきが手を挙げ、尋ねる。
「ひょっとして……増えてるんですか? 密猟が。
ミッドの地上本部が“あんなこと”になって、治安が悪化した、とか……」
〈…………正解。
あの日――そっちの地上本部が崩壊したあの日から、一気に件数が増加してる〉
みゆきに答えるタントの言葉に、ギンガの、スバルの表情が曇る――ジュンイチが地上本部を崩壊させた余波が、別世界の自然保護区まで及んでいると知らされ、彼を想うが故に胸が締めつけられる。
そんな彼女達の――というかスバルの心情を自分に回された腕の振るえから察すると、マスターコンボイは頭上のスバルのアゴをアッパー気味に軽く小突き、映像のタント達に告げる。
「すると……何か?
貴様ら、まさかその密猟者への対処にオレ達を駆り出すつもりか?
そんなもの、貴様らの仕事なんだから貴様らで対処すればいいだろうが」
〈いや……こっちも最初はそのつもりだったんだけど……〉
だが、そんなマスターコンボイの言葉に、タントはどこか口ごもりながらも続けた。
〈密猟者達が“こんなの”と接触しているのを見たら、一応そっちにおうかがいは立てておくべきかな、と……〉
言って、タントが表示したサブウィンドウ――そこに表示された映像を見て、その場の一同が目を見張った。
監視システムの映像だろう。密猟者達と向き合い、何やら話しているトランスフォーマーの姿が見える。
問題なのはそのトランスフォーマーの方だ。何しろそのトランスフォーマーというのが――
ノイズメイズだったのだから。
そんなことがあった翌日、スプールス自然保護区――
「どうも。
機動六課、隊長代理の柾木霞澄です」
「いえ……こちらこそ、大変な中で人員を送ってくださって……」
告げる霞澄に答え、タントは彼女と握手を交わす。
なぜ彼女がタントと対面しているのか――端的に言えば、六課隊長陣の“現状”が原因だった。
タント達からの連絡からすぐ、話を聞いたはやては彼らのいるスプールス自然保護区への部隊の派遣を決定。ライトニング分隊とライナーズを向かわせることにした。
とはいえ、現在機動六課の隊長格は人間組が全員入院中。引率する要員がいないのが問題だった。
そのため、今回の派遣隊の隊長を任されることとなったのが霞澄だったのである。
「キャロ、久しぶりね」
「はい!」
一方、ミラは久しぶりの再会となるキャロと一足先にご対面。告げるミラに、キャロは笑顔でうなずいてみせる。
そんな彼女に笑顔でうなずくと、ミラはかがみ達やエリオ、シャープエッジとアイゼンアンカーを順に見回し、
「みんなもありがとう。
キャロと一緒に戦ってきてくれたんだって?」
「拙者は姫を主と定めた身。当然でござる」
「ま、めんどくさいけど、ボクのパートナーの相方だからねー」
告げるミラに対しシャープエッジが答え、すぐとなりでアイゼンアンカーも肩をすくめて同意する。
「相方?」
「うん」
聞き返すミラにうなずき、アイゼンアンカーは視線でエリオを示し、
「へぇ……キミがキャロのパートナーの……」
「は、はい!
エリオ・モンディアルです!」
霞澄とのあいさつを終え、会話に加わってきたタントの言葉に、エリオはピシッ、と姿勢を正して彼らに名乗る。
「それから、わたし達と一緒に戦ってくれてる……」
「民間協力者の、柊かがみです」
続いてキャロが紹介するのはかがみ達――かがみが名乗ったのを合図に、ライナーズの面々が順番に自己紹介していく。
「それで……タントさん、ミラさん。
問題の密猟が行われているのは……」
「あ、はい……」
そして、話は本題へ――尋ねる霞澄に答え、ミラはウィンドウを展開。一同の前に地図を映し出した。
「まず……私達のいるこのキャンプが、ここ」
言って、ミラが地図の中央に青色の光点でマーキングをほどこし、
「それで、地上本部崩壊以降に密猟が確認されたポイントが……」
続けて、周囲の何ヶ所かに赤色の光点でマーキングしていく。
「だいたい……こんなところです」
「東の密林地帯に多いですね……
……キャロちゃん、まずはその辺からあたりたいんだけど、地理、わかる?」
「あ、はい。
大丈夫です」
ミラの言葉にしばし考え、尋ねる霞澄に対し、キャロはコクリとうなずいてみせる。
「じゃあ、さっそく探索に出ましょう。
キャロちゃん、案内ヨロシク♪」
「はい!」
そんなこんなで探索に出た機動六課ご一行だったが――
「……遠目には、自然が豊かできれいなところだと思ったんスけどね……」
「豊かすぎでしょ、自然……」
まだ現場に着かない内から、すでに都会っ子組がバテかけていた――ボヤくひよりに対し、かがみはため息まじりに同意する。
「そりゃ、私達のトランステクターを不用意に使えば、この自然を蹴散らしていくしかないっていうのはわかるけど……まさか徒歩で現場に向かうハメになるなんてね……」
「大丈夫ですか……?」
「テンションがなえてる以外は大丈夫」
愚痴を垂れ流す自分を心配したのだろう。尋ねるエリオにあまり安心できないような答えを返し、かがみは軽くため息をついてみせる。
「あぅ〜、虫に刺されたぁ……」
「あ、蚊ですね……かゆみ止めありますけど」
「ここにも蚊がいるんですね……」
一方、つかさは虫に刺されて涙目だ。自分の荷物の中のかゆみ止めを探すキャロの言葉に、知識欲を優先したみゆきはどこかズレたコメントを返してくれる。
と――
「そういえば……」
不意に口を開いたのはみなみだった。キャロへと振り向き、尋ねる。
「ここは動物も保護してるみたいですけど……どんな動物がいるの?」
「あぁ、そうですね。
それこそいろんな動物がいますね――図鑑にしたらそれだけで本棚をひとつ占領しそうなくらいに。
えっと、このあたりだと……」
みなみに答え、自分の記憶を掘り起こし――そこで、不意にキャロの動きが止まった。
見れば、停止したキャロの笑顔も凍りつくように固まっていて――
「………………あー、キャロちゃん?
