「みーっ! みーっ!」
「はいはい、ヴェル、ご飯だよー♪」
「きゅくるーっ♪」
「うん、フリードもね」
ノイエ・アースラの艦内森林公園――エサをねだるそれぞれの“家族”に、キャロとつかさはバケツに入れて持ち込んできた肉を差し出し、
「ぴぴーっ!」
「ぴーっ!」
「待つでござるよ、二人とも」
シャープエッジもまた、ウミとカイにエサをやっている。
そんな彼女達を、ティアナ達フォワード陣やかがみ達ライナーズも微笑ましく見守っていて――
「まったく、こんなのんびりしてる場合じゃないだろうに……」
「焦ったって仕方ないだろ。
ノイエ・アースラの艦長登録、まだ済んでないんだからさ」
さらに後方から一同を見つめ、肩をすくめるのは晶だ――対し、彼女に答えるのはヒューマンフォームで近くの木の上、枝の上で昼寝を決め込んでいたブリッツクラッカーである。
「聖王医療院まで運んでくるためにスカイクェイクがしてた仮マスター登録もとっくに期限切れ――艦長になるはやてが改めて艦長としてシステムに登録しなきゃ、この艦、1ミリだって動かせねぇんだ。
今ははやての退院を待つしかないよ」
「いや、わかってるんだけどさ……
ただ、“ワンマンオペレート艦”として設計されてるのが完全に裏目に出てるよなー、と」
「それは言うな。きっとみんな思ってるから」
その優れた制御システムにより最低限のクルーで――最悪艦長ひとりだけでも運用可能な艦船。それがワンマンオペレート艦である。
この方式ならば航行管制担当のクルーを最低限に留め、少しでも多くの戦闘要員やその補助クルーを乗艦させることができる。戦闘艦の多い管理局の艦船としては非常にありがたいシステムではあるのだが、セキュリティの観点から、管理局の登録下にあるこの手の艦船は最高権限保持者である艦長が乗艦しない限り、航行はおろか最低限の機能維持システムしか使用できない作りになっている。
その“艦長”、ノイエ・アースラで言えば運用する六課の課長であるはやてになるのだが――そのはやては未だホスピタルタートルに入院中。
結果、ノイエ・アースラはこちらに届けられて以降、まったく動きが取れない状態が続いていた。
「他の誰かを一時的に……とかいうワケにもいかないからな……」
「セキュリティ上、マスター登録系のシステムは厳重だからなぁ……
仮マスターの登録だって楽じゃないし……」
結局、今は“待ち”しかないか――晶の言葉にブリッツクラッカーが同意すると、
「スバル、見つかった!?」
「ううん!
そっちは!?」
「あん………………?」
不意に、茂みの向こうから切羽詰った声が聞こえてきた――ブリッツクラッカーがそちらに視線を向けると、スバルとこなたが何やら息を切らせて顔をつき合わせている。
「おーい、どしたー?」
「あ、ブリッツクラッカーさん!」
声をかけるブリッツクラッカーに、スバルはようやく彼に気づいた。こなたと二人で彼の座る木の下まで駆けてきて、
「ブリッツクラッカーさん――マスターコンボイさん見ませんでしたか!?」
「あちこち探してるんだけど、見つからないんだよ!」
「うん。それは間違いなくお前らから逃げ回ってるからだと思うな、オレは」
間髪入れずにブリッツクラッカーがツッコミを入れ、晶は思わずため息をつき、
「だいたいさー、そんなに逃げられたくないんなら、首輪でもつけてつないどく、ぐらいはしろって。
いつも勝手にフラフラしてるんだ。別にかまいやしないだろう?」
「いや、オレがかまう。
元部下としてすんげぇかまう」
何やらモノスゴイことを言い出した晶にブリッツクラッカーがツッコみ――
「マスターコンボイに首輪……首輪……
………………
…………ヤだ、けっこういいかも」
「ティア!?」
「こっちで危険なスイッチ入った!?」
晶のジョークは、むしろ“彼女”にとってツボだった――何を想像したのか、顔を赤くし、鼻を押さえるティアナの姿にスバルやこなたが声を上げる。
と――
「なんや、にぎやかやなー♪」
『え………………?』
突然割り込んできたその声に、スバル達だけでなくその場の全員の動きが止まる――まったく同時に、一同は声のした方へと顔を向け、
「ブリッジに顔出したら、こっちやって聞いてな。
みんな、元気そうで何よりや」
そこには、久しぶりに陸士部隊の制服に袖を通したはやての姿があった。
「八神部隊長!?」
「あれ、もう退院?」
「には、ちょっと早いんやけどな。
ちょっと用事があってな――鈴香さんに許可もらって外出や」
驚き、声を上げるスバルやこなたに答え、はやては笑顔で肩をすくめてみせる。
「用事……ですか?」
「いよいよノイエ・アースラの艦長として正式登録ですか?」
「あぁ、違うよ。
『ヘタに登録なんて許したら、ケガを押して出航しかねないからダメ』って、鈴香さんからキツ〜くドクターストップかけられてるから」
はやての登場に気づき、寄ってきたエリオやキャロの問いにもそう答え、はやては息をつき、
「用があるんはノイエ・アースラやない――ノイエ・アースラに来たんは、ついてきてほしい人達を迎えに来たんよ」
言って、はやてが向けた視線の先には――
「え? 私?」
こなたがいた。
「何ナニ? どしたの?
私に何か用?」
「こなただけやあらへん。
かがみ達ライナーズも……要はカイザーズみんなについて来てほしくてな。
もう、スカイクェイクとアルテミスが現地で舞台を整えに動いてくれてる」
「私達全員に……?」
「スカイクェイクやアルテミスも……?」
「現地……?」
こなたに答えたその言葉にひよりやかがみ、みゆきが首をかしげると、はやては息をつき、説明する。
「あんな、みんな。
わかっとると思うけど……みんなはこれから先、私達と行動を共にすることになる」
「はい」
「だから、みんなは私の指揮下に入ることになる」
「そうですね」
「つまり……私は今後、スバル達だけやのぅてカイザーズのみんなの命も預かるワケや」
「うん」
はやての言葉につかさ、みゆき、こなたの順にうなずく――そんな彼女達に、はやては改めて告げた。
「そんなワケで……私としては、みんなのご家族にあいさつをしとかなあかん」
「ぅえぇっ!?」
「当たり前やろ?
本来いないはずの子達――しかも、ガジェットのプラントを破壊するために管理局の施設に攻撃をかけた子達を、私の権限でムリヤリ滞在を認めさせてるんよ。
そこまでやったんや、部隊長として、ケジメはしっかりつけんと」
驚くこなたに答えるはやてだが、こなた達は微妙な表情で顔を見合わせる。
こなた達はともかく、根がマジメなかがみやみゆき、みなみまでもが渋っているのは珍しい――が、そんな彼女達の反応に、はやては自分の“考え”が間違っていなかったことを確信した。
「やっぱりな。
みんな……」
「家族のみんなに、戦ってること、話してへんやろ」
その言葉に、こなた達は答えることができなかった。
第82話
3+2=絶対無敵!
〜大連結合体ジェネラルライナー〜
「目が覚めて、本当によかったです……」
「………………うん」
「心配してたんだよ、ルキノも、私も……みんなも」
心から安堵した様子でつぶやくルキノに対し、ベッドの上で身を起こしたグリフィスは静かにうなずく――そんな彼に告げ、シャリオは軽く肩をすくめてみせる。
「この短期間に、それだけのことが……」
「うん……
ホント、いろんなことがね……」
「まだ一月弱しか経ってない、っていうのが、不思議なくらいに……」
いろんなことがありすぎて、時間も相応に流れていったように感じていたが、まだそれほど日数が経ったワケではない――これまでの経緯を一通り説明されたグリフィスがつぶやき、シャリオやルキノが同意する。
「ヴァイス陸曹は?」
「ヴァイスさんも、少し前に。
今頃……」
「はい、どーぞ♪」
「あ、あぁ……」
切り分けられたリンゴを爪楊枝に差し、満面の笑みでこちらに差し出してくるのは掛け値なしの美女――本来なら誰もがうらやむシチュエーションだが、ヴァイス・グランセニックはそれを素直に喜ぶことはできなかった。
何しろ――目の前の美女が過去に“しでかした”ことをハッキリと覚えているから。
(ま、まさか……ただリンゴをむいただけで殺人料理になる、なんとコトぁねぇはずだが……)
かつて、彼女の作った料理で六課隊長陣が壊滅状態に追いやられた事件は記憶に新しい――さすがにただ皮をむいただけで目の前のリンゴがあの時の“凶器”と同一の存在になるとは思えなかったが、それでもヴァイスは自分の頬を伝う汗が冷や汗であることを確信していた。
懸命に動揺を落ち着けつつ、目の前の彼女に告げる。
「…………なぁ、アス……いや、あずさだったか」
「何?」
彼女の名が偽名であったことはすでに聞いた――改めて本名で声をかけるヴァイスに、あずさは満面の笑みを返してくる。
「それ…………リンゴ、だよな?」
「そうだよ?」
自分が意識を取り戻したのが本当にうれしいのだろう。首をかしげながらも、あずさは笑顔のままだ。
そして、そんな彼女の笑顔を曇らせるような選択を、ヴァイス・グランセニックという“漢”は持ち合わせてはいなかった。
(えぇい――ままよ!)
