「これは……!?」
ノイエ・アースラの艦内森林公園――フリード達がゆったりと羽を休め、皆の憩いの場となるであろうその公園の一角で、マスターコンボイは思わず眉をひそめていた。
その原因は、自分の目の前にあるウィンドウだ。
そこに表示されているのは、青と赤、二種類の色のバーが並んだグラフ――株価の推移を示す“ロウソク足チャート”である。
しかし、問題なのはその“状況”だ。
あの地上本部攻防戦――マグマトロンに敗れ、自分が休眠状態に陥って以来、それまで続けていた株取引がほったらかしになっていたのに気づいたのがついさっきのこと。
そこで引っかかったのが今の世間の情勢だ。ミッドチルダの地上の平和、その象徴とも言えた地上本部の崩壊は世間に多大な衝撃を与えたはず。
当然、その影響も株式市場には大きく現れたはずだ。株価の暴落、経済的な恐慌も十分に考えられる。
別に金を稼ぎたくてやっていたワケではないが、だからと言って大きく損を出すのはいわば負け戦。負けず嫌いの自分としては決して看過できる問題ではないとあわてて取引ソフトを立ち上げてみたのだが――
(株価が……ほとんど動いていない……!?)
そう。
株価は事件前とそれほど変わるものではなかったのだ。
チャートを見た限り、地上本部攻防戦の直後には確かに大きく混乱したらしく、どの銘柄も大きく値を下げ、中には上場来最安値を記録しているものもあったが、それもすぐに持ち直し、今では事件前とほとんど同程度にまで回復しているのだ。
わずか一月前後でこの回復ぶり――きっかけとなった事件が事件、株価の落ち込みぶりが落ち込みぶりなだけに、ここまでの回復は違和感を感じずにはいられなかった。
(どういうことだ……!?
地上本部の崩壊ともなれば、ミッドチルダの社会情勢を大きく左右する一大事件のはず……
しかも、その直後に柾木ジュンイチによって局内の不正まで暴き立てられたんだ。当然、経済に影響が出ないはずがない。
それなのに、実際には直後の落ち込みこそあれ、すぐに回復……いくら何でも持ち直すのが早すぎる。
何より……直接地上本部と取引していた企業への影響がほとんどないのがおかしい。局の中での不正が明らかになったんだ。風評被害を恐れ、局との取引を停止する企業ぐらいはあってもいいはずなのに……)
「一体、何が……!?」
あまりにも不自然、しかしその不自然の原因の見えない状況に、マスターコンボイは苦虫をかみつぶしたように顔をしかめ――
「きゅくーっ!」
「ん………………?」
その頭上を、肉をくわえたフリードが駆け抜けていった。
エサをもらっていたのか。そういえばそろそろ昼飯時か――フリードの姿に、マスターコンボイはそんなことをぼんやりと考えて――
「みぃーっ!」
「ぬがっ!?」
フリードと肉の取り合いでもしていたのだろう、彼を追ってきたヴェルに撥ねられた。
「に、兄さん!?
フリード、何してるの!」
「だ、ダメだよ、ヴェル!
マスターコンボイさんのジャマしちゃ……」
そんなフリードやヴェルの後を追ってきたのはキャロとつかさだ。それぞれフリードとヴェルをつかまえて口々に叱り――
「…………き、さ、ま、ら……!」
そんな二人の叱責は聞こえていたが、それで自分の気が済むかと言われれば別問題――怒りに肩を震わせ、マスターコンボイはゆらり、と身を起こした。
「この、チビスケどもが……!
いいだろう! このオレ自ら、直々に成敗してくれるわぁっ!」
『ご、ごめんなさぁぁぁぁぁいっ!』
いつの間にか起動させ、その手に握られていたオメガがギラリと刃を光らせる――マスターコンボイの怒りの咆哮に、キャロとつかさはそれぞれの相方を抱きかかえ、謝りながら逃げ去ってしまう。
「まったく、アイツらときたら……」
そんな彼女達に毒気を抜かれたか、マスターコンボイはオメガを待機状態に戻すとウィンドウに表示した株価のチャートに視線を戻した。
そのまま、しばし思考を巡らせ――
「…………よし。
少し……出かけてみるか。
幸い、“口実”もあることだしな」
決めた。息をつき、マスターコンボイはこれからの行動に巻き込めそうな、そんな手ごろな“相手”を頭の中でリストアップしながら通信回線を立ち上げた。
第83話
道を拓く者
〜山盛り、ギガ盛り、てんこ盛り〜
その日、ホスピタルタートル内のなのはの病室にはある来客が来ていた。
「回復も順調みたいだな……安心したぞ」
「うん」
つぶやく恭也に、なのはは笑顔でうなずいた。
知佳も一緒に見舞いに来ていたが、今はシグナムの病室に行っている――そういえばヴィータの元に見舞いに来たエイミィとクロノも、実質的にはエイミィとヴィータの間でのやり取りが中心だったことをなのははおぼろげながらに思い出していた。
「父さん達は……もう?」
「うん。昨日お見舞いに来てくれた」
尋ねる恭也に答えると、なのはは息をつき、
「それで……お兄ちゃん、お店の方は大丈夫?」
「心配するな。
これでもクラナガンに店をかまえてそれなりに経ってるんだ。オレ達の不在を任せても大丈夫、くらいには、バイトの子達も成長してる」
尋ねるなのはに答えると、恭也はなのはの頭をなでてやり、
「とにかく今はゆっくり休むんだ。
何をするにも、まずはそのケガを治さなくちゃな」
「うん!」
告げる恭也にうなずき、笑顔を見せるなのはだったが――
「早く現場に復帰して、ヴィヴィオやゆたかちゃんの捜索に戻らないと!
あれからかなり経ってるのに、足取りがつかめないんだもん――きっと無事で、移動してるんだよ。
だから……私があの子達を見つけてあげなくちゃ!」
グッ、と拳を握り締めて告げるなのはの笑顔が――恭也には、どこか哀しげに見えていた。
「…………ふぅ……」
なのはの病室を後にして、恭也は静かに息をついた。
と――
「あ、恭也さん!」
「ん………………?」
突然声をかけられた。振り向けば、そこにはこちらに向けてパタパタと駆けてくるスバルの姿があった。
「すいません。
恭也さん、お兄ちゃん達の捜索までしてもらって、忙しいはずなのに……」
「妹を心配するのに理由なんかいらないさ。気にしなくていい」
声をかけてきたのはスバルだ――答えて、恭也は優しくスバルの頭をなでてやる。
「………………♪」
対するスバルは、恭也に頭をなでられてなぜかご満悦のようだ。頭に手を置かれた時は何事か戸惑ったものだが、今では気の抜けた、とろけるような笑みを顔いっぱいに浮かべている。
「えへへ……なんだか、お兄ちゃんになでられてるみたいです♪」
「ジュンイチにか?
アイツの手とは、ぜんぜん違うだろうに」
「そんなことないですよ。
お兄ちゃんと同じで、優しくて、あったかくて……」
苦笑する恭也に答えると、スバルは息をつき――パシンッ、と頬を叩くと気を取り直し、真剣な表情で尋ねる。
「それで……どうですか? 恭也さんから見て……」
「あぁ……
やっぱり、元気がないな……」
そのスバルの問いに、恭也は視線を落とし、そう答えた。
「お前達に心配をかけまいとしているんだろうが……強がってるのは確かだ。
気にしてるのは当然……」
「ヴィヴィオ……ですね?」
聞き返すスバルに、恭也は無言でうなずいた。
「その様子だと……キミも気づいていたみたいだな」
「はい。
なんとなく……そうじゃないか、って……」
尋ねる恭也に答え、スバルはなのはの病室へと視線を向け、
「なのはさん……お見舞いに行っても、いつも『大丈夫だよ』って笑ってるんですけど……時々、それがすっごく痛々しく見えるんです……」
「そうか……
なのはのこと、よく見てるんだな」
「そ、そんなことないですよ……」
告げる恭也に対し、スバルはパタパタと手を振りながらそう答え、
「フェイト隊長も気づいてたみたいで、イクトさんに相談してたみたいですし」
「らしいな。
今日オレが来たのも、そのイクトさんからの相談がきっかけだしな」
スバルの言葉に恭也が答えるが、スバルが見つけた“気づいた人物”はフェイト達だけではなかった。引き続き指折り数えながら続ける。
「あとは……ヴィータ副隊長もですし……マスターコンボイさんも」
「マスターコンボイも?