その反応からして、まったくもってイヤな予感がするんだけど……」
「え、えっと……」
そんなキャロの姿に尋ねる霞澄に、キャロは引きつった笑いと共に口を開き――
…………グルルルル……
背後からのうなり声に、キャロだけではなく、その場の全員の動きが停止した。
各自の本能にも似た部分が最大級の警鐘を鳴らす中、ゆっくりとうなり声のした方へと向き直り――
「グァアァァァァァッ!」
『ぅわぁぁぁぁぁっ!?』
高らかに雄叫びを上げた、体長が10メートルを超えそうなほどに巨大な竜を前に、一同の悲鳴が響き渡る。
「ひょっとしてこの辺って大型竜の生息区域!?」
「なんでそんな大事なこと伝え忘れてんのよ、アンタは!?」
「そ、それは……!」
声を上げるひよりやかがみの言葉に、キャロはオロオロしながらもなんとか答える。
「前いた時は、わたしとフリードでこのあたりを行動してたんですけど……その時は、種族は違っても同じ竜だったフリードがいたのと、そのフリードとわたしが話せるおかげで、そんなに警戒されなかったんです。
だから、わたし、今回も大丈夫かな、って……」
「で……今は?」
「見慣れない人達が大勢縄張りに入ってきたおかげで、極度の興奮状態です……」
「つまり?」
冷静に――いや、冷静を装って逐次聞き返す霞澄の言葉に、キャロは冷や汗を垂らしながら結論を告げた。
「私達……エサどころか“敵”として見られてます!」
「全員、退避ぃぃぃぃぃっ!」
キャロの言葉に霞澄が叫んだのと、一同がきびすを返して走り出したのは、まったくの同時だった。
「い、いきなり死ぬかと思ったわ……」
幸い、大型竜の動きは遅く、容易に逃げのびることができた――大型竜の気配が完全に消えるまで逃げまくり、なんとか逃げ切った一同が息を切らせる中、かがみは懸命に呼吸を整えながらそうつぶやき、
「あ、アイゼンアンカーも、シャープエッジも、守ってくれてもよかったじゃないっスか……」
「いくらボクらでも、あのサイズの猛獣相手じゃ……」
「拙者達のパワーではあの巨体を止めることは不可能でござるよ。
せめて、マスターコンボイとゴッドリンクできれば話は違ったでござろうが……」
こちらも息を切らせながらうめくひよりに対し、アイゼンアンカーやシャープエッジは申し訳なさそうにそう答える。
「とりあえず逃げ切れてよかったわ。
みんな……大丈夫よね?」
「あ、はい。
全員なんとか……」
ともあれもう大丈夫だろう。まずは全員の無事を確認しようと尋ねる霞澄にそう答え、かがみは一同の姿を確かめようと周囲を見回し――
「え――――――?」
気づいた。その意味を理解し、彼女の顔から血の気が引いていく。
「つかさと……エリオくんは……?」
「…………はい、これでいいよ」
「ありがとうございます」
頬に走った小さな傷に絆創膏を貼ってやる――手当てを終え、告げるつかさにエリオは笑顔で礼を述べる。
しかし、そんな彼に対し、つかさは首を左右に振って答えた。
「『ありがとう』は私のセリフだよ。
エリオくん、みんなとはぐれずにいられたはずなのに……」
そう。
あの大型竜はそれほど素早くはなかった。スピードに長けたエリオなら、霞澄達とはぐれることもなく逃げられたはずだ。
しかし、彼は残った――元々行動派ではない、逃げるのに四苦八苦していた自分を守ろうとして。
「ゴメンね、私のせいで……」
「あ、いえ……気にしないでください。
ボクがやりたくてやったことですから……」
つかさに答え、エリオは傍らに置いておいた愛槍を手に取った。
「ストラーダ」
呼びかけるその言葉に答え、通信を試みるストラーダだったが――
「……ダメか……」
応答はない――ため息をつき、エリオはストラーダを下ろし、
「つかささん、ミラーはどうですか?」
「ダメ……
呼びかけてるんだけど、お姉ちゃん達につながらないの」
元々通信管制を目的に作られたミラーなら――期待を込めて尋ねるエリオだったが、つかさは力なく首を左右に振ってみせる。
「ボクのストラーダはともかく、つかささんのミラーまで通信できないのは普通じゃないよ。
自然現象じゃありえない――誰かが通信妨害をかけてるのかも」
「そ、それって……」
エリオの言葉に、イヤな予感がふくらんでくる――不安げに口を開くつかさだったが、警戒を促す意味でもここでのなぐさめはマイナスにしかならない。ハッキリとエリオは告げた。
「密猟者からの妨害……それが、一番可能性は高いと思います」
「そんなぁ……」
エリオの言葉は、やはり彼女の恐怖を呼び起こしてしまったようだ。つかさは今にも泣き出しそうな表情で周囲を見回し――
ガサリッ、と近くの茂みが音を立てた。
「ひぃっ!?」
「ぅわっ!?
つ、つかささん!?」
つかさのそれは恐怖、エリオのそれは驚き――茂みから聞こえた物音におびえたつかさに抱きつかれ、エリオは思わず声を上げながらもなんとかストラーダを茂みにむけてかまえた。
自分に抱きついたつかさが震えているのが腕を通じて伝わってきて、動揺していた思考が冷静に冷めていくのを感じる――自分がつかさを守らなければと決意を新たに、茂みを注意深く観察する。
そのまま、5秒、10秒――気のせいだったのかもと二人が思い始めた瞬間、再び茂みが揺れた。
そして――
「…………みぃ……」
姿を見せたのは、小さな、4つ足の竜の子供だった。
全身を分厚い茶色の体皮で覆い、その額には生え始めたばかりの幼い角が2本。
そして鼻先にも小さな角――エリオは知る由もないが、地球に太古の昔に生息していた恐竜の一種、トリケラトプスを連想させる姿をしている。
だが、トテトテと自分達の周りを歩き回り、好奇心に満ちた視線を向けてくるその姿は、先ほどまで自分達を追い回していた大型竜とはまったくの真逆――威圧感よりも微笑ましさ、愛らしさを自分達に向けて振りまいていた。
「ぅわぁ、可愛い♪
どうしたの? キミ」
さっきまでおびえていたのもどこへやら。子竜のかわいらしさにすっかりあてられてしまったつかさは満面の笑顔で子竜へと駆け寄った。その頭に手を伸ばすと、子竜も特に警戒することもなく頭をなでるつかさにその身をゆだねている。
「なんでこんなところに?
お母さんはいないの?」
この子だけであんな大型竜のいる地帯を歩いていたとも思えない。立ち上がり、周囲を見回してみるつかさだが、周囲にこの子竜の同種が歩き回っているような物音はもちろん、気配すらない。
「ストラーダ、サーチできる?」
尋ねるエリオの言葉に周辺を探るストラーダだが、やはり結果は“反応ナシ”。
「あ…………
ひょっとして、さっきの大型竜を怖がってどこかに逃げちゃったのかも……」
「かも……しれませんね。
巻き込んじゃったかな……?」
つぶやくつかさに答え、エリオも子竜の頭をなでてやり――
「…………ねぇ、エリオくん」
そんなエリオに、つかさが声をかけた。
「この子の親……探してあげちゃ、ダメかな……?」
「つかささん?
でも……」
「私達も、お姉ちゃんを探して歩き回らなきゃいけないし……合流した後も、事件の捜査で動き回ることになるし……
そのついでに、探してあげようよ」
自分達もはぐれた身で、そんな余裕があるとも思えない――反論しかけたエリオだったが、そんな彼に答え、つかさは子竜を「うんしょ」と抱き上げた。
そんなつかさの腕がプルプルと震えている――「重いなら代わりに」と申し出ようとしたエリオだったが、すぐに思い直した。
彼女は子竜が重くて震えていたのではない。
不安なのだ。かがみ達とはぐれて――子竜を見下ろすつかさの、何かを耐えるかのようなその顔を見て、エリオはそう感じていた。
きっと、子竜を抱き上げたのも、そうやって誰かと触れ合っていなければ寂しくて仕方がないからで――
(…………そうだ。
つかささんは戦闘向きじゃない。ボクがしっかりしないと……)
子竜がいようといまいと、戦いになれば自分がつかさを守って戦わなければならない。自らに対して気合を入れると、エリオはストラーダを握り直し、
「じゃあ……行きましょうか。
……その子と一緒に」
「うん!」
結局、こうするのが最善なのだろう。告げた言葉につかさが満面の笑顔でうなずくのを見て、エリオはそう思いつつ自身も彼女に笑みを返した。
「気持ちはわかるけど……ダメ」
「………………っ」
淡々と告げる霞澄に対し、かがみは悔しげに唇をかむ――
現在、彼女達は先ほどの場を離れ、大型竜に見つかりにくそうな木々の密度の濃いエリアに移動していた。
そこでかがみが「つかさを探しに行きたい」と言い出し、それに霞澄が待ったをかけたのが先のやり取りである。
「でも……つかさがいなくなったのに、私、気づけなくて……!
姉の私が、しっかりつかさを見てなきゃいけなかったのに……!」
「それに、エリオだっていなくなっちゃって……」
「そうですよ! 早く探しに行かないと!」
いなくなったのはつかさだけではない。エリオも――かがみに同意する形で霞澄に告げるアイゼンアンカーやキャロだったが、
「エリオくんまでいなくなったから……だよ」
そんなキャロの肩に背後から両手を置き、答えるのはみなみだ。霞澄へと視線を向け、
「そうですよね? 霞澄さん」
「うん。
みなみちゃんの言うとおり」
確認するみなみに、霞澄は満足げにうなずいてみせた。
「あの六課前線フォワードが誇るスピードスターのエリオくんが、あんなデカブツに後れを取るもんですか。
それどころか、こっちについてくることだって簡単にできたはず――間違いなく、あの子は自分の意思で私達から離れた。
そして、そんな理由があるとすれば……」
「つかささんを、守るため……?」
つぶやくキャロに、霞澄は笑顔でうなずいてみせる。
「だから、大丈夫。
つかさちゃんはエリオくんが守ってる。だからきっと無事。
今頃、こっちと合流しようと思って移動してるんじゃないかな?」
そう告げて、苦笑まじりに肩をすくめる霞澄だったが――
「…………エリオくん……」
まだ何やら納得のいかないものがあるらしい。うつむき、キャロは小さく自分の相棒の名をつぶやいた。
「……つかささんを、守って……」
元々運動の得意でないつかさはカイザーズの生身でのミッションではFB――元々ガードのポジションにいるエリオが彼女を守りに動くのは当然のことと言える。
だが――
「…………わたしだって、FBなのに……」
元々この自然保護区で働いていた身だ。もっともここでの立ち回りを理解している以上、ある意味自分が一番心配しなくてもいい存在だということはわかる。
霞澄達の案内を引き受けている以上、本隊とキャロを引き離すワケにはいかなかったのもわかる。
だが――納得はできなかった。
それが適切な判断であったとはいえ、パートナーである自分を放り出してつかさの元に向かったエリオに対し、キャロは自分でも理解できない不可解な苛立ちを覚え――
「キャロちゃん?」
「あ…………
す、すいません。ちょっと、ボーッとしちゃって……」
気づけば、不思議そうにみなみが自分の顔をのぞき込んできている――我に返り、キャロはあわててみなみに対してそう答え――
「――――――っ!
