自分の上にまたがるのは(実際の“正体”は別にして)下着姿で、しかも相当にスタイルのいい美少女――
「…………起きてたんスか」
「ノックで起きたんだよ」
――だというのに、ジュンイチの対応はこの上なく落ち着いたものだった。苦笑するウェンディに対し、淡々とそう答える。
「何スか、その淡白な反応。
あたしみたいな美少女が深夜にこんなカッコで部屋に来たら、男なら普通に諸手を挙げて大歓迎なんじゃないっスか?」
「状況があまりにも不自然すぎて、不審感の方が先に立ってるんだ、よっ!」
「ぅひゃあっ!?」
告げると同時、ジュンイチが勢いよく布団をはぐる――巻き込まれてバランスを崩し、自分の上から転げ落ちるウェンディにかまわず、身体を起こしてベッドの上であぐらをかく。
「悪いがオレはお前と“そういう”関係になる、そんな状況につながるようなフラグを立てた覚えはねぇ。お前的にあったとしても少なくともオレには自覚はねぇ。
ンな状況でいきなり夜這いなんぞかけられてみろ。むしろハニートラップ疑うのが普通だろうが」
「そこは有り余る男の欲望でフォロー」
「するかバカっ! できたとしてもやらねぇよ!
やったが最後、いろんな意味でマジメにアウトコース一直線じゃねぇか! オレはどこのジェノキラーだっ!?」
渾身の力でツッコミを入れて――息をついたジュンイチは改めてウェンディに告げた。
「で? 言い訳とかあるなら聞くけど?」
「いや、いきなり『言い訳』なのが前提っスか。
まず最初は『理由』として話を聞いちゃもらえないっスか?」
「ハッハッハッ、何を言ってるんだ。
世間一般ではな、自分にとって気に食わない、都合の悪い“理由”はすべて“言い訳”として処理されるモノなんだよ」
「なんかものすごい笑顔でものすごい理不尽を言い切った!?」
「理不尽かもしれないけど真実であり、事実だよ」
あっさりと答えるが――今はそんな世の中の真実で事実な理不尽を語る場ではない。さっさと本題に入ることにする。
「で? どういうつもりでオレの部屋に突撃かましたんだ?」
「もはや『夜這い』ですらなくなった!?」
「いいから。
とっとと話せ。オレはさっさと寝直したいんだ」
告げるジュンイチに対し、ウェンディは深々とため息をつき――口を開いた。
「昼間の戦いで、ジュンイチ……言ってたっスよね?
『あたし達に何かあったら、計画に狂いが出る』って」
「言ってたな」
「つまり……ジュンイチがあたし達を守ってるのは、自分の進めてる“計画”に関連して……なんスよね?」
「だな」
こちらに向けて語るウェンディの顔はいつになく真剣そのもの――なので、ジュンイチも茶化すことなくまじめに応じていく。
「それって……逆に言えば、“計画”にからんでなかったり、もうからむ必要がなくなった、とか……そういう子は守らない、ってことで……」
「…………なるほど。
そうやって“いらない子”になった時、オレという守護者がいなくなるのは、現状のお前らの戦力的には非常に困る、と……
現に今日、ヘタすればシャークトロンに殺されてたワケだしな」
納得し、つぶやくジュンイチに対し、ウェンディは無言でうなずいた。
「で、オレにお前らを“守る理由”を作るために、自分の身体を差し出した、と……
またなんつーバカなマネを……」
「バカとは何スか、バカとは」
ため息をつくジュンイチに対し、ウェンディは頬をふくらませる――ただ、いつものようなふざけた印象は受けない。本当に、マジメに不満なようだ。
「今日のことでしみじみ感じたっス。あたし達は、確かに戦闘機人で、戦う力もあるけど……今の戦いにはぜんぜん足りてない。
ジュンイチと“そういうこと”になって……それであたし達を守ってもらえるって言うなら、処女くらい、くれてやるっスよ……!」
繰り返しになるが、ウェンディは本当に真剣だ。決してノリなどで言っているワケではない。ジュンイチと自分達との“つながり”を作るために、本当に自分の“初めて”を捧げるつもりでここに来たのがわかる。
だから――
「うん。事情はわかった。
だから帰れ。オレは寝る」
「えぇぇぇぇぇぇっ!?」
ジュンイチは迷わず放置することにした。あっさりとウェンディに背を向け、再びベッドに横になり、布団にもぐり込む。
「ち、ちょっと!? こっちは大マジメなのに、それはないんじゃないっスか!?」
「大マジメだからこそ、だよ――ンな打算で抱けるか。
こっちだってなぁ、そういう相手がいないってだけで、そういうのに対する倫理とか理想っつーもんは普通に持ってんだ。それに反するマネはしたくない」
あわてて揺り起こそうとするウェンディだが、ジュンイチは布団の中にもぐり込んだままだ。もはや話は終わりだとばかりにそう答える。
いや――手だけがニュッ、と布団の中から伸びてきた。枕元にたたんで置かれていた自分の着替え、その中から手探りで道着の上着を探し当てるとウェンディに手首のスナップだけで投げ渡す。
「とにかく、お前の心配はまったくのムダなんだ。
それだけ理解したら、今日はそれ着てさっさと帰れ……こっちはもう……いい加減……眠いんだ……」
そこまで語ったところで早々に限界が来たのだろう。ジュンイチのもぐり込んだ布団から心地よい寝息が聞こえてくる――これ以上は無意味と判断して、ウェンディはジュンイチの貸してくれた上着を羽織って部屋を出た。
「……『心配するだけムダ』っスか……」
照明の落ちた廊下を歩きながら、ジュンイチの言葉を思い出してひとりつぶやく。
「心配……するに決まってるじゃないっスか……
そういうこと言うなら……敵のまま、優しくしないでほしいっスよ……!」
ギュッ……と、防刃繊維で編まれた上着をつかむ手に力がこもった。
第86話
翼、再び
〜新たな力、エリアルバスター!〜
明けて翌日――
「ふわぁ〜あ……」
「アンタねぇ……アクビするならちゃんと口隠してからしなさいよ」
臆面もなく大アクビをかますジュンイチの姿に、格納庫ですずかと二人で作業を進めていたイレインは呆れ果ててため息をついた。
「まったく、行儀の悪い……」
「行儀なんて対外的な場所に出た時に使うもんだ。
オレぁそういう時はちゃんとできるからいいんだよ」
「ホントにちゃんとできちゃうからタチが悪いのよね、このバカの場合……」
本当に締める時はきちんと締めてくれるのでこちらとしては強く言えない。平然と言い切るジュンイチに、イレインはもう一度ため息をつき――
「それで……どうなんだ? こっちは」
「うん……
マックスキングも仕上がって、ようやく本格的に取りかかれるようになったから……そんなにはかからないと思う」
「実際、基本OSはすずかのおかげでもう組み上がってるから……後はハード面ね。機体の調整をきちんとやれば、すぐに出られるようになるわよ」
尋ねるジュンイチの問いに“お仕事モード”に切り替えたすずかとイレインが答える――そして、今度はすずかがジュンイチに尋ねる。
「それで……ジュンイチさんの方は?」
「ぜんぜん」
肩をすくめ、あっさりとジュンイチは答えてくれた。
「こっちはソフト面がダメダメだ。
きっちりやろうと思ったら、今あるデータだけじゃとても足りない。もっとガッツリとデータ取りしないと……」
「そっか……
でも、蜃気楼の時よりはマシじゃない?」
「そりゃな」
口をはさむイレインにも、やはりあっさりと即答する。
「蜃気楼の場合、マスターであるオレのデータだけでなく、コピーするみんなのデバイスのデータも集めなきゃならんかったワケだし」
《その節はご苦労をおかけいたしました》
告げる言葉に蜃気楼がそうわびて――「気にするな」と待機状態の黒い宝石を軽く指で弾き、ジュンイチはイレイン達へと向き直った。
「まぁ、“最後の切り札”についてはいいんだよ。
問題はそっち――ちょっと急いで欲しくてさ」
「何かあったんですか?」
「あったんだよ」
すずかの言葉にため息をつくジュンイチが思い出すのは“昨夜”の出来事――
「ひとり、現状に対して焦り始めてるのがいてさ。
あのままほっといたら、どう暴走されるかわかったもんじゃねぇ。さっさと1機仕上げて、あてがってもらえたら……と思ってさ」
「なるほどね」
イレインがジュンイチの言葉に納得してうなずく――手元の端末で状況を確認しつつ、ジュンイチに尋ねる。
「それで……どれを優先して仕上げればいい?」
「アイツだ」
そう答え、ジュンイチが見つめるその先には、格納庫のメンテナンスベッドに納まる、1機のSFジェットの姿があった。
「ったく……どこ行きやがったんだ……?」
一方、居住区画では、セインがため息をついてレクルームにやってきたところだった。
「どうしましたか? セインお姉様」
「いや……ウェンディのヤツがいないんだよ」
尋ねるディードに答え、セインはソファに寝転がって昼寝を決め込んでいるノーヴェに尋ねる。
「ノーヴェ、お前は知らないか?」
「あたしが知るワケないだろ。
ずっとここで寝てたのに」
「っつーか、そんなトコで寝てないで部屋で寝ろよ……」
答えるノーヴェにセインがため息をつき――
「出ていった」
そう答えたのは、今しがたレクルームに姿を見せたルーテシアだった。
「お嬢様……?
