「“ドール”の生産、順調なようだな」
「はっ」
目の前には、自分達の上に立つ最強の“主”――告げるマスターギガトロンの問いに、ショックフリートは恭しく一礼してそう答えた。
「柾木ジュンイチの一派に気づかれた時はどうなることかと思いましたが……空陸海3タイプ、どれも順調に生産が進んでいます。
予定生産台数に達するのも、時間の問題かと」
「ま、ドールはあくまでザコ魔導師やガジェット、シャークトロンの掃除用ですし、今から仕掛けても問題はないでしょう。
オレ達だけで、どいつもこいつもブッ飛ばしてやりましようや」
ブラックアウトやジェノスラッシャーもやる気十分だ。それぞれに不敵な笑みと共に主に告げる。
「マスターギガトロン様、ご命令を」
「うむ」
そして、4人を代表してジェノスクリームが告げる――うなずき、マスターギガトロンは彼らや、レッケージらも含めたディセプティコン主要メンバー一同を見渡し、
「オレの傷も癒えた。いよいよ、機動六課や柾木ジュンイチ達へ反撃だ。
予定生産台数に達していないドールの投入はまだ先になるが――どの道ヤツらにぶつけても蹴散らされてムダに数を減らすだけだ。
ジェノスラッシャーの言う通り、オレ達の手でヤツらをつぶすぞ」
「そいつを待ってました!」
「どいつもこいつもデカいツラしやがって!
思い知らせてやりましょう!」
告げるマスターギガトロンの言葉に、バリケードやボーンクラッシャーが歓声を上げる――それぞれの士気が高まる中、ジェノスクリームはマスターギガトロンに尋ねる。
「して、マスターギガトロン様……どの勢力に攻撃を?」
「決まっている」
迷うことなくマスターギガトロンは答えた。
「充実した戦力が回復しつつあり、且つ“管理局”という錦の御旗で堂々と行動できる機動六課も厄介だが……それは真っ向からぶつかった場合のこと。
“情報を制する者こそが戦いを制する”と言う。今の現状を考えれば、もっとも厄介なのはヤツらよりも、むしろ今回の事態の裏事情に精通していると思われる……」
「柾木ジュンイチの一派だ」
第91話
つながるココロ、重なるカラダ
〜苛烈に熾烈・ギルティブレイクコンボイ〜
「いったい、どうしたってんだよ? ジュンイチは」
「あんな弱ってる旦那は初めて見たぜ……」
前回の戦いの直後、突然倒れたジュンイチはそのままマックスフリゲートの医務室へ――沈黙したままの医務室のドアを見つめ、セインの言葉にガスケットが同意する。
「パパ、大丈夫だよね……?」
「大丈夫です、きっと……!
不安げにつぶやくヴィヴィオの言葉にゆたかが答え――その言葉とほぼ同時に医務室の扉が開き、
「うん、みんないたわね、感心感心♪」
言いながら姿を見せたのはイレインだった。
「イレイン……ジュンイチは大丈夫なんスか?」
「大丈夫よ」
尋ねるウェンディにそう答えると、イレインは息をつき、一同に告げる。
「今、ざっとスキャンしてみたんだけど……ジュンイチの“生体核”がひとつ残らず、極端なまでに消耗してた。
きっと、今回倒れた原因はそれね」
「治せるんですか?」
「治す必要なんかないわよ」
聞き返すゆたかに対し、イレインはあっさりとうなずいてみせる。
「ちゃんと休んで、パワーを充填すれば、また元通り、思いっきり元気に暴れ回ってくれるわよ」
「そうなんだ……
よかったぁ……」
イレインのその言葉に緊張の糸が切れたのか、ホクトが安堵の息と共にその場にへたり込み――
「あー……
ちょっと、いいっスか?」
不意に、ウェンディが右手を挙げ、イレインに尋ねた。
「“生体核”って、そもそも何なんスか?
ホクトも、同じのを持ってるって聞いてるっスけど……」
「スカリエッティやお姉さん達からは何も聞いてないの?」
聞き返すイレインだが、ウェンディは力なく首を左右に振る――どうやらホントに何も知らないらしい。
見回すと、セインやノーヴェ、ディードやルーテシアまでもが無言で首を左右に振る――息をつき、イレインは説明を始めた。
「ホントは関係者のそろってないところでこうして説明するのは気が進まないんだけど……教えなきゃ話が進みそうにないから、話すわね。
“生体核”っていうのは、その名の通りの“核”……生命活動の中枢よ。
人間に限らず、有機生命体の生命活動的な意味での急所は脳と心臓――あんた達みたいな人間ベースの戦闘機人は当然のこと、瘴魔獣だってそれは変わらない。
けど……ジュンイチやホクトに限り、それは当てはまらない。この子達の命を握る最大の中枢核、それが“生体核”よ」
言って、イレインは一同の目の前にそれを表示した。
緑色の、8面体の結晶――“生体核”の3Dイメージ画像である。
「“生体核”は、“遺伝子強化人間”にとっては心臓であり、脳でもある……思考のための演算システムを持ち、記憶のための記憶領域を持ち、生命活動のための動力部すら持ってる。
存在するのは両手首、両足首、そして腹部――この5つが互いに連携して処理能力を高めつつ、互いにデータのバックアップをとり続けてる」
「バックアップ……?
何のために?」
「再生のためよ」
聞き返すディードに、イレインはあっさりと答えた。
「戦闘によって身体の一部が失われた場合、“生体核”からの指令によって傷の自己治癒が始まる――その際に、“生体核”の中に記憶されている“普段の自分の身体”のデータを基にして再生が行われるの。
それに……独自に細胞の培養機能も備わってるから、たとえ身体が粉々に吹っ飛ばされても、“生体核”がひとつでも残っていればそこからの再生復活が可能なのよ」
「なんつーか……完全に人間やめてるっスね……」
「本人からして自分のことを“バケモノ”呼ばわりしてるくらいだしね」
うめくウェンディにイレインが答えると、
「“生体核”についてはわかった。
ジュンイチが倒れた原因が、その“生体核”の衰弱によるものだってのも。
けどさ……その“生体核”の消耗は、何が原因で起きたんだよ?
そこのところ、ちっともツッコんでないじゃんか」
「そうね……」
口をはさんできたのはセインだ。息をつくイレインの視線は、しばし宙をさまよった末にある一点に収束し――
「あまり言いたくないけど……」
「原因はホクト、あんたよ」
「え………………?