……あ、いや、アイツもなのはとはそれなりに関わりのある間柄だ。気づいてもおかしくはないか」
スバルの挙げた名前に思わず眉をひそめるが、考えてみれば彼の名前が挙がるのはある意味当然とも言えた。納得し、恭也は軽くうなずき――尋ねた。
「で……そのマスターコンボイは?」
「…………と、いうワケで、なのはを元気づけるために何かくれてやろうと思う。
貴様ら、何かアイデアを出せ」
「って、いきなり連れてきてその“上から目線”はないと思うんだけど」
クラナガン市街、港湾区の商店街の一角で、告げるマスターコンボイの言葉にこなたはすかさずツッコミを入れた。
「だいたい、なんで私なの?
スバルに声かければいいじゃない」
「理由は二つだ。
ひとつ。高町恭也が高町知佳と共になのはの見舞いに来ていて、ヤツはその案内を任されていた。
二つ。ヤツに声をかけて連れてきたら……また『名前で呼んで』とうるさいだろうが。それなら、まだ便乗して遊んでるだけの貴様に声をかけた方がマシというものだ」
「あらら、スバルも嫌われちゃったねー」
「嫌ってなどいない」
クスリと笑みをもらすこなたの言葉に、マスターコンボイはあっさりとそう答えた。
「むしろあのまっすぐさは敬意を抱くに値する――が、現在のように度が過ぎることがあるのが唯一の欠点だな。
オレとしては、ただ距離を適切に保ちたいだけで……」
言いかけ――気づいた。動きを止め、振り返るマスターコンボイの目の前で、こなたは手のひらサイズのカードケース――待機状態のマグナムキャリバーを軽く振ってみせる。
〈嫌ってなどいない。
むしろあのまっすぐさは敬意を抱くに値する――〉
〈嫌ってなどいない。
むしろあのまっすぐさは敬意を抱くに値する――〉
「ちょっと待て貴様ぁぁぁぁぁっ!?」
そんなマグナムキャリバーが再生するのは、今しがた自分の放ったスバルの評価――繰り返し一定の範囲をリピートするそれに、マスターコンボイは思わず声を上げた。
「なんでそこだけリピートする!?
後の部分はどうした!? ヤツの欠点に言及した部分は!?」
「何言ってるの?
そこまで聞かせちゃったらスバルの好感度が上がらないじゃない」
「オレは好感度をかせぐつもりなどないわっ!
謀ったな、泉こなた!」
「キミはいい友人だった。しかしキミの父上がいけないのだよ」
「なんでそこで父親ぁっ!?」
詰め寄るマスターコンボイだが、こなたはあっけらかんと答える――某機動戦士アニメのセリフネタに走られても、残念ながらマスターコンボイには元ネタの知識はないし、あったとしてもそれどころではない。
「いいか、泉こなた……!
エナジーヴォルテクスを喰らいたくなければ今すぐその録音データを消せ……!」
「ふっふっふっ、どーしよっかなー♪」
口元を引きつらせ、オメガをかまえてうめくマスターコンボイにこなたは笑顔でマグナムキャリバーを軽く振り――
「それはいいのだが……」
「良くない!」
それまで会話に混ざれずにいた“同行者”が口を開いた――声をかけてくるジェットガンナーだが、マスターコンボイはピシャリとそう言い放つ。
いきなり突き放されて一瞬口ごもるが、ジェットガンナーは気を取り直して再び言葉を発する。
「……そんな話よりも、今はなぜ、今回の用件で我々まで呼ばれたのかを教えてもらえないか?
泉こなた嬢はまだわかるのだが……」
「そうそう。なんでボクらなのさ?
こなたはともかく、ボクらなんか完全に門外漢なんだよ。めんどくさいなぁ」
さらに、ジェットガンナーの言葉にアイゼンアンカーも同意する――二人の言葉に、マスターコンボイはあっさりと答えた。
「お前らGLXナンバーどもなら常識をロクに知らんから、突拍子もないアイデアには不自由すまい?」
《それが選抜の理由かよ!?》
「殴っていいよね? そりゃもう思いっきり殴ってもいいよね?」
「十分に許されるでござろうな」
アイゼンアンカーに即答するマスターコンボイにクロやロードナックル・シロがうめき、シャープエッジもサーベルを手にそう同意してみせた。
「ねぇ、これなんかどうかな?」
《なのはの姉さんが使うには、少し少女趣味がすぎないか?》
「このウサギのぬいぐるみはどうでござろうか?」
「やめた方がいいぞ、兄よ」
「そーそー。
“ウサギのぬいぐるみ”つながりでヴィヴィオのことを思い出して凹ませるだけだって。めんどくさいのは勘弁だよ?」
彼らも常識を“知らない”だけであり、決して“欠けている”ワケではない。最初は渋りはしたものの、いざ商品を選び始めると、それぞれに知恵を出し合ってなのはへの“土産”を吟味していく。
(元々マイクロンボディを持つアイゼンアンカーを除き)街角の公衆サイズシフトシステムで身体を人間サイズまで縮め、店先で真剣に品物を選んでいる彼らをよそに、マスターコンボイはヒューマンフォームの少年の姿で、店のすぐ前でガードレールに腰かけ、周囲に視線を巡らせていた。
街の様子は実に平和そのものだ。風景から地上本部が姿を消しただけで、後はそれまでの街角と何ら変わらない――
「ふむ……
いつぞやの自然保護区の一件もあって、バカどもが好き勝手やっているものと思っていたが……ずいぶんと静かなものじゃないか」
息をつき、マスターコンボイがつぶやくと、
「ふーん……
私達にプレゼント選ばせて、自分はのんびりヒューマンウォッチング?」
そんな彼に、こなたが声をかけてきた。
「貴様は選ばんのか?」
「言いだしっぺがいないから呼びに来たに決まってるでしょうが」
自分はあの輪に加わらないのか――尋ねるマスターコンボイに対し、こなたは肩をすくめてそう答えるが、
「気にするな。
すでにオレは購入済みだ」
「ほぇ?」
予想外の答えにこなたが見ると、マスターコンボイの足元には確かに買い物袋が置かれている。
「何買ったの?」
「和菓子を少々、な。
なのはの母親、高町桃子はパティシエだ。慣れ親しんだ洋菓子よりも和菓子の方がウケが良かろうと判断した」
「あー、そういえば、さっきあったね、和菓子屋さん。
クラナガンって、けっこう日本文化が流行ってるんだよね……初めて来た時なんかビックリしちゃったよ、私」
マスターコンボイの言葉に納得してそうつぶやき、クスリと笑みを浮かべるこなただが――
「にしても……さすがマスターコンボイ。
洋菓子に慣れてるから和菓子とは、なのはさんのことをよくわかってらっしゃる♪」
「う、うるさい」
すぐにその笑顔がどこかオヤジ臭いニタニタしたものに変わった。茶化してくるこなたに対し、マスターコンボイの頬に朱が散った。口を尖らせ、ぷいっ、とそっぽを向いてしまう。
「と、とにかく、そういうことだからオレに気遣いは無用だ。
貴様らは貴様らで好きなものを選べばいい。金なら出してやる」
「おぉ、さすがは株成金、太っ腹ぁ♪」
「ムリヤリ声をかけた対価を支払うだけだ。太っ腹とかそういう問題ではない」
はやし立てるこなたに言い放ち、ため息をついた上でマスターコンボイは彼女に尋ねた。
「で……どうやら買い物をする気がないようだから聞くが……貴様、この街の様子をどう思う?」
「どう…………って?」
「静かすぎると思わんか?」
聞き返すこなたに答え、もう一度周囲を見回し、続ける。
「地上本部崩壊――そんな大事件が起きたにしては、あまりにも平穏すぎる。
事件が起きてほしいワケではないが……平穏であることが逆に不自然、というのもまたいただけない」
「そういえばそうだよねぇ……」
告げるマスターコンボイに答えると、こなたもまた周囲を見回し、
「……って、何?
