「新たな、ブレイカーだと……!?」
 突如として現れ、自分達が手を焼いていたヴェルを苦もなく取り押さえた男の正体は、ジュンイチやイクト、ブレードと“同格”の能力者――スバルから目の前の男、水隠啓二の説明を受け、マスターコンボイは呆然とそうつぶやいた。
 一方、向こうにしてみればそんなマスターコンボイ達の困惑など知ったことではなかった。両腕のシールド型兵装“スティンガーファング”をかまえて跳躍――瞬く間に距離を詰めた彼の一撃が、カイザーマスターコンボイを拘束していた触手を次々に断ち切っていく。
「ありがとうございます。
 えっと……水隠さん、でいいのかな?」
「あー、とりあえず今は“青木”姓の方で呼んでくれる?
 ブレイカーとして戦う時はそっちを名乗ることにしてるから」
 礼を言うこなたにそう答えると、水隠啓二改め青木啓二はマスターギガトロンへと向き直り、
「初めまして……かな?
 ジュンイチやその妹連中やら弟子連中やらが、ずいぶんと世話になったみたいだね」
「気にするな。
 こちらも十分に世話になっている」
 青木のあいさつに軽く皮肉を返し、マスターギガトロンもまた青木に向けて正対する。
「しかし……あの男と同じランクのブレイカーか。
 油断して戦える相手ではないと思っていいか」
「あー……アイツと一緒にされても困るんだけどなー。
 オレ達から見ても、アイツは規格外もいいところだし」
「だろうな」
 互いに間合いを計りながら、軽口の応酬が続く――静かに、しかし確かに両者の間の圧力が増していき、
『――――――っ!』
 動いたのは一瞬。いつ地を蹴ったのかもわからないほど素早い動きで間合いを詰めた青木の一撃を、マスターギガトロンは自らの右腕で受け止めていた。
「へぇ……その巨体で反応が間に合うのかよ」
「前に、柾木にひどい目にあわされてるんでな。
 人間ヒューマノイド相手も考慮してるんだよ、こちらはな!」
 不敵な笑みと共に告げる青木に答え、マスターギガトロンが彼を押し返す――青木も吹っ飛ばされながらも難なく体勢を立て直して着地、両者は再び対峙する。
「まったく……またジュンイチか。
 毎度毎度、間接的にこっちにしわ寄せ持ってくるヤツだね――っと!」
 告げ終える頃にはすでに相手の眼前――再度の強襲をしかける青木だが、マスターギガトロンもやはり受け止める。まさに先ほどの攻防の焼き直しである。
「バカめ……同じ手がこのマスターギガトロン様に――」
「通じるさ」
「――――――っ!?」
 自分の言葉に青木が言葉をかぶせてきた瞬間、異変に気づく――半ば本能による警告に従い、マスターギガトロンは迷うことなく青木を弾き飛ばした。
 間合いを取って着地する青木に警戒しつつ、攻撃を受け止めた自身の右腕を確かめると、まさに予感的中。右腕の装甲が円形に口を開けている。
 しかし、その“開け方”が妙だ。切り取られたワケでも熔かされたワケでもない。ただ何の異常もないままに口を開けている。
 と――その装甲の“穴”に変化が起きた。まるで水面に広がる波紋の映像を逆再生で見るかのような流れでその口を閉じていく。その光景に、マスターギガトロンはようやく青木の一撃の“カラクリ”に気づいた。
「なるほど……空間湾曲か。
 先ほどデカブツをノしたのも、装甲や内部のメカを空間ごと押し広げて中枢を直接攻撃、結果として腕力では発揮し得ぬ威力を叩き出した、か……」
「正解。
 マスター・ランクならみんな使えるんだけどな……ジュンイチはあまり使わないしブレードはその辺からっきしだから、知らなくてもしょうがないか」
 答えて、青木はスティンガーファングをガシャンッ、と鳴らし、
「相手の防御を空間ごと押しのけるオレのスティンガーインパクト……事実上の防御不能技だ。
 打たれた瞬間、終わると思っt――」
「ならば、打たれる前につぶすのみ!」
 青木の言葉を皆まで言わせず、マスターギガトロンが動いた。青木が反応するよりも早く間合いを詰め、振り上げた右腕を叩きつける!
「青木さん!」
「啓二兄さん!」
 その光景に声を上げるのは、青木がヴェルを沈黙させたことで手の空いたかがみとギンガである。が――
「…………いい判断なんだけどさぁ……」
「な………………っ!?」
 拳はマスターギガトロンの見立ての半分も打ち込まれていなかった。拳の下から発せられた平然とした声に、その表情が驚愕に染まる。
「けど、攻撃方法を誤ったね」
 そんなマスターギガトロンに告げる青木の目の前で――巨大な鋼の拳が動きを止めていた。
 青木の眼前に存在する不可視の壁が、マスターギガトロンの拳を受け止めているのだ。
「え? え!? えぇっ!?」
「フィールドで止めた、だと……!?」
 その光景に驚き、カイザーマスターコンボイに合体したままのこなたやマスターコンボイが声を上げ――
「あれが、啓兄の力場のフィールド特性だよ」
 そう答えたのはスバルだった。
「フィールド特性?
 先生の“エネルギー制御特化”とかイクトさんの“瞬間出力上昇”みたいな?」
「そ」
 こなたの言葉にうなずいたスバルの動きにあわせ、カイザーマスターコンボイが青木へと視線を戻す。
「“対物理衝撃絶対遮断”――お兄ちゃんの力場って、エネルギー系の干渉には絶対無敵でも物理衝撃にはてんで弱いでしょ?
 それとは逆に、物理的な衝撃に対して絶対と言ってもいいくらいの防御力があるんだよ」
「ほぅ…………」
 そんなスバルの説明は彼の耳にも届いていた。スバルの言葉に、マスターギガトロンは眉をひそめて青木を見返し、
(柾木ジュンイチの力場の逆の特性……だとすると……)
「ならば……光学系で攻めるまで!」
 判断するなり行動に移す――かざした右手の周囲に多数のエネルギースフィアを形成、マスターギガトロンはそれらを青木に向けて降り注がせる!
「でぇぇぇぇぇっ!」
 そして、そんなマスターギガトロンの判断は正解だった。自身のフィールドと絶対的に相性の悪いエネルギー弾の雨を、青木はあわててその場から離脱することで回避し、
「こら、スバル!
 相手にも聞こえる位置でこっちの能力バラしてんじゃねぇよ! おかげで弱点に気づかれただろうが!」
「ご、ごめんなさぁい!」
 振り向き、抗議の声を上げる青木に対し、スバルはあわてて頭を下げる。カイザーマスターコンボイの姿でそれをやるものだから、傍から見ればずいぶんとこっけいだ。
「くっ、そ…………っ!」
 そうしている間にも、マスターギガトロンからの爆撃は続く――舌打ちまじりに降り注ぐ光弾をかわす青木に向け、光弾群が一斉に襲いかかり――
「しゃーねぇ……」
 