あたし……?」
突然名前を呼ばれ、呆然とつぶやくホクトだったが、無言でうなずくイレインの態度が、それが聞き間違いでないことを雄弁に物語っていた。
「ここ最近で、あんた、修行の結果再三“生体核”を暴走させてるでしょ。
それを抑えるために、ジュンイチは自分の“生体核”を同調させて制御してた……
でも、元々自分のそれと同じものとはいえ、他人の制御下にある“生体核”に干渉するんだもの。その消耗はハンパじゃない――しかも使うのが自分の心臓となればなおさらよ。
結果、ジュンイチは“生体核”を酷使させすぎて……」
「あたしの、せいで……」
自分のせいで、今こうしてジュンイチが倒れているというのか。イレインの言葉に、ホクトは呆然とつぶやき――
「そうホクトをいぢめないでやってくれるか?」
「え――――――?」
突然かけられた声に、ホクトは思わず顔を上げ――
「よっ」
開かれた医務室の扉によりかかるジュンイチの姿がそこにはあった。
「ジュンイチ、あんた……!?」
もう起きて大丈夫なのだろうか――思わず声を上げるセインだったが、ジュンイチはそんな彼女には目もくれず、ホクトに対して告げる。
「確かに、お前の暴走を止めるためにオレは力を消耗した。
でも……それこそ何回もお前の暴走を止めたんだ。効率よく進める方法を学ぶ余地は十分にあった。
そこから学べず、いたずらに消耗したオレのミスの結果だよ、これは」
「でも……」
「『でも』じゃない」
反論もあっさりと封じ込め、ジュンイチはホクトの頭をなでてやり、
「お前はまだまだ未熟だ――力も、技も、心も、今まさに強くなっていってる真っ最中だ。
まだ弱くてヘタクソなところは残ってるんだ。失敗なんかあって当然だ。そこを恥じることはない。
反対に、ずっと強くて、ずっと先輩のオレは、そんなお前をちゃんとフォローしてやらなきゃならない立場にいた。それなのに、力加減を間違えてこのザマだ。
今回の件、お前はちっとも悪くない。悪いのは、避けられたはずのこの事態を呼び込んじまったオレ自身だ。
だからお前は悪くない――いつもみたいに元気でいてくれ。な?」
「………………うん!」
まだどこか納得いかないようではあったが、こちらの言いたいことは伝わったようだ。
ためらいこそあったものの、力強くうなずいてみせるホクトにジュンイチは満足げにうなずき――
「…………『自分のせい』ねぇ……」
静かに告げられたその声に、ジュンイチがビクッ!と硬直した。
同時、背後からすさまじいプレッシャーが巻き起こる――恐る恐る振り向くジュンイチの目の前で、プレッシャーの主は拳を大きく引き、
「それがわかってるなら――おとなしく休まんか、このおバカぁぁぁぁぁっ!」
「がはぁっ!?」
イレインの鉄拳制裁が炸裂した。顔面に拳をまともにくらい、吹っ飛んだジュンイチが医務室に転がり込んでいく。
「あ、あの……
ジュンイチさん、倒れたばっかりの病人なんですから……」
治してあげなきゃいけないのに、むしろケガを増やしてどうするのか――声をかけてくるゆたかに対し、イレインは答えた。
「動けなくしておかないと、ちっとも休みゃしないのよ、あのバカは」
「…………で、お前らは何で残ってんだよ?」
「監視」
「おなじくーっ!」
イレインに思い切りブッ飛ばされ、気がついてみれば医務室のベッドサイドにはノーヴェとホクトの二人だけが残っていた。尋ねるジュンイチに、二人はあっさりとそう答えた。
「イレインのヤツが言ってたぜ。
『お前の場合、目を離すとすぐにベッドを抜け出して何かしら作業を始めるだろう』って」
「うぐ…………っ」
図星だった。
「ったく……あたしだってブレイクラリーやガードフローターの整備とかあったってのに……」
「あたしはやらなくてもいいもんねー♪
ぎーくんもぎーくん2号もイレインお姉ちゃん任せだし♪」
「単にメカがわからないお前には任せられないだけだろ」
のん気に相槌を返してくるホクトに答えるノーヴェだったが、
「でもいいもーん♪
パパと、ノーヴェお姉ちゃんと一緒にいられるんだから♪」
ホクトはあくまで笑顔だ。ジュンイチやノーヴェを前に満面の笑顔でそう返してくる。
「何でそこであたしが出て来るんだよ?
あたしは別に、お前とは何のかかわりもないだろうに」
ため息をつき、そううめくノーヴェだが、
「そんなことないよ!」
対し、ホクトは力いっぱい反論してきた。胸元でグッと拳を握りしめ、ノーヴェに向けて力説する。
「パパのことも大好きだけど、ノーヴェお姉ちゃんも大好きだもん!
だから、関係ないなんてことないよ!」
「お、おぅ……」
詰め寄ってくるホクトの勢いに、ノーヴェは思わず気圧されてしまう――若干引き気味のノーヴェだが、ホクトはかまわず彼女の手を取ってブンブンと振ってくる。
「だから仲良くしよう!
ね、いいでしょ!?」
「あ、う、えっと……」
どこまでもテンションを上げていくホクトについていけず、ノーヴェはリアクションに困ってうめくしかなく――
「あー、ホクト」
そんな状況に待ったをかけたのはジュンイチだった。傍らのポットを指さし、
「悪いけど、そろそろ空なんだ。
水を足してきてくれるか?」
「うん!」
ジュンイチの言葉にうなずき、ホクトはポットを手に医務室を飛び出していく――自分にのしかかってきた(Notシリアスな)プレッシャーから解放され、ノーヴェが深々と息をつく。
「さすがのお前も、あのテンションの相手は辛いか」
「他人事だと思いやがって……」
「どこが他人事だ。
あの矛先は、オレにだって十分に向き得るんだぞ。自分で言うのもアレだけど、『明日は我が身』ってヤツだよ」
声をかけられ、うめくノーヴェにジュンイチは軽く肩をすくめてみせる。どうやら「明日は我が身」というのは誇張でも何でもなく実感として感じているらしい。その表情はどこか引きつって見える。
そんなジュンイチに肩をすくめ返し――ノーヴェは息をつき、ジュンイチに尋ねた。
「でもさ……ホント、何なんだよ? アイツ……
ウェンディとかセインとかディードとか、ルーお嬢様ともそれなりに仲いいみたいだけど、あたしと一緒にいるだけであの喜びよう、って、ちょっとおかしいだろ?
あたしらよりも早くアイツを囲い込んだお前なら、何かわかるんじゃないのか?」
「『囲い込んだ』とか言うな。人聞きの悪い」
ノーヴェの言葉に、答えるジュンイチのこめかみが軽く引きつる――が、すぐに気を取り直し、答える。
「一応、ヒントならアイツ自身が語ってる。
お前がそのヒントを、アイツの話から拾い損なってるだけだよ」
「は? ヒント?」
「ほら、アイツ自身も言ってただろ。
以前、ホクトはスバルとギンガの気配を探知して、“妹”として“姉”である二人に会いに来たことがある。
たぶん、アイツは3人の“タイプゼロ”型戦闘機人の中でも、感知能力に長けたタイプなんだと思う。相手の能力や強さ、その本質を見抜く能力が、アイツの場合バツグンに高いんだ」
「代わりに、ギンガ達ほど身体能力は高くないんだけどな」と苦笑し、ジュンイチは続ける。
「その能力に助けられて、アイツはギンガやスバルの居場所を探知できた。
つまり、二人が自分と同じ親から産まれた“姉妹”だってことを、アイツは本能的に見抜いていたし、遠くからでもアイツらの存在を感知できた。
オレと対面するなり、オレが自分の“ベース”だってこともすぐに気づけてたしな」
「……なんか、話が脱線してないか?
アイツのその感知能力の高さと、アイツがあたしに懐いてるのと、何の関係があるんだよ?」
「あわてなさんな。
ちゃんと話はつながってるよ」
口をはさんでくるノーヴェに答え、ジュンイチは人さし指をピッ、と立て、
「ここで重要なのは、アイツが“自分に流れているのと同じ血を持つ者を探知できる”っていうことだ。
たぶん、その能力が、気づかせちまったんだよ。
お前が……」
「自分やスバル達と“母親”を同じくする、異父姉妹だって……」
「え………………?」
その言葉に、ノーヴェは思わず言葉を失った。
「ど、どういうことだよ!?
あたしの“姉妹”はナンバーズのみんなだ! ドクターに生み出してもらった12人の戦闘機人、それがあたし達姉妹なんだ!
なのに、なんでタイプゼロがあたしの姉妹ってことになってんだよ!? 生み出した相手が違うだろ!」
「お前の言うとおりだ。
お前達は確かにスカリエッティによってこの世に生れ落ちた。ホクトやスバル、ギンガは別のヤツによってこの世に生まれた。
なるほど、確かに違うわな」
しかし、ノーヴェの反論を前にしても、ジュンイチの方は落ち着いたものだった。
「でも……それは、“片親に限っての話”だ」
「…………は?
『片親』って、どういうことだよ?」
「ここまで言ってもまだわかんないかねぇ。
言わなかったっけ? 『“異父”姉妹』だって」
問いを返してくるノーヴェに対し、軽く肩をすくめてジュンイチはため息をつく。
「要するに、こういうことさ。
お前らはドクターに生んでもらって、ホクト達は別のヤツに生んでもらった。そういう意味じゃ、お前らの間に血のつながりはない。
でも――」
「お前らを生むのに使った遺伝子情報が、同一の人物のものだとしたら、話は違ってくるんじゃないのか?」
「ち、ちょっと待て!」
そのジュンイチの言葉に、ノーヴェはあわてて待ったをかけた。
「それじゃあ、何か!?