「はい、あ〜ん」と差し出されているリンゴにかぶりつくのはいささか気恥ずかしいものがあったが、逆にそれが「さっさと終わらせてしまえ」と背中を押す結果となった。内心で気合を入れ、ヴァイスは一気にリンゴにかぶりつく。
危うく爪楊枝ごと食べてしまいそうになったが、そこはあずさがとっさに引き抜いて対処してくれた。口内のリンゴをシャクシャクと咀嚼して――
「…………うん、うまい」
「ホント♪」
当然と言うべきか、リンゴはいたって普通の味だった――告げるヴァイスの言葉に、あずさの笑顔がさらに輝きを増す。
「昔から、お兄ちゃん達にも好評だったんだよ♪
『お前が皮をむいたリンゴやみかんは最高にうまい』って♪」
「あ、あぁ……」
(うまくごまかしたんだな、柾木の旦那達……)
おそらくはそうごまかして、工程が皮むきだけで済む果物類へとあずさの興味を誘導していたのだろう。ジュンイチ達もはだしで逃げ出すあずさの料理の“攻撃力”に戦慄すると共に、それをたくみに回避したジュンイチ達の手腕に、ヴァイスは内心で賛辞の声を上げ――
「うん♪
ヴァイスくんも喜んでくれたし、ここはもう一がんばり!
隠し味、何つけようかなー♪」
「それでハバネロシロップを取り出す時点で何かが致命的に間違ってることに気づけ!」
一体どこから取り出したのか――某激辛スナックのトレードマークであるハバネロの絵がプリントされた真紅のボトルを取り出したあずさに、ヴァイスは未だ痛む身体にかまわずツッコミを入れた。
《みなさん。
本日は急な、しかもこんな場所への呼び出しに応じてくださって、ありがとうございます》
「い、いえ……」
こなた達の通う、陵桜学園の校庭――
日も沈み、人気もなくなったその場に集まった一同を前にして、礼儀正しく一礼したアルテミスが告げる――対し、こなたの父親、泉そうじろうは戸惑いもあらわにうなずくしかなかった。
ここに呼び出されたのは彼だけではない。ゆたかの姉である成実ゆい、かがみやつかさの両親、柊ただおと柊みきと姉、いのりとまつり。みゆきの母、高良ゆかり、みなみの母、岩崎ほのか――カイザーズのメンバーの中で、今このタイミングで連絡のついた面々が可能な限り呼び集められている。
「えっと……あなたは確か……」
「かがみ達の研修旅行の引率を引き受けてくれた……」
《はい。
アルテミスと言います》
ゆかりの、みきの問いにアルテミスが答えると、
「そのあなたが、どうしてここに?」
そう尋ねるのはただおである。
「うちの娘達に、何かあったんですか?」
《あった……と言えば、ありました。
ただし……今回ではなく、もっと以前から……》
ただおに答えると、アルテミスは息をつき、
《しかし、それは私の口から言うべきことではありません。
どうか、当事者の口から、聞いてあげてください》
その言葉と同時――アルテミスの足元にベルカ式の、三角形を基調とした魔法陣が描き出された。
同時、周囲の空気が変わる――アルテミスの展開した結界によって、彼らのいる校庭が通じようの空間から隔離されたのだ。
「な、何……?」
「空の色が……?」
結界によって空間を切り取られたことで夜空も赤黒く変色した――戸惑い、ゆいやいのりが声を上げると、そんな彼女達の頭上を巨大な影が駆け抜けた。
影は空中で三つに分裂し――
「スカイクェイク、トランス、フォーム!」
ひとつに合体。ロボットモードとなったスカイクェイクが一同の前に降り立った。
アルテミスが一同をここ、陵桜学園の校庭に呼び集め、さらに結界まで展開したのは、トランスフォーマーであるスカイクェイクが同席するのを踏まえたからだったのだ。
「と、トランスフォーマー!?」
「ニュースで見たことがある……
地球トランスフォーマーのリーダー、スカイクェイク……そんな人が、どうしてこんなところに……!?」
スカイクェイクの威容に圧倒され、いのりやまつりがつぶやくと、
「『どうして』か……
それはもちろん、関係しているからだ。
泉こなた達の“今”が……いや、オレが、アイツらの“今”に……か」
二人の言葉を聞きつけていたスカイクェイクがそう答え――
「えっと……
ただいま……なのかな……?」
こなたを先頭に、カイザーズの面々がスカイクェイクの背後から姿を現した。
そして――
「私は、初めまして、ですね」
そんなこなた達の背後から進み出てきたのは――
「改めて、初めまして。
時空管理局・本局、遺失物管理部、機動六課部隊長――八神はやてです」
「じゃあ……こなた達って、家族の人達に自分達のこと教えてなかったの?」
「そうみたいね」
ホスピタルタートルの入院病棟――なのはの病室に集まり、聞き返すアリシアに、ライカはうなずき、そう答えた。
「じゃあ……かがみ達、家族の人達には何て言ってたんですか?
今まではともかく、今回はここへの入院とかでかなりの日数、家を空けてるワケで……『ちょっと泊りがけで遊びに』とかってごまかしは効かないと思うんですけど」
手を挙げ、そう尋ねるのはティアナで――
「アルテミスが架空の研修話をでっちあげてくれたんだよ」
そう答えたのは美遊だった。
「セイバートロン星への研修旅行が企画されてて、そのメンバーにこなた達が選ばれた……って、そんな感じで」
「でも……それ、セイバートロン星に問い合わせたらバレませんか?」
「それは大丈夫」
聞き返すキャロにも、美遊は動じることなくそう答えた。
「フィアッセさんが口裏あわせを引き受けてくれたから……」
「スタースクリーム、しわ寄せに泣いただろうなぁ……」
対外的にはスタースクリームのパートナーとしても知られているフィアッセだが、役職的な観点で言えば、彼女はイグニッションパートナーである、というだけの立場で、職務上の権限は一切有していない。
そんな彼女が口裏合わせを引き受けたということは、実務は確実にパートナーであるスタースクリームにいったはずだ。基本的にフィアッセに逆らえないスタースクリームに内心で同情しつつ、アリシアは思わず苦笑する。
「話を戻すね。
そんなワケで……はやてがこなた達を連れてごあいさつに向かったのよ。
家族に心配をかけたくないっていうこなた達の気持ちはわかるけど、これ以上引っ張るのはマイナスにしかならないからね」
「そうですね」
脱線しかけた話を戻したライカの言葉に、フェイトはどこか優しげな笑顔を浮かべ、うなずいた。
「家族への隠し事って……結構、辛いですから……
それが『心配をかけたくない』とか、相手を気遣ってのものなら、余計に……」
「そうね。
そーゆーの、隠し事に対する罪悪感とかもハンパないもんねー……」
フェイトの言葉に、ライカはそう同意しながら頭をかき、ため息をつく。
――それはそうと。
ライカには、今の話とは別に、先ほどから気になっていることがあった。そちらへと振り向き、尋ねる。
「ところでなのはとイリヤ。
アンタ、この話題になったとたんに笑顔が引きつってるんだけど、どうかした?」
「ふぇえっ!?