みんな、散開!」
気づくと同時に霞澄が跳躍――何事かと周囲を見回そうとするかがみ達よりも早く、彼らの元に多数の砲弾が飛来。破裂し、内部に納められていたネットが展開され、かがみ達を捕獲してしまう!
「みんな!
く――――――っ!」
結局、難を逃れたのはいち早く気づいた霞澄だけ。エリオ達のことに気を取られ、周辺の警戒がおろそかになっていた自分を内心で叱りつつ、かがみ達を助けようと地を蹴るが、
「おっと、そこまでだぜ!」
その言葉と同時――駆け出した霞澄の足元を銃弾が叩いた。
魔導師やブレイカーの生命エネルギー系の光弾でもなければ、トランスフォーマーのビームでもない。管理局の法で所持自体が規制されている質量兵器、すなわち実銃の銃弾である。
「まさか、気づいたヤツがいるとはな……」
「管理局のヘタレどもにしちゃ、やるじゃねぇか」
口々に言いながら姿を現すのは、ライフル銃をかまえたアーミールックの男達――おそらくは彼らが密猟者ご本人だろう。
さらに――
「やるに決まってんだろ」
「彼らは地上本部の崩壊でズタズタになった指揮系統の中、孤軍奮闘している精鋭部隊のメンバーなのだからな」
「アンタ達……!」
さらに二人のトランスフォーマーが姿を現した。見覚えのあるその顔に、霞澄は思わず歯噛みして――
「おぉ、怖い怖い。
けどよ、抵抗しようとか、考えない方がいいぜ」
「でなければ……コイツらが一瞬にして黒こげになるぞ」
ネットに囚われたかがみ達へと銃を向け、ノイズメイズとサウンドウェーブは余裕と態度で霞澄にそう言い放った。
その頃――
「これって……!」
「ひどい……!」
そこに横たわる“モノ”を前に、うめくエリオのとなりでつかさも両手で口を押さえ、震える声をなんとかしぼり出す。
はぐれてしまった霞澄達を探し、出会った子竜と共に森の中を進んでいたエリオとつかさだったが、そんな彼らの行く手に“それ”はあった。
全身を撃ち抜かれて息絶えた、10メートルを越す巨大な2頭の竜の死体だ。腐乱が始まっていることから、昨日今日死んだものではなさそうだが――問題はその種類だった。
「この子と……同じ……?」
つぶやき、つかさは抱きかかえていた子竜を地面に下ろしてやる――と、子竜はトテトテと死体に向けて駆けていくと、死体に鼻を寄せ、悲しそうに声を上げる。
「やっぱり……あの子のお父さんとお母さんなんだ……」
「でも……誰がこんな……」
それは、自分の予想が正しかったことの証明――悲しげにつぶやくつかさをよそに、エリオは死体の傷を調べ、
「これ……トランスフォーマーのビームで焼き切ったみたいだ……
まさか、ノイズメイズ達が!?」
思わずエリオが声を上げた、その時――
「…………み?」
突然子竜が顔を上げた。振り向き、空を見上げるその姿に、つかさやエリオもそちらに視線を向け――
「きゅくるぅ〜っ!」
「って、フリード!?」
その空に姿を見せたのはフリードだった。よほど急いでいたのか、その姿は見る見るうちに大きくなり、声を上げたエリオの胸に勢いよく飛び込んでくる。
「ど、どうしたんだ? フリード。
キャロは……?」
「きゅっ! きゅうっ!」
どうしてフリードだけがここに――尋ねるエリオに対し、フリードは顔を上げ、しきりに泣き声を上げる。
「まさか……キャロに何かあったの!?」
このあわてぶりはただ事ではない。詳しく話を聞きたいところだが、エリオではキャロのように直に会話することはできない。六課開設以来の付き合いである程度の意思疎通はできるが、その程度だ。
ある意味では仕方のないことだが、フリードと会話できないことを悔やまずにはいられない。焦りからエリオは思わず唇をかんで――
「えぇっ!?」
そんな彼の傍らで、つかさが突然驚きの声を上げた。
「え、エリオくん、大変!
キャロちゃん達、ノイズメイズ達に捕まっちゃったって!
フリードだけは、なんとかキャロちゃんが気づかれないように逃がしてくれたみたいだけど……」
「そうなんですか!?
早く助けにいかないと……!」
つかさの言葉にあわてて声を上げ――エリオは気づいた。
ゆっくりとつかさへ視線を戻し、尋ねる。
「つかささん……今の、って……?」
「え………………?」
当のつかさは何のことかわかっていないようだ――共に困惑しつつ、エリオは再びつぶやいた。
「まさか、つかささん……」
「フリードの言葉が、わかった……?」
「まさか、ホントにあんた達がからんでるとはね……
こんな密猟なんか、アンタ達と縁なんかなさそうなのに」
「だからこその盲点、ってことだよ」
彼らのアジトに連行され、バインドで拘束された状態で精一杯の強がりと共に告げるかがみに対し、ノイズメイズは不敵な笑みと共にそう答える。
バインドにはストラグルバインドと同種の魔法封じが働いているのか、かがみ達はもちろん、キャロも魔法で対抗することができずにいる。それで安全と判断したのか、デバイスを取り上げられていないのが幸いと言えば幸いだが――
「ふむ…………この子かい?
キミ達が何度も煮え湯を飲まされたというのは」
「あぁ。
こないだサーチャーに引っかかっちまったからなぁ、来るとは思ってたが、こうも早いとは思わなかったぜ」
そんな彼女達をまるで値踏みするように観察しながらノイズメイズと話しているのは密猟者達の雇い主――しかし、その姿は“密猟”という行為とはまったく無縁に見えるものだった。
くたびれたスーツの上に白衣をまとった、むしろ「科学者」と言った方がしっくり来るそのいでたち――そこから相手の正体を推察し、霞澄は彼に告げる。
「なるほど。
密猟にしては大型竜の生息域にばっかり被害が集中してたのはそういうことか……
アンタ、生物兵器の研究してるわね?」
「正解だ。
なかなか聡明なようだね。説明の手間が省けて助かるよ」
告げ、にらみつける霞澄だが、優位に立った者の余裕だろうか、かつてあのジュンイチを育て上げたほどの使い手である彼女の眼光を受けても、研究者は気圧されることもなくそう答える。
「生きていようが兵器は兵器。
獰猛なくらいがサンプルとしてはちょうどいいのさ」
「そんな……『サンプル』なんて言わないで!」
自然を、動物を愛する者として、彼の「サンプル」呼ばわりを見過ごすことはできなかった――告げる研究者に対し、キャロはバインドに拘束されたまま声を上げた。
「みんな、あなたの研究のために生まれたワケじゃないのに……!」
「確かにね。
だが、そう生まれたからには私の研究に協力してもらうさ」
うめくように告げるキャロだが、それでも研究者はあっさりとそう答える。
「別に気にすることもないだろう?
成功すればそれで良し、失敗してくたばったところで代わりの個体などいくらでもいるんだ。
所詮サンプル――使い捨ての消耗品に何を遠慮することがある?」
「こいつ……本物の下衆ね……!」
「スカリエッティがまだまともに思えてくるでござるな……!」
まったく悪びれることもなくそう告げる研究者の言葉は、一同の神経を逆なでするには十分すぎた。心底嫌悪してうめくかがみのとなりで、同じくバインドで拘束されているシャープエッジが同意する。
「ノイズメイズ……よくこんな人達とつるんでられるっスね?」
「この人達のやってること、なんとも思わないの?」
「まぁ、趣味が悪いとは思うけどな」
「それでも、取引相手は選んでられんわ!」
ひよりやみなみの問いに答え、肩をすくめるノイズメイズのとなりで告げるのはアジトに残っていたランページだ。
「いい加減ユニクロンパレスの物資が心もとなくなってきてなぁ。
そろそろ買い込まなきゃこっちが飢え死にしてまうんじゃ!」
「飢え…………っ!?