あたしとホクト達は、同じ人間の因子から生まれてるっていうのか!?」
「あぁ。そこは間違いない」
驚くノーヴェに答え、ジュンイチは自身の左手を彼女の前にかざしてみせた。
「オレの能力のひとつ“情報体侵入能力”……
情報にアクセスし、場合によってはコントロールすら可能とする能力だけど……この能力で干渉できるのは電子情報だけじゃない。
この能力は左右どちらの手でやるかによってアクセスできる情報が違ってね――右手でやった場合は電子情報体へのアクセスを行い、逆に左手の場合は非電子情報――つまり、遺伝子や記憶といった、生体情報にアクセスすることができる」
「なるほど。
それで、ちゃっかりあたしらの遺伝子情報を読んでたワケだ――だからこその断言、か」
「そゆこと」
ノーヴェの言葉に苦笑し、ジュンイチはハッキリと断言した。
「セイン達のは別人のものだったがな、お前の身体の遺伝子情報――お前を生み出すのに使われた因子は、スバル達と同じものだ。
そして、その因子の持ち主の名は……クイント・ナカジマ」
「…………間違いないのか?」
「悪いが、それはねぇよ」
改めて確認するノーヴェだったが、ジュンイチは迷うことなくうなずいた。
「赤の他人のものならともかく、オレが身内の……特にクイントさんの遺伝子情報を読み間違うなんて絶対にない」
本当に迷いのない断言だった。
だからこそ、彼が冗談でこんなことを言っているのではないとわかるが――それだけに、ノーヴェの中で避けられそうにない疑問が浮かんでいた。
「ひとつ……聞かせてくれ」
だから――尋ねる。
「あんたにとって……クイント・ナカジマってのは、どういう人なんだ?」
「特に」と名指しで挙げられた人物のこと――ジュンイチにそこまで言わしめる、クイント・ナカジマという女性について。
そんな彼女に対し、ジュンイチは息をつき、答える。
「大切な人だ」
やはり、その言葉に迷いはなかった。
「いつもいつも、暴れ回るオレを心配してくれてさ……そのせいでケンカしたこともあるくらいでさ。
ウチの母さんとも仲良くて、オレやあずさの“2nd母さん”の称号を拝命してたくらいだ。
実際……オレ達にとっては、もうひとりの“母さん”みたいな人だった……」
言って、ジュンイチはそこで初めて視線を落とした。じっとうつむいたまま、ノーヴェに告げる。
「正直に言うとさ……お前らやスバル、ギンガに関しては、みんなと同じ理由で守ってるのか、ちょっと断言できる自信がないんだ。
本当に、みんなと同じように、守ってやりたくて守ってるのか……実際は、昔あの人を守れなかった贖罪を、あの人の忘れ形見であるお前らを相手に勝手にやってるだけ、ただの自己満足なんじゃないのか、って……
……悪い。エゴを通り越してただの愚痴だっつーのはわかってるんだけど……」
「いや……いいよ」
素直に謝罪の言葉を口にするのも珍しい。やはり彼にとってクイント・ナカジマの問題は“特別”なのだとわかる。
「誰にだって、踏ん切りのつかないことのひとつや二つ、あるだろうが……」
謝るジュンイチに対し、答えるノーヴェの脳裏に浮かぶのは敵対することとなった姉妹達の姿――
「前に、お前、あたしらに言ったよな?
『姉妹と戦うことをためらわないようなヤツと一緒に戦いたくはない』って……
それと同じだ。そういうことにあっさりケリをつけられるようなヤツに、教えを請いたいとは思わねぇよ、あたしは」
「………………ありがとな」
「お、おぅ……」
やはり素直に礼の言葉が飛んできて、思わず顔が赤くなる。そっぽを向いて答えるノーヴェだが、その胸の動悸はしばらく収まりそうになくて――
(でも…………)
その一方で、ノーヴェは自分との関係が明らかになったホクトのことを思い返していた。
(アイツは……いや、アイツやタイプゼロ・ファースト、セカンドは……あたしと母親が同じで……
それって、少なくとも半分は、あたしと血がつながってるってことだよな……)
「…………姉妹、か……」
気づけば、ノーヴェはポツリとつぶやいていた。
袂を分かつことになった、同じ生まれの“姉妹”達。
本当に血のつながった“姉妹”、ホクトやスバル、ギンガ。
形の違う二つの姉妹――どちらも自分の“姉妹”なのに、それが今は互いに戦い合う間柄になってしまっている。スバルとギンガに至っては親しくなってすらいない。
「………………ホント、うまくいかないもんだよな……」
そうつぶやくノーヴェに対し、ジュンイチが答えを返すことはなかった。
「あー、ホクト」
「ん………………?」
その頃、ホクトは給湯室から戻ろうとしたところをセインに呼び止められていた。
「どしたのー?」
「あー、いや……
お前、今ノーヴェと二人でジュンイチの見張りだろ?
ノーヴェのヤツ、様子はどうかな、って……」
パタパタと駆け寄ってくるホクトに対し、セインはどこか気まずそうにそう答えた。
「ほら、こないだクア姉やチンク姉とやり合った、ブレイクコンボイの初陣……一応、アレでノーヴェの中での決着はついたと思うんだよ。
でも……それでも、やっぱり辛いと思うんだよ。ノーヴェってあれで姉妹想いなところがあるし……特にチンク姉とは仲もよかったから……」
「うーん……変な風には、見えなかったけどなぁ……」
セインの問いにそう答え、ホクトは首をかしげてみせる。
「まぁ……ちょっと気にしててくれるかな?
お姉ちゃんとしては、ちょっと心配だからさ……」
「『お姉ちゃん』……?」
このマックスフリゲートにいるナンバーズの長姉として、妹達の面倒を見なければ――そんな想いを込めて告げるセインに対し、ホクトは静かにその言葉を繰り返した。
「そっか……
セインお姉ちゃんって、ノーヴェお姉ちゃんのお姉ちゃんなんだよね……」
「…………そうだけど?」
「じゃあ、あたしにとってもお姉ちゃんだ!」
「………………は?」
「だってだって、ノーヴェお姉ちゃんはあたしのお姉ちゃんだもん!
そのノーヴェお姉ちゃんのお姉ちゃんだから、セインお姉ちゃんもあたしのお姉ちゃん!」
「ノーヴェがお姉ちゃんだから……?」
セインはノーヴェとホクトの“つながり”については何も知らない。ホクトの言葉に思わず首をかしげるが――それでも、理解できたことがあった。
「そっか……
お前、ノーヴェのことが好きなんだな?」
「大好き!」
「そっか」
もう一度うなずくと、セインはホクトの頭をなでてやる。
そして――息をつき、ホクトに“頼んだ”。
「ノーヴェのこと……よろしくな。
ずっと、仲良くしてやってくれ」
「うん!」
セインの言葉に込められた意味にはきっと気づいていないだろう。しかし、それでもホクトは彼女の言葉に満面の笑みを返し――
艦内に響いた警報が、そんな彼らの穏やかな一時を斬り裂いた。
「この近くに、ヤツらの母艦が……」
「そのようです」
森の上空に飛来し、つぶやくマスターギガトロンに対し、同行していたブラックアウトは静かにそう答えた。
「先日、この近辺でヤツらが戦闘を行っています。
時間的にそう遠くまでは行っていないはずですから、この近辺を捜索すれば……」
「そうだな」
同じく同行していたショックフリートに答えると、マスターギガトロンは地上の森の中を進む部下達にも通信をつなぎ、告げる。
「総員、ドール部隊を展開させろ!
ローラー作戦だ。ヤツらの母艦、なんとしても見つけ出せ!
いかに擬装を施そうが、そこに存在している事実までは隠せはしない! 必ず見つけ出せるはずだ!」
『<<了解っ!>>』
告げるマスターギガトロンに一同が答え――
「――――――っ!
攻撃――来る!」
気づいたジェノスラッシャーが声を上げ、空中のメンバーが散開。そんな彼らの間を、一条の閃光が駆け抜けた。
「ゴメン――外したっス!」
「さすが、そう簡単に当たってくれるような連中でもないってところか……!」
閃光はマックスフリゲートから出撃したエリアルスライダーの砲撃――謝罪するウェンディの言葉に、デプスダイバーにゴッドオンしたセインは舌打ちまじりにそううめく。
と――
「悪い、遅れた!」
ブレイクロードにゴッドオン、そのままブレイクコンボイへのトランスフォームまで済ませたノーヴェが合流してきた。セインのデプスダイバー、ディードのウルフスラッシャーの間に着地する。
「ノーヴェ!?
ジュンイチの監視は!?」
「問題ないよ」
だが、彼女はジュンイチが疲労困憊の身体でムチャをしないようにするための見張り役だったはず――尋ねるセインだが、対するノーヴェはあっさりと答えた。
「最強の“番人”を置いてきた」
「………………」
「………………♪」
眉間にしわを寄せ、ため息をつくジュンイチの前で、彼女は事情がわかっているのかいないのか、ニコニコと笑みを浮かべている。
もう一度ため息をつき、ジュンイチは――
(ノーヴェのヤツ……
よりにもよって、一番オレがぶっちぎれねぇ相手を置いていきやがって……!)