“出て行った”とは……?」
「さっき、メカニックの女の人に直してもらったライディングボードで飛んでいくのを見た」
「あのバカ……!」
ディードに答えるルーテシアの言葉は、正直あまり歓迎できるものではなかった。思わず頭を抱え、ノーヴェがうめく。
「ガスケットが敵に見つかった昨日の今日で、どこほっつき歩いてんだ……!」
「どうしましょうか? お姉様……」
「うーん……」
尋ねるディードの言葉に、セインは少し考えて――結論を出した。
「……柾木ジュンイチに話してくる」
「アイツに?」
「少なくとも、今この時点であたし達を守ってくれてるのはアイツだ。
アイツなら、ウェンディのことも気にかけてくれるだろうし……守ってくれてるアイツに対して、筋ってヤツを通しておかないとな」
どうしてあんなヤツに頼るのか。イヤそうな顔をするノーヴェに答え、セインはきびすを返し――
ジュンイチが格納庫にいるのを知らずにブリッジへと出向いて無駄足。全力疾走で急ぎ向かった格納庫でジュンイチから「ディープダイバーで近道すれば早かったじゃん」とツッコまれて凹むことになるのだが――それはまた別の話で。
一方、セイン達が自分のことで気をもんでいるとは露知らず、ウェンディはすずかに修理してもらったライディングボードに乗り、一直線に目的地を目指して森林地帯を飛翔していた。
(ジュンイチを篭絡することができなかった以上、アイツの手助けは期待できない……
アイツの力をあてにできないからには、他の方法でなんとか戦い抜く方法を考えないと……)
その目的は戦力強化――昨夜ジュンイチを懐柔することに失敗したことで、代わりの戦力を求めて行動を開始したのだ。
幸いにもあてはあった。ヴィヴィオのいるマックスフリゲートを離れることに躊躇し、今まではその方法をとらずにいたが、こうなっては四の五の言ってはいられない。
目的地はこの近くにあるはずのスカリエッティのガジェットプラント。そこにあるのは――
「ドクターの回収した“レリック”のケース……
アレを使って、新しいトランステクターを作れば……!」
スカリエッティが手に入れた“レリック”は中身を回収した後、ケースだけはトランステクター開発の予備資材としてプラントに保管していた――そのプラントが、幸いにもこの近くにあることを地図で確認していたのだ。
それを使って、自分用の新しいトランステクターを作り出せば、自分もまた戦うことができる。決意を新たに、ウェンディはライディングボードのスピードを上げた。
が――
「…………ウソぉ」
目的のプラントは完全に壊滅していた――視界いっぱいに広がる廃墟を前に、ウェンディは呆然とつぶやいた。
周囲を見回すが、火の手も煙も確認できない。そうとう前に破壊されたようだが……
「ジュンイチの仕業っスかね……?
それとも、カイザーズの……?」
これでは“レリック”ケースが残っているかどうか。いや、残っていたとしてもこの有様では巻き込まれて破壊されている可能性の方が高い。ライディングボードから降りて一帯を調べ、ウェンディがつぶやき――
「………………ん?」
不意に、足元に刻まれたそれに気づいた。
大地を押し込んで並んで刻まれた、帯状の幾何学模様――要するにタイヤ痕である。
「タイヤの痕……しかもこれ、普通の車のものっスよね……?
地面へのめり込み具合からすると、相当重い車両みたいっスけど……」
真っ先にジュンイチのマグナブレイカーのビークル形態、マグナダッシャーが思い浮かぶが――アレにしては左右のタイヤ痕の間隔がせますぎる。マグナダッシャーではないだろう。
カイザーズの陸戦戦力は列車ばかりでこんなタイヤ痕は残さないだろうし――なお、機動六課という可能性は最初から除外だ。あちらは局の部隊ということが災いして基本的に受け身だった。ガジェットのプラントへの攻撃という積極的行動はただの一度もとっていない。
つまり、自分の考えた“可能性”はことごとくハズレということで――
「…………調べて見る必要、アリみたいっスね……
これで厄介なのが動いてたとしたら……近くにいるマックスフリゲートが巻き込まれないとも限らないっスからね」
何やらイヤな予感がする――つぶやき、ウェンディはライディングボードによじ登るとタイヤ痕をたどって飛び立った。
「とりあえず……報告ありがとう、とは言っとくわ。
後はジュンイチに任せなさい」
セインから話を聞くなり、ジュンイチはすぐにウェンディの捜索に動いた――格納庫からマックスフリゲートの外へと飛び去っていったジュンイチを見送るセインに、イレインが声をかける。
「でもさぁ……アイツひとりで見つけられるのか?」
「ウェンディお姉様のことですから、飛行しているとは思いますが、それでもこの広い森の中を探し出すのは……」
一方、セインに同行していたノーヴェやディードの意見は否定的だ。「期待してない」とばかりに告げる二人だったが、
「アンタ達……あまりアイツをなめない方がいいわよ」
対するイレインの反応は、意外にも淡白なものであった。
「なめるな、って……
そりゃ、アイツの強さはハンパないけどさ、こういう探し物は強さとか関係ないだろ」
「そっち方面に関してもアイツはハンパないのよ」
応えるノーヴェにそう告げ、イレインはもう一度ため息をつき、
「アンタ達ねぇ……
ジュンイチが地上本部……というかミッド地上部隊に対して何したか、まさか忘れたとか言わないわよね?」
『………………っ』
「周りの敵対勢力がどう動くかを読みきって、必要なところに援軍配置して……多少の誤算はあったけど見事地上本部を死者を出すことなく破壊、さらに局の暗部を大暴露して社会的ダメージで追撃までかました。
でもって……アインヘリアルでのアンタ達との戦い」
息を呑むノーヴェ達に、イレインが淡々と続ける――その言葉に、反論の声は上がらなかった。
「並の戦術、戦略じゃ、とてもここまでできないわよ。
のほほんとしてるか好き放題に暴れてるか、なイメージだけど、アレでアイツの頭、フル回転しっぱなしなんだから。
世界の情勢をそれこそ細かいところまでつぶさに観察して、そこから先に起こり得る事態を的確に予測して対策を立てる。
そこにさらに、現場では敵の布陣と攻撃意図を的確に見抜き、こちらの戦力を的確な場所に配置、布陣する。
どれだけ戦場が混乱しててもその状況を正確に捉え、吟味して、叩くべき相手とそこへの到達ルート、撃破の手段に至るまでを互いの戦力を正確に比較して正しく導き出す――
マックスキングとかオメガスプリームとか、すずかとかに聞いてみなさいよ。アイツの頭の処理能力、明らかに生命体の限界超えてる――人間やめてるからこそできる芸当だけど、それを考慮したとしてもかなりのトンデモ能力よ。