まさかアンタ達、生活費のためにこんなヤツらとつるんでるんじゃないでしょうね!?」
「言ったじゃろうが!
ワシらだって生活があるんじゃ――取引相手なんぞ選んでられるか!」
思わず声を上げる霞澄だが、ランページは力いっぱいそう力説する。
「貴様ら、日本でぬくぬくと育ってきたヤツらにはわからんじゃろう!
食事はひとり分を3人、4人で分けるなんて当たり前! 遠征先にキャンプを張る資材もなくて岩陰で雨露をしのいで、現地の食材の有機物摂取で必死に食をつないで……
機体洗浄なんか出先で水浴びじゃ! パレスの風呂なんてもう何ヶ月使ってないと思ってるんじゃあっ!」
「もういい……! もうやめてください……!」
「アンタ達、よく耐えたわよ……!」
その悲惨な暮らしぶり――特に風呂のくだり――はこちらの同情を誘うには十分すぎた。天井を仰いで自分達の窮状を語るランページの言葉に、みゆきやかがみは思わずもらい泣きしながらそう告げた。
「ここなの? フリード」
「きゅく」
尋ねるエリオの問いに、フリードは彼の肩の上でコクリとうなずく――そんな彼らの目の前には、岩山の一角にポッカリと口を開けた洞窟の入り口があった。
フリードの言葉がなぜか理解できたつかさについては確かに気になったが、それよりも今は囚われの身となった霞澄達の救出が先決だ。事態を知り、エリオ達はすぐに霞澄達の救出のために行動を開始した。
当然、彼女達の行方をつかむことが必要となったのだが、そこで活躍したのもフリードだった。
キャロの使役竜であるフリードなら、キャロと何らかの形でつながっているかもしれない――そう考えたエリオが、フリードにキャロの、ひいては霞澄達の追跡を頼んだのだ。
そして、その思惑は図に当たり――現在に至る。
「お姉ちゃん達、大丈夫かな……?」
「きっと大丈夫です。
だから……絶対助けましょう」
殺すつもりなら捕まえた時点で殺している――不安げにつぶやくつかさに答えると、エリオはフリードへと向き直り、
「フリード。
キミは、今からタントさん達のところに戻ってくれないかな?」
「きゅく?」
「タントさん達に、キャロ達が捕まったことを知らせてほしいんだ」
首をかしげるフリードに答えると、エリオは懐から取り出したメモリチップをストラーダにセットした。
そして、チップに現在の位置データとメッセージをコピーすると、ストラップ付きのケースに入れてフリードの首にかける。
「ここにつかささんのレンジャーライナーを発進させてもらうようにメッセージを入れておいたから、これをタントさん達に届けて。
ボクが戻ってもいいけど、つかささんをここに残していくことになっちゃうし……たぶん、ボクが行くよりも空を飛べるフリードの方が速く戻れると思うんだ」
「お願いね、フリード」
「きゅくーっ!」
エリオやつかさの言葉に、フリードは自分の役目を理解してくれたようだ。大きく鳴き声を上げると翼を広げ、保護隊のキャンプのある方へと飛び去っていく。
「……さて。
フリードとレンジャーライナーが戻ってきてくれるまでに、なんとかキャロ達の居場所だけでも突き止めておきましょう」
「そうだね」
気を取り直し、提案するエリオの言葉に、つかさは両の拳をグッと握ってうなずいてみせる。
「お姉ちゃん達はみんな捕まっちゃったみたいだし、ノイエ・アースラに応援を頼んでる余裕もないもんね。
ここは、私達ががんばらないと!」
そう自らに気合を入れると、つかさは足元の子竜の前にしゃがみ込んだ。子竜の頭を優しくなでてやり、
「ちょっと待っててね。
お姉ちゃん達を助けたら、ちゃんと戻ってきてあげるから」
「み………………?」
自分の言葉がわかっているのかいないのか、首をかしげる子竜に軽く微笑み、つかさは立ち上がるとエリオへと向き直り、
「それじゃあ、お姉ちゃん達救出作戦、開始だよ!」
「はい!」
そんな流れで、密猟者達のアジトへと潜入することにしたエリオとつかさだったが、当然ながら正面きって乗り込むにはいかない。
そこで、入り口と思われる洞窟の周囲を探ったところ、少し離れたところに換気ダクトを発見。そこから進入することにした。
「つかささん、狭くないですか?」
「ううん、なんとか、大丈夫……」
小柄な自分はともかく、つかさは大丈夫だろうか――四つん這いの姿勢で前を進むエリオの問いに、後に続くつかさはダクト内のほこりに思わず顔をしかめながらもそう答える。
「でも……お姉ちゃん達がどこにいるかわかるの?」
「それはまだ……
だから、まずはこの施設の地図みたいなものを探さないと。
こんな換気ダクトを用意してるんです。ちゃんと基地として建設してるはずだから、どこかにあると思うんですけど……」
闇雲に動いても簡単に見つかるとは思えない。尋ねるつかさにエリオが答え――
「………………ん?」
気づいた。耳を澄ませ、自分の耳に届いたそれが確かなものだと確かめる。
「エリオくん……?」
「……地図、探す必要はなくなったかもしれません。
ちょっと耳を澄ませてみてください」
答えるエリオの言葉に、つかさも耳を澄ませて――ダクトを通じて声が聞こえてきた。
この声は――
「…………お姉ちゃん達の声だ!」
「私達をどうするつもり!?」
「安心しろ。とって食ったりはしねぇよ」
バインドで拘束されたまま尋ねる霞澄に対し、ノイズメイズは余裕の態度でそう答えた。
「こっちとしてはバイト代さえもらえりゃそれでいいんだ――オレ達がいなくなったらここのヤツらは好きにしな。
ま、要はそれまではおとなしくしててくれ、ってことさ」
「あら、それで終わり?
ここで私達を殺しておいた方が後々楽だと思うんだけど?」
「それで怒り狂った高町なのは達にフルボッコにされろってか? 冗談じゃない」
挑発する霞澄だったが、ノイズメイズも落ち着いたものだ。彼女の言葉に軽く肩をすくめてみせる。
「安心しろ。
お前達を殺す時は全員まとめて一気に叩く――理由は今ノイズメイズが言った通りだ」
「なるほど。
万全の体勢が整うまではやり合いたくない、と」
「それもあるけど……生活費稼ぐためのバイトでそこまで危ない橋も渡りたくないしな」
サウンドウェーブに告げる霞澄にノイズメイズが付け加えると、
「まぁ、今までさんざんブッ飛ばしてくれたお礼くらいは、させてもらおうかのぉ?」
「何よ、結局こっちに手は出すんじゃない」
「ま、勝者の特権ってヤツさ」
そう言ってこちらをのぞき込んできたランページにイヤミを返すかがみだが、現状明らかに優位に立っているノイズメイズ達の余裕は揺るがない。
「いったい、何するつもりっスか……?」
「『殺すつもりがない』って明言してるだけに、不気味だね……」
そんな彼らの態度にひよりやみなみがつぶやくと、
「ま、まさか……!」
霞澄が何やら思いついたようだ。ノイズメイズを真っ向からにらみつけ、
「ノイズメイズ……あなた達まさか、私達がカワイイからって、公共の電波に流せないようなエロエロなことをするつもりじゃないでしょうね!?」
「自分が引率してるのが年頃の女の子達だってわかって言ってんのか、貴様っ!?」
力強くトンデモナイことを言い放ってくれた霞澄に、ノイズメイズは力いっぱい言い返した。
「冗談じゃないわ!
そういうのは脇から見てるからこそ“味”があるのよ! 当事者になるなんてまっぴらごめんよ!」
「だから、そういう方向じゃないっ!」
「それに、どうせ当事者になるなら“やる側”希望よ!