ノーヴェが「自分の代わりの見張り」として呼び寄せていったヴィヴィオを前に、心の底から頭を抱えていた。
「そっか……そうだよな。
アイツ、ヴィヴィオには強く出られないんだから、最初からヴィヴィオをジュンイチの監視に置いておけばよかったんだよな」
ノーヴェの言葉に思わず苦笑し――同時に、実に的確な判断だと絶賛した。ジュンイチの動きを見事に封じたそのファインプレーに、セインが感嘆の声を上げ――
「姉様がた――来ます!」
「っと……どうやら、話をしていられるのはここまでみいだな」
ディードからの報せに、すぐに意識を切り替える――気合を入れなおし、セインが前方で展開を開始したディセプティコンをにらみつける。
「配置はどうするっスか?」
そんなセインの頭上で、ウェンディが彼女に尋ね――
「別にいいでしょ、決めなくて」
そう答えるのはイレインだ。頭上で待機している大型戦闘艇――ビークルモードのオメガスプリームを見上げながら告げる。
「まだポジションだって決めてないのに、そんなの意識してたらそっちに気を取られるわよ。
現状、決めるべきことがあるとすれば敵最強戦力であるマスターギガトロンへの対処くらいね――ホクトとノーヴェ、お願いできる?」
「えぇっ!?」
「あ、あたしらが!?」
「二人とも、ハイパーゴッドオンのできるコンボイ級だって自覚ある?
まだ新米で戦い方も粗いし、ジュンイチがバケモノすぎるから普段は隠れてるけど、アイツさえいなきゃ二人は文句なしにウチの看板戦力なんだから」
自分達が任されるとは思っていなかったのか、驚きの声を上げるホクトやノーヴェに答えると、イレインはマスターギガトロンの布陣している辺りに視線を向け、
「そんなワケで、ディセプティコン最強のマスターギガトロンは、ウチの最強戦力2名がかりで対応させてもらおうじゃない。
他のみんなはとりあえず、自分の戦いやすいシチュに状況を持っていくことを考えなさい。
それぞれがそれぞれに大暴れすれば、他の敵だってマスターギガトロンの援護に回る余裕はなくなるはずよ」
『了解!』
「始まった……!」
ヴィヴィオによって出撃は阻止されたが、それでも見守るくらいならば――マグナに頼んで映像を中継してもらい、ジュンイチは戦端の開かれた戦場を見つめながら静かにつぶやいた。
「お姉ちゃん達、大丈夫……?」
「うーん……アイツら次第だな。
少なくとも能力の強さ的には、負けてるワケじゃないんだよ。アイツらにはハイパーゴッドオンがあるし。
だから、アイツらが自分の戦いができれば……勝てる」
《そんなに断言できるほど、明確な戦力差ではないと思いますけど……》
最後にはキッパリとこちらの勝利を断言したジュンイチに対し、マグナは通信ウィンドウ越しに疑問の声を上げる。
《もし、あの場で“支配者の領域”を使われたら……!》
「それはないよ」
しかし、ジュンイチはそんな彼女の懸念をあっさりと否定した。
「アレは周りに放出された生体エネルギーを種類を問わず、敵味方も問わずに吸収しちまう。
自分の味方にまで効果を及ぼしちまうからな――単独進攻か部下を下がらせるか、いずれにしても“術者ひとりで戦う”っていう状況にしか対応できないんだよ」
《つまり、総出で戦闘に出てきている現状で、“支配者の領域”はない……と?》
「そう。
ま、もっとも……」
マグナに答えるジュンイチだったが、その表情は優れない。
なぜなら――
「“支配者の領域”がなくても、十分強いんだけどね。
アイツらが自分の戦いができれば勝てるけど……できなきゃ、逆に……!」
勝利できる要素は大きい。だが、負けにつながる要素もまた大きい。半ばギャンブルに近い戦いだ。先ほどは勝利を宣言したジュンイチだったが、それだってそんなギャンブル性の高さに賭けて、という部分が大きいのも実情だ。
とはいえ――
(まぁ……どうせ賭けるなら、もののついでだ)
今はどうすることもできない。戦いを見守りながら、ジュンイチはひとり想いをはせた。
(二人が“アレ”を使う方にも、賭けておこうか)
ブレイクコンボイとギルティコンボイ、2大コンボイ誕生の裏で自分が仕組んだ“仕掛け”へと――
「こら、逃げんじゃないっスよ!」
戦場は大空。飛び交うはそれぞれの“力”の弾丸――ビークルモードでこちらの追尾をかわすブラックアウトに言い放ち、エリアルスライダーにゴッドオンしたウェンディが手にした専用銃“エリアルライフル”の引き金を引いた。
同時、銃口から立て続けに光の弾丸が撃ち放たれるが――
「『逃げるな』だと!?」
対し、ブラックアウトはロボットモードへとトランスフォーム、その際に手足が放り出された勢いを利用して身をひるがえした。目標を見失い、旋回して戻ってくるウェンディの魔力弾を自身の右腕のエネルギーバルカンで迎撃し、
「そのセリフ――そっくり返すぞ!」
胸部中央に収められたプラズマ砲が火を吹いた。破壊の嵐が一直線に空中を駆け抜けるが、すでにそこに目標の姿はなく――
『――――――っ!』
一瞬の刹那を経て、ウェンディのエリアルライフルとブラックアウトの腕のバルカンが互いの眼前に突きつけられていた。
「IS発動――ツインブレイズ!」
宣言と同時、手にした刃に“力”が宿る――両手のテールブレイドをかまえ、ウルフスラッシャーにゴッドオンしたディードは目の前の相手に向けて一気に飛翔した。
回り込むようなことはしない。相手が反応するよりも速く飛び込み、斬る。自身のISのそのあり方に従い、刃を振るうが――
「おっと、危ねぇ!」
相手はそんな、セオリーにバカ正直に従った戦い方で倒せる相手ではなかった。ディードの予想を上回る反応速度で、ロボットモードのジェノスラッシャーはディードの斬撃を両の翼に備わった刃で受け止めていた。
「なかなかいいキレだ。回り込まれて撃たれたらやられてたな。
お前がバカ正直で助かったぜ――それとも、速すぎて小回りが利かないか!? 回り込みたくても回り込めないとか、そういうオチか!?」
「想像にお任せします」
ジェノスラッシャーのあからさまな挑発には乗らない。静かに答え、ディードはジェノスラッシャーから距離を取った。
そのまま、間髪入れずに再度強襲をかけるが、ジェノスラッシャーも先ほどと同様、繰り出される攻撃を次々にさばいていく。
「どうしたどうした!?
だんだんお前の速さにも慣れてきたぞ!」
言い放ち――ジェノスラッシャーはとうとうディードの攻撃を完全にかわしてみせた。狙いを外し、姿勢を崩すディードに向けて、右手に生み出した光刃で一撃を放つ。
が――
「何――――――っ!?」
ディードの姿はそこにはなかった。驚愕し、ジェノスラッシャーが声を上げ――
「――ぐわぁっ!?」
「…………スキありです」
そんな彼の背中に衝撃が叩きつけられた。吹っ飛ばされるジェノスラッシャーに対し、ディードは静かに言い放つ。
「てめぇ……回り込めたのか……!
今まで突撃ばかり繰り返していたのは、このためのフェイクってか……!」
「あなたが私達と対峙した際の戦闘記録にはすべて目を通しています。
最大の脅威はあなたのその反応速度――斬撃強化と高速機動の合わせ技である私のツインブレイズではどうしても決定打になりにくい。
その上であなたを倒さなければならないのですから……少々駆け引きをさせてもらいました」
淡々と告げるディードだが――彼女のしたことは、以前から彼女を知る者からすれば信じがたいものだった。
冷静といえば聞こえはいいが、結局のところ淡々と、機械的に戦闘を進めるところのあったディードには、以前からそういった相手との駆け引きを苦手とする節があった。
そんな彼女が駆け引きをこなした、その背景にはもちろん――
「幸い、そういうことに長けた方に現在師事していますので、それほど難しいことではありませんでした」
彼女の現在の“師”であるジュンイチの存在があった。
「調子に乗るなよ……!