だてに“元復讐鬼”なんて物騒極まりない経歴を持ってるワケじゃない。人外の力を執念によって限界以上に昇華したアイツの能力は、本当の意味で本気になれば冗談抜きでトップクラスよ。
時々、味方のはずのあたし達ですら恐ろしく思えてくるぐらいに……ね」
そこで一度言葉を切り、イレインは息をついて続ける。
「でも……逆に言えば、ジュンイチがそこまでフル稼働しなきゃならないくらい、今の現状は複雑で厳しいの。
そして……そこまでフル稼働してまで、アイツはあたし達を……そしてアンタ達を守ろうと考えてる。
あたし達とどう接していくか。このままここに居座るか、敵対関係に戻るか……そこはアンタ達の判断に任せるけど、最低限、ジュンイチのそういうところだけは、知っておいてほしいかな? 判断材料として、ね」
そう告げるイレインの言葉に、答える声は上がらなかった。
「ここっスか……」
タイヤ痕を辿っていくうち、たどり着いたのは岩山の一角の洞穴の前――タイヤ痕が洞穴の中に続いて言っているのを確認し、ウェンディはライディングボードから降りてつぶやいた。
「ひょっとして……あのプラントを襲ったヤツら、“レリック”のケースをここに持ち込んでるかも……」
あのプラント跡に“レリック”のケースらしき残骸は発見されなかった。とすると襲撃者達に持ち去られている可能性はきわめて高い――そう判断し、ウェンディは洞穴の中に足を踏み入れていく。
当然、タイヤ痕の主に出くわさないよう、ところどころの岩陰に身を潜めながら、だ。そのまましばし洞穴の奥へと進んでいき――やがて、内部の空間が唐突に広がった。
そこから先はかなりの広さの地下空洞になっていて――
「………………っ!?」
空洞一面に、大型機械を製造する生産ラインが設置されていた。
ベルトコンベアが地面いっぱいに敷き詰められ、その上を運ばれていくパーツが次々に自動生産システムによって組み上げられていく――
「こ、これは……!?」
組み上げられているのは、自分達の見たこともない機械の塊だ。ワケがわからず、呆然とウェンディがつぶやき――
「見つかってしまったようだな」
「――――――っ!?」
突然の声と同時に身体が動く――飛びのき、距離をとったウェンディの前で、ロボットモードのジェノスラッシャーは不敵な笑みを浮かべてみせた。
「これはこれは……誰かと思えばジェイル・スカリエッティのところの娘さんじゃねぇか」
「お前……ディセプティコンの、ジェノスラッシャー!」
うめき、ライディングボードをかまえるウェンディだが、ジェノスラッシャーの余裕の態度は崩れない。
「何なんスか、ここは……!
あたし達のガジェットのプラントをつぶして、ここで何してるっスか!?」
「へぇ、あのブッ潰したプラントからここにたどり着いたのか。
バリケード達め、あれだけ痕跡を残さないように注意しろってジェノスクリームから言われてたのに……相変わらず戦闘以外はからっきしだな」
尋ねるウェンディだが、ジェノスラッシャーはその問いをあっさりと無視した。むしろ自分の疑問に結論を見出し、うんうんとうなずきながらそうつぶやく。
「答えるっス!
ここで何してるっスか!」
「見ての通り、プラントの運用だよ」
改めて尋ねるウェンディに対し、ようやくそう答えが返ってくる。
「何作ってるか、わからないだろう?――ま、当然さ。まだお披露目をしてない“とっておき”なんだからさ。
貴様らのガジェットをベースに、マスターギガトロン様がさらなる改良を加えた自律兵器“ドール”……オレ達の新戦力さ」
「ガジェットを、ベースに……!?」
「おぅよ。
まぁ、こうしてお前に知られちまった以上、もう秘密でもなんでもなくなっちまったがな」
聞き返すウェンディにそう答え、ジェノスラッシャーはめんどくさそうに頭をかき――
「そんなワケで……だ。
お前は初めてコイツらと対峙した他所の人間だ――ついでに、コイツらに殺される最初の獲物になってくれや!」
「――――――っ!」
その言葉と同時――気づいたウェンディが跳躍、一瞬遅れて、彼女のいた場所が爆砕された。
飛来したミサイルによるものだ――見れば、ジェット機のようなデザインの機動兵器が数機、空中に滞空してこちらを狙っている。
「空戦用の“ドール”――名前もそのまんま“エアドール”ってんだ。
完全な航空機仕様、戦闘機動といやぁカッ飛ぶこと中心のガジェットU型と違って、T型やV型みてぇな滞空状態での戦闘も可能。小回りや機動の応用性は――はるかに上だ!」
「く…………っ!」
ジェノスラッシャーの言葉を合図に、エアドールが一斉にウェンディに向けて飛翔――とっさに反転、離脱しようとするウェンディとのドッグファイトに突入する。
「イヤな予感、大当たりじゃないっスか……!
なんとかここから脱出して、みんなに知らせないと……
それに……」
一瞬、“あの男”の顔が脳裏に浮かぶが――ウェンディはすぐに首を振ってそのイメージを頭の中から追い出した。
(ダメっス……ジュンイチに頼ってちゃダメなんス!
アイツは自分の都合であたし達を守ってるだけ……いつこっちを切り捨てるかもわからないのに――)
「考え事たぁ、余裕だな!」
ジュンイチには頼れない――歯がみするウェンディを、ビーストモードにトランスフォームし、追いついてきたジェノスラッシャーが弾き飛ばした。巨体による体当たりをまともにくらい、ウェンディが吹っ飛ばされる。
強烈な一撃を受け、ウェンディの身体が岩壁に叩きつけられる――肺から空気が叩き出され、その場にズルズルと崩れ落ち、
「へっ、相変わらず、大したことないな」
そんなウェンディの前に降り立ち、ロボットモードに戻ったジェノスラッシャーが笑みを浮かべてそう言い放った。
「前にもオレに殺されかけたことがあったってのに、ぜんぜん進歩してねぇじゃねぇか。
戦闘機人って言っても、稼動年数が少なけりゃそんなもんかよ」
そして、ウェンディに向けて拳を振り上げ、
「あばよ――学習能力のないおバカさんよ!」
その言葉と同時、拳を振り下ろし――
「あのさぁ……」
止められた。
「コイツのセリフじゃねぇけど……マジで学習してくれ。
何が哀しくて、昨日とほとんど変わらないシチュで助けに入らなきゃならないんだよ?」
ウェンディの前に飛び込んだジュンイチのかざした、爆天剣によって。
「貴様……柾木ジュンイチ!?」
「はーい、そうですよー♪」
うめくジェノスラッシャーに答え――ジュンイチの姿が彼の視界からかき消えた。
「お前らのご主人様の天敵の――」
その声はジェノスラッシャーの足元から。告げると同時、ジュンイチがジェノスラッシャーの足を払い、
「柾木ジュンイチですよ――っと!」
宙に浮かされたジェノスラッシャーを、思い切り蹴り飛ばす!