そ、そんなこと、ナイデスヨ!?」
「そ、ソウソウ」
「棒読み発音でそう言われてもねぇ……」
いきなり話を振られ、なのははベッドの上で飛び上がらんばかりに驚いてみせた。となりでビクリと肩をすくませたイリヤと二人で、あわてて手をパタパタと振りながら否定の声を上げるが、過剰な反応といいカタコト発音な返答といい、どう考えても怪しすぎる。
と――
「あ、ひょっとして」
「イリヤ、まさか……」
気づいたのはフェイトと美遊だ。きれいにそろった動作でポンッ、と手を叩き、なのは達に尋ねる。
「なのは……ひょっとして、魔導師になったばかりの頃の自分を思い出したりした?」
「イリヤも……だよね?」
「どういうこと?」
「実は……なのは、それから高町家に引き取られたばかりの頃の私もなんですけど……最初は、魔法のこととかサイバトロンに協力してたこととか、士郎父さんや桃子母さんには内緒にしてたんです。
今のこなた達と同じで、心配をかけたくなくて……」
「イリヤもです……というか、イリヤは現在進行形で。
魔術師って、技術流出の懸念とか歴史的な背景とか、いろいろあって基本的にその存在を明かすこと自体がタブーだから……」
「そうなの? 二人とも」
「は、はい……」
「そ、そゆコトです……」
聞き返すライカに包み隠さず説明してしまうフェイトや美遊の言葉に、なのはとイリヤも観念したようだ。バツが悪そうな顔で頭をかき、
「だから……今回は、私達が偉そうに何か言える立場じゃないかなー、って……」
「まぁ、こなた達と同じことしてたワケだしねぇ……」
なのはとイリヤが気まずそうに顔を見合わせてつぶやくと、今度はフェイトがライカに尋ねた。
「……ライカさん達は、そういうこと、なかったんですか?
108世界も、魔法文化ないですよね?」
「ん?
割と最初から話してたわよ?」
あっさりとライカはそう答えた。
「あたしだけじゃなくて、ジーナや鈴香さん、ファイも……当時の“ブレイカーズ”で話してなかったのは、覚醒時点で家族と暮らしてなかった啓二さんや橋本くんくらいかな?」
「心配とか、されなかったんですか?」
「されなかったとでも思ってるの?」
なのはの問いにもやはりライカはあっさりと返してきた。
「ちゃんと話して、納得させたわよ。
自分のことだもん。猛反発くらったけど、それでもきっちりケリをつけて、その上で戦った……」
そう告げると、ライカは息をつき、告げた。
「ある意味、今回は戦いに出る以上にこなた達にとっても正念場よ。
命がけの戦いに、自分達に何の相談もなく加わっていた――間違いなく、家族からの反発がくるわ。
あの子達はそれを抑えなきゃならない。押し切るんじゃない。完全に、ぐぅの音も出ないほどに納得させて、自分の居場所を勝ち取らなきゃいけない。
それができなきゃ……あの子達は、今日でこの戦いからドロップアウトよ」
『………………っ』
ライカの口にした“結論”に、一同は思わず息を呑む――と、不意になのはは気づいた。
「そういえば……ギンガ。
スバルはどうしたの? 一緒じゃなかった?」
「え………………?」
なのはの言葉に、ギンガはようやくそのことに気づいた。室内を見回してみるが、一緒にいたはずのスバルの姿はない。
「どこ行ったのかしら……?」
一体いつの間に姿を消していたのか。首をかしげてギンガがつぶやき――
「――って、まさか!?」
気づいた。
今彼女が飛び出していきそうな場所があるとすれば――
心当たりは、ひとつしかなかった。
「…………以上が、今娘さん達が巻き込まれている事件のあらましです」
「あなた達に心配をかけたくないという本人達の意志を尊重し、今までその事実をあなた達に伝えることを避けてきた。
その上でのこの体たらく――深く謝罪させていただく」
事件のいきさつの説明を終えたはやてのとなりで、少しでも目線の高さを合わせようと校庭に正座したスカイクェイクが頭を下げる――突然明かされた事実に、そうじろう達は驚きを隠せず、思わず顔を見合わせる。
「トランスフォーマーはともかく、魔法、って……」
「それに……うちの娘達がトランスフォーマーになれる、って言われても……」
そんな彼らの間によぎるのは、隠しきれない疑いの感情――もっとも、魔法のこともゴッドマスターのことも、管理外世界であるこの地球においてはトップシークレットなのだ。渦中の人物の家族とはいえ、一市民にすぎないそうじろう達が知らないのも、知らないがゆえに疑いを持ってしまうのは当然のこと。
アルテミスの結界を前にしてもなお、ただおやほのかが首をひねるのもムリはない。息をつき、はやてはこなたへと視線を向け、
「…………やっぱり、実際にお見せした方がえぇですね。
こなた、お願いできるかな?」
「はーい」
今まで自分達のことを秘密にしていた父、そうじろうに対し後ろめたいものはあったが、話してしまった以上信じてもらわなければ、納得してもらわなければ道は開けない。はやての言葉にうなずき、こなたは左腰に留められたカードケースと、そこに納められた1枚の、銀色のカードへと視線を落とした。
そのカードケース、銀色のカードこそが、自分の相棒がその身を休ませる際の仮初の姿――
「マグナムキャリバー。
アイギス」
〈All right!〉
〈System-start.
Start up!〉
告げるこなたの言葉に相棒達が応じ――こなたの身体が真紅の輝きに包まれた。炎を思わせる魔力の輝きにその身をゆだねたこなたの服装が、空色のシャツとスパッツに変化。その上から腰に、両肩に、胸に、順にプロテクターが形成され、装着されていく。
さらに、頭上にかざした右手に魔力が収束。出現したシールドがベルトを伸ばしてこなたの右手に自らを固定。その先端に一振りの刃を作り出し、アームドデバイス“アイギス”がその姿を現す。
続けて、こなたの両足にも魔力が収束。周囲に形成された装甲がつなぎ合わされて金属製のブーツとなってこなたの両足に装着され、さらにその底部にローラーブレードが追加形成。先端のタイヤが
鋭いスパイクを兼ねたカウルで覆われ、こなたのもうひとつのアームドデバイス“マグナムキャリバー”が完成する。
背中に装着された飛行ユニットが真紅の魔力流を噴出、こなたはそうじろう達の前にフワリと舞い降りてみせた。
「んじゃ、もひとついくよ!
カイザージェット!」
しかし、それもまだ自分の隠していた姿の一部を見せたにすぎない。間髪入れずにこなたが叫び――一同の頭上にカイザージェットが飛来した。
「トランスフォーム!」
こなたの咆哮が響き、それに伴い、大空を飛翔するカイザージェットが変形を開始する。
まず、後方の推進システムが後ろへスライド、左右に分かれ、尾翼類が折りたたまれると爪先が起き上がって人型の両足となり、さらにその根元、腹部全体が180度回転し、機体下部を正面にするように反転する。
続けて、機体両横、翼の下の冷却システムが変形。後方の排気口がボディから切り離されると内部から拳がせり出し両腕に。両肩となる吸気部は、両サイドのカバーが吸気口を覆うように起き上がり、カバー全体が肩アーマーとなる。
最後に機首が機体上部、背中側に倒れるとその内部からロボットモードの頭部が現れ、カメラアイに光が宿る。
「ゴッド、オン!」
そして、こなたが再び咆哮。同時にこなたの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてこなたの姿を形作り、そのままカイザージェットの変形したボディと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
背中の翼が上方へと起き上がり、ゴッドオンを終えたこなたは高らかに名乗りを上げる。
「熱き勇気と絆の力!
翼に宿して悪を討つ!