まさか、今回のおでかけって、そっちが本命だったりするの?」
「そういうことだ」
そうこなたに答え、マスターコンボイは自分の見た株価の推移の異常性について説明した。
「なるほど……
それで、実際に街がどうなってるのか、平和なのかそうじゃないのかを確かめに来た、と……
素直に『調べに行きたい』って言えばいいのに」
「その『調べに行く』前段階がこの外出だ。
実際に状況を見て確かめ、最適な人材を向かわせることも調査の重要な要素のひとつだ。
戻り次第、下調べの結果を元に八神はやてに人材を選出させるさ――高町恭也とヤツから派生する人脈に、柾木ジュンイチの捜索を依頼しているように、な」
「なるほど」
マスターコンボイの言葉にうなずきはしたものの、こなたの表情は納得とはどこか違う色合いを見せていた。眉をひそめるマスターコンボイに対し、告げる。
「でも……はやてさん、もう人を動かしてたみたいだよ?
ゲンヤおじさんに頼んで、108部隊の方で情報を集めてもらってたみたい」
「何だと……?
なぜ貴様がそれを知ってる?」
「はやてさんが報告受けてるところに通りかかっちゃってね。
『ちょうどいいから私の意見も聞かせて』って、そこで引き止められて……一通り」
「ふむ…………」
こなたの言葉に、マスターコンボイは自分の後手を痛感するが――それならそれで動きを変えるだけだ。息をつき、こなたに尋ねる。
「で……貴様の意見は?」
「その前に、報告から一部抜粋。
108部隊の人が周りの部隊から話を聞いたところによると、あの地上本部崩壊の後……本部の崩壊でズタズタになったはずの指揮系統が、現場に限ってはものすごい速さで復旧したらしいんだよ。
本部ビルが破壊されて、機能の停止した本部をとりあえず無視、部隊同士での情報伝達のネットワークを構築して、便乗して起きる犯罪にすぐに部隊同士で協力しながら対応できるように……」
「なるほど。
機能の停止した上の指示を待っていたら、防げる犯罪も防げなくなる……ということか。
確かに、過去の歴史を見ても、大事件に伴う犯罪の増加例にはそういった“大元の事件”が起こした混乱で麻痺した指揮系統が、結果として現場の動きを封じてしまったことが一因となるケースが多い」
「あー、そういう小難しい理屈はよくわからないけど、だいたいそんな感じかな?」
つぶやくマスターコンボイに苦笑し、こなたはそううなずいてみせる。
「で……ここからが私の推測。というかはやてさんとの共通見解。
その、部隊同士の連携を維持した例の“ネットワーク”……ひょっとしたら、“先生”が作ったのかもしれない」
「柾木ジュンイチが?
だが、ヤツは地上本部に対して……」
「うん。それもわかってる。
ただ……私達の見立てじゃ、“先生”の攻撃目標はあくまで地上本部。それだけだと思うんだよね。
つまり、“先生”にとっては地上本部はつぶしたいけど、そのせいで下の部隊までとばっちりを被るのは避けたかったんじゃないかなー、って」
「それで、地上本部抜きでも部隊同士の相互連携で補えるようなネットワークを構築した……か?」
「ゲンヤおじさんによれば、“先生”はずいぶん前から対スカリエッティの戦いを続けていたらしい。
その中で地上本部も叩く必要を感じていたんだとすれば……叩く準備だけじゃなくて、それに伴う周りへの“とばっちり”に対する対応も、あらかじめ準備していたと思うんだよ」
「ふむ…………」
こなたの言葉に、マスターコンボイは腕組みして思考を巡らせ、
「だとすると……経済面で混乱がなかったのも、ヤツが何かしらの干渉を行ったからなのかもしれんな。
地上本部の“闇”を容赦なく暴き立てた手腕のこともあるし……スバル・ナカジマの話によれば、あの男は実家に戻れば大財閥の本家の血筋で、相続権を蹴らなければその総帥にすらつける立場だったという。
当然、そんな環境にいれば経済についても通じるはずだ。経済と情報戦、その二つに高い能力を持つヤツなら、あるいは可能かもしれん」
「とことん、なんでもアリだよね、あの人……」
マスターコンボイの言葉に、こなたは思わず苦笑し――
「………………ん?」
こなたが気づいた。ふと手を目の前に差し出してくると、何かがパラパラとその手に振ってきた。
これは――
「砂…………?」
「こんな街中でか?
黄砂が飛んでくるような環境でもないはずだぞ」
つぶやくこなたにマスターコンボイが答えた、その時――突然、大地が震えた。
「じ、地震!?」
思わず声を上げるこなただったが、
「違う!
アレを見ろ!」
答え、マスターコンボイがビル街の一角を指さ――突然ビルが砂の塊となり、崩れ落ちていく!
しかも、その現象はこちらにどんどん近づいてきていて――
「ま、マスターコンボイ!」
「ちぃっ!」
声を上げるこなたと共にとっさに離脱しようとするマスターコンボイだったが、時すでに遅し――すぐとなりのビルが砂となって崩落、巻き起こる砂の流れが二人を飲み込み、押し流す!
「マスターコンボイ! こなたお姉ち――ぶわぁっ!?」
「こっ、こっちも!?」
「いかん! 逃げるでござる!」
さらには、ロードナックル兄弟、アイゼンアンカー、シャープエッジも同様に近くのビルの崩落に巻き込まれ――
「みんな…………!」
ただひとり――空中に逃れることができたジェットガンナーだけが、その場にただひとり残されることとなった。
「な、何や、これ……!?」
突然の異変は、ジェットガンナーの緊急連絡によってすぐに六課に伝えられた――ウィンドウに映し出されたその光景に、はやては呆然とつぶやくしかない。
なぜなら、映し出された街は多くのビルが砂となって崩れ落ち、まるで出来の悪い近未来SFに出てくる砂漠化した街の如き様相を呈しているのだから。
「と、とにかく何とかせぇへんと……
シャーリー!」
〈すでにフォワード部隊がライナーズと共に出動しています!〉
それでも、とにかく対応しなければならない。声を上げるはやてに、ノイエ・アースラのブリッジからシャリオがそう答える。
「な、何が起きたの……!?」
「ビルが、砂になるなんて……!」
今まで、こんな現象は見たことがない。つぶやくなのはとフェイトだったが、
「……共振を利用した分子破壊だよ」
そう答えたのはアリシアだった。
「今、直前に起きた地震のデータが届いたんだけど……揺れの波形が微妙に、一定の長さで数種類に変化してるの。
そしてそのそれぞれが、崩壊したビルの構造材の固有共鳴周波数と一致する。
この地震は自然のものなんかじゃない。固有共鳴周波数と同調する振動を加えて、該当するビルを分子レベルで分解する――“攻撃”だよ」
「これが、攻撃だというのか……!?」
その、ホスピタルタートルでのはやて達のやり取りは現場にも通信という形で届いていた。目の前に広がる砂漠を見回し、ジェットガンナーは呆然とつぶやいた。
「だとしたら、敵がまだひそんでいる可能性も……
八神はやて二等陸佐。救助か敵への警戒か、指示を願う」
〈ヘタに救助に動いたら、狙い撃ちされる可能性もあるな……
とはいえ、巻き込まれてまった人達を見殺しにはできへん――もちろんマスターコンボイや他のみんなもや。
最優先は救助。せやけど、当然敵の襲撃には警戒するんやで〉
「了か――」
はやての答えにうなずきかけ――何かに気づき、ジェットガンナーは動きを止めた。
「失礼。
前言を撤回――まずは障害の排除を優先する」
〈何でや!?〉
「“犯人”の――お出ましだからだ!」
ジェットガンナーがそう答えるのと同時――砂漠の一角の砂が弾け飛んだ。