「じ、ジュンイチ……!?」
「ったく、探したぞ」
そして、ジュンイチは痛みに顔をしかめるウェンディへと向き直った。軽く息をついて肩をすくめ、
「マックスフリゲートを出てすぐにお前の“力”の気配を見つけて、ここまで迷うことなく一直線で――」
「ひょっとしなくても探してないっスよね? それ」
続く言葉にウェンディからツッコミが飛んだ。
「けど……ぶっちゃけ、余計なお世話っスよ……!」
しかし、すぐにその表情が真剣なものに変わる――ヨロヨロと立ち上がると、取り落とし、近くに転がっていたライディングボードを再び手に取る。
先のジェノスラッシャーの体当たりによるダメージで、ライディングボードはバチバチと火花を散らしているが――こんな状態でも盾くらいにはなるはずだ。
「おいおい、ムリすんなよ」
「ムリな、もんっスか……!」
戦闘機人と言ってもトランスフォーマーの体当たりでまともに吹っ飛ばされたのだ。ダメージがないはずがない。下がっているよう促すジュンイチだったが、ウェンディはかまわず一歩を踏み出す。
「お前みたいな、自分の都合であたし達を守ってるようなヤツを、あてになんかできるもんか……
自分のことは、自分で守るっス……お前の力は、借りないっス……!」
言って、ライディングボードをかまえてジュンイチの脇を抜け――
「待てよ」
もう一度そう告げて、ジュンイチは――
ウェンディを背後から抱きしめた。
「な………………っ!?」
いきなり抱きしめられ、突然のことに思考が停止するウェンディだったが、我に返ると同時、その顔面に血液の流れが一気に集中した。
「……い、いいい、いきなり何するっスか!
放すっスよ!」
昨夜の一件での二人――自分のように意図的に“演じて”いたワケでも、ジュンイチのようにこちらの本心を見抜いて動揺する必要すらなかったワケでもない、完全な不意討ちだ。むしろこれが当然の反応だろう。
顔を真っ赤にして、ジュンイチの腕を振りほどこうと暴れるウェンディだったが――
「お前なぁ――」
「え――――――?」
両足から地面を踏みしめる感覚が消えた。ジュンイチに持ち上げられたと気づいたウェンディが声を上げ――
「待てって――言ってんだろうがぁっ!」
そんなウェンディに、ジュンイチがバックドロップをぶちかます!
「ったく、そんな身体で何ができるんだよ?
ダメージ軽くないんだから休んでろって」
「その“ダメージ”の大半、今のバックドロップなんスけど……」
身を起こし、こちらをずびしぃっ!と指さして言い放つジュンイチに対し、ウェンディは仰向けに倒れたままそうツッコんだ。
「っつーか……抱きついたのはこのためっスか……
ムードぶち壊しっス。さっきのドキドキを返せっス……」
「は? ムード? ドキドキ?」
「こっちの話っスよ」
首をかしげるジュンイチに対し、(バックドロップの)ダメージで動けないウェンディは仰向けに倒れたままため息をつき――
「とにかく下がってろ」
そんなウェンディに、ジュンイチは気を取り直してそう告げた。
「コイツらはオレが片づける」
「自分の“計画”に必要なあたしを守るため……っスか?」
ジュンイチの言葉にそう返すウェンディだったが――
「バーカ」
対し、ジュンイチはクスリと笑ってそう答えた。
「オレがお前らを守るのは“計画”のため……か。
まぁ、間違っちゃいないんだよな。お前らが倒れたら計画狂っちまうし」
苦笑まじりに頭をかきながら、息をつき、続ける。
「でもさ……それって、理由の“一部”でしかないんだよね、オレ的には」
「え………………?」
「オレがお前らを守るのって、“計画”のためではあるけど……もっと突き詰めてくと、結局いつものところに落ち着くんだよね」
「いつもの……」
「そ」
つぶやくウェンディにうなずき、ジュンイチは告げた。
「オレがお前らを守るのは、ただ単に……」
「守りたいから、だよ」
「どう理屈こねくり回したって、結局行き着くのはそこなんだ」
どこか照れくさそうにそう告げて、ジュンイチは改めて爆天剣を手に取った。
「計画云々以前に、“オレが”、“お前らを”守りたい。だから守る。
お前らがオレに守られたくなかろうが知ったことじゃない。オレが守りたいから、守るんだ。
そんなワケで、お前らの拒否も意見も全却下――お前らが嫌がってもオレはお前らを守る。
でもって――」
そして、爆天剣を軽く一閃。不敵な笑みと共にその切っ先をジェノスラッシャー達に向け、
「その一環として、今からてめぇら叩きつぶす。
やる気があるなら、“やられ方”の希望くらいは聞いてやるけど?」
「大した自信だな。
だが――忘れてないか?」
告げるジュンイチだが、ジェノスラッシャーも負けてはいない。不敵な笑みと共に指を鳴らし――彼の周囲にエアドールが集結する。
「戦う相手はオレだけじゃない。
コイツらだっているんだぜ」
「だからどーした。
全部つぶせばすむ話だろうが」
「できれば――な」
ジュンイチの言葉にジェノスラッシャーが答え――同時、エアドールが一斉に散開。ジュンイチ達を包囲する。
「どうする?
そいつを守るんだろ?――この包囲の中、守りながらオレを倒せるとでも言うのかよ?」
ジュンイチだけならまだしも、その場にはウェンディもいる。この包囲の中では、ジュンイチも彼女を守りながら戦うしかない。
いかにジュンイチの戦力が強力でも、ガードの片手までは戦力は間違いなく半減する。余裕の笑みを浮かべるジェノスラッシャーだったが、
「あー、それなら問題なし」
対し、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「だって――包囲ならすぐに破れるし」
そう続け――次の瞬間、ジュンイチの背後、入ってきた入り口が吹き飛んだ。
「な、何だ!?」
次いで、エアドールらに襲いかかるビームの雨――とっさに散開して攻撃をかわすエアドール達の姿にジェノスラッシャーが声を上げると、
「お前こそ、ずいぶんと読みが甘いよな」
そんな彼に、ジュンイチは余裕の笑みと共にそう告げた。
「オレだって……何の準備もないまま突撃するほどバカじゃねぇんだぜ」
その言葉と同時、巻き起こる土煙の向こうから姿を現したのは――
「マグナダッシャー!?」
「そゆコト。
ここを特定すると同時に、こっちら向かって出動してもらったのさ」
声を上げるウェンディに答えると、ジュンイチはマグナダッシャーへと向き直り、
「マグナ!
そういうワケだ! 遠慮なくやっちまえ!」
《了解です!》
ジュンイチの言葉にマグナが答え――同時、マグナダッシャーの車上の砲台が火を吹いた。貫通系に調整したビームで天井を撃ち抜き、次いで放った炸裂系のビームで撃ち抜いた周囲を爆砕、洞窟の天井を完全に破壊する!