「百獣憑依――チーター・in・両足レッグ!」
 

 その瞬間、青木の姿がその場から消えた。
 一瞬にして爆発的に加速、光弾群の射線から離脱したのだ。
「何だ――!?」
「スバル――説明すんじゃねぇぞ!」
 驚愕するマスターギガトロンに向け、青木は先ほど自分の能力をバラしたスバルに釘を刺しながら突撃。対するマスターギガトロンはムリに打ち合うことはせず、上空に逃れ――
ファルコン・in・ウィング!」
 青木の宣言と同時、彼の“装重甲メタル・ブレスト”の背中に備えられた翼が羽ばたいた。一気に飛び立ち、上空に逃れたマスターギガトロンのさらに上空へと回り込む!
「何――――っ!?」
「百獣憑依!」
 驚くマスターギガトロンにかまわず、そのまま突撃。青木の右腕に“力”が収束していき、
「グリズリー・in・右腕ライトアーム!」
 “力”を込めた右腕で、マスターギガトロンを殴り落とす!
 頭から墜落、地面に叩きつけられ――それでもなんとか身を起こし、マスターギガトロンは降下してきた青木と対峙する。
(チーターを両足、ハヤブサを背中の翼、グリズリーを右腕……
 任意の場所に任意の動物の能力を再現させる能力、か……!)
 それでも、今の一連の流れから、青木の能力の“カラクリ”についてある程度の目星はついた。胸中でうめきながら、マスターギガトロンは静かに息をつき、
「…………潮時、だな。
 未知の能力を相手にこれ以上粘っても、消耗に見合った見入りはない……」
 彼なりに出した結論はそれだった。
「全員退くぞ。
 撤退、遅れるな!」
「――――――っ!
 逃がすか!」
 あっさりと撤退を決断したマスターギガトロンの言葉に、あわてて乱入するマスターコンボイだが――彼の拳が届くよりも一瞬早く、マスターギガトロンは転送魔法によってこの場から離脱していった。
「ちぃ………………っ!
 おい、なぜ見逃した!?」
 おかげで助かったとはいえ、敵を逃がしたのはいただけない。舌打ちし、マスターコンボイは青木へとくってかかり、
「貴様なら、アイツの転送ぐらい防げただろうが!」
「そりゃそうだけど、今回の戦いの目的はそこじゃないでしょうが?」
 しかし、そんなマスターコンボイに対し、青木もあっさりとそう返してきた。
「アイツを倒すよりもまずはヴェルファイア。
 あのままほったらかしにしてたら、また目を覚まして暴れだすぞ――オレはただぶん殴って気絶させただけなんだからな」
「啓兄の言うとおりだよ、マスターコンボイさん」
「まずはヴェルちゃんの方をなんとかしなくちゃ」
「むぅ………………」
 確かに、自分達の目的はノイエ・アースラを飛び出してしまったヴェルを連れ戻すことだ――スバルやこなたも青木に同意し、マスターコンボイはしぶしぶうなずくしかなかった。

 

 


 

第96話

鋼の生命いのち
〜連結合体ワイルドライナー〜

 


 

 

「これでよし、と……」
 ノイエ・アースラの停泊地まで運ばれたものの、ヴェルがまたいつ暴れだすかわからない――つかさには悪いがその身は牽引トラクタービームでしっかりと拘束されることになった。周囲に置いた発生器を起動、ヴェルの全身にエネルギーの縄がかけられるのを確認し、ブリッツクラッカーは静かに息をついた。
「これで、おとなしくしてくれればいいんだが……」
「その間に、つかさ嬢ちゃんがヴェルを抑えられるようになってくれれば……だろう?」
 つぶやくシグナルランサーに答えるのはスプラングだ。うなずき、ブリッツクラッカーは頭上に停泊するノイエ・アースラを見上げた。
「霞澄女史が言うには、あの青木という男が鍵のようだが……
 ブリッツクラッカー、ヤツについてどのくらい知ってる?」
「詳しいことはなーんにも。
 今回の件が初の顔合わせだよ、あのにーさんとは」
 尋ねるシグナルランサーにそう答え、ブリッツクラッカーは軽く肩をすくめてみせるのだった。
 

「啓二さん!」
「鈴香!」
 その“鍵”と目された青木は、現在妻との再会の真っ最中――こちらの姿を見つけるなり歓喜の声を上げて駆けてくる鈴香に、青木は笑顔で手を挙げてそれに応えた。
「元気でやってるみたいだな……良かった」
「大丈夫ですよ。
 もう、啓二さんったら心配性は相変わらずですね」
「そりゃ、心配するに決まってるさ。
 なんたって、お前のことなんだからさ」
 答えて、青木は鈴香の頭をなでてやる――当の鈴香はすっかり目が線になって、まるで飼い主になでられる猫のように幸せそうな気だるさをまとっていた。
 そんな二人の間には、何人たりとも近寄りがたい、甘ったるい空気が漂っていて――
「あ、甘い……」
「ら、ラブラブなのね、あの二人……」
「かがみん、それさりげに死語……」
 初対面の青木はともかくとして、冷静で物静かなイメージのあった鈴香があそこまでの甘えぶりを見せるとは思っていなかった。ティアナやかがみのつぶやきに、こなたも割とどうでもいいツッコミを入れるしかない。いかに18禁ネタもバッチコーイなこなたでも、あの桃色空間にツッコミの刃を向ける勇気はさすがに持ち合わせていなかった。
「あ、相変わらずだなー……啓兄と鈴姉」
「ホントねー……」
「アレが始まるとしばらく戻ってこないのよねー……必殺技でもブチ込まない限り」
 そして、手出しできないのは以前から実態を知っていた面々もまた同じ――スバルやギンガの言葉にちょっとばかり物騒な同意を返し、ライカは二人と共に深々とため息をつく。
 誰かあの桃色の結界を破壊してくれる猛者はいないのか。もしそんなヤツがいるとすれば――
「ったく、二人とも相変わらずねー。
 お互い好き合ってるんだからもっとガッツリ甘えちゃいなさいよ。もう公衆の面前でもおかまいなしにAV顔負けのディープキスかまし合うくらいの勢いで。
 いやもうその場でおっ始m――」
「少し黙れ貴様はっ!」
 それは相当に空気の読めないKYか、それ以上に桃色思考なエロ魔人くらいだ。あまりお子様には聞かせられない内容のコメントと共に乱入するエロ魔人霞澄を、KYマスターコンボイが思い切り蹴り飛ばす。
「あー、まぁ、二人でいちゃつくのは後にしてくれないかな?
 さすがに今は竜一匹分の命がかかってるから」
 それでも、霞澄も言うべきことは心得ていた。蹴られた尻をさすりながら告げる彼女の言葉に、青木と鈴香もラブラブな空気を引っ込めてシリアスモードに移行する。
「ちょうど啓二くんを呼び寄せてたのは本当に幸運だったわ。
 こういうケースは、特に啓二くんの能力は重宝されるからね」
「まぁ……そうですね」
「それって……」
 霞澄の言葉に、青木があっさりと同意する――二人のやり取りに、つかさはある可能性に気づいて声を上げた。
「もしかして……青木さんって、ヴェルを助けられるような能力を持ってるんですか!?」
 もしそうなら、これほど心強いことはない――駆け寄り、尋ねるつかさだったが、青木はそんな彼女の問いに不思議そうな顔で聞き返してきた。
「何言ってるんだよ?
 キミも“オレと同じ能力を持っているかもしれない”んだぞ」
「………………え?」
 

 同時刻、マックスフリゲート――
「…………以上が、のぞき見してた範囲内で把握できたヴェルファイアの現状だ」
 ウィンドウに表示したデータを資料に説明を終え、ジュンイチはそう締めくくると静かに息をついた。
「ヴェルちゃん、かわいそう……」
「パパ……ヴェルちゃん、どうなっちゃうの?」
「うーん……難しいところだな……」
 ヴェルの身を案じ、不安げにつぶやくのはゆたかとホクト――答えて、ジュンイチは眉をひそめつつ頭をかき、
「何しろ一度、盛大に大暴走をかましちまってるからな……
 制御できるようなら良し、できないようなら、危険な害獣として……」
「“それなりの対応”ってヤツがされるでしょね……」
「六課のみんなにその気はないだろうけど、上にバレれば確実にそうなるだろうね。
 制御できないうちはあの巨体をどうにかすることもできない。バレるのは時間の問題だろうし」
 うめくイレインにジュンイチが同意するが、肝心なところを伏せたイレインの言葉では事態を理解しきれない子もいるワケで――
「“それなりのたいおー”って、何?」
『う゛………………っ』
 純粋にただ意味がわからないから聞いているだけなのだろうが、ヴィヴィオのその問いはジュンイチ達を困らせるには十分すぎた。
 わざわざイレインが直接的な表現をしなかったのはまさに彼女を気遣ってのことなのだ。まさかストレートにその答えを告げるワケにもいかず――
「ん?
 そんなの、殺しちまうってことだろ?」
『このおバカぁぁぁぁぁっ!』
 そんな空気も読まずに“そのものズバリ”を言い切ってしまったガスケットがフクロにされた。
「そんなのかわいそうだよ!
 パパ、助けてあげて!」
 一方、そんな話を聞いて黙っていられるヴィヴィオではない。ジュンイチに駆け寄り、懇願するが――
「ムリ」
 だからこそイレインと二人して言葉をにごしたのだ――肩をすくめ、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「オレの手持ちの能力に、アイツを助けられるものがないんだよ。
 そしてそれは、ノーヴェ達も変わらない」
「そんなぁ……」
 ジュンイチの言葉に肩を落とすヴィヴィオだったが、
「…………ま、それでも心配はしてないかな?」
 そんなヴィヴィオに、ジュンイチは優しくそう付け加えた。
「確かにオレ達には問題の竜を助けてやることはできない。
 でも……六課の連中、お前のママさん達にはそれができる。
 何しろ……」
 