カイザーコンボイ――Stand by Ready!」
「すごい……」
「本当に、トランスフォーマーになっちゃった……」
こなたの姿が一瞬にして変化したのも驚いたが、さらにトランスフォーマーに――今しがた聞かされた話が事実であることを証明してみせたこなたの姿に、みきやゆかりが呆然とつぶやく。
「信じてもらえましたか?」
「信じるも何も……」
「実際にこんなの見せられたら……」
今の今まで信じていなかったが、実際に実物を目の前で見せられてはうなずかざるを得ない――尋ねるはやてにいのりやまつりがつぶやき――
「…………そうじろうさん?」
ふと、そうじろうが先ほどからずっと沈黙していることに気づいたかがみが声を上げた。
さすがはこなたの父親と言うべきか、そうじろうはこなたに負けず劣らずの筋金入りのヲタクである。そんな彼が、娘がトランスフォーマーとなって、何の反応も示さないというのは少し考えづらい。
見れば、ゆいもまた何かに気づいたように目を見開き、動きを止めている――何事かと一同が注目する中、そうじろうは静かに口を開いた。
「八神はやてさん……でしたか」
「はい」
「今の話が全部本当だとしたら……」
「ゆーちゃんが行方不明、っていうのも……!?」
『――――――っ!』
こなたの変身→カイザーコンボイへのゴッドオンと立て続けに訪れた衝撃によって忘れられかけていた事実――そうじろうの言葉に、一同の間に衝撃が走り、
「はい……」
その問いに、はやては沈痛な面持ちでうなずいてみせた。
「私達が追っている次元犯罪者ジェイル・スカリエッティ……彼が狙っていた女の子を守ろうとして、一緒に転移魔法で……
しかも、その際に起きたトラブルのせいで転送魔法も正しく発動しなかったようで、敵もゆたかちゃん達を確保できていないみたいなんです。
私達も行方を追っていますが、今のところ手がかりは……」
「少なくとも、六課の隊員であるトランスフォーマーがひとり、共に転移に巻き込まれている。おそらくは共にいるはずだが……ヤツとの連絡も取れていない。
敵に捕まるという最悪の事態は避けられたが……深刻なことに変わりはない」
「そんな……!」
はやてと、後に続けるスカイクェイクのその言葉に、ゆいは思わずその場にへたり込む。
「どうして知らせなかった、と言われれば、確かにそう責められるべき非が我々にはある。
だが、こうなってしまった以上、事態を解決するために動くのが第一だ。
小早川ゆたかをヴィヴィオと共に保護し、事件を解決させる――そのためには、泉こなた達の協力は必要不可欠だ」
そう告げると、スカイクェイクは正座したまま、目の前の地面に両拳をつき、
「この恐怖大帝、伏して願う。
泉こなた達を、引き続き戦列に加えさせてほしい」
「……勝手な、ことを……!」
告げるスカイクェイクだったが――そんな彼に対し、苦々しく口元を歪めながら口を開いたのはそうじろうだった。
「あなたは一体、何の権限があってウチの娘達を……!」
「父さん、スカイクェイクは悪くないよ。
私もみんなも、自分達の意思で……」
「お前達は黙ってなさい!」
反論しかけたこなただが、そんな彼女の言葉もそうじろうはピシャリとさえぎってしまう――今まで見たこともない父親の剣幕に、さすがのこなたも気圧され、黙り込んでしまう。
そこにいたのは、自分の“ヲタク仲間”でもある、のほほんとしたいつもの彼ではなかった――娘を、家族を心配し、心配しているからこそスカイクェイクに怒りを抱く、父親としての彼がそこにいた。
「ウチの娘達はみんな優しい子ばかりだ……それは、他のお宅の子達もそうだろう。
力があるからって、あなた達はこの子達のその優しさにつけ込んで、戦いに加わるように誘導したんじゃないのか!?」
詰め寄るそうじろうの言葉に、スカイクェイクは静かに息をつき、答えた。
「……泉こなた達は戦場となった街で覚醒し、ノイズメイズ達にゴッドマスターであることを知られた。
岩崎みなみと田村ひよりは、最初からゴッドマスター候補であると知られた上で襲われ、小早川ゆたかはその場に居合わせたことで敵に顔を知られてしまったた。
全員が全員、事件に関わる形で巻き込まれた――戦う、戦わないは選べたかもしれないが、事件に関わらない、という選択肢は最初から存在しなかった」
「そら見ろ……やっぱり、自分達から誘導したんじゃないか!
そのせいで、ゆーちゃんがさらわれたんじゃないか!」
「そうだ!
そんな人達にうちのかがみ達を預けられるものか! 帰ってくれ!」
そうじろうの言葉にただおも加わり、二人の“父親”はスカイクェイクを真っ向からにらみつける。
そんな彼らの後ろで、ゆいやみき達もまた、スカイクェイクやはやてに厳しい視線を向けている。
「父さん!
私達を戦わせて! ゆーちゃんを助けなきゃ!
父さんだって、ゆーちゃんが心配なんでしょ!? ゆい姉さんだって!」
「心配だよ。
でも……同じように、こなた達のことだって心配なんだ」
「戦いなんて危険なことに、お前達が関わることはないんだ。
ゆたかちゃん達のことは、戦える人達に任せておけばいいんだ」
「そうよ。
みなみ――あなた達が戦わなくても、戦ってくれる人はいるんだから」
「でも…………!」
懸命に訴えるこなただが、そうじろうも譲らない。一方でただおもかがみ達に告げ、ほのかの言葉にみなみは悔しげに唇をかむ。
「お姉ちゃん……」
「………………っ」
このままでは、自分達が戦いから引き離されるような事態も十分に考えられる――もっとも危惧していた方向に話が流れているのを感じ、かがみは不安げに尋ねるつかさに、励ましの言葉もかけられない。
と――――
「…………フンッ」
不意に、目の前のやり取りを鼻で笑った者がいた。
「気になって様子を見に来てみれば……予想通りといったところか」
「マスター、コンボイさん……!?」
そう告げ、姿を現したのはスバルを連れた、ヒューマンフォームのマスターコンボイ――意外な相手の登場に、はやては意図せずして呆然とその名をつぶやいた。
「八神はやて――貴様にしては手際が悪いな。
狸は狸でも、所詮は半人前のプチ狸か」
そんなはやてにマスターコンボイはあっさりとそう告げて――そんな彼に尋ねたのはこなただった。
「でも……マスターコンボイ、どうやってここに……?」
「あたしが、ゲート使用の手続きをしたの。
で、海鳴の……アリサさんのところのゲートに出て――」
「そこからはオレが連れてきたんだよ。
マスターコンボイ様のビークルモードはトレーラーだからな――海鳴のゲートからここまで来ようとしたら、時間がかかってしょうがねぇ」
答えるスバルに付け加え、上空から降下してくるのはロボットモードのブリッツクラッカーだ。
もちろん、ブリッツクラッカーのパートナーである晶も一緒だ。ブリッツクラッカーのライドスペースから降り、スバル達と合流する。
「で、でも、何でここに……!?」
「今の現状を考えれば、カイザーズに抜けられるのは大きな痛手だ。
そしてそのしわ寄せが来るのはオレ達フォワード――貴様らだけに任せておけるか」
そもそも何をしにここに現れたのか――尋ねるはやてに答えると、マスターコンボイは自分達のいきなりの登場で戸惑っているそうじろう達へと向き直った。
「き、キミは……!?」
「機動六課スターズ分隊、マスターコンボイだ。
こんななりだが一応はトランスフォーマーだ」
呆然とつぶやくそうじろうに答えると、マスターコンボイは深々とため息をつき、
「そんなことより、貴様らの言い分――何だ、アレは?
『自分の娘達を戦いの場になど送り出したくはない』か――
親ではないオレには理解できない感情だが……それでも、貴様らにとっては何よりも重要な真理なのだろうな。
だが……だからこそ“ありがちな言い分”だ。実にくだらん」
「何だって……!」
「ちょっ、マスターコンボイさん……!」
辛らつな物言いのその言葉に、ただおが思わず声を上げ、マスターコンボイをにらみつける――あわててはやてが制するが、マスターコンボイはただおの視線を真っ向から受け止めつつ、
「ならばオレも“ありがちな言い分”を返してやる。
貴様らは自分達の娘を危険から遠ざけたい。傷ついてほしくない。
ならば……」
「危険にさらされ、傷つくのが自分の娘でなければいいのか?」
「そ、それは……!」
「貴様らの言っていることはそういうことだ。
貴様らの娘達を戦いから引き離せば、その分他の者にしわよせがいく。他の者が危険にさらされる。
貴様らは、自分達の娘達かわいさに、それでもかまわないと声高に主張“した”んだ」
マスターコンボイの指摘に、ただおが思わず言いよどむ――間髪入れず、マスターコンボイは容赦なく追い討ちを叩き込む。
「他者への想いも度を過ぎればただのエゴでしかない。
それで一度道を誤ったオレにはよくわかる――そして、よくわかるからこそ、今の貴様らは過去の自分の恥部を見ているようでガマンがならん」
「ちょっ、マスターコンボイ……!?」
“想いの過ぎたエゴで道を誤った”――彼の過去でその言葉が合致する事件はひとつしかない。イヤな予感と共にはやてが声を上げるが、マスターコンボイはそんな彼女にかまわず言い放った。
「まぁ、貴様らごときがどう暴走したところで、被害などたかが知れているだろうがな。
10年前――グランドブラックホールを暴走させたオレに比べれば、貴様らのやりかねないことなどかわいいものだ」
『――――――っ!』
言ってしまった――放たれた言葉に、そうじろう達は一様に驚愕し、戦慄する。
「ぐ、グランドブラックホール、って、アレだよね……?