「エヴォリューション、ブレイク!」
ジュンイチの叫びにマグナが答え、マグナダッシャーが力強く大地を駆け抜ける。
そして、車体両横の装甲が上部へと展開。さらに車体下部の推進器で起き上がると共に、車体後部が180度回転、後方へとスライドして左右に分割。つま先が起き上がり両足へと変形する。
続いて、運転席が左右に分かれて肩アーマーとなり、その下部に折りたたまれるように収納されていた腕が展開。拳がその内部から飛び出し、力強く握りしめられる。
車体上部――変形の結果背中となったそこに配された砲台はキャノン部が前方に倒れてショルダーキャノンに。ボディ内部からロボットモードの頭部がせり出し、その額から変形に伴い跳び下りていたジュンイチに向けて誘導フィールドが展開される。
放たれた光に導かれ、ジュンイチはマグナダッシャーへと引き寄せられ――その姿が消えた。一瞬にして機体内部の圧縮空間に用意されたライドスペースへと転送される。
そこに用意されたコックピットシートに腰かけ、ジュンイチはシート両側に設置されたクリスタル状のスロットルレバーを握りしめる。
「マグナ! 全システム起動!
戦闘システム――Get Ready!」
《了解!》
マグナからの答えと共に、ジュンイチはスロットルレバーを勢いよく押し込む――変形を完了し、システムが完全に起動した機体のカメラアイが輝き、ジュンイチが高らかに名乗りを上げる。
「“龍”の“炎”に“王”の“牙”!
“不屈の果てに高みあり”!
龍炎王牙――マグナブレイカー!」
「ふぅ、危ない危ない♪」
「ぜんぜん危なそうに聞こえない……」
天井を破壊したのだ。当然、残骸は中にいる自分達にも降り注いできたが、マグナダッシャーを変形させて対応――素早くコックピットに乗り込み、ウェンディを連れて離脱したジュンイチの言葉に、ウェンディはマグナブレイカーの右手の上で思わずうめく。
「どうするんスか?
このままみんなのところまで?」
「バカ言うな。相手だってまだまだ無事なはずだ。
このまま帰っても、敵をマックスフリゲートまで案内するだけだ」
尋ねるウェンディにジュンイチが答え――
「わかってるじゃねぇか!」
地下空洞崩壊の土煙の中から、ビーストモードのジェノスラッシャーが飛び出してきた。放たれたビームを、ジュンイチは素早くかわし、
「そういうことだから――まずはアイツらを叩く!
お前は地上で黙って見てろ!」
言って、ジュンイチはジェノスラッシャーの突撃をやりすごすと地上に降下した。マグナブレイカーの右手を地面スレスレまで下ろし、その上のウェンディを地上に下ろす。
「って、あたし、ここに置き去りっスか!?」
「コックピットには連れ込めないだろ。
まだダメージが残ってる――シートにしがみつくのもキツいんじゃねぇか?」
「誰のバックドロップのせいっスか……!」
思わずうめくが、ジュンイチはかまわない。すぐにマグナブレイカーを上空に飛び立たせ、ジェノスラッシャーや彼に続いて地下空洞跡から飛び出してきたエアドール群と対峙する。
「ハッ、空中に出られれば勝ち目があるとでも?
ずいぶんと空中戦に自信があるみたいじゃねぇか」
「ねぇよ、ンなもん。
オレより空戦ができるヤツなんてごまんといるぜ――ウチのライカなんてモロにそうだし、六課じゃ、やり合ったことこそないけどフェイトあたりがビンゴだろうし」
これでお互い戦闘態勢が整った――告げるジェノスラッシャーに対し、ジュンイチは平然とそう返した。
「でも、こちとら大火力型でね。
あんな地下じゃ、火力が絞られてしょうがねぇんだ、よっ!」
告げると同時に先手必勝――ジュンイチが両手に握るスロットルレバーを通じて“力”を流し込んだ。機体を通じてマグナブレイカーの両手に巻き起こった炎が、ジェノスラッシャーやエアドール群に襲いかかる!
が――
「当たらねぇよ!」
敵はそろって空戦型。自分の土俵でそう簡単に攻撃はくらってはくれなかった。素早く散開するとジュンイチの周囲を飛び回り、ジェノスラッシャーを先頭にこちらに向けてビームの雨を降らせてくる。
「へっ、そんな程度の機動で!」
しかし、それでもジュンイチから逃げ切るのは簡単ではなかった。言い放ち、ジュンイチが再び放った炎がエアドールを数機、まとめて撃墜するが、
「まだまだ!
いけ! お前ら!」
ジェノスラッシャーの言葉を合図に、難を逃れたエアドール群が一斉にジュンイチに襲いかかる。
しかも――
「こいつら……思った以上に落とせてない!?」
中には炎を回避し、その上で襲ってくる機体すらあった。これにはさすがにジュンイチも驚きの声を上げ、
「当然だ!」
そんな彼に言い返し、ジェノスラッシャーもジュンイチに向けて突撃――カウンターとばかりに両肩のマグナキャノンを放つジュンイチだが、ジェノスラッシャーもそれをかわして離脱する。
「コイツらは、オレ達ディセプティコンに対する敵対勢力すべてに対抗するために作られた。
つまり――お前対策もしっかり考えられてるんだよ!」
「言ってくれるね!
手の内バラしまくりの六課ならともかく、オレの対策なんて、そう簡単に練られてたまるかよ!」
ジェノスラッシャーに言い返し、ジュンイチは左のマグナセイバーを抜き放った。右手から炎を放ちつつ手近なところにいたエアドールの1機に肉迫、一撃の元に斬り捨てるが、
「………………っ!?」
そんな彼の元にビームの雨が降り注ぐ――とっさにマグナブレイカーを後退させるジュンイチだが、今しがた斬り捨てたエアドールが被弾、マグナブレイカーの至近で爆発する。
「っ、そっ! やってくれるじゃねぇか!」
衝撃に揺れるコックピットでうめきながらも反撃――炎を凝縮、炎弾丸を無詠唱で放つが、それはエアドールの周辺に展開されたフィールドによって防がれてしまう。
――いや、分解され、消滅した。
あれは――
「“支配者の領域”……いや、AMF……!?
考えてみれば、コイツら、ガジェットを改良したんだっけ……ガジェットより高性能なのは、ある意味当然か……
……っつーか!」
咆哮し、ジュンイチが“力”を解き放つ――マグナブレイカーの右手から巻き起こった炎は、AMFをものともせずにエアドールを数体まとめて消し飛ばす。
だが――爆発の向こうから多数の閃光が飛来した。爆発の中を突き抜けてきたエアドール群の攻撃を、ジュンイチはマグナブレイカーのマグナプロテクトで反射、攻撃を仕掛けてきたエアドールに叩き込む。
「コイツら、フォーメーションがムチャクチャだ……!
いや、ムチャクチャとかじゃねぇ――最初からフォーメーションを考えてすらいねぇ……!
味方が落ちようがフレンドリーファイアしようがおかまいなしじゃねぇか!」
それでも猛攻は止まらない――次々に飛来する攻撃を、ジュンイチはマグナブレイカーを懸命に操り、あるいはかわし、あるいは防いでいく。
「にゃろうっ!
フェザーファンネル!」
対し、ジュンイチが繰り出すのは多数のオールレンジ兵器――生み出し、解き放ったフェザーファンネルが一斉にエアドールへと飛翔、そこから放つビームでエアドールを次々に撃墜していく。
「味方がどれだけ落ちようが、目標を叩ければそれでよし、ってか……!