狼のクセに空飛びやがって!」
「ご心配なく。スラッシュウルフに飛行能力はありません。
飛んでいるのは――私自身の能力です!」
ついでに、舌戦にも少しは通じるようになってきた――ジェノスラッシャーに答え、ディードは再びテールブレイドをかまえた。
「いっ、けぇっ!」
気合の入った咆哮と共に砲火が放たれた。セインのゴッドオンしたデプスダイバーの両肩のシールドを兼ねたバインダー、その内側にビッシリと敷き詰められた魔力砲が火を吹くが、
「なんの!」
ショックフリートには当たらない。量子飛躍によって空間に自身を溶け込ませ、飛来する砲撃をやりすごす。
「今度はこちらからだ!」
「ムダだっつの!
IS発動――ディープダイバー!」
すぐに現実空間に復帰しエネルギーミサイルを撃ち放つショックフリートだが、セインもまた自身のISを発動。地面に“潜行”して攻撃を回避する。
もちろん、相手の攻撃で爆砕される範囲よりもさらに下に潜ることは忘れない。これもディードのそれと同じく、ジュンイチとの模擬戦で得られた教訓だ。
そして、能力に頼って地中に長居するべきでないことも――すぐに地上に飛び出し、バインダーの内側にマウントされていた棒状のツールを取り出した。
素早くその2本を連結すると、両端から光があふれ出す――光はすぐに形を整え、両端に光刃を備えた特殊な薙刀となる。
取り出した獲物をかまえるセインに対し、ショックフリートも警戒を強め、両者は静かににらみ合う。
考えるのは、双方共に同じこと――
(お互いに似た能力の使い手……)
(つまり、戦い方も互いに心得てる……)
((先に潜り損なった方が、負ける……!))
一瞬の油断が命取りになる――気合を入れ直し、両者は同時に動いていた。
「こん、のぉぉぉぉぉっ!」
「なめるなぁっ!」
飛び込んでくるイレインに言い返し、尻尾を一閃――ビーストモードのジェノスクリームがイレインを半ばカウンター気味に弾き飛ばすが、
《私モイルノダガナ!》
「ちぃ…………っ!」
そこへロボットモードのオメガスプリームが飛び込んできた。真上から体重任せに踏みつけに来るその巨体をかわし、ジェノスクリームは一度二人から距離を取る。
「まったく……うっとうしい限りだ。
ゴッドマスターでもない、ただの機械人形どもの分際で」
「あーら、そんなデカい態度でいいのかしら?
あんた、これからその“機械人形ども”にぶちのめされるんだけど?」
舌打ちまじりにもらすのは、なめきっていた相手の思わぬ抵抗に対する苛立ち――うめくジェノスクリームにイレインが答え、両者は再び地を蹴る。
一瞬にして互いの距離が零となり、ジェノスクリームはイレインをかみ砕いてやろうとその顎を大きく開き――
「オメガスプリーム!」
《了解》
しかし、イレインはそんなジェノスクリームの攻撃を読んでいた。
というより、予測するまでもなかった。尾による一撃は回転機動がブレーキになる。突進の勢いを最大限に活かす接近戦攻撃となると突撃の勢いを存分に乗せたかみつきぐらいしか思いつかない。
そんなワケで、イレインは横に跳んであっさりとジェノスクリームのかみつきを回避した。その背後から追従していたオメガスプリームが思い切りジェノスクリームを殴り飛ばし――
「せー、のっ!」
ジェノスクリームのかみつきを回避したイレインが三角跳びの要領で戻ってきた。飛び込んできた勢いのままに回し蹴りで追撃を叩き込む!
「確かに、ゴッドマスターを重要視しているあんた達にしてみれば、自動人形と人造トランスフォーマーの組み合わせなんて興味ないのかもしれないわね」
互いの突進の勢いの合力は重量差を容易に覆す。もんどりうって倒れるジェノスクリームに言い放ち、イレインは右腕に装着した大型の刃をジャキンッ、と鳴らす。
「けどね……だからって『弱い』と決めてかかるのはどうかと思うわよ。
立ちなさい。非能力者の恐ろしさってヤツを、骨身に染みるまで叩き込んであげるわよ」
「なめるなぁっ!」
告げるイレインに言い返し、ジェノスクリームが身を起こした。ロボットモードにトランスフォームし、2連装キャノンを乱射する!
「オラオラオラぁっ!」
「てめぇら、覚悟しやがれ!」
「ざけんな!
覚悟すんのはてめぇらの方だ!」
咆哮と共に、ブロウルやバリケードが自身の火器を撃ちまくる――が、ガスケットには当たらない。そのすべてを、すべるような機動でかわしていき、逆にエグゾーストショットで彼らの足を止める。
そして、その頭上で――
「ジャマを――するなぁっ!」
「どぉりゃあっ!」
《………………っ!》
専用デバイス“バサラ”を装着し、上空から襲いくるレッケージや大きく跳躍し、重量任せにクローアームを繰り出してくるボーンクラッシャーの一撃を、ガリューは両腕の爪で受け流し、逆に振り回すように放った回し蹴りで二人を弾き飛ばす。
そして――
「行って……みんな」
ルーテシアがインゼクト群に指示を下した。多数の虫が襲いかかり、レッケージ達の視界を覆い隠し――
「ナイスだ、嬢ちゃん!」
《………………っ!》
そこへ、ガスケットとガリューの一斉射が降り注いだ。
「でぇりゃあぁぁぁぁぁっ!」
「たぁぁぁぁぁっ!」
それぞれに声を上げ、ノーヴェとホクトが襲いかかる――が、マスターギガトロンはそんなノーヴェの拳を片手で受け止め、次いで背後から振るわれたホクトのギルティサイズも身を沈めて回避する。
「なろうっ!」
「ぬるいっ!」
次いで繰り出したノーヴェの蹴りも、マスターギガトロンは空いている方の腕でガードし、
「その程度で――オレと渡り合うつもりか!」
その足をつかみ、ノーヴェを投げ飛ばす!
「くっ、そぉっ!」
それでも、ノーヴェはすぐに体勢を立て直した。着地と同時に再び地を蹴り、マスターギガトロンに向けて突撃する。
対し、マスターギガトロンもカウンターを狙って拳を繰り出し――
「ノーヴェお姉ちゃん、ダメ!」
「――って!?」
ホクトがノーヴェをかばうように飛び出してきた。マスターギガトロンの拳をギルティサイズで受け止めるが、いきなり飛び込まれたノーヴェはタイミングをずらされてたたらを踏んでしまう。
「このぉっ!」
「おっと」
それでも、ホクトはギルティサイズを振るってマスターギガトロンを追い払う――しかし、マスターギガトロンはまだまだ余裕だ。ホクトを狙って周囲に魔力弾を配置する。
「そんなので!」
対するホクトも負けていない。マスターギガトロンの魔力弾を迎撃すべく、周りに同じ数の魔力弾を生み出すが、
「バカ、何してんだ、かわせ!」
「って、ちょっ!?」
ノーヴェが、そんな彼女を下がらせようとその肩を引いた。驚いたホクトが“力”の構成を乱し、彼女の魔力弾が霧散し――
『ぅわぁぁぁぁぁっ!』
抵抗の術を失った彼女達に、マスターギガトロンの魔力弾が降り注ぐ!
「ノーヴェお姉ちゃん! ホクトちゃん!」
マスターギガトロンを相手に苦戦するノーヴェとホクトの姿をモニタ越しに見つめ、ヴィヴィオは思わず悲鳴を上げた。
《どうしたのかしら、あの子達……
いつもにくらべて、動きがぜんぜん悪いみたいだけど……》
一方、マグナはノーヴェ達の動きに“らしくなさ”を感じていた。映像の中で眉をひそめるが、
「何やってんだ、アイツら……!」
ジュンイチもまた、苦々しげにうめいていた。
(互いに相手を意識しすぎだ。
反応が過剰になりすぎて、逆にお互いフォーメーションを乱し合ってやがる……!)
「ぅわぁっ!?」
「きゃあっ!?」
またしてもマスターギガトロンに吹っ飛ばされ、ノーヴェとホクトが吹っ飛ばされる――大地に叩きつけられる二人を前に、マスターギガトロンはゆっくりとその場に降り立った。
「フンッ、威勢よく出てきた割には大したことはないな。
“コンボイ”の名前は飾りか? なりたてにしてもお粗末が過ぎるぞ」
「く………………っ!」
皮肉のタップリこもったその言葉に反論もできない――思わず唇をかむノーヴェだったが、
「だとしても……とりあえずは“コンボイ”を名乗ってるんでね。
守らなきゃならないものは、守らなきゃならないんだよ」
言いながら、ノーヴェはごく自然にホクトをマスターギガトロンから覆い隠すように移動していた。
(さすがはディセプティコンのリーダーで、ジュンイチの宿敵ってところか……!