「向こうにはその道の専門家が“二人”もいるんだからさ」

 

『びーすとますたー?』
「そう。
 “獣”を“操”る“モノ”と書いて“獣操師ビーストマスター”と読む」
 青木から話を聞き、思わず聞き返す一同(以前から彼を知る面々を除く)の問いに、青木は軽くうなずいてそう補足する。
「つかさが、その“獣操師ビーストマスター”だって言うんですか?」
「それを確かめる……っていうのが、オレが呼ばれたそもそもの理由だったんだよ。
 その“理由”を果たす前に、今回の事件が起きちまったワケだけどね」
「キャロはわかる? その“獣操師ビーストマスター”って」
「うん。
 そういう人達は私達の間にもいるから……」
 尋ねるかがみに青木が答える一方で、キャロもエリオの問いに答えていた。青木へと視線を向け、確認を取る。
「えっと……青木さん。
 “獣操師ビーストマスター”っていうのは、私達で言うところの……“召喚魔法の使えない召喚師”って考え方でいいんですよね?」
「そうだな……オレのお前らの魔法文化に対する認識が間違ってなかったら、そういう解釈で間違いはないと思う」
 「何分、こっちの魔法は専門外だから断言はできないんだけど」と付け加え、青木は軽く息をつく。
「召喚魔法の使えない、召喚師……?」
「それって、“召喚”師って言えないんじゃ……」
「バカか貴様ら」
 一方、理解が遅い面々もいるワケで――首をかしげるひよりやこなたに辛らつなコメントを返すと、マスターコンボイはキャロを視線で示し、
「コイツの例で考えてみろ。
 コイツのスキルは、別に召喚だけではあるまい。
 と言うか――コイツの召喚なんて竜魂召喚とアルケミックチェーンくらいしかないだろうが」
「兄さんがひどいっ!?」
 ガビーンッ!などという擬音が背後に浮かんでいそうな感じにキャロがショックを受けている一方で、手を挙げて青木に確認を取るのはみゆきだ。
「召喚師の召喚以外の能力と言うと……ひょっとして、使役した対象との意思疎通……ですか?」
「はい、正解」
 特にもったいぶることもなく、青木はあっさりとうなずいた。
「今そこの嬢ちゃんの言った通りさ。
 オレ達“獣操師ビーストマスター”は、基本的に召喚師とほぼ同一の存在と思ってもらってかまわない。
 召喚方向の才能に恵まれていない代わりに、相方との意思疎通の方に才能がかたよってるのがオレ達“獣操師ビーストマスター”――単に、召喚が得意か相棒とのコミュニケーションが得意か、それだけの話さ。
 まぁ、それだってあくまで初期能力値的な話で、技術を磨けばあまり関係ないしな」
 そう説明すると、青木はつかさへと視線を向け、
「話を聞いて……実際に見て、確認した。
 召喚よりも動物との対話に重点を置いた能力バランス……
 オレはブレイカー。お前は魔導師として――“力”の根源は違うけど、それは明らかに“獣操師ビーストマスター”の特徴だ」
「だから、つかささんはフリードの言葉がわかった……?」
「では、前々からつかさ殿が言っていた、『ウミやカイの気持ちがなんとなくわかる』というのも……」
「そう。
 この子には動物と心を通わせる力――“獣操師ビーストマスター”としての能力があった。
 それが、今までゴッドマスターとして、ミラーのマスターの魔導師として……“能力”に関わるようになって、少しずつ開花してきていた。そう見るべきだろうな」
 キャロやシャープエッジに答えると、青木はポンッ、と軽く手を叩き、
「で、今の状況に話は戻るけど……そうとわかれば話は簡単だ」
「ちょっと、まさか……」
「その『まさか』」
 今の会話の流れから、彼の言いたいことは容易に推察できた。うめくかがみにうなずくと、青木はつかさに告げた。
「そんなワケで……お前、召喚師になれ。
 お前がヴェルを制御すりゃ、全部丸く収まるんだからさ」
「わ、私が!?」
 なんでもないかのように告げる青木だが、その内容は当事者にとっては大問題――あっさりと告げられたその言葉に、つかさは思わず声を上げていた。
「い、いきなりそんなこと言われても、つかさにそんなこと――」
「できない、とは思わないね、オレは」
 同様にかがみもまた反論の声を上げるが、青木はまったく動じることもなくそう答えた。
「この子の持ってる才能がどこまでのものかはわからない。とんでもない天才“獣操師ビーストマスター”なのかもしれないし、ごくごく平凡な“獣操師ビーストマスター”かもしれない。思いっきりヘタレな“獣操師ビーストマスター”かもしれない。
 でも、少なくとも素養はあって、それは着実に開花しつつある。なら、それをヴェルを制御できるくらいのレベルに持っていけばいい。
 まぁ、一番の肝である意思疎通ができてるんだ。後は召喚と制御に関することを覚えるだけですむのは幸いだ」
「そんな簡単に言うけどなぁ……」
「何だよ、さっきから聞いてれば弱気な意見ばっかり」
 今度はヴィータが渋い顔で考え込む――皆つかさの日ごろのおっとりさやそれに起因する失敗の数々を見ているが故の反応なのだが、それを知らない青木は首をかしげるしかない。
「まぁ、とりあえずはその方向性でやってみようぜ。
 幸い、オレ以外にも優秀な“先生”がいることだしな」
『“先生”…………?』
 青木のその言葉に、一同は思わず顔を見合わせた。青木の見ている先へと一斉に視線を向け――
 

「………………え?
 せ、“先生”って……わたしですか!?」
 

 一同に注目され、声を上げたのはキャロである。
「あー、そっか……
 キャロは元々そっち方面の英才教育、バッチリ受けてるもんね」
「それに、従えてる竜も強力な子ばっかりだし……
 なるほど。パワーアップしたヴェルの面倒を見ることになるつかさの先生にはピッタリかも」
「そ、そんな、私なんてまだまだですよ!」
 青木の言いたいことを汲み取り、ポンッ、と手を叩いて納得するエリオやこなたの言葉に、キャロはあわてて謙遜の声を上げた。
「つかささんをヴェルちゃんを抑えられるくらいの召喚師に育てろと言われても……」
「んー、まぁ、そりゃヴェルの方がフリードよりアレなのはしかたないけど……」
「何言ってるんですか。
 フリードやヴォルテールの方がすごくて立派に決まってます」
「あ、そこは譲らないんだ」
 が――それでもそれなりのプライドはあったようだ。自分のつぶやきに動揺もすっ飛んだか、すかさず返してくるキャロに、ライカは思わず苦笑する。
「んー……キャロなら大丈夫だと思うんだけどねー……
 ねぇ、マスターコンボイはどう思う?」
 そんなやりとりを見守りながら、ティアナがマスターコンボイに意見を求め――そこで気づいた。
「あれ…………?
 ねぇ、スバル……マスターコンボイは?」
「あー、えっと……」
 そう。ハイパーゴッドオンやら名前呼びイベントやらを経て、今や完全に定位置となっていたはずのスバルのとなりに彼の姿がない。尋ねるティアナに、スバルはどこかバツが悪そうに一枚の紙面を差し出した。
 そこにはミッド語――ではなく、なのはの母国語である日本語で伝言が記されていた。ミッド語に慣れ親しんだティアナには厳しいものがあったが、以前なのはから雑談程度に教わっていたのを思い出しながらなんとかその内容を理解する。

『出かける。出動するような事態になったら呼べ』

「帰ってきてからすぐに姿が見えなくなって、気がついたらその手紙が……」
「何考えてんのよ、アイツは……」
 スバルと完全につるむようになって丸くなったかと思えばコレか――申し訳なさそうに説明するスバルの言葉に、ティアナはもう一度手紙に視線を落とし、深々とため息をつくのだった。
 