無命機らしいイヤな発想だな、まったく!」
舌打ちするジュンイチだったが、本当に舌打ちしたいことは別にあった。
先ほどから愚痴をこぼしている通り、とにかくエアドール達の攻めがムチャクチャなのだ。こちらの動きはおろか、味方の動きも完全に無視。それぞれがそれぞれ、勝手にこちらへ攻撃を仕掛けてくるのだ。
「くそっ、攻めがてんでバラバラだから……リズムがとれねぇ……!」
ある1機を落とそうとすると別の1機が仕掛けてくる。しかも味方を援護するのではなく、その味方ごと攻撃してくるから始末が悪い。おかげでこちらも“あちらを立てればこちらが立たず”状態で満足な攻撃ができないのだ。
多数の機体をそろえて攻めるにしてはあまりにも戦術が非効率的すぎる。どうしてこんな――と、そこまで考え、ジュンイチは気づいた。
(そういうことか……!
これが“オレ対策”ってワケかよ!)
奇策や圧倒的な攻撃力、「豊富」という表現すら陳腐に思えるほどの戦闘経験――さまざまな要素に隠れてしまいがちだが、ジュンイチの戦闘スタイルの基本はあくまで一点、“リズムを支配すること”にある。
奇策によって相手のリズムを乱し、自分のリズムに引き込み、圧倒的な破壊力で叩き伏せる――どんな手段を用いた戦いを展開していても、そこだけは決して変わらない、ジュンイチの戦闘スタイルの根幹。エアドールのムチャクチャな戦いはその根幹を真っ向から揺るがしたのだ。
これが1対1や、もっと数の少ない相手であれば問題はなかっただろう。だが、多数の機体がてんでバラバラに動き、攻めてくる――その動きが総合的にはリズムを無視したノイズとなり、ジュンイチの戦闘リズムを狂わせているのだ。
「マグナ!」
《こっちもフォローしようとしてますが……こっちは普通に物量に押されてます!
動きのパターンがバラバラすぎて、機動パターンの予測シミュが間に合わない!》
頼れる相棒も苦戦気味。これでは主導権を握るのは――
「くそ…………っ!
これじゃ、こっちのリズムまで……乱される!」
愚痴をこぼしながらも飛び込んできたエアドールを斬り捨てるが――ついに直撃。背後に飛び込んできた別のエアドールが、特攻まがいの体当たりでマグナブレイカーを吹っ飛ばす!
「ジュンイチ!」
その光景は、地上のウェンディからは丸見えだった――予想外の苦戦を強いられるジュンイチのマグナブレイカーを見上げ、思わず声を上げる。
「あぁ……マズイ、マズイっスよ……!
あのままじゃ、いくらジュンイチでも……!」
ジュンイチがやられれば次は自分だ。なんとかジュンイチを援護しなければならないが――
「でも……ライディングボードはこのザマっスし……」
自分の武器、ライディングボードは先のジェノスラッシャーの体当たりで大破寸前だ。先ほどは「盾くらいにはなるだろう」と考えていたが――違う。“盾ぐらいにしかならない”のだ。
こんなことでは出て行ったところで何もできまい。だが――
「それでも……!」
何もできないとしても、下がっている気にはならなかった。グッと拳を握りしめ、上空で戦うジュンイチの姿を見上げる。
「勝手にカン違いして、勝手に振り回して……
今も、勝手に動いたあたしを助けに来て……!」
昨日から今に続く自分の行動が脳裏をよぎる――自分の行動がこの現状を招いたことを思い知らされる。
「なのに……何もしないで見てるなんて……そんな情けないマネ、できるワケがないっスよ……!
そんなあたしが、セイン達の“姉妹”なんて、情けなくて、名乗れるワケないっスよ!」
ここで何もしないなど、そんな選択を選べるはずもなかった。決意を新たに、ウェンディは上空の戦場に向けて地を蹴――
〈はい、そこまで〉
――ろうとしたところで、突然の通信がウェンディを制止した。
〈そこまでだよ、ウェンディ。
そのまま、それ以上の突撃はあたしが許さない〉
「イレイン、ナカジマ……!」
通信してきたのはイレインだ。展開されたウィンドウに映る彼女の姿に、ウェンディは苦虫を噛みつぶしたかのような表情を見せた。
「止めてもムダっスよ。
ボロボロだろうが装備も壊れてようが、あたしはアイツを助けに行く。
このまま借りを作りっぱなしなんて、まっぴらっスよ」
大して戦う力も残っていないのに飛び込もうとする自分を止めるつもりか――言い放ち、再び上空の戦場をにらみつけるウェンディだったが、
〈あぁ、そこはいいのよ〉
対し、あっさりとイレインはそう返してきた。
〈いつもいつも単独で突っ走るのには、あたし達もウンザリしてるからね――たまにも守られる側に回るくらい、アイツにはいい薬よ。
止めないから、思う存分やっちゃいなさい〉
「と、『止めない』って……思いっきり待ったをかけたじゃないっスか」
〈かけたわね〉
そうツッコむウェンディの言葉にも、イレインが動じることはなかった。
〈あたしが言いたいのは――『せめて戦力整えてからにしろ』ってことよ〉
その言葉と同時――ウェンディのすぐ頭上を駆け抜けた存在があった。
マックスフリゲートの格納庫でイレイン達が整備していたジェット機である。
「あ、あれは……!?」
〈ウェンディの機体だよ〉
ジェット機の正体がわからず、呆然とつぶやくウェンディには通信に割り込んできたすずかが答える。
〈形式番号“GLX-J03W”――エリアルファイター。
マグナブレイカーやスカリエッティがキミ達に与えたのと同じ――スキャンした状態からさらに手を加えたカスタムトランステクターだよ。
そして、その機体はキミに対応するように調整されてる。
……ジュンイチさんの指示で、ね〉
「アイツの……?」
すずかの言葉に、ウェンディは上空で戦い続けるジュンイチの姿を改めて見上げる――そんな彼女に、イレインは静かに続ける。
〈アイツ……マグナブレイカーの初陣の後、あたし達に頼んできたのよ。
アンタ達のトランステクター、新しく用意してやってくれないか……ってね〉
「で、でも、どうして……?
あたし達、敵なのに……」
〈それでも、だったんだよ〉
つぶやくウェンディに答えたのはすずかだった。
〈お姉さんに見捨てられて……キミ達は自分達の身の振りを選択しなきゃいけなくなった。
殺されかけたんだもの。きっとスカリエッティのところには戻れない。でも、マックスフリゲートに残ってくれるかもわからない……ひょっとしたら、マックスフリゲートを離れることを選ぶかもしれない。
そうなった時に、身を守る力がないと困るだろう、って……出て行った後にやっぱり自分達の敵になって、こっちを攻撃する戦力に使われるかもしれないって、そうわかってても、ジュンイチさんはキミ達のことを考えて、新しいトランステクターを作って欲しいって言ってきたんだよ〉
「アイツ……」
すずかの言葉に、ウェンディの脳裏に昨夜のジュンイチの言葉がよみがえった。
(……『心配するだけムダ』って……まさか、こういうことだったんスか……!?)