ハイパーゴッドオンしてもこのザマかよ……!)
しかし、それでも――
(無傷で勝つのはあきらめるしかないか……
でも……それでもせめて、ホクトは傷浅く……!)
決意を新たにし、ノーヴェはホクトをかばうようにマスターギガトロンに立ちはだかったまま意識を集中させる。
(ホクトだって、あたしの“妹”なんだ……!
あたしが、守ってやらなくちゃ……!)
「いくぜ、マスターギガトロン!」
咆哮し、ノーヴェはマスターギガトロンに対して地を蹴――
「たぁぁぁぁぁっ!」
――ろうとした瞬間、ホクトが彼女の頭上を飛び越え、マスターギガトロンへと襲いかかる!
そのまま、渾身の力でギルティサイズを振るう――しかし、マスターギガトロンは目の前に展開したシールドで、ホクトの一撃を受け止めてしまう。
「まだまだぁっ!」
しかし、ホクトは止まらない。一撃を受け止められても、さらにそのシールドの上から何度もギルティサイズを叩きつける。
(ノーヴェお姉ちゃんは、あたしが守るんだ……!)
がむしゃらに攻め続ける、ホクトの脳裏にあるのはその一念――
(スバルお姉ちゃんやギンガお姉ちゃんと同じ――“家族”なんだもん……!
だから……絶対に、守るんだ!)
それは、単なる“想い”だった。
ノーヴェは、ホクトを守りたい。
ホクトは、ノーヴェを守りたい。
お互いが、お互いを思いやり――
結果、お互いの足を引っ張っていた。
「ムダというのが――わからんか!」
そんな二人を、マスターギガトロンはいつまでもあしらっているつもりはなかった。シールドの向こう側から衝撃波を放ち、シールドもろともホクトを、ノーヴェを吹き飛ばす!
「面倒だ。
いい加減、墜ちてもらおうか!」
そして、右手のひらを頭上にかざすと巨大な魔力弾を作り出し――それを、ノーヴェ達に向けて投げつける!
衝撃波のダメージで動けないノーヴェ達にはどうすることもできず――魔力弾は着弾、大爆発を巻き起こした。
今までの攻撃とは比べ物にならないほどの“力”が荒れ狂い、周囲のものを薙ぎ払っていく。
が――
「………………む?」
爆発が収まり、もうもうと立ち込める爆煙に視線を向けたマスターギガトロンはひとり眉をひそめた。
影が増えている。
攻撃したのはノーヴェとホクトの二人――しかし、煙の中には影が三つ確認できる。
柾木ジュンイチが現れたのか――警戒するマスターギガトロンの目の前で、煙は速やかに晴れていき――
「ぶ、無事か……!? ふたりとも……!」
ノーヴェとホクトをかばい、楯となったセイン=デプスダイバーの姿がそこにはあった。
「…………く……っ!」
なんとか攻撃を耐えきったものの、その代償は大きかった――深く刻まれたダメージに顔をしかめ、セインはその場にヒザをつく。
「セインお姉ちゃん!?」
「何やってんだよ!?」
そんなセインに思わず声を上げ、ホクトやノーヴェはあわてて彼女を支えてやる。
「ったく、ムチャしやがって……!」
「ムチャも、するさ……!」
うめくノーヴェに対し、セインは痛みに顔をしかめながらもそう答えた。
「なんたって……」
「あたしは、お姉ちゃん、だからな……!」
『………………っ!』
痛みに耐えながらも笑顔を見せるセインの姿に、ノーヴェも、ホクトも思わず息を呑んでいた。
「お姉ちゃんだから」。そのセインの言葉が胸に突き刺さる。
(ダメだ……あたし、ぜんぜんダメだ……!
ノーヴェお姉ちゃんを守ることしか、考えられてなかった……!)
(なのに、セインは……ショックフリートと戦いながらあたし達のことも見てくれてた……だから助けに来てくれた。
あたしがホクトのことしか見てなかったから、こんなことになったのに……セインは悪くないのに……!)
「フンッ、何を呆けている」
自分の至らなさを思い知らされ、ホクトの顔もノーヴェの顔も後悔に歪む――そんな二人に言い放ち、マスターギガトロンは再び魔力弾を、しかもより巨大なものを作り出した。
「だが――結末は変わらん!
助けに入ったソイツごと、消し飛ぶがいい!」
言い放つと同時、魔力弾を放とうと振りかぶり――
「よくも、セインお姉ちゃんを――!」
「――やりやがったなぁっ!」
咆哮と共に一瞬で距離を詰めたホクトとノーヴェが、それぞれにマスターギガトロンをブッ飛ばす!
「ぐわぁぁぁぁぁっ!?」
思いも寄らなかった反撃に、マスターギガトロンがまともに吹っ飛ばされる――大地に倒れるその巨体をにらみつけながら、ノーヴェは静かにホクトに声をかけた。
「力貸せよ、ホクト」
「ノーヴェお姉ちゃん……?」
「アイツをブッ飛ばしたい。
だから……力を貸せ」
聞き返すホクトに対し、そう言葉を重ねるノーヴェだったが、
「『貸せ』?
違うよ、お姉ちゃん」
対し、ホクトは優しげにうなずき、そう答えた。
「二人で力を分けっこしよう?
あたしとノーヴェお姉ちゃん、二人でがんばろう!」
「…………そうだな」
告げるホクトの言葉に、ノーヴェは笑みをうかべてうなずき――改めてホクトに告げた。
「そんじゃ……やろうか、ホクト!」
「うん!」
「ブレイクコンボイ!」
ノーヴェが名乗りの声を上げ、彼女のゴッドオンしたブレイクコンボイが上空に飛び立ち、
「ギルティコンボイ!」
続いて、ホクトのギルティコンボイがその後に続く。
そして、二人は上空高く、頭上に広がる雲海の上に飛び出し、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
宣言と同時、合体シークエンスが開始――二人の機体の本体、ブレイクロードとギルティサイザーが強化ボディとなっているガードフローター、ギルティドラゴンから分離する。
そして、ノーヴェのブレイクロードが合体形態を維持したままギルティドラゴンの変形した大型ボディのもとへと飛翔、ギルティサイザーに代わり合体、固定される。
一方、ブレイクロードに自分の合体するスペースを譲ったギルティサイザーはホクトがゴッドオンしたままビークルモードへとトランスフォーム。機体後部、両足にあたる部分を左右に展開、ギルティドラゴンの両腰をカバーするように合体し、腰あてとなる。
と、操り手が不在となっていたガードフローターが分離した。分離した両足はギルティドラゴンの両足に合体、より巨大な一組の足を作り出す。
続いて、ガードフローターの機首部分は左右に分かれてギルティドラゴンの両腕に。シールドのように合体するとブレイクロードの固有兵装であるシールドウェポンがそれぞれに連結、固定される。
残るガードフローターの本体はギルティドラゴンの背中に、通常の合体時にはブレイクロードを固定するジョイントを利用してギルティドラゴンのバックパックに覆いかぶさるように合体。より巨大なバックパックとなる。
分離していたギルティドラゴンの頭部はビーストモードのまま胸部に合体、胸飾りとなり、最後にボディ内部からせり出してきたブレイクコンボイの頭部に、ギルティドラゴンから分離した兜飾りが合体、頭部を新たな形に飾り立てる。
全合体シークエンスを完了し、システムが再起動。ひとつになったホクトとノーヴェが高らかに名乗りを上げる。
その名も――
『ギルティ、ブレイク、コンボイ!』
「合体したか……!」
「あぁ……そういうことだ!」
二人のコンボイがひとつに――うめくマスターギガトロンに対し、ノーヴェは力強くそう答えた。
そして、ホクトとの息の合った操縦でかまえを取り、見得を切る。
「出会えた奇跡を力に変えて!」
「限界ぶち抜き苛烈に熾烈!」
『ギルティブレイクコンボイ――爆裂究極、Stand by Ready!』
「威勢だけは、いいようだな……」
名乗りと同時、彼女達のテンションの上昇に伴って勢いを増した“力”の渦があふれ出す――対し、マスターギガトロンは冷静にそう返し、
「だが――威勢だけでは戦いには勝てん!」
言い放つと同時に地を蹴った。一気に間合いを詰め、その顔面に拳を叩き込む!
