「GLX-Jシリーズ、全起動。
ギルティブレイクコンボイも完全稼動、と……」
自室で端末を開き、ジュンイチは表示されたデータに目を通しながらつぶやいた。
「“最後の切り札”を残しているとはいえ、アイツらの戦力はほぼ整いつつある……
それに、アイツら自身も、順調に強くなってる……」
つぶやき――ジュンイチは端末の電源を落とすとデスクの傍らに置かれた二つの写真立てへと視線を向けた。
一方は、先日撮ったセイン達とヴィヴィオ達の集合写真。そしてもう一方は――
「それに、スバル達も……」
かつて撮られた、ナカジマ家の――クイントもいた“あの頃”のナカジマ家の、自分やイレインを含めた全員で撮った集合写真だ。
「スバルのハイパーゴッドオンがまだ不安定とはいえ、向こうの戦力も、隊長陣の復帰も含めて整いつつある。
……まぁ、それは敵にも言えることだけどな」
つい先日の戦いで久方ぶりに姿を見せた宿敵、マスターギガトロンの姿が脳裏に浮かぶ。
次いでスカリエッティの主力たるマグマトロンの姿が浮かぶ――が、クアットロのイメージまで余計についてきたので迷うことなく削除する。
「間違いなく……事態は近いうちに大きく動く。
それまでが勝負、か……」
しかし、そんなネタ的なことを考えながらも、彼の決意が揺らぐことはなかった。
部屋の照明を落とし、自室を後にしながら、独りつぶやく。
「この調子で、どいつもこいつも強くなってもらわないとな……」
「オレがいなくなってからも、大切なモノを守っていけるように……」
第92話
世界を見つめる者
〜それぞれの行方〜
「さて……それじゃあ、状況を整理しましょうか」
マックスフリゲートのブリッジ――セイン達やホクト、通信で参加となったガスケットはもちろん、すずか、ゆたか、ルーテシアまでもが顔をそろえた中、イレインはそう切り出した。
「まぁ……だいたい、勢力数は8勢力、ってところかしらね」
「そんなに勢力がいたでしょうか……?」
「えぇ、いるわよ」
首をかしげるディードにイレインが答え、すずかがメインウィンドウにディセプティコンの映像を映し出しながら後を続ける。
「まずはディセプティコン。ここがある意味一番の問題よ。
リーダーのマスターギガトロンには、使いどころが限られるとはいえ対能力者戦闘の究極奥義とも言える“支配者の領域”がある。
それに、ウェンディとジュンイチが見たって言うカスタムドローン“ドール”……二人が見たのは空戦用って話だけど、だとすれば当然陸戦用や海戦用もあるはず。
しかもプラント持ってたんでしょ? ガジェットをカスタマイズしたっていうそいつらが数をそろえられたら、厄介どころの騒ぎじゃないわ」
「魔導師だけじゃなくて能力者全般の力を抑える“支配者の領域”。そしてガジェットを解析し、さらに改良を加えた“ドール”……」
「明らかに、対ドクター戦も視野に入れてるっスね」
「まぁ、もうひとつの主勢力だからね。
最近はこっちへのちょっかいに動きを限定して、全体的には鳴りを潜めてる感じだけど……あっちにだってマグマトロンがある。加えて一番“レリック”を持ってるワケだし……過大評価するくらいが一番妥当でしょうね」
セインやウェンディに答え、イレインは映像をマグマトロンやトーレ達の姿に切り替えた。トーレ達の映像を見たセイン達が一瞬身体を強張らせたのを察して、すぐに次に切り替える。
「そして……まだ戦力の全容が明らかになってない瘴魔軍。厄介というか不安というか……
かたっぱしから町を砂漠化して回ってるのも気になるし……とにかくうかつな戦力評価は危険だわ。
で、あたしらにシャークトロンを壊滅させられて、各勢力にゲリラ戦を仕掛けるしかない状況のユニクロン軍……こいつらもプラントがある以上、貧乏暮らしは今の内だけと思っておくべきでしょうね。
そして、それら全部をなんとかしなくちゃいけない機動六課と、あたし達……」
「あと二つは、どこのドイツだよ?」
「うーん……“勢力”って呼んでいいのかどうかは、ちょっと微妙なんだけどね」
尋ねるノーヴェに答えたのはすずかだ。
「ひとつは、今回の件とはまったくつながりのないところにいるその他の管理局の部隊だよ。
戦力としては一番大規模だけど……ミッドチルダ地上本部の崩壊と、それに合わせたジュンイチさんの不正の暴露で上の統率がズタズタにされて、決定的な力を失っている」
「ジュンイチの手回しで構築されたネットワークによって、かろうじて治安を維持することはできてるけど……逆に言えばそこが限界。
今回の戦いにおいて、戦力には数えられないわね」
「あとひとつは……?」
すずかや、彼女に続くイレインの言葉にルーテシアが聞き返すと、
「もしかして…………普通の人達……ですか?」
そう口を開いたのは、ゆたかだった。
「今回の事件って、もうミッドチルダ全体に影響してるじゃないですか。
管理局にもどこの勢力にも属してない、戦いに直接参加してない人達も、無関係ってワケじゃないと思うんです」
「でも……そんなの“勢力”としてカウントできるの?」
〈アイツらに戦う力なんかないだろ〉
説明するゆたかにホクトや通信越しのガスケットが異論をはさむが、
「そうね。
ゆたかの言う通りよ」
しかし、そんな彼女達に対し、イレインはハッキリとうなずいた。
「元々、カリムの予言でも管理局システムの崩壊、すなわち今の社会自体が崩壊することが示唆されていた……
今回の戦い、一般ピープルだって無関係じゃない」
「でも、戦う力がないだろ」
「本当にそう思う?」
口をはさむノーヴェだが、イレインはあっさりとそう返した。
「じゃあ、逆に聞くけど……あんたは、その“戦う力のない人達”がみんなそろって、束になって押し寄せてきたら……勝てる自信、ある?」
「う゛………………っ」
「ま、そういうことよ。
民衆がひとつにまとまった時の力は、決してバカにできるものじゃないわ」
やり込められたノーヴェにそう答えると、イレインは静かに息をつき――胸中で付け加えた。
(そう。
だからこそ――)
(ジュンイチは“計画”の要に彼らを据えた……)
「パパーっ!