“受”“攻”でたとえるなら、私は“攻”だぁぁぁぁぁっ!」
「もういい! 少し黙ってろ、この色ボケ女!」
「…………ホントに違うの?」
「なんでそこで残念そうに聞き返すんだ、貴様わっ!?」
霞澄の息をも着かせぬボケの数々に、ツッコみ疲れたノイズメイズは肩で大きく息をつき、
「おい……何なんだ? この女……」
「あきらめなさい」
思わずかがみにボヤくノイズメイズだったが、そんな彼にかがみは先ほどの霞澄の発言で顔を赤くしたまま答えた。
「何しろ……“あの”柾木ジュンイチさんの母親なんだから」
問答無用の説得力に満ちた発言だった。
「え、えっと……」
「霞澄さんってば……」
そんな彼らのやり取りは、ダクト内でその様子をうかがっていたエリオやつかさも聞いていた――ダクト内で突っ伏し、顔を真っ赤にしながらそれぞれにうめく。
「と、とにかく……これでお姉ちゃん達の居場所はわかったね」
「とりあえず戻りましょう。
この位置はストラーダがマッピングで記憶してくれたから、攻撃の際にここを巻き込まないようにすれば……」
結論として、二人は今のやり取りを聞かなかったことにしたようだ――気を取り直して告げるつかさに提案し、移動すべく顔を上げるエリオだったが、そこでようやく、ダクトの前方で換気用のファンが回っているのに気づいた。
「つかささん、どうもここから先は進めないみたいです。
後ろに下がってもらえますか?」
「え――――――?」
つかさに言いながら後ろに下がるエリオだったが、いきなりそんなことを言われても、元々おっとりしている彼女ではエリオのいきなりの後退に反応しきれず――
ぽすっ、と音を立て――つかさの顔がエリオの尻に突っ込んだ。
「え、えええええ、エリオくんっ!?」
「つ、つかささん!?
え!? ちょっ!? 落ち着いて!」
「………………ん?」
バインドで自由を奪っているはずなのに霞澄に翻弄され、いい加減疲れてきたところにいきなりダクトから声が――気づき、視線を向けるノイズメイズの前で、天井付近につるされたダクトがガタガタと音を立てて揺れていて――
「ぅわぁっ!?」
「ひゃあっ!?」
壊れた。天井の留め具が外れ、落下したダクトの中からエリオとつかさが放り出されてくる。
「いたた……!」
「だ、大丈夫ですか? つかささん……」
「え、エリオ!? つかさ!?」
それぞれにぶつけたところをさすり、声を上げる二人の姿にかがみが声を上げると、
「おやおや……誰かと思えば、コイツらの仲間じゃないか」
「助けに来たのか? それとも自分達も捕まりに来たか?」
「どっちにしてもマヌケな登場じゃのぉ」
エリオとつかさに気づいたのは自分達だけではない――エリオ達を前に、ノイズメイズ達は口々にそう告げる。
「つかささん、下がって!」
「エリオくん!?」
予定とはまったく違う形になってしまったが、気づかれてしまったからにはやるしかない。戸惑うつかさを背後にかばい、エリオはストラーダをかまえる。
戦闘向きでないつかさを戦力には数えられない――事実上の3対1。しかも相手はトランスフォーマーでこちらはトランステクターであるマスターコンボイもおらず生身で戦わなければならない。どう考えてもこちらが不利だ。
だが、それでもやるしかない。ストラーダを握る手に汗がにじむのを感じつつ、エリオは静かに息を吐き――
自分達のいる部屋の壁が吹き飛んだ。
『どわぁぁぁぁぁっ!?』
同時、爆発の向こうから飛び込んできた多数の光弾がノイズメイズへと降り注ぐ――彼らが3人まとめて吹っ飛ぶ中、飛び込んできたそれがつかさやエリオの前で停止した。
タント達に出動を依頼していたレンジャーライナーである。ご丁寧に、みなみのニトロライナーまで牽引してきている。
「ぅわ……来ちゃった……」
「つかささんがここにいたから、ここまで来ようと強行突破してきちゃったんだね……」
本来の予定ならレンジャーライナーの到着までに外に戻り、合流した上でつかさにゴッドオンしてもらって突撃――という流れだったのだが、先ほどのトラブルで脱出が遅れたのが結果としていい方向に流れたようだ。レンジャーライナーを前につかさとエリオがつぶやくと、
「き、さ、ま、らぁ……!」
「やってくれたのぉ……!」
一撃を受けた怒りのまま、ノイズメイズとランページがうめき声と共に立ち上がる――敵の復活をまえにして、エリオは再びストラーダをかまえ、
「つかささん!」
「うん!
ゴッド、オン――レインジャー、トランスフォーム!」
エリオの呼びかけに答え、つかさもまたレンジャーライナーとゴッドオン。レインジャーとなってその場に降り立った。
「エリオくん、お姉ちゃん達をお願い!」
「つかささん!?」
「頑丈なレインジャーなら、楯になるくらいできるから!」
驚くエリオに答え、つかさはノイズメイズ達の前に立ちはだかる――確かに、いかに直接戦闘向きでないと言っても、ゴッドオンし、体躯の大きくなったつかさを霞澄達の救出に向かうのは戦力のバランス上好ましくない。
ここはつかさをノイズメイズ達にぶつけるのが最善。不安なら一刻も早く霞澄達を助け、つかさの援護に向かえばいい――そう結論づけ、エリオはきびすを返してキャロの元へと走る。
「エリオくん!」
「キャロ、今助けるから!」
声を上げるキャロに答え、エリオはストラーダの切っ先で器用にバインドを破壊、キャロを解放する。
続けて助けに動くのはキャロのとなりのみなみだ。同じようにバインドを破壊して彼女を解放した、その時――
「――――――っ!
エリオくん!」
物静かなみなみから放たれた突然の叫びに、気づくよりも先に身体が動く――キャロとみなみを抱えて飛びのいたエリオの前で、先ほどまでエリオの居た場所に拳を叩きつけたのはサウンドウェーブである。
「エリオくん……!」
「大丈夫。
サウンドウェーブはボクがなんとかするから、二人は霞澄さん達を」
キャロに答え、ストラーダをかまえるエリオだったが、今の離脱で自分達と霞澄達の間にサウンドウェーブが立ちはだかる形となってしまっている。
当然、霞澄達への距離はサウンドウェーブの方が近い――自分達よりも先に霞澄達に危害を加えることも十分に可能であり、もしそういう行動にサウンドウェーブが出たなら、自分はそれを全力で阻まなければならなくなる。
すぐにみんなを助けてつかさを援護する、という当初の目論見は、早くも瓦解しつつあった。
「きゃあっ!」
一方、つかさの方も苦戦を強いられていた――放たれるランページのミサイルが足元に着弾、爆発によって押し戻され、
「どぉりゃあっ!」
そこにノイズメイズが飛び込んできた。繰り出された蹴りをレインジャーの頑強な装甲で受け止めるが、もともと押し戻されていたところに加えられた一撃によって完全にバランスを崩し、転倒してしまう。
「もーっ! 攻撃するならビームにしてよぉっ!」
「防がれるのがわかってて――誰が撃つかぁっ!」
愚痴をこぼしながら立ち上がるつかさに答え、ランページがミサイルをばらまく――エネルギー攻撃を解析し、アンチフィールドを展開することで光学系の攻撃を無効化するレインジャーの“アナライズフィールド”に対抗するため、ノイズメイズとランページは先ほどからずっと打撃や実体弾による攻撃に終始していた。
〈おいおい、何を考えている!?
アジトの中でドンパチしないでもらえるか!?〉
「どうせ研究データはバックアップ取ってるんだろ!?
って言うか――オレ達が席外してただけで、なんでこうもあっさりトランステクターの侵入を許すんだよ! 完全にオレ達におんぶに抱っこかよ!」
通信してくる研究者に言い返すと、ノイズメイズはレインジャーに、つかさに視線を戻し、
「どうせ、ここまで派手に突撃されたんだ。ここは管理局にバレたと思っていい。
とっととトンズラしろって――主にオレ達の給料のために」
〈…………わかった〉
憮然とした回答と共に通信が切れる――気を取り直し、ノイズメイズはつかさに告げる。
「と、ゆーワケだ。
お前のそのトランステクターが突入してきてくれたおかげで、この基地の廃棄は決定。オレ達も被害を気にすることなく暴れられるってワケだ。
そんなワケで――」
言って、ノイズメイズは自らの右手、その指をパチンッ、と鳴らし――
「コイツも、遠慮なく使えるってワケだ」
自分達の体躯よりも巨大な大型シャークトロンが、アジトの奥から姿を現した。その数――2体。
「やったらんかい! シャークトロン!」
その2体が、つかさのレインジャーに向けて突撃する――1体目の繰り出した体当たりをなんとか防御するつかさだったが、
「きゃあっ!」
そんな彼女に、2体目のシャークトロンがかみついてきた。右腕を肩まで飲み込むような勢いでレインジャーのボディにかぶりつき、そのまま力任せに投げ飛ばす!