「ノーヴェ、ホクト!」
その光景に、先のダメージで動けないでいるセインが声を上げ――
『それが……どうしたぁぁぁぁぁっ!』
顔面に一撃を受け、ふらつくもののすぐに持ち直す――しっかりと踏ん張って体勢を立て直し、ノーヴェとホクトはマスターギガトロンを思い切り殴り倒す!
「ぐぅ…………っ!
それなら!」
対し、マスターギガトロンもすぐに反撃に出た。吹っ飛ばされ、間合いが開いたのを活かして魔力弾を作り出し、叩き込み――
『でやぁぁぁぁぁっ!』
「な………………っ!?」
ノーヴェもホクトも、魔力弾にかまうつもりは一切なかった。被弾しようが、それで姿勢が多少崩れようがかまわず突撃、マスターギガトロンに強烈な蹴りを叩き込む!
「くっ、ムチャクチャな……!?」
相手はこちらの攻撃にかまうことなく突っ込んでくる。うめき、体勢を立て直すとマスターギガトロンはノーヴェとホクトを――ギルティブレイクコンボイをにらみつけた。
決して効いていないワケではない。しかし、それでもかまわず、こちらが与える以上のダメージを叩き込んでくる――まさに“肉を切らせて骨を断つ”のノリだ。
「パワー以外で勝てんことに対して開き直ったか……!
まったく、愚かな選択だ……しかし!」
うめいて、再びギルティブレイクコンボイに殴りかかるマスターギガトロンだったが、
(だからこそ――手に負えん!)
やはりこちらの拳が先にヒットするが、ノーヴェもホクトも、それにかまわずマスターギガトロンを殴り倒す!
「やった、また当たった!」
先ほどまでの苦戦はどこへやら。自分達の一撃がおもしろいようにマスターギガトロンを打ちのめすのを見て、ホクトはギルティブレイクコンボイの中で思わず歓喜の声を上げる。
だが――
「気を抜くなよ、ホクト」
対して、ノーヴェはそうして浮かれるホクトをたしなめた。
「確かにパワーは完全に勝ってる。おかげで、アイツの攻撃にもムリヤリ耐えられる……
けど、戦いの上手さまでひっくり返るワケじゃねぇからな……こっちのパワーに慣れられたら、あっさり対応されちまうぞ」
「長引かせたらダメってことだね……」
「そういうことだ」
つぶやくホクトに答え、ノーヴェはギルティブレイクコンボイをかまえさせる。
「こういう時、パパみたいにバーストモードが使えたらなぁ……」
「別にあそこまでやる必要はないさ」
ボヤくホクトに答え、ノーヴェは自らの“力”を高めていく。
すぐにこちらの意図を察してくれたようだ。ホクトも同様に“力”を高め始める――周囲の虹色の輝きがより強く揺らめいていく中、告げる。
「フルドライブで一気に、勝っちまうだけだ!」
「セインお姉ちゃんをブッ飛ばしたオシオキは、きっちりさせてもらうんだから!」
『フォースチップ、イグニッション!』
ノーヴェの、ホクトの咆哮が交錯し――ミッドチルダのフォースチップが飛来した。ギルティブレイクコンボイの背中、バックパックとなっているガードフローターのチップスロットへと飛び込んでいく。
それに伴い、ギルティブレイクコンボイの四肢の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
そう告げるのは合体によって各機体のそれがひとつに統合された制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
Final break Stand by Ready!〉
「IS発動――ブレイクライナー!」
機体の側の“準備”が整うなり、ノーヴェがISを発動――同時、彼女達を覆うように何本ものエアライナーが出現。一斉に飛翔し、マスターギガトロンの周囲を囲い、自分と相手をつなぐトンネルを形成する。
「ホクト!」
「はーい!
とっつげきぃーっ!」
そして、ノーヴェの指示でホクトが飛翔、最大戦速でマスターギガトロンへと飛翔する。
全身を包むフォースチップの“力”、そしてハイパーゴッドオンによって発生した虹色の“力”、そのすべてが右足に収束。マスターギガトロンを前に、飛び込んできた勢いを殺すことなく身をひるがえし――
「絆の力よ!」
「断罪の一撃を下せ!」
『ギルティ、エクストリームブレイク!』
ホクトが、ノーヴェが、そして二人が――立て続けに上がる咆哮に乗って、“力”のすべてが込められた跳び蹴りがマスターギガトロンに突き刺さり、その巨体を吹き飛ばす!
「ぐぉあぁぁぁぁぁっ!」
その力は、いかにマスターギガトロンのパワーをもってしても耐え切れるものではなかった。エアライナーのトンネルの中を、何度も壁に激突しながら跳ね飛ばされていく。
そのまま、マスターギガトロンはトンネルの終点から外に放り出され――
『Game Over.』
ノーヴェとホクトの宣告と同時――マスターギガトロンの中に打ち込まれ、くすぶっていたエネルギーの残滓がとどめの大爆発を巻き起こす!
「ぐわぁぁぁぁぁっ!?」
「マスターギガトロン様!?」
悲鳴と共に跳ね飛ばされ、大地に叩きつけられるマスターギガトロンの姿に、ジェノスクリームが対峙していたイレインとオメガスプリームを放り出して彼のもとへと駆けつける。
「大丈夫ですか!?」
「ぐぅ…………っ!」
マスターギガトロンはうめくばかりで、こちらの問いに答える余裕はない――見れば、一撃を受けた腹部は装甲が大きく抉られ、内部にまで破壊が及んでいる。
かなりの重傷だ。戦闘続行が不可能とは言わないが、これでは戦闘能力はかなり減退する。
そんな状態で、そんな重傷を与えた相手と戦い続ければ――
「やむを得ん……!
総員撤退! 現戦闘空域を離脱する!」
決断するとそこからの行動は早かった。ジェノスクリームは迷うことなく自分とマスターギガトロンの下に五角形の魔法陣――ミッドとベルカ、両魔法を分析したマスターギガトロンの生み出した“ディセプティコン式魔法”の魔法陣を展開。転送魔法を発動させてその場から消えていった。
「ふふん、やったやったぁっ♪
ノーヴェお姉ちゃんと合体だぁーっ♪」
「あー、わかったわかった。
うれしいのわかったから、少しは落ち着け」
マックスフリゲートの格納庫――帰還するなり飛びついてくるホクトに対し、ノーヴェはどこかゲンナリした様子ではしゃぐ彼女をたしなめた。
あの後、ディセプティコン主要メンバーはそれぞれが独自に転送魔法で離脱した。どうやら、マスターギガトロンはディセプティコン式魔法を正式に配下にも伝授したようだ。
そうして、勝利したノーヴェ達はマックスフリゲートに凱旋となったワケだが、その間中、ギルティブレイクコンボイに合体している時から分離、帰還するまで、ホクトはずっと上機嫌で――その延長が先のやり取りである。
「まったく……
合体の興奮冷めやらぬ、って感じだな」
「『さめやらぬ』って何?」
「収まらない、って意味ですよ」
苦笑するセインに聞き返すホクトの問いにディードが答えると、
「はいはい、お疲れさん♪」
「みんな、おかえりー♪」
そこへ、ヴィヴィオを連れたジュンイチが姿を見せた。
「あー、もう、何でまた出てきてるんだよ。
休んでろって言われてるだろ」
「るせぇ。
がんばって戦ってきたヤツらの労いくらい、したってバチは当たらねぇさ」
うめくセインにそう答えると、ジュンイチはノーヴェとホクトへと向き直り、
「二人ともお疲れさん。
ハイパーゴッドリンク、できたみたいだな」
「まぁ……な」
「うん♪」
ジュンイチの賛辞に対し、ノーヴェは顔を赤くしてそっぽを向き、ホクトはホクトで満面の笑みでそう答える。そんな二人にジュンイチが苦笑すると、セインがジュンイチに尋ねる。
「しっかし……よくあんな合体ができたよな。
ジュンイチ、アンタの仕込みか?」
「まぁ、ね」
あっさりとジュンイチは認めた。
「確かに、アイツらの機体には合体機構を組み込んだぜ。ブレイクラリーとガードフローター、ギルティジェットはもちろん、ギルティドラゴンにも強化のついでにね。
でも……それはあくまで“合体の仕組みが存在する”だけ。合体を発動させて、且つ成功させたのは、間違いなく二人の実力だよ」
そうノーヴェ達をほめるジュンイチだったが、
「ちょっとちょっとー、ほめられるのノーヴェ達だけっスかー?