そして、姿を現したのは――身長6m強の、ミミズの瘴魔獣だった。
「アレは……ヘルマーズ!?」
「知ってるん? ライカさん」
ジェットガンナーの前に現れた瘴魔獣には覚えがあった。尋ねるはやてにうなずき、ライカは説明する。
「アイツはミミズを媒体にした瘴魔獣で、名前はヘルマーズ……
でも、アイツの属性は“地”……“水”属性のザインが瘴魔を仕切ってるこのミッドチルダで、どうして……!?」
「いずれにせよ、ヤツがこの破壊の犯人であることは間違いない。
撃破し、マスターコンボイや泉こなた嬢の救助に入らせてもらう!」
ホスピタルタートルではライカが首をひねっているが、現場にしてみればそんなことは関係ない。言い放ち、ジェットガンナーはジェットショットの銃口を向けた。
同時、瘴魔獣の持つ力場の情報を思い出す――が、防がれたとしても後続の仲間達のためのデータ収集と思えばいい。迷うことなく引き金を引き、人工魔力弾を撃ち放つ。
放たれた魔力弾が一斉にヘルマーズへと飛翔、展開された力場と激突し――
あっさりと貫き、ヘルマーズの身体を粉々に爆砕した。
「………………あれ?」
まさかあっさり貫くとは思わなかった――普段は寡黙なジェットガンナーだが、目の前の展開には呆然と声を上げていた。
「…………待て。
確か、以前にもこんなことが……」
そんなジェットガンナーが思い出すのは、以前、ハイパーベロクロニアがクラナガン港湾区で猛威を振るった時のことだ。
あの時、ハイパーベロクロニアは対峙していたガジェットにわざと自分を殺させ、巨大瘴魔獣として再生、復活した。
もし、今の状況があの時と同じだとするなら――
〈安心して。
そういうのは、多分ないから〉
しかし、ライカからの通信がそんなジェットガンナーの懸念を否定した。
〈アンタだけでもあっさり倒せたのは、単にソイツが弱かったからよ。
計測された瘴魔力がぜんぜん弱いもの〉
「どういうことですか?」
〈仮説だけど……やっぱりソイツ、ザイン達が作ったんだと思う。
ザイン達の属性は“水”――“地”属性の瘴魔獣を作ろうにも、属性が違うから……〉
「専門外であったから、思うように高い能力を持たせることが出来なかった……」
つぶやくジェットガンナーに、ライカは通信モニターの向こうでうなずいてみせる。
と――
「ジェットガンナー!」
眼下の地上から声が上がる――見下ろすと、地上にはライナーズの列車型トランステクターが到着。ライトライナーから降りてきたティアナがこちらを見上げている。
「ランスター二等陸士……到着したか」
「あたし達だっているっつーの」
目の前に降下し、つぶやくジェットガンナーにかがみが答えると、
「それより、ジェットガンナー!
マスターコンボイさんとこなたは大丈夫なの!?」
「アイゼンアンカーは!?」
「シャープエッジは無事なんですか!?」
そんなかがみを押しのけ、ジェットガンナーに詰め寄るのはスバル、エリオ、キャロだ。口々にそれぞれのパートナーの安否を尋ねるが、
「はいはい、3人とも少し落ち着いて」
そんな3人をギンガがなだめた。ジェットガンナーを見上げて、確認する。
「みんなは……この砂の下?」
「その通りだ。
崩れたビルの砂が流れを作り、離脱の遅れた彼らを押し流してしまった。
瘴魔獣の仕業か、サーチも妨害がかかっていて、位置の特定は難しい」
「地道に探すしかないっスね……」
「それに、他にもたくさんの人達が生き埋めになってる……その人達も助けないと」
答えるジェットガンナーの言葉に、ひよりやみなみがつぶやき――
「……ち、ちょっと待ってください!」
気づき、声を上げたのはみゆきだった。
「ジェットガンナー……サーチにはまだ妨害がかかってるんですか?」
「あぁ。
強力なジャミングが……そのせいで、ランスター二等陸士が声をかけてくるまでキミ達の到着に気づかなかったぐらいだ」
尋ねるみゆきにジェットガンナーはそう答え――気づいた。
「……そうだ。確かにおかしい。
瘴魔獣は倒したのに……なぜジャミングが解けない!?」
「そういえば……
まさか、まだ敵がいるとか!?」
ジェットガンナーの言葉につかさが不安げに周囲を見回し――
「――――――っ!
いた! 上!」
気づき、声を上げたのはティアナ――見上げた彼女の視線の先で、新たな巨大瘴魔獣が出現する!
半透明のカサのような本体の下から、多数の触腕が伸びている。考えるまでもなくベースはクラゲだろう。あまりにも“そのまんま”すぎる。
「ヤツが本命!?
それなら――!」
ヘルマーズが倒されたことで自ら出陣、といったところだろうが、出てきたのなら倒すまで。言い放ち、かがみはクーガーの銃口を瘴魔獣に向ける。
〈かがみ、気をつけて!
“Bネット”のライブラリにもない新型よ――能力がわからない分、慎重に!〉
「それならなおさら先手必勝!」
警戒を促すライカに答え、かがみが魔力弾を生み出し――そんな彼女に対し、瘴魔獣は突然身体中から霧のようなものを噴出し始める。
「何アレ!?」
「まさか……ガス!?」
「いや……毒物反応は感知されない」
何かの攻撃だろうか――警戒するつかさやエリオにはジェットガンナーが答えた。続いて、レッコウから観測用スフィアを飛ばし、キリを分析したあずさが告げる。
「瘴魔力を帯びてはいるけど、成分自体はただの海水……正真正銘、無害よ。
たぶん、瘴魔力探知と視覚をくらませるジャミングが目的なんじゃ……」
「だったら、目をくらまされる前に叩き落としてやるわよ!
ハウリング、パルサー!」
方針は変わらず先手必勝。あずさの言葉に応えたかがみは迷うことなく自身の主砲、ゴッドオン時の必殺技を再現した砲撃魔法を撃ち放った。
解放された薄水色の魔力弾が、一直線に瘴魔獣へと襲いかかり――
すり抜けた。
「え………………?」
「実体じゃない……
……まさか、ティアのと同じ幻術!?」
「でも、ティアナさんのと違って、攻撃を受けても消えませんよ!?」
直撃と思っていたのがまさかの不発――かがみが目を丸くし、スバルやキャロも驚きの声を上げる。
対し、瘴魔獣は上空から一同を悠々と見下ろし――
「――――みなさん、危ない!」
気づいたみゆきの警告で全員が散開――直後、“背後から”放たれた閃光が、スバル達のいた場所の砂を吹き飛ばす!
「本体は向こう――って、いない!?」
攻撃してきたということは、幻にまぎれて背後に回り込んでいたか――振り向き、敵の姿を探すひよりだが、振り向いた先の瘴魔獣の姿はない。
と――視界のすみ、何もない空中から突然閃光が放たれた。再度の攻撃をかわし、スバル達は改めて集結する。
「攻撃の瞬間にも姿を見せない……ショックフリートの量子飛躍とも違う……!?
ロングビュー、そっちのカメラは!?」
うめき、相棒であるリアルギアのひとり、ロングビューに尋ねるあずさだが、ロングビューも力なく首を左右に振るばかりだ。
と――
〈みんな、聞こえる!?〉
「八神部隊長!?」
突然はやてからの通信が入った。声を上げるティアナにかまわず、はやては一同に告げる。
〈相手の能力がつかめへん――ここは一旦、撤退するんや!〉
「で、でも、マスターコンボイさんやクロくん達が!」
「そうですよ! こなた達を助けないと!」
〈そのためにも下がれって言ってるんよ!〉
思わず反論の声を上げるスバルやかがみだったが、そんな二人にもはやては厳しくそう答える。
〈そのまま戦ってもジリ貧なだけや!
みんなを助けるにはそいつを倒さなあかん――そのためにも、今は作戦を立て直すんよ!〉
「………………っ!