10年前に、世界中をメチャクチャにしたっていう……」
「それを暴走させた、って、それって、つまり……」
「そうだ」
つぶやくいのりやまつりに、マスターコンボイは答えた。
「オレの本当の名はマスターメガトロン。
10年前の――“GBH戦役”における、グランドブラックホール暴走の最終的な実行犯だ」
その言葉に、今度こそその場の空気が凍りつく――静かに息をつき、マスターコンボイはそんな彼らに告げる。
「そんなオレがここにいることに貴様らは納得がいかないだろうな。
だが……それでも、オレには戦い続ける理由がある」
「理由……!?」
自分の素性を知り、警戒もあらわにただおが聞き返してくる――予想通りの反応にフンッ、と鼻を鳴らし、マスターコンボイは答えた。
「守りたい者がいる。
そいつは、あの時――グランドブラックホールを暴走させ、全宇宙を滅亡の危機に追いやったオレを、全身全霊を懸けて止めてくれた。
差し伸べた手をオレが振り払っても、それでも受け入れてくれた。
だからオレは、そいつを守る――その方法を模索して、オレは六課に加わった。
オレの過去を否定はしない。責めたいと言うなら責めるがいい。裁きたいと言うなら裁けばいい。
だが――オレの『そいつを守る』という意志もまた、否定はさせない」
そう告げると、マスターコンボイはこなた達へと視線を向け、
「形は違っても、泉こなた達の戦いも、そんなオレと同じところに根ざしている。
コイツらも、守りたいものを守りたいから、力を得てからずっと戦い続けてきたんだ。
心配し、反対するであろう貴様らに何も言えず、その罪悪感を背負いながら、ずっと戦ってきたんだ。
そんなコイツらの想いを、コイツらの成し遂げてきた成果を否定する権利が、『家族だから』などという理由で認められるとでも思うな」
世界を滅ぼしかけた大悪党が何を――そう反論することは簡単だっただろう。
だが、淡々と述べられるマスターコンボイの言葉には、自らの体験からくる強烈な説得力があった。誰もが気圧され、何も言えず――
《――――――っ!?
みなさん、危ない!》
気づくと同時に身体が動く――とっさに飛び出し、展開したアルテミスの防御魔法“パンツァーシルト”が、飛来したビームを受け止める!
「な、何だ!?」
防壁の向こうで巻き起こる爆発に、そうじろうが思わず声を上げ――
「――――アレは!?」
爆発の向こうに四つの影を発見し、こなたが声を上げた。
「見つけたぜ、カイザーズ!」
「部隊を離れたのを見て追尾してみれば……こんなところで何をしている……?」
攻撃の主はディセプティコン――上空からこなた達を見下ろし、告げるブラックアウトのとなりでショックフリートが眉をひそめる。
「マスターコンボイもいるな……
カイザーマスターコンボイに合体されては厄介だから各個撃破を狙ったのだが……分断したかったメンツがそろっていては意味がないな」
「気にすることぁねぇだろ。
いずれにせよ、戦力が十分でないところに仕掛けることはできたんだ――連中が合体する前に叩けば同じだろうが」
そして、ビルの屋上に着地したジェノスクリームにはジェノスラッシャーが答える――集結したディセプティコン四参謀が各々戦闘態勢に入る中、ジェノスクリームが音頭を取る。
「ハイパーゴッドオンの力は厄介だ。
これ以上力をつけないうちに、ヤツらをここで叩きつぶすぞ!」
『おぅっ!』
「ディセプティコン!?」
「こんな時に!」
いきなり姿を現し、攻撃をしかけてきたディセプティコン四参謀――突然の奇襲に、みゆきやひよりは思わず声を上げた。
「アイツらは……!?」
「あれが……私達の戦っている敵の一派――ディセプティコンです」
一方、そうじろう以下こなた達の家族一同は突然のことに事態についていけていない。呆然とつぶやくただおに、はやては静かにそう答える。
「こなちゃん……!」
「うん……!」
敵が来たのだ。迎撃に出なければ――しかし、傍らのそうじろう達の存在が二の足を踏ませていた。つぶやくつかさに、こなたはカイザーコンボイにゴッドオンしたまま歯噛みして――
「行ってこい」
そんな彼女達に、マスターコンボイは静かに告げた。
「ここは貴様らが勝利を勝ち取るべき場面だろう?」
「…………うん、そうだね!」
そのマスターコンボイの言葉に、こなたの腹は決まった。うなずき、ジェノスクリーム達に向けて勢いよく地を蹴る。
「あぁっ!
待ちなさいよ、こなた!」
そんなこなたの姿に、かがみも後を追おうと地を蹴り――
「かがみ!」
「――――――っ!」
呼び止めたただおの声に、かがみは足を止めた。
「……どうしても、行くのか?」
「………………ごめん。
もう、決めたことだから……!」
尋ねるただおに答え、かがみは自分とただおを交互に見つめているつかさをうながして走り出す――つかさもその後を追って駆け出し、ひよりやみなみも後に続き――
「ねぇ、みゆき」
「はい…………」
最後に駆け出そうとしたみゆきを、ゆかりが呼び止めた。
「この戦いに関わっていくことは……あなたが自分で選んだの?」
「はい」
それは、親達から娘達に向け、初めて投げかけられた“戦う意志”の確認――ゆかりの問いに対し、みゆきは間髪入れず、ハッキリとうなずいてみせた。
「最初は、巻き込まれたことからのなし崩しだったのかもしれないけど……それでも、今まで戦い続けてきたのは、私達自身で決めたことです」
「後悔は……してない?」
「することも……ないワケじゃありません。
でも……」
続く問いには少しためらいを含んだ様子で答え――みゆきはそれでもさらに続けた。
「でも……投げ出したくないんです。
ゆたかさんの家族である泉さんや、ずっと友達だったみなみさんだけじゃない――私達も、ゆたかさんを、ヴィヴィオさんを助けたいんです。
たとえ、二人がさらわれてしまったのがすべての力を尽くした上での敗北、その先にあった結果でも……それでも、私達はまだ戦えます。戦う力が残ってます。
まだできることがあるのに……誰かに任せて、安全なところで見ているなんてできません」
「そう……」
娘からのハッキリとした答えに、ゆかりは静かに目を閉じた。
そのまましばらくの沈黙の後――口を開く。
「じゃあ……行ってらっしゃい」
「高良さん!?」
「お母さん……?」
考え込んだ末にゆかりが口にしたのは、愛娘を戦いの場に送り出す言葉――驚くそうじろうと同様に、みゆきも戸惑いを隠せずにいたが、
「…………はい!」
その言葉の意味に気づき、笑顔でうなずいた。きびすを返し、こなた達の後を追う。
「高良さん、どうして……!」
「だって……ウチのみゆきはしっかりしてますから」
どうして娘を戦いに行かせたりするのか――詰め寄るただおに対し、ゆかりは笑顔でそう答えた。
「あの子が、そんなに簡単に誰かにだまされたり、しないと思うんです。
だから、あの子が『自分の考えで戦うことを選んだ』っていうなら、そうなのかな、って……」
「だからって……止めなくていいんですか!?」
告げるゆかりの言葉に、ただおはなおも反対の声を上げ――
「フンッ、そっちの女は、貴様よりも状況が見えているようだな」
そんな彼らのやり取りに、マスターコンボイは不敵な笑みと共にそう告げた。
「そういうアンタは、どうして行かないんだ?」
「そ、そうですよ、マスターコンボイさん!
こなた達を助けに行かなきゃ!」
「動かない理由ならある」
こなた達と違い、“戦える立場”にいるクセに――非難の視線を向けるただおの言葉にあわてて声を上げるスバルだったが、マスターコンボイはあっさりと答えた。
「別働隊がいた場合、貴様らを人質に取ろうとする可能性は十分にある――誰かが残る必要は確実にあった。それがまずひとつ。
そしてもうひとつ――」
「アイツらの“守りたいもの”をオレが勝手に守っては、アイツらの立つ瀬がないだろう?」
「え? 何……?」
「さっきから、オレに何度同じことを言わせるつもりだ。
貴様らはそろいもそろって、“親である”“家族である”という認識が先行しすぎている――そのせいで、見なければいけないことが見えていない」
マスターコンボイの抽象的な物言いに、みきが思わず首をかしげる――そんな彼女にため息をつき、マスターコンボイは告げた。
「その曇った両目でよく見てみろ。
アイツらが、何のために戦っているのかを……」
「いっけぇぇぇぇぇっ!」
「威勢だけはいいな――小娘!
ジェノスラッシャー、トランスフォーム!」
すでにゴッドオンしていたことを活かし、狙うはひとつ、先手必勝――咆哮し、突撃するこなたに対し、ジェノスラッシャーはロボットモードへとトランスフォーム。こなたの振り下ろしたアイギスの斬撃をかわし、その懐に飛び込んでいく。
しかし、こなたもそんなジェノスラッシャーの繰り出した拳を左手で受け止め、蹴りで反撃――ジェノスラッシャーが素早く後退して蹴りを回避し、両者は再び対峙する。
「へっ、お前の相手は、ジェノスラッシャーだけじゃないぜ!」
そこへさらなる乱入者――飛び込んできながらロボットモードへとトランスフォームしたブラックアウトが胸部のプラズマ砲を発射。放たれたプラズマ弾を回避するこなただったが、
「そして――乱入はブラックアウトだけでもない!」
その先にはショックフリートがいた。ブラックアウトの攻撃に気を取られていたこなたを殴り飛ばし、大地に向けて叩き落とす!