遊んで、遊んで♪」
「あー、ちょっと待ってくれ。
朝練でノーヴェ達をしばき倒した戦闘記録、データベースにコピーしなきゃいけないから。
その後でなら遊んでやるよ」
まだまとめてないデータの整理でもしようかとアナライズルームに向かう途中、ヴィヴィオに出くわしたのが運の尽きか。かまってほしくてじゃれついてくるヴィヴィオにそう答えながら、ジュンイチは彼女を連れて廊下を歩いていた。
誰かに押しつけようにも、生け贄達は今頃ブリッジでブリーフィングのはずだ。ヴィヴィオに逆らえない自分に涙しつつ、アナライズルームの扉を開き――
「………………ん?」
ジュンイチは、中のシステムが起動していることに気づいた。
一体誰が――眉をひそめながら室内に足を踏み入れると、
《あぁ、マスターですか》
「…………マグナ……?」
システムを使用していたのはマグナだった。自身を映し出したものとデータを表示するもの、二つのウィンドウを向き合わせて表示されたデータに目を通している。
「どうしたんだよ?」
《六課の戦闘記録を見てたんです》
尋ねるジュンイチに答えるマグナの言葉の通り、データ表示用のウィンドウには確かに機動六課の戦闘の映像が映し出されている。
《途中参戦の私は、あなたの戦いはともかく、六課の戦いは記録でしか知りません。
だからせめて、記録映像だけでも、と思って……》
「なるほどな……」
言って、マグナは自身を映すウィンドウの位置を動かして中央の席を空ける――苦笑まじりにジュンイチがその席に座るのを見て、尋ねる。
《でも……この記録、機動六課の公式記録ですよね?
それを何で持ってるんですか? やっばり、妹さんから?》
「あずさにはやらせてないよ。アイツにさせてたのは近況報告だけだ。
アイツに頼んだのはあくまで“お目付け役”だからな――スパイの真似事なんかさせられるかよ」
そう答え――ジュンイチは胸を張り、キッパリと答えた。
「オレがハッキングで回収した」
《どっちにしても違法行為ですよねソレ!?》
「アイツに責任が被らないようにしたってことだよ」
ツッコむマグナにジュンイチがあっさりとそう答え――
「これ……ママ達の……?」
「ん? あぁ。
なのは達の戦闘記録だぜ」
脇からのぞき込んできたヴィヴィオに、ジュンイチは笑顔でそう答える。
「でもこれ、見たことない……」
《まぁ、実際の作戦の記録映像ですからね。
ヴィヴィオが見ることはなかったかもしれないですね》
つぶやくヴィヴィオにマグナが答えるのを聞き、ジュンイチはふと思い立った。
「そうだ、ヴィヴィオ。
どうせなら、いくつか見てみるか?」
「いいの?」
「まぁ、六課と違って、ウチでは見るのに制限かける理由がないからな。別にいいだろ」
聞き返すヴィヴィオに答えると、ジュンイチはマグナに向き直り、
「っつーワケで、マグナ。
六課の記録、いくつかピックアップしてもらえるか?」
《はいはい。
じゃあ、節目となる大まかなものを……》
ジュンイチの言葉にうなずき、マグナがデータベースにアクセス。アナライズルームの中央モニターに映像を読み出す。
そこに映し出されたのは、ミッドチルダ臨海第8空港近隣、廃棄都市街の光景――マスターコンボイとなのは達が再会、スバル達が初めての対面を果たした、あの場所である。
「六課ができる前の話になるけど……六課メンバーによる戦いの一発目として相応しいのは、このスバルとティアナのBランク昇級試験の時だろう。
当事はまだ覚醒してなかったとはいえ、ゴッドマスターとしての適格者だったスバル達を狙って、ジェノスクリーム達が襲ってきたんだ。
で、そんな中でスバル達を守ってくれたのが……」
「10年、か……」
静かにつぶやき、彼はゆっくりとスバルの前に降下してきた。
「しばらく寝ている間に、ずいぶんと楽しそうなことになっているな」
そう告げ、スバルを助けたそのトランスフォーマーは静かに大地に降り立ち、ジェノスクリームの前に立ちはだかる。
「あ、あなたは……!?」
その姿に、なのは思わず声を上げ――そんな彼女に、彼は静かに告げた。
「しばらくぶりだな――なのは」
「マスター、メガトロンさん……!?」
「これ……誰?」
「ハハハ、お前は今の姿しか知らないからしょうがないな」
しかし、ヴィヴィオにとってマスターメガトロンは面識のない相手だった。映像を指さして尋ねるヴィヴィオに、ジュンイチは肩をすくめて苦笑する。
「これが、お前の知ってるマスターコンボイの元々の姿なんだよ。
本名マスターメガトロン。元はセイバートロン星のデストロン側プラネットリーダーで、なのは達とは最初は敵同士だったんだ」
「なのはママとケンカしてたの?」
《なのはママとだけじゃありませんよ。
フェイトママやはやてともですね》
聞き返すヴィヴィオにはマグナが答えた。
「まぁ、今はお前も知っての通りの仲良しさんだから安心しろ。
で、その後いろいろあって今の姿になって、スバル達と一緒に六課に誘われたんだ」
ジュンイチがヴィヴィオに説明し、続いて映し出されたのは山岳地帯を駆け抜けるリニアレールの映像だ。
《これが六課の初出動。
リニアレールを襲ったガジェットをやっつけるために出動したんですね》
そう告げるマグナだが、ヴィヴィオが興味を示したのは――
「あー、フリードだー♪」
「お前的に興味があるのはそっちなのな……」
キャロの竜召喚によって“力”を引き出されたフリードだった。目を輝かせるヴィヴィオに、ジュンイチは苦笑まじりに肩をすくめた。
「フリード……不自由な思いをさせててゴメン。
わたし、ちゃんと制御するから……!」
「…………ん……」
そう告げるキャロの腕の中で、エリオが意識を取り戻す――が、そのことにも気づかないほど集中しているキャロはフリードに向けて告げる。
「いくよ――フリード!」
―― 蒼穹を走る白き閃光
我が翼となり天を駆けよ!「来よ、我が竜フリードリヒ!