……わかり……ました……!」
確かに、このまま戦い続けても勝ち目は薄い――はやてにその現実を突きつけられ、スバルは唇をかみながらもうなずくしかなかった。
「結論から言えば――幻ね」
スバル達が戻った時には、すでにあずさからデータを送られていた霞澄による分析が終わっていた――はやて達も交え、格納庫で開かれた対策会議の中で、彼女は開口一番そう切り出した。
「幻、って……やっぱり、ティアの幻術みたいなものですか?」
「ノンノン、違うわよ、かがみちゃん。
“幻術”じゃなくて、単なる“幻”よ」
かがみにそう答えると、霞澄はティアナへと向き直り、
「さて、ティアナちゃん。
あなたのデバイス、クロスミラージュの名前の語源は何かしら?」
「え?
えっと……“蜃気楼”、ですよね?
ジュンイチさんのデバイスの名前の語源でもある、自然現象の幻……」
「正解。
あの瘴魔獣――こっちの方で“ジェライド”ってコードネームをつけさせてもらったけど、アイツはティアナちゃんみたいに幻を直接作り出したんじゃない。周りの環境を変化させて、人工的に蜃気楼のような幻を作り出していたの」
ティアナの答えにうなずき、そう説明した霞澄は改めてウィンドウを展開した。
そこに表示されたのは、クラゲ型瘴魔獣ジェライドの散布した霧の詳細な分析結果である。
「この霧に使われてる海水なんだけど……瘴魔力が付加されているのはみんなも気づいてるわよね?
その効果で自分の位置をサーチさせないようにしていた、っていうのも知っての通り――でも、こいつにはさらに、別の役割があったの。
水が元々持っている光の屈折率――それを任意に変化させることで、自分に当たる光を屈折させて、まったく違う位置に自分の姿を映し出したり、自分の姿を消したりしていたの」
「なんだ。
フタを開けてみれば、案外シンプルなトリックじゃないか」
「シンプルだからこそ、攻略が難しいんだ」
説明を聞き、つぶやくジャックプライムだが、スターセイバーがそう苦言を呈する。
「一帯に瘴魔力をばらまかれている以上、サーチはもちろん、ライカ嬢達の探知もおそらくは通じまい。
光を屈折されては光学系センサー類も役には立つまいし、動体センサーもあの霧の濃さでは期待はできん。
ヤツの位置をつかむのは、容易なことではない」
「大丈夫だって!
“風”属性のスバルとか、ボクやかがみちゃんがあの霧を吹き飛ばしてやれば……」
「あー、それムリ」
スターセイバーに答えるジャックプライムだったが、そこに待ったをかけたのは霞澄だ。
「あの霧に付加された瘴魔力の役割はもうひとつ。
水滴の座標固定――ある程度まで散布された段階で水滴の位置を固定して、吹き飛ばされるのを防いじゃうの。
あちらさんもバカじゃない――“風”属性の攻撃で霧を吹き飛ばしにくる、っていうのは、すでに読まれてるみたいね」
「うーん、そっか……」
「あの霧をどうにかするのはあきらめて、あの状態でもアイツの位置をつかむ方法を見つけんとあかん、っちゅうことやな?」
ジャックプライムが肩を落とす一方ではやてもため息まじりにつぶやいて――
「…………ひとりだけ、適任者がいる」
不意に口を開いたのはイクトだった。
「本当ですか? イクトさん」
「あぁ」
フェイトの問いにうなずくと、イクトは自分達の背後、開け放たれたままになっている格納庫の外部ハッチへと視線を向け、
「そういうことだ。
こっちとしては貴様の力を借りたい。遠慮しないで入ってこい」
「了解した」
告げるイクトに答え、入り口から姿を現したのは――
「ブレインジャッカー!?」
「久しいな、機動六課」
思わず声を上げるはやてに対し、ブレインジャッカーはあっさりとそう答えてこちらの輪に加わってくる。
「なんで、ブレインジャッカーが……!?」
「人の思考を読み取るオレにとって、人の心に怒りや悲しみを生み出させる瘴魔は不愉快極まりない相手だ。
お前達がヤツらを叩くと言うのなら、共闘するのも選択肢のひとつだ」
意外な人物の登場に、基本的に“来るもの拒まず”のなのはも驚きを隠せない。呆然とつぶやくなのはにブレインジャッカーが答えると、
「つまり、力を貸してくれる、ってことでいいんだよね?」
その一方で、ブレインジャッカーに尋ねるのはスバルである。
「マスターコンボイさん達を助けるのを、手伝ってくれるんだよね?」
「それは少し違う。
オレは瘴魔が気に入らないから叩く。お前達はそれに便乗して被災者を助ければいい」
「うん。それでもいい」
淡々と、突き放すように告げるブレインジャッカーだったが、スバルはそれでも笑顔で答えた。
「がんばろう、ブレインジャッカー。
力を合わせて、アイツをやっつけて……マスターコンボイさんや、みんなを助けよう!」
「……やれやれ。
かつては仲間をさらったこともあるオレを相手に、なんとも無防備な……」
「あきらめなさい、ブレインジャッカー」
いつの間にかうやむやになっていたが、自分達は決して仲間というワケではない。にも関わらずこの無条件の信頼ぶりは――困惑気味に首をひねるブレインジャッカーに、ティアナはため息まじりにそう告げて、
「その子は根っから“そんなん”よ。
もうすでにいろいろ手遅れなんだから、そのくらい割り切りなさい」
「ティアひどっ!?」
「そうだね……確かに」
「あず姉まで!?」
「将来が心配なのよねぇ……いろいろと」
「ギン姉もひどいよーっ!」
ティアナ、あずさ、さらにはギンガまで――近しい人間から次々にダメ出しされ、スバルは涙目で抗議の声を上げ――
「…………創主よ」
そんな彼女達にかまわず、ブレインジャッカーは霞澄に声をかけていた。
「何?」
「“フォーメーション”のロックを解除してほしい」
「………………っ!」
聞き返す自分にあっさりと答えたその言葉に、霞澄の顔が驚愕に染まった。
「…………本気?」
「必要になる可能性は高い」
思わず確認するが、ブレインジャッカーの答えは変わらない。仲間達とワイワイと騒いでいるスバルへと視線を向け、
「彼女達の心も実に興味深い。
貴重な観察対象を失うのは、オレとしても本意ではない」
そして――ブレインジャッカーは霞澄に告げた。
「だから……解放してほしい。
我々の“真の力”を……彼女達を守るための力として」
「…………ン……」
「目が覚めたか?」
意識が浮上し、四肢が力を取り戻す――目を開けたこなたに、マスターコンボイは静かに声をかけてきた。
「マスターコンボイ、ここは……?
私達、確か……」
自分達は突然のビルの崩落に巻き込まれ、生き埋めになったのではなかったか。つぶやき、こなたは周囲を見回し――
「……あ、まだ埋まってるんだ」
「フォローしてやったオレに感謝するがいい」
自分達がいるのは、目の前にブレードモードで浮かぶオメガが展開したバリアの中――かろうじて砂をしのいでいる状況の中、つぶやくこなたにマスターコンボイが答える。
「他のみんなは……まだ埋まってると見ていいよね?
六課のみんなは動いてないの?」
「知るか。
この周りの砂が帯びている瘴魔力がジャマをして、地上の様子がサッパリわからん」
尋ねるこなたに芳しくない答えを返すマスターコンボイだが、その態度はずいぶんと落ち着いたものだ。
「えっと……なんか、平然としてるね?」
「当然だ。
現時点で動いているのかいないのかはわからんが……最終的には六課は必ず動く」
尋ねるこなたにそう答えると、マスターコンボイはニヤリと笑い、告げた。
「アイツらが動くんだぞ。
その時点で、オレ達の救出は約束されたようなものだろうが」
スバル以下六課フォワード陣が撤退して早数時間――ジェライドは今なおそこにいた。
ただ空中に留まり、人間やトランスフォーマーの動きに目を光らせる――己の任された“役目”を果たすため、全身の感覚器官をフルに働かせる。
だからだろう。
こちらに向けて猛スピードで接近するいくつかの機影に、ジェライドはいち早く気づくことが出来た――それが先に追い返した機動六課の面々と認識すると、ジェライドは再び人工霧を散布し始めた。
「頼むわよ、ブレインジャッカー!