「く………………っ!」
それでもなんとか落下の過程で体制を立て直し、こなたはなんとか無事に着地するが、
「まだ安心するには早いぞ!」
そこに襲いかかるのはジェノスクリームだ。ビーストモードでこなたへとその牙をむき――
「させるかっつのーの!」
真横から、かがみがハイパーゴッドオンしたライトフットが飛び込んできた。全身から虹色の魔力をほとばしらせ、その身自体を弾丸と化した体当たりでジェノスクリームを吹っ飛ばす!
「ちぃっ!
軽量級ふぜいが、えらそうに!」
いきなりの体当たりで体勢を大きく崩しながらも、ジェノスクリームはそれでも踏みとどまってかがみへと振り向き――
「だったら――!」
「重量級、いっきまーすっ!」
振り向いたジェノスクリームにはひよりとみなみがグラップライナーとなって突撃――ハイパーゴッドオンした上で放たれる強烈な拳が、ジェノスクリームを大きく後退させる!
「こなちゃん、大丈夫!?」
「ったく……ノーマルのゴッドオンのままだってのに、いきなり突撃なんかすんじゃないわよ!」
「たはは……ゴメンゴメン」
そして、こなたのカイザーコンボイを支えるのはつかさのゴッドオンしたレインジャーだ。合流し、告げるかがみの言葉に、こなたは笑いながら合掌してみせる。
「貴様ら……!」
そんな彼女達に、ジェノスクリームは苛立ちもあらわに身を起こした。ビーストモードのまま、こなた達をにらみつける。
「おいおい、大丈夫かよ?」
「問題ない――気にするな」
頭上に舞い降りてきたジェノスラッシャーに答えると、ジェノスクリームは自らを落ち着けるかのように大きく息をつき、
「ジェノスラッシャー」
「おぅよ!」
皆まで言う必要はない――告げるジェノスクリームに、ジェノスラッシャーはうなずき、ビーストモードへとトランスフォームした。
「ジェノスクリーム!」
「ジェノスラッシャー!」
『リンク、アップ!』
宣言と同時――こなた達の前で、ジェノスクリーム達がひとつとなった。
ジェノスクリームがビーストモードのまま、前かがみになっていた背筋を正すかのように直立、背中の2連装キャノンが分離し、そこへビーストモードのボディを左右に展開、両腕に変形させたジェノスラッシャーが合体。2体で尻尾を持つ人型のボディを形成する。
ビーストモードのジェノスクリームの頭部が胸部に移動、空いたボディ上部のスペースに、ジェノスクリーム・ロボットモードの頭部がせり出してきた。そこへジェノスラッシャー・ビーストモードの頭部がヘルメットとして被せられ、翼竜の頭部を象った新たな頭部が完成する。
本体の合体シークエンスを完了し、システムが起動――カメラアイの輝きがよみがえり、左肩にジェノスクリームの2連装キャノンが合体。高らかに名乗りを上げる。
『虐殺参謀――グラン、ジェノサイダー!』
「合体した……!?
……そうか。あれが、アイツらの合体、グラン、ジェノサイダー……!」
合体し、その場に降り立ったグランジェノサイダーの左右に、ブラックアウトが、ショックフリートが合流する――その威容を前に、かがみは以前見たデータを思い出しながらつぶやいた。
「終わりだ。
合体したオレの力は、大帝級にも匹敵する――いかにハイパーゴッドオンしようが、オレの敵ではない!」
「そんなの、やってみないとわからないよ!」
告げるグランジェノサイダーにそう答え、こなたはアイギスをかまえた。
「負けないよ、私達は。
ここでがんばれなきゃ……みんなに合わせる顔がないんだから!
ゆーちゃん達のこと、スバル達に任せて……そんなんじゃ、ゆーちゃん達が帰ってきた時に笑顔で『おかえり』なんて言えない!
スバル達に『友達だ』なんて、言っていいはずない!」
絶対に負けない。そんな決意を言葉に込め、こなたが言い放ち――
「その通りです!」
その言葉と同時――飛来したビームがグランジェノサイダー達の足元を叩いた。
「私達には、守るための力がある。
守りたい人達がいる。
だから……私達は、戦うんです!」
攻撃の主は、こなた達のもとに駆けつけたロードライナーだ。そのコックピットで、みゆきは力強くそう告げた。
「たとえ、守りたい人達がそれを望んでいなくても……
たとえ、そのために心も身体も、どれだけ傷つくことになっても……!
それでも、守りたいと思うから!」
そう告げるみゆきの身体からほとばしるのは虹色の魔力――
(お母さん……見ててください。
私達が、何を守ろうとしているのか!)
揺るぎない決意と共に――宣言する。
『ハイパー、ゴッドオン!』
その言葉と同時――みゆきの身体が虹色の光に包まれた。溶け込むようにロードライナーと一体化し、虹色の輝きがロードライナー全体を包み込んでいく。
そして――
「ロードキング、トランスフォーム!」
ロボットモードへとトランスフォーム。ロードキングとなり、みゆきはかがみ達と合流する。
「かがみさん! つかささん!」
「オッケー!」
「うん!」
皆まで言う必要はない。みゆきの呼びかけに、かがみとつかさは笑顔でうなずいてみせた。
「ライトフット!」
「レインジャー!」
「ロードキング!」
かがみが、つかさが、みゆきが――3人が名乗りを上げ、頭上に大きく跳躍し、
『ゴッド、リンク!』
咆哮と同時、3人がゴッドオンしたまま分離、変形を開始する。
かがみのゴッドオンしたライトフットは両足が分離、両腕を後方にたたんだライトフットの両側に合体し、より巨大な上半身へと変形する。
一方、つかさのレインジャー、みゆきのロードキングはそれぞれ上半身と下半身、さらにバックユニットの三つに分離、下半身は両足がビークルモード時のように合わさってより巨大な両足に。さらに二つの下半身が背中合わせに合体、下半身が完成する。
完成した下半身にライトフットの変形した上半身が合体、さらにそのボディの両横、右側にレインジャーの、左側にロードキングの上半身が合体、内部から二の腕がせり出し、両肩が形成される。
そして、現れた二の腕にレインジャーとロードキングのバックユニットが合体。拳がせり出し、両腕が完成する。
最後にライトフットの頭部により大型のヘルメットが被せられた。フェイスガードが閉じると、その瞳に輝きが生まれる。
すべてのシークエンスを完了。ひとつとなったかがみとつかさ、みゆきは高らかに名乗りを上げる。
『連結、合体! トリプルライナー!』
「フンッ、そっちも合体か!
だが――合体すれば勝てるというものじゃないぞ!」
合体を遂げ、自分達の前に立ちふさがるトリプルライナーに言い放つと、グランジェノサイダーは力強く地を蹴った。一気に間合いを詰め、トリプルライナーとガッチリと組み合い、
「ブラックアウト! ショックフリート!」
「おぅ!」
「了解!」
告げるグランジェノサイダーにブラックアウト達が答え――彼らの爆撃が、グランジェノサイダーと組み合い、動きを止めていたトリプルライナーへと降り注ぐ!