竜魂召喚!」
呪文の詠唱を完了し、キャロが咆哮――その瞬間、フリードの姿が変わった。
彼らを包み込む魔力光の中、見る見るうちにその身体を巨大化させていく。
そして――
「グギュルァアァァァァァッ!」
キャロの魔力光を完全に吹き飛ばし――抑えられていた力を解放されたフリードはキャロ達を背に乗せ、天高く咆哮を轟かせた。
「お前も知ってる、フリードの全力で戦う時のその姿……本当の意味で制御できたのは、この時が初めてだったんだ。
それまでは、キャロが自分の力を恐がってたせいで、うまくコントロールできなかったんだ」
「恐かったの? 自分の力なのに?」
「それくらい、本気のフリード達の力がすごかったんだよ」
不思議そうに首をかしげるヴィヴィオに答え、ジュンイチは彼女の頭をなでてやる。
「まぁ、お前にもその内わかる時が来るかもな。
できれば、そんな時が来てほしくはないんだけど……」
「………………?」
ジュンイチの意味深な言葉に、ヴィヴィオはやはり不思議そうに首をかしげる――軽く肩をすくめ、ジュンイチはマグナに先を促した。
切り替わった映像は、夜の街並みを舞台にシャークトロン達と戦うスバル達の姿だ。
「なのは達の故郷、海鳴への出張任務……
“レリック”とは別の“古代遺物”が紛れ込んじゃったのを回収に行ったんだ」
《それだけなら、すんなり行くはずだったんですけどね……》
ジュンイチの言葉にマグナが相槌を打ち、映像の中からシャークトロンや彼らを率いるノイズメイズ達をピックアップする。
「お前もよく知ってるユニクロン軍のバカども……こいつら、当事は地球を縄張りにしてたんだ。
で、なのは達が海鳴に来たのを知ってしゃしゃり出てきてな。
仕方がないから……」
ヴィヴィオに説明しながら、ジュンイチは端末を操作――切り替わった映像にはこなた達カイザーズの姿が映し出された。
「ノイズメイズ達と戦ってた、こなた達に動いてもらった。
スバルとこなたが初めて出会ったのは、この時なんだ」
「ほぇ〜……」
そしてまた画面が切り替わる――次の映像は、訓練場でにらみ合うスバル&ティアナとなのは、そして、スカイクェイクと激突するなのはの姿だった。
「――いきます!」
先手を打ったのはなのはだった。地を蹴り、空中へと舞い上がると同時、スカイクェイクに向けてブリッツシューターを放ち――
「Mond Jager」
腕組みを解かないままスカイクェイクが静かに告げ――次の瞬間、なのはの放ったすべての魔力弾が砕け散った。
スカイクェイクの生み出した、苦無を思わせる形状の魔力弾がなのはのブリッツシューターをまとめて叩き落としたのだ。
「……Gehen」
続けてスカイクェイクが指示を下し――魔力弾は一斉になのはに向けて飛翔する。
《なの姉!》
「く――――っ!」
対し、なのはも迎撃すべく再びブリッツシューターを放った。スカイクェイクの放った魔力弾へと向かわせるが――
「ムダだ」
スカイクェイクが告げ――モーントイェーガーは散開してなのはのブリッツシューターを回避、逆にそのすべてを再び打ち砕く!
「これは……?」
「なのはとスバル達が大ゲンカをやらかしてな。
しかもそれが、スカイクェイクを怒らせちゃったからさぁ大変、ってワケで、コレだ」
尋ねるヴィヴィオに答え、ジュンイチはウィンドウをコンコンと叩いてみせる――脇でマグナが《自分が(スカイクェイクを)けしかけたクセに》とつぶやいているが、気づかないフリで華麗にスルーだ。
「で、その時にお前も知ってるジェットガンナーが合流してね――ガンナーコンボイへの初合体もこの時だ。
そして、そのジェットガンナーの合流をきっかけにして、残りのGLXナンバーが六課に集められたんだ」
「えっと……
シャープエッジと、シロちゃんクロちゃん、アイゼンアンカー……」
《はい、正解です♪》
ジュンイチの言葉に指折り数えるヴィヴィオにマグナが答えた。映像の中で手を挙げて――映像の自分では彼女の頭をなでられないことに気づいた。挙げた手はそのままに、残念そうに眉をひそめる。
そんなマグナに苦笑しつつ、ジュンイチは次の映像を呼び出した。画面に現れたのは――
「エリオ! キャロ!」
「あ、スバルさん、ティアさん……」
「兄さんに……ガスケットさん達も……」
仲間達の合流を待つエリオの元に真っ先に駆けつけたのはスターズF+α――スバルを先頭にやってきた面々の姿に、エリオとキャロが顔を上げる。
「この子が、例の……?