「きゃあぁぁぁぁぁっ!」
元々ノイズメイズやランページに痛めつけられていたところにこれはキツい。ダメージからゴッドオンが強制解除され、つかさはレンジャーライナーの機外に投げ出されてしまう。
「つかささん!
――――ぅわぁっ!?」
「余所見をしているヒマなどあるまい!」
そしてエリオも――つかさに気を取られた一瞬のスキをつかれ、サウンドウェーブの振り回したブラスターガンの銃身で殴り飛ばされ、つかさのすぐ脇に叩きつけられる。
「エリオくん! つかささん!」
懸命にブーストで支援していたキャロが声を上げるが、エリオのダメージは大きく、立ち上がる動きは明らかに鈍っている。
「つかささん……大丈夫ですか……!?」
「な、なんとか……!」
「ところがギッチョン。
すぐに『なんとか大丈夫』じゃなくしてやるぜ」
尋ねるエリオに答えるつかさだが、そんな彼女に告げてウィングハルバードをかまえるのはノイズメイズだ。
「く――――――っ!」
「ムダだ! てめぇのその細腕で、オレのウイングハルバードを受け止めようってか!?」
とっさにつかさをかばい、ストラーダをかまえるエリオだが、そんな彼にかまわず、ノイズメイズはウィングハルバードを振り上げ――
「みぃーっ!」
「………………って、は?」
突然上がったのはまったく聞き覚えのない声だった。思わず動きを止めたノイズメイズが間の抜けた声を上げ――その右足に軽い衝撃が走った。
見下ろせば、小さな竜の子供が自分の足に懸命に体当たりを繰り返している。
その竜とは――
「あ、あの子……!」
「こっちに来ちゃったんだ……!」
それは、つかさとエリオが保護した地竜の子供だ。意外な乱入者に驚きの声を上げるが、子竜はかまわずノイズメイズの足への体当たりを繰り返している。
「あの子……エリオくん達を、守ろうとしてる……?」
一方、竜との意思疎通ができるキャロはそんな子竜の行動の理由に気づいていた――が、ことの経緯を知らない彼女はどうして子竜がつかさ達を守ろうとしているのかが理解できず、首をかしげるしかない。
「チッ、うっとうしいヤツだぜ……!」
一方、事態がわからないのはこちらも同じ――しかし、これが不快だとはハッキリと感じていた。舌打ちし、ノイズメイズは子竜を見下ろし――
「………………ん?」
ふと気づいた。
「コイツ……どこかで見たような気がすると思ったら……」
「前に殺した地竜のガキじゃねぇか」
「………………え?」
その言葉の意味を理解するのに数秒かかった――ノイズメイズの言葉に、つかさは思わず言葉を失った。
「ノイズメイズ……!
どういう、意味だ……!?」
「どうもこうも、そのままの意味さ」
一方、エリオは険しい表情でノイズメイズに尋ねる――そんなエリオに、ノイズメイズはあっさりとそう答えた。
「ここに雇われてすぐの頃さ。
外を出歩いてたら、ソイツらの縄張りに入っちまったらしくてな――2頭ばかり、コイツのでっかいのが襲ってきたんだよ。
で、迎撃してブッ殺してやった、と……
おっと、オレを怒るなよ。オレは襲われた側――正当防衛なんだからよ」
怒りに満ちた視線を向けるエリオに言って、ノイズメイズは子竜を見下ろし、
「で、コイツがその後に出てきやがった。
すぐにわかったよ。コイツがオレの殺した竜の子供だってな――あのままほっといてものたれ死ぬだけだと思ってな、とりあえず雇い主サマのサンプルにでもなるかと思って、連れて帰ってきた。
その後はことは知らないな――こうして無事だってところを見ると、雇い主サマがサンプルにもならないと思って捨てたんじゃないか?」
言いながら、ノイズメイズは再びウィングハルバードをかまえ、
「けど、コイツもバカだぜ。
せっかく拾った命だってのに、わざわざオレに殺されに戻ってきたとはな!」
そう言い放ち――ノイズメイズは子竜に向けてウィングハルバードを振りかぶる!
「や、やめろぉっ!」
エリオが叫ぶが――言葉ではノイズメイズを止められない。無常にもウィングハルバードが振り下ろされ――
「ダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
つかさの叫びが響き――彼女の身体から巻き起こった虹色の輝きが、彼らのいるホールをまばゆく照らし出す!
「な、何っ!?」
突然の異変に、ノイズメイズが驚いて動きを止める――そんなノイズメイズをにらみつけ、つかさは告げる。
「どうして、そんなひどいことができるの……!?
襲われたからって、その子の親を殺して……今度はその子まで……!」
いつもの温和なつかさではない――涙を流しつつ、気丈にノイズメイズをにらみつけ、つかさは両の拳を握り締める。
「最初は、お姉ちゃんのためだった……でも、私は、私が守ったみんなが笑顔でいてくれるのが楽しかった。
そんなみんなを守りたくて、私はゴッドマスターを続けてきたんだ……
戦う力のない人達を守りたくて……
それなのに……なのに……!」
「あなたのしたことは許せない!」
それは、彼女が初めて見せる本気の怒り――まるで泣き叫ぶかのように、高らかにつかさは宣言する。
「ハイパー、ゴッドオン!」
瞬間――つかさの身体が虹色の光に包まれた。レンジャーライナーに溶け込むかのように消えていき、レンジャーライナーが虹色の光に包まれる。
「レインジャー、トランスフォーム!」
そして、再びレインジャーへとトランスフォーム――全身を虹色に輝かせ、つかさはノイズメイズや巨大シャークトロン達と対峙する。
「つかささんが……ハイパーゴッドオンを……!?」
「すごい……!」
そんなつかさの姿にエリオや、離れたところで戦いを見守っていたみなみがつぶやくと、
「…………え……?」
そんなエリオ達の元に、あふれ出したつかさの魔力が流れてきた。虹色の魔力光を放つそれは、エリオやキャロ、みなみの身体に触れるとまるで溶け込むかのように彼らの身体の中に消えていく。
「これは……!?」
「つかささんの魔力が……」
「私達の中に、入ってくる……」
今までに感じたことのない感覚に戸惑い、エリオ達がつぶやき――さらなる異変が3人に訪れた。
つかさの魔力が自分達の中に溶け込み始めたのと時を同じくして、自分達の魔力が異常な高まりを見せ始めたのだ。
さらに、自分達の魔力光もまた変色していく――それぞれ特定の色を失い、七色に輝きながら自分達の周りにあふれ出していく。
一体何が起きたのか見当もつかない――しかし、ハッキリしていることがないワケでもない。
こうして自分達の中にこの“力”が発現したということは――互いに顔を見合わせ、叫ぶ。
『ハイパー、ゴッドオン!』
同時――エリオ、キャロ、みなみの身体も虹色の光に包まれた。エリオがアイゼンアンカー、キャロがシャープエッジ、みなみがニトロライナーへと溶け込んでいく。
「アイゼンアンカー!」
「わかってるよ!」
「シャープエッジ!」
「心得てござる!」
そして、トランスデバイス達の中からあふれ出す新たな力――ハイパーゴッドオンによってパワーの増した彼らがそれぞれのマスターの呼びかけに応え、自分達の動きを封じていたバインドを力任せに引きちぎる!
そしてみなみがハイパーゴッドオンしたニトロライナーもロボットモード、ニトロスクリューへとトランスフォーム。3人はそのままつかさと共に並び立ち、ノイズメイズ達と対峙する。
「な、何なんじゃ、これ!?」
「知るか!」
一方、困惑しているのは敵も同じだ――あわてるランページに答え、ノイズメイズは舌打ちし、
「こうなったら、まだ捕まってるヤツらを楯に……!」
そううめき、霞澄達を集めていた辺りへと振り向き――
「捕まってるヤツらが――何だって?」
そこにはそれぞれにバインドから逃れ、固まっていた身体をほぐすかがみ達の姿があった。
「お、お前ら……どうして!?」
「魔法を封じたからって安心して、デバイスを持たせたままにしてたのは失敗でしたね。
魔法は封じることができても、デバイスのAIまで停止するワケじゃありません――解析して、構造上の粗を探せば、バインドブレイクに頼らなくても、物理的な刺激で破壊することはそう難しくありませんでしたよ」
驚き、うめくサウンドウェーブに答えるのはみゆきである。
「さて……霞澄さん。ジャミングに対する再ジャミング、できましたか?」
「のーぷろぶれむ♪
ジャミング波に対するアンチフィールド、展開完了――いつでもいいわよ!」
尋ねるかがみには霞澄が答える――うなずき、かがみはみゆき、そしてひよりへと告げる。
「いくわよ――みんな!