「やれやれ……まったくもって、珍しい客人だな」
「前置きはいい。
 さっさと本題に入らせろ」
 ミッドチルダ・サイバトロンシティ――顔を合わせるなり辛らつな答えを返してくるマスターコンボイ(ロボットモード)の言葉に、リニスを伴ってこの場に現れたザラックコンボイは苦笑まじりに肩をすくめた。
「いいだろう。言われた通り本題に入ろう。
 いきなり、しかもたったひとりで尋ねてくるとは……何があった?」
「それが知りたくてここに来た」
 用件を尋ねるザラックコンボイにあっさりとそう答え、マスターコンボイは軽く息をついて続ける。
「ここのところ、妙に身体の調子が悪い。
 貴様なら何かわかるだろう。さっさと診ろ」
「それが医者に来た患者の態度か……?」
 要するに、自分の不調の原因を探ってほしいということか――こちらを医者に見立てている割にはやたらと高圧的なマスターコンボイの態度に、ザラックコンボイは思わず苦笑する。
「まったく……そういうことなら、六課にはフォートレスがいるだろうに。
 何だってわざわざうちに来る……?」
「そちらの方が都合がいいからだ」
 しかし、六課にもトランスフォーマーがいる以上、彼らに対する医療態勢も整っているはずだ。わざわざ自分のところに尋ねてきた理由を尋ねるザラックコンボイだったが、マスターコンボイもストレートに答えを返してくる。
「この身体は元々トランステクターだ。
 六課のヤツらよりは、貴様の方がより詳しく調べられると踏んでのことだ。
 そう――当事の人間達と協力し、ベルカ式魔法の基礎理論を確立した貴様なら、な」
「なるほどな。ごもっとも、というヤツか――」
「それに、だ」
 納得しかけたザラックコンボイだったが、話はそれで終わりではなかった。ザラックコンボイの言葉の途中にもかかわらず容赦なく自分の言葉をかぶせていく。
「何より貴様らは、柾木ジュンイチに加担している。
 そんな貴様らなら――」
 

「たとえどんな“結果”が出ても、そう簡単に八神はやてには話せないだろう?」

 

 

「ヒマなんだなー……」
「気持ちはわかるが自重しろよな」
 一方、拘束されたヴェルを見張る面々――気だるそうにつぶやくアームバレットに対し、この場の面々の中では唯一の人間である晶はため息まじりにそうたしなめた。
「つかさが安心して青木氏やキャロの特訓を受けられるように、オレ達できっちりヴェルを見てなきゃダメじゃないか」
「そんなこと言っても、退屈なものは退屈なんだな」
 シグナルランサーの言葉にも、アームバレットの退屈が収まることはない。むしろ心底気だるそうにそう返してくる。
「せめて、ヴェルのヤツが起きてくれればなぁ。
 そうすれば、さっきブッ飛ばされたお返しをしてやるんだな」
「こらこら。あんなナリになっても、ヴェルはまだ子供なんだぜ。
 ガキのやることにいちいち目くじら立てるなよ」
 とうとう物騒なことを言い出したアームバレットに、スプラングがため息まじりに釘を刺し――
 

「………………グルルルル……」
 

 うなり声が上がった。
『………………』
 まさか――恐る恐る振り向く一同が見たものは、つい今しがた目を覚ましたばかりのヴェルの姿だ。自分の身体を縛り上げた牽引トラクタービームに抵抗するかのように全身で踏ん張って――光の縄を力任せに引きちぎる!
「ぅわわわわっ! 起きやがった!?」
「アームバレット! お前が余計なこと言うから!」
「フンッ、むしろ好都合なんだな!」
 あわてて後ずさりするブリッツクラッカーや晶に言い返し、アームバレットはまるで力を蓄える猛牛のように身体を縮めるヴェルの前に進み出て、
「こっちにしてみれば願ったり叶ったりなんだな!
 さっき言ったとおり、ブッ飛ばされたお返しをたっぷりゃばっ!?」
 しかし、アームバレットがそこから先を告げることはできなかった。地を蹴り、爆走を開始したヴェルが頭の角による一撃でアームバレットを吹っ飛ばしたからだ。
 そのまま、アームバレットの身体は“車田落ち”。頭から大地に叩きつけられる――半ば予想通りの結末にため息をつく一同だったが、
「おぉぉぉぉぉっ!」
 なんと、そんな彼らの予想に反し、まだ終わってはいなかった。咆哮と共に立ち上がり、アームバレットは自分に向けて突撃してくるヴェルに向けて両手を広げ、叫ぶ。
「ボクは死にましぇ〜んっ!
 あなたを、あなたを止めるまd」

 ぷちっ。(←アームバレットがひきつぶされた音)

 げしげしっ。(←立て続けに踏みつけにされている音)

 ぐりぐりっ。(←顔面を踏みにじられている音)

 ぽいっ。(←角ですいく上げ、放り投げられた音)

 ぱこぉーんっ。(←後ろ足で思い切りカッ飛ばされた音)

「死んだ方がマシなんだなぁぁぁぁぁっ!」
「なんかすんげぇ念入りに叩きつぶされたぁーっ!?」
 せっかくの復活もつかの間、情け容赦なく瞬殺――あっけなく突破され、空の彼方に消えていくアームバレットにツッコミの声を上げるブリッツクラッカーだが、それで状況が解決するはずもない。すぐに通信回線を開き、告げる。
「こちらブリッツクラッカー!
 ヴェルのヤツが逃げやがった!」
 

「………………そうか。
 わかった。オレもすぐに向かう」
〈お願いします!〉
 当然、ヴェルが再び暴走を始めたことはマスターコンボイにも知らされた――うなずくマスターコンボイの言葉に、ウインドウに映るスバルが告げて通信を終える。
「そういうことだ。
 悪いが、行かせてもらう」
「止めてもムダなのだろうな」
「当然だ」
 ため息をつくザラックコンボイに、マスターコンボイは迷うことなくうなずいてみせる――ため息をつき、ザラックコンボイは傍らに控えるリニスに告げた。
「リニス。
 マスターコンボイを送っていってやってくれ。コイツが陸路で向かうよりお前が転送魔法で連れて行った方が速い」
「わかりました」
 ザラックコンボイの言葉にリニスがうなずく――さっきまでザラックコンボイの診察を助手として助けていた彼女の服装は純白のナース姿だ。ネコミミにナース服という一部の人間にとっては垂涎もののシチュエーションだが、残念ながらマスターコンボイにそういう趣味はない。
「では、行きましょう」
「早くしろ」
 そう急かしながら、さりげにリニスが転送しやすいようにヒューマンフォームに変身するマスターコンボイに苦笑しつつ、リニスは子供の姿になったマスターコンボイの肩に手をかけ、
「――――いきます!」
 宣言と同時、ザラックコンボイの目の前から二人の姿が消えていった。
「…………ふぅっ」
 そして――部屋にひとり残されたザラックコンボイは静かに息をついた。
「なるほど……六課での診断を避けてウチに来るはずだ」
 つぶやき、ザラックコンボイが見るのは今しがた得られたマスターコンボイの診断データだ。
 だが――その内容は、ザラックコンボイに深刻な顔をさせるには十分すぎるものだった。
「マスターコンボイめ……よくもまぁ、“こんな状態”で強がりが言えるものだ。
 今のまま何の手も打たなければ、どうなるかくらいわかるだろうに……」
 ため息をついてつぶやくが、そのつぶやきがマスターコンボイに届くはずもないし、届いたとしても、あの男は聞く耳を持ちはしないだろう。
 まったく、難儀な性格をしている――どうしたものかと考えながら、ザラックコンボイはもう一度、深々とため息をついた。
 

 そして、転送を終えたマスターコンボイ達は――
「本当にここでいいんですか?」
「ここでかまわん」
 尋ねるリニスに、マスターコンボイはオメガを起動させながらそう答える――二人は現在、ノイエ・アースラの停泊する一帯を見渡せる丘の上にいた。
 一気にノイエ・アースラまで飛べばいいのに、どうしてこんなところにいるのか――それは、マスターコンボイがそれを望んだからだ。
「それから……フェイト・T・ハラオウンが心配だろうが援護もいらん。
 むしろさっさと帰れ――貴様らと接触したことを知られたくない」
「何もそこまで……」
「さっきの診断結果を見たのなら、なぜオレが口止めするかもわかるはずだ」
 反論しかけたリニスを有無を言わさず黙らせて、マスターコンボイは彼女の返事も待たずに地を蹴った。
 自分の相棒を――スバルを守るために。
 