この作戦、アンタにかかってるんだからね!」
「言われるまでもない」
ジェットガンナーへとハイパーゴッドオン、ビークルモードで飛翔するティアナの言葉に、ブレインジャッカーもビークルモードのジェット機形態のままそう答え、
「大丈夫だよ、ティアちゃん。
あたしがきっちりフォローしてあげるからさ」
そうティアナに答えるあずさがいるのは、ブレインジャッカーのライドスペースだ。
今回の彼女の役目はブレインジャッカーの補佐だ。“四神”の優れたサポート能力でブレインジャッカーの思考リンクを補助し、同時にブレインジャッカーの読み取った情報を各自に伝える司令塔としての役目を務めるのだ。
「ティア、マスターコンボイさん達は任せて!
あたし達で絶対に助けるから!」
「当然よ!
手早くパッパとやっちゃいなさい!」
地上でも、ライナーズがハイパーゴッドオンを済ませ、ビークルモードのままスバル達を機上に乗せて現場に急行中――ライトライナーの上から告げるスバルにティアナが答え、かがみ達と共に叫んだ。
『トランス、フォーム!』
「いくわよ、ジェットガンナー!」
「わかっている!」
先陣を切るのは、ジェライドとの直接交戦を担当するティアナとジェットガンナーだ。一気に加速してジェライドへと突撃、射程に捉えると同時にクロスミラージュとリンクさせたジェットショットの引き金を絞る。
が、すでにジェライドは幻と入れ代わっていた。放たれた魔力弾は実体のない瘴魔獣の姿を虚しく貫くが、
「あずささん!」
「うん!
ブレインジャッカー、お願い!」
「了解。
思考リンクシステム、スキャン開始」
ティアナの呼びかけであずさとブレインジャッカーが動く。ブレインジャッカーが思考リンクシステムを起動し、ジェライドの“思考”を探す。
あずさも“四神”やリアルギア達を接続してサポート。処理能力を引き上げられたブレインジャッカーのシステムは標的をすぐさま見つけ出し、
「8時だ」
「ティアちゃん、8時方向!」
「了解!」
ブレインジャッカーからのサーチ結果を受け取ったあずさが叫び、素早く対応したティアナの放った魔力弾が、初めてジェライドを直撃、爆発を巻き起こす。
対し、ジェライドは再び霧の中にその身を潜めた。姿を隠し、ティアナを狙うが――
「……2時、砲撃」
「2時方向! 砲撃付き!」
ブレインジャッカーには通じない。彼の言葉をあずさが伝え、ティアナはジェライドの放った閃光をかわし、逆にクロスファイアを叩き込む!
「ったく、上はハデにやってるってのに、こっちはこっちで地味なもんよね」
「ま、まぁ……ハイパーゴッドオンまでしておいて、やってることは穴掘りっスからね……」
一方、かがみ達はジェライドをティアナ達に任せて救出作業の真っ最中――それぞれ両足のホバー推進システムで足元の砂を吹き飛ばし、かがみとひよりが苦笑まじりにそうつぶやき、
「マスターコンボイさん! こなたぁっ!」
「シロくん、クロくん! 今助けてあげるから!」
「あっちはあっちでなんかありえないテンションになってるし……」
「人間削岩機……」
スバルとギンガはトランスフォーマー顔負けの働きぶりを見せていた。それぞれの相棒を救うべく、リボルバーナックルから竜巻を放ち、ものすごい勢いで砂原を掘り返す姉妹の姿に、かがみ達はもう一度苦笑する。
と――
「見つけました!」
「シャープエッジ、しっかりして!」
「ひ、ひどい目にあったでござる……」
最初に発見したのはみゆきとキャロだ。砂の中に埋まっていたシャープエッジをみゆきのゴッドオンしたロードキングが引っ張り出し、
「シロくん、クロくん!」
「大丈夫!?」
「え!? 見つかったの!?」
「うぇ〜ん、怖かったよぉっ!」
《瘴魔力でしびれて、ちっとも動けなかったしなぁ……》
みなみやつかさの声にギンガが彼女の元へと走り、掘り出されたロードナックル・シロやクロが口々に声を上げる。
そして――
「――いたっス! アイゼンアンカー!」
「アイゼンアンカー!」
ひよりがアイゼンアンカーを発見した。エリオが声を上げ、掘り出されたアイゼンアンカーへと駆け寄る。
「ちょっと、しっかりしなさいよ!」
「だ、大丈夫だよ……!」
呼びかけるかがみに応え、アイゼンアンカーは頭を振りながら身を起こし、
「あー、でもでも、もうちょっと後になってから掘り出してくれればよかったかな?
逆転してから掘り出してくれれば、エリオもボクも楽できたのにぃ」
「お望みどおり埋め戻してやろうかしらねぇ……!」
相変わらずイマイチやる気がない男だ。あっけらかんと告げるアイゼンアンカーに対し、かがみは口元を引きつらせつつそううめいた。
「マスターコンボイさん! こなた!」
次々と仲間達が救出される中、マスターコンボイとこなたは未だ砂の中――懸命に地面を掘り返すスバルだったが、その姿を見つけ出すことはできないでいた。
「まさか、もっと遠くに流されたんじゃ……!」
こなたはもちろんのこと、ヒューマンフォームとなりその身体が限りなく人間のそれに近づいているマスターコンボイの体重も体格相応にかなり軽い。スバルの脳裏をよぎった可能性も十分にあり得る。
そうなると見つけ出すのは極めて困難――あきらめの感情が一瞬脳裏をよぎるが、
「ううん……! 絶対に見つけるんだ……!」
しかし、それも一瞬のこと。前の部隊で培ったレスキュー魂に火をつけ、スバルは拳を握りしめ、
「必ず、見つけるんだ……!
二人の相棒のあたしが、必ず!」
自身の魔力を込められるだけ拳に込め、振りかぶり――
「お願い……!
二人に、届いて!」
竜巻を伴った拳を、足元の砂原に叩き込む!
「――――――っ!
マスターコンボイ!」
「あぁ……
この魔力……スバル・ナカジマだ」
そんなスバルの想いを込めた魔力は、確かに彼らの元へと届いていた――気づき、声を上げるこなたに、マスターコンボイが答える。
「そうとわかれば、ここでじっとしている理由はないな」
スバルが助けに来たということは、当然他の面々もいる。これで多少はムチャが利く――告げて、マスターコンボイは自分の作り出した空洞の中で立ち上がり、バリアを維持していたオメガを手にする。
「かまえていろ、泉こなた。
少々ハデに――脱出するぞ!」
そう告げるマスターコンボイの言葉と共に、オメガはバリアを維持したままその刀身にマスターコンボイの魔力を集中させていく。
そして――
「オレ達はここにいる――!」
「気づけ、スバル!」
渾身の力で繰り出した魔力の渦が、頭上に降り積もった砂へと叩きつけられた。
「6時、上方」
「ティアちゃん! 6時方向、上!」
「はい!」
ブレインジャッカーやあずさの言葉と共にすぐに動く――振り向き、ティアナの放った魔力弾が直撃し、ジェライドは大きく姿勢を崩す。
「よぅし、行ける!」
元々能力値的には決して負けていなかったのだ。相手の優位を許していた特殊能力が通じなくなってしまえば、決して勝てない相手ではない――手応えを感じ、ティアナがつぶやくと、
「――――――っ!?」
突然、離れたところで“力”がふくれ上がった――周囲に満ちた瘴魔力のジャミングをものともしないほどの“力”が、砂漠の一角から空に向けて撃ち上げられる!
「あれって……マスターコンボイさん!?」
その“力”の正体に真っ先に気づいたのはスバルだ。声を上げ、“力”の撃ち上げられた場所に向けて走り出す――が、そんな彼女に向け、ジェライドが砲撃を撃ち放つ!
「スバル!」
結果的にジェライドに背を向ける形となったスバルの反応は完全に遅れた。ティアナが悲鳴を上げる中、スバルに向けて砲撃が迫り――
「人の観察対象に――手を出すな!」
その砲撃を、飛び込んできたブレインジャッカーがバリアで防御、受け止める!