またずいぶんボロボロに……」
「地下水路を通って……ブレインジャッカーさんと会うまで、かなり長い距離を歩いてきたんだと思います」
応急手当を終え、眠るように意識を手放している少女――ヴィヴィオを見下ろし、つぶやくティアナに彼女にヒザ枕してあげているキャロが答えると、
「はいはーい! お姉ちゃん参上!」
ヴァイスと共にやってきたのはアスカだ。スバル達の駆けてきた方とは反対側から彼女達に合流する――
「わたし……?」
ボロ布で身体を覆ったヴィヴィオだった。自分の姿を映像の中に見て、不思議そうに首をかしげる。
「お前がなのは達と初めて出会った時の事件だよ。
あの時、お前“レリック”持ってただろ? アレを狙って、ガジェットやらディセプティコンやら他の勢力やらワラワラ出てきたんだよ」
《ナンバーズのみんなもここで出てきたんですよね。
ウチに加わったメンバーでは……セインがこの時出撃しています》
「ついでに、オレもチンクとドンパチやってたしな」
マグナとジュンイチの言葉に伴い、映像にデプスチャージにゴッドオンしたセイン、そしてチンクのゴッドオンしたブラッドサッカーと激突するジュンイチの姿が加わる。
「ちなみに……お前を最初に見つけたのが、コイツ」
そんな映像を、ジュンイチがさらに切り替える――そして映し出されたのはブレインジャッカーだ。
「この人……?」
「見たことあるだろ? 何度かマックスフリゲートに顔出してるし。
ブレインジャッカー。ジェットガンナー達の元になったヤツだよ」
「この人が……」
つぶやくヴィヴィオにうなずき――ジュンイチは端末を操作。映像を停止した。
「後はお前も知っての通りだ。
ゴキブリ騒動があったり、文通騒動があったりして……地上本部攻防と六課襲撃」
「………………っ」
ジュンイチの言葉に、その時の――六課襲撃の際にさらわれかけたことを思い出したのだろう。ヴィヴィオの顔が曇り、ブルリと身震いする。
「オレ達助っ人組を除けば、最初から戦いに参加してた連中は実質全員フルボッコ。みんなこてんぱんにノされちまった。
で、お前もさらわれかけて……」
「うん……
ゆたかねーねと、パパが助けてくれた!」
そんなヴィヴィオに気づきながらも、ジュンイチはさらに言葉を重ねる――が、ヴィヴィオにとっての恐怖の記憶を彼が代弁したことで、ヴィヴィオにしてみればその後、助けられたことへと記憶がつながった。恐怖に沈んでいたその顔が再び笑顔に彩られる。
「悪いな、すぐにでもなのはのところに返してやれなくて。
オレ単独でアイツらのところにいく分には問題ないけど、それはいろいろ危ないことしての結果だからな……敵の警戒網を突っ切ってくのが前提な以上、お前やゆたかを連れて行くのはちょっと遠慮させてもらいたい」
「うぅん、大丈夫」
なのはに会いたくてしょうがないだろう――言外にそう告げながらヴィヴィオに謝罪するジュンイチだったが、そんな彼の読みに反し、ヴィヴィオは満面の笑顔でそう答える。
「ママには会いたいけど……こっちにはパパがいるもん!
それに、ゆたかねーねや、ホクトちゃんも……だから、ヴィヴィオ寂しくないよ?」
「…………ん。そっか」
笑顔で告げるヴィヴィオに、ジュンイチもまた笑顔で返し――
「それとも……早く帰ってほしいの?
ヴィヴィオといるの、イヤ?」
「いや、ンなことないから。
ないからそうやって瞳ウルウルさせるのヤメテクレ」
一転して泣きそうになったヴィヴィオに、ジュンイチは迷わず白旗を揚げた。
「…………やれやれ。ようやく寝やがったか」
その後もしばらくヴィヴィオの疑問にジュンイチやマグナが答えてやる形で談笑――やがて眠ってしまったヴィヴィオにとなりの仮眠室へ。ベッドに寝かせて毛布をかけてやり、ジュンイチは軽くため息をついた。
《マスター、もうすっかりパパですね》
「よしてくれ」
映像の中でクスリと笑みをもらすマグナの言葉に、ジュンイチはヴィヴィオを起こさないように静かに答え、アナライズルームへと戻ってくる。
「まったく……二人とも人選が甘いっての。
オレなんかの“娘”になっても……後々、寂しい思いをするだけだってのに……」
《マスター……》
その横顔に彼自身の抱く寂しさが垣間見えるが――あえて口にせず、マグナは静かにつぶやいたきり黙り込み――
「ところでマグナ」
そんな彼女に、ジュンイチはクスリと笑いながら告げた。
「口調が“猫被り”のままだぞ。
ヴィヴィオは寝たし、すずかもイレインもいない。“本来の話し方”でいいだろ」
《おっと……
……そうね。たまにはホントの口調で話さないと、忘れちゃうわね》
ジュンイチに指摘されたとたん、丁寧だったマグナの口調が砕けたものに変わる――どうやらこちらが“地”のようだ。
「まー、とりあえずヴィヴィオが起きる前に、マジメなお話、やっとこうか。
マグナ、世間の様子はどうなってる?」
《ネットワーク上から見て回った限りは、大きな動きはないわね。
それに……》
ジュンイチに答え、マグナがウィンドウに表示したのはネットワーク上のニュースサイトである。
そこには、レジアスがこちらの暴露した地上部隊の“裏の顔”について追求するマスコミに対応する様子が記されている。
《地上本部の方も相変わらず。