ライトライナー!」
「ロードライナー!」
「ブレイクライナー!」
そして、彼女達が呼びかけるのは通信のジャミングによって召喚できずにいたトランステクター。彼女達の声に応え、すぐに彼女達の元へと駆けつける。
そして――
『ハイパー、ゴッドオン!』
「ゴッド、オン!」
かがみとひよりがハイパーゴッドオン、みゆきもゴッドオンし、それぞれトランステクターをロボットモードへとトランスフォームさせる。
「お姉ちゃん、エリオくん、みんな……
お願い。力を貸して」
言って、つかさは子竜へと視線を向け、
「あの子を……同じような目にあった子達を、守るために!」
「わかってます!」
「私も、怒ったんですから!」
「動物達を守りましょう、みんなで」
告げるつかさにエリオが、キャロが、みなみが答え、かがみ達も一様にうなずいてみせる。
そんな彼らの想いを背に、つかさは高らかに告げる。
「さぁ……いくよ!」
「ニトロスクリュー!」
「ブレイクアーム!」
『シャープエッジ!』
みなみが、ひよりが、そしてキャロとシャープエッジが――それぞれが名乗りを上げ、頭上に大きく跳躍し、
『ハイパー、ゴッド、リンク!』
咆哮と同時、それぞれのボディが合体に向けて変形を開始する。
まず、ひよりとみなみが同時にビークルモードへとトランスフォーム。ロボットモード時にボディを形成する先頭部分を車体上方に90度起こすと、前方を向いている底部を180度回転することで車体後方に向ける。
さらに車体後方が数ヶ所に渡ってスライド式に延長。内部に隠されていた関節部が露出し、それぞれ左半身、右半身への変形が完了する。
互いに変形を完了し――二人は向かい合うように合体、ひよりのブレイクアームを右半身、みなみのニトロスクリューを左半身としたひとつのボディとなる。
右肩となったブレイクライナーの先頭部分の下部からジョイント部分が露出すると、そこに飛び込んできたのがキャロのゴッドオンしたシャープエッジだ。ビーストモードへとトランスフォーム。喉元にあたる部分に合体用のジョイントを露出させる。
そして、ニトロライナーの先頭部分の変形した左肩部分が背中側に畳まれ、露出した左肩のジョイントにシャープエッジが合体し、左腕となる。
ブレイクアームのカーボンフィスト、その右腕部分が本体に合体、右腕を形成し、余った左腕部分はその右腕でしっかりとつかみ、棍棒として力強く振るってみせる。
最後にブレイクアームの変形した右肩が開くと中からロボットモード時の頭部が射出され、彼女達が合体して形成されたボディに改めて合体する。
すべてのシステムが問題なく起動し――ひとつとなったキャロ達は高らかに名乗りを上げる。
『連結、合体! エッジライナー!』
「ライトフット!」
「レインジャー!」
「ロードキング!」
『アイゼンアンカー!』
かがみが、つかさが、みゆき、そしてエリオとアイゼンアンカー。それぞれが名乗りを上げ、頭上に大きく跳躍し、
『ハイパー、ゴッド、リンク!』
咆哮と同時、彼女達はゴッドオンしたまま分離、変形を開始する。
かがみのゴッドオンしたライトフットは両足が分離、両腕を後方にたたんだライトフットの両側に合体し、より巨大な上半身へと変形する。
一方、つかさのレインジャー、みゆきのロードキングはそれぞれ上半身と下半身、さらにバックユニットの三つに分離、下半身は両足がビークルモード時のように合わさってより巨大な両足に。さらに二つの下半身が背中合わせに合体、トリプルライナーの下半身が完成する。
次いでアイゼンアンカーが分離。運転席側をジョイントとして合体していた2台のビークルは今度は車体後尾をジョイントとして合体。小型クレーンにトランスフォームしたアイゼンアンカー自身は背面側に合体し、起き上がった運転席部分を爪先とした、もう一基の下半身へと変形する。
そして、アイゼンアンカーの変形した下半身にライトフットの変形した上半身が合体、その後方、アイゼンアンカーの本体が合体したそのさらに後方にはトリプルライナーの下半身が合体。まるで神話に出てくるケンタウロスのような人馬状の下半身が完成する。
さらにそのボディの両横、右側にレインジャーの、左側にロードキングの上半身が合体、内部から二の腕がせり出し、両肩が形成。その中から現れた二の腕にレインジャーとロードキングのバックユニットが合体。拳がせり出し、両腕が完成する。
最後にライトフットの頭部により大型のヘルメットが被せられた。フェイスガードが閉じると、その瞳に輝きが生まれる。
すべてのシークエンスを完了。アイゼンアンカーのアンカーロッドを手にし、ひとつとなったエリオ達は高らかに名乗りを上げる。
『連結、合体! アイゼンライナー!』
「な、何だよ、アレ!」
「あんな合体、初めて見るぞ!」
「当然です!」
「なんたって、本邦初公開! できたたてホヤホヤの新合体なんだから!」
これが初の合体となるアイゼンライナーとエッジライナー、2体の合体戦士を前にあわてふためくノイズメイズ達にキャロとつかさが答え、彼女達はそれぞれにかまえを取る。
「く………………っ!
どうするよ、サウンドウェーブ!?」
「合体したということは、少なくともパワーは我々より上になったということだ」
予想外の事態に対し、尋ねるノイズメイズにサウンドウェーブはあっさりとそう答えた。
「それにヤツにの能力についての情報もない。ここで真っ向からぶつかるのは避けるべきだ」
「となると……」
「じゃな」
続けるサウンドウェーブの言葉にノイズメイズが、ランページがうなずき――
『さらばっ!』
「あぁっ! 逃げた!」
迷わずワープで姿を消した3人に、かがみが思わず声を上げる。
「アイツら……!
さっきまで余裕ぶっこいてたクセに、いざこっちが合体したとたんに逃げるワケ!?
プライドないの!? アイツら!」
「彼らにとって、今回は戦略的価値はほとんどないも同然ですからね……生活費のための行動だったようですし。
だからこそ、逆にここで戦うことにこだわる理由もなかったんですよ」
声を荒らげるかがみにみゆきが答えると、
「でも……戦いは終わったワケじゃないですよ!」
「またぜ、シャークトロンが残ってるもんね!」
「そうですね……」
そんなかがみ達に告げるのはエリオやつかさだ。キャロも同意し、立ちふさがる巨大シャークトロンを前に気合を入れ直す。
『グオォォォォォッ!』
そんな彼らに対し、咆哮と共にシャークトロン達が襲いかかり――
「そんなの!」
「ムダだよ!」
エリオとつかさが左の1体を迎撃。アンカーロッドで打ち据え、後ろ足を支えに上体を起こすと両前足で蹴り飛ばす!
そして――
「いきます!」
「シャープエッジ!」
「承知!」
エッジライナーが右のシャークトロンを圧倒。みなみの操作でシャークトロンのかみつきをかわし、キャロの指示を受けたシャープエッジが左腕のテールカッターでシャークトロンを斬りつけ、
「どっせぇいっ!」
ひよりが回し蹴りを叩き込んだ。跳ね飛ばされたシャークトロンはエリオ達に蹴り飛ばされたもう1体と激突。もみくちゃになってその場に倒れ込む。
「エリオくん!」
「はい!」
そして、つかさとエリオ――
「キャロちゃん!」
「はい!」
みなみとキャロ――それぞれに言葉を交わし、巨大シャークトロンの前に立ちはだかる!
『フォースチップ、イグニッション!』
ひより、みなみ、キャロ、そしてシャープエッジの叫びが交錯し――ミッドチルダのフォースチップが飛来した。そのまま、エッジライナーのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
それに伴い、エッジライナーの両足と右肩、そして左腕に合体したシャープエッジの装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
そう告げるのはエッジライナーのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
再び制御OSが告げる中、エッジライナーの左手のテールカッターにフォースチップのエネルギーが収束していく。キャロの属性である“水”の力を宿したその刃をかまえ、エッジライナーは一気にシャークトロンへと襲いかかり、
『ライナー、フリーズエッジ!』
繰り出したテールカッターでシャークトロンに一撃。そこに込められた“水”の力が凍気を巻き起こし、シャークトロンの身体を氷漬けにしてしまう。
完全に凍りついたシャークトロンに対し、エッジライナーは右手の棍棒を振り上げ、
『――成、敗!』
渾身の一撃で、振り下ろした棍棒でシャークトロンを粉々に粉砕する!