 一方、森の中を爆走するヴェルの前には再びフォワード陣が立ちふさがっていた。ヴェルを使役するための特訓をしていたつかさや彼女に付き合っていたキャロを欠いているため合体こそしていないが、それぞれが不退転の覚悟でヴェルと対峙する。
「ヴェル、止まりなさい!」
「このまま暴走してたら、害獣扱いで殺されちゃうんだよ!?」
 試しにかがみやエリオが呼びかけるが、やはりヴェルの耳には届かない。まったくスピードを緩めることなく自分達との距離を詰めてくる。
「やっぱり、力ずくしかないの……!?」
「みたいだね。
 まったく、盗んだバイクで走り出したいお年頃ってヤツなのかね!」
 うめくスバルに答え、先陣を切って駆け出したのはこなただ。カイザーコンボイと鳴った自身の身体を宙に踊らせ、その額に蹴りを叩き込むが、
「オォォォォォンッ!」
「って、ぅわわぁっ!?」
 一撃を受けてもなおヴェルはひるまない。そのまま押し込まれ、バランスを崩したこなたを弾き飛ばしながら突き進む。
「来るよ、ひより!」
「う、うん……!」
 やるしかないのはわかるが、どうしてもためらいは消せない。みなみの言葉にうなずき、ひよりがグラップライナーの拳をかまえ――
「――――――っ!
 ひより、危ない!」
「え――――――?」
 気づいたギンガが声を上げるが、ひよりの反応は間に合わなかった――頭上から放物線を描いて飛来、足元に着弾したビームの爆発が、グラップライナーを吹き飛ばす!
「攻撃!?」
「まさか……!?」
 いきなりの攻撃に、フォワード陣と共に出撃したブリッツクラッカーや晶の脳裏にイヤな予感がよぎった。その予感に従うままに攻撃の飛来した方へと――
「やっぱり――ディセプティコン!」
 そこにいた、四参謀を従えたマスターギガトロンを前に、晶が声を上げた。
 

「あー、マスターギガトロン様?
 なんか、あからさまに『またか』的な目で見られてませんか?」
「まぁ……前回とほぼ同じ登場の仕方ではしかたないんでしょうけど……」
「かまうものか。
 別に我らはヤツらの都合で動いているワケではない」
 地上の機動六課の面々からは、露骨にうんざりした空気が漂ってくる――尋ねるブラックアウトやショックフリートに、マスターギガトロンはぶっきらぼうにそう答えた。
「あのメカ竜が原因で混乱している今が、ヤツらを叩く絶好の機会。
 今度こそヤツらを叩きつぶし、他の勢力への見せしめにしてやる! いいな!」
『了解っ!』
 告げるマスターギガトロンの言葉に、参謀達が一斉にスバル達へと襲いかかる――それを見送り、マスターギガトロンはヴェルへと視線を向けた。
(さて……六課のヤツらすら持て余すあのパワー、なかなかに興味深い……
 できれば手に入れたいところだが……逆の見方をすれば“六課の力を持ってしても制御できない”ということでもある……)
 マスターギガトロンは別に六課を低く評価してはいない。むしろ柾木ジュンイチ一派に近い難敵として高く評価している。
 その六課ですら扱いきれないヴェルの力は、状況によっては自分達にとっても脅威となるだろう。となれば――
「やはり……叩くのが正解か」
 扱いきれない力など不要――欲をかくことなくヴェルの抹殺を決断し、マスターギガトロンはヴェルに向かって一歩を踏み出した。
 

「キャロちゃん、フリード、急いで!」
「はい!」
「きゅくーっ!」
 一方、特訓によって出遅れていたつかさやキャロも、事態を知り現場への急行中だった。
 もっとも、「特訓」と言ってもヴェルが予想よりも早く目覚めたためほとんど何もできていない。キャロの使っていた召喚魔法の術式をヴェル用に組み直したものを作っただけで終わってしまった――こうなっては、つかさの才覚とヴェルとの絆に期待するしかない。
「ヴェル……!」
「大丈夫……つかささんなら、きっとヴェルを助けられます!」
 青木はすでに先行している。自分達も急がなければ、暴走したヴェルがどうなるかわからない。ヴェルの身を案じるつかさをキャロが励まして――
「ところがぎっちょん!」
 そんな彼女達の行く手に、轟音と共に何者かが跳び下りてきた。衝撃で土煙が舞い上がり、二人に襲いかかる。
「な、何……!?」
「まさか……敵!?」
「大正解っ!」
 うめくつかさやキャロに答えたのは、舞い上がった土煙の向こうから姿を現したボーンクラッシャーだ。
「マスターギガトロン様はお見通しなんだよ――お前らがあの竜を助けようと動くことぐらいはな。
 だからこそ、こうしてオレを派遣してきたんだ。飼い主のお前らを、ブッつぶせってな!」
「………………っ!」
「急がなきゃいけないのに……!」
 どうやら彼は意図的に自分達を狙ってきたらしい――恐怖に思わず身をすくませるつかさをかばい、キャロが彼女の前に出る。
「お、やる気か?
 まぁ、せいぜいあがけよ! その分、いたぶる楽しみが増えるんだからな!
 さぁ、どっからでもかかってこいよ!」
 完全に戦闘スキルに欠けているつかさを戦わせるワケにはいかない。自分とフリードがやるしかない――緊張するキャロに言い放ち、ボーンクラッシャーが背中のクローアームをキャロに向けて繰り出して――
 

 破壊された。
 

 ボーンクラッシャーのクローアームが、関節の部分で断ち切られたのだ。そのまま、鋼鉄の大爪は彼女の頭を飛び越え、背後の茂みへと放り込まれてしまう。
「お、オレのクローアームが!?
 誰だ、ジャマしやがったのは!?」
 いきなりの奇襲によって自らの攻撃が失敗に終わり、ボーンクラッシャーが声を上げ――
「私」
 淡々と告げられたその言葉と同時――ボーンクラッシャーの顔面に拳が叩きこまれた。まったく予期していなかったタイミングで強烈な一撃を受け、ボーンクラッシャーは意識を刈り取られてその場に崩れ落ちる。
 そして、つかさ達の前に降り立った“救い主”の正体――その姿に、キャロやつかさが声を上げる。
「ガリュー……それに、ルーちゃん!?」
「どうして!?」
 

 その頃、マックスフリゲートでは――

「ルーテシアぁっ!?
 あんにゃろ、今度は黙って姿消しやがったぁ!?
 者ども、今すぐローラー作戦だ! 草の根分けても探し出s」
『落ち着けこの馬鹿』
「ぎゃふんっ!?」

 ジュンイチがイレインとノーヴァのツープラトン昇竜拳でマットに沈んでいた。
 

「どうして、ルーちゃんがここに……?」
「話を、聞いたから」
 ボーンクラッシャーの攻撃から守ってくれたのはまさに“意外な人物”だった。つぶやくつかさに、ルーテシアは淡々とそう答える。
「助けてくれるの?
 ありがとう、ルーちゃん」
 助けられた礼を言い、握手を求めるキャロだったが――ルーテシアはあっさりとそれを無視してキャロの脇を抜け、つかさの前に進み出る。
 あれ? わたし軽くスルーされた? と軽くショックを受けるものの、よく考えてみればルーテシアにとってつながりが深いのは自分よりもつかさの方だ。流されても当然だと自らに言い聞かせて納得させる。
「…………あの子を、助けるつもり?」
「うん」
 ルーテシアに答えるつかさの眼差しに迷いはない――それをじっくり確かめるようにしばし黙り込んでいたルーテシアだったが、息をつき、告げた。
「ガリューやそこの子の飛竜とは事情が違う。
 わたし達はガリュー達が生まれた頃から一緒にいたけど……あなたはそうじゃない。
 そのあなたが心を通わせるのは、簡単なことじゃない」
「わかってる。
 でもやらなくちゃ」
 答えるつかさにうなずき、ルーテシアはさらに続けた。
「ただの言葉じゃ、きっとあの子には届かない。
 本当にあの子の心に届くのは、きっと心からの言葉……」
「心からの……言葉……」
 繰り返すつかさにルーテシアはうなずいてきびすを返し、
「後はあなた次第。
 上手くいくことを、祈ってる」
 そう告げて、ルーテシアは足元に魔法陣を展開した。転送魔法を発動させ、その場から消えていった。
「アドバイス……しに来てくれたんだね……」
「つかささん、わたし達も!」
「うん!」
 ルーテシアが自分達のために動いてくれた。次は自分達の番だ――キャロの言葉にうなずき、つかさは彼女と共に再び走り出した。
 