「よぅし!
理由はどうあれ、でかしたわよ!」
自分達を“観察対象”呼ばわりするのは気に入らないが、結果としてスバルを守ってくれたのだから良しとしよう。スバルを守ったブレインジャッカーの姿にティアナが声を上げ――
「ランスター二等陸士!」
「って、しまった!?」
それが油断につながった。ジェットガンナーの警告も間に合わず、ジェライドの触腕によってからめ取られてしまう!
「このっ、放しなさいよ!」
なんとか触腕を振りほどこうとするティアナだが、ジェライドはむしろ触腕ごと彼女とジェットガンナーを吹き飛ばすつもりのようだ。彼女達を捕まえたまま、狙いをつけた砲撃をチャージし――
「ティアナさん!」
「今助けます!」
そんな彼女達を救ったのは、ハイパーゴッドオンして駆けつけてくれた、頼れる仲間達――アイゼンアンカーとエリオがアンカーロッドでジェライドの本体に一撃、シャープエッジとキャロがジェライドの触腕を断ち切り、
「ティア!」
空中に放り出されたティアナ達をウィングロードで駆け上がってきたギンガとロードナックル・シロが受け止める。
「みんな、ありがと!
そんじゃ、反撃開始といきましょうか!」
助けてくれた仲間達に礼を言い、ティアナは改めてジェライドをにらみつけて宣言し――
「その通りだ」
そんな彼女達に告げるのは、頭上に佇むブレインジャッカーだ。
「何度もオレの観察対象に手を出してくれた……つくづく不愉快なヤツだ。
もはや念入りに痛めつけてやらなければ気がすまん――やはり、創主にロックを解除してもらったのは正解だった」
そして、ブレインジャッカーはティアナやギンガ、エリオにキャロ――GLXナンバーとハイパーゴッドオンしている面々を見回し、告げた。
「さぁ、お前達――」
「“合体するぞ”」
『………………は?』
あまりにも当然のようにそう言われ、みんなそろって一瞬思考が停止する――ブレインジャッカーの言葉に、ティアナ達は思わず声を上げる。
「………………?
どうした?」
「ど、『どうした?』じゃないわよ!
いきなり合体、って、アンタ正気!?」
「失敬な。AIプログラムは正常に稼動している」
不思議そうに聞き返され、思わずティアナが声を上げるが、そんな彼女の戸惑いにもブレインジャッカーはあっさりとそう返してくる。
「何を驚くことがある?
今までだってぶっつけ本番の合体などいくらでも経験してきているだろう?」
「い、いや、それはそうですけど……」
「そんなふうに『さぁやるぞ』なんて流れでやったことなかったから、なんか、調子が……」
一方、エリオやキャロも戸惑いを隠せない。告げるブレインジャッカーにそう答えるが、
「なるほど。いきなりで気が乗らないのか。
だが、それだけならシステム上何の問題もないな。さぁやるぞ」
「いや、待って!
『さぁやるぞ』じゃなくて! せめてこっちの同意を取りつけてぇっ!」
あくまでマイペースに話を進めるブレインジャッカーにギンガがツッコむが、今の彼には通じない。まったく気にすることもなく、迷わず合体用のプログラムを立ち上げた。
『ロードナックル!』
『ジェットガンナー!』
『アイゼンアンカー!』
『シャープエッジ!』
『ブレインジャッカー!』
ティアナ達4人と5体のGLXナンバー、そしてあずさ――それぞれの咆哮が響き渡り、彼らは次々に上空へと跳躍し、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
宣言と同時にそれぞれが変形を開始、合体体勢に入る。
まずはロードナックル・シロだ。ビークルモードにトランスフォーム。車体脇のアームに導かれる形で後輪が前輪側に移動、前輪を含めた4つのタイヤが整列し、車体後尾には合体用のジョイントが露出、巨大な左腕へと変形する。
次はシャープエッジがビーストモードに変形。喉元にあたる部分に合体用のジョイントを露出させる。
ジェットガンナーもビークルモードへとトランスフォームすると、そこから機首を後方にたたみ、機体下部の装甲を展開して合体ジョイントを露出させる。
最後にアイゼンアンカー。分離し、運転席側をジョイントとして合体していた2台のビークルは今度は車体後尾をジョイントとして合体。小型クレーンにトランスフォームしたアイゼンアンカー自身は背面側に合体し、起き上がった運転席部分を爪先とした、下半身へと変形する。
そして、変形した各員が下半身を分離させたブレインジャッカーの周囲に配置。アイゼンアンカーの変形した下半身がブレインジャッカーの上半身に合体。その後方、アイゼンアンカーの本体が合体したそのさらに後方には
ブレインジャッカーの下半身が合体し、まるで神話に出てくるケンタウロスのような人馬状の下半身が完成する。
ロードナックルとシャープエッジはブレインジャッカーの両肩アーマーに合体。ブレインジャッカー自身の両腕を残したまま、1対の追加アームとなる。
最後にジェットガンナーがバックパックとしてブレインジャッカーの背中に合体。ブレインジャッカーのウィングが展開され、各機の合体が完了する。
ジェットガンナーの機内から射出されたヘッドギアがブレインジャッカーの頭部に被せられ、各システムが再起動。カメラアイに輝きがよみがえる。
全身に力がみなぎり、力強く拳を、アームを打ち合わせ、ひとつとなったティアナ達が名乗りを上げる。
『星雷合体! Vストライカー!』
「ほ、ホントに合体しちゃった……」
「う、うん……」
なんだかブレインジャッカーに促されるまま、うやむやのうちに合体するハメになった――合体を遂げたVストライカーの“中”で、キャロやエリオが戸惑いがちにつぶやく。
「今までの中で一番釈然としない合体だわ……」
せめて、こっちがちゃんと応じるまでは待ってほしかった。ティアナが思わずうめくのもムリのない話だが――
「気にするな、オレは気にしない」
『いや、そこは気にしよう(しましよう)よ!』
当のブレインジャッカーは涼しい顔だ。あっさりと言い切るその言葉に、ティアナ達はもちろん、アイゼンアンカー以下他のGLXナンバー達からもツッコミの声が上がるが、
「そんなことを言っている場合か?
来るぞ」
ブレインジャッカーの言葉に、全員が意識を切り替える――そんな中、ジェライドは彼らに向けて触腕を伸ばしてくる。
が――
「そんなの!
イスルギ!」
〈Elment-Install!
“GUARD”!〉
Vストライカーには通じはしない。ライドスペースのあずさが身にまとうイスルギに命令を下し、応じたイスルギがエレメントカートリッジをロード――解放された防御系ブーストの魔力がVストライカーを通じてバリアとなり、ジェライドの触腕を弾き飛ばす。
それでも、あきらめずに再度触腕を伸ばすジェライドだったが、
「ムダだって言ってんの、わかんないかな!
レッコウ!」
〈Elment-Install!
“SLASH”!〉
あずさは今度はレッコウにエレメントカートリッジをロード。右肩に合体したシャープエッジのテールカッターに解放された魔力が集められ、
「キャロちゃん!」
「はい!」
あずさの指示でキャロがシャープエッジの機体を操り、テールカッターで触腕を断ち切る!
「今度は、こっちの番だ!」
続いて、エリオの操作でVストライカーは両手にアンカーロッドをかまえ、
「いくわよ!
ゴウカ!」
〈Elment-Install!
“WING”!〉
あずさがゴウカを通じて飛翔系の能力を強化。ティアナがジェットガンナーのバーニアをふかし、Vストライカーの巨体が空中に浮かび上がる。
そして、Vストライカーは一気に間合いを詰め、
「レッコウ――もっかいお願い!」
〈Elment-Install!
“CLASH”!〉
「いっけぇぇぇぇぇっ!」
「たぁぁぁぁぁっ!」
あずさが打撃力を強化し、エリオがジェライドに向けてアンカーロッドで一撃、さらにギンガが左肩のロードナックルで追い討ちをかけた。
アンカーロッドでの連撃に加えて巨大な拳を叩きつけられては、ジェライドはひとたまりもなかった。なすすべなく大地に叩き落とされる。
「ブレインジャッカー! 今度はアンタよ!