レジアス中将、ジュンイチのバラまいた“告発”の火消しで完全に動きを封じられてるわ》
「上等上等。
ここであのゴリラに出てこられても話がややこしくなるだけだ。しばらくは足止めされていてもらおう♪」
マグナの言葉に満足げにうなずき、ジュンイチは自分の目でもデータを確認する。
「ここからの戦いは世間様よりひとつ二つ上のレベルの領域だ。
敵も味方も、ザコには引っ込んでいてもらわないとな」
《敵味方問わずってところがジュンイチらしいわよねぇ》
ジュンイチの言葉に、マグナは思わず苦笑し、
《けど……おかげで動きがとりやすいのも確かね。
六課の方も、戦力の強化について何もツッコまれてないみたいだし》
「まぁな。
一応は民間協力者のからんだ強化だから、戦力の保有制限には引っかからないんだけど……それでも、良く思わないヤツはいるはずだからな。黙らせるための手はどうしても必要だった」
マグナに答え、ジュンイチは端末を操作。目的のデータを呼び出した。
「ともあれ……連中の動きを封殺したことで、六課は順調に戦力を整えることができた」
『マスターコンボイ!』
スバルとマスターコンボイの咆哮が響き、二人は頭上へと大きく跳躍し、
「カイザーコンボイ!」
こなたはゴッドオンしたままカイザージェットへとトランスフォーム。上空へと跳んだスバル達を背中に乗せ、一気に上空へと急上昇していく。
そして、二人は上空の雲海の上まで上昇し、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
宣言と同時、カイザージェットが複数のパーツに分離。それぞれのパーツが空中に放り出されたマスターコンボイの周囲へと飛翔する。
最初に変形を始めたのはカイザーコンボイの両足だ。大腿部をスライド式に内部へ収納。つま先を下方にたたんだマスターコンボイの両脚に連結するように合体。より大きな両足を形成する。
続いて左右に分離し、マスターコンボイの両側に配置されたカイザーコンボイのボディが変形。両腕を側面に固定すると断面部のシャッターが開き、口を開けた内部の空間にマスターコンボイの両腕を収めるように合体。内部に収められていた新たな拳がせり出し、両腕の合体が完了する。
カイザージェットの機首と翼からなるカイザーコンボイのバックパックはそのままマスターコンボイのバックパックに重なるように合体。折りたたまれていたその翼が大きく展開される。
最後にバックパック、カイザージェットの機首の根元部分に収納されていた新たなヘッドギアがマスターコンボイの頭部に装着。各システムが起動し、新たな姿となった3人が高らかに名乗りを上げる。
『カイザー、マスター、コンボイ!』
「スバルとマスターコンボイ、こなたのカイザーコンボイがハイパーゴッドオン、ハイパーゴッドリンクを遂げたカイザーマスターコンボイ」
『トリプルライナー!』
かがみ、つかさ、みゆき――
『グラップライナー』
そして、ひよりとみなみ――それぞれの咆哮が響き渡り、トリプルライナーとグラップライナーは同時に、背中合わせに跳躍し、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
宣言と同時に、グラップライナーがいくつものパーツに分離した。そのままトリプルライナーの周囲に配置され、合体を開始する。
まず、グラップライナーの両足が変形――大腿部を丸ごと、まるで関節部ごと掘り返すかのように引き出すとそれを後方へと折りたたみ、関節部がなくなったことで空洞となった両足の内部空間に、トリプルライナーの両足がまるで靴を履くかのように差し込まれ、そこへグラップライナーの両肩、ニトロライナーとブレイクライナーの先頭車両部分が合体してつま先となり、より巨大な両足が完成する。
続けて、トリプルライナーの右手に装備されたレインジャーの重火器類、左手に装備されたロードキングのレドームシールドが分離。スッキリした両腕をカバーするように左右に分かれたグラップライナーのボディが合体する。
内部から拳がせり出し、より巨大になった両腕に分離していた重火器とレドームシールドが再び合体、両腕の合体が完了する。
ボディにはニトロライナー、ブレイクライナーから分離した胸飾りが胸部左右に合体。最後に両肩にはブレイクアームのカーボンフィストが砲身が短めのキャノン砲となって合体する。
合体の工程をすべて完了し、各システムが再起動。カメラアイの輝きが蘇り、かがみ達が高らかに名乗りを上げる。
『大! 連結合体! ジェネラル、ライナァァァァァッ!』
「柊かがみ達のトリプルライナー、田村ひより達のグラップライナーと、ティアナ達のハイパーゴッドオンしたGLXナンバーの合体各種。
そして、ライナーズの機体のみによる5体合体、ジェネラルライナー」
『ロードナックル!』
『ジェットガンナー!』
『アイゼンアンカー!』
『シャープエッジ!』
『ブレインジャッカー!』
ティアナ達4人と5体のGLXナンバー、そしてあずさ――それぞれの咆哮が響き渡り、彼らは次々に上空へと跳躍し、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
宣言と同時にそれぞれが変形を開始、合体体勢に入る。