「そぉらっ!」
『ぅわぁっ!』
 マスターギガトロンによって持ち上げられ、投げ飛ばされたグラップライナーが大地に叩きつけられる――ヴェルの暴走を抑えようとする一方でマスターギガトロンの攻撃にもさらされ、フォワード陣は厳しい戦いを強いられていた。
 フェイト以下隊長陣は四参謀を相手に足止めを受けており、こちらへの参戦は難しい、ここは自分達で乗り切るしかないのだが――それにしては相手が悪すぎる。
「せめて、つかさとキャロが来てくれれば合体できるのに……!」
「それに、マスターコンボイさんも……!」
 メンバーがそろえばまだ戦いようもあるのだが、残念ながら欠員のいるこの状況では――うめくティアナの言葉に同意するスバルだったが、
「悪いが、そちらが全員そろっていないからと待っててやるつもりはないんだよ!」
 マスターギガトロンがそれを許さなかった。ばらまいた“力”の弾丸の雨が、スバル達を吹き飛ばす!
『ぅわぁぁぁぁぁっ!』
「さて……どいつからつぶしてやるか」
 吹っ飛ばされるスバル達を見渡し、マスターギガトロンは悠々と獲物を物色する。そして、最初に狙いを定めたのは――
「やはり……因縁深き貴様らか」
 スバルと、ロードナックルにゴッドオンしたギンガだった。並んで倒れる姉妹に向け、頭上にスフィアを作り出し――
「ハウンドシューター!」
 宣言と共に飛来した魔力弾がそれを粉砕した。
 間一髪で間に合ったマスターコンボイだ。さらに――
「スティンガー、インパクト!」
「ちぃ…………っ!」
 青木までもが必殺技の体勢で飛び込んできた。舌打ちし、マスターギガトロンはそれをかわして後退する。
「マスターコンボイさん!」
「啓二兄さん!」
 思わず声を上げるスバルとギンガに青木がうなずき、マスターコンボイもスバルへと向き直り、告げる。
「スバル!
 ハイパーゴッドオンだ!」
「はい!」

『ハイパー、ゴッドオン!』
 その瞬間――スバルの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてスバルの姿を形作り、そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
 同時、マスターコンボイの意識が身体の奥底へともぐり込んだ。代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化したスバルの意識だ。
〈Hyper Wind form!〉
 トランステクターのメインシステムが告げ、マスターメガトロンのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、従来のウィンドフォームと同様に空色に変化するが、周囲に渦巻く虹色の魔力光に照らし出され、それ自体もまた七色に変化しているように見える。
 そんな中でオメガが分離――巨大な両刃の剣が真ん中から別れ、両腕の甲に合体。両腕と一体化した可動式のブレードとなる。
 両腕に装着されたオメガをかまえ、ひとつとなったスバルとマスターコンボイ、二人が高らかに名乗りを挙げる。
「双つの絆をひとつに重ね!」
「限界超えて、みんなを守る!」

『マスターコンボイ――Stand by Ready!』

「お前達はヴェルファイアを抑えろ!」
「こっちはあたし達と啓兄でなんとかするから!」
「『抑えろ』って、簡単に言ってくれるわね……!」
「現状の戦力ではそれすら困難なのだが……!」
 告げるマスターコンボイとスバルの言葉にうめき、ティアナや彼女のゴッドオンしたジェットガンナーがヴェルをにらみつける。
「せめて、つかさが来てくれれば……」
 自分達だけではどうにもならない。やはり鍵を握るのはつかさ――ライトショットをかまえ、かがみが舌打ちまじりにそううめき――
「私ならここだよ!」
 そんな彼女の声が聞こえていたのだろう。キャロと共に駆けつけたつかさが息を切らせながら名乗りを上げる。
「ヴェル!
 お願い、もうやめて! みんなを傷つけないで!」
 なんとかしてヴェルを止めなければならない。懸命に呼びかけるつかさだったが、ヴェルの耳に届いた様子はない。つかさには一切かまわず、周りを取り囲むフォワードメンバーを威嚇する。
「ダメだよ! ヴェル、落ち着いて!」
 それでも呼びかけるつかさだが、ヴェルが落ち着きを取り戻すことはなく、むしろ正面のアイゼンアンカーとエリオに襲いかかった。ゴッドオンし、一体となっている二人を頭の角で一撃。吹っ飛ばす!
「エリオくん! アイゼンアンカー!」
「こいつ!」
《いい加減……止まりなよ!》
 声を上げるキャロの姿にクロ、シロが咆哮。フォワード陣が一斉にヴェルに組みつくが、
「オォォォォォンッ!」
 ヴェルを止めることはできない。大きく身を震わせたヴェルが、組みついたギンガ達をまとめて弾き飛ばす!
「あー、もうっ!
 つかさ! とりあえず足だけでも止めるわよ!」
「――――――っ!?
 お姉ちゃん、ダメ!」
 舌打ちまじりにライトショットをかまえるかがみの姿に、つかさは彼女がどういうつもりか気づいた。制止の声を上げるがすでに遅く――
「フォースチップ、イグニッション!
 ハウリング、パルサー!」

 かがみがフォースチップをイグニッションし、必殺技――特大の魔力弾が、ヴェルに向けて解き放たれる!
 しかし――
「オォォォォォンッ!」
「って、ウソでしょ!?――きゃあっ!」
 ヴェルには通じない――魔力弾もものともしないで突っ込んできたヴェルの体当たりを受け、かがみが吹っ飛ばされる!
「きゃあぁぁぁぁぁっ!」
 強烈な衝撃により一瞬だけだが意識が断ち切られる――これでもかというくらいに大地に叩きつけられたものの、かがみはなんとか意識をつなぎとめて顔を上げ――
「――――――っ!」
 自分を吹っ飛ばしたヴェルが、そのまま自分に向かって突撃してくるのが見えた。
 すぐに回避すべく立ち上がろうとする――が、今の一撃のダメージが思いの他足にきている。しびれたように感覚がなくなっており、どれだけ力を入れようとしても何も感じない。
「かがみ、逃げて!」
 そんなかがみにティアナが叫ぶが、やはりかがみは動けない。このままではかがみは――
 誰もが最悪の事態を想像し、自分達の無力に唇をかんだ、その時――
 

「ダメぇぇぇぇぇっ!」
 

 瞬間――ヴェルの動きが変わった。
 音響センサーと化した自らの耳が音を捉え、それが肉声であること、そしてその声の主の正体を認識した瞬間、四肢すべてを用いてブレーキをかけたのだ。
 四肢が大地を抉る中、その速度は見る見るうちに落ちていく――やがてその速度が完全に失われた瞬間、ヴェルの角がライトフットの額の装甲と接触していた。角が装甲をわずかにこすり、ガリッ、と音を立てる。
 そしてヴェルは自分を制止した声の主へ――つかさの方へとゆっくりと向き直った。
「…………ヴェル……?」
 自分の呼びかけに応じて停止したのは間違いない。しかし、本当に正気に戻ったのか。単に自分の声に反応した、それだけではないのか――不安にかられながらもその名をつぶやくつかさに対し、ヴェルはその鼻先を寄せ、じゃれつくように彼女にこすりつける。
「………………うん。
 おかえり、ヴェル」
 それが何を意味するのかは明白――自らもヴェルの鼻先をなでてやり、優しく告げる。
「大丈夫だよ、ヴェル。
 私はここにいる……ずっとヴェルの友達だから。
 だから……ヴェルも、どこにも行かないでね」
 そんなつかさの言葉に、ヴェルもブルルと鼻を鳴らして首肯する――うなずき、つかさはもう一度ヴェルの鼻先をなでてやる。
「そんな姿になっちゃったけど……私達は私達。ずっと一緒だよ。
 二人で、一緒にがんばろう」
〈Drive Ignition!〉
 つかさの言葉に応えたのはヴェルだけではない。ミラーもまた、そんな彼女の力になるべく、彼女の“力”を受け取り、高めていく。
「いくよ――ヴェル」
 もう一度呼びかけ――つかさの口が呪文を紡ぐ。

 ―― 雄雄しくそびえる黒き鋼鉄
我が力となり大地を駆けよ!