「かがみ! つかさ! みゆきさん!」
「まず1体!」
爆炎の中に消えたトリプルライナーの姿にこなたが声を上げ、グランジェノサイダーが勝ち誇り――
「『まず1体』……何ですか?」
姿を現すのは、虹色の魔力流に守られて健在のトリプルライナーだ。息をつき、みゆきがグランジェノサイダーに聞き返す。
「泉さんが言ったはずです。『私達は負けない』と。
“私”ではなく“私達”――確かに戦士としての技量はあなた達にはかないません。でも、私達のその想いが引き出すこの力は、そんなあなた達に負けない、私達の最大の武器になるんです!」
「そうですね、みゆきさん」
母・ゆかりに送り出された今日のみゆきは気合が違う――彼女の言葉に同意し、みなみはグラップライナーをみゆき達のトリプルライナーに並び立たせる。
「私達は誰の意思でもない――自分達の意思でここにいる。
それぞれが、それぞれに選んだ道――だからこそ、それが重なった時に引き出される力は、どんな敵にも負けない!」
「って、何二人だけで空気作ってくれてんのよ」
「私達だって、ゆきちゃん達と想いは一緒だよ!」
「置いてきぼりはひどいっスよ!」
みゆきに同意して告げるみなみの言葉に、かがみやつかさ、ひよりもまたそれぞれに告げ――彼女達の放つ虹色の魔力がその勢いを増していく。
そして、みゆきはグランジェノサイダー達を前に、改めて告げる。
「私達は、絶対に負けない――」
「想いをひとつにして、あなた達に勝ちます!」
『トリプルライナー!』
かがみ、つかさ、みゆき――
『グラップライナー』
そして、ひよりとみなみ――それぞれの咆哮が響き渡り、トリプルライナーとグラップライナーは同時に、背中合わせに跳躍し、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
宣言と同時に、グラップライナーがいくつものパーツに分離した。そのままトリプルライナーの周囲に配置され、合体を開始する。
まず、グラップライナーの両足が変形――大腿部を丸ごと、まるで関節部ごと掘り返すかのように引き出すとそれを後方へと折りたたみ、関節部がなくなったことで空洞となった両足の内部空間に、トリプルライナーの両足がまるで靴を履くかのように差し込まれ、そこへグラップライナーの両肩、ニトロライナーとブレイクライナーの先頭車両部分が合体してつま先となり、より巨大な両足が完成する。
続けて、トリプルライナーの右手に装備されたレインジャーの重火器類、左手に装備されたロードキングのレドームシールドが分離。スッキリした両腕をカバーするように左右に分かれたグラップライナーのボディが合体する。
内部から拳がせり出し、より巨大になった両腕に分離していた重火器とレドームシールドが再び合体、両腕の合体が完了する。
ボディにはニトロライナー、ブレイクライナーから分離した胸飾りが胸部左右に合体。最後に両肩にはブレイクアームのカーボンフィストが砲身が短めのキャノン砲となって合体する。
合体の工程をすべて完了し、各システムが再起動。カメラアイの輝きが蘇り、かがみ達が高らかに名乗りを上げる。
『大! 連結合体!
ジェネラル、ライナァァァァァッ!』
「はわぁ……
私達、田村さん達と……」
「合体、したみたいですね……」
みゆきの強い意志に導かれ、実現したライナーズの5体合体――完成したジェネラルライナーの“中”で、つかさやみなみが感嘆の声を上げ――
「をををををっ!
できるとは思ってたけどやっぱりやったよ、かがみん達のグレート合体!」
「そうっスよ!
できたっスよ! 私達のグレート合体!」
「ぐ、ぐれ……?」
「またアンタ達はいきなりフィルター厚くなるなぁ……
みゆきさんが置いてきぼりくらってるから、少し黙んなさいよ」
別の意味で合体に対して大はしゃぎなのがこなたとひより――興奮した二人のテンションに戸惑うみゆきをよそに、かがみが二人をたしなめる。
「また新しい合体かよ……!?
お前ら、どれだけ合体のバリエーション持ってるんだよ!?」
「その力――どれほどのものか、確かめてやる!」
一方、合体したかがみ達の姿に、ディセプティコン側も動く――初見ゆえに未知数のジェネラルライナーの力を測るべく、ブラックアウトがプラズマ砲を、ショックフリートがエネルギーミサイルを放つが、
「させないよ!
ジェネラル、ガーダー!」
迫る攻撃にはつかさが対応した。ジェネラルライナーのかざした右手を中心にミッドチルダ式の魔法陣が展開。防壁となってそのすべてを弾き飛ばす。
「だったら、これでどうだ!」
そんな彼女達に対し、続けてグランジェノサイダーが前面に出た。左肩の2連装キャノンから放たれた閃光がつかさの防壁“ジェネラルガーダー”を叩くが、
「…………バカな……!?」
つかさの展開した防壁はまったく揺るがない――最強の技ではないとはいえ、手加減なしで放った一撃がまったく通じず、グランジェノサイダーが驚愕の声を上げ、
「それで終わり?
だったら……こっちからいくわよ!」
「ぐ……っ、なめるなぁっ!」
防壁を解除し、かがみの操作でジェネラルライナーが地を蹴る――対し、グランジェノサイダーも真っ向から応じた。両者がガッチリと組み合い――
「どっ、せぇぇぇぇぇいっ!」
気合が入ったかがみの咆哮と共に、グランジェノサイダーが力任せに投げ飛ばされる!
「ほぅ……パワーではオレすら上回るか……」
《グランジェノサイダーにパワー負けしてましたからね、スカイクェイクは》
いざとなれば彼女達を守りに乱入するつもりではいたが、どうやらその必要はなさそうだ――戦いを見守り、ジェネラルライナーのパワーに関心するスカイクェイクの言葉に、アルテミスは結界を維持したままクスリと笑みを浮かべる。
「あれが……こなた達の戦い……」
「そうだ。
あれが、泉こなた達の持つ“力”だ」
一方、戦いを見守るのはそうじろう達も同じ――つぶやくそうじろうに、マスターコンボイはあっさりとそう答えた。
「魔力とはすなわち心の力――だがそれは、単純に心の強さが反映されるだけではない。心のあり方によって、強さだけでなくその質までもが変化する。
あれほどの力をヤツらが発揮できているのは、すなわち心をそれだけ強く持っている証――貴様らの言うような『利用されているだけ』のヤツに、あそこまでの力が引き出せると思うか?」
告げるマスターコンボイのその言葉に、先頭に立ってこなた達の戦いに反対していたそうじろうやただおからの答えはない――そんな彼らやみき達に対し、今度はアルテミスが口を開いた。
《さっきの事情の説明の中で……スカイクェイクは、ひとつだけ、みなさんに言ってないことがあるんです》
「え………………?」
《初めてこなたが覚醒した時……この人も反対したんですよ。
こなた達が戦うことを……戦いの世界に足を踏み入れることを》
反応したゆいに対し、アルテミスは答え、続ける。
《その上で、こなた達は戦うことを選んだ……あの子達は間違いなく、自分の意思で今の居場所にいるんです》
そこで言葉を切り、アルテミスはスカイクェイクへと視線を向け、
《ですよね? スカイクェイク》
「…………あぁ」
アルテミスの言葉に、スカイクェイクは静かにうなずいてみせた。
「先も言ったように、あの時、他に選択の余地があったか、と聞かれれば、素直にはうなずけない。
そういう意味では、オレは彼女達がそう選ぶことを予見した上で選択させた……そう言われても、甘んじて受けるしかない。
だが、彼女達は選んだ……いや、今も“選び続けている”」
そこで一度言葉を切り、スカイクェイクは続ける。
「先日――彼女達は一度敗れている。
それも、数日とはいえ入院を必要とするほどのケガをしての大敗だ。
そこで、戦いをやめたいと言うなら止めるつもりはなかった。あくまでアイツらの意思を尊重するつもりだった。
だが……彼女達に“戦いから手を引く”という選択肢はなかった。
それどころか、『やめたい』の『や』の字が出ることもなく、自分達で『戦い続ける』と結論を出してしまった――まったく相談もされず、逆にこちらが凹んだぞ」
そして、軽くため息をつき、スカイクェイクは告げた。
「くどくどと長くなってしまったな――結論を言おう。
ヤツらの『戦い続ける』という意思は本物だ。
本物であり、何よりも強い想い――だからこそ、その想いを止めることは誰にもできない。
オレに力ずくで止められても、お前達が涙ながらに訴えても、アイツらは戦い続けるだろう。
お前達を……」
「大切な“家族”を、守るためにな……」
「フォースチップ、イグニッション!」
近接戦闘では勝ち目はない。ならば火力で攻める、それも先ほどの防壁を考えると最大火力を叩き込むしかない――決断と同時にジェネラルライナーから距離を取り、グランジェノサイダーはフォースチップをイグニッションした。
セイバートロン星、デストロンを示すフォースチップが背中のチップスロットに飛び込んでいき、同時に全身にみなぎった力のすべてを胸部のジェノスクリーム、ビーストモード頭部に集めていく。
開かれた胸部の口の奥から、蓄えられた“力”が光となってあふれ出し――
「グランド――ジェノサイドバスター!」
その“力”のすべてを解き放った。放たれた閃光がジェネラルライナーへと襲いかかり、その周囲をも巻き込む大爆発を巻き起こす。
「これなら…………!」
自分の最大級の砲撃だ。まともに喰らえばただではすまないはず――今度こそ手ごたえを確信し、グランジェノサイダーがうめき――
「…………残念、でしたね……!」
わずかに苦悶の混じった声は、爆煙の中から聞こえてきた。
「さすがは合体した上での最大威力の砲撃です。
こちらも無傷というワケにはいきませんでしたが……」
その言葉に伴い、爆煙はゆっくりと晴れていき――
「すみません――耐え切らせていただきました!」
装甲のあちこちを焦げつかせ、且つ10メートル以上も押し戻されながらも、ジェネラルライナーは未だ健在――ガードしていた両腕を解き、みゆきがグランジェノサイダーに告げる。
「とはいえ……こっちも今のダメージでかいわよ、みゆき」
「早く決着をつけた方がいいと思います」
「そうですね」
しかし、耐えたと言っても、先のみゆきの言葉どおり無傷というワケにはいかなかった。告げるかがみやみなみの言葉にうなずき、みゆきはグランジェノサイダーやその左右でこちらを警戒するショックフリート、ブラックアウトへと向き直り、告げる。
「そういうことですから……勝負を決めさせていただきます!」
『フォースチップ、イグニッション!』
かがみ、つかさ、みゆき、そしてひよりとみなみ――5人が声をそろえて咆哮すると同時、彼女の元に飛来したのはミッドチルダのフォースチップ――背中のチップスロットへと飛び込むと四肢の装甲が展開。放熱デバイスが起動し、“フルドライブモード”へと移行する。
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
「いっ、けぇっ!」
ジェネラルライナーのメインシステムが告げる中、かがみが右手を大きく振るい――同時、グランジェノサイダー達の周囲で突如旋風が巻き起こった。
フォースチップのエネルギーがかがみの持つ“風”の属性として現れたのだ――竜巻と貸したそれで“標的”の動きを封じ込めると、かがみ達は右手のライナーバスターをかまえた。
さらに、目の前に魔力スフィアを形成――生み出した巨大な光球越しにグランジェノサイダー達へと狙いをつけ、
『重連――爆砕!