まずはロードナックル・シロだ。ビークルモードにトランスフォーム。車体脇のアームに導かれる形で後輪が前輪側に移動、前輪を含めた4つのタイヤが整列し、車体後尾には合体用のジョイントが露出、巨大な左腕へと変形する。
次はシャープエッジがビーストモードに変形。喉元にあたる部分に合体用のジョイントを露出させる。
ジェットガンナーもビークルモードへとトランスフォームすると、そこから機首を後方にたたみ、機体下部の装甲を展開して合体ジョイントを露出させる。
最後にアイゼンアンカー。分離し、運転席側をジョイントとして合体していた2台のビークルは今度は車体後尾をジョイントとして合体。小型クレーンにトランスフォームしたアイゼンアンカー自身は背面側に合体し、起き上がった運転席部分を爪先とした、下半身へと変形する。
そして、変形した各員が下半身を分離させたブレインジャッカーの周囲に配置。アイゼンアンカーの変形した下半身がブレインジャッカーの上半身に合体。その後方、アイゼンアンカーの本体が合体したそのさらに後方には ブレインジャッカーの下半身が合体し、まるで神話に出てくるケンタウロスのような人馬状の下半身が完成する。
ロードナックルとシャープエッジはブレインジャッカーの両肩アーマーに合体。ブレインジャッカー自身の両腕を残したまま、1対の追加アームとなる。
最後にジェットガンナーがバックパックとしてブレインジャッカーの背中に合体。ブレインジャッカーのウィングが展開され、各機の合体が完了する。
ジェットガンナーの機内から射出されたヘッドギアがブレインジャッカーの頭部に被せられ、各システムが再起動。カメラアイに輝きがよみがえる。
全身に力がみなぎり、力強く拳を、アームを打ち合わせ、ひとつとなったティアナ達が名乗りを上げる。
『星雷合体! Vストライカー!』
「ティアナ達とGLXナンバー、そしてブレインジャッカーとあずさによる合体、Vストライカー。
合体にバリエーションが生まれ、さらに純粋な能力も向上したことで、アイツらのチームとしての運用能力はかなり高いぜ。
やりようによっては、六課の隊長格チームにも勝てるんじゃないかな?」
《そこまでのパワーアップなの?》
「『そこまでの』……というか、チームで動くことを考えると、なのは以下隊長格の方がへっぽこだ、っつーのが真相かな?
何しろアイツら、それぞれが一芸特化で分担の区分けが明確すぎる。何かしらの理由で誰か欠ければ、その穴を埋められるヤツがいないんだ。
運用の柔軟性で言うなら、スバル達の方がはるかに上だ」
マグナに答え、ジュンイチは複雑な表情で頭をかき、
「ちと悔しいが……連携能力ならウチの子達よりも上だね、今のところ」
《『自分達より』とは言わないのね》
「フッ、オレ自身は負ける気しないからな。スバル達にもノーヴェ達にも」
《教え子相手に負けん気出してどうするのよ……》
呆れてうめくマグナだが、当のジュンイチはどこ吹く風だ。
「まぁ、GLX-Jシリーズについては仕方ない部分もあるんだけどね。
アレは連携能力よりも使い手となるセイン達の能力を最大限に引き出すことを目的にしてる――AIを積んで連携を意識した作りのGLXナンバーと比べたら、連携についてはどうしても劣る。
そっちについては、実質使い手達に丸投げだ」
《あー、それで修行の模擬戦はチームでしかやらせないのね。
ゴッドオンした時でも同様に連携できるように……》
「そゆこと」
言って、ジュンイチがモニターに呼び出したのはGLX-Jシリーズ各機のデータだ。
「GLX-J01S、デプスダイバー。
GLX-J02N、ブレイクロード。
GLX-J03W、エリアルスライダー。
GLX-J04D、ウルフスラッシャー。
そして……GLX-J05H、ギルティサイザー」
《あ、ホクトの機体もGLX-Jシリーズなんだ》
「まぁな。
そして……」
「ブレイクロード――スーパーモード!
トランス、フォーム!」
ノーヴェの宣言に伴い、ガードフローターが彼女の元に飛来した。その上に跳び乗り、ノーヴェが大空へと舞い上がる。
そして、さらに跳躍――空中に身を躍らせたノーヴェの眼下で、ガードフローターが変形を開始する。
機体下部、両脇の大型推進器が後方に展開、その奥に隠された両腕が姿を現すと同時、推進器は後方でまっすぐに伸ばされ、ロボットモードの両足となる。
機首は左右に分割、断面を外側に向けると両腕側へと倒れ、両肩を守る肩アーマーとなる。
そこへ、そこへ先ほど上空に跳んだノーヴェ――彼女のゴッドオンしたブレイクロードが落下してきた。ビークルモード、ブレイクラリーにトランスフォームし、ボディ上部に車体後方を合わせ、車体が前方に突き出すように合体する。
ブレイクラリーの車体が中ほどから倒れ、胸部をカバー。最後にロボットモードの頭部がボディ内から現れる。
全システムが起動、カメラアイに輝きが生まれる――全身に力が行き渡り、ノーヴェが高らかにその名を名乗る。
「天を蹴り抜き、地を砕き、あらゆる壁をぶち破る!
ブレイクコンボイ――Stand by Ready!」
「ノーヴェのブレイクロードが支援ユニット、GLX-JEX“ガードフローター”と合体したブレイクコンボイ」
「ギルティサイザー、スーパーモード!