「来よ、我が竜ヴェルファイア!
 竜魂召喚!」
 その宣言と同時――ヴェルの全身に力がみなぎった。
 体内に内包しきれないほどの“力”が全身からあふれ出し、まるで赤錆びたような茶色だった装甲は漆黒に変化。白いラインがその上を走り、装甲を彩っていく。
 そして――
「召喚――ワイルドファイア!」
「オォォォォォォォォォォンッ!」

 ヴェルファイア改めワイルドファイアが、高らかに咆哮した。
 

「竜召喚、だと……!?」
 自分が青木とスバル、マスターコンボイに手こずっている間に、事態は彼の思いも寄らない方向に――つかさの召喚によって新たな姿に生まれ変わったヴェルの姿に、マスターギガトロンが思わず声を上げる。
「あの小娘……召喚師だったのか!」
「新米の――な!」
「つかさ、うまくいったんだ――よかった!」
 うめくマスターギガトロンに答えた青木が彼の腕にスティンガーファングを叩き込み、さらにスバルが回し蹴りで追撃をかける――衝撃に押し切られ、マスターギガトロンは大きく押し戻される。
「さて……どうする?
 こっちの混乱に乗じて叩きに来ていたようだが……こうなってはもう混乱どころではないぞ」
「なめるなよ。
 こちらとて、不測の事態に備えて戦力は残している!」
 尋ねるマスターコンボイにマスターギガトロンが言い返し――瞬間、周囲の茂みからバリケードが、ブロウルが、レッケージが次々に現れる!
「お前達! そのメカ竜を叩k」
「オォォォォォンッ!」
「ぶぎゃっ!?」
「ブフゥンッ!」
「ごべっ!?」
「ブフォオッ!」
「ぐわぁっ!?」
 マスターギガトロンが指示を出し終えるよりも早く、すでにワイルドファイアが動いていた。ブロウルを角で突き倒し、踏みつけつつ反転、後ろ足でバリケードをレッケージに向けて蹴り飛ばす。
 それをかわしたレッケージに肉迫し、角で引っかけ、振り回した挙句大地に叩きつける――瞬く間に3体のディセプティコンを叩き伏せ、ワイルドファイアは改めてマスターギガトロンへと向き直る。
「おいおい……
 いくらオレ達の中では弱いと言っても、ヤツらとて決して弱くはない……それが3体がかりで瞬殺だと……!?」
「ま、しょうがないんじゃないかな!?」
 ワイルドファイアの予想以上の戦闘能力に驚愕するマスターギガトロンに答えたのはこなただ。懐に飛び込み、その胸を思い切り蹴り飛ばして押し返す。
「新ロボ参入話のお約束ってヤツだよ。
 こういう時に先陣を切る子って、たいてい新戦力のかませ犬になっちゃうからねー♪」
「何をふざけたことを……!」
 こなたの言葉にうめき、マスターギガトロンが視線を脇に向けるが、四参謀はフェイト達隊長格を相手にするので手一杯。こちらに回れそうにない。
 戦力温存で“ドール”を投入しなかったのが仇になったかと舌打ちするが、そんなことを言っても始まらない。
「それならば、このオレが自ら叩きつぶしてやるまでだ!」
「フンッ、だ!
 あなたなんかに、この子がやられるもんか!」
 こうなれば自分がやるしかない。告げるマスターギガトロンに対し、つかさもひるむことなく言い返す。
 そして――自分を守るように背後に寄り添うワイルドファイアへと振り向き、告げる。
「さぁ……やっちゃって、ヴェル!」
『改名意味ないぃ――っ!?』
 自分で改名しておいてあっさりと改名前の名前を呼ぶつかさの言葉に、敵味方問わず一同からツッコミの声が上がり――
 

〈そういうことならプレゼントぉっ!〉
 

 突然の通信がつかさに告げる――開いたウィンドウに映し出された霞澄の言葉と同時、つかさ達の頭上に転送魔法陣が展開された。その中から出現した巨大な何かが、ワイルドファイアの背後に落下する。
 馬車のように牽引して走らせるタイプの移動砲台である。大型の二台の上に、砲台が2門備えられている。
「か、霞澄さん、これは……?」
〈ヴェルくんのために急いで作ったサポートビークル、“タンクライナー”よ。
 ライナーズのビークルの追加兵装として試作してたものを、ヴェルくん用に改造したの〉
 尋ねるつかさにそう答え、霞澄は改めてつかさに告げる。
〈さぁ、つかさちゃん。
 そいつを使って、マスターギガトロンにヴェルくんのすごさを見せつけてあげなさい!〉
「はい!」
 

「スーパーモード、スタンバイ!
 トランス、フォーム!」
「オォォォォォンッ!」
 ミラーを介して届けられたつかさからの指示に、ワイルドファイアが咆哮する――タンクライナーを牽引し、力強く大地を疾走する。
 そこから、連結を解くと同時にワイルドファイアが頭上高く跳躍。同時に、タンクライナーも土台と砲台が分離する。
 タンクライナーの土台はさらに左右に分割。四肢をたたんだワイルドファイアの後方に合体、人型の両足となる。
 先に分離した砲台は折りたたまれたワイルドファイアの両前足をカバーするように合体。両腕となるとワイルドファイアの頭部が左右に分割。断面がその両腕をカバーするように反転しながら倒れ込み、両肩のアーマーとなる。
 最後に、ボディ内部に収納されていたロボットモードの頭部がせり上がり、ロボット、ビースト両モード共通の胸にはビーストモードの姿を描いたエンブレムが浮かび上がる。
 そして、新たな姿となったワイルドファイアが大地に降り立つ――人語を話せない彼に代わり、つかさが高らかに名乗りを上げる。

「連結合体! ワイルドライナー!」
 

「さぁ……やっちゃえ、ヴェル!」
 ワイルドファイアになろうがワイルドライナーになろうが、名乗り以外では呼び方は共通のようだ。つかさの言葉にうなずくと、ワイルドライナーはマスターギガトロンに向けて猛然と走り出す。
「なんの――なめるな!」
 対し、マスターギガトロンも魔力弾をばらまいて対抗するが、その程度で六課総出でも手を焼いたヴェルファイア、しかもその強化形態であるワイルドライナーを止められるはずもない。ものともしないでマスターギガトロンにつかみかかり、思い切り投げ飛ばす!
「よぅし、ヴェル! その調子!」
 そんなワイルドライナーの雄姿に、つかさが元気に歓声を上げ――
「何してるの、つかさ!」
 そんな彼女に告げるのは姉であるかがみだ。
「あの子ひとりに戦わせるつもり!?
 あたし達もいくわよ!」
「うん!」

『トリプルライナー!』
 かがみ、つかさ、みゆき――
『グラップライナー』
 そして、ひよりとみなみ――それぞれの咆哮が響き渡り、トリプルライナーとグラップライナーは同時に、背中合わせに跳躍し、
『ハイパー、ゴッドリンク!』
 宣言と同時に、グラップライナーがいくつものパーツに分離した。そのままトリプルライナーの周囲に配置され、合体を開始する。
 まず、グラップライナーの両足が変形――大腿部を丸ごと、まるで関節部ごと掘り返すかのように引き出すとそれを後方へと折りたたみ、関節部がなくなったことで空洞となった両足の内部空間に、トリプルライナーの両足がまるで靴を履くかのように差し込まれ、そこへグラップライナーの両肩、ニトロライナーとブレイクライナーの先頭車両部分が合体してつま先となり、より巨大な両足が完成する。
 続けて、トリプルライナーの右手に装備されたレインジャーの重火器類、左手に装備されたロードキングのレドームシールドが分離。スッキリした両腕をカバーするように左右に分かれたグラップライナーのボディが合体する。
 内部から拳がせり出し、より巨大になった両腕に分離していた重火器とレドームシールドが再び合体、両腕の合体が完了する。
 ボディにはニトロライナー、ブレイクライナーから分離した胸飾りが胸部左右に合体。最後に両肩にはブレイクアームのカーボンフィストが砲身が短めのキャノン砲となって合体する。
 合体の工程をすべて完了し、各システムが再起動。カメラアイの輝きが蘇り、かがみ達が高らかに名乗りを上げる。
『大! 連結合体! ジェネラル、ライナァァァァァッ!』