ライナー、ブラストシュート!』
咆哮と共に、ライナーバスターで魔力スフィアに一撃――スフィアの魔力を伴った砲撃が、グランジェノサイダーへと襲いかかる!
そして――
『終点――到着!』
勝ち鬨の声と共に、砲撃がグランジェノサイダー達を直撃――拘束していたエネルギーをも巻き込んだ大爆発が巻き起こり、グランジェノサイダー達を空の彼方へと吹き飛ばしていった。
「じゃあ……行ってきます」
「あぁ。
気をつけてな、かがみ、つかさ」
「身体に気をつけて……とは言えないけど、ムリだけは、しないでね」
「しっかりやってきなさいよ!」
明けて翌日――再び集まった校庭で、かがみの言葉にただおが、いのりが、まつりが答え、
「はい、これ」
そんなかがみに、みきが手渡したのは何が入っているのか、ズッシリと重いカバンだった。
「か、母さん、これは……?」
「お世話になる部隊の人達に。
手ぶらで行かせるなんて恥ずかしいマネはできないでしょう?」
(いや、そうじゃなくて、私が言いたいのはむしろこの“量”なんだけど……)
見れば、寂しがるゆかりに抱きつかれているみゆきやほのかと話すみなみ――昨夜の戦闘の後、改めて両親と話をつけてきたというひよりも、それぞれにお土産と思われる荷物を持っているが、彼女達のそれと比べて、かがみの手渡されたそれは一回りどころか二回り、三回りほども大きく、その分重さもハンパではない。
しばし、かがみはその荷物の重量に顔をしかめて――
「ブリッツクラッカー、お願い」
「迷わず丸投げかよ!?」
近くでその光景を苦笑まじりに見物していたブリッツクラッカーに押しつけることにした。
「一時はどうなることかと思いましたけど……無事にこなた達も“お許し”が出てよかったですね、八神部隊長」
それぞれに家族とのしばしの別れを惜しんでいる光景を微笑ましく思いながら、スバルははやてにそう告げるが、
「本格的に“どうなることか”な事態に陥ったんは、スバルの連れてきた“誰かさん”の挑発も一役買ってると思うんやけど」
「あ、あはは……」
有無を言わさず反論を封じ込め、それが結果的にプラスに働いたとはいえ、相手が激昂しているところに“火に油”どころか“コンビナート火災にナパーム弾”とでもたとえられそうな挑発をぶちかましてくれた人物の存在を忘れてはならない――はやての返しにスバルが苦笑するが、張本人たるマスターコンボイはどこ吹く風だ。
「大したことではあるまい。
結局、泉こなた達の親どもの認識が甘かったというだけの話だ。
常にそばにいるワケじゃないんだ。相手の成長のきっかけとなる事件に、自分が立ち会えないということも十分にあるだろう――それに気づかないまま、成長する前の彼女達を基準にして考えていれば、それは認識にズレが生じるのも当然というものだ」
「それはまぁ……そうやけど」
「結局、親どもはわかっていなかったんだ。
自分達の娘は、この戦いを最後まで戦い抜けるということをな」
うめくはやてにそう答えると、マスターコンボイはクルリときびすを返し、
「ヤツらにはそれだけの力がある。
それを可能とする仲間達がいる。
そして何より――オレ達が共に戦うんだ。オレ達がいる限り、もう二度と、アイツらに負けはない」
「結局最後は自分、か……マスターコンボイさんらしいですね」
「話を聞いていないな」
苦笑するスバルに、マスターコンボイはこちらに視線を向けることもなくそう答える。
「『オレ“達”が』と言ったぞ。
オレと貴様、二人でヤツらに並び立つ――足を引っ張るようなマネは許さんからな」
「………………うん!
じゃあさ、そのためにも、マスターコンボイさんはあたしのことを名前で呼ぶ、ってことで――」
「だが断る」
「えー? 何でーっ?」
「いいじゃないっスか、マスターコンボイ様」
「そうだよ。
もう正パートナー同士なんだから、そのくらいはさ」
「呼んだが最後、果てしなく浮かれポンチになりそうだろ、コイツの場合」
『あー……』
「なんでブリッツクラッカーさんも晶さんもそこで納得するんですか!?」
そこからは結局いつものやり取り――こなた達の“別れ”が落ち着くのをぎゃいぎゃいと騒ぎながら待つマスターコンボイ、スバル、ブリッツクラッカーと晶、4人の姿をしばし微笑ましく見守ると、はやては再びこなた達へと視線を戻した。
「こなた、ゆーちゃんのことお願いね」
「任せてって、ゆい姉さん。
ゆーちゃんは必ず見つけ出す――私だって、ゆーちゃんのお姉ちゃんなんだからさ」
告げるゆいにこなたが答える一方で、そうじろうはスカイクェイクやアルテミスへと向き直り、
「こなたとゆーちゃんのこと、よろしく頼みます」
「頼まれなくても引き受ける。
教え子に対して責任を持たない師がどこにいる?」
《単に「自分もみんなのことが心配だから」って言えばいいのに。
素直じゃないですね》
「師のメンツというものだ」
苦笑するアルテミスに、スカイクェイクは憮然とした様子でそう答える――そんなやり取りに笑いながら、そうじろうはこなたへと視線を戻し、
「こなた……頼むぞ」
「うん、わかってる」
告げられたそうじろうの言葉に、こなたの表情が引き締まる。
「父さんも……お願いね」
「わかってるさ」
そしてそうじろうもまた、こなたの言葉に表情を引き締め――
「向こうでナイスな萌えアニメを見つけたらコンプリートよろしく!」
「地球のアニメ、録画とキープよろしく!」
「いろんなものが台無しだぁぁぁぁぁっ!」
咆哮と同時、マスターコンボイの放った魔力波動が破壊の渦となり――狙い違わずヲタクな父娘の足元を爆砕した。
ティアナ | 「ここのところ、ライナーズの独壇場な気がしない?」 |
ギンガ | 「私達との合体がメインだったと言っても、機体の本体はライナーズだものね」 |
キャロ | 「その上、今回のお話は完全にカイザーズ側のお話でしたしね……」 |
ギンガ | 「これはゆゆしき事態ね…… 早急に対策が必要よ」 |
ティアナ | 「それなら……」 |
キャロ | 「何かアイデアがあるんですか!?」 |
ティアナ | 「作者のところに直談判よ!」 |
ギンガ | 「なるほど! 私達の活躍の場を増やしてもらうのね!?」 |
キャロ | 「お供します!」 |
3人 | 『敵は日本、岐阜県にあり! えいっ、えいっ、おーっ!』 |
エリオ | 「………………あれ? みんなは?」 |
ティアナ | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第83話『道を拓く者〜山盛り、ギガ盛り、てんこ盛り〜』に――」 |
3人 | 『ハイパー、ゴッド、オン!』 |
(初版:2009/10/24)