トランス、フォーム!」
ホクトの宣言に伴い、ギルティドラゴンが彼女の頭上に飛来した。高らかに鳴き声を上げ、変形を開始する。
両後ろ足をたたむと後ろ半身全体が後方へスライド。左右に分かれるとつま先が起き上がり、ロボットモードの両足となる。
続けて両前足はつま先が腕の甲へとスライド、つま先のあった部分には内部からせり出してきたロボットモードの両拳がセットされる。
と、そこでギルティドラゴンの胸部に動きがあった。頭部が分離すると胸部がまるでシャッターのように展開され、ドッキングジョイントが露出したのだ。
そして、そこにホクトのギルティサイザーが飛び込んできた、ビークルモード、サイザージェットへとトランスフォームすると、機首と機体後部を折りたたみ、ブロック状になったそれがギルティドラゴンの胸部に合体。たたまれた機首を胸飾りとしたボディの一部となる。
最後に、分離していたビーストモードの頭部、その口が開かれた。中からロボットモード時の顔が姿を現し、ロボットモードの頭部としてボディに合体する。
システムが起動、カメラアイに輝きが生まれ、ホクトは新たな自分の名を名乗る。
「ギルティコンボイ――Stand by Ready!
さぁ……オシオキの、始まりだよ!」
「ホクトのギルティサイザーがギルティドラゴン改と合体したギルティコンボイ。そして――」
「ブレイクコンボイ!」
ノーヴェが名乗りの声を上げ、彼女のゴッドオンしたブレイクコンボイが上空に飛び立ち、
「ギルティコンボイ!」
続いて、ホクトのギルティコンボイがその後に続く。
そして、二人は上空高く、頭上に広がる雲海の上に飛び出し、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
宣言と同時、合体シークエンスが開始――二人の機体の本体、ブレイクロードとギルティサイザーが強化ボディとなっているガードフローター、ギルティドラゴンから分離する。
そして、ノーヴェのブレイクロードが合体形態を維持したままギルティドラゴンの変形した大型ボディのもとへと飛翔、ギルティサイザーに代わり合体、固定される。
一方、ブレイクロードに自分の合体するスペースを譲ったギルティサイザーはホクトがゴッドオンしたままビークルモードへとトランスフォーム。機体後部、両足にあたる部分を左右に展開、ギルティドラゴンの両腰をカバーするように合体し、腰あてとなる。
と、操り手が不在となっていたガードフローターが分離した。分離した両足はギルティドラゴンの両足に合体、より巨大な一組の足を作り出す。
続いて、ガードフローターの機首部分は左右に分かれてギルティドラゴンの両腕に。シールドのように合体するとブレイクロードの固有兵装であるシールドウェポンがそれぞれに連結、固定される。
残るガードフローターの本体はギルティドラゴンの背中に、通常の合体時にはブレイクロードを固定するジョイントを利用してギルティドラゴンのバックパックに覆いかぶさるように合体。より巨大なバックパックとなる。
分離していたギルティドラゴンの頭部はビーストモードのまま胸部に合体、胸飾りとなり、最後にボディ内部からせり出してきたブレイクコンボイの頭部に、ギルティドラゴンから分離した兜飾りが合体、頭部を新たな形に飾り立てる。
全合体シークエンスを完了し、システムが再起動。ひとつになったホクトとノーヴェが高らかに名乗りを上げる。
『ギルティ、ブレイク、コンボイ!』
「ノーヴェとホクトがハイパーゴッドリンクを果たしたギルティブレイクコンボイ。
能力値だけなら、カイザーマスターコンボイとも互角を張れるだろうな」
《惜しむらくは操るあの子達の経験不足、か……》
「そういうこと」
マグナの言葉に答えるジュンイチだが、その様子はどこか楽しそうだ。
「ま、しばらく叩いててしばいてボコってりゃ、そのあたりも改善されていくだろ」
《あまりいぢめないであげてよ。
あの子達と仲良しのヴィヴィオが泣くわよ》
「むしろケガの手当てとかで世話焼くのを楽しんでる気がするんだが」
《世話好きなところまであなたに似てきたわね……》
そして、それに応えるマグナの声色もどこか楽しそうだ。
《早く事件を解決させてあげたいところね……あの子のためにも》
言って、マグナはウィンドウをヴィヴィオの眠る仮眠室の方へと向ける。
その視線は、まるで子供を慈しむような慈愛に満ちていて――
「でも……いいのか?
ヴィヴィオに……アイツ自身の“生まれ”のことを話さなくて」
《………………っ》
だからこそ、ジュンイチのその言葉に、マグナは初めて言葉に詰まった。
「お前にとってどれだけ重い話かはわかってる。オレにまで口止めを頼むくらいだしな。
でも……何も知らないままでいるには、ヴィヴィオの生まれはあまりにも重過ぎる」
《それは……わかってるわよ》
ジュンイチの言葉に、マグナは映像の中で口を尖らせ、
《でも……それを言うならジュンイチだって。
クイントさんが生きてること、緘口令しいてるじゃない》
「う゛…………っ」
《それに、高町なのはとのことだって》
「ぐぅ………………っ」
《そして私自身のこともみんなには話してないし》
「そ、それは……」
《何より、“計画”の全貌、私はもちろん他の誰にも話してないでしょ》
「………………」
《私よりもジュンイチの方がよっぽど隠し事が多いじゃない》
「……ゴメンナサイ」
もはや、ジュンイチには土下座するしかなかった。
そんなジュンイチに、マグナは軽くため息をつき、
《でも……少しくらいなら、もうバラしちゃってもいいんじゃないの?》
「少し……?」
顔を上げるジュンイチに、マグナはうなずき、告げる。
《世間に対して、明かした方がいいんじゃないかな、って……》
《私の、正体を……》
「………………っ」
その言葉に、今度はジュンイチが動きを止める番だった。
「本気で、言ってるのか……?」
《本気よ。
私だって、今のこの時代に私の正体を明かすことがどういうことか、わからないはずがない。
自分の存在が、管理局に……そしてそれ以上に、聖王教会にどれだけ影響を与えるか……》
なんとか言葉をしぼり出すジュンイチだったが、マグナは淡々とそう答える。
《でも……だからこそ、正体を明かすことは大きな手札になる。
私の正体を明かせば、きっと敵の目を私に引きつけられる……
ヴィヴィオを……オリヴィエの忘れ形見であるあの子を守れるなら、私は……》
「……あんたを誘蛾灯にするつもりはねぇよ」
しかし、ジュンイチはそんな彼女の言葉をあっさりと押し留めた。
「あんたは確かに、ある意味で事件の“元凶”のひとりだ。責任感じるのは“似た者同士”としてわからないでもないけどさぁ……」
《だったらわかるでしょう?