自分は、自分達の身を保証してもらうためにジュンイチに自らの純潔を捧げようとした――が、それはジュンイチの言うとおり“する必要のないこと”だったのだ。
なぜなら――そんなことをするまでもなく、ジュンイチは自分達に“力”を与えるつもりでいたのだから。
「…………何スか、それ……」
そこまで思い至り、ウェンディの口からもれたのは――苦笑だった。
「バカっスよ、そんなの……
敵味方に戻るかもしれない相手に武器をくれてやるのもそうっスけど……そうならそうって、最初から言ってくれればよかったじゃないっスか……」
〈それは全面的に同意ね〉
〈そうだね。
ホントにバカだよ、ジュンイチさん〉
思わずつぶやくウェンディの言葉に、イレインやすずかもウィンドウの向こうでうんうんとうなずいてみせる。
〈アイツ、昔っからあぁなのよね。
本心じゃ相手のことを心底大切にしてるクセして、ひねくれた態度で表になんか絶対出さないし……〉
〈相手に想いが伝わらなくて、それで結果的に突き放されても、文句ひとつ言わないし……〉
「まったく……不器用にもほどがあるっスね」
自分についてきてくれている二人からすらこの酷評ぶり――マックスフリゲート内でのジュンイチの扱いを改めて認識し、ウェンディはクスリと笑みをもらし――
〈で……アンタはどうするの?〉
そんなウェンディに、イレインは改めて彼女の意思を確認した。
〈ここまでやってもらったんだもの――何も返さないのは、どうかと思うわよ〉
「当然っス!」
告げるイレインに対するウェンディの答えに迷いはなかった。
「ここまでされてそっぽ向くなんて、ナンバーズの名折れってもんっスよ!
このウェンディ、してもらった分はキッチリ働くっスよ!」
言葉にすると共に、想いが力となってあふれだす――もはや、身体に刻まれていたはずのダメージなど、彼女には何の障害にもならなくなっていた。
だから――迷うことなく叫ぶ。
かつて映像越しに見たあの“力”――それを、自分の中から呼び起こす言葉を。
『ハイパー、ゴッドオン!』
瞬間――ウェンディの身体から虹色の“力”があふれ出した。光の渦に包み込まれ――否、飲み込まれ、ウェンディの身体が粒子となって消えていく。
その光は上空を飛ぶエリアルファイターへ――機体全体を包み込むとまるで溶け込むようにその内部へと染み込んでいく。
そして――
「エリアルスライダー、トランスフォーム!」
宣言と共にその機体が姿を変える――機体後部が左右に分割、後方に展開されて両足になると、機体左右に固定されていた両腕が解放された。排気ファン部がヒジの方にたたまれ、隠されていた両拳が露出する。
機種は左右に割れるように分割され、そのまま両肩にかぶさるように展開されて肩アーマーに。ボディ内部からせり出した頭部、そのカメラアイに輝きが灯る。
素早くトランスフォームを完了し、ウェンディは一直線に戦場に向けて飛翔。両腕に装備されたバルカンから放たれた人工魔力弾がエアドールを追い散らす。
「何だ、アイツ!?
新手か!?」
「いやいや。
さっきアンタにノされた仕返しに来た――通りすがりのりべんじゃーっスよ!」
いきなりの乱入に驚くジェノスラッシャーに答え、ウェンディはジュンイチのマグナブレイカーの前に飛び出し、彼らと対峙する。
「これが、あたしの新しい翼!
その名も、エリアルスライダーっス!」
「おもしれぇっ!
やれ、お前達!」
名乗りを上げるウェンディに対し、ジェノスラッシャーが周囲のエアドール達をけしかけるが、
「そんなヤツら――もう怖くないっスよ!」
エリアルスライダーとなったウェンディにとって、エアドールはすでに敵ではなかった。爆発的な加速と共に飛翔、エアドールの突撃をかわすと素早く背後に回り込み、片っ端から撃墜していく。
ジュンイチを苦しめた乱雑“すぎる”フォーメーションも、マグナブレイカーでは実現し得ない加速を可能とするエリアルスライダーのスピードの前には無意味だ。一斉に襲いかかろうにもあっさりと包囲をかいくぐられ、次々に各個撃破されていく。
「くそ……っ! 何をしてる!
さっさと仕留めてしまえ!」
エリアルスライダーの乱入により、それまで有利だった戦況が一気に覆った――焦りを声を上げるジェノスラッシャーだったが、
「あきらめな」
そんな彼に、ジュンイチがマグナブレイカーのコックピットからそう告げた。
「エリアルスライダーの機動性はマグナブレイカーの比じゃねぇ。
コイツがカブトムシならアイツはハチ――万能型のマグナブレイカーと違って、空戦に全力全開で特化したエリアルスライダーには、あんなブリキ人形じゃ追いつけやしねぇよ。
そして――」
ジュンイチがそう告げると同時、ウェンディがエアドール群から距離を取り、
「フォースチップ、イグニッション!」
〈Full drive mode, set up!〉
背中のチップスロットにミッドへチルダのフォースチップをイグニッション。フルドライブモードへと移行する。
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
そして、両腕を前方に突き出すようにかまえると、両ヒジの排気ファンがビークルモード時と同様に両拳を覆うように両腕に再装着。高速で回転を始め、導かれた風がウェンディの目の前で押し固められ、圧縮空気の塊となり、
「射撃型のアイツの本分を活かすために――格闘戦度外視で火力大盛りだ!」
「くらうっス!
サイクロン、マグナム!」
ジュンイチの言葉と同時、ウェンディが圧縮空気弾を撃ち出した。エアドールの群れのド真ん中へと撃ち込まれ――解放された。解き放たれた空気の渦はフォースチップのエネルギーを伴った風の刃となり、周囲のエアドール群を瞬く間に切り刻み、爆砕する!
「さぁ……次はお前っスよ!」
「ぐぅ……!」
エアドールの群れを片づけ、次なる狙いはジェノスラッシャーだ。真っ向から右手の人さし指を突きつけるウェンディに対し、ジェノスラッシャーが歯がみして――
「待てい」
「あ痛っ」
ウェンディのおかげで体勢を立て直したジュンイチが動いた。マグナブレイカーでウェンディのエリアルスライダーにゲンコツを落とす。
「オレだってやられっぱなしで終われるかっつーの」
《そうですよ。
ですから、アイツは私達が叩き落とします。ウェンディは引っ込んでてください》
「はっ、冗談じゃないっスよ。
こっちだってアイツを落とさないと気がすまないっス。ここは譲れないっスよ」
告げるジュンイチやマグナの言葉にウェンディが言い返し――両者は同時に息をついた。まったく同時にジェノスラッシャーへと向き直り、
「そういうワケで!」
「みんなで落とすことに決定っス!」
《覚悟してもらいます!》
「マグナブレイカー!」
「エリアルスライダー!」
『爆裂武装!』
ジュンイチとウェンディが咆哮し、マグナブレイカーが急上昇、エリアルスライダーもそれを追って加速していく。
そして、エリアルスライダーがビークルモード、エリアルファイターへと変形。マグナブレイカーに追いつくとその左腕にまるで盾のように合体する。
いや――盾ではない。拳側を向いたエリアルファイターの機首が左右に分割。間隔を開けた状態で平行に固定され、機首を銃身、本体を動力ユニットとした大型の反応エネルギー砲へとその姿を変える。
機体そのものを武器に変えたエリアルファイターをマグナブレイカーがかまえ、ジュンイチとウェンディが名乗りを上げる。
『マグナブレイカー、エリアルバスターモード!』
「はっ、何かと思えば、ゴッドリンクかよ!?