あたし達だってがんばったんスけどねー」
そんなジュンイチにしなだれかかり、ウェンディが口をとがらせて抗議の声を上げる。
どうやらノーヴェ達ばかりが持ち上げられているのが気に入らないらしいが――そんな彼女達にもちゃんと賛辞の声は上がった。
「そんなことないよ。
ウェンディお姉ちゃんも、ディードお姉ちゃんも、みんなもがんばったよ?」
「ありがとうございます、ヴィヴィオ!
そう言ってもらえれば、私もがんばった甲斐があります!」
ヴィヴィオだ――もともと彼女のことを溺愛しているディードは素直な賛辞に感激の涙を流すが、
「ありがとう。確かにありがとうっスけど……!」
今度は何が不満なのか、ウェンディは複雑な表情で眉をひそめた。
(あたしは、“ジュンイチに”ほめてもらいたいんスよぉ……!)
どうやら、ほめてくれる相手も彼女にとっては重要だったようだ。ほめてほしい相手にほめてもらえず、ウェンディは喜んでいいのか悲しんでいいのか、といった様子でその場に崩れ落ちる。
「フフフ、もうすっかり仲良しだね、みんな」
「まったくだな」
と、姿を見せたのはゆたかと共に遅れて出迎えに訪れたすずかだ。彼女の言葉にジュンイチは苦笑し――
「…………っと、そうだ。
そういうことなら……」
ふと何かを思いついたようだ。自分の懐に手を突っ込み、
「ジュンイチさん、それ……?」
「いろいろ節目だし……ちょうどいいと思ってさ」
ジュンイチの取り出したものに気づき、声を上げるすずかに対し、ジュンイチは楽しそうに笑みを浮かべてそう答えた。
そして数日後、聖王医療院前に停泊するホスピタルタートルで――
「ジュンイチさんから手紙!?」
「は、はい……」
その日、六課には思いも寄らない配達物が届いていた。驚きの声を上げるなのはに対し、はやての脇に控えるグリフィスもまた困惑を隠しきれず、一通の封筒を差し出してきた。
手紙のあて先はこのホスピタルタートルだ――ご丁寧に“聖王医療院・ホスピタルタートル内・機動六課御中”となっているあたり配慮が細かい。
そして裏面の差出人のところにはただ“柾木ジュンイチ”という署名のみ――なのは達だけでなく、一緒に呼び集められたスバル達の顔にも困惑の色が強く出ている。
「でも、どうして手紙で……?」
「メールとかだと、発信元を探知されちゃうからじゃないかな?」
「それもあるだろうが……おそらく、一番の理由はこちらを警戒させないためだろう」
しかし、なぜ手紙という形で――疑問の声を上げるフェイトにはなのはとイクトが答えた。うなずき、はやてが後を引き継ぐ。
「私も二人と同意見や。
メールとかやと、なのはちゃんの指摘したとおり自分達の居場所を知らせることにもなりかねへん。潜伏して行動してるジュンイチさんはそういうのはアウトやろうし……同時に、イクトさんの言った理由もある。
このご時世、それなりに“やらかしてる”人からメールが来れば、当然警戒するやろう? ウィルスかなんか仕掛けられてへんか、って」
「その警戒をさせないために、手紙って形式で……?」
「ま、そんなところでしょうね」
フェイトに答え、ライカは封筒を手に取り、
「で? 内容は?」
「私もまだ見てへん。
一応、相手が相手やし、みんなで改めようかな、って思ったんやけど……」
「まぁ……ヤツの立ち位置からして、こちらへの危害はありえまい。
みんなで改めても問題はあるまい」
「ホントに大丈夫なんですか?」
はやてやイクトの言葉に手を挙げ、尋ねるのはティアナである。
「ん? 何か心配か?
さっきも言っただろう。柾木にはこの機動六課に対し悪意はない――別に問題のある手紙が送られてきたとは思わんが」
「いや、そうではなくて……
あの人は今回の事件に深く関わってます。何か、あたし達なんかが見たらマズイような重要な情報でも入っていたら……」
「あぁ、そういうことか。
せやったら大丈夫や。人によっては見たらマズいようなものやったら、あの人はこんな大々的には送らへん。もっと確実な方法でくるはずや」
「誰に見られても困らない。そういう類の話だから、安心して手紙で送ってきた、ってことですか……」
「ホント、お兄ちゃんらしいというか……」
ティアナに答えるはやての言葉にギンガやスバルが苦笑すると、
「じゃ、そういうことで、中を改めるわよ」
ライカが手紙を開封しにかかった。用意してあったペーパーナイフを使い、手紙の封を切り開ける。
そして、取り出した手紙に真っ先に目を通し――眉をひそめた。
「どうしたんですか? ライカさん」
「あー、いや……
ホントに、アイツらしいなー、と思ってさ」
尋ねるなのはに答えると、ライカは彼女に手紙を差し出した。
手紙は便せんで3枚つづり――しかし。その1枚目を見た瞬間、なのはは自分の背筋が凍りついたかのような錯覚を味わっていた。
そこには、新聞から切り取った文字を一文字ずつ貼り付ける形で一言。
『ヴィヴィオは預かった』
一昔前の誘拐でよく見られた脅迫状の手口だ。内容が内容なだけに、なのはは緊張で震えながら次の便せんへと視線を向ける。
そこにもやはり一言。
『返してほしければ』
こんなもの、便せん1枚に収まる情報量だ。どうやら便せんを3枚に分けたのはもったいつけるためらしい。頼むからそんなところにこらないでほしい。
ともかく、何かの要求であることは間違いない。何を求められてもいいように覚悟を決めつつ、なのはは3枚目の便せんを見た。
そこに書かれていた“要求”は――
『さっさと事件を解決しろ、ドン亀ども』
「え、えーっと……」
最後の最後でコレである。なるほど、ライカが苦笑したのもムリはない。顔を上げ、イクトに尋ねる。
「……とりあえず、ヴィヴィオがジュンイチさんのところにいるのはわかりましたけど……この文は?」
「わかりやすく訳してやろう。
『ヴィヴィオの安全は保証するから、安心して事件に対応しろ』といったところか」
「安心できませんよ!?
なんで誘拐系の脅迫風!?」
「『楽しいから』だろう? 主にアイツが」
「あの人だけですよ、楽しいの!」
イクトの答えに、なのはは思わず声を上げ――
「………………え?」
気づいた。
封筒の中にまだ何かある――取り出してみると、それは1枚の写真だった。
だが――そこに写されていたものは、なのはをさらに困惑させるには十分なインパクトを持っていた。
「え? え? え??」
「どれどれ……?」
そんな、先ほどから動揺しっぱなしのなのはの様子に、マスターコンボイは脇から写真をのぞき込み、
「……ほほぉ、これはこれは……」
それは彼にしてみれば興味を惹かれる内容だったようだ。どこか楽しげになのはへと視線を向ける。
「え、えっと……
なんで、こんなことに……!?」
「オレが知るか」
写真に写った光景に困惑を隠せず、呆然と尋ねるなのはに、マスターコンボイはあっさりとそう答える。
「だが……」
しかし、そう付け加えると、マスターコンボイはなのはの手から写真を取り上げた。あわてるなのはにかまわず、写されているものを見て、
「経緯はわからんが……少なくとも、“こういう顔”ができてる、ということは、悪い状況じゃないんじゃないか?」
そう告げるマスターコンボイの手の中の写真には――
戸惑うルーテシアに両側から笑顔で抱きつくヴィヴィオとゆたか、そしてその周りに楽しげによりそうホクトやノーヴェ達の姿が写っていた。
なのは | 「どうして、ヴィヴィオやゆたかちゃんがジュンイチさんのところに……?」 |
マスターコンボイ | 「まぁ、保護したんだろうな、アイツが」 |
なのは | 「まぁ、無事なようで安心したけど……」 |
マスターコンボイ | 「確かに、そこが一番重要か」 |
なのは | 「でも……早く会いたいな……」 |
マスターコンボイ | 「一応、同意しておこうか。 ……ところでなのは」 |
なのは | 「はい?」 |
マスターコンボイ | 「例の写真、ラミ加工の上に魔力保護……永久保存にしても気合が入りすぎだろうが!」 |
なのは | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第92話『世界を見つめる者〜それぞれの行方〜』に――」 |
二人 | 『ハイパー、ゴッド、オン!』 |
(初版:2009/12/26)