私の存在を使えば……》
「わかっても、だ」
言いかけたマグナに対し、ジュンイチはキッパリと言葉をかぶせてきた。
「確かに、同類としてあんたの気持ちはわかるよ。
でもね……同時にオレはあんたも“守りたいヤツら一覧”にリストアップしてるんだ。
だから、オレはあんたが自分を犠牲にしようとするのを容認できない。自分のことを棚上げしてでも止めてやるぞ、オレは」
《でも…………》
「っつーか、ここであんたにあっさり秘密の公開とかされちまうと、なのはに謝れないでいるオレの立場がなくなるだろうが」
《止める理由がそれって個人的すぎない!?
さっさと謝ればいいでしょ!》
「けじめがついてないのに謝れるかっ! やらかしたことにケリもつけないで、許しだけもらえってのかよ!」
思わずツッコミの声を上げるマグナだったが、そんな彼女に言い返しつつ、ジュンイチはさらに言葉を重ねた。
「で、話戻すけど――昔はどうあれ、今のお前はマグナブレイカーの管制人格、オレのパートナーだ。
いくら本人の希望だからって、相棒を売るようなマネができるワケないだろうが」
《………………っ》
ジュンイチのその言葉に、マグナは今度こそ反論を封じ込められた。
というか、互いのパートナー関係を引き合いに出すのは卑怯ではないだろうか――なんだか理不尽なものを感じたりもするが、
(まぁ……それでも、悪くないと思えてしまうのよね)
内心ではすでにあきらめがついていた。ジュンイチにそんな本心を明かすことなく、映像の中で軽くため息をついてみせる。
が――
「とはいえ……確かにマグナのこと以外にも、ヤバイ秘密は山盛りなんだよなー……」
頭をかきながら、ジュンイチは浮かない顔で深々と頭をかいた。
「ヴィヴィオの正体についてもそうだし……特にティアナだ。
ある意味、アイツのが一番問題だ」
言って、ジュンイチは映像のひとつに視線を向けた。
六課隊舎攻防戦――ティアナの叫びをきっかけに、その場の一同の魔力が主の制御を離れて勝手に引き出された、あの場面である。
「スバル――――――っ!」
ティアナの絶叫が響いた瞬間――それは起こった。
一瞬、彼女の身体から波動のようなものが空間に広がり――その瞬間、その場にいる全員の身体から“力”があふれ出したのだ。
そう――“全員の”身体から、だ。スバルやこなた、ホクトだけでなく、敵であるディードも、さらには意識を失い、倒れたままのエリオやキャロ、マグマトロンのライドスペースに回収されたギンガにいたるまで、ティアナの波動が届いた範囲内の全員の中から魔力があふれ出し、周囲にばらまかれる!――
「マズいよな、やっぱ……
ゴッドオンでアイツの“力”が引き出される度に、アイツにかけた封印が弱まってる……」
その光景が意味することを、ジュンイチは正確に読み取っていた――だからこそ、事態の深刻さを誰よりも強く感じていた。
《そんなに危険なの?》
「オレが封印って手に出てる時点で察してくれ」
尋ねるマグナに、ジュンイチは迷うことなく即答した。
「とにかく、近いうちに何か手を打たないと……
六課やウチはともかく……他の勢力にアイツの力を知られたらいろいろと面倒……」
そう言いかけ――ジュンイチはふと口をつぐんだ。ため息をつき、訂正する。
「いや……“面倒”どころの騒ぎじゃない。
もし、アイツの能力が敵に利用されるようなことになれば……」
「オレですら止められない、最凶最悪の“能力者殺し”の誕生だ」
しかし――
そんなジュンイチの不安は、ある意味で最悪な形で的中することとなった。
「………………ほぅ」
モニターに映し出された六課隊舎攻防戦の様子を収めた映像を眺めながら、ザインは満足げにうなずいた。
「この力……実に興味深い」
視線は映像に固定されたまま、その口元に歪んだ笑みが浮かぶ。
「はてさて……
どうやって手に入れてくれましょうかねぇ、この力……」
つぶやき、ザインは映像を停止させ――
メインモニターいっぱいに、ティアナの姿が映し出された。
ジュンイチ | 「確かにマグナのこと以外にも、ヤバイ秘密は山盛りなんだよなー……」 |
マグナ | 《そうね…… ヴィヴィオのことに高町なのはとの関係、あなたの“計画”…… 後は、こないだみんなでオヤツ食べてた時、居合わせなかったノーヴェの分まで勢い余って食べちゃったこととか……》 |
ジュンイチ | 「ちょっ、バっ!?」 |
ノーヴェ | 「ほほぉ……」 |
ジュンイチ | 「あ………… ……ごめんなさぁぁぁぁぁいっ!」 |
マグナ | 《次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜 第93話『なまえをよんで〜決意の“力の暴風”〜』に――》 |
3人 | 『《ハイパー、ゴッド、オン!》』 |
(初版:2010/01/02)