目新しくもねぇ! ブッつぶしてやるぜ!」
ウェンディとエリアルファイターを武装として装着したマグナブレイカーの姿に、ジェノスラッシャーは不敵な笑みを浮かべた。周囲にエネルギーミサイルを生み出し、一斉にマグナブレイカーに向けて撃ち放つが、
「ゴッドリンクじゃねぇよ」
「言ったっスよ――『爆裂武装』だって!」
ジュンイチとウェンディが言い返すと同時――かまえたエリアルバスターが火を吹いた。放たれた閃光が、飛来するエネルギーミサイル群を一撃で薙ぎ払う!
「な………………っ!?」
《甘く見ましたね。
文字通り一体となり、全体的にシステムを調整するゴッドリンクやリンクアップとは違うんですよ》
対応されるとは思っていたが、まさか一撃とは――驚愕するジェノスラッシャーに対し、マグナが呆れたような口調でそう告げる。
「爆裂武装は文字通り“武装”――合体相手を武器として“装備”するのが本質だ。リンク系の合体と違って、特性変化はあくまでオマケなんだよ。
リンク系ほどの機体能力の向上は望めないが――その代わり、武器としての特性、その一点のみに能力を集中させることで、それぞれの特性に対する特化ぶりはリンク系をはるかに上回るんだよ!」
ジュンイチが告げると同時――エリアルバスターの後部の推進システムが火を吹いた。合体前とは比べ物にならないほどの加速を見せたジュンイチが、ジェノスラッシャーとの間合いを一瞬にして詰め、思い切り右ストレートで殴り飛ばす!
そのまま拳を振り抜いて駆け抜け――さらに反転して再強襲。再びジェノスラッシャーを殴り飛ばすと、またもや反転、襲いかかる――
相手のお株を完全に奪う高機動でジェノスラッシャーを打ちのめすと、ジュンイチはウェンディとマグナに告げる。
「ウェンディ、マグナ!
そろそろ決めるぞ!」
「オッケーっス!」
《了解しました!》
『《フォースチップ、イグニッション!》』
ジュンイチ、マグナ、ウェンディが叫び――ミッドチルダのフォースチップが飛来した。そのまま、マグナブレイカーのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
それに伴い、マグナブレイカーの両足と右肩、そして左腕に合体したエリアルバスターの装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
《フルドライブモード、セットアップ!》
ジュンイチと共に機体のエネルギーを制御しているマグナが告げ――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
《チャージ、アップ!
ファイナルブレイク――Stand by Ready!》
「いっ、けぇっ!」
再びマグナが告げる中、エリアルバスターの銃身にフォースチップのエネルギーが収束していく――エネルギーを蓄えたエリアルバスターを真っ正面にかまえると、ジュンイチは一気に加速、ジェノスラッシャーへと襲いかかる。
と――エリアルバスターの銃身部分を構成する機首部分が間隔を広げた。まるでハサミのようにジェノスラッシャーの胴体をはさみ込み、その動きを封じ込める。
そして――
『《エリアルバスター、グランドフィニッシュ!》』
エリアルバスターが火を吹いた。零距離から解放されたエネルギーの渦がジェノスラッシャーに叩きつけられ――吹き飛ばす!
拘束を弾き飛ばすほどのパワーで吹き飛ばされたジェノスラッシャーは眼下の地面、崩落した岩の中に埋もれたドールのプラントの中へと叩き込まれ――
『《Finish Completed.》』
ジュンイチ達が静かに告げると同時、プラント全体が大爆発を巻き起こす!
「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!?」
グランドフィニッシュの威力にプラントの爆発が加わり、より巨大な大爆発が巻き起こる――受け身もままならず、空の彼方まで吹き飛ばされていくジェノスラッシャーを尻目に、ジュンイチ達はエリアルバスターの爆裂武装を解除、勝ち鬨の声を上げる。
『《爆裂、究極! マグナ、ブレイカァァァァァッ!》』
「これで、ディセプティコンのプラントもおしまいっスね」
「ここのは……な」
眼下のプラントはグランドフィニッシュの直撃を受けて完全に壊滅――ロボットモードを維持したままゴッドオンを解除、エリアルスライダーのコックピットでつぶやくウェンディに対し、ジュンイチはマグナブレイカーのコックピットで息をついてそう答えた。
「あの慎重なギガトロンが、プラントをひとつしか作らない……なんてことはないはずだ。
襲撃に対する備えと生産性の向上……いろんな観点から、プラントはあちこちに作ってると思っていいだろうな」
「うげ……アレがこれから先も出てくるっスか……?」
「だろうな。
それも……今回出てきた空戦以外のタイプも、だ」
うめくウェンディにそう答え――
「ウェンディ」
改めて、ジュンイチは彼女に声をかけた。
「ディセプティコンの矛先は、これから先オレに向かう可能性が高い――何しろギガトロンのヤツを二度にわたってブッ飛ばしてるワケだしな。
このままマックスフリゲートに残っていたら、そいつらも戦わなきゃならなくなる――念願の“身を守る力”も手に入れたし、抜けるなら今のうちだぜ」
そう告げるジュンイチだったが――
「ジョーダンじゃないっスよ」
そう答えるウェンディの声に迷いはなかった。
「セイン達はどうかは知らないけど……あたしはジュンイチについていくことに決めたっスから」
「へぇ…………」
「だって……ジュンイチ、どうせ最終的にはドクターを追いかけるんスよね?
で……ジュンイチの能力なら、きっとドクターのところまでたどりつく。
となれば、あたしがここを離れる理由はないっスよ」
そして――ウェンディはエリアルスライダーをマグナブレイカーへと向き直らせ、そのコックピットに座るジュンイチに告げる。
「決めたんスよ。
うじうじ悩んでてもしょうがない――そんな時間があったら行動あるのみ。
ドクターのところに帰って……あのクア姉の言葉が本当だったのか確かめる。
それが……あたしの決めた、これからあたしが歩く“道”っス」
「…………そっか」
ウェンディの力強い言葉にジュンイチがうなずき――
(それに……)
そんなジュンイチに気取られないように、ウェンディは心の中でつぶやいた。
(もうちょっと、見ていたくなっちゃったから、っスね……
おバカで天邪鬼で……とっても朴念仁な不器用さんの、まっすぐな横顔を……ね)
それは、今、自分の中の“答え”を見出したからこそわかる現実――
(昨夜の“アレ”……打算じゃない部分も、ちょっとはあったんスからね。
フラグを立てた覚えがないなんてとんでもない――あたし達のためにクア姉に怒ってくれた時……少しはクラッときてたんスから……)
しかし、どうせ目の前の男には口に出してすら伝わるまい――これから先のことを思い、ウェンディは少しの不安とかなりの期待を胸に、クスリと笑みをもらすのだった。
ウェンディ | 「そういえば……エリアルスライダーって一から新規に作ってるんスよね?」 |
すずか | 「うん。そうだよ」 |
ウェンディ | 「そんな最初から作るより……あたし達の機体を修理するとか強化するとか、そういう選択肢はなかったんスか? そっちの方が楽そうな気もするんスけど」 |
すずか | 「それがね…… ジュンイチさん、みんなの機体を“瞬刃殺”で粉みじんに斬り刻んじゃったから。 そりゃもう、修理なんて夢のまた夢、ってレベルまで」 |
ウェンディ | 「えぇぇぇぇぇっ!? なんてことするんスか! あたしのジェットスライダーだってほとんど使ってなかったし、ディードのバトルセイバーなんか卸したてだったんスよ!」 |
ジュンイチ | 「………………ゴメンナサイ」 |
すずか | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第87話『 〜深淵の覇者、紅の刃狼〜』に――」 |
3人 | 『ハイパー、ゴッド、オン!』 |
(初版:2009/11/21)