「いっくぞぉっ!」
 合体を完了するなり、つかさの操作でジェネラルライナーが突撃――ワイルドライナーに殴られたマスターギガトロンの背中に、追撃の蹴りを叩き込む。
 さらに、ワイルドライナーと同時に拳を叩き込み、さらに同時蹴りで吹っ飛ばす――つかさとワイルドライナーの息の合ったコンビネーションを前に、マスターギガトロンは完全に圧倒されている。
「ぐ……っ!
 調子に乗るなよ!」
 しかし、マスターギガトロンも負けてはいない。上空に逃れ、爆撃をしかけようとするが、
「ヴェル! ワイルドランチャー!」
 つかさの指示でワイルドライナーの両腕がキャノン砲に変形。放たれた大型の魔力弾がマスターギガトロンを撃ち落とす!
「つかささん、今です!」
「うん!」
 このまま必殺技で押し切る――勝機を見出したみゆきの言葉にうなずき、つかさはワイルドライナーへと向き直った。
「いくよ――ヴェル!」
「オォォォォォンッ!」
 

『フォースチップ、イグニッション!』
 かがみ、つかさ、みゆき、そしてひよりとみなみ――5人が声をそろえて咆哮すると同時、彼女の元に飛来したのはミッドチルダのフォースチップ――背中のチップスロットへと飛び込むと四肢の装甲が展開。放熱デバイスが起動し、“フルドライブモード”へと移行する。
〈Charge up!
 Final break Stand by Ready!〉

「今だよ――ヴェル!」
 告げるつかさの言葉に、ワイルドライナーが両腕を砲台形態に変形――さらに背中の左右、人間で言う肩甲骨のあたりに収納されていたトリガーが起き上った。背後に降り立ったジェネラルライナーが両手でそれぞれのトリガーを握りしめ、イグニッションしたフォースチップのエネルギーがワイルドライナーへと流れ込んでいく。
「ターゲット、ロック!
 つかさ!」
「うん!」
 かがみが照準を合わせ、準備は万端――告げるかがみにつかさがうなずき、
『連砲――爆滅!
 ワイルド、ディストラクション!』

 咆哮と共にトリガーを引いた。両の砲台から放たれた特大のエネルギーが、マスターギガトロンへと襲いかかる!
 そして――
『終点――到着!』
 勝ち鬨の声と共に、砲撃がマスターギガトロンを直撃――大爆発が巻き起こり、 マスターギガトロンを吹き飛ばす!
「マスターギガトロン様!」
 さすがにこれは見過ごせなかった。フェイトとキングコンボイを相手にしていたジェノスクリームが戦線を離れ、倒れたマスターギガトロンへと駆け寄る。
「マスターギガトロン様、ここは……」
「わかっている……!
 全員、撤退!」
 これ以上の戦闘が難しいことは言われなくてもわかっていた――ジェノスクリームの言葉にうなずき、マスターギガトロンは転送魔法陣を展開、戦場から撤退していった。
 

「と、ゆーワケで……
 みなさん、本当にご迷惑をおかけしました!」
 戦闘後、ノイエ・アースラ――帰還した一同を前に、つかさは力いっぱい頭を下げた。
「あぁ、えーよえーよ。そんなの。
 別につかさちゃんが悪いワケでも、ヴェルが悪いワケでもないんやし」
「でも、今回のはさすがに……」
 しかし、はやての反応はある意味いつものこと――これだけの騒ぎを「そんなの」で片づけたはやてのことばに、さすがにそれでいいのかと不安になったつかさが顔を上げるが、
「せやったら、繰り返さんかったらえぇ」
 そんなつかさの肩を叩き、はやては優しくそう告げた。
「ヴェルがもう今回みたいなことにならんように、ちゃんと面倒みてくれればえぇ。
 それが今回のことに対する、つかさちゃんの責任――違うかな?」
「そういうことだ。
 と言っても、お前はまだまだ召喚師としても“獣操師ビーストマスター”も駆け出しの新米。自分ひとりでアイツをどうこうするのは難しい。
 お前がこの先やっていくには、相棒であり、当事者であるヴェルの協力が不可欠――それも、キャロとフリードの関係以上に、強い絆が求められることになる。
 ひとりでやっていこうと思うな。ヴェルはもちろん――周りのみんなとも協力して、進んでいけばいい」
「…………うん、わかった」
 まだ思うところはあったろうが、はやての言うとおり重要なのは今回のことを裁くことではなく、今回のようなことを繰り返さないこと。そして青木の言う通り、ヴェルとの、みんなとの絆をより確かなものにすること――うなずくつかさに笑顔を見せ、はやては視線を彼女から外し、
「せやけど……あぁなってまうと、事が起きる前と変わらへんなぁ」
「キャロちゃんが封印の仕方を教えてくれたからですよ」
 そこには、能力を封印され、元の子竜の姿――ただし身体は金属生命体のまま――に戻ったヴェルの姿があった。フリードやウミ、カイにじゃれつかれている様子を、二人は微笑ましく見守っていたが、
「せやけど……問題が“全部”片づいたとは、言えへんなぁ……」
 ヴェルの一件が片づき、安心しているつかさと違い、はやてはまだまだ息をつくワケにはいかなかった。ため息をもらし、視線を向けたその先には、ヒューマンフォームのマスターコンボイとスバルの姿があった。
 

「本当に大丈夫なんですか、マスターコンボイさん?」
「何の話だ?」
「ここのところ、なんか戦ってる時とか調子悪いよね?」
「そーそー。
 私もそれは感じてた」
 聞き返すマスターコンボイにスバルが、こなたが答える――二人の言っているのは、先の戦闘での自身の不調についてである。
 まぁ、戦闘中にあからさまに障害が出たのだ。さすがに気づかれるか――この分ではなのはや他の面々からも追及がきそうだな、とぼんやりと考えつつ、マスターコンボイは息をつき、
「心配するな。
 ただ疲れがたまっているだけだ」
「え? そうなの?」
「まったく……またティアの時みたいに徹夜で訓練とかブッ通ししてたんでしょ?」
 しかし、返ってきた答えはある意味で拍子抜け――あっさりと答えたマスターコンボイの言葉に、こなたがキョトンとした顔で聞き返し、スバルもため息をついて肩をすくめる。
「ムリしちゃダメだよ、ホントに……」
「わかっているさ。
 だから、とりあえずこの場は納得して退いておけ」
 たしなめるスバルにそう答え――マスターコンボイは息をつき、
「そう……納得しておけ」
 淡々とそう繰り返しつつ、マスターコンボイは戦闘前の――サイバトロンシティでのやり取りを思い返していた。

 

「どうだ?」
「前置きはいらないだろうからハッキリ言うぞ」
 診断を終え、尋ねるマスターコンボイに対し、ザラックコンボイはそう返してきた。
 だが、その顔はどう見ても深刻そのもの。とても患者に「心配するな」と言い出す前の顔には見えなくて――
「貴様……」

 

 

 

 

 

「このままでは死ぬぞ」


次回予告
 
なのは 「フフフ……みんな、お待たせ!
 今までさんざん焦らされたけど、私もいよいよ現場に復帰だそうです!
 みんなに迷惑をかけた分、これからがんばらないと――」
スバル 「あー、なのはさん?
 来週……私達、出動ないらしいですよ?」
なのは 「………………
 …………
 ……

 

 …………………………………………え?」

スバル 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第97話『小休止〜次なる戦いを前に〜』に――」
二人 『ハイパー、ゴッド、オン!』

 

(初版:2010/01/30)