そして巻き起こる大爆発――周囲でくすぶっていた残留エネルギーが大爆発を起こし、シャークトロンの巨体を粉々に爆砕した。
『フォースチップ、イグニッション!』
エリオ、かがみ、つかさ、みゆき、そしてアイゼンアンカーの叫びが交錯し――ミッドチルダのフォースチップが飛来した。そのまま、アイゼンライナーのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
それに伴い、アイゼンライナーの両足と右肩、そして下半身に合体したアイゼンアンカーの装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
そう告げるのはアイゼンライナーのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
再び制御OSが告げる中、アイゼンライナーの手にしたアンカーロッドにフォースチップのエネルギーが収束していく。エリオの属性である“雷”の力でスパークを放ち始めたそれをかまえ、アイゼンライナーは一気にシャークトロンへと襲いかかり、
『ライナー、サンダークラッシュ!』
渾身の一撃で、アンカーロッドを、そしてそこに込められた“力”のすべてを叩き込む!
そして――
『撃破――確認!』
エリオ達が静かに告げると同時、巻き起こる大爆発――周囲でくすぶっていた残留エネルギーが大爆発を起こし、シャークトロンの巨体を粉々に爆砕した。
「まったく、あの役立たずどもが……!」
一方、ノイズメイズ達はとりあえず“雇い主を逃がす”という目的は達成していた――荷物を積み込み、密林を駆けるトラックの中で、研究者は苛立ちもあらわにそうこぼしていた。
「まぁ、いいじゃないっスか。
必要なデータも機材も持って逃げられたんでしょう? すぐに再開できるでしょうに」
「そういう問題ではない」
密猟の実行部隊のリーダーがそう告げるが、研究者は不機嫌なままそう答える。
「こうして無事に逃げられたはいいが、研究が大きく遅れることに違いはない。
まったくもって忌々しい……」
そう告げる彼の言葉に、リーダーは肩をすくめ――
「確かに、忌々しいな」
その言葉と同時――トラックのボンネットに巨大な剣が突き刺さる!
「な、何だ!?」
いきなりの一撃に、トラックは動きを封じられて急停止――研究者が驚き、声を上げると、
「あぁ、確かに忌々しい。
本当に忌々しいよ――アンタらが」
その言葉と共に、一撃の主がトラックのボンネットの上に舞い降りた。
「ったく、暗躍するならミッドでやってくれよ――日帰りでここまで遠征しなきゃならんこっちの身にもなってくれ。
大食いの食いぶちが増えたせいでメシの支度に時間がかかるようになっちまったからな。あんまり遠出したくないんだよ、こっちは」
言いながら、無造作に大剣を抜き放ち、告げる。
「ヘクトル・マディガン。
生物改造とそのためのサンプル収集と称した密猟幇助で広域指名手配中の次元犯罪者……」
「き、貴様……! 管理局か!?」
「管理局? 違うね」
驚く研究者――ヘクトルの問いに、彼はあっさりと答えた。
「なんてことはない。
オレは――」
そして――
「通りすがりの、生物兵器開発者キラーさ」
恐ろしく語呂の悪い名乗りと共に、ジュンイチは漆黒のオメガを振り下ろした。
「あの後、主犯と思われるヘクトル・マディガンは雇っていた密猟者チーム共々、アジトから離れたところで半死半生になっていたところを全員逮捕、と……」
「ノイズメイズ達が口封じに襲ったのではないか……というのが、私達の見解です」
「それはないやろ。
それやったら、コイツら全員皆殺しになっとるはずや」
後日、ホスピタルタートル、八神はやての病室――報告を兼ねたあいさつに訪れたタントとミラの言葉に、はやてはため息まじりにそう答えた。
「いずれにしても、助かりました。
ありがとうございます、八神部隊長」
「えぇよ、気にせんでも。
偶然そっちの仕事とこっちの仕事が重なった、それだけですから」
改めて一礼するタントにはやてがそう答えると、
「でも……安心しました」
そんなことを言い出したのはミラである。
「キャロ、こっちで元気にやってるみたいで……」
「あぁ、そういうことですか。
大丈夫ですよ、キャロは」
元同僚ということもあり、ずっとキャロのことを心配していたのだろう――安堵の息をつくミラに、はやては笑いながらそう答える。
「六課で……キャロはがんばってますよ。
優しいお母さんや、頼れるパートナーや……気持ちのいい友達に囲まれて、ね……」
「じゃあ、この子……」
「うん。
タントさん達がはやてさんと話して、六課で面倒を見てもいいよ、って許可をもらってくれたの」
ノイエ・アースラの艦内森林公園――尋ねるかがみに答え、つかさは今回の遠征で出会った子竜へと視線を向けた。
その子竜は現在、今回留守番となったスバルやティアナ、こなたの間でかわいがられている真っ最中だ。
結局、つかさ達がはぐれた先で見つけた死体が子竜の両親であることは、事件後に改めて確認された――事実上の天涯孤独になったことが、図らずも認定されてしまったのだ。
本来ならばそういった動物はタントらによって引き取られ、野性の中でも暮らしていけるレベルになるまで面倒を見るのが通例なのだが、今回の子竜の場合、つかさになついていたこともあり、六課で面倒を見ることはできないか、という話になったのだ。
むろん、優しいはやてがそういう話を蹴るはずもない。フリードやウミ、カイなどのために作られたこの艦内森林公園の存在もあり、とんとん拍子で子竜を引き取ることが決まったのである。
そんな経緯をつかさが思い返していると、子竜を抱きかかえたスバルが駆けてきてつかさに尋ねる。
「ねぇねぇ、つかさ!
この子の名前、もう決めたの?」
「うん!」
スバルの問いに、つかさは笑顔でそう答えた。それを聞きつけ、他の面々も集まってくる中、「待ってました」とばかりに胸を張り、
「この子の名前はね――“ヴェルファイア”! で、愛称は“ヴェル”!
フリードって、本当の名前は“フリードリヒ”っていうでしょ? それと同じ感じで、カッコイイ本名とかわいい愛称を一緒に考えてみたんだよ!」
「ヴェルファイア……」
「ヴェル……
……うん、いい感じです!」
「でしょ?」
つかさが発表した子竜の新たな名前――それぞれに繰り返し、その響きを確かめたエリオやキャロの言葉に、つかさは笑顔でうなずいた。
スバルの腕の中で気持ちよさそうにしている子竜を抱き上げ、
「改めて……よろしくね、ヴェル!」
「みぃーっ♪」
つかさのその言葉に、子竜改めヴェルはうれしそうな鳴き声を返してくる――その光景をスバル達と共に微笑ましく見守るエリオだったが、
(そういえば……)
そんな彼の胸中で再び頭をもたげる疑問があった。
すでにはやて達にも報告し、「調査の結果待ち」というお達しが出ているが――それでも気にせずにはいられない。
(どうして……つかささんは、フリードの言葉が理解できたんだろう……)
そんなエリオの疑問に答えが出るのは、まだまだ先の話になりそうだった。
つかさ | 「ヴェルーっ、ご飯だよー♪」 |
ヴェル | 「みぃーっ♪」 |
つかさ | 「ヴェルーっ、お風呂入ろう♪」 |
ヴェル | 「みぃーっ♪」 |
フリード | 「きゅくるー♪」 |
つかさ | 「ヴェルーっ、毛づくろいしてあげるね♪」 |
ヴェル | 「みぃーっ♪」 |
フリード | 「きゅくるー♪」 |
ウミ | 「ぴぃっ♪」 |
つかさ | 「ヴェルーっ、一緒に寝よう♪」 |
ヴェル | 「みぃーっ♪」 |
フリード | 「きゅくるー♪」 |
ウミ | 「ぴぃっ♪」 |
カイ | 「ぴぴぃっ♪」 |
かがみ | 「なんか次々に増えてるっ!?」 |
つかさ | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第82話『3+2=絶対無敵! 〜大連結合体ジェネラルライナー〜』に――」 |
かがみ&つかさ | 『ハイパー、ゴッド、オン!』 |
(初版:2009/10/17)