イカヅチ!」
〈Elment-Install!
“BLAST”!〉
「わかっている」
そして、連続攻撃の締めくくりはブレインジャッカーだ。あずさが砲撃を強化する中、背中に合体したジェットガンナーを取り外すと後部をジェライドに向けるようにかまえ、
「ジェットバスター!」
同時、本体に合体している際はバーニアとして機能するジェットショットが火を吹いた。ジェットガンナー本体、さらにはVストライカーと直接つながっていることで何倍にも威力を増した魔力砲が、ジェライドを直撃、吹っ飛ばす!
「さぁて……みんな、とどめといくわよ!」
『了解!』
そして、あずさの言葉に一同がうなずき――そんな彼女にブレインジャッカーが尋ねた。
「なぜ貴様が仕切る?」
「アンタのテンションが低いからでしょーがっ!」
『フォースチップ、イグニッション!』
ティアナ達4人と5体のGLXナンバー、そしてあずさ――総勢10名の咆哮が響き、その声に答えるかのようにミッドチルダのフォースチップが飛来した。Vストライカーの背中のチップスロットへと勢いよく飛び込んでいく。
それに伴い、Vストライカーの全身、合体しているGLXナンバー達の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
そう告げるのはVストライカーのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
『ヴイザンバー、Set up!』
そして、彼らの叫びに応え、両肩のシャープエッジとロードナックルが分離、合体形態を維持したまま連結するように合体すると、シャープエッジを刀身、ロードナックルを柄とした大剣が完成し、Vストライカーは両腕でそれをつかみ、豪快に振り回してみせる。
「あずささん!」
「OK!」
《Elment-Install!》
そして、ティアナの呼びかけにあずさも動く――彼女の言葉に応じ、“四神”がそれぞれにエレメントカートリッジをロードする。
〈“WIND”!〉
〈“THUNDER”!〉
〈“WATER”!〉
〈“EARTH”!〉
《4 Element, Install complete!》
ロードされたのはティアナ達4人の属性を強化するカートリッジ――4人の“力”をさらに高め、あふれ出たエネルギーがVストライカーの周囲で激しく渦を巻く。
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
再び制御OSが告げる中、解放されたフォーチップのエネルギーがヴイザンバーの刀身に集中、光の刃となったそれを肩に担ぐかのようにかまえ、Vストライカーはジェライドに向けて地を蹴った。
4本の足、そして背中のジェットガンナーのバーニア推進によって一気に加速。瞬く間にジェライドとの距離を詰め、
『ヴイザンバー、ヴィクトリーフィニッシュ!』
渾身の力で、ジェライドを袈裟斬りに叩っ斬る!
さらに、返す刀で逆袈裟にもう一撃。『V』の字に斬り裂かれたジェライドの前から離脱し――直後、ジェライドの身体は爆発、焼滅した。
そして――ジェライドだった燃え滓に背を向け、Vストライカーは高らかに告げた。
『Finish Completed!』
「マスターコンボイさぁんっ!」
「どわぁっ!?」
頭上の砂を吹き飛ばし、なんとか脱出したかと思えば相棒からの体当たり――いきなりスバルに飛びつかれ、マスターコンボイは思い切りその場にひっくり返った。
「よかった! 無事で!」
「よかないわっ! 思い切り散々な目にあったぞ、こっちわっ!」
よほどこちらの無事がうれしかったのだろう。しっかりとしがみついて離れようとしないスバルの頭を小突き、マスターコンボイはそう答えてため息をつき、
「それより、他にも被災者がいるんだぞ――敵が片づいたのならさっさと他所の部隊にでも救出活動にかからせろ。
どいつもこいつも、瘴魔力を帯びた砂に埋もれて身体が麻痺しているだろうが、命に別状はないはずだ」
「あ、はい!
じゃ、マスターコンボイさん、こなた、また後で!」
「あ、私のこと忘れたワケじゃなかったんだね」
「あはは……じゃ、行ってきます!」
返すこなたの言葉に苦笑し、スバルはパタパタと駆けていき――
「…………行ったよ」
「……だな……
…………ぐはぁぁっ! 疲れたぁっ!」
こなたの言葉に答え、マスターコンボイは大きく息を吐き出してその場に仰向けに倒れ込んだ。
「ずっとバリアを維持してた上にあの砲撃――思いっきりガス欠寸前だってのに、強がるねー♪」
「うるさい……っ。
オレは、相棒である以前に、先輩なんだ……先輩として、後輩にへたれたところを、簡単に、見せられるか……!」
そう。こなたを守るために砂の中でずっとバリアを維持し続け、さらに脱出のための砲撃でマスターコンボイの魔力は枯渇寸前まで消耗していた。笑いながら告げるこなたに対し、息を切らせながらそう答える。
そんなマスターコンボイに苦笑すると、こなたは夕日に照らされ佇むVストライカーへと視線を向け、
「……にしても……ティアにゃん達のトランスデバイスも合体しちゃったんだねー。
こりゃ、心強い仲間がまた増えたかな?」
「だと、いいんだがな……」
素直にティアナ達の強化を喜ぶこなただったが、マスターコンボイの答えはお世辞にも前向きとは言えないものだった。
「…………何か、気になることでも?」
「今回の敵の動きだ」
尋ねるこなたに答え、マスターコンボイは砂の上で身体を起こし、
「今回、ヤツらは自身を起こし、街を砂漠に変え、オレ達を生き埋めにした。
だが……それだけだ。外の様子は後でなのは達に聞かなければわからんが、少なくともオレ達が何かされた覚えはない」
「そなの?」
「そうなんだ。
貴様は途中まで目を回していたから確証はないかもしれんがな」
そう告げると、改めて夕焼けから夜の闇に変わりつつある空を見上げ、改めてつぶやく。
「これ以上、状況を混乱させられてはたまらん。
願わくば……これが、何かの前触れでないことを祈りたいんだがな……」
「………………どうします?」
「ほうっておきなさい」
そんなマスターコンボイの懸念に気づいているのかいないのか――彼らの様子を砂漠化したエリアの外、崩壊を免れたビルの屋上からから望遠映像で眺めつつ、ザインはセイレーンにそう答えた。
「今回の我々の“目的”はすでに果たしました。
ヘタに欲をかいても“策”に綻びを生じさせるだけ――ここは退きますよ」
「はーい」
ザインの言葉に手を挙げて同意を示すと、セイレーンがフルート型の愛用デバイス“淫欲(ラスト)”を手に立ち上がる――そんな彼女を連れて引き上げようと歩き出したザインは、ふと足を止めて砂漠化した街に視線を戻した。
「所詮、あなた達は何も気づかない。
所詮、気づいたところで何も出来ない。
最後に勝つのは、我々瘴魔です……」
「ザインさまー、帰りますよー」
「わかっていますよ、セイレーン」
自分のつぶやきは、おそらく誰にも聞かれはしなかっただろう――セイレーンの言葉に答え、ザインは先を歩いていたセイレーンの後を追ってビルの屋上から姿を消していった。
なのは | 「スバル達のパワーアップ編も終わったし、そろそろ私達も復帰かな?」 |
ジュンイチ | 「大変だ、なのは!」 |
なのは | 「ジュンイチさん……?」 |
ジュンイチ | 「次回からまた、舞台が六課から離れるらしい」 |
なのは | 「え…………? それって、まさか……」 |
ジュンイチ | 「そうだ。 お前らはまだしばらくの間、病院のベッドと、この次回予告の住人だ!」 |
なのは | 「えぇっ!? ちょっ、誰ですか、この作品の主人公はっ!?」 |
ジュンイチ | 「お前“だけ”じゃないのは確かだろうよ……」 |
なのは | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第84話『背景なんて言わせない! 〜連結合体テンカイオー〜』に――」 |
二人 | 『ハイパー、ゴッド、オン!』 |
(初版:2009/10/31)